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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】ブロー成形方法および成形品製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 49/42 20060101AFI20220120BHJP
   B29C 49/04 20060101ALI20220120BHJP
   B29C 49/48 20060101ALI20220120BHJP
   B29C 33/02 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
B29C49/42
B29C49/04
B29C49/48
B29C33/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018080299
(22)【出願日】2018-04-19
(65)【公開番号】P2019188617
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390040958
【氏名又は名称】みのる化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】國近 紀志
(72)【発明者】
【氏名】坪井 裕之
(72)【発明者】
【氏名】生本 晶裕
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-33430(JP,A)
【文献】特開昭59-152822(JP,A)
【文献】特開平7-156258(JP,A)
【文献】特開平11-34158(JP,A)
【文献】特開2001-88200(JP,A)
【文献】特開2001-239573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 49/00-49/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空洞を有する中空皮部と、非中空の中実部と、を含む成形品を、ブロー成形により製造するブロー成形方法であって、
a)パリソンを1対の金型である第1金型および第2金型の間に挿入し、
b)前記第1金型および前記第2金型を型締めし、
c)前記パリソン内に気体を吹き込んで当該パリソンを前記第1金型および前記第2金型の成形面側へ膨出させ、
d)前記中実部に対応する部分において、前記パリソンの前記第1金型側の内側面と前記パリソンの前記第2金型側の内側面とが互いに接触して隙間のない状態で、前記成形面のうち、前記中実部に対応する前記第1金型側の成形面の一部である作用面を、当該中実部に対応する前記第2金型側の成形面の一部である対向面に、接近させ、
)前記パリソンを前記成形面に密着させ、
f)前記パリソンへの気体の吹き込みを停止させ、
g)前記第1金型および前記第2金型を型開きして、前記成形品を取り出す、ブロー成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載のブロー成形方法であって、
前記d)では、前記中実部の厚み方向にスライド移動するスライド部材を前記対向面側に接近させる、ブロー成形方法。
【請求項3】
請求項2に記載のブロー成形方法であって、
前記d)では、油圧シリンダを駆動することにより、前記スライド部材をスライド移動させて、前記対向面側に接近させる、ブロー成形方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のブロー成形方法であって、
前記成形面を加熱および冷却する工程を有するいわゆるH&C成形技術を利用する、ブロー成形方法。
【請求項5】
請求項4に記載のブロー成形方法であって、
前記e)では前記成形面を加熱し、
前記f)では前記成形面を冷却する、ブロー成形方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のブロー成形方法であって、
前記成形品は、意匠面と非意匠面とを有し、
前記第1金型は、前記成形品の前記非意匠面に対応する、ブロー成形方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のブロー成形方法であって、
前記a)の前に、
a-0)前記成形面のうち、前記中実部に対応する前記第1金型側の前記作用面を、前記中実部に対応する前記第2金型側の前記対向面から遠ざける、ブロー成形方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載のブロー成形方法であって、
前記d)は、前記e)の開始と同時に、または前記e)の直前に行われる、ブロー成形方法。
【請求項9】
内部に空洞を有する中空皮部と、非中空の中実部と、を含む成形品を、加熱および冷却を伴うブロー成形により製造するための成形品製造装置であって、
パリソンを挟み込むための1対の金型である第1金型および第2金型と、
前記パリソン内に気体を吹き込むための気体供給装置と、
前記成形面のうち、前記中実部に対応する前記第1金型の成形面に局所的に設けられ、前記中実部に対応する前記第2金型の対向面に対して接近および離間する作用面と、
前記気体供給装置による気体の吹き込み、ならびに前記作用面の前記対向面に対する近接および離間を制御する、制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記中実部に対応する部分において、前記パリソンの前記第1金型側の内側面と前記パリソンの前記第2金型側の内側面とが互いに接触して隙間のない状態に形成された後、前記パリソンに前記成形面が転写され始めるのと同時に、またはその直前に、前記作用面を前記対向面に対して接近させる、成形品製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロー成形方法および成形品製造装置に関する。より詳細には、内部に空洞を有する中空皮部と、非中空の中実部と、を含む成形品を、ブロー成形により製造する、ブロー成形方法および成形品製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内部に空洞を有する中空皮部と、非中空の中実部と、を含む成形品を、ブロー成形技術を利用して製造する場合が考えられる。このような成形品の成形方法は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1には、従来、上記のような中空皮部(薄肉部)と中実部(合着部)とを有する成形品をブロー成形で製造する場合に、中実部の表面に凹部や波打ちからなるヒケが現れ、成形品の外観が損なわれるという問題があったことが開示されている。
【0003】
特許文献1では、上記のようなヒケの発生理由は、中実部の厚みが、例えば中空皮部の厚みの略2倍となって、中空皮部の厚みと比べて大きい場合が多いことから、ブロー成形時に中実部内に溜まる熱量が中空皮部の熱量よりも極めて大になり、その後の冷却により生じる収縮の程度が中実部で顕著になって、中実部表面に凹部や波打ちが発生する、としている。
【0004】
そして、上記特許文献1では、ヒケの発生等の問題を解決するための手段として、パリソンの所定部の内面が密着してなる合着部(「中実部」に相当。)を製品部分に有する中空プラスチック成形品をブロー成形する際に、前記パリソンに空気を吹き込んで当該パリソンを膨らませて賦形した後、前記合着部になるパリソン所定部の内面を密着させて合着させる成形方法が、提示されている。
【0005】
この特許文献1の成形方法によれば、パリソンに空気を吹き込んで賦形した際に、合着部が中空となるため、当該中空部分への空気の吹き込みによって合着部のパリソンが内側から冷却される。これにより、合着部賦形時には吹き込み空気によってパリソンが冷却されていて、空気吹き込みによる賦形時に比べパリソンの保有熱量が少ない状態とされる。特許文献1では、斯かる成形方法により、合着部形成時とその後の成形品との間の熱量変化による収縮量が少なくなって、合着部表面にヒケが生じ難くなる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-34158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の成形方法を採用した場合、合着部の熱量変化が急激とならないように徐冷するために、時間を要すると考えられる。また、合着部となる部分を、いったん中空状に賦形して、その後の工程で合着するため、工数が増えて手間が掛かってしまうと考えられる。特許文献1に記載の成形方法では、これらの点で改善の余地があった。
【0008】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その潜在的な目的は、多大な時間や手間を掛けることなく、中実部の転写性を良好にすることができ、ひいてはヒケ等の発生を防止できる、ブロー成形方法および成形品製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
本願の第1の観点においては、内部に空洞を有する中空皮部と、非中空の中実部と、を含む成形品を、ブロー成形により製造するブロー成形方法が提供される。このブロー成形方法は、次のa)からg)までの工程を含む。a)では、パリソンを1対の金型である第1金型および第2金型の間に挿入する。b)では、前記第1金型および前記第2金型を型締めする。c)では、前記パリソン内に気体を吹き込んで当該パリソンを前記第1金型および前記第2金型の成形面側へ膨出させる。d)では、前記中実部に対応する部分において、前記パリソンの前記第1金型側の内側面と前記パリソンの前記第2金型側の内側面とが互いに接触して隙間のない状態で、前記成形面のうち、前記中実部に対応する前記第1金型側の成形面の一部である作用面を、当該中実部に対応する前記第2金型側の成形面の一部である対向面に、接近させる。e)では、前記パリソンを前記成形面に密着させる。f)では、前記パリソンへの気体の吹き込みを停止させる。g)では、前記第1金型および前記第2金型を型開きして、前記成形品を取り出す。
【0011】
本願の第2の観点では、第1の観点に係るブロー成形方法において、前記d)では、前記中実部の厚み方向にスライド移動するスライド部材を前記対向面側に接近させる。
【0012】
本願の第3の観点では、第2の観点に係るブロー成形方法において、前記d)では、油圧シリンダを駆動することにより、前記スライド部材をスライド移動させて、前記対向面側に接近させる。
【0013】
本願の第4の観点では、第1の観点から第3の観点までのいずれか1つに係るブロー成形方法において、前記成形面を加熱および冷却する工程を有するいわゆるH&C成形技術を利用する。
【0014】
本願の第5の観点では、第4の観点に係るブロー成形方法において、前記e)では前記成形面を加熱し、前記f)では前記成形面を冷却する。
【0015】
本願の第6の観点では、第1の観点から第5の観点までのいずれか1つに係るブロー成形方法において、前記成形品は、意匠面と非意匠面とを有する。また、前記第1金型は、前記成形品の前記非意匠面に対応する。
【0016】
本願の第7の観点では、第1の観点から第6の観点までのいずれか1つに係るブロー成形方法において、前記a)の前に、a-0)前記成形面のうち、前記中実部に対応する前記第1金型側の前記作用面を、前記中実部に対応する前記第2金型側の前記対向面から遠ざける。
【0017】
本願の第8の観点では、第1の観点から第7の観点までのいずれか1つに係るブロー成形方法において、前記d)は、前記e)の開始と同時に、または前記e)の直前に行われる。
【0018】
本願の第9の観点においては、内部に空洞を有する中空皮部と、非中空の中実部と、を含む成形品を、加熱および冷却を伴うブロー成形により製造するための成形品製造装置が提供される。この成形品製造装置は、第1金型および第2金型と、気体供給装置と、作用面と、制御装置とを備える。前記第1金型および第2金型は、パリソンを挟み込むための1対の金型である。前記気体供給装置は、前記パリソン内に気体を吹き込む。前記加熱・冷却装置は、前記第1金型および前記第2金型の成形面を、加熱および冷却する。前記作用面は、前記成形面のうち、前記中実部に対応する前記第1金型の成形面に局所的に設けられ、前記中実部に対応する前記第2金型の対向面に対して接近および離間する。前記制御装置は、前記気体供給装置による気体の吹き込み、ならびに前記作用面の前記対向面に対する近接および離間を制御する。前記制御装置は、前記中実部に対応する部分において、前記パリソンの前記第1金型側の内側面と前記パリソンの前記第2金型側の内側面とが互いに接触して隙間のない状態に形成された後、前記パリソンが前記成形面に転写され始めるのと同時に、またはその直前に、前記作用面を前記対向面に対して接近させる。
【発明の効果】
【0019】
本願の第1の観点~第9の観点によれば、多大な時間や手間を掛けることなく、中実部の転写性を良好にすることができ、ひいてはヒケ等の発生を防止できる。
【0020】
特に、本願の第1の観点によれば、d)の工程で、作用面を対向面に接近させることにより、厚み方向の圧力を掛けて、当該部分のパリソンを、中実の状態で作用面および対向面(成形面)に押し付けることができる。その結果、中実部の転写性を良好にすることができ、ひいてはヒケ等の発生を防止できる。
【0021】
特に、本願の第2の観点によれば、シンプルな構成で、中実部に対応するパリソンを成形面に押し付けることができる。
【0022】
特に、本願の第3の観点によれば、油圧シリンダによる強力な力で、中実部に対応するパリソンが成形面に押し付けられる。よって、例えば中実部が1対の金型の開き方向に対して垂直な方向に長いような場合でも、中実部の全長にわたって、ヒケ等の発生を効果的に防止することができる。
【0023】
特に、本願の第4の観点によれば、いわゆるH&C成形技術を利用することにより、中実部の転写性をより良好にすることができる。
【0024】
特に、本願の第5の観点によれば、パリソンを成形面に転写する際には成形面を加熱し、パリソンを固化する際には成形面を冷却することにより、効率のよいブロー成形を実現することができる。
【0025】
ここで、一般的に、成形品の意匠面に対応する金型には、当該意匠面を綺麗に仕上げるために、成形面を加熱・冷却するための大掛かりな構造が配置されている場合が多い。この点、本願の第6の観点によれば、スライド部材および油圧シリンダを非意匠面側に配置するので、意匠面の外観品質を損なうことなく、合理的なレイアウトが実現する。
【0026】
特に、本願の第7の観点によれば、例えば、中実部がパリソンの流動末端に配置されているような場合においても、パリソンが途中で固まり始めて中実部に対応する部分に十分に充填されなくなるといった事態を、未然に防ぐことができる。
【0027】
特に、本願の第8の観点によれば、中実部のパリソンの表面が少し固化しているタイミングで、当該部分のパリソンを加圧することができる。よって、ヒケ等の発生をより効果的に防止できる。
【0028】
また、本願の第9の観点によれば、中実部のパリソンの表面が少し固化しているタイミングで、当該部分のパリソンを加圧しながら、成形品を成形することができる。よって、ヒケ等の少ない、良好な外観品質の成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本実施形態に係るブロー成形方法の概略を示した図である。
図2】本実施形態に係るブロー成形方法において用いられる成形品製造装置の構成を示した図である。
図3】本実施形態に係る成形品製造装置の制御系の構成を概念的に示したブロック図である。
図4】本実施形態に係るブロー成形方法の各工程を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0031】
<1.ブロー成形方法の概略>
初めに、本実施形態に係るブロー成形方法の概略について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るブロー成形方法の流れを模式的に示している。本実施形態に係るブロー成形方法には、パリソン供給装置10と、成形品製造装置90とが主として用いられる。本実施形態のブロー成形は、一部に中空部を有する様々な成形品を製造するために用い得る。
【0032】
パリソン供給装置10は、後段の成形品製造装置90に、円筒形状(チューブ状)の材料であるパリソンPを供給するためのものである。パリソン供給装置10は、ホッパー11、押出し機12、およびダイヘッド18を有する。
【0033】
ホッパー11は、下方に向かって径が小さくなる円錐形状の部位である。ホッパー11の上端は開放されており、ホッパー11の下端は押出し機12の上流側の端部に接続されている。ホッパー11には、上端からペレット状の熱可塑性樹脂材料が供給される。
【0034】
押出し機12は、円筒状のケース13と、スクリュー軸14と、ヒータ15とを有する。ケース13は、軸線方向を水平方向に向けて延びる。スクリュー軸14は、ケース13の内部に回転可能に搭載される。ヒータ15は、ケース13の長手方向の中途部に、周方向に沿って設けられる。ホッパー11から供給された熱可塑性樹脂材料は、スクリュー軸14の回転によって、押出し機12の下流側の端部に向かって搬送される。その搬送の途中で、熱可塑性樹脂材料はヒータ15により加熱されて、溶融する。
【0035】
ダイヘッド18は、上下方向に延びる円筒形状の部位である。ダイヘッド18は、押出し機12から押し出された熱可塑性樹脂を、円筒形状のパリソンPの状態にして、成形品製造装置90の1対の金型である第1金型30および第2金型40の間に挿入(導出)する。
【0036】
成形品製造装置90は、1対の金型である第1金型30および第2金型40を、主要な構成として備える。第1金型30および第2金型40の動作について、図1を参照して簡単に説明すると、まず、ダイヘッド18から導出されたパリソンPを、第1金型30および第2金型40によって、当該パリソンPの挿入方向に対して垂直な方向の両側から挟み込む。すなわち、第1金型30および第2金型40を型締めする。
【0037】
続いて、第1金型30に形成された気体流通路31を介して、パリソンP内に気体が吹き込まれる。より詳細には、気体流通路31に、気体を吹き込むための吹き込み針32が挿入されて、当該吹き込み針32がパリソンPの表面に刺される。この吹き込み針32内の通路を介して、パリソンP内に気体が吹き込まれる。これにより、パリソンPが第1金型30および第2金型40の成形面の形状(キャビティの形状)に応じて膨出される。
【0038】
そして、パリソンPが成形面の略全域に接触した状態、かつ、吹き込まれた気体により内側から冷却されてパリソンPの表面が少し固化し始めた状態のときに、成形面が後述する加熱・冷却装置60により加熱される。これにより、パリソンPが転写に適した温度にまで昇温されるとともに、パリソンPが成形面に押し付けられて当該成形面に密着される。
【0039】
転写に必要な時間が経過した後、成形面が加熱・冷却装置60により冷却される。また、パリソンPへの気体の吹き込みが停止される。詳細には、吹き込み針32が気体流通路31内を通ってパリソンPの表面から退避される。これにより、パリソンPが冷却されて、固化する。
【0040】
そして、第1金型30および第2金型40が型開きされて、成形品が取り出される。
【0041】
最後に、成形品のうちのバリ等の不要な部分が、公知の切断装置により切り取られ、仕上げられる。
【0042】
以上のような概略のブロー成形方法を用いて、内部に空洞を有する中空皮部と、非中空の中実部と、を含む成形品を製造する場合が想定される。斯かる場合、従来の一般的なブロー成形方法によってこの成形品を製造すると、中実部の表面に凹部や波打ちからなるヒケが現れ、成形品の外観が損なわれるという問題があった。従来、このようなヒケの発生理由は、中実部の厚みが、中空皮部の厚みと比べて大きい場合が多いことから、ブロー成形時に中実部に溜まる熱量が中空皮部の熱量と比べて極めて大きくなり、その後の冷却により生じる収縮の程度が中実部で顕著になることによると考えられていた。すなわち、従来、中実部におけるヒケの発生は、中実部の熱量の変化が、中空皮部の熱量の変化に比べて、著しく大きいことによるものと考えられていた。
【0043】
この点、本願の発明者らは、中実部にヒケが発生する別の要因として、中実部には気体の吹き込みによる圧力が掛からず、成形面に押し付ける圧力が不足していることを見出した。すなわち、本願の発明者らは、中実部において成形面に押し付ける圧力が十分ではないことにより、中実部の転写性が不良となり、ひいては当該中実部でのヒケの発生を招いていると考察した。本実施形態に係るブロー成形方法および成形品製造装置は、このような観点に鑑みて、中実部におけるヒケの発生を抑制するための特有の工程および構成を備えている。
【0044】
<2.成形品製造装置の構成>
以下では、本実施形態に係る成形品製造装置90について、図2および図3を参照して、より具体的に説明する。図2は、第1金型30および第2金型40の断面図を示している。図3は、成形品製造装置90の制御系の構成を概念的に示している。成形品製造装置90は、上述した1対の金型である第1金型30および第2金型40の他に、気体供給装置50と、加熱・冷却装置60と、スライド部材71と、油圧シリンダ74と、制御装置80とを主として有する。
【0045】
なお、以下では、自動車部品であるリアスポイラーを成形品Sとして製造する場合を例に挙げて、説明を行う。リアスポイラーは、走行時に車体に掛かる揚力を低減するために、車体(自動車)の後部に取り付けられる。成形品Sとしてのリアスポイラーは、車体に取り付けられたときに外部に露出する意匠面s11と、外部からは見えない非意匠面s12と、を有する。また、このリアスポイラーは、内部に空洞を有する中空皮部s13と、この中空皮部s13よりも材料の厚みが大きい非中空の中実部s14と、を含む。
【0046】
ただし、成形品製造装置90を用いて製造する製品は、これに限るものではなく、例えばリアスポイラーに代えて、自動車、農業用・建設用作業車両、もしくは自動二輪車等の他の部品、または家電製品等に含まれるフレーム等としてもよい。
【0047】
図2に示す第1金型30は、リアスポイラーの非意匠面s12に対応するものである。第1金型30は、リアスポイラーの非意匠面s12を成形(転写)するための成形面33を有する。第1金型30には、成形面33と外部とを連通する気体流通路31が形成される。上述したように、気体流通路31は、吹き込み針32(図1を参照)を進退させるために用いられる。
【0048】
第2金型40は、第1金型30と対をなす金型である。第2金型40は、リアスポイラーの意匠面s11に対応するものである。第2金型40は、リアスポイラーの意匠面s11を成形(転写)するための成形面41を有する。成形面33と成形面41とを合わせたものは、リアスポイラーの外表面全体に対応する。
【0049】
気体供給装置50は、第1金型30と第2金型40との間に挟まれたパリソンP内に気体を供給するための装置である。気体供給装置50は、吹き込み針32、当該吹き込み針32に気体を供給するための圧縮気体源51、ならびに、気体の供給およびその停止を切り替えるための電磁バルブ52を備える。気体供給装置50によりパリソンP内に供給される気体は、例えば圧縮空気とすることができるが、これに限るものではなく、ヘリウム等の他の気体としてもよい。
【0050】
加熱・冷却装置60は、成形面33および成形面41を加熱・冷却するための装置である。本実施形態では、成形面33および成形面41の加熱・冷却を行うことにより、いわゆるH&Cブロー成形技術を実現している。加熱・冷却装置60としては、公知の様々な方式のものを採用し得るが、本実施形態では、蒸気と冷水とを切り替える方式である蒸気加熱方式を採用している。具体的には、第1金型30および第2金型40の内部には、蒸気および冷水を流すための空間または流路が形成されている。図2中に、この空間または流路が形成される領域を2点鎖線で示している。とりわけ、第2金型40には、意匠面を綺麗に仕上げるために、成形面41の全面に沿って上記の空間または流路が形成されている。
【0051】
加熱・冷却装置60の方式は、上述した蒸気加熱方式に代えて、例えば加圧熱水と冷水を切り替えて加熱・冷却を行う方式、あるいは加熱オイルと冷却オイルを切り替える方式としてもよい。あるいは、成形面33,41に沿って設けた導電層に通電して昇温する方式等としてもよい。
【0052】
スライド部材71は、中実部s14の厚み方向にスライド移動する部材である。スライド部材71のスライド方向(図2中の両矢印を参照。)の一方側の面である作用面71aは、成形面33,41のうち、中実部s14に対応する第1金型30側の成形面33の一部をなす。作用面71aは、スライド部材71がスライド移動することにより、中実部s14に対応する第2金型40側の成形面41の一部である対向面41aに対して、近接・離間させることが可能である。対向面41aは、間に中実部s14を挟んで、作用面71aと対向して配置される。
【0053】
油圧シリンダ74は、上述のスライド部材71をスライド移動させるために駆動されるものである。油圧シリンダ74のシリンダロッド74aの先端部は、スライド部材71のスライド方向の他方側の面に接続される。油圧シリンダ74は第1金型30に搭載される。より詳細には、油圧シリンダ74は、上述の加熱・冷却装置60の、蒸気および冷水を流すための空間または流路が形成されていない領域に、配置される。
【0054】
図3に示す制御装置80は、成形品製造装置90内の各部を動作制御するための手段である。本実施形態の制御装置80は、CPU等のプロセッサ81、RAM等のメモリ82、およびハードディスクドライブ等の記憶部83を有するコンピュータにより構成されている。制御装置80は、1対の金型30,40を開閉するための金型開閉装置49、上述した気体供給装置50、加熱・冷却装置60、および油圧シリンダ74と、それぞれ電気的に接続されている。制御装置80は、記憶部83に記憶されたコンピュータプログラムCPをメモリ82に一時的に読み出し、当該コンピュータプログラムCPに基づいて、プロセッサ81が演算処理を行うことにより、上記の各部を動作制御する。これにより、上記のハードウェアとソフトウェアとの協働によって、成形品製造装置90における金型30,40の開閉や、気体の吹き込みや、加熱・冷却処理や、スライド部材71の進退処理等が総合的に制御されながら進行する。
【0055】
<3.ブロー成形方法の詳細>
続いて、本実施形態のブロー成形方法について、より詳細に説明する。とりわけ、本実施形態に特有の工程について、詳述する。
【0056】
初めに、スライド部材71の作用面71aと、対向面41aとの間の、型締め後の厚み方向における距離Tが、規定厚み(本実施形態では、5.5mm)よりも大きい6.5mmとなるように、スライド部材71が後退される(ステップS1)。すなわち、本実施形態では、作用面71aと対向面41aとの間に形成される離間距離(厚み)Tが、規定厚みに対して105%以上かつ130%未満、より好ましくは115%以上かつ120%未満となるようにしている。なお、ここで言う「規定厚み」とは、成形品が仕上げられて完成品(本実施形態では、リアスポイラー)となったときの、中実部s14の厚み(製品厚み)を指す。
【0057】
そして、熱可塑性樹脂材料からなるパリソンPが、型開き状態の第1金型30および第2金型40の間に挿入される(ステップS2)。
【0058】
続いて、パリソンPが固化しないうちに、制御装置80によって金型開閉装置49が駆動されることにより、第1金型30および第2金型40が型締めされる(ステップS3)。
【0059】
続いて、パリソンP内に気体を吹き込んで当該パリソンPを第1金型30および第2金型40の成形面33,41側に膨出させる(ステップS4)。別の言い方をすれば、パリソンPを、成形面33,41に対して概ね賦形する。具体的には、パリソンPの表面に吹き込み針32を刺すとともに、上記の電磁バルブ52を開くことにより、吹き込み針32の先端部からパリソンPの内側に気体を供給する。これにより、圧縮気体源51からの高圧の気体がパリソンP内に吹き込まれる。
【0060】
続いて、ステップS4においてパリソンPの内側に気体を吹き込んだことにより、パリソンPが内側から徐々に冷却されて、当該パリソンPの表面が若干固化したタイミングで、スライド部材71の作用面71aを、対向面41aに接近させる(ステップS5)。詳細には、パリソンPを固化した後の中実部s14の厚みが規定厚み(本実施形態では、5.5mm)となるように、油圧シリンダ74の駆動状態が、制御装置80によって制御される。すなわち、本実施形態では、作用面71aと対向面41aとの間の厚み方向における距離が、規定厚みと同一となるように、油圧シリンダ74が駆動される。これにより、中実部s14の厚みが、ステップS1で設定された厚みT(本実施形態では、6.5mm)と規定厚み(本実施形態では、5.5mm)との差分だけ縮まるように、圧縮される。
【0061】
また、ステップS5と同時に、またはステップS5の直後のタイミングで、成形面33,41が加熱・冷却装置60により加熱されて、パリソンPの表面の温度が、転写に適した温度にまで昇温される(ステップS6)。より詳細には、加熱・冷却装置60の上記空間または流路に蒸気が供給されることにより、成形面33,41に接触するパリソンPの温度が、パリソンPが完全に固化する温度と、パリソンPが完全に溶融する温度と、の中間付近の温度となるように調整される。このステップS5においても、パリソンPの内側への空気の吹き込みは継続される。これにより、パリソンPが成形面33,41に密着される。厳密には、パリソンPのうち、中空皮部s13に対応する部位は、空洞を有する状態で成形面33,41に賦形される。一方、パリソンPのうち、中実部s14に対応する部位は、空洞(中空部)が生じていない状態で、成形面33,41に密着される。この際、スライド部材71の作用面71aが対向面41aに接近されていることにより、パリソンPの中実部s14の厚み方向の両面は、強い力で成形面33,41に押し付けられる。その結果、従来は転写性が不十分であった中実部s14の転写性が、向上する。
【0062】
ステップS6において、転写に必要な時間が経過した後、続いて成形面33,41が加熱・冷却装置60により冷却されて、パリソンPの温度が、固化に適した温度とされる。同時に、吹き込み針32をパリソンPから退避させるとともに、先端部への圧縮気体の供給を停止することにより、パリソンPへの気体の吹き込みが停止される(ステップS7)。
【0063】
パリソンPが十分に冷却されて固化した後、制御装置80によって金型開閉装置49を駆動することにより、第1金型30および第2金型40を型開きして、成形品が取り出される(ステップS8)。その後、図4のフローには記載していないが、成形品からバリ等が切り取られて、仕上げられる(図1を参照)。
【0064】
以上に示したように、本実施形態に係るブロー成形方法には、ステップS5の工程が含まれる。したがって、作用面71aを対向面41aに接近させることにより、厚み方向の圧力を掛けて、当該部分のパリソンPを作用面71aおよび対向面41aに強く押し付けることができる。その結果、多大な時間や手間を掛けることなく、中実部s14の転写性を良好にすることができ、ひいては成形面33,41への押し付け力不足に起因する中実部s14でのヒケ等の発生を防止することができる。
【0065】
また、本実施形態に係るブロー成形方法においては、ステップS5で、スライド部材71を対向面41a側にスライドさせることにより、中実部s14における押し付け力を向上させている。これにより、シンプルな構成で、中実部s14に対応するパリソンPの表面を成形面33,41に押し付けることができる。
【0066】
また、本実施形態に係るブロー成形方法においては、成形面33,41を加熱および冷却する工程を有するいわゆるH&C成形技術を利用している。具体的には、パリソンPに成形面33,41を転写する際に当該成形面33,41を転写に適した温度にまで加熱し(ステップS6)、パリソンPを固化させる際に成形面33,41を冷却する(ステップS7)。これにより、効率のよいブロー成形を実現することができる。
【0067】
また、本実施形態に係るブロー成形方法においては、ステップS5で、油圧シリンダ74を駆動することにより、スライド部材71をスライド移動させて、作用面71aを対向面41a側に接近させる。これにより、油圧シリンダ74による強力な力で、中実部s14に対応するパリソンPが成形面33,41に押し付けられる。よって、例えば中実部s14が1対の金型30,40の開き方向に対して垂直な方向に長いような場合でも、中実部s14の長手方向の全長にわたって、ヒケ等の発生を効果的に防止することができる。
【0068】
また、本実施形態に係るブロー成形方法においては、成形品Sは、意匠面s11と非意匠面s12とを有する。第1金型30は、成形品Sの非意匠面s12に対応する。ここで、一般的に、成形品の意匠面に対応する金型には、当該意匠面を綺麗に仕上げるために、成形面を均一に加熱・冷却するための大掛かりな構造が配置されている場合が多い。本実施形態においても、図2に示すように、意匠面s11に対応する第2金型40に、成形面41の全域に対応する加熱・冷却装置60が配置されている。この点、本構成によれば、スライド部材71および油圧シリンダ74を、空きスペースが多い非意匠面s12側に配置するので、意匠面s11の外観品質を損なうことなく、合理的なレイアウトが実現する。さらに言えば、本実施形態に係るブロー成形方法では、意匠面s11側に、スライド部材71に起因する段差が生じることもない。
【0069】
また、本実施形態に係るブロー成形方法においては、1対の金型30,40を型締めするよりも前に、ステップS1の工程を実行する。ステップS1においては、成形面33,41のうち、中実部s14に対応する第1金型30側の作用面71aを、この中実部s14に対応する第2金型40側の対向面41aから遠ざける。
【0070】
これにより、例えば、中実部s14がパリソンPの流動末端(典型的には、成形品Sの隅の方)に配置されているような場合においても、パリソンPが流通する流路の面積を大きく確保することができる。よって、パリソンPが途中で固まり始めてしまって、あるいはパリソンPの流路が小さ過ぎて供給が途中で途切れてしまって、中実部s14に対応する部分にパリソンPが十分に充填されなくなるといった事態を、未然に防ぐことができる。
【0071】
また、本実施形態に係るブロー成形方法においては、ステップS5は、ステップS6と同時に、またはステップS6の直前に行われる。これにより、中実部s14のパリソンPの表面が少しだけ固化しているタイミングで、当該部分のパリソンPを加圧することができる。よって、転写を促進するために好適なタイミングで、中実部s14に相当する部分のパリソンPを加圧することができ、中実部s14の転写性を大幅に向上することができる。その結果、中実部s14におけるヒケ等の発生が抑制される。
【0072】
また、本実施形態に係るブロー成形方法においては、ステップS1において作用面71aを対向面41aから遠ざける量(距離)、および、ステップS5において作用面71aを対向面41aに近づける量(距離)を、ソフトウェア的に変更可能である。よって、成形条件の変動等に合わせて、流動的に、中実部s14を成形面33,41に押し付ける力の大きさを変更することができる。
【0073】
さらに、本実施形態で開示した成形品製造装置90は、第1金型30および第2金型40と、気体供給装置50と、加熱・冷却装置60と、作用面71aと、制御装置80とを備える。第1金型30および第2金型40は、パリソンPを挟み込むための1対の金型である。気体供給装置50は、パリソンP内に気体を吹き込む。加熱・冷却装置60は、第1金型30および第2金型40の成形面33,41を、加熱および冷却する。作用面71aは、成形面33,41のうち、中実部s14に対応する第1金型30の成形面33に局所的に設けられる。作用面71aは、中実部s14に対応する第2金型40の対向面41aに対して接近および離間する。制御装置80は、気体供給装置50による気体の吹き込み、加熱・冷却装置60による加熱および冷却、ならびに作用面71aの対向面41aに対する近接および離間を制御する。制御装置80は、成形面33,41が加熱・冷却装置60により加熱され始めるのと同時に、またはその直前に、作用面71aを対向面41aに対して接近させる。
【0074】
これにより、パリソンPの表面が少し固化しているタイミングで、中実部s14に相当する部分のパリソンPを加圧しながら、H&C処理することができる。よって、ヒケ等の少ない、良好な外観品質の成形品を得ることができる。
【0075】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、上述したものに対し種々の変更を行うことが可能である。
【0076】
上記の実施形態のブロー成形方法においては、転写時に中実部s14の厚み方向の両面を加圧することに加えて、いわゆるH&C成形技術を利用するものとした。上記の実施形態では、H&C成形技術と組み合わせることにより、中実部の転写性を大幅に向上できるという利点がある。しかしながら、H&C成形技術を利用することは必須ではなく、上記の加熱・冷却の工程を省略してもよい。
【0077】
また、上記のようにH&C成形技術を利用することとした場合においても、成形面33,41の加熱・冷却を開始するタイミングは、上述したものに限定されるものではない。例えば、1対の金型30,40を型締めした時点から、成形面33,41の加熱を開始してもよい。
【0078】
上記の実施形態では、油圧シリンダ74を駆動することにより、スライド部材71を進退させるものとしたが、駆動源はこれに限るものではない。例えばこれに代えて、電動モータやエアシリンダを駆動することにより、スライド部材71を進退させるものとしてもよい。
【符号の説明】
【0079】
30 第1金型
33 成形面
40 第2金型
41 成形面
41a 対向面
50 気体供給装置
60 加熱・冷却装置
71 スライド部材
71a 作用面
74 油圧シリンダ
80 制御装置
90 成形品製造装置
S 成形品(リアスポイラー)
s11 意匠面
s12 非意匠面
s13 中空皮部
s14 中実部

図1
図2
図3
図4