(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】高血糖症によって引き起こされる線維性疾患の処置における使用のためのmiRNAを含有する薬学的担体
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20220119BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20220119BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20220119BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20220119BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220119BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220119BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20220119BHJP
A61K 35/407 20150101ALI20220119BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20220119BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220119BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220119BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220119BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220119BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220119BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220119BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220119BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220119BHJP
C12N 15/88 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K9/14
A61K9/50
A61K9/51
A61K31/7105
A61K35/12
A61K35/28
A61K35/407
A61K35/545
A61P1/16
A61P3/10
A61P9/00
A61P9/10
A61P13/12
A61P27/02
A61P43/00 105
C12N15/113 Z
C12N15/88 Z
(21)【出願番号】P 2018558118
(86)(22)【出願日】2017-05-04
(86)【国際出願番号】 EP2017060612
(87)【国際公開番号】W WO2017191234
(87)【国際公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-04-23
(32)【優先日】2016-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518361044
【氏名又は名称】ユニシテ エーファウ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】ブリッツィ マリア フェリーチェ
(72)【発明者】
【氏名】カムッシ ジョヴァンニ
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-529450(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047800(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 48/00
A61K 9/14
A61K 9/50
A61K 9/51
A61K 31/7105
A61K 35/12
A61K 35/28
A61K 35/407
A61K 35/545
A61P 1/16
A61P 3/10
A61P 9/00
A61P 9/10
A61P 13/12
A61P 27/02
A61P 43/00
C12N 15/113
C12N 15/88
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロRNAであるmiR222を担持する薬学的に許容可能な担体
を含む、高血糖症によって引き起こされる線維性疾患の処置における使用のための組成物。
【請求項2】
薬学的に許容可能な担体が、マイクロRNAであるmiR100をさらに担持する、請求項1に記載の
組成物。
【請求項3】
薬学的に許容可能な担体がマイクロ粒子またはナノ粒子であり、1種または複数のマイクロRNAが、マイクロ粒子もしくはナノ粒子の内部に含有されているか、またはマイクロ粒子もしくはナノ粒子の表面に付着している、請求項1または2に記載の
組成物。
【請求項4】
薬学的に許容可能な担体が細胞外小胞(EV)である、請求項1から3のいずれかに記載の
組成物。
【請求項5】
薬学的に許容可能な担体が、幹細胞に由来する細胞外小胞(EV)である、請求項1から5のいずれかに記載の
組成物。
【請求項6】
細胞外小胞(EV)が成体幹細胞に由来する、請求項5に記載の
組成物。
【請求項7】
細胞外小胞(EV)が、間葉系幹細胞(MSC)、非卵形ヒト肝臓前駆細胞(HLSC)または脂肪幹細胞(ASC)に由来する、請求項6に記載の
組成物。
【請求項8】
細胞外小胞(EV)が、天然に存在するEVであるか、またはmiR222を含有するように操作されており、miR100を含有するように操作されていてもよいEVである、請求項4から7のいずれかに記載の
組成物。
【請求項9】
細胞外小胞(EV)が、miR222およびmiR100を含有するように操作されている、請求項8に記載の
組成物。
【請求項10】
線維性疾患が、糖尿病性腎症、腎線維症、心筋症、非アルコール性脂肪肝、特にNASH、および糖尿病網膜症からなる群から選択される、請求項1から9のいずれかに記載の
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維性疾患の新規な治療的処置に関する。より詳細には、本発明は、高血糖症によって引き起こされる線維性疾患の処置における、幹細胞由来の細胞外小胞(EV)のような薬学的担体の使用に関する。糖尿病性腎症のような線維性腎臓疾患に焦点が当てられる。
【背景技術】
【0002】
線維症はしばしば、組織傷害に続いて観察される。高血糖症によって誘導される線維症は、糖尿病患者において見出される特別なタイプの線維症である。腎臓はしばしば、そのような線維性疾患の影響を受ける。
糖尿病は、西洋世界において慢性腎臓疾患(CKD)を主として駆動するものであり、新たな症例の約50%を占める。糖尿病患者のほぼ40%が糖尿病性腎症(DN)を発症し、そのためこれは、都市化された国における末期腎不全(ESRD)の主要な原因となっている。CKDを有する患者は、末期腎不全についてだけでなく、心血管疾患および死亡についてのリスクも増加している。より良好なDN管理のための新規な標的が緊急に同定される必要があるが、それは、厳密な血糖制御および種々の治療的アプローチの適用にもかかわらず、ESRDが発症し得るからである。
初期DNの重要な病理学的特徴は、糸球体上皮細胞の損傷/欠損およびメサンギウム細胞(MC)肥大を含む。それに続く腎間質内における筋線維芽前駆細胞集団の拡張、および増加した細胞外マトリックス(ECM)タンパク質合成は、糸球体基底膜肥厚および尿細管間質性線維症をもたらす。
DNにおける腎臓の構造的変化は、糸球体細胞および尿細管細胞の両方における初期の増殖速度、および、メサンギウム細胞の大きさの漸進的な増加をもたらすIV型コラーゲンおよびフィブロネクチンのような細胞外マトリックスタンパク質の後期蓄積によって特徴付けられる。
【0003】
miRの役割は、DNを含む異なる病理学的状況における線維化過程に寄与することが報告されている。miR21は、メサンギウム細胞の拡張において特に興味を引いている。miR21が、2型糖尿病患者からの尿においても増加することが、近年報告されている。異なるmiR21の標的が、コラーゲン産生および線維症に寄与することが報告されている。Akt-mTOR経路の活性化をもたらすPTEN上方制御が、この過程に主に寄与しているように見える。実のところ、先行技術において、miR21への干渉が、DNの前臨床モデルにおける腎臓の組織学的異常を回復することが示された。miR遺伝子は、他の遺伝子と同様に、転写因子によって制御し得る。このことに関し、miR-21は、Jurkat細胞に加えて乳腺細胞においても、プロラクチンに応答するSTAT5標的遺伝子として記載されている。一方で、STAT5それ自体は、miR222およびmiR223を含む異なるmiRによって制御され得るものであり、このことは、このシナリオが極めて複雑であることを示唆している。
臨床的および実験的腎臓学者は、CDKの転帰を改善するために、異なる分野において仕事をしている。特に、インビボおよびインビトロモデルを使用する本質的研究は、現在、CKDのESRDへの進行に関与する主要な経路についての分子的基盤を明らかにすること、および腎線維症を抑制するための新規な治療的アプローチを発見することを目指している。
【0004】
異なる起源のMSCが、現在、再生医療において最も広く研究されている幹細胞である。そもそもMSCは、傷害された組織にホーミングし、生着して、ここでMSCは分化して、損傷した細胞を置換すると考えられていたが、現在では、MSCが栄養媒介物質を放出する能力から、MSC移植のプラスの影響が生じることが実証された。いくつかの研究は、細胞外RNA(exRNA)トランスポーターに注目しており、エキソソームおよび微小小胞体を含む小胞の形態において、これらが体液中に存在し得ることを示している。これらの小胞は別個の生体発生を有するが、重複する特徴および生物学的活性を共有するため、「細胞外小胞」(EV)という包括的な用語を使用することが提案されている。EVは近年、よく保存されている進化的な細胞間コミュニケーション機構として、増大する注目を集めている。特に、幹細胞由来EVは、再生医療において全身的または局所的に投与された場合、機能的RNA、miR、脂質、およびタンパク質の水平伝播を介して、細胞の効果を模倣し得ることが見出されている。異なる幹細胞起源から回収されたEVは、それらの内包物を完全にまたは部分的に共有することができる。さらに、miRまたはタンパク質の濃縮を、それらの起源に依存して検出することができる。
一般的な幹細胞由来EVの機能は、種々の病理学的条件における近年の研究の話題となってが、これらがどのような機構で、高グルコースへの応答におけるように損傷のきっかけから細胞を保護するかは、部分的に検討されているのみである。
WO2011/143499は、腎幹細胞およびその細胞外小胞(EV)が線維症の処置において有効であることを記載している。
WO2015/052526は、線維症の処置のための神経幹細胞からの微小粒子(すなわち細胞外小胞、EV)の効果を記載している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
高血糖症によって引き起こされる線維症に対する新規な治療的アプローチを探索するために、本発明者らは、異なる幹細胞起源から放出されたEVの、HG誘導性コラーゲン産生(ここで「HG」は「高グルコース」を表す)に対する効果を解析し、STAT5A miR21、miR222、miR100およびTGFβ発現に対するそれらの効果に対して、特に注意が払われている。特に、糖尿病性腎症および腎線維症の処置が解析されている。
【0006】
本詳細な説明の実験の部において詳細に説明されるとおり、本発明者らの研究の結果は、種々のタイプの幹細胞から放出されたEVが、メサンギウム細胞を、HG誘導性コラーゲン産生から保護することを示した。特に、本発明者らは、EVが、miR222と名付けられたマイクロRNAを伝播することによってSTAT5の発現を制御し、これはその後、miR21、TGFb1の発現およびマトリックスタンパク質合成を制御することに注目した。さらに、本発明者らは、EVが、レシピエント細胞におけるmiR21およびmiR100の間のバランスにおける変化を駆動することによって、コラーゲン産生の抑制にも間接的に寄与し得ることを見出した。これらの結果は、種々の幹細胞から放出されたEVが、関連する機構を伝播して、HGに媒介された損傷からメサンギウム細胞を保護することができることを示している。
【0007】
したがって、本発明の第一の態様は、高血糖症によって引き起こされる線維性疾患、特に糖尿病性腎症および/または腎線維症の処置における使用のための、miR222を担持する薬学的に許容可能な担体である。高血糖症によって引き起こされる他の線維性疾患、たとえば心筋症、非アルコール性脂肪肝(BanおよびTwigg、2009年)、特にNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)、および糖尿病網膜症の処置も想定される。
本発明の好ましい実施形態によれば、薬学的に許容可能な担体は、マイクロRNAである「miR100」を含む。
【0008】
miR222およびmiR100は、それ自体は既知のマイクロRNA(miRNA)であり、これらの特徴および配列は、たとえばmiRBaseと名付けられたデータベースにおいて、それぞれMI0000299およびMI0000102の受託番号の下に見出され得る。
【0009】
薬学的効果は、薬学的担体に含有されたmiRNAに帰すことができる。標的細胞に対するmiRNAのあらゆる効率的なトランスフェクションが、高血糖症によって引き起こされる線維性疾患の処置における効果的な使用のために想定される。miRNAの効率的なトランスフェクションは、好ましくはマイクロ粒子またはナノ粒子の形態の、適切な薬学的担体を必要とする。そのような担体は市販されているものであり、アルギネートベース(GEM、Global Cell Solutions)、デキストランベース(Cytodex、GE Healthcare)、コラーゲンベース(Cultispher、Percell)、およびポリスチレンベース(SoloHill Engineering)のマイクロ担体を含む。
【0010】
別の方法として、miRNAのための薬学的担体は、ウイルスベクターであってもよい。ウイルスベースのシステムは、通常、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルス(AVV)を、たとえばNingning Yangにおいて開示されているように送達ベクターとして使用する。An overview of viral and nonviral delivery systems for microRNA. Int J Pharm Investig. 2015 Oct-Dec; 5(4): 179-181。したがって、miRNAのための適切な担体の選択および使用は、十分に当業者の能力の範囲内にある。
miRNAのためのさらに一層好ましい薬学的担体は、リポソームまたは細胞外小胞(EV)のような小胞である。細胞由来微小小胞体またはエキソソームのような細胞外小胞が、最も好ましい薬学的担体である。
したがって、本発明の別の好ましい実施形態によれば、薬学的に許容可能な担体は、幹細胞に、好ましくは成体幹細胞に、より好ましくは、たとえば骨髄間質幹細胞、または脂肪幹細胞(ASC)、または非卵形ヒト肝臓前駆細胞(HLSC)のような間葉系幹細胞(MSC)に由来する細胞外小胞(EV)である。HLSCおよびそれを得る方法は、WO2006126219として公開された国際特許出願において開示されている。
【0011】
本発明のさらなる態様は、高血糖症によって引き起こされる線維性疾患、好ましくは糖尿病性腎症、腎線維症、心筋症もしくは非アルコール性脂肪肝、特にNASH、または糖尿病網膜症の処置における使用のための、幹細胞の馴化培地から、好ましくは成体幹細胞の馴化培地から、より好ましくは間葉系幹細胞(MSC)またはヒト肝臓幹細胞(HLSC)の馴化培地から、単離された細胞外小胞の組成物である。特許請求される組成物の細胞外小胞は、好ましくはマイクロRNAであるmiR222を含有し、マイクロRNAであるmiRNA100を含有してもよい。
本発明による使用のための細胞外小胞(EV)は、天然に存在するEVであるか、またはその代わりに天然に存在する細胞外小胞(EV)と比較して顕著に多い量のmiR222またはmiR100を含有するように操作されているEVであって、単離された細胞外小胞に対してex vivoでmiR222またはmiR100を負荷(load)することによって得られるEVである。
【0012】
EP2010663として公開された欧州特許出願は、当業者に対し、特定のmiRNAを含むEVをどのように操作するかに関する指示を提供する。小胞またはエキソソーム内にRNAを導入する当業者に既知の技術は、トランスフェクションまたは共インキュベーションである。既知のトランスフェクション方法は、たとえばエレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、ウイルス性および非ウイルス性ベクターによるトランスフェクション、磁気アシスト(magnet assisted)トランスフェクションおよびソノポレーションである。結果として、ex vivoでmiR222またはmiR100が導入されている操作されたEVが、本発明の別の態様である。
この後の実験の部においてさらに詳細に説明されるとおり、天然に存在する細胞外小胞(EV)と比較して顕著に多い量のmiR222またはmiR100を評価する適切な方法は、qPCRデータ解析のΔΔCT法である。
相対値として表すと、負荷効率、すなわち、本発明の操作されたEVに存在する標的分子(すなわちmiR222またはmiR100のいずれか)の、天然の量と比較した量は、少なくとも2倍である。あるいは、負荷効率は、1個のEVあたりの負荷された標的分子の数として、絶対的な値で表してもよい。この値は、天然の量よりも多い、標的分子約1×103個~約1×105個/EVの範囲であってよいことが想定される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1Aに示されるように、HGはMCの増殖において有意な増加を促進するが、これは細胞数によって、およびサイクリンD1含量によって示されるとおりである(
図1B)。老化MCの数において変化は検出されなかった(
図1C)。MCコラーゲン産生は、糸球体損傷の特徴である。そこで、HGで刺激されたMCにおいて、コラーゲン産生を評価した。細胞の総溶解物および上清の両方に対するウェスタンブロット解析は、低グルコース処理された(treaded)細胞と比較した場合に、IV型コラーゲン産生において有意な増加を示した(
図1DおよびE)。コラーゲン産生における増加は、線維性分泌性表現型へのMCの転換を示している。MCによって既にほとんど産生されていなかったTGFβは、HG処理によってさらに増加した(
図1F)。糖尿病性腎症に関与するよく知られたmiRNAであるmiR21は、メサンギウム細胞マトリックスの拡張を誘導することが知られている。これと一致して、HG処理がmiR21発現を誘導することが見出された(
図1G)。このシグナル伝達経路の関与を検討した。本発明者らは、HGで処理されたMCにおいてさえ、高レベルのmTORを検出することができたことを見出した(
図1H)。
【
図2】
図2Aに示されるように、EVはMC増殖に干渉しなかった。しかし、コラーゲン産生を評価した場合、MSCおよびHLSCから回収されたEVは、コラーゲン産生を有意に減少させた(
図2BおよびC)。これと一致して、miR21(
図2D)、mTOR(
図2E~F)およびTGFβの発現の下方制御が検出された(
図2G~H)。
【
図3】
図3Aに示されるように、STAT5AはHG処理に応答して活性化を経験したが、その効果はEV処理によって抑制された(
図3B~C)。これらの実験条件において減少したSTAT5A発現が検出されたという観察は、EVの内包物がその発現を制御し得る可能性を強く示唆している。この可能性を検討するために、ΔNSTAT5A構築物をMCにトランスフェクションし(
図3D)、miR21発現を解析した。
図3Eにおいて報告されるように、STAT5A活性化の抑制は、HG処理されたMCにおけるmiR21の下方制御をもたらした。これと一致して、これらの実験条件においてコラーゲン産生を解析した場合、その発現はほぼ完全に抑制されたことが見出された。興味深いことに、STAT5Aシグナル伝達経路の抑制が、HG媒介性TGFβ発現を、同様に防止することもまた、実証された(
図3F)。
【
図4】
図4Aに示されるように、miR222は、HG処理に際して下方制御されるが、一方でEV処理に際して増加する。この効果が、MC内へのEV-miR222内容物の放出に依存するということは、アマニチンと、RNAseで前処理したかまたはしていないEVとの存在下で行われた実験によって実証された(
図4B)。これらの結果をさらに確認するために、premiR222をトランスフェクションし、HG条件において培養したMCを使用して、機能獲得実験を行った。予想どおり、miR222の過剰発現は、HG処理されたMCにおいて、STAT5A含量に加えてmiR21の細胞内含量、TGFβ発現およびコラーゲン産生の劇的な減少をもたらした(
図4D~F)。
【
図5】
図5Aに示されるように、miR100のMCにおける含量はHG処理に際して増加した一方で、EV処理後は、その含量における変化を検出することはできなかった。しかし、細胞内miRのバランスは特定の生物学的応答を指向させ得るため、本発明者らは、EV処理に伴って減少したmiR21の細胞内含量が、miR100の転写後活性のためによい働きをし得るという仮説を立てた。この仮説を確認するために、premiR100を使用する機能獲得実験を、HG処理したMCにおいて行った。実際、
図5Bにおいて報告されたデータは、miR100発現がmiR21と比べて多い場合、これはmTOR下方制御によって媒介されるシグナル伝達を駆動することができ、このことが、MCのTGFβ発現およびコラーゲン産生の抑制をもたらすことを実証する(
図5C~D)。再び、miR100の過剰発現は、LG培養されたMCに対して影響を及ぼさなかった(
図5C~D)。
【
図6】
図6は、血漿クレアチニンが糖尿病マウスにおいて増加したこと、および血漿クレアチニンにおける有意な減少が、すべての起源のEVによって処置されたマウスにおいて生じたことを示す。
【
図7】
図7は、糸球体内および間質腔におけるコラーゲンの沈着の減少という点での有意な改善が、EVで処置された糖尿病マウスにおいて生じたことを示す。
【
図8】
図8は、試験されたすべてのEVによる処置が、糖尿病マウスと比較して、尿細管損傷における関連する改善をもたらしたことを示す。
【
図9】
図9は、エレクトロポレーションによって、MSCにmiRNA分子を効果的に負荷することができ、標的miRNA分子は、MSCそれ自体にも、負荷されたMSCに由来するEVにも存在することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の実験の部は、MSCおよびHLSCに由来するEVを用いて本発明者らが実施した実験を開示するが、例としてのみ提供されるのであって、添付した特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲を限定することが意図されるものではない。
【0015】
本発明者らによって得られた結果は、メサンギウム細胞において、HGが、TGFβの発現、およびSTAT5A媒介経路を介したコラーゲンの産生を駆動することを実証した。ΔNSTAT5構築物を、HG中で培養したメサンギウム細胞において発現させることにより、本発明者らは、STAT5Aの活性化がmiR21発現を制御することを実証した。本発明者らはさらに、MSCおよびHLSCから放出されたEVが、HG誘導性コラーゲン産生からメサンギウム細胞を保護することを示している。特に、本発明者らは、EVが、miR222をメサンギウム細胞に伝播することによってSTAT5Aの発現を制御し、これがその後、miR21含量、TGFβ発現およびマトリックスタンパク質合成を制御することに注目している。これらの結果はさらに、HG条件中で培養したメサンギウム細胞においてmiR222を過剰発現させることによって確認された。さらに、miR100の過剰発現により、本発明者らは、レシピエント細胞中のmiR21およびmiR100の間のバランスにおける変化であって、EV内包物の伝播からもたらされるものが、mTORの下方制御、ならびにTGFβ発現およびコラーゲン産生の両方の障害をもたらすことを実証した。興味深いことに、これらの効果は、HG培養された細胞においてのみ検出された。
【0016】
(例1)
材料および方法
細胞培養
ヒトメサンギウム細胞(MC)は、1.0g/lのD-グルコースを含むDMEM(低グルコース、LG)または25mMのD-グルコースのDMEM(高グルコース、HG)中で培養した。MCはまた、ウシ胎児血清(FBS)を含まないDMEM LGおよびHG中でMSC由来またはHLSC由来EVの存在下、24時間培養した。すべての実験条件において、同じ数のEVを使用して、MCを刺激した(7000個のEV/標的細胞)。
【0017】
MSC由来およびHLSC由来EVの単離および定量
上清からEVを回収するために、MSCおよびHLSCを、ウシ胎児血清を含まないEndoGRO培地中で24時間培養した。3000gで30分間遠心分離してデブリを除去した後、無細胞上清を、10000および100000gの分画超遠心分離(Beckman Coulter Optima L-90K ultracetrifuge; Beckman Coulter、Fullerton、CA、USA)に4℃で3時間供した。EVは、新鮮なまま使用したか、または1%DMSOを供給されたDMEM中の再懸濁後、-80℃で保存した(Deregibus、2007年)かのいずれかであった。凍結したEVを洗浄し、100kgの超遠心分離によってペレット化して、細胞実験の前にDMSOを除去した。新鮮なEVおよび保存したEVの間に生物学的活性の差は観察されなかった。EVにおけるタンパク質含量は、ブラッドフォード法を使用して定量した(Bio-Rad、Hercules、CA、USA)。Limulusアメボサイトアッセイ(濃度<0.1ng/ml)(Charles River Laboratories, Inc.、Wilmington、MA、USA)を使用して、可能性のあるあらゆる汚染を試験した。NanoSight LM10(NanoSight Ltd、Minton Park UK)を使用して、EVのサイズ分布解析を行った。サンプルにおける粒子はレーザー光源を使用して照明し、カメラによって散乱光を捕捉して、ナノ粒子トラッキング解析(NTA)を使用して解析した。NTAは、ブラウン運動および拡散係数(Dt)に従って、自動的に粒子を追跡およびサイズ分類した。
細胞増殖
EV有りまたは無しのLG条件およびHG条件の両方における細胞増殖を、3人の異なる操作者による直接細胞計数によってアッセイした。
【0018】
ウェスタンブロット解析
以前の報告(Olgasi、2014年)の通り、MCを溶解しタンパク質濃度を得た。以前の報告(Olgasi、2014年)の通り、50μgのタンパク質をSDS-PAGEに供し、ニトロセルロースメンブレンにトランスファーし、処理した。デンシトメトリー解析を使用して、アクチンに対して標準化されたタンパク質レベルの誘導倍率における差を算出した。値は相対量として報告される。
【0019】
RNA単離および定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)
総RNAは、MCから、TRIzol試薬(Invitrogen)を製造者の指示に従って使用して単離した。RNAを分光光度的に定量した(Nanodrop ND-1000、Wilmington、DE、USA)。その後、細胞からのRNAを、miR-222に特異的なTaqMan microRNA RTキット、またはmiR-21およびmiR-100に特異的なSyber Green microRNA RTキットを使用して逆転写した。こうして、RNAは、TaqMan/Syber microRNAアッセイキットおよびABI PRISM 7700配列検出システム(Applied Biosystems、Foster City、CA、USA)を使用するqRT-PCRに供された。miR発現は、低分子核RNAであるRNU6Bに対して標準化した。
【0020】
premiR-100およびpremiR-222によるMCのトランスフェクション
pre-miR陰性対照またはpre-miR100およびpremiR-222前駆物質(Applied Biosystems)のいずれかを、製造者の指示に従ってトランスフェクションされたメサンギウム細胞において、機能獲得実験を行った。その後、これらのサンプルにおける細胞溶解から抽出されたすべてのタンパク質をウェスタンブロットに供し、すべてのRNAをRT-PCRによって解析した。
【0021】
EVからMCへのmiRの伝播
EVからMCへのmiR-222の伝播を解析するために、Yuanによって以前記載されたように(Yuan、2009年)、miR伝播実験を実施した。5×105個の細胞/ウェルのMCを、転写阻害剤であるα-アマニチン(Lee、2004年)と共に、RNAseで前処理したかまたはしていないEVの非存在下または存在下においてインキュベートした。上記のように処理したMCからの総RNAを、miR発現についてqRT-PCRに供した。miR伝播の間接的な基準として、本発明者らは、RNAseで前処理したかまたはしていないEVの非存在下または存在下におけるα-アマニチン処理された細胞の間で、Ct値における差を決定し;正の値は標的細胞内へのmiRの伝播を示した。シグナルが検出されなかった場合は、40というCt値がサンプルに割り当てられた。
ドミナントネガティブ(ΔN)STAT5A構築物のトランスフェクション。
選択された実験において、HGの存在下または非存在下において48時間にわたって培養されたMCに、ΔNSTAT5構築物を一過的にトランスフェクションした(Defilippi、2005年、Zeoli、2008年)。その後、細胞を処理して、ウェスタンブロット解析または総RNA単離のための細胞抽出物を得て、miR21発現を評価した。
老化アッセイ
老化アッセイ。老化は、以前記載されたように(Togliatto、2010年)別様に培養されたN-ASCの酸性β-ガラクトシダーゼ活性を測定することによって評価した。
【0022】
統計解析
すべてのデータは、平均またはパーセンテージ±s.e.mとして表す。ダゴスティーノ-ピアソン検定を使用して正規性を検定した。患者および対照におけるバイオメトリック測定に関するデータ、インビトロ血管新生、遊走、接着および老化アッセイに関するデータ、miR発現、細胞増殖、機能欠損および機能獲得実験に関するデータ、ならびに最後にウェスタンブロットについてのデンシトメトリー解析に関するデータを、2群比較についてはスチューデントのt検定を使用し、一元配置分散分析を使用して解析し、その後にテューキーの多重比較検定を、3群について行った。三つ組みで行った3回の実験が、実験群間における90%検定力を、両側仮説で0.05の確率水準と共に保証する最小のサンプルサイズであった。統計的有意性のためのカットオフは、P<0.05(*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001)に設定した。すべての統計解析は、GraphPad Prismのバージョン5.04(GraphPad Software,Inc.、Lajolla、CA、USA)を使用して実施した。
【0023】
結果
短期間高グルコース刺激は、メサンギウム細胞(MC)増殖、IV型コラーゲン産生およびmiR21発現を誘導する。
急性高血糖症媒介性メサンギウム細胞損傷を模倣するために、MCを高グルコース培地(25mM)中で48時間にわたって培養した。増殖および老化を解析した。
図1Aに示されるように、HGはMCの増殖において有意な増加を促進するが、これは細胞数によって、およびサイクリンD1含量によって示されるとおりである(
図1B)。老化MCの数において変化は検出されなかった(
図1C)。MCコラーゲン産生は、糸球体損傷の特徴である。そこで、HGで刺激されたMCにおいて、コラーゲン産生を評価した。細胞の総溶解物および上清の両方に対するウェスタンブロット解析は、低グルコース処理された(treaded)細胞と比較した場合に、IV型コラーゲン産生において有意な増加を示した(
図1DおよびE)。コラーゲン産生における増加は、線維性分泌性表現型へのMCの転換を示している。MCによって既にほとんど産生されていなかったTGFβは、HG処理によってさらに増加した(
図1F)。糖尿病性腎症に関与するよく知られたmiRNAであるmiR21は、メサンギウム細胞マトリックスの拡張を誘導することが知られている。これと一致して、HG処理がmiR21発現を誘導することが見出された(
図1G)。このシグナル伝達経路の関与を検討した。本発明者らは、HGで処理されたMCにおいてさえ、高レベルのmTORを検出することができたことを見出した(
図1H)。
【0024】
MSCおよびHLSCからのEVは、MCにおけるコラーゲン産生およびmiR21発現を抑制する
EVを、MSC、およびHLSCから回収し、MC増殖およびコラーゲン産生に関してアッセイした。こうして、LGまたはHG濃度において48時間にわたって培養されたMCは血清飢餓状態であり、18時間にわたってEV処理に供した。
図2Aに示されるように、EVはMC増殖に干渉しなかった。しかし、コラーゲン産生を評価した場合、MSCおよびHLSCから回収されたEVは、コラーゲン産生を有意に減少させた(
図2BおよびC)。これと一致して、miR21(
図2D)、mTOR(
図2E~F)およびTGFβの発現の下方制御が検出された(
図2G~H)。
【0025】
MSCおよびHLSC由来EVは、HGに供されたMCにおいてSTAT5A発現を制御する
MSCおよびHLSCに由来するEVがmiR21発現に影響するという観察は、STAT5Aがこの制御に関与し得るかどうかを本発明者らが検討するよう導いた。この目的のために、EVの存在下または非存在下においてHGで処理されたMCを、STAT5A活性化について解析した。
図3Aに示されるように、STAT5AはHG処理に応答して活性化を経験したが、その効果はEV処理によって抑制された(
図3B~C)。これらの実験条件において減少したSTAT5A発現が検出されたという観察は、EVの内包物がその発現を制御し得る可能性を強く示唆している。この可能性を検討するために、ΔNSTAT5A構築物をMCにトランスフェクションし(
図3D)、miR21発現を解析した。
図3Eにおいて報告されるように、STAT5A活性化の抑制は、HG処理されたMCにおけるmiR21の下方制御をもたらした。これと一致して、これらの実験条件においてコラーゲン産生を解析した場合、その発現はほぼ完全に抑制されたことが見出された。興味深いことに、STAT5Aシグナル伝達経路の抑制が、HG媒介性TGFβ発現を、同様に防止することもまた、実証された(
図3F)。
【0026】
EVのmiR内包物は、STAT5A発現を制御する
MSCおよびHLSCのEVのmiR発現解析(mirnomic)が、以前報告されている(Collino、2010年)。本発明者らは、そのような細胞起源からのEVにおいて発現するmiRが、HGによって活性化されるシグナル伝達経路の制御に関連し得るかどうかを検討した。それらの中でも、miR222が含められる。miR222は、STAT5Aの直接的な転写後制御因子として報告されている。したがって、miR222の発現を、EVで処理されたHG培養されたMCにおいて評価した。
図4Aに示されるように、miR222は、HG処理に際して下方制御されるが、一方でEV処理に際して増加する。この効果が、MC内へのEV-miR222内容物の放出に依存するということは、アマニチンと、RNAseで前処理したかまたはしていないEVとの存在下で行われた実験によって実証された(
図4B)。これらの結果をさらに確認するために、premiR222をトランスフェクションし、HG条件において培養したMCを使用して、機能獲得実験を行った。予想どおり、miR222の過剰発現は、HG処理されたMCにおいて、STAT5A含量に加えてmiR21の細胞内含量、TGFβ発現およびコラーゲン産生の劇的な減少をもたらした(
図4D~F)。より重要なことには、そのような事象は、LG培養されたMCにおいては生じなかったのであるが、これは特定のシグナル伝達経路が、高血糖環境によって誘導されることを示している。
【0027】
EV媒介性miR21下方制御は、コラーゲン産生の抑制に寄与するmiR100の転写後活性を促進することができる
本発明者らは、miR100もまたEV媒介性効果に寄与することができるかどうかを検討した。まず、miR100発現を、EV処理に供したMCにおいて評価した。
図5Aに示されるように、miR100のMCにおける含量はHG処理に際して増加した一方で、EV処理後は、その含量における変化を検出することはできなかった。しかし、細胞内miRのバランスは特定の生物学的応答を指向させ得るため、本発明者らは、EV処理に伴って減少したmiR21の細胞内含量が、miR100の転写後活性のためによい働きをし得るという仮説を立てた。この仮説を確認するために、premiR100を使用する機能獲得実験を、HG処理したMCにおいて行った。実際、
図5Bにおいて報告されたデータは、miR100発現がmiR21と比べて多い場合、これはmTOR下方制御によって媒介されるシグナル伝達を駆動することができ、このことが、MCのTGFβ発現およびコラーゲン産生の抑制をもたらすことを実証する(
図5C~D)。再び、miR100の過剰発現は、LG培養されたMCに対して影響を及ぼさなかった(
図5C~D)。総合すると、これらのデータは、EV処理に伴うレシピエント細胞へのmiR含量の微調整が、それらの治癒特性にも寄与し得ることを示している。
【0028】
(例2)
糖尿病性腎症のインビボモデル:幹細胞由来EV(SC-EV)による処理
異なる幹細胞起源または血清から放出されたEVが、実験的糖尿病性腎症における損傷に干渉し得るかどうかを検討するために、実験的研究を実施した。この目的のために、マウスをストレプトゾトシン(STZ)処置に供して(連続する4日間にわたって35mg/kg、腹腔内)、高血糖症の動物モデルを作出した。ゼロ時点(T0)における糖尿病の発症後、糖尿病マウスを、1週に1回のEV処置(各1×10
10個)に5回供した(T7、T14、T21およびT28)。糖尿病の発症から1ヶ月後(T30、エンドポイント)に、以下のパラメータを測定した:血糖、体重、尿中アルブミン/クレアチニン比、尿中pH、血漿クレアチニン(CREA)。さらに、腎臓を以下の組織学的解析に供した:糸球体および間質の線維症、糸球体面積、ボーマン腔、尿細管損傷。得られた結果を
図6~8に説明するが、これは以下のマウス群の各々について得られた結果を示している:10匹の健康なマウス;15匹の糖尿病マウス(DN);10匹のMSC-EV処置したマウス;10匹の血清EV処置したマウス;10匹のASC-EV処置したマウス、および6匹のHLSC-EV処置したマウス。
【0029】
図6は、血漿クレアチニンが糖尿病マウスにおいて増加したこと、および血漿クレアチニンにおける有意な減少が、すべての起源のEVによって処置されたマウスにおいて生じたことを示す。
図7は、糸球体内および間質腔におけるコラーゲンの沈着の減少という点での有意な改善が、EVで処置された糖尿病マウスにおいて生じたことを示す。
図8は、試験されたすべてのEVによる処置が、糖尿病マウスと比較して、尿細管損傷における関連する改善をもたらしたことを示す。すべてのデータは平均±SEMで表される。
*p<0.05、対DN、
**p<0.001対DN。さらに、すべての起源のEVについて、ACRにおける有意な減少およびpH値における有意な復元が示された。
【0030】
(例3)
幹細胞のトランスフェクションによるmiRNAを含む細胞外小胞の濃縮:EV操作のための方法
幹細胞由来EVにおけるmiRNA含量を濃縮するために、Neonトランスフェクションシステム(Invitrogen)を製造者の指示に従って使用するエレクトロポレーションによって、間葉系幹細胞(MSC)がトランスフェクションされた。1×106個のMSCを濃縮するために、天然に存在するMSCには存在しないミミック、すなわちcel-miR-39を600pmol使用し、MSCは、ウシ胎児血清(FCS)を添加し、抗生物質を含まない完全培地に播種した。陰性対照として、スクランブルミミックを使用した(SCR)。
次の日に培地を交換し、トランスフェクションされた細胞を、RPMI有り、FCS無しで一晩インキュベートした。上清を回収し、2,000gにおいて15分間遠心分離して細胞デブリおよびアポトーシス小体を除去し、その後、3kDaの分子量カットオフを備えた超遠心ユニット(Amicon Ultra-PL 3、Millipore)を使用して、4℃で濃縮した。EVを含有している濃縮培地(CM)に1%のジメチルスルホキシドを添加し、使用時まで-80℃で維持した。
【0031】
EVを含有している濃縮培地を、PEGを使用して4℃で一晩沈殿させることによって、RNA解析を実施した。EVペレットを1XのPBSで2回洗浄し、RNA/DNA/Protein Purification Plus Kit(Norgen Biotek)を使用してRNAを抽出した。RNAサンプルを逆転写し、miScript PCRシステム(Qiagen)によって定量的リアルタイムPCRを行った。RNU6BまたはRNU48を、ハウスキーピング対照(CTL)として使用した。標的無し(cel-miR-39)およびスクランブル無しでエレクトロポレーションに供されたMSCからのEVもまた、さらなる対照(EP)として使用した。
図9は得られた結果を示すが、これはRQ(相対量)および倍率変化によって表され、qPCRデータ解析の比較法またはΔΔC
T法を適用して、負荷効率を算出することによって得られたものである。
【0032】
qPCRデータ解析の比較法またはΔΔCT法において、2つの異なる実験のRNAサンプルから得られたCT値は、ハウスキーピング遺伝子に対して直接的に標準化し、その後、比較する。まず、目的の遺伝子およびハウスキーピング遺伝子におけるCT値の間における差(ΔCT)を、各実験サンプルについて算出する。その後、実験サンプルおよび対照サンプルの間のΔCT値における差であるΔΔCT(すなわち較正)を算出する。
2つのサンプルの間の、目的の遺伝子の発現における倍率変化は、したがって、以下である。
RQ=2-ΔΔCt
課題の実験において、RQは以下のように算出した:
ΔCT=CT標的-CT参照 (CT=サイクル閾値)
ここで標的はcel-miR-39であり、参照はハウスキーピング対照(RNU6BまたはRNU48)である。
ΔΔCT=ΔCT試験サンプル-ΔCT較正サンプル、ここで較正サンプルは未処理の細胞に由来するEVであり、試験サンプルは、処理した細胞に由来するEVである。
【0033】
図9は、エレクトロポレーションによって、MSCにmiRNA分子を効果的に負荷することができ、標的miRNA分子は、MSCそれ自体にも、負荷されたMSCに由来するEVにも存在することを示す。EVに負荷された標的miRNAの量は、MSCに負荷された標的miRNAの量のおよそ100分の1である。
したがって、負荷された標的分子数/EVとして表される負荷効率の合理的な推定は、1×10
3~1×10
5の範囲内に含まれる。
この範囲の上限は、およそ10
4~10
5の範囲の負荷効率を示すFuhrmannら(2014年)の
図5aに基づき、種々のタイプのmiRNAによるMSCのトランスフェクションに際して得られたEV粒子のNTA数に基づいている。
【0034】
参考文献
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕高血糖症によって引き起こされる線維性疾患の処置における使用のための、マイクロRNAであるmiR222を担持する薬学的に許容可能な担体。
〔2〕マイクロRNAであるmiR100をさらに担持する、前記〔1〕に記載の使用のための薬学的に許容可能な担体。
〔3〕薬学的に許容可能な担体がマイクロ粒子またはナノ粒子であり、1種または複数のマイクロRNAが、マイクロ粒子もしくはナノ粒子の内部に含有されているか、またはマイクロ粒子もしくはナノ粒子の表面に付着している、前記〔1〕または〔2〕に記載の使用のための薬学的に許容可能な担体。
〔4〕薬学的に許容可能な担体が細胞外小胞(EV)である、前記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の使用のための薬学的に許容可能な担体。
〔5〕薬学的に許容可能な担体が、幹細胞に由来する細胞外小胞(EV)である、前記〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の使用のための薬学的に許容可能な担体。
〔6〕細胞外小胞(EV)が成体幹細胞に由来する、前記〔5〕に記載の使用のための薬学的に許容可能な担体。
〔7〕細胞外小胞(EV)が、間葉系幹細胞(MSC)、非卵形ヒト肝臓前駆細胞(HLSC)または脂肪幹細胞(ASC)に由来する、前記〔6〕に記載の使用のための薬学的に許容可能な担体。
〔8〕細胞外小胞(EV)が、天然に存在するEVであるか、またはmiR222を含有するように操作されており、miR100を含有するように操作されていてもよいEVである、前記〔4〕から〔7〕のいずれかに記載の使用のための薬学的に許容可能な担体。
〔9〕細胞外小胞(EV)が、miR222およびmiR100を含有するように操作されている、前記〔8〕に記載の使用のための薬学的に許容可能な担体。
〔10〕線維性疾患が、糖尿病性腎症、腎線維症、心筋症、非アルコール性脂肪肝、特にNASH、および糖尿病網膜症からなる群から選択される、前記〔1〕から〔9〕のいずれかに記載の使用のための薬学的に許容可能な担体。
〔11〕天然に存在する細胞外小胞(EV)と比較して顕著に多い量のmiR222またはmiR100を含有する操作された細胞外小胞(EV)であって、単離された細胞外小胞に対してex vivoでmiR222またはmiR100を負荷することによって得られる、操作された細胞外小胞(EV)。
〔12〕天然に存在する細胞外小胞(EV)に存在する量よりも多い、分子1×10
3
~×10
5
個/EVの間に含まれる量のmiR222またはmiR100を含有する、前記〔11〕に記載の操作された細胞外小胞(EV)。
〔13〕qPCRデータ解析のΔΔC
T
法によって測定されると、天然に存在する細胞外小胞(EV)に存在する量の少なくとも2倍である量のmiR222またはmiR100を含有する、前記〔11〕に記載の操作された細胞外小胞(EV)。
〔14〕細胞外小胞が幹細胞または体液から単離されたものである、前記〔11〕から〔13〕のいずれかに記載の操作された細胞外小胞(EV)。
〔15〕幹細胞が成体幹細胞である、前記〔14〕に記載の操作された細胞外小胞(EV)。
〔16〕miR222またはmiR100が、EV内に、エレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、ウイルス性および非ウイルス性ベクターによるトランスフェクション、磁気アシストトランスフェクション、共インキュベーションおよびソノポレーションからなる群から選択されるトランスフェクション方法によって導入されている、前記〔11〕から〔15〕のいずれかに記載の操作された細胞外小胞(EV)。
〔17〕高血糖症によって引き起こされる線維性疾患の処置における使用のための、幹細胞の馴化培地から単離された細胞外小胞(EV)の混合物を含む組成物。
〔18〕幹細胞が成体幹細胞である、前記〔17〕に記載の組成物。
〔19〕成体幹細胞が、間葉系幹細胞(MSC)、非卵形ヒト肝臓前駆細胞(HLSC)または脂肪幹細胞(ASC)である、前記〔18〕に記載の組成物。
〔20〕線維性疾患が、糖尿病性腎症、腎線維症、心筋症および非アルコール性脂肪肝からなる群から選択される、前記〔17〕から〔19〕のいずれかに記載の組成物。