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特許7011825動圧軸受式ポンプの駆動システム及びそのコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】動圧軸受式ポンプの駆動システム及びそのコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/824 20210101AFI20220120BHJP
   A61M 60/113 20210101ALI20220120BHJP
   A61M 60/232 20210101ALI20220120BHJP
   A61M 60/38 20210101ALI20220120BHJP
   A61M 60/419 20210101ALI20220120BHJP
   A61M 60/422 20210101ALI20220120BHJP
   A61M 60/523 20210101ALI20220120BHJP
   F04D 13/06 20060101ALI20220120BHJP
   F04D 15/00 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
A61M60/824
A61M60/113
A61M60/232
A61M60/38
A61M60/419
A61M60/422
A61M60/523
F04D13/06 A
F04D15/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018111040
(22)【出願日】2018-06-11
(65)【公開番号】P2019213605
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000200677
【氏名又は名称】泉工医科工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100161090
【弁理士】
【氏名又は名称】小田原 敬一
(72)【発明者】
【氏名】長尾 丞真
(72)【発明者】
【氏名】桑名 克之
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-130078(JP,A)
【文献】特開2009-197736(JP,A)
【文献】特開平06-317287(JP,A)
【文献】特開2004-211579(JP,A)
【文献】特開2015-165880(JP,A)
【文献】特開2017-006538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/00-60/90
F04D 15/00
F04D 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸込口及び吐出口を有するポンプハウジング内に、送液作用を生じさせる回転体が装着され、前記回転体は、前記ポンプハウジング内に導入された液体が当該ポンプハウジングと前記回転体との隙間に回り込んで形成される動圧軸受により、前記ポンプハウジングに対して回転可能に支持される動圧軸受式ポンプと組み合わされ、前記回転体を回転駆動する駆動装置と、前記駆動装置の動作を制御する制御装置とを備えた動圧軸受式ポンプの駆動システムであって、
前記吐出口の下流側には前記ポンプから吐出される液体の流量に応じた信号を出力する流量センサが設けられ、
前記制御装置には、前記流量センサの出力信号に基づいて前記ポンプハウジング内への前記液体の充填の適否を判別する充填判別手段と、前記充填判別手段にて前記液体の充填が不適と判断された場合、前記回転体が回転駆動されないように前記駆動装置の動作を制限する制限手段とが設けられている動圧軸受式ポンプの駆動システム。
【請求項2】
前記制御装置には、前記流量センサの出力信号に基づいて前記液体が流れる状態を判別し、得られた判別結果を示す情報をオペレータに提示するモニタ手段が設けられ、前記モニタ手段が前記充填判別手段として機能する請求項1に記載の動圧軸受式ポンプの駆動システム。
【請求項3】
前記流量センサとして超音波式の流量センサが用いられ、
前記モニタ手段は、前記流量センサの出力信号に基づいて前記液体中の気泡の状態を判別し、得られた結果を前記オペレータに提示することが可能とされている請求項2に記載の動圧軸受式ポンプの駆動システム。
【請求項4】
前記動圧軸受式ポンプが、体外循環回路に設けられる血液ポンプである請求項1~3のいずれか一項に記載の動圧軸受式ポンプの駆動システム
【請求項5】
吸込口及び吐出口を有するポンプハウジング内に、送液作用を生じさせる回転体が装着され、前記回転体は、前記ポンプハウジング内に導入された液体が当該ポンプハウジングと前記回転体との隙間に回り込んで形成される動圧軸受により、前記ポンプハウジングに対して回転可能に支持される動圧軸受式ポンプと組み合わされ、前記回転体を回転駆動する駆動装置と、前記吐出口の下流側に設けられて前記ポンプから吐出される液体の流量に応じた信号を出力する流量センサと、前記駆動装置の動作を制御する制御装置とを備えた動圧軸受式ポンプの駆動システムに適用されるコンピュータプログラムであって、
前記制御装置に含まれるコンピュータを、
前記流量センサの出力信号に基づいて前記ポンプハウジング内への前記液体の充填の適否を判別する充填判別手段、及び前記充填判別手段にて前記液体の充填が不適と判断された場合、前記回転体が回転駆動されないように前記駆動装置の動作を制限する制限手段として機能させるように構成された動圧軸受式ポンプの駆動システムに用いられるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動圧軸受を用いて回転体を支持するタイプのポンプを駆動するためのシステム等に関する。
【背景技術】
【0002】
体外循環回路に使用される血液ポンプとして、ポンプハウジング内に装着された回転体としてのインペラを動圧軸受にて回転可能に支持するタイプのポンプが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5200157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
動圧軸受を用いたポンプでは、ポンプハウジング内に導入された液体がポンプハウジングと回転体との隙間に回り込み、回転体の回転に伴なって発生する液体の圧力(動圧)の作用により回転体がポンプはウジングに対して非接触の状態で回転する。しかしながら、ポンプハウジング内に液体が充填されないか、又は充填状態が不十分な場合には、ポンプハウジングと回転体との間に十分な動圧が発生せず、動圧軸受による支持が不十分な状態で回転体が駆動されることがある。その場合、回転体がポンプハウジングと接触しつつ回転してポンプの円滑な動作が損なわれる、といった不都合が生じるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、動圧軸受による支持が不十分な状態でポンプが駆動されるおそれを低減し、又は解消することが可能な動圧軸受式ポンプの駆動システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る駆動システム(1)は、吸込口(10a)及び吐出口(10b)を有するポンプハウジング(10)内に、送液作用を生じさせる回転体(11)が装着され、前記回転体は、前記ポンプハウジング内に導入された液体が当該ポンプハウジングと前記回転体との隙間(G1、G2)に回り込んで形成される動圧軸受(DB1、DB2)により、前記ポンプハウジングに対して回転可能に支持される動圧軸受式ポンプ(3)と組み合わされ、前記回転体を回転駆動する駆動装置(4)と、前記駆動装置の動作を制御する制御装置(6)とを備えた動圧軸受式ポンプの駆動システムであって、前記吐出口の下流側には前記ポンプから吐出される液体の流量に応じた信号を出力する流量センサ(5)が設けられ、前記制御装置には、前記流量センサの出力信号に基づいて前記ポンプハウジング内への前記液体の充填の適否を判別する充填判別手段(31、S11~S14)と、前記充填判別手段にて前記液体の充填が不適と判断された場合、前記回転体が回転駆動されないように前記駆動装置の動作を制限する制限手段(30、S21、S22、S24)とが設けられたものである。
【0007】
本発明の一態様に係るコンピュータプログラム(PG)は、吸込口(10a)及び吐出口(10b)を有するポンプハウジング(10)内に、送液作用を生じさせる回転体(11)が装着され、前記回転体は、前記ポンプハウジング内に導入された液体が当該ポンプハウジングと前記回転体との隙間(G1、G2)に回り込んで形成される動圧軸受(DB1、DB2)により、前記ポンプハウジングに対して回転可能に支持される動圧軸受式ポンプ(3)と組み合わされ、前記回転体を回転駆動する駆動装置(4)と、前記吐出口の下流側に設けられて前記ポンプから吐出される液体の流量に応じた信号を出力する流量センサ(5)と、前記駆動装置の動作を制御する制御装置(6)とを備えた動圧軸受式ポンプの駆動システム(1)に適用されるコンピュータプログラムであって、前記制御装置に含まれるコンピュータを、前記流量センサの出力信号に基づいて前記ポンプハウジング内への前記液体の充填の適否を判別する充填判別手段(31、S11~S14)、及び前記充填判別手段にて前記液体の充填が不適と判断された場合、前記回転体が回転駆動されないように前記駆動装置の動作を制限する制限手段(30、S21、S22、S24)として機能させるように構成されたものである。
【0008】
ポンプの吐出側に配置された流量センサが検出する流量とポンプハウジング内における液体の充填の状態との間には相関関係が存在するため、流量センサの出力信号に基づいてポンプハウジング内における血液の充填の適否を判別することが可能である。そして、充填が不適、つまり液体が充填されていないか、又は充填が不足していると判断された場合には、ポンプの回転体が回転駆動されないように駆動装置の動作を制限することにより、動圧軸受による支持が不十分な状態でポンプが駆動されるおそれを低減し、又は解消することが可能である。
【0009】
上記態様において、前記制御装置には、前記流量センサの出力信号に基づいて前記液体が流れる状態を判別し、得られた判別結果を示す情報をオペレータに提示するモニタ手段(31)が設けられ、前記モニタ手段が前記充填判別手段として機能するものとしてもよい。ポンプの吐出口側に配置された流量センサを用いて液体の流れの状態をモニタする機能を駆動システムが備えている場合、その流量センサを利用するように充填判別手段を構成することにより、上記態様の駆動システムを比較的簡易な追加、又は変更によって実現することが可能である。
【0010】
さらに、前記流量センサとして超音波式の流量センサが用いられてもよく、その場合、前記モニタ手段は、前記流量センサの出力信号に基づいて前記液体中の気泡の状態を判別し、得られた結果を前記オペレータに提示することが可能とされてもよい。超音波式の流量センサは計測対象の液体中の気泡の状態が出力信号に変化を与える。そのため、気泡の状態を判別して、その結果をオペレータに提示することが可能である。そのような機能を備えた駆動システムに対して充填判別手段及び制限手段を設けることにより、液体の流れの状態をモニタしつつ、ポンプの動作を必要に応じて制限することが可能な駆動システムを提供することができる。
【0011】
上記態様においては、前記動圧軸受式ポンプが、体外循環回路(2)に設けられる血液ポンプであってもよい。これによれば、血液ポンプとして動圧軸受式ポンプが用いられた体外循環回路において、その血液ポンプのポンプハウジングに血液が充填されていないか、又は充填が不足して動圧軸受による支持が不十分な状態で血液ポンプが駆動されるおそれを低減又は解消し、体外循環回路の信頼性、安全性を高めることが可能である。
【0012】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一形態に係る駆動システムが適用された体外循環回路の要部を示す図。
図2図1の駆動システムが適用される血液ポンプの一例を示す図。
図3図1の制御ユニットが実行する充填確認処理の手順の一例を示すフローチャート。
図4図1の制御ユニットが図3の処理と関連付けて実行するポンプ駆動制御処理の手順の一例を示すフローチャート。
図5図1の駆動システムが適用される体外循環回路の一例を示す図。
図6図1の駆動システムが適用される体外循環回路の他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1図4を参照して本発明の一形態に係る駆動システムの一例を説明する。図1に示すように、駆動システム1は、体外循環回路2に設けられた血液ポンプ3と組み合わせて使用される。駆動システム1は、血液ポンプ3を駆動する駆動装置の一例としての駆動ユニット4と、体外循環回路2を循環する血液の流量を検出する流量センサ5と、駆動ユニット4の動作を制御する制御装置の一例としての制御ユニット6とを備えている。なお、図1では体外循環回路2の血液ポンプ3を中心とした一部のみを示し、図中の矢印は血液の流れ方向を示している。血液ポンプ3は動圧軸受式ポンプの一例であって、その構成の一例を図2に示す。
【0015】
図2から明らかなように、血液ポンプ3は、ポンプハウジング10と、そのポンプハウジング10の内部に設けられる回転体の一例としてのインペラ11とを備えている。ポンプハウジング10は可視光の波長域に対して透過性を有する樹脂、例えばポリカーボネートを素材として形成された成形品である。インペラ11はその中心軸線CLの回りに回転可能な状態でポンプハウジング10内に配置されている。中心軸線CLの方向(以下、軸線方向という。)からみて、ポンプハウジング10は概ね円形を呈する中空の容器として構成されている。ポンプハウジング10の軸線方向一端側には中心軸線CLと同軸的に延びる吸込管部12が設けられ、ポンプハウジング10の外周上には吐出管部13が設けられている。吐出管部13はインペラ11の回転方向に対して概ね接線方向に延びるように設けられている。吸込管部12の先端開口部がポンプハウジング10の吸込口10aとして機能し、吐出管部13の先端開口部がポンプハウジング10の吐出口10bとして機能する。吸込管部12は血液ポンプ3に対する上流側の流路の一部を形成するチューブ2a(図1参照)と接続され、吐出管部13は血液ポンプ3に対する下流側の流路の一部を形成するチューブ2b(同じく図1参照)と接続される。
【0016】
インペラ11は、軸線方向に対向して配置された一対の端板14、15と、中心軸線CLに対する周方向に一定の間隔が空くようにして端板14、15間のスペースSPに配置された多数の羽根16とを備えている。吸込口10a側の一方の端板14には中心軸線CLと同軸的に導入管部17が設けられている。導入管部17はポンプハウジング10の吸込管部12の内周側に挿入され、その先端は吸込口10aに向かって開口する。したがって、吸込管部12から流入する血液(液体の一例である。)は導入管部17を介してインペラ11の端板14、15間のスペースSPに導かれる。インペラ11が中心軸線CLの回りに回転することにより、スペースSPに導かれた血液が遠心力でインペラ11の外周側に移送され、その血液がポンプハウジング10の内周面に沿って流れつつ吐出管部13から逐次送り出される。
【0017】
吸込管部12の内周面と導入管部17の外周面との間には、インペラ11を回転可能に支持する動圧軸受DB1を形成するための比較的狭い隙間G1が設けられている。一方、インペラ11の他方の端板15には、中心軸線CLと同軸的に延びるジャーナル部18が設けられている。ジャーナル部18はポンプハウジング10のカップ部19の内部に挿入されている。カップ部19は中心軸線CLと同軸的に延びる円筒状に形成されている。そのカップ部19の内周面とジャーナル部18の外周面との間にも、インペラ11を回転可能に支持する動圧軸受DB2を形成するための比較的狭い隙間G2が設けられている。ジャーナル部18には、ジャーナル部18を中心軸線CLに沿って貫く貫通孔18aが形成されている。それにより、端板14、15間のスペースSPとジャーナル部18の軸端側との間での血液の移動が許容されている。
【0018】
ポンプハウジング10内に血液が導入されると、その血液の一部は隙間G1、G2にも回り込む。その状態でインペラ11が回転すると隙間G1、G2の血液の圧力が上昇し、それにより動圧軸受DB1、DB2に軸支持作用が生じてインペラ11が回転可能に支持される。なお、動圧軸受DB1、DB2による支持はインペラ11の半径方向である。すなわち、動圧軸受DB1、DB2はラジアル軸受の一種として機能するように設けられている。インペラ11の軸線方向の支持は以下に述べる駆動ユニット4とインペラ11との間の磁気結合によって実現される。ただし、血液ポンプ3はそのような例に限らない。ポンプハウジング10とインペラ11との間で軸線方向に対向するようにして比較的狭い隙間を設け、それによりスラスト軸受として機能する動圧軸受が血液ポンプ3に追加されてもよい。ポンプハウジング10及びインペラ11の形状は図示例に限らず、適宜の変形が可能である。例えば、カップ部19に代えて、中心軸線CLと同軸的にインペラ11側に突出する円筒状の突出部をポンプハウジング10に形成し、その突出部を外周側から覆うようにインペラ11の一部を延長してその延長部分と突出部との間にラジアル軸受として機能する動圧軸受が設けられてもよい。
【0019】
ジャーナル部18には、磁気結合を利用して駆動ユニット4の駆動力をインペラ11に伝達するための複数の磁気結合素子20が周方向に一定の間隔を空けて設けられている。磁気結合素子20については後述する。一方、駆動ユニット4には、駆動源の一例としての電動モータ21が設けられている。電動モータ21は駆動ユニット4のモータハウジング22内に収容されている。モータハウジング22には、ポンプハウジング10のカップ部19が嵌り合う凹部22aが設けられている。凹部22aにカップ部19が嵌め合わされることにより、インペラ11と電動モータ21の出力軸21aとが同軸上に整列する。つまり、インペラ11の中心軸線CLが電動モータ21の出力軸21aと同軸上に位置するようにして血液ポンプ3が駆動ユニット4のモータハウジング22に取り付けられる。
【0020】
電動モータ21の出力軸21aにはモータカップ23が一体回転可能に取り付けられている。モータカップ23は凹部22aを外周側から取り囲むように延びる環状壁部23aを備えている。環状壁部23aには、インペラ11側の磁気結合素子20と同数の磁気結合素子24が周方向に一定の間隔を空けて設けられている。電動モータ21側の磁気結合素子24と、インペラ11側の磁気結合素子20はいずれも永久磁石であって、互いに引き付け合うように向きが調整されてモータカップ23及びインペラ11に取り付けられる。また、磁気結合素子24、20は、ポンプハウジング10のカップ部19がモータハウジング22の凹部22aに嵌め合わされて血液ポンプ3が駆動ユニット4に正しく装着されたとき、軸線方向に概ね同一の位置に配置される。したがって、血液ポンプ3を駆動ユニット4に装着すると、磁気結合素子24、20の間で磁気結合が形成され、電動モータ21の出力軸21aとインペラ11とが周方向に一体的に回転可能となる。上記のように、磁気結合素子24、20間の磁気結合の形成により、インペラ11は軸線方向に関してもモータカップ23に拘束され、その結果、インペラ11はポンプハウジング10に対して非接触の状態で軸線方向にも支持される。インペラ11を軸線方向に支持するスラスト軸受としての動圧軸受が血液ポンプ3側に設けられてもよいことは上述した通りである。なお、磁気結合素子24、20のいずれか一方を磁石に代えて強磁性体にて形成してもよい。電動モータ21側の磁気結合素子24は永久磁石に代えて電磁石とされてもよい。
【0021】
駆動ユニット4からインペラ11へと回転駆動力を伝達するためには、磁気結合を利用した方式以外にも、例えば駆動ユニット4側にコイルを配置し、そのコイルへの通電制御によって回転磁界を発生させてインペラ11をその回転磁界に追従して回転させる電磁誘導方式を採用することも可能である。ただし、磁気結合によって回転を伝達する構造を採用した場合には、駆動側の磁気結合素子24と従動側の磁気結合素子20との間の距離を比較的大きく確保しても駆動力を十分に伝達できる利点がある。そのため、ポンプハウジング10、インペラ11あるいはモータハウジング22等の設計自由度が高まり、ひいては動圧軸受DB2を形成するための隙間G2の配置に関しても自由度が高まる。
【0022】
図1に戻って、流量センサ5は、血液ポンプ3に対する下流側のチューブ2b上に配置される。流量センサ5には例えば超音波式の流量センサが用いられる。超音波式の流量センサには、計測対象の液体に向けて超音波を射出し、液中で反射した超音波の周波数シフト量に基づいて流量を検出するドップラー式と、計測対象の液体を超音波が伝搬する時間長に基づいて流量を検出する時間差方式とが存在するが、いずれの方式のセンサが用いられてもよい。超音波式の流量センサには、計測対象の液体の流路中に配置すべき部品が存在しない利点がある。したがって、超音波式の流量センサを駆動システム1の流量センサ5として用いた場合には、体外循環回路2を循環する血液の流れが流量センサ5によって乱れるおそれがなく、体外循環回路2を流れる血液に触れる部品が存在しないために使い捨て部品が生じず、コストダウンに資するとともに操作性が良好であるといった利点が得られる。血液のような不透明な液体でも測定が可能である。また、超音波式の流量センサを用いた場合には、血液中に存在する気泡等のパーティクルによる反射波、あるいは散乱波を測定することも可能である。したがって、体外循環回路2を流れる血液中の気泡の有無の識別、気泡の数量、サイズ、積算体積等を測定してモニタすることも可能である。ただし、流量センサ5は電磁式の流量センサであってもよい。いずれにしても、流量センサ5は血液ポンプ3の下流側に配置され、血液ポンプ3から吐出される血液の流量に対応した信号を出力できるものであればよい。
【0023】
制御ユニット6は、マイクロプロセッサを含んだコンピュータユニットとして構成されている。制御ユニット6には、駆動制御部30と、モニタ部31とが設けられている。駆動制御部30及びモニタ部31のそれぞれは、制御ユニット6のハードウエア資源と、制御ユニット6に実装されたコンピュータプログラムPGとの組み合わせによって実現される論理的装置として構成される。駆動制御部30は電動モータ21の動作を制御する。例えば、駆動制御部30は、不図示の入力装置から与えられるオペレータの指示に従って電動モータ21を起動し、あるいは停止させる処理を担当する。なお、制御ユニット6には、駆動制御部30の制御に従って電動モータ21への電力の供給及びその停止を切り替えるモータ駆動回路等のハードウエア回路も実装されるが、それらの図示は省略した。
【0024】
モニタ部31は流量センサ5の出力信号に基づいて体外循環回路2の血液の流れの状態を判別し、得られた判別結果を示す情報をオペレータに提示する処理を担当する。例えば、モニタ部31は、流量センサ5の出力信号に基づいて血液の流量を演算し、演算された流量をオペレータに提示する。流量センサ5として上述したように超音波式の流量センサが用いられる場合、モニタ部31は流量センサ5の出力信号に基づいて血液中の気泡の有無等を判別し、その判別結果をオペレータに提示してもよい。その場合、モニタ部31は、気泡の状態に応じてオペレータに適宜に警告を発する、といった処理が追加されてもよい。これらの処理を実行することにより、モニタ部31はモニタ手段の一例として機能する。
【0025】
制御ユニット6には、血液ポンプ3が動圧軸受DB1、DB2を介してインペラ11を支持する構成であることに対応した処理を実行する機能がさらに付加されている。すなわち、血液ポンプ3のポンプハウジング10内に血液が充填されていないか、又は充填量が不足する状態でインペラ11が回転すると、動圧軸受DB1、DB2による支持が不十分な状態となり、インペラ11がポンプハウジング10と接触しつつ回転して血液ポンプ3の円滑な動作が損なわれる、といった不都合が生じるおそれがある。そのような不都合が生じるおそれを低減し、又は解消するため、モニタ部31は、流量センサ5の出力信号に基づいてポンプハウジング10内への血液の充填の適否を判別する処理を実行し、駆動制御部30はモニタ部31における判別結果に応じて駆動ユニット4の動作を適宜に制限する処理を実行する。図3はモニタ部31が血液の充填の適否を判別するために実行する充填確認処理の一例を、図4は駆動制御部30が駆動ユニット4の動作を制限するために実行するポンプ駆動制御処理の一例をそれぞれ示している。図3及び図4の処理は、電動モータ21が停止している間、適宜の周期で繰り返し実行される処理である。
【0026】
モニタ部31は、図3の処理を開始すると、まず流量センサ5の出力信号に基づいて、チューブ2bを通過する血液の流量を取得する(ステップS11)。続いて、モニタ部31は得られた流量が所定の閾値を超えるか否かを判別する(ステップS12)。閾値は、動圧軸受DB1、DB2の支持機能に差し支えが生じない程度にポンプハウジング10内に血液が充填されているときに流量センサ5の位置で検出されるべき流量に設定される。そのような流量は例えば実験的に求められてもよいし、コンピュータシミュレーション等によって求められてもよい。
【0027】
ステップS12において流量が閾値を超えると判断された場合、モニタ部31は血液ポンプ3の駆動を許可すべき情報を制御ユニット6の内部メモリに記録し(ステップS13)、その後に今回の処理を終える。一方、ステップS12にて流量が閾値以下と判断された場合、モニタ部31は血液ポンプ3の駆動を禁止(制限)すべき情報を制御ユニット6の内部メモリに記録し(ステップS14)、その後に今回の処理を終える。
【0028】
一方、駆動制御部30は、図4の処理を開始すると、まずオペレータから血液ポンプ3の起動が指示されたか否かを判別する(ステップS21)。血液ポンプ3の起動が指示されたと判断された場合、駆動制御部30は制御ユニット6の内部メモリに駆動を許可する情報が記録されているか否かを判別する(ステップS22)。駆動を許可する情報が記録されている場合、駆動制御部30は電動モータ21を起動させ(ステップS23)、その後に今回の処理を終える。一方、ステップS22にて、駆動を許可する情報が記録されていないと判断された場合、駆動制御部30は電動モータ21を停止状態に維持し(ステップS24)、その後に今回の処理を終える。この場合、オペレータが血液ポンプ3の起動を指示しても電動モータ21が起動されず、血液ポンプ3のインペラ11は回転駆動されない。なお、ステップS21にて起動が指示されていない場合にもステップS24を経て図4の処理が終了する。
【0029】
以上の処理によれば、流量センサ5の出力信号に基づいてポンプハウジング10内における血液の充填の適否が判別され、充填が不適、つまり血液が充填されていないか、又は充填が不足している場合には、オペレータが血液ポンプ3の起動を指示しても、そのインペラ11が回転駆動されないように駆動制御部30にて電動モータ21の動作が制限される。血液ポンプ3による送血を開始するためには、図3のステップS12が肯定判断されるまで血液ポンプ3の吸込口10aから血液をポンプハウジング10内に送り込み、その後に制御ユニット6に対して血液ポンプ3の起動を指示する必要がある。したがって、動圧軸受DB1、DB2による支持が不十分な状態で血液ポンプ3が駆動されるおそれを低減し、又は解消することが可能である。
【0030】
なお、上記の形態の駆動システム1は、血液ポンプ3の吐出口10bの下流側に流量センサ5が設けられ、かつその流量センサ5の出力信号に基づいて体外循環回路2における血液の流れの状態をモニタする機能を制御ユニット6が設けられた駆動システムが存在する場合、その制御ユニット6に対して図3及び図4の処理を実行するようにコンピュータプログラムを追加し、又は改修することによって実現することが可能である。すなわち、制御ユニット6が図3及び図4の処理を実行するようにコンピュータプログラムPGを構成することにより、ポンプハウジング10への血液の充填が不適な状態で血液ポンプ3が駆動されることを未然に防止するフェールセーフ機能を駆動システム1に実装することが可能である。
【0031】
図5は、上述した駆動システム1が適用されるべき体外循環回路2の一例を示し、図中の矢印は血液の流れ方向を示している。図5の例において、体外循環回路2は、貯血槽50及び人工肺51を含んでいる。貯血槽50の上流側には、患者から取り出された血液を取り込む脱血回路52、吸引回路53、陰圧吸引補助回路54及び補液充填回路55が接続されている。血液ポンプ3の吸込口10aは貯血槽50の下流側と接続され、血液ポンプ3の吐出口10bは人工肺51の上流側と接続されている。流量センサ5は血液ポンプ3の吐出口10bと人工肺51との間に設けられる。なお、人工肺51の下流側には患者に血液を送り込むための送血回路56が接続され、その送血回路56には動脈フィルタ57が設けられている。また、人工肺51には不図示のガス供給源から酸素交換用のガスを送り込むためのガス供給回路58が接続されている。さらに、人工肺51と貯血槽50とは採血回路59にて接続され、その採血回路59には活栓60が設けられている。なお、動脈フィルタ57よりも下流側にて送血回路56は脱血回路52と再循環回路61を介して接続されるが、体外循環の実施中その再循環回路61は閉鎖される。
【0032】
図5の例において、体外循環を開始する場合には、貯血槽50に血液を注入し、その貯血槽50に蓄えられた血液を血液ポンプ3に導いてポンプハウジング10の内部に血液を充填し、その後に制御ユニット6(図1)に対して血液ポンプ3の起動を指示すればよい。この場合、充填が不十分であれば図3のステップS12が否定的に判断されるため、ポンプハウジング10内に十分な量の血液が充填されていない状態で血液ポンプ3が起動される不都合を未然に防止することができる。
【0033】
図6は、上述した駆動システム1が適用されるべき体外循環回路2の他の例を示し、図中の矢印は血液の流れ方向を示している。なお、図6において図5と共通する要素には同一の参照符号が付されている。図6に例示する体外循環回路2においては、図5に示した貯血槽50が省略されている。脱血回路52には、補液充填回路55がコネクタ62を介して接続されている。補液充填回路55から補充される血液はそのコネクタ62を介して脱血回路52に導入される。血液ポンプ3の吸込口10aはコネクタ62の下流側と接続され、吐出口10bは人工肺51の上流側と接続されている。流量センサ5は図5の例と同じく血液ポンプの吐出口10bと人工肺51との間に設けられる。
【0034】
図6の例において、体外循環を開始する場合には、補液充填回路55からコネクタ62及び脱血回路52を介して血液ポンプ3に導いてポンプハウジング10の内部に血液を充填し、その後に制御ユニット6(図1)に対して血液ポンプ3の起動を指示すればよい。この場合も、充填が不十分であれば図3のステップS12が否定的に判断されるため、ポンプハウジング10内に十分な量の血液が充填されていない状態で血液ポンプ3が起動される不都合を未然に防止することができる。なお、図6の例では、脱血回路52の上流側に脱血カニューレ用コネクタ63が、送血回路56の下流側に送血カニューレ用コネクタ64が設けられ、それらのコネクタ63、64が再循環回路61を介して相互に接続されている。その接続は、血液ポンプ3に血液を送り込む場合に行われるものである。体外循環の実施時には、脱血カニューレ用コネクタ63が患者側の脱血カニューレと、送血カニューレ用コネクタ64が患者側の送血カニューレとそれぞれ接続される。
【0035】
以上の実施形態では、制御ユニット6のモニタ部31が図3のステップS11~S14の処理を実行することにより充填判別手段の一例として機能し、駆動制御部30が図4のステップS21、S22及びS24の処理を順次実行することにより制限手段の一例として機能する。
【0036】
本発明は上述した形態に限定されず、種々の変形又は変更が施された形態にて実施されてよい。例えば、以上の説明では、体外循環を開始する際に図3及び図4の処理を実行して血液の充填が不適な場合の血液ポンプ3の起動を阻止するものとしたが、本発明はそのような例に限定されない。例えば、図3及び図4の処理を体外循環の実施中にも適宜に実行し、ポンプハウジング内の血液の充填状態が動圧軸受による支持の観点から不適となった場合に駆動装置によるポンプの駆動を停止するようにしてもよい。
【0037】
本発明に係る駆動システムが適用されるべきポンプは体外循環回路に用いられる血液ポンプに限らない。動圧軸受式ポンプを用いて液体を送液する限りにおいて、種々のシステムに本発明の駆動システムを適用することが可能である。動圧軸受式ポンプは回転体の回転に伴う遠心力を利用して送液する遠心ポンプに限らない。回転体の回転を利用して送液作用を生じさせる限り、適宜のタイプのポンプが用いられてよい。
【符号の説明】
【0038】
1 駆動システム
2 体外循環回路
3 血液ポンプ(動圧軸受式ポンプ)
4 駆動ユニット(駆動装置)
5 流量センサ
6 制御ユニット(制御装置)
10 ポンプハウジング
10a 吸込口
10b 吐出口
11 インペラ(回転体)
30 駆動制御部(制限手段)
31 モニタ部(充填判別手段、モニタ手段)
DB1、DB2 動圧軸受
G1、G2 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6