(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】ペダルモジュールの異常診断方法および制御方法
(51)【国際特許分類】
G05G 25/00 20060101AFI20220119BHJP
G05G 1/30 20080401ALI20220119BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20220119BHJP
B60T 7/02 20060101ALI20220119BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
G05G25/00 C
G05G1/30 E
B60T17/18
B60T7/02 D
B60T7/12 D
(21)【出願番号】P 2018112906
(22)【出願日】2018-06-13
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】和賀 聡
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-144758(JP,A)
【文献】特開2000-289591(JP,A)
【文献】特開2006-290289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05G 25/00
G05G 1/00
B60T 17/00
B60T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏力を受けるペダルと、前記ペダルを一端側に有し前記ペダルが踏み込まれたときに他端側を回転中心として回動可能なペダルアームと、前記ペダルアームの回転角度を検出可能な角度検出部と、前記踏力を検出可能な踏力検出部と、を備えたペダルモジュールの異常診断方法において、
前記ペダルモジュールは、前記ペダルアームの前記他端側に設けられたシャフトと、前記シャフトを保持する保持部と、前記保持部に保持された前記シャフトを回転軸として、前記ペダルアームが回動可能な状態で取り付けられたハウジングと、を備えており、
前記踏力検出部は前記ハウジングの歪みに基づいて前記踏力を検出し、
前記回転角度と前記踏力との関係に基づいて、前記ペダルモジュールの異常を診断することを特徴とするペダルモジュールの異常診断方法。
【請求項2】
前記踏力と前記回転角度とは、前記ペダルモジュールの正常時において第一の関係式によって表される関数であり、前記踏力および前記回転角度のうち、一方の検出値と前記第一の関係式とに基づいて、他方の正常値を求め、
前記踏力および前記回転角度のうち、他方の検出値と前記正常値との差が所定値よりも大きくなった場合に前記ペダルモジュールに異常が生じたと診断する
請求項1に記載のペダルモジュールの異常診断方法。
【請求項3】
前記踏力および前記回転角度のうち、他方の検出値と前記正常値との差が所定値よりも所定時間連続して大きくなった場合に前記ペダルモジュールに異常が生じたと診断する
請求項2に記載のペダルモジュールの異常診断方法。
【請求項4】
踏力を受けるペダルと、前記ペダルを一端側に有し、前記ペダルが踏み込まれたときに他端側を回転中心として回動可能なペダルアームと、前記ペダルアームの回転角度を検出可能な角度検出部と、前記踏力を検出可能な踏力検出部と、を備えたペダルモジュールの制御方法において、
前記ペダルモジュールは、前記ペダルアームの前記他端側に設けられたシャフトと、前記シャフトを保持する保持部と、前記保持部に保持された前記シャフトを回転軸として、前記ペダルアームが回動可能な状態で取り付けられたハウジングと、を備えており、
前記踏力検出部は前記ハウジングの歪みに基づいて前記踏力を検出し、
前記回転角度と前記踏力との関係に基づいて前記ペダルモジュールの異常であると診断されたときに、異常に関する情報を外部機器に出力することを特徴とするペダルモジュールの制御方法。
【請求項5】
前記異常に関する情報が、車を減速または停止させるトリガとして前記外部機器に用いられる
請求項4に記載のペダルモジュールの制御方法。
【請求項6】
前記異常に関する情報が、車を減速または停止させるとともに障害物との衝突を回避するトリガとして前記外部機器に用いられる、
請求項5に記載のペダルモジュールの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペダルの位置を検出するセンサを備えたペダルモジュールの異常診断方法および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のブレーキ制御装置として、電子制御ブレーキシステムが用いられている。電子制御ブレーキシステムは、車両の走行状況に応じて最適な制動力を実現するため、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するストロークセンサの出力と、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて作動液を送り出すマスタシリンダの圧力を検出するマスタシリンダ圧センサの出力とに基づいて目標制動力が決定される。目標制動力の決定に用いられるストロークセンサに異常が生じた場合、ブレーキペダルの踏み込み量と車両に与える制動力との間にずれが生じる場合がある。このため、ストロークセンサの出力値が正常であるかどうかを判定するブレーキ制御装置が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のブレーキ制御装置は、ストロークセンサの出力値がマスタシリンダ圧センサの出力値に応じて基準ストローク出力値より大きい場合に、ストロークセンサの出力が正常でないと判定する。当該ブレーキ制御装置は、ストロークセンサが故障した場合にその出力値の異常を検知することができるが、ブレーキペダルに加えられた踏力に応じてペダルの位置(踏み込み量)が変化しなくなった異常を検知することができない。例えば、ブレーキペダルと床との間に異物が挟まってブレーキペダルが動かなくなった場合、ストロークセンサからの出力値はブレーキペダルの位置に応じた正しい値であるから、異常を検知することができない。
本発明の課題は、ペダルの位置を検出するセンサを備えたペダルモジュールにおいて、ブレーキペダルの位置が変化しなくなった異常を検知できるブレーキペダルモジュールの異常診断方法および制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段として、本発明は以下の構成を備えている。
本発明のペダルモジュールの異常診断方法は、踏力を受けるペダルと、前記ペダルを一端側に有し前記ペダルが踏み込まれたときに他端側を回転中心として回動可能なペダルアームと、前記ペダルアームの回転角度を検出可能な角度検出部と、前記踏力を検出可能な踏力検出部と、を備えたペダルモジュールの異常診断方法において、前記回転角度と前記踏力との関係に基づいて、前記ペダルモジュールの異常を診断することを特徴とする。
回転角度と踏力との関係を用いてペダルモジュールの異常を診断することにより、例えば、ペダルアームに異物が挟まって回転不能となった場合のようにブレーキペダルの位置が変化しなくなった異常を検知することができる。
【0006】
前記ペダルモジュールは、前記ペダルアームの前記他端側に設けられたシャフトと、前記シャフトを保持する保持部と、前記保持部に保持された前記シャフトを回転軸として、前記ペダルアームが回動可能な状態で取り付けられたハウジングと、を備えており、前記踏力検出部が、前記ハウジングの歪みに基づいて前記踏力を検出する構成であってもよい。
ペダルアームが回転不能となった場合、ペダルアームの回転角度は変化しなくなるのに対して、ハウジングの歪みはペダルに加えられた踏力に応じて変化する。このため、回転角度と検出された歪みに対応する踏力との関係に基づいてペダルモジュールが異常であると診断することができる。
【0007】
前記踏力と前記回転角度とは、前記ペダルモジュールの正常時において第一の関係式によって表される関数であり、前記踏力および前記回転角度のうち、一方の検出値と前記第一の関係式とに基づいて、他方の正常値を求め、前記踏力および前記回転角度のうち、他方の検出値と前記正常値との差が所定値よりも大きくなった場合に前記ペダルモジュールに異常が生じたと診断してもよい。この場合、前記踏力および前記回転角度のうち、他方の検出値と前記正常値との差が所定値よりも所定時間連続して大きくなった場合に前記ペダルモジュールに異常が生じたと診断してもよい。
【0008】
本発明のペダルモジュールの制御方法は、踏力を受けるペダルと、前記ペダルを一端側に有し、前記ペダルが踏み込まれたときに他端側を回転中心として回動可能なペダルアームと、前記ペダルアームの回転角度を検出可能な角度検出部と、前記踏力を検出可能な踏力検出部と、を備えたペダルモジュールの制御方法において、前記回転角度と前記踏力との関係に基づいて前記ペダルモジュールが異常であると診断されたときに、異常に関する情報を外部機器に出力することを特徴とする。
前記異常に関する情報は、車を減速または停止させるトリガや、車を減速または停止させるとともに障害物との衝突を回避するトリガとして、前記外部機器に用いられるものであってもよい。
異常に関する情報をペダルモジュールから外部機器に出力することにより、外部機器は当該出力に基づいて安全性を優先して車両を制御することが可能になる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のペダルモジュールの異常診断方法は、回転角度と踏力との関係に基づいて、ペダルモジュールの異常を診断することにより、ペダルの位置が変化しなくなった異常を検知することができる。本発明のペダルモジュールの制御方法は、ペダルモジュールの異常が検知された場合に異常に関する情報を出力することで、外部機器が異常に関する情報を用いて車両等の制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るペダルモジュールの異常診断方法を説明するグラフ
【
図2】本発明の実施形態に係るペダルモジュールの異常診断方法および制御方法のフローチャート
【
図5】踏力検出装置の変形例の構造を概略的に示す平面図
【
図6】
図5の一点鎖線で囲んだ部分Pを白抜き矢印方向に見た構造を概略的に示す部分側面図
【
図7】踏力検出装置の他の変形例の構造を概略的に示す側面図
【
図8】踏力検出装置の踏力検出部の構造を示す分解斜視図
【
図9】ハウジングに取り付けられた踏力検出部の構造を示す断面図
【
図10】踏力検出部を構成する回路基板における抵抗が形成された面の構造を概略的に示す平面図
【
図11】歪み抵抗を備えたホイートストンブリッジの構成を示す回路図
【
図12】ハウジングの歪み量を計算により求めた実施例で用いた踏力検出装置の構造を概略的に示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を参照して、本発明の実施形態を説明する。各図における同じ部材には同じ番号を付して、説明を省略する。
【0012】
<異常診断方法および制御方法>
図1は、本発明の実施形態に係るペダルモジュールの異常診断方法を説明するため、回転角度Xと踏力Yとの関係を模式的に示したグラフである。ペダルモジュールはペダルの位置によって変化する回転角度Xを検出する角度検出部を備えている。ペダルモジュールが正常であるときには、踏力検出部によって検出される踏力Yが角度検出部によって検出される回転角度Xの関数で表される。
図1では、踏力Yが回転角度Xの一次関数であって、両者の関係がY=aX-b(第一の関係式)によって表される場合を示している。回転角度Xと踏力Yとが第一の関係式で表される場合、第一の関係式と、回転角度Xおよび踏力Yのうち一方の検出値とを用いて、ペダルモジュールの正常状態における他方の値(正常値)を求めることができる。
【0013】
例えば、回転角度Xの検出値と第一の関係式とに基づいて、ペダルモジュールの正常時において回転角度Xの検出値に対応する踏力Yの正常値を計算によって求めることができる。ペダルモジュールが正常に機能している場合、計算によって求められた踏力の正常値と踏力の検出値とは一致する。しかし、ペダルモジュールに異常が生じた場合、上記第一の関係式で示される回転角度Xと踏力Yとの関係が崩れて、踏力Yの検出値と計算で求められた踏力の正常値とが一致しなくなる。
【0014】
踏力Yの検出値が計算で求められた正常値と一致するか否かにより、角度検出部で検出された回転角度Xと踏力検出部で検出された踏力Yとが第一の関係式を満たしているか否かを判定することができる。踏力の検出値と正常値との不一致によって、踏力検出部または角度検出部の故障のみではなく、ペダルアームが動かなくなってペダルの位置が変化しなくなった異常を検知することができる。このため例えば、踏力検出部および角度検出部は故障していないが、異物が挟まってペダルアームが動かなくなり、操作者がペダルモジュールを操作できなくなったという異常を検知することができる。
【0015】
図1のグラフにおける実線はペダルモジュールが正常時にある場合の回転角度Xと踏力Yとの関係を示している。正常時では、回転角度Xが大きくなるに従って踏力Yも増加し、両者は実線で示す直線に沿って変化する。しかし、ペダルアームに異物が挟まってペダルアームが動かなくなった場合、ブレーキペダルがさらに踏み込まれると、ペダルの位置を検出する回転角度Xは変化しないで踏力Yのみが大きくなる。
【0016】
例えば、回転角度X1の状態でペダルアームが動かなくなった場合、ブレーキペダルを踏んでもブレーキの効きが悪いため、運転者はより強い力で踏み込むことが多い。このとき、角度検出部に検出される回転角度XはX1のまま、踏力検出部に検出される踏力Yが大きくなる。回転角度X1のままでブレーキペダルがさらに踏み込まれることにより、検出される踏力Yが回転角度X1における正常値Y1よりも大きくなる。そこで、正常値Y1とは異なる踏力Yが検出された場合に、ペダルモジュールに異常が発生したと診断する。
【0017】
ただし、ペダルモジュールに異常が生じていない場合でも、踏力検出部に検出される踏力Yの検出値は、外部環境などの影響によってある程度の幅で変化し得る。そこで、ペダルモジュールが正常な状態において通常生じ得る踏力Yの正常値Y1からのずれの大きさを所定値Cとし、正常値Y1からのずれが所定値C以内である範囲を正常範囲とする。そして、正常範囲外の踏力Yが検出された場合にペダルモジュールに異常が発生したと診断する。なお、車体に搭載された状態でペダルモジュールが実際に使用された場合には、ブレーキパッドの交換等に伴って踏みしろの調整が行われることが考えられる。所定値Cはこの様な調整を考慮して設定しても良い。
【0018】
例えば、ペダルアームが動かなくなってブレーキペダルがさらに踏み込まれた場合、踏力Yが正常値Y1に所定値Cを加算して得られる許容上限値Y2よりも大きくなったときに、異常が発生したと診断する。また、踏力検出部に検出された踏力Yが正常値Y1から所定値Cを減じて得られる許容下限値Y3よりも小さくなったときにも、何らかの異常が発生したと診断する。このように、ペダルモジュールの使用環境や誤検出を防ぐための余裕を考慮して所定値Cを設定することにより、異常の検出感度を調整することができる。
【0019】
上述した踏力Yの正常範囲からの逸脱の検知に加えて、当該逸脱した状態が所定時間連続して検知されたことを異常の発生を検知する要件としてもよい。逸脱した状態が連続する時間を考慮することにより、例えば、瞬間的に踏力Yが大きくなる環境下における使用において、誤って異常が検出されることを防止できる。
【0020】
図2は、本発明の実施形態に係るペダルモジュールの異常診断方法および制御方法のフローチャートである。以下、同図に基づいて、ペダルアームの回転角度を検出可能な角度検出部と踏力を検出可能な踏力検出部とを備えたペダルモジュールの異常診断方法および制御方法を説明する。
【0021】
ペダルモジュールは、角度検出部および踏力検出部により、ペダルアームの回転角度およびブレーキペダルに加えられた踏力を検出する(検出ステップS1)。
検出ステップS1で検出された回転角度の検出値と、回転角度と踏力との関係を示す第一の関係式とを用いて、検出された回転角度における踏力の正常値を算出する(正常値算出ステップS2)。
検出ステップS1で検出された踏力の検出値と、正常値算出ステップで算出された踏力の正常値から、検出値と正常値との差を算出する(差算出ステップS3)。
【0022】
差算出ステップS3で算出された検出値と正常値の差の絶対値と、所定値C(
図1参照)とを比較する(比較ステップS4)。
比較ステップS4の比較の結果、検出値と正常値との差の絶対値が所定値Cよりも大きい場合(YES)、当該差の絶対値が所定値Cよりも大きい状態が所定時間以上連続しているか確認する(連続時間確認ステップS5)。
差の絶対値が所定値Cよりも大きい状態が所定時間以上連続している場合(YES)、ペダルモジュールの異常を検知する(異常検知ステップS6)。
【0023】
比較ステップS4の比較の結果、検出値と正常値の差の絶対値が所定値Cよりも小さい場合(NO)および連続時間確認ステップS5において、差の絶対値が所定値Cよりも大きい状態が所定時間以上連続していないと確認された場合(NO)、ペダルモジュールに異常が生じていないと判断して、ペダルモジュールは検出ステップS1において検出された回転角度の検出値を外部装置に出力する(回転角度出力ステップS7)。
【0024】
異常検知ステップS6で異常が検知された場合、異常に関する情報をペダルモジュールから外部装置に出力する(異常検知出力ステップS8)。
異常検知出力ステップS8において出力される異常に関する情報は、例えば、車を減速または停止させたり、車を減速または停止させるとともに障害物との衝突を回避したりするために用いられるトリガとして、外部機器に出力される。異常に関する情報が出力されることにより、車両を制御するECU(Electronic Control Unit)などの外部機器は、ペダルモジュールからの異常に関する情報を用いて、安全性を優先して車両制御を行うことが可能になる。
【0025】
図1および
図2を用いた説明では、第一の関係式と回転角度の検出値とを用いて踏力の正常値を求め、踏力の検出値と正常値とを比較して、ペダルモジュールの異常を検出した。しかし、第一の関係式と踏力の検出値とを用いて踏力の代わりに回転角度の正常値を求め、回転角度の検出値と正常値とを比較してペダルモジュールの異常を検出してもよい。
【0026】
踏力Yと回転角度Xとは、ペダルモジュールの正常時において第一の関係式によって表される関数であるから、踏力および回転角度のうち、一方の検出値と第一の関係式とに基づいて、他方の正常値を算出し、踏力および角度のうち、他方の検出値と正常値との差の絶対値が所定値よりも大きくなった場合にペダルモジュールに異常が生じたと診断することができる。
【0027】
なお、上記説明においては、正常値算出ステップS2を設けて、検出ステップS1で検出された回転角度における踏力の正常値を第一の関係式を用いてリアルタイムに算出しているが、リアルタイムでの計算を行わずに予め正常値を求めてテーブルに格納しておき、テーブルに格納された正常値と踏力の検出値とを比較する方法であっても良い。このように、他方の正常値は、一方の検出値を用いてリアルタイムの計算によって求めたり、一方の検出値に対応する計算結果が格納されたテーブルを用いて求めたりすることができる。
【0028】
<ペダルモジュール>
上述した異常診断方法および制御方法を用いて異常が診断され外部装置への出力が制御されるペダルモジュールについて、以下に説明する。
図3および
図4は、本発明の異常診断方法および制御方法が用いられる踏力検出装置(ペダルモジュール)1の構造を概略的に示す側面図および平面図である。これらの図に示すように、本発明の踏力検出装置1は、踏力を受けるペダル2と、ペダル2を一端に保持するペダルアーム3と、ペダルアーム3の他端側に設けられたシャフト4と、自動車などの本体50に固定されるハウジング5と、踏力を検出する踏力検出部6と、を備えている。ハウジング5は、シャフト4を保持する保持部7を有している。ペダルアーム3は、保持部7に保持されたシャフト4を回転中心として回動可能な状態でハウジング5に取り付けられている。
【0029】
踏力検出装置1は、例えば、自動車のブレーキのペダル装置60の一部として用いられる。この場合、ペダル2に加えられた踏力の測定手段としての踏力検出部6とペダルアーム3の回転角度(移動量)を測定する手段としての回転角度測定部61が、ハウジング5に設けられて用いられることがある。
【0030】
ペダル2に踏力が加えられると、シャフト4を回転軸(中心)としてペダルアーム3が
図3に白抜き矢印で示した方向に移動する。ペダル装置60にはペダル2およびペダルアーム3を初期位置に戻すための弾性体8が設けられている。ペダルアーム3が移動すると移動距離(移動量)に応じて、ペダルアーム3の取付部9とハウジング5との間に設けられた弾性体8からペダルアーム3に対して、弾性力(反発力)が加えられる。ペダル2は踏力と弾性力とが等しくなった位置で停止する。踏力検出部6の詳細については後述するが、このように弾性体8からの反発力も加わることから、ペダル2を踏み込むことでハウジング5にも踏力と関係性のある力が加わる。そのため、その力により発生するハウジング5の歪みを計測することによって、ペダル2に加えられた踏力を算出することが可能である。
【0031】
踏力検出装置1は、ペダルアーム3の他端側に設けられたシャフト4と、シャフト4を保持する保持部7と、保持部7に保持されたシャフト4を回転軸として、ペダルアーム3が回動可能な状態で取り付けられたハウジング5と、を備えおり、踏力検出部6が、ハウジング5の歪みに基づいて踏力を検出する。
【0032】
ペダル装置60は、回転角度測定部61に加えて、踏力検出部6を備えている。ペダル2が踏み込まれると、その踏力によりハウジング5には必ず何かしらかの力が加わり、ハウジング5に発生する歪み量は変化する。したがって、何らかの理由によりペダルアーム3の回転角度が変化しなくなった場合でも、踏力が変化すればハウジング5の歪み量が変化するため、踏力検出部6によりハウジング5の歪みに基づいて踏力を検出することができる。例えば、ペダルアーム3と本体50との間に異物が挟まってペダルアーム3が動かなくなった場合でも、踏力検出部6によって踏力を検出することができる。
【0033】
ペダル装置60が回転角度測定部61および踏力検出部6を備え、回転角度(踏み込み量)と踏力を同時に測定することで、ペダル装置60の冗長性が向上する。ただし、回転角度と踏力を同時に測定するのではなく、両者を別々に測定する構成としてもよい。
【0034】
シャフト4は、ペダルアーム3の両側からそれぞれ突出している。ここで、ペダルアーム3の両側からそれぞれ突出するとは、Y軸方向に沿ってペダルアーム3がシャフト4に挟まれていることをいう。また、ハウジング5もペダルアーム3の他端側を挟むように対向する保持部7を二つ有しており、二つの保持部7のそれぞれが両側に突出したシャフト4を保持している。このように、ペダルアーム3は、両持ち支持構造によって、シャフト4を介してハウジング5の保持部7に保持されている。両持ち支持構造によって、ペダルアーム3からの力によるシャフト4自身の撓みを抑えるとともに、ハウジング5の強度が高くなる。ブレーキ時に足に伝わる感触(フィーリング)および信頼性の観点から、両持ち支持構造が好ましい。ただし、ペダルアーム3をハウジング5に保持する機構は、ペダルアーム3の片側のみから突出したシャフト4を一つの保持部7によって保持する片持ち支持構造であってもよい。
【0035】
図3および
図4には、二つの保持部7のうちの一方に踏力検出部6が配置された態様を示した。しかし、ハウジング5において、踏力検出部6が設けられる位置は保持部7に限られるものではない。踏力検出部6は、ペダルアーム3からの力がシャフト4を介してハウジング5に加えられることによって歪みが生じる部分に配置すればよい。ただし、踏力検出部6によってペダル2に加えられた踏力を確実に検出する観点から、ハウジング5における歪みの大きな部分に配置することが好ましい。
【0036】
図5は、踏力検出装置1の変形例の構造を概略的に示す平面図である。
図6は、
図5の一点鎖線で囲んだ部分Pを白抜き矢印方向に見た構造を概略的に示す部分側面図である。
図5および
図6に示す踏力検出装置1は、対向する保持部7を連結する連結部10ではなく、保持部7に他の部分より肉厚が薄い薄肉部11を備えており、一方の保持部7に設けられた薄肉部11に踏力検出部6を備えている。ハウジング5の一部に設けられた薄肉部11は、他の部分よりも反発力が小さく、ペダルアーム3からハウジング5に加えられた力によって撓みやすい部分である。このため、薄肉部11の表面の歪みを大きくすることができる。したがって、薄肉部11に踏力検出部6を設けることにより、ハウジング5の歪みを測定することが容易になる。
図5に示すように、薄肉部11を一方の保持部7に設けた構成を示したが、薄肉部11を設ける位置はこれに限られるものではない。ただし、ペダルアーム3からハウジング5に加えられた力により生じる歪みが大きいから、連結部10よりも保持部7に薄肉部11を設けることが好ましい。
【0037】
図7は、踏力検出装置1の他の変形例の構造を概略的に示す側面図である。同図に示すように、踏力検出部6が、シャフト4と保持部7との間に配置された構成としてもよい。シャフト4と保持部7との間に踏力検出部6を配置すれば、踏力検出部6は、ハウジング5の歪みとともに、シャフト4から直接加えられた力をも検出することができるから、検知精度が高くなる。このような位置に配置する踏力検出部6には、シャフト4の外形に対応した円筒形状の歪み検出素子を用いることができる。
【0038】
なお、
図7では、シャフト4を取り囲むように踏力検出部6が設けられた態様を示している。しかし、この態様は一例であり、シャフト4と保持部7との間の全部に踏力検出部6が設けられていなくてもよい。両者の間の一部に踏力検出部6が設けられていれば、歪みを精度良く検知することができる。
【0039】
踏力検出部6は、ハウジング5の歪み量を検知し、検知した歪み量に基づいて踏力を検出するもの、すなわち、測定したハウジング5の歪み量を信号として取り出すものである。踏力検出部6の構造について
図8~
図11を参照して以下に説明する。
【0040】
図8は踏力検出部6の構造を示す分解斜視図であり、
図9はハウジング5に取り付けられた踏力検出部6の構造を示す断面図である。これらの図に示すように、踏力検出部6は、回路基板20の二つの面のうちのいずれかが、ハウジング5の表面から離れた状態でハウジング5の表面に対向して、二つの固定用ナット29によってハウジング5に固定されている。ハウジング5の表面に歪みが生じた場合、生じた歪みに対応して回路基板20にも歪みが生じる。
【0041】
回路基板20の一方の面20Aには、抵抗21が形成されている。回路基板20の一方の面20Aの反対側の他方の面20Bには、抵抗21の抵抗値を電圧値に変換する変換回路22が形成されている。また、他方の面20Bには、抵抗21の抵抗値を変換回路22が変換した電圧値に基づいた信号を外部に出力するコネクタ部23を備えている。踏力検出部6がハウジング5に取り付けられた状態において、カバー部材25の開口部28を介して外部の機器と接続可能な位置にコネクタ部23が取り付けられる。回路基板20はネジ24を用いてカバー部材25の内側の対向面25Aに取り付けられる。
【0042】
抵抗値を電圧値に変換する変換回路22は、抵抗値に基づいて踏力を算出する演算部としての機能を備えていても良い。変換回路22が演算部としての機能を備えている場合、コネクタ部23から出力される信号から直接踏力に関する情報が得られる。なお、変換回路22は、演算部としての機能を備えていない場合、コネクタ部23から出力される信号が外部の演算装置による踏力の算出に用いられる。
【0043】
踏力検出部6は、カバー部材25の内側に回路基板20が取り付けられた状態でハウジング5に固定される。カバー部材25は、ハウジング5に固定された状態において、ハウジング5の表面に対向する対向面25A、対向面25Aの周囲を取り囲む側面25B、およびハウジング5の表面に接する側面25Bの端によって形成される開口25Cと、を備えている。対向面25A、側面25Bおよび開口25Cにより囲まれた内部空間が回路基板20の収納部25Dである。回路基板20は、収納部25D内の対向面25Aに、一方の面20Aまたは他方の面20Bが開口25Cを臨んで(開口25Cの方向を向いて)配置されている。また、回路基板20は、対向面25Aから離れて配置されている。
【0044】
カバー部材25は、対向面25Aがハウジング5の表面に対向して配置され、収納部25Dを挟んで対向する箇所(
図9におけるZ軸方向の両側)に設けられるとともに開口25Cから対向面25Aに向かう方向(
図9におけるX軸方向)に貫通して形成された二つの挿入孔26に挿入された固定用ナット29によって、ハウジング5の表面に固定されている。挿入孔26と固定用ナット29の間には、円筒状のガイド27が設けられている。この構成により、カバー部材25の開口25Cをハウジング5の表面に密着させ、ハウジング5の表面に生じた歪みがカバー部材25を介して回路基板20に伝わる。
【0045】
図10は回路基板20において抵抗21が形成された一方の面20Aの構造を概略的に示す平面図である。同図に示すように、回路基板20の一方の面20Aに設けられた抵抗21は、回路基板20の歪み量の変化にともなって抵抗値が変化する歪み抵抗21aと、抵抗値が一定の固定抵抗21bとが、四つずつ設けられている。歪み抵抗21aと固定抵抗21bとを用いてホイートストンブリッジ30(
図11参照)を構成することにより、回路基板20の歪みに伴って変化する電圧を出力することができる。
【0046】
図11は、歪み抵抗21aを備えたホイートストンブリッジ30の構成を示す回路図である。同図に示すように、電圧電源(Vdd)31と基準電位点(GND)32との間を、歪み抵抗21aと固定抵抗21bの順に接続した直列接続と、固定抵抗21bと歪み抵抗21aの順に接続した直列接続とを、並列に接続する。各直列接続は、歪み抵抗21aと固定抵抗21bとが反対の順で接続されているから、中点33の電位と中点34の電位とが、歪み抵抗21aの抵抗変化にともなって変化する。この中点電位の変化を差動増幅器35により増幅して出力する。差動増幅器35から出力される中点電位の差に基づく出力は、歪み抵抗21aによって検知されたハウジング5の歪みの大きさに対応して変化する。したがって、中点電位の差に基づく出力により、ペダル2に加えられた踏力によって生じたハウジング5の歪みを検知することができる。
【0047】
回路基板20には、歪み抵抗21aと固定抵抗21bとが四つずつ設けられており、ホイートストンブリッジ30が二つ形成されている。ホイートストンブリッジ30を複数備えることにより、ハウジング5の歪みの測定精度が増し、また、一方を他方の予備として用いることができるから冗長性が向上する。ただし、踏力検出部6はホイートストンブリッジ30を一つだけ備えた構成としてもよい。
【0048】
図11に示した歪み抵抗21aと固定抵抗21bとの組み合わせの代わりに、歪み抵抗21aの感度軸方向が異なるように配置し、歪みが生じる方向に対する感度を異ならせた二つの歪み抵抗21aを用いてホイートストンブリッジ30を構成してもよい。この場合、歪み抵抗21aの感度軸方向が直交するように(感度軸が90°で交差するように)配置することが好ましい。
【0049】
上述した実施形態では、回転角度測定部と踏力検出部とを組み合わせて本発明の異常診断方法および制御方法を実施する態様について説明したが、踏力検出部の変わりに、所定の踏力でONするスイッチを用いてもよい。このようなスイッチを用いた場合も、ONにより検知された所定の踏力と回転角度測定部により測定された回転角度とに基づいて、ペダルの位置が変化しなくなった異常を検知することができる。
【実施例】
【0050】
市販のブレーキユニットを用いて、通常状態およびスタック状態においてハウジング表面の歪みを実際に測定して、各状態においてハウジング表面に測定可能な歪みが生じること、特にZ方向に大きな歪みが生じることを確認した。
そこで、
図12に示す線対称の構造を備えた踏力検出装置モデルについて、通常状態と、弾性体8が伸縮しなくなってペダルアーム3が動かなくなった状態(スタック状態)において、ペダルに所定の踏力が加えられた場合にハウジング5の4つの各部位(P1~P4)に生じる歪み量をシミュレーション計算により求めた。
【0051】
弾性体8が伸縮しなくなったスタック状態は、バネ乗数を無限大に設定することにより求めた。このため、スタック状態では、ペダル2に加えられた踏力は、ペダルアーム3における取付部9を支点とし、シャフト4を作用点として、ハウジング5に加えられる。部位P1とP2についてはZ方向の歪みを求め、部位P3とP4についてはX方向の歪みを求めた。各状態についてシミュレーション計算により得られた結果を表1および表2に示す。
【0052】
【0053】
【0054】
表1および表2に示した結果から、ペダル2に加えられた踏力に応じて、ハウジング5の表面に生じる歪みの大きさも変化することが分かる。ハウジング5の複数の部位で踏力に応じて表面の歪みの大きさが変化することが確認されたことから、踏力検出部6(
図3~
図7参照)を設置する部位は、周囲の取り付け可能な空間の状況などを考慮して決めればよい。
【0055】
なお、上記スタック状態は回転角度Xが0である場合の結果である。回転角度Xが0であるから、踏力Yの正常値は0であるにも関わらず、踏力検出部6によって0以外の踏力Yが検出されたことを示している(
図1参照)。このように、本発明のペダルモジュールの異常診断方法によれば、正常値とは異なる踏力の検出によって、ペダルモジュールの異常発生を検出することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 :踏力検出装置(ペダルモジュール)
2 :ペダル
3 :ペダルアーム
4 :シャフト
5 :ハウジング
6 :踏力検出部
7 :保持部
8 :弾性体
9 :取付部
10 :連結部
11 :薄肉部
20 :回路基板
20A :一方の面
20B :他方の面
21 :抵抗
21a :歪み抵抗
21b :固定抵抗
22 :変換回路
23 :コネクタ部
24 :ネジ
25 :カバー部材
25A :対向面
25B :側面
25C :開口
25D :収納部
26 :挿入孔
27 :ガイド
28 :開口部
29 :固定用ナット
30 :ホイートストンブリッジ
31 :Vdd
32 :GND
33,34:中点
35 :差動増幅器
50 :本体
60 :ペダル装置(移動量検出装置、ペダルモジュール)
61 :回転角度測定部