IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メルク パテント ゲーエムベーハーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】外科用手術器具
(51)【国際特許分類】
   A61B 90/30 20160101AFI20220119BHJP
   A61B 17/02 20060101ALI20220119BHJP
   A61B 42/10 20160101ALI20220119BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220119BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
A61B90/30
A61B17/02
A61B42/10
H05B33/14 A
H05B33/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018520678
(86)(22)【出願日】2017-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2017012579
(87)【国際公開番号】W WO2017208596
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2019-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2016108345
(32)【優先日】2016-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】308014846
【氏名又は名称】メルク パテント ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和央
(72)【発明者】
【氏名】小野 雄史
(72)【発明者】
【氏名】今村 敦
(72)【発明者】
【氏名】内田 智博
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-279255(JP,A)
【文献】特開2012-199177(JP,A)
【文献】国際公開第2014/069256(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/076151(WO,A1)
【文献】特開2008-038306(JP,A)
【文献】特開2005-211409(JP,A)
【文献】特開2005-058440(JP,A)
【文献】特表2002-514127(JP,A)
【文献】国際公開第2015/116724(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0149992(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 90/30 - 90/35
A61B 17/02
A61B 42/10
H05B 33/12 - 33/28
H05B 33/02
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術時に体内に挿入して使用する、面発光光源を具備した外科用手術器具であって、
前記面発光光源は有機エレクトロルミネッセンス素子であり、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子が、2つ以上の発光ユニットを積層したタンデム構成で、
波長帯域ごとの発光強度を変化させて発光スペクトルを制御することが可能な調色タイプであり、かつ、
前記調色タイプの有機エレクトロルミネッセンス素子の発光スペクトルが、印加する駆動電流の変化に対して、下式(1)で規定する条件のみを満たすことで制御が可能であることを特徴とする外科用手術器具。
式(1)
Ib/Ibo>Ir/Iro
〔式中、Iboは駆動電流変化前の青色発光領域(400~500nm)における最大の極大発光波長(λBmax)の発光強度であり、Ibは駆動電流変化後の青色発光領域(4
00~500nm)における最大の極大発光波長(λBmax)の発光強度であり、Iro
は駆動電流変化前の赤色発光領域(570~700nm)における最大の極大発光波長(λRmax)の発光強度であり、Irは駆動電流変化後の赤色発光領域(570~700n
m)における最大の極大発光波長(λRmax)の発光強度である。〕
【請求項2】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子が、基材上に一対の電極と、少なくとも当該電極対に挟持された有機物層を含む発光ユニットを備えており、当該基材がフレキシブル性基材であることを特徴とする請求項1に記載の外科用手術器具。
【請求項3】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子が、2つ以上の発光ユニットを有し、前記発光ユニットの少なくとも一つが青色発光に係る発光ユニットであり、前記青色発光に係る発光ユニットの青色発光層と隣接する電子輸送層とのLUMO差が、0.1eV以上であり、かつそれぞれの発光ユニットを同一の条件で発光制御させる非独立制御型であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の外科用手術器具。
【請求項4】
前記体内に挿入して使用する器具が開創器であり、当該開創器を構成する開創板に前記有機エレクトロルミネッセンス素子が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の外科用手術器具。
【請求項5】
前記体内に挿入して使用する器具が手術用手袋であり、当該手術用手袋の各指部又は甲部に前記有機エレクトロルミネッセンス素子が配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の外科用手術器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は外科用手術器具に関し、更に詳しくは、手術時に体内に挿入し、患部を照明する際に、影部の形成を低減した有機エレクトロルミネッセンス素子を光源(無影灯)として具備している外科用手術器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手術や医学処置の際に適用されている照明技術は、一般に、頭上照明である。この頭上照明は、術野の上に取り付けられた固定具、あるいは、外科医の頭部に装着された光ファイバーシステムから発射される方法が多く用いられている。
【0003】
従来の頭上型照明システムは、いくつかの問題を抱えている。頭上光源に対しては、術野の直接的暴露が必要とされているが、患者や外科医の位置取りの変化により、照明が干渉する可能性があり、照明の位置等による影部が生じる。そのため、照明装置の位置に関して頻繁な調整が必要となり、手術をする外科医にとっては余計な負担がかかり、手術の流れを遮る結果となる。加えて、頭上型照明では、比較的深い腔における手術に対しては不十分な場合が多く、そのような場合には、より照射光が絞り込まれた照明が必要とされる。さらに、外科医が光軸上に位置すると、光が術野に届くのを妨げるケースが多く発生する。そのため、頭部装着光ファイバーシステムは、より限定された手術のみに使用されているのが現状である。
【0004】
加えて、上記説明した照明装置でも、多くの問題を抱えている。例えば、頭部装着光ファイバーシステムには光コードが連結されており、手術室における移動の自由度が制限される。また、この方法では、長時間使用した場合、装着部である頭部や頸部の疲労を伴うという課題を抱えている。
【0005】
近年の外科手術方法においては、外科医が切開した人体の内部領域に到達できる外科的照明装置の開発が求められている。このような外科手術形態においては、通常、手術の際に切開部を開放・保持するため、「開創器」が使用されている。開創器は、患者の切開部に挿入され、患部を広げる目的で使用されている。このような方法では、術野を照らすため、開創器に照明手段を付加して、処置する方法が知られている。例えば、術野を照らすために、手術で使用する開創器の最上面に直接光ファイバーケーブルを取り付け、この光ファイバーを介して、高輝度の光源部を開創器の先端部に設け、術野に対する指向性を有する照明を実現するための開創器照明システムが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。ここで提案されている光ファイバーを用いた照明デバイスは、術野を直接照明する技術を提供するものではあるが、装置そのものが大掛かりであり、また点状照明であるため使い勝手が悪い。また、光ファイバー部が、開創器の最上面に配置されるため、手術操作等の邪魔になり、貴重な作業スペースを占有するという問題を有している。
【0006】
上記問題に対し、体腔内の手術領域を、大光量でかつ広範囲に照明することが可能なLEDモジュールを具備した開創器が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2で開示されている方法によれば、切開部の開放及び保持に用いられる開創器のブレードの先端部に、面照明手段であるLEDを設けた構成である。
【0007】
また、胸腔内の手術に対し、手術部分を確実に照明し、手術操作の確実性を確保する目的で、開創器の固定腕と可動腕のそれぞれから突出した突出片の端部に、対向する位置関係で固体光源を設置する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。また、固体光源としてはLEDや有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」又は「OLED」と略記する。)等が記載されている。
【0008】
しかしながら、面光源としてLEDを適用する場合には、照明部として導光板等の組み入れにより、厚い構成となるため、狭い体内に挿入する場合には、大きな障害となっていた。また、LEDを用いた場合、そのソリッドな構造に起因し、曲面や凹面状といった形状への追従性に乏しいという問題を抱えている。
【0009】
また、特許文献3で開示されている開創器に具備させる面発光体であるLEDや有機エレクトロルミネッセンス素子は、開創器を体内に挿入した際に、手術中にその発光面に患者の血液が付着するケースが多く、血液の付着により、これら面発光体の発光スペクトルが変化し、手術対象である患部の色調が変化、多くの場合は赤色系(青及び緑スペクトル低下)にシフトすることにより、病変部の正確な色調判断の妨げや光照射部の鮮鋭度の低下を招くことになる。したがって、面発光体に血液が付着しても、発光スペクトルを瞬時に適正な色調に補正することができる方法の開発が望まれている。
【0010】
また、無影灯という観点で、小型で単純な構成で、かつ均一な明るさで照明することができる面発光体として有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた無影灯が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。この方法によれば、有機エレクトロルミネッセンス素子による発光面を凹面上とすることにより、歯科治療や手術時に作業者による影の発生を防止する方法とされている。しかしながら、特許文献4に記載されている方法は、頭上照明としての役割を果たすものであり、体内に挿入する光源としての具体的な記載は一切なされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2013-006094号公報
【文献】特開2005-058440号公報
【文献】特開2005-211409号公報
【文献】特開2005-322602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、手術用の照明光源で、発光面への血液等の付着により変化した発光スペクトルを速やかに補正することにより、適正な発光スペクトル下で、手術の作業性を向上させることができる面発光型の無影灯な有機エレクトロルミネッセンス素子を光源として具備した外科用手術器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を進めた結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光面への血液等の付着により変化した発光スペクトルを、駆動電流を調整することにより、速やかに適正な発光スペクトルに補正し、常に安定した色調の照明を実現でき、手術の作業性を向上させることができる無影灯な有機エレクトロルミネッセンス素子を具備した外科用手術器具を得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明の上記課題は、下記の手段により解決される。
【0015】
1.手術時に体内に挿入して使用する、面発光光源を具備した外科用手術器具であって、
前記面発光光源は有機エレクトロルミネッセンス素子であり、
前記有機エレクトロルミネッセンス素子が、2つ以上の発光ユニットを積層したタンデム構成で、
波長帯域ごとの発光強度を変化させて発光スペクトルを制御することが可能な調色タイプであり、かつ、
前記調色タイプの有機エレクトロルミネッセンス素子の発光スペクトルが、印加する駆動電流の変化に対して、下式(1)で規定する条件のみを満たすことで制御が可能であることを特徴とする外科用手術器具。
【0016】
式(1)
Ib/Ibo>Ir/Iro
〔式中、Iboは駆動電流変化前の青色発光領域(400~500nm)における最大の極大発光波長(λBmax)の発光強度であり、Ibは駆動電流変化後の青色発光領域(400~500nm)における最大の極大発光波長(λBmax)の発光強度であり、Iroは駆動電流変化前の赤色発光領域(570~700nm)における最大の極大発光波長(λRmax)の発光強度であり、Irは駆動電流変化後の赤色発光領域(570~700nm)における最大の極大発光波長(λRmax)の発光強度である。〕
2.前記有機エレクトロルミネッセンス素子が、基材上に一対の電極と、少なくとも当該電極対に挟持された有機物層を含む発光ユニットを備えており、当該基材がフレキシブル性基材であることを特徴とする第1項に記載の外科用手術器具。
3.前記有機エレクトロルミネッセンス素子が、2つ以上の発光ユニットを有し、前記発光ユニットの少なくとも一つが青色発光に係る発光ユニットであり、前記青色発光に係る発光ユニットの青色発光層と隣接する電子輸送層とのLUMO差が、0.1eV以上であり、かつそれぞれの発光ユニットを同一の条件で発光制御させる非独立制御型であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の外科用手術器具。
【0017】
.前記体内に挿入して使用する器具が開創器であり、当該開創器を構成する開創板に前記有機エレクトロルミネッセンス素子が配置されていることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の外科用手術器具。
【0018】
5.前記体内に挿入して使用する器具が手術用手袋であり、当該手術用手袋の各指部又は甲部に前記有機エレクトロルミネッセンス素子が配置されていることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の外科用手術器具
【発明の効果】
【0021】
本発明の上記手段により、手術用の照明光源で、血液等の付着により変化した発光スペクトルを速やかに補正することにより、適正な発光スペクトル下で、手術の作業性を向上させることができる無影灯である有機エレクトロルミネッセンス素子を光源として具備した外科用手術器具を提供することができる。
【0022】
本発明で規定する構成により、上記問題を解決することができたのは、以下の理由によるものと推測している。
【0023】
本発明の外科用手術器具においては、電流変化後の青、赤の各波長ピークの強度変化比が、赤に比べて青が大きいこと、つまりをIb/Ibo>Ir/Iroであることを特徴とする。
【0024】
血液は血液中の赤血球のため、赤色である。これは赤血球に含まれるヘモグロビンが長波長よりも、青色の短波長の吸収が大きいためである。また、外科手術において体内に入れる医療器具は血液が付着するケースが多い。その結果、体内で使用する外科用手術器具に具備された光源は、付着した血液の影響で、当初想定した発光スペクトルに対し、青色発光強度が大きく低下する懸念がある。そこで本発明のIb/Ibo>Ir/Iroとすることで、光源の青色発光強度を上げることにより、血液の付着により低下した青色発光強度の補正をすることが可能となる。このことは特に体内に組み込みやすいフレキシブルな形状、例えば、開創器や手袋といった術者が装着するような用具に簡単に適用することができる形状であることが、その効果をより発揮する観点から好ましい。
【0025】
また、青色発光強度を上げる方法として、青色発光層を独自に駆動制御できる調色方式とすることで、手術中電流調整により青色発光強度を上げることで、血液付着時に生じるスペクトル変化を補正することができる。
【0026】
また、有機機能層ユニットを2つ以上積層した構成、すなわちタンデム構成とすることにより、第1電極である陽極と、第2電極である陰極との電極間の距離が長くなる。一般的に、第2電極である陰極は膜厚が100nm以上の金属材料を用いて、表面が荒れているため、この陽極と陰極間の膜厚が薄いとリークがおこり、異常発熱の原因となる。これに対し、本発明に適用する有機エレクトロルミネッセンス素子は、有機機能層ユニットが2つ以上積層した構成とすることにより、第1電極である陽極と、第2電極である陰極間の膜厚が厚くなり、異常発熱の懸念を低くすることが可能となる。このことは曲げることによるリークの懸念が高いフレキシブル光源において、異常発熱を防ぐことができる。
【0027】
また、一般に有機エレクトロルミネッセンス素子は大電流印可、高輝度になるほど電流効率(cd/A)が低下する。そのため高輝度領域で使用する場合、有機機能層ユニット1つで駆動するよりも複数の有機機能層ユニットで任意の輝度を分割して照射した方が効率を損なわず、発熱を抑えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A】駆動電流変化前の有機EL素子における血液付着による発光スペクトルの変化と、変化した発光スペクトルを説明するための模式図
図1B】駆動電流変化後の有機EL素子における血液付着による発光スペクトルの変化と、変化した発光スペクトルの補償方法を説明するための模式図
図2】式(1)で規定する条件を達成するための手段の一例を説明するための概略図
図3】本発明の実施形態に係る有機EL素子を具備した一対の開創板を有する開創器の一例を示す斜視図
図4】本発明の実施形態に係る有機EL素子を具備した複数の開創具を有する開創器の一例を示す斜視図
図5】曲面形状の開創具面に凹面形状の有機EL素子を具備した開創器の一例を示す概略図
図6A】本発明の実施形態に係る有機EL素子を指先に具備した手術用手袋の構成の一例を示す斜視図
図6B】本発明の実施形態に係る有機EL素子を手のひら面に具備した手術用手袋の構成の一例を示す斜視図
図7】本発明に適用可能な有機EL素子の発光ユニットの封止構造を含めた全体構成の一例を示す断面図
図8】2つの独立した発光ユニットを積層した独立駆動型(調色方式)の有機EL素子の詳細な構成の一例を示す概略断面図
図9】2つの独立した発光ユニットを積層した独立駆動型(調色方式)の有機EL素子の構成の他の一例を示す概略断面図
図10】2つの独立した発光ユニットを積層した独立駆動型(調色方式)の有機EL素子の構成の他の一例を示す概略断面図
図11】3つの独立した発光ユニットを積層した独立駆動型(調色方式)の有機EL素子の一例を示す概略断面図
図12】3つの独立した発光ユニットを一対の電極で挟持した独立駆動型の有機EL素子の構成の他の一例を示す概略断面図
図13A】3つの有機EL素子を並列配置した有機EL素子ユニットの一例を示す上面図
図13B】3つの有機EL素子を並列配置した有機EL素子ユニットの一例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の外科用手術器具は、手術時に体内に挿入して使用する、面発光光源を具備した外科用手術器具であって、前記面発光光源が有機エレクトロルミネッセンス素子であり、前記有機エレクトロルミネッセンス素子が、2つ以上の発光ユニットを積層したタンデム構成で、波長帯域ごとの発光強度を変化させて発光スペクトルを制御することが可能な調色タイプであり、前記調色タイプの有機エレクトロルミネッセンス素子が、印加駆動電流を変化させたときに、赤色発光スペクトルの発光強度の変化巾に対し、青色発光スペクトルの発光強度の変化巾が大きいことを特徴とするものであり、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光面への血液等の付着により変化した発光スペクトルを、印加する駆動電流を調整することにより、速やかに適正な発光スペクトルに補正することにより、常に安定した色調の照明を実現し、手術の作業性を向上させることができる面発光型の無影灯な有機エレクトロルミネッセンス素子を光源として具備した外科用手術器具を得ることができる。この特徴は、各請求項に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0030】
本発明の実施態様としては、本発明の目的とする効果をより発現できる観点から、有機EL素子が、基材上に一対の電極と、少なくとも当該電極対に挟持された有機物層を含む発光ユニットを備え、当該基材がフレキシブル性基材であることにより、様々な曲面を有する開創器のブレード部(開創部)に安定した状態で固定することができ、かつ、ガラス基材等に比較し、衝撃を受けた際の破損の恐れがないため、体内に挿入する外科用手術器具としての安全性を確保することができる。
加えて、前記有機エレクトロルミネッセンス素子が、2つ以上の発光ユニットを有し、前記発光ユニットの少なくとも一つが青色発光に係る発光ユニットであり、前記青色発光に係る発光ユニットの青色発光層と隣接する電子輸送層とのLUMO差が、0.1eV以上であり、かつそれぞれの発光ユニットを同一の条件で発光制御させる非独立制御型であることが好ましい。
【0031】
また、本発明の外科用手術器具の第1の実施形態として、体内に挿入して使用する器具が、医療分野で広く使用されている開創器であり、当該開創器のアームの先端部に設けられている開創板面に、上記スペクトル特性を備えた薄型の有機EL素子を配置した構成とすることにより、切開した狭い体内で広い場所を占有することなく、手術の妨げにならない面発光光源を提供することができる。
【0032】
また、本発明の外科用手術器具の第2の実施形態としては、体内に挿入して使用する器具が、ドクターが装着する手術用手袋であり、当該手術用手袋の指部又は手のひら部に有機EL素子を配置することにより、開創器に対し、面照明装置を手術中に自由に移動させることができ、所望の照明位置を安定して照明することができる。
【0033】
また、有機EL素子が、発光波長を制御することが可能な調色タイプであることを特徴とし、目的に応じた適切な発光スペクトルを選択することができる。
【0034】
また、有機EL素子が、2つ以上の発光ユニットを積層したタンデム構成であることを特徴とし、血液等が有機EL素子発光面に付着した際に、特定の発光ユニットを選択して印加する駆動電流を制御することにより、最適の発光スペクトルへ速やかに修正することができる
【0035】
以下、本発明の構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について、その詳細を説明する。なお、本発明において示す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0036】
《外科用手術器具》
本発明の外科用手術器具は、手術時に体内に挿入して使用する、面発光光源を具備した器具であって、前記面発光光源が有機エレクトロルミネッセンス素子であり、前記有機エレクトロルミネッセンス素子が、2つ以上の発光ユニットを積層したタンデム構成で、波長帯域ごとの発光強度を変化させて発光スペクトルを制御することが可能な調色タイプであり、かつ、前記調色タイプの有機エレクトロルミネッセンス素子の発光スペクトルが、印加する駆動電流の変化に対して、下式(1)で規定する条件のみを満たすことで制御が可能であることを特徴とする。
【0037】
式(1)
Ib/Ibo>Ir/Iro
上記式(1)において、Iboは駆動電流変化前の青色発光領域(400~500nm)における最大の極大発光波長(λBmax)の発光強度であり、Ibは駆動電流変化後の青色発光領域(400~500nm)における最大の極大発光波長(λBmax)の発光強度であり、Iroは駆動電流変化前の赤色発光領域(570~700nm)における最大の極大発光波長(λRmax)の発光強度であり、Irは駆動電流変化後の赤色発光領域(570~700nm)における最大の極大発光波長(λRmax)の発光強度を表す。
【0038】
本発明において、Ib/Iboで表される比の値の範囲としては、特に制限はないが、1.25以上、1.60以下の範囲内であることが好ましく、Ir/Iroで表される比の値としては、1.01以上、1.25未満の範囲内であることが好ましい。
【0039】
前述のとおり、外科用手術器具、例えば、開創器は手術部位の軟部組織、例えば、切開した皮膚組織部等を広げておくために用いる外科用手術器具であり、多くの器具では、アームの先端に患部を広げるための開創板(ブレード、あるいはリトラクターともいう。)を有している。この開創板に面発光光源、例えば、青色光、緑色光、赤色光の発光輝度バランスを整えて白色発光タイプの有機EL素子を装着させ、手術時の近距離照明として使用する。
【0040】
このような有機EL素子を発光光源として具備している外科用手術器具を、切開した体内に挿入する場合、手術中に生じた血液が有機EL素子の発光面に付着する。血液の赤血球中に存在するヘモグロビンGは400~600nmの領域に光吸収を有し、特に、青色発光領域に強い吸収を有している。その結果、発光特性として、本来の白色発光から赤色光の強い光源に発光スペクトルがシフトする。その結果、診断上の重要な要件である病変部の正確な色調を判断することの妨げとなる。また、赤色光(長波長)の比率が高くなるため、鮮鋭度(シャープネス)の低下を招くことにもなる。
【0041】
本発明においては、上記問題を解決する方法として、有機EL素子の発光面に血液が付着した際に、有機EL素子に印加する駆動電流を変化させ、駆動電流変化前の青色発光領域(400~500nm)における最大の極大発光波長(λBmax)の発光強度Iboに対する駆動電流変化後の青色発光領域(400~500nm)における最大の極大発光波長(λBmax)の発光強度Ibの比の値(Ib/Ibo)を、駆動電流変化前の赤色発光領域(570~700nm)における最大の極大発光波長(λRmax)の発光強度Iroに対する駆動電流変化後の赤色発光領域(570~700nm)における最大の極大発光波長(λRmax)の発光強度Irの比の値(Ir/Iro)より大きく設定し、有機EL素子の発光面に血液が付着した際、赤色発光輝度に対し、相対的に青色発光輝度を高くすることにより、手術中においても、白色発光に近い光源とすることができるものである。
【0042】
以下、図を交えて、本発明の技術的特徴について説明する。
【0043】
図1A及び図1Bは、有機EL素子における血液付着による発光スペクトルの変化と、変化した発光スペクトルの補償方法を説明するための模式図である。
【0044】
図1Aで示す(A1)は、駆動電流変化前の有機EL素子(OLED1)において、白色発光を呈している発光スペクトル1のプロファイルであり、青色発光領域における最大発光強度がIbo、赤色発光領域における最大発光強度がIroである。
【0045】
これに対し、図1Aで示す(A2)には、駆動電流変化前の有機EL素子(OLED1)の発光面側に血液(B)が付着した時の発光スペクトル2(破線で表示)のプロファイルであり、血液の赤色のヘモグロビンの影響により、青色光及び緑色光が吸収され、相対的に赤色光比率の高い発光スペクトルとなり、本来必要な白色発光の発光スペクトル1とは大きくかけ離れた特性となる。
【0046】
これに対し、図1Bの(B1)に示す有機EL素子(OLED2)の発光スペクトル3は、図1Aに示す発光スペクトル1に対し、有機EL素子に印加する電流条件として、赤色発光領域における最大発光強度Irに対し、青色発光領域における最大発光強度Ibをより高くなる条件とし、式(1)で規定する「Ib/Ibo>Ir/Iro」を満たす発光スペクトル条件とする。この発光スペクトル3(実線)は、相対的に青色光の発光比率が高い発光特性である。
【0047】
このような発光特性を有する有機EL素子(OLED2)の発光面に血液(B)が付着することにより、相対的に青色光が吸収された発光スペクトル4となり、この発光スペクトル4は、図1Aの(A1)で示す発光スペクトル1と近似の白色の発光プロファイルとなるため、手術中に面発光体である有機EL素子に血液が付着しても、正確な色調判定を行うことができる。
【0048】
本発明において、駆動電流の変化により、式(1)で規定する「Ib/Ibo>Ir/Iro」の条件を達成するための手段としては、特に制限はないが、有機EL素子の構成として、後述するような2つ以上の独立した発光ユニットを積層した独立駆動型(調色方式)の有機EL素子を用い、青色発光に係る発光ユニットに印加する電流を高くすることにより、青色発光強度(Ib)を上げる方法、あるいはパルス駆動で青色の発光時間を長くする方法等が挙げられる。
【0049】
具体的には、発光駆動条件を予め複数のタイプ設定しておき、血液未付着時の条件と血液付着後の条件を、状況に応じて適宜選択する方法も好ましい方法である。
【0050】
また、下記図2で例示するように、青色発光層(HOST)と隣接する電子輸送層(ELT)とのLUMO差が0.1eV以上となる材料を適用することにより、Ib/Ibo>Ir/Iroの関係を達成することもできる。
【0051】
図2は、式(1)で規定する条件を達成するための手段の一例を説明するため方法の一例を示す概略図である。
【0052】
図2では、HOST(発光層)と隣接するETL(電子輸送層)のLUMO-HOMOを表している。電子はLUMOに移動するが、HOSTとETLのLUMOの差がある程度あるとき、具体的には0.1eV以上あるときに駆動電流を上げると、電子がETLのLUMOにたまり駆動電流を上げる前の図2で示す状態Aに比べ、図2で示す電流を上げた状態Bでは電子がHOSTのLUMOへ移動しやすくなる。よって電子が流れやすくなることでHOSTでの電子とホールの再結合が効率よく行われ、青の発光強度を向上させることができる。
【0053】
《外科用手術器具への有機EL素子の適用》
〔実施形態1:有機EL素子を具備した第1の開創器〕
本発明においては、式(1)で規定する条件を満たす有機EL素子を開創器に装着させる仕様が好ましい実施形態の一つである。
【0054】
図3は、代表的な外科用手術器具である開創器の一対の開創具の内面側に有機EL素子を装着させている状態を示す斜視図である。なお、以下、各図の説明において、構成要素の末尾に括弧内で記載した数字は、各図に記載の符号を表す。
【0055】
図3に示すように、開創器(50)は、切開部位を押し広げる際に当該切開部位を係止保持するための一対の第1開創具(57A)及び第2開創具(57B)をそれぞれ先端側に備えた一対のアーム(55A及び55B)を、ヒンジ部(54)を介して開閉可能な鋏状の構成を有している。そして、上記一対のアーム(55A及び55B)の開閉操作を行うために、当該一対のアーム(55A及び55B)にはそれぞれハンドル(53A及び53B)が一体に設けられており、この各ハンドル(53A及び53B)の先端部には指を入れるための指輪(51A及び51B)が備えられている。
【0056】
開創器(50)は、指輪(51A及び51B)に指を入れて、ハンドル(53A及び53B)を閉じるように操作すると、アーム(55A及び55B)の先端側が開くように、ヒンジ部(54)を中心として回動するものである。次いで、アーム(55A及び55B)の先端側を開いた状態に保持するため、ハンドル(53A及び53B)を不動状態に固定可能のラチェット歯(52)等から構成されるロック機構が備えられている。
【0057】
図3に示すような構成の開創器(50)においては、アーム(55A及び55B)の先端部に設けられている一対の第1開創具(57A)及び第2開創具(57B)のそれぞれ対向する面側に、本発明に係る有機EL素子(OLEDa、OLEDb)が装着されている。有機EL素子は、各開創具(57A及び57B)に対し、脱着可能な状態で装着されていることが好ましい。
【0058】
図3に記載の開創器(50)は、小さな切開部であれば1つの開創器で対応してもよいが、切開部が大きな場合には、複数個の開創器をそれぞれ異なる位置に配置して照明する方法であってもよい。
【0059】
また、図3で例示した開創器(50)では、2つのアームがそれぞれ自由に可動する形態を示したが、例えば、特開2005-58440号公報や特開2005-211409号公報で開示されているような、一方のアームを固定し、他方のアームを可動式とする構成であってもよい。
【0060】
〔実施形態2:有機EL素子を具備した第2の開創器〕
本発明に係る開創器としては、異なる位置に配置されている開創器ユニットを複数個有する構成であってもよい。
【0061】
図4は、本発明の実施形態2に係る有機EL素子を具備した複数の開創器ユニットにより構成されている開創器の一例を示す斜視図である。
【0062】
図4に示す開創器は、三関節自在開創固定器を、異なる方向に3ユニットを配置した例を示してある。
【0063】
手術台(59)上に、3つの自在開創固定器ユニット(60A、60B及び60C)が3方向に独立して配置されている。
【0064】
第1自在開創固定器ユニット(60A)は、3つの関節部を有し、自由な位置に、有機EL素子(OLED)を有する開創具(69)を配置させることができる。
【0065】
第1自在開創固定器ユニット(60A)は、手術台固定金具(61)により手術台(59)に固定されている。手術台固定金具(61)の上部には、順に、本体支持棒(62)、第3ジョイント自由自在(63)、第2アーム(64)、エルボージョイント(65)、第1アーム(66)、第1ジョイント自由自在(67)及び鈎固定部(68)を有しており、当該鈎固定部(68)の先端に、有機EL素子(OLED)を装着している開創具(69A)を有している。第1自在開創固定器ユニット(60A)と同様の構成の第2自在開創固定器ユニット(60B)及び第3自在開創固定器ユニット(60C)が、直角方向に配置されている。各開創具(69)の先端に装着している有機EL素子(OLED)を手術中に切開した体内に挿入し、患部に無影灯の照明として機能するとともに、手術中に血液等が付着した際に、有機EL素子(OLED)の駆動条件を変化させ、適切な発光スペクトルとなるように調整を行う。
【0066】
図3及び図4で示すような曲面を有する開創具に有機EL素子を装着させる場合、有機EL素子自身がフレキシブル性を有し、開創部の曲面に対し湾曲した状態で固定できる構成であることが好ましい。
【0067】
図5は、曲面形状の開創具面に凹面形状の有機EL素子を具備し一例を示す概略図である。
【0068】
図5では、図3で説明した開創器(50)の部分構造を示しており、アーム(55)の先端部に、アーム連結部(56)を介して、曲面構造を有する開創具(57)が設けられ、その表面部に湾曲した状態の有機EL素子(OLED)が装着されている。この時、有機EL素子は、開創具(57)に対し、着脱可能な構成とすることが好ましい。
【0069】
また、有機EL素子の表面部には、滅菌処理耐性を有するカバーが装着されていてもよい。
【0070】
このような仕様で適用される有機EL素子としては、基材としてフレキシブル性を有する樹脂基材を用いること、あるいは電極を構成する材料として、従来のITO(酸化インジウム・スズ)に対して優れたフレキシブル性を有する薄膜銀電極、銀グリッド、又はIZO(酸化インジウム・酸化亜鉛)を適用することが好ましい。
【0071】
〔実施形態3:有機EL素子を具備した手術用手袋〕
本発明に係る有機EL素子は、実施形態1及び実施形態2で説明したような開創器に具備させるほか、ドクターが装着している手術用手袋に具備させる仕様も、好ましい態様である。
【0072】
図6A及び図6Bは、本発明の実施形態に係る有機EL素子を具備した手術用手袋の構成の一例を示す斜視図である。
【0073】
図6Aは、手術用手袋(71)の各指先に有機EL素子(OLED)を装着している形態を示しており、図6Bには、手術用手袋(71)の手のひら又は甲部に有機EL素子(OLED)を装着している形態を示している。
【0074】
いずれの形態においても、装着させる有機EL素子(OLED)はフレキシブル性を備えていることが重要な要件である。
【0075】
《有機EL素子の構成例》
次いで、外科用手術器具へ適用する有機EL素子の詳細について、図を交えて説明する。
【0076】
〔有機EL素子の全体構成〕
図7は、本発明に適用可能な有機EL素子の発光ユニットの封止構造を含めた全体構成の一例を示す断面図である。
【0077】
図7に示す有機EL素子(OLED)は、基材(1)上に、一対の電極の一方を構成する第1電極(3、陽極)と、その上に、有機機能層群1(22)、発光層(23)及び有機機能層群2(24)で構成される有機機能層ユニット(4)を有している。この有機機能層ユニット(4)上に、他方の電極である第2電極(6、陰極)が形成されて、第1電極(3)~第2電極(6)までで、発光ユニット(12)を構成している。図7では、便宜上、1つの発光ユニット(12)のみを記載しているが、2つ以上の発光ユニット(12)が積層されている構造、あるいは複数の発光ユニット(12)が並列配置されている構成であってもよい。
【0078】
更に、第2電極(6)の上部には、少なくとも発光ユニット(12)を被覆する形態で、封止用接着層(13)及び封止基板(14)が設けられて、有機EL素子(OLED)を形成している。
【0079】
図7に記載の有機EL素子(OLED)において、第1電極(3)を透明電極で構成することにより、発光ユニット(12)の発光点(h)で発光した発光光(L)を、透明電極である第1電極(3)側より外部に取り出すことができる。
【0080】
上記構成の有機EL素子を外科用手術器具に適用する際の好ましい要件A~Gを、以下に列挙する。
【0081】
要件A:基材(1)及び封止基板(14)は、フレキシブル性を有し、破損の恐れがない樹脂基材であることが好ましい。カラス基材等を適用した場合には、フレキシブル性が不十分であり、体内挿入時に破損等を起こした際の問題が大きい。
【0082】
要件B:面発光光源である有機EL素子を外科用手術器具へ装着する際、保持具(例えば、開創器の開創具あるいは手術用手袋等)に着脱可能な仕様であることが好ましい。
【0083】
要件C:外科用手術器具に適用する光源であることを考慮すると、発光面積は10cm以上であること、発光輝度は1000cd/m以上であること、輝度均一性〔(輝度の最小値/輝度の最大値)×100(%)〕が80%以上であることが好ましい。
【0084】
要件D:発光特性としては、基本的には白色発光であり、極大発光波長を少なくとも3つ有し、演色性を備えている仕様であることが好ましい。
【0085】
要件E:有機EL素子の光源部としての厚さは,2mm以下の薄型構成とすることにより、患者の切開部を最小限にすることができる点で好ましい。
【0086】
要件F:有機層の総厚は,200nm以上であることが、リークの発生を抑制し、手術中での突然の発光機能の消失を防止することができる点で好ましい。
【0087】
要件G:有機EL素子は発光波長を制御することが可能な調色タイプであること、更には2つ以上の発光ユニットを積層したタンデム構成であることが好ましい。
【0088】
〔複数の発光ユニットを有する有機EL素子の構成〕
次いで、本発明に好適に用いることができる複数の発光ユニットを有する有機EL素子の構成について説明する。
【0089】
(有機EL素子構成:タイプA)
有機EL素子構成の一例であるタイプAは、基材上に、第1電極/第1の発光ユニット/中間電極/第2の発光ユニット/第2電極が積層させた調色タイプの構成で、第1の発光ユニットと第2の発光ユニットを独立して発光制御することができる構成が挙げられる。具体的には、後述の図8図10で例示する構成である。このような構成の有機EL素子においては、本発明の式(1)で規定する「Ib/Ibo>Ir/Iro」の関係を確実に満たすためには、第1の発光ユニットを青色発光とし、第2の発光ユニットを緑色発光及び赤色発光とする構成が好ましい。
【0090】
(有機EL素子構成:タイプB)
有機EL素子構成の他の一例であるタイプBは、基材上に、第1電極/第1の発光ユニット/第1の中間電極/第2の発光ユニット/第2の中間電極/第3の発光ユニット/第2電極という構成で3つの発光ユニットがタンデム型で積層された調色タイプの構成で、例えば、第1の発光ユニット~第3の発光ユニットをそれぞれ独立した条件で発光制御させることができる構成である。具体的には、後述の図11に記載してある構成を例示することができる。このようなタンデム型構成の有機EL素子においては、本発明に係る式(1)で規定する「Ib/Ibo>Ir/Iro」の関係を達成させるためには、第1の発光ユニットを青色発光層、第2の発光ユニットを緑色発光層、第3の発光ユニットを赤色発光層とする構成とし、式(1)で規定する条件を満たすように、それぞれの発光ユニットに印加する駆動電流条件を、それぞれ独立に制御する方法が好ましい。
【0091】
(有機EL素子構成:タイプC)
有機EL素子構成の他の一例であるタイプCは、基材上に、第1電極/第1の発光ユニット/中間層/第2の発光ユニット/中間層/第3の発光ユニット/第2電極がタンデム型で積層された調色タイプの構成で、例えば、第1の発光ユニット~第3の発光ユニットをそれぞれ同一の条件で発光制御させる非独立制御型の方法であり、このような構成で、式(1)で規定する条件を満たすためには、前述の図2で説明したように、青色発光ユニットの構成として、青色発光層(HOST)と隣接する電子輸送層(ELT)とのLUMO差が0.1eV以上となる材料を適用することが好ましい。
【0092】
(有機EL素子構成:タイプD)
有機EL素子構成の他の一例であるタイプDとして、同一平面上に、青色発光ユニット、緑色発光ユニット、赤色発光ユニットを並列配置し、それぞれを独立して制御する方法も挙げることができる。その一例は、後述する図13で説明するとおりである。
【0093】
〔複数の発光ユニットを有する有機EL素子の例示〕
上記説明した複数の発光ユニットを有する有機EL素子の具体的な構成について、図を交えて説明する。
【0094】
なお、各構成層の構成材料等の詳細については後述する。
【0095】
(実施形態A:2つの発光ユニットを積層した方式)
図8は、上記説明したタイプAに相当する独立した発光ユニットを積層した独立駆動型(調色方式)の有機EL素子の詳細な構成の一例を示す概略断面図である。
【0096】
図8に示す有機EL素子(OLED)は、一対の電極(3、6)間に2つの有機機能層ユニット(4-A及び4-B)を有し、当該2つの有機機能層ユニット(4-A及び4-B)間に中間電極(15)を配置し、それぞれの2つの発光ユニット(U1及びU2)を独立して形成している独立駆動型(調色方式)の有機EL素子の構成の一例(実施態様A、タイプA)を示す概略断面図である。
【0097】
図8に示す有機EL素子(OLED)の構成では、フレキシブル基材(1)上に、透明な陽極(3)を形成し、その上に、第1の正孔注入層(HIL1)及び第1の正孔輸送層(HTL1)を積層して、その上に第1の発光層(12)を積層し、更にその上に、第1の電子輸送層(ETL1)及び第1の電子注入層(EIL1)を積層して有機機能層ユニット1(4-A)を構成し、有機機能層ユニット1(4-A)上に中間電極(15)を形成し、陽極(3)と中間電極(15)間をリード線(11-A)で接続して、独立制御が可能な第1の発光ユニット(U1)を構成している。
【0098】
次いで、中間電極(15)上に、第2の正孔注入層(HIL2)及び第2の正孔輸送層(HTL2)を積層して、その上に第2の発光層(13)を積層し、更にその上に、第2の電子輸送層(ETL2)及び第2の電子注入層(EIL2)を積層して有機機能層ユニット2(4-B)を構成し、最上層に陰極(6)が設けられている。更に、中間電極(15)と陰極(6)間をリード線(11-B)で接続して、独立制御が可能な第2の発光ユニット(U2)を構成している。
【0099】
図8に記載の構成では、透明な陽極(3)と中間電極(15)間に、リード線(11-A)を介して電圧(V1)を印加することにより、発光ユニット1(U1)を独立して駆動し、中間電極(15)と陰極(6)の間に、リード線(11-B)を介して電圧(V2)を印加することにより、発光ユニット2(U2)を独立駆動し、いずれも、透明な陽極(3)側から発光光(L)が放射される。
【0100】
このような構成においては、有機機能層ユニット1(4-A)を構成する第1の発光層(12)は発光材料としては青色発光材料で構成し、有機機能層ユニット2(4-B)を構成する第2の発光層(13)は発光材料として緑色発光材料及び赤色発光材料で構成することが好ましい。
【0101】
また、中間電極(15)としては、透明電極であることが好ましい構成であり、薄膜の金属電極、例えば、薄膜銀電極等で形成し、中間電極(15)は、電気的接続を得るための独立した接続端子を有している。
【0102】
図9は、図8で示した実施形態A(タイプA)の有機EL素子の構成を、より簡略化して記載した図であり、基本的な構成は図8と同様である。以降の有機EL素子の構成の説明は、図9で示すような構成を用いて説明する。
【0103】
図10は、実施形態A(タイプA)で、2つの独立した発光ユニットを積層した独立駆動型(調色方式)の有機EL素子の構成の他の一例を示す概略断面図で、図9で記載の中間電極(5)に代えて、窒素原子含有層(7)上に薄銀電極(5-1)を形成した例を示してある。
【0104】
(実施形態B:3つの発光ユニットを積層した独立駆動方式)
図11は、3つの有機機能層ユニット(4-A、4-B及び4-C)から構成される3つの発光ユニット(U1、U2及びU3)を有するタンデム構造の有機EL素子(OLED)の実施形態B(タイプB)の構成を示す概略断面図である。
【0105】
図11において、有機EL素子(OLED)は、フレキシブル基材(1)上に、対向する位置関係で、第1電極(3)と第2電極(6)が配置されている。図11の構成では、第1電極(3)が透明電極である陽極であり、第2電極(6)が陰極である構成例を示してある。
【0106】
第1電極(3、陽極)と、第2電極(6、陰極)との間には、発光層を含む各有機機能層(4-A~4-C)から構成される第1の発光ユニット(U1)、第2の発光ユニット(U2)及び第3の発光ユニット(U3)が配置され、各発光ユニットのそれぞれの間には、独立した接続端子(不図示)を有している中間電極層(5-1、5-2)及び窒素原子含有層(7-1、7-2)が配置されている。
【0107】
それぞれ、第1電極(3)と中間電極層(5-1)間は、リード線(11-A)で配線され、それぞれの接続端子に駆動電圧V1として2~40V程度を印加することにより、発光ユニット(U1)が発光する。同様に、中間電極層(5-1)と中間電極層(5-2)間は、リード線(11-B)で配線され、それぞれの接続端子に駆動電圧V2として2~40V程度を印加することにより、発光ユニット(U2)が発光する。同様に、中間電極層(5-2)と第2電極(6)間も、リード線(11-C)で配線され、それぞれの接続端子に駆動電圧V3として2~40V程度を印加することにより、発光ユニット(U3)が発光する。
【0108】
有機EL素子(OLED)の駆動に際し、駆動電圧V1、駆動電圧V2及び駆動電圧V3として直流電圧を印加する場合には、陽極である第1電極(3)を+の極性とし、陰極である第2電極(6)を-の極性として、電圧2~40Vの範囲内で印加し、さらに中間電極層(5-1及び5-2)に対しては第1電極(3)と第2電極(6)との中間電圧で印加する。
【0109】
各駆動電圧の印加により、それぞれの発光ユニットの発光点(h)で発光した発光光(L)は、透明電極である第1電極(3)側より、外部に取り出される。また、第2電極(6)側に発光した光は、第2電極(6)面で反射し、同様に第1電極(3)側より取り出される構成である。
【0110】
図11に示すような3つの発光ユニット(U1、U2及びU3)から構成されるタンデム構造の有機EL素子においては、例えば、有機機能層ユニット(4-A)を構成する発光層には青色発光性化合物を含有してB発光ユニットとし、発光ユニット(4-B)を構成する発光層には緑色発光性化合物を含有してG発光ユニットとし、発光ユニット(4-C)を構成する発光層には赤色発光性化合物を含有してR発光ユニットとし、各駆動電圧V1~V3を適宜調整することにより、白色発光、あるいは所望の波長の発光(調色)を実現することもできる。
【0111】
(実施形態C:3つの発光ユニットを積層した非独立駆動方式)
図12は、3つの発光ユニット(U1、U2及びU3)を有するタンデム構造の有機EL素子(EL)の他の一例である実施形態C(タイプC)の構成を示す概略断面図である。
【0112】
図12は、上記説明した図11に記載のタンデム構造の有機EL素子に対し、第1の発光ユニット(U1)~第3の発光ユニット(U3)までのそれぞれの間に設けた中間電極層(5-1及び5-2)と窒素原子含有層(7-1及び7-2)に代えて、電荷発生層(15A及び15B)を設け、かつ第1電極(3)と第2電極(6)間に駆動電圧V1を印加する方式であり、第1の発光ユニット(U1)~第3の発光ユニット(U3)がそれぞれ独立発光する方式ではなく、同時発光する方式である。
【0113】
(実施形態D:3つの発光ユニットを並列配置した独立駆動方式)
図13A及び図13Bは、3つの有機EL素子を並列配置した面発光光源の一例(タイプD)を示す概略図である。
【0114】
図13Aは、3つの有機EL素子を並列配置した面発光光源である有機EL素子ユニット(100)の上面図であり、図13Bは各構成部材の配置を示す概略断面図である。
【0115】
図13Aに記載の有機EL素子ユニット(100)では、フレキシブル基材(105)上に、青色発光有機EL素子(OLED-B)、緑色発光有機EL素子(OLED-G)及び赤色発光有機EL素子(OLED-R)を並列配置し、それぞれの有機EL素子を単独で単色発光させる方法、2つを組み合わせて中間色を発光させる方法、あるいは3つの有機EL素子を同時発光させて、白色発光タイプとしてもよい。
【0116】
図13Bは、有機EL素子ユニット(100)の概略断面図であり、フレキシブル基材(105)上に、薄型電池やフレキシブルプリント回路(FPC)等の駆動電力供給部(108)が配置されており、接着層(107)を介して青色発光有機EL素子(OLED-B)、緑色発光有機EL素子(OLED-G)及び赤色発光有機EL素子(OLED-R)が並列配置され、最表部に表面基材(102)が設けられている。駆動電力供給部(108)から、接続部材(106B、106G及び106R)を介して、各有機EL素子に駆動電力が供給される。
【0117】
特に、駆動電力供給部(108)として薄型電池を適用することが、外科用手術器具としては薄型化で、電力供給コード等が無く、機動性を高めることができる点で好ましい。
【0118】
《有機EL素子の構成要素》
次いで、本発明に係る有機EL素子の構成の詳細について説明する。
【0119】
(1.有機EL素子の構成と構成材料)
本発明に係る有機EL素子の概要については、例えば、特開2013-157634号公報、特開2013-168552号公報、特開2013-177361号公報、特開2013-187211号公報、特開2013-191644号公報、特開2013-191804号公報、特開2013-225678号公報、特開2013-235994号公報、特開2013-243234号公報、特開2013-243236号公報、特開2013-242366号公報、特開2013-243371号公報、特開2013-245179号公報、特開2014-003249号公報、特開2014-003299号公報、特開2014-013910号公報、特開2014-017493号公報、特開2014-017494号公報等に記載されている構成を挙げることができる。
【0120】
また、タンデム型の有機EL素子の具体例としては、例えば、米国特許第6337492号明細書、米国特許第7420203号明細書、米国特許第7473923号明細書、米国特許第6872472号明細書、米国特許第6107734号明細書、米国特許第6337492号明細書、特開2006-228712号公報、特開2006-24791号公報、特開2006-49393号公報、特開2006-49394号公報、特開2006-49396号公報、特開2011-96679号公報、特開2005-340187号公報、特許第4711424号公報、特許第3496681号公報、特許第3884564号公報、特許第4213169号公報、特開2010-192719号公報、特開2009-076929号公報、特開2008-078414号公報、特開2007-059848号公報、特開2003-272860号公報、特開2003-045676号公報、国際公開第2005/009087号、国際公開第2005/094130号等に記載の素子構成や構成材料等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0121】
更に、有機EL素子を構成する各構成要素の詳細について説明する。
【0122】
(2:基材)
有機EL素子(OLED)に適用可能な基材(1)としては、特に制限はなく、例えば、ガラス、プラスチック等の種類を挙げることができる。更には、基材がフレキシブル性を有していることが好ましい。本発明でいうフレキシブル性とは、直径5mmのABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂)製の棒に10回巻きつけと開放を繰り返した後、目視確認にて基材に割れや欠け等の損傷がない特性をいう。
【0123】
本発明において、最表面(光放射面側)に配置される基材は、少なくとも有機EL素子より放射される光を、400~800nmの波長域範囲で透過する特性(光透過性)を有していることが好ましい。本発明でいう光透過性とは、400~800nmの波長域範囲における平均光透過率が60%以上であることをいい、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。
【0124】
すなわち、本発明においては、基材側から光(L)を取り出す構成では、基材としては透明材料であることが必要となり、好ましく用いられる透明な基材としては、ガラス、石英、樹脂基材を挙げることができる。更には、有機EL素子にフレキシブル性を付与することができ、かつ安全性の観点からフレキシブル基材である樹脂基材が好ましい。
【0125】
本発明に適用可能な樹脂基材を構成する樹脂材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(略称:PET)、ポリエチレンナフタレート(略称:PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(略称:TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(略称:CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類及びそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート(略称:PC)、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(略称:PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート(略称:PMMA)、アクリル及びポリアリレート類、アートン(商品名、JSR社製)及びアペル(商品名、三井化学社製)等のシクロオレフィン系樹脂等を挙げることができる。
【0126】
これら樹脂基材のうち、コストや入手の容易性の点では、ポリエチレンテレフタレート(略称:PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(略称:PEN)、ポリカーボネート(略称:PC)等の樹脂材料より構成されるフィルムが、フレキシブル性の樹脂基材として好ましく用いられる。
【0127】
樹脂基材の厚さとしては、10~500μmの範囲内にある薄膜の樹脂基材であることが好ましいが、より好ましくは30~400μmの範囲内であり、特に好ましくは、50~300μmの範囲内である。厚さが10μmであれば、有機EL素子を構成する各機能性層を安定して保持することができ、厚さが500μm以下であれば、光治療時に発生する熱エネルギーを効率的に拡散させることができ、また、患者が衣服を着用したままでも肌に密着させることが可能となる点で好ましい。
【0128】
(3:第1電極:陽極)
有機EL素子を構成する陽極としては、Ag、Au等の金属又は金属を主成分とする合金、CuI、あるいはインジウム-スズの複合酸化物(ITO)、SnO及びZnO等の金属酸化物を挙げることができるが、金属又は金属を主成分とする合金であることが好ましく、更に好ましくは、銀又は銀を主成分とする薄銀電極、銀グリッド電極又はIZOである。
【0129】
透明陽極を、銀を主成分として構成する場合、銀の含有率としては、99%以上であることが好ましい。また、銀の安定性を確保するためにパラジウム(Pd)、銅(Cu)及び金(Au)等が添加されていてもよい。
【0130】
透明陽極は銀を主成分として構成されている層であることが好ましいが、具体的には、銀単独で形成しても、あるいは銀(Ag)を主成分として含有する合金から構成されていてもよい。そのような合金としては、例えば、銀-マグネシウム(Ag-Mg)、銀-銅(Ag-Cu)、銀-パラジウム(Ag-Pd)、銀-パラジウム-銅(Ag-Pd-Cu)、銀-インジウム(Ag-In)などが挙げられる。
【0131】
上記陽極を構成する各構成材料の中でも、本発明に係る有機EL素子を構成する陽極としては、銀を主成分として構成し、厚さが2~20nmの範囲内にある透明陽極であることが好ましいが、更に好ましくは厚さが4~12nmの範囲内である。厚さが20nm以下であれば、透明陽極の吸収成分及び反射成分が低く抑えられ、高い光透過率が維持される点で好ましい。
【0132】
本発明でいう銀を主成分として構成されている層とは、透明陽極中の銀の含有量が60質量%以上であることをいい、好ましくは銀の含有量が80質量%以上であり、より好ましくは銀の含有量が90質量%以上であり、特に好ましくは銀の含有量が98質量%以上である。また、本発明に係る透明陽極でいう「透明」とは、波長550nmにおける光透過率が50%以上であることをいう。
【0133】
透明陽極としては、銀を主成分として構成されている透明電極層が、必要に応じて複数の層に分けて積層された構成であっても良い。
【0134】
また、本発明においては、陽極が、銀を主成分として構成する透明陽極である場合には、透明陽極を形成している銀膜の均一性を高める観点から、その下部に、下地層を設けることが好ましい。下地層としては、特に制限はないが、銀原子と相互作用を有する窒素原子又は硫黄原子を有する有機化合物を含有する層であることが好ましく、当該下地層上に、銀を主成分とする透明陽極を形成する方法が好ましい態様である。
【0135】
(4:中間電極)
本発明に係る有機EL素子においては、陽極と陰極との間に、有機機能層群と発光層から構成される有機機能層ユニットを二つ以上積層した構造を有することが好ましく、このような機機能層ユニットを二つ以上有する構成においては、当該二つ以上の有機機能層ユニット間に、電気的接続を得るための独立した接続端子を有する中間電極層ユニットを設けて、両者を分離して、発光ユニットを構成する方法が好ましい。
【0136】
中間電極の構成材料としては、上記説明した第1電極(陽極)の形成材料を同様の材料を用いることができる。
【0137】
また、銀を主成分とした材料を用いて中間電極を設ける場合にも、上記第1電極と同様に、形成する中間電極層の銀原子の均一性を高める目的で、下地層(例えば、図10に記載の窒素原子含有層(7))を設けることが好ましい。
【0138】
(5:発光層)
有機EL素子を構成する発光層は、発光材料としてリン光発光化合物、あるいは蛍光性化合物を用いることができるが、本発明においては、特に、発光材料としてリン光発光化合物が含有されている構成が好ましい。
【0139】
この発光層は、電極又は電子輸送層から注入された電子と、正孔輸送層から注入された正孔とが再結合して発光する層であり、発光する位置は発光層の層内であっても発光層と隣接する層との界面であってもよい。
【0140】
このような発光層としては、含まれる発光材料が発光要件を満たしていれば、その構成には特に制限はない。また、同一の発光スペクトルや発光極大波長を有する層が複数層あってもよい。この場合、各発光層間には非発光性の中間層を有していることが好ましい。
【0141】
発光層の厚さの総和は、1~100nmの範囲内であることが好ましく、より低い駆動電圧を得ることができることから1~30nmの範囲内であることがさらに好ましい。なお、発光層の厚さの総和とは、発光層間に非発光性の中間層が存在する場合には、当該中間層も含む厚さとする。
【0142】
以上のような発光層は、後述する発光材料やホスト化合物を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法(ラングミュア・ブロジェット、Langmuir Blodgett法)及びインクジェット法等の公知の薄膜形成方法により形成することができる。
【0143】
また、発光層は、複数の発光材料を混合してもよく、リン光発光材料と蛍光発光材料(蛍光ドーパント、蛍光性化合物ともいう)とを同一発光層中に混合して用いてもよい。発光層の構成としては、ホスト化合物(発光ホストともいう。)及び発光材料(発光ドーパント化合物ともいう。)を含有し、発光材料より発光させる方式が好ましい。
【0144】
〈ホスト化合物〉
発光層に適用するホスト化合物としては、室温(25℃)におけるリン光発光のリン光量子収率が0.1未満の化合物が好ましい。さらにリン光量子収率が0.01未満であることが好ましい。また、発光層に含有される化合物の中で、その層中での体積比率が50%以上であることが好ましい。
【0145】
ホスト化合物としては、公知のホスト化合物を単独で用いてもよく、あるいは、複数種のホスト化合物を併用してもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機電界発光素子を高効率化することができる。また、後述する発光材料を複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。
【0146】
発光層に用いられるホスト化合物としては、従来公知の低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(蒸着重合性発光ホスト)でもよい。
【0147】
本発明に適用可能なホスト化合物としては、例えば、特開2001-257076号公報、同2001-357977号公報、同2002-8860号公報、同2002-43056号公報、同2002-105445号公報、同2002-352957号公報、同2002-231453号公報、同2002-234888号公報、同2002-260861号公報、同2002-305083号公報、米国特許出願公開第2005/0112407号明細書、米国特許出願公開第2009/0030202号明細書、国際公開第2001/039234号、国際公開第2008/056746号、国際公開第2005/089025号、国際公開第2007/063754号、国際公開第2005/030900号、国際公開第2009/086028号、国際公開第2012/023947号、特開2007-254297号公報、欧州特許第2034538号明細書等に記載されている化合物を挙げることができる。
【0148】
〈発光材料〉
本発明で用いることのできる発光材料としては、リン光発光性化合物(リン光性化合物、リン光発光材料又はリン光発光ドーパントともいう。)及び蛍光発光性化合物(蛍光性化合物又は蛍光発光材料ともいう。)が挙げられるが、特に、リン光発光性化合物を用いることが、高い発光効率を得ることができる点から好ましい。
【0149】
〈リン光発光性化合物〉
リン光発光性化合物とは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。
【0150】
上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は、種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明においてリン光発光性化合物を用いる場合、任意の溶媒のいずれかにおいて、上記リン光量子収率として0.01以上が達成されればよい。
【0151】
リン光発光性化合物は、一般的な有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができるが、好ましくは元素の周期表で8~10族の金属を含有する錯体系化合物であり、さらに好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、白金化合物(白金錯体系化合物)又は希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
【0152】
本発明においては、少なくとも一つの発光層が、二種以上のリン光発光性化合物が含有されていてもよく、発光層におけるリン光発光性化合物の濃度比が発光層の厚さ方向で変化している態様であってもよい。
【0153】
本発明に使用できる公知のリン光発光性化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物等が挙げられる。
【0154】
Nature 395,151(1998)、Appl.Phys.Lett.78, 1622(2001)、Adv.Mater.19,739(2007)、Chem.Mater.17,3532(2005)、Adv.Mater.17,1059(2005)、国際公開第2009/100991号、国際公開第2008/101842号、国際公開第2003/040257号、米国特許出願公開第2006/835469号明細書、米国特許出願公開第2006/0202194号明細書、米国特許出願公開第2007/0087321号明細書、米国特許出願公開第2005/0244673号明細書等に記載の化合物を挙げることができる。
【0155】
また、Inorg.Chem.40,1704(2001)、Chem.Mater.16,2480(2004)、Adv.Mater.16,2003(2004)、Angew.Chem.lnt.Ed.2006,45,7800、Appl.Phys.Lett.86,153505(2005)、Chem.Lett.34,592(2005)、Chem.Commun.2906(2005)、Inorg.Chem.42,1248(2003)、国際公開第2009/050290号、国際公開第2009/000673号、米国特許第7332232号明細書、米国特許出願公開第2009/0039776号、米国特許第6687266号明細書、米国特許出願公開第2006/0008670号明細書、米国特許出願公開第2008/0015355号明細書、米国特許第7396598号明細書、米国特許出願公開第2003/0138657号明細書、米国特許第7090928号明細書等に記載の化合物を挙げることができる。
【0156】
また、Angew.Chem.lnt.Ed.47,1(2008)、Chem.Mater.18,5119(2006)、Inorg.Chem.46,4308(2007)、Organometallics 23,3745(2004)、Appl.Phys.Lett.74,1361(1999)、国際公開第2006/056418号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2006/082742号、米国特許出願公開第2005/0260441号明細書、米国特許第7534505号明細書、米国特許出願公開第2007/0190359号明細書、米国特許第7338722号明細書、米国特許第7279704号明細書、米国特許出願公開第2006/103874号明細書等に記載の化合物も挙げることができる。
【0157】
さらには、国際公開第2005/076380号、国際公開第2008/140115号、国際公開第2011/134013号、国際公開第2010/086089号、国際公開第2012/020327号、国際公開第2011/051404号、国際公開第2011/073149号、特開2009-114086号公報、特開2003-81988号公報、特開2002-363552号公報等に記載の化合物も挙げることができる。
【0158】
本発明においては、好ましいリン光発光性化合物はIrを中心金属として有する有機金属錯体が挙げられる。さらに好ましくは、金属-炭素結合、金属-窒素結合、金属-酸素結合、金属-硫黄結合の少なくとも1つの配位様式を含む錯体が挙げられる。
【0159】
上記説明したリン光発光性化合物(リン光発光性金属錯体ともいう)は、例えば、Organic Letter誌、vol3、No.16、2579~2581頁(2001)、Inorganic Chemistry,第30巻、第8号、1685~1687頁(1991年)、J.Am.Chem.Soc.,123巻、4304頁(2001年)、Inorganic Chemistry,第40巻、第7号、1704~1711頁(2001年)、Inorganic Chemistry,第41巻、第12号、3055~3066頁(2002年)、New Journal of Chemistry.,第26巻、1171頁(2002年)、European Journal of Organic Chemistry,第4巻、695~709頁(2004年)、さらにこれらの文献中に記載されている参考文献等に開示されている方法を適用することにより合成することができる。
【0160】
〈蛍光発光性化合物〉
蛍光発光性化合物としては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素又は希土類錯体系蛍光体等が挙げられる。
【0161】
(6:有機機能層群)
次いで、有機機能層ユニットを構成する各層について、電荷注入層、正孔輸送層、電子輸送層及び阻止層の順に説明する。
【0162】
〈6.1:電荷注入層〉
電荷注入層は、駆動電圧低下や発光輝度向上のために、電極と発光層の間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)にその詳細が記載されており、正孔注入層と電子注入層とがある。
【0163】
電荷注入層としては、一般には、正孔注入層であれば、陽極と発光層又は正孔輸送層との間、電子注入層であれば陰極と発光層又は電子輸送層との間に存在させることができるが、本発明においては、透明電極に隣接して電荷注入層を配置させることを特徴とする。また、中間電極で用いられる場合は、隣接する電子注入層及び正孔注入層の少なくとも一方が、本発明の要件を満たしていれば良い。
【0164】
正孔注入層は、駆動電圧低下や発光輝度向上のために、透明電極である陽極に隣接して配置される層であり、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)に詳細に記載されている。
【0165】
正孔注入層は、特開平9-45479号公報、同9-260062号公報、同8-288069号公報等にもその詳細が記載されており、それらの化合物を正孔注入層に用いることができる。
【0166】
また、特表2003-519432号公報や特開2006-135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体も同様に正孔輸送材料として用いることができる。
【0167】
電子注入層は、駆動電圧低下や発光輝度向上のために、陰極と発光層との間に設けられる層のことであり、陰極が本発明に係る透明電極で構成されている場合には、当該透明電極に隣接して設けられ、電子注入層の詳細は、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)に記載されている。
【0168】
電子注入層は、特開平6-325871号公報、同9-17574号公報、同10-74586号公報等にもその詳細が記載されており、これらに記載されている材料を、電子注入層に好ましく用いることができる。電子注入層はごく薄い膜であることが望ましく、構成材料にもよるが、その層厚は1nm~10μmの範囲内が好ましい。
【0169】
〈6.2:正孔輸送層〉
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料から構成され、広い意味で正孔注入層及び電子阻止層も正孔輸送層の機能を有する。正孔輸送層は、単層又は複数層設けることができる。
【0170】
正孔輸送材料としては、正孔の注入又は輸送、電子の障壁性のいずれかの機能を有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。
【0171】
正孔輸送材料としては、上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物を用いることもでき、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0172】
正孔輸送層は、上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法及びLB法(ラングミュア・ブロジェット、Langmuir Blodgett法)等の公知の薄膜形成手段を用いて、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の層厚については特に制限はないが、通常は5nm~5μm程度、好ましくは5~200nmの範囲である。この正孔輸送層は、上記材料の一種又は二種以上からなる一層構造であってもよい。
【0173】
また、正孔輸送層の材料に不純物をドープすることにより、p性を高くすることもできる。その例としては、特開平4-297076号公報、特開2000-196140号公報、同2001-102175号公報及びJ.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0174】
このように、正孔輸送層のp性を高くすると、より低消費電力の有機EL素子を作製することができるため好ましい。
【0175】
〈6.3:電子輸送層〉
電子輸送層は、電子を輸送する機能を有する材料から構成され、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は、単層構造又は複数層の積層構造として設けることができる。
【0176】
単層構造の電子輸送層及び積層構造の電子輸送層において、発光層に隣接する層部分を構成する電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、カソードより注入された電子を発光層に伝達する機能を有していれば良い。このような材料としては、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン、アントロン誘導体及びオキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送層の材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した高分子材料又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0177】
また、8-キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8-キノリノール)アルミニウム(略称:Alq)、トリス(5,7-ジクロロ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7-ジブロモ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(2-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、ビス(8-キノリノール)亜鉛(略称:Znq)等及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送層の材料として用いることができる。
【0178】
電子輸送層は、上記材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法及びLB法等の公知の薄膜形成方法により、形成することができる。電子輸送層の層厚については特に制限はないが、通常は5nm~5μmの範囲内であり、好ましくは5~200nmの範囲内である。電子輸送層は上記材料の一種又は二種以上からなる単一構造であってもよい。
【0179】
〈6.4:阻止層〉
阻止層としては、正孔阻止層及び電子阻止層が挙げられ、上記説明した有機機能層ユニットの各構成層の他に、必要に応じて設けられる層である。例えば、特開平11-204258号公報、同11-204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層等を挙げることができる。
【0180】
正孔阻止層とは、広い意味では、電子輸送層の機能を有する。正孔阻止層は、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、電子輸送層の構成を必要に応じて、正孔阻止層として用いることができる。正孔阻止層は、発光層に隣接して設けられていることが好ましい。
【0181】
一方、電子阻止層とは、広い意味では、正孔輸送層の機能を有する。電子阻止層は、正孔を輸送する機能を有しつつ、電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。本発明に適用する正孔阻止層の層厚としては、好ましくは3~100nmの範囲内であり、さらに好ましくは5~30nmの範囲内である。
【0182】
(7:第2電極:陰極)
第2電極、例えば、陰極は、有機機能層群や発光層に正孔を供給するために機能する電極膜であり、金属、合金、有機若しくは無機の導電性化合物、又はこれらの混合物が用いられる。具体的には、金、アルミニウム、銀、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属、ITO、ZnO、TiO及びSnO等の酸化物半導体などが挙げられる。
【0183】
陰極は、これらの導電性材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させて作製することができる。また、第2電極としてのシート抵抗は、数百Ω/sq.以下が好ましく、膜厚は通常5nm~5μm、好ましくは5~200nmの範囲内で選ばれる。
【0184】
なお、有機EL素子が、陰極側からも発光光(L)を取り出す、両面発光型の場合には、前記陽極の形成で用いるとの同様の光透過性の良好な材料により陰極を構成すればよい。
【0185】
(8:封止部材)
有機EL素子を封止するのに用いられる封止手段としては、例えば、フレキシブル性を備えた封止部材と、陰極及び透明基板とを、封止用接着剤を用いて接着する方法を挙げることができる。
【0186】
封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されていればよく、凹板状でも、平板状でもよい。また、光取り出し側でなければ透明性及び電気絶縁性は特に限定されない。
【0187】
具体的には、フレキシブル性を備えた薄膜ガラス板、ポリマー板、フィルム、金属フィルム(金属箔)等が挙げられる。薄膜ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等の材料から構成される薄板を挙げることができる。金属フィルムとしては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属又は合金から構成される金属フィルムが挙げられる。
【0188】
本発明においては、封止部材としては、有機EL素子を薄膜化することできる観点から、ポリマーフィルム及び金属フィルムを好ましく使用することができる。さらに、ポリマーフィルムは、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された温度25±0.5℃、相対湿度90±2%RHにおける水蒸気透過度が、1×10-3g/m・24h以下であることが好ましく、さらには、JIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10-3ml/m・24h・atm(1atmは、1.01325×10Paである)以下であって、温度25±0.5℃、相対湿度90±2%RHにおける水蒸気透過度が、1×10-3g/m・24h以下であることが好ましい。
【0189】
封止部材と有機EL素子の表示領域(発光領域)との間隙には、気相及び液相では窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することもできる。また、封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙を真空とすることや、間隙に吸湿性化合物を封入することもできる。
【0190】
また、有機EL素子における発光機能層ユニットを完全に覆い、かつ有機EL素子における第1電極である陽極(3)と、第2電極である陰極(6)の端子部分を露出させる状態で、透明基板上に封止膜を設けることもできる。
【0191】
以上のような封止材は、有機EL素子における第1電極である陽極(3)と、第2電極である陰極(6)の端子部分を露出させると共に、少なくとも発光機能層を覆う状態で設けられている。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本発明の外科用手術器具は、手術用の照明光源で、血液等の付着により変化した発光スペクトルを速やかに補正し、適正な発光スペクトル下で、手術の作業性を向上させることができる無影灯である有機EL素子を具備した外科用手術器具であり、体内挿入時に血液が付着しても、駆動電流を変化させて、適性の発光スペクトルに補正することができ、開創器や手術用手袋に装着させることができる。
【符号の説明】
【0193】
1 基材、フレキシブル基材
3 第1電極
4、4-A、4-B 有機機能層ユニット
5 中間電極
5-1、5-2、15 薄銀電極
6 第2電極
7、7-1、7-2 下地層、窒素原子含有層
11、11-A、11-B、11-C リード線
12 発光ユニット
13 封止用接着剤
14 封止基板
22、24 有機機能層群
23 発光層
50 開創器
51A、51B 指輪
52 ラチェット歯
53A、53B ハンドル
54 ヒンジ部
55A、55B アーム
56A、56B アーム連結部
57A、57B 開創具
59 手術台
60A、60B、60C 自在開創固定器ユニット
61 手術台固定金具
62 本体支持棒
63 第3ジョイント自由自在
64 第2アーム
65 エルボージョイント
66 第1アーム
67 第1ジョイント自由自在
68 鈎固定部
71 手術用手袋
100 有機EL素子ユニット
102 表面基材
105 フレキシブル基材
106 接続部材
107 接着層
108 駆動電力供給部
B 血液
L 発光光
h 発光点
OLED、OLEDa、OLEDb 有機EL素子
OLED-B 青色発光有機EL素子
OLED-G 緑色発光有機EL素子
OLED-R 赤色発光有機EL素子
U1、U2、U3 発光ユニット
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B