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特許7011828多層気道オルガノイドならびにそれを調製および使用する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】多層気道オルガノイドならびにそれを調製および使用する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20220120BHJP
【FI】
C12N5/07
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018519447
(86)(22)【出願日】2016-10-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-01
(86)【国際出願番号】 US2016056947
(87)【国際公開番号】W WO2017066507
(87)【国際公開日】2017-04-20
【審査請求日】2019-10-10
(31)【優先権主張番号】62/242,611
(32)【優先日】2015-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/404,931
(32)【優先日】2016-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507189574
【氏名又は名称】ウェイク・フォレスト・ユニヴァーシティ・ヘルス・サイエンシズ
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(72)【発明者】
【氏名】マーフィー,ショーン・ブイ
(72)【発明者】
【氏名】アタラ,アンソニー
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0335496(US,A1)
【文献】国際公開第2015/138034(WO,A2)
【文献】特表2014-531204(JP,A)
【文献】特開2006-174837(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0147482(US,A1)
【文献】Lab On A Chip (2014), Vol.14, No.17, p.3349-3358
【文献】Acta Biomaterialia (2015), Vol.25, p.24-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)哺乳動物肺上皮細胞を含む上皮細胞層、
(b)哺乳動物肺線維芽細胞を含む間質細胞層、および
(c)哺乳動物内皮細胞を含む内皮細胞層
を含む人工哺乳動物肺オルガノイドであって、
任意選択的に、前記オルガノイドが前記上皮細胞層と前記間質細胞層の間および/または前記間質細胞層と前記内皮細胞層の間に多孔質膜をさらに含み、
前記多孔質膜の少なくとも1つの側面が、肺組織由来の細胞外マトリックス組成物でコーティングされている、人工哺乳動物肺オルガノイドを調製する方法であって、
前記多孔質膜の第1の側面に、前記哺乳動物内皮細胞を含む前記内皮細胞層を堆積させるステップ、
前記多孔質膜の前記第1の側面の反対側である前記多孔質膜の第2の側面に、前記哺乳動物肺線維芽細胞を含む前記間質細胞層を堆積させるステップ、および
前記間質細胞層に直接、前記哺乳動物肺上皮細胞を含む前記上皮細胞層を堆積させるステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記堆積させるステップが、広げる、塗る、コーティングする、プリントする、バイオプリントする、および/または噴霧することにより実施される、請求項に記載の方法。
【請求項3】
(a)哺乳動物肺上皮細胞を含む上皮細胞層、
(b)哺乳動物肺線維芽細胞を含む間質細胞層、および
(c)哺乳動物内皮細胞を含む内皮細胞層
を含む人工哺乳動物肺オルガノイドであって、
任意選択的に、前記オルガノイドが前記上皮細胞層と前記間質細胞層の間および/または前記間質細胞層と前記内皮細胞層の間に多孔質膜をさらに含み、
前記多孔質膜の少なくとも1つの側面が、肺組織由来の細胞外マトリックス組成物でコーティングされている、人工哺乳動物肺オルガノイドを調製する方法であって、
前記哺乳動物肺線維芽細胞を含むヒドロゲルを用意するステップ、
前記ヒドロゲルの第1の側面に、前記哺乳動物内皮細胞を含む前記内皮細胞層を堆積させるステップ、および
前記ヒドロゲルの前記第1の側面の反対側である前記ヒドロゲルの第2の側面に、前記哺乳動物肺上皮細胞を含む前記上皮細胞層を堆積させるステップ
を含む、方法。
【請求項4】
前記堆積させるステップが、広げる、塗る、コーティングする、プリントする、バイオプリントする、および/または噴霧することにより実施される、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒドロゲルが架橋結合している、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒドロゲルが、ゼラチン、フィブリノーゲン、ジェランガム、プルロニック(ポロクサマー)、アルギン酸、キトサン、ヒアルロン酸、セルロースおよび/またはコラーゲンを含む、請求項3から5のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、その内容が全体にわたって引用することにより本明細書の一部をなすものとする、2015年10月16日出願の米国仮特許出願第62/242,611号、および2016年10月6日出願の第62/404,931号による優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は概して、多層気道オルガノイド、ならびにそれを調製および使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
呼吸器感染症の研究は、呼吸上皮、感染症および疾患の間の相互作用を調べるのに適したインビボおよびインビトロモデルがないことにより、極めて制限されている。例えば、動物モデルはしばしば、ヒトに見られる気道および肺の病理学的異常を持たない。例えば、Guilbault et al., Cystic fibrosis mouse models, American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology.2007;36(1):1-7を参照のこと。さらに、大部分のインビトロモデルは、気道上皮の分化した組織成分および構造上の複雑性を作り出すことができない。例えば、Lang et al., Three-dimensional culture of hepatocytes on porcine liver tissue-derived extracellular matrix, Biomaterials. 2011;32(29):7042-7052を参照のこと。
【0004】
死体組織に由来し、2Dプラスチック培養(plastic culture)表面においてエクスビボで増殖させた初代気道上皮細胞が、依然としてインビトロでの疾患モデリングおよび療法評価の現行標準となっている。しかし、これらの技術では、細胞が、大部分の軟部組織より数段階硬い2次元(2D)増殖表面、および組織微小環境からの重要なシグナルの欠如を含む人工の条件にさらされる。結果として、これらの技術では、細胞の不均一性および機能特性を実質的に変化させる選択圧が細胞にかかる。例えば、Anderson et al., Tumor morphology and phenotypic evolution driven by selective pressure from the microenvironment, Cell 127.5 (2006):905-915を参照のこと。例えば、プラスチック培養で増殖させた細胞はしばしば非線毛性となり、インビボで線毛呼吸上皮への優先的な付着を示すことが多い気道細菌病原体を研究するのに重大な制限となる。例えば、Matsui et al., Evidence for periciliary liquid layer depletion, not abnormal ion composition, in the pathogenesis of cystic fibrosis airways disease. Cell. 1998;95(7):1005-1015; Gray et al., Mucociliary differentiation of serially passaged normal human tracheobronchial epithelial cells. American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology. 1996;14(1):104-112を参照のこと。生理的気道モデルがないということは、気道における感染症の病因についての研究に重大な制限があるということになる。
【0005】
Nicholsらの米国特許出願公開第2009/0227025号は、微小重力条件を使用してインビトロ系で新たな肺組織を生成するための、前駆細胞または幹細胞の使用について論じた。Mahmoodらの米国特許第8,647,837号、およびQuinnらの米国特許第5,750,329号は、肺の肺胞または気嚢に関する肺疾患の研究に、人工組織構築物中の肺胞細胞層および内皮細胞層を使用することについて論じている。Goodwinの米国特許第8,338,114号は、回転壁容器中で、マイクロキャリアを用いて、間葉系気管支-気管細胞および気管支上皮細胞を共培養することにより産生される、3次元(3D)ヒト気管支上皮組織様集合体について論じている。しかし依然として、肺を侵す感染症および病因の研究に使用可能な改良されたインビトロ系が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
(a)哺乳動物肺上皮細胞を含む上皮細胞層、
(b)哺乳動物肺線維芽細胞を含む間質細胞層、および
(c)哺乳動物内皮細胞(例えば毛細血管内皮細胞)を含む内皮細胞層
を含む人工哺乳動物肺オルガノイドが本明細書で提供される。
【0007】
一部の実施形態で、オルガノイドは、前記上皮細胞層と前記肺間質細胞層の間および/または前記肺間質細胞層と前記肺内皮細胞層の間に、多孔質膜(例えば高分子物質)をさらに含む。
【0008】
一部の実施形態で、肺上皮細胞層の細胞は極性化している。一部の実施形態で、肺内皮細胞層、間質細胞層および/または上皮細胞層の細胞はヒトである。
【0009】
一部の実施形態で、肺オルガノイドは上気道肺オルガノイドである。一部の実施形態で、哺乳動物肺上皮細胞は気管支上皮細胞である。一部の実施形態で、哺乳動物肺上皮細胞は正常な気管支上皮細胞を含む。一部の実施形態で、哺乳動物肺上皮細胞は病変気管支上皮細胞を含む。
【0010】
一部の実施形態で、気管支上皮細胞は、基底細胞、杯細胞、線毛細胞および/またはクララ細胞を含む。
【0011】
一部の実施形態で、間質層の哺乳動物肺線維芽細胞と内皮細胞層の哺乳動物内皮細胞との比は2:1~1:2である。一部の実施形態で、間質層の哺乳動物肺線維芽細胞と上皮細胞層の哺乳動物上皮細胞との比は2:1~1:2である。一部の実施形態で、内皮層の哺乳動物内皮細胞と上皮細胞層の哺乳動物上皮細胞との比は2:1~1:2である。
【0012】
一部の実施形態で、多孔質膜は一方または両方の側面を、ラミニン、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、肺組織由来の細胞外マトリックス組成物、またはそれらの組合せでコーティングされている。
【0013】
一部の実施形態で、肺オルガノイドは肺病原体に感染している。一部の実施形態で、肺オルガノイドは百日咳菌(Bordetella pertussis)または緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)に感染している。
【0014】
本明細書で教示される肺オルガノイドを含むマイクロ流体デバイスも提供される。マイクロ流体デバイスは、チャンバーおよびチャネルを含む外装を含んでいてよい。肺オルガノイドはチャンバー内にあってよく、チャネルは、肺オルガノイドが流体入口および流体出口に流体連通するように形作られていてよく、前記流体入口および前記流体出口は流体貯留容器に連絡していてよい。
【0015】
一部の実施形態で、外装の少なくとも一部は透明であってよい。一部の実施形態で、肺オルガノイドの内皮細胞層はデバイス内において液体(例えば培地)で流体連通している。一部の実施形態で、肺オルガノイドの上皮細胞層は気体(例えば空気)で流体連通している。一部の実施形態で、肺オルガノイドの上皮細胞層は液体(例えば培地)で流体連通している。
【0016】
本明細書で教示される肺オルガノイドを調製する方法も提供される。一部の実施形態によれば、方法は、
多孔質膜の第1の側面に、哺乳動物内皮細胞を含む内皮細胞層を堆積させるステップ、
多孔質膜の第1の側面の反対側である多孔質膜の第2の側面に、哺乳動物肺線維芽細胞を含む間質細胞層を堆積させるステップ、および
間質細胞層に直接、哺乳動物肺上皮細胞を含む上皮細胞層を堆積させるステップ
を含んでいてよい。
【0017】
一部の実施形態で、方法は、
哺乳動物肺線維芽細胞を含むヒドロゲルを用意するステップ、
ヒドロゲルの第1の側面に、哺乳動物内皮細胞を含む内皮細胞層を堆積させるステップ、および
ヒドロゲルの第1の側面の反対側であるヒドロゲルの第2の側面に、哺乳動物肺上皮細胞を含む上皮細胞層を堆積させるステップ
を含んでいてよい。
【0018】
一部の実施形態で、ヒドロゲルは架橋結合していてよい。一部の実施形態で、ヒドロゲルは、ゼラチン、フィブリノーゲン、ジェランガム、プルロニック(ポロクサマー)、アルギン酸、キトサン、ヒアルロン酸、セルロースおよび/またはコラーゲンを含んでいてよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1(a)、(b)および(c)は、本発明の一部の実施形態による膜を含む肺オルガノイドの層の概略図である。
図2】蛍光色素標識された毛細血管系内皮細胞および気道間質間葉系細胞を初代気道上皮と層にすることで生じる3D肺オルガノイドを示す画像である。
図3】本発明の一部の実施形態によるヒドロゲルを含む肺オルガノイドの概略図である。
図4】(a)本発明の一部の実施形態によるマイクロ流体デバイスの模式図である;(b)本発明の一部の実施形態によるマイクロ流体支持系(microfluidic support system)の模式図である;(c)本発明の一部の実施形態によるマイクロ流体支持系の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明はこれより、以下でより十分に記載される。しかし本発明は、多くの様々な形態で具体化可能であり、本明細書で示す実施形態に限定されるものと解釈されるべきでない。そうではなくこれらの実施形態は、本開示が網羅的かつ完全であり、当業者に本発明の範囲を十分に伝えるように提供される。
【0021】
本明細書で使用する用語は特定の実施形態について記載するためだけのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」および「the」は、別途文脈で明らかに示されない限り、複数形も含むことを意図するものである。「含む(comprises)」または「含む(comprising)」という語は、本明細書で使用する場合、明記される特徴、ステップ、操作、要素、成分および/またはそれらの群もしくは組合せの存在を明示するが、1つまたは複数のその他の特徴、ステップ、操作、要素、成分および/またはそれらの群もしくは組合せの存在または追加を除外するものではないことがさらに理解されるであろう。
【0022】
本明細書で使用する場合、「および/または」という語は、任意のもしくは全ての考えられる組合せ、または関連する列挙項目のうち1つもしくは複数、および代替と解釈される場合(「または」)には組合せの欠如を含む。
【0023】
別途規定されない限り、本明細書で使用する全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者が通常理解するものと同じ意味を有する。通常使用される辞書で規定されるものなどの用語は、明細書および特許請求の範囲の文脈における意味と一致する意味を有するものと解釈すべきであり、本明細書で明確にそのように規定されない限り、理想的なまたは過度に形式的な意味に解釈すべきでないことがさらに理解されるであろう。簡潔性および/または明瞭性のため、周知の機能または構造は詳細に記載されない可能性がある。
【0024】
本明細書で使用する場合、「細胞」は概して、イヌ、ネコ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、マウス、ウサギ、ラットなどの細胞などの哺乳動物細胞である。一部の好ましい実施形態で、細胞はヒト細胞である。適切な細胞は既知であり市販されている、かつ/または既知の技術に従って産生可能である。一部の実施形態で、細胞はドナーから採取され継代される。一部の実施形態で、細胞は細胞株から分化したものである。一部の実施形態で、細胞は、成体幹細胞(骨髄、末梢血、臍帯血、臍帯中または胎盤組織由来のwharton膠質)、胚性幹細胞、羊水幹細胞、または目的の組織に分化可能な、任意のその他の供給源からの幹細胞に由来する。
【0025】
本明細書で使用する場合、「哺乳動物」は、ヒト対象(および細胞供給源)およびイヌ、ネコ、マウス、サルなど(例えば獣医学用)の非ヒト対象(および細胞供給源または型)の両方を指す。
【0026】
本明細書で使用する場合、「細胞外マトリックス」(ECM)は、周辺の細胞を構造上および生化学的支持を提供する、細胞により分泌される細胞外の分子を指す。ECMは通常、線維タンパク質、およびグリコサミノグリカン(GAG)などのポリサッカライドの連動する網から構成される。本明細書で使用する場合、「細胞外マトリックス組成物」はECMタンパク質を含む組成物を指す。
【0027】
本明細書で使用する場合、「細胞外マトリックスタンパク質」(または「ECMタンパク質」)は既知であり、これらに限定されないがY.Zhangらの米国特許出願公開第2013/0288375号に記載されるものを含む。ECMタンパク質の例には、これらに限定されないが、ラミニン、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、フィブロネクチンおよびエラスチンが含まれる。
【0028】
本明細書で使用する場合、「オルガノイド」は、器官またはその一部の機能性および/または組織学的構造を模すかこれらに似るように作り出される人工インビトロ構築物を指す。
【0029】
本明細書で使用する場合、「培地」または「培養培地」は、本発明を実施するのに使用される細胞の増殖、生存、または保存のために用意される水性溶液を指す。培地または培養培地は天然でも人工のものでもよい。培地または培養培地は基本培地を含んでいてよく、培地で培養される細胞の細胞生存、増殖、増加、および/または分化などの望ましい細胞活性を促進するように栄養(例えば、塩、アミノ酸、ビタミン、微量元素、抗酸化剤)が添加されてもよい。本明細書で使用する場合、「基本培地」は、基本塩栄養または塩の水溶液、ならびに、細胞に水、および正常な細胞代謝に必須の一定のバルク無機イオンを供給するその他の因子を指し、細胞内および/または細胞外浸透圧の平衡を維持する。一部の実施形態で、基本培地は、エネルギー供給源としての少なくとも1種の糖、および/または生理的pH範囲内に培地を維持するための緩衝系を含んでいてよい。市販の基本培地の例には、これらに限定されないが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地(MEM)、イーグル基本培地(BME)、ロズウェルパーク記念研究所培地(RPMI)1640、MCDB131、クリック培地、マッコイ5A培地、199培地、ウィリアム培地E、グレース培地などの昆虫培地、ハム栄養混合物F-10(ハムF-10)、ハムF-12、α-最小必須培地(αMEM)、グラスゴー最小必須培地(G-MEM)およびイスコフ改変ダルベッコ培地が含まれていてよい。例えば、米国特許出願公開第US20150175956号を参照のこと。
【0030】
本明細書で使用する場合、「ヒドロゲル」は、天然由来のヒドロゲルおよび合成ヒドロゲルを指す。天然由来のヒドロゲルおよび合成ヒドロゲルを混合して、ハイブリッドヒドロゲルを形成してもよい。天然由来のヒドロゲルは、これらに限定されないが、細胞株から収集された天然の細胞外マトリックスタンパク質から調製されるMatrigel(登録商標)、コラーゲンおよびアルギン酸を含んでいてよい。天然由来のヒドロゲルは、脱細胞化組織抽出物に由来していてもよい。細胞外マトリックスは、特定の組織から収集してよく、その組織型の細胞を支持するのに使用可能なヒドロゲル物質として使用するかこれと組み合わせることができる。例えば、Skardal et al., Tissue Specific Synthetic ECM Hydrogels for 3-D in vitro Maintenance of Hepatocyte Function, Biomaterials 33 (18):4565-75(2012)を参照のこと。キトサンヒドロゲルは、分解可能かつ数種の異なる細胞型を支持する天然由来のヒドロゲルの一例である。例えば、Moura et al., In Situ Forming Chitosan Hydrogels Prepared via Ionic/Covalent Co-Cross-Linking, Biomacromolecules 12 (9): 3275-84 (2011)を参照のこと。ヒアルロン酸ヒドロゲルも使用可能である。例えば、Skardal et al., A hydrogel bioink toolkit for mimicking native tissue biochemical and mechanical properties in bioprinted tissue constructs, Acta Biomater. 25: 24-34 (2015)を参照のこと。
【0031】
合成ヒドロゲルは、多くの技術を使用して様々な物質(例えば、ポリ-(エチレングリコール))から産生可能である。天然由来のヒドロゲルとは対照的に、合成ヒドロゲルは均一に産生することができ、容易に再現可能かつ特性を明らかにすることができる。しかし合成ヒドロゲルは、天然の細胞外マトリックスに見られる活性部位のような、細胞に対するいくつかの機能性シグナルを欠いていることがあり、それにより合成ヒドロゲルの、細胞を支持する潜在能力が制限される。例えば、Mahoney et al., Three-Dimensional Growth and Function of Neural Tissue in Degradable Polyethylene Glycol Hydrogels, Biomaterials 27 (10): 2265-74 (2006)を参照のこと。ハイブリッドヒドロゲルは折衷案となる可能性があり、これにより特定の微小環境を再構築する能力をよりよく制御することが可能となりうる。細胞外マトリックス分子(例えば細胞外マトリックスタンパク質)などの天然成分を、規定の合成ヒドロゲルと組み合わせることで、より容易に再現可能かつ機能性のヒドロゲルが産生可能である。例えば、Salinas et al., Chondrogenic Differentiation Potential of Human Mesenchymal Stem Cells Photoencapsulated within Poly(Ethylene Glycol)-Arginine-Glycine-Aspartic Acid-Serine Thiol-Methacrylate Mixed-Mode Networks, Tissue Engineering 13 (5): 1025-34 (2007)を参照のこと。
【0032】
本明細書で引用される全ての米国特許文献の開示は、本明細書での開示と一致する程度に、引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0033】
1.肺オルガノイドおよびそれを調製する方法
(a)哺乳動物肺上皮細胞を含む上皮細胞層、(b)哺乳動物肺線維芽細胞を含む間質細胞層、および(c)哺乳動物内皮細胞を含む内皮細胞層を含む、人工哺乳動物肺オルガノイドが本明細書で提供される。一部の実施形態で、上皮細胞層は初代哺乳動物肺上皮細胞を含んでいてよい。一部の実施形態で、間質細胞層は初代哺乳動物肺線維芽細胞、または幹細胞もしくは細胞株から分化した哺乳動物肺線維芽細胞を含んでいてよく、内皮細胞層は初代哺乳動物内皮細胞、または幹細胞もしくは細胞株から分化した哺乳動物内皮細胞を含んでいてよい。一部の実施形態で、内皮細胞層は毛細血管内皮細胞を含んでいてもよい。一部の実施形態で、内皮細胞層はヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を含んでいてよい。
【0034】
一部の実施形態で、前記哺乳動物肺上皮細胞、前記哺乳動物肺線維芽細胞および/または前記哺乳動物内皮細胞はヒト細胞であってよい。一部の実施形態で、哺乳動物肺上皮細胞は、明確な「頂端」細胞膜、「側方」細胞膜および「基底」細胞膜ドメインを含む極性化した細胞である。一部の実施形態で、極性化した上皮細胞により、上皮層の端から端への分子の指向性輸送が可能となる。
【0035】
一部の実施形態で、肺オルガノイドは、前記上皮細胞層と前記肺間質細胞層の間、および/または前記肺間質細胞層と前記肺内皮細胞層の間に膜をさらに含んでいてよい。
【0036】
図1(a)、(b)および(c)は、本発明の一部の実施形態による膜を含む肺オルガノイドの層の概略図を提供する。肺オルガノイドは、図1(a)に示すように、上皮細胞層20と肺間質細胞層30の間に膜10を含むか、図1(b)に示すように、肺間質細胞層30と肺内皮細胞層40の間に膜10を含むか、図1(c)に示すように、上皮細胞層20と肺間質細胞層30の間、および肺間質細胞層30と肺内皮細胞層40の間にそれぞれ膜10を含んでいてよい。一部の実施形態で、肺オルガノイドに含まれる膜は多孔質とすることができ、それを通しての分子の流動または輸送が可能となる。
【0037】
一部の実施形態で、本発明の肺オルガノイドは、
膜(例えば多孔質膜)の第1の側面に生哺乳動物内皮細胞(例えば毛細血管内皮細胞)を含む内皮細胞層を堆積させ、
膜の第1の側面の反対側である膜の第2の側面に生哺乳動物肺線維芽細胞を含む間質細胞層を堆積させ、
間質細胞層に直接、生哺乳動物肺上皮細胞を含む上皮細胞層を堆積させる
ことによって調製することができる。
【0038】
細胞は、樹立された培養物、ドナー、生検、不死化細胞株、幹細胞、またはそれらの組合せから得られる。一部の実施形態で、細胞は初代細胞である。一部の実施形態で、細胞はヒト肺細胞である。一部の実施形態で、細胞は継代される。
【0039】
細胞の堆積または播種は、広げる/塗る、コーティングする、噴霧することなどを含むがこれらに限定されない任意の適切な技術により実施可能である。一部の実施形態で、堆積させるステップは、「インクジェット」型プリンティング、シリンジ注射型プリンティングまたは当技術分野で既知のその他の技法を含む任意の適切な技術によるプリンティングまたはバイオプリンティングにより実施可能である。このようなバイオプリンティングを実施するための器具は既知であり、例えば、Bolandらの、米国特許第7,051,654号;Yooらの、米国特許出願公開第US2009/0208466号;およびKangらの、米国特許出願公開第US2012/0089238号に記載されている。
【0040】
上記の通り、膜(例えば多孔質膜)は、肺オルガノイドの細胞層の1つまたは複数の接合部に位置していてよい。膜は高分子物質であるかこれを含んでいてよい。高分子物質はポリスチレンなどの合成物であってもよく、脱細胞化細胞外マトリックス(ECM)または非脱細胞化細胞外マトリックス(ECM)などの天然の組織に由来していてもよい。一部の実施形態で、膜の一方または両方の側面は、ECMタンパク質(例えば、ラミニン、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、フィブロネクチンおよびエラスチン)、プロテオグリカン、ビトロネクチン、ポリ-D-リジンおよび/またはポリサッカライドでコーティングされていてよい。
【0041】
一部の実施形態で、膜の一方または両方の側面は、肺組織由来の細胞外マトリックス組成物、または肺組織由来の細胞外マトリックス組成物を含むヒドロゲルでコーティングされていてよい。例えば、Lang et al., Three-dimensional culture of hepatocytes on porcine liver tissue-derived extracellular matrix, Biomaterials. 2011;32(29):7042-7052; Mirmalek-Sani et al., Porcine pancreas extracellular matrix as a platform for endocrine pancreas bioengineering, Biomaterials. 2013;34(22):5488-5495; Orlando et al., Production and implantation of renal extracellular matrix scaffolds from porcine kidneys as a platform for renal bioengineering investigations, Annals of surgery. 2012;256(2):363-370を参照のこと;Booth et al., Acellular normal and fibrotic human lung matrices as a culture system for in vitro investigation, American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine. 2012;186(9):866-876も参照のこと。例えば、肺ECMバイオゲルは、ヒト肺ECM粉末を可溶化させ、可溶化させたヒト肺ECM粉末をヒドロゲルと組み合わせることにより生成可能である。ヒト肺ECM粉末は、脱細胞化または非脱細胞化ヒト肺ECMから調製することができる。ヒト肺ECM粉末は、ヒト肺ECMを凍結乾燥させ、次いで凍結乾燥させたヒト肺ECMを、例えばフリーザーミルで粉末にすりつぶすことにより形成可能である。例えば、Y.Zhangらの、米国特許出願公開第2013/0288375号;およびSkardal et al., Tissue specific synthetic ECM hydrogels for 3-D in vitro maintenance of hepatocyte function, Biomaterials 33(18): 4565-75 (2012)を参照のこと。
【0042】
一部の実施形態で、本発明の肺オルガノイドは、
間質細胞(例えば生哺乳動物肺線維芽細胞)をそこに含むヒドロゲルを用意し、
ヒドロゲルの第1の側面に、生哺乳動物内皮細胞(例えば毛細血管内皮細胞)を含む内皮細胞層を堆積させ、
ヒドロゲルの第1の側面の反対側であるヒドロゲルの第2の側面に、生哺乳動物肺上皮細胞を含む上皮細胞層を堆積させる
ことによって調製することができる。
【0043】
一部の実施形態で、ヒドロゲルは架橋結合されていてもいなくてもよい。一部の実施形態で、ヒドロゲルはゼラチン、フィブリノーゲン、ジェランガム、プルロニック(ポロクサマー)、アルギン酸、キトサン、ヒアルロン酸、セルロースおよび/またはコラーゲンを含んでいてよい。
【0044】
一部の実施形態で、3D肺オルガノイドは、図2に示すように、毛細血管系内皮細胞(下)および気道間質間葉系細胞(中)を初代気道上皮(上)と層にすることにより形成可能である。上皮細胞は極性化しており、かつ線毛性である。一部の実施形態で、内皮細胞は蛍光色素で標識されていてよい。
【0045】
図3は、本発明の一部の実施形態によるヒドロゲルを含む肺オルガノイドの概略図を提供する。図3を参照すれば、一部の実施形態で、肺オルガノイドは、前記間質細胞30をそこに含むヒドロゲル50をさらに含んでいてよい。上皮細胞層20および内皮細胞層40はヒドロゲル50のそれぞれ反対面にあってよい。ヒドロゲル50は架橋結合されていてもいなくてもよい。ヒドロゲル50の例には、これらに限定されないが、ゼラチン、フィブリノーゲン、ジェランガム、プルロニック(ポロクサマー)、アルギン酸、キトサン、ヒアルロン酸、セルロース、コラーゲン、およびそれらの混合物が含まれる。
【0046】
一部の実施形態で、ヒドロゲル50は肺組織由来の細胞外マトリックス組成物(肺ECMバイオゲル)を含んでいてよい。一部の実施形態で、オルガノイドの間質細胞は、生理的硬さ(1~2kPa)の肺ECMバイオゲル中に懸濁されていてよい。一部の実施形態で、ヒドロゲル50はヒアルロン酸ベースのヒドロゲルであってよい。例えば、Skardal et al., A hydrogel bioink toolkit for mimicking native tissue biochemical and mechanical properties in bioprinted tissue constructs, Acta Biomater. 25: 24-34 (2015);および引用することにより本明細書の一部をなすものとするPCT出願公開第WO2016/064648A1号を参照のこと。
【0047】
一部の実施形態で、肺オルガノイドは、ウイルスまたは細菌肺病原体に感染していてよい。呼吸器疾患の原因となる病原体には、一般的なfluつまりインフルエンザ(AまたはB;オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae))、呼吸器多核体ウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス(HPIV;パラミクソウイルス科(paramyxovirus))、メタニューモウイルス(hMPV;パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae))、アデノウイルス、ライノウイルス、パラインフルエンザウイルス、コロナウイルス、コクサッキーウイルス、および単純ヘルペスウイルスが含まれる。呼吸器疾患の細菌病原体には、ペスト菌(Yersinia pestis)、炭疽菌(Bacillus anthracis)、大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌、野兎菌(Francisella tularensis)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)A群ベータ溶血性連鎖球菌(GABHS)、C群ベータ溶血性連鎖球菌、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、溶血性アルカノバクテリア(Arcanobacterium haemolyticum)、肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae)、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、カタル球菌(Moraxella catarrhalis)、百日咳菌、およびパラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)が含まれる。
【0048】
2.デバイスおよびシステム
一部の実施形態で、肺オルガノイドはマイクロ流体デバイスとして提供されうる。オルガノイドを支持するのに有用な各種マイクロ流体デバイス構成が、当技術分野で既知となっている。例えば、Ingberらの米国特許出願公開第2014/0038279号;Bhatia and Ingber, “Microfluidic organs-on-chips,” Nature Biotechnology 32:760-772 (2014)を参照のこと。
【0049】
概して、本明細書で教示される肺オルガノイドを含むマイクロ流体デバイスは、肺オルガノイドの上皮細胞層と流体接触する第1のチャンバーまたは開口部と、肺オルガノイドの内皮細胞層と流体接触する第2のチャンバーまたは開口部との間の境界を肺オルガノイドが規定するような、その内部に肺オルガノイドを受容する大きさのチャンバーを含んでいてよい。流体は培地などの液体でも空気などの気体でもよい。デバイスは、各チャンバーにつき流体入口および流体出口、それと連絡する流体貯留容器などをさらに含んでいてよい。一部の実施形態で、気体(例えば空気)が肺オルガノイドの上皮細胞層に接触していてよく、液体(例えば培地)が肺オルガノイドの内皮細胞層に接触していてよい。一部の実施形態で、マイクロ流体デバイスは、「プラグイン」、すなわちポンプ、培養培地貯留容器、検出器などを含むより大きな器具に挿入するためのカートリッジの形態で提供可能である。
【0050】
図4(a)は、本発明の一部の実施形態によるマイクロ流体デバイスの模式図である。図4(a)を参照すれば、一部の実施形態で、マイクロ流体デバイスは、外装510および外装510中のチャンバー520を含んでいてよい。肺オルガノイド530は、チャンバー520中に配置することができる。マイクロ流体デバイスは、そこを通って流体(例えば培地、空気)が出入り可能な流体入口および流体出口540、ならびに肺オルガノイド530が流体と流体連通するために設けられたチャネルまたは開口部550をさらに含んでいてよい。一部の実施形態で、マイクロ流体デバイス外装510の少なくとも一部は、肺オルガノイド530の画像化を可能にするため透明であってよい。一部の実施形態で、マイクロ流体デバイスは、異なる種類の流体を肺オルガノイド530に供給するための、複数の流体入口および出口540ならびに複数のチャネル550を含んでいてよい。一部の実施形態で、マイクロ流体デバイスの外装510内に経内皮(または上皮)電気抵抗(TEER)センサーの電極を設けることができる(図示しない)。
【0051】
図4(b)は、本発明の一部の実施形態によるマイクロ流体支持系の模式図である。図4(b)を参照すれば、マイクロ流体支持系は、ポンプ制御のための制御部100(例えばコンピュータ)、ポンプ200(例えば蠕動ポンプ)、気泡トラップ300、培地貯留容器400およびマイクロ流体デバイス500のうち1つまたは複数を含んでいてよい。マイクロ流体支持系が、異なる種類の培地またはその他の流体用に複数の貯留容器400を含んでいてよいことが理解されるであろう。
【0052】
図4(c)は、本発明の一部の実施形態によるマイクロ流体支持系の画像である。マイクロ流体支持系は、円筒形状を有しチューブを介してポンプに連絡する2つの培地貯留容器、ならびに長方形の形状を有しチューブを介して培地貯留容器およびポンプの両方に連絡するマイクロ流体デバイスを含み、閉ループ系を形成する。
【0053】
3.使用方法
本明細書に記載される肺オルガノイドは、化合物もしくはワクチンスクリーニング(例えば、有効性、毒性、またはその他の代謝もしくは生理的活性についてのスクリーニング)、または肺感染症もしくは疾患(例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD))の治療(治療に対する抵抗性を含む)についての、生きた動物による実験の代替として使用可能である。急性治療試験では、化合物またはワクチンを例えば数時間に1回適用することができる。慢性治療試験では、化合物またはワクチンを例えば数日~1週間適用することができる。このような試験は、本明細書に記載される肺オルガノイド製品を、その製品の構成細胞を生きたまま維持する条件下(例えば、酸素添加した培養培地)で用意し、試験する化合物(例えば薬物候補)を、(例えば、上皮層への局所適用または気体適用により)肺オルガノイドに適用し、次いで生理応答(例えば、損傷、瘢痕組織形成、感染症、細胞増加、熱傷、細胞死、ヒスタミン放出、サイトカイン放出などのマーカー放出、遺伝子発現変化など)を検出することによって実施可能であり、このような生理応答の存在によって、前記化合物またはワクチンが、哺乳動物対象の肺に吸い込まれるかその他の方法で送達された場合に治療有効性、毒性、またはその他の代謝もしくは生理的活性を有することが示される。対照化合物(例えば、生理食塩水、化合物溶媒または担体)が適用されうる肺オルガノイドの対照試料を同様の条件下で維持することができ、その結果比較結果を得るか、過去データとの比較または薄いレベルの試験化合物の適用により得られるデータとの比較などに基づいて損傷を決定することができる。
【0054】
肺オルガノイドは上皮細胞層および内皮細胞層の両方を含むため、本明細書に記載される肺オルガノイドが薬物送達について研究するための優れた手段となりうることが理解されるであろう。肺オルガノイドの内皮細胞層を液体(例えば培地)に曝露することができ、内皮細胞層を通過する物質を制御する成熟血管バリアとして機能させることができる。肺オルガノイドの上皮細胞層を気体(例えば空気)に曝露することができ、それによりエアロゾルで送達される物質に曝露することができる。一部の実施形態で、上皮細胞層は線毛を含んでいてよい。
【0055】
試験化合物が免疫学的活性を有するかどうかを決定する方法には、細胞による免疫グロブリン生成、ケモカイン生成およびサイトカイン生成についての試験が含まれうる。
【0056】
4.デバイスの保存および運送
一旦産生されると、上記のデバイスは速やかに使用するか、保存および/または輸送用に調製することができる。
【0057】
デバイスを保存および輸送するため、室温(例えば25℃)では流動性の液体であるが冷蔵温度(例えば4℃)ではゲル化または凝固する、水と混合されたゼラチンなどの一時的な保護支持培地をデバイスに添加して、チャンバー、および好ましくは任意の関連する導管も実質的にまたは完全に満たすことができる。任意の入口および出口を、適切な被覆部品(例えば栓)または被覆物質(例えばワックス)で被覆することができる。次いでデバイスを冷却部品(例えば、氷、ドライアイス、熱電冷却装置など)とともにパッケージングしてよく、全てを(好ましくは断熱された)パッケージ中に配置することができる。
【0058】
一部の実施形態で、デバイスを保存および輸送するため、冷却温度(例えば4℃)では流動性の液体であるが室温(例えば20℃)または体温(例えば37℃)などの暖かい温度ではゲル化または凝固する、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)およびポリ(エチレングリコール)のブロックコポリマーなどの一時的な保護支持培地をデバイスに添加して、チャンバー、および好ましくは任意の関連する導管も実質的にまたは完全に満たすことができる。
【0059】
受け取ったら、エンドユーザーは関連するパッケージおよび冷却部品からデバイスを取り出すだけでよく、(一時的な保護支持培地の選択に応じて)温度を上昇または下降させることができ、任意の口の被覆を外すことができ、シリンジで(例えば、増殖培地で洗い流すことにより)一時的な保護支持培地を除去することができる。
【0060】
本発明は、以下の非限定的な実施例でより詳細に説明される。
【実施例
【0061】
ヒト気道組織を複製するための順序および比でポリエステル膜において層にした、正常なヒト上気道に見られる初代正常ヒト気管支上皮(NHBE)細胞、初代ヒト肺線維芽細胞およびヒト内皮細胞(HUVEC)を使用して、気道オルガノイドを構築した。
【0062】
1.肺オルガノイドの構築
ポリエステル膜(Corning(登録商標)Costar(登録商標)Snapwell(商標)細胞培養インサート、12mmで孔0.4μm、孔密度4x10孔/cm、ポリエステル膜、TC処理済み、滅菌済み)の各側面をコラーゲンIV150μl(Sigma C7521)でコーティングし、バイオセーフティフードで一晩(フード開放および送風機オン)放置した。翌朝、膜を30分間UV滅菌した。
【0063】
HUVEC(内皮細胞)(Cell and Viral Vector Core Laboratory、Wake Forest University)250,000個を膜の下面に播種し、細胞を付着させるため最大4時間静置した。次いで6ウェルプレートのウェル中に、EGM-10 2mlとともに膜を配置した。
【0064】
HALF(ヒト成人肺線維芽細胞、ドナーから単離)250,000個を膜上面に播種し、DMEM-F12 1:1(Hyclone SH30261.01)200μlで覆った。
【0065】
5~7日後、NHBE細胞(上皮細胞)(Lonza Cat#CC2540)250,000細胞の層を線維芽細胞層の上に樹立し、BEGM(Clonetics CC4175)200μlで覆った。
【0066】
培地交換:EGM10およびBEGM-2日毎に1回;DMEM-3~4日毎に1回、細胞に触ることなく(HALFおよびNHBEの場合は)トランズウェルの上部から培地100μlを注意深くピペットで除き、同量の新しい培地で置き換える。
【0067】
初代細胞の型をPCRおよびフローサイトメトリーにより特徴付け、Vybrant(登録商標)Multicolor Cell-Labeling Kit V-22889(画像化のための細胞の標識に使用)を使用して正常な細胞表現型であることを実証した。p63-α(D2K8X)XP(登録商標)ウサギmAb#13109、抗ダイニン中鎖1抗体[74.1](ab23905)および抗ムチン5AC抗体[45M1](ab3649)を、フローサイトメトリーによるNHBEの特性決定に使用した。
【0068】
マイクロ流体デバイスを使用して、膜の両側面に培地の生理的流動を与えるか、あるいは下面のみに与えて上側の膜で樹立される空気-液体界面を産生した。
【0069】
経上皮抵抗、毒素およびサイトカインのレベルを分析し、蛍光顕微鏡により画像化することで、このモデルにおける百日咳菌の病因を研究した。
【0070】
2.結果および考察
細胞の特性決定:初代肺線維芽細胞は継代の間、線維芽細胞特異的なマーカーの発現を維持し、NHBE細胞は培養中、基底細胞、杯細胞、線毛細胞およびクララ細胞に対するマーカーの発現を維持した。
【0071】
von Willebrand因子/第VIII因子、サイトケラチン18および19、ならびにアルファ平滑筋アクチンの発現について、正常なヒト肺線維芽細胞を試験する。肺毛細血管内皮細胞は、CD31/105、von Willebrand因子、およびPECAMを発現する。ヒト初代肺上皮細胞は、基底細胞(p63+ KRT5+)、線毛細胞(Foxj1+ Sox17+)、クララ細胞(Scgb1A1+)粘膜細胞(Muc5ac+)数およびCFTR+上皮細胞に対するマーカーを発現する。
【0072】
オルガノイド形成:気道オルガノイドの細胞を蛍光標識すると、細胞が、内皮脈管構造、間質成分および極性化した上皮単層を示す明確な細胞層を形成していることが実証された。TEMおよび組織学的イメージングにより、多層上気道オルガノイド構築物の形成が確認された。
【0073】
マイクロ流体系における細胞の維持:マイクロ流体系で維持された気道オルガノイドは生存可能なままであり、百日咳菌の病因の非侵襲性分析を促進した。
【0074】
結論
複数の初代気道細胞型を組み合わせて機能性の上気道オルガノイドを生成した。この生物工学によるオルガノイド系は、ヒト疾患についての研究、毒性研究ならびに薬物およびワクチン開発の実施に有用である。
【0075】
上記は本発明を例示するものであり、これを限定するものとして解釈されるべきではない。本発明は以下の特許請求の範囲で規定され、特許請求の範囲の同等物がそこに含まれるものとする。
図1
図2
図3
図4