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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】室炉式コークス炉の蓄熱室補修方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 29/06 20060101AFI20220120BHJP
【FI】
C10B29/06
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018068811
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178244
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【弁理士】
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】池田 憲巨
(72)【発明者】
【氏名】長島 康雄
(72)【発明者】
【氏名】大村 幸義
(72)【発明者】
【氏名】吉田 隆雄
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-28030(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105419821(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄熱室、コーベル、および燃焼室を備える室炉式コークス炉の、前記蓄熱室を構成する煉瓦の一部である補修部位を補修する、室炉式コークス炉の蓄熱室補修方法であって、
前記燃焼室の一部を解体する燃焼室解体工程と、
前記コーベルの一部を解体するコーベル解体工程と、
前記蓄熱室の補修部位を解体する蓄熱室解体工程と、
前記蓄熱室、コーベル、および燃焼室の解体された部位に煉瓦を積み上げる積み上げ工程とを有し、
前記燃焼室解体工程では、前記コークス炉の一方の炉口から、前記補修部位のうち前記炉口から最も離れた位置の直上部分より1ないし2フリュー分手前の位置までの範囲を解体し、
前記コーベル解体工程では、前記補修部位のうち前記炉口に最も近い位置の直上部分より1ないし2フリュー分奥の位置から、前記燃焼室解体工程において燃焼室が解体された最も奥の位置までの範囲を解体し、
前記蓄熱室解体工程では、前記蓄熱室の前記炉口側の端部を解体することなく、前記補修部位の解体を行う、
室炉式コークス炉の蓄熱室補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室炉式コークス炉の蓄熱室補修方法に関し、特に、炉口から離れた部位を補修する場合であっても効率的に補修が可能な補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所等で用いられるコークスは、一般的に、室炉式コークス炉で石炭を乾留することによって製造される。室炉式コークス炉(以下、単に「コークス炉」という場合がある)の炉体は耐火煉瓦を積み上げて構成されており、その上部は、複数の炭化室と燃焼室が炉幅方向に交互に配置された構造を有している。
【0003】
炭化室と燃焼室とは耐火煉瓦で作られた炉壁で隔てられており、燃焼室内で燃料ガスを燃焼させることにより、炉壁を介して炭化室が加熱される。その状態で、炭化室内の石炭は数十時間程度乾留され、コークスとなる。コークスが生成すると、炭化室の炉長方向(長手方向)両端にある炉口(窯口)に設置された炉蓋をそれぞれ開放し、炭化室の一方の炉口側に設けられた押出機を用いて他方の炉口側へ押出すことにより、生成したコークスを排出する。
【0004】
前記燃焼室および炭化室の下部には、炉長方向に伸びる蓄熱室が設けられている。前記蓄熱室は、燃焼室で燃焼したガスの廃熱を回収して利用するためのものであり、複数の蓄熱室が炉幅方向に並べて設置されている。そして、各蓄熱室の内部には、チェッカー煉瓦と呼ばれる、鉛直方向に多数の流路を設けた煉瓦が設置されている。
【0005】
さらに、前記燃焼室および炭化室と蓄熱室との間には、コーベルが設けられている。前記コーベルは、積み上げた耐火煉瓦からなり、内部には、蓄熱室と燃焼室とを接続するガス流路を有している。
【0006】
室炉式コークス炉には、カールスチル式、オットー式など、様々なタイプの炉があるが、いずれのタイプの炉においても、燃焼室で燃焼させる燃料ガスと燃焼空気は、前記蓄熱室内に積まれたチェッカー煉瓦を通って燃焼室へ供給される。そして、燃焼室で燃焼した後の燃焼排ガスは、別の蓄熱室内に積まれたチェッカー煉瓦を通って排出される。その際、燃焼排ガスと接触したチェッカー煉瓦の温度が上昇することにより、燃焼排ガスの熱の一部が回収される。
【0007】
上記条件での燃焼を一定時間行った後、燃焼空気と燃料ガスの流れをそれぞれ逆転させて燃焼が継続される。逆転後は、燃焼排ガスによって温度が上昇した蓄熱室を通って燃料ガスと燃焼空気が燃焼室へ供給されるため、前記燃料ガスと燃焼空気を、燃焼前に予熱することができる。このように、燃料ガスと燃焼空気の流れる方向を、一定時間おきに逆転させることにより、燃焼排ガスの有する熱を効果的に回収して、熱効率を上げることができる。
【0008】
しかし、コークス炉では、乾留およびコークスの排出が繰り返し実施されるので、炭化室および燃焼室を形成している煉瓦は激しい温度変化に曝され、損耗する。その際、破損した煉瓦の破片などが落下し、蓄熱室内に侵入する場合がある。また、それ以外にも、補修材や灰分などの異物が蓄熱室内に落下することもある。このようにして侵入した異物が蓄熱室内に堆積すると、チェッカー煉瓦の流路が閉塞し、ガスの流れが阻害される。ガスの流れが阻害されると、燃焼室へのガスの供給量が減少するため、燃焼室や炭化室の温度が低下し、乾留が適切に実施できなくなるという問題がある。
【0009】
そのため、異物の堆積が一定以上進んで所期の燃焼状態が発揮できなくなると、蓄熱室の補修を行って、該蓄熱室内のチェッカー煉瓦を積替える必要がある。
【0010】
従来、蓄熱室の補修は、補修対象部位を有する蓄熱室を炉口側から順次解体し、その後、解体した部位に煉瓦を積み直すことにより行われるのが一般的であった。また、その際には、解体する蓄熱室の上部に位置するコーベルおよび燃焼室も、一旦解体され、再度積み上げられる。
【0011】
また、特許文献1では、蓄熱室前壁の下部に取り出し口を形成し、蓄熱室内のチェッカー煉瓦を下部から支持した状態で、前記取り出し口から解体および装入作業を行う方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開昭57-002390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、蓄熱室を炉口側から順次解体する従来の手法は、補修部位が炉口に近い場合には問題ないものの、補修部位が炉口から炉長方向に離れている場合には、該補修位置に到達するまで、補修の必要が無い部分までも解体することになるという問題があった。
【0014】
また、コークス炉は、複雑な形状を有する特殊な煉瓦を主に専門的な技術者の手作業によって積み上げて建造されるため、ごく一部を解体、補修するのみでも、数百万円~数千万円といった費用が必要となる。解体、補修する範囲が広いと、その分だけ工期が長くなり、その期間中はコークス炉の該当部分が使用できない。したがって、必要のない部分の解体は、コストや工期短縮の観点からも、本来、極力避けることが望ましいと言える。
【0015】
同様に、特許文献1で提案されている方法も、蓄熱室の炉長方向端部(炉口部)のチェッカー煉瓦の補修は可能であるが、炉口から炉長方向に離れている部位の補修に適用するためには、炉口側端部から補修部位までの範囲に設置されているチェッカー煉瓦すべてを、一端に形成した取り出し口から支持する必要があるため、現実的ではない。
【0016】
従来、蓄熱室の閉塞は主に炉口付近で生じていたため、上述したような補修方法でもそれほど問題とはなっていなかったが、近年、コークス炉の長寿命化が進められ、30年~50年といった極めて長期にわたりコークス炉が使用されるようになってきている。発明者等の調査によると、そのように長期にわたってコークス炉を使用した場合、従来とは異なり、蓄熱室の炉口から炉長方向に離れた部位に閉塞が生じ、補修が必要となることが分かった。
【0017】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであり、炉口から離れた部位を補修する場合であっても効率的に補修が可能な室炉式コークス炉の蓄熱室補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その要旨構成は以下の通りである。
【0019】
1.蓄熱室、コーベル、および燃焼室を備える室炉式コークス炉の、前記蓄熱室を構成する煉瓦の一部である補修部位を補修する、室炉式コークス炉の蓄熱室補修方法であって、
前記燃焼室の一部を解体する燃焼室解体工程と、
前記コーベルの一部を解体するコーベル解体工程と、
前記蓄熱室の補修部位を解体する蓄熱室解体工程と、
前記蓄熱室、コーベル、および燃焼室の解体された部位に煉瓦を積み上げる積み上げ工程とを有し、
前記燃焼室解体工程では、前記コークス炉の一方の炉口から、前記補修部位のうち前記炉口から最も離れた位置の直上部分より1ないし2フリュー分手前の位置までの範囲を解体し、
前記コーベル解体工程では、前記補修部位のうち前記炉口に最も近い位置の直上部分より1ないし2フリュー分奥の位置から、前記燃焼室解体工程において燃焼室が解体された最も奥の位置までの範囲を解体し、
前記蓄熱室解体工程では、前記蓄熱室の前記炉口側の端部を解体することなく、前記補修部位の解体を行う、
室炉式コークス炉の蓄熱室補修方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、蓄熱室解体工程において、蓄熱室の炉口側の端部を解体することなく補修部位の解体を行うため、補修の必要の無い部分の解体および積み直し作業が少なくて済み、コストおよび工期を効果的に削減することができる。また、本発明によれば、蓄熱室の解体に先立って、燃焼室およびコーベルを解体するため、蓄熱室解体工程において補修部位の上方から解体作業を行うことができる。さらに、本発明の方法では、補修部位を有する蓄熱室と、その上部のコーベルおよび燃焼室を解体すればよく、それ以外の部分を解体する必要がない。そのため、コークス炉の他の部分の操業を継続した状態で補修を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態における、補修前のコークス炉の模式図である。
図2】本発明の一実施形態における、燃焼室解体工程完了時点におけるコークス炉の模式図である。
図3】本発明の一実施形態における、蓄熱室解体工程完了時点におけるコークス炉の模式図である。
図4】本発明の一実施形態における、積み上げ工程の途中段階におけるコークス炉の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な実施形態を示すものであって、本発明はこれに限定されない。
【0023】
[室炉式コークス炉]
本発明においては、室炉式コークス炉の蓄熱室を補修する。前記室炉式コークス炉としては、蓄熱室、コーベル、および燃焼室を備えるものであれば、任意のものを対象とすることができる。なお、特に限定されないが、通常のコークス炉は、蓄熱室、コーベル、および燃焼室を、それぞれ複数備えている。また、隣接する燃焼室の間の空間、すなわち、燃焼室壁と燃焼室壁との間の空間は、炭化室と称される。
【0024】
[補修部位]
補修部位の位置は特に限定されず、蓄熱室の、炉口側端部を除いた任意の位置を補修部位とすることができる。本発明は、上述したように、蓄熱室の炉口側端部から離れた位置の補修に適用した場合のメリットが大きい。
【0025】
次に、図1~4を参照して、本発明の一実施形態における補修手順を説明する。なお、以下の説明では、オットー型の室炉式コークス炉を例として説明をするが、本発明はこれに限らず全ての室炉式コークス炉に適用できる。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態における、補修前のコークス炉1の構造を示す模式図である。図1(a)は、側面から見たコークス炉の端部、すなわち、コークス炉の炉長方向の一端を示した図である。コークス炉1は、蓄熱室10と、蓄熱室10の上に設けられたコーベル20と、コーベル20の上に設けられた燃焼室とを備えている。燃焼室30の一方の端部には炉口31が設けられている。なお、燃焼室30の図示されない他方の端部にも、別の炉口が設けられている。
【0027】
図1(b)は、図1(a)に示したX-X断面を、正面(すなわち、炉口31側)から見たコークス炉の構造を示す断面模式図である。蓄熱室10は、炉幅方向に複数設けられており、一般的には、燃料ガスが通る蓄熱室と、燃焼空気が通る蓄熱室とが交互に配置されている。例えば、蓄熱室10a、10cに燃料ガスが通される場合には、蓄熱室10b、10dには燃焼空気が通される。各蓄熱室10は仕切壁で仕切られており、内部には図示されないチェッカー煉瓦が積み上げられている。1つの蓄熱室10の幅(図1(b)における左右方向の幅)は、一般的に300~400mm程度である。
【0028】
コーベル20には、蓄熱室10と燃焼室30とを接続する流路21が設けられており、燃料ガスおよび燃焼空気は流路21を通って蓄熱室から燃焼室へ供給または燃焼室から蓄熱室へ排出される。なお、図1(b)では、便宜的に、コーベル20を構成する煉瓦を図示せず、流路21のみを示している。
【0029】
コーベル20の上部には、複数の燃焼室30が炉幅方向に複数並んで設けられている。隣接する燃焼室30の壁の間の空間は、石炭を装入して乾留するための炭化室40を構成する。すなわち、燃焼室30の壁は、炭化室40の壁を兼ねており、燃焼室30で燃料ガスを燃焼させることで発生した熱は前記壁を介して炭化室40へ伝達される。
【0030】
図1~4に示した例では、蓄熱室10のうち、円で示した補修部位50に閉塞が発生したものとする。補修部位の決定は、特に限定されることなく任意の方法で行うことができる。例えば、何らかの方法で蓄熱室内部の閉塞箇所を特定または推定し、その閉塞箇所を含むように補修部位を決定することができる。例えば、特定された閉塞箇所に加え、該閉塞箇所の煉瓦を積み直す作業に必要な範囲を補修箇所とすることができる。
【0031】
閉塞箇所の特定は、例えば、燃焼室内の温度を測定し、その測定結果に基づいて行うことができる。
【0032】
燃焼室には、一方の炉口から他方の炉口まで、フリューと呼ばれるガスの流路が炉長方向に多数配列されており、それぞれのフリューには当該燃焼室の下方の蓄熱室から燃料ガスおよび燃焼空気が供給されている。蓄熱室の一部に閉塞箇所があると、該蓄熱室から燃料ガスあるいは燃焼空気が供給されるフリューでの燃焼が抑制されるため、当該フリューの温度が低下する。したがって、例えば、炉頂から燃焼室の各フリューの温度を測定することで、温度が低下しているフリューに接続する蓄熱室に閉塞箇所があることが特定できる。前記温度の測定は、例えば、放射温度計などを用いて行えばよい。
【0033】
なお、ここで、補修部位50のうち炉口31から最も離れた位置をP1、補修部位50のうち炉口31に最も近い位置をP2とする。
【0034】
[燃焼室解体工程]
本発明の蓄熱室補修方法では、蓄熱室の解体に先立って、まず、燃焼室の一部が解体される(燃焼室解体工程)。図2は、図1に示したコークス炉の補修において、燃焼室解体工程完了時点におけるコークス炉の状態を示した模式図である。
【0035】
燃焼室解体工程においては、図2(a)に矢印A1で示したように、コークス炉1の一方の炉口31から、補修部位50の炉口31から最も離れた位置P1の直上部分より1ないし2フリュー分手前の位置までの範囲が解体される。すなわち、燃焼室の解体は、P1よりも、矢印F1で示すように、1~2フリュー分手前の位置まで行われる。ここで、「手前」とは、炉長方向において、炉口31へ近づく方向を意味する。
【0036】
このように、燃焼室を解体する範囲(矢印A1)を、位置P1までとせずに、P1よりも1~2フリュー分手前の位置までとすることにより、解体および積み上げの作業量を低減することができる。また、上述したように、コークス炉は、複雑な形状を有する特殊な煉瓦を主に専門的な技術者の手作業によって積み上げて建造されるものであるため、解体する範囲を1~2フリュー分狭くするだけでも、補修費用低減の効果は極めて大きい。
【0037】
解体を行う順序は特に限定されないが、例えば、図2(a)に矢印Bで示したように、炉口31側から、炉長方向に順次解体していけばよい。
【0038】
なお、通常のコークス炉は、炉幅方向に多数の燃焼室が並んで設けられているが、前記燃焼室解体工程においては、少なくとも、補修部位を有する蓄熱室(以下、「対象蓄熱室」という)と接続されている燃焼室を解体すればよく、それ以外の燃焼室は解体しなくてもよい。対象蓄熱室と接続されている燃焼室のみを解体する場合は、まず、対象蓄熱室から燃焼空気または燃料ガスが供給される燃焼室の燃焼を停止し、その後、解体を開始すればよい。このように、対象蓄熱室と接続されている燃焼室のみを解体するようにすれば、それ以外の燃焼室における燃焼を停止させることなく補修作業を行うことができる。燃焼室は一般的に硅石から成る耐火物煉瓦で構成されているため、一度燃焼を停止して温度が低下した後、再度昇温されると、収縮・膨張の影響でスポーリング等が生じ、操業が困難となる可能性が極めて高い。したがって、対象蓄熱室と接続されている燃焼室のみを解体し、それ以外の燃焼室の燃焼を継続した状態で補修を行えば、上記の問題を回避することができるため好ましい。
【0039】
[コーベル解体工程]
次いで、コーベルの一部を解体する(コーベル解体工程)。図3は、コーベル解体工程および蓄熱室解体工程が完了した時点におけるコークス炉の状態を示した模式図である。この図3に基づいて、コーベル解体工程を説明する。
【0040】
コーベル解体工程においては、補修部位50のうち炉口31に最も近い位置P2の直上部分より1ないし2フリュー分奥の位置から、燃焼室解体工程において燃焼室が解体された最も奥の位置までの範囲を解体する。ここで、「奥」とは、炉長方向において、炉口31から離れる方向を意味する。すなわち、コーベル解体工程においては、図3(a)に矢印A2で示した範囲のコーベルのみを解体する。言い換えると、コーベルの解体は、P2よりも、矢印F2で示すように、1~2フリュー分手前の位置から、P1よりも、矢印F1で示すように、1~2フリュー分手前の位置まで行われる。ここで、F1とF2は、同じであってもよく、異なっていても良い。
【0041】
このように、コーベルを解体する範囲(矢印A1)を、一部分に限定することにより、補修に要する費用や工期を削減することができる。
【0042】
[蓄熱室解体工程]
その後、蓄熱室を解体する(蓄熱室解体工程)。前記蓄熱室解体工程においては、蓄熱室の前記炉口側の端部を解体することなく、前記補修部位の解体を行うことが重要である。上述したように、蓄熱室の炉口側の端部を解体することなく補修部位の解体を行うことにより、補修の必要の無い部分の解体および積み直し作業が少なくて済み、コストおよび工期を効果的に削減することができる。
【0043】
図3に示した例では、コーベル解体工程において、矢印A2で示した範囲のコーベルを、上方から下方へ向けて順次解体して開口部を形成し、その後、蓄熱室解体工程において、コーベルに形成された前記開口部を通じて蓄熱室の補修部位を解体している。
【0044】
このとき、コーベルに形成された開口部の幅(A2)は、補修部位50の幅(P2-P1)よりも、炉長方向の奥側と手前側とに、それぞれ1~2フリュー分ずつ狭くなっている。しかし、この程度の距離であれば、前記開口部から手を伸ばすなどして蓄熱室の解体作業を行うことが可能である。また、コークス炉を構成する煉瓦には、炉幅方向に隣接する部分などから応力がかかっているため、1~2フリュー程度であれば蓄熱室を余分に解体したとしても、解体された部分の上方に位置するコーベルや燃焼室が崩落することはない。
【0045】
蓄熱室解体工程においては、蓄熱室内に積まれているチェッカー煉瓦と、必要に応じて蓄熱室の仕切壁を解体することができる。解体時には、解体に伴って発生する屑が蓄熱室補修部位の下方に落下しないように、チェッカー煉瓦の補修部位より下方に詰め物を入れることが好ましい。また、解体中および解体後の一方または両方において、吸引機を用いた解体屑の吸引除去を行うことが好ましい。
【0046】
なお、コークス炉使用中に蓄熱室に堆積する屑は、燃焼室から落下するものが大部分であるため、通常は蓄熱室の上部に堆積していることが多い。例えば、蓄熱室のチェッカー煉瓦が20段程度積まれている場合、上方から10段分程度のチェッカー煉瓦を解体すれば、蓄熱室の詰りは解消する場合が多い。したがって、効率面からは、蓄熱室の最下部までは解体せず、高さ方向の途中までしか解体しないことが好ましい。
【0047】
[積み上げ工程]
解体終了後、蓄熱室、コーベル、および燃焼室の解体された部位に、新たに煉瓦を積み上げる(積み上げ工程)。積み上げ工程においては、解体時とは逆に、蓄熱室、コーベル、および燃焼室の煉瓦を順次積み上げて、補修を完了する。
【符号の説明】
【0048】
1 コークス炉
10 蓄熱室
20 コーベル
21 流路
30 燃焼室
31 炉口
40 炭化室
50 補修部位
図1
図2
図3
図4