(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】ドットインパクトプリンタ用インクリボンカセット
(51)【国際特許分類】
B41J 32/02 20060101AFI20220120BHJP
【FI】
B41J32/02 A
(21)【出願番号】P 2017196407
(22)【出願日】2017-09-21
【審査請求日】2020-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000109037
【氏名又は名称】ダイニック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野 桂太
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 長武
(72)【発明者】
【氏名】雨森 和彦
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-093466(JP,U)
【文献】実開平02-082562(JP,U)
【文献】実開昭52-156112(JP,U)
【文献】実開昭52-136708(JP,U)
【文献】特開昭54-036820(JP,A)
【文献】特開昭63-191667(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0129844(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 17/00 - 17/42
B41J 27/00 - 27/22
B41J 31/00 - 35/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
シート状物が粘着層を有し、前記粘着層の形成パターンがドット状である事を特徴とする請求項
1に記載のインクリボンカセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は織物にインクを含浸したエンドレスのインクリボンを収納するドットインパクトプリンタ用のインクリボンカセットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドットインパクトプリンタは、動作安定性が高く、インクリボンカセットなどのサプライ品の交換頻度が少なくて済むなどメンテナンス性に優れる為に、記録計・タイムカードレコーダー・金融端末などで従来から広範に使用されている。
【0003】
インクリボンカセットは従来から出来るだけ印字寿命を長くすることが求められており、既存のインクリボンカセットの大きさはそのままで、インクリボンカセットに詰め込むインクリボンの長さをより長くする事によって印字寿命を長くし、インクリボンカセットの交換頻度を少なくするような改良が行われていたが、近年さらに長寿命なインクリボンカセットが求められるようになってきており、インクリボンカセットに詰め込まれるインクリボンの長さはより長くなってきている。
【0004】
しかしながら、インクリボンカセットに詰め込むインクリボンの長さを長くすると、インクリボンカセット内部のインクリボン収納室におけるインクリボンの密度が増加し、インクリボン収納室内におけるインクリボンが受ける内圧が高まることにより、インクリボンのインクリボン収納室内での搬送がスムーズにいかなくなるようになり、その事が原因でフィードロールにインクリボンが巻き込まれたりインクリボン収納室の内壁に付着したインクリボンがインクリボンとインクリボン収納室の内壁に挟まれてしまったりする事によりインクリボンの搬送異常が発生し、その結果として印字の濃淡ムラやインクリボンの破断やフィードロールのトルク異常が原因のプリンタ停止といった不具合が発生し易くなるようになった。
【0005】
この様な不具合に関して、例えば特許文献1に示されるように、リボンカセットの内壁にインクリボンとの滑り摩擦抵抗が低いシート状物を貼付けた事を特徴とするリボンカセットが提案されている。
【0006】
しかしながらただ滑り摩擦抵抗が低いシート状物をリボンカセットの内壁に貼付するだけでは、実際にはインクリボンの搬送異常による不具合を満足に改善する事が出来ない場合があった。
【0007】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、織物にインクを含浸したエンドレスのインクリボンを収納するドットインパクトプリンタ用のインクリボンカセットであって、インクリボンカセットの中に通常よりも長尺のインクリボンを詰め込んでもインクリボンの搬送異常による不具合の発生を抑制可能なインクリボンカセットを提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの課題を解決する為に、本発明者は、インクリボンカセットのインクリボン収納室の少なくとも一つの内壁面にシート状物が貼付され、前記シート状物のインクリボンと接触する側の面における面同士の動摩擦係数が0.45以下で且つシート状物のインクリボンと接触する側の面におけるオレイン酸の静的接触角が60°以上である事を特徴とするドットインパクトプリンタ用インクリボンカセットを発明するに至った。この構成であれば、インクリボンカセットに通常よりも長尺のインクリボンを詰め込んでもインクリボンの搬送異常による不具合の発生を抑制する事が可能となった。
【0011】
また、前記シート状物を40℃のオレイン酸の中に完全に浸漬させて7日間静置保存した時の保存の前後におけるシート状物の寸法変化率が-1.0~1.0%の範囲であるシート状物を選択して用いる事によって、シート状物の寸法変化が影響するインクリボンの搬送異常による不具合の発生をより低減する事が可能となった。
【0012】
さらに、シート状物が粘着層を有し、前記粘着層の形成パターンをドット状にする事によって、インクリボンカセットの内壁面への充分な粘着力を維持しながら滑りシートの寸法変化によって発生する歪の影響を特定の場所に集中させないようにし、シート状物の特定の部分に顕著なシワや変形を発生する事を抑制する事が可能となり、結果としてシート状物の寸法変化によるシワなどの発生が影響するインクリボンの搬送異常による不具合の発生をより低減する事が可能となった。
【発明の効果】
【0013】
本発明のドットインパクトプリンタ用インクリボンカセットを使用すれば、インクリボンカセットに通常よりも長尺のインクリボンを詰め込んでもインクリボンの搬送異常による不具合の発生を抑制する事が可能で、結果として印字の濃淡ムラやインクリボンの破断やフィードロールのトルク異常が原因のプリンタ停止といった不具合の発生を抑制する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のインクリボンカセットの実施形態の一例を示す模式図。
【
図2】長尺のインクリボンをインクリボンカセットに装填した時に発生するインクリボンの搬送異常の一例を示す模式図。
【
図3】本発明に使用されるシート状物の実施形態の一例を示す模式的断面図。
【
図4】本発明に使用されるシート状物を粘着層側から見た実施形態の一例を示す模式的平面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本発明におけるインクリボンカセットの内部の状態を見やすくするためにインクリボンカセットの蓋を取って、蓋側から見た時のインクリボンカセットの実施形態の一例を示した模式図であり、このようにインクリボン収納室7の内壁面に本発明で使用するシート状物8を貼付すれば、通常よりも長尺のインクリボン2をインクリボンカセット1に詰め込んでも搬送異常による不具合の発生が抑制可能である。本発明におけるインクリボンカセットは、基本的に
図1に示されるような構造をしており、リボン状の織物にインクを含浸し、その末端同士を繋げてループ状にしたエンドレスのインクリボン2をその内部に収納している。インクリボンカセット1のリボン出口10から出たインクリボン2は、ドットインパクトプリンタのヘッドと記録用紙の間に通され、ヘッドによるピン打撃によってインクリボン2に含浸されたインクが記録用紙に転写する事によって印字が行われる。印字に使用されたインクリボン2はリボン入口3からインクリボンカセット1の内部に巻き取られる。インクリボン2の巻取りにはフィードロール4が用いられ、隔壁5と隔壁6に囲われたインクリボン収納室7へインクリボン2は送り込まれ、通常は図示されているように折り畳まれた状態で収納されている。インクリボン収納室7の内壁には、インクリボン2の搬送性を良好にするためのシート状物8が貼付されている。隔壁5はインクリボン収納室7からフィードロール4側へインクリボン2が逆流してフィードロール4に巻き付かないようにするために設けられており、隔壁6はインクリボン収納室7からインクリボン2がまとまって出てこないようにするために設けられており隔壁6に設けられたインクリボンの通り道としてはインクリボン2の厚みより少し大きい程度の細いスリットが設けられている。隔壁6のスリットからインクリボン収納室7の外に出たインクリボン2はリボンブレーキ9によってブレーキをかけられた後にリボン出口10からインクリボンカセット1の外へ送り出された後にドットインパクトプリンタのヘッド部分に供給される。インクリボンカセット1の外に出たインクリボン2は印字の際に弛んでしまって印字の不具合が発生しないようにリボンブレーキ9とフィードロール4の間で一定のテンションが維持される仕組みとなっている。インクリボン2に異常に高いテンションがかかった場合には、フィードロール4に連動したプリンタの駆動軸に取り付けられたセンサーなどによってトルク異常が検知され、異常によってドットインパクトプリンタが破損しないように強制停止するような機構が通常ドットインパクトプリンタには備わっている。
【0016】
図2は、インクリボンカセット1に通常より長尺のインクリボン2を装填し、インクリボン収納室7に本発明で使用するシート状物(
図1の8)を貼付しなかった場合に発生し易いインクリボンの搬送異常の一例を示した模式図である。
図2に示されているように、通常よりも長尺のインクリボン2をインクリボンカセット1に装填するとインクリボン収納室7内のインクリボン2の密度が高くなり、特にインクリボン収納室7の入り口側、つまりはフィードロール4や隔壁5に近い部分でのインクリボン2の密度が特に高くなった結果、その部分においてインクリボン2にかかる内圧が非常に高くなり、フィードロール4によってインクリボン2がインクリボン収納室7に押し込まれる力よりもインクリボン収納室7の外にインクリボン2が出ようとする力の方が大きくなってしまい、インクリボン2が
図2の11の部分のようにフィードロール4にまとわりついた状態でフィードロール4と隔壁5の隙間からインクリボン収納室7の外側へ漏れだす問題が発生する。さらにこの漏れ出したインクリボン2は、インクリボン同士で絡まったり、フィードロール4に巻き付いたりする事によって、インクリボン2を正常に搬送する事が出来なくなり、結果的にその異常を検知したドットインパクトプリンタが停止したり、インクリボン自体が破断するなどの不具合が発生したりする。
【0017】
また異なる問題として、インクリボン2がインクリボン収納室7の内壁面に何らかの原因で付着した時に、インクリボン収納室7の中のインクリボン2にかかる内圧が高い事が原因で
図2の12の部分のようにインクリボン収納室7の内壁面とインクリボン2の間にインクリボン2が挟まれてしまう現象が発生し易くなり、さらにそのままインクリボン2が搬送されると
図2の13の部分のように内壁面とインクリボン2の間にインクリボン2がしっかりと挟まれてしまうようになる。この部分(
図2の13)のインクリボン2がインクリボン収納室7から引き出される際には、インクリボン2が引き出される力、つまりはインクリボン2がフィードロール4によって引っ張られる力に対してインクリボン2と内壁面の間で挟まれる力による抗力が発生し、その結果としてリボンブレーキ9とフィードロール4の間、つまりドットインパクトプリンタのヘッド部分におけるインクリボン2の張力が不安定となり、その事が原因で印字に濃淡ムラなどの不具合が発生したりする。さらにフィードロール4によってインクリボン2が引っ張られる力よりも
図2の13の部分で発生する抗力が大きい場合には、インクリボン2が送り出せなくなり、異常を検知したドットインパクトプリンタが停止したり、インクリボン2自体が破断するなどの不具合が発生したりする。また
図2の13の部分が引っ張られて隔壁6のスリット部から出ようとした時に、インクリボン同士が絡み合っていた場合にも、隔壁6のスリット部でインクリボンが詰まる事によって前記と同様の不具合が発生する事がある。
【0018】
上記で説明したようなインクリボンの搬送異常の原因の一つは、インクリボンとインクリボン収納室の内壁面との間の滑り易さが関係しており、インクリボン収納室の内壁面の摩擦係数が高くなるとインクリボンの搬送性が悪化し
図2の11の部分のようなインクリボンの搬送異常が発生し易くなり、インクリボン収納室の内壁面の摩擦係数が低くなるとインクリボンの搬送性が改善し、前記のようなインクリボンの搬送異常が発生し難くなる傾向があることが分かった。
【0019】
本発明者がさらに検討した結果、インクリボンの搬送異常が発生する原因はインクリボン収納室の内壁面の摩擦係数だけが原因ではなく、インクリボン収納室の内壁面の油剤に対する濡れ易さも影響している事が判明した。本発明者がインクリボンのインクの原料の油剤の一つとしてよく用いられるオレイン酸を用いて、様々なシート状物のインクリボンと接する側の面におけるオレイン酸の濡れ性(静的接触角)を測定し、それらのシート状物をインクリボン収納室内の内壁面に貼付してインクリボンの搬送異常について比較検討したところ、オレイン酸の濡れ性が良い(静的接触角の小さい)シート状物ほどインクリボンがシート状物に付着し易くなって
図2の12や
図2の13の部分のようなインクリボンの搬送異常が発生しやすくなり、逆にオレイン酸の濡れ性が悪い(静的接触角の大きい)シート状物ほどインクリボンがシート状物に付着しにくくなって前記のようなインクリボンの搬送異常が発生し難くなることが判明した。
【0020】
さらに発明者らが鋭意検討した結果、インクリボン収納室の少なくとも一つの内壁面に、インクリボンと接触する側の面における面同士の動摩擦係数が0.45以下で且つインクリボンと接触する側の面におけるオレイン酸の静的接触角が60°以上となるようなシート状物を選択して貼付する事によって、インクリボンの搬送異常による不具合の発生をより効果的に抑制出来る事が分かった。
【0021】
本発明に使用するシート状物のインクリボンと接触する側の面における面同士の動摩擦係数について詳しく説明すると、シート状物を2枚用意し、シート状物のインクリボンと接触する側の面とシート状物のインクリボンと接触する側の面の間に発生する動摩擦力を、表面性測定機HEIDON-14(新東科学株式会社製)を用いてASTM D1894に準拠した方法で測定する事によって求めた。
【0022】
シート状物のインクリボンと接触する側の面における面同士の動摩擦係数は、少なくとも0.45以下である事が好ましく、さらには0.35以下である事がより好ましい。下限値は特に限定されず小さければ小さいほど良いが、測定感度の面から少なくとも0.01以上であれば良い。シート状物のインクリボンと接触する側の面における面同士の動摩擦係数が前記範囲の上限値を超えると、インクリボンの搬送がスムーズにいかなくなり、インクリボン収納室のフィードロールに近い側の部分のインクリボン密度が高くなってしまい、インクリボンの搬送異常による不具合が発生し易くなる傾向があるが、逆に上限値以下だとインクリボンの搬送がスムーズになり、インクリボンの搬送異常による不具合が発生し難くなる。
【0023】
本発明に使用するシート状物のインクリボンと接触する側の面におけるオレイン酸の静的接触角について詳しく説明すると、オレイン酸の静的接触角は協和界面科学株式会社製の接触角計Model CA-Xを用いて、水平に設置されたインクリボンと接触する側の面にオレイン酸を滴下し、1分間静置後のオレイン酸の接触角を測定する事によって求めた。
【0024】
シート状物のインクリボンと接触する側の面におけるオレイン酸の静的接触角は、少なくとも60°以上である事が好ましく、さらには65°以上である事がより好ましい。上限値は特に限定されず大きければ大きいほど良いが、通常は150°以下であれば良い。シート状物のインクリボンと接触する側の面におけるオレイン酸の静的接触角が前記範囲の下限値を下回ると、インクリボンがインクリボン収納室の内壁に付着しやすくなり、インクリボンの搬送異常による不具合が発生し易くなる傾向があるが、逆に下限値以上であればインクリボンがインクリボン収納室の内壁に付着しにくくなるので、インクリボンの搬送異常による不具合が発生し難くなる。
【0025】
本発明で使用するシート状物は、インクリボン収納室の少なくとも一つの内壁面に貼付すれば効果を発揮するが、好ましくは実際の使用時に底面になる内壁面に貼付する事によって最も顕著に効果を発揮し、さらには全ての内壁面に貼付すれば最も効果を発揮する。また何れかの内壁面の一部分に貼付するだけでも効果はあるが、少なくともインクリボン収納室のフィードロール側の部分にインクリボン収納室の内壁面全面の1/3の面積以上貼付する事が好ましく、さらには1/2の面積以上貼付する事がより好ましく、何れかの内壁面の全面積に貼付する事が最も好ましい。
【0026】
本発明で使用するシート状物は、インクリボン収納室内で常にインクリボンに含まれる油剤に接している為、油剤に長時間浸漬した際に寸法変化やカールの少ないものを使用する事が好ましい。例えば本発明者らはシート状物を40℃のオレイン酸に完全に浸漬させた上で7日間静置保存し、保存前後の寸法変化率が-1.0~1.0%の範囲内であるようなシート状物を選択して使用する事とした。寸法変化率の計算方法は、6cm×6cmの正方形のシート状物のサンプルを用意し、まず保存試験前の4辺の長さを測定し、保存試験後に再度対応する4辺の長さを測定する。その後、各辺の保存前後の寸法変化率を、「寸法変化率(%)=((保存後の辺の長さ)-(保存前の辺の長さ))÷(保存前の辺の長さ)×100」という計算式によりそれぞれ算出し、算出した各辺の保存前後の寸法変化率の平均値をシート状物の寸法変化率とした。このシート状物の寸法変化率が前記範囲内であればシート状物表面にシワなどの問題が発生しにくいが、前記範囲を超えるとシート状物全体に歪が発生した結果シワなどが発生しやすくなり、さらには発生したシワなどが原因でインクリボンの搬送が悪化する傾向がある。
【0027】
<<シート状物の詳細について>>
本発明のインクリボンカセットのインクリボン収納室の内壁には
図3に例示したような断面構造のシート状物8が貼付される。シート状物8は、基本的に紙や樹脂製のシートを基材14とし、基材14の一方の面にインクリボンと接触する滑性層15を、他方の面にインクリボン収納室の内壁に貼付する為に使用する粘着層16を設けた構造をしているがこれに限定されず、例えば滑性層15と基材14の間に目止め層やアンダー層やバリア層などの各種機能・耐久性を付与する為の層や、中間層やプライマー層などの基材14と滑性層15の密着性を向上させる為の層などを設けても構わない。さらに滑性層15は基材14自身の動摩擦係数が充分に低く且つオレイン酸に対する接触角が充分に高ければ特に設けなくてもよく、同様に粘着層16に関しても、シート状物を接着剤によってインク収納室の内壁に貼付する場合には特に設けなくてもよい。
【0028】
<基材>
本発明に使用するシート状物の基材14の厚みは特に限定されないが、10~300μmの範囲であればよく、さらには30~200μmの範囲であればより好ましい。基材の厚みが前記の範囲であれば、取り扱いがしやすく且つ強度も充分である。基材14の素材は特に限定されないが、耐水性や耐油性を有し、吸湿又は吸油した時の寸法変化や変形が小さく、適度な耐熱性と強度を有しているような材質を選択して使用する事が好ましく、具体的には前記条件を満たすような含浸紙、コート紙、各種樹脂フィルム及びそれらの複合積層体などを使用する事が出来る。
【0029】
<滑性層>
本発明に使用するシート状物の滑性層15としては、表面の摩擦係数が小さく、撥水・撥油性のある原料を主原料として用いる事が好ましく、この様な材質としては特に限定はされないが通常はシリコン系共重合体樹脂もしくはフッ素系共重合体樹脂を用いる事が好ましい。この様なシリコン系共重合体樹脂やフッ素系共重合体樹脂などによる滑性層の形成方法としては、例えば各共重合体樹脂を塗料にしたものを基材14上に各種公知の塗装方法によって塗装した後に乾燥して形成する方法などがあるが特にこれに限定されず、基材層と共に共押出しする事によって滑性層を形成する方法や、予め滑性層をフィルム状に形成した上で基材とラミネートすることにより滑性層を形成する方法でも構わない。また必要に応じて前記滑性層の原料に各種公知の樹脂や各種公知の架橋剤や各種公知のシランカップリング剤や各種公知の無機・有機フィラーなどを添加して滑性層の機械的強度や耐薬品性を向上させたり、基材や他の層との密着性を向上させたりしてもよい。滑性層の厚みは特に限定はされないが、0.01~10μmの範囲であることが好ましく、0.05~3μmの範囲であることがより好ましい。滑性層の厚みが前記範囲であれば、滑性層の表面の滑りが良好で撥水・発油性の性能を満足に発現させることが可能である。
【0030】
滑性層15は前述したように、インクリボンと接触する側の面に相当する為、滑性層同士の動摩擦係数が少なくとも0.45以下であり且つオレイン酸の静的接触角が少なくとも60°以上である事が必要である為に、その要件を満たすような原料組成と形成条件を設定する必要がある。また前述したように基材14自体が動摩擦係数及びオレイン酸の静的接触角の前記条件を満たす場合には、滑性層を設ける必要はない。
【0031】
<粘着層>
本発明に使用するシート状物の粘着層16の原料は特に限定されないが、各種公知の粘着剤を使用する事が可能であり、例えばアクリル系粘着剤・シリコン系粘着剤・フッ素系粘着剤・ゴム系粘着剤・ウレタン系粘着剤・ポリエステル系粘着剤・ポリアミド系粘着剤等の中から1種もしくは2種を併用して使用することが可能であるが、これに限定されない。また前記粘着剤に各種公知の粘着付与樹脂やエラストマーや架橋剤や無機・有機フィラーなどを添加して、粘着力の調整や耐薬品性の向上や再剥離性の付与などの調整を適宜行っても良い。粘着層の厚みは特に限定はされないが、1~70μmの範囲であることが好ましく、5~30μmの範囲であることがより好ましい。粘着層の厚みが前記範囲内であれば適切な粘着力を有することが可能となる。粘着層の形成方法としては特に限定はされないが、通常は各種公知の塗装方法や印刷方法を使用すればよく、公知の塗装方法としてはグラビアコーティング、バーコーティング、コンマコーティング、キスコーティング、リバースコーティング、公知の印刷方法としてはグラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷などの方法を用いて基材14に粘着層を形成すればよい。粘着層16はシート状物の全面にベタで均一に形成しても良いが、より好ましくは
図4に示すように粘着層16の形成パターンをドット状にする事がより好ましい。粘着層16の形成パターンをドット状にする事によって、シート状物8が吸湿もしくは吸油もしくは熱の影響を受けて寸法変化した時に発生する歪の影響を特定の場所に集中させないようにする事により、シート状物8の特定の部分に顕著なシワや変形を発生する事を抑制し、シート状物8のシワ等によってインクリボンの搬送性に問題が発生する事を低減する効果がある。またその他の効果として、粘着層の形成パターンをドット状にする事によって、シート状物の端部における粘着剤のはみ出しも抑制可能である。粘着剤のはみ出しが発生するとはみ出した粘着剤がインクリボンの搬送性に悪影響を与える可能性があるので、粘着剤のはみ出しを抑制する事は直接的にインクリボンの搬送異常による不具合の発生を低減する事が可能となる。
【0032】
粘着層のドット状の形成パターンのドット自体の形状は特に限定されず、円形でもいいし方形でもいいが上下左右で対象な形状である事が歪によるシワを効果的に抑制する上でより好ましく、同様の理由でドット状の形成パターンの配列は左右上下で均等な配列であることが好ましい。また基材上に形成されたドット状の粘着層の面積比率は、基材の単位面積あたりの5~80%である事が好ましく、さらには30~70%である事がより好ましい。ドット状に形成された粘着層の面積比率が前記範囲内であれば、必要充分な粘着力を確保しつつシート状物の歪によるシワや粘着剤のはみ出しを抑制する事が可能である。
【実施例】
【0033】
次に実施例や比較例等を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0034】
<<インクリボンカセット及びインクリボンについて>>
実施例及び比較例に使用するインクリボンカセットはABS樹脂製であり、インクリボン収納室の内寸は長さ29cm、巾4cm、高さ1.5cmである。このカセットに装填される標準的なインクリボンは巾13mmで長さ28mであるが、本発明におけるインクリボンカセットには同じ巾13mmのインクリボンの長さを約25%増量し、長さ35mのインクリボンをインクリボンカセットに装填して評価に使用した。
【0035】
<<シート状物について>>
実施例及び比較例に使用するインクリボンカセットのインクリボン収納室内の内壁に貼付するシート状物について下記に詳細を説明する。なお実施例および比較例においてインクリボン収納室におけるシート状物の貼付位置は
図1の8と同じ位置の内壁面に貼付するものとし、該インクリボン収納室の内壁面の大きさは29cm×1.5cmである。
【実施例1】
【0036】
PETフィルムの一方の面にシリコン系共重合体樹脂1と架橋剤を含有した塗料をバーコーティングによって塗布した後にドライヤーで乾燥および架橋させることによって滑性層を形成し、さらにPETフィルムの他方の面にアクリル系粘着剤塗料をスクリーン印刷によってドット状に塗布した後にドライヤーで乾燥することによって粘着層を形成することにより、実施例1のインクリボンカセットで使用するシート状物1を作成した。シート状物1の詳細について下記に示す。なお、下記詳細説明において「総厚」はシート状物の基材層と滑性層と粘着層を合計した厚みを意味し、「粘着層の面積比率」は基材上の単位面積あたりの粘着層が形成されている面積の比率を意味し、「動摩擦係数」はシート状物のインクリボンと接触する側の面の面同士の摩擦係数を意味し、「オレイン酸の接触角」はシート状物のインクリボンと接触する側の面におけるオレイン酸の静的接触角を意味し、「オレイン酸浸漬試験の寸法変化率」はシート状物を40℃のオレイン酸の中に完全に浸漬させて7日間静置保存した時の保存の前後におけるシート状物の寸法変化率を意味する。
<シート状物1>
総厚: 95.1μm
幅: 13mm
長さ: 27cm
基材の種類: PETフィルム
基材の厚み: 75μm
滑性層の原料種別: シリコン系共重合体樹脂1
滑性層の厚み: 0.1μm
粘着層の原料種別: アクリル系粘着剤
粘着層の厚み: 20μm
粘着層の形成パターン: 丸ドット(半径3mmの円)
粘着層の面積比率: 57%
動摩擦係数: 0.30
オレイン酸の接触角: 80°
オレイン酸浸漬試験の寸法変化率: 0.2%
【実施例2】
【0037】
含浸紙の一方の面にシリコン系共重合体樹脂1と架橋剤を含有した塗料をバーコーティングによって塗布した後にドライヤーで乾燥および架橋させることによって滑性層を形成し、さらに含浸紙の他方の面にアクリル系粘着剤塗料をスクリーン印刷によってドット状に塗布した後にドライヤーで乾燥することによって粘着層を形成することにより、実施例2のインクリボンカセットで使用するシート状物2を作成した。シート状物1とシート状物2の違いは基材の種類が異なるだけである。シート状物2の詳細について下記に示す。<シート状物2>
総厚: 120.1μm
幅: 13mm
長さ: 27cm
基材の種類: 含浸紙
基材の厚み: 100μm
滑性層の原料種別: シリコン系共重合体樹脂1
滑性層の厚み: 0.1μm
粘着層の原料種別: アクリル系粘着剤
粘着層の厚み: 20μm
粘着層の形成パターン: 丸ドット(半径3mmの円)
粘着層の面積比率: 57%
動摩擦係数: 0.29
オレイン酸の接触角: 79°
オレイン酸浸漬試験の寸法変化率: -0.1%
【実施例3】
【0038】
PETフィルムの一方の面にシリコン系共重合体樹脂2と架橋剤を含有した塗料をバーコーティングによって塗布した後にドライヤーで乾燥および架橋させることによって滑性層を形成し、さらにPETフィルムの他方の面にアクリル系粘着剤塗料をスクリーン印刷によってドット状に塗布した後にドライヤーで乾燥することによって粘着層を形成することにより、実施例3のインクリボンカセットで使用するシート状物3を作成した。シート状物1とシート状物3の違いは滑性層の原料種別が異なるだけである。シート状物3の詳細について下記に示す。
<シート状物3>
総厚: 95.1μm
幅: 13mm
長さ: 27cm
基材の種類: PETフィルム
基材の厚み: 75μm
滑性層の原料種別: シリコン系共重合体樹脂2
滑性層の厚み: 0.1μm
粘着層の原料種別: アクリル系粘着剤
粘着層の厚み: 20μm
粘着層の形成パターン: 丸ドット(半径3mmの円)
粘着層の面積比率: 57%
動摩擦係数: 0.40
オレイン酸の接触角: 65°
オレイン酸浸漬試験の寸法変化率: 0.0%
【実施例4】
【0039】
PETフィルムの一方の面にシリコン系共重合体樹脂3と架橋剤を含有した塗料をバーコーティングによって塗布した後にドライヤーで乾燥および架橋させることによって滑性層を形成し、さらにPETフィルムの他方の面にアクリル系粘着剤塗料をスクリーン印刷によってドット状に塗布した後にドライヤーで乾燥することによって粘着層を形成することにより、実施例4のインクリボンカセットで使用するシート状物4を作成した。シート状物1とシート状物4の違いは滑性層の原料種別が異なるだけである。シート状物4の詳細について下記に示す。
<シート状物4>
総厚: 95.1μm
幅: 13mm
長さ: 27cm
基材の種類: PETフィルム
基材の厚み: 75μm
滑性層の原料種別: シリコン系共重合体樹脂3
滑性層の厚み: 0.1μm
粘着層の原料種別: アクリル系粘着剤
粘着層の厚み: 20μm
粘着層の形成パターン: 丸ドット(半径3mmの円)
粘着層の面積比率: 57%
動摩擦係数: 0.35
オレイン酸の接触角: 60°
オレイン酸浸漬試験の寸法変化率: 0.1%
【実施例5】
【0040】
PETフィルムの一方の面にフッ素系共重合体樹脂1と架橋剤を含有した塗料をバーコーティングによって塗布した後にドライヤーで乾燥および架橋させることによって滑性層を形成し、さらにPETフィルムの他方の面にアクリル系粘着剤塗料をスクリーン印刷によってドット状に塗布した後にドライヤーで乾燥することによって粘着層を形成することにより、実施例5のインクリボンカセットで使用するシート状物5を作成した。シート状物1とシート状物5の違いは滑性層の原料種別が異なるだけである。シート状物5の詳細について下記に示す。
<シート状物5>
総厚: 95.1μm
幅: 13mm
長さ: 27cm
基材の種類: PETフィルム
基材の厚み: 75μm
滑性層の原料種別: フッ素系共重合体樹脂1
滑性層の厚み: 0.1μm
粘着層の原料種別: アクリル系粘着剤
粘着層の厚み: 20μm
粘着層の形成パターン: 丸ドット(半径3mmの円)
粘着層の面積比率: 57%
動摩擦係数: 0.35
オレイン酸の接触角: 70°
オレイン酸浸漬試験の寸法変化率: 0.0%
【実施例6】
【0041】
PPフィルムの一方の面にシリコン系共重合体樹脂1と架橋剤を含有した塗料をバーコーティングによって塗布した後にドライヤーで乾燥および架橋させることによって滑性層を形成し、さらにPPフィルムの他方の面にアクリル系粘着剤塗料をスクリーン印刷によってドット状に塗布した後にドライヤーで乾燥することによって粘着層を形成することにより、実施例6のインクリボンカセットで使用するシート状物6を作成した。シート状物1とシート状物6の違いは基材の種類が異なるだけである。シート状物6の詳細について下記に示す。
<シート状物6>
総厚: 95.1μm
幅: 13mm
長さ: 27cm
基材の種類: PPフィルム
基材の厚み: 75μm
滑性層の原料種別: シリコン系共重合体樹脂1
滑性層の厚み: 0.1μm
粘着層の原料種別: アクリル系粘着剤
粘着層の厚み: 20μm
粘着層の形成パターン: 丸ドット(半径3mmの円)
粘着層の面積比率: 57%
動摩擦係数: 0.29
オレイン酸の接触角: 80°
オレイン酸浸漬試験の寸法変化率: 1.0%
【実施例7】
【0042】
PPフィルムの一方の面にシリコン系共重合体樹脂1と架橋剤を含有した塗料をバーコーティングによって塗布した後にドライヤーで乾燥および架橋させることによって滑性層を形成し、さらにPPフィルムの他方の面にアクリル系粘着剤塗料をバーコーティングによって全面塗布した後にドライヤーで乾燥することによって粘着層を形成することにより、実施例7のインクリボンカセットで使用するシート状物7を作成した。シート状物6とシート状物7の違いは粘着層の形成パターンが異なるだけである。シート状物7の詳細について下記に示す。
<シート状物7>
総厚: 95.1μm
幅: 13mm
長さ: 27cm
基材の種類: PPフィルム
基材の厚み: 75μm
滑性層の原料種別: シリコン系共重合体樹脂1
滑性層の厚み: 0.1um
粘着層の原料種別: アクリル系粘着剤
粘着層の厚み: 20μm
粘着層の形成パターン: 全面ベタ
粘着層の面積比率: 57%
動摩擦係数: 0.29
オレイン酸の接触角: 80°
オレイン酸浸漬試験の寸法変化率: 1.0%
【実施例8】
【0043】
HDPEフィルムの一方の面にシリコン系共重合体樹脂1と架橋剤を含有した塗料をバーコーティングによって塗布した後にドライヤーで乾燥および架橋させることによって滑性層を形成し、さらにHDPEフィルムの他方の面にアクリル系粘着剤塗料をスクリーン印刷によってドット状に塗布した後にドライヤーで乾燥することによって粘着層を形成することにより、実施例8のインクリボンカセットで使用するシート状物8を作成した。シート状物1とシート状物8の違いは基材の種類が異なるだけである。シート状物8の詳細について下記に示す。
<シート状物8>
総厚: 95.1μm
幅: 13mm
長さ: 27cm
基材の種類: HDPEフィルム
基材の厚み: 75μm
滑性層の原料種別: シリコン系共重合体樹脂1
滑性層の厚み: 0.1μm
粘着層の原料種別: アクリル系粘着剤
粘着層の厚み: 20μm
粘着層の形成パターン: 丸ドット(半径3mmの円)
粘着層の面積比率: 57%
動摩擦係数: 0.30
オレイン酸の接触角: 79°
オレイン酸浸漬試験の寸法変化率: 1.4%
【実施例9】
【0044】
HDPEフィルムの一方の面にシリコン系共重合体樹脂1と架橋剤を含有した塗料をバーコーティングによって塗布した後にドライヤーで乾燥および架橋させることによって滑性層を形成し、さらにHDPEフィルムの他方の面にアクリル系粘着剤塗料をバーコーティングによって全面塗布した後にドライヤーで乾燥することによって粘着層を形成することにより、実施例9のインクリボンカセットで使用するシート状物9を作成した。シート状物8とシート状物9の違いは粘着層の形成パターンが異なるだけである。シート状物9の詳細について下記に示す。
<シート状物9>
総厚: 95.1μm
幅: 13mm
長さ: 27cm
基材の種類: HDPEフィルム
基材の厚み: 75μm
滑性層の原料種別: シリコン系共重合体樹脂1
滑性層の厚み: 0.1μm
粘着層の原料種別: アクリル系粘着剤
粘着層の厚み: 20μm
粘着層の形成パターン: 全面ベタ
粘着層の面積比率: 57%
動摩擦係数: 0.30
オレイン酸の接触角: 79°
オレイン酸浸漬試験の寸法変化率: 1.4%
【0045】
<比較例1>
インクリボン収納室内にシート状物を何も張っていない状態のインクリボンカセットを比較例1のインクリボンカセットとした。なお、動摩擦係数とオレイン酸の接触角はインクリボン収納室の内壁における測定値である。
<インクリボン収納室の内壁>
内壁の材質: ABS樹脂
動摩擦係数(内壁): 1.01
オレイン酸の接触角(内壁): 19°
【0046】
<比較例2>
PETフィルムに滑性層を設けず、一方の面にアクリル系粘着剤塗料をスクリーン印刷によってドット状に塗布した後にドライヤーで乾燥することによって粘着層を形成することにより、比較例2のインクリボンカセットで使用するシート状物10を作成した。シート状物1とシート状物10の違いは滑性層を設けているかいないかの違いだけである。シート状物10の詳細について下記に示す。
<シート状物10>
総厚: 95μm
幅: 13mm
長さ: 27cm
基材の種類: PETフィルム
基材の厚み: 75μm
滑性層の原料種別: 無し
滑性層の厚み: 無し
粘着層の原料種別: アクリル系粘着剤
粘着層の厚み: 20μm
粘着層の形成パターン: 丸ドット(半径3mmの円)
粘着層の面積比率: 57%
動摩擦係数: 0.53
オレイン酸の接触角: 5°
オレイン酸浸漬試験の寸法変化率: 0.2%
【0047】
<比較例3>
PETフィルムの一方の面にシリコン系共重合体樹脂4と架橋剤を含有した塗料をバーコーティングによって塗布した後にドライヤーで乾燥および架橋させることによって滑性層を形成し、さらにPETフィルムの他方の面にアクリル系粘着剤塗料をスクリーン印刷によってドット状に塗布した後にドライヤーで乾燥することによって粘着層を形成することにより、比較例3のインクリボンカセットで使用するシート状物11を作成した。シート状物1とシート状物11の違いは滑性層の原料種別が異なるだけである。シート状物11の詳細について下記に示す。
<シート状物11>
総厚: 95.1μm
幅: 13mm
長さ: 27cm
基材の種類: PETフィルム
基材の厚み: 75μm
滑性層の原料種別: シリコン系共重合体樹脂4
滑性層の厚み: 0.1μm
粘着層の原料種別: アクリル系粘着剤
粘着層の厚み: 20μm
粘着層の形成パターン: 丸ドット(半径3mmの円)
粘着層の面積比率: 57%
動摩擦係数: 0.40
オレイン酸の接触角: 50°
オレイン酸浸漬試験の寸法変化率: 0.1%
【0048】
<比較例4>
PETフィルムの一方の面にフッ素系共重合体樹脂2と架橋剤を含有した塗料をバーコーティングによって塗布した後にドライヤーで乾燥および架橋させることによって滑性層を形成し、さらにPETフィルムの他方の面にアクリル系粘着剤塗料をスクリーン印刷によってドット状に塗布した後にドライヤーで乾燥することによって粘着層を形成することにより、比較例4のインクリボンカセットで使用するシート状物12を作成した。シート状物1とシート状物12の違いは滑性層の原料種別が異なるだけである。シート状物12の詳細について下記に示す。
<シート状物12>
総厚: 95.1μm
幅: 13mm
長さ: 27cm
基材の種類: PETフィルム
基材の厚み: 75μm
滑性層の原料種別: フッ素系共重合体樹脂2
滑性層の厚み: 0.1μm
粘着層の原料種別: アクリル系粘着剤
粘着層の厚み: 20μm
粘着層の形成パターン: 丸ドット(半径3mmの円)
粘着層の面積比率: 57%
動摩擦係数: 0.50
オレイン酸の接触角: 70°
オレイン酸浸漬試験の寸法変化率: 0.1%
【0049】
<参考例>
参考として、比較例1と同じインクリボンカセットにインクリボンの装填量を減らし、標準量である幅13mm×長さ28mのインクリボンを装填したインクリボンカセットを参考例のインクリボンカセットとした。インクリボン収納室の内壁面の動摩擦係数やオレイン酸の接触角等の測定値については比較例1と同じなので省略する。
【0050】
<インクリボンの搬送性の評価>
実施例・比較例のインクリボンカセットをドットインパクトプリンタに装着し、室温23℃湿度50%RHの環境下でテストパターンを180万文字印字する印字試験を行い、印字試験終了後のインクリボン収納室内のインクリボンの状態を目視で観察し、下記の評価基準によってインクリボンの搬送性の評価を行った。
(評価基準)
A・・・インクリボン収納室内においてインクリボンの密度に偏りがほとんどない。
B・・・インクリボン収納室のフィードロール側の部分におけるインクリボンの密度がやや高くなっている。
C・・・インクリボン収納室のフィードロール側の部分におけるインクリボンの密度が非常に高くなっている。
【0051】
<インクリボンの付着性の評価>
実施例・比較例のインクリボンカセットをドットインパクトプリンタに装着し、室温23℃湿度50%RHの環境下でテストパターンを10万文字印字する印字試験を行い、印字試験終了後のインクリボン収納室内に貼付されたシート状物と接するインクリボンの状態を目視で観察し、下記の評価基準によってインクリボンの付着性の評価を行った。(※シート状物を貼付していない場合はインクリボン収納室内壁面と接するインクリボンの状態を目視で観察して評価を行った。)
(評価基準)
A・・・シート状物又はインクリボン収納室内壁面にインクリボンが全く付着しない。
B・・・シート状物又はインクリボン収納室内壁面にインクリボンが稀に付着する傾向がある。
C・・・シート状物又はインクリボン収納室内壁面にインクリボンが頻繁に付着する傾向がある。
【0052】
<シート状物のシワの評価>
実施例・比較例のインクリボンカセットをドットインパクトプリンタに装着し、室温40℃湿度85%RHの環境下でテストパターンを180万文字印字する印字試験を行い、印字試験終了後のインクリボン収納室内のシート状物の状態を目視で観察し、下記の評価基準によってシート状物のシワの評価を行った。
(評価基準)
A・・・シート状物表面にシワや凹凸が全く発生しない。
B・・・シート状物表面に僅かに微細なシワや凹凸が見られる。
C・・・シート状物表面に明確なシワや凹凸が発生している。
【0053】
<インクリボンの搬送異常による不具合の評価>
実施例・比較例のインクリボンカセットをドットインパクトプリンタに装着し、室温23℃湿度50%RHの環境下でテストパターンを180万文字印字する印字試験を行い、印字試験途中のインクリボンの挙動や発生した不具合を目視で観察し、下記の評価基準によってインクリボンの搬送異常による不具合の評価を行った。
(評価基準)
A・・・印字試験終了まで全く不具合が見られない。
B・・・インクリボンの破断やフィードロールのトルク異常によるプリンタの異常停止は起こらないが、印字の濃淡ムラが稀に見られた。
C・・・印字の濃淡ムラが頻発し、最終的にインクリボンの破断やフィードロールのトルク異常によるプリンタの異常停止が発生した。
【0054】
本発明の実施例及び比較例のインクリボンカセットの各種評価結果について表1に示す。
【0055】
【0056】
実施例1~9に示すように、通常より長尺のインクリボンを装填したインクリボンカセットであっても、インクリボンカセットのインクリボン収納室の少なくとも一つの内壁面にシート状物を貼付し、さらに前記シート状物のインクリボンと接触する側の面における面同士の動摩擦係数が0.45以下で且つシート状物のインクリボンと接触する側の面におけるオレイン酸の静的接触角が60°以上であれば、インクリボンの搬送性やインクリボンの付着性が優れており、結果としてインクリボンの搬送異常による不具合を抑制可能であることが分かる。
【0057】
また実施例7と実施例9を比較すると、シート状物のオレイン酸浸漬試験の寸法変化率が-1.0~1.0%の範囲から外れると、シート状物表面にシワが発生し、その事がインクリボンの搬送性などに少し影響を与えていることが分かる。また実施例8と実施例9を比較すると、粘着層の形成パターンが全面ベタの場合と比べて粘着層の形成パターンが丸ドット状の場合のほうがシート状物のシワを抑制出来ていることがわかる。
【0058】
比較例1のようにインクリボンカセットのインクリボン収納室の内壁面にシート状物を何も貼付しなかった場合には、インクリボンの搬送性もインクリボンの付着性も非常に悪く、印字試験中にインクリボンの搬送異常が発生して各種不具合が発生した。比較例1と標準的な長さのインクリボンが装填されている参考例とを比較すると、参考例1のインクリボンカセットが問題なく使用できるのにたいして、比較例1のインクリボンカセットのように装填するインクリボンの長さが長くなるとインクリボンの搬送性とインクリボンの付着性の評価が急激に悪化することが分かる。
【0059】
比較例2のようにインクリボン収納室の内壁面にシート状物を貼付したものの、インクリボンと接触する面に滑性物質などによる滑性層を設けなかった場合には、動摩擦係数が0.45を超え且つオレイン酸の接触角も60°未満になった為にインクリボンの搬送性もインクリボンの付着性も悪くなり、印字試験中にインクリボンの搬送異常による各種不具合が発生した。
【0060】
比較例3のようにシート状物の滑性層におけるオレイン酸の接触角が60°未満の場合には、インクリボンの付着性が悪化し、インクリボン収納室内でインクリボンがインクリボン収納室の内壁とインクリボンの間に挟まってしまうという搬送異常が発生しやすくなり、そのことが原因でリボンテンションの異常による印字の濃淡ムラが頻発し、さらにはインクリボン同士が絡まったりまとまったりしてインク収納室出口から出ようとした時にインクリボンが詰まってしまったことなどが原因でプリンタの異常停止やインクリボン自体の破断といった不具合が発生した。
【0061】
比較例4のようにシート状物の滑性層の面同士の動摩擦係数が0.45を超える場合には、インクリボンの搬送性が悪くなりインクリボン収納室のフィードロールに近い部分におけるインクリボンの密度が非常に高くなった結果、インクリボン収納室の入り口からインクリボンがフィードロール側へ押し出されてフィードロールに絡みつくなどの搬送異常が発生しやすくなり、そのことが原因でプリンタの異常停止やインクリボン自体の破断といった不具合が発生した。
【符号の説明】
【0062】
1:インクリボンカセット
2:インクリボン
3:リボン入口
4:フィードロール
5:隔壁
6:隔壁
7:インクリボン収納室
8:シート状物
9:リボンブレーキ
10:リボン出口
11:搬送異常発生部位(インクリボン収納室からの漏れ出し)
12:搬送異常発生部位(内壁面とインクリボン間に挟まれる1)
13:搬送異常発生部位(内壁面とインクリボン間に挟まれる2)
14:基材
15:滑性層
16:粘着層