(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】電気銅めっき浴および電気銅めっき皮膜
(51)【国際特許分類】
C25D 3/58 20060101AFI20220119BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20220119BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20220119BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C25D3/58
C25D7/00 G
H05K3/18 G
H05K1/09 A
(21)【出願番号】P 2018024065
(22)【出願日】2018-02-14
【審査請求日】2020-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2017083861
(32)【優先日】2017-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000189327
【氏名又は名称】上村工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】大村 直之
(72)【発明者】
【氏名】板倉 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】嘉藤 一成
(72)【発明者】
【氏名】生本 雷平
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-294488(JP,A)
【文献】特開2006-265632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/58
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオン、酸、塩化物イオン、および錯化剤を含む電気銅めっき浴であって、
合金成分として銀イオンを更に含み、且つ、
錯化剤としてメチオニンまたはその誘導体を含有することを特徴とする電気銅めっき浴。
【請求項2】
めっき皮膜中の銀含有量が0.1~20質量%、且つ、硫黄含有量が1質量%以下であ
り、
230℃で2時間加熱した後の硬度がビッカース硬度で150Hv以上、且つ、引張強度が300MPa以上である電気銅めっき皮膜。
【請求項3】
柱状結晶を有するものである請求項2に記載の電気銅めっき皮膜。
【請求項4】
請求項2
または3に記載のめっき皮膜を有する電子機器構成部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気銅めっき浴および電気銅めっき皮膜に関し、詳細には銀イオンを合金成分として含む電気銅めっき浴および電気銅めっき皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
銅は熱伝導性、電気伝導性が高く、展延性に優れるため、電気銅めっきは、電子工業分野においてプリント基板の回路、ICパッケージの実装部分や端子部分などの表面処理法として汎用されている(例えば特許文献1、2)。電気銅めっき浴中には種々の添加剤が添加されており、めっき皮膜の平滑化などの目的で塩化物イオンが必須成分として添加される。近年、電子部品の小型化、高密度化に伴って銅めっき皮膜の薄膜化が要求されており、薄くても強度の高い銅めっき皮膜の提供が切望されている。
【0003】
一般に銅めっき皮膜は、めっき直後は結晶組織を有するが、めっき後に室温で放置すると数時間~数日間で再結晶し、結晶サイズが大きくなって軟質化する。特に半導体ウエハに再配線を施す際には銅めっき皮膜にポリイミドなどの樹脂皮膜を積層して200℃以上の高温で長時間加熱する場合があるが、このような高温熱処理により再結晶が進行して銅めっき皮膜の硬度や引張強度が大幅に低下し、クラックが発生するなどして破断するという問題がある。
【0004】
そこで銅の再結晶を防止するなどの目的で、合金成分を添加した銅合金めっきが提案されており、例えば合金成分として銀を添加した銅-銀合金めっきがある。一般に銀を含む電気めっきでは塩化物イオンとの反応により塩化銀が沈殿するため、銀を安定化して塩化銀の沈殿を防止する目的で、チオ尿素に代表される硫黄系の錯化剤が添加されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-84779号公報
【文献】特開2007-138265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討結果によれば、銅-銀合金めっき浴に錯化剤としてチオ尿素を用いるとめっき皮膜中に硫黄が共析してしまい、めっき皮膜の物性や耐食性などが低下することが判明した。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、合金成分として銀イオンを含む電気銅めっきにおける硫黄の共析を大幅に抑制でき、約200℃以上の高温熱処理後も強度、硬度などの物性に優れた電気銅めっき皮膜が得られる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成は以下のとおりである。
1.銅イオン、酸、塩化物イオン、および錯化剤を含む電気銅めっき浴であって、合金成分として銀イオンを更に含み、且つ、錯化剤としてメチオニンまたはその誘導体を含有することを特徴とする電気銅めっき浴。
2.めっき皮膜中の銀含有量が0.1~20質量%、且つ、硫黄含有量が1質量%以下であることを特徴とする電気銅めっき皮膜。
3.柱状結晶を有するものである上記2に記載の電気銅めっき皮膜。
4.230℃で2時間加熱した後の硬度がビッカース硬度で150Hv以上、且つ、引張強度が300MPa以上である上記2または3に記載の電気銅めっき皮膜。
5.上記2~4のいずれかに記載のめっき皮膜を有する電子機器構成部品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硫黄の共析を大幅に抑制でき、約200℃以上の高温熱処理後も強度、硬度などの物性に優れた、合金成分として銀を含む電気銅めっき皮膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、表1のNo.2(錯化剤としてチオ尿素を用いた比較例)における皮膜外観を示す写真である。
【
図2】
図2は、表1のNo.3(錯化剤として本発明で規定するメチオニンを用いた本発明例)における皮膜外観を示す写真である。
【
図3】
図3は、表1のNo.1~3について、加熱処理後の結晶組織を示すFIB-SIM写真である。
【
図4】
図4は、表1のNo.1、3における引張試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、合金成分として銀を含む電気銅めっき浴(以下、銅-銀合金めっき浴と略記する場合がある。)を用いて電気めっきするに当たり、塩化銀や銀などの沈殿を防止でき、且つ、得られる電気銅めっき皮膜(以下、銅-銀合金めっき皮膜と呼ぶ場合がある。)中に硫黄が共析せず当該めっき皮膜中の硫黄濃度が著しく低減されて、高温加熱処理後も強度、硬度などの機械的物性に優れためっき皮膜が得られる銅-銀合金めっき浴を提供するため、鋭意検討した。
【0012】
その結果、錯化剤として、チオ尿素を用いず、メチオニンまたはその誘導体を含む銅-銀合金めっき浴を用いれば、所望とする銅-銀合金めっき皮膜が得られることを見出した。上記の銅-銀合金めっき皮膜は、200℃以上の高温加熱処理後も硬度および引張強度の機械的物性に優れているため、半導体パッケージ、プリント基板等の電子機器を構成する部品全般に好適に用いられる。
【0013】
はじめに、本発明に到達した経緯について、説明する。
まず本発明者らは、銅-銀合金めっき液を用い、電気めっき浴に通常用いられる錯化剤と塩化銀との関係について検討した。
具体的には、下記組成の銅-銀合金めっき液に、以下に示す種々の非硫黄系錯化剤を1~50g/Lの濃度で溶解させた後、塩化物イオンとしてHClを塩化物イオン濃度が30mg/Lになるように添加して塩化銀の沈殿が生成するかどうか目視で観察した。その結果、これらの非硫黄系錯化剤を添加してもHCl添加時に塩化銀の白色沈殿が生成してしまうことが判明した。
(銅-銀合金めっき液)
CuSO4・5H2O=100g/L、H2SO4=150g/L、Ag2SO4=0.1g/Lの混合液
(錯化剤の種類)
2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、グルコン酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N’,N’-三酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、1,3-ジアミノ-2-プロパノール-N,N,N’,N’-四酢酸、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸、N,N-ジヒドロキシエチルグリシン、L-グルタミン二酸酢酸4Na、エチレンジアミンジコハク酸3Na、マロン酸、コハク酸、シュウ酸2K、アジピン酸、マレイン酸、フタル酸水素カリウム、2-アミノチアゾール、2,2’-ジピリジルジスルフィド、5,5-ジメチルヒダントイン
【0014】
次に、錯化剤として、銅-銀電気めっき浴に通常用いられるチオ硫酸ナトリウムの硫黄系錯化剤を0.1~5g/Lの濃度で用いたこと以外は上記と同様にして塩化銀の沈殿の有無を観察した。その結果、チオ硫酸ナトリウムを錯化剤として用いると、HCl添加時に塩化銀の白色沈殿は確認されなかったが、室温で1日放置すると銀の灰色沈殿が生成した。
【0015】
次に、錯化剤として、チオ尿素、DL-メチオニン、L-メチオニンの硫黄系錯化剤を1~50g/Lの濃度で用いたこと以外は上記と同様にして塩化銀の沈殿の有無を観察した。その結果、これらの錯化剤を使用した場合は、HCl添加後から1日放置しても塩化銀や銀などの沈殿は生成しなかった。
【0016】
これらの実験結果より、銅-銀電気めっき浴を用いたときに生成する塩化銀などの沈殿を防止するためには、錯化剤としてチオ尿素、メチオニンの使用が有効であることが分かる。
【0017】
ところが本発明者らの検討結果によれば、これらのうちチオ尿素を用いた場合、めっき直後に脆弱な皮膜が生成されてしまうこと、この現象は230℃で2時間の高温加熱処理により益々顕著になり、上記皮膜は更に一層脆くなることが判明した(後記する実施例の欄を参照)。これは、チオ尿素の使用により銅-銀合金めっき皮膜中に硫黄が数%程度共析して硫黄脆化するためと考えられる。これらの結果より、従来のようにチオ尿素を錯化剤として銅-銀合金めっき浴に添加しても、半導体ウエハなどの電子機器部品に適した高硬度、高強度のめっき皮膜は決して得られないことが、本発明者らの検討結果により初めて明らかになった。
【0018】
これに対し、メチオニンを錯化剤として用いると、意外にも、室温放置後および230℃で2時間の高温加熱処理後も再結晶化は抑制されてめっき直後の柱状結晶を維持できると共に、硫黄脆化による上記の現象は全く見られず、高温加熱処理後も高硬度、高強度のめっき皮膜が得られることが判明した(後記する実施例の欄を参照)。このような作用効果が得られる詳細なメカニズムは不明であるが、例えばメチオニンはめっき皮膜中の硫黄共析量が少ないため硫黄脆化が発生せず、銅めっき皮膜中に共析した銀が再結晶を抑制するピン止め効果の役割を果たしていると考えられる。
【0019】
後記する実施例ではメチオニンおよびその異性体を用いて実験を行なったが、メチオニンの側鎖に置換基を有するメチオニン誘導体であっても同様の結果が得られることを確認している。
【0020】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0021】
(本発明の電気銅めっき浴)
本発明の電気銅めっき浴は、銅イオン、硫酸イオン、塩化物イオン、および錯化剤を含む電気銅めっき浴であって、合金成分として銀イオンを更に含み、且つ、錯化剤としてメチオニンまたはその誘導体を含有する点に特徴がある。
【0022】
これらのうち銅イオンは、銅めっきを得るための供給源である。銅イオン供給源の化合物としては、硫酸銅、酸化銅、メタンスルホン酸銅などの水溶性銅塩が挙げられる。銅イオンを供給する化合物は、単独で添加しても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
めっき浴中に含まれる銅イオンの濃度は5~90g/Lであることが好ましく、7.5~75g/Lであることがより好ましい。上記濃度が5g/Lを下回るとコゲめっきなどの問題がある。一方、上記濃度が90g/Lを超えると銅塩の結晶析出やコストアップなどの問題がある。例えば硫酸銅の場合、硫酸銅5水塩として30~300g/Lに相当する濃度で含まれることが好ましい。
【0024】
酸は、めっき液の電気伝導性を向上させ、均一性を改善する目的で添加する。酸としては、例えば硫酸等の無機酸の他、メタンスルホン酸やカルボン酸などの有機酸が挙げられる。酸として供給する化合物は、単独で添加しても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
めっき浴中に含まれる酸の濃度は1~300g/Lであることが好ましく、10~250g/Lであることがより好ましい。上記濃度が1g/Lを下回ると電圧上昇などの問題がある。一方、上記濃度が300g/Lを超えるとコストが上昇する。
【0026】
塩化物イオンは平滑剤として有用である。塩化物イオン供給源の化合物としては、例えば塩酸、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化物イオンを含有するカチオン性界面活性剤(カチオン染料を含む)、オキソ塩化物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。塩化物イオンを供給する化合物は、単独で添加しても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
めっき浴中に含まれる塩化物イオンの濃度(単独で添加する場合はその濃度であり、2種以上を併用する場合は合計濃度)は0.1~150mg/Lであることが好ましく、0.5~100mg/Lであることがより好ましい。上記濃度が0.1mg/Lを下回ると外観不良が生じる。一方、上記濃度が150mg/Lを超えると含リン銅アノードでの不動態化などの問題がある。
【0028】
銀イオンは合金成分として添加される。銀イオン供給源の化合物としては、例えば硫酸銀や硝酸銀などが挙げられる。銀イオンを供給する化合物は、単独で添加しても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
めっき浴中に含まれる銀イオンの濃度(単独で添加する場合はその濃度であり、2種以上を併用する場合は合計濃度)は0.7~700mg/Lであることが好ましく、4~600mg/Lであることがより好ましい。上記濃度が0.7mg/Lを下回るとめっき皮膜中に十分量の銀が共析しない。一方、上記濃度が700mg/Lを超えるとコストが上昇する。
【0030】
前述した銅イオンとの関係で言えば、銅イオンに対して銀イオンはモル比で12:1~220000:1の範囲で含まれることが好ましく、25:1~30000:1がより好ましい。
【0031】
本発明では錯化剤として、メチオニンまたはその誘導体を用いる点に特徴がある。これらの化合物を用いることにより硫黄脆化せず、高温加熱処理後もめっき直後の結晶状態を維持でき、高硬度且つ高強度のめっき皮膜が得られる。これらは単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0032】
メチオニンはメチオニンの異性体も含まれ、例えばDL-メチオニン、D-メチオニン、L-メチオニンが挙げられる。
【0033】
またメチオニン誘導体としては、メチオニンを構成するアミノ基部分、カルボキシ部分、硫黄部分などに置換基を有するものが挙げられ、これらの異性体も含まれる。また、これらの塩も含まれる。具体的には、例えばN-アセチル-DL-メチオニン、N-アセチル-L-メチオニン、DL-アラニル-DL-メチオニン、ベンゾイル-DL-メチオニン、N-(tert-ブトキシカルボニル)-D-メチオニン、N-(tert-ブトキシカルボニル)-L-メチオニン、N-(tert-ブトキシカルボニル)-L-メチオニン N-スクシンイミジル、N-カルボベンゾキシ-DL-メチオニン、N-カルボベンゾキシ-D-メチオニン、N-カルボベンゾキシ-L-メチオニン、ダブシル-L-メチオニン、N-(2,4-ジニトロフェニル)-L-メチオニンジシクロヘキシルアンモニウム、N-[(9H-フルオレン-9-イルメトキシ)カルボニル]-D-メチオニン、N-[(9H-フルオレン-9-イルメトキシ)カルボニル]-L-メチオニン、N-ホルミル-L-メチオニン、L-メチオニンメチル塩酸塩、DL-メチオニンメチルスルホニウムクロリド、DL-メチオニンスルホン、DL-メチオニンスルホキシド、フェニルチオヒダントイン-メチオニン、DL-セレノメチオニン、L-セレノメチオニンなどが挙げられる。
【0034】
めっき浴中に含まれるメチオニンまたはメチオニン誘導体の濃度(単独で添加する場合はその濃度であり、2種以上を併用する場合は合計濃度)はメチオニン換算で、0.01~300g/Lであることが好ましく、0.05~100g/Lであることがより好ましい。上記濃度が0.01g/Lを下回ると塩化銀が沈殿し易くなる。一方、上記濃度が300g/Lを超えるとメチオニン結晶が析出する等などの問題がある。
【0035】
本発明では、錯化剤としてメチオニンまたはメチオニン誘導体(以下、これらをまとめてメチオニン類と呼ぶ場合がある。)を少なくとも含んでいれば良く、めっき液の性能に悪影響を及ばさない限り、メチオニン類以外の他の錯化剤を更に含んでいても良い。すなわち本発明では、錯化剤としてメチオニン類を単独で用いても良いし、メチオニン類と他の錯化剤を併用しても良い。
【0036】
本発明に用いられる「他の錯化剤」の種類は、電気めっきの分野などで通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、前述したチオ尿素、チオール化合物などが挙げられる。これらは単独、又は2種以上を混合して用いてもよい。電気銅めっき液中に占める、上記他の錯化剤の濃度(単独で含むときは単独の量であり、2種以上を含むときは合計量である。)は好ましくは0.01g/L以上、より好ましくは0.05g/L以上、更に好ましくは0.1g/L以上、更により好ましくは0.5g/L以上であり;好ましくは300g/L以下、より好ましくは200g/L以下、更に好ましくは100g/L以下、更により好ましくは50g/L以下である。
【0037】
更に本発明の銅-銀めっき浴は、上記成分の他、下記成分を含む。下記成分として、例えば前述した特許文献2に記載のブライトナー等を参照することができる。
【0038】
ブライトナーはめっき促進剤としてめっき皮膜の光沢を得るために添加される。本発明では硫黄含有有機化合物を用いることが好ましく、例えば、下記例が挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。但し、これらに限定されず、本発明の技術分野で通常用いられるものを用いることができる。
・R1-S-(CH2)n-(O)p-SO3M
・(R2)2N-CSS-(CH2)n-(CHOH)p-(CH2)n-(O)p-SO3M
・R2-O-CSS-(CH2)n-(CHOH)p-(CH2)n-(O)p-SO3M
(式中、
R1は水素原子、又は-(S)m-(CH2)n-(O)p-SO3Mで示される基、
R2は炭素数1~5のアルキル基、
Mは水素原子又はアルカリ金属、
mは0又は1、nは1~8の整数、pは0又は1である。)
【0039】
めっき浴中に含まれるブライトナーの濃度は、0.01~1000mg/Lであることが好ましく、0.05~500mg/Lであることがより好ましい。上記濃度が0.01mg/Lを下回ると十分な光沢が得られない。一方、上記濃度が1000mg/Lを超えると外観不良が生じる。
【0040】
キャリアーはめっき抑制剤として添加される。本発明ではポリエーテル化合物を用いることが好ましく、例えば、-O-を4個以上含有するポリアルキレングリコールを含む化合物が挙げられる。このようなポリアルキレングリコールとして、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、これらのコポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールアルキルエーテルなどが挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。但し、これらに限定されず、本発明の技術分野で通常用いられるものを用いることができる。
【0041】
めっき浴中に含まれるキャリアーの濃度は、5~5000mg/Lであることが好ましく、10~3000mg/Lであることがより好ましい。上記濃度が5mg/Lを下回るとノジュールなどの問題がある。一方、上記濃度が5000mg/Lを超えるとコストが上昇する。
【0042】
レベラーは、酸性浴中でカチオンとして作用し、電荷の高い部分に電気的に集中してめっき皮膜の析出を抑え、レベリング性を得るために添加される。本発明では窒素含有有機化合物を用いることが好ましく、具体的には、ポリエチレンイミン及びその誘導体、ポリビニルイミダゾール及びその誘導体、ポリビニルアルキルイミダゾール及びその誘導体、ビニルピロリドンとビニルアルキルイミダゾール及びその誘導体とのコポリマー、ヤヌスグリーンBなどの染料、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄共重合体、部分3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル化ジアリルアミン塩酸塩・ジアリルジメチルアンモニウムクロリド共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体、ジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体、アリルアミン塩酸塩重合体、アリルアミン(フリー)重合体、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩共重合体、ジアミンとエポキシの重合物、モルホリンとエピクロロヒドリンの重合物、ジエチレントリアミン、アジピン酸及びε-カプロラクタムからなる重縮合物のエピクロロヒドリン変性物などが挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。但し、これらに限定されず、本発明の技術分野で通常用いられるものを用いることができる。
【0043】
めっき浴中に含まれるレベラーの濃度は、0.01~3000mg/Lであることが好ましく、0.05~2000mg/Lであることがより好ましい。上記濃度が0.01mg/Lを下回ると十分なレベリングが得られない。一方、上記濃度が3000mg/Lを超えるとコストが上昇する。
【0044】
上記成分の他、例えば浸透性などの特性向上のため、界面活性剤などの添加剤を、本発明の作用を損なわない範囲で添加することもできる。
【0045】
本発明は上記のめっき浴を用いた点に特徴があり、電気めっき条件は特に限定されず、通常用いられる方法を採用することができる。例えば陰極電流密度は、好ましくは0.05~30A/dm2であり、より好ましくは0.05~20A/dm2である。撹拌方法は一般に用いられる方法を適用でき、例えばエアーレーション、噴流、パドル等が挙げられる。陽極は公知のものを使用でき、銅板等の可溶性アノード、不溶性アノードの両方を用いることができる。めっき温度は、好ましくは15~50℃であり、より好ましくは22~40℃である。
【0046】
めっき処理される基材(被めっき物)の種類は特に限定されず、銅、銅合金等の金属等の導電性材料、又はこれらの導電性材料とセラミック、ガラス、プラスチック、フェライト等の絶縁性材料とが複合したものであってもよい。これらの基板は、予め脱脂処理や活性化処理等の適切な前処理を施した上で、めっき処理を行なうことが好ましい。
【0047】
本発明のめっき浴は電気めっきが施される用途全般に用いることができ、例えばウエハ、プリント基板、半導体パッケージ、チップ部品、バンプ、装飾めっき、防錆めっき、リードフレーム、電子部品、コネクタ、フェライト、電鋳、自動車関連部品などが例示される。
【0048】
(本発明のめっき皮膜)
本発明の銅-銀合金めっき皮膜は、めっき皮膜中の銀含有量が0.1~20質量%、且つ、硫黄含有量が1質量%以下である。銀含有量は、0.2~10質量%であることが好ましい。
【0049】
本発明のめっき皮膜は、硫黄含有量が1質量%以下に低減されている点に特徴がある。前述したようにチオ尿素などの錯化剤を用いたときはめっき皮膜中に硫黄が数%程度共析するが、本発明によれば、硫黄の共析を分析装置(後記する実施例ではエネルギー分散型X線分析、EDS)の検出下限以下に抑えることができる。硫黄含有量は少ない程良く、後記する実施例ではEDS測定装置の検出下限濃度(0.2質量%)以下に抑制できた。
【0050】
本発明のめっき皮膜は、高温加熱後の硬度および強度にも優れている。好ましくは、230℃で2時間加熱した後の硬度はビッカース硬度で150Hv以上、且つ、引張強度は300MPa以上を満足する。230℃で2時間加熱した後の硬度は180Hv以上がより好ましく、引張強度は400MPa以上が好ましい。硬度および引張強度の測定方法は実施例の欄で詳述する。
【0051】
本発明のめっき皮膜は銀を含有しているため、めっき直後の結晶状態を維持することができ、室温で放置後、更には高温加熱処理後もめっき直後の柱状結晶を有している。ここで柱状結晶とは、めっき皮膜の膜厚方向の長さの平均値をaとし、めっき皮膜の膜厚方向に垂直な方向の長さ(幅)の平均値をbとしたとき、平均縦横比のa/bが1超のものを意味する。
【0052】
(電子機器構成部品)
本発明には上記めっき皮膜を有する電子機器構成部品も包含される。上記電子機器構成部品として、例えばチップ部品、水晶発振子、バンプ、コネクタ、リードフレーム、フープ材、半導体パッケージ、プリント基板等の電子機器を構成する部品が挙げられる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0054】
本実施例では、銅めっき浴(合金成分および錯化剤の添加無し、従来例)または銅-銀合金めっき浴[錯化剤としてチオ尿素を使用(比較例);または、DL-メチオニン、N-アセチル-DL-メチオニン、DL-メチオニンスルホキシド(本発明例)を使用]を用い、以下のようにして電気めっきを行なったときの各種特性を調べた。
【0055】
No.1(従来例)
下記組成の銅めっき液を調製した後、浴量5Lの小型装置を用いてSUS板上に電気めっきを行って膜厚50umの銅めっき皮膜を有するNo.1の試料を得た。
(めっき液の組成)
CuSO4・5H2O=100g/L、H2SO4=150g/L、塩化物イオンとしてHCl(塩化物イオン濃度=30mg/L)、ブライトナーとしてビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド=5mg/L、キャリアーとしてポリエチレングリコール=300mg/L、レベラーとしてポリエチレンイミン=0.2mg/L
(電気めっきの条件)
陰極電流密度:2A/dm2、浴温:25℃、めっき時間:113分、
撹拌方法:エアー撹拌
【0056】
No.2(比較例)
No.1において、錯化剤としてチオ尿素=1g/L、合金成分としてAg2SO4=0.1g/Lを添加して銅-銀めっき液を調製したこと以外はNo.1と同様にして電気めっきを行ってNo.2の試料を得た。
【0057】
No.3(本発明例)
No.2において、錯化剤としてチオ尿素でなくDL-メチオニン=30g/Lを添加したこと以外はNo.2と同様にして電気めっきを行い、膜厚50umの銅-銀めっき皮膜を有するNo.3の試料を得た。
【0058】
No.4(本発明例)
No.2において、錯化剤としてチオ尿素でなくN-アセチル-DL-メチオニン=10g/Lを添加したこと以外はNo.2と同様にして電気めっきを行い、膜厚50umの銅-銀めっき皮膜を有するNo.4の試料を得た。
【0059】
No.5(本発明例)
No.2において、錯化剤としてチオ尿素でなくDL-メチオニンスルホキシド=10g/Lを添加したこと以外はNo.2と同様にして電気めっきを行い、膜厚50umの銅-銀めっき皮膜を有するNo.5の試料を得た。
【0060】
上記試料について、めっき直後および230℃で2時間加熱処理した後の皮膜外観を目視で観察すると共に、下記項目を測定した。
【0061】
(1)皮膜中の硫黄含有量
エネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X-ray spectrometry、EDS;アメテック社製のEDAX OCTANE PLUSを使用)を用い、皮膜中の硫黄含有量(質量%)を測定した。表1に、めっき皮膜中の硫黄含有量を示す。上記測定方法における検出限界濃度は0.2%である。
【0062】
(2)結晶組織
集束イオンビーム(Focused Ion Beam、FIB)加工観察装置(日立ハイテクノロジーズ製のXVISION 210DB)を用いて試料の膜厚方向に垂直な断面を露出させ、その断面を上記加工装置に付属する走査イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope、SIM)により観察した。
図3に、No.1~3における加熱処理後の結晶組織を示す。
【0063】
(3)引張強度
オートグラフAGS-X(島津製作所製)を用いてめっき皮膜の引張強度を測定した。測定皮膜は5cm×1.27cmの短冊型、皮膜厚さは50μmとした。
図4に、No.1、3におけるめっき直後および加熱処理後の引張試験の結果を示す。
【0064】
(4)ビッカース硬度
ビッカース硬さ試験機HM-124(株式会社アカシ製)を用いて、下記条件でめっき皮膜の硬度を測定した。
荷重:0.05kg、保持時間:10秒、皮膜厚さ:50μm
【0065】
これらの結果を表1に併記する。
【0066】
【0067】
まずめっき直後および加熱処理後の銅-銀合金めっき皮膜外観について、
図1、
図2を参照しながら説明する。
図1、
図2はそれぞれ、No.2(錯化剤としてチオ尿素を用いた比較例)、No.3(錯化剤として本発明で規定するメチオニンを用いた本発明例)における皮膜外観を示す写真である。
【0068】
No.2では、めっき直後は
図1(a)に示すように光沢皮膜が得られるが、この皮膜を端部から剥離すると
図1(b)に示すようにSUS板から皮膜が細かく崩れ落ちた。更に加熱処理後の皮膜は一層脆弱化してしまい、
図1(c)に示すように皮膜の一部が欠落した。この結果より、錯化剤としてチオ尿素を用いると脆弱な皮膜しか形成されないことが分かった。
【0069】
これに対しNo.3では、めっき直後は
図2(a)に示すように外観上良好な皮膜が形成されると共に、加熱処理後も
図2(b)に示すように上記皮膜状態を維持することができた。No.4および5の本発明例についても、図示していないが同様の皮膜が得られたことを確認している。
【0070】
なお、合金成分および錯化剤を添加しないNo.1(銅めっき、従来例)の写真は図示していないが、めっき直後は外観上良好な皮膜が形成されるものの、加熱処理後は熱処理による再結晶が原因で当該皮膜状態を維持できなかった。
【0071】
次に表1、
図3、
図4を参照しながらNo.1~5の結果を詳述する。
図3は、加熱処理後におけるNo.1~3の結晶組織を示すFIB-SIM写真であり、
図4はNo.1、3における引張試験の結果を示すグラフである。
【0072】
まずNo.1について考察する。No.1の銅めっき皮膜には錯化剤が添加されておらず、めっき皮膜に硫黄は殆ど共析しないため、めっき直後の硬度や引張強度は良好である。しかし、その後に加熱処理すると熱処理による再結晶が原因で、めっき直後に比べて硬度や引張強度が著しく低下した(引張強度について、
図4(a)を参照)。すなわち銅めっきでは、硫黄脆化の問題は生じないが、熱処理による再結晶化により機械的物性が低下するという問題がある。
【0073】
次にNo.2について考察する。No.2のようにめっき皮膜に銀を共析させることで加熱処理後の再結晶を抑制できる(
図3を参照)。しかし、銀を共析させるためにNo.2では錯化剤としてチオ尿素を添加したため、めっき皮膜中に硫黄が数%共析し、硫黄脆化が生じた。硫黄脆化の問題は加熱処理によって一層促進された。そのため、No.2では硬度および強度に優れためっき皮膜が得られなかった。
【0074】
次にNo.3について考察する。No.3ではめっき直後の結晶状態を維持できて柱状結晶を有する皮膜が得られた(
図3を参照)。更にNo.3では錯化剤としてメチオニンを用いたため、加熱処理後も硫黄脆化による問題は見られず、めっき直後のみならず加熱処理後も硬度および強度に優れた皮膜が得られた(引張強度について
図4(b)を参照)。
【0075】
なおNo.4および5についても、図示していないが柱状結晶を有する皮膜が得られると共に、表1に示すように上記No.3と同様の良好な結果が得られた。