(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】室温での原子層堆積によって生成されたSiO2薄膜
(51)【国際特許分類】
C23C 16/42 20060101AFI20220119BHJP
【FI】
C23C16/42
(21)【出願番号】P 2018506156
(86)(22)【出願日】2016-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2016068899
(87)【国際公開番号】W WO2017025516
(87)【国際公開日】2017-02-16
【審査請求日】2019-08-08
(32)【優先日】2015-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(73)【特許権者】
【識別番号】518008275
【氏名又は名称】ルクセンブルク インスティトゥート オブ サイエンス アンド テクノロジー(リスト)
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】アルル,ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】アドイェラウト,ノウレッディネ
(72)【発明者】
【氏名】レノーブル,ダミアン
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-027937(JP,A)
【文献】特開2013-077805(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0236575(US,A1)
【文献】特開2008-141191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3つの前駆体を含み、室温で実施される、シリコン酸化物を基板上、特に無機材料上にコーティングするための原子層堆積方法であって、前記少なくとも3つの前駆体は、四塩化ケイ素、水および1つのルイス塩基剤であり、前記方法は、
a.ある曝露時間の間、前記1つのルイス塩基剤を前記基板上に曝露するステップと、
b.
(a)の後に実行されるある曝露時間の間、前記四塩化ケイ素を前記基板上に曝露するステップと、
c.
(b)の後に実行されるある曝露時間の間、前記水を前記基板上に曝露するステップを含み、
前記ステップ(b)および(c)の各々の後のパージ時間中に、窒素ガスでパージする少なくとも1つのステップを実行し、前記ステップ(a)の後の前記パージ時間中にも、窒素ガスでパージする少なくとも1つのステップを実行することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記窒素ガスでパージする少なくとも1つのステップは、5Torr、4Torr、3Torr、2Torrまたは1Torrよりも低い、優先的には2Torrより低い窒素ガスの流量/全圧の比を示すことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記前駆体の前記曝露時間は、50ミリ秒~200秒の間であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
a.前記四塩化ケイ素の前記曝露時間は、50ミリ秒~200ミリ秒、優先的には80ミリ秒~120ミリ秒、より優先的には100ミリ秒であり、
b.前記ルイス塩基剤および前記水の前記曝露時間は、1秒~3秒、優先的には1.8秒~2.2秒、より優先的には2.0秒である
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記前駆体の前記曝露時間は、50秒~200秒、優先的には70秒~99秒、より優先的には71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97または98秒、さらにより優先的には90秒であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記窒素ガスによるパージ時間は1秒~20秒であり、優先的には5秒~15秒であり、より優先的には10秒であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
a.ステップ(a)の後の前記窒素ガスによるパージ時間は、100秒~240秒、優先的には160秒~200秒、より優先的には180秒であり、
b.ステップ(b)の後の前記窒素ガスによるパージ時間は、10秒~100秒、優先的には40秒~80秒、より優先的には60秒であり、
c.ステップ(c)の後の前記窒素ガスによるパージ時間は、200秒~360秒、優先的には280秒~320秒、より優先的には300秒である
ことを特徴とする、請求項1~3または5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
同時パージステップを含む前記ステップ(a)、(b)および(c)は、50~5000回、優先的には500~2500回繰り返されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記無機材料は、シリコン、シリコン酸化物、チタン、酸化チタン、アルミニウム、酸化アルミニウム、亜鉛、酸化亜鉛またはそれらの任意の組み合わせ、または優先的には任意の他のシリコンからなることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
シリコン材料は、前記曝露するステップの前にRCA手順に従って洗浄されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、前記曝露時間および前記パージ時間を決定に適した残留ガス分析器を備えた反応器中で行われることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記反応器は、膜の成長の重量測定監視に適した水晶振動子微量天秤および/またはガス組成の監視に適した質量分析計をさらに備えることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上、特に無機材料上へのシリコン酸化物の堆積の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化ケイ素(SiO2)、およびより一般的には酸化物超薄膜は、シリコンマイクロ電子デバイスにおける誘電材料[非特許文献1]、防食膜[非特許文献2]、または触媒におけるナノスケール薄膜の非包括的応用のような、現代のナノテクノロジーにおいて良好な構成要素として広く記載されている。SiO2の環境的にも人間にとっても安全な状態により、付着防止用、防曇用、自己洗浄用または撥水用の保護層における幅広い利用がもたらされる。例えば、化学気相成長[非特許文献3]、リソグラフィによるパターン形成[非特許文献4]、電気化学堆積[非特許文献5]またはゾルゲル[非特許文献6]などの様々な技術が、表面粗さまたはエネルギーの調整によって超疎水性SiO2を精巧に作り出すために研究されている。SiO2は一貫して、保護絶縁体またはゲート絶縁体のコーティング[非特許文献7]、高k材料の結合[非特許文献8]、または表面パッシベーション[非特許文献9]として知られている。
【0003】
ナノスケールの透過性活性材料に対する需要の増加は、予め堆積された感応下地層、可撓性プラスチックデバイスまたは高アスペクト比の基板に適合する堆積技術の必要性を正当化している。したがって、原子層堆積(ALD)は、ナノメートル以下の厚さの制御および深いトレンチまたはメソ多孔性構造への浸透コーティングに関して、その性能に最も適した技術の1つであると考えられている。
【0004】
高温で得られるSiO2コーティングの改良については、ALDパラメータまたは前駆体に向けて多くの取り組みが行われたにもかかわらず、室温での堆積の問題が明らかになった。Georgeらは、SiCl4およびH2Oを用いたこの原子層の制御された成長を何度も説明した[非特許文献10]。Georgeらは、ピリジンまたはアンモニアなどのルイス塩基を用いた触媒反応が、大きな前駆体フラックスを回避し、かつ室温付近でしか生じないことを実証した。それにもかかわらず、これらの報告された研究では、ピリジンまたはアンモニアは、実際には「前駆体」とは決してみなされなかった。ルイス塩基とSiOH*表面種またはH2O反応体との間の水素結合を考慮した提案された機構は、触媒の連続流の全体的な残留圧力を考慮して研究された。さらに、ピリジンまたはアンモニアと副生成物のHClとの二次反応によって汚染物質の混入による膜の汚染が生じるので、順次的な方法は膜の品質および触媒の役割の理解を高めることができる。
【0005】
室温で作られたシリコン酸化物(SiO2)膜は、2つの反応物(AおよびB)を順次曝露(ABAB...)によって曝露することによって実現可能であると記載されている。多くの周知の前駆体は、高い堆積温度、プラズマまたはオゾンガスなどの反応性の高い共反応体を必要とする[非特許文献11]。CVDに基づく工程とほぼ相関しており、反応のエンタルピーが低いにもかかわらず、四塩化ケイ素(SiCl4)は通常、(325℃を超える)高温で水(酸化剤種)と反応する[非特許文献7]。熱ALD方法と室温方法とを比較すると、室温反応(約2Å/サイクル)に有利な高い成長速度/ALDサイクルが明らかになる。
【0006】
Georgeらは、ピリジンまたはアンモニアをルイス塩基剤として用いて触媒された二成分反応によって自発的に生じる仕組みを説明した[非特許文献12]。ルイス塩基とSiOH*(表面種)またはH2Oとの間の水素結合は、反応を室温で行うことを可能にする。(103Torr.sを超える)大量の曝露を用いる高温での工程と比較して、室温でのSiO2のALDは、(i)SiCl4上のSiOH*からの酸素、および(ii)SiCl*上のH2Oからの酸素の強力な求核試薬攻撃によって可能になる[非特許文献10]。それにもかかわらず、我々の知見によれば、化学組成の変化およびこのような膜の形態に関する特定のデータは記載されていない。NH3の触媒効果に基づいて、NH3の一定流量が統計的に全ての-O-Si-(Cl)nの利用可能部位上の-Oの最大反応を保証することを明確に推測することができる。それにもかかわらず、室温での露出窓の完全な限界設定は、非従来的な高真空状態(10-6Torr未満)で動作することによって改善することができる。標準的なALD反応器については本発明のようにこの限りではないと思われるため、この状態における汚染物質の混入の仕組みを理解し、かつ制御しようとした。したがって、NH3の一定流量を用いた室温(約25℃)でのSiO2の最先端の生成方法をパルスNhh触媒RT-ALDと比較した。
【0007】
文献[非特許文献13]に記載の塩素化前駆体の反応性に触発されて、以下に説明する表面において吸着された137種の官能価xによって汚染物質の量を慎重に説明することができた。
【0008】
【0009】
注入された前駆体SiCl4は、表面のヒドロキシル種と反応する。単結合の場合(x=1)と多重結合(1<x≦3)との間の競合は、ALD状態における前駆体の不活性化に直結する。表面上のヒドロキシル基の濃度が増加する限り、H2Oの飽和はHClの形成を直接的に促進する。膜のバルク中のXPSによって測定された約2.2Si/N比はまた、アンモニアの一定流量と同時に、特にNH4Cl塩を含むことよって、強力な窒素汚染が許容限界を超えていることを示している。Georgeら[非特許文献14]によって示されたように、この塩はHCl反応生成物と錯体を形成するNH3触媒の結果として形成される。NH4Cl塩の蒸気圧(すなわち4.10-5Torr)のために、いくらかの量の塩が膜の内部に残る。この文脈において不活性ガスと比較して、キャリアガス形態でのNH3の使用が、室温で行われる純粋なALD工程に寄与しないことは注目に値する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Frosch C.J.他著、J.Electrochem.Soc、1957年、第104巻、第547~552頁
【文献】Olsson C.O.A.他著、Electrochem.Acta、2003年、第48巻、第1093~1104頁
【文献】Ragesh P.他著、J.Mater.Chem.A.、2014年、第2巻、第14773~14797頁
【文献】Park H.K.他著、J.Mat.Chem.、2012年、第22巻、第14035~14041頁
【文献】Gao Y.他著、ACS App.Mat.&Inter.、2014年、第6巻、第2219~2223頁
【文献】Xu B.他著、Surf.Coat.Techno.、2010年、第204巻、第1556~1561頁
【文献】Klaus J.W.他著、Science、1997年、第278巻、第1934~1936頁
【文献】Wang X.他著、Appl.Phys.Lett.、2010年、第97巻、第062901~062903頁
【文献】Dingemans G.他著、J.Appl.Phys.、2011年、第110巻、第09371~093716頁
【文献】Du Y.他著、Thin Solid Films、2005年、第491巻、第43~53頁
【文献】Kim H.-U.他著、J.Electrochem.Soc.、2000年、第147巻、第1473~1476頁
【文献】Klaus J.W.他著、Surf.Rev.Lett.、1999年、第6巻、第435~448頁
【文献】Damyanov D.他著、J.Non-Cryst.Solids、1988年、第105巻、第107~113頁
【文献】Klaus J.W.他著、Surf.Sci.、2000年、第447巻、第81~90頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明には、膜に含まれる塩素などの汚染物質の量を著しく減少させる多孔質シリコン酸化物層を提供するという技術的課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、少なくとも3つの前駆体を含み、室温で実施される、シリコン酸化物を基板上、特に無機材料上にコーティングするための原子層堆積の方法に関し、前記少なくとも3つの前駆体は、四塩化ケイ素、水および1つのルイス塩基剤であり、前記1つのルイス塩基剤は優先的にはアンモニアである。前記方法は、(a)曝露時間中に前記1つのルイス塩基剤を前記基板上に曝露するステップ、(b)曝露時間中に前記四塩化ケイ素を前記基板上に曝露するステップ、および(c)曝露時間中に前記水を前記基板上に曝露するステップを含む。前記方法は、前記ステップ(a)、(b)および(c)の各々の後のパージ時間中に、窒素ガスでパージする少なくとも1つのステップが行われる点に注目すべきである。
【0013】
一実施形態では、前記窒素ガスでパージする少なくとも1つのステップは、5Torr、4Torr、3Torr、2Torrまたは1Torrよりも低い、優先的には2Torrより低い窒素ガスの流量/全圧の比を示す。
【0014】
一実施形態では、前記前駆体の前記曝露時間は、50ミリ秒~200秒の間である。
【0015】
一実施形態では、前記四塩化ケイ素の前記曝露時間は、50ミリ秒~200ミリ秒、優先的には80ミリ秒~120ミリ秒、より優先的には100ミリ秒であり、前記ルイス塩基剤および前記水の前記曝露時間は、1秒~3秒、優先的には1.8秒~2.2秒、より優先的には2.0秒である。
【0016】
一実施形態では、前記前駆体の前記曝露時間は、50秒~200秒、優先的には70秒~99秒、より優先的には71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97または98秒、さらにより優先的には90秒である。
【0017】
一実施形態では、前記窒素ガスによるパージ時間は1秒~20秒であり、優先的には5秒~15秒であり、より優先的には10秒である。
【0018】
一実施形態では、ステップ(a)の後の前記窒素ガスによるパージ時間は、100秒~240秒、優先的には160秒~200秒、より優先的には180秒であり、ステップ(b)の後の前記窒素ガスによるパージ時間は、10秒~100秒、優先的には40秒~80秒、より優先的には60秒であり、ステップ(c)の後の前記窒素ガスによるパージ時間は、200秒~360秒、優先的には280秒~320秒、より優先的には300秒である。
【0019】
一実施形態では、同時パージステップを含む前記ステップ(a)、(b)および(c)は、50~5000回、優先的には500~2500回繰り返される。
【0020】
一実施形態では、前記無機材料は、シリコン、シリコン酸化物、チタン、酸化チタン、アルミニウム、酸化アルミニウム、亜鉛、酸化亜鉛またはそれらの任意の組み合わせ、または優先的には任意の他のシリコンからなる。
【0021】
一実施形態では、前記シリコン材料は、前記曝露するステップの前にRCA手順に従って洗浄される。
【0022】
一実施形態では、前記方法は、前記曝露時間および前記パージ時間の決定に適合した残留ガス分析器を備えた反応器中で行われる。
【0023】
一実施形態では、前記反応器は、膜の成長の重量測定監視に適した水晶振動子微量天秤および/またはガス組成の監視に適した質量分析計をさらに備える。
【0024】
本発明はさらに、本発明の第1の部分に記載の方法によって得られたシリコン酸化物の膜に関する。前記シリコン酸化物の膜は、前記シリコン酸化物の膜の全質量の5%、4%、3%、2%または1%より低い、好ましくは前記シリコン酸化物の膜の全質量の3%より低いレベルの塩素汚染物質を含むという点で優れている。
【0025】
一実施形態では、前記シリコン酸化物の膜は細孔を含み、前記細孔は、優先的には微小孔、メソ細孔またはナノ細孔(すなわち50nm未満)である。
【0026】
一実施形態では、前記シリコン酸化物の膜は、超親水性、反射防止性および/または絶縁性を含む。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、高アスペクト比と酸素濃度との相関関係が超親水性挙動を示す点で特に注目される。本発明のシリコン酸化物薄膜は弱導電性をさらに示す。最適化された室温でのALD(RT-ALD)工程を、低k多孔質シリコン酸化物層または超親水性処理を必要とする任意の3D感温材料で3Dコーティングする必要がある幅広い基板にさらに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】NH
3触媒状況下でのALDによるSiO
2の室温成長を示す図である。
【
図2】SiO
2薄膜の成長に伴うSiCl
4、H
2O、NH
3の飽和曲線を示す図である。成長速度論は、5サイクルの表面の順次曝露について示されている。
【
図3】SiCl
4に対して90秒間、NH
3に対して90秒間、およびH
2Oに対して90秒間、表面に順次曝露された純粋なALDによるSiO
2成長の成長速度論を示す図である。パネル(a)に示された500回ループの堆積の現場監視の一般的な拡大図は、0.02μg/cm
2の成長速度に対応している。パネル(b)は、堆積が60%進行した拡大表示を表している。下方のパネルは、それぞれSiCl
4、NH
3およびH
2Oのプログラムされた曝露を表している。
【
図4】1周期当たり0.6μg/cm
3の成長速度を示す、SiCl
4に対して90秒間、およびH
2Oに対して90秒間の、表面の順次曝露に対するSiO
2の成長速度論を示す図である。パネル(a)は、膜堆積の全2000サイクルのうち10サイクルに関する一般的な拡大表示を示している。パネル(b)は2サイクル堆積の図に対応している。下方のパネルは、それぞれH
2O、SiCl
4およびNH
3のプログラムされた曝露を表している。
【
図5】300秒間のN
2パージと交互に行われた90秒間の連続H
2Oパルスの現場RGA質量分析監視の図である。パネルは、H
2Oの測定強度(m/z=18uam)(uam=統一原子質量)に対応している。
【
図6】SiCl
4、NH
3およびH
2Oの前駆体の90秒間の順次曝露で得られたSiO
2薄膜のXPSスペクトルの図である。上方のパネルは原膜の信号に対応し、下方のパネルは表面洗浄後の膜に対応している。
【
図7】SiCl
4、NH
3およびH
2Oの前駆体の90秒間パルスで得られ、かつ、それぞれ60秒、180秒および300秒の延長されたN
2パージで得られた純粋なALDによるSiO
2膜のSIMSの深さプロファイルを示す図である。高速および低速のスパッタリング速度がそれぞれパネル(a)および(b)に示されている。
【
図8】500サイクル処理した純粋なALDによるSiO
2膜の異なる倍率でのSEM画像であり、(a)は酸化膜全体の上面図であり、(b)は酸化膜全体の45°の傾斜図であり、(c)および(d)はFIBの断面図であり、回避不可能な汚染物質の混入および0.5Å/サイクルの低成長速度のために不均質に結晶化したSiO
2膜の緻密な状態を示している。
【
図9】SiCl
4に対して100ミリ秒間、NH
3に対して2秒間、およびH
2Oに対して2秒間、表面に順次曝露された多孔質SiO
2成長の成長速度論を示す図である。300ループの堆積の現場監視は、1サイクル当たり1.5μg/cm
2の成長速度に対応する。挿入図は10サイクル工程の拡大表示を表している。
【
図10】SiCl
4、NH
3およびH
2Oの前駆体の順次曝露で得られたSiO
2薄膜のXPSスペクトルの図である。SiO
2膜は、それぞれ表面洗浄の前後に(a)Siウエハ上、(b、c)TiO
2/Si(80nm)上に堆積される。
【
図11】TiO
2/Si基板(上)およびSi基板(下)上の最適化されたALD法で得られたSiO
2薄膜の適切な元素のXPS定量化を示す図である。
【
図12】SiCl
4前駆体の100ミリ秒間パルス、NH
3前駆体の2秒間パルスおよびH
2O前駆体で得られた多孔質SiO
2膜のSIMSの深さプロファイルを示す図である。
【
図13】約260nmの厚さのALDSiO
2(300ループ)膜の異なる倍率のSEM画像であり、(a)は酸化膜全体の上面図であり、(b)は酸化膜全体の45°の傾斜図であり、(c)および(d)はFIBの断面であり、膜の多孔質状態を裏付けている。
【
図14】急速熱CVD(100nm)によって作られた標準的な熱酸化物と比較した多孔質SiO
2膜の導電率測定を示す図である。
【
図15】(a)Siウエハ、(b)多孔質SiO
2、および(c)水滴を堆積させた後の基板の上面図の水接触角画像である。
【
図16】反射偏光解析測定の概略図である。可変最大角θ
mは、2つの異なる有効なかすめ角θ
e=75°および81°に設定される。データは350~1000nmの全波長範囲で得られた。空間反射率は、平面角τ
Rの関数として試料を反時計回りに回転させることによって測定されている。Z軸は反射強度を最大にするようにゼロに固定されている。
【
図17】2つの異なるかすめ角(それぞれ75°および81°)で偏光解析器を使用して得られた反射結果を示す図である。反射率の割合は、ガラス(a、d)およびシリコン(b、e)上に堆積されたSiO
2について測定されている。空間反射(c、f)は、τ
R角の関数としての信号の変動が制限された膜の均質性を裏付けている。
【
図18】陽極酸化アルミニウム(AAO)膜上に堆積された様々な厚さのALDによるSiO
2(100~300ループ)のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
ALD工程を、0.3mbarの基圧で平面構成においてBeneq社の反応器TFS200内で実施した。標準的なRCA手順で予備洗浄したシリコン基板上にSiO2薄膜を堆積させた。堆積反応器には、膜の成長の重量測定監視用の水晶振動子微量天秤QCM(Neyco社)が装備されている。QCMを基板ホルダの中心部に固定した。MKS-instrument社の四重極質量分析計Vision-2000Cを堆積反応器の出口に取り付けて、排気ガス組成を監視した。前駆体としての四塩化ケイ素(SiCl4)および水(H2O)を用いてSiO2薄膜が室温で得られた。気化した前駆体を窒素(N2)キャリアガスを用いてALD反応室に移した。SiCl4前駆体をSigma Aldrich社から購入したままの状態で使用した。堆積の間、前駆体が入った両方の容器を19℃に維持した。
【0030】
得られた試料の形態および厚さを、FEI社製 Heliosnanolab650集束イオンビーム二次電子顕微鏡(FIB-SEM)において求めた。アルミニウムX線源を用いたX線光電子分光法(XPS)(Thermo VG Scientific社製MicroLab350)によって定量化を実施しながら、動的二次イオン質量分析法(D-SIMS)(Cameca社製IMSLAM)によって元素組成の深さプロファイルを評価した。分析のためにコーシー関数を用いたHoriba scientific社製のUVISEL分光位相変調エリプソメータを使用して、厚さ、屈折率および反射率を決定した。水滴を用いた水接触角(WCA)測定によって堆積膜の疎水性挙動を決定した。さらに、Novolab社製広帯域誘電分光計を使用して膜の誘電特性を測定した。
【0031】
Klausら[非特許文献12]によって説明されたように、上述の工程は、NH3ガス分子が室温(20℃~26℃)でのSiO2の堆積のための触媒として作用することを裏付けている。それにもかかわらず、表面の著しい汚染はアンモニアの過剰投与によるものである。本明細書に示した汚染は、NH3の量を調整してHClとNH3との間の反応を制限するという既述の重要性を裏付けている。したがって、他の前駆体のようにNH3のパルスを調整することにより、室温での好ましくない反応を最小限に抑えることができると判断した。
【0032】
先の部分で用いた同じ化学物質に基づいて、以下の工程に関与する各化学物質は前駆体とみなされる。これは、各パルス化学物質の十分な分離が保証されていることを意味する。反応器のパージは、キャリアガスの流量/全圧の適切な比(2Torr未満)を用いて最適化されている。一体型残留ガス分析器(RGA)で注入を確認することにより、各前駆体パルス間の重複を防止している。
【0033】
図1は、SiO
2単層の成長を示している。(触媒法の下での)NH
3の注入によってO-H結合は弱まり、-Siは表面で-Oと容易に反応して、表面に-O-Si-(Cl)
3または-O-Si(Cl)
2-O-のリガンドを形成する。水の注入による-Oは-Siと直接反応して最終的にSiO
2単層を形成する。
【0034】
図2は、SiCl
4、H
2OおよびNH
3の前駆体の室温におけるALD飽和曲線を示している。本明細書の反応器構成では、一次実験により、全ての前駆体の飽和時間が60秒~100秒の間に生じたことが示された。実験のタイミングシーケンスは、可変のSiCl
4曝露から開始して続いて90秒間のN
2パージを行う。次に、90秒間のNH
3の曝露の後に続いて180秒のN
2パージを行った。最後に、90秒間のH
2Oパルスおよび300秒間のより長いN
2パージによってこのサイクルを終了して、その後の非吸着水の完全な放出を確実にした。この300秒の値は、RGAによって検証されている。
図2aは、500ミリ秒から150秒に切り替えられた様々なSiCl
4パルスに対する質量増加対曝露時間を示している。プロファイルは、t=90秒に対して飽和を示す。その後のSiCl
4の曝露は、本明細書では明瞭性のために図示していないが、増加が全くない場合であってもわずかな質量増加を生じる。これは、90秒以上の曲線の飽和によって観察することができる。5サイクルの結果として生じる総重量増加は、約0.13μg/cm
2である。
図2bは、500ミリ秒から150秒に切り替えられた様々なH
2Oパルスに対する質量増加対曝露時間を示している。以前に得られたSiCl
4(すなわち90秒)の値から開始して、サイクルは同一に保たれ、かつ様々なH
2Oの曝露時間が適用される。最大0.18μg/cm
2の重量増加には90秒間で達し、この値を超えると飽和状態に達する。
図2bは、500ミリ秒から150秒に切り替えられた様々なNH
3パルスに対する質量増加対曝露時間を示している。SiCl
4およびH
2Oの両方は90秒で維持され、90秒間のNH
3曝露に対して最大0.17μg/cm
2の質量増加が観察される。
図2で観察された傾向を使用して、室温での純粋なALD法におけるSiO
2膜の成長を調べた。SiCl
4、NH
3およびH
2Oの曝露時間を90秒に固定し、NH
3およびH
2Oパルスの後にはそれぞれ180秒および300秒の延長されたパージを適用した。60秒間持続するSiCl
4のパージを適用した。
【0035】
これらの細かく調整された前駆体のフラックスは、表面反応が円滑に行われることを可能にし、特に、塩素などの汚染物質の量を著しく減少させるが、窒素、炭素および他の汚染物質もまたシリコン酸化物薄膜に含まれている可能性がある。
【0036】
図3に示すように、1サイクル当たり0.02μg/cm
2 の重量増加は、(
図4に示されている)NH
3の一定流量で行われた工程の30分の1である。それにもかかわらず、NH
3およびH
2O前駆体の注入は特定の質量増加に寄与し(
図3b参照)、500サイクルの堆積に対して0.5Å/サイクルの成長速度が得られる(すなわち、より高い質量がH
2Oについて示されている)ことに注目すべきである。これは、H
2O分子と表面の活性複合体との相互作用が、(
図1に示すように)ヒドロキシル基による塩素の効率的な置換を介して終了することを裏付けている。
【0037】
本発明の場合、水の適切なパージ時間は、RGA(H
2O:m/z=18uam)を使用した系統的変動を使用して決定されている。
図5に示す傾向は、ベースラインまで減少するのに必要な300秒のパージ時間を示している。
【0038】
XPS元素分析(
図6)は、シリコンおよび酸素に加えて、塩素、窒素および炭素の存在を依然として示している。それにもかかわらず、汚染物質の量は実質的に減少する。第1に、Si/Cl比は、膜の大部分において約4(表面)から約8.7までとなる。第2に、アンモニアの一定流量で得られた膜と比較して、Si/Cl比は有意に改善される(8.7対3)。また、Si/N比は1.1から3.8(膜の内側ではそれぞれ2.2~5.9)まで増大する。これは、塩化水素とアンモニアとの反応が限定されて塩化アンモニウムを形成することを示している。N1の高分解能の適合は、NH
3
+に対応する401.1±0.3eVの単一結合エネルギーを示している。これは、塩化アンモニウム塩の形成を裏付けている。検出された少量のAlは、アルミナ副層(すなわち、SiO
2/Al
2O
3/Si)に起因する。
【0039】
SiO
2膜のSIMSの深さプロファイルを
図7に示す。塩素の強度は、一定のNH
3流量で行われた工程より約30倍の速度で減少する。実際には、一定流量のNH
3での工程に対する約2800秒と比較して、1e5cnt/秒を下回る強度を減少させるには100秒未満のスパッタリングが必要である。さらに、窒素の強度は10~100cnt/秒の同一範囲にあると思われる。XPSの結果に関連して、これはNH
4Cl塩の形成を裏付けている。それにもかかわらず、Siの強度はAlよりも高く、Al
2O
3上のSiO
2のコーティング工程を裏付けている。XPSおよびSIMSの結果に基づいて、この室温での工程は表面曝露の点で最適化されていると推測することができる。それにもかかわらず、室温で水またはアンモニアをパージすることが困難であるために、塩酸の残留痕跡は依然としてアンモニアと反応する。その結果、塩化アンモニウムなどの少量の副産物が膜に組み込まれる。
【0040】
図8は、SiO
2膜の上面および断面のSEM画像を示している。粒子サイズが200nmまでの多孔質層を観察する。45°傾斜した図(
図8c)において著しい粗さが観察される。さらに、断面分析は、膜への不均質な結晶化を証明している(
図8d)。断面を通して約30nm±5nmの厚さが測定され、さらに、シリコン酸化物のSIMS粉砕速度から推定される約25nmの値を裏付けている。これは、QCMで観察されるより低い重量増加(すなわち、一定流量のアンモニアで処理されたSiO
2膜の30分の1)に関連して約0.5Å/サイクルという低成長速度をもたらす。それにもかかわらず、結晶化の種類は、工程が純粋なALD成長モードに予想通りに対応していないことを示している(Ritala M.らによる、Chem.Vap.Depos.1999年、第5巻、第7~9頁)。室温でのこの独特で不均質な成長は、表面反応が汚染物質の集積と競合していることを示唆している。自己制限的な工程は、基板上、および堆積物(例えばアイランドなど)上への等確率での種の堆積を実際に促進するが、CVDモードで粒子を生成することができないと判断した場合に、原子内部の成長速度(すなわち1Å/サイクル未満)での汚染物質の混入によって得られた膜の形態を明らかにすることができる。また、水素結合した末端-OH基の量が多いと、脱ヒドロキシル化と再ヒドロキシル化との平衡に影響を及ぼし、これにより、三官能性結合の場合に生成されるHClの量が増加する可能性がある。それにもかかわらず、酸化物層は体積中にかなりの密度を示し、不均質な微結晶の量は限定される。これは、限られた汚染物質に囲まれた原子核内部の成長速度の仕組みに沿っている。このRT-SiO
2成長過程におけるALDパラメータの調整は、形態および化学組成に関して実質的な適合性を示している。これらの結果は、成長パラメータの調整が結晶化の発生に影響を与えかねないことを示唆している。したがって、異なる種類のSiO
2層を室温で処理することができた。
【0041】
低汚染物質SiO2は、SiCl4、NH3およびH2Oの前駆体の表面曝露を調整することによって生成することができる。さらに、膜の組成および形態に対する限定的説明の影響が追求される。したがって、この工程は、ALD非飽和法において低レベルの汚染物質を維持するように調整されている。汚染物質を低減する方法に従って、前駆体の曝露はSiCl4の最小値(すなわち100ミリ秒)に減少させた。次いで、RGAの結果によれば、NH3およびH2Oの曝露時間はいずれも2秒に固定され、300sccmの窒素を用いて10秒間パージされている。
【0042】
図9に示すように、1サイクル当たり1.54μg/cm
2の成長速度が得られる。以前の工程と比較して、この工程で使用された曝露反応は約50倍高い重量増加を生じる。基板からの物理化学的影響を調べるために、予め特性化されたバリア層を挿入することによってシリコン酸化膜を実現した。したがって、2つの異なる副層、すなわちALDおよびSiバルクによって堆積されたTiO
2においてSiO
2成長を調べた。
【0043】
図10はXPSの実験結果を示している。期待通り、両方の試料についてCl、C、N元素が検出されている。TiO
2上に堆積された酸化物の場合、洗浄前のTi-2pの検出は、厚さの薄い膜を裏付けている。しかし、塩素の割合は、NおよびCと同様に曝露を延長して行った以前の工程で得られた3%の限度を下回って明らかに維持されている(
図11)。それにもかかわらず、塩素濃度は、スパッタリングによって酸化チタン層に達する範囲まで増加している。塩素はΤiO
2のALD精緻化に固有であるため、塩素濃度は、Si上の直接堆積によって示されるように、膜中で効果的に低くなる(
図11-SiO
2/Si)。膜の組成および多孔質構造を調べるために、塩素汚染のない層、すなわちSi(50nm)上のAl
2O
3上でより厚いSiO
2(2500ループ)を処理している。
【0044】
SIMSの深さプロファイリングは、スパッタリング時間の関数として急速に減少する塩素濃度を示している(
図12)。以前の工程と比較して、Clの強度は、10秒未満で約3.5e4cnt/秒から開始する。また、Cの量は同等であるが、Nの濃度は膜の内部でわずかに増加している(約750秒のスパッタリング時間)。これは、体積が大きいSiO
2中に含まれる低レベルのNH
4Cl汚染を裏付けている。さらに、膜の表面付近の塩素の濃度が高いほど、HClの脱離を誘発する水の緩やかな解離吸着を示唆している。この再結合は、二酸化ケイ素の成長機構に明らかに影響を及ぼす。
【0045】
図13に示すように、SEM分析は、酸化膜の多孔質状態を確立している。直径200nm~500nmの凝集物が層の表面上に存在することを除いて、上面図および傾斜図(
図13aおよび13bを参照)は、SiO
2の海綿状特性を直接示している。適用されたFIBの断面(
図13cおよび13d)は、多孔質膜に関連する20~50nmの空洞の存在も示している。純粋なALD方法によって得られた膜と比較して、この成長過程に関与する機構が、表面の微結晶へ移動する代わりに中空体積を代替的に生成することは注目に値する。ALDの不規則な堆積方法(Puurunen R.L.、Chem.Vap.Dep.、2004年、第10巻、第159~170頁)において説明されたように、1サイクル当たりの成長が一定でない場合、表面粗さは、成長開始時には速く増加し、その後は緩やかに増加するはずである。これは、成長速度が原子単分子層に隣接している限り、共形的な堆積を密集したアレイに適合させるためには、より少ない数のALD反応サイクルが必要であることを必然的に示唆している。
【0046】
この工程で得られた約0.11Å/サイクルの成長速度を考慮すると、純粋なALD方法で処理されたSiO2膜のようにSiO2膜がさらに緊密である理由を説明することができる。それにもかかわらず、膜の海綿状態は、(i)一方では室温反応のために制限され、(ii)他方では純粋なALD工程中に延長されたパージ中に広範囲に促進される表面拡散に関連している可能性がある。その場合、残留水または副生成物(NH4Cl、HCl)は、注入された前駆体の追加量が吸着されて不均一な膜をもたらす表面画分とみなされる。それにもかかわらず、この独特の構造は、室温で処理する必要のあるいくつかの用途には魅力的である。
【0047】
SiO2の緻密膜および多孔質膜の両方について性能を調べる。
【0048】
この作業で得られたSiO
2膜の誘電特性を調べ、標準的な熱酸化物(RTO、1100℃、1時間)と比較した。
図14に示すように、純粋なALDによって得られた高密度SiO
2膜の導電率は、50nmの熱酸化物(10
-7~10
-8S/cm)の範囲である。いずれにせよ、緻密なSiO
2について測定された導電率は、NH
3の一定流量(約10
-11S/cm)で生成された標準的な酸化物よりも約10
3高い。さらに、厚膜で多孔質のSiO
2は、200μS/cmの低い導電率を示している。これは、緻密膜における量より多い特定の領域に関連する-OH基の量に起因する可能性がある。
【0049】
この多孔質SiO2層は、低k状態にもかかわらず、透過性裏面コーティングとして、または第1のパッシベーション層として使用することができる。造成されたままの膜の固有の特性を示すために、例えばAl2O3などのさらなる透明層は追加されていない。
【0050】
ALD工程の多用途性は、室温で調整可能な低k層の製造を可能にする。このALD工程の多用途性は、多くの感温性の複合的な用途に対応することができる。
【0051】
親水性または超親水性の表面は、ナノスケールでの粗さまたはフィルムの多孔性を調整することによって作成することができる。これは、抗菌、熱伝達または生物医学的用途などの様々な用途において独特である。したがって、膜の濡れ性は水接触角(WCA)によって分析され、その結果は
図15に示されている。未処理のシリコン表面(
図15a)と比較して、多孔質SiO
2層は顕著な超親水性挙動(5°未満)を示す。XPS分析によれば、これは、有意なアスペクト比を示す多孔質膜中の高濃度酸素に起因する可能性がある。例えば(Huang T.らによる、Surf.Coat.Techno.、2012年、第213巻、第126~132頁)などの一般的にTiO
2に基づく親水性挙動に対する関心を、独立型の多孔質SiO
2層に置き換えることができた。
【0052】
多孔質層用途の他の態様の1つは、反射防止コーティング(ARC)の作成が可能なことである。光学活性デバイス(すなわち、太陽電池)上に反射防止層を追加する主な利点は、効率を改善することである(Mazur M.らによる、Opto-Electron.Rev.、2013年、第21巻、第233~238頁)。反射性は、2つのかすめ角、すなわち75度および81度での偏光解析法によって確認されている(
図16参照)。鏡面反射は、膜の異方性を確認するために空間反射率分析の範囲であり、その結果は
図17に示されている。コーティングガラスまたはシリコンの両方の場合において、反射率の顕著な減少が観察される。信号は膜の厚さの関数として一定に減少しているが、本明細書では明瞭性のために極端な結果のみを示している。Siの反射率低下が約10~15%であるので、ガラスの縮小は、特にガラスのかすめ角での高反射の場合に約50%の範囲で維持される。様々な入射角度での実質的な反射率の維持と200nm未満のコーティングとの組み合わせは、広範囲の透過性用途においてこの室温工程を使用する良好な機会を与える。さらに、ALDの多用途性によってこの工程を調整する可能性は、多機能コーティングを回避するために重要な場合がある。
【0053】
この多孔質SiO
2層の明確な利益は、3D材料に適用されている。様々な厚さのSiO
2が陽極酸化アルミニウム(AAO)膜上に堆積され、その結果は
図18に示されている。平面基板上で得られる多孔性は、3D表面上で置き換えられることが明らかである。これは、親水性または堆積厚さの精度が高い低汚染物質層を必要とする多くの用途を示唆している。