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特許7011525酸化マグネシウム粉末、複合材、および酸化マグネシウム粉末の製造方法
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  • 特許-酸化マグネシウム粉末、複合材、および酸化マグネシウム粉末の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】酸化マグネシウム粉末、複合材、および酸化マグネシウム粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 5/06 20060101AFI20220119BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220119BHJP
   C08K 7/08 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C01F5/06
C08L101/00
C08K7/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018087048
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2019189508
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】梅津 基宏
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-212532(JP,A)
【文献】特開平01-179717(JP,A)
【文献】特開2015-214639(JP,A)
【文献】特開2014-167117(JP,A)
【文献】特開2014-214222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 5/06
C08L 101/00
C08K 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂用フィラー材として用いられる酸化マグネシウム粉末であって、
平均繊維長が10μm以上50μm以下、平均繊維径が0.2μm以上2μm以下である針状の酸化マグネシウムと、
平均粒径が2μm以上10μm以下である球状の酸化マグネシウムと、で構成され、
前記針状の酸化マグネシウムの平均繊維径をA、前記球状の酸化マグネシウムの平均粒径をBとしたとき、A/Bの値が0.5以下であることを特徴とする酸化マグネシウム粉末。
【請求項2】
主に酸化マグネシウム粉末からなるフィラーと樹脂とを含む複合材であって、
請求項1記載の酸化マグネシウム粉末が、樹脂の体積に対して40vol%以上80vol%以下分散していることを特徴とする複合材。
【請求項3】
引っ張り強度15MPa以上、弾性率2000MPa以上、かつ熱伝導率1.0W/(m・K)以上であることを特徴とする請求項2記載の複合材。
【請求項4】
針状の酸化マグネシウムと球状の酸化マグネシウムとから構成される酸化マグネシウム粉末の製造方法であって、
酸化マグネシウム原料粉末を水と混合し、5wt%以上15wt%以下の濃度でスラリーを生成する工程と、
前記酸化マグネシウム原料粉末に対しHSO/MgOのモル比が0.2以上0.7以下となるように、前記スラリーに硫酸を添加する工程と、
前記硫酸を添加したスラリーを高温高圧化し、前記スラリー中で前記酸化マグネシウム原料粉末と前記硫酸と前記水とを水熱合成させる工程と、
前記水熱合成させて得られたスラリーを吸引ろ過し、前記ろ過の残留物を乾燥させる工程と、
前記乾燥させた残留物を焼成し、熱分解させて酸化マグネシウム粉末を生成する工程と、を含むことを特徴とする酸化マグネシウム粉末の製造方法。
【請求項5】
前記酸化マグネシウム原料粉末は、平均粒径が5μm以上30μm以下、D10が1μm以上、D90が80μm以下で、純度90wt%以上であることを特徴とする請求項4記載の酸化マグネシウム粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウム粉末、複合材、および酸化マグネシウム粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化マグネシウムは、熱伝導性が高く(45~60W/m・k)、電気絶縁性に優れた材料で、工業的には半導体向けの放熱部品用のフィラーとして使用されることがある。例えば、特許文献1には、塩基性硫酸マグネシウムから製造される柱状酸化マグネシウム粒子を熱伝導性フィラーとして用いることが記載されている。
【0003】
また、酸化マグネシウムは、樹脂用フィラー材として使用されることもある。樹脂用フィラー材は、樹脂マトリックス内で隣り合うフィラーの接触により熱伝導パスが形成されることにより、熱を効率よく伝達する。
【0004】
フィラー材の粒子形状において、針状の粒子はアスペクト比が大きいため、フィラー材の長手方向において樹脂組成物の熱伝導効率が向上する。すなわち、アスペクト比が低い球状粒子と比較し、少ない添加量で熱伝導率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-214222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フィラー材を樹脂に添加して高熱伝導化を図るためには、フィラー材の添加量を増大する必要がある。しかし、針状粒子では、添加量の増大により、樹脂とフィラー材にボイド(空隙)が形成されるため、熱伝導率、樹脂の引張り強度や曲げ強度、剛性の低下の要因となる。また、針状粒子は、かさ高いことから、樹脂に添加した際の充填密度が低くなりやすく、樹脂への添加量には限界があり、大幅な熱伝導率の向上が困難であった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、酸化マグネシウム粉末を針状粒子と球状粒子の混合材とすることで、樹脂への添加量を増大させても樹脂とフィラー材にボイド(空隙)が形成され難く、機械的特性の低下を抑制しながら、熱伝導率を向上できる酸化マグネシウム粉末、それを添加した複合材、および酸化マグネシウム粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の酸化マグネシウム粉末は、樹脂用フィラー材として用いられる酸化マグネシウム粉末であって、平均繊維長が10μm以上50μm以下、平均繊維径が0.2μm以上2μm以下である針状の酸化マグネシウムと平均粒径が2μm以上10μm以下である球状の酸化マグネシウムと、で構成され、前記針状の酸化マグネシウムの平均繊維径をA、前記球状の酸化マグネシウムの平均粒径をBとしたとき、A/Bの値が0.5以下であることを特徴としている。
【0009】
これにより、酸化マグネシウム粉末の樹脂への添加量を増大させても樹脂とフィラー材にボイド(空隙)が形成され難くなる。また、添加量を多くしたときに機械的特性の低下を抑制できるので、針状粒子のみの場合、または球状粒子のみの場合と比較し、樹脂への添加量を多くすることができ、熱伝導率を向上できる。
【0010】
(2)また、本発明の複合材は、主に酸化マグネシウム粉末からなるフィラーと樹脂とを含む複合材であって、上記(1)記載の酸化マグネシウム粉末が、樹脂の体積に対して40vol%以上80vol%以下分散していることを特徴としている。これにより、複合材の機械的特性の低下を抑制しつつ、熱伝導率を向上できる。
【0011】
(3)また、本発明の複合材は、引っ張り強度15MPa以上、弾性率2000MPa以上、かつ熱伝導率1.0W/(m・K)以上であることを特徴としている。これにより、引っ張り強度、弾性率、および熱伝導率が高い複合材を構成できる。
【0012】
(4)また、本発明の酸化マグネシウム粉末の製造方法は、針状の酸化マグネシウムと球状の酸化マグネシウムとから構成される酸化マグネシウム粉末の製造方法であって、酸化マグネシウム原料粉末を水と混合し、5wt%以上15wt%以下の濃度でスラリーを生成する工程と、前記酸化マグネシウム原料粉末に対しHSO/MgOのモル比が0.2以上0.7以下となるように、前記スラリーに硫酸を添加する工程と、前記硫酸を添加したスラリーを高温高圧化し、前記スラリー中で前記酸化マグネシウム原料粉末と前記硫酸と前記水とを水熱合成させる工程と、前記水熱合成させて得られたスラリーを吸引ろ過し、前記ろ過の残留物を乾燥させる工程と、前記乾燥させた残留物を焼成し、熱分解させて酸化マグネシウム粉末を生成する工程と、含むことを特徴としている。これにより、針状の酸化マグネシウムと球状の酸化マグネシウムとから構成される酸化マグネシウム粉末を生成できる。
【0013】
(5)また、本発明の酸化マグネシウム粉末の製造方法は、前記酸化マグネシウム原料粉末は、平均粒径が5μm以上30μm以下、D10が1μm以上、D90が80μm以下で、純度90wt%以上であることを特徴としている。これにより、針状の酸化マグネシウムと球状の酸化マグネシウムとが均一に混合された純度の高い酸化マグネシウム粉末を容易に生成できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸化マグネシウム粉末の樹脂への添加量を増大させても樹脂とフィラー材にボイド(空隙)が形成され難くなる。また、添加量を多くしたときに機械的特性の低下を抑制できるので、針状粒子のみの場合、または球状粒子のみの場合と比較し、樹脂への添加量を多くすることができ、熱伝導率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の酸化マグネシウム粉末を示す概念図である。
図2】本発明の酸化マグネシウム粉末の製造方法を示すフローチャートである。
図3】原料の粒度分布を示すグラフである。
図4】製造物のXRD測定結果を示すグラフである。
図5】製造物の光学顕微鏡写真である。
図6】実施例および比較例の製造条件および結果を示す表である。
図7】(a)~(c)それぞれ複合材の引っ張り強度、弾性率、熱伝導率を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
[酸化マグネシウム粉末の構成]
図1は、本発明の酸化マグネシウム粉末を示す概念図である。酸化マグネシウム粉末10は、樹脂用フィラー材として用いられる酸化マグネシウム粉末であって、針状の酸化マグネシウム20と球状の酸化マグネシウム30とで構成される。針状の酸化マグネシウム20は、平均繊維長が10μm以上50μm以下、平均繊維径が0.2μm以上2μm以下である。また、球状の酸化マグネシウム30は、平均粒径が2μm以上10μm以下である。そして、針状の酸化マグネシウム20の平均繊維径をA、球状の酸化マグネシウム30の平均粒径をBとしたとき、A/Bの値が0.5以下である。
【0018】
このような針状の酸化マグネシウム20と球状の酸化マグネシウム30とで構成されることで、酸化マグネシウム粉末10の樹脂への添加量を増大させても、針状粒子同士の間隙に球状粒子が入り込み、樹脂とフィラー材にボイド(空隙)が形成され難くなる。また、添加量を多くしたときに樹脂の引っ張り強度や曲げ強度、剛性等の機械的特性の低下を抑制できるので、針状粒子のみの場合、または球状粒子のみの場合と比較し、樹脂への添加量を多くすることができ、熱伝導率を向上できる。
【0019】
なお、針状の酸化マグネシウム20の平均繊維長、平均繊維径および球状の酸化マグネシウム30の平均粒径は、以下のようにして測定する。まず、試料のSEM写真を倍率2000倍で複数回撮影し、撮影した画像の測定領域にあるすべての粒子の最大径および最小径を測定する。次に、アスペクト比(最大径と最小径の比)が1.5以上の粒子を針状粒子とし、1.5未満の粒子を球状粒子とする。針状粒子の最大径の平均および最小径の平均を針状の酸化マグネシウム20の平均繊維長および平均繊維径とする。また、球状粒子の最大径と最小径の平均を球状の酸化マグネシウム30の平均粒径とする。測定は、計測された粒子の個数が20個以上になるまで行なう。
【0020】
酸化マグネシウム粉末10は、上記方法で計測した針状の酸化マグネシウム20の個数の割合が、50%以上80%以下であることが好ましい。また、酸化マグネシウム粉末10は、MgOの含有率が、90wt%以上であることが好ましい。
【0021】
[複合材の構成]
上記のような酸化マグネシウム粉末をフィラーとして樹脂に混合した複合材を説明する。複合材は、樹脂にフィラーが分散して形成されている。また、複合材に用いられる樹脂には、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エポキシ等が用いられる。これらの樹脂に、針状の酸化マグネシウムと球状の酸化マグネシウムとで構成される酸化マグネシウム粉末を分散させることで、球状の酸化マグネシウムが、針状の酸化マグネシウム同士の間隙に入り、樹脂とフィラー材にボイド(空隙)が形成され難くなる。また、充填率を高くすることが可能となる。
【0022】
複合材に含まれる酸化マグネシウム粉末は、樹脂の体積に対して40vol%以上80vol%以下である。40vol%より小さいと充填率が低いため熱伝導率があまり高くならず、80vol%より大きいと引っ張り強度や曲げ強度が低くなることがあるからである。
【0023】
[酸化マグネシウム粉末の製造方法]
図2は、酸化マグネシウム粉末の製造方法を示すフローチャートである。図2に沿って、酸化マグネシウム粉末の製造方法を説明する。まず、酸化マグネシウム(MgO)原料粉末を準備する。原料粉末として、鉱物系の酸化マグネシウムを用いることができる。例えば、炭酸マグネシウムまたは水酸化マグネシウムを主成分とする鉱物を550~1400℃で焼成して得た軽焼マグネシアの一部を水和したものを用いることができる。炭酸マグネシウムを主成分とする鉱物の例としては、マグネサイト、ドロマイト等が挙げられる。
【0024】
次に、酸化マグネシウム原料粉末を水と混合し、スラリーを生成する(工程P1)。混合する水は、蒸留水を用いることができる。酸化マグネシウム原料粉末は、平均粒径(D50)が5μm以上30μm以下、D10が1μm以上、D90が80μm以下であることが好ましい。平均粒径(D50)が5μm未満またはD10が1μm未満の原料粉末を用いると、MgO粒子の硫酸溶解時に再析出が抑制され、収率が大幅に低減することがある。また、D90が80μmより大きい原料粉末を用いると、原料MgOの溶解が不十分となり、原料MgO粒子が残存してしまうことがある。また、酸化マグネシウム原料粉末は、純度90wt%以上であることが好ましい。また、酸化マグネシウム原料粉末は、球状粒子であることが好ましい。
【0025】
スラリーは、5wt%以上15wt%以下の濃度で生成する。スラリー濃度を5wt%未満にすると、スラリー中の硫酸濃度(硫酸と水の比)が低くなり、硫酸とMgOの反応が不十分となる。また、酸化マグネシウム粉末の収率が低下する。スラリー濃度を15wt%より大きくすると、水分量が不足し、スラリーが増粘するため、反応が不均一となる。なお、スラリー濃度は、10wt%以上15wt%以下であることが好ましい。
【0026】
次に、酸化マグネシウム原料粉末に対し、HSO/MgOのモル比が0.2以上0.7以下となるように、硫酸を添加する(工程P2)。硫酸の添加量を、上記モル比で0.2未満にすると、原料のMgOの溶解が不十分となり、MgO粒子が残存してしまう。硫酸の添加量を、0.7より大きくすると、溶解したMgO粒子の再析出が抑制され、収率が大幅に低減する。なお、硫酸の添加量は、酸化マグネシウム原料粉末に対し、HSO/MgOのモル比が0.2以上0.4以下であることが好ましい。スラリー濃度および硫酸添加量は、硫酸に含まれる水分量も含めて調整する。
【0027】
上記のようにスラリー濃度および硫酸添加量を調整することで、針状の酸化マグネシウムと球状の酸化マグネシウムとで構成される酸化マグネシウム粉末を容易に生成できる。
【0028】
次に、硫酸を添加したスラリーを撹拌しながら高温高圧化し、スラリー中で酸化マグネシウム原料粉末と硫酸と水とを水熱合成させて塩基性硫酸マグネシウムウィスカー(MgSO・3HO・5Mg(OH))を生成する(工程P3)。高温高圧化の工程では、スラリーを150℃以上に加熱しつつ、0.80MPa以上で加圧した状態を1時間以上保持することが好ましい。これにより、原料粉末の水熱合成を十分に進行させることができる。原料粉末の水熱合成により、原料のMgOが硫酸に溶解し再析出することで、針状のMgSO・3HO・5Mg(OH)が形成される。
【0029】
次に、水熱合成させて得られたスラリーを吸引ろ過し、ろ過の残留物を乾燥させる(工程P4)。乾燥させた残留物として中間躯体のMgSO・3HO・5Mg(OH)が得られる(工程P5)。そして、乾燥させた残留物を焼成し、中間躯体を熱分解させ、加熱脱水および脱硫酸する(工程P6)。
【0030】
焼成工程では、残留物を950℃以上1300℃以下の温度に加熱することが好ましい。これにより、中間躯体の脱水および脱硫酸反応を進行させるとともに、その融解を抑止し、酸化マグネシウム粉末を生成できる。
【0031】
このようにして、針状の酸化マグネシウムと球状の酸化マグネシウムとで構成される酸化マグネシウム粉末を生成できる(工程P7)。酸化マグネシウム原料粉末と硫酸とを水熱合成し、得られた中間躯体を熱分解させることで、低コストかつ短時間で針状の酸化マグネシウムと球状の酸化マグネシウムとで構成される酸化マグネシウム粉末を生成できる。
【0032】
[実施例、比較例]
上記の製造方法およびその製造物の特徴を検証するため、複数種類の酸化マグネシウム粉末原料を使用して、スラリー濃度、硫酸濃度を変えて酸化マグネシウム粉末を作製した。図6は、実施例および比較例の製造条件を示す表である。それぞれの実施例、比較例は、粒度分布の異なる純度90%の酸化マグネシウム原料粉末を出発原料とした。また、それぞれの実施例、比較例は、水熱合成の温度は140~180℃、圧力は0.8~1.0MPa、保持時間は0.5~3時間、焼成温度は950℃、焼成時間は1時間として、条件を変えて作製した。
【0033】
(XRD測定)
実施例1を作製する際に、酸化マグネシウム生成物に対して、粉末X線回折装置(Brucker社製)を用いてX線回折(XRD)測定を行なった。図4は、生成物のXRD測定結果を示すグラフである。図4に示すように、生成物のX線回折プロファイル上には酸化マグネシウムに特有のピークが現れた。
【0034】
(粒度分布測定)
また、実施例1、2、9および比較例1、8で用いた酸化マグネシウム原料粉末は、レーザ回折・散乱法により、マイクロトラック粒度分析計(日機装株式会社製)を用いて粒度分布測定をした。図3は、実施例2で用いた原料の粒度分布のグラフである。
【0035】
実施例1の酸化マグネシウム原料粉末は、平均粒径(D50)が5μm、D10が1μm、D90が20μmであった。実施例2の酸化マグネシウム原料粉末は、平均粒径が23μm、D10が3μm、D90が63μmであった。実施例9の酸化マグネシウム原料粉末は、平均粒径が30μm、D10が5μm、D90が80μmであった。比較例1の酸化マグネシウム原料粉末は、平均粒径が3μm、D10が0.5μm、D90が15μmであった。比較例8の酸化マグネシウム原料粉末は、平均粒径が35μm、D10が5μm、D90が85μmであった。実施例3~8および比較例2~7は、実施例2と同じ酸化マグネシウム原料粉末を使用した。
【0036】
(粒子形態測定)
実施例4の原料および生成物について、走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製)を用いてSEM観察し、粒子形態測定を行なった。その他の実施例および比較例の酸化マグネシウム粉末の試料についても、それぞれ粒子形態測定をした。
【0037】
実施例4の生成物の酸化マグネシウム粉末は、図5に示すように、針状の酸化マグネシウムと球状の酸化マグネシウムとで構成されていた。針状の酸化マグネシウムは、平均繊維長が30μm、平均繊維径(A)が0.5μmであった。また、球状の酸化マグネシウムは、平均粒径(B)が5μmであった。Aは0.5μm、Bは5μmであったため、A/Bの値は0.1であった。その他の実施例も、A/Bの値が0.5以下であることを確認した。
【0038】
(好適な製造条件)
(1)スラリー濃度
図6は、実施例および比較例の製造条件、収率および製造物に含まれる針状MgOの量を示す表である。比較例2、実施例2、5、8および比較例7は、同じ酸化マグネシウム原料粉末を使用して、スラリー濃度を変更し、その他の条件は同じにして作製した。実施例2、5および8は、針状の酸化マグネシウムと球状の酸化マグネシウムとで構成される酸化マグネシウム粉末が得られた。比較例2は、収率が大幅に低減した。これは、スラリー濃度が低かったため、スラリー中の硫酸濃度(硫酸と水の比)が低くなり、硫酸とMgOの反応が不十分となったためと考えられる。比較例7は、部分的に粗大な球状粒子が含まれていた。これは、スラリー濃度が高かったため、水分量が不足し、スラリーが増粘するため、反応が不均一となったためと考えられる。
【0039】
したがって、スラリー濃度は、5wt%以上15wt%以下の範囲にあることが好ましいことが分かった。また、実施例2と比較して実施例5、8の収率が優れていたことから、スラリー濃度は、10wt%以上15wt%以下の範囲にあることがより好ましいことが分かった。
【0040】
なお、収率は、酸化マグネシウム原料粉末の重量に対して得られた酸化マグネシウム粉末の重量が、80wt%以上のときは◎、60wt%以上80wt%未満のときは○、60wt%未満のときは×で表した。また、針状の酸化マグネシウムの個数の割合は、50%以上80%以下のときは○、50%未満のときは×で表した。
【0041】
(2)硫酸添加量
比較例3、実施例3、5、7および比較例6は、同じ酸化マグネシウム原料粉末を使用して、HSO/Mgのモル比(原料MgOのMgに対する硫酸添加量)を変更し、その他の条件は同じにして作製した。実施例3、5および7は、針状の酸化マグネシウムと球状の酸化マグネシウムとで構成される酸化マグネシウム粉末が得られた。比較例3は、収率は問題なかったが、針状MgOの量が低減した。これは、硫酸添加量が少なかったため原料MgOの溶解が不十分となって再析出量が不十分となり、また、原料MgO粒子が残存してしまったためと考えられる。比較例6は、収率が大幅に低減した。これは、硫酸添加量が多すぎたため、溶解したMgO粒子の再析出が抑制されたためと考えられる。
【0042】
したがって、硫酸添加量は、酸化マグネシウム原料粉末のMgOに対するHSO/MgOのモル比で、0.2以上0.7以下であることが好ましいことが分かった。また、実施例7と比較して実施例3、5の収率が優れていたことから、0.2以上0.4以下であることがより好ましいことが分かった。
【0043】
(3)原料粉末の粒度分布
比較例1、実施例1、5、9および比較例8は、粒度分布の異なる酸化マグネシウム原料粉末を使用して、その他の条件は同じにして作製した。実施例1、5および9は、針状の酸化マグネシウムと球状の酸化マグネシウムとで構成される酸化マグネシウム粉末が得られた。比較例1は、収率が大幅に低減した。これは、原料の平均粒径およびD10が小さかったため、原料MgO粒子の硫酸溶解後の再析出が抑制されたためと考えられる。比較例8は、粗大な球状粒子が多く含まれていた。これは、平均粒径およびD90が大きかったため、原料MgO粒子の溶解が不十分となり、原料の球状粒子が残存したためと考えられる。したがって、酸化マグネシウム原料粉末は、平均粒径(D50)が5μm以上30μm以下、D10が1μm以上、D90が80μm以下のものが適していることが分かった。
【0044】
(4)その他の製造条件
比較例4、5および実施例4、5、6の水熱合成条件(温度、圧力および保持時間)から、水熱合成時の温度は150℃以上、圧力は0.8MPaより大きく、保持時間は1時間以上で行なうことが好ましいことが分かった。
【0045】
(5)結論
以上より、濃度5wt%以上15wt%以下かつ酸化マグネシウム原料粉末のMgOに対する硫酸添加量をHSO/MgOのモル比で0.2以上0.7以下に調整して水熱合成し、得られた中間躯体を乾燥して焼成することで、針状の酸化マグネシウムと球状の酸化マグネシウムとで構成される酸化マグネシウム粉末を安定的に得られることが実証された。
【0046】
(複合材の特性)
次に、実施例4の酸化マグネシウム粉末を、ポリプロピレン(日本ポリプロ社製 ノバテック)(以下、PPと略す)に対して35vol%~85vol%の割合で添加、分散させた複合材試料を作製した。また、球状の酸化マグネシウム粉末と針状のマグネシウム粉末が混合しているが、A/Bが0.6となって、0.5より大きかった比較例4の酸化マグネシウム粉末をPPに対して35vol%~85vol%の割合で添加、分散させた複合材試料を作製した。また、針状の酸化マグネシウム粉末をPPに対して35vol%~85vol%の割合で添加、分散させた複合材試料および球状の酸化マグネシウム粉末をPPに対して35vol%~85vol%の割合で添加、分散させた複合材試料を作製した。これらの複合材試料を準備し、引っ張り強度、弾性率、熱伝導率を測定した。
【0047】
引っ張り強度および弾性率の測定には、インストロン社製の万能材料試験機を用いた。熱伝導率の測定には、NETZSCH社製のLFAを用いてフラッシュ法により測定した。図7(a)~(c)は、それぞれ各試料の複合材の引っ張り強度、弾性率、熱伝導率の結果を示す表である。以下の記載では、実施例4の酸化マグネシウム粉末を用いた複合材を試料1、比較例4の酸化マグネシウム粉末を用いた複合材を試料2、針状の酸化マグネシウム粉末のみを用いた複合材を試料3、球状の酸化マグネシウム粉末のみを用いた複合材を試料4とする。
【0048】
(引っ張り強度)
試料1(本発明の酸化マグネシウム粉末)は、PPに対する添加率が小さいときは試料3(針状粒子のみ)より引っ張り強度がやや小さかった。添加率が大きくなると、試料3と比べて引っ張り強度の低下が低く抑えられた。試料4(球状粒子のみ)は、引っ張り強度が低下した。試料2(A/Bが0.5より大きい酸化マグネシウム粉末)は、試料4より引っ張り強度の低下が抑えられた。
【0049】
(弾性率)
試料1は、PPに対する添加率が小さいときは試料3より弾性率がやや小さかった。試料3が添加率70vol%で極大値を示し、80vol%で弾性率が低下したのに対し、試料1は、添加率80vol%まで弾性率が上昇し、極大値を示した。この極大値は、試料3の極大値より大きかった。試料2は、添加率80vol%で極大値を示した。この極大値は、試料4の極大値より大きかったが、試料3の極大値より小さかった。
【0050】
(熱伝導率)
試料1は、PPに対する添加率を大きくすると、それに伴い熱伝導率が上昇した。試料2および試料4は、いずれも、添加率70vol%で極大値を示した。試料3は、添加率40vol%で極大値を示した。この極大値は、試料2および試料4の極大値より大きかったが、試料1の添加率70vol%以上のときの値より小さかった。
【0051】
試料2は、A/Bが0.5より大きかったため、添加率を大きくしたとき、充填が不十分になる場合があるためと考えられる。試料3は、添加率を大きくしたとき、ボイド形成のため、物性が低下したと考えられる。
【0052】
以上より、針状の酸化マグネシウムと球状の酸化マグネシウムとで構成される酸化マグネシウム粉末は、樹脂に分散させるフィラー材として好適である。このような酸化マグネシウム粉末を樹脂に分散させた複合材は、熱伝導率、弾性率が向上し、引っ張り強度の低下が低く抑えられる。また、樹脂に分散させる酸化マグネシウム粉末は、樹脂の体積に対して40vol%以上80vol%以下であることが好ましい。
【符号の説明】
【0053】
10 酸化マグネシウム粉末
20 針状の酸化マグネシウム
30 球状の酸化マグネシウム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7