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特許7011861そば生地、冷凍そば生地、および、そば生地の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】そば生地、冷凍そば生地、および、そば生地の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20220120BHJP
【FI】
A23L7/109 F
A23L7/109 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020186980
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2021-09-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513300303
【氏名又は名称】株式会社アプレシア
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】木田 武史
(72)【発明者】
【氏名】衣笠 幸治
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-173066(JP,A)
【文献】特開2005-269981(JP,A)
【文献】特開2019-118269(JP,A)
【文献】特開2014-171446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
そば粉と水とを含有するそば生地の製造方法であって、上記そば粉のα化度が15.5~45%であり、上記水の配合量が、そば粉100質量部に対して45~70質量部であり、そば粉と水とを機械を用いて真空混練する工程を備えることを特徴とするそば生地の製造方法
【請求項2】
上記そば生地が、麺帯であることを特徴とする請求項1記載のそば生地の製造方法
【請求項3】
請求項1または2記載のそば生地を冷凍してなる冷凍そば生地の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そば生地に関するものであり、詳しくは機械を用いた場合においても、そば本来の風味や食感を有するそば生地、冷凍そば生地、および、そば生地の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、外食店等の一部では、製麺所等で機械を用いて製造されたそばを仕入れ、これを茹でて提供している。しかし、このようなそばは、一般的に小麦粉等のつなぎ材料が多く使われており、そば本来の風味や食感に乏しいものである。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1では、α化度50~100のα化そば粉と、生そば粉を5:95~100:0の割合に配合し、定法によりミキシングして麺生地とし、これを減圧条件下で麺帯とする十割そばの製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-23870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示された技術は、つなぎ材料を使わないものであるが、加水率が35%と低いため、風味や食感の点で改善の余地がある。
一般的に、加水率が高いほど、おいしいそばとされており、通常、機械を用いない手打ちのそばで加水率45~60%程度、機械で製造したもので加水率40%程度である。
そば生地を製造するにあたり、加水率は非常に重要な要素であり、わずか数%の差によって、食感が大きく劣ったり、そば生地を混練してもまとまらない等の不具合が生じることがある。なお、上記加水率とは、そば粉100質量部に対する水の配合割合であり、例えば、加水率40%とは、そば粉100質量部に対して水40質量部用いることを意味する。
本発明は、機械で製造した場合あっても、そば本来の風味や食感を有するそば生地の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
しかるに、本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定のα化度を有するそば粉を用いることにより、機械で製造する場合であっても高加水率で、風味や食感に優れたそば生地が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、そば粉と水とを含有するそば生地であって、上記そば粉のα化度が15.5~45%であり、上記水の配合量が、そば粉100質量部に対して45~70質量部であるそば生地を第1の要旨とする。
【0008】
さらに、本発明は、上記第1の要旨のそば生地を冷凍してなる冷凍そば生地を第2の要旨とし、上記第1の要旨のそば生地および第2の要旨の冷凍そば生地の製造方法を第3の要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、そば粉と水とを含有するそば生地であって、上記そば粉のα化度が15.5~45%であり、上記水の配合量が、そば粉100質量部に対して45~70質量部であるそば生地である。そのため、このそば生地から得られるそばは、そば本来の風味と食感を有するそばとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
【0011】
<そば生地>
本発明のそば生地は、特定のα化度を有するそば粉を原料とし、これと特定量の水とを混練して得られるものである。
【0012】
本発明で用いるそば粉のα化度は、15.5~45%であり、好ましくは16~40%、より好ましくは17~37%、さらに好ましくは18~33%、特に好ましくは19~30%、殊に好ましくは20~27%である。そば粉のα化度を上記範囲とすることにより、加水率を多くすることができ、そばとした際に、そば本来の風味と食感を有するそばとすることができる。なお、上記α化度は、ジアスターゼを用いた三雲法により測定される値である。
【0013】
このような特定のα化度を有するそば粉を得るには、特定のα化度となるようにそば粉とα化そば粉とを混合すればよい。
【0014】
[そば粉]
本発明で用いるそば粉としては、特に制限はなく、一般的に流通しているそば粉、例えば、一番粉、二番粉、三番粉、未紛、挽きぐるみ等を用いることができる。なかでも、風味の点で挽きぐるみを用いることが好ましい。
【0015】
また、そば粉の製粉方法も特に制限はなく、例えば、石臼挽き、ロール挽き、胴挽き等の製粉方法が挙げられる。なかでも、石臼挽きが好ましい。
【0016】
上記そば粉の平均粒子径は、通常、60~300μmであり、好ましくは80~200μmであり、特に好ましくは100~160μmである。上記の平均粒子径は、公知のレーザー回折散乱法を利用した粒度分布測定等により測定することができる。
【0017】
[α化そば粉]
本発明においては、そば粉のα化度を特定の範囲とするために、α化そば粉を含有させる。上記α化そば粉とは、そば粉を、例えば、エクストルーダー等により加熱処理を行い糊化(α化)させた後、粉砕したものである。また、上記α化そば粉としては、特に制限はなく、一般的に流通しているα化そば粉を使用することができる。
【0018】
上記α化そば粉としては、α化度が、50%以上のものが好ましく、より好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である。上限は通常100%である。α化そば粉のα化度が上記数値未満であると、特定のα化度を有するそば粉を調整する際に、α化そば粉を多く用いる必要があり、風味が低下する傾向がある。なお、上記α化度は、ジアスターゼを用いた三雲法により測定される値である。
【0019】
上記α化そば粉の平均粒子径は、通常、60~300μmであり、好ましくは80~200μmであり、特に好ましくは100~160μmである。上記の平均粒子径は、公知のレーザー回折散乱法を利用した粒度分布測定等により測定することができる。
上記α化そば粉と前記そば粉の平均粒子径は、同定度のものを用いることが食感の点から好ましい。
【0020】
そば粉におけるα化そば粉の含有量は、通常1~45質量%であり、好ましくは2~35質量%、より好ましくは4~25質量%、特に好ましくは5~15質量%である。α化そば粉の含有量を上記範囲とすることにより、加水率を多くすることができ、そばとした際に、そば本来の風味と食感を有するそばとすることができる傾向がある。
【0021】
上記α化そば粉には、α化そば粉以外にもα化されていないそば粉等が混ざっている。そのため、本発明においては、α化そば粉を用いて、そば粉のα化度が前述の範囲となるように調整すればよい。
【0022】
本発明においては、上記特定のα化度を有するそば粉を原料としてそば生地を製造するのであるが、上記そば粉以外に原料として、例えば、小麦粉、卵、山芋等のつなぎ材料、pH調整剤、日持ち向上剤、抗菌剤等の食品添加物を配合してもよい。
上記つなぎ材料を用いる場合は、そば粉100質量部に対して30質量部以下であることが好ましい。なかでも、本発明においては、原料としてつなぎ材料を用いないことが好ましく、そば粉と水のみからなることが特に好ましい。
【0023】
〔水〕
本発明で用いる水としては、特に制限はなく、通常、そば生地を製造する際に使用する水を用いることができる。
【0024】
上記水の配合量は、そば粉の種類や季節等により異なるが、そば粉100質量部に対して45~70質量部であり、好ましくは50~65質量部である。水の配合量を上記範囲とすることにより、機械で製造するにも関わらず、そばとした際に、そば本来の風味を保ちつつ、手打ちそばに近い食感とすることができる。
【0025】
〔そば生地の製造方法〕
本発明のそば生地は、上記特定のα化度を有するそば粉と特定量の水とを混練することにより得られるものである。そして、本発明においては、上記混練において、そば粉と水とを真空混練する工程を備えることが好ましい。
【0026】
上記混練は、一段回で混練を行ってもよく、二段階以上の多段で混練を行ってもよい。
以下、本発明の好ましい製造方法の一例について説明する。
【0027】
まず、上記そば粉を含む原料に水を加える。上記水は、全量を一度に原料に加えてもよく、何回かに分けて原料に加えてもよい。なかでも全量を一度に原料に加えることが好ましい。
【0028】
次に、水を加えた原料を常圧下で機械を用いて混練を行う。
上記混練を行う機械としては、特に限定されず、一般的なミキサーを用いることができる。また、混練方式としても、特に限定されず、例えば、1軸ミキサー、2軸ミキサー、ニーダーミキサー等を用いることができる。
【0029】
その後、上記常圧下で混練した原料を、機械を用いて真空混練を行う。
本発明においては、真空混練することにより、そば生地の水和を促進することができ、上記の水の配合量であっても問題のないそば生地とすることができる。
【0030】
上記真空混練を行う機械としては、特に限定されず、一般的な真空ミキサーを用いることができる。また、混練方式としても、特に限定されず、例えば、1軸ミキサー、2軸ミキサー、ニーダミキサー等を用いることができる。
上記真空条件としては、真空度(ゲージ圧)-500~-760mmHg、好ましくは-600~-760mmHgである。
【0031】
また、上記真空混練後のそば生地の状態により、必要に応じて、さらに練り込みを行ってもよい。
【0032】
そば生地を製造する際は、そば生地の温度が25±3℃になるように調整することが、好ましい。なお、上記そば生地の温度は、用いる原料、水の温度、室温等により調整することができる。
【0033】
上記の製造例では、水を加えた原料を常圧下で混練した後、真空混練する製造方法について説明したが、この製造例に限定されるものではなく、例えば、水を加えたそば粉を前記の真空条件下で、一段回で真空混練してもよいし、真空混練を行わず、常圧下で全ての混練を行ってもよい。
【0034】
このようにして本発明のそば生地を得ることができる。
本発明のそば生地は、特定のα化度を有するそば粉を使い、水の加水率が比較的高いため、機械で製造するにも関わらず、そばとした際にそば本来の風味を保ちつつ、手打ちそばに近い食感とすることができる。
【0035】
また、上記そば生地は、圧延機等により所定の大きさの麺帯とすることが好ましい。
【0036】
上記麺帯の大きさとしては、幅100~300mm、好ましくは100~150mm、長さ200~700mm、好ましくは250~500mm、厚み3~20mm、好ましくは5~15mmである。
【0037】
さらに、所定の大きさとした麺帯(そば生地)は、冷凍させて冷凍そば生地とすることが、風味の劣化を抑制する点から特に好ましい。
【0038】
上記冷凍方法としては、緩慢冷凍、急速冷凍等の冷凍方法を用いることができる。また、冷凍時間は、そば生地が凍結できれば特に制限はないが、例えば、緩慢冷凍であれば3~6時間、急速冷凍であれば1~4時間である。
【0039】
上記所定の大きさとしたそば生地や冷凍そば生地を各店舗に出荷し、各店舗において、上記そば生地の場合はそのまま、冷凍そば生地の場合は自然解凍等した後、そばとして切出したのち、茹でることにより、そば本来の風味を保ちつつ、手打ちそばに近い食感を有するそばを客に提供することができる。
【実施例
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中「部」とあるのは、特に断りのない限り質量基準を意味する。
【0041】
<実施例1>
国産石臼挽きそば粉(α化度15%、平均粒子径117μm)90部と、市販のα化そば粉(α化度83%、平均粒子径130μm)10部とを混合し、α化度22%のそば粉を調整した。また、水62部を用意し、水をそば粉に全量加えた後、真空ピンミキサー(スズキ麺工社製、2kg用真空1軸ミキサー)を用いて、まず、常圧下、100rpm、1.5分間の混練条件で混練を行った。その後、真空ピンミキサーの真空度を-700mmHgとし、100rpm、3分間の混練条件で真空混練を行った。真空混練後の生地を、幅120mm×長さ370mm×厚さ10mmの大きさに成形し、-40℃で4時間急速冷凍を行い、そば生地を得た。
【0042】
<実施例2>
国産石臼挽きそば粉(α化度15%、平均粒子径117μm)90部と、市販のα化そば粉(α化度83%、平均粒子径130μm)10部とを混合し、α化度22%のそば粉を調整した。また、水62部を用意し、水をそば粉に全量加えた後、真空ピンミキサー(スズキ麺工社製、2kg用真空1軸ミキサー)を用いて、常圧下、100rpm、4.5分間の混練条件で混練を行った。混練後の生地を、幅120mm×長さ370mm×厚さ10mmの大きさに成形し、-40℃で4時間急速冷凍を行い、そば生地を得た。
【0043】
<比較例1>
実施例1において、国産石臼挽きそば粉50部と、市販のα化そば粉50部とを混合し、α化度49%のそば粉を調整した。このそば粉と、水35部とを用意した以外は、同様にして、混練を行ったが、そば粉がまとまらずそば生地を得ることができなかった。
【0044】
<比較例2>
実施例1において、市販のα化そば粉を用いず、国産石臼挽きそば粉100部とした以外は、同様にして、そば生地を得た。
【0045】
<比較例3>
実施例2において、市販のα化そば粉を用いず、国産石臼挽きそば粉100部とした以外は、同様にして、そば生地を得た。
【0046】
上記で得られた実施例、比較例のそば生地を自然解凍し、圧延切出機を用いて、生そばとした。この生そばを1分間、茹でた後冷水で冷却し、そばとした。このそばについて10名のパネラーによる下記の官能評価を行った。
【0047】
〔官能評価〕
比較例2のそばを対象とした際の各実施例、比較例のそばの香り、食感、茹上の状態を1~10で判断し、10人の平均を算出した。なお、上記官能評価は、比較例2のそばを5として、数字が大きい程、優れていることを、数字が小さい程、劣っていることを意味する。結果を下記表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
上記の表から実施例1、2のそば生地は、比較例2のそば生地と比較して、香りはほぼ同等でありながら、食感に優れたものであった。特に、真空混練を行った実施例1のそば生地は、食感、茹上の状態が比較例2と比べて大きく優れるものであった。
また、そば粉のα化度および水の含有量が、本発明で規定する範囲外である比較例1は、そば生地がまとまらず製麺することができなかった。さらにα化度が本発明で規定する範囲外であるそば粉を用いた比較例2および3のそば生地は、実施例1、2のそば生地と比較して食感に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のそば生地は、機械で製造するにも関わらず、そばとした際にそば本来の風味を保ちつつ、手打ちそばに近い食感とすることができる。そのため、おいしいそばを大量に提供することができる。
【要約】
【課題】機械で製造した場合あっても、そば本来の風味や食感を有するそば生地の提供を目的とする。
【解決手段】そば粉と水とを含有するそば生地であって、上記そば粉のα化度が15.5~45%であり、上記水の配合量が、そば粉100質量部に対して45~70質量部であるそば生地とする。
【選択図】なし