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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】レーザ光走査装置及びレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20220119BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20220119BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20220119BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20220119BHJP
【FI】
G02B26/10 108
B23K26/38 Z
B23K26/082
B23K26/064 N
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018167427
(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公開番号】P2020042076
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-07-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】中澤 睦裕
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-148556(JP,A)
【文献】特開2001-225183(JP,A)
【文献】特開2017-144465(JP,A)
【文献】特公昭44-030545(JP,B1)
【文献】特開平11-305156(JP,A)
【文献】特開平06-202029(JP,A)
【文献】特開平01-321422(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0020377(US,A1)
【文献】特開平01-185610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/10
B23K 26/38 - 26/388
B23K 26/082
B23K 26/064
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸線を中心に回転する回転部材と、
前記回転部材に配置されている透光部材と、
前記透光部材にレーザ光が入射されるように当該レーザ光を導く導光部材と、
を備え、
視線方向を前記回転軸線と平行にして前記回転部材を見たときに、前記透光部材の前記回転軸線側の面である内面を接続した形状が多角形であり、
前記透光部材の前記内面と、前記回転軸線に平行な直線と、がなす角を傾斜角としたときに、前記透光部材の複数の傾斜角のうち少なくとも2つは値が異なることを特徴とするレーザ光走査装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ光走査装置であって、
前記導光部材は、前記透光部材の前記内面にレーザ光が入射されるように前記レーザ光を導くことを特徴とするレーザ光走査装置。
【請求項3】
請求項1に記載のレーザ光走査装置であって、
前記多角形の辺数が偶数であり、前記回転軸線を挟んで対向する2つの前記内面が平行であり、
前記導光部材は、前記透光部材の前記内面とは反対側の面である外面にレーザ光が入射されるように前記レーザ光を導き、
当該外面を透過したレーザ光は、対向する前記透光部材の前記内面に入射されることを特徴とするレーザ光走査装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載のレーザ光走査装置であって、
前記透光部材は平板状であり、視線方向を前記回転軸線と平行にして前記回転部材を見たときに、複数の前記透光部材が前記多角形となるように並べて配置されていることを特徴とするレーザ光走査装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載のレーザ光走査装置であって、
前記透光部材の隣接する2つの内面をそれぞれ第1内面及び第2内面と称したときに、
前記第1内面を透過したレーザ光の照射領域と、前記第2内面を透過したレーザ光の照射領域と、の間の領域に、前記第1内面及び前記第2内面の両方と隣接していない前記内面を透過したレーザ光が照射されることを特徴とするレーザ光走査装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載のレーザ光走査装置と、
前記レーザ光を発生させるレーザ発生器と、
前記レーザ光を集光する集光部材と、
を備えることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項7】
請求項6に記載のレーザ加工装置であって、
前記レーザ光を照射する加工ヘッドを備え、
前記加工ヘッドが移動可能に構成されていることを特徴とするレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、レーザ光を走査するレーザ光走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、赤外線レーザの発生源と、スプリッタモジュールと、を備えるマルチビームレーザ装置を開示する。スプリッタモジュールは、複数のスプリッタと1つのミラーが並べて配置された構成である。赤外線レーザをスプリッタモジュールに照射することで、レーザ光は互いに平行な複数のレーザ光に分離される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2009/0159578号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のマルチビームレーザ装置は、レーザ光を1方向に走査する構成である。このようなレーザ装置では、短い時間間隔で同じ箇所にレーザ光が照射され易い。その結果、アブレーション加工に対して熱の影響が出ることになる。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、熱の影響が小さいアブレーション加工を行って、切断等の加工を効率的かつ均一に行うためのレーザ光走査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の観点によれば、以下の構成のレーザ光走査装置が提供される。即ち、このレーザ光走査装置は、回転部材と、透光部材と、導光部材と、を備える。前記回転部材は、回転軸線を中心に回転する。前記透光部材は、前記回転部材に配置されている。前記導光部材は、前記透光部材にレーザ光が入射されるように当該レーザ光を導く。視線方向を前記回転軸線と平行にして前記回転部材を見たときに、前記透光部材の前記回転軸線側の面である内面を接続した形状が多角形である。前記透光部材の前記内面と、前記回転軸線に平行な直線と、がなす角を傾斜角としたときに、前記透光部材の傾斜角のうち少なくとも2つは値が異なる。
【0008】
これにより、透光部材の内面を接続した形状が多角形であることで、透光部材一面に対して回転軸線に垂直な方向でレーザ光を走査することができる。更に、透光部材の傾斜角のうち少なくとも2つは値が異なるため、各透光部材一面に対し回転軸線に平行な方向にレーザ光を走査(シフト)することができる。透光部材が回転することで、この2つの動きは、レーザ光を2つの方向に走査することになり、見かけ上ビーム径が大きいレーザ光と同様に取り扱うことができる。
【0009】
また、レーザ光が2つの走査方向に分散して照射されるので、一度レーザ光を照射した箇所の近傍にはしばらくレーザ光が照射されにくくなるため、レーザ光を照射してアブレーション加工を行ったときに余った熱が拡散し易くなる。そのため、熱の影響が小さいアブレーション加工を行うことができる。これにより、切断等の加工を効率的かつ均一に行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アブレーション加工時の熱の影響を小さくして、切断等の加工を効率的かつ均一に行うことができる構成のレーザ光走査装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るレーザ加工装置の全体的な構成を示す斜視図。
図2】レーザ光走査装置の斜視図。
図3】レーザ光走査装置の側面断面図(図2のA-A断面図)。
図4】レーザ光が第1走査方向に走査される様子を示す説明図。
図5】レーザ光が第2走査方向に走査される様子を示す説明図。
図6】レーザ光を照射する順序を示す図。
図7】見かけ上のビーム径が大きいレーザ光がワークに照射される様子を模式的に示す斜視図。
図8】第1変形例のレーザ光走査装置の斜視図。
図9】第2変形例のレーザ光走査装置の側面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。初めに、図1を参照して、レーザ加工装置1の構成を説明する。図1は、レーザ加工装置1の斜視図である。レーザ加工装置1は、ワーク100にレーザ光を照射することで、当該ワーク100を加工する装置である。
【0013】
本実施形態のワーク100は板状であり、例えばCFRP(炭素繊維強化プラスチック)である。なお、ワーク100は他の材料であってもよい。ワーク100は板状に限られず、例えばブロック状であってもよい。
【0014】
本実施形態のレーザ加工装置1は、レーザ光を照射することでワーク100を蒸発させて除去するアブレーション加工を行う。また、レーザ加工装置1はレーザ光によりワーク100を切断する加工を行う。レーザ加工装置1がワーク100に対して行う加工は切断に限られず、例えばワーク100の表面に所定形状の溝又は孔等を形成する加工であってもよい。なお、レーザ光は可視光であってもよいし、可視光以外の波長帯(例えば赤外線又は紫外線)の電磁波であってもよい。
【0015】
図1に示すように、レーザ加工装置1は、移動部11と、レーザ発生器12と、支持部材13と、加工ヘッド14と、を備える。
【0016】
移動部11は、1軸の移動を行うテーブルである。移動部11には、ワーク100が載置される。
【0017】
レーザ発生器12は、パルス発振により時間間隔が短いパルスレーザを発生させる。パルスレーザの時間間隔は特に限定されないが、例えばナノ秒オーダー、ピコ秒オーダー、又はフェムト秒オーダー等の短い時間間隔でレーザ光を発生させる。なお、レーザ発生器12は連続波発振によりCWレーザーを発生させる構成であってもよい。
【0018】
支持部材13は、ワーク100の上方に位置する可動機構を備える。この可動機構には、加工ヘッド14が取り付けられている。図略の電動モータにより可動機構を動作させることで、加工ヘッド14をワーク100の幅方向に移動させることができる。また、支持部材13の内部には、レーザ発生器12が発生させたレーザ光を加工ヘッド14まで導くための複数の光学部品が配置されている。また、レーザ発生器12から加工ヘッド14までは、光ファイバーを用いて導光を行ってもよいし、ミラー又はプリズム等を用いて導光を行ってもよい。
【0019】
加工ヘッド14は、レーザ発生器12が発生させて支持部材13内を通ったレーザ光をワーク100に照射する。加工ヘッド14には、集光部材21と、レーザ光走査装置23と、が配置されている。集光部材21はレーザ光を集光する集光レンズ又は放物面鏡である。レーザ光走査装置23は、ビーム径のレーザ光を2方向に走査する(2次元的に走査する)ことで、集光点での見かけのビーム径を大きくする(詳細は後述)。加工ヘッド14からレーザ光を照射した状態で、加工ヘッド14をワーク100の一端から他端まで移動させることで(必要に応じて往復動させることで)、ワーク100を切断することができる。
【0020】
次に、図2及び図3を参照して、主にレーザ光走査装置23の構成について詳細に説明する。図2は、レーザ光走査装置23の斜視図である。図3は、レーザ光走査装置23の側面断面図(図2のA-A断面図)である。
【0021】
図2及び図3に示すように、レーザ光走査装置23は、回転部材31と、複数のガラスホルダ32と、複数の透光ガラス33と、フレーム41と、ミラー42と、電動モータ43と、を備える。
【0022】
回転部材31は、外縁部の厚みが大きい略円板状の部材であり、電動モータ43から動力が供給されることで、図3等に示す回転軸線91を中心に回転できるように構成されている。なお、回転軸線91は、回転部材31の中心を通る。
【0023】
電動モータ43は、フレーム41に取り付けられている。フレーム41は回転部材31とは固定されておらず、回転部材31の回転に従動しない。また、フレーム41には、上述の集光部材21に加え、ミラー(導光部材)42が取り付けられている。図3に示すように、集光部材21及びミラー42は、回転部材31を挟んで電動モータ43の反対側に配置されている。レーザ発生器12が発生させたレーザ光は、回転軸線91と平行となる向きに導光され、集光部材21を通過してミラー42で反射される。ミラー42で反射されたレーザ光は、向きが90度変化して透光ガラス33へ向かう。また、回転部材31は回転しているため、回転部材31の回転位相に応じて、レーザ光が透過する透光ガラス33が切り替わる。
【0024】
複数のガラスホルダ32は、それぞれ同じ形状である。ガラスホルダ32は、透光ガラス33を取付可能であるとともに、回転部材31に固定されている。図3に示すように、ガラスホルダ32は、第1固定部32aと、第2固定部32bと、ガラス取付部32cと、を備える。
【0025】
第1固定部32a及び第2固定部32bは、ボルトにより回転部材31に固定される部分である。第1固定部32a及び第2固定部32bを固定するボルトの軸方向は、何れも回転軸線91に平行である。従って、例えば回転部材31を高速で回転させた場合であっても、その遠心力がボルトが外れる方向に掛からないので、ボルトが緩みにくい。また、ガラス取付部32cには透光ガラス33が取り付けられる。
【0026】
複数の透光ガラス33は、それぞれ同じ形状である。本実施形態の透光ガラス33は、長方形の板状であり、回転軸線91側の面である内面33aと、その反対側の面である外面33bと、は平行である。また、本実施形態では、内面33aにレーザ光が入射されて、外面33bからレーザ光が出射する。透光ガラス33は、レーザ光を透過可能な材料で構成されている。透光ガラス33の材料の屈折率は、空気の屈折率(回転部材31が配置される空間の気体の屈折率)とは異なる。透光ガラス33は、回転軸線91を中心に放射状に囲むように配置されている。具体的には、視線方向を回転軸線91と平行にして回転部材31を見たときに、複数の透光ガラス33の内面33aを接続した形状が多角形になるように、複数の透光ガラス33が配置されている。なお、内面33aと外面33bは平行であるため、複数の透光ガラス33の外面33bを接続した形状も多角形となる。
【0027】
また、透光ガラス33は正多角形となるように配置されていてもよいし、正多角形以外の多角形となるように配置されていてもよい。
【0028】
また、透光ガラス33は、全てが回転軸線91に平行に配置されておらず、一部又は全部の透光ガラス33は回転軸線91に平行な直線に対して傾斜するように配置されている。具体的には、図3に示すように、透光ガラス33の内面33aと、回転軸線91に平行な直線と、がなす角を傾斜角αとしたときに、一部又は全ての透光ガラス33で傾斜角αが異なっている。本実施形態では、ガラス取付部32cの傾斜角度が異なる複数種類のガラスホルダ32を作成することで、傾斜角αを異ならせている。
【0029】
このように、本実施形態の透光ガラス33は、多角形となるように配置されるとともに、傾斜角αが異なるように配置される。この構成により、レーザ光を第1走査方向(回転軸線91に垂直な方向)と、第2走査方向(回転軸線91に平行な方向)の2方向にレーザ光を走査することができる。以下、図4及び図5を参照して説明する。図4は、レーザ光が第1走査方向に走査される様子を示す説明図である。図5は、レーザ光が第2走査方向に走査される様子を示す説明図である。なお、図4及び図5では、レーザ光が走査される様子を分かり易く示すために、入射角θ1と屈折角θ2の関係を実際の関係とは異ならせて(実際よりも屈折角θ2が小さくなるように)描画している。
【0030】
初めに、図4を参照して、レーザ光が第1走査方向に走査されることについて説明する。図4の中央の図に示すように、レーザ光と内面33aとが垂直である状況では、図4の視点での入射角が0度となるため、レーザ光は屈折しない。従って、レーザ光は第1走査方向にはオフセットされずに外面33bから出射される。
【0031】
一方で、回転部材31の回転位相によっては、レーザ光と内面33aとが垂直以外である状況となる。この状況では、図4の上側又は下側の図に示すように、透光ガラス33の内面33aから入射されたレーザ光は屈折して透光ガラス33内を進行する。その後、透光ガラス33の外面33bから出射する際に再び屈折することで、外面33bから出射するレーザ光は、透光ガラス33への入射時のレーザ光と平行になる。以上により、レーザ光が第1走査方向にオフセットする。また、透光ガラス33の内面33aで構成される多角形の中心角が十分に小さい場合であって、かつ、回転部材31の回転速度が等速の場合は、略等ピッチでレーザ光(照射スポット)が第1走査方向に並ぶ。中心角が十分に小さい場合とは、中心角をθ(rad)としたときにsinθ≒θが成立する程度の大きさであり、例えば中心角がπ/4rad(45°)以下の場合である。
【0032】
また、レーザ光と内面33aのなす角に応じて入射角が異なるため、それに応じて屈折角も異なる。その結果、レーザ光の第1走査方向のオフセット量が異なる。また、透光ガラス33の長手方向の中央よりも回転方向の上流側を透過するか(図4の上側の図)、回転方向の下流側を透過するか(図4の下側の図)でオフセットの方向が異なる。以上により、1つの透光ガラス33がレーザ光を透過する間に、レーザ光を第1走査方向に走査する(レーザ光の照射位置を第1走査方向に分散させる)ことができる。
【0033】
次に、図5を参照して、レーザ光を第2走査方向に走査することについて説明する。図5は、回転軸線91に垂直な方向であって、かつ、透光ガラス33を透過するレーザ光の進行方向に垂直な方向で透光ガラス33等を見た図である。図5の中央の図に示すように、レーザ光を透過させる透光ガラス33が傾斜していない状況(傾斜角αが0である状況)では、図5の視点での入射角が0度となるため、レーザ光は屈折しない。従って、レーザ光は第2走査方向にはオフセットされずに外面33bから出射される。
【0034】
一方で、複数の透光ガラス33のうち少なくとも1つの透光ガラス33は、透光ガラス33が傾斜して配置されている(傾斜角αが0以外である)。レーザ光が傾斜した透光ガラス33を透過する場合、内面33aがレーザ光に対して垂直ではないため、透光ガラス33の内面33aから入射されたレーザ光は屈折して透光ガラス33内を進行する。その後、透光ガラス33の外面33bから出射する際に再び屈折することで、外面33bから出射するレーザ光は、透光ガラス33への入射時のレーザ光と平行になる。以上により、レーザ光が第2走査方向にオフセットする。
【0035】
また、透光ガラス33の傾斜角αに応じて入射角が異なるため、それに応じて屈折角も異なる。その結果、レーザ光の第2走査方向のオフセット量が異なる。また、透光ガラス33が内側(回転軸線91側)に傾斜しているか(図5の上側の図)、レーザ光走査装置23が外側に傾斜しているか(図5の下側の図)かでオフセットの方向が異なる。以上により、レーザ光を透過する透光ガラス33の傾斜角αに応じて、レーザ光を第2走査方向に走査する(レーザ光の照射位置を第2走査方向に分散させる)ことができる。
【0036】
次に、図6及び図7を参照して、本実施形態のレーザ加工装置1でレーザ光がどのように分散して照射されるかについて説明する。図6は、レーザ光を照射する順序を示す図である。図7は、見かけ上のビーム径が大きいレーザ光がワーク100に照射される様子を模式的に示す斜視図である。なお、以下では説明を単純化するために、加工ヘッド14を固定した状態で回転部材31を回転させながらレーザ光を照射する状況で照射されるレーザ光について説明する。
【0037】
また、以下の説明では、図2に示すように、隣り合うように並べられている5つの透光ガラス33を、レーザ光が透過する順にそれぞれ、第1透光ガラス、第2透光ガラス、・・・、第5透光ガラスとする。また、第1透光ガラスから第5透光ガラスは、傾斜角αがそれぞれ異なる。以下では、第1透光ガラスから第5透光ガラスが透過させるレーザ光がどのように走査されるかについて説明する。
【0038】
レーザ光は、初めに第1透光ガラスを透過する。回転部材31の回転位相に応じてレーザ光は第1走査方向にオフセットするため、第1走査方向に沿って、図6に示すように1番から10番のレーザが照射される。図6に示すそれぞれの丸印が1回のレーザ光(1パルス分のレーザ光)であり、その中の数字が照射される順番である。
【0039】
このように、第1走査方向に並べて配置されるレーザ光は、1つの透光ガラス33を透過したレーザ光である。なお、図6では、状況を単純化して、レーザ光が1つの透光ガラス33をそれぞれ10回透過すると仮定している。更に、図6では、隣接する丸印は互いに接するように描画している。
【0040】
また、レーザ光が第2走査方向のどの位置に照射されるかは、透過する透光ガラス33の傾斜角αに応じて変化する。上述したように第1透光ガラスから第5透光ガラスは傾斜角αが全て異なる。従って、次にレーザ光が第2透光ガラスを透過すると、1番から10番とは第2走査方向で異なる位置に、第1走査方向に沿って11番から20番のレーザ光が照射される。同様に、レーザ光が第3透過ガラス、第4透過ガラス、及び第5透過ガラスを透過することで、第2走査方向で異なる位置に、21番から30番のレーザ光、31番から40番のレーザ光、41番から50番のレーザ光がそれぞれ照射される。
【0041】
以下、第2走査方向の走査について更に詳細に説明する。本実施形態では、第1透光ガラスと第2透光ガラスを透過するそれぞれのレーザ光は、第2走査方向で隣接するのではなく、別のレーザ光が照射される程度の間隔を空けて照射される。第1透光ガラスと第2透光ガラスだけでなく、別の隣接する透光ガラス33についても同様である。なお、第2走査方向で間隔を空けられた領域には、後から別のレーザ光が照射される。これにより、ワーク100にレーザ光が照射された後に、隣接する領域にはしばらくレーザ光が照射されない。従って、レーザ光が照射されてアブレーション加工が行われて余った熱が拡散する時間を確保することができる。その結果、アブレーション加工時の熱の影響を小さくすることができる。そのため、例えばアブレーション加工によるワーク100の切断時において、切断面が溶融しにくくなる。
【0042】
また、本実施形態では、第1走査方向及び第2走査方向の両方の見かけ上のビーム径を大きくすることができるので、走査方向が一方向だけの従来の構成と比較して、加工飽和の影響を緩和できる。
【0043】
なお、仮に回転部材31の回転速度が低くなるほど、連続して照射されたレーザ光の照射領域が重なり易くなる(例えば1番の照射領域を示す丸印と、2番の照射領域を示す丸印の重なり面積が大きくなる)。その結果、アブレーション加工で余った熱が拡散しにくくなるため、アブレーション加工時の熱の影響が大きくなる。そのため、回転部材31は、高速(100rps以上)で回転させることが好ましい。これにより、連続して照射されたレーザ光の照射領域が全く又は少ししか重ならなくなるので、アブレーション加工時の熱の影響を小さくすることができる。
【0044】
以上により、見かけ上の発振周波数が小さく、かつ、見かけ上のビーム径が大きいレーザ光が加工ヘッド14から照射されているように取り扱うことができる。従って、図7に示すように、見かけ上のビーム径が大きいレーザ光を照射しつつ加工ヘッド14を移動させて、ワーク100の切断等の加工を行うことができる。なお、加工ヘッド14の移動方向は、第1走査方向に平行であることが好ましい。ただし、加工ヘッド14の移動方向は、第2走査方向に平行であってもよいし、別の方向であってもよい。
【0045】
次に、ワーク100の加工の進捗状況に伴う焦点の調整について説明する。レーザ光によりワーク100を蒸発させて除去することで、ワーク100の表面の位置(即ち加工位置)が変化する。具体的には、加工位置は、板厚方向であって、詳細にはレーザ照射方向の下流側に変化する。
【0046】
そのため、本実施形態では、ワーク100の加工位置に対するレーザ光の焦点位置の相対位置を変化させて、焦点位置と加工位置とを相対的に近づける。なお、レーザ光の焦点位置の相対位置の変化方法としては、例えば、ワーク100をレーザ照射方向の上流側に移動させる方法等がある。これにより、レーザ光の集光点と加工位置の距離を一定にすることができるので、ワーク100を効率的に加工できる。レーザ光の焦点位置は、ワーク100の加工の進捗状況に応じて変化させる。ワーク100の加工の進捗状況は、例えばワーク100へのレーザ光の照射回数に基づいて算出される。
【0047】
以上のように、図1から図7を参照して本実施形態のレーザ加工装置1を説明したが、レーザ加工装置1は以下のように変更することができる。
【0048】
図1に示す移動部11は1軸の移動を行う構成に限られず、2軸以上の移動が可能であってもよい。また、移動部11は、ワーク100を把持して移動させる構成であってもよい。
【0049】
図1に示す加工ヘッド14は、1軸の移動を行う構成に限られず、2軸以上の移動が可能であってもよい。また、加工ヘッド14に相当する部品をロボットアームに装着し、ロボットアームを動かすことでワーク100を加工する構成であってもよい。
【0050】
また、移動部11を省略し、動かないように固定されたワーク100に対して、加工ヘッド14を移動させて加工してもよい。反対に、加工ヘッド14の位置を固定して、移動部11によってワーク100を移動させて加工してもよい。
【0051】
図2に示す透光ガラス33は、全て同じ形状であるが、連続して面が繋がっているのであれば、異なる形状が含まれていてもよい。例えば、透光ガラス33について、上述した多角形の辺に相当する部分の長さを異ならせることで、1つの透光ガラス33を透過する一連のレーザ光の第1走査方向での長さを異ならせることができる。そのため、例えば見かけ上のビーム形状を矩形ではなく円形にすることもできる。また、一部又は全ての透光ガラス33について、厚さを異ならせてもよい。透光ガラス33の厚さが大きくなるほど、第1走査方向及び第2走査方向のオフセット量を大きくすることができる。また、透光ガラス33はレーザ光を透過させる性質を有していれば、ガラス以外の材料で構成されていてもよい。
【0052】
また、本実施形態では、視線方向を回転軸線91と平行にして回転部材31を見たときに、ミラー42(透光ガラス33へ向かうレーザ光の照射源)が透光ガラス33で囲まれているが、後述の第2変形例のように、透光ガラス33で囲まれた位置の外側にミラー42が配置されていてもよい。
【0053】
図2に示すミラー42に代えてプリズムを導光部材として用いてレーザ光を反射させてもよい。また、導光部材は、レーザ発生器12が発生させたレーザ光が透光ガラス33を透過するように導く機能を有していれば、更に異なる構成であってもよい。
【0054】
図3に示す集光部材21は、レーザ光の進行方向においてレーザ光走査装置23の上流側であるが、集光部材21として例えばfθレンズを用いることで、レーザ光走査装置23の下流側に集光部材21を配置してもよい。また、図3に示す集光部材21は、ミラー42と透光ガラス33の間に配置されていてもよい。また、加工ヘッド14の位置に関係なく光路長が一定となるように導光する場合は、加工ヘッド14ではなく支持部材13に集光部材21を配置してもよい。
【0055】
図3に示す電動モータ43は、エアモータであってもよい。
【0056】
次に、図8を参照して、第1変形例について説明する。図8は、第1変形例のレーザ光走査装置23の斜視図である。上記実施形態は、複数の透光ガラス33を多角形の辺に相当するように並べて配置する構成である。これに対し、第1変形例は、多角形の辺に相当する部分に厚みを持たせた形状の1つの透光ガラス33を用いる構成である。第1変形例のレーザ光走査装置23は、上記実施形態と同様に、レーザ光を第1走査方向と第2走査方向の両方に走査することができる。
【0057】
次に、図9を参照して、第2変形例について説明する。図9は、第2変形例のレーザ光走査装置23の側面断面図である。図9は、上記実施形態の図3に相当する図である。上記実施形態では、集光部材21を通過したレーザ光は、透光ガラス33で囲まれる空間に導光された後に、透光ガラス33の内面33aに入射される。これに対し、第2変形例では、集光部材21を通過したレーザ光は、透光ガラス33で囲まれる空間の径方向外側から、透光ガラス33の外面33bに入射される。この透光ガラス33を透過したレーザ光は、上記実施形態と同様、透光ガラス33で囲まれる空間から透光ガラス33の内面33aに入射される。
【0058】
このように、第2変形例では、ワーク100に照射されるまでの間に透光ガラス33を2回透過する。2回の透過での第1走査方向と第2走査方向のオフセット方向を同じにするため、回転軸線91を挟んで対向して配置される2つの透光ガラス33は平行である。従って、視線方向を回転軸線91と平行にして回転部材31を見たときに、透光ガラス33は辺数が偶数の多角形である。ちなみに、対向して配置される透光ガラス33が平行なので傾斜角αは同じになる。
【0059】
以上に説明したように、上記実施形態のレーザ光走査装置23は、回転部材31と、透光ガラス33と、ミラー42と、を備える。回転部材31は、回転軸線91を中心に回転する。透光ガラス33は、回転部材31に配置されている。ミラー42は、透光ガラス33にレーザ光が入射されるように当該レーザ光を導く。視線方向を回転軸線91と平行にして回転部材31を見たときに、複数の透光ガラス33の内面33aを接続した形状が多角形である。透光ガラス33の内面33aと、回転軸線91に平行な直線と、がなす角を傾斜角αとしたときに、複数の透光ガラス33の傾斜角αのうち少なくとも2つは値が異なる。
【0060】
これにより、透光ガラス33の内面33aを接続した形状が多角形であることで、透光ガラス33の一面に対して回転軸線91に垂直な方向でレーザ光を走査することができる。更に、透光部材の傾斜角のうち少なくとも2つは値が異なるため、各透光ガラス33の一面に対し回転軸線91に平行な方向にレーザ光を走査(シフト)することができる。透光ガラス33が回転することで、この2つの動きは、レーザ光を2つの方向に走査することになり、見かけ上のビーム径が大きいレーザ光と同様に取り扱うことができる。
【0061】
更に、レーザ光が2つの走査方向に分散して照射されるので、一度レーザ光を照射した箇所の近傍にはしばらくレーザ光が照射されにくくなるため、レーザ光を照射してアブレーション加工を行ったときに余った熱が拡散し易くなる。そのため、熱の影響が小さいアブレーション加工を行うことができる。これにより、切断等の加工を効率的かつ均一に行うことができる。
【0062】
また、上記実施形態のレーザ光走査装置23では、ミラー42は、透光ガラス33の内面33aにレーザ光が入射されるようにレーザ光を導く。
【0063】
これにより、第2変形例と比較してコンパクトなレーザ光走査装置23が実現できる。
【0064】
また、第2変形例のレーザ光走査装置23において、多角形となるように配置される透光ガラス33の辺数(透光ガラス33の数)が偶数であり、回転軸線91を挟んで対向する2つの内面33aが平行である。ミラー42は、透光ガラス33の外面33bにレーザ光が入射されるようにレーザ光を導く。当該外面33bを透過したレーザ光は、対向する透光ガラス33の内面33aに入射される。
【0065】
これにより、レーザ光が透光ガラス33を2回透過するため、レーザ光の第1走査方向及び第2走査方向のオフセット量を大きくすることができる。
【0066】
また、上記実施形態のレーザ光走査装置23において、透光ガラス33は平板状であり、視線方向を回転軸線91と平行にして回転部材31を見たときに、複数の透光ガラス33が多角形となるように並べて配置されている。
【0067】
これにより、一般的な形状の透光ガラス33を用いて本発明を実現できる。
【0068】
また、上記実施形態のレーザ光走査装置23において、図6に示すように、第1透光ガラスを透過してワーク100に照射される一連のレーザ光の照射領域(図6の1番から10番)と、第2透光ガラスを透過してワーク100に照射される一連のレーザ光の照射領域(図6の11番から20番)と、の間の領域に、第4透光ガラスを透過してワーク100に照射される一連のレーザ光(図6の31番から40番)が照射される。なお、第1透光ガラスの内面33aが「第1内面」に相当し、第2透光ガラスの内面33aが「第2内面」に相当し、第4透光ガラスの内面33aが「第1内面及び第2内面の両方と隣接していない内面」に相当する。
【0069】
これにより、より一層、同じ箇所に連続してレーザ光が照射されにくくなるので、アブレーション加工時の熱の影響を更に小さくすることができる。
【0070】
また、上記実施形態のレーザ加工装置1は、レーザ光走査装置23と、レーザ発生器12と、集光部材21と、を備える。レーザ発生器12は、レーザ光を発生させる。集光部材21は、レーザ光を集光する。
【0071】
これにより、アブレーション加工時の熱の影響が小さいレーザ加工装置1を実現できる。
【0072】
また、上記実施形態のレーザ加工装置1は、レーザ光を照射する加工ヘッド14を備える。加工ヘッド14が移動可能に構成されている。
【0073】
これにより、加工ヘッド14を用いてレーザ光を移動させる場合であっても、アブレーション加工時の熱の影響が小さい。
【符号の説明】
【0074】
1 レーザ加工装置
21 集光部材
23 レーザ光走査装置
31 回転部材
32 ガラスホルダ
33 透光ガラス(透光部材)
42 ミラー(導光部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9