(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20220203BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220203BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20220203BHJP
H01M 4/505 20100101ALN20220203BHJP
H01M 4/525 20100101ALN20220203BHJP
H01M 4/485 20100101ALN20220203BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/62 Z
H01M10/0525
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/485
(21)【出願番号】P 2017173077
(22)【出願日】2017-09-08
【審査請求日】2020-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤穂 篤俊
(72)【発明者】
【氏名】曲 佳文
(72)【発明者】
【氏名】田村 和明
(72)【発明者】
【氏名】徳田 光紀
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-210007(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181952(WO,A1)
【文献】特開2005-317509(JP,A)
【文献】特開2012-221684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/131
H01M4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状のリチウム金属複合酸化物と、導電材とを含む正極合剤層を有し、
前記正極合剤層の単位体積当たりに含まれる前記導電材の比表面積の合計が20m
2/cm
3以上であ
り、
前記導電材の比表面積が、30m
2
/g以上、140m
2
/g以下である、
非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記正極合剤層の充填密度が2.2g/cm
3以上である、
請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記リチウム金属複合酸化物は、一般式Li
1+xM
aO
2+b(式中、x+a=1、-0.2<x≦0.2、-0.1≦b≦0.1であり、MはNi、Co、Mn、及びAlから選択される少なくとも1種を含む)で表される、
請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
請求項1~
3のうちいずれか一つに記載の非水電解質二次電池用正極と、負極合剤層を有する負極と、当該正極と当該負極との間に介在するセパレータとで構成される電極体と、
非水電解質と、
を備えた、
非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記負極合剤層は、リチウムチタン複合酸化物を含む、請求項
4に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
正極活物質として、層状リチウム金属複合酸化物を用いた非水電解質二次電池が広く知られている。例えば、特許文献1には、表面増強ラマン分光スペクトルにおいて、800cm-1以上、1000cm-1以下にピークを有するリチウム金属複合酸化物を正極活物質とする非水電解質二次電池が開示されている。また、特許文献1には、正極の導電材として、窒素吸着比表面積が70m2/g以上、300m2/g以下、かつ平均粒径が10nm以上、35nm以下であるカーボンブラックを用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、層状リチウム金属複合酸化物を用いた非水電解質二次電池において、正極の合剤層の充填密度が低い場合、合剤層内の空隙に電解液が十分に含浸されるため、容量確保は可能であるが、活物質の粒子間距離が長くなり、放電時の抵抗が大きくなり易い。一方、合剤層の充填密度が高い場合、抵抗は小さくなるが、合剤層中の電解液の量が不足して、容量が低下する虞があった。
【0005】
本開示の目的は、電池容量を十分に確保でき、かつ内部抵抗が低く、良好なハイレート特性を有する非水電解質二次電池を実現可能な正極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る非水電解質二次電池用正極は、層状のリチウム金属複合酸化物と、導電材とを含む正極合剤層を有し、前記正極合剤層の単位体積当たりに含まれる前記導電材の比表面積の合計が20m2/cm3以上であり、かつ前記正極合剤層の充填密度が2.2g/cm3以上であることを特徴とする。
【0007】
本開示に係る非水電解質二次電池は、上記正極と、負極合剤層を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータとで構成される電極体と、非水電解質とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る非水電解質二次電池用正極によれば、合剤層の充填密度が低い場合でも、通電経路を確保でき、抵抗を低く抑えることができる。このため、電池容量が高く、内部抵抗の低い非水電解質二次電池を提供できる。また、合剤層の充填密度が高い場合でも、導電材の表面により多くの電解液を保持することができる。そのため、導電材を介して極板内の電解液を優先的に活物質の表面に導くことができる。そのため、活物質近傍における電解液の不足を抑制することができ、容量低下を抑えることができる。高容量、低抵抗を両立した非水電解質二次電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述のように、従来の非水電解質二次電池用正極では、合剤層の充填密度が低い場合、活物質粒子間の空間が広いので、合剤層内の保液性が良好である。そのため、電池容量を十分に確保できる。しかし、活物質の粒子間距離が長く、通電経路が少ないので、抵抗が高い。一方で、合剤層の充填密度が高い場合は、通電経路は確保できるものの、合剤層内の電解液量が少ない、そのため十分な容量を確保できない。つまり、両方の場合において、容量確保と低抵抗の両立は困難である。
【0011】
これに対して、本開示に係る非水電解質二次電池用正極(以下、正極とも記載する)を用いた非水電解質二次電池は、電池容量を十分に確保でき、かつ内部抵抗が低い。そのため、良好なハイレート特性を有する。本開示に係る正極では、正極合剤層内の単位体積当りの導電材の比表面積の合計が20m2/cm3以上と高いため、導電材どうし、又は導電材と活物質粒子との接触面積が大きくなり易い。このため、合剤層の充填密度が低くても通電経路を確保でき、抵抗を低減することが可能になると考えられる。また、合剤層の充填密度が高い場合も、正極合剤層内の導電材の比表面積の合計を20m2/cm3以上とすることで、電解液を活物質の粒子表面に導くことが可能となり、容量低下を抑えることができると考えられる。なお、この導電材の比表面積の合計(m2/cm3)は、導電材の比表面積(m2/g)と、合剤層の充填密度(g/cm3)と、合剤層における導電材の添加量(質量%)から算出される。なお、上記導電材の添加量は、活物質に対する導電材の質量比率(a質量%)から算出する場合、活物質に対する結着材(バインダ)の添加量(b質量%)を用いて、活物質と導電材と結着材との配合比(100:a:b)を算出し、a/(100+a+b)として算出することができる。
【0012】
なお、正極の合剤層の充填密度が高くなると、合剤の塗布部と非塗布部で圧延時の伸び率の違いに起因してシワが生じ、このシワが集電体の表面上の凹凸になる虞がある。そして、このシワによって、合剤層と集電体との間における集電性を低下させる虞がある。その影響度合いは、圧延ロールの径や圧延手法により様々である。このため、充填密度の上限値は圧延の手法等により異なる。充填密度の上限の一例は、3.8g/cm3である。また、正極合剤層の充填密度が2.2g/cm3より低い場合、特に抵抗が著しく増大し、本開示における導電材の効果も得られにくくなる。さらに、充填密度が2.2g/cm3より低い場合、充填密度の変化に対する抵抗の変動が大きくなることから、同一の電池を連続的に作製しようとしても、各電池において、少しの充填密度の違いで電池の特性が変動してしまう虞がある。上記のことから、本開示の正極では、合剤層の2.2g/cm3以上であることが好ましい。
【0013】
本実施形態に係る非水電解質二次電池において、負極活物質は特に限定されないが、好適な一例は、チタン酸リチウムに代表されるリチウムチタン複合酸化物である。負極にリチウムチタン複合酸化物を用いた場合、リチウムイオンが出入する際の障害となり得る表面被膜(SEI被膜)が形成されなくなるため、電池のハイレート特性が向上する。また、リチウムチタン複合酸化物は、充放電に伴う体積変化が小さいため、電池のサイクル特性が向上する。ゆえに、抵抗増大等の電池性能の劣化は、正極材料の劣化の影響を受け易くなる。本開示に係る正極は、導電性及び保液性に優れるため、正極材料が劣化し難いという特徴がある。即ち、本開示に係る正極と、リチウムチタン複合酸化物を用いた負極との組み合わせは、電池の容量、ハイレート特性、及び耐久性の向上に大きく寄与する。
【0014】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10を示す図である。
図1では、角形の電池ケース11を備えた角形電池である非水電解質二次電池10を示している。但し、本開示に係る非水電解質二次電池は、角形電池に限定されず、円筒形、コイン形等の金属製ケースを備えた円筒形電池、コイン形電池等であってもよく、樹脂フィルムによって構成される樹脂製ケースを備えた所謂ラミネート電池であってもよい。また、
図1では、電極体は帯状の正極と帯状の負極がセパレータを介して渦巻き状に捲回されてなる捲回式の電極体14を例示するが、複数の正極と複数の負極とをセパレータを介して積層した積層型の電極体であってもよい。
【0015】
図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、電池ケース11と、当該ケース内に収容された電極体14とを備える。また、電池ケース11内には、非水電解質(図示せず)が充填されている。電池ケース11は、有底筒状のケース本体12と、当該本体の開口部を塞ぐ封口板13とで構成される角形の金属製ケースである。電極体14は、正極15と、負極16と、正極15と負極16との間に介在するセパレータ17とで構成される。
図1に例示する電極体14は、帯状の正極15と、帯状の負極16がセパレータ17を介して交互に積層された積層構造を有する。
【0016】
非水電解質二次電池10は、正極15と電気的に接続された正極端子18と、負極16と電気的に接続された負極端子19とを備える。
図1に示す例では、正極端子18が封口板13で構成される電池ケース11の上面部の長手方向一端側に設けられ、負極端子19が当該上面部の長手方向他端側に設けられている。なお、非水電解質二次電池10には、電極と端子とを接続する導電性部材が設けられていてもよい。
【0017】
以下、非水電解質二次電池10の各構成要素について詳説する。
【0018】
[正極]
図2は、正極11の断面の一部を示す図であって、(a)は正極合剤層21の充填密度が低い場合を、(b)は正極合剤層21の充填密度が高い場合をそれぞれ示す。
図2に例示するように、正極11は、帯状の正極集電体20と、当該集電体上に形成された正極合剤層21とを有する。正極集電体20には、アルミニウムなどの正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。
【0019】
正極合剤層21は、リチウム金属複合酸化物22と、導電材23とを含み、正極集電体20の両面に形成される。また、正極合剤層21は、リチウム金属複合酸化物22及び導電材23を結着して層を形成する結着材を含む。リチウム金属複合酸化物22は、正極活物質として機能する。正極11は、正極集電体20上に正極活物質、導電材23、結着材等を含む正極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して正極合剤層21を正極集電体20の両面に形成することにより作製できる。
【0020】
リチウム金属複合酸化物22は、例えば、一般式Li1+xMaO2+b(式中、x+a=1、-0.2<x≦0.2、-0.1≦b≦0.1であり、MはNi、Co、Mn、及びAlから選択される少なくとも1種を含む)で表される複合酸化物である。正極活物質として、他のリチウム金属複合酸化物等が少量含まれていてもよいが、上記一般式で表されるリチウム金属複合酸化物22を主成分とすることが好ましい。
【0021】
リチウム金属複合酸化物22は、Ni、Co、Mn、及びAl以外の他の元素を含んでいてもよい。他の元素としては、例えばLi以外のアルカリ金属元素、Ni、Co、Mn以外の遷移金属元素、アルカリ土類金属元素、第12族元素、Al以外の第13族元素、並びに第14族元素が挙げられる。具体的には、Zr、B、Mg、Ti、Fe、Cu、Zn、Sn、Na、K、Ba、Sr、Ca、W、Mo、Nb、Si等が例示できる。
【0022】
リチウム金属複合酸化物22の粒径は、特に限定されないが、例えば平均粒径が2μm以上30μm未満であることが好ましい。平均粒径が2μm未満である場合、正極合剤層21内の導電材23による通電を阻害して抵抗増加する場合がある。一方、平均粒径が30μm以上である場合、反応面積の低下により、負荷特性が低下する場合がある。平均粒径とは、レーザ回折法によって測定される体積平均粒径であって、粒子径分布において体積積算値が50%となるメジアン径を意味する。平均粒径は、例えば、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製)を用いて測定できる。正極活物質の比表面積は、0.1m2/g以上、7m2/g以下であることが好ましい。比表面積が0.1m2/gより低くなると抵抗が高く、比表面積が7m2/gを超えると、スラリーの流動性が低下するためである。
【0023】
導電材23として、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
導電材23の好適な一例は、比表面積が30~140m2/gの炭素材料である。導電材23の比表面積が30m2/gより低い場合、導電材23の添加量を多くする必要があり、正極合剤スラリー中での分散性が低下する。この場合、正極合剤層21に反応斑が生じ、電池性能が低下する可能性がある。一方、比表面積が140m2/gを超える場合、正極合剤スラリーの粘度が高くなって塗工性が低下し、均質な正極合剤層21を形成することが難しくなる。また、導電材23の平均一次粒子径は、例えば10nm以上、50nm以下である。
【0025】
なお、導電材23の配合比率は、活物質の質量に対して3質量%以上、15質量%以下であることが好ましい。これは、導電材23の配合比率が3質量%を下回ると正極合剤層内の抵抗が増加し、導電材の配合比率が15質量%を超えるとスラリー性状が安定しないためである。
【0026】
正極11では、正極合剤層21の単位体積当たりに含まれる導電材23の比表面積の合計が20m2/cm3以上であり、かつ正極合剤層21の充填密度が2.2m2/cm3以上である。この条件を満たすことで、電池容量を十分に確保でき、かつ内部抵抗が低く、良好なハイレート特性を有する非水電解質二次電池10が得られる。ここで、正極合剤層21の単位体積当たりに含まれる導電材23の比表面積の合計は、導電材23の比表面積、及び導電材23の含有量から算出できる。導電材23の比表面積は、窒素吸脱着によるBET比表面積測定装置を用いてBET法により測定できる。また、正極合剤層21の充填密度は、測定された電極合剤層の厚さ及び集電体の厚さとそれらの質量から見積もられる。
【0027】
正極合剤層21の充填密度の上限は、特に限定されないが、好適な一例としては3.8g/cm3である。正極合剤層21の充填密度は、例えば2.2g/cm3以上、3.8g/cm3の範囲に設定される。上述のように、正極合剤層21の充填密度が3.8g/cm3より高くなると、正極合剤の塗布部と非塗布部で圧延時の伸び率の違いに起因してシワが生じ易くなる。このシワが集電体の表面上の凹凸になる虞がある。そして、このシワによって、合剤層と集電体との間における集電性を低下させる虞がある。一方、正極合剤層21の充電密度が2.2g/cm3より低い場合、正極活物質の粒子間の距離が長すぎて導電パスを十分に確保できないことによる影響が大きくなり、本開示の導電材の影響が小さい。そのため、充填密度が2.2g/cm3より低い正極合剤層は、抵抗が著しく増大する。
【0028】
図2(a)に例示するように、正極合剤層21の充填密度が低い場合(但し、2.2g/cm
3以上)であっても、正極合剤層21の単位体積当たりの導電材23の比表面積の合計を20m
2/cm
3以上とすることで、通電経路を十分に確保できる。これにより、正極11の抵抗を低く抑えることができる。他方、
図2(b)に例示するように、正極合剤層21の充填密度が高い場合であっても、正極合剤層21の単位体積当たりの導電材23の比表面積の合計を20m
2/cm
3以上とすることで、導電材21の内部又は近傍により多くの電解液を保持することができる。そのため、導電材21を介して電解液を正極活物質(リチウム金属複合酸化物22)の粒子表面に導くことができ、容量低下を抑えることができる。
【0029】
正極合剤層21の単位体積当たりに含まれる導電材23の比表面積の合計の上限は、特に限定されないが、好適な一例としては40m2/cm3である。正極合剤層21における導電材23の比表面積の合計は、例えば20~40m2/cm3に設定される。なお、導電材23の比表面積の合計が当該範囲内にあればよく、使用する導電材23の比表面積は、上述のように特に限定されない。導電材23の比表面積の合計は、主に、使用する導電材23の比表面積と、その添加量により調製される。
【0030】
正極合剤層21に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等が例示できる。また、これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
なお、正極合剤層21に含まれる結着材の配合比率は、正極活物質の質量に対して、1質量%以上、5質量%以下であることが好ましい。この配合比率が1質量%より低い場合、極板から活物質が脱落し易くなる。この配合比率が5質量%を超える場合、正極合剤層内の抵抗又は正極合剤層と集電体との間の抵抗が増加する虞がある。
【0032】
[負極]
負極16は、帯状の負極集電体と、当該集電体上に形成された負極合剤層とを有する。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合剤層は、負極活物質、及び結着材を含み、負極集電体の両面に形成される。負極は、負極集電体上に負極活物質、結着材等を含む負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して負極合剤層を負極集電体の両面に形成することにより作製できる。
【0033】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料、ケイ素(Si)、錫(Sn)等のLiと合金化する金属、又はSi、Sn等の金属元素を含む酸化物などを用いることができる。また、負極合剤層は、リチウムチタン複合酸化物を含んでいてもよい。リチウムチタン複合酸化物は、負極活物質として機能する。
【0034】
リチウムチタン複合酸化物は、例えば、一般式Li4+yTi5O12(式中、yは0以上1以下である)で表されるチタン酸リチウムであって、スピネル型の結晶構造を有する。なお、リチウムチタン複合酸化物は、Mg、Al、Ca、Ba、Bi、Ga、V、Nb、W、Mo、Ta、Cr、Fe、Ni、Co、Mn等の金属元素を含有していてもよい。負極活物質にリチウムチタン複合酸化物を用いることで、上述のように、電池のハイレート特性、サイクル特性が向上する。非水電解質二次電池10では、上述の構成を備えた正極11と、リチウムチタン複合酸化物を用いた負極との組み合わせが好適である。
【0035】
リチウムチタン複合酸化物は、層状リチウム金属複合酸化物の合成方法(後述の実施例1参照)に準じた方法で合成できる。例えば、水酸化リチウム等のリチウム含有化合物と、二酸化チタン、水酸化チタン等のチタン含有化合物とを、目的とする混合比率で混合し、当該混合物を焼成することにより、上記一般式で表されるリチウムチタン複合酸化物を合成できる。この合成法で得られるリチウムチタン複合酸化物は、一次粒子が凝集してなる二次粒子である。混合物の焼成は、一般的に、大気中(又は酸素気流中)、焼成温度500~1100℃程度、焼成時間1~30時間程度の条件で行われる。
【0036】
リチウムチタン複合酸化物の比表面積は3m2/g以上、7m2/g以下であることが好ましい。リチウムチタン複合酸化物の比表面積が3m2/gより低い場合、反応活性点が少なくなり抵抗が増加し、リチウムチタン複合酸化物の比表面積が7m2/gより高い場合、抵抗低減効果は飽和し、かつスラリー性状は低下するためである。
【0037】
リチウムチタン複合酸化物を用いる場合、負極合剤層は導電材を含むことが好ましい。導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、チタン酸リチウムを用いる場合、合剤層の充填密度は1.6g/cm3以上、2.2g/cm3以下であることが好ましい。なお、負極合剤層の充填密度が1.6g/cm3より低い場合、活物質粒子間の負極内導電性が低下する。一方、負極合剤層の充填密度が2.2g/cm3より高い場合、負極合剤の塗布部と非塗布部との間で圧延時の集電体の伸び率の違いに起因してシワが生じ易くなる。そして、シワが集電体の表面の凹凸となることにより、集電体と負極合剤層の間の集電性が低下して抵抗増加を招く。
【0038】
なお、負極合剤層に含まれる導電材の配合比率は、負極活物質の質量に対して3質量%以上、15質量%以下の範囲であることが好ましい。負極合剤層内の導電材の配合比率が3質量%より低い場合、負極合剤層内の抵抗が増加する。負極合剤層内の導電材の配合比率が15質量%より大きい場合、スラリー性状が安定しない。なお、負極合剤層に含まれる導電材の平均1次粒子径は、例えば10nm以上、50nm以下である。
【0039】
負極合剤層に含まれる結着材には、公知の結着材を用いることができ、正極20の場合と同様に、PTFE、PVdF等のフッ素樹脂、PAN、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、並びに、ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。また、水系溶媒を用いて負極合剤スラリーを調製する場合に用いられる結着材としては、CMC又はその塩、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)等が例示できる。
【0040】
なお、負極合剤層に含まれる結着材の配合比率は、負極活物質の質量に対して1質量%以上、5質量%以下であることが好ましい。これは、負極合剤層中の結着材の配合比率が1質量%より低い場合、極板から活物質が脱落し易くなり、結着材の配合比率が5質量%を超えると、負極合剤層内の抵抗あるいは負極合剤層と集電体との間の抵抗が増加する虞があるためである。
【0041】
[セパレータ]
セパレータには、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロース等が好適である。セパレータは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータの表面にアラミド系樹脂等の樹脂、又はアルミナ、チタニア等の無機微粒子が塗布されたものを用いることもできる。
【0042】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。また、非水電解質は液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0043】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0044】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチル等の鎖状エーテル類などが挙げられる。
【0045】
上記ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステル等を用いることが好ましい。
【0046】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(P(C2O4)F4)、LiPF6-x(CnF2n+1)x(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li2B4O7、Li(B(C2O4)F2)等のホウ酸塩類、LiN(SO2CF3)2、LiN(ClF2l+1SO2)(CmF2m+1SO2){l,mは1以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPF6を用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、非水溶媒1L当り0.8~1.8molとすることが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
<実施例1>
[正極の作製]
リチウム含有化合物と、Ni、Co、Mnを含有する複合酸化物と、酸化ジルコニウムとを、目的とする混合比率で混合し、当該混合物を焼成することにより、組成式Li1.050Ni0.189Co0.567Mn0.189Zr0.005O2で表される層状リチウム金属複合酸化物を得た。正極活物質として、当該リチウム金属複合酸化物を用いる。当該リチウム金属複合酸化物は、一次粒子が凝集してなる二次粒子である。なお、正極活物質及び後述する負極活物質の組成は、ICP発光分光分析装置(Thermo Fisher Scientific社製iCAP6300)を用いて測定した。
【0049】
上記正極活物質と、活物質に対して7質量%のカーボンブラックと、活物質に対して2質量%のポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを混合し、当該混合物に分散媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加え、混合機(プライミクス株式会社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、正極合剤スラリーを調製した。次に、正極集電体であるアルミニウム箔上に正極合剤スラリーを塗布し、塗膜(正極合剤層)を乾燥させた後、正極合剤層の充填密度が2.2g/cm3となるように、正極合剤層を圧延ロールにより圧延して、アルミニウム箔の両面に正極合剤層が形成された正極を作製した。
【0050】
正極の作製において、導電材として使用したカーボンブラックの比表面積、その添加量、及び圧延条件を調整して、正極合剤層の単位体積当りに含まれるカーボンブラックの比表面積の合計を20.5m2/cm3とした。
【0051】
[負極の作製]
組成式Li4Ti5O12で表されるリチウムチタン複合酸化物と、カーボンブラックと、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、90:8:2の質量比で混合した。当該混合物にNMPを加え、混合機(プライミクス株式会社製、T.K.ハイビスミックス)を用いて攪拌し、負極合剤スラリーを調製した。次に、負極集電体であるアルミニウム箔上に負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、塗膜を圧延ローラにより圧延して、アルミニウム箔の両面に負極合剤層が形成された負極を作製した。
【0052】
[非水電解質の調製]
プロピレンカーボネート(PC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、25:35:40の体積比で混合した。当該混合溶媒に対して、LiPF6を1.2モル/Lの濃度となるように溶解させて、非水電解質を調製した。
【0053】
[電池の作製]
上記正極と上記負極を、ポリプロピレン製の微多孔膜からなるセパレータを介して渦巻き状に巻回した後、プレス成形して電極体を作製した。この電極体から突出した正負極の各非塗工部に封口体の集電体部を溶接して、電極体をアルミニウム製の電池ケースに収容し、電池ケース内に上記非水電解質を注入した。その後、電池ケースの開口部を封口して、
図1に示す角形の非水電解質二次電池(定格容量10Ah)を作製した。
【0054】
<実施例2>
正極の作製において、正極合剤層の充填密度が2.4g/cm3、単位体積当りに含まれる導電材の比表面積の合計が22.3m2/cm3(活物質に対して7質量%のカーボンブラックを添加)となるように、正極合剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。
【0055】
<実施例3>
正極の作製において、正極合剤層の充填密度が3.0g/cm3、単位体積当りに含まれる導電材の比表面積の合計が39.9m2/cm3(活物質に対して10質量%のカーボンブラックを添加)となるように、正極合剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。
【0056】
<比較例1>
正極の作製において、正極合剤層の充填密度が2.2g/cm3、単位体積当りに含まれる導電材の比表面積の合計が2.6m2/cm3となるように、正極合剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。
【0057】
<比較例2>
正極の作製において、正極合剤層の充填密度が2.4g/cm3、単位体積当りに含まれる導電材の比表面積の合計が4.9m2/cm3となるように、正極合剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。
【0058】
<比較例3>
正極の作製において、正極合剤層の充填密度が2.4g/cm3、単位体積当りに含まれる導電材の比表面積の合計が8.2m2/cm3となるように、正極合剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。
【0059】
<比較例4>
正極の作製において、正極合剤層の充填密度が3.0g/cm3、単位体積当りに含まれる導電材の比表面積の合計が14.3m2/cm3となるように、正極合剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。
【0060】
実施例及び比較例の各電池について、以下の方法で性能評価試験を実施した。評価結果は、表1に示した。
【0061】
[電池容量測定試験]
25℃の温度雰囲気で、各電池を、電流値10Aで電池電圧が2.65Vになるまで定電流充電した。15分間の休止後、電流値1100mAで電池電圧が1.5Vになるまで定電流放電を行い、このときの放電容量を電池容量とし、比較例1の値を基準(100)とする相対値として表1に示した。
【0062】
[ハイレート特性試験]
25℃の温度雰囲気で、各電池を、1Cの充電電流でSOC(充電深度)50%まで充電した。その後、5C放電→5C充電→10C放電→10C充電→15C放電→15C充電→20C放電→20C充電→25C放電→25C充電の順で充放電電流を増加させた。このとき、各ステップの間に15分間の休止期間を設け、30秒間の放電→15分間休止→30秒間充電→15分間休止の順で充放電を行った。そして、この放電が10秒経過した時点における電池電圧を放電電流に対してプロットし、最小二乗法にて求めた直線が1.5Vに達したときの電流値を出力値として算出した。その際の抵抗値を、比較例1の値を基準(100)とする相対値として表1に示した。
【0063】
【0064】
表1に示すように、実施例の電池はいずれも、比較例1,2の電池と比べて放電抵抗が低く、また比較例3,4の電池と比べて高容量であった。つまり、実施例の電池によれば、比較例の電池では実現困難な高容量と低抵抗を両立することができる。
【0065】
実施例1の電池では、正極合剤層の充填密度が低いにも関わらず、ハイレート放電抵抗が低く、電池容量とハイレート特性が両立されている。これは、合剤層における導電材比表面積の大幅増加により、活物質粒子間の通電経路が形成されたためと考えられる。実施例2の電池は、実施例1の場合より正極合剤層の充填密度が高くなっているにも関わらず、電池容量が低下しておらず、電池容量とハイレート特性が両立されている。これは、合剤層における導電材比表面積の大幅増加により、活物質粒子間の通電経路が形成されると共に、活物質粒子の表面近傍に電解液が導かれたためと考えられる。実施例3の電池では、実施例2の場合と同様に、電池容量とハイレート特性が両立されている。一方、実施例3の電池特性が実施例2の場合より良化しないのは、導電材の比表面積に起因する通電経路の形成効果、電解液の導入経路の形成効果が飽和する領域にあるためと考えられる。
【0066】
また、実施例1~3を用いて、正極合剤層の充填密度の変化と、抵抗の変化の関係を見ると、実施例1~3の電池では、いずれも、抵抗値の差が小さく安定していることがわかる。そして、正極合剤層の充填密度が2.2g/cm3である実施例1の電池と比べて、充填密度が2.4g/cm3以上である、実施例2、3の電池の抵抗値は、低抵抗でありながら、物性はほぼ同等である。そのため、実施例2、3の電池間における抵抗値の変動が極めて小さいと言える。このことから、充填密度が2.2g/cm3以上である合剤層のうち、充填密度が2.4g/cm3以上である正極合剤層は、電池間で多少の充填密度に差が生じたとしても、本開示の正極に用いられる合剤層として、特に優れた出力特性を安定的に発現できることがわかる。
【0067】
なお、比較例1,2の電池は、ハイレート放電時の抵抗が高い。これは、正極合剤層の充填密度が2.2及び2.4g/cm3と低く、導電材の比表面積も2.6及び4.9m2/cm3と低いため、活物質粒子間距離が離れて通電経路を確保できないためと考えられる。充填密度を2.4及び3.0g/cm3、導電材の比表面積を8.2及び14.3m2/cm3とした正極を備える比較例3,4の電池は、比較例1,2の場合よりも単位体積当りの導電材比表面積が増加することで、ハイレート放電時の抵抗低減は僅かに確認されるが、一方で、電池容量が低下している。これは、正極合剤層の充填密度が高くなることで、合剤層に導入される電解液量が減少したためと考えられる。
【符号の説明】
【0068】
10 非水電解質二次電池、11 電池ケース、12 ケース本体、13 封口板、14 電極体、15 正極、16 負極、17 セパレータ、18 正極端子、19 負極端子、20 正極集電体、21 正極合剤層、22 リチウム金属複合酸化物、23 導電材