(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】水硬性固化材液、水硬性固化材液の調製方法、及び、置換柱体の築造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20220120BHJP
E02D 5/34 20060101ALI20220120BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20220120BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20220120BHJP
C09K 17/10 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
C04B28/04
E02D5/34 Z
C04B22/10
C09K17/02 P
C09K17/10 P
(21)【出願番号】P 2019229318
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2019-12-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日 2019年5月20日 ウェブサイトのアドレス https://pdf.gakkai-web.net/gakkai/aij/session19/pdf/20000.pdf 公開者 持田泰秀、伊原大貴、松本洋、角田和明 〔刊行物等〕 発行日 2019年7月20日 刊行物 2019年度大会(北陸)学術講演梗概集・建築デザイン発表 梗概集 DVD版,第635-636頁,日本建築学会 公開者 持田泰秀、伊原大貴、松本洋、角田和明 〔刊行物等〕 発行日 2019年7月20日 刊行物 2019年度大会(北陸)学術講演梗概集・建築デザイン発表 梗概集 冊子版,第635-636頁,日本建築学会 公開者 持田泰秀、伊原大貴、松本洋、角田和明 〔刊行物等〕 ウェブサイトの掲載日 2019年9月3日~9月6日 ウェブサイトのアドレス https://www.aij.or.jp/hokuriku2019dvd.html 公開者 持田泰秀、伊原大貴、松本洋、角田和明 〔刊行物等〕 公開日 2019年9月6日(開催期間2019年9月3日~6日) 集会名、開催場所 2019年度日本建築学会大会(北陸)、金沢工業大学 扇が丘キャンパス(石川県野々市市扇が丘7-1) 公開者 伊原大貴
(73)【特許権者】
【識別番号】519335440
【氏名又は名称】株式会社サン・エンジニア
(74)【代理人】
【識別番号】100210295
【氏名又は名称】宮田 誠心
(74)【代理人】
【識別番号】100088133
【氏名又は名称】宮田 正道
(72)【発明者】
【氏名】松本 洋
(72)【発明者】
【氏名】持田 泰秀
(72)【発明者】
【氏名】角田 和明
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-056650(JP,A)
【文献】特開2016-124737(JP,A)
【文献】特開2007-314724(JP,A)
【文献】特開2014-111893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
C09K 17/00-17/52
E02D 5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に充填され固化後に置換柱体となる水硬性固化材液において、
水、固化材、骨材、及び、
重曹を混合撹拌して調製され、固化する過程において、
重曹がブリーディング抑制剤としての役割を果たし、
重曹と固化材との重量比1%から4%であり、水と固化材との重量比が60%超100%以下であることを特徴とする水硬性固化材液。
【請求項2】
水硬性固化材液が固化する際のブリーディング安定時間が1時間以内であることを特徴とする請求項1に記載の水硬性固化材液。
【請求項3】
ファンネル粘土計で測定した粘性度が50sec未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の水硬性固化材液。
【請求項4】
水とブリーディング抑制剤としての役割を果たす
重曹とを混合する混合工程と、
混合工程で混合された水と
重曹とに、固化材と骨材とを投入し、さらに撹拌混合する撹拌混合工程とを有する水硬性固化材液の調製方法において、
重曹と固化材との重量比1%から4%であり、水と固化材との重量比が60%超100%以下であることを特徴とする水硬性固化材液の調製方法。
【請求項5】
水、固化材、骨材及びブリーディング抑制剤としての役割を果たす
重曹を混合撹拌して、
重曹と固化材との重量比1%から4%であり、水と固化材との重量比が60%超100%以下である水硬性固化材液を調製する調製工程と、
置換柱体を設置する位置に掘削孔を形成する掘削工程と、
水硬性固化材液を掘削孔に充填する充填工程とを含むことを特徴とする置換柱体の築造方法。
【請求項6】
掘削工程において、掘削ロッドの先端を所定深度まで到達させた後、
充填工程において、掘削ロッドの先端から水硬性固化材液を吐出させながら、掘削ロッドを引き抜くことを特徴とする請求項5に記載の置換柱体の築造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、戸建て住宅、低層建築物又は土間スラブ等の比較的軽い構造物の基礎に用いられる水硬性固化材液、水硬性固化材液の調製方法、及び、置換柱体の築造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軟弱地盤における戸建て住宅、低層建築物又は土間スラブ等の比較的軽い構造物の基礎について、様々開発がなされてきた。
【0003】
比較的軽い構造物の基礎の一例として、特許文献1に示すような、水硬性固化剤液置換コラムを地中に築造する方法がある。水硬性固化材液とは、水と水和反応して固化するポルトランドセメントのように自硬性を有する粉体と水を主要構成要素として、例えば、セメントスラリー(水硬性固化材液)や、砂等からなる細骨材を含むモルタル、さらに、砂利や砕石等の粗骨材をも含む(セメント)コンクリート等からなり、かつポンプ圧送可能な流動体をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
粘性が高い水硬性固化材液を調製及び圧送する場合には粘性に応じた出力のミキサー及びポンプが必要となる。
【0006】
例えば、水と固化材との重量比が60%以上の粘性が低い水硬性固化材液であれば、出力が低いミキサー及びポンプで調製及び圧送可能となるが、水硬性固化材液が固化する際のブリーディング量が大きくなるという問題があった。
【0007】
ブリーディング量が大きくなると、出来形不足となる可能性があるので、水硬性固化材液を継ぎ足す必要がある。水硬性固化材液を継ぎ足して、さらにその継ぎ足した水硬性固化材液が固化する際のブリーディング量も確認しなければならない。そのため、施工効率が悪化することとなる。
【0008】
そこで、上記点より本発明は、固化する際のブリーディングを抑制することができる水硬性固化材液、水硬性固化材液の調製方法、及び、置換柱体の築造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の水硬性固化材液は、地中に充填され固化後に置換柱体となる水硬性固化材液において、水、固化材、骨材、及び、重曹を混合撹拌して調製され、固化する過程において、重曹がブリーディング抑制剤としての役割を果たし、重曹と固化材との重量比1%から4%であり、水と固化材との重量比が60%超100%以下である。
【0010】
請求項1の水硬性固化材液によれば、重曹によって、固化する際のブリーディングを抑制できる。ベントナイト等のブリーディング抑制剤と比較して、重曹は少量で充分なブリーディング抑制効果が得られる。ブリーディング抑制剤である重曹の量が少なくて済むので、水硬性固化材液の調製時間を短縮できる。さらにベントナイト等のブリーディング抑制剤と比較して、重曹をブリーディング抑制剤として使用すると、水硬性固化材液が固化する際のブリーディング安定時間を短縮することができる。
【0011】
重曹は、入手容易かつ比較的安価であることに加えて環境負荷も非常に小さい。さらに、重曹は増粘性を有しているため、その配合量を増減させることによって、水硬性固化材液の粘性を容易に調節することができる。
【0012】
水とセメントとの重量比が60%超100%以下であることによって、出力が低いミキサー及びポンプで調製及び圧送可能でありながら、重曹とセメントとの重量比1%から4%であることによって、水硬性固化材液のブリーディングを抑制しつつ、水硬性固化材液が固化したソイルセメントの圧縮強度の減少も抑制することができる。
【0013】
請求項2の水硬性固化材液は、請求項1の水硬性固化材液において、水硬性固化材液が固化する際のブリーディング安定時間が1時間以内である。
【0014】
請求項3の水硬性固化材液は、請求項1又は2の水硬性固化材液において、ファンネル粘土計で測定した粘性度が50sec未満である。
【0015】
請求項4の水硬性固化材液の調製方法は、水とブリーディング抑制剤としての役割を果たす重曹とを混合する混合工程と、混合工程で混合された水と重曹とに、固化材と骨材とを投入し、さらに撹拌混合する撹拌混合工程とを有する水硬性固化材液の調製方法において、重曹と固化材との重量比1%から4%であり、水と固化材との重量比が60%超100%以下である。
【0016】
請求項4の水硬性固化材液の調製方法によれば、混合工程と撹拌混合工程とを分けることによって、ブリーディング抑制効果が低減することなく、水硬性固化材液を調製することができる。
【0017】
請求項5の置換柱体の築造方法は、水、固化材、骨材及びブリーディング抑制剤としての役割を果たす重曹を混合撹拌して、重曹と固化材との重量比1%から4%であり、水と固化材との重量比が60%超100%以下である水硬性固化材液を調製する調製工程と、置換柱体を設置する位置に掘削孔を形成する掘削工程と、水硬性固化材液を掘削孔に充填する充填工程とを含む。
【0018】
請求項5の置換柱体の築造方法によれば、掘削工程で掘削孔を形成することによって、不要な掘削残土が発生しないようにすることができる。また、掘削工程で掘削孔を形成することによって、水硬性固化材液と現場土砂とを混ぜる必要がなく、六価クロムの溶出を抑制できる。
【0019】
請求項6の置換柱体の築造方法は、請求項5の置換柱体の築造方法において、掘削工程において、掘削ロッドの先端を所定深度まで到達させた後、充填工程において、掘削ロッドの先端から水硬性固化材液を吐出させながら、掘削ロッドを引き抜く。
【0020】
請求項6の置換柱体の築造方法によれば、請求項5の置換柱体の築造方法と同様に作用する上に、掘削ロッドの圧入と引上げと一往復で、水硬性固化材液を地中の所定の位置に充填させることができる。
【発明の効果】
【0021】
請求項1から3の水硬性固化材液、請求項4の水硬性固化材液の調製方法、又は、請求項5若しくは6の置換柱体の築造方法では、固化する際のブリーディングを抑制することができ、施工効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態の水硬性固化材液について説明する。
【0024】
水硬性固化材液は、地中に充填され固化後に置換柱体となる。
【0025】
水硬性固化材液の調製方法の一例は、次の通りである。水と重曹とを混合する。次いで、混合された水と重曹とに、固化剤と骨材を投入し、さらに撹拌混合する。
【0026】
重曹は、水硬性固化材液が固化する過程においてブリーディング抑制剤としての役割を果たす。
【0027】
固化材は、ポルトランドセメント・高炉セメント・セメント系固化材のいずれかを主成分とする。
【0028】
骨材は、例えば、再生土を利用可能であるが、そのほか、コンクリートの骨材として使用できるものであれば適宜選択して利用可能である。
【0029】
重曹によるブリーディング抑制について、以下に説明する。水硬性固化材液において、固化剤に含まれる3CaO・SiO2と水との化学反応は以下の通りである。
【0030】
【0031】
化学式1中の2CaO・SiO2・1.17H2Oは、C-S-Hゲルの水和物である。
【0032】
また、水硬性固化材液において、重曹と水による加水分解反応が起こる。
【0033】
【0034】
化学式2の加水分解反応によって生じたナトリウムイオンによって、化学式1での2CaO・SiO2・1.17H2OのC-S-Hゲルの生成が促進されるようになっている。C-S-Hゲルは、吸水率が高いので、ブリーディングを引き起こす原因となる水の発生を抑制することができる。
【0035】
なお、化学式2の反応のイオン化では発熱する。この発熱によって、化学式1でのC-S-Hゲルの生成がさらに促進され、よりブリーディングを引き起こす原因となる水の発生を抑制することができる。
【0036】
1.1 固化試験
本発明の水硬性固化材液が十分なブリーディング抑制効果を有していることを確認する目的の実験を実施した。
【0037】
1.2 試料
使用材料は、水、固化剤である早強ポルトランドセメント骨材、及び、ブリーディング抑制剤である。ブリーディング抑制剤は、炭酸塩である炭酸水素ナトリウム、炭酸水素塩である炭酸マグネシウム、比較のため以前からブリーディング抑制剤として使用されているベントナイトを用意した。水硬性固化材液の配合は表1に示す。
【0038】
【0039】
1.3 試験結果(1)
試験結果として、最終ブリーディング率とその最終ブリーディング率の90%に到達するまでの時間を表2に示す。
【0040】
【0041】
ブリーディング低減材を添加していないブレーンのブリーディング率は、水と固化材との重量比が大きくなるにしたがって、最終ブリーディング率は大きくなっている。最終ブリーディング率が大きくなると、施工後に無視できないほどの置換柱体の頭部面の沈下が生じる。そのため、水硬性固化材液の追加補充が必要となり、無駄な時間及びコストがかかる。
【0042】
ブリーディング抑制剤として重曹を使用した場合でも、水と固化材との重量比が大きくなるにしたがって、最終ブリーディング率は大きくなっている。しかし、プレーンと比較すると最終ブリーディング率は大幅に低下している。さらに、重曹は、ベントナイトと比較すると、10分の1の配合量で充分なブリーディング低減効果を発揮するとともに、最終ブリーディング率も低くなっている。
【0043】
ブリーディング抑制剤として炭酸マグネシウムを使用した場合でも、同様に、水と固化材との重量比が大きくなるにしたがって、最終ブリーディング率は大きくなっている。しかし、プレーンと比較すると最終ブリーディング率は大幅に低下している。炭酸マグネシウムも、ベントナイトと比較すると、10分の1の配合量で充分なブリーディング低減効果を発揮し、配合量が少ないにも関わらず、ほぼベントナイトと同等の最終ブリーディング率となっている。
【0044】
ブリーディング抑制剤としてベントナイトを使用した場合でも同様に、水と固化材との重量比が大きくなるにしたがって、最終ブリーディング率は大きくなっている。しかし、プレーンと比較すると最終ブリーディング率は大幅に低下している。
【0045】
図2においては、重曹1については、突出して最終ブリーディング率の90%に到達するまでの時間が長くなっているが、粘性が高かったため、試料のエア抜きが十分に行えなかった影響が出ていると考えられる。
【0046】
重曹の試料は、プレーンの試料と比較すると、最終ブリーディング率の90%に到達するまでの時間が大幅に短縮されている。
【0047】
炭酸マグネシウムの試料は、プレーンの試料と比較すると、最終ブリーディング率の90%に到達するまでの時間が大幅に短縮されている。
【0048】
最終ブリーディング率の90%に到達するまでの時間については、おおむね、重曹の試料及び炭酸マグネシウムの試料は、10分の1の配合量であるにも関わらず、ベントナイトの試料と遜色がないか、より優れた結果となっている。
【0049】
1.3 試験結果(2)
試験結果として、プレーン、重曹、炭酸マグネシウムの試料をファンネル粘度計で測定した粘性度を表3に示す。
【0050】
【0051】
粘性度の数値が大きくなればなるほど、水硬性固化材液の粘性が高い。水硬性固化材液の粘性が高くなればなるほどと、掘削後の孔壁崩壊を抑制できる。
【0052】
プレーンの試料と比較して、重曹及び炭酸マグネシウムの試料は粘性が高い。したがって、プレーンの試料と比べて、重曹及び炭酸マグネシウムの試料で置換柱体を築造すれば、置換柱体の中に土塊の混入少なく、安定した品質となる。
【0053】
以下、置換柱体の築造方法について説明する。
置換柱体の築造方法は、水、固化材、骨材及びブリーディング抑制剤としての役割を果たす重曹を混合撹拌して水硬性固化材液を調製する調製工程と、置換柱体を設置する位置に掘削孔を形成する掘削工程と、水硬性固化材液を掘削孔に充填する充填工程とを含むことを特徴とする。
【0054】
水硬性固化材液を調製する調製工程については、前述の通りである。
【0055】
掘削工程と充填工程について、
図1に基づいて説明する。
図1の(a)に示すように、螺旋状掘削翼と先端に水硬性固化材液の吐出口を有する掘削ロッド1の回転軸を杭心位置にセットする。次いで、
図1の(b)に示すように、掘削ロッド1を正回転させながら掘削ロッドの先端が所定の深度に達するまで掘進する。次いで、
図1の(c)~(d)に示すように、掘削ロッド1の先端の吐出口から前述の水硬性固化材液2を吐出させながら掘削ロッドを引き抜く。これにより、水硬性固化材液2が地中に充填された状態となる。この水硬性固化材液が固化することによって、置換柱体3の築造されることとなる。
【符号の説明】
【0056】
1 掘削ロッド
2 水硬性固化材液
3 置換柱体