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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】人工毛髪繊維
(51)【国際特許分類】
   A41G 3/00 20060101AFI20220119BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
A41G3/00 A
D01F8/14 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018514196
(86)(22)【出願日】2017-03-21
(86)【国際出願番号】 JP2017011202
(87)【国際公開番号】W WO2017187843
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-01-21
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-03
(31)【優先権主張番号】P 2016090482
(32)【優先日】2016-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】宮田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】堀端 篤
(72)【発明者】
【氏名】園田 一仁
(72)【発明者】
【氏名】武井 淳
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】窪田 治彦
【審判官】関口 哲生
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-185103(JP,A)
【文献】特開平7-126922(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196642(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G3/00-5/02
D01F8/00-8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部と前記芯部を覆う鞘部とからなる芯鞘構造を有する人工毛髪繊維であって、前記芯部がポリエステルを含む芯部樹脂組成物からなり、前記鞘部がポリアミドを含む鞘部樹脂組成物からなり、前記芯部及び前記鞘部の芯/鞘質量比が、40/60~90/10であり、
前記芯部樹脂組成物のポリエステルの溶融粘度aと前記鞘部樹脂組成物のポリアミドの溶融粘度bの粘度比a/bが0.5~2.5であり、
前記溶融粘度a及び前記溶融粘度bの測定温度は、285℃であり、
前記芯部樹脂組成物は、前記ポリエステル100質量部に対し、臭素系難燃剤として臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤3~30質量部を添加し、
前記鞘部樹脂組成物は、前記ポリアミド100質量部に対し、臭素系難燃剤として臭素化エポキシ系難燃剤3~30質量部を添加し、
前記臭素系難燃剤が前記芯部樹脂組成物のポリエステルと前記鞘部樹脂組成物のポリアミドの界面で分散することを特徴とする人工毛髪繊維。
【請求項2】
前記芯部樹脂組成物は、ポリエステル100質量部に対し、相溶化剤0.5~3質量部を含有する請求項1に記載の人工毛髪繊維。
【請求項3】
前記鞘部樹脂組成物は、ポリアミド100質量部に対し、相溶化剤0.5~3質量部を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の人工毛髪繊維。
【請求項4】
前記芯部樹脂組成物のポリエステルがポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートからなり、前記ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートの質量比が、40/60~90/10であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の人工毛髪繊維。
【請求項5】
前記芯部樹脂組成物のポリエステルがポリエチレンテレフタレートおよびポリトリメチレンテレフタレートからなり、前記ポリエチレンテレフタレートおよびポリトリメチレンテレフタレートの質量比が、40/60~90/10であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の人工毛髪繊維。
【請求項6】
前記鞘部樹脂組成物のポリアミドがナイロン6,6およびナイロン6からなり、前記ナイロン6,6およびナイロン6の質量比が、70/30~95/5であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の人工毛髪繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭部に装脱着可能なかつら、ヘアウィッグ、つけ毛等の人工毛髪に用いられる繊維(以下、単に「人工毛髪繊維」という。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、人工毛髪繊維を構成する素材として、塩化ビニルが提案されている。これは、人工毛髪繊維における塩化ビニルの加工性、低コスト性等が優れているためである。
【0003】
しかし、塩化ビニルを素材とした人工毛髪繊維は、塩化ビニルのガラス転移温度が80℃近傍であることから、ヘアアイロンなどに対する耐熱性が悪く、100℃以上の温度設定が常用であるヘアアイロン等を用いてカ-ルを行なった場合、繊維の融着、ちぢれなどが生じ、その結果、繊維のいたみ、切れが発生する場合があった。
【0004】
特許文献2にはポリエステルを素材とした人工毛髪繊維が記載されており、ヘアアイロンに対する耐熱性を改善されている。しかし、ポリエステルを素材とした人工毛髪繊維は、触感が塩ビ繊維に比べて硬いという問題があった。また、特許文献3には、ポリアミドを素材として触感を改良した人工毛髪繊維が記載されているが、ポリアミドの吸湿性により、弾性率が低下することに起因し、カールを施した初期の状態から時間が経過するに従って、カール保持性が悪くなるという問題があった。
【0005】
特許文献4には芯部にポリエステル、鞘部にポリアミドで構成された芯鞘構造の人工毛髪繊維が記載されており、これまで課題であった人工毛髪繊維のカール保持性と人毛に近い触感を両立という課題がある程度解決されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-156149号公報
【文献】特開2006-144211号公報
【文献】特開2011-246843号公報
【文献】特開平3-185103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献4の技術では、芯部と鞘部が剥離しやすい場合があるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、芯部と鞘部の剥離の問題を改善し、人毛に似た良好な触感を有し、かつカール保持性に優れた人工毛髪繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、芯部と鞘部の剥離の原因について検討を行ったところ、芯部のポリエステルと鞘部のポリアミドの溶融粘度差が大きい場合、延伸時の応力のかかり方の違いから配向度に差が生じ、その結果、芯部と鞘部の収縮の大きさに差が起こり、ギアオーブンやヘアアイロン等でカールをかける際に熱をかけると、芯と鞘が剥離してしまう場合があることに気がついた。そして、この知見に基づき、人工毛髪用繊維を以下の構成にすることによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に到った。
【0010】
すなわち、本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)芯部と前記芯部を覆う鞘部とからなる芯鞘構造を有する人工毛髪繊維であって、前記芯部がポリエステルを含む芯部樹脂組成物からなり、前記鞘部がポリアミドを含む鞘部樹脂組成物からなり、前記芯部及び前記鞘部の芯/鞘質量比が、40/60~90/10であり、前記芯部樹脂組成物のポリエステルの溶融粘度aと前記鞘部樹脂組成物のポリアミドの溶融粘度bの粘度比a/bが0.5~2.5であることを特徴とする人工毛髪繊維。
(2)前記芯部樹脂組成物は、臭素化ベンジルアクリレート、臭素化フェノール、ポリジブロモフェニレンオキシド、臭素化ポリスチレン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、臭素化エポキシ、臭素化フェノキシ、臭素化ポリカーボネートおよび臭素含有トリアジン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種の臭素系難燃剤を含有する(1)に記載の人工毛髪繊維。
(3)前記鞘部樹脂組成物は、臭素化ベンジルアクリレート、臭素化フェノール、ポリジブロモフェニレンオキシド、臭素化ポリスチレン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、臭素化エポキシ、臭素化フェノキシ、臭素化ポリカーボネートおよび臭素含有トリアジン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種の臭素系難燃剤を含有する(1)または(2)に記載の人工毛髪繊維。
(4)前記芯部樹脂組成物は、ポリエステル100質量部に対し、前記臭素系難燃剤の添加量が3~30質量部である(2)または(3)に記載の人工毛髪繊維。
(5)前記鞘部樹脂組成物は、ポリアミド100質量部に対し、前記臭素系難燃剤の添加量が3~30質量部である(3)または(4)に記載の人工毛髪繊維。
(6)前記芯部樹脂組成物は、ポリエステル100質量部に対し、相溶化剤0.5~3質量部を含有する(1)~(5)のいずれか一項に記載の人工毛髪繊維。
(7)前記鞘部樹脂組成物は、ポリアミド100質量部に対し、相溶化剤0.5~3質量部を含有することを特徴とする(1)~(6)のいずれか一項に記載の人工毛髪繊維。
(8)前記芯部樹脂組成物のポリエステルがポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートからなり、前記ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートの質量比が、40/60~90/10であることを特徴とする(1)~(7)のいずれか一項に記載の人工毛髪繊維。
(9)前記芯部樹脂組成物のポリエステルがポリエチレンテレフタレートおよびポリプロピレンテレフタレートからなり、前記ポリエチレンテレフタレーおよびポリトリメチレンテレフタレートの質量比が、40/60~90/10であることを特徴とする(1)~(7)のいずれか一項に記載の人工毛髪繊維。
(10)前記鞘部樹脂組成物のポリアミドがナイロン6,6およびナイロン6からなり、前記ナイロン6,6およびナイロン6の質量比が、70/30~95/5であることを特徴とする(1)~(9)のいずれか一項に記載の人工毛髪繊維。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、芯部と鞘部が剥離してしまうことを防止し、人毛に似た良好な触感を有し、かつカール保持性に優れた人工毛髪繊維を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.人工毛髪繊維
本発明の人工毛髪繊維は、芯部と前記芯部を覆う鞘部とからなる芯鞘構造を有する人工毛髪繊維であって、前記芯部がポリエステルを含む芯部樹脂組成物からなり、前記鞘部がポリアミドを含む鞘部樹脂組成物からなり、前記芯部及び前記鞘部の芯/鞘質量比が、40/60~90/10であり、前記芯部樹脂組成物のポリエステルの溶融粘度aと前記鞘部樹脂組成物のポリアミドの溶融粘度bの粘度比a/bが0.5~2.5であり、適宜、臭素系難燃剤及び相溶化剤を含有する。
【0013】
(1)芯部と鞘部の質量比
芯部と鞘部の芯/鞘質量比は、40/60~90/10であり、50/50~85/15が好ましい。芯/鞘の質量比が40/60未満の場合は、鞘部のポリアミドが大気中の水分を吸収し、弾性率が低下することでカールを施した初期の状態から時間が経過するに従って、カール保持性が悪くなる。90/10を超過する場合は、鞘部のポリアミドの層が薄いため、人毛に似た良好触感が得られなくなる。
【0014】
(2)溶融粘度
ポリエステル又はポリアミドの溶融粘度は、ポリエステルペレットまたはポリアミドペレットの吸水率を100ppm以下になる様に除湿乾燥し、サンプル量20cc、設定温度285℃、ピストンスピード200mm/min、キャピラリー長20mm、キャピラリー径1mmの条件で測定した値である。測定機器は東洋精機製作所社製のキャピログラフ1Dで溶融粘度を用いた。
【0015】
芯部のポリエステルの溶融粘度aと鞘部のポリアミドの溶融粘度bの粘度比a/bは、0.5~2.5であり、好ましくは、0.8~2.2である。粘度比が0.5未満の場合は、紡糸時に芯の溶融粘度が低いため、紡糸時に糸切れが発生したり、芯部と鞘部が剥離しやすくなったりする問題が生じる。粘度比が2.5を超過する場合は、芯部と鞘部の問題が生じる。
【0016】
1-1.芯部
芯部は、ポリエステルを含む芯部樹脂組成物からなる。ポリエステルの種類は特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートから選ばれた少なくとも一種の樹脂であるのが好ましい。
【0017】
ポリエステルには、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートを混合した樹脂を用いることができ、質量比について、40/60~90/10が好ましく、50/50~70/30がより好ましい。芯部のポリエチレンテレフタレートの質量比が40/60未満の場合は、耐熱性が低くなる傾向があり、90/10を超過する場合は、触感を改善する効果が得られない。
【0018】
ポリエステルには、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートを混合した樹脂を用いるもことができ、質量比について、40/60~90/10が好ましく、50/50~70/30がより好ましい。芯部のポリエチレンテレフタレートの質量比が40/60未満の場合は、耐熱性が低くなる傾向があり、90/10を超過場合は、触感を改善する効果が得られない。
【0019】
芯部樹脂組成物には樹脂成分としてポリエステルのみが含まれることが好ましいが、別の樹脂が含まれていてもよい。芯部樹脂組成物中でのポリエステル/全樹脂成分の質量比は、0.8以上が好ましく、0.9以上がさらに好ましく、1がさらに好ましい。
【0020】
1-2.鞘部
鞘部がポリアミドを含む鞘部樹脂組成物からなる。ポリアミドの種類は特に限定されないが、例えば、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン12、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T及びそれらをベースに変性用モノマーを共重合させた変性ポリアミド6T、変性ポリアミド9T及び変性ポリアミド10Tからなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂であるのが好ましく、特に好ましくはナイロン6,6、ナイロン6である。
【0021】
本発明に用いられる鞘部のポリアミドについて、ナイロン6,6とナイロン6を混合した樹脂とすることで、より人毛に似た良好な触感となる。
【0022】
鞘部のナイロン6,6およびナイロン6の質量比について、70/30~95/5が好ましく、80/20~90/10がより好ましい。鞘部のナイロン6,6の質量比が70/30未満の場合は、耐熱性が低くなる傾向があり、95/5を超過する場合は、触感を改善する効果が得られない。
【0023】
鞘部樹脂組成物には樹脂成分としてポリアミドのみが含まれることが好ましいが、別の樹脂が含まれていてもよい。鞘部樹脂組成物中でのポリアミド/全樹脂成分の質量比は、0.8以上が好ましく、0.9以上がさらに好ましく、1がさらに好ましい。
【0024】
1-3.難燃剤
芯部樹脂組成物及び芯部樹脂組成物の少なくとも一方(好ましくは両方)は、難燃剤を含有してもよい。芯部樹脂組成物及び芯部樹脂組成物の少なくとも一方に難燃剤を添加することで、芯部のポリエステルと鞘部のポリアミドの界面に難燃剤が分散することで耐剥離性が向上し、同時に難燃性を付与することが可能である。難燃剤としては、臭素系難燃剤やリン系難燃剤、窒素系難燃剤や水和金属化合物などがあるが、臭素系難燃剤と難燃助剤の組み合わせが最も難燃性の効果が高く好ましい。
【0025】
臭素系難燃剤としては、例えば臭素化ポリスチレン系難燃剤、エチレンビステトラブロモフタルイミド系難燃剤、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン系難燃剤、臭素化エポキシ系難燃剤、臭素化フェノキシ系難燃剤、臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤、臭素化フェノール系難燃剤、ポリジブロモフェニレンオキシド系難燃剤などが挙げられる。それらの中でも、難燃性、加工性、原糸の透明性等のバランスを考慮すると、臭素化エポキシ系樹脂、または臭素化フェノキシ系樹脂が好ましい。
【0026】
臭素系難燃剤の添加量は、芯部のポリエステルまたは鞘部のポリアミド100質量部に対して3~30質量部が好ましく、5~25質量部がより好ましい。3質量部未満では、難燃性が得られず、30質量部を超過する場合は、樹脂との分散不良が発生し紡糸性が悪くなる。
【0027】
難燃性を向上させる目的で、上記臭素系難燃剤と併用し、難燃助剤を添加することも可能である。難燃助剤としては、例えば三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛が挙げられる。中でも、耐ドリップ性と原糸の透明性のバランスから、三酸化アンチモンが好ましい。
【0028】
難燃助剤の添加量は、芯部のポリエステルまたは鞘部のポリアミド100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましい。0.1質量部未満の場合は、難燃助剤の効果が低く、10質量部を超過する場合、分散不良による糸切れが発生し安定した紡糸が困難となる。
【0029】
難燃助剤は、原糸の透明性および加工性の観点より平均粒子径0.5~10μmの範囲であることが好ましく、平均粒子径1~8μmの範囲であることがさらに好ましい。0.5μm未満の場合は、凝集による分散不良や起こり、10μmを超過する場合は、白濁する問題が発生する。
【0030】
1-4.相溶化剤
芯部樹脂組成物及び芯部樹脂組成物の少なくとも一方(好ましくは両方)は、相溶化剤を含有してもよい。芯部樹脂組成物及び芯部樹脂組成物の少なくとも一方に相溶化剤を添加することで、芯部と鞘部の界面で耐剥離性が向上し、より高い温度でアイロンカールをすることが可能になる。
【0031】
相溶化剤としては、例えば、無水マレイン酸変性ポリマー、エチレン・ブチルアクリレート 無水マレイン酸変性物、多価カルボジイミド、カルボジイミド変性イソシアネート、スチレン-アクリロニトリル-メタクリル酸グリシジルランダムコポリマー、エポキシ-スチレン-アクリロニトリル共重合マイクロゲル、スチレン-アクリロニトリル-無水マレイン酸共重合体、LLDPE-無水マレイン酸グラフト重合物、ポリオレフィン-無水マレイン酸グラフト重合物、ポリオレフィン-メタクリル酸グリシジルグラフト重合物、変性ポリオレフィン、スチレン・マレイン酸ハーフエステル共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン・マレイン酸ハーフエステル共重合体が挙げられる。これらの中でも、芯部のポリエステルの末端カルボキシル基と鞘部のポリアミドの末端アミノ基が相溶化剤を介して反応し、芯部と鞘部の界面剥離を抑制するため、無水マレイン酸変性ポリマーが好ましい。
【0032】
相溶化剤の添加量は、芯部のポリエステルまたは鞘部のポリアミド100質量部に対し、0.5~3質量部が好ましく、0.5質量部未満の場合は、耐剥離性の向上効果が小さく、3質量部を超過する場合は、芯部のポリエステルまたは鞘部のポリアミドの粘度の低下や粘度上昇が著しくなり、加工性の面から好ましくない。
【0033】
本発明に用いられる芯部のポリエステルについて、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートまたはポリプロピレンテレフタレートを混合した樹脂とすることで、より人毛に似た良好な触感となる。
【0034】
1-5.その他成分
芯部樹脂組成物及び芯部樹脂組成物の少なくとも一方(好ましくは両方)には、必要に応じて添加剤、例えば、耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料、染料、可塑剤、潤滑剤等を含有させることができる。顔料、染料等の着色剤を含有させることにより、予め着色された繊維(いわゆる原着繊維)を得ることができる。
【0035】
2.人工毛髪繊維の製造方法
以下に、人工毛髪繊維の製造工程の一例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
本発明の芯鞘構造の人工毛髪繊維の製造方法としては、芯鞘構造の人工毛髪繊維となる製造方法であれば特に限定されないが、例えば、芯部成形用及び鞘部成形用の2台の押出機で構成される溶融複合紡糸押出機を用いて得ることができる。
【0037】
(1)溶融紡糸工程
芯部のポリエステル及び鞘部のポリアミドなどの熱可塑性樹脂に、上述した難燃剤、相溶化剤、粒子等の添加剤を所定の割合で事前にドライブレンドした後、混練機を用いて溶融混練し、芯部樹脂組成物ペレット及び鞘部樹脂組成物ペレットを得る。溶融混練するための装置としては、種々の一般的な混練機を用いることができる。溶融混練としては、例えば一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどがあげられる。これらのうちでは、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。
【0038】
溶融混練によって得られた芯部樹脂組成物ペレット及び鞘部樹脂組成物ペレットをそれぞれ独立して乾燥する。ポリマーの乾燥には真空乾燥機、ホッパードライヤー等の公知の装置を適宜選択して使用することができる。なお、芯部樹脂組成物ペレットの場合は、ペレットの含有水分率が100ppm以下(100mg/kg以下)であることが好ましい。鞘部樹脂組成物ペレットの場合は、ペレットの含有水分率が1000ppm以下(1000mg/kg以下)であることが好ましい。芯部樹脂組成物ペレットおよび鞘部樹脂組成物ペレットの含水率が高い場合、紡糸時の粘度低下や加水分解による分子量の低下が懸念される。このように、ペレットの含有水分率を一定以下にしたものを用いることにより、紡糸操業性がより向上する。
【0039】
乾燥した芯部樹脂組成物ペレットを芯部構成用の押出機に投入し、乾燥した鞘部樹脂組成物ペレットを鞘部構成用の押出機に投入する。押出機にて、それぞれの芯部樹脂組成物ペレットおよび鞘部樹脂組成物ペレットを溶融・混練して、芯部樹脂組成物が芯部に鞘部樹脂組成物が鞘部となるように紡糸ヘッドに導入し、芯鞘型複合ノズルから溶融紡出される。溶融紡出は、例えば、押出機、ギヤポンプ、口金などの溶融紡糸装置の温度を270~310℃として溶融紡糸し、冷風筒で空冷することにより、ガラス転移点以下に冷却固化され、冷却固化後に給油付与装置を用いて紡糸油剤を付与する。また、冷風塔の温度や長さ、冷風塔の温度や吹付量、冷却時間、引取速度は、吐出量及び口金の孔数によって適宜調整することができる。別の方法の冷却方法については、紡出糸を冷却用の水を入れた水槽で冷却し、繊度のコントロールを行なってもよい。この後、繊維は捲取機によって捲き取られ、芯鞘型の未延伸糸を得ることができる。捲取速度も特に限定されるものではないが、50~300m/minの範囲が好ましい。
【0040】
(2)延伸工程
得られた未延伸糸は、繊維の引張強度を向上させるため、延伸機で延伸処理を実施する。延伸条件も特に限定されるものではなく、延伸倍率2.5~5.0倍、延伸速度10~500m/min、温度を25~150℃に設定して、目的とする芯鞘構造の人工毛髪繊維を得ることができる。延伸処理方法は特に限定されないが、未延伸糸を一旦ボビンに巻き取ってから溶融紡糸工程とは別の工程にて延伸する2工程法や、ボビンに巻き取ることなく溶融紡糸工程から連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によってもよい。また、延伸処理は、1度で目的の延伸倍率まで延伸する1段延伸法、又は2回以上の延伸によって目的の延伸倍率まで延伸する多段延伸法で行なわれる。熱延伸処理における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
【0041】
(3)熱処理工程
延伸処理を施した繊維は、延伸時に残留応力が発生するため、最終的な製品として人工毛髪の品質を確保する上で、熱処理により残留応力を除去するが好ましい。この熱処理と同時に場合によっては、1~30%程度、延伸糸を熱処理処理することも可能である。
【0042】
この熱処理の温度条件としては、雰囲気温度150~250℃の雰囲気下で実施することが好ましい。熱処理に用いる雰囲気ガスは、特に限定されないが大気のほかに、不活性ガスを用いることも可能である。不活性ガスとして、窒素、アルゴン等を用いて実施しても良いが、コスト面より大気を用いることが好ましい。
【0043】
本工程において、未延伸糸を熱延伸および熱処理させ、繊度が10~100dtexであることが好ましい。上記の芯鞘構造の人工毛髪繊維の繊度の下限値は、より好ましくは20dtex以上であり、さらに好ましくは35dtex以上である。上記の芯鞘構造の人工毛髪繊維の繊度の上限値は、より好ましくは90dtex以下であり、さらに好ましくは80dtex以下である。
【0044】
以上に説明した本技術に係る人工毛髪繊維の製造方法においては、必要におじて、従来公知の溶融紡糸に関わる技術、例えば、各種ノズル断面形状に関わる技術、冷却に関わる技術、延伸処理に関わる技術、熱処理に関わる技術などは、自在に組み合わせて使用することが可能である。
【0045】
製造された人工毛髪繊維は、シリコーン等の油剤を含む処理剤を塗布し、触感等を改良することもできる。処理剤の塗布は、人工毛髪繊維を頭髪製品に加工する前、加工する途中、又は加工後のいずれの段階で行ってもよいが、頭髪製品へ加工する途中の塗布が、作業性、均一塗布性等の点でより適している。
【0046】
3.頭髪装飾品
人工毛髪繊維は、単独で頭髪製品(頭飾製品)に用いてもよいが、人毛や他の人工毛髪を混合して用いてもよい。頭髪製品は、ウィッグ(かつら)、ヘアピース、ブレード、エクステンンョンヘアー、人形の頭髪等であり、人工毛髪繊維の用途は特に限定されない。また、頭髪製品以外にも付け髭、付け睫毛、付け眉毛等に用いることもできる。
【実施例
【0047】
次に、本発明による人工毛髪繊維の実施例を、比較例と対比しつつ表を用いて、詳細に説明する。本発明の実施形態を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1>
【0048】
1.材料の乾燥
表1に示す芯部樹脂組成物のペレットを含有水分率が100ppm以下(100mg/kg以下)になるように、ホッパードライヤー(株式会社カワタ製、チャレンジャーIII)を使用し、温度が一定になった状態から120℃で12時間、除湿乾燥を行った。また、表1に示す芯部樹脂組成物のペレットについても含有水分率が1000ppm以下(1000mg/kg以下)になるように、80℃で12時間、同様な操作を実施した。
【0049】
2.紡糸工程
押出機には、Φ20mm溶融紡糸押出機(株式会社ジー・エム・エンジニアリング、フルフライトスクリュー(圧縮比2.3))を2台組み合わせて使用した。ダイスには、芯鞘型複合のノズル(孔数36、穴径1mm)を用いた。芯部および鞘部を構成する押出機の設定条件として、芯部を構成する押出機のシリンダー温度を295℃に設定し、鞘部を構成する押出機のシリンダーの温度を315℃に設定した。また、ノズル温度300℃になるように調整し、定常状態になってから吐出量30g/min、芯鞘構成比が50/50の比になるように、2台の押出機のスクリュー回転数、ギヤポンプの回転数を決定した。ストランドは、ダイスから鉛直方向に溶融紡出させ、ノズル直下2mの位置に設置した引取機に未延伸糸を一定速度で巻き取った。この際、未延伸糸の繊度が約210dになるように冷風塔の温度と風量および引取機の引取速度とを調節した。
【0050】
3.延伸工程
延伸は、熱水延伸1段延伸法で行ない、温水バスの温度90℃の条件下で3.5倍に延伸した。
4.熱処理工程
芯鞘構造の延伸糸を、熱風アニール層を使用し、190℃で5分間熱処理を行い、繊度60dの人工毛髪繊維を得た。
<実施例2~19、比較例1~4>
実施例2~19、比較例1~4も同様にして、表1~3の処方で作成した。
【0051】
加工性および得られた人工毛髪繊維について、後述する評価方法及び基準に従って、対剥離性、触感およびカール性の評価を行った。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
表1~表3の素材は、以下のものを採用した。
<ポリエステル>
PET1:ポリエチレンテレフタレート(自社製、溶融粘度65Pa・s)
PET2:ポリエチレンテレフタレート(三井化学社製、J125S、溶融粘度145Pa・s)
PET3:ポリエチレンテレフタレート(自社製、溶融粘度204Pa・s)
PET4:ポリエチレンテレフタレート(三井化学社製、J055、溶融粘度450Pa・s)
PET5:ポリブチレンテレフタレート(デュポン社製、S600F20、溶融粘度118Pa・s)
PET6:ポリトリメチレンテレフタレート(デュポン社製、ソロナEP3301NC010、溶融粘度132Pa・s)
<ポリアミド>
PA1:ポリアミド66(東レ株式会社製、アミランCM3001-N、溶融粘度、66Pa・s)
PA2:ポリアミド66(デュポン社製、Zytel 101、140Pa・s)
PA3:ポリアミド66(デュポン社製、Zytel 42A、249Pa・s)
PA4:ポリアミド6 (自社試作製造、56Pa・s)
<難燃剤>
難燃剤1:臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤(ICL JAPAN製、FR-1025)
難燃剤2:臭素化エポキシ系難燃剤(阪本薬品工業製、SR-T20000)
<相溶化剤>
無水マレイン酸変性ポリマー(デュポン製、フサボンド、A560)
【0056】
各評価項目についての評価方法とその基準は、以下の通りである。
【0057】
<耐剥離性>
耐剥離性は、人工毛髪繊維を長さ200mm、質量1.0gに束ねた繊維束サンプルを使用し、ヘアアイロンで繊維束サンプルの先端を10秒間加熱した時に、芯部のポリエステルと鞘部のポリアミドの熱収縮の差による芯部のポリエステルの突出を目視により確認することで、評価した。この熱剥離が生じるヘアアイロンの温度により判定し、次のとおり評価した。
◎:ヘアアイロン220℃の条件で熱剥離が生じない。
○:ヘアアイロン200℃の条件で熱剥離が生じないが、220℃で熱剥離が生じた。
×:ヘアアイロン200℃の条件で熱剥離が生じた。
【0058】
<触感>
触感は、人工毛髪繊維を長さ250mm、質量20gに束ねた繊維束サンプルを使用した。人工毛髪繊維処理技術者(実務経験5年以上)10人の手触りによる判定で、次の評価基準で評価した。
◎:技術者9人以上が、触感が良いと評価したもの
○:技術者の7人又は8人が、触感が良いと評価したもの
×:技術者の6人以下が、触感が良いと評価したもの
【0059】
<カール性>
カール性は、人工毛髪繊維を長さ500mm、質量2.0gに束ねた繊維束サンプルを使用した。20mmφのアルミ製筒に巻き付け乍ら両端を固定し、100℃のスチームオーブンに投入して30分間加熱した。次いで、アルミ筒(繊維を巻き付けたままで)を温度23℃、相対湿度50%の恒温室に24時間放置した。その後、ステンレス筒から繊維束を取り外し、一方の端を固定して吊り下げた。その根元から先端までの長さを、カール前の全長(50cm)で割った値で評価した。値が小さいほどカールがかかっており、次の評価基準で評価した。
◎:値が0.75未満
○:値が0.75以上0.85未満
×:値が0.85以上
【0060】
<比較例1>
比較例1では、芯/鞘質量比が小さすぎるため、カール保持性が悪かった。
【0061】
<比較例2>
比較例2では、芯/鞘質量比が大きすぎるため、触感が悪かった。
<比較例3、4>
比較例3では、粘度比a/bが大きすぎるため、耐剥離性が悪かった。また、比較例4では、粘度比a/bが小さすぎるため、耐剥離性が悪かった。
【0062】
実施例は、芯/鞘質量比が40/60~90/10であり、粘度比a/bが0.5~2.5であるため、人毛に似た良好な触感を有し、かつカール保持性に優れた人工毛髪繊維が得られる事がわかった。また、臭素系難燃剤を併用することで、臭素系難燃剤が芯部のポリエステルと鞘部のポリアミドの界面で分散することで耐剥離性が向上し、難燃性を付与できることがわかった。さらに、芯部のポリエステルと鞘部のポリアミドに相溶化剤を添加することで、耐剥離性が向上し、より高い温度でアイロンカールできることがわかった。また、芯部のポリエステルについて、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートまたはポリトリメチレンテレフタレートを混合した樹脂とすることで、触感を人毛に一層近づけられることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の芯鞘構造有する人工毛髪繊維を利用することで、人毛に似た良好な触感を有し、かつカール保持性に優れた頭髪製品(頭飾製品)等を得ることができる。これにより、ウィッグ(かつら)、ヘアピース、ブレード、エクステンンョンヘアー、人形の頭髪等を得ることができる。