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7011799ビサクロンを安定的に含有する液状組成物、及び、ビサクロンを安定化する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】ビサクロンを安定的に含有する液状組成物、及び、ビサクロンを安定化する方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/52 20060101AFI20220203BHJP
   A23L 2/42 20060101ALI20220203BHJP
   A23L 33/105 20160101ALN20220203BHJP
   A61K 31/121 20060101ALN20220203BHJP
   A61K 47/42 20170101ALN20220203BHJP
   A61K 47/40 20060101ALN20220203BHJP
   A61K 9/08 20060101ALN20220203BHJP
   A61P 1/08 20060101ALN20220203BHJP
   A61P 25/06 20060101ALN20220203BHJP
   A61P 39/02 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
A23L2/00 F
A23L2/00 N
A23L33/105
A61K31/121
A61K47/42
A61K47/40
A61K9/08
A61P1/08
A61P25/06
A61P39/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017192012
(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2019062814
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】306019030
【氏名又は名称】ハウスウェルネスフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝武 宗明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 礼子
(72)【発明者】
【氏名】金 倫希
(72)【発明者】
【氏名】石田 亮介
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-207877(JP,A)
【文献】特開2001-218567(JP,A)
【文献】特開平09-111282(JP,A)
【文献】特開2006-111534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A61K、A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、ビサクロンと、pH4.0以下の条件下でカチオン性を示す高分子化合物とを含み、pHが4.0以下であり、ビサクロン1モルに対して前記高分子化合物が0.04モル以上である、飲料組成物。
【請求項2】
ビサクロン1モルに対して前記高分子化合物が0.04~3.2モルである、請求項1に記載の飲料組成物。
【請求項3】
前記高分子化合物の濃度が0.01質量%以上である、請求項1又は2に記載の飲料組成物。
【請求項4】
サイクロデキストリンを更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の飲料組成物。
【請求項5】
ビサクロン1モルに対してサイクロデキストリン14~28モルである、請求項4に記載の飲料組成物。
【請求項6】
サイクロデキストリンの濃度が0.05質量%以上である、請求項4又は5に記載の飲料組成物。
【請求項7】
水と、ビサクロンとを含み、pHが4.0以下である飲料組成物において、ビサクロンを安定化する方法であって、
前記飲料組成物に、pH4.0以下の条件下でカチオン性を示す高分子化合物を、ビサクロン1モルに対して前記高分子化合物が0.04モル以上となるように配合する工程を含む方法。
【請求項8】
前記飲料組成物にサイクロデキストリンを配合する工程を更に含む、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビサクロンを安定的に含有する飲料等の液状組成物、及び、飲料等の液状組成物中でビサクロンを安定化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウコンは東南アジアを中心に、世界中の熱帯・亜熱帯地域で栽培されるショウガ科ウコン属の植物である。独特な香気と風味を有することから香辛料として、また生薬として古くから用いられている。最近では、根茎に含まれるクルクミンに抗炎症、抗腫瘍、肝機能改善、悪酔いの防止等のさまざまな効果があることが報告され、ウコンは、健康食品としても注目されている。
【0003】
今日、ウコンの有用性に着目し、ウコン成分を配合した様々な飲食品が開発されており、中でも、ウコン成分を配合した酸性飲料はウコン独特の土臭さや苦味が抑えられ、飲みやすく、人気が高い。
【0004】
本出願人は、これまでに、ウコンがもたらす効果の有効成分の一つとしてビサクロンを同定し、ビサクロンが、血中エタノール濃度を低下させる効果、及び二日酔いの症状を抑制する効果を有することを確認している。
【0005】
特許文献1では、ビサクロンが酸性水溶液中で不安定であること、pHを3.1以上とすることでビサクロンの酸性水溶液中での減少を抑制できることが記載されている。
【0006】
一方、特許文献2では、水分量が7重量%の低水分組成物中では、ビサクロンは安定化され保存中の減少がほとんどないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-207877号公報
【文献】特開2015-172012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、pHを3.1以上とすることでビサクロンの酸性水溶液中での減少を抑制する技術が開示されているが、特許文献2のような低水分系組成物でのビサクロンの安定性に比較すると十分とは言えない。
【0009】
ウコン含有飲料においては、風味等品質保持の観点から、清涼飲料水の規格基準(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000ypmm-att/2r9852000000ypvf.pdf)の「2 清涼飲料水の製造基準」(1)-4に定める殺菌条件で殺菌できるよう、pH4.0未満とすることが望ましい。
【0010】
更に本発明者らは、本明細書の実施例の「実験2」において、ウコン水溶液を用いて、pHとビサクロンの残存率の関係について調べたところ、pHが3から4へ値が大きくなるにつれて、残存率は向上するものの、100%とはならないことを新たに見出した。
【0011】
そこで本発明は、水とビサクロンを含みpHが4.0以下の液状組成物において、ビサ
クロンの減少を抑制し安定性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは驚くべきことに、水とビサクロンを含みpHが4.0以下の液状組成物に、pH4.0以下の条件下でカチオン性を示す高分子化合物を更に配合することにより、保存中のビサクロンの減少が抑制され、ビサクロンが安定化されることを見出した。また、更にサイクロデキストリンを配合することにより、ビサクロンは更に安定化されることを見出した。本発明は以下の発明を包含する。
【0013】
(1)水と、ビサクロンと、pH4.0以下の条件下でカチオン性を示す高分子化合物とを含み、pHが4.0以下である液状組成物。
(2)ビサクロン1モルに対して前記高分子化合物(分子量を100,000と仮定する)が0.04~3.2モルである、(1)に記載の液状組成物。
(3)前記高分子化合物の濃度が0.01質量%以上である、(1)又は(2)に記載の液状組成物。
(4)サイクロデキストリンを更に含む、(1)~(3)のいずれかに記載の液状組成物。
(5)ビサクロン1モルに対してサイクロデキストリン14~28モルである、(4)に記載の液状組成物。
(6)サイクロデキストリンの濃度が0.05質量%以上である、(4)又は(5)に記載の液状組成物。
(7)水と、ビサクロンとを含み、pHが4.0以下である液状組成物において、ビサクロンを安定化する方法であって、
前記液状組成物に、pH4.0以下の条件下でカチオン性を示す高分子化合物を配合する工程を含む方法。
(8)前記液状組成物にサイクロデキストリンを配合する工程を更に含む、(7)に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の液状組成物では、保存中のビサクロンの減少が抑制される。
本発明の方法は、pH4.0以下の液状組成物中でビサクロンを安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ビサクロンを含むpH3.7の液状組成物中に、ゼラチン、エンドウ豆タンパク質又はプロタミンを異なる濃度で配合したものの保存試験を行い、保存前のビサクロン量に対する、保存後のビサクロン量を残存率とし、残存率を濃度毎にプロットしたグラフである。
図2】ビサクロンを含むpH3.7の液状組成物中に、ゼラチン、エンドウ豆タンパク質又はプロタミンを異なる濃度で配合し、更にβサイクロデキストリンを0.08質量%の濃度で配合したものの保存試験を行い、保存前のビサクロン量に対する、保存後のビサクロン量を残存率とし、残存率を濃度毎にプロットしたグラフである。
図3】ビサクロンを含む異なるpHの水溶液の保存試験を行い、保存前のビサクロン量に対する、保存後のビサクロン量を残存率とし、残存率をpH毎にプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において「液状組成物」とは、水溶液等の水を基調とする液状組成物を指す。液状組成物は、典型的には、経口摂取される飲料組成物、医薬品組成物等の形態であり、特に好ましくは飲料組成物である。本発明の液状組成物は、アルコール摂取後の起床時のい
わゆる二日酔い症状(特に、頭重感、吐き気、倦怠感、アルコール残り感、胃の不快症状)の軽減作用を有する飲料組成物として使用することができる。
【0017】
本発明の液状組成物において成分は全て水中に溶解している必要はなく水中に分散した状態であってもよい。また、本発明の液状組成物は、ゼリーや粘性飲料の形態であってもよい。また、タブレットや造粒物のような固体において、わずかに水分があり、それらが経時的に偏りビサクロンの周りで水分が多くなった状況で生じた液状組成物も、本発明における液状組成物に該当する。
【0018】
ビサクロンとは次式で表される化合物又はその塩を指し、ビサボラン型セスキテルペン類に分類される化合物である:
【0019】
【化1】
【0020】
本明細書におけるビサクロンとは上記化合物の光学異性体も包含する概念である。
【0021】
ビサクロンは植物原料から抽出又は精製したものであってもよいし、人為的に合成されたものであってもよいが、安全性の観点から植物原料から抽出又は分離/精製したものを用いることが好ましい。
【0022】
前記植物原料としては、ショウガ科植物が好ましく、特にCurcuma longa(ウコン)、Curcuma aromatica、Curcuma zedoaria、Curcuma phaeocaulis、Curcuma kwangsiensis、Curcuma wenyujin、Curcuma xanthorrhizaが好ましい。植物原料の根茎等の適当な部位を原型のまま、あるいは適当な寸法又は形状にカットした形態で、あるいは粉砕物の形態で、有効成分の製造のための原料として使用することができる。これらの原料は適宜乾燥されたものであってよい。
【0023】
植物原料からのビサクロンの抽出方法は特に限定されない。例えば、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、ジエチルエーテル、石油エーテル、ヘキサン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、動植物油脂、又はそれらの溶媒の2種以上の混合物等の、前記有効成分を溶解可能な溶媒を用いて、植物原料から溶媒可溶性成分を抽出する。抽出溶媒としては、水及び/又は親水性抽出溶媒、具体的にはアルコールや水が好ましい。アルコールとしてはエタノールが好ましい。アルコールと水を混合して用いる場合の混合比は特に限定されないが、例えば重量比で10:90~90:10の範囲が好ましく、20:80~50:50の範囲がより好ましい。
【0024】
得られた植物原料の抽出物を必要に応じてさらに、溶媒分画、クロマトグラフィー(カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等)及び/又は再結晶等の精製手段に付して、ビサクロンを分離又は精製してもよい。例えば、ビサクロンはウコンを植物原料とするメタノール抽出物を得て、当該抽出物をシリカゲルカラムでメタノール及びクロロホルムを用いて溶出させ、クルクミノイド(クルクミン、デメトキシク
ルクミン、ビスデメトキシクルクミンの混合物)よりも高極性の画分より分取用HPLCカラムを用いて分離又は精製することができる。
【0025】
本発明においてビサクロンは植物原料の抽出物の形態であってもよいし、植物原料の抽出物より分離/精製された形態であってもよい。すなわち、本発明の液状組成物中には、所定量のビサクロンを含む植物原料の抽出物を配合することができる。
【0026】
本発明の液状組成物には一回の経口摂取量当たり、ビサクロンを0.15mg以上、好ましくは0.5mg以上含めることができる。「一回の経口摂取量」とは、本発明の液状組成物が一度に経口摂取される量、あるいは短い時間間隔(例えば10分以下、好ましくは5分以下の時間)をおいて連続的に複数回で経口摂取される総量を指し、例えば50ml~500ml(典型的には50ml、100ml、150ml、200ml、250ml、300ml、350ml、400ml、450ml又は500ml)である。以下でも「一回の経口摂取量」をこの意味で用いる。また、本発明において「ビサクロンを0.15mg以上」及び「ビサクロンを0.5mg以上」とは、本発明の液状組成物の少なくとも製造完了時、すなわち、本発明の液状組成物が完成製品として少なくとも製造工場を出荷される段階において、「ビサクロンを0.15mg以上」及び「ビサクロンを0.5mg以上」含有していることをそれぞれ意味する。なお、本発明の液状組成物中のビサクロンの量は、飲料を酢酸エチルと混合し、遠心分離して得られた上澄み液から酢酸エチルを減圧留去後、アセトニトリルに溶解した液を分析サンプルとして、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に付すことにより求めることができる。
【0027】
本発明において「pH4.0以下の条件下でカチオン性を示す高分子化合物」は、pH4.0以下の条件において、カチオン性(正電荷)を示す高分子化合物であればよい。前記高分子化合物としては塩基性基を有する高分子化合物が挙げられ、等電点が4.0以上、特に好ましくは4.3以上の高分子化合物が挙げられる。前記高分子化合物としては、具体的には、タンパク質、キトサン等が例示でき、タンパク質が特に好ましい。タンパク質しては乳タンパク質、大豆タンパク質、卵タンパク質、エンドウ豆タンパク質、プロタミン(さけ、ニシン精巣たんぱく質)等が例示できる。タンパク質の分子量は、およそ1000以上が例示でき、上限は特に限定されないが通常は200000以下、好ましくは150000以下である。タンパク質のアミノ酸組成は、塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン)を多く含むことが好ましいがそれには限定されない。
【0028】
「サイクロデキストリン」は環状構造を有する多糖類である。サイクロデキストリンとしてはαサイクロデキストリン、βサイクロデキストリン、γサイクロデキストリン等を用いることができ、βサイクロデキストリン又はγサイクロデキストリンが好ましく、βサイクロデキストリンが特に好ましい。
【0029】
以下、本発明の液状組成物及び方法の特徴について説明する。
【0030】
本発明は第一に液状組成物に関する。
本発明の液状組成物は、水と、ビサクロンと、pH4.0以下の条件下でカチオン性を示す高分子化合物とを含み、pHが4.0以下であることを特徴とする。
【0031】
pH4.0以下の条件下でカチオン性を示す高分子化合物の存在下でビサクロンが安定化する機構は必ずしも明らかではないが、次のような機構が推定される。実験2で確認された通り、ビサクロンはpH5.0以上では比較的安定である。逆に言うとpH4.0以下では顕著に不安定になる。一般的に物質の分解は酸化が原因の場合は多いが、pH4.0でもpH5.0でも溶存酸素濃度は大きく変わらない。むしろ大きく変わるのは水素イオン(プロトン)濃度で指数的に変わるので、水素イオン濃度はpH4.0の時、pH5
.0に比べて10倍多くなる。この事からpHが4.0以下のビサクロン水溶液中では、水素イオン(プロトン)がビサクロンの分解に大きく関与していると推察した。そこで本発明者らは、ビサクロンの周りを分子レベルで正電荷で囲う事が出来たらプロトンが忌避され分解が阻害されるのではないかと考え、実際にカチオン性高分子単独でもビサクロンの残存率が改善されることを実験1において確認した。
【0032】
前記高分子化合物のビサクロンの安定化作用を更に高めるためには、本発明の液状組成物中において、ビサクロン1モルに対して前記高分子化合物が0.04モル以上であることが好ましく、0.3モル以上であることがより好ましい。また、本発明の液状組成物中において、ビサクロン1モルに対して前記高分子化合物が3.2モル以下であることが好ましく、1.0モル以下であることがより好ましい。ここで、前記高分子化合物のビサクロン1モルに対するモル量は、前記高分子化合物の分子量を100,000と仮定して算出した値を用いる。
【0033】
また、前記高分子化合物のビサクロンの安定化作用を更に高めるためには、本発明の液状組成物中での前記高分子化合物の濃度は0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。また、本発明の液状組成物中での前記高分子化合物の濃度は5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、2.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がより好ましい。
【0034】
本発明の液状組成物は更に好ましくはサイクロデキストリンを含有する。サイクロデキストリンの配合によりビサクロンが安定化する機構は必ずしも明らかではない。前記高分子化合物によるビサクロンの安定化作用を相乗的に高めることから、サイクロデキストリンは、前記高分子化合物がビサクロンを安定化する機構とは異なる機構により安定化に寄与していると推定される。
【0035】
本発明の液状組成物のpHは4.0以下であり、より好ましくは4.0未満である。pHがこの範囲の液状組成物は微生物が繁殖し難く品質を保持し易い。またこのpH範囲とすることで、殺菌工程による負荷を小さくし、殺菌工程におけるビサクロンの分解を小さくすることができるため好ましい。ビサクロンをより安定的に保持するためには、特許文献1に記載された知見から、本発明の液状組成物のpHは、3.1以上、好ましくは3.2以上、より好ましくは3.5以上、さらに好ましくは3.7以上の範囲とすることが好ましい。本発明においてpH値は品温20℃で測定された値を指す。
【0036】
なお、本発明において「ビサクロンを安定化する」及び「ビサクロンの分解が抑制される」とは、液状組成物中のビサクロンの分解速度が、前記高分子化合物を含まない場合と比較して緩やかになっていることを意味し、必ずしも、ビサクロンの分解が完全に停止していなくてもよい。
【0037】
本発明の液状組成物のpH値は、加えられる酸味料の量を適宜調節することにより調節することができる。酸味料としては飲料の製造に一般的に利用されるものが挙げられ、例えばクエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、酒石酸、又はこれらの塩などがあり、これらのうちの1種又は2種以上の混合物を加えることができる。
【0038】
本発明の液状組成物は水に上記の成分が含有されたものであるが、一又は複数の他の成分が更に含有されてもよい。
【0039】
「他の成分」としては、ウコン色素が挙げられる。ウコン色素は、ウコンの根茎部分より、温時エタノールで、熱時油脂若しくはプロピレングリコールで、又は室温時~熱時ヘキサン若しくはアセトンで抽出して得られるものであり、このようにして得られたウコン
色素は主にクルクミンを含む。本発明の液状組成物におけるウコン色素の量は一回の経口摂取量当たり、クルクミンが3~50mg、より好ましくは5~40mg、特に好ましくは6~30mgとなる量のウコン色素が配合されるのがよい。
【0040】
さらに、「他の成分」としては、甘味料、増粘剤、香料、酸化防止剤、ビタミン類等が挙げられる。
【0041】
甘味料としては、果糖、ブドウ糖、液糖等の糖類、はちみつ、スクラロース、アセスルファムカリウム、ソーマチン、アスパルテーム等の高甘味度甘味料が挙げられる。
【0042】
増粘剤としては、ジェランガム、キサンタンガム、ペクチン、グアーガム等の増粘多糖類が挙げられる。
【0043】
酸化防止剤としては、ビタミンC、酵素処理ルチン、トコフェロール(ビタミンE)、カテキン等が挙げられる。
【0044】
ビタミン類としては、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンE、ナイアシン、イノシトール等が挙げられる。
【0045】
甘味料、増粘剤、香料、酸化防止剤、ビタミン類等は、当業者が飲料に通常採用する範囲内の量で適宜配合することができる。
【0046】
本発明の液状組成物は、容器詰飲料とすることができる。
本発明の液状組成物を収容するための容器は、飲料用容器等として使用される容器を適宜用いることができ、限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)製容器、所謂PETボトルや、金属缶容器等が挙げられる。容器の形態は特に限定されない。また、容器の容量は特に限定されないが、例えば50~500ml(典型的には50ml、100ml、150ml、200ml、250ml、300ml、350ml、400ml、450ml又は500ml)、好ましくは100~200mlとすることができる。
【0047】
本発明の液状組成物を容器に収容する手段は任意である。
本発明の液状組成物は、前記ビサクロン又はビサクロンを含有する植物原料の抽出物、前記高分子化合物、サイクロデキストリン、酸味料、必要に応じて上述のようなウコン色素及びその他の成分、並びに残部として水を混合して製造することができる。各成分の配合量は上記したとおりである。
【0048】
本発明は第二に、
水と、ビサクロンとを含み、pHが4.0以下である液状組成物において、ビサクロンを安定化する方法であって、
前記液状組成物に、pH4.0以下の条件下でカチオン性を示す高分子化合物を配合する工程を含む方法に関する。
【0049】
pHが4.0以下である液状組成物を配合した液状組成物の具体的な実施形態については上記の通りである。該工程における前記高分子化合物の好ましい配合量は、液状組成物に関して既述の通りである。
【0050】
本発明の方法によれば、前記高分子化合物を配合しない場合と比較して、液状組成物中のビサクロンの分解速度が緩やかとなる。
【0051】
本発明の方法ではより好ましくは、前記液状組成物にサイクロデキストリンを配合する
工程を更に含む。サイクロデキストリンを配合することで、液状組成物中のビサクロンの分解が更に抑制される。該工程におけるサイクロデキストリンの好ましい配合量は、液状組成物に関して既述の通りである。
【実施例
【0052】
<実験1(カチオン性高分子によるビサクロンの安定化)>
pH4.0以下の条件にてカチオン性を示す高分子としてゼラチン、プロタミン、エンドウ豆タンパク質という三種のタンパク質を用いた。表1に、ゼラチン、プロタミン及びエンドウ豆タンパク質の、主要なアミノ酸の組成(重量%)、等電点及び分子量範囲の分析結果の一例を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表2に示す組成のモデル液を調製した。このモデル液は、ビサクロンを800μg/100mL(=3.17μmol/100mL)の濃度で含む。
【0055】
【表2】
【0056】
ビサクロンはウコンエキスの形態で用いた。ウコンエキスは、ウコン(Curcuma
longa)の根茎部分を水を用いて抽出して得たものである。
【0057】
モデル液中に、βサイクロデキストリン(βCD)を配合せず、上記のタンパク質の1つを配合しない或いは0.005質量%、0.05質量%、0.15質量%、0.25質量%、0.5質量%又は1.0質量%となるように配合し、塩酸と水酸化ナトリウムを適量添加してpH3.7に調節した試料液を調製した。この試料液の系統を「ビサクロン+タンパク質」とする。
【0058】
モデル液中に、βCDを0.08%となるように配合し、上記のタンパク質の1つを配合しない或いは0.005質量%、0.05質量%、0.15質量%、0.25質量%、0.5質量%又は1.0質量%となるように配合し、塩酸と水酸化ナトリウムを適量添加してpH3.7に調節した試料液を調製した。この試料液の系統を「ビサクロン+βCD0.08%+タンパク質」とする。
【0059】
試料液のpHは20℃で測定した値である。
タンパク質の分子量を100,000と仮定したとき、タンパク質濃度が0.005質量%、0.05質量%、0.15質量%、0.25質量%、0.5質量%、1.0質量%の試料液は、それぞれ、1モルのビサクロンに対し、0.016モル、0.158モル、0.473モル、0.789モル、1.577モル、3.155モルのタンパク質を含む。
【0060】
0.08質量%のβCDを含む各試料液は、1モルのビサクロンに対し22.24モルのβCDを含む。
【0061】
各試料液を調製後、50℃で7日間保存した。
保存前と保存後での試料液中のビサクロン量は、試料液を酢酸エチルと混合し、遠心分離して得られた上澄み液から酢酸エチルを減圧留去後、アセトニトリルに溶解した液を分析サンプルとして、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に付すことにより求めた。HPLCは以下の条件で行った。
【0062】
【表3】
【0063】
保存前の各試料液中のビサクロン量に対する、50℃7日間保存後のビサクロン量の割合を「残存率」とした。
【0064】
「ビサクロン+タンパク質」の試料液でのタンパク質濃度とビサクロンの残存率の関係を図1に示す。
【0065】
「ビサクロン+βCD0.08%+タンパク質」の試料液でのタンパク質濃度とビサクロンの残存率の関係を図2に示す。
【0066】
図1に示す結果は、酸性下でカチオン性を示すタンパク質が、pH3.7におけるビサクロンの減少を抑制する作用を有することを示す。
【0067】
また、図2に示す結果は、酸性下でカチオン性を示すタンパク質をβCDと組み合わせた場合に、pH3.7におけるビサクロンの減少を抑制する作用が顕著に高まることを示す。
【0068】
<実験2(pHとビサクロン安定性との関係)>
乾燥ウコン(C.longa)の根茎の粉砕物50gをイオン交換水900mlに入れ、16時間撹拌後、濾過し、ろ液をウコン水溶液とした。このウコン水溶液のpHは6.5であった。
【0069】
ウコン水溶液に1N塩酸水溶液及び1N水酸化ナトリウム水溶液を適量添加してpHを3.0~4.0の範囲に調節したウコン水溶液を得た。
【0070】
上記の各水溶液を90℃恒温槽に入れ、4時間静置し、その後取り出した。
保存前と保存後での各水溶液中のビサクロン量を実験1と同様の手順で測定した。保存前のビサクロン量の割合を「残存率」とした。
【0071】
結果を図3に示す。
図3に示すように、pHが3.0から4.0に近づくほどビサクロン残存率は向上するものの、100%とはならない。一方、pHが6.5の場合は残存率は100%となりビサクロンが減少しないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明はビサクロン含有飲料の生産において利用可能である。
図1
図2
図3