(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】高結晶銀微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/24 20060101AFI20220120BHJP
B22F 9/20 20060101ALI20220120BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220120BHJP
【FI】
B22F9/24 E
B22F9/20 Z
B22F1/00 K
(21)【出願番号】P 2018566038
(86)(22)【出願日】2018-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2018001287
(87)【国際公開番号】W WO2018142943
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2021-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2017016067
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】595111804
【氏名又は名称】エム・テクニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】邨田 康成
(72)【発明者】
【氏名】榎村 眞一
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/042227(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,9/20,9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元反応による銀微粒子の製造方法において、
少なくとも銀イオンを含む銀溶液と、少なくとも還元剤を含む還元剤溶液と、を連続湿式還元法で反応させて、
反応場において上記銀溶液を主流とし、上記還元剤溶液を上記銀溶液に積極的に拡散させることにより、銀微粒子を析出させ、
上記銀溶液には銀に対する錯化剤及び銀に対する還元剤が実質的に含まれず、
上記銀溶液から銀微粒子への還元率が99%以上であり、上記銀微粒子の平均一次粒子径が100nm以上1000nm以下であり、上記銀微粒子の平均一次粒子径に対する平均結晶子径が80%以上であることを特徴とする高結晶銀微粒子の製造方法。
【請求項2】
上記銀微粒子の平均一次粒子径に対する平均結晶子径が90%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の高結晶銀微粒子の製造方法。
【請求項3】
上記銀溶液と還元剤溶液とを対向して配設された接近・離反可能な、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する二つの処理用面の間にできる薄膜流体中の反応場で混合して銀微粒子を析出させることを特徴とする請求項1又は2に記載の高結晶銀微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高結晶銀微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀は抗菌・殺菌作用や優れた導電特性を有することから、医薬分野や電子機器材料等、幅広い分野で利用されている。また、銀を微粒子化することによって、バルクの状態では確認されなかった融点の低下等の機能が発現することから、その用途は更に拡がりを見せている。
【0003】
特に、電子機器材料として利用される銀微粒子については、焼結に伴うクラックや導電により発生し得るマイグレーション等が問題視されているため、これらの問題に対して有効な高結晶銀微粒子が求められている。
【0004】
なかでも、100nm以下の銀微粒子は先に述べた融点の低下を利用することで、微細配線の描画用等としては適切である。しかし、上記クラックや上記マイグレーションに対しては、100nm以上の高結晶銀微粒子を用いる方が、100nm以下の高結晶銀微粒子を用いた場合に比べてより高い効果を示し、構造欠陥のない信頼性の高い低抵抗を実現する材料として期待できる場合もある。
【0005】
しかしながら、100nm以上の大きな粒子においては、高結晶性として得ることが難しく、一般に、高結晶性の銀微粒子の製造には、高い結晶性を得易いことから気相反応が用いられることが多い。
【0006】
例えば、特許文献1においては、炭酸銀粉末を気流式粉砕機により粉砕し、都市ガスと空気の混合物をバーナーで燃焼させ周辺部が加熱されるようになっているノズルより、大量の空気と共に随伴させ少量の粉砕された炭酸銀粉末を噴出させて、銀粉末を生成させる高結晶性銀粉末の製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献1の方法では、ノズルをバーナーで加熱していることに加え、反応容器の外側には電気炉が設置されているので、銀粉末の製造にあたり、大きなエネルギーを消費する必要があり、多大なコストを必要とする。
【0007】
上記のように、気相反応は液相反応に比べて製造効率が著しく劣るため、液相反応によって高結晶銀微粒子を製造することが望まれている。
【0008】
液相反応が気相反応と著しく異なる点は、金属の還元反応の場合、還元反応の対象となる溶質が反応に直接関係ない溶媒分子によって取り囲まれて存在することである。溶質Aは、溶媒分子と衝突を繰り返し、反応対象となる溶質Bとぶつかるまで複雑に方向を変えて運動を続ける。このような分子の運動を拡散という。液相反応では溶媒分子が介在するために、溶質分子Aが溶質分子Bと接近するまでには気相反応と比べて時間を要するが、ひとたび溶質分子A、溶質分子Bが出会うと溶媒分子の妨害のため互いに離れにくい状態がしばらく持続し(かご効果)、制御可能な反応を実現し得る。
【0009】
銀微粒子を析出させる還元反応では、1.銀イオンと還元剤分子が出会うまでの拡散、2.銀イオンが還元され銀微粒子が生成する反応、という二段階に分けて考えることができるが、上記2.銀イオンが還元されて銀微粒子が生成する反応の速度が十分速い場合には、銀イオンと還元剤分子が出会う拡散の速度が還元反応の速度を決める(拡散律速)。拡散律速の場合、拡散速度を速くすれば銀イオンが全て還元されて銀微粒子となるまでの反応速度は速くなり、拡散速度を遅くすれば上記反応速度が遅くなるために拡散速度の制御によって、反応速度を制御することが可能である。
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載されているように、このように反応効率面では優れた液相反応においても、単純なバッチ式による製造法では銀の還元反応が進行するに従って反応液中の銀イオンや還元剤の濃度が低くなり、銀の還元反応が起こり難くなるために、銀の還元率が下がり、還元反応の収率を85%以上とすることが困難であった。
【0011】
上記特許文献2には反応液に水溶性有機溶媒を存在させることによって、また、特許文献3ではマイクロ波を用いて銀微粒子を得ることによって、収率が99.5%以上となるような極めて高い還元率となる銀微粒子の製造方法が開示されているが、どちらの製造方法も粒子径としては15nm程度以下の銀微粒子であった。また、特許文献4には、銀アンミン錯体水溶液と、還元剤溶液とを、開放空間で合流させて銀微粒子を析出させる、収率99%以上の銀微粒子の製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献4の様に噴霧法により製造される銀微粒子は、本発明の様に液相で合成するものとは異なり、粒度分布のばらつきが大きく、また、平均一次粒子径に対する平均結晶子径の比率が80%以上という結晶性が高いものではない。このように、粒子径100nm以下の銀微粒子や、結晶性の低い銀微粒子においては高い還元率での銀微粒子製造が可能とされているが、平均一次粒子径が100nm以上であり結晶性の高い高結晶銀微粒子を製造する場合においては、高い還元率を達成することが困難であった。
【0012】
一方、特許文献5に記載された流体処理装置を用いて、少なくとも2種類の溶液を、接近及び離反可能な互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する第1処理用面と第2処理用面との間に導入し、上記少なくとも二つの溶液を、第1処理用面と第2処理用面との間で合流させ、上記第1処理用面と第2処理用面との間を通過させることによって、薄膜流体を形成させ、薄膜流体中で流体同士を反応させることにより銀微粒子を析出させる製造方法が、本願出願人によって提案された。
【0013】
上記の薄膜流体を反応場として連続湿式反応を実施する場合、
図1に示されるように回転軸方向の反応空間は、例えば0.1mm以下の微小間隔が強制される一方、回転軸と垂直な方向の第1処理用面と第2処理用面の間には非常に広範囲な流れ場が構成されるため、拡散方向を巨視的に制御できる。この場合でも、
図2に分子Mの矢印Yで模式的に示すように、分子レベルの微視的な拡散方向は乱雑である。
【0014】
この方法によれば、単純なバッチ式による製造方法と異なり、還元反応における反応場を常に一定に保ちながら銀微粒子を析出させることが可能となるが、高結晶性の銀微粒子を製造するには、以下に示すように、課題が残されていた。
【0015】
例えば、先述の特許文献5においては、還元剤を含む還元剤溶液を、処理用面の回転軸により近い側から導入することによって、主流としている。その場合は、還元剤溶液に銀イオンを拡散させることになるため、銀イオンを処理用面間に導入すると同時に銀イオンが還元されることによって、還元反応が速く進行する。反面、多くの種結晶が発生し、その不均一表面への拡散等の影響で多結晶体が形成されてしまい、単結晶に近い高結晶性の銀微粒子は得られないという問題があった。
【0016】
そこで、本願出願人による特許文献6に開示されているように、析出させる銀微粒子の結晶性を向上させるため、銀イオンを含む銀溶液と還元剤を含む還元剤溶液のうち銀溶液を上記主流とした。しかしながら、特許文献6に開示されている処方では、銀微粒子の還元反応の速度向上のために、銀に対して還元性を示すエチレングリコールを銀溶液の主溶媒としているため、依然、多くの種結晶が発生し、一次粒子径が100nm以上であり、平均一次粒子径に対する平均結晶子径の比率を80%以上である銀微粒子を作製することが困難であるという課題を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2013-53328号公報
【文献】特開2003-268423号公報
【文献】特開2013-23699号公報
【文献】特開2008-050697号公報
【文献】特開2009-144250号公報
【文献】国際公開第2014/042227号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
すなわち、本発明では、少なくとも銀イオンを含む銀溶液と、少なくとも還元剤を含む還元剤溶液とを連続湿式反応させることによって、析出させる銀微粒子の平均一次粒子径が100nm以上1000nm以下であり、上記平均一次粒子径に対する平均結晶子径が80%以上となる高結晶銀微粒子を、上記銀溶液から銀微粒子への還元を、99%以上という極めて高い還元率で製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
すなわち、本発明は、少なくとも銀イオンを含む銀溶液と、少なくとも還元剤を含む還元剤溶液と、を反応させる連続湿式反応法による銀微粒子の製造方法において、上記銀溶液から銀微粒子への還元率が99%以上であり、上記銀微粒子の平均一次粒子径が100nm以上1000nm以下であり、上記銀微粒子の平均一次粒子径に対する平均結晶子径が80%以上であることを特徴とする高結晶銀微粒子の製造方法である。
【0020】
また本発明は、上記銀溶液と還元剤溶液とを、対向して配設された接近・離反可能な、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する二つの処理用面の間にできる薄膜流体中の反応場で混合して銀微粒子を析出させる方法であることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明は、上記対向して配設された接近・離反可能な、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する二つの処理用面の間にできる薄膜流体中の反応場において、上記銀溶液を主流、かつ被拡散溶液とし、上記銀溶液には銀に対する錯化剤及び銀に対する還元剤が実質的に含まれず、還元剤を含む還元剤溶液を上記被拡散溶液に積極的に拡散させる方法であることがさらに好ましい。これによって、上記反応場における拡散条件をより厳密に制御でき、被拡散溶液への還元剤溶液の拡散条件を制御することが可能となるため、銀溶液から銀微粒子への還元率の向上並びに得られる銀微粒子の平均一次粒子径に対する平均結晶子径の向上に寄与する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の銀微粒子の製造方法により、銀イオンを含む銀溶液と、少なくとも還元剤を含む還元剤溶液とを連続湿式反応させて銀微粒子を析出させる銀微粒子の製造方法において、平均一次粒子径が100nm以上1000nm以下であり、平均一次粒子径(D)に対する平均結晶子径(d)の比率(d/D)が80%以上の高結晶銀微粒子を99%以上というきわめて高い還元率で製造できる効率の良い製造方法を提供できる。特に、液相法において高結晶銀微粒子を得ることが困難な、平均一次粒子径が100nm以上である銀微粒子に対して平均一次粒子径に対する平均結晶子径が80%以上である銀微粒子を、湿式反応によって連続的に製造できる効果は大きく、高結晶銀微粒子の生産効率の向上に寄与する。さらには、銀に対する錯化剤及び銀に対する還元剤を含まない上記銀溶液と、上記還元剤溶液とを上記薄膜流体として形成される反応場において混合させる際に、上記銀溶液を薄膜流体中において主流、かつ被拡散溶液とし、当該被拡散溶液に還元剤溶液を積極的に拡散させることによって、平均一次粒子径(D)に対する平均結晶子径(d)の比率(d/D)が95%以上である銀微粒子、即ち全ての銀微粒子が単結晶に近いものである銀微粒子を液相法によって連続的に得ることも可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】薄膜状空間の反応場における巨視的な拡散方向を示した実際の写真である。
【
図2】薄膜状空間の反応場における分子レベルの微視的な拡散方向と巨視的な拡散方向を示した図である。
【
図3】本発明の実施例に用いた流体処理装置の概略図である。
【
図4】本発明の実施例1にて得られた銀微粒子のSEM写真である。
【
図5】本発明の実施例1にて得られた銀微粒子のXRD測定結果である。
【
図6】本発明の比較例1にて得られた銀微粒子のSEM写真である。
【
図7】本発明の比較例1にて得られた銀微粒子のXRD測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本願発明に係る銀微粒子の製造方法について、実施の形態の一例を取り上げて詳細を説明する。しかし、本発明の技術的範囲は、下記実施形態及び実施例によって限定されるものではない。
【0025】
本発明においては、溶液に含まれる銀イオンを還元剤によって還元反応させることで銀微粒子を析出させる銀微粒子の製造方法において、平均一次粒子径に対する平均結晶子径が80%以上である銀微粒子の製造方法を提供する。特に粒子径が100nm以上の銀微粒子について、平均一次粒子径に対する平均結晶子径が80%以上である銀微粒子を、連続湿式反応によって還元率が99%以上で得ることができる製造方法を提供する。本発明によって得られる銀微粒子は、粒子径が100nm以上1000nm以下、好ましくは300nm以上1000nm以下、より好ましくは500nm以上1000nm以下である。さらに得られる銀微粒子の平均一次粒子径に対する平均結晶子径が80%以上であり、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。なお、1000nm以上の銀微粒子については、結晶子径が1000nm以上となる結晶性の高い銀微粒子の結晶子径を算出する方法が確立されていないために、上記銀微粒子の粒子径の上限を1000nmとしたが、本発明の銀微粒子の製造方法を用いることによって、1000nm以上の粒子径においても平均一次粒子径に対する平均結晶子径が80%以上である銀微粒子を作製することが可能であると本願発明者は考えている。
【0026】
本発明においては、少なくとも銀イオンを含む銀溶液と少なくとも還元剤を含む還元剤溶液とを混合させることで、銀微粒子を析出させる。実施の形態における一例としては、銀又は銀化合物、並びに還元剤をそれぞれ溶媒に溶解又は分子分散させることで、上記2種の溶液を調製し、混合させることで銀微粒子を析出させる。
【0027】
(銀化合物)
本願発明における上記銀イオンは、銀又は銀化合物を後述する溶媒に溶解又は分子分散させることによって得られる銀溶液に含まれるものである。上記銀又は銀化合物の一例としては、銀の単体、又は銀の塩、酸化物、水酸化物、水酸化酸化物、窒化物、炭化物、有機塩、有機錯体、有機化合物又はそれらの水和物、有機溶媒和物等が挙げられる。銀の塩としては特に限定されないが、銀の硝酸塩や亜硝酸塩、硫酸塩や亜硫酸塩、蟻酸塩や酢酸塩、リン酸塩や亜リン酸塩、次亜リン酸塩や塩化物、オキシ塩やアセチルアセトナート塩又はそれらの水和物、有機溶媒和物等が挙げられる。これらの銀化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、複数の混合物として用いてもよい。
銀溶液中の銀化合物の濃度としては、均一に還元剤と反応することができる濃度であれば、特に制限されない。例えば、0.01~10wt%が挙げられ、好ましくは0.1~5wt%が挙げられ、より好ましくは0.2~4wt%が挙げられ、さらに好ましくは0.3~3wt%が挙げられ、特に好ましくは0.4~2wt%が挙げられる。
【0028】
(還元剤溶液)
本願発明における還元剤溶液は、銀に対して還元性を示す還元剤を含む溶液であり、液状の還元剤、又は後述する溶媒に還元剤を溶解若しくは分子分散させることによって得られる還元剤溶液である。上記銀に対して還元性を示す物質としては特に限定されない。一例を挙げると、ヒドラジン、ヒドラジン一水和物、硫酸ヒドラジン、フェニルヒドラジン等のヒドラジン類や、ジメチルアミノエタノール、トリエチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミノボラン等のアミン類、クエン酸、アスコルビン酸、酒石酸、リンゴ酸、マロン酸、タンニン酸、ギ酸又はそれらの塩等の有機酸類や、アルコール類として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールやブタノール等の脂肪族モノアルコール類やターピネオール等の脂環族モノアルコール類等のモノアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、テトラエチレングリコール、ベンゾトリアゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコール類が挙げられる。また、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化トリブチル錫、水素化トリ(sec-ブチル)ホウ素リチウム、水素化トリ(sec-ブチル)ホウ素カリウム、テトラブチルアンモニウムボロヒドリド、水素化ホウ素亜鉛、アセトキシ水素化ホウ素ナトリウム等のヒドリド類や、グルコース等の糖類や、その他ホルムアルデヒド、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム(NaH2PO2)、硫酸鉄等の遷移金属(チタンや鉄)の塩や、それらの水和物や溶媒和物等を用いることができる。これらの還元剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、還元作用において一定のpH領域の確保を必要とする還元剤を用いる場合には、還元剤と共にpH調整物質を併用してもよい。pH調整物質の一例としては、塩酸や硫酸、硝酸や王水、トリクロロ酢酸やトリフルオロ酢酸、リン酸やクエン酸、アスコルビン酸等の無機又は有機の酸のような酸性物質や、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の水酸化アルカリや、トリエチルアミンやジメチルアミノエタノール等のアミン類等の塩基性物質、上記の酸性物質や塩基性物質の塩等が挙げられる。pH調整物質は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
銀化合物の還元率を向上させるために、還元剤は銀化合物に対して過剰に用いる。還元剤溶液中の還元剤の濃度としては、特に制限されるものではないが、例えば1~80wt%が挙げられ、好ましくは2~50wt%が挙げられ、より好ましくは5~40wt%が挙げられ、特に好ましくは10~30wt%が挙げられる。
【0029】
本発明における上記銀溶液又は還元剤溶液に用いることのできる溶媒は、特に限定されないが、イオン交換水やRO水(逆浸透水)、純水や超純水等の水や、アセトンやメチルエチルケトンのようなケトン系有機溶媒、酢酸エチルや酢酸ブチルのようなエステル系有機溶媒、ジメチルエーテルやジブチルエーテル等のエーテル系有機溶媒、ベンゼンやトルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒、ヘキサンや、ペンタン等の脂肪族炭化水素系有機溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。好ましい溶媒としては、水が挙げられる。溶媒は溶存酸素を脱気することが好ましく、例えば、N2等の不活性ガスをバブリングするか、又は減圧処理を行うことで脱気することができる。また本発明においては、銀イオンを含む銀溶液に上記溶媒を用いる場合、上記銀イオンに対して還元性を示さない溶媒を用いることが好ましい。
【0030】
本実施形態に係る銀溶液は、銀若しくは上記の銀化合物を溶媒に溶解又は分子分散したものである。以下、特に断らないかぎり、「溶解と分子分散」を併せて、単に、「溶解」とする。また、本願発明に係る還元剤溶液は、上記の還元剤を溶媒に溶解させて用いることが好ましいが、上記の還元剤が含まれていれば、他の状態であってもよい。また、銀が溶解していることを条件に、銀溶液や還元剤溶液には、分散液やスラリー等のように、固体や結晶の状態のものを含んでいてもよい。
【0031】
(薄膜状空間)
上記銀溶液と還元剤溶液とを連続的に混合して還元反応を行う連続湿式還元を行うための好ましい形態の一例として、本発明においては少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する少なくとも2枚のリング状ディスク間において、上記ディスク間に形成される0.1mm以下、例えば0.1μmから50μm程度の薄膜状空間を反応場とし、当該反応場において、少なくとも銀イオンを含む銀溶液と、少なくとも還元剤を含む還元剤溶液とを薄膜流体中において混合させることで連続湿式反応させて銀微粒子を析出させることが好ましい。しかし、本発明は、上記銀溶液と上記還元剤溶液とを、上記薄膜流体中において混合させて銀微粒子を析出させる方法に限定されるものではない。平均一次粒子径が100nm以上1000nm以下であり、銀微粒子の平均一次粒子径に対する平均結晶子径が80%以上である銀微粒子を、湿式反応によって上記銀溶液から銀微粒子への還元率が99%以上として連続的に得られる方法であれば特に限定されない。
【0032】
(薄膜状空間における還元反応速度制御による粒子径に対する結晶子径増大の原理)
好ましい形態の一例として上記薄膜状空間において、連続湿式反応を行う場合を挙げて本発明の高結晶銀微粒子の製造方法を説明する。薄膜状空間の厚みは0.1mm以下、例えば0.1μmから50μmで強制され、ディスクの径方向は非常に広範囲な流れ場が構成されるため拡散方向を巨視的に制御できる(
図1参照)。
図1に見られるように、薄膜状空間の全域において、回転軸側(内側)からディスク外周側(外側)に流れる溶液が主流となって、薄膜状空間に薄膜流体を形成している。次にリング状ディスク面に敷設された開口部から、上記主流となる溶液とは別の溶液を導入する。開口部は上記薄膜状空間の内側から外側に流れる途中に位置するので、
図1に見られるように、主流として薄膜状空間を流れている溶液に、主流とは別の溶液を拡散させる。主流とは別の溶液は、回転方向並びにリング状ディスクの径方向への拡散が助長されるため、上記薄膜状空間の薄膜流体中においては、リング状ディスクの回転軸方向の拡散の制御に加えて、回転方向並びにリング状ディスクの径方向への拡散の制御により微視的な拡散も制御可能となる。すなわち、上記主流として薄膜状空間を流れる溶液は被拡散溶液であり、当該被拡散溶液に上記主流とは異なる別の溶液を積極的に拡散させるものである。なお、通常、開口部の形状はリング状ディスクと同心円環状のものを用いて溶液を導入することが多いが、溶液の動きを明瞭にするため、
図1では一つの穴からなる開口部より導入した場合を示している。
【0033】
上記実施の形態においては、上記薄膜状空間の薄膜流体中における拡散条件の制御によって、得られる銀微粒子の平均一次粒子径に対する平均結晶子径を制御するものである。より具体的には、
図2に示すように巨視的に制御された拡散において、分子Mの矢印Yで模式的に示した微視的には乱雑である拡散方向についても、処理用面間における拡散範囲Ddを制御して、得られる銀微粒子の平均一次粒子径に対する平均結晶子径を制御するものである。また本発明においては、上記主流が薄膜状空間の内側から外側に流れるものに限定するものではない。ディスクの外側から内側に流れるものであってもよく、薄膜状空間において主流となる流れ状況であればよい。主流とは別の溶液は、好ましくは主流として流される入口よりも下流側から、主流によって形成される薄膜流体中に導入できる方法であればよい。また上記主流と、主流とは別の溶液との関係を維持するための薄膜流体中への導入量については、主流とは別の溶液の流量に対して主流となり得る溶液の導入量が体積で1.1倍以上から100倍以下、好ましくは1.3倍から70倍以下である。その範囲外においては、上記主流となり得る溶液と上記主流とは別の溶液との関係が逆転したり、拡散速度の制御並びに還元反応の速度を制御することが困難となる可能性が生じる。上記拡散条件の制御、特に処理用面間における拡散範囲Ddの制御の方法は特に限定されない。例えば、回転数を上昇させることによって拡散範囲Ddは小さくなり、それによって分子Mの矢印Yは回転方向に一様になる傾向があると考えられる。逆に回転数を低下させることによって拡散範囲Ddは大きくなり、矢印Yは処理用面の径方向に乱雑となる。処理用面間に導入させる溶液の流量は、その流量比、総流量によって拡散条件に与える影響が異なる。特に主流の流速に対する主流とは別の溶液の流速も拡散条件に大きく影響を与えるため、処理用面間に導入される流体の流量に加えて、処理用面間の厚み(距離)や、主流とは別の流体を処理用面間に導入するための、処理用面間に敷設された開口部径によっても当該拡散条件は制御可能である。
【0034】
本実施形態においては、少なくとも銀イオンを含む銀溶液を上記主流とし、上記主流とは別の溶液を還元剤溶液とすることによって、銀溶液への還元剤溶液の拡散速度を制御することが可能である。すなわち銀溶液に含まれる銀イオンの周りに、上記銀イオンを銀微粒子として析出させるに十分な還元剤物質を集める時間とも言える拡散時間を制御することによって還元反応の速度を制御し、銀微粒子の平均一次粒子径に対する平均結晶子径を制御できる。逆に還元剤溶液を上記主流とし、上記主流とは別の溶液を銀溶液とした場合には、主流を形成する還元剤溶液に銀溶液を拡散させることになるため、上記主流に銀溶液を用いた場合に比べて高濃度に還元剤物質を含む領域に銀のイオンを投入することとなり、銀のイオンを還元剤溶液に拡散させるよりも先に銀イオンの還元反応が起こり易くなる。したがって、銀微粒子の核が多数発生することになるため、平均一次粒子径に対する平均結晶子径が小さくなる場合がある。
【0035】
本実施形態において、上記薄膜状空間である反応場を形成するための装置としては、特許文献5、6に記載された、本願出願人によって提示された装置と同様の原理の装置が挙げられる。薄膜状空間を形成するための少なくとも2枚のリング状ディスク間は0.1mm以下であり、0.1μmから50μmの範囲であることが好ましい。0.1mm以下とすることによって、拡散方向を制御することができるため、還元反応の速度を制御することが可能となる。または、上記少なくとも2枚のリング状ディスクは、接近離反可能であることが好ましく、ディスク間の距離はディスク間を通過する流体によるディスク間を離反させる方向の圧力と、ディスク間を接近させる方向の圧力との圧力バランスによって制御させることが好ましい。上記圧力バランスでディスク間の距離を制御することによって、リング状ディスクの少なくとも1枚の回転に伴う軸振れや芯振れが生じた場合においても上記ディスク間の距離を一定とできる。そのため、連続湿式還元反応を行っている間においても、反応場の拡散条件、即ち銀イオンと還元剤との還元反応の速度を厳密に制御することができる利点がある。
【0036】
上記銀溶液と還元剤液の混合時の温度としては、溶媒が凝固せず、気化しない温度であれば、本発明を好適に実施することができる。好ましい温度としては、例えば、0~100℃が挙げられ、より好ましくは5~80℃が挙げられ、さらに好ましくは10~70℃が挙げられ、特に好ましくは20~60℃が挙げられる。上記銀溶液と還元剤液のそれぞれの温度は、混合時の温度が上記の温度範囲に入るように、適宜、設定することができる。
【0037】
本実施形態においては、上記銀溶液に銀に対して還元性を示す物質が含まれることによって、上記薄膜状空間における銀イオンの還元反応の速度を制御することが困難となるために、銀溶液には銀に対して還元性を示す物質が実質的に含まれないことが好ましい。具体的には銀溶液の溶媒にエチレングリコールやプロピレングリコール等のポリオール系溶媒のような、銀イオンに対して還元性を示す溶媒を用いないことが好ましい。ただし、本発明の効果に影響を与えず、平均一次粒子径が100nm以上1000nm以下であり、平均一次粒子径に対する平均結晶子径が80%以上の銀微粒子が、還元率99%以上で得られる限り、上記ポリオール系溶媒等の銀に対して還元性を示す物質を僅かに含むことを否定するものではない。本発明において、銀に対する還元剤を実質的に含まないとは、このような意味である。
【0038】
(分散剤等)
本実施形態においては、目的や必要に応じて各種分散剤や界面活性剤を用いる事ができる。特に限定されないが、界面活性剤及び分散剤としては一般的に用いられる様々な市販品や、製品又は新規に合成したもの等を使用できる。特に限定されないが、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤や、各種ポリマー等の分散剤等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等、ポリオール系溶媒を還元剤溶液の溶媒として用いた場合には、ポリオールが分散剤としても作用する。
【0039】
(銀溶液に錯化剤を実質的に含まない効果)
通常、銀イオンに対する錯化剤を用いた場合の湿式還元反応を、錯化剤にアンモニアを用いた場合を例として、以下の式(1)、式(2)、式(3)を用いて示す。
【化1】
【0040】
銀溶液に銀イオンとアンモニアが特に塩基性条件下において存在する場合、銀イオンは式(1)における銀アンミン錯イオン([Ag(NH3)2]+)として存在する。上記銀溶液に銀に対する還元剤を投入することによって、銀イオンの還元条件下におかれると、式(1)から式(3)の平衡関係に従って、高次の銀アンミン錯イオン([Ag(NH3)2]+)が低次の銀アンミン錯イオン([Ag(NH3)]+)を経て銀イオンの還元が生じる。即ち銀イオンを含む銀溶液に錯化剤を含む場合には、還元剤を投入した時に全ての銀イオンが直ちに還元反応が起きるわけではない。そのため、種結晶となる銀微粒子が析出した後にしか2段階目の銀アンミン錯イオンから銀イオンが発生する反応が起こらず、なおかつ遅れて発生した銀イオンを粒子の成長に効率よく使用することが困難と考えられるため、上記拡散速度の制御によって、銀溶液から銀微粒子への還元反応の速度を制御するが困難となり、多くの種結晶の発生と多結晶体の生成に繋がる。このため、平均一次粒子径に対する平均結晶子径の向上が困難である。また、一般に、銀イオンと錯化剤との結合が強固で、還元率の低下を招きやすいため、本発明の銀微粒子の製造方法においては、当該還元剤溶液にも錯化剤を実質的に含まないことが好ましい。上記銀に対する錯化剤としては、アンモニアや、エチレンジアミン等が挙げられる。これによって、薄膜状空間において銀溶液と還元剤溶液とを混合させて還元反応を行った場合の拡散速度を制御でき、瞬間的に起こる銀イオンと還元剤との還元反応の速度を制御できるために、銀イオンの還元率が99%以上となり易い。ただし、本発明の効果に影響を与えず、平均一次粒子径が100nm以上1000nm以下であり、平均一次粒子径に対する平均結晶子径が80%以上の銀微粒子が、還元率99%以上で得られる限り、上記錯化剤を僅かに含むことを否定するものではない。本発明において、銀に対する錯化剤を実質的に含まないとは、このような意味である。
【0041】
本願発明において用いられる、銀溶液と還元剤溶液のpHは、特に限定されず、目的とする銀微粒子の平均一次粒子径又は平均結晶子径等によって適宜選択すればよい。
【0042】
(好ましい成果物の形態)
本願発明の製造方法を用いることによって、結晶性を制御することが困難な平均一次粒子径が100nm以上1000nm以下の粒子の場合であっても、平均一次粒子径に対する平均結晶子径を大きくするように制御できる利点があり、平均一次粒子径に対する平均結晶子径が80%以上である銀微粒子を99%以上もの高い還元率で得ることができ、さらに好ましくは、平均一次粒子径に対する平均結晶子径が90%以上である銀微粒子を99%以上、実質100%もの高い還元率で得ることすら可能となる。
【0043】
(銀微粒子の平均一次粒子径の分析方法)
本発明における銀微粒子の平均一次粒子径の分析方法は特に限定されない。一例を挙げると、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)等によって、銀微粒子の粒子径を計測し、複数個の粒子径の平均値とする方法や、粒度分布測定装置、X線小角散乱法(SAXS)等によって計測する方法を用いてもよい。
【0044】
(銀微粒子の平均結晶子径の分析方法)
本発明における銀微粒子の平均結晶子径の分析方法は特に限定されない。一例を挙げると、X線回折を用いた分析(XRD)を用いて、得られた回折ピークの半値幅と標準試料のピークより得られる半値幅からScherrerの式を用いて平均結晶子径を算出する方法や、リートベルト解析等の方法によって平均結晶子径を算出する方法等を用いてもよい。
【0045】
(還元率の分析方法)
本願発明の銀微粒子の製造方法における還元率の分析方法としては特に限定されない。銀溶液と還元剤溶液とを混合し、銀微粒子を析出させた後の液を、遠心分離した上澄み液やフィルターにて濾過した濾液について、ICP分析や蛍光X線分析、イオンクロマトグラフィーにて液中に残る銀イオンの濃度を分析することによって還元・析出していない銀イオン濃度を算出する等の方法を用いても良い。なお、本発明においては、銀微粒子を析出させた後の液中に含まれる、未還元の銀イオンのモル濃度(%)を100%から引いた値を還元率としている。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明について説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。以下、本願発明の銀溶液をリング状ディスク間における薄膜状空間において上記主流とした場合(実施例1)と、還元剤溶液を薄膜状空間において上記主流とした場合(比較例1)とについて、本願発明の錯化剤を添加しない銀溶液を薄膜状空間において上記主流とした場合(実施例2)と、錯化剤を添加した銀溶液を薄膜状空間において上記主流とした場合(比較例2)とについて、そして、本願発明の銀溶液を薄膜状空間において上記主流として処理した場合(実施例3)と、バッチにおいて処理を行った場合(比較例3)とについて、それぞれの場合の銀微粒子の製造について示し、得られた銀微粒子の平均一次粒子径(D)に対する平均結晶子径(d)の比率(d/D)並びに還元率について比較する。
【0047】
(実施例1)
表1に示す処方の銀溶液と還元剤溶液とを
図3に示される、特許文献5、6に記載された流体処理装置を用いて、対向して配設された接近・離反可能な、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する処理用面1,2間に形成される薄膜状空間において薄膜流体として混合し、上記薄膜流体中で銀微粒子を析出させた。具体的には、中央から第1流体(主流)として銀溶液を供給圧力=0.50MPaGで送液した。第1流体は、
図3の処理用部10の処理用面1と処理用部20の処理用面2との間の密封された薄膜状空間(処理用面間)に、送液した。処理用部10の回転数は運転条件として表2に示す。第1流体は処理用面1,2間において強制された薄膜流体を形成し、処理用部10,20の外周より吐出させた。第2流体として還元剤溶液を処理用面1,2間に形成された薄膜流体に直接導入する。微小間隔に調整された処理用面1,2間において銀溶液と還元剤溶液とを混合させ、銀微粒子を析出させることにより、銀微粒子を含むスラリー(銀微粒子分散液)が、処理用面1,2間より吐出液として吐出された。上記銀微粒子分散液並びに銀微粒子分散液より得られた銀微粒子の乾燥粉体を分析した。
【0048】
第1流体の調製:N2ガスをバブリングすることにより溶存酸素を1.0mg/L以下にした純水にN2ガス雰囲気下でAgNO3を溶解して調製した。
第2流体の調製:N2ガスをバブリングすることにより溶存酸素を1.0mg/L以下にした純水にN2ガス雰囲気下で還元剤としてFeSO4・7H2Oを溶解して調製した。
なお、表1から後述する表8までの表中における略記号は、AgNO3は硝酸銀(関東化学製)、FeSO4・7H2Oは硫酸鉄(II)七水和物(和光純薬製)、EDAはエチレンジアミン(関東化学製)、Agは銀である。また本発明の実施例に示した純水には、pHが5.89、導電率が0.51μS/cmの純水を用いた。調製した第1流体と第2流体とを実施例においては表2に示した条件で送液した。
【0049】
(Ag微粒子の洗浄)
吐出された銀微粒子分散液を遠心分離処理(18000G 20分間)にて銀微粒子を沈降させ、上澄み液を除去した後に、純水にて洗浄する作業を3回行い、得られたウェットケーキを25℃の大気圧にて乾燥し、銀微粒子の乾燥粉体を作製した。
【0050】
銀溶液、還元剤溶液、及び銀微粒子分散液のpHや、得られた銀微粒子分散液及び銀微粒子の乾燥粉体について下記測定・分析を行った。
【0051】
(pH測定)
pH測定には、HORIBA製の型番D-51のpHメーターを用いた。銀溶液及び還元剤溶液を流体処理装置に導入する前に、その各溶液のpHを室温にて測定した。また吐出液である銀微粒子分散液のpHを室温にて測定した。
【0052】
(走査型電子顕微鏡観察:平均一次粒子径の算出)
走査型電子顕微鏡(SEM)観察には、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM):日本電子製のJSM-7500Fを使用した。観察条件としては、観察倍率を5千倍以上とし、粒子の最外周間の距離を計測して一次粒子径とした。平均一次粒子径(D)については、SEM観察にて確認された銀微粒子100個の一次粒子径を単純平均した値を採用した。
【0053】
(X線回折測定:平均結晶子径の算出)
平均結晶子径を算出するためのX線回折(XRD)測定には、粉末X線回折測定装置 X‘Pert PRO MPD(XRD スペクトリス PANalytical事業部製)を使用した。測定条件は、Cu対陰極、管電圧45kV、管電流40mA、0.016step/10sec、測定範囲は10から100[°2Theta](Cu)である。得られた銀微粒子の平均結晶子径をXRD測定結果より算出した。標準試料であるシリコン多結晶盤のXRD測定結果より、47.3°に確認されるピークを使用し、得られた銀微粒子の回折パターンにおける38.1°付近のピークにScherrerの式を当てはめた。上記平均一次粒子径(D)と平均結晶子径(d)より、以下式(4)にて平均一次粒子径(D)に対する平均結晶子径(d)の比率(d/D)を算出した。
(d/D)=d ÷ D ×100 [%] (4)
【0054】
(ICP分析:未還元元素検出)
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)による、吐出された銀微粒子分散液中に含まれる元素の定量には、島津製作所製のICPS-8100を用いた。また、超遠心分離処理には卓上型超遠心機 MAX-XP(ベックマンコールター製)を使用した。吐出された銀微粒子分散液から得られた上澄み液(上記Ag微粒子の洗浄において、遠心分離処理(18000G 20分間)にて得られた上澄み液)を超遠心分離処理(1000000G 20分間)にて固体成分を沈降させ得られた上澄みを測定することにより、上澄みにおいて未還元である銀イオンのモル濃度(Agモル濃度)、並びに吐出液中に含まれる全ての銀及び銀イオンのモル濃度(全Agモル濃度)を測定し、全Agモル濃度に対するAgモル濃度を未還元の銀[%]とし、100%より未還元の銀[%]を引いた値を還元率とした。銀の原子量は107.9、硝酸銀の式量は169.87の値を用いた。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
実施例1で作製した銀微粒子のSEM写真を
図4に、XRD測定より得られた回折パターンを
図5に示す。表3に見られるように、実施例1~3の処方条件並びに送液条件においては、還元率が99%以上であり、得られた銀微粒子の平均一次粒子径(D)に対する平均結晶子径(d)の比率(d/D)が80%以上であり、さらには、90%以上という一段と高い結晶性をも実現できていることがわかる。
【0059】
(比較例1)
比較例1は表5に示すとおり、吐出液中の銀イオン濃度並びに還元剤濃度が実施例1と等しくなるように、上記第1流体と第2流体を入れ替えた例である。表4に示す処方の還元剤溶液と銀溶液とを、実施例1と同様に
図3に示す流体処理装置を用い表5に示す処理条件にて混合した以外は実施例1と同じ方法にて銀微粒子を得た。結果を表6に示す。なお、第1流体の供給圧力は、上述の通りである。また、ここで述べる入れ替えとは、単に主流となる銀溶液と主流とは別の還元剤溶液とを、そのまま入れ替えるといったものではなく、入れ替えの前後において吐出液中の銀イオン濃度並びに還元剤濃度が等しくなるよう、原料の濃度並びに処理流量を変更した上で、上記主流となる溶液を入れ替えることを言う。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
比較例1で作製した銀微粒子のSEM写真を
図6に、XRD測定より得られた回折パターンを
図7に示す。表6に見られるように比較例1で得られた銀微粒子は、上記d/Dが80%未満となり、還元率も99%未満となった。実施例1と比較例1とによって、吐出液中に含まれる銀原料濃度並びに還元剤濃度が等しくなるよう還元剤溶液と銀溶液の上記主流となる溶液を入れ替える例を示したが、銀溶液を上記主流とすることで析出させた銀微粒子の平均一次粒子径並びに平均結晶子径を制御し、前述の平均一次粒子径(D)に対する平均結晶子径(d)の比率(d/D)が80%以上となる銀微粒子の作製が可能であることが分かった。
【0064】
(実施例2)
表1に示す処方の還元剤溶液と銀溶液とを、表2に示す処理条件にて混合した以外は実施例1と同様に
図3に示す流体処理装置を用い、実施例1と同じ方法にて銀微粒子を得た。結果を表3に示す。
【0065】
表3より、実施例2の条件においても上記d/Dが80%以上である銀微粒子を還元率が99%以上の条件として作製可能であることを確認できた。
【0066】
(比較例2)
比較例2は実施例2における第1流体中の銀イオン濃度及び第2流体中の還元剤濃度を変更せず第1流体に銀に対する錯化剤としてエチレンジアミンを添加した以外は、実施例1と同じ方法で銀微粒子を得た例である。
【0067】
表6より、比較例2のようにエチレンジアミンのような錯化剤を含むことによって還元率が99%未満となり、d/Dが80%未満となることが分かった。
【0068】
(実施例3)
表1に示す処方の銀溶液と還元剤溶液とを、実施例1と同様に
図3に示す流体処理装置を用い表
2に示す処理条件にて混合した以外は実施例1と同じ方法にて銀微粒子を得た。
【0069】
表3より、実施例3の条件においても上記d/Dが80%以上である銀微粒子を還元率が99%以上の条件として作製可能であることを確認できた。
【0070】
(比較例3)
比較例3は、実施例3における第1流体と第2流体とを、実施例3と同比率にてバッチ操作にて混合した以外は、実施例1と同じ方法にて銀微粒子を得た。表4に示す実施例3と同処方の銀溶液と還元剤溶液とを、実施例3と同じ比率となるように調製したビーカー中の銀溶液60mLに対して、マグネティックスターラーで撹拌しながら還元剤溶液10mLを投入混合し、銀微粒子を析出させた。その後、この銀微粒子分散液並びに銀微粒子分散液より得られた銀微粒子の乾燥粉体を分析した。結果を表6に示す。
【0071】
表3に示す通り、実施例3では、銀微粒子の平均一次粒子径並びに平均結晶子径を制御し、前述の平均一次粒子径(D)に対する平均結晶子径(d)の比率(d/D)が80%以上となる銀微粒子が作製できた。それに対して、表6に示す様に同じ処方の溶液をバッチ操作において混合し、銀微粒子を析出させた比較例3においては、上記d/Dが80%未満となった。
【0072】
(実施例4~6、比較例4~6)
実施例4~6及び比較例4~6においては、実施例1及び比較例1における銀溶液、還元剤溶液の送液温度、並びに送液流量を変更して銀微粒子を作製した以外は、実施例1と同じ方法にて銀微粒子を得た。実施例4~6における処方条件を表7に、送液条件を表8に、得られた銀微粒子の分析結果を表9に示す。また比較例4~6における処方条件を表10に、送液条件を表11に、また得られた銀微粒子の分析結果を表12に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
表9に見られるように、実施例4~6の処方条件並びに送液条件においては、還元率が99%以上であり、得られた銀微粒子の平均一次粒子径(D)に対する平均結晶子径(d)の比率(d/D)が80%以上であり、さらには、90%以上という一段と高い結晶性をも実現できていることがわかる。
【0077】
(比較例4~6)
比較例4は表10に示す通り、吐出液中の銀イオン濃度並びに還元剤濃度が実施例4と等しくなるように、上記第1流体と第2流体を入れ替えた例である。表10に示す処方の還元剤溶液と銀溶液とを、実施例4と同様に
図3に示す流体処理装置を用い表11に示す処理条件にて混合した以外は、実施例と同じ方法にて銀微粒子を得た。結果を表12に示す。なお、実施例1並びに比較例1と同様に、リング状ディスク間の薄膜状空間における主流となる銀溶液と、主流とは別の還元剤溶液とを、そのまま入れ替えるといったものではなく、入れ替えの前後において吐出液中の銀イオン濃度並びに還元剤濃度が等しくなるよう、濃度並びに処理流量を変更した上で上記主流となる溶液を入れ替えた。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
表12に見られるように比較例4~6で得られた銀微粒子は、上記d/Dが80%未満となり、還元率も99%未満となった。実施例4~6及び比較例4~6の結果から、上記銀溶液を主流とすることによって、作製した銀微粒子の平均一次粒子径(D)に対する平均結晶子径(d)の比率(d/D)が80%以上となることが分かった。
【0082】
以上より、本発明によって、平均一次粒子径に対する平均結晶子径が80%以上の銀微粒子を、還元率を99%以上として連続的に製造できることが分かった。このような本発明に係る製造方法で作製した高結晶性の銀微粒子を用いて銀ペーストを製造し、その銀ペーストを用いて導体膜を形成した場合、その導体膜は、耐熱収縮性に優れ、かつ、導体膜の表面粗さが滑らかなものとなる。このように、本発明は導電性ペーストを用いて形成する導体の品質向上並びに銀ペーストそのものの作製において効率化に大きく寄与するものである。
【符号の説明】
【0083】
1 第1処理用面
2 第2処理用面
10 第1処理用部
11 第1ホルダ
20 第2処理用部
21 第2ホルダ
d1 第1導入部
d2 第2導入部
d20 開口部