(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】加熱脱気装置
(51)【国際特許分類】
B01D 19/00 20060101AFI20220119BHJP
B01F 27/92 20220101ALI20220119BHJP
B01F 35/90 20220101ALI20220119BHJP
B01F 27/00 20220101ALI20220119BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
B01D19/00 D
B01F7/24
B01F15/06 Z
B01F7/00 B
G01N33/15 A
(21)【出願番号】P 2018157510
(22)【出願日】2018-08-24
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】592253390
【氏名又は名称】富山産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眞武 志郎
(72)【発明者】
【氏名】林 守正
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-067530(JP,U)
【文献】特開昭63-165761(JP,A)
【文献】実開平03-022501(JP,U)
【文献】実開平04-134404(JP,U)
【文献】米国特許第5816701(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D19/00-19/04
B01F7/00-7/32
B01F15/00-15/06
G01N33/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験液を溜める容器と、前記試験液を加熱する加熱部と、前記試験液を撹拌する撹拌部と、を備え
、真空排気せずに前記試験液を脱気する加熱脱気装置であって、
前記撹拌部は、螺旋状スクリューと、前記螺旋状スクリューを回転させる回転駆動部とを備え、
前記螺旋状スクリューは、回転軸と、前記回転軸の周囲に螺旋状に一回転以上連続して巻回された羽根と、を有
し、かつ、揚液管に挿入されていないことを特徴とする、試験液の加熱脱気装置。
【請求項2】
前記試験液の脱気を効果的に行うことのできる好適最低液面高さが定められており、
前記羽根における回転軸方向の先端から前記好適最低液面高さまでの長さは、前記回転軸の軸中心線を延長した位置における容器の内側底面から前記好適最低液面高さまでの長さに対して50%以上である、請求項1に記載の加熱脱気装置。
【請求項3】
前記回転駆動部を通じて前記螺旋状スクリューを600~1200(rpm)で回転制御する制御部を備え、
単位液量あたりの前記羽根片面の接液面積が7~10(cm
2/L)である、請求項1又は2に記載の加熱脱気装置。
【請求項4】
前記試験液の温度を検出する温度計と、前記温度計の検出温度と目標値とに基づいて前記加熱部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記試験液を脱気させるための第1制御モードと
脱気した前記試験液を一定の温度で保管するための第2制御モードとを備え、前記第1制御モードは、試験液の加熱目標値を第1目標値として加熱制御し、前記第2制御モードは、試験液の加熱目標値を前記第1温度より低い第2目標値として加熱制御し、
前記第1制御モードで所定の時間が経過したとき、前記第1制御モードを前記第2制御モードに切換える、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の加熱脱気装置。
【請求項5】
さらに、前記試験液中の溶存気体濃度を計測する溶存気体濃度計を備え、
溶存気体濃度計の計測値が基準濃度値を下回ったとき、前記第1制御モードを前記第2制御モードに切換える、請求項4に記載の加熱脱気装置。
【請求項6】
さらに、前記容器には、前記容器内部から前記容器外部に気体流出を可能にし、前記容器外部から前記容器内部に気体流入を抑制する、逆止弁が設けられている、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の加熱脱気装置。
【請求項7】
前記容器は、試験液を注入するための開口部と該開口部を塞ぐ蓋とを備えており、前記逆止弁は、前記蓋に設けられている、請求項6に記載の加熱脱気装置。
【請求項8】
試験液を溜める容器と、前記試験液を加熱する加熱部と、回転軸及び前記回転軸の周囲に螺旋状に一回転以上連続して巻回された羽根で前記試験液を撹拌する撹拌部と、を備え
、かつ、前記羽根が挿入される揚液管を備えていない、試験液の加熱脱気装置を用いた、
真空排気せずに前記試験液を脱気する前記試験液の加熱脱気方法であって、
前記容器に、前記加熱部と前記羽根の少なくとも一部とを浸漬可能な量の試験液を注入し、
前記容器を真空排気することなく、注入した前記試験液を、加熱及び撹拌することで、前記試験液中の空気成分を脱気することを特徴とする、加熱脱気方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱脱気装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
経口固形製剤などの薬剤の製造においては、その品質を一定水準に確保することを目的として、溶出試験の実施が義務付けられている。溶出試験は、薬剤を各種液体に浸漬させたときの主薬の溶出率を調べる試験であり、試験液を貯留した容器の中に薬剤を投入し、撹拌されることにより一定の液流を形成する試験液の中で、薬剤が溶出する過程を経時的に測定するものである。特許文献1には、こうした溶出試験に用いる溶出試験機の一例が記載されている。
【0003】
溶出試験において、試験液に溶存する酸素等の空気中の気体成分が試験結果に影響を及ぼすことが知られており、溶出試験の実施にあたっては、溶出試験に用いる試験液を事前に適当な方法で脱気することが、各国の薬局方等の公定書で規定されている。
【0004】
試験液の脱気には、加熱、減圧、超音波、膜透過、ヘリウム置換などの方法があり、それらを単独または併用して行われるが、なかでも、加熱法が最も簡便であり、広く用いられている。加熱法は、液温度が高いほど液に溶存する気体成分の飽和濃度が低くなるという現象を利用するものである。具体的には、試験液を加熱し、試験液温度を高くすることで気体成分の飽和濃度を下げて、試験液を過飽和状態にして、飽和濃度の超過分だけ試験液中に溶存する気体成分量を減少させることで脱気を行う。
【0005】
加熱法による脱気を実行するための脱気装置として、従来から、
図7(a)に示された加熱脱気装置がある。
図7(a)に模式図として示された加熱脱気装置1000は、試験液1を貯留する容器20と、試験液1を加熱する加熱部3と、試験液1を撹拌する撹拌部40と、を備え、撹拌部40は、回転軸420と、回転軸420の先端に設けられた羽根410と、回転軸420を回転させるモータ等の回転駆動部430とを有している。
図7(a)に示された容器20には、試験液1が貯留されており、容器20内は試験液1からなる液層と、空気からなる気層6で構成されている。容器20に注入した試験液1を加熱部3で加熱し、試験液1を溶存気体の過飽和状態にして、飽和濃度を超過した溶存気体を、液層である試験液1中から気層6へ移動させる。溶存気体の液層から気層6への移動を加速させるために、試験液1中に浸漬した羽根410を、回転軸420を中心に回転させることで、試験液1を撹拌する。
図7(b)は、撹拌部40の先端部の拡大斜視図である。
図7(b)に示されているように、回転軸420の先端には、4枚の羽根410が、回転軸420の周方向に沿って間隔をあけて配置されている。
【0006】
しかしながら、上述の構造を有する撹拌部40で試験液を撹拌しても、溶存気体の液層から気層への移動は緩慢であり、試験液1が過飽和状態を解消するまで溶存気体を除去するには、相当の時間を要するという問題がある。この問題を解消するために、試験液1を加熱・撹拌した後に、他の脱気法の脱気装置を併用して脱気を行うと、時間を短縮できる。例えば、加熱・撹拌後の試験液1を他の耐圧容器に移し替え、他の脱気装置にて耐圧容器の空間を減圧して、試験液1の過飽和状態を解消するといった方法である。しかしながら、このような、他の脱気法の脱気装置を併用する方法は、煩雑な作業と各脱気法を行うための脱気装置を要するという問題がある。
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、他の脱気装置を併用することなく、従来よりも短時間で所定の溶存気体濃度以下まで脱気可能な加熱脱気装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の試験液の加熱脱気装置は、試験液を溜める容器と、前記試験液を加熱する加熱部と、前記試験液を撹拌する撹拌部と、を備え、
前記撹拌部は、螺旋状スクリューと、前記螺旋状スクリューを回転させる回転駆動部とを備え、
前記螺旋状スクリューは、回転軸と、前記回転軸の周囲に螺旋状に一回転以上連続して巻回された羽根と、を有することを特徴とする。
【0010】
これにより、本発明の加熱脱気装置は、4枚の羽根410が、回転軸420の周方向に沿って間隔をあけて配置された撹拌部を備えた従来の加熱脱気装置に比べて、以下に示す高い脱気効果を有する。
(1)上記従来構造の撹拌部に比べて、羽根が螺旋状に少なくとも一回転以上連続して巻回されているので、羽根の総面積が大きく、羽根が一回転したときに押しのける液量が多くなり、押しのけた後にできる陰圧空間が大きい。液中の陰圧空間は、当該陰圧空間の局所的な飽和溶存気体濃度を低下させるから、液中において溶存気体の気化を促進できる。
(2)羽根が螺旋状に少なくとも一回転以上連続して巻回されているので、上記従来構造の羽根に比べて羽根の存在する部分が回転軸方向に長い。そうすると、従来構造の羽根に比べて広範囲に接液することになり、液量にかかわらず、溶存気体の気化が容易となって、液層から気層への移動を促進できる。
上記(1)、(2)に示した脱気効果により、試験液から飽和溶存気体濃度を超過した溶存気体を除去する時間を短くし、試験液を加熱・撹拌した後に減圧脱気等の他の脱気方法を併用することなく所望の溶存気体濃度以下の試験液を得ることができる。
【0011】
前記試験液の脱気を効果的に行うことのできる好適最低液面高さが定められており、前記羽根における回転軸方向の先端から前記好適最低液面高さまでの長さは、前記回転軸の軸中心線を延長した位置における容器の内側底面から前記好適最低液面高さに対して50%以上であればよい。前記試験液の液面高さが好適最低液面高さ以上であると、脱気を効果的に行うことができる。
【0012】
前記回転駆動部を通じて前記螺旋状スクリューを600~1200(rpm)で回転制御する制御部を備え、単位液量あたりの前記羽根片面の接液面積が7~10(cm2/L)であるとよい。羽根片面の接液面積と回転数が小さすぎると十分な撹拌効果が得られず、羽根片面の接液面積と回転数が大きすぎると撹拌効果が大きすぎて液体が暴れるような挙動を示すが、羽根片面の接液面積と回転数を上記範囲に設定すると適度な撹拌効果が得られ、これにより脱気効果を高めることができる。
【0013】
さらに、前記試験液の温度を検出する温度計と、前記温度計の検出温度と目標値とに基づいて前記加熱部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、第1制御モードと第2制御モードとを備え、前記第1制御モードは、試験液の加熱目標値を第1目標値として加熱制御し、前記第2制御モードは、試験液の加熱目標値を前記第1温度より低い第2目標値として加熱制御し、所定の時間が経過したとき、前記第1制御モードを前記第2制御モードに切換えてもよい。これにより、脱気終了後は、試験液の制御温度を前記第1目標値から前記第2目標値まで低下させて、試験液を試験液の使用時の温度に近づける。
【0014】
さらに、前記試験液中の溶存気体濃度を計測する溶存気体濃度計を備え、前記第1制御モードで試験液を加熱制御し、溶存気体濃度計の計測値が基準濃度値を下回ったとき、前記第1制御モードを前記第2制御モードに切換え、試験液の脱気を終了してもよい。この制御により、脱気終了後は、試験液の制御温度を前記第1目標値から前記第2目標値まで低下させて、試験液を試験液の使用時の温度に近づける。
【0015】
さらに、容器には、前記容器内部から前記容器外部に気体流出を可能にし、前記容器外部から前記容器内部に気体流入を抑制する、逆止弁が設けられていてもよい。容器が密閉状態であると、試験液の加熱により容器内の圧力が高まって試験液の飽和溶存気体濃度が上昇するため、脱気効果が得られない。一方、加熱脱気後に容器の気密性が乏しいと、外部の空気が絶えず流入して試験液に再溶解しやすくなるために、試験液の温度が低下するにつれて脱気効果が維持できなくなる。そのため、気層の空気成分の一部が容器外へ流出でき、容器外から容器内への流入を妨げる逆止弁を設けることで、容器内の圧力の上昇を防ぎ、気層中の空気成分が試験液に再溶解しないようにする。
【0016】
前記容器は、試験液を注入するための開口部と該開口部を塞ぐ蓋とを備えており、前記逆止弁は、前記蓋に設けられているとよい。これにより、逆止弁を取り付けるための開口を容器に設ける必要がなく、容器の製造が容易である。また、逆止弁が劣化した場合、逆止弁を蓋ごと新しいものに交換することができ、逆止弁の交換作業が容易に行うことができる。
【0017】
本発明の加熱脱気方法は、試験液を溜める容器と、前記試験液を加熱する加熱部と、回転軸及び前記回転軸の周囲に螺旋状に一回転以上連続して巻回された羽根で前記試験液を撹拌する撹拌部と、を備えた試験液の加熱脱気装置を用いた、試験液の加熱脱気方法であって、前記容器に、前記加熱部と前記羽根の少なくとも一部とを浸漬可能な量の試験液を注入し、注入した前記試験液を加熱及び撹拌することで、前記試験液中の気体成分を脱気することを特徴とする。
前記加熱部と前記羽根の少なくとも一部とを浸漬させる量の試験液を注入し、試験液を加熱及び撹拌できるようにする。そして、上記(1)、(2)に示した脱気効果により、試験液から飽和溶存気体濃度を超過した溶存気体を除去する時間を短くし、試験液を加熱・撹拌した後に減圧脱気等の他の脱気方法を併用することなく所望の溶存気体濃度以下の試験液を得ることができる。
また、前記羽根における回転軸方向の先端から前記試験液の液面までの長さが、前記回転軸の軸中心線を延長した位置における前記容器の内側底面から前記液面までの長さに対して50%以上となるように、液を注入すると、脱気を効果的に行うことができる。
なお、本発明の加熱脱気方法は、前記試験液を加熱及び攪拌した後に、試験液を減圧して脱気する工程を含まない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】(a)螺旋状スクリュー41の各寸法、及び螺旋状スクリュー41と容器2の内側底面22と液面高さとの位置関係を説明する図と、(b)螺旋状スクリューの回転により生じる液体の移動方向を説明する図
【
図3】液面高さと浸漬される羽根の面積との関係を示した図
【
図5】各脱気時間において、試験液の一部を取り出し溶存酸素濃度を計測した図
【
図6】各保管時間において、試験液の一部を取り出し溶存酸素濃度を計測した図
【
図7】従来の(a)加熱脱気装置の模式図と、(b)撹拌部の先端の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1には試験液1の加熱脱気装置100が示されており、試験液1を溜める容器2と、試験液1を加熱するニクロム線等の電熱線を用いた加熱部3と、試験液1を撹拌する撹拌部4と、制御部7とを備えている。撹拌部4は、螺旋状スクリュー41と、螺旋状スクリュー41を回転させるモータ等の回転駆動部43とを有する。螺旋状スクリュー41は、回転軸42と、回転軸42の周囲に螺旋状に9回以上連続して巻回された羽根415と、を有する。螺旋状スクリュー41は加熱部3と接しておらず、回転駆動部43により回転軸42を中心に回転可能に構成されている。
【0021】
これにより、螺旋状スクリュー41は、
図7に示した、4枚の羽根410が、回転軸420の周方向に沿って間隔をあけて配置された従来構造の撹拌部に比べて、以下の作用を有する。
(1)上記従来構造の撹拌部の羽根に比べて羽根415が螺旋状に少なくとも一回転以上連続して巻回されているので、羽根415の総面積が大きく、(2)羽根415が螺旋状に少なくとも一回転以上連続して巻回されているので、上記従来構造の羽根に比べて羽根の存在する部分が回転軸方向に長い。
なお、
図1及び
図2に示す実施形態において羽根415は9回以上連続して巻回されているが、一回転以上連続して巻回された羽根を少なくとも一つ有するのであれば、上記二つの作用を得ることができる。もちろん、羽根415が巻回される回数が2回以上であれば、上記二つの作用が強まり、更に巻回回数が3回以上、4回以上、5回以上、6回以上、7回以上と大きくなるほど、上記二つの作用が強まり好ましい。
【0022】
ところで、加熱脱気装置100は、加熱脱気可能な限界最低液面高さSmin及び加熱脱気可能な最高液面高さSmaxを有する。これらは、加熱脱気装置100の容器2等に表示されていてもよいし、表示されていなくてもよい。また、液面高さSを水位検知器11により検知し、液面高さSが限界最低液面高さSminを下回ったとき、加熱脱気装置100の制御部7が、表示や音等で作業者に知らせたり、加熱脱気装置の作動を停止させたりしてもよい。水位検知器11は特に限定されないが、一例として、例えば
図1に示された試験液に浮くフロート115をスイッチ又はセンサとして使用する方法がある。さらに、水位検知器11に、最高液面高さSmaxを上回ったことを検知するセンサ等を設け、液の注入作業をしているとき注入完了を作業者に知らせたり、最高液面高さSmaxを上回ったことを検知するセンサ等と限界最低液面高さSminが下回ったことを検知するセンサ等の両方を使用して、新たな未脱気の試験液を自動的に補充開始及び補充停止させたりしてもよい。
【0023】
図1のように、容器2が所定姿勢である場合に、加熱脱気装置100の容器2に表示される限界最低液面高さSminは、螺旋状スクリュー41における羽根415の最下端位置以上になるように設定するとよい。また、容器2に表示される最高液面高さSmaxは、螺旋状スクリュー41における羽根415の最上端位置以下になるように設定するとよい。所定姿勢はどのような姿勢でもよいが、例えば螺旋状スクリュー41の回転軸42が鉛直方向と平行になる姿勢が挙げられる。限界最低液面高さSminについて、試験液の液面高さSが螺旋状スクリュー41における羽根415の最下端位置を下回ると、撹拌できないためである。また、最高液面高さSmaxについて、試験液の液面高さSが螺旋状スクリュー41における羽根415の最上端位置を上回っても、最上端位置を上回る液に対する羽根415の接液面積の増分はなく、脱気効果を高めることができず、加えて、気層空間が狭くなり、そのことが溶存気体の気化の障害となり得るためである。
【0024】
図2(a)は、
図1に示した加熱脱気装置100における、螺旋状スクリュー41の各寸法、及び螺旋状スクリュー41と容器2の内側底面22との位置関係を説明する図である。螺旋状スクリュー41の螺旋状の羽根415の回転軸42方向の先端から液面21までの長さを接液長さL、回転軸42の軸中心線を延長した位置における容器2の内側底面22から液面21までの長さを液面高さSとすると、接液長さLが液面高さSに対して50%以上の長さを有することが好ましい。すなわち、L/S≧0.5であるとよい。そこで、本実施形態において、L/S=0.5となる液面高さを、好適最低液面高さSfilとして定める。
図2(a)には、好適最低液面高さSfilを示している。試験液の液面高さSが、好適最低液面高さSfil以上であれば、脱気を効果的に行うことができる。理由を以下に説明する。
【0025】
図3には、容器2内の試験液の液面高さSと、脱気効果の大きさとの関係を示した図である。S>Sminのとき、羽根415が螺旋状に連続して一回転以上巻回されている螺旋状スクリュー41は、液面高さSの上昇とともに羽根415の単位液量あたりの接液面積が対数的に増加し、脱気効果が高くなる。そして、羽根415の接液長さLが液面高さSに対して50%以上になると、ほぼ一定の脱気効果が得られる。これは、従来の、4枚の羽根410が、回転軸420の周方向に沿って間隔をあけて配置された撹拌部にはない、羽根415が螺旋状に一回転以上連続して巻回された螺旋状スクリュー41の有する特徴である。
【0026】
定められた好適最低液面高さSfilは、作業者や制御部が、加熱脱気装置100から認識し得るように構成される。例えば、好適最低液面高さSfilを容器2等に表示してもよく、液面Sが好適最低液面高さSfilを下回ったことや、好適最低液面高さSfil以上となったことを、制御部に伝達してもよい。好適最低液面高さSfilを容器2等に表示すると、未脱気の試験液を注入する際、作業者は、表示を見ながら試験液の液面が好適最低液面高さSfil以上となるように注入することができ、脱気を効果的に行うことができる。また、液面Sが好適最低液面高さSfilを下回ったことを制御部に伝達すると、制御部は、作業者に表示や音等で作業者に報知したり、撹拌停止を指示したり、未脱気の液の注入開始を指示したりさせるとよい。また、液面Sが好適最低液面高さSfil以上となったことを制御部に伝達すると、制御部は、作業者に表示や音等で作業者に報知したり、攪拌開始を指示したり、未脱気の液の注入終了を指示したりさせるとよい。
本実施形態において、限界最低液面高さSmin及び好適最低液面高さSfilを別個に定めているが、これに限定されない。例えば、いずれか一方のみを定めてもよいし、両方とも定めなくてもよい。
【0027】
上述の脱気効果は、単位液量(L)あたりの羽根415の片面の接液面積Aと螺旋状スクリュー41の回転速度nによっても左右される。これらの値は、
7≦A≦10(cm
2/L)
600≦n≦1200(rpm)
である場合、所望の脱気効果が得られる。(上記単位中、「L」は「リットル」を表す。以下で使用される単位中の「L」も、同様である。)接液面積Aと回転速度nが上記範囲を下回ると十分な脱気効果が得られず、上記範囲を上回ると、撹拌効果が大きすぎて液体が暴れるような挙動を示し、液体の制御が難しくなる。
そして、単位液量あたりの羽根415の接液面積Aは、
図2(a)に示した、羽根415のピッチP、回転軸42の半径r1、羽根415の半径(回転軸42の中心軸から羽根最外端までの距離)r2によって左右されるが、
20≦P≦50(mm)
5≦r1≦7.5(mm)
10≦r2≦25(mm)
であると好ましい。
【0028】
図2(b)は、螺旋状スクリュー41の回転により生じる液体の移動方向を説明する図である。螺旋状スクリュー41の回転方向は、
図2(b)において符号Yで示すように螺旋状スクリュー41近辺の試験液1を上方へ移動させる方向に回転することが好ましい。液中において気化した溶存気体を容器内の気層6に手早く移動させることができるからである。この場合、上方に移動した試験液1は、螺旋状スクリュー41から離れた容器内壁面付近にて下方へ移動する。もちろん、
図2(b)に示す方向に螺旋状スクリュー41を回転させる場合に比べて脱気効果が弱くなるが、螺旋状スクリュー41近辺の試験液1を下方へ移動させる方向に回転するようにしてもよい。
【0029】
加熱脱気装置100は、上部体5の内部に制御部7を備えている。
図4は、加熱脱気装置100の制御ブロック図を表している。制御部7は、加熱部3と、試験液1の温度を検出する温度計31と、撹拌部4の回転駆動部43と、に接続されている。制御部7は、温度計31の検出温度と目標値とに基づいて加熱部3への通電を制御することで、試験液1の温度を制御する。制御部7は、回転駆動部43を通じて螺旋状スクリュー41の回転数を制御する。また、上述したように、水位検知器11を使用して水位を検知するため、制御部7は水位検知器11にも接続されるとよい。
【0030】
制御部7は、脱気させるための第1制御モードと、脱気した試験液1を一定の温度で保管するための第2制御モードとを備えている。第1制御モードでは、試験液1の加熱目標値を第1目標値として加熱制御し、螺旋状スクリュー41を回転させて試験液1を脱気する。第2制御モードでは、試験液1の加熱目標値を第1温度より低い第2目標値として加熱制御する。試験液1を経口固形製剤などの人が内服する薬剤の溶出試験に用いる場合は、第2目標値を、例えば、人の平均体温である37℃付近又はそれ以上に設定すればよい。第2制御モードにおいて、螺旋状スクリュー41は常時回転させる必要はないが、試験液1に温度ムラが生じないように、断続的に回転させ、試験液1を撹拌してもよい。第2制御モードで試験液1を保管することで、脱気済みの試験液1を所望の温度でいつでも使用することができる。
【0031】
第1制御モードから第2制御モードへの切換えは、第1制御モードを所定時間経過したときや、加熱により基準温度(例えば45℃)に到達してから所定時間(例えば、10分)経過したときに行うようにしてもよい。また、
図4に示すように、制御部7に、試験液1中の溶存気体濃度を計測する溶存気体濃度計13を接続し、溶存気体濃度計13が基準濃度値(例えば、酸素ならば6mg/L)を下回ったときを脱気完了と見なして、第1制御モードから第2制御モードに切換えるようにしてもよい。未脱気の試験液を追加投入したときなどは、操作部への操作又は溶存気体濃度計13の検知結果に起因して、第2制御モードから第1制御モードに切換えて、脱気を開始するようにしてもよい。本実施形態の溶存気体濃度計13は、溶存酸素濃度計であるが、酸素以外の気体を検出する濃度計を用いてもよい。
【0032】
容器2に逆止弁10を設けてもよい。逆止弁10は、容器2の内部から容器2の外部への気体流出を可能にし、容器2の外部から容器2内部に気体流入を抑制する。逆止弁10を設ける理由を以下に示す。
容器6が密閉状態であると、試験液の加熱により容器6内の圧力が高まって試験液の飽和溶存気体濃度が上昇する。そのため、飽和溶存気体濃度の差を利用した脱気効果が得られない。一方、加熱脱気終了後、第1制御モードから第2制御モードに切りかわって試験液1の温度が低下するとき、容器6の気密性が乏しいと、外部の空気が絶えず流入して試験液に再溶解しやすくなるために、試験液の温度が低下するにつれて脱気効果が維持できなくなる。そのため、気層の空気成分の一部が容器外へ流出でき、容器外から容器内への流入を妨げる逆止弁を設けることで、容器内の圧力の上昇を防ぎ、気層中の空気成分が試験液に再溶解しないようにする。
【0033】
逆止弁10の配置場所は、容器2の最高液面高さSmaxより高い位置に配置する。容器2に専用貫通孔を設け、該専用貫通孔に逆止弁10を取り付けても良い。
図1では、容器2が、試験液1を注入するための開口部8と、容器2を転倒させても液を漏出させないよう開口部8を塞ぐ蓋9とを備えており、逆止弁10を蓋9に設けている。逆止弁10を取り付けるための専用貫通孔を容器2に設ける必要がなく、容器2の製造が容易である。また、逆止弁10が劣化した場合、逆止弁10を蓋9ごと新しいものに交換することができ、逆止弁10の交換作業を容易に行うことができる。
【0034】
その他の加熱脱気装置に含まれる構成部材について説明する。加熱部3は、例えば、ニクロム線等の電熱線が鞘に収容されたシーズヒータ等が組み込まれているとよい。加熱部3は、螺旋状スクリュー41と接しないように、例えば、螺旋状スクリュー41を部分的に囲むリング状に形成されているとよい。
試験液は、水以外に、製剤の溶出試験や崩壊試験等に用いる試験液、例えば人工の胃液や腸液等の電解液がそれに当たるが、それに限らない。製剤は、医薬品に限らず、健康食品やサプリメント等、人や動物が摂取する物である。また、固形製剤に限らず、粉末剤やカプセル剤、湿布剤でもよい。その他、製剤の試験に用いる試験液のみならず、土壌検査や水質検査を含む環境計測用の試験検査液等、製剤の試験以外の脱気が必要な試験検査液にも使用できる。
容器2は、例えば中密度のポリエチレン製とし、螺旋状スクリュー41は、例えば樹脂製とし、加熱部3は金属、例えばチタンや耐蝕性の高いSUS316L等を使用するとよい。これらの部材は、試験液に人工胃液や腸液といった強酸や塩化物イオンが用いられる場合には、当該物質に対する耐蝕性を示す材料であれば、特に限定されない。
容器2の下部には水栓12が取り付けられている。水栓12を使用することで、容器2を傾けたり、又は、ポンプ等の動力を使用したりすることなく、脱気済みの液を、新たに空気を溶解させないよう静かに取り出すことができる。
【0035】
<実施例1>
A、B、Cの三種類の加熱脱気装置を用いて、25℃の水25Lを、60分かけて45℃まで加熱し、水に含まれる溶存酸素濃度の目標値6mg/L(約6ppm)を下回るまで脱気する。目標値を6mg/Lに設定した理由は、6ppmが米国薬局方(USP)において規定される溶出試験用試験液の溶存酸素濃度の上限基準値であることによる。水を45℃まで加熱する理由は、45℃の水の飽和溶存酸素濃度が、目標値6ppmを下回る5.93mg/Lであり、試験液中に溶存する溶存酸素量を飽和溶存酸素濃度の超過分だけ減少させることで目標値に到達し得る温度であるためである。
【0036】
A、B、Cの三種類の加熱脱気装置について説明する。加熱脱気装置A、Bはそれぞれ比較形態であり、加熱脱気装置Aは撹拌部を持たない無撹拌型であり、加熱脱気装置Bは
図7に示した従来構造の、4枚の羽根410が回転軸420の周方向に沿って間隔をあけて配置された撹拌部で撹拌を行うものである。一方、加熱脱気装置Cは
図1に示した実施形態であり、回転軸42の周囲に羽根415を螺旋状に9回以上連続して巻回された螺旋状スクリュー41で撹拌を行うものである。
【0037】
図5は、加熱開始から20分ごとに試験液の一部をサンプリングし、試験液の溶存酸素濃度を計測した図であり、横軸は脱気時間(単位:分)、縦軸は、溶存酸素濃度計測結果(単位:mg/L)を表す。A、B、Cいずれの加熱脱気装置においても、25℃の水25Lが60分後に45℃まで加熱される。使用した溶存酸素濃度計の誤差は±0.1mg/Lである。
図5をみると、加熱脱気装置Aにおける60分後45℃の水の溶存酸素濃度は7.1mg/Lであり、加熱脱気装置Bにおける60分後45℃の水の溶存酸素濃度は6.74mg/Lである。つまり、加熱脱気装置A、Bは、加熱開始後60分が経過し、水が45℃に到達しても、45℃における飽和溶存酸素濃度5.93mg/Lまで溶存酸素濃度が低下せず、水は過飽和状態にある。そして、加熱脱気装置A、Bは、加熱開始後180分が経過しても過飽和状態は解消せず、目標値の6ppm以下を満たさない。よって、目標値の6ppm以下を満たすためには、通常、他の脱気方法を併用することを要する。
それに対し、加熱脱気装置Cは、水の加熱による飽和溶存酸素濃度の低下に伴って、過飽和を生じることなく溶存酸素濃度が低下しているとみられ、加熱開始後60分で45℃に到達したとき、溶存酸素濃度は、45℃の飽和溶存酸素濃度である5.93mg/Lよりも低い値に低下している。よって、溶存酸素濃度の目標値の6ppm以下を満たすから、他の脱気方法を併用することを要しない。また、本実施例では、溶存気体濃度として、計測が簡便であり、米国薬局方で規定されている溶存酸素濃度を測定しているが、酸素以外の気体の濃度を測定してもよい。空気成分である窒素等の他の気体の濃度についても、酸素濃度と同様の傾向を示すものと考えられる。
【0038】
<実施例2>
図6は、水25L、5.9ppmの溶存酸素濃度に到達した脱気済み試験液を、40℃に維持して保管したときの溶存酸素濃度の変化を計測した図である。図中、「逆止弁あり」は、逆止弁の有する蓋を装着した容器を備える、
図1の加熱脱気装置を表す。図中、「逆止弁なし」は、蓋をせずに開口を解放した状態の
図1の加熱脱気装置を表す。横軸は脱気済み試験液の保管時間(単位:時間)であり、縦軸は、各保管時間が経過したときの溶存酸素濃度計の計測結果(単位:mg/L)である。この図によると、「逆止弁なし」の場合、3時間経過すると、米国薬局方(USP)の基準である6ppm(約6mg/L)以下を満たさなくなるため、再脱気を要するが、「逆止弁あり」の場合、8時間経過しても、6ppm以下を満たしているため、再脱気を要しない。これは、逆止弁を使用することにより、容器外から容器内への空気の移動を妨げて、空気の試験液への再溶解を小さくすることによる。その結果、脱気済みの液を長期保管することができる。
【0039】
本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1…試験液
2…容器
3…加熱部
4…撹拌部
5…上部体
6…気層
7…制御部
8…開口部
9…蓋
10…逆止弁
11…水位検知器
115…フロート
12…水栓
13…溶存気体濃度計
21…液面
22…容器内側底面
31…温度計
40…撹拌部
41…螺旋状スクリュー
42…回転軸
43…回転駆動部
100…加熱脱気装置
415…羽根