(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】ステビア由来ラムノース合成酵素及び遺伝子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20220203BHJP
C12P 19/56 20060101ALI20220203BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220203BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220203BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220203BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220203BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20220203BHJP
C12N 9/06 20060101ALI20220203BHJP
C12N 9/92 20060101ALI20220203BHJP
A23L 33/20 20160101ALI20220203BHJP
C12P 19/02 20060101ALI20220203BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20220203BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20220203BHJP
C12N 15/61 20060101ALI20220203BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20220203BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220203BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220203BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220203BHJP
C07H 3/02 20060101ALI20220203BHJP
C07H 19/10 20060101ALI20220203BHJP
C07H 15/256 20060101ALI20220203BHJP
C12Q 1/6895 20180101ALN20220203BHJP
A61K 47/42 20170101ALN20220203BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C12P19/56
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A23L33/105
C12N9/06 Z
C12N9/92
A23L33/20
C12P19/02
C12N15/53
C12N15/54
C12N15/61
C12Q1/6813 Z
C12Q1/686 Z
A61K48/00
A61K47/26
C07H3/02 CSP
C07H19/10
C07H15/256
C12Q1/6895 Z
A61K47/42
(21)【出願番号】P 2019512555
(86)(22)【出願日】2018-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2018015256
(87)【国際公開番号】W WO2018190378
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2020-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2017079041
(32)【優先日】2017-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【氏名又は名称】箱田 満
(74)【代理人】
【識別番号】100135943
【氏名又は名称】三橋 規樹
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】小埜 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】落合 美佐
(72)【発明者】
【氏名】岩城 一考
(72)【発明者】
【氏名】平井 正良
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-139309(JP,A)
【文献】国際公開第2005/030975(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - C12N 15/90
C12P 1/00 - C12P 41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(c)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のタンパク質:
(a)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列において、1~33個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質;
(c)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列に対して、95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質。
【請求項2】
前記グルコースがウリジン二リン酸グルコースの形態にある、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
前記ラムノースがウリジン二リン酸ラムノースの形態にある、請求項1又は2に記載のタンパク質。
【請求項4】
以下の(a)~(d)よりなる群より選ばれるポリヌクレオチド。
(a)配列番号1、3、5、7又は9の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列において、1~33個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列に対して、95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記グルコースがウリジン二リン酸グルコースの形態にある、請求項4に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記ラムノースがウリジン二リン酸ラムノースの形態にある、請求項4又は5に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドと発現カセットとを含むベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターが細胞内に導入された形質転換体。
【請求項9】
前記細胞が細菌、微生物又は植物の細胞である、請求項8に記載の形質転換体。
【請求項10】
野生型の細胞の抽出物に比べラムノース又はラムノース基を有するステビオール配糖体の濃度が高い、請求項8又は9に記載の形質転換体の抽出物。
【請求項11】
請求項10に記載の抽出物を含む、甘味料、飲食品又は医薬品。
【請求項12】
以下の(a)~(c)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のタンパク質と、グルコースとを反応させる工程を含む、ラムノースの製造方法
(但し、天然のステビアの原葉中で生じる方法を除く):
(a)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列において、1~33個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質;
(c)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列に対して、95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質。
【請求項13】
前記グルコースがウリジン二リン酸グルコースの形態にある、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ラムノースがウリジン二リン酸ラムノースの形態にある、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
以下の(a)~(c)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のタンパク質と、グルコースとを反応させてラムノースを得る工程と:
(a)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列において、1~33個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質;
(c)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列に対して、95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質
前記ラムノースをステビオール又はステビオール配糖体に転移する工程と、
を含む、ステビオール配糖体の製造方法
(但し、天然のステビアの原葉中で生じる方法を除く)。
【請求項16】
前記ラムノースがウリジン二リン酸ラムノースである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ラムノースをステビオール又はステビオール配糖体に転移する工程が、(i)配列番号11若しくは13の塩基配列を含有するポリヌクレオチド、又は、(ii)配列番号12若しくは14のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、ステビオール配糖体の13位に結合したグルコースに1→2結合でラムノースを付加する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを導入した非ヒト形質転換体を用いて行われる、請求項
15又は16に記載の方法。
【請求項18】
下記の(a)~(e)の少なくとも1つのポリヌクレオチドを導入した非ヒト形質転換体を用いる工程をさらに含む、請求項
15~17のいずれか一項に記載の方法。
(a)(i)配列番号15の塩基配列を含有するポリヌクレオチド、又は、(ii)配列番号16のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、ステビオール配糖体の13位の水酸基にグルコースを付加する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(b)(i)配列番号17の塩基配列を含有するポリヌクレオチド、又は、(ii)配列番号18のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、ステビオール配糖体の19位のカルボン酸にグルコースを付加する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)(i)配列番号19の塩基配列を含有するポリヌクレオチド、又は、(ii)配列番号20のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、ステビオール配糖体の13位のグルコースの3位に1→3結合でグルコースを付加する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(d)(i)配列番号11若しくは13の塩基配列を含有するポリヌクレオチド、又は、(ii)配列番号12若しくは14のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、ステビオール配糖体の19位のグルコースに、1→2結合でグルコースを付加する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(e)(i)配列番号19の塩基配列を含有するポリヌクレオチド、又は、(ii)配列番号20のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、ステビオール配糖体の19位のグルコースに、1→3結合でグルコースを付加する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【請求項19】
ラムノース基を有するステビオール配糖体含有量に応じて植物体をスクリーニングする方法であって、
被検植物体から、以下の(a)~(d)よりなる群より選ばれるポリヌクレオチドを定量する工程、及び前記ポリヌクレオチド量を基準値と比較してポリヌクレオチド量に応じて被験植物体を選別する工程を含む方法。
(a)配列番号1、3、5、7又は9の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列において、1~33個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列に対して、95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質及びこれをコードするポリヌクレオチド、同タンパク質を利用したラムノース及びステビオール配糖体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キク科ステビア(Stevia rebaudiana)の葉にはジテルペノイドの一種であるステビオール(Steviol)とよばれる二次代謝産物が含まれており、ステビオール配糖体は砂糖の約300倍もの甘味を呈することからカロリーレスの甘味料として食品産業に利用されている。肥満が深刻な社会問題として国際的に発展しており、健康増進及び医療費削減の観点からもカロリーレスの甘味料の要望は日々大きくなっている。現在では人工的に合成されたアミノ酸誘導体のアスパルテーム(Aspartame)やアセスルファムカリウム(Acesulfame Potassium)が人工甘味料として利用されているが、ステビオール配糖体のように天然に存在するカロリーレス甘味料はより安全で消費者理解(Public Acceptance)が得られやすいと期待される。
【0003】
ステビアの主要なステビオール配糖体は最終的には4つの糖が付いたレバウディオシドA (Rebaudioside A; RebA)と呼ばれる配糖体にまで糖で修飾される(
図1)。その前駆体であるステビオール3糖配糖体のステビオシド(Stevioside)が量的に最も多く、これら2つがステビアの甘味の中心的な物質である。ステビオシドは、ステビア葉で最も含有量が多く、砂糖の250~300倍程の甘味を呈することが知られている。RebAは、甘味が高く(砂糖の350~450倍)、且つ味質が良いとされるステビオール4糖配糖体であり、これらはカロリーレス甘味料として注目されている。これら以外に反応中間体と思われる配糖体や糖の種類が異なる類縁体の存在が知られている。例えば、RebAの4つの配糖体糖はすべてグルコースであるが、このうち13位のグルコースの2位にグルコースではなくラムノースが付加されたレバウディオシドC(RebC)や、同位置にキシロースが付加されたレバウディオシドF(RebF)が知られている。
【0004】
RebAの生合成に至る酵素遺伝子はステビアのExpressed Sequence Tag(EST)解析を通じて単離されている(非特許文献1及び2、特許文献1)。植物ホルモンであるジテルペノイドのジベレリン(Gibberellin)の前駆体であるエントカウレン酸(ent-kaurenoic acid)の13位がエントカウレン酸13位水酸化酵素(EK13H)によって水酸化されることでステビオールが生成する(
図1)(特許文献1)。ステビオールはまず13位の水酸基がステビアのUDP糖依存的糖転移酵素(
UDP-sugar dependent
glycosyl
transferase: UGT)であるUGT85C2によって配糖体化(グルコシル化)されることでステビオールモノシド(Steviolmonoside)が生成する(非特許文献1,2)。ステビオールモノシドの13位のグルコースの2位が更にグルコシル化されることでステビオールビオシド(Steviolbioside)、あるいはステビオールモノシドの19位のカルボキシル基がグルコシル化されてルブソシド(Rubusoside)と呼ばれるステビオールの二糖配糖体が生じる。ステビオールビオシド、あるいはルブソシドの13位グルコースの2位をグルコシル化する酵素としてはUGT91D2が報告されている(以前はUGT91D-like3と呼ばれていた)(特許文献2)。一方、13位グルコースの3位はUGT76G1によってグルコシル化され、19位のカルボン酸についてはUGT74G1によってそれぞれグルコシル化されることが報告されている(非特許文献2)。このようにRebAまで配糖化を担う酵素遺伝子は同定されており、ステビオール配糖体の生合成酵素群を酵母で異所的に発現させ、培養によりステビオール配糖体を生産させることが報告されており(特許文献3)、ステビア酵素の産業利用が進められている。
【0005】
グルコース以外の配糖体糖を含むステビオール配糖体としてはRebC(ラムノース含有)やRebF(キシロース含有)が知られているが、グルコース以外の糖を付加するUGT酵素は未解明である。さらに、グルコースの以外のUDP-糖の生成についてはシロイヌナズナでUDPラムノース合成酵素が報告されているが(非特許文献3)、ステビアでは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】EP 1 897 951 B1
【文献】WO2013/137487
【文献】WO2014/122328
【非特許文献】
【0007】
【文献】Brandle and Telmer (2007) Phytochemistry 68, 1855-1863
【文献】Richman et al (2005) Plant J. 41, 56-67
【文献】Oka et al (2007) J. Biol. Chem.282, 5389-5403
【文献】Natsume et al (2015) Plant Cell Physiol. 56, 428-441
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、グルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質及びこれをコードするポリヌクレオチドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究を遂行した結果、ステビアにおいてグルコースからラムノースを生成するSrRHM1及びSrRHM2タンパク質のアミノ酸配列と該タンパク質をコードする遺伝子配列を同定することに成功した。本発明は、上記知見に基づくものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の酵素を用いることで、グルコースからラムノースを生成することができる。また、このようにして生成されたラムノースを用いて、ラムノース基を有するステビオール配糖体を生産することができる。また本酵素の働きを促進又は阻害することでステビア植物体の中のステビオール配糖体の種類を制御することができる。さらに本発明の酵素を発現する遺伝子を使って、代謝工学的にラムノース基を有するステビオール配糖体の生産が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ステビオール配糖体群の名称と構造を示す。
図1において「Glc-Glc(β2→1)」は「Glc-Glc」がβ2,1グリコシド結合により結合していることを示し、「Glc-Glc(β3→1)」は「Glc-Glc」がβ3,1グリコシド結合により結合していることを示す。
【
図2】PCR産物を0.8%アガロースゲルによる電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した結果を示す。
【
図3】調製した酵素のSDS-PAGE分離後のCBB染色及び抗HisTag抗体を用いたウエスタンブロット解析の結果を示す。
【
図4-1】ネガティブコントロール区における、UDP-グルコースからUDP-ラムノースを生成する活性を示す。
【
図4-2】シロイヌナズナのAtRHM2における、UDP-グルコースからUDP-ラムノースを生成する活性を示す。
【
図4-3】組換えSrRHM1#1における、UDP-グルコースからUDP-ラムノースを生成する活性を示す。
【
図4-4】組換えSrRHM1#2における、UDP-グルコースからUDP-ラムノースを生成する活性を示す。
【
図4-5】組換えSrRHM1#3における、UDP-グルコースからUDP-ラムノースを生成する活性を示す。
【
図4-6】組換えSrRHM2#1における、UDP-グルコースからUDP-ラムノースを生成する活性を示す。
【
図4-7】組換えSrRHM2#2における、UDP-グルコースからUDP-ラムノースを生成する活性を示す。
【
図5】SrRHM組み換えタンパク質の比活性を示す。
【
図6】実施例4において得られた各植物体のSrRHM遺伝子の発現を示す。
【
図7】酵母における、ステビア由来RHMとUGT85C2、UGT91D2L#16、UGT74G1、及びUGT76G1の共発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。なお、本明細書において引用した全ての文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、2017年4月12日に出願された本願優先権主張の基礎となる日本国特許出願(特願2017-079041号)の明細書及び図面に記載の内容を包含する。
【0013】
本発明者らは、ステビアにおいてグルコースからラムノースを生成するSrRHM1タンパク質及びSrRHM2タンパク質のアミノ酸配列と該タンパク質をコードする遺伝子配列を同定することに初めて成功した。SrRHM1タンパク質には3種の変異体SrRHM1#1、SrRHM1#2及びSrRHM1#3が含まれ、そのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号2、4及び6であり、そのCDS配列はそれぞれ配列番号1、3及び5に示される。SrRHM2タンパク質には2種の変異体SrRHM2#1及びSrRHM2#2が含まれ、そのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号8及び10であり、そのCDS配列はそれぞれ配列番号7及び9に示される。
ここで、用語「SrRHM1タンパク質」とは、3種の変異体SrRHM1#1、SrRHM1#2及びSrRHM1#3の各タンパク質を包括するものであり、用語「SrRHM2タンパク質」とは2種の変異体SrRHM2#1及びSrRHM2#2の各タンパク質を包括するものである。
ポリヌクレオチド及び酵素は、後述の実施例に記載した手法、公知の遺伝子工学的手法、公知の合成手法等によって取得することが可能である。
【0014】
1. ステビア由来ラムノース合成酵素
本発明は、以下の(a)~(c)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のタンパク質(以下、「本発明のタンパク質」という)を提供する。
(a)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列において、1~33個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質;
(c)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列に対して、95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質。
【0015】
上記(b)、又は(c)に記載のタンパク質は、代表的には、天然に存在する配列番号2、4、6、8又は10のポリペプチドの変異体であるが、例えば、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001"、"Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997"、"Nuc. Acids. Res., 10, 6487(1982)"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409(1982)"、"Gene, 34, 315 (1985)"、"Nuc. Acids. Res., 13, 4431(1985)"、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488(1985)"等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、人為的に取得することができるものも含まれる。
【0016】
本明細書中、「配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列において、1~33個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質」としては、配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列において、例えば、1~33個、1~32個、1~31個、1~30個、1~29個、1~28個、1~27個、1~26個、1~25個、1~24個、1~23個、1~22個、1~21個、1~20個、1~19個、1~18個、1~17個、1~16個、1~15個、1~14個、1~13個、1~12個、1~11個、1~10個、1~9個(1~数個)、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、又は1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。
【0017】
また、このようなタンパク質としては、配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列と95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、又は99.9%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質が挙げられる。上記配列同一性の数値は一般的に大きい程好ましい。
【0018】
ここで、「グルコースからラムノースを生成する活性」とは、下記式のように、グルコースからラムノースを生成する活性を意味する。
【化1】
【0019】
本発明の好ましい態様によれば、上記グルコースがウリジン二リン酸グルコースの形態にある。また、本発明の他の好ましい態様によれば、上記ラムノースがウリジン二リン酸ラムノースの形態にある。
【0020】
あるいは、本発明のタンパク質を用いてグルコースからラムノースを生成する際、下記の構造を有する、4-ケト-6-デオキシグルコースを中間体として得てもよい。
【化2】
【0021】
グルコースからラムノースを生成する活性は、被検タンパク質、及びグルコース(例えば、UDP-グルコース)1~1000 μM(好ましくは、100~700 μM、最も好ましくは500 μM)を含むpH6.0~8.0の中性領域の緩衝液(例えば、リン酸ナトリウムバッファー又はリン酸カリウムバッファー)中において、20~40℃の温度で10分間~2時間インキュベートした後に精製し、精製した生成物をLC-MS分析(Liquid Chromatography-Mass Spectrometry)等の公知の手法により分析することで検証することができる。
【0022】
LC-MS分析の結果、ラムノースが検出された場合、前記被検タンパク質はグルコースからラムノースを生成する活性を有するものと言える。
前記ラムノース生成反応は、一般に、1分~12時間程度で終了する。
【0023】
本発明のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたとは、同一配列中の任意かつ1若しくは複数のアミノ酸配列中の位置において、1若しくは複数個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加があることを意味し、欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。
【0024】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン;B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸;C群:アスパラギン、グルタミン;D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸;E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン;F群:セリン、スレオニン、ホモセリン;G群:フェニルアラニン、チロシン。
【0025】
本発明のタンパク質は、これをコードするポリヌクレオチド(後述する「本発明のポリヌクレオチド」を参照)を適切な宿主細胞内で発現させることにより得ることができるが、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても製造することができる。また、Advanced Automation Peptide Protein Technologies社製、Perkin Elmer社製、Protein Technologies社製、PerSeptive社製、Applied Biosystems社製、SHIMADZU社製等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。
【0026】
2.ラムノースの製造方法
本発明のタンパク質が有する、グルコースからラムノースを生成する活性を利用することにより、ラムノースを容易かつ多量に製造することが可能である。
【0027】
そこで、別の実施形態において、本発明は、本発明のタンパク質と、グルコースとを反応させて、ラムノースを製造する方法を提供する。具体的には、本発明のラムノースの製造方法は、以下の(a)~(c)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のタンパク質と、グルコースとを反応させる工程を含む、ラムノースの製造方法である。
(a)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列において、1~33個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質;
(c)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列に対して、95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質。
【0028】
ここで、上記(a)~(c)については、既に「本発明のタンパク質」について説明したとおりである。また、本発明の好ましい態様によれば、上記グルコースがウリジン二リン酸グルコースの形態にある。また、本発明の他の好ましい態様によれば、上記ラムノースがウリジン二リン酸ラムノースの形態にある。あるいは、本発明の形質転換体を用いてグルコースからラムノースを生成する際、上記の構造を有する、4-ケト-6-デオキシグルコースを中間体として得てもよい。
【0029】
本発明の第1のラムノースの製造方法は、さらに、前記工程での生成物を精製する工程を含んでいてもよい。
【0030】
生成したラムノースは、適切な溶媒(水等の水性溶媒又はアルコール、エーテル及びアセトン等の有機溶媒)による抽出、酢酸エチルその他の有機溶媒:水の勾配、高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography:HPLC)、超高性能液体クロマトグラフィー (Ultra (High)Performance Liquid chromatography:UPLC) 等の公知の方法によって精製することができる。
【0031】
本発明の別態様によれば、本発明のラムノースの製造方法によって得られたラムノース又はウリジン二リン酸ラムノースを含む、甘味料、飲食品又は医薬品が提供される。甘味料、飲食品又は医薬品の例は本明細書において後述する。また、本発明の更なる別態様によれば、発明のラムノースの製造方法によって得られたラムノースを少なくとも1つ含む、ステビオール配糖体が提供される。なお、本明細書において、「ラムノースを少なくとも1つ含むステビオール配糖体」とは、「ラムノース基を少なくとも1つ有するステビオール配糖体」を意味する。
【0032】
3.ラムノース高含有非ヒト形質転換体
ラムノースは、本発明のタンパク質を用いて細菌(大腸菌又は酵母など)、植物、微生物、昆虫、ヒトを除く哺乳動物などの細胞内で生成することもできる。本発明のタンパク質は、ステビアに由来する酵素又はその変異体であるため、細胞内環境においても高い活性を有することが期待されるからである。この場合、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチド(後述する「本発明のポリヌクレオチド」を参照)と発現カセットとを含むベクターを、細菌、微生物、植物、昆虫、ヒトを除く哺乳動物などに由来する宿主細胞に導入して本発明のタンパク質を発現させ、本発明のタンパク質と、前記細胞内に存在するグルコース又はUDP-グルコースとを反応させることによりラムノース又はUDP-ラムノースを生成することができる。
【0033】
そこで、本発明は、以下の(a)~(d)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のポリヌクレオチド(以下、「本発明のポリヌクレオチド」という)が導入された非ヒト形質転換体(以下、「本発明の形質転換体」という)を提供する。
(a)配列番号1、3、5、7又は9の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列において、1~33個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列に対して、95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【0034】
本発明の好ましい態様によれば、上記グルコースがウリジン二リン酸グルコースの形態にある。また、本発明の他の好ましい態様によれば、上記ラムノースがウリジン二リン酸ラムノースの形態にある。あるいは、本発明の形質転換体を用いてグルコースからラムノースを生成する際、上記の構造を有する、4-ケト-6-デオキシグルコースを中間体として得てもよい。
【0035】
本明細書中、「ポリヌクレオチド」とは、DNA又はRNAを意味する。上記した本発明のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法又は公知の合成手法によって取得することが可能である。
【0036】
本発明のポリヌクレオチドは、好ましくは、適切な発現ベクターに挿入された状態で宿主に導入される。
適切な発現ベクターは、通常、
(i)宿主細胞内で転写可能なプロモーター;
(ii)該プロモーターに結合した、本発明のポリヌクレオチド;及び
(iii)RNA分子の転写終結及びポリアデニル化に関し、宿主細胞内で機能するシグナルを構成要素として含む発現カセット
を含むように構成される。
発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ又はコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。
【0037】
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターが適宜選択され得る。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明のポリヌクレオチドを発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明のポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
【0038】
本発明の発現ベクターは、導入されるべき宿主の種類に依存して、発現制御領域(例えば、プロモーター、ターミネーター及び/又は複製起点等)を含有する。細菌用発現ベクターのプロモーターとしては、慣用的なプロモーター(例えば、trcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等)が使用され、酵母用プロモーターとしては、例えば、GAL1プロモーター、GAL10プロモーター、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーター等が挙げられ、糸状菌用プロモーターとしては、例えば、アミラーゼ、trpC等が挙げられる。また、植物細胞内で目的遺伝子を発現させるためのプロモーターの例としては、植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーターを有するベクター又は外的な刺激によって誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターが挙げられる。ポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーターの例としては、カリフラワーモザイクウィルスの35S RNAプロモーター、rd29A遺伝子プロモーター、rbcSプロモーター、mac-1プロモーター等が挙げられる。外的な刺激によって誘導性に活性化されるプロモーターの例としては、mouse mammary tumor virus(MMTV)プロモーター、テトラサイクリン応答性プロモーター、メタロチオネインプロモーター及びヒートショックプロテインプロモーター等が挙げられる。動物細胞宿主用プロモーターとしては、ウイルス性プロモーター(例えば、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター等)が挙げられる。
【0039】
発現ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このようなマーカーとしては、栄養要求性マーカー(ura5、niaD、TRP1、URA3、HIS3、 LEU2)、薬剤耐性マーカー(hygromycine、ゼオシン)、ジェネチシン耐性遺伝子(G418r)、銅耐性遺伝子(CUP1)(Marin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 81, p. 337, 1984)、セルレニン耐性遺伝子(fas2m, PDR4)(それぞれ、猪腰淳嗣ら, 生化学, vol. 64, p. 660, 1992;Hussain et al., Gene, vol. 101, p. 149, 1991)などが利用可能である。
【0040】
本発明の形質転換体は、ラムノースを高効率で生産することが期待される。形質転換に用いられる宿主細胞は、特に限定されるものではなく、公知の各種細胞を好適に用いることができる。例えば、宿主細胞の例としては、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)等の微生物、植物細胞、ヒトを除く動物細胞等が挙げられる。
【0041】
上記の宿主細胞のための適切な培養培地及び条件は当分野で周知である。また、形質転換の対象となる生物も特に限定されるものではなく、上記宿主細胞で例示した各種微生物又は植物又はヒトを除く動物が挙げられる。
【0042】
その他、一般的な分子生物学的な手法に関しては、"Sambrook & Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Vol. 3, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001"、"Methods in Yeast Genetics、A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, NY)"等を参照することができる。
【0043】
本発明の1つの態様において、形質転換の宿主細胞としては任意の酵母を用いることができる。具体的には、サッカロマイセス(Saccharomyces)属等の酵母が挙げられるが、これに限定されない。
【0044】
酵母の形質転換方法としては一般に用いられる公知の方法が利用できる。例えば、エレクトロポレーション法“Meth. Enzym., 194,p182(1990)”、スフェロプラスト法“Proc.(12) JP 4918504 B2 2012.4.18Natl. Acad. Sci. USA, 75 p1929(1978)”、酢酸リチウム法“J.Bacteriology, 153, p163(1983)”、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 p1929(1978)、 Methods in yeast genetics, 2000 Edition : A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manualなど に記載の方法で実施可能であるが、これらに限定されない。形質転換株は、使用した選択マーカーに合わせた選択圧のある培地(たとえば、抗生物質を含む培地あるいは栄養素を欠失させた培地)で生育する株として選抜して取得する。
【0045】
本発明の1つの態様において、形質転換に用いられる宿主細胞としては、任意の植物体を用いることができる。本実施形態に係る植物形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、当該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現され得るように植物体中に導入することによって取得される。あるいは、本発明の遺伝子は子孫に遺伝することから、本発明の形質転換体を交配親として用いることで、当該遺伝子を有する新たな植物体を得ることができる。
【0046】
本発明において形質転換の対象となる植物体は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)又は植物培養細胞、あるいは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどのいずれをも意味する。形質転換に用いられる植物体としては、特に限定されず、単子葉植物綱又は双子葉植物綱に属する植物体のいずれでもよい。特に好ましい例としては、ステビオールをアグリコンとして種々の配糖体を生合成することが知られている植物体を使用することが望ましく、このような植物体としては、ステビアやテンチャ(Rubus suauissimus)等を挙げることができる。
【0047】
植物体への遺伝子の導入には、当業者に公知の形質転換方法(例えば、アグロバクテリウム法、遺伝子銃法、PEG法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法など)が用いられる。
【0048】
遺伝子が導入された細胞又は植物組織は、まずハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性で選択され、次いで定法によって植物体に再生される。形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。
【0049】
本発明のポリヌクレオチドが植物に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。
【0050】
このようにして得られた形質転換体を培養することにより、形質転換体にラムノースを生産させることが可能である。前述の通り、形質転換体の培養系に基質としてグルコース又はグルコースを含む植物抽出物を添加することにより、ラムノースの製造を促進することもできる。蓄積された生成物を抽出・精製することにより、目的のラムノースを得ることができる。
【0051】
4. 形質転換体の抽出物及びその利用
本発明はまた、別の実施形態において、上記の形質転換体の抽出物を提供する。本発明の形質転換体は、適切な基質を有する場合、もしくは、適切な基質を外部から添加した場合、その野生型と比べてラムノースの含有量が高いので、その抽出物には、ラムノース又はラムノース基を有するステビオール配糖体が高濃度で含まれると考えられる。
【0052】
本発明の形質転換体の抽出物は、形質転換体をガラスビーズ、ホモジェナイザー又はソニケーター等を用いて破砕し、当該破砕物を遠心処理し、その上清を回収することにより、得ることができる。さらに、上記で述べたラムノースの抽出方法により、さらなる抽出工程を施してもよい。
【0053】
本発明の形質転換体の抽出物は、常法に従って、例えば、甘味料、飲食品、医薬品、工業原料の製造等の用途に使用することができる。
【0054】
本発明はまた、別の実施形態において、本発明の形質転換体の抽出物を含む甘味料、飲食品、医薬、工業原料(飲食品等の原料)を提供する。本発明の形質転換体の抽出物を含む甘味料、飲食品、医薬、工業原料の調製は、常法による。このように、本発明の形質転換体の抽出物を含む甘味料、飲食品、医薬、工業原料等は、本発明の形質転換体を用いて生成されたラムノース又はラムノース基を有するステビオール配糖体を含有する。
【0055】
本発明の飲食品の例としては、栄養補助食品、健康食品、特定保健用食品、機能性表示食品、幼児用食品、老人用食品等が挙げられる。本明細書中、食品は、固体、流動体、及び液体、並びにそれらの混合物であって、摂食可能なものの総称である。
【0056】
栄養補助食品とは、特定の栄養成分が強化されている食品をいう。健康食品とは、健康的な又は健康によいとされる食品をいい、栄養補助食品、自然食品、ダイエット食品等を含む。特定保健用食品とは、からだの生理学的機能などに影響を与える成分を含んでいて、特定の保健の効果が科学的に証明され、国に科学的根拠を示して、有効性や安全性の審査を受けている食品である。機能性表示食品とは、科学的根拠を基に商品パッケージに機能性を表示するものとして、消費者庁に届け出られた食品である。幼児用食品とは、約6歳までの子供に与えるための食品をいう。老人用食品とは、無処理の食品と比較して消化及び吸収が容易であるように処理された食品をいう。
【0057】
本発明の飲食品は、甘味料としてラムノース又はラムノース基を有するステビオール配糖体を使用している。このため、本発明の食品は低カロリーであり、健康増進又は健康維持に寄与するというメリットを有する。
【0058】
これらの飲食品の形態の例としては、パン、麺類、パスタ、ごはん、菓子類(ケーキ、アイスクリーム、アイスキャンデー、ドーナツ、焼き菓子、キャンデー、チューインガム、グミ、錠菓、並びに団子及びまんじゅう等の和菓子)、豆腐及びその加工品等の農産食品、清酒、薬用酒、みりん、食酢、醤油、みそ等の発酵食品、ヨーグルト、ハム、ベーコン、ソーセージ等の畜産食品、かまぼこ、揚げ天、はんぺん等の水産食品、果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、茶等又は調味料であってもよい。さらなる食品の形態の例としては、低カロリー飲料、ノンシュガー飲料、フルーツ缶詰、乳飲料、粉末飲料、ヨーグルト、ゼリー、ドレッシング、麺つゆ、漬物、佃煮、醤油、味噌、塩辛、バーモント酢、甘酢らっきょ漬け、甘酢生姜、酢レンコン、また、漬物、天ぷら及びカバ焼きのタレ、焼肉のタレ、ソース等、ガム、キャンディー・飴、歯磨きペースト、さつま揚げ、だし巻き、焼きそばソース、冷やし中華のタレ、しめ鯖、氷菓、シャーベット、ソフトクリーム、練り製品、スナック、米菓、コーンカップ、味付け海苔、天カス、ふりかけなどが挙げられる。
【0059】
本発明の医薬品(組成物)の剤型は、特に限定されず、溶液状、ペースト状、ゲル状、固体状、粉末状等任意の剤型をとることができる。
【0060】
本発明の医薬組成物は、必要に応じてさらに、その他の医薬活性成分(例えば、消炎成分)又は補助成分(例えば、潤滑成分、担体成分)を含んでいてもよい。
【0061】
5.ラムノース基を有するステビオール配糖体の製造方法
本発明の他の態様によれば、本発明のタンパク質とグルコースとを反応させてラムノースを得る工程と、ラムノースをステビオール又はステビオール配糖体に転移する工程と、
を含む、ステビオール配糖体の製造方法を提供する。具体的には、本発明のステビオール配糖体の製造方法は、以下の(a)~(c)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のタンパク質と、グルコースとを反応させてラムノースを得る工程と:
(a)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列において、1~33個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質;
(c)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列に対して、95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質
ラムノースをステビオール又はステビオール配糖体に転移する工程と、
を含む、ステビオール配糖体の製造方法である。
【0062】
本発明のタンパク質とグルコースとを反応させてラムノースを得る工程は、「2.ラムノースの製造方法」において記載したとおりである。ラムノースをステビオール又はステビオール配糖体に転移する工程は、ステビオール又はステビオール配糖体にラムノースを転移することができれば特に限定されないが、例えば、ステビオール又はステビオール配糖体にラムノースを転移する酵素を用いて行ってもよい。そのような酵素として、UGT91D2酵素(配列番号11)又はUGT91D2#16酵素(配列番号13)等を使用することができる。また、そのような酵素をコードする遺伝子(配列番号12および14)を導入した宿主細胞を用いてステビオール又はステビオール配糖体にラムノースを転移してもよい。本発明の好ましい態様によれば、ラムノースをステビオール又はステビオール配糖体に転移する工程は、(i)配列番号11若しくは13の塩基配列を含有するポリヌクレオチド、又は、(ii)配列番号12若しくは14のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、ステビオール配糖体の13位に結合したグルコースに1→2結合でラムノースを付加する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを導入した非ヒト形質転換体を用いて行われてもよい。
【0063】
さらに、ステビオールからレバウディオシドCまでの一連の配糖体合成に関与する配糖体化酵素をコードする遺伝子を導入した又はこれらの遺伝子を発現する宿主細胞を用い、同宿主細胞で本発明のポリヌクレオチドを発現させることにより、より高度に配糖化されたステビオール配糖体(例えば、ステビアにおいてラムノース基を有するズルコシドA、レバウディオシドC、レバウディオシドN及びレバウディオシドO等)を作製することができる。ステビオールからレバウディオシドCまでの一連の配糖体合成に関与する配糖体化酵素及びその遺伝子の例としては、UGT91D2(CDS配列:配列番号11、アミノ酸配列:配列番号12)、UGT91D2#16(CDS配列:配列番号13、アミノ酸配列:配列番号14)、UGT85C2(CDS配列:配列番号15、アミノ酸配列:配列番号16)、UGT74G1(CDS配列:配列番号17、アミノ酸配列:配列番号18)、及びUGT76G1(CDS配列:配列番号19、アミノ酸配列:配列番号20)等が挙げられる。本発明のステビオール配糖体の製造方法の好ましい態様において、下記の(a)~(e)の少なくとも1つのポリヌクレオチドを導入した非ヒト形質転換体を用いる工程がさらに含まれる。
(a)(i)配列番号15の塩基配列を含有するポリヌクレオチド、又は、(ii)配列番号16のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、ステビオール配糖体の13位の水酸基にグルコースを付加する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(b)(i)配列番号17の塩基配列を含有するポリヌクレオチド、又は、(ii)配列番号18のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、ステビオール配糖体の19位のカルボン酸にグルコースを付加する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)(i)配列番号19の塩基配列を含有するポリヌクレオチド、又は、(ii)配列番号20のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、ステビオール配糖体の13位のグルコースの3位に1→3結合でグルコースを付加する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(d)(i)配列番号11若しくは13の塩基配列を含有するポリヌクレオチド、又は、(ii)配列番号12若しくは14のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、ステビオール配糖体の19位のグルコースに、1→2結合でグルコースを付加する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(e)(i)配列番号19の塩基配列を含有するポリヌクレオチド、又は、(ii)配列番号20のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ、ステビオール配糖体の19位のグルコースに、1→3結合でグルコースを付加する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【0064】
ステビオール配糖体は、ラムノース基を有していれば特に限定されないが、好ましくはズルコシドA、レバウディオシドC、レバウディオシドN及びレバウディオシドO又はこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0065】
6.ラムノース基を有するステビオール配糖体含有量に応じて植物体をスクリーニングする方法
本発明は、ラムノース基を有するステビオール配糖体含有量に応じて植物体をスクリーニングする方法(以下、「本発明のスクリーニング方法」という)を提供する。ここで、「スクリーニング」とは、ラムノース基を有するステビオール配糖体含有量が所定量以上(もしくは以下)の植物体とそれ以外の植物体とを識別し、ラムノース基を有するステビオール配糖体含有量の高い(もしくは低い)植物体を選択することを意味する。具体的には、本発明のスクリーニング方法は、ラムノース基を有するステビオール配糖体含有量の高い植物体、ラムノース基を有するステビオール配糖体含有量の低い植物体、又はラムノース基を有するステビオール配糖体を含まない植物体をスクリーニングする方法である。したがって、本発明のスクリーニング法を用いることで、ラムノース基を有さず、グルコース基のみを含むステビオール配糖体の含有量の高い植物を選択することもできる。
【0066】
本発明のスクリーニング方法は、ラムノース基を有するステビオール配糖体含有量に応じて植物体をスクリーニングする方法であって、
被検植物体から、以下の(a)~(d)よりなる群より選ばれるポリヌクレオチドを定量する工程、及び前記ポリヌクレオチド量を基準値と比較してポリヌクレオチド量に応じて被験植物体を選別する工程を含む方法である。
(a)配列番号1、3、5、7又は9の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列において、1~33個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号2、4、6、8又は10のアミノ酸配列に対して、95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【0067】
本発明のスクリーニング方法の好ましい態様において、ラムノース基を有するステビオール配糖体含有量に応じて植物体をスクリーニングする方法であって、
被検植物体から、以下の(a’)~(d’)よりなる群より選ばれるポリヌクレオチドを定量する工程、及び前記ポリヌクレオチド量を基準値と比較してポリヌクレオチド量に応じて被験植物体を選別する工程を含む方法が提供される。
(a’)配列番号7又は9の塩基配列を含有するポリヌクレオチド;
(b’)配列番号8又は10のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c’)配列番号8又は10のアミノ酸配列において、1~33個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d’)配列番号8又は10のアミノ酸配列に対して、95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグルコースからラムノースを生成する活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【0068】
当該ポリヌクレオチドを定量する第1の工程は、マイクロアレイ法、RealTime PCR法、サザンブロッティング法、ノーザンブロッティング法等の公知の方法で行うことができる。
前記ポリヌクレオチド量を基準値と比較してポリヌクレオチド量に応じて被験植物体を選別する第2の工程において、「基準値」は当業者であれば適宜設定することができる。例えば、基準値とは任意のステビア植物体の一部(葉、茎、根等)に含まれる当該ポリヌクレオチドの量と定め、選別においては被験植物体の対応する部分(葉、茎、根等)に含まれる当該ポリヌクレオチドの量が前記基準値よりも多い(少ない)場合に、当該被験植物体をラムノース基を有するステビオール配糖体含有量が高い(低い)植物体として選別することができる。
あるいは、基準値とは変動的であってもよい。例えば、複数の被験植物体を比較し、そのうち1番からn番目(nは1以上の整数)に当該ポリヌクレオチド量が多かった(少なかった)被験植物体をラムノース基を有するステビオール配糖体含有量が高い(低い)植物体として選別することが可能であり、この場合は、n+1番目に当該ポリヌクレオチド量が多かった被験植物体の当該ポリヌクレオチド量が基準値となる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]ラムノース合成酵素の候補遺伝子の単離
本実施例において用いる分子生物学的手法は、他で詳述しない限り、Molecular Cloning(Sambrookら, Cold Spring Harbour Laboratory Press, 2001)に記載の方法に従った。
【0071】
ステビア葉からRNeasy Plant Miniキット(QIAGEN)を用いて総RNAを抽出し、DNAase set(QIAGEN)により混在するDNAを消化した。抽出されたRNAはBioAnalyzerのRNA6000 nano chip(Agilent technologies)により品質を確認したのちに、TrueSeq Standard total RNA with RiboZero Plant Kit (Illumina)を用いて当業者が推奨する方法でcDNAライブラリーを構築した。 生成したライブラリーはBioAnalyzerのDNA1000 chip(Agilent technologies)を用いて品質を確認した後に、Cycleave PCR Quantification Kit (TaKaRa Bio)を用いて定量した。ライブラリーはHiSeq1500(Illumina)シークエンサーを用いて Pair end (2x101サイクル)シークエンスを行った。得られたリードの塩基配列は(非特許文献4)に記載の方法でTrinityプログラムを用いて、デノボアセンブルを行い、ステビア葉のEST情報を得た。
【0072】
得られたステビアESTに対して、公知のAtRHM2(配列番号21)の配列情報(非特許文献3)をクエリーとしてtBlastxによる相同性検索解析に供した。その結果、AtRHM2とDNAレベルで74%および72%の配列同一性を示す、ステビアSrRHM1#1遺伝子(配列番号1)及びSrRHM2#1遺伝子(配列番号7)を見出した。
【0073】
ステビア葉で見出されたSrRHM1遺伝子およびSrRHM2遺伝子を得るために、下記のプライマーセット(配列番号22及び23、並びに配列番号24および25)で系統の異なる複数のステビア葉から調製したcDNAを鋳型にPCRを行った。
SrRHM1-pET-FW (配列番号22)
TGCCGCGCGGCAGCCATATGGCTACTTACGTGCCAAAG
SrRHM1-pET-RV (配列番号23)
GTTAGCAGCCGGATCCTTAATGTTTTTTGTTAGGTTCGAATACG
SrRHM2Full-Fw (配列番号24)
TGCCGCGCGGCAGCCATATGACCAGTTATACACCTAAAAAC
SrRHM2Full-Rv (配列番号25)
GTTAGCAGCCGGATCCTTAGGTTGTCTTGTTGGGTGCAAATAC
ステビア葉cDNAについてはステビア葉からRNeasy Plant Miniキット(QIAGEN)を用いて総RNAを抽出し、そのうち0.5μgをRandom Oligo-dTプライマーで逆転写(RT)反応することによって得た。
【0074】
PCR反応液(50μl)は、ステビア葉由来cDNA 1μl、1×ExTaq buffer(TaKaRaBio)、0.2mM dNTPs、プライマー各0.4pmol/μl、ExTaq polymerase 2.5Uからなる組成とした。PCR反応は、94℃で3分間反応させた後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で2分間の反応を計30サイクルの増幅を行った。PCR産物を0.8%アガロースゲルによる電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した結果、SrRHM1及びSrRHM2遺伝子のcDNAから推定された約2.0kbのサイズに増幅バンドが得られた(
図2)。
【0075】
この約2kbのPCR産物はpET15bベクター(Novagen社)の NdeI及びBamHIのサイトにクローニングし、DNA Sequencer model 3100(Applied Biosystems)を用い、合成オリゴヌクレオチドプライマーによるプライマーウォーキング法によって配列を決定した。その結果、配列番号1のSrRHM1#1に加え、それとDNA及びアミノ酸レベルで99%の配列同一性を示すSrRHM1#2及びSrRHM1#3の計3種類のSrRHM1遺伝子が存在することが明らかとなった(配列番号3及び5)。同様にSrRHM2#1とDNAレベルおよびアミノ酸レベルで99%の配列同一性を示すSrRHM2#2が得られた(配列番号9)。なお、これらSrRHM遺伝子は本ベクターNdeIサイト上流にあるHisタグと挿入した遺伝子のオープンリーディングフレームが合っており、SrRHM1とHisタグの融合したキメラタンパク質が発現するよう設計した。
【0076】
なお、シロイヌナズナのAtRHM2に対してはステビア由来SrRHM1#1、SrRHM1#2及びSrRHM1#3がDNAレベルで74%の配列同一性を示し、SrRHM2#1及び#2はDNAレベルで72%の配列同一性を示した。
【0077】
[実施例2]組み換えタンパク質の発現及び精製
本発明の酵素の生化学的な機能を明らかにするために、本発明の酵素を大腸菌において発現させた。上記で得られた3種のSrRHM1遺伝子及び2種のSrRHM2の大腸菌発現用プラスミドを用い定法に従って大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。得られた形質転換体を、50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地(10 g/l typtone pepton,5 g/l yeast extract,1 g/l NaCl)4 mlにて、37℃で一晩振盪培養した。静止期に達した培養液4 mlを同組成の培地80 mlに接種し、37℃で振盪培養した。菌体濁度(OD600)がおよそ0.5に達した時点で終濃度0.5 mMのIPTGを添加し、18℃で20 hr振盪培養した。
【0078】
以下のすべての操作は4℃で行った。培養した形質転換体を遠心分離(5,000×g,10 min)にて集菌し、Buffer S[20 mM HEPESバッファー(pH 7.5),20 mM imidazol, 14 mM β-メルカプトエタノール]1 ml/g cellを添加して、懸濁した。続いて、超音波破砕(15 sec×8回)を行い,遠心分離(15,000×g,15 min)を行った。得られた上清を粗酵素液として回収した。粗酵素液をBuffer Sにて平衡化したHis SpinTrap(GE Healthcare)に負荷し、遠心(70×g,30 sec)した。Bufferで洗浄後、100mM及び 500 mMのimidazoleを含むBuffer S 各5mlにて、カラムに結合したタンパク質を段階的に溶出した。各溶出画分をMicrocon YM-30(Amicon)を用いて20 mM HEPESバッファー(pH 7.5)、14 mM β-メルカプトエタノールにバッファー置換した(透析倍率約500倍)。
【0079】
調製した酵素のSDS-PAGE分離後のCBB染色及び抗HisTag抗体を用いたウエスタンブロット解析の結果、200 mM imidazole溶出画分においてSrRHM1又はSrRHM2とHisタグの融合キメラタンパク質の推定分子量の約75kDa付近にネガティブコントロール区(pET15b empty vector)で見られないタンパク質を検出したので、この画分を酵素解析に用いた(
図3)。
【0080】
[実施例3]酵素活性測定
標準的な酵素反応条件は以下の通りである。反応液(100 mM リン酸カリウムバッファー(pH 7.5)、5mM UDP-グルコース(基質)、2mM NADPH、5mM DTT、2mM EDTA、精製酵素溶液60μl)を蒸留水で100μlに調製し、30℃、24時間反応させた。酵素反応液5μlを下記の条件でLC-MS分析を行った。
LC condition
カラム : 東ソー TSKgel Amide-80 3μm (2.0 x 150 mm)
移動相:A: 10mM 酢酸アンモニウム水溶液,B: アセトニトリル
グラジエント:0 - 0.2 min (B conc 95% 一定),
0.2 - 14.0 min (B conc 95% → 30%),
14.0 - 14.2 min (B conc 30% → 95%)
20.0 min分析終了
流速:0.2 mL/min
カラムオーブン:40℃
MS condition
ESI (negative mode)
MRM測定(CE 25): m/z 565.1 → 323.0 (UDP-Glucose)
m/z 549.1 → 323.0 (UDP-Rhamnose)
【0081】
上記の条件で酵素反応液を分析したところ、ネガティブコントロールの空ベクター実験区では保持時間約10分に基質のUDP-グルコースのみが検出された(
図4-1)。一方で、ポジティブコントロールのシロイヌナズナのAtRHM2の組換えタンパク質の反応区では基質のUDP-グルコースに加え、保持時間約9.6分にUDP-ラムノースが検出された(
図4-2)。
次に、組換えSrRHM1#1、SrRHM1#2、及びSrRHM1#3タンパク質をそれぞれUDP-グルコースと反応させたところ、いずれの反応区においても顕著な UDP-ラムノースの合成が確認された(
図4-3、4-4、及び4-5)。
同様にSrRHM2についても活性評価を行った。SrRHM2#1, SrRHM2#2タンパク質をそれぞれUDP-グルコースと反応させたところ、いずれの反応区においても顕著な UDP-ラムノースの合成が確認された(
図4-6,4-7)。
次に、これらの組換えタンパク質の比活性を評価した。反応後の残存UDP-グルコース量と反応により生成したUDP-ラムノース量の合計を1と基準化した。その結果、本発明の組換えタンパク質(SrRHM1#1、SrRHM1#2、及びSrRHM1#3タンパク質並びにSrRHM2#1及びSrRHM2#2タンパク質)は、シロイヌナズナのAtRHM2の組換えタンパク質よりも高いラムノース生成活性を有することが確認された。また、SrRHM2系の方がSrRHM1系よりもラムノース生成量が高い傾向があること確認できた(
図5)。
【0082】
以上の結果より、SrRHM1#1、SrRHM1#2、及びSrRHM1#3タンパク質並びにSrRHM2#1及びSrRHM2#2タンパク質はステビア葉において発現しているUDP-ラムノース合成酵素であることが示された。したがって、これらの酵素が、ステビアにおいてラムノース基を有するズルコシドA、レバウディオシドC、レバウディオシドN及びレバウディオシドOなどの合成に関与しているものと考えられる。
【0083】
[実施例4]遺伝子発現解析
今回活性の見られた二つのSrRHM遺伝子の発現について、RebCを含有する独立したステビア植物体(1,2)およびRebCが検出されないステビア植物体(3,4)の葉において発現の有無をRT-PCR法によって解析した。
SrRHM1については配列番号22および23、SrRHM2については配列番号24、25のプライマーセットにより実施例1と同じ条件で、32サイクル増幅した。内部標準遺伝子としてステビアのアクチン遺伝子(SrACTIN)を用い、配列番号26および27のプライマーセットにより増幅した(23サイクル)。
SrRHM1-pET-FW (配列番号22)
TGCCGCGCGGCAGC
CATATGGCTACTTACGTGCCAAAG
SrRHM1-pET-RV (配列番号23)
GTTAGCAGCC
GGATCCTTAATGTTTTTTGTTAGGTTCGAATACG
SrRHM2Full-Fw (配列番号24)
TGCCGCGCGGCAGCCATATGACCAGTTATACACCTAAAAAC
SrRHM2Full-Rv (配列番号25)
GTTAGCAGCCGGATCCTTAGGTTGTCTTGTTGGGTGCAAATAC
SrACTIN-Fw (配列番号26)
ATGGCCGATACTGAGGATATTCAG
SrACTIN-Rv (配列番号27)
AGCACTTCCTGTGGACAATGGA
その結果、RebCが検出されないステビア植物体(3,4)において特異的にSrRHM2の遺伝子発現が減少していることが確認された(
図6)。したがって、ステビア葉においてステビオール配糖体のラムノース転移に利用されているUDP-ラムノースは主にSrRHM2によって供給されていることが示された。
【0084】
[実施例5]酵母を用いたUDP-ラムノースの発酵生産
次に得られたSrRHM1およびSrRHM2を使って、酵母にてUDP‐ラムノースの合成ができるかを検討した。
【0085】
酵母用発現ベクターの構築
UDP-ラムノース合成酵素遺伝子を酵母発現ベクターに組み込むために下記のプライマーセットを設計した。
StRHM1セット
Apa-SrRHM1-F(下線部ApaI認識部位):
5’- GGGCCCATGGCTACTTACGTGCCAAAG -3’ (配列番号28)
Xho- SrRHM1-R(下線部XhoI認識部位):
5’- CTCGAGTTAATGTTTTTTGTTAGGTTCGAATACG-3’ (配列番号29)
StRHM2セット
Bam-SrRHM2-F(下線部BamHI認識部位):
5’- GGATCCATGACCAGTTATACACCTAAAAACATCC -3’ (配列番号30)
Xho- SrRHM2-R(下線部XhoI認識部位):
5’- CTCGAGTTAGGTTGTCTTGTTGGGTGC -3’ (配列番号31)
【0086】
SrRHM1を鋳型としてSrRHM1セット、SrRHM2を鋳型としてSrRHM2セットの鋳型とプライマーの組み合わせで、耐熱性KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡)を用いて、PCRにより増幅し、それぞれのORFの両端に制限酵素サイトを付加した。得られたDNA断片を、ゼロBlunt-TOPO PCRクローニングキット(インビトロジェン)を用いてサブクローニングし、DNA Sequencer model 3100(Applied Biosystems)を用い、合成オリゴヌクレオチドプライマーによるプライマーウォーキング法によって配列を決定し、目的のUGT遺伝子がそれぞれクローン化されていることを確認した。
【0087】
pESC酵母発現システム(ストラタジーン)を用いて、上記遺伝子を酵母で発現させるために、次の発現ベクターを構築した。
・ プラスミドpESC-TRP-SrRHM1の構築
SrRHM1を制限酵素ApaIとXhoIで切り出し、ベクターpESC-TRP(ストラタジーン)を制限酵素ApaIと制限酵素XhoIで切断したものと連結して、プラスミドpESC-TRP-SrRHM1を得た。
・ プラスミドpESC-TRP-SrRHM2の構築
SrRHM2を制限酵素BamHIとXhoIで切り出し、ベクターpESC-TRP(ストラタジーン)を制限酵素BamHIと制限酵素XhoIで切断したものと連結して、プラスミドpESC-TRP-SrRHM2を得た。
【0088】
酵母の形質転換
Saccharomyces cerevisiae YPH499株(ura3-52 lys2-801amberade2-101ochre trp1-Δ63 his3-Δ200 leu2-Δ1 a)を宿主として、酢酸リチウム法で、プラスミドpESC-TRP-SrRHM1、pESC-TRP-SrRHM2、により形質転換した。形質転換株として、SC-Trp寒天培地(1Lあたり、Yeast nitrogen base without amino acids 6.7g、グルコース 20g、アミノ酸ミックスパウダー-Trp 1.3g、Bacto agar 20g)で生育するものを選抜した。なお、アミノ酸ミックスパウダー-Trpは、アデニン硫酸塩 2.5g、L-アルギニン塩酸塩 1.2g、L-アスパラギン酸 6.0g、L-グルタミン酸 6.0g、L-ヒスチジン 1.2g、L-ロイシン3.6g、L-リジン 1.8g、L-メチオニン 1.2g、L-フェニルアラニン 3.0g、L-セリン 22.5g、L-スレオニン12g、L-チロシン 1.8g、L-バリン 9.0g、ウラシル1.2gを混ぜて調製した。一方、ベクターpESC-TRPにより、上記と同様の方法で形質転換した株をコントロール株(C-1株)とした。
【0089】
導入遺伝子の発現誘導と発現解析
得られた形質転換株を以下の通り培養した。
まず、前培養としてSC-Trp液体培地(SC- Trp寒天培地のBacto agarを除く)10 mlに、それぞれの形質転換株を植菌し、30℃で1日間振とう培養した。次に、本培養として前培養液のうち、1 mlを10 mlのSG-Trp液体培地(1Lあたり、Yeast nitrogen base without amino acids 6.7g、ガラクトース 20g、アミノ酸ミックスパウダー-Trp 1.3g)に植菌し、30℃で2日間振とう培養した。
【0090】
形質転換株で導入した遺伝子が発現したかどうかを確認するため、培養液から菌体を集め、RNeasy Mini Kitを用いて、トータルRNAを精製した。
トータルRNA 1μgをとり、スーパースクリプトII逆転写酵素(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、ランダムヘキサマーをプライマーとして、cDNAを合成した。
【0091】
導入遺伝子の発現を確認するために、以下のプライマーを作成した。
SrRHM1発現確認用
SrRHM1-r1
5’- CGAGTTAGGTATTTGGACACCA-3’ (配列番号32)
SrRHM2発現確認用
SrRHM2-r1
5’- TACCGGGTCCTGAAAGATGAC-3’ (配列番号33)
GAL10p領域 (プロモーター領域)
PGAL10-f3:
5’-GATTATTAAACTTCTTTGCGTCCATCCA-3’ (配列番号34)
【0092】
各導入遺伝子が発現していることは、以下のプライマーの組み合わせで、先に合成したcDNAを鋳型として、ExTaq(タカラバイオ)を用いてPCRを行い、その産物をアガロースゲル電気泳動により確認した。
SrRHM1:SrRHM1-r1(配列番号32)とPGAL10-f3(配列番号34)
SrRHM2:SrRHM2-r1(配列番号33)とPGAL10-f3(配列番号34)
導入した遺伝子が発現していることが確認できた株をそれぞれSR1-1株、SR2-1株とした。
【0093】
UDP-糖の分析
上記の発現解析についての操作と同様に培養して得られた10ml培養液より、遠心分離により回収した酵母菌体に、氷冷した1Mぎ酸(1-ブタノール飽和)を15ml添加し、4℃で1時間緩やかに撹拌した。遠心分離により菌体を除いた上清を凍結乾燥した。得られた凍結乾燥物を200μlの水に溶解し、HPLCに供した。
【0094】
HPLC条件は以下のとおりである。
カラム:COSMOSIL(R) 5C18-ARII(4.6mmI.D.x 250mm)
カラム温度:40℃
移動相:20mM トリエチルアミンアセテート(pH7.0)、流速:1ml/min
検出:UV260
その結果、C-1株では、UDP-ラムノースの生成が確認できなかったのに対し、SR1-1株、SR2-1株ともに、UDP-ラムノースの生成が確認できた。
【0095】
[実施例6]酵母を用いたRebCの生成
ステビア由来配糖化酵素遺伝子cDNAのクローニング
cDNAのクローニングには、それぞれ下記のプライマーセットを用いた。
UGT85C2遺伝子増幅用プライマーセット
CACC-NdeI-SrUGT85C2-Fw(下線部NdeI認識部位):
5’-CACCCATATGGATGCAATGGCTACAACTGAGAA-3’(配列番号35)
BglII-SrUGT85C2-Rv(下線部BglII認識部位):
5’-AGATCTCTAGTTTCTTGCTAGCACGGTGATTT-3’(配列番号36)
UGT91D2及びUGT91D2#16遺伝子増幅用プライマーセット
SrUGT91D2-pET15b-FW
5’-TGCCGCGCGGCAGCCATATGTACAACGTTACTTATCATC-3’(配列番号37)
SrUGT91D2-pET15b-RV
5’-GTTAGCAGCCGGATCCTTAACTCTCATGATCGATGGCAA-3’(配列番号38)
UGT74G1遺伝子増幅用プライマーセット
CACC-NdeI-SrUGT74G1-Fw(下線部NdeI認識部位):
5’-CACCCATATGGCGGAACAACAAAAGATCAAGAAAT-3’ (配列番号39)
BamHI-SrUGT74G1-Rv(下線部BamHI認識部位):
5’-GGATCCTTAAGCCTTAATTAGCTCACTTACAAATT-3’ (配列番号40)
UGT76G1遺伝子増幅用プライマーセット
CACC-NdeI-SrUGT76G1-Fw(下線部NdeI認識部位):
5’-CACCCATATGGAAAATAAAACGGAGACCA-3’ (配列番号41)
BamHI-SrUGT76G1-Rv(下線部BamHI認識部位):
5’-GGATCCTTACAACGATGAAATGTAAGAAACTA-3’ (配列番号42)
【0096】
PCR反応液(50μl)は、ステビア葉由来cDNA 1μl、1×KOD plus buffer(TOYOBO)、0.2mM dNTPs、プライマー各0.4pmol/μl、1mM MgSO4, 1U 耐熱性 KOD plus polymeraseからなる組成とした。PCR反応は、95℃で5分間反応させた後、94℃で0.5分間、50℃で0.5分間、68℃で2分間の反応を計30サイクルの増幅を行った。各PCR産物を0.8%アガロースゲルによる電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した結果、それぞれの鋳型DNAから推定された約1.4kbのサイズに増幅バンドが得られた。
【0097】
このPCR産物はpENTR-TOPO Directionalベクター(Invitrogen)に製造業者が推奨する方法でサブクローニングした。DNA Sequencer model 3100(Applied Biosystems)を用い、合成オリゴヌクレオチドプライマーによるプライマーウォーキング法によって配列を決定し、目的のUGT遺伝子、すなわちUGT85C2、UGT91D2及びUGT91D2#16、UGT74G1、UGT76G1の全てのUGT遺伝子がクローニングできたことを確認した。
【0098】
酵母用発現ベクターの構築
これらのUGT遺伝子およびUDP-ラムノース合成酵素遺伝子を酵母発現ベクターに組み込むために下記のプライマーセットを設計した。
SrUGT85C2セット
Bgl2-UGT85C2-F(下線部BglII認識部位):
5’-ACAGATCTATGGATGCAATGGCTACAACTGAGA-3’ (配列番号43)
Sal-UGT85C2-R(下線部SalI認識部位):
5’-TAGTCGACTAGTTTCTTGCTAGCACGGTGATTTC-3’ (配列番号44)
SrUGT91D2セット
NotI-UGT91DIL3-F(下線部NotI認識部位):
5’-AAGCGGCCGCATGTACAACGTTACTTATCATCAAAATTCAAA-3’ (配列番号45)
Pac-UGT91D1L3-R(下線部PacI認識部位):
5’-CGTTAATTAACTCTCATGATCGATGGCAACC-3’ (配列番号46)
SrUGT74G1セット
Not-UGT74G1-F(下線部NotI認識部位):
5’-AAGCGGCCGCATGGCGGAACAACAAAAGATCAAG-3’ (配列番号47)
Pac-UGT74G1-R(下線部PacI認識部位):
5’-CGTTAATTAAGCCTTAATTAGCTCACTTACAAATTCG-3’ (配列番号48)
SrUGT76G1セット
Bam-UGT76G1-F(下線部BamHI認識部位):
5’-AAGGATCCATGGAAAATAAAACGGAGACCACCG-3’ (配列番号49)
Sal-UGT76G1-R(下線部SalI認識部位):
5’-GCGTCGACTTACAACGATGAAATGTAAGAAACTAGAGACTCTAA-3’ (配列番号50)
【0099】
UGT85C2を鋳型としてSrUGT85C2セット、UGT91D2又はUGT91D2L#16を鋳型としてSrUGT91D2セット、UGT74G1を鋳型としてSrUGT74G1セット、UGT76G1を鋳型としてSrUGT76G1セットの鋳型とプライマーの組み合わせで、耐熱性KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡)を用いて、PCRにより増幅し、それぞれのORFの両端に制限酵素サイトを付加した。得られたDNA断片を、ゼロBlunt-TOPO PCRクローニングキット(インビトロジェン)を用いてサブクローニングし、DNA Sequencer model 3100(Applied Biosystems)を用い、合成オリゴヌクレオチドプライマーによるプライマーウォーキング法によって配列を決定し、目的のUGT遺伝子がそれぞれクローン化されていることを確認した。
【0100】
pESC酵母発現システム(ストラタジーン)を用いて、上記遺伝子を酵母で発現させるために、次の発現ベクターを構築した。
(1)プラスミドpESC-URA-UGT56又はpESC-URA-UGT56Rの構築
UGT85C2を制限酵素BglIIと制限酵素SalIで切り出し、ベクターpESC-URA(ストラタジーン)を制限酵素BamHIと制限酵素SalIで切断したものと連結して、プラスミドpESC-URA-UGT-1を得た。このプラスミドpESC-URA-UGT-1を制限酵素NotIと制限酵素PacIで切断したものと、UGT91D2又はUGT91D2L#16を制限酵素NotIと制限酵素PacIで切り出したものを連結し、pESC-URA-UGT56又はpESC-URA-UGT56Rを得た。
(2)プラスミドpESC-HIS-UGT78の構築
UGT76G1を制限酵素BamHIと制限酵素SalIで切り出し、ベクターpESC-HIS(ストラタジーン)を同じ制限酵素で切断したものを連結し、プラスミドpESC-HIS-UGT-8を得た。このプラスミドpESC-HIS-UGT-8を制限酵素NotIと制限酵素PacIで切断したものと、UGT74G1をNotIとPacIで切り出したものを連結し、pESC-HIS-UGT78を得た。
【0101】
酵母の形質転換
Saccharomyces cerevisiae YPH499株(ura3-52 lys2-801
amberade2-101
ochre trp1-Δ63 his3-Δ200 leu2-Δ1 a)を宿主として、酢酸リチウム法で、表1のプラスミドを導入した。形質転換株として、SC-Trp&Ura&His寒天培地(1Lあたり、Yeast nitrogen b
ase without amino acids 6.7g、グルコース 20g、アミノ酸ミックスパウダー-Trp&Ura&His 1.3g、Bacto agar 20g)で生育するものを選抜した。
【表1】
【0102】
なお、アミノ酸ミックスパウダー-Trp&Ura&Hisは、アデニン硫酸塩 2.5g、L-アルギニン塩酸塩 1.2g、L-アスパラギン酸 6.0g、L-グルタミン酸 6.0g、L-ロイシン3.6g、L-リジン 1.8g、L-メチオニン 1.2g、L-フェニルアラニン 3.0g、L-セリン 22.5g、L-スレオニン12g、L-チロシン 1.8g、L-バリン 9.0gを混ぜて調製した。
【0103】
導入遺伝子の発現誘導と発現解析
得られた形質転換株を以下の通り培養した。
まず、前培養としてSC-Trp&Ura&His液体培地(SC- Trp&Ura&His寒天培地のBacto agarを除く)10 mlに、それぞれの形質転換株を植菌し、30℃で1日間振とう培養した。次に、本培養として前培養液のうち、1 mlを10 mlのSG-Trp&Ura&His液体培地(1Lあたり、Yeast nitrogen base without amino acids 6.7g、ガラクトース 20g、アミノ酸ミックスパウダー-Trp&Ura&His 1.3g)に植菌し、30℃で2日間振とう培養した。
形質転換株で導入した遺伝子が発現したかどうかを確認するため、培養液から菌体を集め、RNeasy Mini Kitを用いて、トータルRNAを精製した。
トータルRNA 1μgをとり、スーパースクリプトII逆転写酵素(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、ランダムヘキサマーをプライマーとして、cDNAを合成した。
【0104】
導入遺伝子の発現を確認するために、以下のプライマーを作製した。
UGT85C2発現確認用
UGT85C2-r1:
5’-CAAGTCCCCAACCAAATTCCGT-3’ (配列番号51)
UGT91D2およびUGT91D2L3#16発現確認用
UGT91D1L3-r1:
5’-CACGAACCCGTCTGGCAACTC-3’ (配列番号52)
UGT74G1発現確認用
UGT74G1-r1:
5’-CCCGTGTGATTTCTTCCACTTGTTC-3’ (配列番号53)
UGT76G1発現確認用
UGT76G1-r1:
5’-CAAGAACCCATCTGGCAACGG-3’ (配列番号54)
GAL10p領域 (プロモーター領域)
PGAL10-f3:
5’-GATTATTAAACTTCTTTGCGTCCATCCA-3’ (配列番号55)
GAL1p領域(プロモーター領域)
PGAL1-f3:
5’-CCTCTATACTTTAACGTCAAGGAGAAAAAACC-3’ (配列番号56)
【0105】
各導入遺伝子が発現していることは、以下のプライマーの組み合わせで、先に合成したcDNAを鋳型として、ExTaq(タカラバイオ)を用いてPCRを行い、その産物をアガロースゲル電気泳動により確認した。
UGT85C2:UGT85C2-r1(配列番号51)とPGAL1-f3(配列番号56)
UGT91D2又はUGT91D2L3:UGT91D1L3-r1(配列番号52)とPGAL10-f3(配列番号55)
UGT74G1:UGT74G1-r1(配列番号53)とPGAL1-f3(配列番号56)
UGT76G1:UGT76G1-r1(配列番号54)とPGAL10-f3(配列番号55)
これにより、形質転換株で、導入した遺伝子が発現していることが確認できた。
【0106】
ステビオール配糖体の生産
培養は、SG-Trp&Ura&His液体培地に培地1 mlあたり2μgのステビオール(ChromaDex Inc.)を添加した以外は、上記実施例5と同様の条件で行った。培養終了後、培養液を遠心分離により、上清と菌体に分離した。培養上清を、アセトニトリルで洗浄後、水で平衡化したSep-Pak C18カラムに供し、20% アセトニトリルで洗浄後、80%アセトニトリルで溶出し、乾固後、少量の80% アセトニトリルに溶解して配糖体サンプルを調製した。この配糖体サンプルを以下の分析に供した。
【0107】
HPLCによる分析
得られたステビオール配糖体をHPLCによって分析した。条件は以下のとおりである。
カラム:コスモシール5C18-AR-II 4.6mmI.D.x250mm(ナカライテスク)
移動相:A;アセトニトリル、B;10mM リン酸ナトリウムバッファー(pH2.6)
B conc.70%→30% 40分 linear gradient
流速:1ml/分
温度:40℃
検出:UV 210nm
【0108】
UDP-ラムノース合成酵素遺伝子とステビオール配糖化酵素遺伝子を共発現させたS1-5678株、S1-56R78株、S2-5678株、S2-56R78株でrebCが生成した。UGT91D2L#16を発現させたほうがUGT91D2を発現させた株よりrebCの生成量は多かった。UGT91D2L#16を発現させた結果を
図7に示す。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によれば、SrRHM1およびSrRHM2遺伝子を利用してグルコースからラムノースを生成することができる。また、ラムノース基を含有するステビオール配糖体の含有量を制御することでステビア甘味製剤の甘味度および味質を制御させることができる。特にSrRHM2の遺伝子発現はラムノース基含有ステビオール配糖体の有無と関連性が高く、この遺伝子をマーカーにステビア植物体の甘味配糖体を構成する糖の質的な選抜に利用可能と考える。また本発明は、植物のみならず微生物においてRebCに代表されるラムノース基を含有するステビオール配糖体を代謝工学的に生産させるための分子ツールを与える。
【配列表】