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特許7011433遮熱膜を有するエンジン構成部材及び該エンジン構成部材の製造方法。
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  • 特許-遮熱膜を有するエンジン構成部材及び該エンジン構成部材の製造方法。 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】遮熱膜を有するエンジン構成部材及び該エンジン構成部材の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/10 20060101AFI20220203BHJP
   F02F 1/00 20060101ALI20220203BHJP
   F02F 1/24 20060101ALI20220203BHJP
   F01L 3/02 20060101ALI20220203BHJP
   F02B 77/11 20060101ALI20220203BHJP
   F16J 1/01 20060101ALI20220203BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20220203BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20220203BHJP
   C23C 2/34 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
F02F3/10 B
F02F1/00 G
F02F1/24 M
F01L3/02 J
F02B77/11 A
F02B77/11 D
F16J1/01
C23C2/06
C23C2/26
C23C2/34
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017187462
(22)【出願日】2017-09-28
(65)【公開番号】P2019060317
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】津田 雄史
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 容始久
【審査官】菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-110518(JP,A)
【文献】特開平07-083109(JP,A)
【文献】特開2015-175285(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0234216(US,A1)
【文献】特開2009-293086(JP,A)
【文献】特表2014-527135(JP,A)
【文献】特開平08-277455(JP,A)
【文献】特開2014-040820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00,3/00
F01L 3/02
F02B 77/11
F16J 1/01
C23C 2/06,2/26,2/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン燃焼室を構成する壁面に遮熱膜を有するエンジン構成部材において、
前記遮熱膜は、シリコン系の無機中空微粒子を含有する、融点が300℃以上かつ600℃以下の溶融めっきの層を含み、
前記溶融めっきの層は、アルミニウム合金で形成された前記エンジン構成部材の壁面に隣接する第1層と、該第1層に隣接する第2層とを有し、
前記第2層は、前記第1層よりも前記無機中空微粒子の含有量が多いことを特徴とするエンジン構成部材。
【請求項2】
前記溶融めっきの層は、前記第2層に隣接する第3層を有し、
前記第3層は、前記第2層よりも前記無機中空微粒子の含有量が少ないことを特徴とする請求項1に記載のエンジン構成部材。
【請求項3】
エンジン燃焼室を構成する壁面に遮熱膜を有するエンジン構成部材の製造方法であって、
シリコン系の無機中空微粒子を含有した、融点が300℃以上かつ600℃以下の溶融めっきの層を前記エンジン構成部の前記壁面に形成する工程を含み、
前記溶融めっきの層を形成する工程は、
融点が300℃以上かつ600℃以下の溶融金属を入れた槽に前記エンジン構成部材を浸す浸漬工程と、
前記浸漬工程により前記エンジン構成部材の壁面に形成された非硬化状態の溶融めっきに、前記無機中空微粒子を付着させる中空微粒子付着工程と、
を含むことを特徴とするエンジン構成部材の製造方法。
【請求項4】
前記中空微粒子付着工程の後に、さらに前記浸漬工程を行うことを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
エンジン燃焼室を構成する壁面に遮熱膜を有するエンジン構成部材の製造方法であって、
シリコン系の無機中空微粒子を含有した、融点が300℃以上かつ600℃以下の溶融めっきの層を前記エンジン構成部の前記壁面に形成する工程を含み、
前記溶融めっきの層は、
前記無機中空微粒子を600℃以下かつ前記無機中空微粒子の軟化温度よりも低い温度の溶融金属に混合した混合液に、前記エンジン構成部材の壁面を浸漬して形成されることを特徴とするエンジン構成部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮熱膜を有するエンジン構成部材及び該エンジン構成部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両のエンジンで、燃料が発生させる熱エネルギーによる仕事効率を向上させるために、エンジンにおける冷却損失を改善する対策がなされている。
【0003】
冷却損失を改善するための対策の一つとして、エンジンの燃焼室の壁面に、セラミックスからなる遮熱膜を形成するものが知られている。セラミックスは、一般に車両部材として用いられるアルミニウム等に比べて熱伝導率が低く、耐熱性を有することから、燃焼室の壁面を遮熱化する効果がある。
【0004】
しかしながら、セラミックスは一般に単位質量あたりの熱容量が高い(すなわち、高比熱である)ことから、セラミックスの遮熱膜を有するエンジンにおいては、エンジンの継続稼働により、定常的に燃焼室の壁面温度が上昇する。その結果、エンジンの吸気効率が低下したり、燃料室内の温度上昇による異常燃焼によりノッキングが発生したりするという問題がある。
【0005】
この問題を解消するために、遮熱膜は、耐熱性があり、低熱伝導率であって、さらに単位質量あたりの熱容量が低い(すなわち、低比熱である)ことを要する。低熱伝導率かつ低比熱である最適な材料としては空気を挙げることができる。空気を遮熱膜に取り込む構造として、例えば、特許文献1には、エンジン燃焼室を構成するエンジン構成部品の壁面に、遮熱膜として、アルミニウムから成長する陽極酸化被膜であるアルマイト皮膜を形成したものが記載されている。
【0006】
アルマイト皮膜は、膜厚方向に延びる多数の孔を有しており、特許文献1に記載のエンジン構成部品は、アルマイト皮膜と、アルマイト皮膜に積層されてアルマイト皮膜の孔の上面を封止する封孔材層とからなる遮熱膜を有している。また、封孔材として、耐熱性を有するシリカを主成分とするポリシラザンやポリシロキサンを用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-96634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の遮熱膜においては、アルマイト皮膜に形成された孔の内部に保有された空気により、低熱伝導率かつ低比熱を実現できるとともに、封孔材層によって、平均温度が最大で300℃近くなる高温のエンジン燃焼室に対し、耐熱性を確保することができる。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の遮熱膜では、アルマイト皮膜に形成された多数の孔によって、遮熱膜の機械的な強度が低下してしまうという問題がある。
【0010】
エンジンの燃焼室内は、高温かつ高圧になることから、高圧状態に耐え得る高い機械的強度が必要となる。しかしながら、アルマイト皮膜は、膜厚方向に柱状に延びる多数の孔により機械的強度が脆いものとなり、シリカからなる封止材層による補強のみでは、長期使用においても十分に耐え得る程の高い機械的強度を確保することは困難であった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、低熱伝導率かつ低比熱であるとともに、耐熱性と機械的強度に優れた遮熱膜を有するエンジン構成部材及び該エンジン構成部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、エンジン燃焼室を構成する壁面に遮熱膜を有するエンジン構成部材において、前記遮熱膜は、シリコン系の無機中空微粒子を含有する、融点が300℃以上かつ600℃以下の溶融めっきの層を含み、前記溶融めっきの層は、アルミニウム合金で形成された前記エンジン構成部材の壁面に隣接する第1層と、該第1層に隣接する第2層とを有し、前記第2層は、前記第1層よりも前記無機中空微粒子の含有量が多いことを特徴とする。
また、本発明の一実施形態は、前記エンジン構成部材において、前記溶融めっきの層は、前記第2層に隣接する第3層を有し、前記第3層は、前記第2層よりも前記無機中空微粒子の含有量が少ないことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、溶融めっきの層において無機中空微粒子の内部空洞に保持された空気により、遮熱膜を熱伝導率が低く、かつ熱容量が低いものとすることができ、これによりエンジンにおける冷却損失を低減することができる。
【0014】
また、遮熱膜が溶融めっきで構成されているので、アルマイト皮膜やシリカによる封孔材に比べて、十分に高い機械的強度を発揮することができる。また、遮熱膜を形成している溶融めっきの融点は300℃以上であって、エンジン燃焼室の平均温度の最大値よりも高いので、エンジンを稼働した際の耐熱性を確保することができる。
【0015】
また、上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、エンジン燃焼室を構成する壁面に遮熱膜を有するエンジン構成部材の製造方法であって、シリコン系の無機中空微粒子を含有した、融点が300℃以上かつ600℃以下の溶融めっきの層を前記エンジン構成部の前記壁面に形成する工程を含み、前記溶融めっきの層を形成する工程は、融点が300℃以上かつ600℃以下の溶融金属を入れた槽に前記エンジン構成部材を浸す浸漬工程と、前記浸漬工程により前記エンジン構成部材の壁面に形成された非硬化状態の溶融めっきに、前記無機中空微粒子を付着させる中空微粒子付着工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、シリコン系の無機中空微粒子は、一般に軟化温度が600℃よりも高い温度であって、溶融めっきの融点(300℃~600℃)よりも高いので、無機中空微粒子を軟化させることなく溶融金属に含有させて、溶融めっきの層を形成することができる。この溶融めっきの層で構成された遮熱膜は、無機中空微粒子内の空気により、熱伝導率が低く、かつ熱容量が低いものとなるので、エンジンの冷却損失を低減することができる。
【0017】
また、溶融めっきは、物性上、酸化皮膜であるアルマイト皮膜やシリカによる封孔材に比べて、十分に高い機械的強度を発揮することができるので、機械的強度に優れた遮熱膜とすることができる。また、遮熱膜を形成する溶融めっきは、融点が300℃以上であってエンジン燃焼室の平均温度の最大値よりも高いので、エンジンを稼働した際の耐熱性を確保することができる。
【0019】
また、この構成によれば、溶融金属を入れた槽にエンジン構成部材を浸す、所謂ドブ付けを行った後に、無機中空微粒子を付着させる簡易な方法で、耐熱性と機械的強度に優れた遮熱膜を形成することができる。
【0020】
また、本発明の一実施形態は、前記製造方法において、前記中空微粒子付着工程の後に、さらに前記浸漬工程を行うことを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、中空微粒子付着工程の後に、さらに溶融めっきをドブ付けして、無機中空微粒子の表面を溶融めっきでコーティングすることができるので、遮熱膜の機械的強度をより向上することができる。
【0022】
また、本発明の一実施形態は、エンジン燃焼室を構成する壁面に遮熱膜を有するエンジン構成部材の製造方法であって、シリコン系の無機中空微粒子を含有した、融点が300℃以上かつ600℃以下の溶融めっきの層を前記エンジン構成部材の前記壁面に形成する工程を含み、前記溶融めっきの層は、前記無機中空微粒子を600℃以下かつ前記無機中空微粒子の軟化温度よりも低い温度の溶融金属に混合した混合液に、前記エンジン構成部の壁面を浸漬して形成されることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、600℃以下の溶融金属にシリコン系無機中空微粒子を混合して、この混合液をエンジン構成部材に塗布する簡易な方法で、耐熱性と機械的強度に優れた遮熱膜を形成することができる。
【0024】
また、本発明の一実施形態は、前記製造方法において、前記溶融めっきは、溶融亜鉛めっきであることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、めっきとして一般に用いられている溶融亜鉛めっきを使用することで、製造コストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、エンジン構成部材に形成された遮熱膜がシリコン系の無機中空微粒子を含有した溶融めっきの層からなるので、無機中級粒子が保有する空気により、遮熱膜を低熱伝導率かつ低比熱とすることができるとともに、溶融めっきにより、遮熱膜の耐熱性と機械的強度とを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る遮熱膜を有するエンジン構成部材を用いたエンジン燃焼室構造を示す模式図。
図2】ピストンの壁面に形成された遮熱膜を示す断面図。
図3】遮熱膜の形成方法を説明する図であって、(a)は浸漬工程を示し、(b)は中空微粒子付着工程を示す。
図4】中空微粒子付着工程の他の例を示す説明図
図5】遮熱膜の形成方法の別の例を示す説明図。
図6】第2の実施の形態に係る遮熱膜を有するエンジン構成部材を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1の実施の形態)
本発明に係る遮熱膜を有するエンジン構成部材について詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係る遮熱膜を有するエンジン構成部材を用いたエンジン燃焼室構造1を示す模式図であり、図2は、エンジン構成部材であるピストン14の壁面に形成された遮熱膜30を示す断面図である。図1のエンジン燃焼室構造1は、自動車等の車両のエンジンに適用される。
【0029】
エンジン燃焼室構造1は、エンジン燃焼室2を構成するエンジン構成部材である、シリンダブロック12、シリンダヘッド13、ピストン14、点火プラグ16、吸気バルブ17、及び排気バルブ18を備える。
【0030】
シリンダブロック12は、エンジン燃焼室2を形成する円筒状のシリンダ11を有する。ピストン14は、略円柱状であって、シリンダ12の内部を摺動して往復移動可能に構成されている。
【0031】
シリンダヘッド13は、シリンダブロック12の上面を覆っており、シリンダ11の上面を覆う燃焼室天井部13aを有する。点火プラグ16、吸気バルブ17及び排気バルブ18は、シリンダヘッド13に取り付けられる。
【0032】
点火プラグ16は、端部に着火部となる電極部を有しており、この端部が燃焼室天井部13aからエンジン燃焼室2内へ突出するように取り付けられる。吸気バルブ17は、シリンダヘッド13に形成された吸気路13bを開閉可能に構成され、排気バルブ18は、シリンダヘッド13に形成された排気路13cを開閉可能に構成される。
【0033】
このエンジン燃焼室構造1では、シリンダ11、シリンダヘッド13の燃焼室天井部13a、ピストン14によって囲まれたエンジン燃焼室2に、吸気バルブ17の開弁により燃料が混合された混合ガスが供給され、点火プラグ16によって点火されることにより、燃焼される。この燃焼により、ピストン14が押し下げられる。燃焼により発生した排気ガスは、排気バルブ18が開弁されることによりエンジン燃焼室2外へ排気される。
【0034】
本実施の形態において、ピストン14、シリンダブロック12、シリンダヘッド13、吸気バルブ17及び排気バルブ18には、エンジン燃焼室2を構成する壁面に、断熱性の遮熱膜30を有している。具体的には、ピストン14の上面14aと、シリンダヘッド13の燃焼室天井部13aと、吸気バルブ17及び排気バルブ18のバルブヘッド17a,18aのエンジン燃焼室2側の表面とに、遮熱膜30が形成されている。なお、図示していないが、さらに、シリンダ11の内壁面11aに遮熱膜30を形成してもよい。
【0035】
図2は、ピストン14の壁面である上面14aに形成された遮熱膜30を示す断面図である。この遮熱膜30は、無機材料で形成された中空の微粒子(以下、無機中空微粒子という)40を含有する、融点が300℃以上かつ600℃以下の溶融めっきの層31からなる。
【0036】
遮熱膜30の膜厚(すなわち、溶融めっきの層31の膜厚)は、約20~300μmであって、好ましくは約50~200μmである。溶融めっきの層31の気孔率は、多量の空気を保有しつつ強度を維持する観点から、約20~85%の範囲であることが好ましく、より好ましくは約30~80%である。
【0037】
溶融めっきの層31を構成する溶融めっき50としては、例えば、融点が419.5℃である亜鉛を材料とした溶融亜鉛めっきを用いることができる。なお、溶融めっき50を構成する金属材料はこれに限られず、融点が300℃以上かつ600℃以下のものであればよい。また、単一金属めっきに限られず、合金めっきであってもよい。
【0038】
無機中空微粒子40は、マイクロレベル及び/又はナノレベルの大きさを有し、シリコン系の無機材料(例えば、シリカ等のガラス材料)によって構成され、600℃程度の耐熱性を有する。無機中空微粒子40の大きさは、好ましくは直径が約5~40μmであり、より好ましくは直径が約16~20μmであって殻厚が約0.5~2μmである。
【0039】
なお、エンジン構成部材であるピストン14は金属材料で形成されており、本実施の形態では、溶融温度が600℃よりも高いアルミニウム合金で形成されている。
【0040】
なお、図示例では、無機中空微粒子40が球状のものを示しているが、形状はこれに限られず、中空であって内部に空気を保有できる形状であればよい。また、溶融めっきの層31は、大きさの異なる無機中空微粒子40が混在した構造であってもよい。
【0041】
次に、上述した遮熱膜30を有するエンジン構成部材の製造方法について説明する。ここでは、製造方法の一例として、エンジン構成部材であるピストン14の上面14aに溶融亜鉛めっきからなる遮熱膜30を形成する方法を説明する。なお、シリンダブロック12、シリンダヘッド13、吸気バルブ17及び排気バルブ18についても、以下に説明する方法と同様の方法により壁面に遮熱膜30を形成することができる。
【0042】
図3(a)に示すように、溶融した亜鉛(溶融金属)52を入れた溶融金属槽60に、ピストン14の上面14aを浸す(浸漬工程)。
【0043】
次に、図3(b)に示すように、浸漬工程によりピストン14の上面14aに形成された溶融めっき50に無機中空微粒子40を付着させる(中空微粒子付着工程)。無機中空微粒子40の付着は、例えば、図示していない吹付装置により、無機中空微粒子40をエアによって溶融めっき50が形成されたピストン上面14aに向かって吹き付けることにより行うことができる。
【0044】
中空微粒子付着工程において、無機中空微粒子40は、溶融めっき50に対する吹付け速度を適宜設定することにより、球状の無機中空微粒子40の少なくとも一部が溶融めっき50の内部に埋没するようすることができる。なお、無機中空微粒子40は非硬化状態にある溶融めっき50に対して吹き付けられる。これにより、無機中空微粒子40が溶融めっき50の内部に埋め込むことができる。無機中空微粒子40は、軟化温度が600℃よりも高いため、無機中空微粒子40の軟化を防止しながら、温度が600℃以下にある非硬化状態の溶融めっき50に埋没させることができる。
【0045】
無機中空微粒子40は、溶融めっき50が硬化することによりピストン14の上面14aに固定される。これにより、ピストン上面14aに無機中空微粒子40を含有した遮熱膜30を形成することができる。なお、無機中空微粒子40は、ピストン上面14aに対する単位面積当たりの吹付け時間や吹付速度等が一定になるように吹付を適宜設定することで、上面14aにほぼ均一に付着・固定させることができる。
【0046】
図4は、中空微粒子付着工程の他の例を示す説明図である。この例では、浸漬工程の後、ピストン14において非硬化状態にある溶融めっき50が形成された部分を無機中空微粒子40の集合体である粉体42が入った容器62に挿入して、溶融めっき50に無機中空微粒子40を付着させる。その後、溶融めっき50を硬化させることにより、溶融めっき50を介して無機中空微粒子40がピストン上面14aに付着・固定され、遮熱膜30が形成される。
【0047】
上述した製造方法により製造されたエンジン構成部材、すなわち、ピストン14、シリンダブロック12、シリンダヘッド13、吸気バルブ17及び排気バルブ18は、溶融めっきの層31において無機中空微粒子40の内部空洞に保持された空気により、熱伝導率が低く、かつ熱容量が低い遮熱膜30を有しているので、エンジン燃焼室に用いられた際に、エンジンの冷却損失を低減することができる。この遮熱膜30は、溶融めっき50で構成されているので、アルマイト皮膜(多孔質アルマイト被膜)やシリカによる封孔材に比べて、十分に高い機械的強度を発揮することができる。また、溶融めっき50の融点は300℃以上であって、エンジン燃焼室の平均温度の最大値よりも高いので、耐熱性を確保することができる。
【0048】
また、上述した製造方法では、溶融した亜鉛を入れた溶融金属槽60にエンジン構成部材を浸す、所謂ドブ付けを行った後に、無機中空微粒子40を溶融めっきに付着させる簡易な方法で、耐熱性と機械的強度に優れた遮熱膜を形成することができる。
【0049】
なお、本実施の形態では、ピストン14の上面14aの全域に遮熱膜30を形成しているが、遮熱膜30は上面14aの一部領域にのみ形成されてもよい。また、図2に示す例では、溶融めっきの層31の中に無機中空微粒子40がほぼ均一に分散しているが、溶融めっきの層31の内表面側(すなわち、ピストン上面14a側)または外表面側に無機中空微粒子40が多く含有されるように形成してもよい。例えば、図4に示す中空微粒子付着工程を経たものでは、溶融めっきの層31の外表面側の方が内表面側よりも無機中空微粒子40の含有量が多くなる。また、図3(b)に示す中空微粒子付着工程において、無機中空微粒子40の吹付け速度をコントロールすることにより、溶融めっき50に対する無機中空微粒子40の埋込深さをコントロールしてもよい。
【0050】
図5は、遮熱膜30の形成方法の別の例を示す説明図である。
【0051】
図5に示す方法では、槽60に入った溶融金属(ここでは、溶融亜鉛)に、無機中空微粒子40からなる粉体を入れた混合液に、エンジン構成部材であるピストン14の上面14aを浸漬して、ピストン上面14aに混合液を塗布している。槽60の中の溶融金属の温度は、無機中空微粒子40の軟化温度よりも低く設定されている。塗布された混合液を硬化させることにより、ピストン上面14aに遮熱膜30を形成することができる。
【0052】
(第2の実施の形態)
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る遮熱膜30を有するエンジン構成部材を示す、図2と同様の断面図である。なお、図6において、上述した実施の形態と同様の要素には、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0053】
本実施の形態において、遮熱膜30を構成する溶融めっきの層31は、無機中空微粒子40の含有量が異なる複数の層からなる。図示例では、溶融めっきの層31が3つの層からなり、無機中空体微粒子40の含有量少ない第1層33及び第3層35と、第1層33と第3層35との間に形成された、無機中空体微粒子40の含有量が多い第2層34とを有する。なお、遮熱膜30において、第2層34の層厚は、第1層33及び第3層35のそれぞれの層厚よりも大きいことが好ましい。
【0054】
図6に示す遮熱膜30は、以下の方法によって形成される。
【0055】
まず、ピストン14の上面14aに対し、図3(a)に示す浸漬工程(以下、第1の浸漬工程という)を行う。その後、図3(b)または図4に示す中空微粒子付着工程を行う。この中空微粒子付着工程において、無機中空微粒子40は、溶融めっき50の表面側に多く付着されるように、付着がコントロールされる。
【0056】
中空微粒子付着工程の後、さらに、溶融亜鉛52を入れた溶融金属槽60に、ピストン上面14aを浸す第2の浸漬工程を行う。なお、第2の浸漬工程は、中空微粒子付着工程において、無機中空微粒子40が付着した溶融めっき50を硬化させた後に行うことが好ましい。
【0057】
本実施の形態の遮熱膜30を有するエンジン構成部材では、第1の浸漬工程及び中空微粒子付着工程の後に、さらに第2の浸漬工程を行うことにより、無機中空微粒子の表面を溶融めっきでコーティングすることができるので、遮熱膜30の機械的強度をより向上することができる。また、第2層34において、無機中空微粒子40を密集させることにより、低熱伝導率性および低熱容量性に優れた遮熱膜30とすることができる。
【0058】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、遮熱膜30は、第1の実施の形態で示した浸漬工程と中空微粒子付着工程とを複数回繰り返して形成してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 エンジン燃焼室構造
11 シリンダ
12 シリンダブロック
13 シリンダヘッド
14 ピストン
14a ピストン上面
17 吸気バルブ
18 排気バルブ
30 遮熱膜
31 溶融めっきの層
40 無機中空微粒子
50 溶融めっき
図1
図2
図3
図4
図5
図6