(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20220120BHJP
H01G 11/24 20130101ALI20220120BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20220120BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220120BHJP
H01M 50/409 20210101ALI20220120BHJP
【FI】
H01M4/13
H01G11/24
H01G11/52
H01M10/052
H01M50/409
(21)【出願番号】P 2016187134
(22)【出願日】2016-09-26
【審査請求日】2019-03-19
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】和泉 怜志
(72)【発明者】
【氏名】荒木 貴葉
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】須原 宏光
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/126682(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13- 4/131
H01M 4/02
H01M 10/052
H01M 10/058
H01M 2/14- 2/16
H01G 11/22-11/26
H01G 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質粒子を含む活物質層(ただし、粒子状の炭酸リチウム、酸化リチウム
、水酸化リチウム
、フッ化リチウム、塩化リチウム、シュウ化リチウム、ヨウ化リチウム、窒化リチウム、硫化リチウム、リン化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、ギ酸リチウム、又は酢酸リチウムを含むものを除く)を有する電極を備え、
前記活物質層の微分細孔容積の頻度分布曲線は、0.1μm以上1μm以下の細孔径の範囲に複数のピークを有し、
前記複数のピークは、0.1μm以上0.2μm以下の細孔径の範囲にピークを有する第一ピークと、前記第一ピークよりも大きい細孔径にピークを有する第二ピークと、を含み、
前記第二ピークの微分細孔容積は、0.4mL/g以上である、蓄電素子。
【請求項2】
前記電極に対向して配置されるセパレータをさらに備え、
前記セパレータは、セパレータ基材と、無機粒子を含む無機層と、を有し、
前記無機層は、前記活物質層に接触している、請求項1に記載の蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などの蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非水電解質と、正極合材層を有する正極と、を含むリチウムイオン二次電池が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載の電池の正極合材層を水銀ポロシメータで測定したときの細孔分布曲線は、0.05μm~2μmの細孔径の範囲に、微分細孔容量のピークAと、該ピークAよりも小孔径側のピークBとを有する。細孔分布曲線は、ピークAおよびピークBの間に微分細孔容量が極小値となる極小点Cを有する。ピークAの微分細孔容量XAおよびピークBの微分細孔容量XBのうち微分細孔容量の大きい方の微分細孔容量XLと、極小点Cの微分細孔容量XCとの比(XC/XL)は、0.6以上である。
【0004】
特許文献1に記載の電池では、低温において十分な出力を長時間維持できない場合がある。そのため、低温における出力性能が向上された蓄電素子が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本実施形態は、低温における出力性能が向上された蓄電素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態の蓄電素子は、活物質粒子を含む活物質層を有する電極を備え、活物質層の微分細孔容積の頻度分布曲線は、0.1μm以上1μm以下の細孔径の範囲に複数のピークを有し、複数のピークは、0.1μm以上0.2μm以下の細孔径の範囲にピークを有する第一ピークと、前記第一ピークよりも大きい細孔径にピークを有する第二ピークと、を含み、第二ピークの微分細孔容積は、0.4mL/g以上である。斯かる構成により、低温における出力性能が向上された蓄電素子を提供できる。
【0008】
上記の蓄電素子では、電極に対向して配置されるセパレータをさらに備え、セパレータは、セパレータ基材と、無機粒子を含む無機層と、を有し、無機層は、活物質層に接触していてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態によれば、低温における出力性能が向上された蓄電素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る蓄電素子の斜視図である。
【
図4】
図4は、同実施形態に係る蓄電素子の電極体の構成を説明するための図である。
【
図5】
図5は、重ね合わされた正極、負極、及びセパレータの断面図(
図4のV-V断面)である。
【
図6】
図6は、同実施形態に係る蓄電素子を含む蓄電装置の斜視図である。
【
図7】
図7は、実施例における正極活物質層の微分細孔容積の頻度分布曲線を表すグラフである。
【
図8】
図8は、比較例における正極活物質層の微分細孔容積の頻度分布曲線を表すグラフである。
【
図9】
図9は、最も高いピークの微分細孔容積と低温での出力性能との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る蓄電素子の一実施形態について、
図1~
図5を参照しつつ説明する。蓄電素子には、一次電池、二次電池、キャパシタ等がある。本実施形態では、蓄電素子の一例として、充放電可能な二次電池について説明する。尚、本実施形態の各構成部材(各構成要素)の名称は、本実施形態におけるものであり、背景技術における各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0012】
本実施形態の蓄電素子1は、非水電解質二次電池である。より詳しくは、蓄電素子1は、リチウムイオンの移動に伴って生じる電子移動を利用したリチウムイオン二次電池である。この種の蓄電素子1は、電気エネルギーを供給する。蓄電素子1は、単一又は複数で使用される。具体的に、蓄電素子1は、要求される出力及び要求される電圧が小さいときには、単一で使用される。一方、蓄電素子1は、要求される出力及び要求される電圧の少なくとも一方が大きいときには、他の蓄電素子1と組み合わされて蓄電装置100に用いられる。前記蓄電装置100では、該蓄電装置100に用いられる蓄電素子1が電気エネルギーを供給する。
【0013】
蓄電素子1は、
図1~
図5に示すように、正極11と負極12とを含む電極体2と、電極体2を収容するケース3と、ケース3の外側に配置される外部端子7であって電極体2と導通する外部端子7と、を備える。また、蓄電素子1は、電極体2、ケース3、及び外部端子7の他に、電極体2と外部端子7とを導通させる集電体5等を有する。
【0014】
電極体2は、正極11と負極12とがセパレータ4によって互いに絶縁された状態で積層された積層体22が巻回されることによって形成される。
【0015】
正極11は、金属箔111(集電箔)と、金属箔111の表面に重ねられ且つ活物質を含む活物質層112と、を有する。本実施形態では、活物質層112は、金属箔111の両面にそれぞれ重なる。なお、正極11の厚さは、通常、80μm以上180μm以下である。
【0016】
金属箔111は帯状である。本実施形態の正極11の金属箔111は、例えば、アルミニウム箔である。正極11は、帯形状の短手方向である幅方向の一方の端縁部に、正極活物質層112の非被覆部(正極活物質層が形成されていない部位)115を有する。
【0017】
正極活物質層112は、粒子状の活物質(活物質粒子)と、粒子状の導電助剤と、バインダとを含む。正極活物質層112(1層分)の厚さは、通常、35μm以上80μm以下である。正極活物質層112(1層分)の厚さは、38μm以上60μm以下であるとよい。正極活物質層112(1層分)の目付量は、通常、7mg/cm2 以上15mg/cm2 以下である。正極活物質層112(1層分)の目付量は、9mg/cm2以上12mg/cm2以下であるとよい。正極活物質層112の密度は、通常、2.0g/cm3 以上3.0g/cm3以下である。目付量及び密度は、金属箔111の一方の面を覆うように配置された1層分におけるものである。目付量とは、活物質層に含まれる活物質、導電助剤、及びバインダを足し合わせた質量の、単位面積あたりの質量を意味する。
【0018】
正極活物質層112をプレス(圧延)する際に、金属箔111近傍に存在する活物質、及び、正極活物質層112の表面近傍に存在する活物質の二次粒子は、偏って存在しやすくなる。活物質の塗工量が少ない条件では、金属箔111近傍及び正極活物質層112の表面近傍の活物質の量が相対的に多くなるため、二次粒子間の空隙の大きさにばらつきが生じやすい。正極活物質層112の塗工量が多い条件では、プレス(圧延)時の応力が正極活物質層112の全体に均等にかかりにくくなるため、二次粒子間の空隙の大きさにばらつきが生じやすい。このようなことから、目付量は、9mg/cm2以上12mg/cm2以下であるとよい。
【0019】
正極活物質層112の微分細孔容積の分布曲線は、0.1μm以上1μm以下の範囲に複数のピークを有する。複数のピークは、0.1μm以上0.2μm以下の細孔径の範囲にピークを有する第一ピークと、第一ピークよりも大きい細孔径にピークを有する第二ピークと、を含む。第二ピークの微分細孔容積は、0.4mL/g以上である。第二ピークの微分細孔容積は、通常、0.9mL/g以下である。複数のピークがあることは、実施例に記載された方法によって判断する。なお、正極活物質層112の全細孔容積は、通常、0.2mL/g以上0.8mL/g以下である。
【0020】
微分細孔容積の分布曲線は、水銀圧入法によって求める。水銀圧入法は、水銀圧入ポロシメーターを用いて実施できる。具体的に、水銀圧入法は、日本工業規格(JIS R1655:2003)に準じて実施する。微分細孔容積の分布曲線は、水銀圧入法によって測定した結果を上記規格の“対数微分気孔体積”で表すことによって得る。
【0021】
正極活物質層112の微分細孔容積の分布曲線において、0.1μm以上1μm以下の範囲に現れる最も高いピーク(第二ピーク)の微分細孔容積は、例えば、正極活物質層122を形成するための合剤(組成物)における固形分の量を変化させることによって、調整することができる。具体的に、合剤(組成物)における固形分の量を少なくすることにより、該ピークの微分細孔容積を増やすことができる。また、活物質粒子の平均粒径D50を変えることによっても、0.1μm以上1μm以下の範囲に現れるピークの微分細孔容積を調整できる。さらに、正極活物質層122の空隙率を変えることによっても、0.1μm以上1μm以下の範囲に現れるピークの微分細孔容積を調整できる。
【0022】
正極活物質層112の微分細孔容積の分布曲線における0.1μm以上1μm以下の範囲に現れるピークを複数とするために、一次粒子径が1μm以下であり、且つ平均粒径D50が1μm以上である活物質を用いると共に、正極活物質層122の空隙率を変えることを採用することができる。
【0023】
活物質の一次粒子径は、正極を厚み方向に切断し、切断によって現れた断面を電子顕微鏡で観察することによって測定することができる。具体的には、ます、1.0Cレートで4.2Vに達するまで電池を充電した後、さらに4.2Vの定電圧で電池を3時間放電する。その後、1.0Cレートで2.0Vまで定電流放電する。続いて、2.0Vで5時間の定電圧放電を行った後、電池を乾燥雰囲気下で解体する。解体した電池から正極の一部を切り出し、当該正極を厚み方向に切断する。切断によって現れた断面において少なくとも100個の活物質粒子の一次粒子をランダムに選び、選んだ一次粒子の粒子径を測定して平均することによって、活物質の一次粒子径を測定することができる。なお、活物質粒子が真球状でない場合、最も長い径を測定する。
【0024】
正極活物質層112の空隙率は、30%以上40%以下であってもよい。正極活物質層112の空隙率は、水銀圧入法によって測定した結果を基にして算出される。空隙率は、水銀圧入法によって測定された水銀圧入量A(cm3)と、正極活物質層112のみかけ体積V(cm3)とから、p=(A/V)×100により算出される。ここで、みかけ体積V(cm3)とは、正極活物質層112を平面視したときの面積(cm2)に正極活物質層112の厚さ(cm)を乗じたものである。
【0025】
正極活物質層112の活物質粒子の平均粒径D50は、通常、3μm以上5μm以下である。平均粒径D50は、粒径頻度分布を測定することによって求められる。粒径頻度分布は、レーザ回折・散乱式の粒度分布測定装置を用いた測定によって求められる。粒径頻度分布は、粒子の体積基準によって求められる。測定条件は、実施例において詳しく説明されている。
【0026】
活物質粒子の平均粒径D50が小さすぎると、粒子間の空隙が小さくなり、電解液が正極活物質層112の内部に浸透しにくくなる。一方、平均粒径D50が大きすぎると、粒子間の空隙の大きさがばらつきやすくなる。このようなことから、活物質粒子の平均粒径D50は3μm以上5μm以下であるとよい。
【0027】
正極11の活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物である。正極11の活物質は、例えば、リチウム金属酸化物である。具体的に、正極の活物質は、例えば、LipMeOt(Meは、1又は2以上の遷移金属を表す)によって表される複合酸化物(LipCosO2、LipNiqO2、LipMnrO4、LipNiqCosMnrO2等)、又は、LipMeu(XOv)w(Meは、1又は2以上の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、Vを表す)によって表されるポリアニオン化合物(LipFeuPO4、LipMnuPO4、LipMnuSiO4、LipCouPO4F等)である。
【0028】
本実施形態では、正極11の活物質は、LipNiqMnrCosOtの化学組成で表されるリチウム金属複合酸化物(ただし、0<p≦1.3であり、q+r+s=1であり、0≦q≦1であり、0≦r≦1であり、0≦s≦1であり、1.7≦t≦2.3である)である。なお、0<q<1であり、0<r<1であり、0<s<1であってもよい。
【0029】
上記のごときLipNiqMnrCosOtの化学組成で表されるリチウム金属複合酸化物は、例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi1/6Co1/6Mn2/3O2、LiCoO2などである。このとき、リチウム金属複合酸化物は、当該化学組成で示される以外の微量元素が含まれてもよい。
【0030】
正極活物質層112に用いられるバインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレンとビニルアルコールとの共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレンブタジエンゴム(SBR)である。本実施形態のバインダは、ポリフッ化ビニリデンである。正極活物質層112は、通常、バインダを2質量%以上5質量%以下含む。
【0031】
正極活物質層112の導電助剤は、炭素を98質量%以上含む炭素質材料である。炭素質材料は、例えば、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等である。本実施形態の正極活物質層112は、導電助剤としてアセチレンブラックを有する。正極活物質層112において、活物質粒子に対する導電助剤の質量比は、通常、2質量%以上8質量%以下である。
【0032】
負極12は、金属箔121(集電箔)と、金属箔121の上に形成された負極活物質層122と、を有する。本実施形態では、負極活物質層122は、金属箔121の両面にそれぞれ重ねられる。金属箔121は帯状である。本実施形態の負極の金属箔121は、例えば、銅箔である。負極12は、帯形状の短手方向である幅方向の一方の端縁部に、負極活物質層122の非被覆部(負極活物質層が形成されていない部位)非被覆部125を有する。負極12の厚さは、通常、60μm以上180μm以下である。
【0033】
負極活物質層122は、粒子状の活物質(活物質粒子)と、バインダと、を含む。負極活物質層122は、セパレータ4を介して正極11と向き合うように配置される。負極活物質層122の幅は、正極活物質層112の幅よりも大きい。
【0034】
負極12の活物質は、負極12において充電反応及び放電反応の電極反応に寄与し得るものである。例えば、負極12の活物質は、グラファイト、非晶質炭素(難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素)などの炭素材料、又は、ケイ素(Si)及び錫(Sn)などリチウムイオンと合金化反応を生じる材料である。本実施形態の負極の活物質は、非晶質炭素である。より具体的には、負極の活物質は、難黒鉛化炭素である。
【0035】
負極活物質層122(1層分)の厚さは、通常、25μm以上80μm以下である。負極活物質層122の目付量(1層分)は、通常、3mg/cm2以上10mg/cm2以下である。負極活物質層122の密度(1層分)は、通常、0.5g/cm3以上1.5g/cm3以下である。
【0036】
負極活物質層に用いられるバインダは、正極活物質層に用いられるバインダと同様のものである。本実施形態のバインダは、スチレンブタジエンゴム(SBR)である。
【0037】
負極活物質層122は、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等の導電助剤をさらに有してもよい。本実施形態の負極活物質層122は、導電助剤を有していない。
【0038】
本実施形態の電極体2では、以上のように構成される正極11と負極12とがセパレータ4によって絶縁された状態で巻回される。即ち、本実施形態の電極体2では、正極11、負極12、及びセパレータ4の積層体22が巻回される。セパレータ4は、絶縁性を有する部材である。セパレータ4は、正極11と負極12との間に配置される。これにより、電極体2(詳しくは、積層体22)において、正極11と負極12とが互いに絶縁される。また、セパレータ4は、ケース3内において、電解液を保持する。これにより、蓄電素子1の充放電時において、リチウムイオンが、セパレータ4を挟んで交互に積層される正極11と負極12との間を移動する。
【0039】
セパレータ4は、帯状である。セパレータ4は、多孔質なセパレータ基材41を有する。セパレータ4は、正極11及び負極12間の短絡を防ぐために正極11及び負極12の間に配置されている。本実施形態のセパレータ4は、セパレータ基材41と、無機粒子を含む無機層42とを有する。
【0040】
セパレータ基材41は、多孔質に構成される。セパレータ基材41は、例えば、織物、不織布、又は多孔膜である。セパレータ基材41の材質としては、高分子化合物、ガラス、セラミックなどが挙げられる。高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのポリオレフィン(PO)、及び、セルロースからなる群より選択された少なくとも1種が挙げられる。
【0041】
無機層42は、セパレータ基材41の一方の面に重ねられる。無機層42は、通常、無機粒子を10質量%以上99質量%以下含む、無機粒子としては、酸化鉄、SiO2、Al2O3、TiO2、BaTiO2、ZrO、アルミナ-シリカ複合酸化物などの酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物粒子;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶粒子;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶粒子;タルク、モンモリロナイトなどの粘土粒子;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカなどの鉱物資源由来物質あるいはそれらの人造物の粒子;などが挙げられる。無機粒子の粒子径は、通常、0.5μm以上10μm以下である。
【0042】
無機層42は、結着剤、及び増粘剤をさらに含む。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素含有樹脂;スチレンブタジエンゴム(SBR);アクリル樹脂(分子中にエステル結合を有する);ポリオレフィン樹脂;ポリビニルアルコール;ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの窒素含有樹脂;セルロースとアクリルアミドの架橋重合体とセルロースとキトサンピロリドンカルボン酸塩の架橋重合体;及び、多糖類高分子ポリマーであるキトサン、キチン等を架橋剤で架橋したもの等が挙げられる。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0043】
セパレータ4は、無機層42が正極11と対向するように、正極11及び負極12の間に配置される。即ち、セパレータ4は、セパレータ基材41が負極12と対向するように、正極11及び負極12の間に配置される。無機層42が正極活物質層112と対向するように正極11及び負極12の間にセパレータ4が配置されることで、無機層42に含まれた電解液が正極活物質層112に供給されやすくなり、電解液に含まれるイオン等が活物質に供給されやすくなる。
【0044】
セパレータ4の幅(帯形状の短手方向の寸法)は、負極活物質層122の幅より僅かに大きい。セパレータ4は、正極活物質層112及び負極活物質層122が重なるように幅方向に位置ずれした状態で重ね合わされた正極11と負極12との間に配置される。このとき、
図4に示すように、正極11の非被覆部115と負極12の非被覆部125とは重なっていない。即ち、正極11の非被覆部115が、正極11と負極12との重なる領域から幅方向に突出し、且つ、負極12の非被覆部125が、正極11と負極12との重なる領域から幅方向(正極11の非被覆部115の突出方向と反対の方向)に突出する。積層された状態の正極11、負極12、及びセパレータ4、即ち、積層体22が巻回されることによって、電極体2が形成される。正極11の非被覆部115又は負極12の非被覆部125のみが積層された部位によって、電極体2における非被覆積層部26が構成される。
【0045】
非被覆積層部26は、電極体2における集電体5と導通される部位である。非被覆積層部26は、巻回された正極11、負極12、及びセパレータ4の巻回中心方向視において、中空部27(
図4参照)を挟んで二つの部位(二分された非被覆積層部)261に区分けされる。
【0046】
以上のように構成される非被覆積層部26は、電極体2の各極に設けられる。即ち、正極11の非被覆部115のみが積層された非被覆積層部26が電極体2における正極11の非被覆積層部を構成し、負極12の非被覆部125のみが積層された非被覆積層部26が電極体2における負極12の非被覆積層部を構成する。
【0047】
ケース3は、開口を有するケース本体31と、ケース本体31の開口を塞ぐ(閉じる)蓋板32と、を有する。ケース3は、電極体2及び集電体5等と共に、電解液を内部空間に収容する。ケース3は、電解液に耐性を有する金属によって形成される。ケース3は、例えば、アルミニウム、又は、アルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料によって形成される。ケース3は、ステンレス鋼及びニッケル等の金属材料、又は、アルミニウムにナイロン等の樹脂を接着した複合材料等によって形成されてもよい。
【0048】
電解液は、非水溶液系電解液である。電解液は、有機溶媒に電解質塩を溶解させることによって得られる。有機溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類である。電解質塩は、LiClO4、LiBF4、及びLiPF6等である。有機溶媒は、環状炭酸エステル類と鎖状カーボネート類とを混合した混合溶媒を用いるとよい。本実施形態の電解液は、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートを所定の割合で混合した混合溶媒に、0.5~1.5mol/LのLiPF6を溶解させたものである。
【0049】
ケース3は、ケース本体31の開口周縁部と、長方形状の蓋板32の周縁部とを重ね合わせた状態で接合することによって形成される。また、ケース3は、ケース本体31と蓋板32とによって画定される内部空間を有する。本実施形態では、ケース本体31の開口周縁部と蓋板32の周縁部とは、溶接によって接合される。
【0050】
以下では、
図1に示すように、蓋板32の長辺方向をX軸方向とし、蓋板32の短辺方向をY軸方向とし、蓋板32の法線方向をZ軸方向とする。ケース本体31は、開口方向(Z軸方向)における一方の端部が塞がれた角筒形状(即ち、有底角筒形状)を有する。蓋板32は、ケース本体31の開口を塞ぐ板状の部材である。
【0051】
蓋板32は、ケース3内のガスを外部に排出可能なガス排出弁321を有する。ガス排出弁321は、ケース3の内部圧力が所定の圧力まで上昇したときに、該ケース3内から外部にガスを排出する。ガス排出弁321は、X軸方向における蓋板32の中央部に設けられる。
【0052】
ケース3には、電解液を注入するための注液孔が設けられる。注液孔は、ケース3の内部と外部とを連通する。注液孔は、蓋板32に設けられる。注液孔は、注液栓326によって密閉される(塞がれる)。注液栓326は、溶接によってケース3(本実施形態の例では蓋板32)に固定される。
【0053】
外部端子7は、他の蓄電素子1の外部端子7又は外部機器等と電気的に接続される部位である。外部端子7は、導電性を有する部材によって形成される。例えば、外部端子7は、アルミニウム又はアルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料、銅又は銅合金等の銅系金属材料等の溶接性の高い金属材料によって形成される。
【0054】
外部端子7は、バスバ等が溶接可能な面71を有する。面71は、平面である。外部端子7は、蓋板32に沿って拡がる板状である。詳しくは、外部端子7は、Z軸方向視において矩形状の板状である。
【0055】
集電体5は、ケース3内に配置され、電極体2と通電可能に直接又は間接に接続される。本実施形態の集電体5は、クリップ部材50を介して電極体2と通電可能に接続される。即ち、蓄電素子1は、電極体2と集電体5とを通電可能に接続するクリップ部材50を備える。
【0056】
集電体5は、導電性を有する部材によって形成される。
図2に示すように、集電体5は、ケース3の内面に沿って配置される。集電体5は、蓄電素子1の正極11と負極12とにそれぞれ配置される。本実施形態の蓄電素子1では、集電体5は、ケース3内において、電極体2の正極11の非被覆積層部26と、負極12の非被覆積層部26とにそれぞれ配置される。
【0057】
正極11の集電体5と負極12の集電体5とは、異なる材料によって形成される。具体的に、正極11の集電体5は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金によって形成され、負極12の集電体5は、例えば、銅又は銅合金によって形成される。
【0058】
本実施形態の蓄電素子1では、電極体2とケース3とを絶縁する袋状の絶縁カバー6に収容された状態の電極体2(詳しくは、電極体2及び集電体5)がケース3内に収容される。
【0059】
次に、上記実施形態の蓄電素子1の製造方法について説明する。
【0060】
例えば、蓄電素子1の製造方法では、まず、金属箔(電極基材)に活物質を含む合剤を塗布し、活物質層を形成し、正極11及び負極12をそれぞれ作製する。次に、正極11、セパレータ4、及び負極12を重ね合わせて電極体2を形成する。続いて、電極体2をケース3に入れ、ケース3に電解液を入れることによって蓄電素子1を組み立てる。
【0061】
正極11の作製では、例えば、金属箔の両面に、活物質と、バインダと、導電助剤と、溶媒と、を含む合剤をそれぞれ塗布することによって正極活物質層112を形成する。正極活物質層112を形成するための塗布方法としては、一般的な方法が採用される。合剤における溶媒の量を増やすこと、即ち、固形分の量を減らすことによって、上記の正極活物質層112の微分細孔容積の分布曲線において、0.1μm以上1μm以下の範囲に現れる最も高いピークの微分細孔容積を増やすことができる。塗布された正極活物質層112を所定の圧力でロールプレスする。プレス圧を調整することにより、正極活物質層112の厚さや密度を調整できる。また、プレス圧を下げることによって、上記の正極活物質層112の微分細孔容積の分布曲線において、0.1μm以上1μm以下の範囲に現れる最も高いピークの微分細孔容積を増やすことができる。
なお、負極12も同様にして作製できる。
【0062】
電極体2の形成では、正極11と負極12との間にセパレータ4を挟み込んだ積層体22を巻回することにより、電極体2を形成する。詳しくは、正極活物質層112と負極活物質層122とがセパレータ4を介して互いに向き合うように、正極11とセパレータ4と負極12とを重ね合わせ、積層体22を作る。積層体22を巻回して、電極体2を形成する。
【0063】
蓄電素子1の組み立てでは、ケース3のケース本体31に電極体2を入れ、ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぎ、電解液をケース3内に注入する。ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぐときには、ケース本体31の内部に電極体2を入れ、正極11と一方の外部端子7とを導通させ、且つ、負極12と他方の外部端子7とを導通させた状態で、ケース本体31の開口を蓋板32で塞ぐ。電解液をケース3内へ注入するときには、ケース3の蓋板32の注入孔から電解液をケース3内に注入する。
【0064】
本実施形態の蓄電素子1は、例えば、定格容量(端子間電圧が4.2~2.0V間の電流容量)が10Ah以下の用途で使用される。斯かる定格容量は、通常、4Ah以上である。
【0065】
上記のように構成された本実施形態の蓄電素子1は、活物質粒子を含む正極活物質層112を有する正極11を備え、正極活物質層112の微分細孔容積の頻度分布曲線は、0.1μm以上1μm以下の細孔径の範囲に複数のピークを有し、複数のピークのうち最も高いピークの微分細孔容積は、0.4mL/g以上である。斯かる構成により、低温における出力性能が向上された蓄電素子を提供できる。
【0066】
上記の蓄電素子1では、正極活物質層112の空隙率は、30%以上40%以下であってもよい。斯かる空隙率は、35%以上であってもよい。斯かる構成により、低温における出力性能がより向上された蓄電素子を提供できる。
【0067】
尚、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0068】
上記の実施形態では、活物質層の微分細孔容積の頻度分布曲線が上記のごとき第一ピークと第二ピークとを有する正極について詳しく説明したが、本発明では、負極活物質層の微分細孔容積の頻度分布曲線が上記のごとき第一ピークと第二ピークとを有してもよい。
【0069】
上記の実施形態では、活物質を含む活物質層が金属箔に直接接した正極について詳しく説明したが、本発明では、正極が、バインダと導電助剤とを含む導電層であって活物質層と金属箔との間に配置された導電層を有してもよい。
【0070】
上記実施形態では、活物質層が各電極の金属箔の両面側にそれぞれ配置された電極について説明したが、本発明の蓄電素子では、正極11又は負極12は、活物質層を金属箔の片面側にのみ備えてもよい。
【0071】
上記実施形態では、積層体22が巻回されてなる電極体2を備えた蓄電素子1について詳しく説明したが、本発明の蓄電素子は、巻回されない積層体22を備えてもよい。詳しくは、それぞれ矩形状に形成された正極、セパレータ、負極、及びセパレータが、この順序で複数回積み重ねられてなる電極体を蓄電素子1が備えてもよい。
【0072】
上記実施形態では、蓄電素子1が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子1の種類や大きさ(容量)は任意である。また、上記実施形態では、蓄電素子1の一例として、リチウムイオン二次電池について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、本発明は、種々の二次電池、その他、一次電池や、電気二重層キャパシタ等のキャパシタの蓄電素子にも適用可能である。
【0073】
蓄電素子1(例えば電池)は、
図6に示すような蓄電装置100(蓄電素子が電池の場合は電池モジュール)に用いられてもよい。蓄電装置100は、少なくとも二つの蓄電素子1と、二つの(異なる)蓄電素子1同士を電気的に接続するバスバ部材91と、を有する。この場合、本発明の技術が少なくとも一つの蓄電素子に適用されていればよい。
【0074】
蓄電素子1(例えば電池)は、移動体(自動車、バイク、船舶、航空機、等)で使用されるとよい。また、本発明は、当該蓄電素子1を備えた移動体として構成されてもよい。移動体に使用される蓄電素子1は、氷点下等の低温に晒されながらも高い出力を有することが求められる。上記実施形態の蓄電素子1を備えた移動体は、低温における出力性能がより向上されることから、動力性能を向上することができる。
【実施例】
【0075】
以下に示すようにして、非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)を製造した。
【0076】
(実施例1)
(1)正極の作製
溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と、導電助剤(アセチレンブラック)と、バインダ(PVdF)と、活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)の粒子とを、混合し、混練することで、正極用の合剤を調製した。導電助剤、バインダ、活物質の配合量は、それぞれ4.5質量%、3.0質量%、92.5質量%とした。調製した正極用の合剤を、アルミニウム箔(厚さ15μm)の両面に、乾燥後の塗布量(目付量)が9.33mg/cm2となるようにそれぞれ塗布した。乾燥後、ロールプレスを行った。その後、真空乾燥して、水分等を除去した。プレス後の活物質層(1層分)の厚さは、38μmであった。活物質層の密度は、2.6g/cm3であった。
・活物質粒子について
後述するレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定した活物質の粒子の平均粒径D50(体積基準)は、4μmであった。
【0077】
(2)負極の作製
活物質としては、粒子状の非晶質炭素(難黒鉛化炭素)を用いた。また、バインダとしては、PVdFを用いた。負極用の合剤は、溶剤としてNMPと、バインダと、活物質とを混合、混練することで調製した。バインダは、7質量%となるように配合し、活物質は、93質量%となるように配合した。調製した負極用の合剤を、乾燥後の塗布量(目付量)が4.0mg/cm2となるように、銅箔(厚さ10μm)の両面にそれぞれ塗布した。乾燥後、ロールプレスを行い、真空乾燥して、水分等を除去した。活物質層(1層分)の厚さは、37μmであった。活物質層の密度は、1.1g/cm3であった。
【0078】
(3)セパレータ
セパレータとして厚さが16μmのポリエチレン製微多孔膜の面上に厚さが6μmの無機層を形成したものを用いた。無機層は、95質量%のアルミナ粒子と、5質量%のポリフッ化ビニリデンと、を含む。セパレータの透気抵抗度は、100秒/100ccであった。
【0079】
(4)電解液の調製
電解液としては、以下の方法で調製したものを用いた。非水溶媒として、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを、いずれも1容量部ずつ混合した溶媒を用い、この非水溶媒に、塩濃度が1mol/LとなるようにLiPF6を溶解させ、電解液を調製した。
【0080】
(5)ケース内への電極体の配置
上記の正極、上記の負極、上記の電解液、セパレータ、及びケースを用いて、一般的な方法によって電池を製造した。
まず、セパレータが上記の正極および負極の間に配されて積層されてなるシート状物を巻回した。次に、巻回されてなる電極体を、ケースとしてのアルミニウム製の角形電槽缶のケース本体内に配置した。続いて、正極及び負極を2つの外部端子それぞれに電気的に接続させた。さらに、ケース本体に蓋板を取り付けた。上記の電解液を、ケースの蓋板に形成された注液口からケース内に注入した。最後に、ケースの注液口を封止することにより、ケースを密閉した。
【0081】
・正極活物質層の微分細孔容積の分布曲線について
まず、1.0Cレートで4.2Vに達するまで電池を充電した後、さらに4.2Vの定電圧で電池を3時間放電し、その後、1.0Cレートで2.0Vまで定電流放電した。続いて、2.0Vで5時間の定電圧放電を行った。そして、電池を乾燥雰囲気下で解体した。解体した電池から正極の一部を切り出し、当該正極の活物質層をジメチルカーボネートで洗浄し、その後、2時間以上真空乾燥を行う前処理を施した。測定装置として水銀圧入ポロシメーター(Micromeritics社製「AutoPore9405」)を用いた。この測定装置を用いて、水銀圧入法により、正極活物質層の細孔分布を測定した。具体的に、水銀圧入法では、JIS R 1655に準拠した測定条件を採用した。そして、上記測定装置に付属したソフトウェアにより、正極活物質層の微分細孔容積の分布曲線における、0.1μm以上1μm以下の範囲のピークの微分細孔容積を求めた。
0.1μm以上1μm以下の細孔径範囲に複数のピークがあること(特に0.1μm以上0.2μm以下の細孔径範囲にピークがあること)は、下記の方法によって確認した。微分細孔容積の分布曲線を微分処理した曲線において、横軸の細孔径が小さい方から大きい方へ曲線をたどったときに、斯かる曲線の縦軸の数値が正から負へ変わる箇所(0になる箇所)が複数ある場合に、ピークが複数存在すると判断した。この正から負へ変わる箇所に相当する細孔径が、細孔容積の分布曲線におけるピークの頂点の細孔径となる。
【0082】
・正極活物質層の空隙率について
空隙率p(%)は、上述した水銀圧入法によって測定された水銀圧入量A(cm3)と、正極活物質層のみかけ体積V(cm3)とから、p=(A/V)×100により算出した。ここで、みかけ体積V(cm3)とは、正極活物質層を平面視したときの面積(cm2)に活物質層の厚さ(cm)を乗じたものである。空隙率は、31.4%であった。
【0083】
・正極活物質層に含まれる活物質粒子の平均粒径D50について
微分細孔容積の分布曲線の測定時に解体した電池から正極の別の一部を切り出した。切り出した正極を50倍以上の質量のNMPに浸漬し、15分間の超音波分散によって前処理を施した。さらに、正極から金属箔を取り除き、正極活物質層をNMPに浸漬した状態で15分間の超音波分散処理を施した。活物質粒子と導電助剤とを分離するために、比重差を利用した分離処理を行った。分離された活物質粒子を含む分散液を調製した。測定試料の粒径頻度分布の測定では、測定装置としてレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製「SALD2300」)、測定制御ソフトとして専用アプリケーションソフトフェアDMS ver2を用いた。具体的な測定手法としては、散乱式の測定モードを採用し、上記分散液が循環する湿式セルを、2分間超音波環境下に置いた後に、レーザー光を照射し、測定試料から散乱光分布を得た。そして、散乱光分布を対数正規分布により近似し、その粒径頻度分布(横軸、σ)において最小を0.021μm、最大を2000μmに設定した範囲で測定を行った。活物質粒子の平均粒径D50(体積基準)は、4μmであった。
【0084】
(実施例2~4)
正極を作製するときの合剤中の固形分量を変えること、また、正極を作製するときのプレス圧を変えることによって、電池を表1に示す構成に変更した点以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造した。
【0085】
(比較例1~4)
正極を作製するときの合剤中の固形分量を変えること、また、正極を作製するときのプレス圧を変えることによって、電池を表1に示す構成に変更した点以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造した。
【0086】
各実施例、各比較例で製造した各電池について、正極活物質層の微分細孔容積の分布曲線を
図7及び
図8にそれぞれ示す。実施例の電池での上記分布曲線では、0.1~1μmの細孔径の範囲に2つのピークがあった。一方、比較例の電池での上記分布曲線では、0.1~1μmの細孔径の範囲に1つのピークしかなかった。
【0087】
【0088】
<低温での出力性能の評価>
25℃、4Aにて、上限4.1V、下限2.4Vで各電池を放電させることにより、電流容量1C(A)を定めた。つぎに、放電状態から25℃、0.5C(A)にて、各電池を1.1時間充電することにより、SOC55%とした各電池を調製した。調製した各電池を、-10℃、20Cで連続的に放電させ、放電開始から10秒後の電圧値及び電流値を測定した。10秒後の電圧値及び電流値を乗ずることにより、各電池の出力値を算出した。各電池において測定された出力について、実施例2の出力を100%としたときの比率を算出し、当該比率を各電池における出力W[%]とした。
【0089】
上記の低温での出力性能の評価結果を表1及び
図9に示す。表1及び
図9から認識されるように、実施例の各電池では、低温において出力を比較的長時間維持できる出力性能が向上されていた。
【0090】
活物質層の微分細孔容積の頻度分布曲線が0.1μm以上1μm以下の細孔径の範囲に複数のピークを有し、且つ、複数のピークのうち細孔径の最も大きいピーク(0.2μmを超える細孔径の範囲におけるピーク)の微分細孔容積が0.4mL/g以上である実施例1~4において、低温における出力性能が高くなった要因はつぎのように推測される。
【0091】
上記のごとく複数のピークがあることは、活物質層が、比較的大きい径を有する細孔と、比較的小さい径を有する細孔と、の2種類の細孔を有することを意味する。比較的大きい径を有する細孔は、活物質粒子間の空隙に起因するものと考えられ、比較的小さい径を有する細孔は、活物質粒子の表面に形成される孔(又は凹部)に起因するものと考えられる。活物質粒子間の空隙に起因する細孔に加え、活物質粒子の表面に形成される孔(又は凹部)に起因する細孔を有することで、活物質粒子の表面がバインダ等で覆われずに露出しており、活物質粒子が電解液に接触しやすい状態にあると考えられる。
【0092】
また、活物質粒子間の空隙に起因すると考えられる細孔のピーク高さが大きいということは、同じような大きさの空隙が多数存在していることを意味する。これにより、各活物質粒子に接触する電解液の量がほぼ均等になる。このため、各活物質の充電状態がほぼ均等になり、その結果、低温時の出力が向上されると推測される。
【符号の説明】
【0093】
1:蓄電素子(非水電解質二次電池)、
2:電極体、
26:非被覆積層部、
3:ケース、 31:ケース本体、 32:蓋板、
4:セパレータ、
5:集電体、 50:クリップ部材、
6:絶縁カバー、
7:外部端子、 71:面、
11:正極、
111:正極の金属箔(集電箔)、 112:正極活物質層、
12:負極、
121:負極の金属箔(集電箔)、 122:負極活物質層、
91:バスバ部材、
100:蓄電装置。