IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IJTTの特許一覧

<>
  • 特許-カップリング装置 図1
  • 特許-カップリング装置 図2
  • 特許-カップリング装置 図3
  • 特許-カップリング装置 図4
  • 特許-カップリング装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】カップリング装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 27/10 20060101AFI20220119BHJP
   F16D 13/52 20060101ALI20220119BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
F16D27/10 Z
F16D13/52 Z
F16J15/10 N
F16J15/10 U
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018023914
(22)【出願日】2018-02-14
(65)【公開番号】P2019138416
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】519196405
【氏名又は名称】株式会社IJTT
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】濱中 好久
(72)【発明者】
【氏名】木村 淳
(72)【発明者】
【氏名】小川 浩司
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-019743(JP,A)
【文献】特開2011-033081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-13/00
21/00-23/00
27/00
F16J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に接続される中空の外側回転部材と、前記外側回転部材内に同軸にかつ回転自在に支持され、入力軸の外周に係合される筒状の内側回転部材と、前記外側回転部材を前記内側回転部材に断接可能に接続するクラッチと、前記クラッチを駆動させるアクチュエータとを備え、
前記内側回転部材内には、その内部を仕切るプラグが設けられ、
前記プラグは、その外周に、弾性材料により形成されたシール部を備え
前記シール部は、その外周に、半径方向外側に突出するリップ部を有し、
前記リップ部は、軸方向に複数形成されると共に断面台形状に形成され、
前記リップ部の軸方向の両端に傾斜面が形成され、両方の前記傾斜面は、互いに異なる傾斜角度に形成され、高圧側の前記傾斜面の傾斜角度は、低圧側の前記傾斜面の傾斜角度より大きくされる
ことを特徴とするカップリング装置。
【請求項2】
前記プラグは、前記シール部より硬質の材料により形成されたプラグ本体部をさらに備え、前記シール部は、前記プラグ本体部の外周に設けられる請求項1に記載のカップリング装置。
【請求項3】
前記プラグ本体部は、有底筒体状に形成される請求項2に記載のカップリング装置。
【請求項4】
前記高圧側の傾斜面の傾斜角度は60°以上90°以下に設定され、前記低圧側の傾斜面の傾斜角度は30°以上60°以下に設定された請求項1~3のいずれか一項に記載のカップリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、駆動軸の回転駆動力を入力軸に選択的に伝達するカップリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カップリング装置は、中空の外側回転部材と、外側回転部材内に回転自在に設けられる内側回転部材と、外側回転部材内に設けられ外側回転部材及び内側回転部材を断接可能に接続するクラッチとを備える。
【0003】
また、カップリング装置としては、特許文献1,2に記載のものが知られている。
【0004】
特許文献1において、内側回転部材は、概ね筒状に形成されると共に、その内部を仕切る隔壁が形成される。隔壁は、外側回転部材内のクラッチオイルと入力軸側のオイルとが混ざるのを防ぐ。
【0005】
また、特許文献2において、隔壁は内側回転部材とは別体かつ薄板状に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5668398号公報
【文献】特許第4369917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載の内側回転部材には、隔壁が一体に形成されるため、内側回転部材の内周面にスプライン等の係合部をブローチ加工にて形成することができず、係合部の加工が困難であるという課題がある。
【0008】
また、特許文献2は、筒状の内側回転部材内に薄板状の隔壁を固定するものであるため、液密性およびシール性が低い。この場合、外側回転部材内のクラッチオイルと入力軸側のオイルとが混ざる虞がある。
【0009】
そこで本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、内側回転部材の内周面に係合部を容易に加工でき、内側回転部材内を確実に仕切ることができるカップリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一の態様によれば、駆動軸に接続される中空の外側回転部材と、前記外側回転部材内に同軸にかつ回転自在に支持され、入力軸の外周に係合される筒状の内側回転部材と、前記外側回転部材を前記内側回転部材に断接可能に接続するクラッチと、前記クラッチを駆動させるアクチュエータとを備え、
前記内側回転部材内には、その内部を仕切るプラグが設けられ、
前記プラグは、その外周に、弾性材料により形成されたシール部を備えることを特徴とするカップリング装置が提供される。
【0011】
好ましくは、前記プラグは、前記シール部より硬質の材料により形成されたプラグ本体部をさらに備え、前記シール部は、前記プラグ本体部の外周に設けられるとよい。
【0012】
好ましくは、前記プラグ本体部は、有底筒体状に形成されるとよい。
【0013】
好ましくは、前記シール部は、その外周に、半径方向外側に突出するリップ部を有するとよい。
【0014】
好ましくは、前記リップ部は、軸方向に複数形成されるとよい。
【0015】
好ましくは、前記リップ部は、断面台形状に形成されるとよい。
【0016】
好ましくは、前記リップ部の軸方向の両端に傾斜面が形成され、両方の前記傾斜面は、互いに異なる傾斜角度に形成され、高圧側の前記傾斜面の傾斜角度は、低圧側の前記傾斜面の傾斜角度より大きくされるとよい。
【0017】
好ましくは、前記高圧側の傾斜面の傾斜角度は60°以上90°以下に設定され、前記低圧側の傾斜面の傾斜角度は30°以上60°以下に設定されるとよい。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、内側回転部材の内周面に係合部を容易に加工でき、内側回転部材内を確実に仕切ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示の一実施の形態に係るカップリング装置が適用される車両の概略平面図である。
図2】カップリング装置の断面図である。
図3】カップリング装置の要部断面図である。
図4】他の実施の形態を示すカップリング装置の要部断面図である。
図5】他の実施の形態を示すカップリング装置の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお、後述する実施の形態における前後左右上下の各方向は、本実施形態に係るカップリング装置が適用される車両の各方向をいうものとする。但しこれら各方向が説明の便宜上定められたものに過ぎない点に留意されたい。
【0021】
図1は、本実施形態に係るカップリング装置1が適用される車両Cの概略平面図である。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態において車両Cは、FF車(フロントエンジン・フロントドライブ車)ベースのパートタイム4WD車(四輪駆動車)である。駆動軸たるプロペラシャフト2は、車両前部から後方に延びる。プロペラシャフト2には、エンジンEからの回転駆動力が図示しない変速機およびトランスファを介して伝達される。デファレンシャルギア3は、左右の後輪R、Rに連結されると共に、車体に固定されたデフケース4内に収容される。デフケース4内には、デフオイルが収容される。カップリング装置1は、プロペラシャフト2とデファレンシャルギア3の間に設けられ、プロペラシャフト2の回転駆動力をデファレンシャルギア3の入力軸3aに選択的に伝達するよう構成されている。
【0023】
図2は、カップリング装置1の断面図である。図2に示すように、カップリング装置1は、プロペラシャフト2に接続される中空の外側回転部材5と、外側回転部材5内に同軸に、かつ、回転自在に支持される内側回転部材6と、外側回転部材5を内側回転部材6に断接可能に接続するクラッチ7と、クラッチ7を駆動させるアクチュエータ8とを備える。
【0024】
外側回転部材5は、有底筒体状(具体的には有底円筒状)に形成される前部回転部9と、前部回転部9に後方から嵌入されネジ等により固定される後部回転部10とを備える。前部回転部9の内周には第1スプライン11が形成される。後部回転部10は、筒状(具体的には円筒状)に形成され内側回転部材6の後部外周を覆う鞘管部12と、鞘管部12から外周側に延びて形成され前部回転部9の後端部に嵌合される鍔部13とを備える。鍔部13の後面には、電磁石35を収容するための電磁石収容部14が凹状に形成される。鞘管部12には、鞘管部12と内側回転部材6との間を液密にシールするためのシールリング15が設けられる。シールリング15は、シールリング15より前側の外側回転部材5内に収容されるクラッチオイルと、シールリング15より後方のデフケース4内に収容されるデフオイルとが混ざることを防ぐ。また、鞘管部12は、後述する固定側の取付部材36に軸受16を介して回転自在に支持される。
【0025】
内側回転部材6は、概ね筒状(具体的には円筒状)に形成される。内側回転部材6の前端部は、外側回転部材5に軸受16を介して回転自在に支持される。また、内側回転部材6の前部には、外径を拡大される拡径部17が形成される。拡径部17の外周には、第2スプライン18が形成される。拡径部17及び第2スプライン18は、第1スプライン11より短く形成されると共に、第1スプライン11の前部と径方向に対向して配置される。また、内側回転部材6の後部内周には、係合部としての第3スプライン19が形成される。第3スプライン19は、デファレンシャルギア3の入力軸3aに係合され、具体的には、入力軸3aの外周に形成されたスプライン3bに嵌合される。これにより、内側回転部材6の後部はデファレンシャルギア3の入力軸3aに同軸に接続される。また、内側回転部材6の径方向中央の孔6aは軸方向に貫通される。このため、第3スプライン19をブローチ加工にて容易に加工できる。
【0026】
また、内側回転部材6内には、その内部を仕切るプラグ20が設けられる。ここで、内側回転部材6内の空間は、外側回転部材5内の空間と、デフケース4内の空間とに連通されている。プラグ20は、これら外側回転部材5内の空間とデフケース4内の空間とを隔絶するために設けられている。プラグ20は、外側回転部材5内に収容されるクラッチオイルと、入力軸3a側のオイル、具体的にはデフケース4内のデフオイルとが混ざることを防ぐ。
【0027】
図3に示すように、プラグ20は、その外周に、弾性材料により形成されたシール部22を備える。本実施形態において、プラグ20は、有底筒体状(具体的には有底円筒状)に形成されるプラグ本体部21と、プラグ本体部21の外周に設けられプラグ本体部21と内側回転部材6との隙間をシールするシール部22とを備える。
【0028】
プラグ本体部21は、シール部22より硬質の材料により形成されている。本実施形態において、プラグ本体部21は、鋼材等の金属により形成され、例えば金属板をプレス成形等することにより一体に形成される。プラグ本体部21は、後端に位置される底部21Aと、底部21Aの外周縁部から連続して前方に延びる筒状部21Bと、筒状部21Bの前端部によって画成される開口部21Cとを有する。底部21Aと筒状部21Bの接続部は滑らかに湾曲された折曲形状とされている。なお、プラグ本体部21は有底筒体状でなくてもよく、任意の形状であってよい。例えば単なる中実形状であってもよい。
【0029】
シール部22は、ゴム等の弾性材料により形成される。なお、シール部22の材料は、液密性が高いものであればよく、ゴム以外の弾性材料であってもよい。本実施形態では製作を容易にすると共にシール部22をプラグ本体部21に一体的かつ強固に固着させるため、シール部22がプラグ本体部21の外表面全体に形成されている。しかしながら、シールを実質的に行うのは筒状部21Bの外周に形成されたシール部22のみであるため、底部21Aの外表面からはシール部22を省略してもよい。
【0030】
また、シール部22の外周には、シール圧を増大し液密性を高めるため、半径方向外側に突出するリップ部23が形成されている。本実施形態において、リップ部23は、前後方向(内側回転部材6の軸方向)に複数形成され、具体的には2つ形成される。2つのリップ部23は、同形状に形成される。また本実施形態において、リップ部23は、断面台形状に形成され、前後方向の両端に傾斜面24a、24bを有する。
【0031】
傾斜面24a、24bは、互いに異なる傾斜角度θ1、θ2に形成される。ここで、傾斜角度θ1、θ2とは、プラグ20の取付前の自然状態において、前後方向に対する傾斜面24a、24bの角度である。後側の傾斜面24aの傾斜角度θ1は前側の傾斜面24bの傾斜角度θ2より大きくなるように設定される。具体的には、例えば、後側の傾斜面24aの傾斜角度θ1は、75°に設定される。また、前側の傾斜面24bの傾斜角度θ2は45°に設定される。なお、後側の傾斜面24aの傾斜角度θ1は60°以上90°以下の範囲内であるのが好ましい。また、前側の傾斜面24bの傾斜角度θ2は、30°以上60°以下の範囲内であるのが好ましい。
【0032】
なお、リップ部23は、2つに限るものではない。リップ部23は、軸方向に1つ、あるいは3つ以上形成されてもよい。この場合、リップ部23は、全て同じ形状に形成されてもよく、一部異なる形状に形成されてもよい。また十分なシール性を確保できるのであれば、リップ部23を省略してもよい。
【0033】
また、リップ部23の断面形状は台形に限られず、任意の形状であってよい。例えばU字状、半円状、円弧状、台形以外の四角形状、または四角以外の多角形状であってもよい。
【0034】
このように構成されたプラグ20は、内側回転部材6内に前方から圧入して取り付けられる。具体的には、内側回転部材6内の孔6aの前端部に、内径が機械加工され若干拡径されたプラグ取付部6bが形成されている。このプラグ取付部6bにプラグ20が圧入して取り付けられることで、プラグ20を容易に、かつ強固に取り付けることができる。
【0035】
図2に示すように、クラッチ7は、第1スプライン11にスプライン嵌合される環状の第1クラッチ板25aと、第2スプライン18に嵌合される環状の第2クラッチ板25bとを備える。第1クラッチ板25aと第2クラッチ板25bは前後方向に交互に配置される。また、クラッチ7より前方の外側回転部材5には、クラッチ7を受けるためのクラッチ受部27が形成される。
【0036】
アクチュエータ8は、電磁石35がアーマチャ34を吸引する力を増幅させてクラッチを駆動させる倍力装置として機能する。アクチュエータ8は、第2スプライン18にスプライン嵌合される第1カムブロック28と、第1カムブロック28の後方に配設される第2カムブロック29と、第1カムブロック28及び第2カムブロック29間に配設されるボール30と、第2カムブロック29の外周に形成される第4スプライン31と、第1スプライン11にスプライン嵌合される第3クラッチ板32と、第4スプライン31にスプライン係合される第4クラッチ板33と、第3クラッチ板32及び第4クラッチ板33より前方に配設されるアーマチャ34と、アーマチャ34を後方に吸引する電磁石35とを備える。
【0037】
第1カムブロック28は環状に形成される。第1カムブロック28は、ボール30を受けるための第1カム板部28aと、第1カム板部28aより外周に形成されクラッチ7を前方に押圧するための押圧部28bとを備える。第1カム板部28aには、ボール30を受けるための第1カム溝28cが周方向に複数形成される。第1カム溝28cは、それぞれ周方向に延びる三日月形に形成される。また、第1カム溝28cは、中央部から両端部に向かうにつれて溝幅が狭くなると共に、溝深さが浅くなるように形成される。
【0038】
第2カムブロック29は、第1カムブロック28より外径が小さな環状に形成される。第2カムブロック29は、第1カム板部28aと対向して配置される第2カム板部29aと、第2カム板部29aの外周に設けられ前後方向に延びる筒状のスプライン基部29bとを備える。第2カム板部29aには、ボール30を受けるための第2カム溝29cが第1カム溝28cと対向して複数形成される。第2カム溝29cは第1カム溝28cと前後対称の形状に形成される。スプライン基部29bの外周には、第4スプライン31が形成される。
【0039】
アーマチャ34は第4スプライン31より内径が大きな環状に形成される。アーマチャ34は鉄等の磁性体で構成され、電磁石35から磁力を受けたとき電磁石35に向かって後方に吸引される。また、アーマチャ34は、第2スプライン18にスプライン嵌合される。
【0040】
電磁石35は、取付部材36に取り付けられ、取付部材36はデフケース4に固定される。電磁石35は、電磁石収容部14内に収容され、外部の制御装置(図示せず)により通電されることで磁界を発生させる。なお、アクチュエータ8は、これに限るものではない。アクチュエータ8は、クラッチ7を駆動できるものであればよく、電動モーター、油圧モーター、電動シリンダ、油圧シリンダ等で構成されてもよい。
【0041】
次に、本実施の形態の作用について述べる。
【0042】
電磁石35に通電されないとき、クラッチ7は断状態となる。このため、プロペラシャフト2の回転駆動力は外側回転部材5のみに伝達され、内側回転部材6には伝達されない。
【0043】
この状態から電磁石35に通電されると、アーマチャ34が後方の電磁石35に吸引され、後方に移動される。後方に移動されたアーマチャ34は、第3クラッチ板32及び第4クラッチ板33を後方に押す。これにより、第3クラッチ板32及び第4クラッチ板33はアーマチャ34と後部回転部10とに挟まれて接状態となる。第3クラッチ板32から回転駆動力を受けた第4クラッチ板33は、第2カムブロック29に回転駆動力を伝達する。回転駆動力が伝達された第2カムブロック29は、第1カムブロック28に対して回動される。これにより、第1カム溝28c及び第2カム溝29cが相対的に周方向に移動される。そして、ボール30は、第1カム溝28c及び第2カム溝29cに沿って転がることで第1カム溝28c及び第2カム溝29cの端部に移動される。第1カム溝28c及び第2カム溝29cは、中央部から端部に向かうにつれては溝深さが浅くなる。このため、第1カム板部28aは、第2カム板部29aに対して前方に押され、第1クラッチ板25a及び第2クラッチ板25bを前方に押す。これにより、第1クラッチ板25a及び第2クラッチ板25bは第1カムブロック28の押圧部28bとクラッチ受部27とに挟まれて接状態となる。第1クラッチ板25aから回転駆動力を受けた第2クラッチ板25bは、内側回転部材6に回転駆動力を伝達する。これにより、内側回転部材6は、外側回転部材5と一体的に回転され、デファレンシャルギア3の入力軸3aに回転駆動力を伝達する。こうしてエンジン駆動力が後輪R、Rにも伝達され、車両Cは四輪駆動状態となる。
【0044】
ところで、デフケース4内にはデフオイルが収容され、後部回転部10より前方の外側回転部材5内にはクラッチオイルが収容される。デフオイルとクラッチオイルは特性、性質等が互いに異なる。このため、クラッチオイルとデフオイルが混ざることは好ましくない。しかし、本実施形態では、内側回転部材6内にその内部を仕切るプラグ20が設けられ、内側回転部材6内がプラグ20で液密に塞がれるため、クラッチオイルとデフオイルが混ざることを防止または抑制できる。
【0045】
特に、内側回転部材6は筒状に形成され、具体的には、軸方向全長に貫通する孔6aを有する中空軸として形成される。このため、内側回転部材6の内周面に、係合部としての第3スプライン19をブローチ加工にて容易に加工できる。また、プラグ20(具体的にはプラグ本体部21の筒状部21B)の外周に、弾性材料により形成されたシール部22を設けたため、内側回転部材6(具体的には孔6aのプラグ取付部6b)の内周面にシール部22を弾性的に密着させて液密シールを行い、内側回転部材6の内部を確実に仕切ることができる。よって本実施形態によれば、内側回転部材6の内周面に係合部を容易に加工でき、内側回転部材6内を確実に仕切ることができる。
【0046】
また本実施形態では、シール部22より硬質の材料により形成されたプラグ本体部21の外周に、シール部22を設けたため、シール部22を裏側から強固に支持することができ、取付時にシール部22が過剰変形しシール面圧が低下するのを抑制し、シール性を高められる。
【0047】
また本実施形態では、シール部22の外周に半径方向外側に突出するリップ部23を設けたため、リップ部23を内側回転部材6の内周面に密着させることでシール面圧を高め、シール性をより高められる。
【0048】
また本実施形態では、リップ部23を軸方向に複数形成したため、ラビリンス効果をも利用して、シール性を高めることができる。
【0049】
また本実施形態では、リップ部23を断面台形状に形成したので、リップ部23の頂面を内側回転部材6の内周面に強固に面接触させることができ、シール性を高めるのに有利な構造とすることができる。また本実施形態では、プラグ本体部21を有底筒体状に形成したので、製作が容易でありながら、シール性を高めるのに有利な高剛性のプラグ本体部21の構造とすることができる。
【0050】
ところで、本実施形態におけるデファレンシャルギア3は、駆動時の摩擦等で昇温する。この場合、デフケース4内の圧力が外側回転部材5内の圧力より高くなる。しかし、リップ部23の両端部に形成される傾斜面のうち、後側(高圧側)の傾斜面24aの傾斜角度θ1が前側(低圧側)の傾斜面24bの傾斜角度θ2より大きくなるように設定される。この傾斜角度θ1、θ2の違いは、リップ部23と内側回転部材6との間に介在される油膜を後方に送る力を発生させる。そしてさらに、リップ部23前後の傾斜角度θ1、θ2は、リップ部23前後の圧力差で生じる力と、傾斜角度θ1、θ2の違いで発生する力とが均衡するように設定される。これにより、デフオイルが、リップ部23と内側回転部材6の間から外側回転部材5側に漏れ出ることを防止または抑制でき、外側回転部材5内のクラッチオイルと混ざることを防止または抑制できる。
【0051】
以上、本開示の基本実施形態を詳細に述べたが、本開示は以下のような他の実施形態も可能である。
【0052】
(1)図4に示すように、プラグ20は、底部21Aが前端に位置され、開口部21Cが後端に位置されるよう、前後逆向きに配置されてもよい。但しこの例において、傾斜面24a、24bの傾斜角度θ1、θ2は前述の基本実施形態と同様である。
【0053】
(2)デフケース4内より外側回転部材5内の方が圧力が高い場合、図5に示すように、リップ部40の後側の傾斜面41aの傾斜角度θ1は、前側の傾斜面41bの傾斜角度θ2より小さくなるように設定されるとよい。なお図5に示すプラグ20の向きは前述の基本実施形態と同様であるが、逆向きに変更してもよい。
【0054】
(3)前述の基本実施形態では内側回転部材6を入力軸3aの外周にスプラインにより係合させた。しかし係合方法は他の方法でもよい。例えばセレーション、キーとキー溝の組み合わせ、歯車、または角軸と角穴の組み合わせ等の様々な同軸接続構造により係合させてもよい。
【0055】
(4)前述の基本実施形態のカップリング装置1は、FF車ベースのパートタイム4WD車において、駆動軸たるプロペラシャフト2の回転駆動力を、デファレンシャルギア3の入力軸3aに選択的に伝達するよう適用された。しかしながら、本開示に係るカップリング装置の用途はこれに限定されない。駆動軸の回転駆動力を何等かの入力軸に選択的に伝達したい場合、本開示に係るカップリング装置は好適に使用可能である。それ故、本開示に係るカップリング装置は、車両以外の分野にも適用可能である。
【0056】
(5)また、上記各数値はあくまで例示であり、適宜変更可能である。
【0057】
前述の各実施形態の構成は、特に矛盾が無い限り、部分的にまたは全体的に組み合わせることが可能である。本開示の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 カップリング装置
2 駆動軸
3a 入力軸
5 外側回転部材
6 内側回転部材
7 クラッチ
8 アクチュエータ
20 プラグ
22 シール部
図1
図2
図3
図4
図5