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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-01-26
(54)【発明の名称】硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/00 20060101AFI20220119BHJP
   C08F 299/00 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
C08F290/00
C08F299/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019501320
(86)(22)【出願日】2018-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2018005858
(87)【国際公開番号】W WO2018155401
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2017030566
(32)【優先日】2017-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井狩 芳弘
【審査官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-102243(JP,A)
【文献】特開2013-35901(JP,A)
【文献】特開2013-216782(JP,A)
【文献】特開2001-31714(JP,A)
【文献】特開2010-235812(JP,A)
【文献】特開2011-132476(JP,A)
【文献】特開2012-122022(JP,A)
【文献】特開2014-148643(JP,A)
【文献】国際公開第2017/33749(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/47335(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/99043(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 283/01
C08F 290/00 - 290/14
C08F 299/00 - 299/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一分子中に1.2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリイソブチレン系重合体(A)100重量部に対し、一分子中に0.5~1.0個の(メタ)アクリロイル基を有するポリイソブチレン系重合体(B)を15~900重量部、前記重合体(A)および前記重合体(B)の重量の合計100重量部に対し、重合開始剤(C)を0.001~50重量部含有することを特徴とする硬化性組成物であって、前記重合体(A)および前記重合体(B)の分子量が、サイズ排除クロマトグラフィー法によって測定したポリスチレン換算数平均分子量でいずれも500~500,000であって、かつ、分子量分布(重量平均分子量Mw)/(数平均分子量Mn)がいずれも1.0~2.0であり、
前記重合体(B)は、一分子中にアルキルのα位に遊離原子価を有する1価のアルキル置換ベンゼンまたは炭素数が4~20であって3級炭素上に遊離原子価を有するアルキル基を有することを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
前記重合体(A)が、ポリマー鎖の末端に(メタ)アクリロイル基を有することを特徴とする請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記重合体(B)が、ポリマー鎖の一つの末端に(メタ)アクリロイル基を有することを特徴とする請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記重合体(A)が、下記一般式(1)の重合体を含み、前記重合体(B)が、下記一般式(2)の重合体を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の硬化性組成物。
【化1】
(R1は、2価以上の芳香族炭化水素基、または脂肪族炭化水素基を表す。Aはポリイソブチレン系重合体を表す。R2は炭素数2~6の2価の飽和炭化水素基であって、ヘテロ原子を含有しない基を表す。R3、R4はそれぞれ水素、炭素数1~20の1価の炭化水素基、またはアルコキシ基を表す。R5は水素、またはメチル基を表す。nは2以上の整数を表す。)
【化2】
(R6は、一分子中にアルキルのα位に遊離原子価を有する1価のアルキル置換ベンゼンまたは炭素数が4~20であって3級炭素上に遊離原子価を有するアルキル基を表す。Aは、ポリイソブチレン系重合体を表す。R2は、炭素数2~6の2価の飽和炭化水素基であって、ヘテロ原子を有しない基を表す。R3、R4は、それぞれ水素または炭素数1~20の1価の炭化水素基またはアルコキシ基を表す。R5は、水素またはメチル基を表す。)
【請求項5】
前記重合体(A)のR2が、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、からなる群から選ばれる2価の飽和炭化水素基であることを特徴とする請求項4に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記重合体(B)のR2が、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、からなる群から選ばれる2価の飽和炭化水素基であることを特徴とする請求項4または5に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
前記重合体(A)および前記重合体(B)のR3およびR4が水素であることを特徴とする請求項4~6のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
前記重合体(A)のnが2であることを特徴とする請求項4~7のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
前記重合開始剤(C)が、ラジカル重合開始剤またはアニオン重合開始剤であることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
前記重合開始剤(C)が、光によりラジカル種を発生させうる光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする請求項9に記載の硬化性組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の硬化性組成物を、活性エネルギー線によってラジカル硬化させて得られる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリロイル基を有するポリイソブチレン系重合体を含有する硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
UV(紫外線)やEB(電子線)などの活性エネルギー線によって樹脂を架橋させる技術は広く認知されており、従来の熱をトリガーにした硬化反応に代わり利用される場面が増えてきている。
【0003】
活性エネルギー線硬化技術の特徴は、熱硬化技術に比べて硬化過程における脱溶剤化、省エネルギー化、省スペース化、工程の短時間化が可能である他、複雑な形状の基材にも光照射が可能であるため、硬化物の高機能化が容易であるという点が挙げられる。これらは例えば、インク、塗料、接着剤、シール剤、電気・電子用途の精密部品、造形物などの用途において好適に使用される。
【0004】
上記分野に用いる材料に要求される主な特性としては、耐久性、耐熱性、耐候性、耐水性、ガスバリア性などが挙げられ、そのような特徴を兼ね備えた樹脂の一例としては、ポリイソブチレン系重合体が挙げられる。
【0005】
(メタ)アクリロイル基を有するポリイソブチレン系重合体に基づく活性エネルギー線硬化性組成物が、特許文献1および2に記載されている。しかしながら、エラストマー材料として様々な特色のある硬化性組成物とするためには、更なる検討の余地があった。
【0006】
特許文献3には、反応性ケイ素基を重合体の両末端および片末端に有する重合体を含有し、加水分解縮合反応によって硬化する硬化性組成物が開示されている。これによれば、アルキレンオキシドの開環付加重合体からなる硬化性組成物に、柔軟性、耐久性、低汚染性を付与する技術が開示されているが、活性エネルギー線硬化技術とは異なる硬化技術に属する。また重合体の主鎖もポリイソブチレン系とは異なる。さらに硬化性組成物に求められる他の諸物性についての開示は無かった。
【0007】
特許文献4および5には、反応性ケイ素基を重合体の両末端および片末端に有する(メタ)アクリル系重合体をそれぞれ使用することで、硬化性組成物を高伸び化したり、制振性を付与する技術が開示されているが、反応性ケイ素基を有する重合体は加水分解縮合反応によって硬化されており、活性エネルギー線で硬化するものではない。また主鎖が(メタ)アクリル系重合体であり、ポリイソブチレン系とは異なる。特許文献4および5は、ポリイソブチレン系重合体を含有する活性エネルギー線硬化型の硬化性組成物に関する技術とは技術分野が異なり、ポリイソブチレン系重合体を含有する活性エネルギー線硬化型の硬化性組成物については独自の検討が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2013/047314号公報
【文献】特開2013-216782号公報
【文献】特開2011-178955号公報
【文献】特開2011-236363号公報
【文献】特開2011-236364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、ポリイソブチレン系重合体は、柔軟性、ガスバリア性、制振性に優れた材料として知られているが、例えば、更なる柔軟性を得るために可塑剤成分を配合した場合、ガスバリア性やゲル含有量、硬化物の破断強度が低下したり、長期の使用において可塑剤成分がブリードアウトする等の様々な課題が見られる場合があった。従って、これらの諸物性を損なうことなく、改良するための技術が求められていた。
【0010】
また、ポリイソブチレン系重合体は、各種シール材等のベースポリマーとして好適に使用されるが、物性を長期にわたり維持するためには、シール部位等の変形に対して応力を緩和しながらゆっくりと追従することが好ましい。なぜなら、急激な変形をもたらす高モジュラスな硬化物では、変形に際してシール剤の材料破壊が起こる場合があり、シール性の維持が困難になるからである。
【0011】
従って、シール材として使用するに当たっては、変形に追従する為に十分に柔軟であることが求められるが、上述したように、ゴム材料の柔軟性と他の物性を両立させることは困難であった。このように、シール性能を長期間にわたり維持できるような、柔軟性の高いゴム材料に関する技術が求められていた。
【0012】
上記の背景から、ゴム材料として様々な特色を兼ね備える硬化性組成物に関する配合技術の開発には、更なる改善の余地があった。
【0013】
本発明の課題は、柔軟性、強度、ガスバリア性、制振性に優れ、配合剤成分のブリードアウトが無く、変形への追従性に優れる硬化性組成物を提供することである。より好ましくは、本発明は、強度の低下を抑制しながら、柔軟性が付与でき、ガスバリア性を維持しながら、配合剤成分のブリードアウトが無く、変形への追従性に優れる硬化性組成物を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、一分子中に1.2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリイソブチレン系重合体(A)100重量部に対し、一分子中に0.5~1.0個の(メタ)アクリロイル基を有するポリイソブチレン系重合体(B)を15~900重量部、前記重合体(A)および前記重合体(B)の重量の合計100重量部に対し、重合開始剤(C)を0.001~50重量部含有することを特徴とする硬化性組成物であって、前記重合体(A)および重合体(B)の分子量が、サイズ排除クロマトグラフィー法によって測定したポリスチレン換算数平均分子量でいずれも500~500,000であって、かつ、分子量分布(重量平均分子量Mw)/(数平均分子量Mn)で表される値)がいずれも1.0~2.0であることを特徴とする硬化性組成物により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、本明細書において、「一分子中」とは、「一分子当たり」、「一分子中平均して」という意味である。
【0015】
すなわち本発明は、
(1)重合体(A)100重量部に対し、重合体(B)を15~900重量部、前記重合体(A)および前記重合体(B)の重量の合計100重量部に対し、重合開始剤(C)を0.001~50重量部含有することを特徴とする硬化性組成物であって、前記重合体(A)および前記重合体(B)の分子量が、サイズ排除クロマトグラフィー法によって測定したポリスチレン換算数平均分子量でいずれも500~500,000であって、かつ、分子量分布(重量平均分子量Mw)/(数平均分子量Mn)がいずれも1.0~2.0であることを特徴とする硬化性組成物に関する。
【0016】
(2)前記重合体(A)が、ポリマー鎖の末端に(メタ)アクリロイル基を有することを特徴とする硬化性組成物に関する。
【0017】
(3)前記重合体(B)が、ポリマー鎖の一つの末端に(メタ)アクリロイル基を有することを特徴とする硬化性組成物に関する。
【0018】
(4)前記重合体(A)が、下記一般式(1)の重合体を含み、前記重合体(B)が、下記一般式(2)の重合体を含むことを特徴とする硬化性組成物に関する。
【0019】
【化1】
【0020】
(R1は、2価以上の芳香族炭化水素基、または脂肪族炭化水素基を表す。Aはポリイソブチレン系重合体を表す。R2は炭素数2~6の2価の飽和炭化水素基であって、ヘテロ原子を含有しない基を表す。R3、R4はそれぞれ水素、炭素数1~20の1価の炭化水素基、またはアルコキシ基を表す。R5は水素、またはメチル基を表す。nは2以上の整数を表す。)
【0021】
【化2】
【0022】
(R6は、一価の芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基を表す。Aは、ポリイソブチレン系重合体を表す。R2は、炭素数2~6の2価の飽和炭化水素基であって、ヘテロ原子を有しない基を表す。R3、R4は、それぞれ水素または炭素数1~20の1価の炭化水素基またはアルコキシ基を表す。R5は、水素またはメチル基を表す。)
(5)前記重合体(A)のR2が、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、からなる群から選ばれる2価の飽和炭化水素基であることを特徴とする硬化性組成物に関する。
【0023】
(6)前記重合体(B)のR2が、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、からなる群から選ばれる2価の飽和炭化水素基であることを特徴とする硬化性組成物に関する。
【0024】
(7)前記重合体(A)および重合体(B)のR3およびR4が水素であることを特徴とする硬化性組成物に関する。
【0025】
(8)前記重合体(A)のnが2であることを特徴とする硬化性組成物に関する。
【0026】
(9)前記重合開始剤(C)が、ラジカル重合開始剤またはアニオン重合開始剤であることを特徴とする硬化性組成物に関する。
(10)前記重合開始剤(C)が、光によりラジカル種を発生させうる光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする硬化性組成物に関する。
(11)前記硬化性組成物を、活性エネルギー線によってラジカル硬化させて得られる硬化物に関する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の硬化性組成物によれば、柔軟性、強度、ガスバリア性、制振性に優れ、配合剤成分のブリードアウトが無く、変形への追従性に優れる硬化性組成物を得ることができる。好ましくは、強度の低下を抑制しながら、柔軟性が付与でき、ガスバリア性を維持しながら、配合剤成分のブリードアウトが無く、変形への追従性に優れる硬化性組成物を強度の低下を抑制しながら得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、一分子中に1.2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリイソブチレン系重合体(A)(以下、「重合体(A)」と称する場合がある)100重量部に対し、一分子中に0.5~1.0個の(メタ)アクリロイル基を有するポリイソブチレン系重合体(B)(以下、「重合体(B)」と称する場合がある)を15~900重量部、前記重合体(A)および前記重合体(B)の重量の合計100重量部に対し、重合開始剤(C)を0.001~50重量部含有することを特徴とする硬化性組成物であって、前記重合体(A)および前記重合体(B)の分子量が、サイズ排除クロマトグラフィー法によって測定したポリスチレン換算数平均分子量でいずれも500~500,000であって、かつ、分子量分布(重量平均分子量Mw)/(数平均分子量Mn)がいずれも1.0~2.0であることを特徴とする硬化性組成物である。
【0029】
本発明の重合体(A)は、本発明の組成物を硬化させて得られる硬化物に架橋点を提供し、ゴム弾性を付与するために必須の成分である。
【0030】
本発明の重合体(A)における(メタ)アクリロイル基の位置としては特に制限は無く、ポリマー末端に有していてもよいし、ポリマー鎖中の任意の位置に有していてもよいが、構造が明確な重合体が得られ、硬化物の物性を調整しやすいという観点から、ポリマー末端に(メタ)アクリロイル基を有していることが好ましい。
【0031】
本発明の重合体(A)における一分子当たりの(メタ)アクリロイル基の数は、1.2個以上であれば特に制限は無いが、得られる硬化物の物性や、速硬化性、生産性の観点から、1.5個以上が好ましく、1.7個以上がより好ましい。重合体(A)における一分子当たりの(メタ)アクリロイル基の数の上限は、重合開始剤の入手のしやすさを踏まえると、例えば5.0個以下であり、4.0個以下が好ましく、3.0個以下であることがより好ましく、2.5個以下であることがさらに好ましく、2.0個以下であることが特に好ましい。
【0032】
本発明の重合体(A)の構造には特に制限は無いが、原料の入手性、生産のしやすさ、経済性、および得られる硬化物の物性の観点から、好ましくは、次の一般式(1)および(3)~(6)で示される重合体からなる群より選択される一種以上を含み、より好ましくは一般式(1)で示される重合体を含む。
【0033】
【化3】
【0034】
(R1は、2価以上の芳香族炭化水素基、または脂肪族炭化水素基を表す。Aはポリイソブチレン系重合体を表す。R2は炭素数2~6の2価の飽和炭化水素基であって、ヘテロ原子を含有しない基を表す。R3、R4はそれぞれ水素、炭素数1~20の1価の炭化水素基、またはアルコキシ基を表す。R5は水素、またはメチル基を表す。R7は単結合又は炭素数1~20の2価の飽和炭化水素基を表す。Xはハロゲン原子を表す。nは2以上の整数を表す。)
【0035】
本発明の重合体(B)は、本発明の硬化物において所謂ダングリング鎖として存在し、種々の特徴的な物性を発現させるために必須の成分である。これにより、ゴム物性やガスバリア性を損なうことなく、制振性、耐熱性、変形への追従性を硬化物に付与できるようになるのである。
【0036】
本発明の重合体(B)における(メタ)アクリロイル基の位置としては特に制限は無く、ポリマー末端に有していてもよいし、ポリマー鎖中の任意の位置に有していてもよいが、構造が明確な重合体が得られ、硬化物の物性を調整しやすいという観点から、ポリマーの一つの末端に(メタ)アクリロイル基を有していることが好ましい。
【0037】
本発明の重合体(B)における一分子当たりの(メタ)アクリロイル基の数は、0.5~1.0個の範囲であれば特に制限は無いが、得られる硬化物の物性の観点から、0.7~1.0個の範囲にあることが好ましく、0.8~1.0個の範囲にあることが更に好ましい。
【0038】
本発明の重合体(B)の構造としては、特に制限は無いが、原料の入手性、生産のしやすさ、経済性、および得られる硬化物の物性の観点から、好ましくは、次の一般式(2)および(7)~(10)で示される重合体からなる群より選択される一種以上を含み、より好ましくは一般式(2)で示される重合体を含む。
【0039】
【化4】

【0040】
(R6は、一価の芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基を表す。Aは、ポリイソブチレン系重合体を表す。R2は、炭素数2~6の2価の飽和炭化水素基であって、ヘテロ原子を有しない基を表す。R3、R4は、それぞれ水素または炭素数1~20の1価の炭化水素基またはアルコキシ基を表す。R5は、水素またはメチル基を表す。R7は単結合又は炭素数1~20の2価の飽和炭化水素基を表す。Xはハロゲン原子を表す。)
【0041】
本発明の硬化性組成物においては、重合体(A)100重量部に対し、重合体(B)は15~900重量部使用する。15重量部未満の場合、柔軟性、制振性、変形への追従性が十分でない場合があるため好ましくない。また、900重量部よりも多い場合、硬化物の強度が不足したり、硬化物表面のタックが増大し、取り扱いが困難になる場合があるために好ましくない。
【0042】
特に、電気・電子部品、レジスト材、医薬・医療用品のシール材・コーティング材・接着剤・封止材・成形部品、電解コンデンサ用シール材、現場成形ガスケット等の用途において本発明の硬化性組成物を使用する場合、重合体(A)100重量部に対して、重合体(B)が15~900重量部が好ましく、20~700重量部がより好ましく、25~500重量部が更に好ましく、25~300重量部用いることがよりさらに好ましく、25~150重量部用いることが特に好ましく、25~150重量部用いることが特に好ましい。この重量比で使用することにより、硬化物はゴム材料としての強度に優れ、且つ、柔軟性、ガスバリア性、耐熱性、制振性、変形への追従性にも優れる硬化性組成物が得られる。
【0043】
また、防振・制振材、複層ガラス用シール材、電線・ケーブル・光ファイバー類の被覆材・シール材、ローラ、シート、シール材、接着剤、粘着剤、成形体、塗料、インク、発泡体、タイヤ用原料等、比較的大きな変形に追従する必要がある用途においては、重合体(A)100重量部に対して、重合体(B)は15~900重量部が好ましく、30~900重量部用いることがより好ましく、40~800重量部用いることが更に好ましく、40~500重量部用いることがよりさらに好ましく、80~400重量部用いることが特に好ましく、150~300重量部用いることが特に好ましい。この重量比で使用することにより、硬化物はゴム材料としての柔軟性に優れ、且つ、ゴム材料としての強度、ガスバリア性、耐熱性、制振性、変形への追従性にも優れる硬化性組成物が得られる。
【0044】
本発明の重合体(A)および重合体(B)中のポリイソブチレン主鎖を構成するモノマー、例えば一般式(1)及び一般式(2)において記号Aで表されるポリイソブチレン系重合体を構成するモノマーとしてはイソブチレンを主として用いる他には、本発明の効果を損なわない範囲であれば他のカチオン重合性モノマーを共重合してもよい。
【0045】
そのような他のカチオン重合性モノマーとしては例えば炭素数4~12のオレフィン(ただし、イソブチレンを除く)、ビニルエーテル、芳香族ビニル化合物、ビニルシラン類、アリルシラン類などがあげられる。具体的には、イソプレン、アミレン、1,3-ブタジエン、1-ブテン、2-ブテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、ヘキセン、ビニルシクロヘキセン、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、スチレン、インデン、α-メチルスチレン、メトキシスチレン、メチルスチレン(o-体、m-体、p-体を含む)、トリメチルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ジビニルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジメチルシラン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、トリビニルメチルシラン、テトラビニルシラン、アリルトリクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、アリルジメチルクロロシラン、アリルジメチルメトキシシラン、アリルトリメチルシラン、ジアリルジクロロシラン、ジアリルジメトキシシラン、ジアリルジメチルシラン等を挙げることができる。
【0046】
これらの中でも、イソプレン、アミレン、1,3-ブタジエン、1-ブテン、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、スチレン、インデン、α-メチルスチレン、メチルスチレン(o-体、m-体、p-体を含む)、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルが共重合性の観点から好ましい。
【0047】
イソブチレンと共重合が可能な他のモノマーを使用する場合は、本発明の効果を維持する観点から、イソブチレン系重合体中の好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、更に好ましくは10重量%以下の範囲で該他のモノマーを含有してもよい。なお、重合体(A)(特に一般式(1))及び重合体(B)(特に一般式(2))において、ポリイソブチレン系重合体(特に式中の記号A)は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0048】
上記一般式(1)におけるR1は、2価以上の芳香族炭化水素基、または脂肪族炭化水素基を表す。芳香族炭化水素系基の具体例としては、m-ジクミル基、p-ジクミル基、5-tert-ブチル-1,3-ジクミル基、5-メチル-1,3-ジクミル基、1,3,5-トリクミル基等の、ベンジル位に遊離原子価(結合手ともいう。以下、同様)を有する二価以上のアルキル置換ベンゼンが挙げられる(下式参照。下式において*は結合手を示す。)。一方、脂肪族炭化水素系基の具体例としては、-(CH32CCH2(CH32C-、-(CH32CCH2(CH32CCH2(CH32C-で表される基などの、炭素数が4~20程度であって3級炭素上に遊離原子価を有する2価以上のアルキレン基が好ましい。
【化5】
【0049】
これらの中でも特に、m-ジクミル基、p-ジクミル基、1,3,5-トリクミル基が原料の入手性や、反応性の観点から好ましく、p-ジクミル基であることがより好ましい。
【0050】
本発明の重合体(B)は、好ましくは、上記一般式(2)で示される重合体である。
【0051】
上記一般式(2)におけるR6は、1価の芳香族炭化水素基、または脂肪族炭化水素基を表す。芳香族炭化水素系基の具体例としては、クミル基(1-メチル-1-フェニルエチル基ともいう)、4-tert-ブチル-クミル基、4-メチル-クミル基、4-メトキシ-クミル基、1-フェニルエチル基(CH3-CH(Ph)-で表される基)などの、アルキルのα位に遊離原子価を有する1価のアルキル置換ベンゼンが挙げられる。一方、脂肪族炭化水素基の具体例としては、tert-ブチル基、CH3-C(CH32-CH2-C(CH32-基等の、炭素数が4~20程度であって3級炭素上に遊離原子価を有するアルキル基が好ましい。
【0052】
これらの中でも特に、クミル基が原料の入手性および反応性の観点から好ましい。
【0053】
上記一般式(1)および(2)におけるR2は、炭素数2~6の2価の飽和炭化水素基であって、ヘテロ原子を含有しない基である。具体例としては、例えば、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2CH2CH2-などが挙げられる。この中でも、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2CH2-が原料の入手性および反応性の観点から好ましく、-CH2CH2CH2-がより好ましい。
なお一般式(1)および一般式(2)においてR2は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよいが、好ましくは同一である。
【0054】
上記一般式(1)および(2)におけるR3、R4はそれぞれ水素、炭素数1~20の1価の炭化水素基、またはアルコキシ基である。炭素数1~20の1価の炭化水素基、またはアルコキシ基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。
なお、一般式(1)および一般式(2)においてR3及びR4は、それぞれ互いに同一であってもよく、異なっていてもよいが、好ましくはそれぞれ同一である。
【0055】
この中でも、反応性の点からは水素またはメチル基が好ましく、原料の入手性も考慮に入れると、水素が更に好ましい。
【0056】
上記一般式(1)および(2)におけるR5は水素またはメチル基を表す。R5が水素の場合は、末端官能基はアクリロイル基となり、R5がメチル基の場合は、末端官能基はメタクリロイル基となる。なお、一般式(1)および一般式(2)においてR5は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよいが、好ましくは同一である。
【0057】
本発明の硬化性組成物に配合される他の配合剤との組合せに応じて、アクリロイル基か、またはメタクリロイル基は任意に選択することができる。例えば、本発明の硬化性組成物を低粘度化したり、硬化物の物性を調整するためにアクリル酸エステル系モノマーを添加するときは、上記一般式(1)および(2)におけるR5として水素を選ぶと、各成分の反応性が等しくなり、均一な組成を有する硬化物が得られるため好ましい。
【0058】
一方、耐熱性などの硬化物物性を向上させる目的でメタクリル酸エステル系モノマーを添加する時には、上記一般式(1)および(2)におけるR5としてメチル基を選ぶことが、同様な理由から好ましい。
【0059】
ただし、これらの組合せは任意であるため、特定の目的を達するために本発明の各成分が異なる反応性をもつことが好ましい場合は上記の限りではない。すなわち、上記一般式(1)のR5として水素を選びつつ、上記一般式(2)のR5としてメチル基を選ぶこともでき、またその逆の組合せでもよい。
【0060】
上記一般式(1)におけるnは2以上の整数である。硬化物の優れたゴム物性、耐久性、ゲル分率、速硬化性、生産性などの観点から、nは2または3であることが好ましく、原料の入手性の観点も踏まえると、nは2であることが更に好ましい。
【0061】
本発明の重合体(A)および重合体(B)の分子量は特に制限は無いが、流動性、硬化物の物性などの観点から、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算数平均分子量として、500~500,000である。500~200,000であることが好ましく、1,000~100,000であることが更に好ましく、3,000~50,000であることが特に好ましく、5,000~30,000であることが最も好ましい。
重合体(A)の数平均分子量Mn(A)および重合体(B)の数平均分子量Mn(B)は、共に近い値であってもよく、例えば、Mn(A)とMn(B)の差の絶対値は、20,000以下であってもよく、15,000以下であってもよく、10,000以下であってもよく、8,000以下であってもよく、5,000以下であってもよい。またMn(A)とMn(B)は、いずれも20,000以下であってよく、15,000以下であってもよい。
【0062】
Mn(A)とMn(B)は、Mn(A)<Mn(B)、Mn(A)=Mn(B)、Mn(A)>Mn(B)のいずれの関係であってもよいが、柔軟性、制振性、復元性などを高める観点から、Mn(A)<Mn(B)またはMn(A)=Mn(B)であることが好ましく、ガスバリア性や破断時強度を維持しながら柔軟性が必要とされる場合は、Mn(A)>Mn(B)またはMn(A)=Mn(B)が好ましい。
【0063】
500未満の分子量では、ポリイソブチレンに特徴的な物性が発現しにくくなる場合がある為に好ましくない。逆に、500,000超の分子量では、流動性、加工性に欠け、取り扱いにくくなる場合があるために好ましくない。
【0064】
本発明の重合体(A)および重合体(B)の分子量分布(SEC測定によるポリスチレン換算の数平均分子量Mnと重量平均分子量Mwの値を用いて、(重量平均分子量Mw)/(数平均分子量Mn)で表される値)は、加工安定性や取り扱いやすさの観点から、1.0~2.0の範囲にあり、1.0~1.8の範囲にあることが好ましく、1.0~1.5の範囲にあることがさらに好ましい。
また重合体(A)の分子量分布をPDIA、重合体(B)の分子量分布をPDIBとすると、PDIA<PDIB、PDIA=PDIB、PDIA>PDIBのいずれであってもよいが、硬化性組成物の粘度や取り扱い性、製造のしやすさの観点から、PDIA<PDIBかまたはPDIA>PDIBであるのが好ましく、PDIA<PDIBであるのがより好ましい。また、PDIAとPDIBの差の絶対値は、例えば、0以上0.5以下が好ましく、より好ましくは0以上0.4以下である。
【0065】
本発明の重合体(A)を製造する方法としては、特に制限は無いが、具体例として下記の製法が挙げられる。
【0066】
(i)一分子中に2つ以上の反応性基を有する重合開始剤、所謂、多官能開始剤を用いてポリイソブチレン系重合体を重合し、そのポリマー末端を(メタ)アクリロイル基と結合させる方法。
【0067】
(ii)(メタ)アクリロイル基を有する重合開始剤を用いてポリイソブチレン系重合体を重合し、その後ジビニルベンゼンなどの多ビニル系化合物等を用いてポリマー鎖同士を結合させる方法。
【0068】
(iii)一分子中に(メタ)アクリロイル基と重合性官能基をそれぞれ有する単量体とイソブチレンとを共重合させる方法。
【0069】
これら(i)~(iii)に示す方法はいずれも簡便で、好適に実施しうるものであるが、原料が入手しやすく、明確なポリマー構造を有する樹脂が簡便に得られ、工業的にも実施しやすい点で、(i)の方法が好ましい。
【0070】
また、本発明の重合体(B)を製造する方法としては、特に制限は無いが、具体例として下記の製法が挙げられる。
【0071】
(i)一分子中に反応性基を1つのみ有する重合開始剤、所謂、単官能開始剤を用いてポリイソブチレン系重合体を重合し、そのポリマー末端を(メタ)アクリロイル基と結合させる方法。
【0072】
(ii)(メタ)アクリロイル基を有する重合開始剤を用いてポリイソブチレン系重合体を重合する方法。
【0073】
(iii)一分子中に(メタ)アクリロイル基と重合性官能基をそれぞれ有する単量体とイソブチレンとを共重合させる方法。
【0074】
上記の方法はいずれも簡便で、好適に実施しうるものであるが、原料が入手しやすく、明確なポリマー構造を有する樹脂が簡便に得られ、工業的にも実施しやすい点で、(i)の方法が好ましい。
【0075】
本発明の重合体(A)および重合体(B)の製造方法としては、同一出願人による特許文献WO2013/047314号公報に記載の製造方法を参照することができる。
【0076】
具体的には、一官能性および多官能性重合開始剤を用い、TiCl4等のルイス酸触媒および、含窒素化合物等の電子供与体成分の共存下に、イソブチレンのリビングカチオン重合によってポリイソブチレン系重合体の骨格を製造し、その後、重合体の末端を(メタ)アクリル酸フェノキシアルキル系化合物等を用いて官能化する方法が、原料の入手性や生産性の観点から、工業的にも好適に使用できる。
【0077】
後述する実施例では、得られる重合体に関する情報を明らかにする為に、重合体(A)と重合体(B)は別々に製造し、単離し、組成物を製造する際に混合する例を開示している。
【0078】
しかしながら、工業的に製造する際には、必ずしも同様の方法である必要はない。すなわち、重合体(A)を製造するための多官能開始剤と、重合体(B)を製造するための単官能開始剤を混合して用い、一つの反応容器内で同時に反応させて製造してもよい。工業的な生産においては、この方法が生産性、経済性の観点から好ましい。
【0079】
重合体の末端に(メタ)アクリロイル基を導入するための(メタ)アクリル酸フェノキシアルキル系化合物としては、原料の入手性の観点から、(メタ)アクリル酸2-フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸3-フェノキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-フェノキシブチル、(メタ)アクリル酸5-フェノキシペンチル、(メタ)アクリル酸6-フェノキシヘキシル等が好適に使用できる。
【0080】
これらの中でも特に、(メタ)アクリル酸2-フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸3-フェノキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-フェノキシブチルが反応性の観点からもより好ましく、(メタ)アクリル酸3-フェノキシプロピルまたは(メタ)アクリル酸4-フェノキシブチルであることがさらに好ましく、アクリル酸3-フェノキシプロピル(アクリル酸フェノキシプロピル)またはアクリル酸4-フェノキシブチル(アクリル酸フェノキシブチル)であることが特に好ましい。
【0081】
本発明の硬化性組成物は、重合体(A)および重合体(B)の他に、重合開始剤(C)を含有する。前記重合体(A)および前記重合体(B)の重量の合計100重量部に対し、重合開始剤(C)を0.001~50重量部含有し、0.001~20重量部が好ましく、0.05~10重量部がより好ましく、0.1~5重量部が特に好ましく、0.3~3重量部が最も好ましい。
【0082】
重合開始剤(C)としては、重合体(A)および重合体(B)の(メタ)アクリロイル基を重合させうるものであれば特に制限は無く、ラジカル重合開始剤やアニオン重合開始剤が好適に使用できる。
【0083】
ラジカル重合開始剤としては、光または熱によりラジカル種が発生する化合物が好適に使用できる。
【0084】
光によりラジカル種を発生する化合物(以下、単に光ラジカル重合開始剤とも言う)としては、特に制限は無く、同一出願人によるWO2013/047314号公報や、特開2013-216782号公報に記載のあるものを好適に使用することができる。
【0085】
中でも、ヒドロキシル基およびフェニルケトン構造を有する化合物、ベンゾフェノン構造を有する化合物、ならびに、アシルホスフィンオキシド構造を有する化合物が好ましく、具体的には、ベンゾフェノン、3-メトキシベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、4-クロロ-4’-ベンジルンゾフェノン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドが好ましい。
【0086】
これらの中でも、硬化性と貯蔵安定性が良好であるという点でベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オンが特に好ましい。
【0087】
これらの開始剤は単独で使用しても良く、これらの群から選ばれる2種以上の化合物を組合せて使用しても良い。更には、上記の化合物と他の化合物とを組み合わせても良い。具体的には、ジエタノールメチルアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミンとの組み合わせ、さらにこれにジフェニルヨードニウムクロリドなどのヨードニウム塩と組み合わせたもの、メチレンブルーなどの色素及びアミンと組み合わせたものが挙げられる。
【0088】
光ラジカル重合開始剤は、アルキルフェノン構造を有する化合物又はアシルホスフィンオキシド構造を有する化合物を含むことが好ましく、アルキルフェノン構造を有する化合物とアシルホスフィンオキシド構造を有する化合物とを含むことがより好ましい。アルキルフェノン構造を有する化合物は、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オンからなる群より選択される一種以上であることが好ましく、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オンであることがより好ましい。アシルホスフィンオキシド構造を有する化合物は、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシドからなる群より選択される一種以上であることが好ましく、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシドであることがより好ましい。
【0089】
前記光ラジカル重合開始剤を使用する場合、必要に応じて、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ベンゾキノン、p-tert-ブチルカテコール等の重合禁止剤類を添加することもできる。これらを共存させることにより、硬化性組成物の意図しない硬化を防ぎ、取り扱いやすくする効果が期待できる。
【0090】
光ラジカル重合開始剤の添加量は特に制限はないが、重合体(A)および重合体(B)の重量の合計100重量部に対して、0.001~50重量部であることが好ましく、0.001~20重量部がより好ましく、0.05~10重量部がさらに好ましく、0.1~5重量部が特に好ましく、0.3~3重量部が最も好ましい。光ラジカル重合開始剤の添加量が0.001重量部未満の場合、十分な硬化性が得られない場合がある。一方、50重量部超の場合、光が深部まで透過できず硬化物底面に未硬化層が発生し、厚膜硬化性が悪くなったり、硬化物の耐熱性が低下する場合がある。
【0091】
本発明の硬化性組成物を硬化させる方法は特に限定されないが、用いる光ラジカル重合開始剤の性質に応じて、高圧水銀灯、低圧水銀灯、電子線照射装置、ハロゲンランプ、発光ダイオード、半導体レーザー等による光及び電子線の照射が挙げられる。
【0092】
熱によりラジカル種を発生する化合物(以下、単に熱ラジカル重合開始剤とも言う)としては、特に制限は無いが、アゾ系開始剤、過酸化物開始剤、過硫酸塩開始剤、及びレドックス開始剤が含まれる。
【0093】
適切なアゾ系開始剤としては、限定されるわけではないが、2,2′-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(VAZO 33)、2,2′-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩(VAZO 50)、2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(VAZO 52)、2,2′-アゾビス(イソブチロニトリル)(VAZO 64)、2,2′-アゾビス-2-メチルブチロニトリル(VAZO 67)、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(VAZO 88)(全てDuPont Chemicalから入手可能)、2,2′-アゾビス(2-シクロプロピルプロピオニトリル)、及び2,2′-アゾビス(メチルイソブチレ-ト)(V-601)(和光純薬より入手可能)等が挙げられる。
【0094】
適切な過酸化物開始剤としては、限定されるわけではないが、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化デカノイル、過酸化ジクミル、ジセチルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(Perkadox16S)(Akzo Nobelから入手可能)、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシピバレート(Lupersol 11)(Elf Atochemから入手可能)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(Trigonox21-C50)(Akzo Nobelから入手可能)等一般的な市販品が挙げられる。
【0095】
適切な過硫酸塩開始剤としては、限定されるわけではないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウムが挙げられる。
【0096】
適切なレドックス(酸化還元)開始剤としては、限定されるわけではないが、上記過硫酸塩開始剤のメタ亜硫酸水素ナトリウム及び亜硫酸水素ナトリウムのような還元剤との組み合わせ;有機過酸化物と第3級アミンに基づく系、例えば過酸化ベンゾイルとジメチルアニリンに基づく系;並びに有機ヒドロパーオキシドと遷移金属に基づく系、例えばクメンヒドロパーオキシドとコバルトナフテートに基づく系等が挙げられる。
【0097】
他の開始剤としては、限定されるわけではないが、テトラフェニル1,1,2,2-エタンジオールのようなピナコール等が挙げられる。
【0098】
好ましい熱ラジカル重合開始剤としては、アゾ系開始剤及び過酸化物開始剤からなる群から選ばれる。更に好ましいものは、2,2′-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2′-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、t-ブチルパーオキシピバレート、及びジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、ジクミルパーオキシド、過酸化ベンゾイル並びにこれらの混合物である。
【0099】
熱ラジカル重合開始剤の添加量は特に制限はないが、重合体(A)および重合体(B)の重量の合計100重量部に対して、0.001~50重量部であり、0.001~20重量部が好ましく、0.05~10重量部がより好ましく、0.1~5重量部がさらに好ましく、0.3~3重量部が特に好ましい。
【0100】
熱ラジカル重合開始剤の添加量が0.001重量部未満の場合、十分な硬化性が得られない場合がある。一方、50重量部超の場合、機械物性が不十分であったり、硬化に際して意図しない発泡が生じるといった不具合が生じる場合がある。
【0101】
本発明の硬化性組成物を硬化させる温度および時間は特に限定されず、使用する熱ラジカル重合開始剤により異なるが、通常50℃~250℃の範囲内が好ましく、70℃~200℃の範囲内がより好ましい。
【0102】
硬化時間は、使用する熱ラジカル重合開始剤、添加剤、反応温度等により異なるが、通常1分~5時間の範囲内である。
【0103】
光ラジカル重合開始剤および熱ラジカル重合開始剤は、単独で用いてもよいし、各々の硬化を阻害しない範囲であれば混合して用いてもよい。例えば、光硬化性組成物にUV光を照射させて硬化物を得る工程では、光が当たらない部位が未硬化のまま残ることが問題となる場合がある。このような場合に、熱ラジカル重合開始剤を併用すると、組成物を加熱処理することで、未硬化部位も硬化させることができるため好ましい。このように、光ラジカル重合開始剤と熱ラジカル重合開始剤は互いの特徴を補うように使用することができる。
【0104】
また、酸素分子との反応によりラジカル種を発生させる化合物を用いることもできる。そのような化合物としては、トリエチルホウ素などのトリアルキルホウ素化合物が例示できる。一例として、次のような使用方法が提案できる。すなわち、窒素やアルゴン雰囲気下などの、実質的に酸素の影響が無い環境下で硬化性組成物を作成し、酸素を遮断できる容器に封入しておく。使用に際しては、上記の容器から硬化性組成物を取り出して、シール部位や塗工部位に塗布することで、空気中の酸素と反応させて、硬化物を得ることができる。
【0105】
アニオン重合開始剤の例としては、特に制限は無いが、n-ブチルリチウム(s-体、t-体を含む)、Na-ナフタレンやK-ベンゾフェノンなどの混合物、グリニヤ-ル試薬などが挙げられる。
【0106】
本発明の硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、組成物または硬化物の諸物性を調整することを目的として各種添加剤を添加してもよい。
【0107】
このような添加物の例としては、例えば、各種(メタ)アクリル酸エステル系化合物や芳香族ビニル系化合物等の重合性モノマーやオリゴマー、不飽和(メタ)アクリル系化合物やポリ桂皮酸ビニル系化合物等の感光性物質(自然光の作用によって分子構造が化学変化をおこし、硬化などの物性的変化を生ずる化合物)、乾性油やアルキッド樹脂、液状共役ジエン系樹脂等の空気酸化硬化性物質、粘着性付与剤、接着性付与剤、可塑剤、充填材、離型剤、難燃剤、ラジカル重合禁止剤、金属不活性化剤、光安定剤、オゾン劣化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、顔料、発泡剤などが挙げられる。これらの各種添加剤は単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0108】
このような添加物の具体例は、同一出願人によるWO2013/047314号公報や、特開2013-216782号公報の他、例えば、WO2007/069600号公報、特公平4-69659号、特公平7-108928号、特開昭63-254149号、特開昭64-22904号の各明細書などに記載されているものが挙げられる。
【0109】
ところで、本発明の硬化剤組成物によれば、可塑剤を用いなくても、柔軟性と変形への追従性を高めることができるため、可塑剤を低減可能である。可塑剤を低減することで、配合成分のブリードアウトをより高度に抑制できる。可塑剤量は、重合体(A)と重合体(B)の合計100重量部に対して、例えば、200重量部以下、好ましくは100重量部以下、より好ましくは50重量部以下、より更に好ましくは30重量部以下、特に好ましくは10重量部以下であり、0重量部であってもよい。
また重合体(A)と重合体(B)の合計量は、硬化剤組成物100重量%中、例えば、10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、より更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上であり、95重量%以上であってもよい。
【0110】
本発明の硬化性組成物の調製法としては、特に限定されないが、すべての配合成分を1成分型として調製しても良いし、組成物の貯蔵安定性等を考慮して配合成分を分けて配合しておき、使用前に混合する2成分型として調製しても良い。
【0111】
1成分型の場合は、施工の際に混合・混練する手間が不要となり、同時にその際に生じる計量ミス(混合比の間違い)もなくなるため、硬化不良等のミスを防ぐことができる最も好ましい形態である。2成分型の場合は、各配合成分を任意に二液に分割して、該配合成分を使用前に混合する2成分型として調整することもできる。A液とB液の二液への分割方法は、硬化性組成物の混合比、貯蔵安定性、混合方法、ポットライフ等を考慮し、種々の組合せが可能である。
【0112】
また、必要に応じて、A液、B液以外に第三成分を用意して三液型硬化性組成物とすること可能であり、それ以上の分割も必要に応じて調整することが可能である。本発明の組成物の混合法としては、特に限定はなく、例えば上記した成分を配合し、必要であれば遮光して、ハンドミキサー、スタティックミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパー、ロール、ニーダー、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、高剪断型ミキサー等を用いて混練することで製造することができる。混練時の温度としては、常温又は加熱下で混練したり、適した溶剤を少量使用して成分を溶解させ、混合したりするなどの通常の方法が挙げられる。
【0113】
本発明の硬化性組成物をラジカル硬化させて得られる硬化物はゴム状硬化物、樹脂状硬化物またはゲル状硬化物にすることができる。その組成物はハロゲン原子含有量が極めて少ないことが特徴であり、ポリイソブチレン系重合体由来のハロゲン原子含有量を10,000ppm以下とすることができ、好ましくは5,000ppm以下とすることができ、更に好ましくは1,000ppm以下とすることができる。特に上記一般式(1)の重合体を含む上記重合体(A)や上記一般式(2)の重合体を含む前記重合体(B)を製造する場合、ポリマー末端へのアクリロイル基導入反応が高効率で進むことで、重合開始剤が有していたハロゲン原子の残存量が著しく減少する。
(メタ)アクリロイル末端ポリイソブチレン系重合体の合成法として従来公知のものは、塩素末端ポリイソブチレン系重合体から多段階の反応を経て製造するものである。通常、多段階反応においては官能基変換効率や収率が低下する。これに対し、特に上記一般式(1)や一般式(2)で表される重合体は、アクリロイル基導入反応が一段階で達成できるため、高い官能基変換効率および収率を同時に達成できるため好ましい。
【0114】
重合体中のハロゲン原子含有量が少ないことから、得られる硬化物中のハロゲン原子含有量も少なく、ハロゲン原子の含有が忌避される用途に好適に使用できる。
【0115】
本発明の硬化物は硬化物表面の硬化性に優れており、活性エネルギー線によって引き起こされた架橋反応が酸素などによる阻害を受けにくいという優れた特徴がある。従って、本発明の硬化物は、光照射後あるいは加熱硬化後の硬化物表面に未硬化層が発生しにくいという優れた特徴がある。
【0116】
以上に述べた特徴から、本発明の硬化性組成物および硬化物は以下の用途に使用可能である。すなわち、電気・電子部品、医薬・医療用品のシール材・コーティング材・接着剤・封止材・成形部品、電解コンデンサ用シール材、レジスト材、現場成形ガスケット、防振・制振材、複層ガラス用シール材、電線・ケーブル・光ファイバー類の被覆材・シール材、ローラ、シート、シール材、接着剤、粘着剤、成形体、塗料、インク、発泡体、タイヤ用原料等の様々な用途が挙げられる。
【0117】
これら用途の具体例としては、同一出願人によるWO2013/047314号公報や、特開2013-216782号公報の記載を参考にすることができる。
【0118】
本願は、2017年2月22日に出願された日本国特許出願第2017-030566号に基づく優先権の利益を主張するものである。2017年2月22日に出願された日本国特許出願第2017-030566号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例
【0119】
以下、実施例にて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0120】
(分子量測定)
下記実施例中、「数平均分子量」、「重量平均分子量」および「分子量分布(重量平均分子量と数平均分子量の比)」は、サイズ浸透クロマトグラフィー(SEC)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出した。ただし、SECシステムとしてWaters社製LCModule1を、GPCカラム(固定相)としてポリスチレン架橋ゲルを充填したもの(Shodex GPC K-804およびGPC K-802.5;いずれも昭和電工株式会社製)を、移動層としてクロロホルムを用いた。
【0121】
(官能化率Fnの算出)
本発明の重合体(A)の末端に導入された(メタ)アクリロイル基の導入数は次の様にして求めた。まず、上記分子量測定(GPC測定)により求めたポリマーの数平均分子量Mnから、ポリマー1分子に含まれるポリイソブチレン由来のメチル基のプロトン数を求めた。次に1H NMR測定を行い、メチル基のプロトン数を先に求めた数としたときの(メタ)アクリロイル基に由来するビニルプロトンのピーク積分値から、ポリマー一分子中の(メタ)アクリロイル基の導入数を求めた。
【0122】
重合体(B)に導入された(メタ)アクリロイル基の導入数は、次のようにして求めた。すなわち、1H NMR測定により、使用した開始剤(下記製造例2では、クミルクロリド)由来のプロトンの積分値に対する(メタ)アクリロイル基に由来するビニルプロトンのピーク積分値から、ポリマー一分子中の(メタ)アクリロイル基の導入数を求めた。
【0123】
(引張物性の評価)
硬化性組成物を2mm厚みまたは0.5mm厚みになるようにポリエチレンシート上に塗布し、UV照射装置(フュージョンUVシステムズジャパン社製、型式:LH6)を用いて、20秒間UV光を照射(照射条件:照度500mW/cm2、光量2000mJ/cm2)することにより、各シート状硬化物を得た。
【0124】
JIS K-6251に準拠し、試験片として、シートから7号ダンベル形状のサンプルを打抜いて得た。200mm/分の引張速度の条件下に引張試験を行い、モジュラス、引張強度、破断伸びを評価した。
【0125】
(硬度)
JIS K-6352に従い、2mm厚のシートを3枚重ねて測定した。
【0126】
(ゲル分率)
実施例および比較例で得られた硬化物をW1(g)程度はかりとり、トルエン(W1の約200倍の重量を使用した)に浸して70℃で48時間静置した。その後、室温まで冷却してから、沈殿物をろ過により回収し、80℃減圧下で24時間乾燥させた。こうして得られた固形分の重量W2(g)を測定し、次の計算式によりゲル分率を求めた。
計算式:ゲル分率(%)=W2/W1x100
【0127】
(酸素透過係数の測定)
JIS K-7126に準拠し、0.5mm厚みのシート状硬化物を用いて、差圧法により酸素透過係数を測定し、ガスバリア性の指標とした。なお、測定に際しては、ガス透過率測定装置GTR-100GW/30X(GTRテック株式会社製)を用いた。
【0128】
(耐熱性:ブリードアウトの有無)
下記実施例および比較例で得た硬化物を150℃で3日間養生した後、室温に戻した。スパチュラを用いて硬化物表面を掻き取り、スパチュラに液状成分の付着が認められるか否かを調べることにより、硬化物からのブリードアウトの有無を確認した。ブリードアウトの無い場合は硬化物が耐熱性に優れることを示しており、逆に、ブリードアウトが認められる場合は、硬化物が耐熱性に劣ることを示している。
【0129】
(制振性)
JIS K-6394に従い、剪断モード、周波数10Hz、歪み0.05%にて、-70℃~270℃の範囲で4℃/分で昇温しながら、動的粘弾性の測定を行った。20℃におけるtanδの数値を制振性の指標とした。
【0130】
(復元性)
0.5mm厚みのシート状硬化物から4cmx1cmの試験片を切り出し、試験片の長さが4cmから8cmになるまで伸張させた後、歪みを開放して、元の長さ(4cm)まで戻るのに要する時間を測定した。歪みを開放すると瞬時に復元する場合、変形への追従が不十分と考えられ、硬化性組成物を基材に塗布して用いようとしても、硬化性組成物および硬化物へ余剰の負荷がかかり、硬化物が基材からはがれたり、硬化物が破損したりする場合があるため好ましくない。逆に、歪みを開放した後、元の長さまでゆっくり戻る挙動を示す場合、応力の緩和に優れており、硬化性組成物をシール剤、粘着剤等として好適に使用できる。その為、本試験にて、元の変形に戻る時間が長い方が好ましいとした。
【0131】
(製造例1)アクリル酸フェノキシプロピル(末端官能化剤)の合成
臭化フェノキシプロピル(100g、465mmol)、アクリル酸カリウム(66.6g、604mmol)、N,N-ジメチルアセトアミド(465ml、1mol/L)を室温で混合し、室温で48時間攪拌した。次に、90℃でさらに48時間攪拌した。その後、反応混合物を室温に戻し、純水(1162ml)および塩化ブチル(1162ml)を加え、十分に混合した後、静置させることで有機相と水相を分離させた。分け取った水相を塩化ブチル(325ml)で3回抽出し、先の有機相と合わせた。こうして得られた有機相を純水(1162ml)で7回洗浄した後、有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させた。沈殿物をろ過により分け取り、ろ液を減圧下に留去することで、無色透明液体のアクリル酸フェノキシプロピルを得た(91g、95%)。
【0132】
(製造例2)[重合体(A)の製造]
500mLのセパラブルフラスコの容器内を窒素置換した後、n-ヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)25mL及び塩化ブチル(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)225mLを加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら-70℃まで冷却した。次いで、イソブチレン120mL(1.27mol))、p-ジクミルクロライド1.72g(0.00744mol)及びトリエチルアミン0.24ml(0.0017mol)を加えて反応混合物を作製した。この反応混合物が-73度まで冷却された後で、四塩化チタン1.22mL(0.0112mol)を加えて重合を開始した。重合開始後、ガスクロマトグラフィーで残存イソブチレン濃度を測定して、投入したイソブチレンの99.9%以上が消費された段階で、イソブチレンの重合を終了した。次に、製造例1で合成したアクリル酸フェノキシプロピル4.92g(0.0223mol)と、四塩化チタン6.53mL(0.0595mol)を加え、-75~-80℃で更に3時間攪拌を続けることで、官能化反応を行った。反応終了後、反応混合物を大量のメタノールに注ぐことで触媒を失活させた。メタノール、塩化ブチル、n-ヘキサンを主成分とする溶媒を除去し、粘ちょうな沈殿物を得た。この沈殿物を塩化ブチル650g(固形分濃度10.5%)に溶解させ、粉末活性炭14.5g(フタムラ化学株式会社製、製品名「太閤A」)を加えて、室温で一晩攪拌した。上記活性炭をろ過し、得られたろ液に4-メトキシフェノール0.0152gを加えて、溶媒を減圧下に留去することで、両末端にアクリロイル基を有するポリイソブチレン系重合体(A)(以下、重合体(P-1)という)を得た。重合体(P-1)の数平均分子量Mn(ポリスチレン換算)は11,863、分子量分布Mw/Mnは1.2、一分子当たりのアクリロイル基導入数は1.8であった。
【0133】
(製造例3)[重合体(B)の製造]
1Lのセパラブルフラスコの容器内を窒素置換した後、n-ヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)58mL及び塩化ブチル(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)525mLを加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら-70℃まで冷却した。次いで、イソブチレン200mL(2.12mol)、クミルクロライド1.79g(0.0115mol)及びトリエチルアミン0.32ml(0.0023mol)を加えて反応混合物を作製した。この反応混合物が-73度まで冷却された後で、四塩化チタン1.14mL(0.0104mol)を加えて重合を開始した。重合開始後、ガスクロマトグラフィーで残存イソブチレン濃度を測定して、投入したイソブチレンの99.9%以上が消費された段階で、イソブチレンの重合を終了した。次に、製造例1で合成したアクリル酸フェノキシプロピル3.81g(0.0173mol)と、四塩化チタン5.06mL(0.0462mol)を加え、-75~-80℃で更に3時間攪拌を続けることで、官能化反応を行った。反応終了後、反応混合物を大量のメタノールに注ぐことで触媒を失活させた。メタノール、塩化ブチル、n-ヘキサンを主成分とする溶媒を除去し、粘ちょうな沈殿物を得た。この沈殿物を塩化ブチル1000g(固形分濃度11.7%)に溶解させ、粉末活性炭20g(フタムラ化学株式会社製、製品名「太閤A」)を加えて、室温で一晩攪拌した。上記活性炭をろ過し、得られたろ液に4-メトキシフェノール0.0265gを加えて、溶媒を減圧下に留去することで、片末端にアクリロイル基を有するポリイソブチレン系重合体(B)(以下、重合体(P-2)という)を得た。重合体(P-2)の数平均分子量Mn(ポリスチレン換算)は12,080、分子量分布Mw/Mnは1.5、一分子当たりのアクリロイル基導入数は0.9であった。
【0134】
(製造例4)重合開始剤(C)の作成
DAROCUR1173(チバ・ジャパン製、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン)を20重量部、IRGACURE819(チバ・ジャパン製、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド)を10重量部計り取り、スパチュラで5分間良く混合して、重合開始剤(C)(以下、重合開始剤混合物(R-1)という)を作成した。
【0135】
(実施例1)
重合体(P-1)と重合体(P-2)を表1記載の重量部に計り取ってヘキサンに溶解させ、更に、4-メトキシフェノール(和光純薬社製)を200ppm加え、固形分量が20%となる溶液を得た。次にヘキサンを減圧下に留去することで、重合体(P-1)および重合体(P-2)を含有する樹脂混合物を得た。重合体混合物として上記樹脂混合物、重合開始剤(C)として重合開始剤混合物(R-1)、酸化防止剤としてAO-50(株式会社アデカ製)を表1記載の重量部の通りに加え、スパチュラを使用して5分間混合した後、脱泡して硬化性組成物を得た。その後、この硬化性組成物を0.5mm厚みおよび2mm厚みになるようにポリエチレンシート上に塗布し、UV照射装置(フュージョンUVシステムズジャパン社製、型式:LH6)を用いて、20秒間UV光を照射(照射条件:照度500mW/cm2、光量2000mJ/cm2)することにより、0.5mm厚みおよび2mm厚みのシート状硬化物をそれぞれ得た。硬化物の各種物性は表1に記載した通りであった。
【0136】
(実施例2)
重合体(P-1)と重合体(P-2)とを表1記載の重量部となるように重合体混合物を作成し、また、重合開始剤混合物(R-1)および酸化防止剤を表1記載の重量部の通りに用いたこと以外は実施例1と同様にして、0.5mm厚みおよび2mm厚みのシート状硬化物をそれぞれ得た。硬化物の各種物性は表1に記載した通りであった。
【0137】
(実施例3)
重合体(P-1)と重合体(P-2)とを表1記載の重量部となるように重合体混合物を作成し、また、重合開始剤混合物(R-1)および酸化防止剤を表1記載の重量部の通りに用いたこと以外は実施例1と同様にして、0.5mm厚みおよび2mm厚みのシート状硬化物をそれぞれ得た。硬化物の各種物性は表1に記載した通りであった。
【0138】
(比較例1)
重合体(P-1)、重合開始剤混合物(R-1)、および酸化防止剤を表1記載の重量部の通りに用い、重合体(P-2)を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、0.5mm厚みおよび2mm厚みのシート状硬化物をそれぞれ得た。硬化物の各種物性は表1に記載した通りであった。
【0139】
(比較例2)
重合体(P-1)と重合体(P-2)を表1記載の重量部となるように重合体混合物を作成し、また、重合開始剤混合物(R-1)および酸化防止剤を表1記載の重量部の通りに用いたこと以外は実施例1と同様にして、0.5mm厚みおよび2mm厚みのシート状硬化物をそれぞれ得た。硬化物の各種物性は表1に記載した通りであった。
【0140】
(比較例3)
重合体(P-1)、ポリブテン系可塑剤(出光興産社製、製品名「ポリブテン100R」)、重合開始剤混合物(R-1)、および酸化防止剤を表1記載の重量部の通りに用い、重合体(P-2)を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、0.5mm厚みおよび2mm厚みのシート状硬化物をそれぞれ得た。硬化物の各種物性は表1に記載した通りであった。
【0141】
【表1】
【0142】
実施例1~3で示す硬化物は、比較例1~2の硬化物と比べて、低モジュラスで、低硬度であり、かつ高伸張性であることから、柔軟性に優れた硬化物であることがわかる。
【0143】
柔軟性を発現させるために可塑剤(ポリブテンオイル)を配合した比較例3の結果と実施例2~3の結果を比べると、本実施例の硬化物は、同程度のモジュラスであっても、破断時強度に優れる硬化物であることが分かる。
【0144】
また、比較例3において可塑剤を使用した場合、ガスバリア性が大幅に低下する(酸素透過性が大幅に上昇する)ことがわかる。このことから、従来は、硬化性組成物の柔軟性とガスバリア性を両立させることが困難であったことがわかる。これに対し、実施例1~3の硬化物は、柔軟性を増してもガスバリア性が低下しなかった。このことから、本実施例の硬化性組成物は、柔軟性とガスバリア性を両立できることがわかる。
【0145】
更には、比較例3の硬化物はゲル分率が低いものであった。これは、可塑剤成分が、硬化系に取り込まれないことを示しており、後述するように、ブリードアウトの原因になるものである。
【0146】
次に、可塑剤を配合した比較例3の硬化物は150℃下3日の耐熱養生後にオイル状成分のブリードアウトが認められたのに対し、実施例1~3の硬化物はそのようなブリードアウトは認められず、柔軟性と耐熱性をも両立できることが分かる。
【0147】
次に、20℃におけるtanδの値を比べることにより、本実施例の硬化物は制振性にも優れることがわかる。すなわち、重合体(P-2)を含有しない比較例1および、その含有量が少ない比較例2においては、20℃におけるtanδの値が0.5を下回っており、制振性に劣ることがわかる。一方、実施例1~3で示すように、本発明の硬化物は20℃におけるtanδの値が0.5を上回っており、制振性に優れた硬化物であることがわかる。
【0148】
次に、比較例3の硬化物と、これに近い伸張モジュラスを有する実施例2および3の硬化物を用いて、硬化物の復元挙動を検討した。その結果、比較例3の硬化物は元の形状に回復するのに3秒しか要しないのに対し、実施例2および3の硬化物では7~12秒を要した。このことから、本発明の硬化物は、変形時の応力緩和性や復元性に優れており、変形に対して優れた追従性を示すことがわかる。
【0149】
(実施例4、比較例4~5)
重合体(P-1)、重合体(P-2)、重合開始剤混合物(R-1)、および酸化防止剤を表2記載の重量部の通りに用いたこと以外は実施例1と同様にして、0.5mm厚みおよび2mm厚みのシート状硬化物をそれぞれ得た。硬化物の各種物性は表1に記載した通りであった。
【0150】
【表2】
【0151】
実施例4の結果より、実施例4の硬化性組成物は柔軟性と変形への追従性(復元性)に優れる硬化物であることがわかる。一方、比較例4および5の結果からは、重合体(B)の割合が多くなりすぎると、柔軟性は発現するものの、復元性に課題があることがわかる。具体的には、比較例4および比較例5の硬化性組成物では、歪みの開放後1時間が経過しても、元の寸法に戻らず、永久歪が確認された。すなわち、重合体(B)の割合が多すぎる硬化性組成物は、変形への追従性が悪い。
【0152】
上述した結果から、本発明によれば、柔軟性、強度、ガスバリア性、制振性に優れ、配合剤成分のブリードアウトが無く、変形への追従性に優れる硬化性組成物が提供されることがわかる。