(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 25/02 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
B43K25/02 120
(21)【出願番号】P 2017252947
(22)【出願日】2017-12-28
【審査請求日】2020-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅也
【審査官】富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】実公昭45-011292(JP,Y1)
【文献】実公昭10-006128(JP,Y1)
【文献】特開2008-137188(JP,A)
【文献】実開平01-153988(JP,U)
【文献】特開2017-140707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 25/00-25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、前記軸筒の後端部に取り付けられた天冠と、前記天冠の支軸により前記軸筒の側面に取り付けられたクリップと、前記天冠の支軸にねじ込まれて前記クリップの基端部に当接することで、クリップの基端部を軸筒に固定するスリーブナットとが具備され、
前記クリップの基端部には、前記天冠の支軸を挿通する貫通孔が形成されると共に、前記貫通孔には直線状の縁部が形成され、直線状の前記縁部に向って前記天冠の支軸に形成された面そぎ部が位置することで、前記貫通孔に挿通された天冠の支軸の軸回転を阻止し
、
前記軸筒の後端部に取り付けられた天冠には、当該天冠を囲むようにしてリング状の天冠飾りが取り付けられていると共に、前記軸筒の後端部には、軸に直交するように折り曲げ端面が形成されると共に、
前記折り曲げ端面には直線状の開口縁部を有する非円形の開口が形成され、
前記直線状の開口縁部に向って前記天冠飾りに形成された面そぎ部が位置することで、前記非円形の開口に挿入された天冠飾りの軸回転を阻止可能に構成し、
前記軸筒の内側に位置する前記天冠飾りの雄ねじに対して、飾り止めナットを締結したことを特徴とする筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸筒の後部に配置されるクリップならびに天冠の取り付け構造に改良を加えた筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
筆記具における軸筒の後部には、一般にクリップが配置されており、このような筆記具においては、クリップの基端部が例えば天冠によって軸筒の後端部に取り付けられた構造が採用されている。
特許文献1ないし3には、クリップの基端部がリング状に成形されて、リング状の基端部が軸筒の後端部に対して、天冠がねじ込みもしくは嵌め込まれることにより取り付けた構成が採用されている。
そして、クリップの基端部が接する軸筒の一部には、切欠きもしくは突起が施されて、クリップの一部が前記切欠きもしくは突起に係合することで、クリップが軸筒に対して自由に回動しないようにした回り止め機構も採用されている。
【0003】
一方、特許文献4には、軸筒の後端部側の周側面にスリット状の開口が施され、このスリット状の開口にL字状に形成されたクリップの基端部を挿入して、軸筒内においてクリップを取り付けた構成が開示されている。
すなわち、クリップの基端部には貫通孔が施され、軸筒内において前記貫通孔に挿通するねじが、軸筒の後端部に嵌め込まれた天冠の裏側に対してねじ込まれることで、クリップが取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭57-39283号公報
【文献】実開平7-40191号公報
【文献】実開平7-23592号号公報
【文献】実公昭10-6128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、昨今におけるこの種の筆記具においては、高級志向の商品が提供されており、このような商品においては例えば記念品として採用される場合も少なくない。
このような記念の品においては、軸筒にネームや名称などが施される場合があり、例えばクリップが塑性変形により開いてしまった場合や、落下により天冠等に傷を付けた場合などには、軸筒を残して必要な部品を交換する修理依頼を受ける場合も多い。
したがって、前記した商品の提供側においては、その一部を交換するような修理に備えて、容易に分解および組み立てが可能となる配慮をすることが必要となる。
【0006】
ところで、前記した特許文献1~4に開示された筆記具においては、軸筒に対して天冠を嵌め込み、もしくはねじ込みにより取り付け、軸筒と天冠の間にクリップの基端部を挟み込むことにより、もしくは天冠の裏側にクリップの基端部をねじにより取り付けることにより、クリップを装着した構成が採用されている。
この場合、例えばユーザーにおいて、軸筒から天冠を容易に取り外すことが可能である場合には、部品を紛失する問題を避けるために、商品の提供側において、その取り付けに接着剤を併用する場合が多い。このような場合には、一部の部品の交換修理は不可能になる場合があり、また接着を外すために、その作業に時間を要する場合も生ずる。
【0007】
そこでこの発明は、特に軸筒に対するクリップおよび天冠の取り付け取り外しを容易に行なうことを可能にした筆記具を提供しようとするものである。
加えて、天冠などの円柱状の部品の取り付けおよび取り外し作業に際して、これが空回りする等して、作業に障害をもたらすことがなく、天冠を利用して十分な締結がなされることで、クリップ等の確実な固定状態を実現することができる筆記具を提供することを主要な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するためになされたこの発明に係る筆記具は、軸筒と、前記軸筒の後端部に取り付けられた天冠と、前記天冠の支軸により前記軸筒の側面に取り付けられたクリップと、前記天冠の支軸にねじ込まれて前記クリップの基端部に当接することで、クリップの基端部を軸筒に固定するスリーブナットとが具備され、前記クリップの基端部には、前記天冠の支軸を挿通する貫通孔が形成されると共に、前記貫通孔には直線状の縁部が形成され、直線状の前記縁部に向って前記天冠の支軸に形成された面そぎ部が位置することで、前記貫通孔に挿通された天冠の支軸の軸回転を阻止したことを特徴とする。
【0009】
この場合、好ましくは前記軸筒の側面には、スリット状の開口が形成され、当該開口に前記クリップの基端部が挿入されて、前記クリップが軸筒の側面に取り付けられた構成が採用される。
また、前記軸筒の後端部に取り付けられた天冠には、当該天冠を囲むようにしてリング状の天冠飾りが取り付けられた構成が採用される。
【0010】
さらに好ましい一つの形態においては、前記軸筒の後端部には、軸に直交するように折り曲げ端面が形成されると共に、前記折り曲げ端面には直線状の開口縁部を有する非円形の開口が形成され、前記直線状の開口縁部に向って前記天冠飾りに形成された面そぎ部が位置することで、前記非円形の開口に挿入された天冠飾りの軸回転を阻止可能に構成し、前記軸筒の内側に位置する前記天冠飾りの雄ねじに対して、飾り止めナットを締結した構成が採用される。
【0011】
そして、前記飾り止めナットとスリーブナットとの間に、前記クリップの基端部が挟み込まれて締結されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
前記したこの発明に係る筆記具によると、クリップの基端部に形成された貫通孔には、直線状の縁部が形成され、この縁部に向って天冠の支軸に形成された面そぎ部が位置して、天冠は回り止めされる。したがって、クリップの基端部を固定するスリーブナットのねじ込み操作を円滑になし得ることができる。これは部品の交換等に際して、スリーブナットを取り外す際にも同様に円滑に操作することが可能となる。
【0013】
一方、軸筒の後端部における折り曲げ端面に形成された開口には、直線状の開口縁部が形成されて、この縁部に向って天冠飾りに形成された面そぎ部が位置することで、天冠飾りは回り止めされる。したがって、天冠飾りを軸筒の後端部に固定する飾り止めナットの締結操作も円滑になし得ることができ、飾り止めナットの取り外しに際しても、同様に円滑に操作することができる。
【0014】
そして、軸筒後端部における折り曲げ端面に、天冠飾りと共に締結された飾り止めナットを台にして、前記クリップの基端部を、スリーブナットによって挟み込むようにして締結するので、クリップを強固にして確実に固定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明に係る繰出し式筆記具の全体構成を示し、(A)は正面図、(B)は中央断面図である。
【
図2A】筆記リフィールの外観構成を示した斜視図である。
【
図3】
図1に示す筆記具後端部を拡大した断面図である。
【
図4】
図1に示す筆記具前端部を拡大した断面図である。
【
図5A】戻しスプリングの第1の例を示した一部端面図である。
【
図5B】戻しスプリングの第2の例を示した一部端面図である。
【
図6】
図1に示す筆記具後端部を一部破断して示した斜視図である。
【
図9】天冠飾りを示しており、(A)は斜視図、(B)は視点を変えた斜視図、(C)は中央断面図、(D)は底面図である。
【
図10】飾り止めナットを示しており、(A)は斜視図、(B)は視点を変えた斜視図、(C)は中央断面図、(D)は底面図である。
【
図12B】スリーブナットの視点を変えた斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明に係る繰出し式筆記具について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
なお、以下に示す各図においては、同一部分を同一符号で示しているが、一部の図面においては紙面の都合で代表的な部分に符号を付けて、その詳細な構成については、その他の図面に付けた符号を引用して説明することもある。
図1(A)および
図1(B)は、繰出し式筆記具の全体構成を示しており、この繰出し式筆記具は、外径がほぼ同一になされた円筒状の前軸1Aと後軸1Bとにより軸筒1を構成している。そして、後で説明するように前軸1Aに対して後軸1Bが相対回転されることで、軸筒前端部の口先部から筆記部が出没される回転繰出し式筆記具を構成している。
【0017】
前軸1Aの前端部には、先端内周面に雌ねじが、後端外周面に雄ねじが施された円筒状の連結体2が取り付けられており、この連結体2を介して、先端部側に金属製の口先部(口金)3が取り付けられると共に、口先部3と前軸1Aとの間に加飾筒体4が取り付けられている。
そして、円錐状に成形された前記口先部3の先端部には開口3aが形成されており、この開口3aから軸筒1内に収容された筆記リフィール5の先端筆記部5aが出没されるように構成されている。
【0018】
この例に示す繰出し式筆記具には、筆記リフィール5の先端筆記部5aから、摩擦部材等からの熱を加えることで、筆跡を変色させることが可能な熱変色性インクが塗出される。なお、この例に示す繰出し式筆記具は、筆記具外面に熱可塑性エラストマー等のゴム弾性材料からなる摩擦部材を軸筒外面に備えないことで、長期間の使用でも軸筒外面に汚れの目立ちにくい熱変色性筆記具を提供することができる。
なお、この筆記リフィール5としては、先端筆記部5aに例えばボールペンチップを備えたボールペンリフィールや、マーキングペン芯等のその他の筆記チップを備えたリフィールを用いることができることは当然である。
【0019】
ここで、熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば60℃)まで昇温させると、別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば-5℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へ復帰する性質を有するインクを言う。熱変色性インクを用いた筆記具においては、前記第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を、前記摩擦により昇温させて無色とすることで、実質的に描線を消去することができる。なお、前記第2色は当然ながら無色以外の有色にすることも可能である。
【0020】
この筆記リフィール5は、
図2Aおよび
図2Bに示されているように、先端筆記部5aを支持する金属管5Aと、この金属管5Aの後端部に取り付けられた樹脂製の栓体5Bを備えている。なお、金属管5Aは、筆記リフィール5がボールペンリフィールである場合には、インク収容管になされる。
そして、金属管5Aの先端部分が、前記先端筆記部5aとほぼ同一の外径寸法となるように細く成形されて細径部5bを構成しており、前記細径部5bから径を太くするテーパー部5cを介して本体の大径部5dに連続するように一体成形されている。
【0021】
一方、金属管5Aの後端部を塞ぐ栓体5Bには、円環状に配列された複数のカム面や軸方向に沿う溝部等が形成されており、このカム面5e等は、例えばノック式の繰出し式筆記具に装着した場合において、筆記リフィール5の所定角度の回転ごとに、筆記リフィール5が前進および後退した状態にロックされるように作用する。
【0022】
一方、
図4に筆記具先端部を拡大断面図で示したように、前記した筆記部5aは、その先端部にテーパー面5a1が形成されている。また、筆記部5aの後端部には、その中央部に対して若干径を細くして取り付け部5a2が形成されており、この取り付け部5a2が金属管5Aの細径部5bに嵌合により取り付けられている。
そして、先端筆記部5aに形成されたテーパー面5a1の軸を中央にした角度をα1、前記口先部3の開口3aにおける軸を中央にした内面角度をα2としたとき、α1>α2となる関係に設定されている。
なお、図に示す例においては、α1=35度、α2=10度である。
【0023】
前記筆記リフィール5として、例えばボールペンリフィールを例にした場合、先端筆記部5aとしてのボールペンチップは金属素材により成形される例が多く、この場合、テーパー面5a1が、旋盤等の加工機により切削加工された場合には、テーパー面5a1に円周状の切削痕であるひき目が残される。
これにより、先端筆記部5aが口先部3の開口3aから繰出される際に、先端筆記部5aのテーパー面5a1に残された前記ひき目が、口先部3の開口3a内面に擦れることで、不快な摺接音が発生するところ、前記したα1とα2の関係に設定することで、不快な摺接音の発生を効果的に防止することができるものとなる。
【0024】
一方、前記筆記リフィール5の細径部5bには、コイル状の戻しスプリング6が装着されている。この戻しスプリング6の前端部は、
図4に示すように口先部3の内面に、内径を段状に縮小させることで形成された環状の当接部3bに当接しており、スプリング6の後端部は、
図1に示すようにリフィール5の金属管5Aにおけるテーパー部5cに接した状態で配置されている。これにより、戻しスプリング6は、筆記リフィール5を軸筒1内の後方に向って付勢している。
【0025】
図5Aおよび
図5Bは、前記した戻しスプリング6の好ましい第1と第2の形態を、その中腹部を端面図で示している。
先ず、
図5Aに示す戻しスプリング6の第1の形態においては、スプリング6の前端部側(図の左側)および後端部側(図の右側)は、中腹部に対してコイルピッチが密着する程度に狭く形成されている。そして後端部側は、外径が順次拡大する拡径部6aになされており、この後端部側の拡径部6aが前記筆記リフィール5の金属管5Aにおけるテーパー部5cに接することにより、筆記リフィール5と戻しスプリング6との軸心が一致するように構成されている。
【0026】
そして、戻しスプリング6の前端部側は、口先部3の環状の当接部3b(
図4)に当接することで、前記したとおり筆記リフィール5を軸筒1内の後方に向って付勢している。
また、
図5Aに示す戻しスプリング6における前端部側の径をD1としたとき、スプリング6の中腹部には、前記径D1よりも径の小さなくびれ部6b1が形成されており、このくびれ部6b1の前後には、前記径D1にほぼ等しい径を有する領域6c1,6c2がそれぞれ形成されている。
すなわち、前記くびれ部6b1は、戻しスプリング6において外径が最小径となるように成形されており、後端部側の拡径部6aの外径が最大径に成形されている。
【0027】
また、
図5Bに示す戻しスプリング6の第2の形態においては、スプリング6の前端部側(図の左側)および後端部側(図の右側)の構成は、
図5Aに示した第1の形態と同様であり、その説明は省略する。
この第2の形態の戻しスプリング6においては、その中腹部の前後に、前端部側の径D1よりも若干径が太い領域(膨らみ部)6d1,6d2が形成され、その領域6d1,6d2の間に、前記径D1にほぼ等しい径の領域6b2が形成されている。すなわち、第2の形態の戻しスプリング6においては、前記領域6b2が、戻しスプリング6において外径が最小径となるくびれ部に相当するものとなる。
【0028】
前記したくびれ部6b1,6b2を備えた第1および第2形態の戻しスプリング6によると、筆記部5aが口先部3から繰出されて筆記可能になされた状態、すなわち戻しスプリング6を収縮させた状態においては、戻しスプリング6の前記くびれ部6b1,6b2は、筆記リフィールの細径部5bの一部に適宜接する等して、戻しスプリング6の中央部に、たわみが生ずるのを抑制するように作用する。
【0029】
したがって、戻しスプリング6による反発力は、主に軸心方向に働くことになり、戻しスプリング6の中腹部がたわむことにより、先端筆記部5aが口先部3の開口3aの一部に向って強く押しつけられる従来の筆記具の問題点を解消することができる。
これにより、先端筆記部5aを、口先部3の開口3aのほぼ中央部に位置させるように設定することができる。それ故、口先部3の開口3aを通る先端筆記部5aが、軸心から片寄ったスプリング圧を受けた状態で筆記圧を受け、先端筆記部5aが口先部3の開口3a内を往復して異音(衝突音=カチカチ音)が発生するのを効果的に抑制することができるものとなる。
【0030】
また、
図5Bに示す第2形態の戻しスプリング6を用い、このスプリング6と口先部3の内周面との隙間を適切に調整することで、スプリング6にたわみが生じようとするときに、スプリング6の前記した膨らみ部6d1,6d2が、口先部3の内周面に当たるように設定することで、同様に先端筆記部5aを、口先部3の開口3aのほぼ中央部に位置させるように構成することもできる。
【0031】
前記前軸1Aの後端部開口には、
図1および
図6に示すように、内周面に雌ねじが施された連結部材8が、嵌合により取り付けられている。一方、後軸1Bの前端部開口には、円筒状の螺合部材9が後軸1Bに対して、所定の回転角において回動可能となるように取り付けられていて、螺合部材9に形成された雄ねじが、前軸1Aに嵌合された連結部材8の雌ねじに螺合されることで、前軸1Aと後軸1Bが連結されている。
前記螺合部材9の後端部内周面には、雌ねじが施されており、この雌ねじに対して回転繰出しユニット11に備えられた回動部材12の前端部がねじ込まれて取り付けられている。
【0032】
前記回転繰出しユニット11内には、
図1に示すようにスライダ13が収容されており、このスライダ13の後部にはカム部材14が収容されている。そして、前記回動部材12に対して、回転繰出しユニット11のユニットケースが相対回転することで、前記カム部材14の作用により、スライダ13は軸前方に押し出される作用を受ける。
前記スライダ13の先端部には、軸方向に移動可能な短軸部材15が配置されており、この短軸部材15の前端部は、筆記リフィール5の後端部に取り付けられた栓体5Bに当接している。
【0033】
前記回転繰出しユニット11は、後述するようにスリーブナットを介して後軸1B内に取り付けられており、したがって、前軸1Aに対して後軸1Bを一方向に相対回転(右回転)させることで、筆記リフィール5の先端筆記部5aは、口先部3の先端開口3aから繰出される。また、前軸1Aに対して後軸1Bを他方向に相対回転(左回転)させることで、前記した戻しスプリング6の作用を受けて、先端筆記部5aは、口先部3内に収容されることになる。
すなわち、この実施の形態においては、後軸1Bが先端筆記部5aの繰出し操作部を構成している。
【0034】
図7A,
図7Bおよび
図7Cは、後軸1Bの単体構成を示しており、この後軸1Bは前記したとおり円筒状に形成され、その後端部には、軸に直交するようにして折り曲げ端面1aが一体に形成されている。この折り曲げ端面1aの中央部には、直線状の開口縁部1bが対向するように備えられた非円形の開口1cが形成されている。また、後軸1Bの後端部の直近における側面の一部には、スリット状の開口1dが形成されており、これは後述するクリップの基端部が挿入されて後軸1Bに取り付けるために利用される。
【0035】
図8Aおよび
図8Bは、クリップ17の単体構成を示しており、このクリップ17はL字状に成形されて、その基端部17aが前記した後軸1Bのスリット状の開口1dに挿入されて後軸1Bに取り付けられる。加えて、基端部17aには円の一部に直線状の縁部17bを形成してD字状になされた貫通孔17cが形成されている。
なお、クリップ17の先端部には、クリップ玉17dが一体に成形されている。
【0036】
図9(A),(B),(C),(D)は、天冠飾り18を示しており、この天冠飾り18の軸心部には、貫通孔18aが形成されて全体がリング状に成形されている。
そして、この天冠飾り18は、径の太い頭部18bと、径の細い中央頸部18cと、この頸部18cに続いて若干径を細くした円筒部には雄ねじ18dが形成されている。
また、前記頸部18cには、両外側に向って平面状に成形された面そぎ部18eが形成されており、この一対の面そぎ部18eは、前記した後軸1Bの非円形の開口1bにおける直線状の開口縁部1bに沿って挿入されることで、後軸1Bに対する天冠飾り18の回り止めとして機能する。
【0037】
図10(A),(B),(C),(D)は、飾り止めナット19を示しており、この飾り止めナット19の軸心部には、貫通孔19aが形成されてリング状に成形され、この貫通孔19a内には雌ねじ19bが形成されている。この飾り止めナット19の円筒状の周面19cには、両外側に向って平面状に成形された面そぎ部19dが形成されている。加えて、飾り止めナット19の軸方向の端部には、鍔部19eが形成されている。
【0038】
図11Aおよび
図11Bは天冠20を示しており、この天冠20の円形状の頭部20aの上面は、曲率の大きな球面の一部を構成し、かつ頭部20aは軸方向に若干肉厚に形成されている。この頭部20aに続いて、径を細くした円柱状の支軸20bが形成され、この支軸20bの先端部側はさらに若干径を細くして雄ねじ20cが形成されている。そして、雄ねじ20cを含む支軸20bの先端部側には、軸方向に沿って平面状の面そぎ部20dが形成されている。
【0039】
図12A,
図12Bおよび
図12Cは、スリーブナット21を示しており、このスリーブナット21は、その全体が円筒状に成形されて、径を細くした頸部21aの端部には鍔部21bが形成されると共に、頸部21の内周面には、雌ねじ21cが形成されている。
そして、大径部21dの開口縁には、周方向に沿った180度対向する位置に、それぞれU字状の切欠部21eが形成されている。
【0040】
図3および
図6は、前記した天冠飾り18、飾り止めナット19、天冠20、スリーブナット21を用いて、前記クリップ17および回転繰出しユニット11を後軸1Bに取り付けた状態を示している。
図3および
図6に示す状態に組み上げるには、先ず後軸1Bの折り曲げ端面1aに形成された直線状の開口縁部1bに、天冠飾り18に形成された面そぎ部18eを当てる。
【0041】
この状態で、飾り止めナット19の面そぎ部19dに係合する二股状の突起を備えた図示せぬ第1治具を利用して、飾り止めナット19を後軸1B内に挿入し、第1治具を軸回転させることで、前記後軸の内側に位置する前記天冠飾り18の雄ねじ18dに対して、飾り止めナット19の雌ねじ19bがねじ込まれる。
この場合、天冠飾り18の面そぎ部18eが、後軸1Bの直線状の開口縁部1bに当たるために、天冠飾り18は後軸1Bに対して回り止めされており、したがって、飾り止めナット19を天冠飾り18に対して円滑に締め付けることができる。これにより、天冠飾り18および飾り止めナット19を後軸1Bに対して円滑に取り付けることができる。
【0042】
続いて、クリップ17の基端部17aを、後軸1Bのスリット状開口1dに挿入し、天冠飾り18の貫通孔18aに、天冠20の雄ねじ20cが形成された先端部を挿入する。このとき、天冠20の面そぎ部20dが、クリップ17のD字状貫通孔17cに形成された直線状縁部17bに沿うように、天冠20の先端部を挿入する。これにより、天冠20はクリップ17に対して回り止めされる。これと同時にクリップ17の基端部17aは、貫通孔17cに挿通された天冠20の支軸により、後軸1Bのスリット状開口1dから抜け出ないように仮止めされる。
【0043】
この状態で、スリーブナット21の大径部21dに形成された一対の切欠部21eに係合する一対の突起を備えた図示せぬ第2治具を利用して、スリーブナット21を後軸1B内に挿入し、第2治具を軸回転させることで、スリーブナット21の雌ねじ21cが天冠20の雄ねじ20cにねじ込まれる。
この時、前記したように天冠20は、クリップ17のD字状貫通孔17cによって回り止めされており、したがって、スリーブナット21を天冠20の支軸20bに形成された雄ねじ20cに対して円滑に締め付けることができる。これにより、クリップ17の基端部17aは、飾り止めナット19を台にして、スリーブナット21の鍔部21bとの間に挟まれて固定される。
【0044】
この状態で、スリーブナット21の大径部21d内に、前記した回転繰出しユニット11を嵌め込んで固定すると共に、回転繰出しユニット11の前部に、
図1に示すように短軸部材15および螺合部材9を順次装着することで、後軸1B側の
図1および
図6に示す構成が組み上げられる。
【0045】
以上説明したように、この発明に係る筆記具によると、軸筒の後端部に取り付ける天冠飾りは、天冠飾りに形成された面そぎ部により軸筒に対して回り止めされるので、この天冠飾りに対して軸筒内でねじ込まれる飾り止めナットの締結操作を円滑に行なうことができる。また、天冠の支軸に形成された面そぎ部によって、クリップの基端部に形成された貫通孔に対して、天冠は回り止めされるので、天冠の支軸に対するスリーブナットのねじ込み操作を円滑になし得ることができる。
これにより、天冠飾りと共に軸筒に締結された飾り止めナットを台にして、クリップの基端部を、スリーブナットによって挟み込むようにして強固に締結することができると共に、軸筒に対するクリップおよび天冠の取り付け取り外しを容易に行なうことを可能にした筆記具を提供することができる。
【0046】
なお、軸筒に対する天冠およびクリップの取り付けおよび取り外しには、前記した第1と第2の治具を利用することで行なうことができ、一般に流通している例えばドライバーなどを利用して分解することは困難である。
したがって、図示例の筆記具によると、ユーザーが分解して部品を紛失する問題を避けるために、天冠部分に接着剤等を併用する必要はなく、より組み立ておよび分解の容易性に寄与することができるものとなる。
【符号の説明】
【0047】
1 軸筒
1A 前軸
1B 後軸(繰出し操作部)
1a 折り曲げ端面
1b 直線状開口縁部
1c 非円形開口
1d スリット状開口
3 口先部(口金)
3a 先端開口
5 筆記リフィール
5A 金属管(インク収容管)
5B 栓体
5a 筆記部
5a1 テーパー面
5a2 取り付け部
5b 細径部
5c テーパー部
5d 大径部
6 戻しスプリング
6a 拡径部
6b1,6b2 くびれ部
6d1,6d2 膨らみ部
11 回転繰出しユニット
12 回動部材
13 スライダ
14 カム部材
15 短軸部材
17 クリップ
17a 基端部
17b 直線状縁部
17c 貫通孔(D字状貫通孔)
18 天冠飾り
18a 貫通孔
18b 頭部
18c 頸部
18d 雄ねじ
18e 面そぎ部
19 飾り止めナット
19a 貫通孔
19b 雌ねじ
19c 円筒周面
19d 面そぎ部
19e 鍔部
20 天冠
20a 頭部
20b 支軸
20c 雄ねじ
20d 面そぎ部
21 スリーブナット
21a 頸部
21b 鍔部
21c 雌ねじ
21d 大径部
21e 切欠部