(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】モリブデンを有する潤滑剤及び低速プレイグニッションを改善するためのそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C10M 163/00 20060101AFI20220203BHJP
C10M 159/24 20060101ALN20220203BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20220203BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20220203BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20220203BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20220203BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20220203BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
C10M163/00
C10M159/24
C10M137/10 A
C10N10:02
C10N10:12
C10N20:00 Z
C10N30:00 Z
C10N40:25
(21)【出願番号】P 2018500785
(86)(22)【出願日】2016-07-14
(86)【国際出願番号】 US2016042328
(87)【国際公開番号】W WO2017011683
(87)【国際公開日】2017-01-19
【審査請求日】2019-07-12
(32)【優先日】2015-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391007091
【氏名又は名称】アフトン・ケミカル・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】クリスティン・フレッチャー
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・ワイ・ラム
(72)【発明者】
【氏名】コンシェン・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ジェレミー・ステイヤー
【審査官】宮地 慧
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/042340(WO,A1)
【文献】特開2015-163673(JP,A)
【文献】特開2006-117727(JP,A)
【文献】特開2006-328265(JP,A)
【文献】特開2008-274236(JP,A)
【文献】Kazuo Takeuchi,SAE International Journal of Fuels and Lubricants,Investigation of Engine Oil Effect on Abnormal Combustion in Turbocharged Direct Injection - Spark Ignition Engines,2012年01月30日,Vo.5, No.3,Pages1017-024
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブーストされた内部燃焼エンジンにおいて低速プレイグニッション事象を低減するための方法であって、
50重量%を超える潤滑粘度の基油を含む潤滑油組成物で、ブーストされた内部燃焼エンジンを潤滑させることと、
前記潤滑油組成物で潤滑されたエンジンを作動させることと、を含む、方法;
前記潤滑油組成物は、下記成分を含む添加剤組成物を含む:
前記潤滑油組成物の総重量を基準として、
1400重量ppm以上1800重量ppm未満のカルシウムを前記潤滑油組成物に提供するのに十分な量の、ASTM D-2896の方法によって測定される250mgKOH/グラムを超える総塩基価を有する1種以上の過塩基性カルシウムスルホネート洗浄剤、および
モリブデンジチオホスフェートを含む、前記潤滑油組成物の総重量を基準として80重量ppm~1000重量ppmのモリブデンを前記潤滑油組成物に提供するのに十分な量の1種以上の油溶性モリブデン含有化合物、
ここで、前記潤滑油組成物が、前記潤滑油組成物の総重量を基準として、150ppm以下のナトリウム、0.05重量%~0.9重量%の硫酸灰分、および50重量ppm~2000重量ppmのリンを含有し、かつ、前記添加剤組成物によって前記潤滑油組成物に提供される硫黄の、前記潤滑油組成物中の前記モリブデンの重量に対する重量比が18:1未満であ
り、および
LSPI事象が、25,000のエンジンサイクルの間のLSPI数に基づき、前記エンジンが、18,000kPaの正味平均有効圧力(BMEP)で、1分当たり2000回転(RPM)で作動される。
【請求項2】
前記ブーストされた内部燃焼エンジンが、ターボチャージャー付きの火花点火ガソリンエンジンである、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記潤滑させる工程が、ターボチャージャーまたはスーパーチャージャーを備えた、火花点火直噴エンジンまたはポート燃料噴射内部燃焼エンジンの燃焼室またはシリンダー壁を潤滑させる、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記潤滑油組成物がさらに、摩擦調整剤、耐摩耗剤、分散剤、酸化防止剤、及び粘度指数改善剤から選択される1種以上の成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記50重量%を超える基油が、II群、III群、IV群、V群の基油、及び前述の2種以上の組み合わせから選択され、前記50重量%を超える基油が、添加剤成分または粘度指数改善剤の前記潤滑油組成物への提供から生じる希釈油以外である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、1種以上の油溶性添加剤を含有する潤滑剤組成物、及び低速プレイグニッションを改善するためのそのような潤滑油組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャーまたはスーパーチャージャー付き内部燃焼エンジンなどのブーストされた内部燃焼エンジンは、確率論的プレイグニッションまたは低速プレイグニッション(または「LSPI」)として知られる異常燃焼現象を呈する場合がある。LSPIは、超高圧スパイク、不適切なクランク角の間の早期燃焼、及びノックを含み得るプレイグニッション事象である。これらは全て、個々にまたは組み合わせて、エンジンの劣化及び/または重大な損傷を引き起こす可能性を有する。しかしながら、LSPI事象は、散発的で制御されていない様式でのみ発生するため、この現象の原因を特定すること、及びそれを抑制する解決策を開発することは困難である。
【0003】
プレイグニッションは、イグナイターによる空気燃料混合物の所望の点火の前の燃焼室内の空気燃料混合物の点火の結果生じる燃焼形態である。エンジンの作動からの熱は、燃焼室の一部を、接触時に空気燃料混合物を点火するのに十分な温度まで加熱し得るため、プレイグニッションは、典型的には、高速エンジン作動中に問題となっている。この種類のプレイグニッションは、時に、ホットスポットプレイグニッションと称される。
【0004】
より最近では、断続的な異常燃焼が、低速及び中~高負荷でブーストされた内部燃焼エンジンにおいて観察されている。例えば、少なくとも10,000kPaの正味平均有効圧力(BMEP)で、負荷下で、3000rpm以下におけるエンジンの作動中に、低速プレイグニッション(LSPI)がランダムかつ確率論的な様式で発生する場合がある。低速エンジン作動中、圧縮行程時間は最長である。
【0005】
いくつかの公開された研究は、ターボチャージャーの使用、エンジン設計、エンジンコーティング、ピストン形状、燃料選択、及び/またはエンジン油添加剤がLSPI事象の増加に寄与し得ることを実証してきた。したがって、ブーストされた内部燃焼エンジンにおいてLSPIを低減または排除するのに有効なエンジン油添加剤成分及び/または組み合わせが必要である。
【0006】
概要及び用語
本開示は、ブーストされた内部燃焼エンジンを作動させる潤滑油組成物及び方法に関する。潤滑油組成物は、50重量%を超える潤滑粘度の基油と、潤滑油組成物の総重量を基準として1100重量ppmを超え2400ppm未満のカルシウムを潤滑油組成物に提供するのに十分な量の、225mgKOH/gを超える総塩基価を有する1種以上のカルシウム含有過塩基性洗浄剤(複数可)と、潤滑油組成物の総重量を基準として少なくとも約80重量ppmのモリブデンを潤滑油組成物に提供するのに十分な量の1種以上のモリブデン含有化合物(複数可)と、を含む。潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総重量を基準として、150ppm以下のナトリウムを含有する。いくつかの実施形態において、潤滑油組成物は、潤滑油組成物で潤滑されたブーストされた内部燃焼エンジンにおける低速プレイグニッション事象を、参考潤滑油R-1で潤滑された同じエンジンおける低速プレイグニッション事象の数と比較して低減するのに有効であり得る。
【0007】
別の実施形態において、本開示は、ブーストされた内部燃焼エンジンにおいて低速プレイグニッション事象を低減するための方法を提供する。その方法は、50重量%を超える潤滑粘度の基油と、添加剤組成物と、を含む、潤滑油組成物であって、その添加剤組成物が、潤滑油組成物の総重量を基準として1100重量ppmを超え2400重量ppm未満のカルシウムを潤滑油組成物に提供する量の、225mgKOH/gを超える総塩基価を有する1種以上のカルシウム含有過塩基性洗浄剤(複数可)と、潤滑油組成物の総重量を基準として少なくとも約80重量ppmのモリブデンを潤滑油組成物に提供するのに十分な量の1種以上のモリブデン含有化合物(複数可)と、を含む、潤滑油組成物でブーストされた内部燃焼エンジンを潤滑させることを含む。潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総重量を基準として、150ppm以下のナトリウムを含有する。エンジンは潤滑油組成物を用いて作動及び潤滑される。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、潤滑されたブーストされた内部燃焼エンジンにおける低速プレイグニッション事象の数を、参考潤滑油R-1で潤滑された同じエンジンおける低速プレイグニッション事象の数と比較して低減する。
【0008】
前述の実施形態の各々において、1種以上のカルシウム含有過塩基性洗浄剤(複数可)は、過塩基性カルシウムスルホネート洗浄剤、過塩基性カルシウムフェネート洗浄剤、及び過塩基性カルシウムサリチレート洗浄剤から選択され得る。前述の実施形態の各々において、1種以上の過塩基性カルシウム含有洗浄剤(複数可)は、潤滑油組成物の総重量を基準として約1200~約2000重量ppm、または1400~1800重量ppmのカルシウムを潤滑油組成物に提供し得る。
【0009】
前述の実施形態の各々において、1種以上のモリブデン含有化合物(複数可)は、硫黄非含有モリブデン/アミン錯体、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジチオホスフェート、及びこれらの混合物を含む。
【0010】
前述の実施形態の各々において、1種以上のモリブデン含有化合物(複数可)は、潤滑油組成物の総重量を基準として最大で約1000重量ppmのモリブデンを提供する量で存在し得る。
【0011】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、摩擦調整剤、耐摩耗剤、分散剤、酸化防止剤、及び粘度指数改善剤から選択される1種以上の成分を含み得る。前述の実施形態の各々において、添加剤組成物から潤滑油組成物に提供される硫黄の、潤滑油組成物中のモリブデンの重量に対する重量比は、約18:1未満である。前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、約1重量%未満のSASHを有し得る。
【0012】
前述の実施形態の各々において、LSPI事象の低減は50%または75%以上の低減であり、LSPI事象は、25,000のエンジンサイクルの間のLSPI数であり、エンジンは、18,000kPaの正味平均有効圧力で、1分当たり2000回転で作動される。
【0013】
前述の実施形態の各々において、基油は、I群、II群、III群、IV群、またはV群の基油、及び前述の2種以上の組み合わせから選択され得る。前述の実施形態の各々において、50重量%を超える基油は、II群、III群、IV群、またはV群の基油、及び前述の2種以上の組み合わせからなる群から選択され得、50重量%を超える基油は、添加剤成分または粘度指数改善剤の潤滑油組成物への提供から生じる希釈油以外である。
【0014】
前述の実施形態の各々において、ブーストされた内部燃焼エンジンは、ターボチャージャーまたはスーパージャージャー付き内部燃焼エンジンであり得、及び/またはブーストされた内部燃焼エンジンは、ブーストされた火花点火エンジン、及び/またはブーストされたガソリンエンジンであり得る。前述の実施形態の各々において、ブーストされた内部燃焼エンジンは、ターボチャージャー付き火花点火ガソリン内部燃焼エンジンであり得る。
【0015】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、10重量%以下のIV群の基油、V群の基油、またはこれらの組み合わせを含み得る。前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、5重量%未満のV群の基油を含む。
【0016】
前述の実施形態の各々において、過塩基性カルシウム含有洗浄剤は、過塩基性カルシウムスルホネート洗浄剤であり得る。
【0017】
前述の実施形態の各々において、過塩基性カルシウム含有洗浄剤は、過塩基性カルシウムサリチレート洗浄剤を任意に除外し得る。
【0018】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、マグネシウム含有洗浄剤を任意に除外する場合があるか、または潤滑油組成物はマグネシウムを含まない場合がある。
【0019】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、IV群の基油を含有しない場合がある。
【0020】
前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、V群の基油を含有しない場合がある。
【0021】
以下の用語の定義は、本明細書で使用される所定の用語の意味を明白にするために提供される。
【0022】
「油組成物」、「潤滑組成物(lubrication composition)」、「潤滑油組成物」、「潤滑油」、「潤滑剤組成物」、「潤滑組成物(lubricating composition)」、「完全配合潤滑剤組成物」、「潤滑剤」、「クランクケース油」、「クランクケース潤滑剤」、「エンジン油」、「エンジン潤滑剤」、「モーター油」、及び「モーター潤滑剤」という用語は、50重量%を超える基油に加えて少量の添加剤組成物を含む最終潤滑生成物を指す、同義の完全に互換性のある専門用語であると見なされる。
【0023】
本明細書で使用される場合、「添加剤パッケージ」、「添加剤濃縮物」、「添加剤組成物」、「エンジン油添加剤パッケージ」、「エンジン油添加剤濃縮物」、「クランクケース添加剤パッケージ」、「クランクケース添加剤濃縮物」、「モーター油添加剤パッケージ」、「モーター油濃縮物」という用語は、50重量%を超える基油ストック混合物を除外する潤滑油組成物の一部を指す、同義の完全に互換性のある専門用語であると見なされる。添加剤パッケージは、粘度指数改善剤または流動点降下剤を含んでも、含まなくてもよい。
【0024】
「過塩基性」という専門用語は、スルホネート、カルボキシレート、サリチレート、及び/またはフェネートの金属塩などの金属塩に関連し、存在する金属の量は、化学量論量を超過する。そのような塩は、100%を超える転換レベルを有し得る(すなわち、それらは、酸をその「正」塩、「中性」塩に転換するのに必要とされる金属の理論量の100%超を含み得る)。しばしばMRと略される「金属比」という表現は、過塩基性塩中の金属の総化学当量の、既知の化学反応性及び化学量論に従う中性塩中の金属の化学当量に対する比を示すために使用される。正塩または中性塩において、金属比は1であり、過塩基性塩において、MRは1超である。それらは一般に、過塩基性塩、過剰塩基性塩、または超塩基性塩と称され、有機硫黄酸、カルボン酸、サリチレート、及び/またはフェノールの塩であり得る。いくつかの例において、過塩基性洗浄剤は、225mgKOH/gを超えるTBNを有し得る。いくつかの例において、低塩基性/中性洗浄剤は、175mgKOH/g未満のTBNを有し得る。いくつかの場合において、「過塩基性」は「OB」と略され得る。また、いくつかの場合において、「低塩基性/中性」は「LB/N」と略され得る。
【0025】
「総金属」という用語は、潤滑油組成物中の金属、半金属、または遷移金属の全体を指し、これには、潤滑油組成物の洗浄剤成分(複数可)によって与えられる金属が含まれる。
【0026】
本明細書で使用される場合、「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」という用語は、その通常の意味で使用され、これは当業者によく知られている。具体的には、それは、分子の残部に直接結合した炭素原子を有し、かつ主として炭化水素の特質を有する基を指す。ヒドロカルビル基の例としては、
(a)炭化水素置換基、つまり、脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、及び芳香族、脂肪族、及び脂環式置換芳香族置換基、ならびに環が分子の別の部分によって完成する(例えば、2つの置換基が共に脂環式部分を形成する)環状置換基、
(b)置換炭化水素置換基、つまり、本開示の文脈において、主として炭化水素置換基を変化させない、非炭化水素基(例えば、ハロ(特にクロロ及びフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、アミノ、アルキルアミノ、及びスルホキシ)を含有する置換基、及び
(c)ヘテロ置換基、つまり、主として炭化水素の特質を有する一方で、本開示の文脈において、さもなければ炭素原子で構成される環または鎖内に炭素以外を含有する、置換基、が挙げられる。ヘテロ原子は、硫黄、酸素、及び窒素を含み、ピリジル、フリル、チエニル、及びイミダゾリルなどの置換基を網羅し得る。一般に、ヒドロカルビル基中の10個の炭素原子毎に、2つ以下、例えば、1つ以下の非炭化水素置換基が存在し、典型的には、ヒドロカルビル基中には非炭化水素置換基は存在しない。
【0027】
本明細書で使用される場合、別段明確に述べられない限り、「重量パーセント」という用語は、引用される成分が組成物全体の重量に対して表す百分率を意味する。
【0028】
本明細書で使用される「可溶性」、「油溶性」、または「分散性」という用語は、化合物もしくは添加剤が可溶性、溶解性、混和性であること、または全ての割合において油中に懸濁され得ることを示し得るが、必ずしも示さなくてもよい。しかしながら、上述の用語は、それらが、油が用いられる環境において、それらの意図される効果を発揮するのに十分な程度まで、例えば、油中に可溶性、懸濁可能、溶解性、または安定的分散性であることを意味する。更に、他の添加剤の追加の組み込みもまた、所望される場合、より高レベルの特定の添加剤の組み込みを可能にし得る。
【0029】
本明細書で用いられる場合、「TBN」という用語は、ASTM D2896の方法によって測定されるmgKOH/gでの総塩基価を表すために使用される。
【0030】
本明細書で用いられる場合、「アルキル」という用語は、約1~約100個の炭素原子の直鎖状、分岐状、環状、及び/または置換飽和鎖部分を指す。
【0031】
本明細書で用いられる場合、「アルケニル」という用語は、約3~約10個の炭素原子の直鎖状、分岐状、環状、及び/または置換不飽和鎖部分を指す。
【0032】
本明細書で用いられる場合、「アリール」という用語は、アルキル置換基、アルケニル置換基、アルキルアリール置換基、アミノ置換基、ヒドロキシル置換基、アルコキシ置換基、ハロ置換基、ならびに/または窒素、酸素、及び硫黄を含むが、これらに限定されない、ヘテロ原子を含み得る、単環及び多環芳香族化合物を指す。
【0033】
本明細書の潤滑剤、成分の組み合わせ、または個々の成分は、様々な種類の内部燃焼エンジンにおける使用に好適であり得る。好適なエンジンの種類としては、大型ディーゼル車、乗用車、小型ディーゼル車、中速ディーゼル車、船舶用エンジン、またはオートバイ用エンジンを挙げることができるが、これらに限定されない。内部燃焼エンジンは、ディーゼル燃料エンジン、ガソリン燃料エンジン、天然ガス燃料エンジン、バイオ燃料エンジン、混合ディーゼル/バイオ燃料エンジン、混合ガソリン/バイオ燃料エンジン、アルコール燃料エンジン、混合ガソリン/アルコール燃料エンジン、圧縮天然ガス(CNG)燃料エンジン、またはこれらの混合物であり得る。ディーゼルエンジンは、圧縮点火エンジンであり得る。ディーゼルエンジンは、火花点火アシストを有する圧縮点火エンジンであり得る。ガソリンエンジンは、火花点火エンジンであり得る。内部燃焼エンジンはまた、電源またはバッテリ源と組み合わせて使用されてもよい。そのように構成されたエンジンは一般に、ハイブリッドエンジンとして知られる。内部燃焼エンジンは、2行程エンジン、4行程エンジン、またはロータリーエンジンであり得る。好適な内部燃焼エンジンとしては、船舶用ディーゼルエンジン(インランドマリーンなど)、航空機用ピストン式エンジン、低負荷ディーゼルエンジン、ならびにバイク、自動車、エンジン車、及びトラックのエンジンが挙げられる。
【0034】
内部燃焼エンジンは、アルミニウム合金、鉛、スズ、銅、鋳鉄、マグネシウム、セラミック、ステンレス鋼、これらの複合材料及び/または混合物のうちの1種以上の成分を含有し得る。その成分は、例えば、ダイアモンド様炭素コーティング、潤滑コーティング、リン含有コーティング、モリブデン含有コーティング、黒鉛コーティング、ナノ粒子含有コーティング、及び/またはこれらの混合物でコーティングされ得る。アルミニウム合金は、ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、または他のセラミック材料を含み得る。一実施形態において、アルミニウム合金は、ケイ酸アルミニウム表面である。本明細書で使用される場合、「アルミニウム合金」という用語は、「アルミニウム複合材料」と同義であること、ならびにその詳細構造に関わらず、顕微鏡もしくはほぼ顕微鏡レベルで混合または反応されたアルミニウム及び別の成分を含む成分または表面を記載することが意図される。これは、アルミニウム以外の金属を有する任意の従来の合金、及びセラミック様材料などの非金属元素もしくは化合物を有する複合材料または合金様構造を含む。
【0035】
内部燃焼エンジンのための潤滑油組成物は、硫黄、リン、または硫酸灰分(ASTM D-874)含有量とは無関係に、あらゆるエンジンに好適であり得る。エンジン油潤滑剤の硫黄含有量は、約1重量%以下、または約0.8重量%以下、または約0.5重量%以下、または約0.3重量%以下、または約0.2重量%以下であり得る。一実施形態において、硫黄含有量は、約0.001重量%~約0.5重量%、または約0.01重量%~約0.3重量%の範囲内であり得る。リン含有量は、約0.2重量%以下、または約0.1重量%以下、または約0.085重量%以下、または約0.08重量%以下、または約0.06重量%以下、約0.055重量%以下、または約0.05重量%以下であり得る。一実施形態において、リン含有量は、約50ppm~約1000ppmまたは約325ppm~約850ppmであり得る。総硫酸灰分含有量は、約2重量%以下、または約1.5重量%以下、または約1.1重量%以下、または約1重量%以下、または約0.8重量%以下、または約0.5重量%以下であり得る。一実施形態において、硫酸灰分含有量は、約0.05重量%~約0.9重量%、または約0.1重量%もしくは約0.2重量%~約0.45重量%であり得る。別の実施形態において、硫黄含有量は約0.4重量%以下であり得、リン含有量は約0.08重量%以下であり得、硫酸灰分は約1重量%以下である。更に別の実施形態において、硫黄含有量は約0.3重量%以下であり得、リン含有量は約0.05重量%以下であり、硫酸灰分は約0.8重量%以下であり得る。
【0036】
一実施形態において、潤滑油組成物はエンジン油であり、本潤滑油組成物は、(i)約0.5重量%以下の硫黄含有量、(ii)約0.1重量%以下のリン含有量、及び(iii)約1.5重量%以下の硫酸灰分含有量を有し得る。
【0037】
いくつかの実施形態において、潤滑油組成物は、約1~約5%の硫黄を含有する燃料などの低硫黄燃料によって動力を供給されるエンジンでの使用に好適である。高速道路車両燃料は約15ppmの硫黄(または約0.0015%の硫黄)を含有する。その潤滑油組成物は、ターボチャージャーまたはスーパーチャージャー付き内部燃焼エンジンを含むブーストされた内部燃焼エンジンと共に使用するのに好適である。
【0038】
更に、本明細書の潤滑剤は、ILSAC GF-3、GF-4、GF-5、GF-6、PC-11、CI-4、CJ-4、ACEA A1/B1、A2/B2、A3/B3、A3/B4、A5/B5、C1、C2、C3、C4、C5、E4/E6/E7/E9、Euro5/6、Jaso DL-1、Low SAPS、Mid SAPSなどの1つ以上の産業規格必要条件、もしくはDexos(商標)1、Dexos(商標)2、MB-Approval229.51/229.31、VW502.00、503.00/503.01、504.00、505.00、506.00/506.01、507.00、508.00、509.00、BMW Longlife-04、Porsche C30、Peugeot Citroen Automobiles B71 2290、B71 2296、B71 2297、B71 2300、B71 2302、B71 2312、B71 2007、B71 2008、Ford WSS-M2C153-H、WSS-M2C930-A、WSS-M2C945-A、WSS-M2C913A、WSS-M2C913-B、WSS-M2C913-C、GM6094-M、Chrysler MS-6395などの相手先商標製造規格、または本明細書に言及されていないあらゆる過去もしくは将来のPCMO規格もしくはHDD規格を満たすのに好適であり得る。いくつかの実施形態において、乗用車モーター油(PCMO)用途について、最終流体中のリンの量は、1000ppm以下、または900ppm以下、または800ppm以下である。
【0039】
他のハードウェアは、開示される潤滑剤との使用には好適でない可能性がある。「機能性流体」とは、トラクター用作動油流体;動力変速機流体(自動変速機流体、無段変速機流体、及び手動変速機流体を含む);作動油流体(トラクター用作動油流体を含む);いくつかのギア油;パワーステアリング流体;風力タービン、圧縮機において使用される流体;いくつかの産業流体;ならびに動力伝達系の成分に関連する流体を含むが、これらに限定されない、様々な流体を網羅する用語である。例えば、自動変速機流体などのこれらの流体の各々において、様々な変速機が著しく異なる機能特質の流体に対する必要性をもたらしている異なる設計を有するために、様々な異なる種類の流体が存在することに留意されたい。これは、動力を生成または伝達するためには使用されない「潤滑流体」という用語によって対比される。
【0040】
例えば、トラクター用作動油流体に関して、これらの流体は、エンジンの潤滑以外のトラクター内の全ての潤滑剤用途に使用される、多用途の製品である。これらの潤滑用途としては、ギアボックス、動力取り出し装置及びクラッチ(複数可)、後車軸、減速ギア、湿式ブレーキ、及び作動油アクセサリの潤滑を挙げることができる。
【0041】
機能性流体が自動変速機流体である場合、自動変速機流体はクラッチ板が動力を伝達するのに十分な摩擦を有さなければならない。しかしながら、流体の摩擦係数は、作動中に流体が熱くなるので温度の影響により低下する傾向を有する。トラクター用作動油流体または自動変速機流体は、高温においてその高い摩擦係数を維持することが重要であり、さもなければブレーキシステムまたは自動変速機が故障する場合がある。これはエンジン油の機能ではない。
【0042】
トラクター流体、及び例えばスーパートラクターユニバーサル油(STUO)またはユニバーサルトラクター変速機油(UTTO)は、エンジン油の性能を、変速機、差動装置、最終駆動遊星ギア、湿式ブレーキ、及び油圧性能と組み合わせ得る。UTTOまたはSTUO流体を配合するのに使用される添加剤の多くは、機能が類似しているが、適切に組み込まれていない場合は有害な影響を及ぼす場合がある。例えば、エンジン油に使用されるいくつかの耐摩耗及び極圧添加剤は、油圧ポンプ中の銅成分に対して極端に腐食性であり得る。ガソリンまたはディーゼルエンジンの性能のために使用される洗浄剤及び分散剤は、湿式ブレーキ性能に有害であり得る。静かな湿式ブレーキのノイズに特有の摩擦調整剤は、エンジン油の性能に必要な熱安定性を欠く場合がある。これらの流体の各々は、機能性、トラクター、または潤滑性であろうとなかろうと、特定の厳格な製造業者の要件を満たすように設計されている。
【0043】
本開示は、自動車用クランクケース潤滑剤としての使用のために配合された新規の潤滑油ブレンドを提供する。本開示の実施形態は、クランクケース用途に好適であり、かつ以下の特質、空気混入、アルコール燃料適合性、酸化防止性、耐摩耗性能、バイオ燃料適合性、泡低減特性、摩擦低減、燃料経済性、プレイグニッション防止、錆抑制、汚泥及び/または煤煙分散性、ピストン清浄性、沈着形成、ならびに耐水性における改善を有する、潤滑油を提供し得る。
【0044】
本開示のエンジン油は、以下に詳述される1種以上の添加剤を、適切な基油配合物に添加することによって配合され得る。添加剤は、添加剤パッケージ(または濃縮物)の形態で基油と組み合わされても、あるいは、基油と個々に組み合わされてもよい(またはその両方の混合でもよい)。完全配合エンジン油は、添加された添加剤及びそれらのそれぞれの割合に基づいて、改善された性能特性を呈し得る。
【0045】
本開示の追加の詳細及び利点は、一部が以下の記述に説明され、かつ/または本開示の実践によって理解され得る。本開示の追加の詳細及び利点は、添付の特許請求の範囲において特に指摘される要素及び組み合わせの手段によって実現され、達成され得る。上述の一般的記述及び以下の詳細の記述はどちらも例示的及び説明的なものにすぎず、主張される本開示を制限するものではないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本開示の様々な実施形態は、ブーストされた内部燃焼エンジンにおいて低速プレイグニッション事象(LSPI)を低減するための潤滑油組成物及び方法を提供する。特に、本開示のブーストされた内部燃焼エンジンは、ターボチャージャー及びスーパーチャージャー付き内部燃焼エンジンを含む。ブーストされた内部燃焼エンジンは、火花点火エンジン、直噴エンジン、及び/またはポート燃料噴射エンジンを含む。火花点火内部燃焼エンジンは、ガソリンエンジンであり得る。
【0047】
一実施形態において、本開示は、ブーストされた内部燃焼エンジンを作動させる潤滑油組成物及び方法を提供する。潤滑油組成物は、50重量%を超える潤滑粘度の基油と、添加剤組成物と、を含み、その添加剤組成物が、潤滑油組成物の総重量を基準として1100重量ppmを超え2400重量ppm未満のカルシウムを潤滑油組成物に提供するのに十分な量の、225mgKOH/gを超える総塩基価を有する1種以上のカルシウム含有過塩基性洗浄剤(複数可)と、潤滑油組成物の総重量を基準として少なくとも約80重量ppmのモリブデンを潤滑油組成物に提供するのに十分な量の1種以上のモリブデン含有化合物(複数可)と、を含む。潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総重量を基準として、150ppm以下のナトリウムを含有する。
【0048】
添加剤組成物は、少なくとも1種の過塩基性洗浄剤及び少なくとも1種のモリブデン含有化合物を含む。以下でより詳細に説明するように、潤滑油組成物は、潤滑油組成物で潤滑されたターボチャージャー付きガソリンエンジンなどのブーストされた内部燃焼エンジンにおける低速プレイグニッション事象を低減するのに使用するのに有効であり得る。
【0049】
別の実施形態において、本開示は、ブーストされた内部燃焼エンジンにおいて低速プレイグニッション事象を低減するための方法を提供する。別の実施形態において、本開示は、ブーストされた内部燃焼エンジンにおいて低速プレイグニッション事象を低減するための方法を提供する。その方法は、50重量%を超える潤滑粘度の基油と、添加剤組成物と、を含む、潤滑油組成物であって、その添加剤組成物が、潤滑油組成物の総重量を基準として1100重量ppmを超え2400重量ppm未満のカルシウムを潤滑油組成物に提供する量の、225mgKOH/gを超える総塩基価を有する1種以上のカルシウム含有過塩基性洗浄剤(複数可)と、潤滑油組成物の総重量を基準として少なくとも約80重量ppmのモリブデンを潤滑油組成物に提供するのに十分な量の1種以上のモリブデン含有化合物(複数可)と、を含む、潤滑油組成物でブーストされた内部燃焼エンジンを潤滑させることを含む。潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総重量を基準として、150ppm以下のナトリウムを含有する。エンジンは潤滑油組成物を用いて作動及び潤滑される。ブーストされた内部燃焼エンジンは潤滑油組成物を用いて作動及び潤滑され、これにより、潤滑油組成物で潤滑されたエンジンにおける低速プレイグニッション事象が低減され得る。
【0050】
いくつかの実施形態において、ターボチャージャーまたはスーパーチャージャーを備える火花点火直噴エンジンまたはポート燃料噴射内部燃焼エンジンの燃焼室またはシリンダー壁は、その潤滑油組成物を用いて作動及び潤滑され、これにより、潤滑油組成物で潤滑されたエンジンにおける低速プレイグニッション事象が低減され得る。
【0051】
任意に、本発明の方法は、潤滑油で潤滑された内部燃焼エンジンの低速プレイグニッション事象を測定する工程を含み得る。そのような方法において、内部燃焼エンジンは、LSPI事象の低減が50%以上の低減、またはより好ましくは75%以上の低減であり、LSPI事象は、25,000のエンジンサイクルの間のLSPI数であり、エンジンは、18,000kPaの正味平均有効圧力で、1分当たり2000回転で作動される。
【0052】
以下により詳細に説明するように、本開示の実施形態は、潤滑油組成物中の比較的高いカルシウム洗浄剤濃度を維持しつつ、LSPI事象を低減する際の有意で予想外の改善を提供し得る。
【0053】
基油
本明細書の潤滑油組成物中に使用される基油は、米国石油協会(American Petroleum Institute(API))Base Oil Interchangeability Guidelinesに明記される、I~V群における基油のいずれかから選択され得る。5つの基油の群は、以下の通りである。
【0054】
【0055】
I、II、及びIII群は、鉱物油プロセスストックである。IV群の基油は、オレフィン性不飽和炭化水素の重合によって生成される純合成分子種を含有する。多くのV群の基油もまた純合成生成物であり、ジエステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、アルキル化芳香族、ポリホスフェートエステル、ポリビニルエーテル、及び/またはポリフェニルエーテルなどを含み得るが、植物油などの天然に発生する油でもあり得る。III群の基油は鉱物油に由来するものの、これらの流体が受ける厳しい処理のために、それらの物理的特性がPAOなどのいくつかの純合成物と非常に類似したものとなることに留意されたい。そのため、III群の基油に由来する油は、当該産業において合成流体と称され得る。
【0056】
開示される潤滑油組成物中に使用される基油は、鉱物油、動物油、植物油、合成油、またはこれらの混合物であり得る。好適な油は、水素化分解、水素化、水素化仕上げ、未精製、精製、及び再精製油、ならびにこれらの混合に由来し得る。
【0057】
未精製油は、更なる精製処理がほとんどなし、もしくはなしで、天然源、鉱物源、または合成源に由来するものである。精製油は、それらが、1つ以上の特性の改善をもたらし得る1つ以上の精製工程で処理されていることを除いて、未精製油に類似している。好適な精製技術の例は、溶媒抽出、二次蒸留、酸または塩基抽出、濾過、浸出などである。食用品質まで精製された油は、有用でも、有用でなくもあり得る。食用油はまた、ホワイト油とも呼ばれる。いくつかの実施形態において、潤滑油組成物は、食用油またはホワイト油を含まない。
【0058】
再精製油はまた、再生油または再処理油としても知られる。これらの油は、同一または類似したプロセスを使用して、精製油と同様に得られる。しばしば、これらの油は、消費された添加剤及び油分解生成物の除去を対象とする技術によって追加的に処理される。
【0059】
鉱物油は、削岩によって、または植物及び動物から得られた油、ならびにこれらの混合物を含み得る。例えば、そのような油としては、ヒマシ油、ラード油、オリーブ油、ピーナツ油、トウモロコシ油、ダイズ油、及び亜麻仁油、ならびに液体石油、及びパラフィン性、ナフテン性、もしくはパラフィン-ナフテン混合性の種類の溶媒処理または酸処理鉱物潤滑油などの鉱物潤滑油を挙げることができるが、これらに限定されない。そのような油は、所望される場合、部分的または完全に水素化されていてもよい。石炭または頁岩に由来する油もまた、有用であり得る。
【0060】
有用な合成潤滑油としては、重合、オリゴマー化、もしくは内部重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン/イソブチレンコポリマー)などの炭化水素油;ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、1-デセンのトリマーもしくはオリゴマー、例えば、ポリ(1-デセン)(そのような材料はしばしばα-オレフィンと称される)、及びこれらの混合物;アルキル-ベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ-(2-エチルヘキシル)-ベンゼン);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニル);ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルエーテル、及びアルキル化ジフェニルスルフィド、ならびにこれらの誘導体、類似体、及び相同体、またはこれらの混合物を挙げることができる。ポリアルファオレフィンは、典型的には水素化材料である。
【0061】
他の合成潤滑油としては、ポリオールエステル、ジエステル、リン含有酸の液体エステル(例えば、トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート、デカンホスホン酸のジエチルエステル)、またはポリマーテトラヒドロフランが挙げられる。合成油は、フィッシャー・トロプシュ反応によって生成され得、典型的には、水素化異性化フィッシャー・トロプシュ炭化水素またはワックスであり得る。一実施形態において、油は、フィッシャー・トロプシュのガス-液体手順及び他のガス-液体油によって調製され得る。
【0062】
潤滑油組成物に含まれる50重量%を超える基油は、I群、II群、III群、IV群、V群、及び前述の2種以上の組み合わせからなる群から選択され得、50重量%を超える基油は、組成物中の添加剤成分または粘度指数改善剤の提供に起因する基油以外である。別の実施形態において、潤滑組成物に含まれる50重量%を超える基油は、II群、III群、IV群、V群、及び前述の2種以上の組み合わせからなる群から選択され得、50重量%を超える基油は、組成物中の添加剤成分または粘度指数改善剤の提供に起因する希釈油以外である。
【0063】
存在する潤滑粘度の油の量は、100重量%から、粘度指数改善剤(複数可)及び/もしくは流動点降下剤(複数可)ならびに/または他の上面処理添加剤を含む性能添加剤の量の合計を減算した後に残る残余であり得る。例えば、最終流体中に存在し得る潤滑粘度の油は、約50重量%超、約60重量%超、約70重量%超、約80重量%超、約85重量%超、または約90重量%超など、50重量%を超え得る。
【0064】
潤滑油組成物は、10重量%以下のIV群の基油、V群の基油、またはこれらの組み合わせを含み得る。前述の実施形態の各々において、潤滑油組成物は、5重量%未満のV群の基油を含む。潤滑油組成物は、IV群の基油を含有しない。潤滑油組成物は、V群の基油を含有しない。
【0065】
洗浄剤
潤滑油組成物は、1種以上の過塩基性洗浄剤を含む。好適な洗浄剤基材としては、フェネート、硫黄含有フェネート、スルホネート、カリキサレート、サリキサレート、サリチレート、カルボン酸、リン酸、モノチオリン酸及び/もしくはジチオリン酸、アルキルフェノール、硫黄結合アルキルフェノール化合物、またはメチレン架橋フェノールが挙げられる。好適な洗浄剤及びそれらの調製方法は、米国第7,732,390号及びその中で引用される参考文献を含む多数の特許公報により詳細に記載されている。洗浄剤基材は、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、リチウム、バリウム、またはこれらの混合物などであるが、これらに限定されない、アルカリ金属またはアルカリ土類金属で、塩分添加され得る。いくつかの実施形態において、洗浄剤はバリウムを含まない。好適な洗浄剤は、石油スルホン酸、ならびにアリール基がベンジル、トリル、及びキシリルである長鎖モノもしくはジアルキルアリールスルホン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含み得る。好適な追加洗浄剤の例としては、カルシウムフェネート、カルシウム硫黄含有フェネート、カルシウムスルホネート、カルシウムカリキサレート、カルシウムサリキサレート、カルシウムサリチレート、カルシウムカルボン酸、カルシウムリン酸、カルシウムモノチオリン酸及び/もしくはジチオリン酸、カルシウムアルキルフェノール、カルシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、カルシウムメチレン架橋フェノール、マグネシウムフェネート、マグネシウム硫黄含有フェネート、マグネシウムスルホネート、マグネシウムカリキサレート、マグネシウムサリキサレート、マグネシウムサリチレート、マグネシウムカルボン酸、マグネシウムリン酸、マグネシウムモノチオリン酸及び/もしくはジチオリン酸、マグネシウムアルキルフェノール、マグネシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、マグネシウムメチレン架橋フェノール、ナトリウムフェネート、ナトリウム硫黄含有フェネート、ナトリウムスルホネート、ナトリウムカリキサレート、ナトリウムサリキサレート、ナトリウムサリチレート、ナトリウムカルボン酸、ナトリウムリン酸、ナトリウムモノチオリン酸及び/もしくはジチオリン酸、ナトリウムアルキルフェノール、ナトリウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、またはナトリウムメチレン架橋フェノールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
過塩基性洗浄剤添加剤は、当該技術分野においてよく知られており、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属過塩基性洗浄剤添加剤であり得る。そのような洗浄剤添加剤は、金属酸化物または金属水酸化物を基材及び二酸化炭素ガスと反応させることによって調製され得る。基材は、典型的には酸、例えば、脂肪族置換スルホン酸、脂肪族置換カルボン酸、または脂肪族置換フェノールなどの酸である。
【0067】
「過塩基性」という専門用語は、スルホネート、カルボキシレート、及びフェネートの金属塩などの金属塩に関連し、存在する金属の量は、化学量論量を超過する。そのような塩は、100%を超える転換レベルを有し得る(すなわち、それらは、酸をその「正」塩、「中性」塩に転換するのに必要とされる金属の理論量の100%超を含み得る)。しばしばMRと略される「金属比」という表現は、過塩基性塩中の金属の総化学当量の、既知の化学反応性及び化学量論に従う中性塩中の金属の化学当量に対する比を示すために使用される。正塩または中性塩において、金属比は1であり、過塩基性塩において、MRは1超である。それらは一般に、過塩基性塩、過剰塩基性塩、または超塩基性塩と称され、有機硫黄酸、カルボン酸、またはフェノールの塩であり得る。
【0068】
過塩基性洗浄剤は、225mgKOH/グラムを超えるTBN、または更なる例として、約250mgKOH/グラム以上のTBN、または約300mgKOH/グラム以上のTBN、または約350mgKOH/グラム以上のTBN、または約375mgKOH/グラム以上のTBN、または約400mgKOH/グラム以上のTBNを有する。
【0069】
好適な過塩基性洗浄剤の例としては、過塩基性カルシウムフェネート、過塩基性カルシウム硫黄含有フェネート、過塩基性カルシウムスルホネート、過塩基性カルシウムカリキサレート、過塩基性カルシウムサリキサレート、過塩基性カルシウムサリチレート、過塩基性カルシウムカルボン酸、過塩基性カルシウムリン酸、過塩基性カルシウムモノチオリン酸及び/もしくはジチオリン酸、過塩基性カルシウムアルキルフェノール、過塩基性カルシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、過塩基性カルシウムメチレン架橋フェノール、過塩基性マグネシウムフェネート、過塩基性マグネシウム硫黄含有フェネート、過塩基性マグネシウムスルホネート、過塩基性マグネシウムカリキサレート、過塩基性マグネシウムサリキサレート、過塩基性マグネシウムサリチレート、過塩基性マグネシウムカルボン酸、過塩基性マグネシウムリン酸、過塩基性マグネシウムモノチオリン酸及び/もしくはジチオリン酸、過塩基性マグネシウムアルキルフェノール、過塩基性マグネシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、または過塩基性マグネシウムメチレン架橋フェノールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
過塩基性洗浄剤は、1.1:1、または2:1、または4:1、または5:1、または7:1、または10:1の金属の基材に対する比を有し得る。
【0071】
いくつかの実施形態において、洗浄剤は、エンジンにおける錆を低減または防止することに有効である。
【0072】
洗浄剤は、1種以上の過塩基性洗浄剤に加えて他の洗浄剤を含み得る。洗浄剤全体は、潤滑油組成物の総重量を基準として、最大で10重量%または約約最大で8重量%、または最大で約4重量%、または4重量%を超え8重量%以下で存在し得る。
【0073】
洗浄剤全体は、最終流体に対して約1100~約3500ppmの金属を提供する量で存在し得る。他の実施形態において、洗浄剤全体は、最終流体に対して約1100~約3000ppmの金属または約1150~約2500ppmの金属、または約1200~約2400ppmの金属を提供し得る。
【0074】
本開示の組成物及び方法において用いられる添加剤組成物は、225mgKOH/グラムを超えるTBNを有する少なくとも1種の過塩基性洗浄剤を含む。添加剤組成物を含む本開示の潤滑油組成物は、潤滑油組成物の総重量を基準として1100重量ppmを超え2400重量ppm未満の範囲の過塩基性洗浄剤からのカルシウムの総量を有する。
【0075】
過塩基性洗浄剤は、過塩基性カルシウム含有洗浄剤であり得る。過塩基性カルシウム含有洗浄剤は、過塩基性カルシウムスルホネート洗浄剤、過塩基性カルシウムフェネート洗浄剤、及び過塩基性カルシウムサリチレート洗浄剤から選択され得る。所定の実施形態において、過塩基性カルシウム含有洗浄剤は、過塩基性カルシウムスルホネート洗浄剤を含む。所定の実施形態において、過塩基性洗浄剤は、1種以上のカルシウム含有洗浄剤であり、好ましくは過塩基性洗浄剤は、カルシウムスルホネート洗浄剤である。
【0076】
所定の実施形態において、過塩基性カルシウム含有洗浄剤は、最終流体に対して約1100~約2200ppmのカルシウムを提供する。更なる例として、1種以上の過塩基性カルシウム洗浄剤は、最終流体に対して約1200~約2000ppmのカルシウムを提供する量で存在し得る。更なる例として、1種以上の過塩基性カルシウム洗浄剤は、最終流体に対して約1200~約1800ppmのカルシウム、または約1400~1800ppmのカルシウムを提供する量で存在し得る。
【0077】
過塩基性カルシウム含有洗浄剤は、過塩基性カルシウムスルホネート洗浄剤であり得る。過塩基性カルシウム含有洗浄剤は、任意に、過塩基性カルシウムサリチレート洗浄剤を除外し得る。潤滑油は、任意に、マグネシウム含有洗浄剤を除外し得るか、またはマグネシウムを含まない場合がある。
【0078】
モリブデン含有成分
本明細書の潤滑油組成物は、1種以上の油溶性モリブデン含有化合物を含有する。油溶性モリブデン化合物は、耐摩耗剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、またはこれらの混合物の機能性能を有し得る。油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジアルキルジチオホスフェート、モリブデンスルフィド、モリブデンジスルフィド、モリブデンジチオホスフィネート、モリブデン化合物のアミン塩、モリブデンキサンテート、モリブデンチオキサンテート、硫化モリブデン、モリブデンカルボキシレート、モリブデンアルコキシド、三核有機モリブデン化合物、及び/またはこれらの混合物のうちのいずれかであり得る。モリブデン含有化合物は、硫黄含有または硫黄非含有化合物であり得る。モリブデンジスルフィドは、安定分散の形態であり得る。
【0079】
一実施形態において、油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジアルキルジチオホスフェート、有機アミドの硫黄非含有有機モリブデン錯体、及びこれらの混合物からなる群から選択され得る。一実施形態において、油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメートであり得る。例示的な有機アミドの硫黄非含有有機モリブデン錯体は、米国特許第5,137,647号に開示されており、R.T.Vanderbilt Co.,Ltd.からのMolyvan(登録商標)855Tが1つのそのような錯体である。
【0080】
使用され得るモリブデン化合物の好適な例としては、Molyvan(登録商標)822、Molyvan(登録商標)A、Molyvan(登録商標)2000、Molyvan(登録商標)807、及びMolyvan(登録商標)855Tなどの商品名でR.T.Vanderbilt Co.,Ltd.から、ならびにAdeka Corporationから入手可能なSakura-Lube(商標)S-165、S-200、S-300、S-310G、S-525、S-600、S-700、及びS-710などの商品名で販売されている市販の材料、ならびにこれらの混合物が挙げられる。好適なモリブデン成分は、参照によって全体が本明細書に組み込まれる、米国第5,650,381号、米国第RE37,363E1号、米国第RE38,929E1号、及び米国第RE40,595E1号に記載されている。
【0081】
また、モリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物であり得る。含まれるのは、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、ならびに他のモリブデン酸アルカリ金属及び他のモリブデン塩、例えば、モリブデン酸水素ナトリウム、MoOCl4、MoO2Br2、Mo2O3Cl6、三酸化モリブデン、または類似した酸性モリブデン化合物である。あるいは、潤滑油組成物は、例えば、参照により全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第4,263,152号、第4,285,822号、第4,283,295号、第4,272,387号、第4,265,773号、第4,261,843号、第4,259,195号、及び第4,259,194号、ならびに米国特許公開第2002/0038525号に記載される、塩基性窒素化合物のモリブデン/硫黄錯体によってモリブデンが提供されてもよい。
【0082】
好適な有機モリブデン化合物の別の分類は、式Mo3SkLnQzのもの、及びこれらの混合物などの三核モリブデン化合物であり、式中、Sは、硫黄を表し、Lは、化合物を油溶性または油分散性にするのに十分な数の炭素原子を有する有機基を有する、独立して選択されるリガンドを表し、nは、1~4であり、kは、4~7まで変動し、Qは、水、アミン、アルコール、ホスフィン、及びエーテルなどの中性電子供与性化合物の群から選択され、zは、0~5の範囲であり、非化学量論値を含む。リガンドの有機基の全ての中に、少なくとも25個、少なくとも30個、または少なくとも35個の炭素原子などの、少なくとも21個の総炭素原子が存在し得る。追加の好適なモリブデン化合物は、参照によって全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第6,723,685号に記載されている。
【0083】
油溶性モリブデン化合物は、約80ppm~約2000ppm、約80ppm~約1000ppm、約80ppm~約700ppm、約120ppm~約500ppm、または約150ppm~約300ppmのモリブデンを提供するのに十分な量で存在し得る。
【0084】
潤滑油組成物はまた、以下に説明する様々な添加剤から選択される1種以上の任意の成分を含み得る。
【0085】
酸化防止剤
本明細書の潤滑油組成物はまた、任意に、1種以上の酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤化合物は既知であり、例えば、フェネート、フェネートスルフィド、硫化オレフィン、ホスホ硫化テルペン、硫化エステル、芳香族アミン、アルキル化ジフェニルアミン(例えば、ノニルジフェニルアミン、ジ-ノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジ-オクチルジフェニルアミン)、フェニル-アルファ-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-アルファ-ナフチルアミン、障害非芳香族アミン、フェノール、障害フェノール、巨大分子酸化防止剤、またはこれらの混合物が挙げられる。酸化防止剤化合物は、単独で使用されても、組み合わせで使用されてもよい。
【0086】
障害フェノール酸化防止剤は、立体障害基として第2級ブチル基及び/または第3級ブチル基を含有し得る。フェノール基は、ヒドロカルビル基及び/または第2の芳香族基に結合する架橋基で更に置換され得る。好適な障害フェノール酸化防止剤の例としては、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-メチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-エチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-プロピル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、または4-ブチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、または4-ドデシル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノールが挙げられる。一実施形態において、障害フェノール酸化防止剤はエステルであり得、例えば、BASFから入手可能なIRGANOX(商標)L-135または2,6-ジ-tert-ブチルフェノール及びアルキルアクリレートに由来する添加生成物を含み得、そのアルキル基は、約1~約18、または約2~約12、または約2~約8、または約2~約6、または約4個の炭素原子を含有し得る。別の市販されている障害フェノール酸化防止剤はエステルであり得、Albemarle Corporationから入手可能なETHANOX(商標)4716を含み得る。
【0087】
有用な酸化防止剤は、ジアリールアミン及び高分子量フェノールを含み得る。一実施形態において、本潤滑油組成物は、ジアリールアミンと高分子量フェノールとの混合物を含有し得るため、各酸化防止剤は、本潤滑油組成物の最終重量を基準として、最大で約5重量%を提供するのに十分な量で存在し得る。一実施形態において、酸化防止剤は、本潤滑油組成物の最終重量を基準として、約0.3~約1.5重量%のジアリールアミンと約0.4~約2.5重量%の高分子量フェノールとの混合物であり得る。
【0088】
硫化して硫化オレフィンを形成し得る好適なオレフィンの例としては、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ポリイソブチレン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、エイコセン、またはこれらの混合物が挙げられる。一実施形態において、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、エイコセン、またはこれらの混合物ならびにそれらのダイマー、トリマー、及びテトラマーが、特に有用なオレフィンである。あるいは、オレフィンは、1,3-ブタジエンなどのジエンと、ブチルアクリレートなどの不飽和エステルとのディールス・アルダー付加物であり得る。
【0089】
硫化オレフィンの別の分類としては、硫化脂肪酸及びそれらのエステルが挙げられる。脂肪酸はしばしば植物油及び動物油から得られ、典型的には約4~約22個の炭素原子を含有する。好適な脂肪酸及びそれらのエステルの例としては、トリグリセリド、オレイン酸、リノール酸、パルミトレイン酸、またはこれらの混合物が挙げられる。しばしば、脂肪酸は、ラード油、トール油、ピーナツ油、ダイズ油、綿実油、ヒマワリ種子油、またはこれらの混合物から得られる。脂肪酸及び/またはエステルは、α-オレフィンなどのオレフィンと混合され得る。
【0090】
1種以上の酸化防止剤(複数可)は、潤滑油組成物の約0重量%~約20重量%、または約0.1重量%~約10重量%、または約1重量%~約5重量%の範囲内で存在し得る。
【0091】
耐摩耗剤
本明細書の潤滑油組成物はまた、任意に、1種以上の耐摩耗剤を含有してもよい。好適な耐摩耗剤の例としては、金属チオホスフェート、金属ジアルキルジチオホスフェート、これらのリン酸エステルもしくは塩、ホスフェートエステル(複数可)、ホスファイト、リン含有カルボン酸エステル、エーテル、もしくはアミド、硫化オレフィン、チオカルバメートエステル、アルキレン結合チオカルバメート、及びビス(S-アルキルジチオカルバミル)ジスルフィドを含むチオカルバメート含有化合物、ならびにこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。リン含有耐摩耗剤は、欧州特許第612839号においてより十分に記載されている。ジアルキルジチオホスフェート塩中の金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉛、スズ、マンガン、ニッケル、銅、チタン、または亜鉛であり得る。有用な耐摩耗剤は亜鉛ジアルキルチオホスフェートであり得る。
【0092】
好適な耐摩耗剤の更なる例としては、チタン化合物、酒石酸塩、酒石酸イミド、リン化合物の油溶性アミン塩、硫化オレフィン、ホスファイト(ジブチルホスファイトなど)、ホスホネート、チオカルバメート含有化合物(チオカルバメートエステル、チオカルバメートアミド、カルバミンエーテル、アルキレン結合チオカルバメート、及びビス(S-アルキルジチオカルバミル)ジスルフィドなど)が挙げられる。酒石酸塩または酒石酸イミドは、アルキル基上の炭素原子の合計が少なくとも8であり得る、アルキル-エステル基を含有し得る。耐摩耗剤は、一実施形態においてクエン酸塩を含み得る。
【0093】
耐摩耗剤は、潤滑油組成物の約0重量%~約15重量%、または約0.01重量%~約10重量%、または約0.05重量%~約5重量%、または約0.1重量%~約3重量%を含む範囲内で存在し得る。
【0094】
耐摩耗化合物は、約1:0.8~約1:1.7のP:Zn比を有する亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート(ZDDP)であり得る。
【0095】
ホウ素含有化合物
本明細書の潤滑油組成物は、任意に、1種以上のホウ素含有化合物を含有してもよい。
【0096】
ホウ素含有化合物の例としては、ホウ酸エステル、ホウ酸化脂肪アミン、ホウ酸化エポキシド、ホウ酸化洗浄剤、及びホウ酸化分散剤(米国特許第5,883,057号に開示されるホウ酸化スクシンイミド分散剤など)が挙げられる。
【0097】
存在する場合、ホウ素含有化合物は、潤滑油組成物の最大で約8重量%、約0.01重量%~約7重量%、約0.05重量%~約5重量%、または約0.1重量%~約3重量%を提供するのに十分な量で使用され得る。
【0098】
追加の任意の洗浄剤
潤滑油組成物は、1種以上の中性及び/または低塩基性洗浄剤、及びカルシウムを含有しない過塩基性洗浄剤、ならびにこれらの混合物を含み得る。好適な洗浄剤基材としては、フェネート、硫黄含有フェネート、スルホネート、カリキサレート、サリキサレート、サリチレート、カルボン酸、リン酸、モノチオリン酸及び/もしくはジチオリン酸、アルキルフェノール、硫黄結合アルキルフェノール化合物、またはメチレン架橋フェノールが挙げられる。好適な洗浄剤及びそれらの調製方法は、米国第7,732,390号及びその中で引用される参考文献を含む多数の特許公報により詳細に記載されている。洗浄剤基材は、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、リチウム、バリウム、またはこれらの混合物などであるが、これらに限定されない、アルカリ金属またはアルカリ土類金属で、塩分添加され得る。いくつかの実施形態において、洗浄剤はバリウムを含まない。好適な洗浄剤は、石油スルホン酸、ならびにアリール基がベンジル、トリル、及びキシリルである長鎖モノもしくはジアルキルアリールスルホン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含み得る。好適な洗浄剤の例としては、カルシウムフェネート、カルシウム硫黄含有フェネート、カルシウムスルホネート、カルシウムカリキサレート、カルシウムサリキサレート、カルシウムサリチレート、カルシウムカルボン酸、カルシウムリン酸、カルシウムモノチオリン酸及び/もしくはジチオリン酸、カルシウムアルキルフェノール、カルシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、カルシウムメチレン架橋フェノール、マグネシウムフェネート、マグネシウム硫黄含有フェネート、マグネシウムスルホネート、マグネシウムカリキサレート、マグネシウムサリキサレート、マグネシウムサリチレート、マグネシウムカルボン酸、マグネシウムリン酸、マグネシウムモノチオリン酸及び/もしくはジチオリン酸、マグネシウムアルキルフェノール、マグネシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、マグネシウムメチレン架橋フェノール、ナトリウムフェネート、ナトリウム硫黄含有フェネート、ナトリウムスルホネート、ナトリウムカリキサレート、ナトリウムサリキサレート、ナトリウムサリチレート、ナトリウムカルボン酸、ナトリウムリン酸、ナトリウムモノチオリン酸及び/もしくはジチオリン酸、ナトリウムアルキルフェノール、ナトリウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、またはナトリウムメチレン架橋フェノールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0099】
過塩基性洗浄剤添加剤は、当該技術分野においてよく知られており、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属過塩基性洗浄剤添加剤であり得る。そのような洗浄剤添加剤は、金属酸化物または金属水酸化物を基材及び二酸化炭素ガスと反応させることによって調製され得る。基材は、典型的には酸、例えば、脂肪族置換スルホン酸、脂肪族置換カルボン酸、または脂肪族置換フェノールなどの酸である。
【0100】
「過塩基性」という専門用語は、スルホネート、カルボキシレート、及びフェネートの金属塩などの金属塩に関連し、存在する金属の量は、化学量論量を超過する。そのような塩は、100%を超える転換レベルを有し得る(すなわち、それらは、酸をその「正」塩、「中性」塩に転換するのに必要とされる金属の理論量の100%超を含み得る)。しばしばMRと略される「金属比」という表現は、過塩基性塩中の金属の総化学当量の、既知の化学反応性及び化学量論に従う中性塩中の金属の化学当量に対する比を示すために使用される。正塩または中性塩において、金属比は1であり、過塩基性塩において、MRは1超である。それらは一般に、過塩基性塩、過剰塩基性塩、または超塩基性塩と称され、有機硫黄酸、カルボン酸、またはフェノールの塩であり得る。
【0101】
潤滑油組成物の過塩基性洗浄剤は、225mgKOH/グラムを超える総塩基価(TBN)、または更なる例として、約250mgKOH/グラム以上、または約350mgKOH/グラム以上、または約375mgKOH/グラム以上、または約400mgKOH/グラム以上の総塩基価(TBN)を有し得る。
【0102】
好適な過塩基性洗浄剤の例としては、過塩基性マグネシウムフェネート、過塩基性マグネシウム硫黄含有フェネート、過塩基性マグネシウムスルホネート、過塩基性マグネシウムカリキサレート、過塩基性マグネシウムサリキサレート、過塩基性マグネシウムサリチレート、過塩基性マグネシウムカルボン酸、過塩基性マグネシウムリン酸、過塩基性マグネシウムモノチオリン酸及び/もしくはジチオリン酸、過塩基性マグネシウムアルキルフェノール、過塩基性マグネシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、または過塩基性マグネシウムメチレン架橋フェノールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
過塩基性洗浄剤は、1.1:1、または2:1、または4:1、または5:1、または7:1、または10:1の金属の基材に対する比を有し得る。
【0104】
低塩基性/中性洗浄剤は、最大で175mgKOH/g、または最大で150mgKOH/gのTBNを有する。低塩基性/中性洗浄剤は、カルシウム含有洗浄剤を含み得る。低塩基性中性カルシウム含有洗浄剤は、カルシウムスルホネート洗浄剤、カルシウムフェネート洗浄剤、及びカルシウムサリチレート洗浄剤から選択され得る。いくつかの実施形態において、低塩基性/中性洗浄剤は、カルシウム含有洗浄剤またはカルシウム含有洗浄剤の混合物である。いくつかの実施形態において、低塩基性/中性洗浄剤は、カルシウムスルホネート洗浄剤またはカルシウムフェネート洗浄剤である。
【0105】
低塩基性/中性洗浄剤は、潤滑油組成物中の全洗浄剤の少なくとも2.5重量%を構成し得る。いくつかの実施形態において、潤滑油組成物中の全洗浄剤の少なくとも4重量%、または少なくとも6重量%、または少なくとも8重量%、または少なくとも10重量%、または少なくとも12重量%、または少なくとも20重量%が、任意に低塩基性/中性カルシウム含有洗浄剤であり得る低塩基性/中性洗浄剤である。
【0106】
所定の実施形態において、1種以上の低塩基性/中性洗浄剤は、潤滑油組成物の総重量を基準として約50~約1000重量ppmのカルシウムを潤滑油組成物に提供する。いくつかの実施形態において、1種以上の低塩基性/中性カルシウム含有洗浄剤は、潤滑油組成物の総重量を基準として75重量ppmから800重量ppm未満、または100~600重量ppm、または125~500重量ppmのカルシウムを潤滑油組成物に提供する。
【0107】
いくつかの実施形態において、洗浄剤は、エンジンにおける錆を低減または防止することに有効である。
【0108】
分散剤
本潤滑油組成物は、任意に、1種以上の分散剤またはこれらの混合物を更に含んでもよい。分散剤は、潤滑油組成物への混合前にそれらが灰形成金属を含有せず、潤滑剤への添加時にそれらが通常いかなる灰にも寄与しないため、しばしば無灰型分散剤として知られる。無灰型分散剤は、比較的高分子量の炭化水素鎖に結合した極性基を特徴とする。典型的な無灰分散剤は、N-置換長鎖アルケニルスクシンイミドを含む。N-置換長鎖アルケニルスクシンイミドの例としては、約350から約50,000まで、または約5,000まで、または約3,000までの範囲内のポリイソブチレン置換基の数平均分子量を有するポリイソブチレンスクシンイミドが挙げられる。スクシンイミド分散剤及びそれらの調製は、例えば、米国特許第7,897,696号または米国特許第4,234,435号に開示されている。ポリオレフィンは、約2~約16、または約2~約8、または約2~約6個の炭素原子を含有する重合性モノマーから調製され得る。スクシンイミド分散剤は、典型的には、ポリアミン、典型的にはポリ(エチレンアミン)から形成されたイミドである。
【0109】
一実施形態において、本開示は、約350から約50,000まで、または約5000まで、または約3000までの範囲内の数平均分子量を有するポリイソブチレンに由来する、少なくとも1種のポリイソブチレンスクシンイミド分散剤を更に含む。ポリイソブチレンスクシンイミドは、単独で使用されても、他の分散剤との組み合わせで使用されてもよい。
【0110】
いくつかの実施形態において、含まれる場合、ポリイソブチレンは、50モル%超、60モル%超、70モル%超、80モル%超、または90モル%超の末端二重結合の含有量を有し得る。そのようなPIBはまた、高度反応性PIB(「HR-PIB」)とも呼ばれる。約800~約5000の範囲の数平均分子量を有するHR-PIBは、本開示の実施形態における使用に好適である。従来のPIBは、典型的には、50モル%未満、40モル%未満、30モル%未満、20モル%未満、または10モル%未満の末端二重結合の含有量を有する。
【0111】
約900~約3000の範囲の数平均分子量を有するHR-PIBが、好適であり得る。そのようなHR-PIBは、市販されているか、またはBoerzelらに対する米国特許第4,152,499号及びGateauらに対する米国特許第5,739,355号に記載される、三フッ化ホウ素などの非塩素化触媒の存在下でのイソブテンの重合によって合成され得る。前述の熱エン反応において使用される場合、HR-PIBは、増加した反応性のために、反応におけるより高い転換率、及びより少ない量の沈降物形成をもたらし得る。好適な方法は、米国特許第7,897,696号に記載されている。
【0112】
一実施形態において、本開示は、ポリイソブチレン無水コハク酸(「PIBSA」)に由来する少なくとも1種の分散剤を更に含む。PIBSAは、1種のポリマー当たり、平均で約1.0~約2.0の間のコハク酸部分を有し得る。
【0113】
アルケニル無水コハク酸またはアルキル無水コハク酸の活性%は、クロマトグラフィー技術を使用して決定することができる。この方法は、米国特許第5,334,321号の欄5及び6に記載されている。
【0114】
ポリオレフィンの転換パーセントは、米国特許第5,334,321号の欄5及び6の等式を使用して、活性%から計算される。
【0115】
別段述べられない限り、全ての百分率は重量パーセントであり、全ての分子量は数平均分子量である。
【0116】
一実施形態において、分散剤は、ポリアルファオレフィン(PAO)無水コハク酸に由来し得る。
【0117】
一実施形態において、分散剤は、オレフィン無水マレイン酸コポリマーに由来し得る。一例として、分散剤は、ポリ-PIBSAとして記載され得る。
【0118】
一実施形態において、分散剤は、エチレン-プロピレンコポリマーにグラフトされる無水物に由来し得る。
【0119】
好適な分散剤の一分類は、マンニッヒ塩基であり得る。マンニッヒ塩基は、より高い分子量のアルキル置換フェノール、ポリアルキレンポリアミン、及びアルデヒド(ホルムアルデヒドなど)の縮合によって形成される材料である。マンニッヒ塩基は、米国特許第3,634,515号により詳細に記載されている。
【0120】
分散剤の好適な一分類は、高分子量エステルまたは半エステルアミドであり得る。
【0121】
好適な分散剤はまた、様々な薬剤との反応による従来の方法によって後処理され得る。これらの中には、ホウ素、尿素、チオ尿素、ジメルカプトチアジアゾール、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換無水コハク酸、無水マレイン酸、ニトリル、エポキシド、炭酸塩、環状炭酸塩、障害フェノールエステル、及びリン化合物がある。米国第7,645,726号、米国第7,214,649号、及び米国第8,048,831号は、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0122】
炭酸塩及びホウ酸後処理に加えて、両方の化合物は、異なる特性を改善するか、もしくはそれを与えるように設計された様々な後処理で後処理されるか、または更に後処理され得る。そのような後処理としては、本明細書により参照によって組み込まれる、米国特許第5,241,003号の欄27~29にまとめられるものが挙げられる。そのような処理としては、
無機リン酸または無水物(例えば、米国特許第3,403,102号及び第4,648,980号)、
有機リン化合物(例えば、米国特許第3,502,677号)、
五硫化リン、
既に上記したようなホウ素化合物(例えば、米国特許第3,178,663及び第4,652,387号)、
カルボン酸、ポリカルボン酸、無水物、及び/または酸ハロゲン化物(例えば、米国特許第3,708,522号及び第4,948,386号)、
エポキシド、ポリエポキシド、またはチオエポキシド(例えば、米国特許第3,859,318号及び第5,026,495号)、
アルデヒドまたはケトン(例えば、米国特許第3,458,530号)、
二硫化炭素(例えば、米国特許第3,256,185号)、
グリシドール(例えば、米国特許第4,617,137号)、
尿素、チオ尿素、またはグアニジン(例えば、米国特許第3,312,619号、第3,865,813号、及び英国特許第GB1,065,595号)、
有機スルホン酸(例えば、米国特許第3,189,544号及び英国特許第GB2,140,811号)、
シアン化アルケニル(例えば、米国特許第3,278,550号及び第3,366,569号)、
ジケテン(例えば、米国特許第3,546,243号)、
ジイソシアネート(例えば、米国特許第3,573,205号)、
アルカンスルトン(例えば、米国特許第3,749,695号)、
1,3-ジカルボニル化合物(例えば、米国特許第4,579,675号)、
アルコキシル化アルコールまたはフェノールのスルフェート(例えば、米国特許第3,954,639号)、
環状ラクトン(例えば、米国特許第4,617,138号、第4,645,515号、第4,668,246号、第4,963,275号、及び第4,971,711号)、
環状炭酸塩またはチオ炭酸塩、直鎖状モノ炭酸塩もしくはポリ炭酸塩、またはクロロギ酸塩(例えば、米国特許第4,612,132号、第4,647,390号、第4,648,886号、第4,670,170号)、
窒素含有カルボン酸(例えば、米国特許第4,971,598号及び英国特許第GB2,140,811号)、
ヒドロキシ保護クロロジカルボニルオキシ化合物(例えば、米国特許第4,614,522号)、
ラクタム、チオラクタム、チオラクトン、またはジトラクトン(ditholactone)(例えば、米国特許第4,614,603及び第4,666,460号)、
環状炭酸塩またはチオ炭酸塩、直鎖状モノ炭酸塩またはポリ炭酸塩、またはクロロギ酸塩(例えば、米国特許第4,612,132号、第4,647,390号、第4,646,886号、第4,670,170号)、
窒素含有カルボン酸(例えば、米国特許第4,971,598号及び英国特許第GB2,440,811号)、
ヒドロキシ保護クロロジカルボニルオキシ化合物(例えば、米国特許第4,614,522号)、
ラクタム、チオラクタム、チオラクトン、またはジチオラクトン(例えば、米国特許第4,614,603及び第4,666,460号)、
環状カルバメート、環状チオカルバメート、または環状ジチオカルバメート(例えば、米国特許第4,663,062号及び4,666,459号)、
ヒドロキシ脂肪族カルボン酸(例えば、米国特許第4,482,464号、第4,521,318号、第4,713,189号)、
酸化剤(例えば、米国特許第4,379,064号)、
五硫化リン及びポリアルキレンポリアミンの組み合わせ(例えば、米国特許第3,185,647号)、
カルボン酸またはアルデヒドまたはケトン及び硫黄または塩化硫黄の組み合わせ(例えば、米国特許第3,390,086号、第3,470,098号)、
ヒドラジン及び二硫化炭素の組み合わせ(例えば、米国特許第3,519,564号)、
アルデヒド及びフェノールの組み合わせ(例えば、米国特許第3,649,229号、第5,030,249号、第5,039,307号)、
アルデヒド及びジチオリン酸のO-ジエステルの組み合わせ(例えば、米国特許第3,865,740号)、
ヒドロキシ脂肪族カルボン酸及びホウ酸の組み合わせ(例えば、米国特許第4,554,086号)、
ヒドロキシ脂肪族カルボン酸、それに次ぐホルムアルデヒド及びフェノールの組み合わせ(例えば、米国特許第4,636,322号)、
ヒドロキシ脂肪族カルボン酸、及びそれに次ぐ脂肪族ジカルボン酸の組み合わせ(例えば、米国特許第4,663,064号)、
ホルムアルデヒド及びフェノール、ならびにそれに次ぐグリコール酸の組み合わせ(例えば、米国特許第4,699,724号)、
ヒドロキシ脂肪族カルボン酸またはシュウ酸及びそれに次ぐジイソシアネートの組み合わせ(例えば、米国特許第4,713,191号)、
リンの無機酸もしくは無水物またはその部分的もしくは全体的硫黄類似体及びホウ素化合物の組み合わせ(例えば、米国特許第4,857,214号)、
有機二酸、それに次ぐ不飽和脂肪酸、及びそれに次ぐニトロソ芳香族アミン、任意にそれに続くホウ素化合物、ならびにそれに次ぐグルコール化剤の組み合わせ(例えば、米国特許第4,973,412号)、
アルデヒド及びトリアゾールの組み合わせ(例えば、米国特許第4,963,278号)、
アルデヒド及びトリアゾール、それに次ぐホウ素化合物の組み合わせ(例えば、米国特許第4,981,492号)、
環状ラクトン及びホウ素化合物の組み合わせ(例えば、米国特許第4,963,275号及び第4,971,711号)での処理が挙げられる。上記の特許はそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0123】
好適な分散剤のTBNは、油を含まない場合約10~約65であり得、これは、約50%の希釈油を含有する分散剤試料上で測定される場合の約5~約30のTBNと同等である。
【0124】
存在する場合、分散剤は、本潤滑油組成物の最終重量を基準として、最大で約20重量%を提供するのに十分な量で使用され得る。使用され得る分散剤の別の量は、本潤滑油組成物の最終重量を基準として、約0.1重量%~約15重量%、または約0.1重量%~約10重量%、または約3重量%~約10重量%、または約1重量%~約6重量%、または約7重量%~約12重量%であり得る。いくつかの実施形態において、潤滑油組成物は、混合分散剤系を利用する。単一の種類または任意の所望の比の2種類以上の分散剤の混合物が使用され得る。
【0125】
摩擦調整剤
本明細書の潤滑油組成物はまた、任意に、1種以上の摩擦調整剤を含有してもよい。好適な摩擦調整剤は、金属含有及び金属を含まない摩擦調整剤を含み得、これらには、イミダゾリン、アミド、アミン、スクシンイミド、アルコキシル化アミン、アルコキシル化エーテルアミン、酸化アミン、アミドアミン、ニトリル、ベタイン、第四級アミン、イミン、アミン塩、アミノグアニジン、アルカノールアミド、ホスホネート、金属含有化合物、グリセロールエステル、硫化脂肪化合物及びオレフィン、ヒマワリ油他の天然に発生する植物油または動物油、ジカルボン酸エステル、ポリオールと1種以上の脂肪族もしくは芳香族カルボン酸とのエステルまたは部分エステルなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0126】
好適な摩擦調整剤は、直鎖状、分岐鎖状、もしくは芳香族ヒドロカルビル基、またはこれらの混合物から選択されるヒドロカルビル基を含有してもよく、飽和であっても、不飽和であってもよい。ヒドロカルビル基は、炭素及び水素、または硫黄もしくは酸素などのヘテロ原子で構成され得る。ヒドロカルビル基は、約12~約25個の炭素原子の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、摩擦調整剤は、長鎖脂肪酸エステルであり得る。別の実施形態において、長鎖脂肪酸エステルは、モノエステルであっても、ジエステルであっても、(トリ)グリセリドであってもよい。摩擦調整剤は、長鎖脂肪酸アミド、長鎖脂肪エステル、長鎖脂肪エポキシド誘導体、または長鎖イミダゾリンであり得る。
【0127】
他の好適な摩擦調整剤としては、有機、無灰(金属を含まない)、無窒素有機摩擦調整剤を挙げることができる。そのような摩擦調整剤は、カルボン酸及び無水物をアルカノールと反応させることによって形成されるエステルを含み得、一般に、親油性炭化水素鎖に共有結合した極性末端基(例えば、カルボキシルまたはヒドロキシル)を含む。有機無灰無窒素摩擦調整剤の一例は、一般に、オレイン酸のモノエステル、ジエステル、及びトリエステルを含有し得るグリセロールモノオレエート(GMO)として知られる。他の好適な摩擦調整剤は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第6,723,685号に記載されている。
【0128】
アミン系摩擦調整剤は、アミンまたはポリアミンを含み得る。そのような化合物は、直鎖状であり、飽和もしくは不飽和のいずれかであるヒドロカルビル基、またはこれらの混合を有し得、約12~約25個の炭素原子を含有し得る。好適な摩擦調整剤の更なる例としては、アルコキシル化アミン及びアルコキシル化エーテルアミンが挙げられる。そのような化合物は、直鎖状であり、飽和もしくは不飽和のいずれかであるヒドロカルビル基、またはこれらの混合を有し得る。それらは、約12~約25個の炭素原子を含有し得る。例としては、エトキシル化アミン及びエトキシル化エーテルアミンが挙げられる。
【0129】
アミン及びアミドは、それ自体で使用されても、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、メタホウ酸塩、ホウ酸、またはホウ酸モノアルキル、ホウ酸ジアルキル、もしくはホウ酸トリアルキルなどのホウ素化合物との付加物または反応生成物の形態で使用されてもよい。他の好適な摩擦調整剤は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第6,300,291号に記載されている。
【0130】
摩擦調整剤は、任意に、約0重量%~約10重量%、または約0.01重量%~約8重量%、または約0.1重量%~約4重量%などの範囲内で存在し得る。
【0131】
チタン含有化合物
添加剤の別の分類は、油溶性チタン化合物を含む。油溶性チタン化合物は、耐摩耗剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、沈着制御添加剤、またはこれらの機能のうちの1種以上として機能し得る。一実施形態において、油溶性チタン化合物は、チタン(IV)アルコキシドであり得る。チタンアルコキシドは、一価アルコール、ポリオール、またはこれらの混合物から形成され得る。一価アルコキシドは、2~16、または3~10個の炭素原子を有し得る。一実施形態において、チタンアルコキシドは、チタン(IV)イソプロポキシドであり得る。一実施形態において、チタンアルコキシドは、チタン(IV)2-エチルヘキソキシドであり得る。一実施形態において、チタン化合物は、1,2-ジオールまたはポリオールのアルコキシドであり得る。一実施形態において、1,2-ジオールは、オレイン酸などの、グリセロールの脂肪酸モノエステルを含む。一実施形態において、油溶性チタン化合物は、チタンカルボキシレートであり得る。一実施形態において、チタン(IV)カルボキシレートは、チタンネオデカノエートであり得る。
【0132】
一実施形態において、油溶性チタン化合物は、ゼロ~約1500重量ppmのチタン、または約10重量ppm~500重量ppm、または約25重量ppm~約150重量ppmのチタンを提供する量で潤滑油組成物中に存在し得る。
【0133】
遷移金属含有化合物
別の実施形態において、油溶性化合物は、遷移金属含有化合物または半金属であってもよい。遷移金属としては、チタン、バナジウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、モリブデン、タンタル、タングステンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。好適な半金属としては、ホウ素、ケイ素、アンチモン、テルルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0134】
一実施形態において、約0.8:1~約70:1の範囲のCa/Mの重量比で使用され得る油溶性化合物は、チタン含有化合物であり、式中、Mは、上記のような潤滑剤組成物中の総金属である。チタン含有化合物は、耐摩耗剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、沈着制御添加剤、またはこれらの機能のうちの1つ以上として機能し得る。開示される技術において使用され得るか、または開示される技術の油溶性材料の調製に使用され得るチタン含有化合物の中には、様々なTi(IV)化合物、例えば、チタン(IV)オキシド、チタン(IV)スルフィド、チタン(IV)ナイトレート、チタン(IV)アルコキシド、例えば、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンプロポキシド、チタンイソプロポキシド、チタンブトキシド、チタン2-エチルヘキソキシド、及びチタンフェネートを含むがこれに限定されない他のチタン化合物または錯体、チタンカルボキシレート、例えば、チタン(IV)2-エチル-1-3-ヘキサンジオエートまたはチタンシトレート、またはチタンオレエート、ならびにチタン(IV)(トリエタノールアミナト)イソプロポキシドがある。開示される技術に包含されるチタンの他の形態には、チタンホスフェート、例えば、チタンジチオホスフェート(例えば、ジアルキルジチオホスフェート)及びチタンスルホネート(例えば、アルキルベンゼンスルホネート)、または、一般に、チタン化合物と、油溶性塩などの塩を形成する様々な酸材料との反応生成物が含まれる。それ故、チタン化合物は、とりわけ、有機酸、アルコール、及びグリコールに由来し得る。Ti化合物はまた、Ti-O-Ti構造を含有する二量体またはオリゴマーの形態で存在してもよい。そのようなチタン材料は、市販されているか、または当業者に明らかな適切な合成技術によって容易に調製され得る。それらは、特定の化合物に応じて、固体または液体として室温で存在し得る。それらはまた、適切な不活性溶媒中の溶液形態で提供されてもよい。
【0135】
一実施形態において、チタンは、スクシンイミド分散剤などのTi変性分散剤として供給され得る。そのような材料は、チタンアルコキシドと、アルケニル(またはアルキル)無水コハク酸などのヒドロカルビル置換無水コハク酸との間でチタン混合無水物を形成することによって調製され得る。得られたチタネート-スクシネート中間体は、直接使用してもよく、または多数の材料のいずれかと反応させてもよく、その材料は例えば、(a)遊離の縮合可能な-NH官能基を有するポリアミン系スクシンイミド/アミド分散剤、(b)ポリアミン系スクシンイミド/アミド分散剤の成分、すなわち、アルケニル-(またはアルキル-)無水コハク酸及びポリアミン、(c)置換無水コハク酸と、ポリオール、アミノアルコール、ポリアミン、またはこれらの混合物との反応によって調製されるヒドロキシ含有ポリエステル分散剤である。あるいは、チタネート-スクシネート中間体は、他の薬剤と反応させてもよく、他の薬剤は、例えば、アルコール、アミノアルコール、エーテルアルコール、ポリエーテルアルコールもしくはポリオール、または脂肪酸、及び、Tiを潤滑剤に付与するのに直接使用されるか、または上述のスクシニック分散剤と更に反応されるそれらの生成物である。例として、1部(モルで)のテトライソプロピルチタネートは、約2部(モルで)のポリイソブテン-置換スクシニック無水物と140~150℃で5~6時間反応させて、チタン変性分散剤または中間体を提供してもよい。得られた材料(30g)を、150℃で1.5時間、ポリイソブテン置換無水コハク酸及びポリエチレンポリアミン混合物(127グラム+希釈油)からのスクシンイミド分散剤と更に反応させて、チタン変性スクシンイミド分散剤を生成してもよい。
【0136】
別のチタン含有化合物は、チタンアルコキシドとC6~C25カルボン酸との反応生成物であり得る。反応生成物は以下の式
【0137】
【0138】
(式中、nは、2、3、及び4から選択される整数であり、Rは、約5~約24個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基である。)、または式
【0139】
【0140】
(式中、R1、R2、R3、及びR4の各々は、同一であるかまたは異なり、約5~約25個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基から選択される。)によって表され得る。好適なカルボン酸としては、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、ネオデカン酸などが挙げられる。
【0141】
一実施形態において、油溶性チタン化合物は、0~3000重量ppmのチタン、または25重量ppm~約1500重量ppmのチタン、または約35重量ppm~500重量ppmのチタン、または約50ppm~約300ppmを提供する量で潤滑油組成物中に存在し得る。
【0142】
粘度指数改善剤
本明細書の潤滑油組成物はまた、任意に、1種以上の粘度指数改善剤を含有してもよい。好適な粘度指数改善剤としては、ポリオレフィン、オレフィンコポリマー、エチレン/プロピレンコポリマー、ポリイソブテン、水素化スチレン-イソプレンポリマー、スチレン/マレイン酸エステルコポリマー、水素化スチレン/ブタジエンコポリマー、水素化イソプレンポリマー、アルファ-オレフィン無水マレイン酸コポリマー、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアルキルスチレン、水素化アルケニルアリール共役コポリマー、またはこれらの混合物を挙げることができる。粘度指数改善剤は星型ポリマーを含み得、好適な例は米国特許第8,999,905B2号に記載されている。
【0143】
本明細書の潤滑油組成物はまた、任意に、粘度指数改善剤に加えて、または粘度指数改善剤の代わりに、1種以上の分散剤粘度指数改善剤を含有してもよい。好適な粘度指数改善剤は、官能化ポリオレフィン、例えば、アシル化剤(無水マレイン酸など)とアミンとの反応生成物で官能化されているエチレン-プロピレンコポリマー、アミンで官能化されているポリメタクリレート、またはアミンと反応したエステル化無水マレイン酸-スチレンコポリマーを含み得る。
【0144】
粘度指数改善剤及び/または分散剤粘度指数改善剤の総量は、潤滑油組成物の約0重量%~約20重量%、約0.1重量%~約15重量%、約0.1重量%~約12重量%、または約0.5重量%~約10重量%であり得る。
【0145】
他の任意の添加剤
他の添加剤は、潤滑流体に必要とされる1つ以上の機能を実行するように選択され得る。更に、言及される添加剤のうちの1種以上は複数機能性であり、本明細書に規定される機能に対する追加の機能、またはそれ以外の機能を提供し得る。
【0146】
本開示に従う潤滑油組成物は、任意に、他の性能添加剤を含んでもよい。他の性能添加剤は、本開示に明記される添加剤に対する追加であっても、かつ/または金属不活性剤、粘度指数改善剤、洗浄剤、無灰TBNブースター、摩擦調整剤、耐摩耗剤、腐食抑制剤、錆抑制剤、分散剤、分散剤粘度指数改善剤、極圧剤、酸化防止剤、泡抑制剤、解乳化剤、乳化剤、流動点降下剤、シール膨潤剤、及びこれらの混合物のうちの1種以上を含んでもよい。典型的には、完全配合潤滑油は、これらの性能添加剤のうちの1種以上を含有する。
【0147】
好適な金属不活性剤は、ベンゾトリアゾールの誘導体(典型的にはトリルトリアゾール)、ジメルカプトチアジアゾール誘導体、1,2,4-トリアゾール、ベンズイミダゾール、2-アルキルジチオベンズイミダゾール、または2-アルキルジチオベンゾチアゾール;エチルアクリレート及び2-エチルヘキシルアクリレートならびに任意に酢酸ビニルのコポリマーを含む泡抑制剤;トリアルキルホスフェート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及び(エチレンオキシド-プロピレンオキシド)ポリマーを含む、解乳化剤;無水マレイン酸-スチレンのエステル、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、またはポリアクリルアミドを含む、流動点降下剤を含み得る。
【0148】
好適な泡抑制剤は、シロキサンなどのシリコン系化合物を含む。
【0149】
好適な流動点降下剤は、ポリメチルメタクリレートまたはこれらの混合物を含み得る。流動点降下剤は、本潤滑油組成物の最終重量を基準として、約0重量%~約1重量%、約0.01重量%~約0.5重量%、または約0.02重量%~約0.04重量%を提供するのに十分な量で存在し得る。
【0150】
好適な錆抑制剤は、単一の化合物であっても、二価鉄金属表面の腐食を抑制する特性を有する化合物の混合物であってもよい。本明細書において有用な錆抑制剤の非限定的な例としては、2-エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、及びセロチン酸などの油溶性高分子量有機酸、ならびにトール油脂肪酸、オレイン酸、及びリノール酸から生成されるものなどのダイマー酸及びトリマー酸を含む油溶性ポリカルボン酸が挙げられる。他の好適な腐食抑制剤としては、約600~約3000の分子量範囲内の長鎖アルファ、オメガ-ジカルボン酸、ならびにテトラプロペニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、及びヘキサデセニルコハク酸などのアルケニル基が約10個以上の炭素原子を含有するアルケニルコハク酸が挙げられる。酸性腐食抑制剤の別の有用な種類は、アルケニル基中に約8~約24個の炭素原子を有するアルケニルコハク酸とポリグリコールなどのアルコールとの半エステルである。そのようなアルケニルコハク酸の対応する半アミドもまた、有用である。有用な錆抑制剤は、高分子量有機酸である。いくつかの実施形態において、エンジン油は錆抑制剤を欠く。
【0151】
存在する場合、錆抑制剤は、本潤滑油組成物の最終重量を基準として、約0重量%~約5重量%、約0.01重量%~約3重量%、約0.1重量%~約2重量%を提供するのに十分な量で使用され得る。
【0152】
一般論として、好適なクランクケース潤滑剤は、以下の表に列挙される範囲内の添加剤成分を含み得る。
【0153】
【0154】
上記の各成分の百分率は、本最終潤滑油組成物の重量に基づく各成分の重量パーセントを表す。潤滑油組成物の残部は、1種以上の基油からなる。
【0155】
本明細書に記載される組成物の配合に使用される添加剤は、個々に、または様々な部分組み合わせで、基油にブレンドされ得る。しかしながら、添加剤濃縮物(すなわち、添加剤プラス炭化水素溶媒などの希釈剤)を使用して、成分の全てを同時にブレンドすることが好適であり得る。本明細書に記載される組成物の配合に使用される添加剤は、個々に、または様々な部分組み合わせで、基油にブレンドされ得る。しかしながら、添加剤濃縮物(すなわち、添加剤プラス炭化水素溶媒などの希釈剤)を使用して、成分の全てを同時にブレンドすることが好適であり得る。
【0156】
本開示は、自動車エンジン潤滑剤としての使用のために特に配合された、新規の潤滑油ブレンドを提供する。本開示の実施形態は、以下の特質のうちの1つ以上の改善を提供するエンジン用途に好適な潤滑油を提供し得る。低速プレイグニッション事象、酸化防止性、耐摩耗性能、錆抑制、燃料経済性、耐水性、空気混入、シール保護、及び泡低減特性。
【0157】
完全に配合された潤滑剤は、その配合物において必要とされる特質を供給する分散剤/抑制剤パッケージまたはDIパッケージと本明細書で称される添加剤パッケージを慣用的に含有する。好適なDIパッケージは、例えば、米国特許第5,204,012号及び第6,034,040号に記載されている。添加剤パッケージに含まれる添加剤の種類の中には、分散剤、シール膨潤剤、酸化防止剤、泡抑制剤、潤滑剤、錆抑制剤、腐食防止剤、解乳化剤、粘度指数改善剤などがあり得る。これらの成分のいくつかは、当業者によく知られており、一般に、本明細書に記載の添加剤及び組成物と共に従来の量で使用される。
【0158】
以下の実施例は、本開示の方法及び組成物の例示的、しかし非限定的なものである。当該分野において通常遭遇される様々な条件及びパラメータの他の好適な修正及び適応は、当業者にとって明らかであり、本開示の趣旨及び範囲内である。本明細書に引用される全ての特許及び公開物の全体が、参照によって本明細書に完全に組み込まれる。
【実施例】
【0159】
従来の添加剤を含有する完全に配合された潤滑油組成物を作製し、潤滑油組成物の低速イグニッション事象を測定した。潤滑油組成物の各々は、主要量の基油、ベース従来DIパッケージプラス粘度指数改善剤(複数可)を含有しており、そのベースDIパッケージ(より少ない粘度指数改善剤)は潤滑油組成物の約8~12重量パーセントを提供した。ベースDIパッケージは、以下の表3に提供されているように、従来の量の分散剤(複数可)、耐磨耗添加剤(複数可)、消泡剤(複数可)、及び酸化防止剤(複数可)を含有していた。具体的には、ベースDIパッケージは、スクシンイミド分散剤、ホウ酸化スクシンイミド分散剤、有機摩擦調整剤、酸化防止剤(複数可)、及び耐摩耗剤(複数可)(別段特定されていない限り)を含有していた。比較油C-1は、モリブデン含有化合物を含有していなかった。ベースDIパッケージはまた、約5~約10重量%の粘度指数改善剤(複数可)とブレンドされた。希釈剤としてI群の基油を使用した。基油の主要量(約78~約87重量%)はIII群であった。変更された成分は、以下の実施例の表及び考察で特定されている。列挙された値の全ては、別段特定されていない限り、潤滑油組成物(すなわち、有効原料プラスもしあれば希釈油)中の成分の重量パーセントとして記述されている。
【0160】
【0161】
低速プレイグニッション事象は、GMの2.0リットルの4気筒Ecotecターボチャージ付きガソリン直噴(GDI)エンジンで測定した。1つの完全なLSPI燃焼エンジン試験は4つの試験サイクルからなっていた。単一のテストサイクル内で、LSPIを生成するために、2つの作動ステージまたはセグメントを繰り返した。ステージAにおいて、LSPIが発生する可能性が最も高い場合、エンジンは約2000rpm及び約18,000kPaの正味平均有効圧力(BMEP)で作動される。ステージBにおいて、LSPIが発生しそうにない場合、エンジンは約1500rpm及び約17,000kPaのBMEPで作動される。各ステージについて、25,000のエンジンサイクルにわたってデータを収集する。試験サイクルの構造は次の通りである。ステージA-ステージA-ステージB-ステージB-ステージA-ステージA。各々のステージはアイドル期間によって分離される。ステージAの間はLSPIが統計的に有意であるため、考察されたLSPI事象データは、ステージAの作動中に生成されたLSPIのみを含んでいた。それ故、1つの完全なLSPI燃焼エンジン試験の場合、データは、典型的には、合計で16ステージにわたって生成され、比較用及び本発明の油の性能を評価するために使用された。
【0162】
LSPI事象は、ピークシリンダー圧力(PP)をモニターすることによって、燃焼室内の可燃性材料の2%が燃焼するとき(MFB02)に決定された。ピークシリンダー圧力の閾値は、各シリンダー及び各ステージについて計算され、典型的には65,000~85,000kPaである。MFB02の閾値は、各シリンダー及び各ステージについて計算され、典型的には、約3.0~約7.5の上死点後(ATDC)のクランク角度(CAD)の範囲にある。単一のエンジンサイクルでPPとMFB02の両方の閾値を超過したときにLSPIを記録した。LSPI事象は多くの方法で報告され得る。異なる数のエンジンサイクルで異なる燃焼エンジン試験が行われ得る場合、エンジンサイクル当たりの数を報告する上で関係する不明瞭性を除くために、比較用及び本発明の油の相対的LSPI事象を報告した(「LSPI比」)。このようにして、いくつかの標準的な応答に対する改善が明確に実証される。
【0163】
全ての参考油は、全てのILSAC GF-5性能要件を満たす市販のエンジン油である。
【0164】
以下の実施例において、LSPI比は、参考油「R-1」のLSPI事象に対する試験油のLSPI事象の比として報告された。R-1は、ベースDIパッケージ及び約2400ppmのCaを潤滑油組成物に提供する量の過塩基性カルシウム洗浄剤で配合された潤滑油組成物であった。参考油R-1のより詳細な配合情報を以下に示す。R-1と比較してLSPI事象が50%を超えて低減する場合(0.5未満のLSPI比)、LSPIの著しい改善が認められる。LSPI事象が70%を超えて低減する場合(0.3未満のLSPI比)、LSPIの更なる改善が認められ、LSPI事象が75%を超えて低減する場合(0.25未満のLSPI比)、LSPIのより更なる改善が認められ、R-1に対してLSPI事象が80%を超えて低減する場合(0.20未満のLSPI比)、LSPIのより更なる改善が認められ、R-1に対してLSPI事象が90%を超えて低減する場合(0.10未満のLSPI比)、LSPIのより更なる改善が認められる。それ故、R-1参考油のLSPI比は1.00と見なされる。過塩基性カルシウム洗浄剤とモリブデン含有化合物との組み合わせを、ベース配合物を用いて試験した。R-1はまた、約80ppmのMoを潤滑油組成物に提供するために硫黄非含有モリブデン/アミン錯体を含有していた。
【0165】
http://konnaris.com/portals/0/search/calculations.htmに従って、潤滑組成物中の各金属元素の量を乗じた以下の係数に従って、潤滑組成物中のSASHに寄与する金属元素の合計のために硫酸灰分(SASH)を計算した。
【0166】
【0167】
実施例1~9
以下の実施例では、異なる量の及び異なる供給源からのモリブデンからのLSPIへの影響を試験した。R-1、I-1、I-2、及びI-3では、硫黄非含有モリブデン/アミン錯体を使用した。R-2では、モリブデン化合物は市販品であるため未知である。しかしながら、潤滑組成物中に存在するモリブデンの量は、ICP分析によって約280重量ppmのモリブデンであると測定された。異なる2種類のモリブデンジチオカルバメートを試験した。I-4及びI-5では、モリブデンジチオカルバメートを使用した。I-6及びI-7では、モリブデンジチオカルバメートを使用した。I-8及びI-9では、モリブデンジチオホスフェートを使用した。結果を以下の表に示す。
【0168】
【0169】
市販の油であるR-1及びR-2は、現在の最高水準を実証するために参考油として含まれている。参考油R-1は、約80.7重量%のIII群の基油、12.1重量%のAfton Chemical Corporationから入手可能なHiTEC(登録商標)11150PCMO添加剤パッケージ、及び7.2重量%の35SSIエチレン/プロピレンコポリマー粘度指数改善剤から配合されていた。HiTEC(登録商標)11150乗用車モーター油添加剤パッケージは、API SN、ILSAC-GF-5、及びACEA A5/B5認定DIパッケージである。R-1はまた、以下ならびに特性及び部分元素分析を示した。
【0170】
【0171】
R-2は、本発明の油よりも高いカルシウム負荷でのカルシウム含有洗浄剤のみを含有する。R-1及びR-2は、ILSAC GF-5の全ての性能要件を満たす。比較例C-1は市販の油ではなく、潤滑油組成物からモリブデンを除いた場合のLSPIにおける性能を実証する比較油として設計された。
【0172】
表4において、R-1及びR-2は、Caの類似の処理の使用及びモリブデンの量の単なる増加はLSPIを改善しないことを示している。I-1、I-2、及びI-3は、C-1と比較して、モリブデンの量を増加させながらCaの量を減少させることによって、LSPIに正の効果を及ぼすことを実証した。I-4、I-5、I-6、及びI-7は、硫黄非含有モリブデン/アミン錯体中の代わりにモリブデンジチオカルバメートを利用した。モリブデンの量が増加すると共に硫黄含有量が増加するにつれて、LSPIの改善が観察される。I-8及びI-9は、硫黄非含有モリブデン/アミン錯体中の代わりにモリブデンジチオホスフェートを利用した。モリブデン及び硫黄の両方の量が増加するにつれて、LSPIの改善が観察される。更に、モリブデンジチオホスフェートがリンを追加的に含むので、添加した量のリンはLSPIに正の影響を及ぼすようである。
【0173】
過塩基性カルシウム洗浄剤の量を低減し、モリブデン含有化合物の量及び種類を変化させることによって、LSPIの予想外の改善が得られる。モリブデン含有化合物が硫黄及び/またはリンを追加的に含有する場合、更なる改善が観察される。過塩基性カルシウム洗浄剤からの2400重量ppmのCaの量でカルシウムを含有する流体と比較した場合、特許請求された組み合わせを利用した場合は約50%または約75%を超えるLSPIの改善が達成され得る。
【0174】
本データは、添加剤パッケージまたは分散剤抑制剤(DI)パッケージからの硫黄の、モリブデン化合物からのモリブデンに対する比を18:1未満で維持することがLSPIを改善するために有益であることを示している。更に、SASHを約1.0重量%未満に維持することはLSPIにとって有益である。
【0175】
実施例10~12
実施例10~12は、ターボチャージャーの冷却剤流出物における温度(TCO)及びターボチャージャー沈着についての平均メリット評定に対する本発明の組成物の効果を実証する。
【0176】
ターボチャージャーコーキング試験
ターボチャージャーコーキング試験は、3リットルの試験油チャージ及び適格の試験燃料を有する2012年の1.4L Chevy Cruzeキャリブレーションエンジンで実施した。1回の完全なターボチャージャー沈着試験は、およそ536時間にわたる2000サイクルからなっていた。各サイクルは2段階からなる。第1段階は、30秒間のエンジンアイドリングと、それに続く6分半の3000RPMまでの増加からなる。この期間の後、エンジンが完全に停止し、第2段階が開始するまで、エンジン速度を50秒間2000RPMに減少させる。第2段階はソーク期間でのエンジンの7分半の期間からなる。
【0177】
ターボチャージャー冷却剤流出物における温度(TCO温度)を30秒毎に測定する。初期のベースライン温度は、エンジンをウォームアップするために初期の100サイクルが完了した後に測定する。試験を1800サイクル行った後、TCO温度を再度測定する。合格性能は、2000サイクルの試験全体の間で、ベースラインのTCO温度からのTCO温度の上昇が13%未満及び測定されたブースト圧力が10秒の期間連続して5kPa未満を継続しないエンジン作動として定義される。
【0178】
この試験の追加の性能パラメータを決定するために、ASTM Manual20Non-Rubbing Carbon Methodを使用してターボチャージャーコーキング試験の完了時にターボチャージャーの異なる領域を分析した。2000サイクル後または故障した後に、ターボチャージャーの6つの異なる領域、すなわち、A)タービン軸領域、B)タービン軸領域、C)中央ハウジングタービンエンドホール、D)中央ハウジングタービン入口ホール、E)中央ハウジングタービン出口ホール、及びF)入口パイプの各々に割り当てられたメリット評定を平均することによって平均メリット評定を決定する。平均メリット評定は、0~10メリットの範囲として報告される。10メリットの評定は、最大かつ最高の評定であり、0メリットの評定は、最小かつ最低のメリット評定である。
【0179】
以下の実施例10~12では、過塩基性カルシウムスルホネート洗浄剤及びモリブデンの様々な量での組み込みのTCO温度上昇及び平均メリット評定への影響を決定した。試験するこれらの配合物の各々の組成及び結果を表5に要約する。
【0180】
【0181】
表5において、配合物C-2、I-10、I-11、及びI-12は、特に本発明の実施例I-12によって証明されているように、全カルシウム及びモリブデン含有量、ならびにホウ酸化分散剤の量を調節することにより、TCO温度上昇の有意な低減及び改善された平均メリット評定を提供することができることを実証している。
【0182】
本明細書を通して多くの箇所で、多数の米国特許が参照されている。全てのそのような引用された文書は、本明細書において十分に説明されているかのように本開示に十分に明示的に組み込まれる。
【0183】
本開示の他の実施形態は、本明細書の考察及び本明細書に開示される実施形態の実施から、当業者にとって明らかになるであろう。本明細書及び特許請求の範囲を通して使用される場合、「1つの(a)」及び/または「1つの(an)」は、1つまたは1つ以上を指し得る。別段示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用される、原料の量、分子量などの特性、パーセント、比、反応条件などを表す全ての数は、「約」という用語が存在するか否かに関わらず、全ての場合において、「約」という用語によって修飾されているものとして理解されるべきである。したがって、それとは反対に示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲において説明される数的パラメータは、本開示によって得られることが求められる所望される特性によって変動し得る、近似である。最低限、かつ等価の学説の本特許請求の範囲への適用を制限することを試むものではないが、各数的パラメータは、少なくとも、報告される有効桁の数に照らして、かつ通常の四捨五入技術を適用することによって解釈されるべきである。本開示の広範囲を説明する数的範囲及びパラメータは近似であるにも関わらず、特定の実施例において説明される数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、いかなる数値も、それらのそれぞれの試験測定において見出される標準偏差から必然的に生じる、所定の誤差を本質的に含有する。本明細書及び実施例が、例示的なものにすぎず、本開示の真の範囲及び趣旨は以下の特許請求の範囲によって示されるものと見なされることが意図される。
【0184】
前述の実施形態は、実際は著しい変動を受けやすい。したがって、実施形態は、本明細書上記に説明される特定の例証に限定されることが意図されない。むしろ、上述の実施形態は、法的に利用可能なそれらの等価物を含む、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲内にある。
【0185】
特許権所有者は、いかなる開示される実施形態も公衆に放棄することを意図せず、いかなる開示される修正または変更も、文献的に本特許請求の範囲内ではあり得なくなる程度まで、それらは、等価の学説の下、本明細書の一部であると見なされる。
【0186】
本明細書に開示された各成分、化合物、置換基、またはパラメータは、単独で、または本明細書に開示された各々の及び全ての他の成分、化合物、置換基、またはパラメータのうちの1つ以上と組み合わせて使用するために開示されているものと解釈されるべきである。
【0187】
また、本明細書に開示された各成分、化合物、置換基、またはパラメータのための各量/値または量/値の範囲は、本明細書に開示された任意の他の成分(複数可)、化合物(複数可)、置換基(複数可)、またはパラメータ(複数可)の各量/値または量/値の範囲と組み合わせて開示されているものとしても解釈されるべきであり、また、本明細書に開示された2種以上の成分(複数可)、化合物(複数可)、置換基(複数可)、またはパラメータのための量/値または量/値の範囲の任意の組み合わせはまた、それ故、本明細書の目的のために互いに組み合わせて開示されているものと理解されたい。
【0188】
本明細書に開示された各範囲は、同じ有効桁の数字を有する開示された範囲内の各特定値の開示として解釈されるべきであることが更に理解される。それ故、1~4の範囲は、1、2、3、及び4の値の明確な開示として解釈されるべきである。
【0189】
本明細書に開示された各範囲の各下限は、同じ成分、化合物、置換基、またはパラメータについて本明細書に開示された各範囲の各上限及び各範囲内の各特定値と組み合わせて開示されているものと解釈されるべきであることが更に理解される。それ故、本開示は、各範囲の各下限値を各範囲の各上限値と、または各範囲内の各特定値と組み合わせることによって、または各範囲の各上限値を各範囲内の各特定値と組み合わせることによって誘導される全ての範囲の開示として解釈されるべきである。
【0190】
更に、本明細書または実施例に開示された成分、化合物、置換基、またはパラメータの特定量/値は、範囲の下限値または上限値のいずれかの開示として解釈されるべきであり、それ故、本出願の他の個所で開示された同じ成分、化合物、置換基、またはパラメータについての範囲の任意の他の上限値もしくは下限値、または特定量/値と組み合わせて、その成分、化合物、置換基、またはパラメータ用の範囲を形成することができる。