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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/68 20060101AFI20220119BHJP
   B60N 2/42 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
B60N2/68
B60N2/42
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018110864
(22)【出願日】2018-06-11
(65)【公開番号】P2019214229
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 満久
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-049386(JP,A)
【文献】特開2017-171074(JP,A)
【文献】特開2012-091565(JP,A)
【文献】特開2002-355140(JP,A)
【文献】特開2014-065341(JP,A)
【文献】特開2015-101339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/42,2/64,2/68,2/888
A47C 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートであって、
前記シートバックは、シートバックとヘッドレストとの機能を兼ね備えたハイバック型シートであって、表面を表皮で覆ったウレタンパッドと前記ウレタンパッドの周辺部分をサポートするシートバック側フレームと前記シートクッションに近い側で前記シートバック側フレームと接続する金属製のロアフレームとを備え、
前記シートバック側フレームは、
前記ロアフレームと接続して前記ロアフレームの左右に配置された1対のサイドフレー
ムと、前記ロアフレームから遠い側に配置したアッパーフレームと、前記1対のサイドフ
レームのそれぞれと前記アッパーフレームとを接続する接続機構部とを有し、
前記接続機構部の前記1対のサイドフレームのそれぞれと前記アッパーフレームとを接
続する部分において前記シートバックに搭乗者が搭乗する側と反対の側に切欠部が形成さ
れていることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項1記載の車両用シートであって、前記シートクッションと前記シートバックとの間にリクライニング機構部を更に備え、前記金属製のロアフレームは、前記リクライニング機構部と接続していることを特徴とする車両用シート。
【請求項3】
請求項1記載の車両用シートであって、前記接続機構部は、前記1対のサイドフレームのそれぞれと前記アッパーフレームとを接続する部分がそれぞれインサート成形により一体に形成されており、前記一体に形成されたそれぞれの部分を横フレームで接続する構成を備えていることを特徴とする車両用シート。
【請求項4】
請求項1記載の車両用シートであって、前記1対のサイドフレームと前記アッパーフレームは、繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いて射出成形により成形されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項5】
シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートであって、
前記シートバックは、シートバックとヘッドレストとの機能を兼ね備えたハイバック型シートであって、表面を表皮で覆ったウレタンパッドと前記ウレタンパッドの周辺部分をサポートするシートバック側フレームと前記シートクッションに近い側で前記シートバック側フレームと接続する金属製のロアフレームとを備え、
前記シートバック側フレームは、
前記ロアフレームと接続して前記ロアフレームの左右に配置された1対のサイドフレー
ムと、前記ロアフレームから遠い側に配置したアッパーフレームと、前記1対のサイドフ
レームのそれぞれと前記アッパーフレームと備え、
前記1対のサイドフレームのそれぞれと前記アッパーフレームとを衝撃吸収機構ユニット
で接続していることを特徴とする車両用シート。
【請求項6】
請求項記載の車両用シートであって、前記衝撃吸収機構ユニットの前記1対のサイドフレームのそれぞれと前記アッパーフレームとを接続する部分において、前記シートバックに搭乗者が搭乗する側と反対の側に切欠部が形成されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項7】
請求項記載の車両用シートであって、前記シートクッションと前記シートバックとの間にリクライニング機構部を更に備え、前記金属製のロアフレームは、前記リクライニング機構部と接続していることを特徴とする車両用シート。
【請求項8】
請求項記載の車両用シートであって、前記衝撃吸収機構ユニットは、前記1対のサイドフレームのそれぞれと前記アッパーフレームとを接続する部分がそれぞれインサート成形により一体に形成されており、前記一体に形成されたそれぞれの部分を横フレームで接続する構成を備えていることを特徴とする車両用シート。
【請求項9】
請求項記載の車両用シートであって、前記1対のサイドフレームと前記アッパーフレームは、繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いて射出成形により成形されていることを特徴とする車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関するものであり、特に、衝撃吸収機能を有するシートバックフレームを備えた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートのシートバックフレームに衝撃吸収機能を備える構成について、例えば特許文献1には、後方からの衝突(後突)時の過大な衝撃が入力したとき、強度脆弱部での座屈変形によって、シートバックフレームを後傾させ、これに追従して、ヘッドレストブラケットの前面サイドに上端の連結されたリンクアームを、強度脆弱部より前方の下端枢着点(段付きボルト)の回りで後傾させ、これに伴う、ヘッドレストブラケットの回動によって、ヘッドレストをシートバックフレームに対して前傾可能とすることにより、ヘッドレストによる頭部支持能力をより高め、後突時における着座者の頭部および頸部の保護の強化を図る構成が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、後面衝突時における衝撃エネルギーの吸収効率が高い車両用シートとして、車両用シートに、側方に位置する一対のサイドフレームと、一対のサイドフレームの下方を連結する下部フレームとを備え、下部フレームは、長手方向に沿って一対のサイドフレームの内側に形成され、所定の衝撃荷重以上の荷重に対して可撓性を有する水平部と、水平部から屈曲部を介して一対のサイドフレームの内側において延設された傾斜部と、を有するくびれ部を形成した構成が記載されている。
【0004】
一方、特許文献3には、シートのフレームを炭素繊維強化樹脂などの樹脂材料製のインナーフレーム部材とアウターフレーム部材とで閉断面構造を構成し、この樹脂製のインナーフレーム部材とアウターフレーム部材との間に接着面間のすき間が一定に保てる構造にして、このすき間に接着剤を充填することで樹脂製のインナーフレーム部材とアウターフレーム部材とを接着する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-258663号公報
【文献】国際公開番号WO2012/077764号公報
【文献】特開2014-65341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両用シートの軽量化を図るために、特許文献3に記載されているような、シートバックフレームの一部又は全体を樹脂材料で構成したものがある。しかし、特許文献3には、シートバックフレームに後方からの衝突による衝撃吸収機能を備えることについては配慮されていない。
【0007】
一方、特許文献1に記載されているような後方からの衝突による衝撃吸収機能を特許文献3に記載されているような一部又は全体を樹脂材料で構成したシートバックフレームに適用しようとすると、金属材料で形成されるリンク機構を追加しなければならず、車両用シートの軽量化を図るうえで障害となる。
【0008】
また、特許文献2に記載されているような後面衝突時における衝撃エネルギーを吸収する機構を特許文献3に記載されているような一部又は全体を樹脂材料で構成したシートバックフレームに適用しようとすると、リクライニング機構部に剛性を持たせた構成としなければならず、車両用シートの軽量化を図るうえで障害となる。
【0009】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決して、一部又は全体を樹脂材料で構成したシートバックフレームにおいて、重量を大きく増加させることなく衝撃吸収機能を備えることを可能にする車両用シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するために、本発明では、シートクッションとシートバックとを備えた車両用シートにおいて、シートバックは、シートバックとヘッドレストとの機能を兼ね備えたハイバック型シートであって、表面を表皮で覆ったウレタンパッドとウレタンパッドの周辺部分をサポートするシートバック側フレームとシートクッションに近い側でシートバック側フレームと接続する金属製のロアフレームとを備え、シートバック側フレームは、ロアフレームと接続してロアフレームの左右に配置された1対のサイドフレームと、ロアフレームから遠い側に配置したアッパーフレームと、1対のサイドフレームのそれぞれとアッパーフレームとを接続する接続機構部とを有し、接続機構部の1対のサイドフレームのそれぞれとアッパーフレームとを接続する部分においてシートバックに搭乗者が搭乗する側と反対の側に切欠部を形成した。
【0011】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、シートクッションとシートバック
とを備えた車両用シートにおいて、シートバックは、シートバックとヘッドレストとの機能を兼ね備えたハイバック型シートであって、表面を表皮で覆ったウレタンパッドとウレタンパッドの周辺部分をサポートするシートバック側フレームとシートクッションに近い側でシートバック側フレームと接続する金属製のロアフレームとを備え、シートバック側フレームは、ロアフレームと接続してロアフレームの左右に配置された1対のサイドフレームと、ロアフレームから遠い側に配置したアッパーフレームと備え、1対のサイドフレームのそれぞれとアッパーフレームとを衝撃吸収機構ユニットで接続する構成とした。

【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、一部又は全体を樹脂材料で構成した車両用シートのシートバックフレームにおいて、重量を大きく増加させることなく衝撃吸収機能を備えることを可能にした。
【0013】
また、本発明によれば、シートバック側フレームにEA機構ユニットを設ける構成としたので、シートバック側フレームの根元にあるリクライニング機構部にかかる負荷(衝撃力)を低減することができ、リクライニング機構部の強度を低減し、軽量化を図ることが可能になった。
【0014】
更に、本実施例によれば、EA機構ユニットを比較的簡素な構造で構成することができるので、シートバック側フレームを軽量化することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1に係る車両用シートの全体構成を示す斜視図である。
図2】本発明の実施例1に係る車両用シートから表皮及びウレタンパッドを取り除いた状態におけるフレームの外観を示す斜視図である。
図3】本発明の実施例1に係る車両用シートのシートバック側のフレームの斜視図である。
図4】本発明の実施例1に係る車両用シートのシートバック側のフレームを分解した状態を示す斜視図である。
図5】本発明の実施例1に係る車両用シートのシートバック側のフレームの図3におけるD矢視図である。
図6】本発明の実施例1に係る車両用シートのシートバック側のフレームのEA機構ユニットの右側のパイプの中心を通って図5の方向から見た面に平行な面における断面図である。
図7】本発明の実施例1に係る車両用シートのシートバック側のフレームの図5に示した構成を、矢印Pの衝撃荷重が加わる側から見た状態(搭乗者の側から見た状態)を示すシートバック側のフレームの部分正面図である。
図8】本発明の実施例1に係る車両用シートのシートバック側のフレームのEA機構ユニットの正面図である。
図9】本発明の実施例1に係る車両用シートのシートバック側のフレームの図3におけるA-A断面矢視図である。
図10】本発明の実施例1に係る車両用シートのシートバック側のフレームの図3におけるB-B断面矢視図である。
図11】本発明の実施例1に係る車両用シートのシートバック側のフレームの図3におけるC-C断面矢視図である。
図12】本発明の実施例1に係る車両用シートのシートバック側のフレームのEA機構ユニットの変形例の正面図である。
図13】本発明の実施例1に係る車両用シートのシートバック側のフレームのEA機構ユニットの変形例の側面図である。
図14】本発明の実施例1に係る車両用シートのシートバック側のフレームのEA機構ユニットの変形例の平面図である。
図15】本発明の実施例2に係る車両用シートのシートバック側のフレームの左右の前側サイドフレームとEA機構ユニットとをインサート成形により一体成形した状態を示す斜視図である。
図16】本発明の実施例2に係る車両用シートのシートバック側のフレームのインサート成形により一体成形した部分に前側アッパーフレームを更にインサート成形により成形した状態を示す斜視図である。
図17】本発明の実施例2に係る車両用シートのシートバック側のフレームのインサート成形により一体成形した部分と後側左サイドフレームと後側右サイドフレーム及び後側アッパーフレームとの関係を示す斜視図である。
図18】本発明の実施例3に係る車両用シートのシートバック側のフレームの前側左サイドフレームとEA機構ユニットとをインサート成形により一体成形した状態を示す斜視図である。
図19】本発明の実施例3に係る車両用シートのシートバック側のフレームの一体成形した前側左サイドフレームとEA機構ユニットとに前側右サイドフレームを更にインサート成形により一体成形した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、一部又は全体を樹脂材料で構成した車両用シートのシートバックフレームにおいて、シートバック側フレームの中間部分にEA機構ユニットを設ける構成としたことにより、シートバック側フレームの根元に設けたリクライニング機構部にかかる負荷(衝撃力)を低減させる構成とすることにより、リクライニング機構部の強度を低減させることを可能にし、リクライニング機構部及びシートバック側フレームの軽量化を図れるようにしたものである。
【0017】
以下に、本発明の実施例を、図を用いて説明する。
【実施例1】
【0018】
本実施例に係る車両用シート100の外観を、図1に示す。本実施例に係る車両用シート100は、搭乗者が着座するシートクッション10、シートクッション10に着座した搭乗者が背をもたれかけるシートバック20、シートクッション10を載せて前後方向に移動するガイドレール部30を備えている。シートクッション10は、ウレタンパッド12の表面を表皮11で覆った構成を有している。また、シートバック20も、ウレタンパッド22の表面を表皮21で覆った構成を有している。本実施例に係る車両用シート100のシートバック20は、シートバックとヘッドレストとの機能を兼ね備えた、ハイバック型シートの例を示している。
【0019】
図1に示した車両用シート100から表皮11および21とウレタンパッド12および22を取り除いた状態におけるフレームの斜視図を、図2に示す。図2において、40は、シートバック20を構成するシートバック側フレームであり、左右1対を成す左サイドフレーム41及び右サイドフレーム42、アッパーフレーム43、衝撃吸収機構ユニット(Energy Absorption 記構:以後、EA機構ユニットと記す)44を備えている。また、50は、シートクッション10を構成するシートクッション側フレームであり、詳細な構成を省略して図示している。
【0020】
70は、シートバック側フレーム40の両側の下端部を接続するロアフレームで、金属で形成されている。60は、シートクッション側フレーム50の左右を接続する連結棒であり、リクライニング機構部61と接続している。連結棒60の軸心は、シートバック20をリクライニングさせる場合の回転の中心となる。シートバック側フレーム40は、上位部がヘッドレストのフレーム機能を備えた、ハイバック型シートフレームを構成する。
【0021】
図3に、シートバック側フレーム40とロアフレーム70との関係を示す。ロアフレーム70は、カバー部71の左右に左ブラケット72と右ブラケット73を備えた構成を有している。ロアフレーム70の左ブラケット72と右ブラケット73とは、シートバック側フレーム40の左右1対を成す左サイドフレーム41及び右サイドフレーム42とそれぞれボルトなどの締結部材を用いて固定されている。
【0022】
また、シートバック側フレーム40の左右1対を成す左サイドフレーム41と右サイドフレーム42とは、EA機構ユニット44の横フレーム441の両サイドに溶接などにより固定された左右1対を成す左パイプ442及び右パイプ443により、アッパーフレーム43と接続されている。
【0023】
図4に、シートバック側フレーム40を分解した構成を示す。左サイドフレーム41の前側左サイドフレーム411と右サイドフレーム42の前側右サイドフレーム421及びアッパーフレーム43の前側アッパーフレーム431は、カーボン繊維やガラス繊維から成る短繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いて、EA機構ユニット44の左パイプ442及び右パイプ443と一緒にインサート成形され、一体化されている。
【0024】
このように一体化された前側左サイドフレーム411は、後側左サイドフレーム412と組み合わされ、接合面を接着剤で接着されて、左サイドフレーム41を構成する。同様に、一体化された前側右サイドフレーム421は、後側右サイドフレーム422と組み合わされ、接合面を接着剤で接着されて、右サイドフレーム42を構成する。更に、一体化された前側アッパーフレーム431は、後側アッパーフレーム432と組み合わされ、接合面を接着剤で接着されて、アッパーフレーム43を構成する。後側左サイドフレーム412、後側右サイドフレーム422、後側アッパーフレーム432は、短繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いて射出成形により形成される。
【0025】
前側左サイドフレーム411と後側左サイドフレーム412とが組み合わされ、接合面を接着剤で接着されて構成された左サイドフレーム41の下部は、内部が空洞に形成されている。そして、この空洞部分にロアフレーム70の左ブラケット72が挿入され、図示していないボルトで左ブラケット72が左サイドフレーム41に固定されている。ロアフレーム70の左ブラケット72には、リクライニング機構部61(図2参照)を取り付けるための孔74が形成されている。
【0026】
また、前側右サイドフレーム421と後側右サイドフレーム422とが組み合わされ、接合面を接着剤で接着されて構成された右サイドフレーム42の下部も内部が空洞に形成されている。そして、この空洞部分にロアフレーム70の右ブラケット73が挿入され、図示していないボルトで右ブラケット73が右サイドフレーム42に固定されている。
【0027】
図5には、図3におけるD矢視図、すなわち、前側右サイドフレーム421と前側アッパーフレーム431とがEA機構ユニット44の右パイプ443と一緒にモールド成形(インサート成形)されて、一体化された状態を示している。前側左サイドフレーム411と前側アッパーフレーム431との関係も同じであるので、図5において、括弧に入れて表示してある。
【0028】
前側右サイドフレーム421と前側アッパーフレーム431とは、EA機構ユニット44の右パイプ443で接続されている。EA機構ユニット44の右パイプ443には、切欠部444が形成されている。前側左サイドフレーム411と前側アッパーフレーム431とを接続するEA機構ユニット44の左パイプ442にも、切欠部が形成されている。
【0029】
EA機構ユニット44の右パイプ443の中心を通って、図5の方向から見た面に平行な面における断面図を、図6に示す。EA機構ユニット44の右パイプ443の下側は前側右サイドフレーム421と一体成形されており、前側右サイドフレーム421の開口部には、後側右サイドフレーム422が嵌め込まれて、内部が空洞化している。
【0030】
同様に、EA機構ユニット44の右パイプ443の上側は前側アッパーフレーム431と一体成形されており、前側アッパーフレーム431の開口部には、後側アッパーフレーム432が嵌め込まれて、内部が空洞化している。一方、EA機構ユニット44の右パイプ443には、図5で説明した矢印Pと反対の側に、切欠部444が形成されている。
【0031】
このような構成において、前側アッパーフレーム431の側に矢印Pで示すような大きな衝撃荷重が加わった場合(例えば、車両が追突されて、搭乗者による大きな衝撃荷重が矢印Pの方向から前側アッパーフレーム431の側に加わった場合)を想定する。このような場合、右パイプ443の切欠部444及び左パイプ442の切欠部445よりも上側に加えられた衝撃荷重(主に、搭乗者の頭部が当たることにより発生する衝撃荷重)により、右パイプ443の切欠部444と、左パイプ442の切欠部445に応力が集中する。
【0032】
このように切欠部444と445に応力を集中させるような構造とすることにより、左パイプ442と右パイプ443とは、切欠部444及び445で座屈して折れ曲がり易くなり、衝撃荷重が吸収されやすくなる。
【0033】
このような構成とすることにより、前側アッパーフレーム431の側に矢印Pで示す方向に大きな衝撃荷重が加わった場合、左パイプ442と右パイプ443とは、切欠部444及び445で座屈して折れ曲がって衝撃荷重を吸収するので、シートバック側フレーム40の下部のロアフレーム70に取り付けたリクライニング機構部61に加えられる負荷(衝撃力)を緩和(低減)することができる。
【0034】
その結果、ロアフレーム70及びリクライニング機構部61の衝撃荷重に対する強度を低減することができ、ロアフレーム70及びリクライニング機構部61の軽量化を図ることが可能になる。なお、切欠部444及び445の大きさ及び形状に応じて、吸収する衝撃荷重の大きさを変えることができる。
【0035】
なお、図5及び図6に示した構成では、矢印Pで示す方向に大きな衝撃荷重が加わった場合に、切欠部444及び445に応力を集中させる構成で説明したが、応力を集中させるための形状は、これに限られたものではない。例えば、切欠部444及び445の代わりに、切欠部444及び445に相当する位置に、左パイプ442と右パイプ443とのそれぞれの断面積が小さくなるような凹み部を設けてもよい。または、左パイプ442と右パイプ443とのそれぞれの肉厚を局所的に薄く形成して、左パイプ442と右パイプ443とのそれぞれに加わる曲げ応力が肉厚を局所的に薄く形成した部分に集中するような構成にしても良い。
【0036】
図5に示した構成を、矢印Pの衝撃荷重が加わる側から見た状態(搭乗者の側から見た状態)を、図7に示す。EA機構ユニット44の横フレーム441の両側に固定した1対を成す左パイプ442及び右パイプ443は、それぞれシートバック側フレーム40の左右1対を成す左サイドフレーム41と右サイドフレーム42及びアッパーフレーム43と繊維強化樹脂でインサート成形により一体化されて成形されている。
【0037】
図8に、EA機構ユニット44の構成を示す。本実施例に係るEA機構ユニット44は、横フレーム441の両側に1対の左パイプ442と右パイプ443が溶接されて固定されている。1対の左パイプ442及び右パイプ443の横フレーム441に対する傾き角は、前側右サイドフレーム421と前側アッパーフレーム431との接続部分の形状(傾き)及び前側左サイドフレーム411と前側アッパーフレーム431との接続部分の形状(傾き)に、対応している。
【0038】
左パイプ442及び右パイプ443は、内部が中空であり、またそれぞれの左パイプ442及び右パイプ443には、孔4421,4431がそれぞれ複数個形成されている。左パイプ442及び右パイプ443を、シートバック側フレーム40の左右1対を成す左サイドフレーム41及び右サイドフレーム42とアッパーフレーム43と繊維強化樹脂でインサート成形すると、繊維強化樹脂は左パイプ442及び右パイプ443の内部の中空な部分及び複数の孔4421,4431の内部にも入り込む。この複数の孔4421,4431の内部にも繊維強化樹脂を入り込ませることにより、インサート成形された左右1対を成す左サイドフレーム41及び右サイドフレーム42とアッパーフレーム43は、左パイプ442又は右パイプ443から抜けにくくなっている。
【0039】
図9には、図3におけるA-A断面の矢視図を示す。図3におけるA-A断面は、車両用シート100に着座した標準的な体型を有する搭乗者の腰から背中の下部に相当する高さの部分であり、搭乗者の側に突出す高さh1の寸法が比較的大きい部分である。この部分において、厚さt1の前側右サイドフレーム421に厚さt2の後側右サイドフレーム422に形成した段差部423と424よりも先の部分が挿入されて、接着剤425及び426で接着され、閉構造を形成している。
【0040】
一方、図10には、図3におけるB-B断面の矢視図を示す。図3におけるB-B断面は、車両用シート100に着座した標準的な体型を有する搭乗者の肩付近の背中の上部に相当する高さの部分であり、搭乗者の側に突出す高さh2の寸法が、図9に示したh1の寸法よりも小さく形成されている。この部分において、厚さt3の前側右サイドフレーム421と厚さt4の後側右サイドフレーム422との両方に形成した段差部427と428とにおいて、接着剤で接着され、閉構造を形成している。
【0041】
ここで、B-B断面における前側右サイドフレーム421の厚さt3は、図9に示したA-A断面における厚さt1よりも厚く形成されている。また、B-B断面における後側右サイドフレーム422の厚さt4は、図9に示したA-A断面における厚さt2よりも厚く形成されている。
【0042】
このように、A-A断面の高さh1よりも低い高さh2で形成されたB-B断面における厚さを、A-A断面の部分よりも厚く形成することにより、B-B断面における右サイドフレーム42の剛性をA-A断面の部分と同程度にすることができる。左サイドフレーム41についても同様である。
【0043】
一方、図3のアッパーフレーム43におけるC-C断面は、搭乗者が頭部をもたれかける部分である。この部分では、通常時において、左サイドフレーム41及び右サイドフレーム42と比べて大きな力が掛からないので、図11に示すように、前側アッパーフレーム431の厚さt5と後側アッパーフレーム432の厚さt6は、それぞれ、B-B断面における前側右サイドフレーム421の厚さt3及び後側右サイドフレーム422の厚さt4よりも薄く形成されている。
【0044】
図8には、EA機構ユニット44を、板状の金属の横フレーム441の両側に1対を成す左パイプ442及び右パイプ443を溶接して固定した構成を示した。しかし、EA機構ユニット44の構成はこれに限定されるものではなく、例えば、板状の横フレーム441と1対の左パイプ442と右パイプ443とをボルトで固定しても良く、また、板状の横フレーム441に代えて金属製のパイプを用いても良い。更に、図12乃至14にEA機構ユニット144として示すように、1枚の板状の金属部品から折り曲げて形成しても良い。
【0045】
即ち、図12乃至14に示したEA機構ユニット144は、図8に示したEA機構ユニット44の変形例を示すものであって、中央部分の横フレーム1441の両側を折り曲げて、左右のサイドフレーム1442及び1443を形成し、横フレーム1441と左側のサイドフレーム1442との間に一部を削除した切欠部1446を形成し、横フレーム1441と右側のサイドフレーム1443との間に一部を削除した切欠部1445を形成した構成を有している。
【0046】
図13に、図12におけるE-E矢視図を、図14図12におけるF-F矢視図示す。横フレーム1441に対して、左側のサイドフレーム1442と右側のサイドフレーム1443とは、ほぼ直角に折り曲げられている。また、横フレーム1441、及び、左側のサイドフレーム1442と右側のサイドフレーム1443には、強度を補うためのエンボス加工が施されている。
【0047】
また、左サイドフレーム41及び右サイドフレーム42、アッパーフレーム43を、短繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いてモールドにより成形することで説明したが、本実施例はこれに限られるものではなく、左サイドフレーム41及び右サイドフレーム42、アッパーフレーム43を、繊維強化樹脂製の部材により形成してもよい。具体的には、多数のカーボンファイバーを束ねた状態で織った織物を数枚重ね合わせてエポキシ樹脂をマトリクス樹脂として含浸固化させて複合化させ、成形したものである。
【0048】
更に、左サイドフレーム41及び右サイドフレーム42、アッパーフレーム43を、アルミニウムなどの軽金属材料を用いて形成しても良い。
【0049】
本実施例によれば、シートバック側フレーム40にEA機構ユニット44を設ける構成としたので、シートバック側フレーム40の根元にあるリクライニング機構部61にかかる負荷(衝撃力)を低減することができ、リクライニング機構部61の強度を低減し、軽量化を図ることが可能になった。
【0050】
更に、本実施例によれば、EA機構ユニット44を比較的簡素な構造で構成することができるので、シートバック側フレーム40を軽量化することができる。
【実施例2】
【0051】
実施例1では、左サイドフレーム41の前側左サイドフレーム411と右サイドフレーム42の前側右サイドフレーム421及びアッパーフレーム43の前側アッパーフレーム431は、繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いて、EA機構ユニット44の左パイプ442及び右パイプ443と一緒にインサート成形により一体化して形成した例を説明した。
【0052】
これに対して、本実施例では、これを2つの工程に分けて形成するようにした。すなわち、まず、図4に示した実施例1の構成における前側アッパーフレーム431を除いて一体化して形成し、次に、この一体化して形成した部材の、EA機構ユニット44の左パイプ442及び右パイプ443とをインサート成形して前側アッパーフレーム431を形成し、一体化するようにした。
【0053】
即ち、本実施例においては、図15に示すように、左サイドフレーム41(図3参照)の前側左サイドフレーム2411と右サイドフレーム42(図3参照)の前側右サイドフレーム2421を、繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いて、EA機構ユニット44(図8参照)の左パイプ442及び右パイプ443と一緒にインサート成形により一体化して形成する。
【0054】
次に、図16に示すように、EA機構ユニット44の左パイプ442及び右パイプ443の先端部付近と前側アッパーフレーム2431とをインサート成形して、一体化する。これにより、実施例1で図4を用いて説明したのと同様に、前側左サイドフレーム411と前側右サイドフレーム421及び前側アッパーフレーム431は、繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いて、EA機構ユニット44の左パイプ442及び右パイプ443と一緒にインサート成形により一体化される。
【0055】
更に、実施例1で説明したのと同様にして、図17に示すような左サイドフレーム41の後側左サイドフレーム2412と右サイドフレーム42の後側右サイドフレーム2422、及びアッパーフレーム43の後側アッパーフレーム2432を、繊維を内部に含んだ繊維強化樹脂を用いてモールド形成する。これら形成したものを、それぞれ左サイドフレーム41の前側左サイドフレーム2411、右サイドフレーム42の前側右サイドフレーム2421、及びアッパーフレーム43の前側アッパーフレーム2431と組み合わせ、接合面を接着剤で接合する。
【0056】
ロアフレーム70と左サイドフレーム41及び右サイドフレーム42との接続は、実施例1と同じであるので、説明を省略する。
【0057】
本実施例によれば、実施例1で説明した効果に加えて、インサート成形を、EA機構ユニット44と前側左サイドフレーム2411及び前側右サイドフレーム2421との組み合わせと、EA機構ユニット44と前側アッパーフレーム2431との組み合わせとに分けて行うことができる。その件、インサート成形用の設備を、実施例1の場合と比べて小型化することができる。
【実施例3】
【0058】
実施例2においては、左サイドフレーム41の前側左サイドフレーム2411と右サイドフレーム42の前側右サイドフレーム2421を、EA機構ユニット44の左パイプ442及び右パイプ443と一緒にインサート成形により一体化して形成する例を説明したが、本実施例においては、この工程を更に分割した。
【0059】
即ち、本実施例においては、図18に示すように、左サイドフレーム41(図3参照)の前側左サイドフレーム3411とEA機構ユニット44(図8参照)の左パイプ442をインサート成形により一体化して形成する。次に、図19に示すように、EA機構ユニット44の右パイプ443と一緒にインサート成形して、後側左サイドフレーム3421を前側左サイドフレーム3411と一体化して形成する。
この後の工程は実施例2で説明したものと同じであるので、説明を省略する。
【0060】
本実施例によれば、実施例1で説明した効果に加えて、インサート成形を、EA機構ユニット44と前側左サイドフレーム2411とを組み合わせて一体化成形する工程と、その一体化成形したものに前側右サイドフレーム2421を組み合わせて更に一体化成形する工程と、更に、前側左サイドフレーム2411及び前側右サイドフレーム2421と一体化形成したEA機構ユニット44を前側アッパーフレーム2431と組み合わせて更に全体を一体化する工程とに分けて行うことができる。その結果、インサート成形用の設備を、実施例2の場合と比べて、更に小型化することができる。
【0061】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0062】
10・・・シートクッション 20・・・シートバック 40・・・シートバック側フレーム 41・・・左サイドフレーム 42・・・右サイドフレーム 43・・・アッパーフレーム 44,144・・・EA機構ユニット 70・・・ロアフレーム 411・・・前側左サイドフレーム 412・・・後側左サイドフレーム 421・・・前側右サイドフレーム 422・・・後側右サイドフレーム 431・・・前側アッパーフレーム 432・・・後側アッパーフレーム 441・・・横フレーム 442・・・左パイプ 443・・・右パイプ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19