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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-18
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】リン酸ジルコニウム
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/45 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
C01B25/45 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021168727
(22)【出願日】2021-10-14
【審査請求日】2021-10-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000208662
【氏名又は名称】第一稀元素化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金指 賢
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-103008(JP,A)
【文献】特開平05-017112(JP,A)
【文献】特開平07-101711(JP,A)
【文献】特開2004-284945(JP,A)
【文献】特開昭60-239313(JP,A)
【文献】国際公開第2009/063891(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00
C01G 25/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1]で表され、
X線回折法により測定される2θ=5~13°の範囲の最大ピーク強度をIa、2θ=26~28°の範囲の最大ピーク強度をIbとしたときに、Ia/Ibが1.0以下であることを特徴とするリン酸ジルコニウム。
Zr(H(NH(PO))(HPO)・nHO [1]
ただし、式[1]において、a及びbは、a+b=1、0.01≦b<1を満たす数であり、nは0≦n≦2を満たす数である。
【請求項2】
下記Li吸着試験によるLiの吸着量が20%以上であり、
下記Ag吸着試験によるAgの吸着量が40%以上であることを特徴とする請求項1に記載のリン酸ジルコニウム。
<Li吸着試験>
(1)LiClを0.01mol秤量した後、純水を加えて全量が20gのLiCl溶液を調合する。この溶液にリン酸ジルコニウムを3g、粉末で投入して25℃で120分攪拌し、その後、リン酸ジルコニウムを遠心濾過する。
(2)上記(1)の後の濾液のLi濃度(mol/L)を原子吸光分析により求めて、濾液に含まれるLi量(mol)を求める。
(3)以下の式(a)によりLiの吸着量(%)を求める。
式(a): [Liの吸着量(%)]=(1-[濾液のLi量mol]/0.01)×100
<Ag吸着試験>
(4)AgNOを0.01mol秤量した後、純水を加えて全量が20gのAgNO溶液を調合する。この溶液にリン酸ジルコニウムを3g、粉末で投入して25℃で120分攪拌し、その後、リン酸ジルコニウムを遠心濾過する。
(5)上記(4)の後の濾液のAg濃度(mol/L)を原子吸光分析により求めて、濾液に含まれるAg量(mol)を求める。
(6)以下の式(a)によりAgの吸着量(%)を求める。
式(b): [Agの吸着量(%)]=(1-[濾液のAg量mol]/0.01)×100
【請求項3】
40℃、1気圧の条件下で、NHガスに15分間暴露すると、暴露前と比較して、前記Iaが増加していることを特徴とする請求項1又は2に記載のリン酸ジルコニウム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸ジルコニウムに関する。
【背景技術】
【0002】
結晶質リン酸ジルコニウムは、耐熱性、耐薬品性、耐酸化性、耐放射線性等に優れ、カチオンに対し特異な選択性を示す交換容量の大きい無機イオン交換体として知られている。特に、層状構造を有する結晶質リン酸ジルコニウム(以下、層状リン酸ジルコニウムともいう)は、種々の層間距離を有する吸着型及びイオン交換型の層状物質としてインターカレーションへの利用、触媒としての応用等が有望視されており、種々の分野で研究開発が行なわれている。
【0003】
従来、層状リン酸ジルコニウムとしては、α型のα-Z(HPO(以下、α-リン酸ジルコニウムともいう)や、γ型のγ-Z(HPO(以下、γ-リン酸ジルコニウムともいう)が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭60-103008号公報
【文献】特開2012-224518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、層状リン酸ジルコニウムは、各種の特性が優れていることから、新たな特性を備える新規なリン酸ジルコニウムの開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来にはない新たな特性を有し得る新規なリン酸ジルコニウムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、リン酸ジルコニウムについて鋭意検討を行った。その結果、下記構成を有する従来にはない新規なリン酸ジルコニウムを創出することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係るリン酸ジルコニウムは、以下の構成を有する。
下記式[1]で表され、
X線回折法により測定される2θ=5~13°の範囲の最大ピーク強度をIa、2θ=26~28°の範囲の最大ピーク強度をIbとしたときに、Ia/Ibが1.0以下であることを特徴とするリン酸ジルコニウム。
Zr(H(NH(PO))(HPO)・nHO [1]
ただし、式[1]において、a及びbは、a+b=1、0≦b<1を満たす数であり、nは0≦n≦2を満たす数である。
【0009】
前記Ibは、層状のリン酸ジルコニウムの面方向の配列規則性に応じたピークである。前記Iaは、層状のリン酸ジルコニウムの積層方向の層間距離に応じたピークである。前記構成によれば、Ia/Ibが1.0以下であるため、面方向の配列規則性については規則性が高い一方、積層方向の層間距離について規則性が低い。つまり、Ia/Ibが1.0以下であるため、層間距離については、配向性(層間距離の均一性)が弱い。
前記式[1]で表され、前記Ia/Ibが1.0以下である構成のリン酸ジルコニウムは、従来知られていない新規なリン酸ジルコニウムである。前記リン酸ジルコニウムは、前記式1中のH(水素)の含有量に応じて、従来にはない新たな特性を備える。すなわち、前記リン酸ジルコニウムは、a又はbの値に応じた、従来にはない新たな特性を備え得る。
【0010】
(2)前記(1)の構成においては、
下記Li吸着試験によるLiの吸着量が20%以上であり、
下記Ag吸着試験によるAgの吸着量が40%以上であることが好ましい。
<Li吸着試験>
(1)LiClを0.01mol秤量した後、純水を加えて全量が20gのLiCl溶液を調合する。この溶液にリン酸ジルコニウムを3g、粉末で投入して25℃で120分攪拌し、その後、リン酸ジルコニウムを遠心濾過する。
(2)上記(1)の後の濾液のLi濃度(mol/L)を原子吸光分析により求めて、濾液に含まれるLi量(mol)を求める。
(3)以下の式(a)によりLiの吸着量(%)を求める。
式(a): [Liの吸着量(%)]=(1-[濾液のLi量mol]/0.01)×100
<Ag吸着試験>
(4)AgNOを0.01mol秤量した後、純水を加えて全量が20gのAgNO溶液を調合する。この溶液にリン酸ジルコニウムを3g、粉末で投入して25℃で120分攪拌し、その後、リン酸ジルコニウムを遠心濾過する。
(5)上記(4)の後の濾液のAg濃度(mol/L)を原子吸光分析により求めて、濾液に含まれるAg量(mol)を求める。
(6)以下の式(a)によりAgの吸着量(%)を求める。
式(b): [Agの吸着量(%)]=(1-[濾液のAg量mol]/0.01)×100
【0011】
Liの吸着量が20%以上であるということは、層間距離がLiイオンの半径に相当する距離となっている部分が存在することを意味する。
また、Agの吸着量が40%以上であるということは、層間距離がAgイオンの半径に相当する距離となっている部分が存在することを意味する。
ここで、Liイオンは、イオン半径が比較的小さい。一方、Agイオンは、イオン半径が比較的大きい。
Liの吸着量が20%以上であり、且つ、Agの吸着量が40%以上である場合、当該リン酸ジルコニウムは、層間距離がLiイオンの半径に相当する距離となっている部分が存在し、且つ、層間距離がAgイオンの半径に相当する距離となっている部分が存在する。このように、層間距離が一定ではなく、様々な値(距離)を有する当該リン酸ジルコニウムは、イオン半径の小さい元素(例えば、Li)~イオン半径の大きい元素(例えば、Ag)を広く吸着することができる従来知られていない新規なリン酸ジルコニウムである。
【0012】
(3)前記(1)又は前記(2)構成において、40℃、1気圧の条件下で、NHガスに15分間暴露すると、暴露前と比較して、前記Iaが増加していることが好ましい。
【0013】
前記Iaが増加するということは、積層方向の層間距離の規則性が高まることを意味する。ここで、NHガスに暴露することにより前記Iaが増加するということは、NHが層間に吸着され、層間距離がNH分子の半径(NH の半径)で安定化されたことを意味する。
NHガスに15分間暴露すると前記Iaが増加するような挙動を示すリン酸ジルコニウムは、従来知られていない。つまり、前記リン酸ジルコニウムは、従来知られていない新規な構造(結晶構造)を有するリン酸ジルコニウムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来にはない新たな特性を有し得る新規なリン酸ジルコニウムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1、参考例2、比較例1、比較例3のリン酸ジルコニウムのX線回折スペクトルである。
図2】実施例1のリン酸ジルコニウムのアンモニア昇温脱離法(NH-TPD)により得られたスペクトルである。
図3参考例2のリン酸ジルコニウムのアンモニア昇温脱離法(NH-TPD)により得られたスペクトルである。
図4】比較例1のリン酸ジルコニウムのアンモニア昇温脱離法(NH-TPD)により得られたスペクトルである。
図5】比較例2のリン酸ジルコニウムのアンモニア昇温脱離法(NH-TPD)により得られたスペクトルである。
図6】比較例3のリン酸ジルコニウムのアンモニア昇温脱離法(NH-TPD)により得られたスペクトルである。
図7】実施例1のリン酸ジルコニウムのNHガス暴露前と暴露後のX線回折スペクトルである。
図8】実施例1の前駆体化合物、熱処理後の前駆体化合物、比較例1のリン酸ジルコニウム、比較例3のリン酸ジルコニウムのX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。なお、本明細書において、リン酸ジルコニウムを構成するジルコニウムには、その一部としてハフニウムを含む不可避不純物が含まれる。また、本明細書において、リン酸ジルコニウムは、ハフニウム以外のシリカやチタニア等の不純物が製造上等の理由により、1質量%以下の量で含有され得る。
【0017】
[リン酸ジルコニウム]
本実施形態に係るリン酸ジルコニウムは、下記式[1]で表される。
Zr(H(NH(PO))(HPO)・nHO [1]
【0018】
式[1]において、a及びbは、a+b=1、0≦b<1を満たす数である。
【0019】
bは、0以上1未満であれば、特に限定されない。bは、結晶構造の配向性の観点からは、大きいほど好ましく、例えば、0.01以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。また、bは、イオン交換量の観点からは、小さい方が好ましく、例えば、0.7以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。
【0020】
前記リン酸ジルコニウムは、吸着材として利用され、Li、Na、K、Cs、Ag等を吸着等により含むこととなった場合、吸着物吸着後の前記リン酸ジルコニウムは、式[1]のリン酸ジルコニウムに、Li、Na、K、Cs、Ag等が吸着されたものとなる。吸着物吸着後の前記リン酸ジルコニウムは、式[1]のリン酸ジルコニウムに、Li、Na、K、Cs、Ag等が吸着されたものであるから、式[1]で表される部分を有している。吸着物吸着後のリン酸ジルコニウムは、式[1]で表される部分を有しているため、吸着物吸着後のリン酸ジルコニウムも本発明に含まれる。
吸着物吸着後のリン酸ジルコニウムは、式[1]のリン酸ジルコニウムに、Li、Na、K、Cs、Ag等が吸着されたものであるから、吸着物吸着後のリン酸ジルコニウム全体としては、式[2]で表すことができる。
Zr(H(NH(PO))(HPO)・nHO [2]
ただし、式[2]において、Mは、Li、Na、K、Cs及びAgからなる群から選ばれる1種以上であり、a、b及びcは、a+b+c=1、0≦b<1、0≦c<1を満たす数であり、nは0≦n≦2を満たす数である。cは、0以上1未満であれば、特に限定されない。
【0021】
式[1]又は[2]において、nは0≦n≦2を満たす数である。nは、0以上2以下であれば、特に限定されない。nは、例えば、0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。また、nは、例えば、1.95以下が好ましく、1.8以下がより好ましい。なお、nが小さいほど、組成中に水が少ないことを意味する。例えば、有機溶媒に分散させた際に、水が各種反応等を阻害する要因となることを抑制する観点からは、nは小さいことが好ましい。また、水との親和性の観点からは、nは大きいことが好ましい。
【0022】
本実施形態に係るリン酸ジルコニウムは、X線回折法により測定される2θ=5~13°の範囲の最大ピーク強度をIa、2θ=26~28°の範囲の最大ピーク強度をIbとしたときに、Ia/Ibが1.0以下である。前記Ibは、層状のリン酸ジルコニウムの面方向の配列規則性に応じたピークである。前記Iaは、層状のリン酸ジルコニウムの積層方向の層間距離に応じたピークである。前記Ia/Ibが1.0以下であるため、面方向の配列規則性については規則性が高い一方、積層方向の層間距離について規則性が低い。つまり、Ia/Ibが1.0以下であるため、層間距離については、配向性(層間距離の均一性)が弱く、様々な値(距離)に変化する柔軟な層間を有する。層間距離が柔軟性を有するため、イオン半径の小さなもの、大きいもの等、種々のイオン半径を有するものを層間に存在させることができる。
前記Ia/Ibは、1.0以下であれば特に限定されないが、例えば、0.99以下、0.8以下である。また、前記Ia/Ibは、1.0以下であれば特に限定されないが、例えば、0.01以上、0.1以上である。前記Ia/Ibは、小さいほど、層間距離の配向性(層間距離の均一性)が弱いことを意味する。
前記Ia/Ibの求め方は実施例に記載の方法による。
【0023】
前記リン酸ジルコニウムは、前記式1中のH(水素)の含有量や、Mの含有量に応じて、従来にはない新たな特性を備える。すなわち、前記リン酸ジルコニウムは、a、b、cの値に応じた、従来にはない新たな特性を備え得る。
前記Ia/Ibを1.0以下に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、リン酸ジルコニウムを製造するための各原料を仕込んだ溶液のpHを2超え5以下の範囲内に維持しながら前記溶液中で生成される前駆体化合物を熟成させ、その後、熱処理又は酸処理を行う方法が挙げられる。詳細は、後にリン酸ジルコニウムの製造方法の項にて説明する。
【0024】
前記リン酸ジルコニウムは、下記Li吸着試験によるLiの吸着量が20%以上であり、下記Ag吸着試験によるAgの吸着量が40%以上であることが好ましい。
【0025】
前記Liの吸着量は、より好ましくは21%以上であり、さらに好ましくは22%以上、特に好ましくは23%以上、特別に好ましくは23.5%以上である。また、前記Liの吸着量は、好ましくは50%以下であり、より好ましくは45%以下、さらに好ましくは40%以下、特に好ましくは35%以下である。
【0026】
前記Agの吸着量は、より好ましくは42%以上であり、さらに好ましくは44%以上、特に好ましくは46%以上、特別に好ましくは48%以上、格別に好ましくは50%以上である。また、前記Agの吸着量は、好ましくは80%以下であり、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは65%以下、特に好ましくは60%以下である。
【0027】
<Li吸着試験>
(1)LiClを0.01mol秤量した後、純水を加えて全量が20gのLiCl溶液を調合する。この溶液にリン酸ジルコニウムを3g、粉末で投入して25℃で120分攪拌し、その後、リン酸ジルコニウムを遠心濾過する。
(2)上記(1)の後の濾液のLi濃度(mol/L)を原子吸光分析により求めて、濾液に含まれるLi量(mol)を求める。
(3)以下の式(a)によりLiの吸着量(%)を求める。
式(a): [Liの吸着量(%)]=(1-[濾液のLi量mol]/0.01)×100
【0028】
<Ag吸着試験>
(4)AgNOを0.01mol秤量した後、純水を加えて全量が20gのAgNO溶液を調合する。この溶液にリン酸ジルコニウムを3g、粉末で投入して25℃で120分攪拌し、その後、リン酸ジルコニウムを遠心濾過する。
(5)上記(4)の後の濾液のAg濃度(mol/L)を原子吸光分析により求めて、濾液に含まれるAg量(mol)を求める。
(6)以下の式(a)によりAgの吸着量(%)を求める。
式(b): [Agの吸着量(%)]=(1-[濾液のAg量mol]/0.01)×100
【0029】
なお、上記Li吸着試験、及び、上記Ag吸着試験において、リン酸ジルコニウムの投入量を、molではなく、g(グラム)で規定しているのは、測定対象のリン酸ジルコニウムの組成が明確でない場合、正確な投入量をmolで表すことが困難であるためである。なお、投入量をg(グラム)で表したとしても、おおよそのmolは確定されるため、吸着量を求める試験として支障はない。
【0030】
Liの吸着量が20%以上であるということは、層間距離がLiイオンの半径に相当する距離となっている部分が存在することを意味する。
また、Agの吸着量が40%以上であるということは、層間距離がAgイオンの半径に相当する距離となっている部分が存在することを意味する。
ここで、Liイオンは、イオン半径が比較的小さい。一方、Agイオンは、イオン半径が比較的大きい。
Liの吸着量が20%以上であり、且つ、Agの吸着量が40%以上である場合、当該リン酸ジルコニウムは、層間距離がLiイオンの半径に相当する距離となっている部分が存在し、且つ、層間距離がAgイオンの半径に相当する距離となっている部分が存在する。このように、層間距離が一定ではなく、様々な値(距離)に変化する柔軟な層間を有する当該リン酸ジルコニウムは、従来知られていない新規なリン酸ジルコニウムである。
【0031】
上記Li吸着試験は、LiCl試薬(水溶液)を用い、且つ、25℃という緩やかな条件で行っている。つまり、このLi吸着試験は、リン酸ジルコニウムの層間に強制的に大きな吸着力でLiを吸着させるのではなく、層間距離がLiイオン半径に相当する場合にのみ、その層間にLiイオンが吸着(固定)される試験である。
層間距離がLiイオン半径よりも小さすぎる場合(Hイオン半径程度しかない場合)には、Liイオンは、層間に入り込むことができず、吸着されない。また、層間距離がLiイオン半径よりも大きすぎる場合には、Liイオンは、層間に一時的に入り込むことはあっても大きな吸着力がないため、層間に吸着(固定)はされない。
同様に、上記Ag吸着試験は、AgNO試薬(水溶液)を用い、且つ、25℃という緩やかな条件で行っている。つまり、このAg吸着試験は、リン酸ジルコニウムの層間に強制的に大きな吸着力でAgを吸着させるのではなく、層間距離がAgイオン半径に相当する場合にのみ、その層間にAgイオンが吸着(固定)される試験である。層間距離がAgイオン半径よりも小さすぎる場合には、Agイオンは、層間に入り込むことができず、吸着されない。また、層間距離がAgイオン半径よりも大きすぎる場合には、Agイオンは、層間に一時的に入り込むことはあっても大きな吸着力がないため、層間に吸着(固定)はされない。
なお、強アルカリ条件下や高温条件下のような厳しい条件で吸着試験を行うと、層間距離と吸着量との相関を得ることはできない。これは、アルカリの電離エネルギーや熱エネルギーにより、層間距離に関わらず、イオンが層間に強制的に吸着することになるからである。従って層間距離を確認するための上記Li吸着試験、上記Ag吸着試験は、弱酸性~中性~弱アルカリ性(強酸性、強アルカリは不可)の水溶液を用い、且つ、25℃という緩やかな条件で行う必要がある。
【0032】
前記リン酸ジルコニウムは、アンモニア昇温脱離法における90℃から200℃までの第一脱離アンモニア量と250℃から550℃までの第二脱離アンモニア量との比[第二脱離アンモニア量]/[第一脱離アンモニア量]が2.5以上であることが好ましい。
アンモニアを吸着させたリン酸ジルコニウムは、550℃までの昇温によりほぼ全て(少なくとも、60質量%以上)のアンモニアが脱離することになる。
前記比[第二脱離アンモニア量]/[第一脱離アンモニア量]が2.5以上であるということは、550℃までの昇温により脱離するアンモニア総量のうち、90℃から200℃までにおいて脱離するアンモニアの量が、250℃から550℃までにおいて脱離するアンモニア量よりも極めて少ないということを意味する。つまり、低温領域(90℃~200℃)における吸着アンモニアの脱離が極めて抑制されているという従来にはない新たな特性を有する。
前記比[第二脱離アンモニア量]/[第一脱離アンモニア量]は、2.51以上であることがより好ましく、2.55以上であることがさらに好ましい。前記比[第二脱離アンモニア量]/[第一脱離アンモニア量]は、大きいほど好ましいが、現実的には、例えば、100以下等である。
アンモニア昇温脱離法とは、試料にアンモニア(NH)を吸着させた後、一定の昇温速度に制御して連続的に昇温させて、脱離するアンモニア量及び脱離温度を測定する方法である。前記比[第二脱離アンモニア量]/[第一脱離アンモニア量]の求め方は実施例に記載の方法による。
【0033】
前記リン酸ジルコニウムは、40℃、1気圧の条件下で、NHガスに15分間暴露すると、暴露前と比較して、前記Iaが増加していることが好ましい。
前記Iaが増加するということは、積層方向の層間距離の規則性が高まることを意味する。ここで、NHガスに暴露することにより前記Iaが増加するということは、NHが層間に吸着され、層間距離がNH分子の半径(NH の半径)で安定化されたことを意味する。
NHガスに15分間暴露すると前記Iaが増加するような挙動を示すリン酸ジルコニウムは、従来知られていない。つまり、前記リン酸ジルコニウムは、従来知られていない新規な構造(結晶構造)を有するリン酸ジルコニウムである。
NHガスへの暴露による前記Iaの増加割合は、特に限定されないが、例えば、NHガスへの暴露前に対して1倍超え、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.6倍以上、さらに好ましくは2.2倍以上、特に好ましくは2.5倍以上、特別に好ましくは3.0倍以上である。また、前記増加割合は大きいほど好ましいが、例えば、NHガスへの暴露前に対して20倍以下、10倍以下、5倍以下、4倍以下等である。
【0034】
(粒子径D90
前記リン酸ジルコニウムの粒子径D90は、粒径の細かいリン酸ジルコニウムを提供する観点からは、10μm以下であることが好ましい。前記粒子径D90は、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。前記粒子径D90は、粒径の細かいリン酸ジルコニウムを提供する観点からは、小さいほど好ましいが、例えば、0.01μm以上、0.05μm以上等とすることができる。
【0035】
(粒子径D10
前記リン酸ジルコニウムの粒子径D10は、粒径の細かいリン酸ジルコニウムを提供する観点からは、小さい方が好ましいが、特に限定されない。粒子径D10としては、例えば、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.9μm以下等とすることができる。また、前記粒子径D10としては、例えば、好ましくは0.001μm以上等とすることができる。
【0036】
(粒子径D50
前記リン酸ジルコニウムの粒子径D50は、粒径の細かいリン酸ジルコニウムを提供する観点からは、小さい方が好ましいが、特に限定されない。粒子径D50としては、例えば、5μm以下、好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2.5μm以下等とすることができる。また、前記粒子径D50としては、例えば、0.01μm以上、好ましくは0.05μm以上等とすることができる。
【0037】
前記粒子径D10、前記粒子径D50、前記粒子径D90は、実施例に記載の方法により得られた値をいう。なお、本明細書に記載の前記粒子径D10、前記粒子径D50、前記粒子径D90は体積基準で測定されており、前記粒子径D10はレーザー回折法により測定される、最少粒径値より累積値10%にあたる粒子径であり、前記粒子径D50はレーザー回折法により測定される、最少粒径値より累積値50%にあたる粒子径であり、前記粒子径D90はレーザー回折法により測定される、最少粒径値より累積値90%にあたる粒子径である。
【0038】
以上、本実施形態に係るリン酸ジルコニウムについて説明した。
【0039】
[リン酸ジルコニウムの製造方法]
以下、リン酸ジルコニウムの製造方法の一例について説明する。ただし、本発明に係るリン酸ジルコニウムの製造方法は、以下の例示に限定されない。
【0040】
本実施形態に係るリン酸ジルコニウムの製造方法は、
ジルコニウム化合物と、カルボキシル基を2個以上有する化合物と、リン酸化合物と、アンモニウムを有する化合物とを含有する水溶液を作製する工程Aと、
pH2超え5以下の範囲内を維持しながら、前記水溶液を加熱して前記水溶液中で生成される前駆体化合物を熟成させる工程Bと、
熟成された前記前駆体化合物を熱処理又は酸処理する工程Cと
を含む。
【0041】
本実施形態に係るリン酸ジルコニウムの製造方法においては、まず、ジルコニウム化合物と、カルボキシル基を2個以上有する化合物と、リン酸化合物とを含有する水溶液を作製する(工程A)。
【0042】
前記ジルコニウム化合物としては、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロオキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウム等のハロゲン化ジルコニウム;硫酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム等の鉱酸のジルコニウム塩;酢酸ジルコニル、ギ酸ジルコニル等の有機酸のジルコニウム塩;炭酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウムナトリウム、酢酸ジルコニウムアンモニウム、シュウ酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムアンモニウム等のジルコニウム錯塩等が挙げられる。これらの化合物の中でも生産性の観点から、オキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム等がより好ましい。
【0043】
カルボキシル基を2個以上有する化合物としては、シュウ酸、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸水素ナトリウム、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸水素アンモニウム、シュウ酸リチウム、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、これらの塩類等の脂肪族二塩基酸とその塩類;クエン酸、クエン酸アンモニウム、酒石酸、リンゴ酸等の脂肪族オキシ酸及びこれらの塩類等が挙げられる。これらの中でも、シュウ酸並びにそのナトリウム塩及びアンモニウム塩がより好ましい。
なお、前記ジルコニウム化合物のうち、シュウ酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムアンモニウム等の、カルボキシル基を2個以上有するカルボン酸のジルコニウム化合物は、カルボキシル基を2個以上有する化合物と同様に混合液中で安定性に優れた錯体を形成するので、ジルコニウム化合物として用いる場合であっても、そのカルボキシル基は混合液におけるCとして算入される。
【0044】
前記リン酸化合物としては、リン酸、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム等のオルトリン酸のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩;メタリン酸、ピロリン酸等の少なくとも1個のP-O-P結合を有する縮合リン酸のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、オルトリン酸のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩がより好ましい。
【0045】
前記アンモニウムを有する化合物としては、水酸化アンモニウム(アンモニア水)、炭酸水素アンモニウム(重炭酸アンモニウム)等が挙げられる。
【0046】
前記ジルコニウム化合物と、前記カルボキシル基を2個以上有する化合物と、前記リン酸化合物と、前記アンモニウムを有する化合物との混合比率は、mol比で0.75~1.2:0.75~1.2:1.3~2.5:0.5~2.4の範囲内であることが好ましい。
前記ジルコニウム化合物と、前記カルボキシル基を2個以上有する化合物と、前記リン酸化合物と、前記アンモニウムを有する化合物との混合比率が前記数値範囲内であると、未反応成分をより少なくすることができる。
【0047】
前記の各原料を混合する方法としては、特に限定されない。各原料を同時に混合してもよく、各原料を順に混合してもよい。各原料を順に混合する場合、その順は特に限定されないが、目的とする前駆体化合物ではない不溶物の生成を抑制する観点から、アンモニウムを有する化合物の水溶液に、ジルコニウム化合物、リン酸化合物、カルボキシル基を2個以上有する化合物をこの順で添加することが好ましい。
【0048】
工程Aでは、アンモニウムを有する化合物を添加しているため、通常、pHは2超え5以下となる。ただし、pHが前記数値範囲内にならない場合や、微調整をするために、工程AにおいてpH調整剤を添加してもよい。pH調整剤としては、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物等が挙げられる。
【0049】
次に、pH2超え5以下の範囲内を維持しながら、前記水溶液を加熱して前記水溶液中で生成される前駆体化合物を熟成させる(工程B)。前記pHは、好ましくは2.05以上、より好ましくは2.30以上である。前記pHを2超えとすることにより、好適に前駆体化合物を生成することができる。後述するように、生成される前記前駆体化合物は、α-リン酸ジルコニウムともγ-リン酸ジルコニウムとも異なる構成を備える。なお、pHを2以下にするとα-リン酸ジルコニウムが生成されることになる。
また、前記pHは、好ましくは4.50以下、より好ましくは3.30以下である。前記pHを5以下とすることにより、反応速度を制御することができる。なお、pHを5より大きくすると実質的に生成反応が起こらなくなる。
【0050】
熟成工程(工程B)における加熱温度は特に制限されないが、反応速度の観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上である。また、加熱温度の上限は、特に制限されないが、例えば、200℃以下、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下が挙げられる。
【0051】
熟成工程(工程B)は、常圧下(標準大気圧(101.33kPa)前後)で行ってもよく、加圧条件下で行ってもよい。加圧する場合の加圧条件としては、例えば、0.1MPa以上、0.2MPa以上、0.5MPa以上等が挙げられる。また、加圧条件の上限は、特に制限されないが、例えば、1.0MPa以下、好ましくは0.9MPa以下、さらに好ましくは0.8MPa以下が挙げられる。
【0052】
熟成工程(工程B)を行う時間としては、原料の種類(すなわち、原料の反応性)、原料の配合比、水溶液の濃度、温度、pH、反応生成物の所望の結晶化度等により大幅に変わり得るが、例えば1時間以上、好ましくは3時間以上、さらに好ましくは5時間以上等が挙げられる。また、前記熟成工程を行う時間は、生産性の観点から、好ましくは48時間以下、より好ましくは24時間以下である。
【0053】
熟成工程の後、通常、室温(25℃前後)、常圧に戻す。
【0054】
次に、必要に応じて、よく水洗し、得られた沈殿物から余分なイオンを取り除き、その後乾燥させる。乾燥条件としては特に制限はないが、50℃~150℃の範囲内が好ましい。
【0055】
以上により、前駆体化合物が得られる。前記前駆体化合物は、層間にアンモニアを有するZr((NH)(PO))(HPO)構造を有している。なお、前記前駆体化合物は、α型でもγ型でもないことを確認している。例えば、X線回折スペクトル(図8参照)によれば、前記前駆体化合物は、α-リン酸ジルコニウムともγ-リン酸ジルコニウムとも異なる。
つまり、本実施形態に係るリン酸ジルコニウムは、その製造の途中である前駆体化合物の状態においても、α-リン酸ジルコニウムともγ-リン酸ジルコニウムとも異なる。
【0056】
次に、熟成された前記前駆体化合物を熱処理又は酸処理する(工程C)。この工程Cは、前駆体化合物中のNHの全部又は一部をHに交換する工程である。具体的には、層状の前駆体化合物の層間にあるイオン交換サイトに存在するNHの全部又は一部をHに交換する工程である。なお、層間にあるイオン交換サイトに存在するNHの全部又は一部がHに交換されると、配向性(層間距離の均一性)が弱くなる。このことは、工程Bの後、工程Cの前の前駆体化合物では、Iaのピーク強度が大きいのに対して、工程Cの後のIaのピーク強度が小さいことと一致する(図8参照)。
【0057】
前記熱処理における加熱温度は、Hへの交換効率の観点から、好ましくは250℃以上、より好ましくは300℃以上である。また、前記加熱温度は、熱分解を抑制する観点から、好ましくは500℃以下、より好ましくは480℃以下である。
【0058】
前記熱処理は、常圧下(標準大気圧(101.33kPa)前後)で行ってもよく、加圧条件下で行ってもよい。加圧する場合の加圧条件としては、例えば、1.05気圧以上、1.10気圧以上、1.15気圧以上等が挙げられる。また、加圧条件の上限は、特に制限されないが、例えば、10気圧以下、好ましくは5気圧以下、さらに好ましくは2気圧以下が挙げられる。
【0059】
前記熱処理を行う加熱時間としては、NHを充分にHに交換する観点から、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上である。また、前記加熱時間は、生産性の観点から、好ましくは10時間以下、より好ましくは8時間以下である。
【0060】
前記酸処理に使用する酸処理剤としては、塩酸水溶液、硝酸水溶液、硫酸水溶液、過塩素酸、等が挙げられる。
【0061】
前記酸処理に用いる水溶液の濃度は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。前記濃度が10質量%以上であると、好適にNHをHに交換することができる。前記酸処理に用いる水溶液の濃度は、排水の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは19質量%以下である。
【0062】
前記酸処理時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上である。前記酸処理時間が1時間以上であると、好適にNHをHに交換することができる。前記酸処理時間は、生産性の観点から、好ましくは12時間以下、より好ましくは10時間以下である。
【0063】
前記酸処理時の温度は、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上である。前記温度が30℃以上であると、好適にNHをHに交換することができる。前記温度は、安全性の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは70℃以下である。
【0064】
前記酸処理の後、必要に応じて、よく水洗し、得られた沈殿物から余分なイオンを取り除き、その後乾燥させる。乾燥条件としては特に制限はないが、50℃~150℃の範囲内が好ましい。
【0065】
以上、本実施形態に係るリン酸ジルコニウムの製造方法について説明した。
【実施例
【0066】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例におけるリン酸ジルコニウムには、不可避不純物としてハフニウムをジルコニウムに対して酸化物換算で1.3~2.5質量%含有(下記式(X)にて算出)している。また、実施例及び比較例におけるリン酸ジルコニウムには、ハフニウム以外にも製造上等の理由により、シリカやチタニアが不純物として0.1質量%以下の量で含有され得る。
<式(X)>
([酸化ハフニウムの質量]/([酸化ジルコニウムの質量]+[酸化ハフニウムの質量]))×100(%)
【0067】
以下の実施例で示される各成分の含有量の最大値、最小値は、他の成分の含有量に関係なく、本発明の好ましい最小値、好ましい最大値と考慮されるべきである。
また、以下の実施例で示される測定値の最大値、最小値は、各成分の含有量(組成)に関係なく、本発明の好ましい最小値、最大値であると考慮されるべきである。
【0068】
<リン酸ジルコニウムの作製>
(実施例1)
(工程A)
純水300mlにオキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl)0.1molと重炭酸アンモニウム(NHHCO)0.2molとを溶解させた。次に、リン酸一ナトリウム(NaHPO)を0.2molとシュウ酸(HOOC-COOH)0.1molとを水溶液で投入した。投入したシュウ酸水溶液の濃度は、5質量%である。得られた水溶液のpHを測定したところ、2.7であった。ここまでの操作は、室温(25℃)、常圧下にて行った。
【0069】
(工程B)
次に、pHを2.7に維持しながら、120℃、0.2MPaで18時間攪拌を行った。その後、室温(25℃)に戻した。
【0070】
次に、よく水洗し、得られた沈殿物から余分なイオンを取り除いた。以上により、前駆体化合物を得た。
【0071】
(工程C)
次に、得られた前駆体化合物を、常圧下、400℃で3時間の熱処理を行った。以上により、実施例1に係るリン酸ジルコニウムを得た。
【0072】
(実施例2)
シュウ酸の添加量を0.2molとし、さらに重炭酸アンモニウムの添加量を0.4molとしたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2に係るリン酸ジルコニウムを得た。なお、工程Aの後、工程Bの前の水溶液のpHは2.7であった。
【0073】
(実施例3)
工程Cにおける熱処理温度を350℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例3に係るリン酸ジルコニウムを得た。
【0074】
(実施例4)
工程Cにおける熱処理温度を300℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例4に係るリン酸ジルコニウムを得た。
【0075】
参考例2
400℃で3時間の熱処理を行う代わりに、35%塩酸を0.3mol含む水溶液中で1時間攪拌を行い、その後、得られた沈殿物の余分なイオンを取り除くためによく水洗し、100℃で16時間乾燥させたこと以外は、実施例1と同様にして参考例2のリン酸ジルコニウムを得た。
【0076】
(比較例1)
純水850mlにシュウ酸2水和物0.62mol、オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.22molを溶解後、攪拌しながらリン酸0.46molを加えた。得られた水溶液のpHを測定したところ、0.5であった。この溶液を、攪拌を続けながら98℃で10時間熟成を行った。得られた沈殿物の余分なイオンを取り除くためによく水洗し、150℃で16時間乾燥をすることにより比較例1のリン酸ジルコニウムを得た。なお、この比較例1は、特開2012-224518号公報の実施例1の追試である。
【0077】
(比較例2)
乾燥温度を400℃としたこと以外は、比較例1と同様にして比較例2のリン酸ジルコニウムを得た。
【0078】
(比較例3)
純水300mlにオキシ塩化ジルコニウム0.05molとシュウ酸0.16molとを溶解後、この混合溶液を攪拌しながら65℃に加熱をした。その後、リン酸一アンモニウム1.23molを水溶液で投入した。次いで、pH2.0となるまで6Nアンモニア水を加えた。その後、96℃常圧下で24時間攪拌を行った後、室温まで自然放冷を行った。固形反応生成物、及び、母液に濃塩酸を0.1mol加え、室温で30分攪拌を行った。その後、得られた沈殿物の余分なイオンを取り除くためによく水洗し、50℃で乾燥をすることで比較例3のリン酸ジルコニウムを得た。なお、この比較例3は、特開昭60-103008号公報の実施例2の追試である。
【0079】
[X線回折スペクトル]
実施例、比較例のリン酸ジルコニウムについて、X線回折装置(「RINT2500」リガク製)を用い、X線回折スペクトルを得た。測定条件は下記の通りとした。
<測定条件>
測定装置:X線回折装置(リガク製、RINT2500)
線源:CuKα線源
管電圧:50kV
管電流:300mA
走査速度:2θ=5~60°:4°/分
【0080】
表1に、2θ=5~13°の範囲の最大ピーク強度Iaと、2θ=26~28°の範囲の最大ピーク強度Ibとの比Ia/Ibを示す。また、実施例1、参考例2、比較例1、比較例3については、図1に、X線回折スペクトルを示した。
【0081】
[吸着試験]
<Li吸着試験>
(1)LiClを0.01mol秤量した後、純水を加えて全量が20gのLiCl溶液を調合した。この溶液に実施例、比較例のリン酸ジルコニウムを3.0g、粉末で投入して25℃で120分攪拌し、その後、リン酸ジルコニウムを遠心濾過した。
(2)上記(1)の後の濾液のLi濃度(mol/L)を原子吸光分析により求めて、濾液に含まれるLi量(mol)を求めた。
(3)以下の式(a)によりLiの吸着量(%)を求めた。
式(a): [Liの吸着量(%)]=(1-[濾液のLi量mol]/0.01)×100
結果を表1に示す。
【0082】
<Ag吸着試験>
(4)AgNOを0.01mol秤量した後、純水を加えて全量が20gのAgNO溶液を調合した。この溶液に実施例、比較例のリン酸ジルコニウムを3.0g、粉末で投入して25℃で120分攪拌し、その後、リン酸ジルコニウムを遠心濾過した。
(5)上記(4)の後の濾液のAg濃度(mol/L)を原子吸光分析により求めて、濾液に含まれるAg量(mol)を求めた。
(6)以下の式(a)によりAgの吸着量(%)を求めた。
式(b): [Agの吸着量(%)]=(1-[濾液のAg量mol]/0.01)×100
結果を表1に示す。
【0083】
また、実施例1の前駆体化合物について、上記と同様のLi吸着試験、及び、Ag吸着試験を行った。その結果を、参考例1として示す。
【0084】
実施例1~実施例4、参考例2は、Li吸着量が多く、且つ、Ag吸着量も多かった。このことより、実施例1~実施例4、参考例2のリン酸ジルコニウムは、層間距離について、配向性(層間距離の均一性)が弱く、様々な値(距離)に変化する柔軟な層間を有すると推察された。
比較例1、比較例2は、Li吸着量が少なく、且つ、Ag吸着量も少なかった。このことは、比較例1のリン酸ジルコニウム、比較例2のリン酸ジルコニウムがα型であり、層間距離がLiのイオン半径より狭く、且つ、層間距離に配向性がある(均一である)ことと一致する。
比較例3は、Li吸着量が少ない一方、Ag吸着量が多かった。このことは、比較例3のリン酸ジルコニウムがγ型であり、層間距離が広く、且つ、層間距離に配向性がある(均一である)ことと一致する。詳細に説明すると、Ag吸着量が多いことは、層間距離がAgのイオン半径程度に大きいことと一致する。
また、Li吸着量が少ないことは、層間距離がLiイオン半径に近しいものが存在しない(少ない)ことと一致する。つまり、Li吸着試験においては、層間距離がLiイオン半径よりも大きすぎる場合には、Liイオンは、層間に一時的に入り込むことはあっても大きな吸着力がないため、層間に吸着(固定)はされない。
【0085】
[アンモニア昇温脱離法(NH-TPD)によるNH脱離量の測定]
昇温脱離装置(商品名:BELCAT-II、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて、アンモニア昇温脱離法によりリン酸ジルコニウムのNH脱離量の測定を行った。具体的には、下記の通りに行った。
まず、TPD測定用セル内に0.1g精秤したリン酸ジルコニウムを入れ、NHガスを30mL/minで流通させ、15分間保持し、NHを吸着させた。
次に、前記昇温脱離装置にNHを吸着させた後のリン酸ジルコニウムを配置し、該装置内にヘリウムを50ml/minで流通させ、昇温速度10℃/minで1000℃まで昇温した。検出用の質量分析計は、商品名:BELMass、マイクロトラック・ベル株式会社製を用いた。測定は、アンモニアのm/z=16のフラグメントでアンモニアを定量することにより行った。
得られたマススペクトルの90℃から200℃までのピーク面積を第一脱離アンモニア量とし、250℃から550℃までのピーク面積を第二脱離アンモニア量とした。比[第二脱離アンモニア量]/[第一脱離アンモニア量]を表1に示す。また、実施例1、参考例2、比較例1、比較例2、比較例3については、図2図6に、アンモニア昇温脱離法(NH-TPD)により得られたスペクトルを示した。
図2は、実施例1のリン酸ジルコニウムのアンモニア昇温脱離法(NH-TPD)により得られたスペクトルである。図3は、参考例2のリン酸ジルコニウムのアンモニア昇温脱離法(NH-TPD)により得られたスペクトルである。図4は、比較例1のリン酸ジルコニウムのアンモニア昇温脱離法(NH-TPD)により得られたスペクトルである。図5は、比較例2のリン酸ジルコニウムのアンモニア昇温脱離法(NH-TPD)により得られたスペクトルである。図6は、比較例3のリン酸ジルコニウムのアンモニア昇温脱離法(NH-TPD)により得られたスペクトルである。
【0086】
[粒子径D10、粒子径D50、及び、粒子径D90の測定]
実施例、比較例のリン酸ジルコニウム(粉末)0.15gと40mlの0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液とを50mlビーカーに投入し、卓上超音波洗浄機「W-113」(本多電子株式会社製)で5分間分散した後、装置(レーザー回折式粒子径分布測定装置(「LA-950」島津製作所社製))に投入し、粒子径D10、粒子径D50(メジアン径)、及び、粒子径D90を測定した。結果を表1に示す。
【0087】
[リン酸ジルコニウムの組成の分析]
実施例、比較例で作製したリン酸ジルコニウムの組成(酸化物換算)を、ICP-AES(「ULTIMA-2」HORIBA製)を用いて分析した。
【0088】
X線回折スペクトル、及び、組成分析の結果から、実施例、比較例で作製したリン酸ジルコニウムの組成は、以下の通りであることが分かった。
実施例1: Zr(H0.9(NH0.1(PO))(HPO)・0.5H
実施例2: Zr(H0.8(NH0.2(PO))(HPO)・0.5H
実施例3: Zr(H0.8(NH0.2(PO))(HPO)・1.0H
実施例4: Zr(H0.6(NH0.4(PO))(HPO)・1.5H
参考例2: Zr(H(PO)(HPO))・1.5H
比較例1: α-Zr(PO)(HPO)・H
比較例2: α-Zr(PO)(HPO)・0.5H
比較例3: γ-Zr(PO)(HPO)・2H
【0089】
[NHガス暴露によるIaの増加の確認]
実施例1~実施例4、参考例2のリン酸ジルコニウムに、40℃、1気圧の条件下で、NHガスを15分間暴露した。その後、X線回折スペクトルを得た。測定条件は上記の「X線回折スペクトル」の項で説明したものと同一とした。
図7に、実施例1のリン酸ジルコニウムのNHガス暴露前と暴露後のX線回折スペクトルを示す。図7から明らかなように、NHガスに15分間暴露後のリン酸ジルコニウムは、暴露前と比較して、前記Iaが増加していることが確認できた。
また、図示しないが、実施例2~実施例4、参考例2のリン酸ジルコニウムについても、NHガスに15分間暴露後は、暴露前と比較して、前記Iaが増加していることが確認できた。
一方、比較例1~比較例3のリン酸ジルコニウムについて同様の試験を行ったが、NHガスに15分間暴露後のIaは、暴露前と比較して、減少していた。
【0090】
【表1】
【0091】
[熱処理前後でのX線回折スペクトルの変化]
実施例1のリン酸ジルコニウムの製造過程で生成する前駆体化合物のX線回折スペクトルを得た。前記前駆体化合物は、熟成後、熱処理前の状態である。図8に、実施例1の前駆体化合物、熱処理後の前駆体化合物(すなわち、実施例1のリン酸ジルコニウム)、比較例1のリン酸ジルコニウム、及び、比較例3のリン酸ジルコニウムのX線回折スペクトルを示す。
実施例1の前駆体化合物のX線回折スペクトルと、熱処理後の前駆体化合物のX線回折スペクトルとの対比から、前駆体化合物のIaは、熱処理により小さくなっている。このことから、層状の前駆体化合物の層間にあるイオン交換サイトに存在するNHの全部又は一部が熱処理によりHに置き換えられ、配向性(層間距離の均一性)が弱くなることが確認できた。
また、図示しないが、実施例2~実施例4、参考例2においても、同様の挙動が確認できた。
【要約】
【課題】 従来にはない新規なリン酸ジルコニウムを提供すること。
【解決手段】 式[1]Zr(H(NH(PO))(HPO)・nHOで表され、X線回折法により測定される2θ=5~13°の範囲の最大ピーク強度をIa、2θ=26~28°の範囲の最大ピーク強度をIbとしたときに、Ia/Ibが1.0以下であり、式[1]において、a、b及びcは、a+b=1、0≦b<1を満たす数であり、nは0≦n≦2を満たす数であるリン酸ジルコニウム。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8