(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】再剥離性粘着剤組成物及び粘着テープ
(51)【国際特許分類】
C09J 133/04 20060101AFI20220119BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220119BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220119BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20220119BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C09J133/04
C09J7/38
C09J11/06
C09J11/08
H01L21/02 C
(21)【出願番号】P 2017153572
(22)【出願日】2017-08-08
【審査請求日】2020-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】利根川 亨
(72)【発明者】
【氏名】野世渓 元
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-185641(JP,A)
【文献】国際公開第2010/140569(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/00
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付して保護するための再剥離性粘着剤組成物であって、
光硬化型粘着剤としての分子内に官能基を持った(メタ)アクリル系ポリマー
と、
前記光硬化型粘着剤と架橋可能な官能基を有するシリコーン化合物
と、架橋剤
とを含有
し、
厚み40μmの粘着剤層からなるサンプルをタック測定機で測定した垂直剥離力が10~40Nであり、かつ、厚み350μm、幅5mm、長さ50mmのサンプルで測定した破断伸度が130~200%である、再剥離性粘着剤組成物。
【請求項2】
硬化型粘着剤はカルボキシル基と水酸基とを有し、更に架橋剤としてエポキシ化合物とイソシアネート化合物とを含有する、請求項1記載の再剥離性粘着剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の再剥離性粘着剤組成物からなる粘着剤層を有する、粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付して保護するための再剥離性粘着剤組成物であって、高い粘着力を有するとともに、糊残りを抑制しつつ剥離することができる再剥離性粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程においては、加工時に取扱いを容易にし、破損したりしないようにするために、粘着剤組成物を貼付して保護することが行われる(例えば、特許文献1等)。近年の半導体デバイスでは、電気接続の信頼性を向上させるためにバンプ接続が使われており、そのバンプ高さが100~200μm程度にまで達する半導体デバイスも用いられるようになってきた。このようなバンプを有する半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付して保護するための粘着剤組成物には、半導体デバイスの加工時に剥離してしまわない粘着力が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記されるようなバンプを有する半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付して保護するための粘着剤組成物には、半導体デバイスの加工時に剥離してしまわない粘着力が求められる。
【0005】
しかしながら、高粘着力の粘着剤組成物は、剥離時に半導体デバイスの表面に糊残りしてしまうことがあるという問題があった。例えば、半導体デバイスのバンプが形成された面と反対側の面に接着した粘着剤を剥離させる際には、バンプが形成された面側にも大きな負荷がかかり、剥離しやすくなってしまう。このような際にも剥離しないような高粘着力の粘着剤組成物を用いた場合、剥離時に半導体デバイスの表面に糊残りが発生しやすくなる。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付して保護するための再剥離性粘着剤組成物であって、高い粘着力を有するとともに、糊残りを抑制しつつ剥離することができる再剥離性粘着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施態様においては、半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付して保護するための再剥離性粘着剤組成物であって、タック測定機で測定した垂直剥離力が10~40Nであり、かつ、厚み350μm、幅5mm、長さ50mmのサンプルで測定した破断伸度が130~200%である再剥離性粘着剤組成物が提供される。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明により、半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付したときに、高い粘着力と、剥離時における糊残りが抑制された優れた剥離性とを両立できる。
【0009】
本発明の再剥離性粘着剤組成物は、タック測定機で測定した垂直剥離力の下限が10N、上限が40Nである。上記垂直剥離力をこの範囲内に調整することにより、半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付したときに、充分に保護できる優れた粘着力と、剥離時における糊残りが抑制された優れた剥離性とを両立できる。上記垂直剥離力が10N未満であると、半導体デバイスの加工時に再剥離性粘着剤組成物が剥離してしまい、充分に保護できないことがあり、40Nを超えると、剥離時に剥離しにくくなり、糊残りの原因となることがある。上記垂直剥離力の好ましい下限は13N、好ましい上限は22Nであり、より好ましい下限は15N、より好ましい上限は20Nである。
なお、本明細書において垂直剥離力とは、タックテスターを用いて、プローブ径Φ5.8mm、先端R2.9に加工したSUSプローブを、再剥離性粘着剤組成物に対して垂直方向から荷重10000gf/cm2で1秒間押し付けた後、垂直方向に0.8m/sの速度で引き剥がしたときの剥離力を意味する。タックテスターとしては、例えば、ユービーエム社製、タックテスターTA-500等を用いることができる。
【0010】
本発明の再剥離性粘着剤組成物は、厚み350μm、幅5mm、長さ50mmのサンプルで測定した破断伸度の下限が130%、上限が200%である。上記破断伸度が130%未満であると、再剥離性粘着剤組成物が脆く、剥離時に伸びることができずに千切れてしまい糊残りしてしまう。上記破断伸度が200%を超えると、剥離時に伸びすぎた再剥離性粘着剤組成物が千切れてしまい糊残りしてしまう。上記破断伸度が上記範囲内に調整された場合、はじめて半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付したときに剥離時の糊残りが抑制された優れた剥離性を発揮することができる。上記破断伸度の好ましい下限は140%、好ましい上限は190%であり、より好ましい下限は150%、より好ましい上限は180%である。
なお、本明細書において破断伸度とは、厚み350μm、幅5mmの試験片を、引張試験機を用いて、サンプルのチャック間距離50mmにし、速度300mm/minで引張試験を行った際のサンプルの破断したときの伸びにより測定されるものである。例えば、破断伸びが500mmである場合、50mmのサンプルが500mmに伸びた時には破断伸度は1000%である。
【0011】
本発明の再剥離性粘着剤組成物は、粘着剤成分を含有する。
上記粘着剤成分は特に限定されず、非硬化型粘着剤、硬化型粘着剤のいずれを含有するものであってもよい。なかでも、糊残りを更に抑制できることから、硬化型粘着剤を含有することが好ましい。
なお、本発明の再剥離性粘着剤組成物が粘着剤成分として硬化型粘着剤を含有する場合、該硬化型粘着剤に刺激を与えて硬化させた後の再剥離性粘着剤組成物が、上記垂直剥離力と上記破断伸度とを満たせばよい。
【0012】
上記硬化型粘着剤としては、光照射により架橋、硬化する光硬化型粘着剤、及び、加熱により架橋、硬化する熱硬化型粘着剤が挙げられる。上記光硬化型粘着剤としては、例えば、重合性ポリマーを主成分とし、重合開始剤として光重合開始剤を用いた光硬化型粘着剤が挙げられる。上記熱硬化型粘着剤としては、例えば、重合性ポリマーを主成分とし、重合開始剤として熱重合開始剤を用いた熱硬化型粘着剤が挙げられる。重合性ポリマー及び重合開始剤は、それぞれ独立に、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0013】
上記重合性ポリマーは、例えば、分子内に官能基を持った(メタ)アクリル系ポリマー(以下、官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーという)をあらかじめ合成し、分子内に上記の官能基と反応する官能基とラジカル重合性の不飽和結合とを有する化合物(以下、官能基含有不飽和化合物という)とを反応させることにより得ることができる。
【0014】
上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、アルキル基の炭素数が2~18の範囲にある(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主モノマーとし、これと官能基含有モノマーと、更に必要に応じてこれらと共重合可能な他の改質用モノマーとを常法により共重合させることにより得られるものである。
アルキル基の炭素数が2~18の範囲にある(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることにより、常温で粘着性を発揮することができる。
上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量は通常20万~200万程度である。
【0015】
上記官能基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーや、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル等のヒドロキシル基含有モノマーや、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有モノマーや、アクリル酸イソシアネートエチル、メタクリル酸イソシアネートエチル等のイソシアネート基含有モノマーや、アクリル酸アミノエチル、メタクリル酸アミノエチル等のアミノ基含有モノマー等が挙げられる。
【0016】
上記共重合可能な他の改質用モノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン等の一般の(メタ)アクリル系ポリマーとして用いられている各種のモノマーが挙げられる。
【0017】
上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーに反応させる官能基含有不飽和化合物としては、上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーの官能基に応じて上述した官能基含有モノマーと同様のものを使用できる。例えば、上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーの官能基がカルボキシル基の場合はエポキシ基含有モノマーやイソシアネート基含有モノマーが用いられる。同官能基がヒドロキシル基の場合はイソシアネート基含有モノマーが用いられる。同官能基がエポキシ基の場合はカルボキシル基含有モノマーやアクリルアミド等のアミド基含有モノマーが用いられる。同官能基がアミノ基の場合はエポキシ基含有モノマーが用いられる。
【0018】
上記光重合開始剤は、例えば、250~800nmの波長の光を照射することにより活性化されるものが挙げられる。このような光重合開始剤としては、例えば、メトキシアセトフェノン等のアセトフェノン誘導体化合物や、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル系化合物や、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタール等のケタール誘導体化合物や、フォスフィンオキシド誘導体化合物や、ビス(η5-シクロペンタジエニル)チタノセン誘導体化合物、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、クロロチオキサントン、トデシルチオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシメチルフェニルプロパン等の光ラジカル重合開始剤が挙げられる。これらの光重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0019】
上記光硬化型粘着剤において、上記重合性ポリマー100重量部に対する上記光重合開始剤の配合量の好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は8重量部である。上記光重合開始剤の配合量がこの範囲内であると、光を照射することにより確実に上記光硬化性粘着剤を架橋、硬化させることができ、糊残りを更に抑制できる。上記光重合開始剤の配合量のより好ましい下限は0.3重量部、より好ましい上限は5重量部であり、更に好ましい上限は3重量部である。
【0020】
上記熱重合開始剤としては、熱により分解し、重合硬化を開始する活性ラジカルを発生するものが挙げられる。具体的には、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエール、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド等が挙げられる。
ただし、上記硬化型粘着剤が高い耐熱性を発揮するためには、上記熱重合開始剤は、熱分解温度が200℃以上である熱重合開始剤を用いることが好ましい。このような熱分解温度が高い熱重合開始剤(例えば、熱分解温度が200℃以上である熱重合開始剤)としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド等が挙げられる。
これらの熱重合開始剤のうち市販されているものとしては特に限定されないが、例えば、パーブチルD、パーブチルH、パーブチルP、パーペンタH(以上いずれも日油社製)等が好適である。これら熱重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0021】
上記熱硬化型粘着剤において、上記重合性ポリマー100重量部に対する上記熱重合開始剤の配合量の好ましい下限は0.01重量部、好ましい上限は5重量部である。上記熱重合開始剤の配合量がこの範囲内であると、加熱することにより確実に上記熱硬化性粘着剤を架橋、硬化させることができ、糊残りを更に抑制できる。上記熱重合開始剤の配合量のより好ましい下限は0.05重量部、より好ましい上限は3重量部である。
【0022】
上記硬化型粘着剤層は、ラジカル重合性の多官能オリゴマー又はモノマーを含有することが好ましい。ラジカル重合性の多官能オリゴマー又はモノマーを含有することにより、光硬化性、熱硬化性が向上する。
上記多官能オリゴマー又はモノマーは、分子量が1万以下であるものが好ましく、より好ましくは加熱又は光の照射による硬化型粘着剤層の三次元網状化が効率よくなされるように、その分子量が5000以下でかつ分子内のラジカル重合性の不飽和結合の数が2~20個のものである。
【0023】
上記多官能オリゴマー又はモノマーは、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート又は上記同様のメタクリレート類等が挙げられる。その他、1,4-ブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、市販のオリゴエステルアクリレート、上記同様のメタクリレート類等が挙げられる。これらの多官能オリゴマー又はモノマーは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0024】
上記硬化型粘着剤において、上記重合性ポリマー100重量部に対する上記多官能オリゴマー又はモノマーの配合量の好ましい下限は3重量部、好ましい上限は35重量部である。上記多官能オリゴマー又はモノマーの配合量がこの範囲内であると、光を照射又は加熱することにより確実に上記硬化性粘着剤をより確実に架橋、硬化させることができ、糊残りを更に抑制できる。上記多官能オリゴマー又はモノマーの配合量のより好ましい下限は5重量部、より好ましい上限は30重量部である。
【0025】
本発明の再剥離性粘着剤組成物が粘着剤成分として上記硬化型粘着剤を含有する場合、例えば、上記硬化型粘着剤としてカルボキシル基と水酸基とを有するものを選択し、かつ、架橋剤としてエポキシ化合物とイソシアネート化合物とを含有することが好ましい。このような官能基を有する硬化型粘着剤に2種類の架橋剤を併用することにより、上記垂直剥離力と上記破断伸度とを所期の範囲に調整することが容易になる。
【0026】
本発明の再剥離性粘着剤組成物は、更に、刺激により気体を発生する気体発生剤を含有してもよい。上記気体発生剤を含有する場合には、半導体デバイスから再剥離性粘着剤組成物を剥離する際に、刺激を与えて上記気体発生剤から気体を発生させることにより、より容易に、かつ、糊残りを抑制させつつ再剥離性粘着剤組成物を剥離することができる。
【0027】
上記気体発生剤は特に限定されないが、加熱を伴う処理に対する耐性に優れることから、フェニル酢酸、ジフェニル酢酸、トリフェニル酢酸等のカルボン酸化合物又はその塩や、1H-テトラゾール、5-フェニル-1H-テトラゾール、5,5-アゾビス-1H-テトラゾール等のテトラゾール化合物又はその塩等が好適である。このような気体発生剤は、紫外線等の光を照射することにより気体を発生する一方、200℃程度の高温下でも分解しない高い耐熱性を有する。
【0028】
本発明の再剥離性粘着剤組成物が上記気体発生剤を含有する場合には、更に、光増感剤を含有してもよい。上記光増感剤は、上記気体発生剤への光による刺激を増幅する効果を有することから、より少ない光の照射により気体を放出させることができる。また、より広い波長領域の光により気体を放出させることができる。
上記光増感剤としては、例えば2,4-ジエチルチオキサントン等のチオキサントン系化合物や、ジブチルアントラセン、ジプロピルアントラセン等のアントラセン系化合物、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、ベンゾフェノン、2,4-ジクロロベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’メチルジフェニルサルファイド等が挙げられる。これらの光増感剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0029】
本発明の再剥離性粘着剤組成物が粘着剤成分として上記硬化型粘着剤を含有する場合、上記再剥離性粘着剤組成物は、上記硬化型粘着剤と架橋可能な官能基を有するシリコーン化合物(以下、単に「シリコーン化合物A」ともいう。)を含有してもよい。シリコーン化合物Aは、耐熱性に優れることから、200℃以上の加熱を伴う処理を経ても粘着剤の焦げ付き等を防止し、剥離時には被着体界面にブリードアウトして、剥離を容易にする。シリコーン化合物Aが上記硬化型粘着剤と架橋可能な官能基を有することにより、光照射又は加熱することにより該官能基が上記硬化型粘着剤と化学反応して上記硬化型粘着剤中に取り込まれることから、被着体にシリコーン化合物が付着して汚染することを抑制することができる。また、シリコーン化合物Aを配合することにより、半導体デバイス上への糊残りを更に抑制する効果も発揮される。
【0030】
上記シリコーン化合物Aのシリコーン骨格は特に限定はされず、D体、DT体のいずれでもよい。
上記シリコーン化合物Aは、該官能基をシリコーン骨格の側鎖又は末端に有することが好ましい。
なかでも、D体のシリコーン骨格を有し、かつ、末端に上記硬化型接着剤と架橋可能な官能基を有するシリコーン化合物をシリコーン化合物Aとして用いると、高い初期接着力を発揮しながら、薬液処理や200℃以上の高温処理後を経ても糊残りなく剥離することができる。
【0031】
上記シリコーン化合物Aの官能基は、硬化型接着剤に応じて適当なものを選択して用いる。例えば、硬化型接着剤が上記分子内にラジカル重合性の不飽和結合を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系の重合性ポリマーを主成分とする光硬化型接着剤又は熱硬化型接着剤である場合には、(メタ)アクリル基と架橋可能な官能基を選択する。
上記(メタ)アクリル基と架橋可能な官能基は、不飽和二重結合を有する官能基であり、具体的には例えば、ビニル基、(メタ)アクリル基、アリル基、マレイミド基等が挙げられる。
【0032】
上記シリコーン化合物Aの官能基当量は特に限定されないが、好ましい下限は1、好ましい上限は20である。上記官能基当量が1以上であると、得られる再剥離性粘着剤組成物の硬化時に、シリコーン化合物Aが充分に硬化型接着剤に取り込まれ、被着体の汚染を抑制することができ、また十分な剥離性を発揮でき、20以下であると、充分な接着力を得ることができる。上記官能基当量のより好ましい上限は10であり、より好ましい下限は2、更に好ましい上限は6である。
【0033】
上記シリコーン化合物Aの分子量は特に限定されないが、好ましい下限は300、好ましい上限は50000である。上記分子量が300以上であると、得られる再剥離性粘着剤組成物の耐薬品性、耐熱性が充分であり、50000以下であると、上記硬化型接着剤との混合が良好である。上記分子量のより好ましい下限は400、より好ましい上限は10000であり、更に好ましい下限は500、更に好ましい上限は5000である。
【0034】
上記シリコーン化合物Aを合成する方法は特に限定されず、例えば、SiH基を有するシリコーン樹脂と、上記硬化型接着剤と架橋可能な官能基を有するビニル化合物とをハイドロシリレーション反応により反応させて、シリコーン樹脂に上記硬化型接着剤と架橋可能な官能基を導入する方法が挙げられる。また、シロキサン化合物と、上記硬化型接着剤と架橋可能な官能基を有するシロキサン化合物とを縮合反応させる方法も挙げられる。
【0035】
上記シリコーン化合物Aのうち市販されているものは、例えば、信越化学工業社製のX-22-164、X-22-164AS、X-22-164A、X-22-164B、X-22-164C、X-22-164E等の両末端にメタクリル基を有するシリコーン化合物や、信越化学工業社製のX-22-174DX、X-22-2426、X-22-2475等の片末端にメタクリル基を有するシリコーン化合物や、ダイセルサイテック社製のEBECRYL350、EBECRYL1360等のアクリル基を有するシリコーン化合物や、東亞合成社製のAC-SQ TA-100、AC-SQ SI-20等のアクリル基を有するシリコーン化合物や、東亞合成社製のMAC-SQ TM-100、MAC-SQ SI-20、MAC-SQ HDM等のメタクリル基を有するシリコーン化合物等が挙げられる。
【0036】
なかでも、上記シリコーン化合物Aは、耐薬品性、耐熱性が特に高く、極性が高いために再剥離性粘着剤組成物からのブリードアウトが容易であることから、下記一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)で表される、シロキサン骨格に(メタ)アクリル基を有するシリコーン化合物が好適である。
【0037】
【0038】
式中、X、Yは0~1200の整数を表し(但し、X及びYがいずれも0の場合を除く。)、Rは不飽和二重結合を有する官能基を表す。
【0039】
上記一般式(I)、一般式(II)、一般式(III)で表される、シロキサン骨格に(メタ)アクリル基を有するシリコーン化合物のうち市販されているものは、例えば、ダイセルサイテック社製のEBECRYL350、EBECRYL1360(いずれもRがアクリル基)等が挙げられる。
【0040】
上記シリコーン化合物Aの含有量は、上記硬化型接着剤100重量部に対する好ましい下限が0.5重量部、好ましい上限が50重量部である。シリコーン化合物Aの含有量が0.5重量部以上であると、光を照射又は加熱すると接着力が十分に低減し、被着体からの剥離が容易となり、50重量部以下であると、被着体の汚染を抑制することができる。シリコーン化合物Aの含有量のより好ましい下限は1重量部、より好ましい上限は40重量部である。
【0041】
本発明の再剥離性粘着剤組成物は、無機フィラーを含有してもよい。
上記無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アンチモン等の金属の水酸化物や酸化物、亜鉛等の金属粉末や、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸亜鉛等の金属の炭酸塩や、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩や、炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸水素塩や、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、マイカ、タルク、ベントナイト、ゼオライト、シリカゲル等が挙げられる。ただし、酸触媒として強酸を使用する場合、金属粉末、炭酸塩は、ポットライフの調整に影響がない範囲で添加する必要がある。これらの無機フィラーは、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0042】
本発明の再剥離性粘着剤組成物を用いて、粘着テープを製造することができる。
上記粘着テープは、基材の一方の面又は両面に本発明の再剥離性粘着剤組成物からなる粘着剤層を有するサポートテープであってもよく、基材を有しないノンサポートテープであってもよい。
【0043】
上記粘着テープがサポートテープである場合、上記基材は、例えば、アクリル、オレフィン、ポリカーボネート、塩化ビニル、ABS、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ナイロン、ウレタン、ポリイミド等の透明な樹脂からなるシート、網目状の構造を有するシート、孔が開けられたシート等が挙げられる。
【0044】
上記粘着テープの製造方法は特に限定されず、例えば、再剥離性粘着剤組成物を含む粘着剤溶液を、離型処理したPETフィルムに塗工した後、乾燥させて粘着剤層を形成し、得られた粘着剤層を基材の片面又は両面に転着させる方法が挙げられる。また、上記基材に直接粘着剤溶液を塗工した後、乾燥させる方法が挙げられる。粘着剤溶液を離型処理したPETフィルムに塗工した後、乾燥させて形成した粘着剤層を、基材なしでそのままノンサポートタイプの両面粘着テープとしてもよい。
【0045】
上記粘着テープに対して、事前UV処理を行ってよい。
事前UV処理とは、被着体に貼付する前又は後の上記粘着テープの粘着剤層に紫外線を照射する処理を意味する。事前UV処理により、粘着テープの各種物性を調整することができ、例えば破断伸度を制御することができる。
上記事前UV処理は、具体的には例えば、上記粘着テープの粘着剤層に、UVランプを用いて、波長300~450nmの紫外線を、照度10~100mW/cm2で積算照射量3000mJ/cm2の条件で照射することにより行うことができる。上記UVランプとしては、例えば、高圧水銀ランプ等を用いることができる。
【0046】
本発明の再剥離性粘着剤組成物は、半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付して保護するための再剥離性粘着剤組成物である。
本発明に係る再剥離性粘着剤組成物により半導体デバイスのバンプが形成された面を保護する方法は特に限定されず、例えば、半導体デバイスのバンプが形成された面に、本発明に係る再剥離性粘着剤組成物を直接塗工して保護する方法が挙げられる。また、本発明に係る再剥離性粘着剤組成物からなるノンサポートテープを貼付して保護する方法が挙げられる。更に、基材の一方の面に本発明に係る再剥離性粘着剤組成物からなる粘着剤層を有するサポートテープを貼付して保護する方法が挙げられる。
なお、本発明の再剥離性粘着剤組成物により半導体デバイスのバンプが形成された面を保護する場合、再剥離性粘着剤組成物の厚みは、糊残りをさらに抑制することができる観点から、半導体デバイスのバンプの高さに対して70%以下であることが好ましい。
なお、再剥離性粘着剤組成物の厚みは通常、半導体デバイスのバンプの高さに対して0%より高い。
【0047】
本発明の再剥離性粘着剤組成物により、半導体デバイスのバンプが形成された面が保護された状態を模式的に示した断面図を
図1に示す。半導体デバイス1は、一方の面にバンプ12が形成されており、該バンプ12側の面に、基材3の一方の面に本発明の再剥離性粘着剤組成物からなる粘着剤層2が積層されたサポートテープを貼付することにより保護される。なお、半導体デバイス1のバンプ12が形成されていない側の面は、仮固定用粘着剤組成物4を介して支持板5が貼付されて、当該面側が保護されている。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付して保護するための再剥離性粘着剤組成物であって、高い粘着力を有するとともに、糊残りを抑制しつつ剥離することができる再剥離性粘着剤組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】本発明の再剥離性粘着剤組成物により、半導体デバイスのバンプが形成された面が保護された状態を模式的に示した断面図である。
【
図2】実施例の耐熱評価で使用されるSUS420製の冶具Aの全体図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0051】
(樹脂Aの合成)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器を用意し、この反応器内に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして2-エチルヘキシルアクリレート85重量部、官能基含有モノマーとしてメタクリル酸ヒドロキシエチル10重量部、アクリル酸5重量部、ラウリルメルカプタン0.01重量部と、酢酸エチル80重量部を加えた。この反応器を加熱して還流を開始した。続いて、上記反応器内に、重合開始剤として1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン0.01重量部を添加し、還流下で重合を開始させた。次に、重合開始から1時間後及び2時間後にも、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを0.01重量部ずつ添加し、更に、重合開始から4時間後にt-ヘキシルパーオキシピバレートを0.05重量部添加して重合反応を継続させた。そして、重合開始から8時間後に、固形分30重量%、重量平均分子量90万の官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーの酢酸エチル溶液を得た。
【0052】
樹脂Bとしては綜研化学社製1604N、樹脂Cとしては総研化学社製1495Cを用いた。
【0053】
(実施例1)
(1)再剥離性粘着剤組成物及び粘着テープの製造
得られた樹脂Aの酢酸エチル溶液の樹脂固形分100重量部に対して、光重合開始剤1重量部、架橋剤0.2重量部、多官能アクリレート15重量部、シリコーン化合物20重量部、及び無機フィラー5重量部を加え、充分に混合して、再剥離性粘着剤組成物を得た。
得られた再剥離性粘着剤組成物の酢酸エチル溶液を、片面にコロナ処理を施した厚さ50μmの透明なポリエチレンナフタレートフィルムのコロナ処理面上に、乾燥皮膜の厚さが40μmとなるようにドクターナイフで塗工し、110℃、5分間加熱して塗工溶液を乾燥させた。その後、40℃、3日間静置養生を行い、粘着テープを得た。
なお、光重合開始剤としては、日本シイベルヘグナー社製、エサキュアワンを用いた。架橋剤としては、東ソー社製、コロネートL-45を用いた。多官能アクリレートとしては、根上工業社製、UN5500を用いた。シリコーン化合物としては、ダイセル・オルネクス社製、エベクリル350を用いた。無機フィラーとしては、トクヤマ社製、MT-10を用いた。
【0054】
(2)垂直剥離力の測定
得られた粘着テープの粘着剤層について、タックテスターを用いて、プローブ径Φ5.8mm、先端R2.9に加工したSUSプローブを、再剥離性粘着剤組成物に対して垂直方向から荷重10000gf/cm2で1秒間押し付けた後、垂直方向に0.8m/sの速度で引き剥がしたときの剥離力を測定した。9点測定のうち、中央値5点の平均値を垂直剥離力とした。
タックテスターとしては、ユービーエム社製、タックテスターTA-500を用いた。
【0055】
(3)破断伸度の測定
破断伸度は、厚み350μm、幅5mmの試験片を、引張試験機において、サンプルのチャック間距離50mmにし、速度300mm/minで引張試験を行った際の試験片が破断したときの伸びを測定することにより決定した。
【0056】
なお、実施例1並びに比較例3及び4の粘着テープについては、事前UV処理を行った後に破断伸度を測定した。
事前UV処理は、粘着テープの粘着剤層に対して、UVランプとして高圧水銀ランプを用いて、波長405nmの紫外線を、照度100mW/cm2、照射時間30秒間の条件で照射することにより行った。なお、照度は、アイグラフィックス社製のUV照度計「UVPF-A1」を用いて行った。
【0057】
(実施例2~9、比較例1~6)
樹脂の種類、架橋剤の種類、配合量等を表1に示したようにした以外は実施例1と同様にして再剥離性粘着剤組成物及び粘着テープを得た。得られた再剥離性粘着剤組成物について、実施例1と同様方法により垂直剥離力と破断伸度を測定した。
【0058】
(評価)
実施例及び比較例で得た再剥離性粘着剤組成物について、以下の方法により耐熱評価を行った。結果を表1に示した。
【0059】
耐熱評価は、
図2に示されるSUS420製の冶具Aの中央部にバンプ付きチップ(ウォルツ社製、WALTS-TEG FC150SCJY LF(PI) TypeA)を置き、2kgローラーを用いて、速度10mm/secで縦40mm、横40mmの大きさに切断した粘着テープを貼り、15分間常温で養生した。
その後、オーブンにて180℃、6時間、ホットプレートにて250℃、10分間の熱処理工程を行った。目視により観察して、以下の基準により耐熱評価を行った。
A:工程中に剥離することなく、かつ、剥離時に糊残りも認められなかった
B:工程中に剥離してしまったが、剥離時の糊残りは認められなかった
C:工程中に剥離はしなかったが、剥離時に糊残りが認められた
D:工程中に剥離してしまい、剥離時に糊残りが認められた
【0060】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、半導体デバイスのバンプが形成された面に貼付して保護するための再剥離性粘着剤組成物であって、高い粘着力を有するとともに、糊残りを抑制しつつ剥離することができる再剥離性粘着剤組成物を提供することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 半導体デバイス
12 バンプ
2 本発明の再剥離性粘着剤組成物からなる粘着剤層
3 基材
4 仮固定用粘着剤組成物
5 支持板