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特許7011354変色防止された天然ゴムラテックススポンジ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】変色防止された天然ゴムラテックススポンジ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08C 1/04 20060101AFI20220119BHJP
   C08L 7/02 20060101ALI20220119BHJP
   C08J 9/00 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C08C1/04
C08L7/02
C08J9/00 Z CEQ
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021047616
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2021-03-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】392003018
【氏名又は名称】雪ヶ谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075410
【弁理士】
【氏名又は名称】藤沢 則昭
(74)【代理人】
【識別番号】100135541
【弁理士】
【氏名又は名称】藤沢 昭太郎
(72)【発明者】
【氏名】本夛 仁
(72)【発明者】
【氏名】小幡 一夫
(72)【発明者】
【氏名】古渡 恵
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 愛
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-283308(JP,A)
【文献】特表2012-502134(JP,A)
【文献】国際公開第00/061711(WO,A1)
【文献】特開平11-206448(JP,A)
【文献】特開平10-139926(JP,A)
【文献】特開平06-240003(JP,A)
【文献】特開平08-143606(JP,A)
【文献】特開2000-264992(JP,A)
【文献】特開2001-270910(JP,A)
【文献】特開平07-109380(JP,A)
【文献】国際公開第2005/090412(WO,A1)
【文献】特開2000-007708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 1/00-1/16
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 9/00-9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.3g/lのアンモニア雰囲気に、24時間光照射した時の変色が、照射前後の色差、JISZ 8730に規定されるL表色系における色差(ΔEab)が0~10であることを特徴とする、天然ゴムラテックススポンジ。
【請求項2】
脱蛋白天然ゴムラテックスから製造されたことを特徴とする、請求項1に記載の天然ゴムラテックススポンジ。
【請求項3】
天然ゴムラテックスに蛋白質分解酵素を作用させ、分解物を残したまま発泡成形することを特徴とする、請求項1に記載の天然ゴムラテックススポンジの製造方法
【請求項4】
天然ゴムラテックスを発泡成形し、過炭酸ナトリウムの洗浄液にて洗浄したことを特徴とする、請求項1の天然ゴムラテックススポンジの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、天然ゴムラテックススポンジの経時による変色を防止する製造方法およびその方法で製造した経時による変色しにくい天然ゴムラテックススポンジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムラテックススポンジは、主に常緑高木のパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)の幹に傷をつけて得られる乳液(ラテックス)を原料としている。精製濃縮したラテックスに、加硫剤、加硫促進剤、起泡剤、気泡安定剤、酸化亜鉛、ゲル化剤などを配合した発泡原料とし、これに空気を混合することで起泡し、ゲル化成型させる。これを、加熱加硫しゴム弾性を付与して製造される。天然ゴムの化学的構成はポリイソプレンであるが、パラゴムノキより産するポリイソプレンは立体構造がシス型をしており、合成ポリイソプレンに比べ高強度、低モジュラスの特性がある。この特性を生かして、高弾性で軟らかく肌当たりの良いスポンジができ、化粧用スポンジなどに使用されている。
【0003】
また、天然ゴムラテックススポンジは、原油を原料とした合成ゴムスポンジに対し、原油使用量、二酸化炭素排出量ともに少なく、いくつもの点でSDGsに合致する地球環境に優れた製品である。
【0004】
このように優れた天然ゴムラテックススポンジではあるが、程度の大小はあるものの、3か月から半年の経時で変色し、赤色乃至赤褐色を帯びるピンキングと呼ばれる現象が知られている。この為、スポンジにあらかじめ着色しておき変色が目立たないようにする。遮光・密封の包装材に入れ使用時までに変色しないようにする等の対策がされている。
【0005】
このピンキングは、光と空気により誘発され、遮光し空気を遮断して保管すると変色は見られない。また、光や熱により促進される酸化劣化とは異なり、単に変色が起きるのみでこれに伴う脆化や硬化はみられない。また、酸化防止剤の添加にて改善されるものではない。さらに、これは天然ゴムラテックススポンジに特有の現象である。これらのことから本発明者は、天然ゴムラテックスに含まれる樹脂以外のポリフェノール類や脂質が原因となり変色が起こっていると考えている。
【0006】
また、天然ゴムにはラテックスに含まれる蛋白質によるラテックスアレルギーが知られていて直接肌に触れる用途には使用が避けられている。これに対して、アレルギー性を低減した脱蛋白天然ゴムラテックスが製造されている。これを原料としたスポンジは低アレルギー性で安心して使用できることに加え、低モジュラスで柔軟性があり二重に好ましいのだが、前述のピンキングが蛋白質の除去前のラテックスから製造したスポンジより著しく、その使用用途がやはり限定されてしまうと云う問題がある。
【0007】
特許文献1には、天然ゴムラテックスから製造される指サックのピンキングについて記載されている。これによると、アンモニアと光とにより指サックが変色することが示されていて、指サックを包装する際にアンモニアを吸収する物質と一緒に包装すると変色しないとされている。
【0008】
また、特許文献2には、天然ゴムラテックスから蛋白質を除去したラテックスの製造方法が記載されている。脱蛋白天然ゴムラテックスは貯蔵時に劣化が進むこと、これを防止するためにフェノール系の老化防止剤(酸化防止剤)を添加しておくこと、また、そのことで貯蔵時に変色することが示されている。
【0009】
また、特許文献3には、フェノール系酸化防止剤の変色について記載されている。BHT(2,6-ジ-第三ブチル-p-クレゾール)のようなアルキル置換フェノール系酸化防止剤が酸化され、その結果生成したキノン構造又はスチルベンキノン構造のような共役二重結合を持つカルボニル化合物は可視領域の吸光係数が非常に大きいために、微量生成しても着色すること、これに対して、特定のアミド化合物を配合することで変色を低減されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平06-240003号公報
【文献】特開平10-139926号公報
【文献】特開平07-109380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のものはピンキング対策に係る技術ではあるが、根本的な解決には至っていない。また、特許文献2のものは、脱蛋白天然ゴムラテックスの製造に係る技術であるが、これにより作成したスポンジは脱蛋白処理前のラテックスから製造したスポンジに比べ、ピンキングの程度が大きい。
【0012】
また、特許文献3のものは、フェノール系酸化防止剤を添加し、熱及び光劣化を防止しようとするものであるが、ピンキングについては改善されていない。
【0013】
そこで、この発明は上述の課題を解決すべく、ピンキングの少ない天然ゴムラテックススポンジ、特に低アレルギー性の脱蛋白天然ゴムラテックススポンジを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の発明は、0.3g/1のアンモニア雰囲気に、24時間光照射した時の変色が、照射前後の色差、JIS Z8730に規定されるL表色系における色差(ΔEab)が0~10である、天然ゴムラテックススポンジとした。
【0015】
また、請求項2の発明は、脱蛋白天然ゴムラテックスから製造された、請求項1に記載の天然ゴムラテックススポンジとした。
【0016】
また、請求項3の発明は、天然ゴムラテックスに蛋白質分解酵素を作用させ、分解物を残したまま発泡成形することを特徴とする、請求項1に記載の天然ゴムラテックススポンジの製造方法とした。
【0017】
また、請求項4の発明は、天然ゴムラテックスを発泡成形し、過炭酸ナトリウムの洗浄液にて洗浄した、請求項1に記載の天然ゴムラテックススポンジの製造方法とした。
【発明の効果】
【0018】
本発明の天然ゴムラテックススポンジは、均一できめ細かなセル構造を有している上に、経時の変色に強く明色のスポンジの提供が可能となる。これにより、商品企画の自由度が上がり、顧客のニーズに細やかに対応可能となる。また、経時の変色がないため、商品管理上も在庫期間管理に気を使わなくて済む。
【0019】
また、脱蛋白天然ゴムラテックスを使用することで蛋白質を除去したスポンジを提供でき、アレルギーの心配がなく安心して使用することができる。同時に低モジュラスで肌当たりが良好とすることができる。さらに、天然ゴムラテックスの蛋白質を分解し発泡成形することで、ラテックスの洗浄・精製工程を省くことができ、コストアップすることなく、アレルギーの心配のない、低モジュラスで肌当たりが良好でかつセルが細かく均一なスポンジを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(実施の形態例1)
本発明の実施の形態例1の天然ゴムラテックススポンジについて説明する。
【0021】
本発明の天然ゴムラテックススポンジは発泡用ラテックス組成物から発泡成形し、酸化性洗浄液にて洗浄して製造される。
【0022】
発泡用ラテックス組成物は、天然ゴムラテックスに加硫剤、加硫促進剤、酸化防止剤、起泡剤、気泡安定剤、酸化亜鉛、ゲル化剤、などの配合剤を配合したものである。
【0023】
天然ゴムラテックスとしては、パラゴムノキから採取した樹液を加工した天然ゴムラテックスが使用できる。具体例としては、ハイアンモニアタイプ、ローアンモニアタイプ、アルカリ添加タイプの天然ゴムラテックス、蛋白質分を低減した脱蛋白天然ゴムラテックスが挙げられる。天然ゴムラテックスは、pHを9.0から10.0に調整して使用することが好ましい。また、天然ゴムラテックスの固形分濃度は、55~65%を使用することができる。
【0024】
脱蛋白天然ゴムラテックスとしては、天然ゴムラテックスから蛋白質分を除去したものが使用できる。天然ゴムラテックスには1.5%程度の蛋白質成分があり、15種類のアレルゲンコンポーネント(Hev b 1~15)が知られている。なかでも、Hev b 1、Hev b 3、Hev b 5及びHev b 6.02は感作される人が多く主要アレルゲンとされている。アレルゲン蛋白質はモノクロナール抗体を利用して検出するELISA法により測定可能であるが、なかでもHev b 6.02は高感度に検出できる。脱蛋白天然ゴムラテックスは、Hev b 6.02蛋白質がラテックス固形分あたり、0.01μg/g未満とするのが好ましいが、本発明の脱蛋白天然ゴムラテックスは、これを0.02~0.7μg/gとすることができ、0.1~0.7μg/gとすることもできる。これは、後述の本発明の洗浄をすることによりスポンジに残留する蛋白質が脱落し、この範囲にあればHev b 6.02は検出されないレベルまで低減することができるからである。なお、蛋白質の分解前の天然ゴムラテックスからはHev b 6.02は1.5μg/g程度が検出される。
【0025】
脱蛋白天然ゴムラテックスは、天然ゴムラテックスに蛋白質分解酵素を作用させ、ゴム分子に結合している蛋白質を分解し水溶性とした後、水で希釈、遠心分離濃縮を数回繰り返す洗浄により蛋白質とその分解物を除去したものである。この具体例としては、住友ゴム株式会社より販売されているセラテックス(登録商標)が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0026】
また、天然ゴムラテックスに蛋白質分解酵素を作用させ、蛋白質をアレルギー反応がないよう分解し、分解物を残したまま発泡成形することもできる。この場合、蛋白分解酵素にはアルカリプロテアーゼを使用することが好ましく、10%程度の水溶液又は懸濁液としてラテックスに添加することができる。蛋白分解酵素の使用量としては、ラテックスの固形分100重量部あたり0.01~0.5重量部使用することができ、好ましくは0.05~0.2重量部使用することができる。これより少ないと蛋白質の分解が不十分で蛋白質が残留する。またこれより多いと後述する発泡成形時に泡荒れの不良が発生することがある。蛋白質分解酵素はラテックスのpHを9.0から10.0としアルカリプロテアーゼを作用させることが、発泡成形が容易にでき又蛋白質分解効率が良く好ましい。
【0027】
酵素を添加したラテックスは40~60℃へ昇温し蛋白質の分解反応を促し、その後保温又は徐冷して反応を進める。酵素処理の時間としては1時間から24時間とすることができる。
【0028】
蛋白質はラテックスの安定化の働きがあり、酵素処理により不安定化する。この為、ラテックスには予め界面活性剤を添加しておくことが好ましい。界面活性剤としては、後述の起泡剤を使用することが好ましい。
【0029】
このように蛋白分解酵素にて蛋白質を分解し、分解物をそのまま残したラテックスを使用して発泡成形を行うと泡立ちが良好となりセルが細かく均一なスポンジを成型することができる。この理由について、本発明者は蛋白質分解物が起泡性を良くしていると考えている。
【0030】
ラテックスは天然ゴムラテックス、脱蛋白天然ゴムラテックスに加え、各種の合成ゴムラテックス又はエマルションを組み合わせて使用することができる。この例としては、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)などの合成ゴムラテックスが使用でき、これらにアクリル酸エステル、メタアクリル酸エステルなどの重合性モノマーを共重合させた合成ゴムラテックスも使用することができる。エマルションとしては、合成樹脂のエマルションが使用でき、アクリルエマルション、ウレタンエマルションなどの各種エマルションでイオン性がアニオン性のエマルションが使用できる。
【0031】
加硫剤及び加硫促進剤は、ラテックスに配合し本発明のラテックススポンジにゴム弾性を付与する。加硫剤としては、イオウ、サルファドナー、酸化亜鉛などが挙げられる。これらはゴム分子又はゴム粒子を架橋しゴム弾性を付与する。加硫促進剤は加硫剤を活性化させ、短時間、低温度にて架橋しゴム弾性を付与することができる。加硫促進剤としては、MZ(2-メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩)などのチアゾール系加硫促進剤、EZ(ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛)、BZ(ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛)などのジチオカルバミン酸系加硫促進剤、EUR(N、N´-ジエチルチオ尿素)などのチオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、キサントゲン酸系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤などが使用でき、これらを単独で、または組み合わせて使用することができる。
【0032】
加硫剤、加硫促進剤の使用量は、使用するラテックスにより多少の相違はあるが、加硫剤はラテックス100重量部当たり0.5重量部から3.0重量部使用することができ、加硫促進剤は0.7重量部から4.0重量部使用することができる。
【0033】
酸化防止剤は、本発明のラテックススポンジの酸化劣化を防ぐもので、フェノール系酸化防止剤が使用できる。フェノール系酸化防止剤の例としては、BHT(2,6-ジ-第三ブチル-p-クレゾール)、スミライザーBBM(登録商標)などのビスフェノール系酸化防止剤、イルガノックス1010(登録商標)などのポリフェノール系酸化防止剤などが挙げられる。使用量は、ラテックス100重量部あたり0.5から2.0重量部使用することができる。
【0034】
起泡剤は、本発明の発泡用ラテックス組成物を空気などの気体と混合し起泡させるもので、界面活性剤が使用できる。界面活性剤は、後述するゲル化剤の作用でラテックスがゲル化するのを阻害しないものが使用され、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が使用することができる。これらの例として、脂肪酸のカリウム塩又はナトリウム塩、アンモニウム塩の脂肪酸石鹸が挙げられ、なかでもリシノール酸又はオレイン酸、ラウリン酸、ヒマシ油脂肪酸のカリウム塩又はナトリウム塩が好ましく使用される。
【0035】
起泡剤の使用量は、ラテックス100重量部あたり0.5重量部から5.0重量部使用することができる。なお、ラテックス及びエマルションにはラテックス粒子、エマルション粒子の安定化の為に界面活性剤が使用されている場合があり、これが起泡剤を兼ねることができる。この場合、起泡剤の使用量は少なくすることがある。
【0036】
気泡安定剤は、起泡させたラテックス組成物にゲル化剤を作用させ固化させる際に泡を安定化し泡の崩壊を防ぐ作用をする。気泡安定剤は、カチオン性界面活性剤及び含窒素カチオン性有機物が使用でき、この具体例としては、トリメンベース(米国アディバント社、商標名)、アルキル4級アンモニウム塩化合物、カチオン性ポリマー、両性界面活性剤、ベタイン界面活性剤、ジシアンジアミド・ジエチレントリアミン重縮合物、ポリエチレンイミンなどを挙げることができる。
【0037】
気泡安定剤の使用量としては、ラテックス又はエマルション100重量部当たり気泡安定剤の固形分として0.1重量部から5.0重量部使用することができる。ラテックスに添加する気泡安定剤の濃度としては、水溶液として10%~50%が使用できる。
【0038】
酸化亜鉛は、後述するゲル化剤と組み合わさり発泡したラテックス組成物をゲル化させる。また、加硫促進剤と組み合わさり加硫を促進する。酸化亜鉛は、フランス法、アメリカ法、塩化亜鉛を原料とした湿式沈殿法などの製法で製造される酸化亜鉛が使用でき、微粒子で不純物が少ないものが好ましく使用できる。これらの具体例としては、JIS規格1種、同2種、同3種などを挙げることができる。使用量としては、ラテックス又はエマルション100重量部当たり0.5重量部から5.0重量部、好ましくは1.0重量部から3.0重量部使用することができる。
【0039】
ゲル化剤は、発泡したラテックス組成物を固化するもので、ケイフッ化ナトリウム、ケイフッ化カリウムなどのケイフッ化塩、過硫酸塩、過酸化物などを使用することができる。これらの物質は、溶解又は分解して酸を発生する。これによりラテックス組成物のpHが下がり、コロイド安定性が低下し、ラテックス又はエマルション粒子の合一が進むことで起泡した状態で固化する。この変化をゲル化と呼んでいる。ゲル化剤の使用量としては、ラテックス又はエマルション100重量部当たり固形分として0.5重量部から5.0重量部、好ましくは1.0重量部から4.0重量部使用することができる。
【0040】
発泡用ラテックス組成物はこれらの薬剤を配合して製造されるが、これらの他に紫外線吸収剤、軟化剤、充填剤、色材、抗菌剤、抗カビ剤などの配合剤を適宜使用することができる。
【0041】
発泡成形は、発泡用ラテックス組成物に空気などの気体を混合し起泡させ、さらにゲル化剤を作用させ起泡した状態を維持したまま固化(ゲル化)することでスポンジを成型する。起泡したラテックス組成物は金型に注型し、その後ゲル化することにより形状を賦形することでできる。この後加硫を行いゴム弾性を付与する。
【0042】
気体の混合には、バッチ式ではワイヤーホイップミキサー、ホバートミキサーなどを使用することができる。連続式ではピンミキサー、オークスミキサーなどを使用することができる。
【0043】
加硫は、ゲル化したラテックス組成物に熱を掛けることにより行われ、ラテックススポンジに弾性を与える。加硫は蒸気、熱媒、高周波などで行い、95~150°Cで10分~2時間行うことができる。
【0044】
出来上がったラテックススポンジは必要に応じて断裁し本発明の洗浄を行う。この洗浄により、変色物質が脱落し経時による変色しにくいスポンジとすることができる。また、スポンジに少量残留した蛋白質をさらに洗い落とすことができる。
【0045】
本発明の洗浄は、酸化性洗浄液にて洗浄を行う。酸化性洗浄液は、過酸化物、過硫酸塩、過炭酸塩、過ホウ酸塩、過塩素酸塩、過ヨウ素酸塩などの水溶液を使用することができる。これらの具体例としては、過酸化水素、過酢酸、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過炭酸カリウム、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、過ヨウ素酸ナトリウムなどが挙げられ、なかでも過炭酸ナトリウムはpH調整が必要なく、取扱い上の危険性が少なく特に好ましい。これらの薬剤は適当なpHに調整することができ、例えば過酸化水素ではアルカリにすることで洗浄効果が向上する
【0046】
洗浄液濃度は、0.05~5.0%が使用でき、好ましくは0.1~0.4%が好ましい。これより薄ければ、洗浄に時間が掛かり効果も低い、またこれよれ濃ければスポンジにシミが発生する場合があり好ましくない。洗浄液は、洗浄スポンジ1重量部(乾燥時重量)あたり5重量部~50重量部を使用し、好ましくは10~25重量部を使用する。これより少なければスポンジに洗浄液が行き渡らず部分的にピンキングが発生することがある。又、これより多ければ洗浄液に無駄が生じ好ましくない。
洗浄温度は50~90°Cとすることが好ましく、洗浄液が分解等して洗浄効果を発揮できる。洗浄時間は10~100分間とすることができる。
【0047】
洗浄は洗濯機を使用することができ、耐薬品性のあるドラム式洗濯機が好ましく使用できる。また、漬け置きによる洗浄もできるが、その場合は洗浄液が均一に行き渡るよう時々撹拌することが好ましい。洗浄はスポンジが乾燥している状態から行うことも、スポンジが湿っている状態から行うこともできる。スポンジが湿っている状態から行う場合は、洗浄液はスポンジに含まれる水分を差し引いて調合することが好ましい。
【0048】
洗浄後、濯ぎを行い、乾燥し、本発明のスポンジとする。
【0049】
このように製造された本発明のスポンジは経時の変色が少ないが、次の促進試験をすることで評価することができる。
【0050】
密閉可能な透明容器を用意する。これに試験スポンジを入れ、アンモニア水を少量入れアンモニア雰囲気とし、蛍光灯光を24時間照射する。具体的には、230mm×160mm、深さ82mmの箱体(容積約3l)に25%アンモニア水0.4mlを滴下し(1.33ml/1、アンモニア濃度0.3g/1)、試料を入れガラス板で蓋をし、昼白光蛍光灯(丸形30W)にて35cm上方から24時間照らした(照度2200ルックス)。この方法で本発明の洗浄を行わないスポンジを試験するとピンク乃至赤褐色に変色するのに対し、本発明のスポンジを試験した場合は変色しないことで本発明の洗浄の効果を評価することができる。
【0051】
本発明によれば、試験前後の色差ΔEabの値が0~10とすることができる。各種の天然ゴムラテックススポンジの経時での変色と比較すると、色差値が10であれば経時変色はほとんど目立たない程度に収まり実用上十分な耐変色性があると判断できる。
【0052】
天然ゴムラテックススポンジの製造
【0053】
(実施例1)
(発泡用組成物の作成)天然ゴムラテックス ハイアンモニアタイプ(固形分60%、pH11.0)を攪拌しつつ空気を吹き付けてアンモニアを揮発させ、pHを9.8とした。固形分100重量部に対し、加硫剤としてイオウ2.5重量部、加硫促進剤EZ(ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛)2.5重量部、酸化防止剤BHT(2,6-ジ-第三ブチル-p-クレゾール)1.0重量部をそれぞれ有効成分が50%となる水分散体として添加した。又、起泡剤としてオレイン酸カリウム1.5重量部、気泡安定剤としてトリメンベース(登録商標)0.5重量部を添加した。
【0054】
(発泡成形)連続式撹拌機ピンミキサーにて、発泡用ラテックス組成物と空気と酸化亜鉛及びゲル化剤を混合攪拌し起泡し発泡する。発泡物は、金型へ注型しゲル化剤の働きによりゲル化する。その後加硫を行い、ゴム弾性を持つラテックススポンジとなる。
【0055】
酸化亜鉛は、発泡用ラテックス組成物のゴム固形分100重量部あたり3.0重量部を、ゲル化剤はケイフッ化ナトリウムを同じく3.0重量部を使用した。空気は発泡物の重量が250g/lとなるよう調整した(発泡倍率4.0倍)。金型は直径約60mmの円柱状金型を使用した。金型へ注入後、120秒後に流動性が無くなり固体状態となった。
【0056】
この後、蒸気により100°Cで60分間加硫を行った。その後、金型からスポンジを取り出し水洗、脱水し、厚み8mm、直径60mmに切り出した。
【0057】
洗浄処理
作成したスポンジの乾燥重量1重量部を、水100重量部に過炭酸ナトリウム0.3重量部を溶かした処理液15重量部に浸し、これを攪拌しつつ昇温し30分間60℃とした。この後濯ぎ・脱水を行い乾燥し本発明のスポンジとした。
【0058】
(実施例2)
実施例1の天然ゴムラテックス、ハイアンモニアタイプ(固形分60%)に替えて脱蛋白天然ゴムラテックス、セラテックス 3821(登録商標、固形分60%)を使用した。このラテックスは、天然ゴムラテックスに含まれる蛋白質を分解、遠心分離精製したもので、全窒素分を0.15%以下としたものである。pHは10.0でありpH調整は行わずそのまま使用した。
【0059】
用意したラテックスの固形分100重量部に対し、実施例1と同様にイオウ2.5重量部、加硫促進剤EZ(ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛)2.5重量部、BHT(2,6-ジ-第三ブチル-p-クレゾール)1.0重量部、オレイン酸カリウム0.5重量部、トリメンベース(登録商標)0.5重量部を添加した。なお、このラテックスは安定剤としてオレイン酸カリウムが使用されており、起泡剤としてオレイン酸カリウムは天然ゴムラテックスに比べ少ない量を使用している。これを、実施例1と同様に発泡成形、水洗、断裁、洗浄処理を行い本発明のスポンジとした。
【0060】
(実施例3)
実施例1の天然ゴムラテックス ハイアンモニアタイプ(固形分60%、pH11.0)を攪拌しつつ空気を吹き付けてアンモニアを揮発させ、pHを9.8としたもの固形分100重量部に対し、オレイン酸カリウム1.5重量部を添加し均一になるまで攪拌した。さらに蛋白分解酵素アルカリプロテアーゼの10%水溶液1.0重量部を攪拌しつつ添加した。この後さらに攪拌しつつ温度を50℃まで昇温し30分保った。この後攪拌を停止し、室温となるまで24時間静置した。このラテックスは蛋白質が分解されていて、ELISA法を用いて天然ゴム特有のアレルゲン蛋白質(Hev-b 6.02)を測定すると、酵素分解前のラテックスが1.43μg/gであるのに対して、0.025μg/gであった。
【0061】
原料天然ゴムラテックスの固形分100重量部に対し、実施例1と同様にイオウ2.5重量部、加硫促進剤EZ(ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛)2.5重量部、BHT(2,6-ジ-第三ブチル-p-クレゾール)1.0重量部、トリメンベース(登録商標)0.5重量部を添加した。なお、オレイン酸カリウムは蛋白質分解操作時に添加しており、この配合時には添加していない。これを、実施例1と同様に発泡成形、水洗、断裁、洗浄処理を行い本発明のスポンジとした。
【0062】
(比較例1)
実施例1のスポンジ製造の工程のうち、最後の洗浄工程を行わずに乾燥したものを比較例1のスポンジとした。
【0063】
(比較例2)
実施例2のスポンジ製造の工程のうち、最後の洗浄工程を行わずに乾燥したものを比較例2のスポンジとした。
【0064】
(比較例3)
実施例3のスポンジ製造の工程のうち、最後の洗浄工程を行わずに乾燥したものを比較例3のスポンジとした。
【0065】
(原料ラテックス及び製造されたスポンジの評価及び条件)
アレルゲン
ASTM D7427-16による方法で、Icosagen AS社製ラテックスアレルゲンELISAキットを使用し、原料ラテックス中のアレルゲン蛋白質(Hev-b 6.02)を測定し、ラテックス固形分当たりのアレルゲン蛋白量(μg/g)を求めた。
【0066】
ピンキング
密閉可能な透明容器を用意する。これに試験スポンジを入れ、アンモニア水を少量入れアンモニア雰囲気とし蛍光灯光を24時間照射する。具体的には、230mm×160mm、深さ82mmの箱体(容積約3l)に25%アンモニア水0.4mlを滴下し(1.33ml/l、アンモニア濃度0.3g/l)、試料を入れガラス板で蓋をし、昼白光蛍光灯(丸形30W)にて35cm上方から24時間照らした(照度2200ルクス)。試験前後のスポンジの色差、JISZ 8730に規定されるL表色系における色差(ΔEab)を色彩色差計CR-300(コニカミノルタ社製)にて測定した。
【0067】
経時変色性
事務所の直射日光が当たらない場所に静置し、3か月後の状態を観察した。
【0068】
セル
スポンジのセル(気泡)の細かさと均一性
以下のように評価した。
◎:セルが細かく均一である。〇:やや粗いが均一である。△:部分的に疎なセルが見られる。×:全体的に粗く不均一である。
【0069】
見かけ密度
直方体を切り出し、重量を見かけの体積で割って求めた。
硬度
アスカーF型硬度計(高分子計器株式会社)の値
強度、伸び、モジュラス
JISK6251に従って、ダンベル状1号形にて引張り強さ、破断時伸び、及び100%伸び時の引張り応力(モジュラス)を測定した。
【0070】
下記の表1に、上記実施例1~3及び比較例1~3の結果を示す。
【0071】
化粧用スポンジの評価
実施例1~3及び比較例1~3で作成したスポンジを8mm厚にスライスし、直径60mmの円形に打ち抜いた。この円周端部に研磨加工を施し、端部をアール状に加工し、化粧用のスポンジに加工した。これを使用し、実際に化粧を行い使用感、塗布性を評価した。評価は普段から化粧をしている女性5人が行い、市販のパウダーファンデーションを使用した。
【0072】
使用感については肌当たり、肌触り、しっとり感を確認した。これらを基準に良いとした人数により以下の様に評価し、表1に記載した。
◎:5人、〇:3~4人、△:2~3人、×:0~1人
塗布性は、ファンデーションの取れ具合、肌への伸び具合、カバー力、ムラや筋引きにならないかを確認した。これらを基準に良いとした人数により使用感と同様に評価し、表1に記載した。
【0073】



【表1】
【0074】
本発明の天然ゴムラテックススポンジは、均一できめ細かなセル構造を有している上に、経時の変色に強く明色のスポンジの提供が可能となる。これにより、商品企画の自由度が上がり顧客のニーズに細やかに対応可能となる。又、商品管理上も在庫期間管理に気を使わなくて済む。
【0075】
また本発明の脱蛋白天然ゴムラテックススポンジは、アレルギーの心配がなく安心して使用することができる。また、低モジュラスで柔らかな性質により、肌当たりが良好で化粧用具の使用に最適である。
【0076】
これにより、ワイピング材、各種ロール、洗い具、塗布具、吸着材、クッション、マットレスなどに使用することができ、また、直接肌に触れる用途に最適であり、化粧用スポンジ、アイシャドー用スポンジ、化粧落とし用スポンジ等の化粧用具の使用に最適である。
【0077】
さらに、石油由来の原料を使用していなく、炭酸ガス排出量削減に二重の効果があり、地球環境に優しい材料である。
【0078】
また、蛋白質を酵素分解し発泡成形するため、ラテックスの洗浄・精製工程を省いたことでコストアップすることなく、アレルギーの心配のない、セルが細かく均一なスポンジを提供することができる。
【要約】
【課題】ピンキングの少ない天然ゴムラテックススポンジ、特に低アレルギー性の脱蛋白天然ゴムラテックススポンジを提供する。
【解決手段】0.3g/lのアンモニア雰囲気に、24時間光照射した時の変色が、照射前後の色差ΔEabが0~10である天然ゴムラテックススポンジであり、脱蛋白天然ゴムラテックス、または、天然ゴムラテックスに蛋白質分解酵素を作用させ蛋白質を分解したラテックスから製造された天然ゴムラテックススポンジ。
【選択図】なし