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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】クレアチニンセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20220120BHJP
   G01N 27/327 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
G01N27/416 336J
G01N27/327 353R
G01N27/327 353J
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2017162219
(22)【出願日】2017-08-25
(65)【公開番号】P2019039817
(43)【公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100105407
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】辻村 清也
(72)【発明者】
【氏名】兼田 悠
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 陽介
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/144881(WO,A1)
【文献】特開平09-127041(JP,A)
【文献】特開昭62-257400(JP,A)
【文献】特開昭58-013398(JP,A)
【文献】特開2017-075940(JP,A)
【文献】特開2012-235771(JP,A)
【文献】国際公開第2007/049607(WO,A1)
【文献】特表2008-516235(JP,A)
【文献】NIEH, Chi-Hua,Amperometric biosensor based on reductive H2O2 detection using pentacyanoferrate-bound polymer for creatinine determination,Analytica Chimica Acta,2013年,767,128-133
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中のクレアチニンをエンドポイントの反応で定量するためのセンサであって、
内部に配置された2つ以上の電極を含む反応部と、
前記反応部に連通し、前記反応部に検体を流入させるキャピラリー部を含み、
前記2つ以上の電極のうち、1つ以上の電極上には、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、サルコシンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼおよびポリマー結合メディエーターを含む試薬層が形成されており、クレアチナーゼのユニット数がクレアチニナーゼのユニット数の4倍以上であり、
前記クレアチニナーゼの添加量が、電極上の試薬層の単位表面積(1mm)当たり、0.1~20Uであり、
前記クレアチナーゼの添加量が、電極上の試薬層の単位表面積(1mm)当たり、0.6U~120Uであり、
前記サルコシンオキシダーゼの添加量が、電極上の試薬層の単位表面積(1mm)当たり、0.01U~20Uであり、
前記ペルオキシダーゼの添加量が、電極上の試薬層の単位表面積(1mm)当たり、0.01~20Uである、検体中のクレアチニンをエンドポイントの反応で定量するためのセンサ。
【請求項2】
前記キャピラリー部の高さが150μm以上である、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記2つ以上の電極が作用極および対極である、請求項1または2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記2つ以上の電極が作用極、参照極および対極である、請求項1または2に記載のセンサ。
【請求項5】
前記参照極が銀塩化銀電極である、請求項4に記載のセンサ。
【請求項6】
メディエーターがフェリシアン化合物である、請求項1~5のいずれか一項に記載のセン
サ。
【請求項7】
ポリマーがポリビニルイミダゾールである、請求項1~6のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のセンサに検体を導入する工程、
電極に電位を印加して電流を測定する工程であって、前記測定が前記センサのエンドポイントの反応による測定である工程、および
電流値からクレアチニン濃度を算出する工程、
を含む、検体中のクレアチニンの定量方法。
【請求項9】
電流の測定時間が5分未満である、請求項8に記載のクレアチニンの定量方法。
【請求項10】
前記検体は血液である、請求項8または9に記載のクレアチニンの定量方法。
【請求項11】
前記電極に電位を印加して電流を測定する工程を行う前に、前記検体を30秒以下、非印加の状態で保持する、請求項8~10のいずれか一項に記載のクレアチニンの定量方法。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか一項に記載のセンサと、
当該センサへの電位印加を制御する、制御部と、
当該センサへの電位印加により得られる、電流を検出する、検出部と、
前記電流の値からクレアチニン濃度を算出する、演算部と、
前記算出されたクレアチニン濃度を出力する出力部と、
を含む、クレアチニン測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレアチニンを定量するための電気化学センサに関する。
【背景技術】
【0002】
酵素法を用いた電気化学式クレアチニンセンサとして、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、サルコシンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、およびポリマー結合ペンタシアノフェレートをカーボン電極に固定した電極を用いたセンサが開示されている(非特許文献1)。この文献では、検体中のクレアチニンをクレアチニナーゼによりクレアチンに変換し、クレアチンをクレアチナーゼによりサルコシンと尿素とに分解し、サルコシンをサルコシンオキシダーゼと反応させて過酸化水素を生成し、該過酸化水素及びペルオキシダーゼ存在下でフェロシアン化合物を酸化することでフェリシアン化合物を生成し、このフェリシアン化合物が電極上で還元されることにより、クレアチニン濃度に比例した電流を電気化学的に測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Anal. Chim. Acta, 767, 128-133 (2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記非特許文献1のセンサはバッチ反応方式であり、測定に数mLのクレアチニン溶液を要するため、数μLの微量検体の測定にそのまま適用することができない。また、非特許文献1のセンサは、測定前に緩衝液に浸漬してPre-conditioningを行う必要があり、クレアチニンの反応が定常状態となるまで300秒以上かかる。さらに、この文献ではレートアッセイで測定しているが、微量の検体を測定する際には、測定液の蒸発などクレアチニン濃度が変化するため、定常状態となるまで長時間待つことは難しい。
【0005】
そこで、本発明は微量の検体を使用してエンドポイントで反応させることによりクレアチニンを効率よく定量できるセンサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、クレアチニンセンサとして、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、サルコシンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼおよびポリマー結合電子メディエーターを含む試薬層が形成された電極を含む反応部に、キャピラリー構造によって検体液を吸引させて供給する構造とし、さらに、前記試薬層におけるクレアチナーゼのユニット数がクレアニチナーゼのユニット数の4倍以上とすることで、微量の検体を使用したエンドポイントの反応でクレアチニンを効率よく定量できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下を提供する。
[1]検体中のクレアチニンを定量するためのセンサであって、
内部に配置された2つ以上の電極を含む反応部と、
前記反応部に連通し、前記反応部に検体を流入させるキャピラリー部を含み、
前記2つ以上の電極のうち、1つ以上の電極上には、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、サルコシンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼおよびポリマー結合メディエーターを含む試薬層が形成されており、クレアチナーゼのユニット数がクレアチニナーゼのユニット数の4倍以上である、検体中のクレアチニンを定量するためのセンサ。
[2]前記キャピラリー部の高さが150μm以上である、[1]に記載のセンサ。
[3]前記2つ以上の電極が作用極および対極である、[1]または[2]に記載のセンサ。
[4]前記2つ以上の電極が作用極、参照極および対極である、[1]または[2]に記載のセンサ。
[5]前記参照極が銀塩化銀電極である、[4]に記載のセンサ。
[6]メディエーターがフェロシアン化合物である、[1]~[5]のいずれかに記載のセンサ。
[7]ポリマーがポリビニルイミダゾールである、[1]~[6]のいずれかに記載のセンサ。
[8][1]~[7]のいずれかに記載のセンサに検体を導入する工程、
電極に電位を印加して電流を測定する工程、および
電流値からクレアチニン濃度を算出する工程、
を含む、検体中のクレアチニンの定量方法。
[9]電流の測定時間が5分未満である、[8]に記載のクレアチニンの定量方法。
[10]前記検体は血液である、[8]または[9]に記載のクレアチニンの定量方法。[11][1]~[7]のいずれかに記載のセンサと、
当該センサへの電位印加を制御する、制御部と、
当該センサへの電位印加により得られる、電流を検出する、検出部と、
前記電流の値からクレアチニン濃度を算出する、演算部と、
前記算出されたクレアチニン濃度を出力する出力部と、
を含む、クレアチニン測定装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、指先血のような微量の検体を用いる時でもクレアチニンを正確に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態にかかるクレアチニンセンサの製造方法の一例を示す工程図であり、(A)~(E)は、各工程でのクレアチニンセンサの模式図を示す。
図2図2は、本発明のクレアチニンセンサを備えた測定装置の一態様を示す模式図である。
図3図3は、本発明のクレアチニンセンサを備えた測定装置を用いた測定プログラムの一態様を示すフローチャート図である。
図4】本発明の一態様にかかるクレアチニンセンサを使用し、クレアチニン濃度を変化させたときの電流値の変化を示す図。下の図は電流値の経時変化を示す。
図5】スペーサーの厚さを変えたサルコシンセンサを使用し、サルコシン濃度を変化させたときの電流値の変化を示す図。左がスペーサーの厚さ150μm、右がスペーサーの厚さ300μmのセンサを使用した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(クレアチニンセンサ)
本発明のクレアチニンセンサは、
内部に配置された2つ以上の電極を含む反応部と、
前記反応部に連通し、前記反応部に検体を流入させるキャピラリー部を含み、
前記2つ以上の電極のうち、1つ以上の電極上には、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、サルコシンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼおよびポリマー結合電子メディエーターを含む試薬層が形成されており、クレアチナーゼのユニット数がクレアチニナーゼのユニット数の4倍以上であることを特徴とする。
以下、それぞれの構成要素について説明する。
【0011】
(電極)
本発明のクレアチニンセンサは、内部に配置された2つ以上の電極を含む反応部を有するが、作用極(酵素電極)と対極を含む2電極系でもよいし、作用極と対極に加えて、参照電極を含む3電極系でもよい。
作用極や対極などの電極は、導電性のある素材であれば特に制限されないが、例えば、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、ルテニウム(Ru)およびパラジウム(Pd)のような金属材料、或いはグラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、メソポーラスカーボンなどのカーボンに代表される炭素材料を用いて形成することができる。なお、対極や参照電極は銀/塩化銀電極とすることもできる。
【0012】
電極は、例えば、絶縁性基板上に形成される。絶縁性基板は、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)のような熱可塑性樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂のような各種の樹脂(プラスチック)、ガラス、セラミック、紙のような絶縁性材料で形成される。電極および絶縁性基板の大きさ、厚さは適宜設定可能である。
【0013】
(試薬)
前記電極のうち、少なくとも1つの電極、すなわち、少なくとも作用極上には、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、サルコシンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼおよびポリマー結合電子メディエーターを含む試薬層が設けられている。
【0014】
クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、サルコシンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼおよび電子メディエーターの反応は以下のとおりである。
【0015】
クレアチニンは、クレアチニナーゼを触媒として加水分解され、クレアチンとなる。
Creatinine+ H2O → Creatine・・・(1)
【0016】
クレアチンは、クレアチナーゼを触媒とする反応で加水分解されてサルコシンとなる。
Creatine + H2O → Sarcosine + Urea・・・(2)
【0017】
サルコシンは、サルコシンオキシダーゼによって酸化されて、過酸化水素を発生する。
Sarcosine + O2 + H2O → Glycine + HCHO + H2O2・・・(3)
【0018】
過酸化水素は、ペルオキシダーゼで還元され、それと共役して電子メディエーター(ここではフェリシアン化合物で示す)が酸化される。
H2O2 + 2H+ +2PVI[Fe(CN)5]3- → 2H2O + 2PVI[Fe(CN)5]2-・・・(4)
【0019】
酸化された電子メディエーターは電極で電子を受け取り再還元される。
PVI[Fe(CN)5]2- + e- → PVI[Fe(CN)5]3-・・・(5)
【0020】
この時に流れる電流の値はクレアチニン濃度に比例するので、当該電流値に基づきクレアチニンの濃度を求めることができる。
【0021】
クレアチニナーゼ(EC3.5.2.10)はCreatinine amidohydrolaseとも呼ばれる。クレアチニ
ナーゼは上記の反応(1)を触媒できる限り由来などは特に制限されないが、例えば、微生物由来のクレアチニナーゼを使用できる。クレアチニナーゼは市販されている酵素を使用することもできる。
クレアチニナーゼの使用量は、電極上の試薬層の単位表面積(1mm)当たり、好まし
くは0.1~20U、より好ましくは0.2~2.0Uである。
【0022】
クレアチナーゼ(EC3.5.3.3)はCreatine amidohydrolaseとも呼ばれる。クレアチナーゼは上記の反応(2)を触媒できる限り由来などは特に制限されないが、例えば、微生物由来のクレアチニナーゼを使用できる。クレアチナーゼは市販されている酵素を使用することもできる。
クレアチナーゼの使用量は、クレアチニナーゼのユニット数の4倍以上とする。本発明のクレアチニンセンサはエンドポイントで反応させるので、反応の進行にともない基質量が少なくなるとクレアチニナーゼの逆反応が無視できなくなる。そのため、クレアチニナーゼの反応生成物であるクレアチンの蓄積を防ぐためクレアチナーゼを十分量加えることが重要である。クレアチナーゼの添加量は、具体的には、電極上の試薬層の単位表面積(1mm)当たり、好ましくは0.6U~120U、より好ましくは1.2U~12Uである。
【0023】
サルコシンオキシダーゼ(EC1.5.3.1)は上記の反応(3)を触媒できる限り由来などは特
に制限されないが、例えば、微生物由来のサルコシンオキシダーゼを使用できる。サルコシンオキシダーゼは市販されている酵素を使用することもできる。サルコシンオキシダーゼの使用量は、クレアチニナーゼと同程度であればよいが、具体的には、電極上の試薬層の単位表面積(1mm)当たり、好ましくは0.01U~20U、より好ましくは0.02U~2.0Uである。
【0024】
ペルオキシダーゼは過酸化水素を還元できる限り由来などは特に制限されないが、例えば、西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼを使用できる。ペルオキシダーゼは市販されている酵素を使用することもできる。ペルオキシダーゼの使用量は、クレアチニナーゼと同程度であればよいが、具体的には、電極上の試薬層の単位表面積(1mm)当たり、好ましくは0.01~20U、より好ましくは0.02U~2.0Uである。
【0025】
(電子メディエーター)
電子メディエーターは、ペルオキシダーゼによる過酸化水素の還元反応と共役して酸化され、かつ、電極から電子を受け取って再還元される物質であればよいが、例えば、酵素電極で電子メディエーターとして使用される、フェリシアン化合物、フェロセン、フェロセン誘導体、ベンゾキノン、キノン誘導体およびオスミウム錯体などが挙げられる。この中では、フェリシアン化カリウムなどのフェリシアン化合物がより好ましい。
電子メディエーターはポリマーと結合させて用いる。これにより、電子メディエーターがペルオキシダーゼの反応に選択的に利用され、サルコシンオキシダーゼの反応には利用されないため、精度よく測定が可能である。なお、電子メディエーターとポリマーとの結合は化学結合が好ましい。
ポリマーとしては、例えば、ポリビニルイミダゾール(PVI)、ポリビニルピリジンなど
のビニル系ポリマーが使用できるが、ポリビニルイミダゾールが好ましい。
非特許文献1には、ポリビニルイミダゾール結合フェリシアン化合物(PVI[Fe(CN)5])が開示されており、電子メディエーターとポリマーとの結合は、例えば、非特許文献1の方法を参考にして行うことができる。
【0026】
試薬層における電子メディエーターの含有量は、ペルオキシダーゼより多く含有されていることが好ましく、測定検体の種類等によって適宜決定できるが、例えば、電極上の試薬層の単位表面積(1mm)当たり、2nmol~500nmolが好ましく、より好ましくは20nmol~100nmolである。
【0027】
(その他の成分)
試薬層は、前記酵素およびポリマー結合電子メディエーターを含むが、これらに加えてバ
インダーや架橋剤を含有させてもよい。
試薬層に使用することのできるバインダーとしては、例えば、ブチラール樹脂系、ポリエステル樹脂系などの樹脂バインダーを使用してもよいし、再表2005/043146に開示された層状無機化合物を使用することもできる。
また、架橋剤としては、例えば、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDGE)、グルタルアルデヒドが挙げられる。
【0028】
また、試薬層は、緩衝剤や界面活性剤などの添加剤を追加的に含んでもよい。緩衝剤としては、リン酸緩衝剤、アミン系緩衝剤などが挙げられる。
界面活性剤としては、Triton X-100、ドデシル硫酸ナトリウム、ペルフルオ
ロオクタンスルホン酸またはステアリン酸ナトリウムやアルキルアミノカルボン酸(またはその塩)、カルボキシベタイン、スルホベタインおよびホスホベタイン等が挙げられる。
【0029】
クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、サルコシンオキシダーゼ及びペルオキシダーゼの各酵素およびポリマー結合電子メディエーターは、別々に溶液を調製して電極上に塗布してもよいし、2つ以上の成分を予め混合した試薬溶液を調製し、電極上に塗布してもよい。試薬溶液を電極上に塗布し、乾燥させることで酵素電極を得ることができる。
【0030】
試薬層は少なくとも作用極上に設けられるが、作用極および対極の両方に設けられてもよい。なお、試薬層を効率的に電極上にのみ設けるために、電極表面をマスキングしてプラズマ処理することが好ましい。
【0031】
なお、酵素を含む試薬層の表面は、セルロースアセテートのような外層膜によって被覆されてもよい。外層膜の原料としては、その他、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。
【0032】
以下、本発明のクレアチニンセンサの一例について、図1に基づいて説明する。図1(A)~(E)は、クレアチニンセンサを製造する一連の工程を示した斜視図である。なお、本発明のクレアチニンセンサは以下の態様には限定されない。
【0033】
図1(E)に示すように、このクレアチニンセンサAは、基板10、リード部11aを有する対極11と、リード部12aを有する作用極12およびリード部13aを有する参照極13とから構成された電極系、絶縁層14、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、サルコシンオキシダーゼ、ペルオキシダーゼおよびポリマー結合電子メディエーターを含む試薬層16、開口部を有するスペーサー18および貫通孔20を有するカバー19を備えている。図1(B)に示すように、基板10上には、検出部15が設けられており、検出部15には、作用極12と対極11とが基板10の幅方向に並行して配置され、さらに参照極13も配置されている。また、作用極12と対極11との間は、絶縁部となっている。このような電極系を備えた基板10の上には、図1(B)に示すように、リード部11a、12a、13aおよび検出部15を除いて、絶縁層14が積層されており、図1(C)に示すように、絶縁層14が積層されていない前記検出部15の作用極12上には、試薬層16が載置されている。そして、絶縁層14の上には、図1(D)に示すように、基板10の一端(リード部と反対側の一端)から検出部15までに対応する箇所が開口部になっているスペーサー18が配置されている。さらにスペーサー18の上には、前記開口部に対応する一部に貫通孔20を有するカバー19が配置されている(図1(E))。このクレアチニンセンサ1において、前記開口部の空間部分であり、かつ、基板10とカバー19とに挟まれた空間部分が、キャピラリーの検体供給部17となる(絶縁層14は非常に薄い膜であるため、スペーサーの厚みをキャピラリーの高さとすることができる)。そ
して、前記貫通孔20が、検体を毛管現象により吸入するための空気孔となる。
【0034】
サルコシンオキシダーゼの反応がキャピラリー内の酸素量で律速しないよう、キャピラリー構造の厚み(高さ)は150μmより大きくすることが好ましい。例えば、上記のようにスペーサーの厚みを調整することで、キャピラリーの高さを調整することができる。
【0035】
このようなクレアチニンセンサは、例えば、以下のようにして作製できる。
まず、図1(A)に示すように、基板10上にリード部11aを有する対極11、リード部12aを有する作用極12およびリード部13aを有する参照極13からなる電極系を形成する。
【0036】
続いて、図1(B)に示すように、前記電極11、12、13を形成した基板10上に絶縁層14を形成する。この絶縁層は、電極のリード部11a、12a、13aと、検出部15を除いた基板10上に形成する。前記絶縁層14は、例えば、絶縁性樹脂を溶媒に溶解した絶縁ペーストを前記基板11上に印刷し、これを加熱処理または紫外線処理して形成することができる。絶縁性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ブチラール樹脂、フェノール樹脂等が挙げられ、前記溶媒としては、例えば、カルビトールアセテート、二塩基酸エステル系混合溶剤(DBEソルベント)等が挙げられる。
【0037】
次に、図1(C)に示すように、絶縁層14が形成されていない検出部15において、作用極12に、試薬層16を形成する。試薬層16は、例えば、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、サルコシンオキシダーゼ及びペルオキシダーゼの各酵素およびポリマー結合電子メディエーターと、必要に応じて緩衝剤およびバインダーまたは架橋剤が分散された分散液を調製し、これを作用極12上に分注して、乾燥することによって形成できる。
【0038】
次に、図1(D)に示すように、絶縁層14上にスペーサー18を配置する。図示のように、スペーサー18は、前記検出部15に対応する箇所が開口部となっている。スペーサー18の材料としては、例えば、樹脂製フィルムやテープ等が使用できる。また、両面テープであれば、前記絶縁膜14との接着だけでなく、後述するカバー19も容易に接着できる。この他にも、例えば、レジスト印刷等の手段によりスペーサーを形成してもよい。
【0039】
次に、図1(E)に示すように、前記スペーサー18上にカバー19を配置する。前記カバー19の材料としては、特に制限されないが、例えば、各種プラスチック等が使用でき、好ましくは、PET等の透明樹脂が挙げられる。
【0040】
このようにして、基板とスペーサーとカバーにより形成されるキャピラリー部を介して、検体を導入し、本発明のクレアチニンセンサの作用極にクレアチニンを含む検体を接触させると、一連の酵素反応によって電子メディエーターは酸化される。そして、作用極に還元電位を印加することで、作用極表面で酸化型の電子メディエーターは還元され、これによって還元電流が発生する。この電流値に基づいて検体中のクレアチニン濃度を測定することができる。
【0041】
(検体)
検体はクレアチニンを含む検体であれば特に制限されないが、生体由来の検体が好ましく、血液、尿などが挙げられる。
【0042】
このクレアチニンセンサ1の使用方法について、検体が血液であり、電子メディエーターがフェリシアン化合物である例を挙げて説明する。
【0043】
まず、全血検体をクレアチニンセンサ1の開口部17の一端に接触させる。この開口部1
7は、前述のようにキャピラリー構造となっており、その他端に対応するカバー19には空気孔20が設けられているため、毛管現象によって前記検体が内部に吸引される。吸引された前記検体は、検出部15の作用極12上に設けられた試薬層16表面に達する。そして、表面に達した検体中のクレアチニンは、試薬層16中のクレアチニナーゼと反応し、一連の酵素反応が進行する。
【0044】
全血検体の供給から一定時間経過後、電位印加手段により作用極12と対極11との間に電位を印加して、流れる還元電流を作用極12リード部12aを介して前記電気信号を測定する手段等によって検出する。この還元電流の値は、検体中のクレアチニンの濃度に比例するため、これを前記演算手段によりクレアチニン濃度に演算すれば、検体中のクレアチニン濃度を求めることができる。
【0045】
作用極12に印加する電位としては、作用極の電子メディエーターの酸化電位よりも小さい還元電位であることが好ましく、電子伝達物質の種類に応じて適宜設定できるが、例えば、電子伝達物質がフェリシアン化合物の場合、-200mV~0mVが好ましく、-150mV~-50mVが好ましく、約-100mVがより好ましい。検体を接触させた後、所定の時間非印加の状態で保持した後、電極系に電位を印加してもよいし、前記検体との接触と同時に電極系に電位を印加してもよい。非印加の状態で保持する時間としては、例えば、30秒以下、または10秒以下である。また、測定時間は、検体を導入してから5分未満であることが好ましい。
【0046】
(装置)
次に、図面を用いて、本発明のクレアチニンセンサを備えた測定装置の一態様について説明する。ただし、本発明のクレアチニンセンサを備えた測定装置は以下の態様には限定されない。
【0047】
図2は、測定装置B内に収容された主な電子部品の構成例を示す。制御コンピュータ28、ポテンショスタット29、電力供給装置31が、筐体内に収容された基板30上に設けられている。制御コンピュータ28は、ハードウェア的には、CPU(中央演算処理装置)のようなプロセッサと、メモリ(RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory))のような記録媒体と、通信ユニットを含んでおり、プロセッサが記録媒体(例えばROM)に記憶されたプログラムをRAMにロードして実行することによって、出力部21、制御部22、演算部23および検出部24を備えた装置として機能する。なお、制御コンピュータ28は、半導体メモリ(EEPROM、フラッシュメモリ)やハードディスクのような、補助記憶装置を含んでいてもよい。
【0048】
制御部22は、電位印加のタイミング、印加電位値などを制御する。電力供給装置31は、バッテリ26を有しており、制御コンピュータ28やポテンショスタット29に動作用の電力を供給する。なお、電力供給装置31は、筐体の外部に置くこともできる。ポテンショスタット29は、作用極の電位を参照電極に対して一定にする装置であり、制御部22によって制御され、端子CR、Wを用いて、クレアチニンセンサ27の対極と作用極との間に所定の電位(還元電位)を印加し、端子Wで得られる作用極の応答電流を測定し、応答電流の測定結果を検出部24に送る。
【0049】
演算部23は検出された電流値から測定対象物質の濃度の演算を行い、記憶する。出力部21は、表示ユニット25との間でデータ通信を行い、演算部23によるクレアチニンの濃度の演算結果を表示ユニット25に送信する。表示ユニット25は、例えば、測定装置Bから受信されたクレアチニン濃度の演算結果を所定のフォーマットで表示画面に表示することができる。
【0050】
図3は、制御コンピュータ28によるクレアチニン濃度測定処理の例を示すフローチャートである。制御コンピュータ28のCPU(制御部22)は、クレアチニン濃度測定の開始指示を受け付けると、制御部22は、ポテンショスタット29を制御して、作用極への所定の電位を印加し、作用極からの応答電流の測定を開始する(ステップS01)。なお、測定装置へのセンサの装着の検知を、濃度測定開始指示としてもよい。
【0051】
次に、ポテンショスタット29は、電位印加によって得られる応答電流、すなわち、検体内の測定対象物質(クレアチニン)に依存する、電子の電極から電子メディエーターへの移動に基づく電流、例えば、電位印加から1~20秒後の定常電流を測定し、検出部24へ送る(ステップS02)。
【0052】
演算部23は、電流値に基づいて演算処理を行い、クレアチニン濃度を算出する(ステップS03)。例えば、制御コンピュータ28の演算部23はクレアチニン濃度の計算式またはクレアチニン濃度の検量線データを予め保持しており、これらの計算式または検量線を用いてクレアチニン濃度を算出する。
【0053】
出力部21は、クレアチニン濃度の算出結果を、表示ユニット25との間に形成された通信リンクを通じて表示ユニット25へ送信する(ステップS04)。その後、制御部22は、測定エラーの有無を検知し(ステップS05)、エラーがなければ測定を終了し、クレアチニン濃度を表示部に表示する。エラーがあればエラー表示をした後に、図3のフローによる処理を終了する。また、算出結果を演算部23に保存し、後から算出結果を呼び出して、表示部に表示し確認することも可能である。なお、ここでは、算出結果の表示ユニット25への送信(ステップS04)後に、制御部22による測定エラー検知(ステップS05)を行っているが、これらのステップの順番を入れ替えることも可能である。
【実施例
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の態様には限定されない。
【0055】
(1)クレアチニンセンサの作製
クレアチニンセンサは、図1に示すように、以下の手順で作製した。まず、図1(A)に示すように、絶縁性基板10として、PET製基板(長さ350mm、幅350mm、厚み250μm)を準備し、その一方の表面に、スクリーン印刷により、導電性カーボンインクでリード部をそれぞれ有する対極11、作用極12および参照極13からなるカーボン電極対を形成した。さらに参照極13上にスクリーン印刷により、銀塩化銀ペーストを印刷した。
【0056】
次に、図1(B)に示すように、前記電極対上に絶縁層14を形成した。まず、絶縁性樹脂ポリエステルを、75%(wt)となるように溶媒カルビトールアセテートに溶解させて絶縁性ペーストを調製し、これを前記電極上にスクリーン印刷した。なお、検出部15上と、リード部11a、12a、13a上には、スクリーン印刷を行わなかった。そして、155℃で20分間、加熱処理し、絶縁層14を形成した。
【0057】
さらに、図1(C)に示すように、絶縁層14を形成しなかった検出部15の作用極12上に、試薬層16を形成した。
【0058】
試薬層作製用調製液は以下の通り調製した。
まず、クレアチニナーゼ77.4mg/mLを1.0μL(0.38U)、クレアチナーゼ963mg/mLを10μL(ユニット数2.6U)、サルコシンオキシダーゼ138
mg/mLを1μL(ユニット数0.047U)、ペルオキシダーゼ64.9mg/mLを1μL(0.13U)およびポリマー結合電子メディエーターPVI[Fe(CN)5]20μLを添加し、さらに架橋剤PEGDGE(1/10希釈)を2μLを添加して試薬層作製用調製液と
した。
【0059】
作用極12の表面をプラズマ処理した後、試薬層作製用調製液を作用極12上に分注した。なお、作用極12の表面積は約1.6mmであった。そして、これを、30℃で乾燥させて、試薬層16を形成した。
【0060】
図1(D)に示すように、開口部を有するスペーサー18を絶縁層14上に配置した。さらに、図1(E)に示すように、スペーサー18上に空気孔となる貫通孔20を有するカバー19を配置してクレアチニンセンサを作製した。前記カバー19と絶縁層14とに挟まれたスペーサー18の開口部の空間が、キャピラリー構造となるため、これを検体供給部17とした。
【0061】
(2)クレアチニン測定
各濃度(0、0.5、1.0または2.0mM)のクレアチニンを含む、全血検体を調製した。
【0062】
そして、各全血検体を前記クレアチニンセンサの検体供給部から供給して10秒間反応させたのち、作用極に-100mVの電位を60秒間印加した。電位印加時を基準として、60秒後における電流値をサンプリングし、各クレアチニン濃度における応答電流値をプロットした。
【0063】
(3)結果
図4に示すように、クレアチニンと応答電流値には相関がみられ、本発明のクレアチニンセンサを用いることにより、微量の検体からでも精度よくクレアチニンが定量できることが分かった。
【0064】
(4)スペーサーの厚さの検討
センサにおけるスペーサーの厚さが測定結果に与える影響について検討を行った。
上記(1)と同様にして試薬層作製用調製液を調製したが、ここでは、酵素として、クレアチニナーゼは添加せず、クレアチナーゼとサルコシンオキシダーゼとペルオキシダーゼのみを加え、試料にサルコシンを使用して評価を行った。
また、センサについては、図1の手順でセンサを作成するに当たり、スペーサーの厚さを150μmまたは300μmの2種類用意した。これにより、スペーサーの厚さを150μmとした場合はキャピラリーの断面積は0.36mmとなり、体積は2.16mmとなり、スペーサーの厚さを300μmとした場合はキャピラリーの断面積は0.72mmとなり、体積は4.32mmとなる。
この2種類のセンサを使用して、0、0.5、1または2mMのサルコシンを含む試料を供給して電流測定を行った(0V、60秒)。その結果、図5に示すように、スペーサーの幅が300μmのときに、サルコシン濃度と電流値のより強い相関がみられた。この結果は、クレアチニナーゼとクレアチナーゼをさらに使用し、クレアチニン含有試料を用いても同様と考えられる。
【符号の説明】
【0065】
A・・・クレアチニンセンサ
10・・・基板
11・・・対極
11a・・・リード部
12・・・作用極
12a・・・リード部
13・・・参照極
13a・・・リード部
14・・・絶縁層
15・・・検出部
16・・・試薬層
17・・・開口部
18・・・スペーサー
19・・・カバー
20・・・空気孔
B・・・測定装置
21・・・出力部
22・・・制御部
23・・・演算部
24・・・検出部
25・・・表示部ユニット
26・・・バッテリ
27・・・クレアチニンセンサ
28・・・制御コンピュータ
29・・・ポテンショスタット
30・・・基板
31・・・電力供給装置
CR、W・・・端子
図1
図2
図3
図4
図5