(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】カプノグラフデバイス及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
A61B 5/08 20060101AFI20220120BHJP
【FI】
A61B5/08
(21)【出願番号】P 2018506296
(86)(22)【出願日】2016-08-04
(86)【国際出願番号】 IB2016054702
(87)【国際公開番号】W WO2017025869
(87)【国際公開日】2017-02-16
【審査請求日】2019-06-12
(32)【優先日】2015-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】オー ヨセフ
(72)【発明者】
【氏名】ブリュワー ケイツ ララ マリー
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-506189(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0142894(US,A1)
【文献】特開2013-240593(JP,A)
【文献】特開平04-250175(JP,A)
【文献】特表2013-533021(JP,A)
【文献】特表2014-522973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
G01N 33/48 -33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプノグラフデバイスであって、
呼吸二酸化炭素レベルを測定する二酸化炭素測定要素と、
電子プロセッサと
を有し、前記電子プロセッサが、
前記二酸化炭素測定要素により測定される呼吸二酸化炭素レベルを含むカプノグラ
フ信号を時間の関数として生成し、
前記カプノグラ
フ信号に対してスライディング窓最大化処理を行うことを含む操作により、時間の関数として呼気終末二酸化炭素(etCO
2)信号を計算するようプログラムされ、
前記スライディング窓最大化処理が、数回の呼吸を包含するスライディング時間窓(W)を使用する、及び
前記スライディング時間窓(W)内における前記カプノグラ
フ信号の最大値として、前記etCO
2信号を計算する、
カプノグラフデバイス。
【請求項2】
前記スライディング窓最大化処理が、少なくとも5回の呼吸を包含する持続時間(Tw)の前記スライディング時間窓(T)を使用する、請求項1に記載のカプノグラフデバイス。
【請求項3】
前記スライディング窓最大化処理が、持続時間(Tw)が少なくとも30秒である前記スライディング時間窓(W)を使用する、請求項1に記載のカプノグラフデバイス。
【請求項4】
前記スライディング窓最大化処理が、持続時間(Tw)が1分から2分までの間である前記スライディング時間窓(W)を使用する、請求項1に記載のカプノグラフデバイス。
【請求項5】
前記スライディング窓最大化処理が、5秒から15秒までの間のサンプリング間隔(Ts)を用いる、請求項1乃至4の何れか一項に記載のカプノグラフデバイス。
【請求項6】
前記スライディング窓最大化処理が、前記etCO
2信号を、
として計算することを有し、ここで、tは、時間を表し、[CO
2]は、カプノグラ
フ信号を表し、W(t)は、スライディング時間窓(W)を
として表し、Dは、遅延値であり、
である、請求項1乃至5の何れか一項に記載のカプノグラフデバイス。
【請求項7】
前記スライディング窓最大化処理を実行することが、
を計算することを有し、ここで、tは、時間を表し、[CO
2]は、カプノグラ
フ信号であり、W(t)は、スライディング時間窓である、請求項1乃至5の何れか一項に記載のカプノグラフデバイス。
【請求項8】
前記電子プロセッサが、前記カプノグラ
フ信号に対する前記スライディング窓最大化処理を実行する前に、前記カプノグラ
フ信号に平滑化フィルタを適用することを更に含む操作により、時間の関数として前記etCO
2信号を計算するようプログラムされる、請求項1乃至7の何れか一項に記載のカプノグラフデバイス。
【請求項9】
前記スライディング窓最大化処理を実行することが、平滑化されていないetCO
2信号を計算することを有し、前記電子プロセッサは、前記平滑化されていないetCO
2信号に平滑化フィルタを適用することにより平滑化されたetCO
2信号を時間の関数として計算するようプログラムされる、請求項1乃至8の何れか一項に記載のカプノグラフデバイス。
【請求項10】
前記etCO
2信号を表示する表示要素を更に有する、請求項1乃至9の何れか一項に記載のカプノグラフデバイス。
【請求項11】
カプノグラフィ方法を実行する電子プロセッサにより読み取り可能かつ実行可能な命令を記憶する非一時的記憶媒体であって、前記方法が
時間の関数として二酸化炭素測定要素により測定される呼吸二酸化炭素レベルを含むカプノグラ
フ信号を生成するステップと、
時間の関数として呼気終末二酸化炭素信号を計算するため前記カプノグラ
フ信号にスライディング窓最大化処理を実行するステップとを有し、
前記スライディング窓最大化処理が、数回の呼吸を包含するスライディング時間窓(W)を使用する、及び
前記スライディング時間窓(W)内における前記カプノグラ
フ信号の最大値として、前記etCO
2信号を計算する、
非一時的記憶媒体。
【請求項12】
前記スライディング窓最大化処理が、持続時間が少なくとも30秒である前記スライディング時間窓を使用する、請求項11に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項13】
前記スライディング窓最大化処理が、持続時間が少なくとも1分であるスライディング時間窓を使用する、請求項11に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項14】
時間の関数として前記etCO
2信号を計算するため前記スライディング窓最大化処理を実行するステップが、
を計算するステップを有し、ここで、tは、時間を表し、[CO
2]は、カプノグラ
フ信号であり、W(t)は、スライディング時間窓である、請求項11乃至13の何れか一項に記載の非一時的記憶媒体。
【請求項15】
が、
(i)前記時間窓W(t)にわたる最大のカプノグラ
フ信号サンプル、
(ii)前記時間窓W(t)にわたる第2の最大のカプノグラ
フ信号サンプル、
(iii)前記時間窓W(t)にわたる第3の最大のカプノグラ
フ信号サンプル、及び
(iv)4以下の正の整数Nに対し、前記時間窓W(t)にわたるNの最高信号サンプルの平均、の1つとして、時間窓W(t)にわたる最大[CO
2]値を返す、請求項14に記載の非一時的記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は一般に、カプノグラフィ技術及び関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
カプノグラフデバイスは、呼吸ガスにおける二酸化炭素(CO2)の濃度又は分圧を監視する。一般的なカプノグラフィパラメータは、概念的には呼気フェーズの終了時のCO2分圧である呼気終末CO2(etCO2)である。しかしながら、これは通常、呼吸サイクルで観測される最大のCO2分圧であるため、etCO2は、呼吸サイクルにわたって観測される最大CO2分圧として臨床的に規定される。etCO2は一般に、分圧(PetCO2)又はパーセンテージ値として与えられる。
【0003】
カプノグラフィにより測定されるetCO2パラメータは、肺の肺胞における最大二酸化炭素分圧に関する測定可能な代用物として一般的に使用される。最大肺胞CO2分圧を知ることは、肺及び心肺システムの状態を診断するのに有用であり、従って、臨床診断及び患者モニタリングに相当な価値がある。安定したetCO2トレンドラインは、安定した呼吸を示し、一方、etCO2が時間にわたり減少傾向にある場合、これは呼吸器の劣化、投薬への有害反応、麻酔又は鎮静の影響などを示し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、カプノグラフィにより測定されたetCO2はしばしばノイズが多く、呼吸ごとに大幅に変化する可能性がある。患者が話したり、咳をしたりするときなどに、カプノグラフィetCO2は、呼吸パターンにおける変化と共に変化する可能性がある。
【0005】
以下は、上述した問題及びその他に対処する新規で改良されたシステム及び方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示された一態様では、カプノグラフデバイスが開示され、これは、呼吸二酸化炭素レベルを測定する二酸化炭素測定要素と、電子プロセッサとを有し、上記電子プロセッサが、時間の関数として上記二酸化炭素測定要素により測定される呼吸二酸化炭素レベルを含むカプノグラム信号を生成し、上記カプノグラフ信号に対してスライディング窓最大化処理を行うことを含む操作により、時間の関数として呼気終末二酸化炭素etCO2信号を計算するようプログラムされる。いくつかの実施形態において、上記スライディング窓最大化処理が、持続時間が少なくとも30秒であるスライディング時間窓を使用する、いくつかの実施形態において、上記スライディング窓最大化処理を実行することが、
を計算することを有し、ここで、tは、時間を表し、[CO2]は、カプノグラム信号40を表し、W(t)は、スライディング時間窓である。カプノグラフデバイスは、サイドストリーム又はメインストリームカプノグラフデバイスであってもよい。
【0007】
別の開示された態様では、非一時的記憶媒体が、カプノグラフィ法を実行する電子プロセッサにより読み取り可能かつ実行可能な命令を記憶し、この方法は、時間の関数として二酸化炭素測定要素により測定される呼吸二酸化炭素レベルを含むカプノグラム信号を生成するステップと、時間の関数として呼気終末二酸化炭素etCO2信号を計算するため上記カプノグラフ信号にスライディング窓最大化処理を実行するステップとを有する。
【0008】
1つの利点は、最大肺胞二酸化炭素レベルをより正確に近似する呼気終末二酸化炭素(etCO2)値を提供することにある。
【0009】
別の利点は、呼吸ごとに決定される呼気終末CO2と比較して、低減されたノイズのetCO2に提供することにある。
【0010】
別の利点は、(1)より正確に最大肺胞CO2二酸化炭素レベルに近似し、(2)呼吸ごとに決定される呼気終末CO2と比較してノイズが低減されるetCO2を提供することにある。
【0011】
別の利点は、低減されたシステマティック誤差のetCO2を提供することにある。
【0012】
所与の実施形態は、前述の利点の1つ、2つ、それ以上、若しくは全てを提供し得、若しくは何らの利点を提供せず、及び/又は本開示を読み理解するとき当業者に明らかになるであろう他の利点を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本書に開示される改善された呼気終末二酸化炭素(etCO2)計算を含むカプノグラフデバイスを図式的に示す図である。
【
図2】etCO2を計算するためにカプノグラム上でスライディング窓最大操作を実行することを図式的に示す図である。
【
図3】呼吸ごと(breath-by-breath)ベースで計算される呼気終末CO2データをプロットする図である。
【
図4】スライディング窓最大操作を用いて計算される呼気終末CO2データをプロットする図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、様々な要素及び要素の配列の形式並びに様々なステップ及びステップの配列の形式を取ることができる。図面は、好ましい実施形態を説明するためだけにあり、本発明を限定するものとして解釈されるべきものではない。
【0015】
etCO2の傾向は、患者が自発的に呼吸し、呼吸のサイズが均一でないとき、評価することが困難である。自発的又は圧力支援換気中に、カプノグラフデバイスにより測定されたetCO2は、例えば、患者が話す、咳をする、睡眠時無呼吸若しくは薬物誘発気道閉塞に罹患する、又は医療処置のための麻酔後に急性呼吸抑制を経験するときなどに明らかに変化する可能性がある。肺胞CO2分圧が、様々な大きさの呼吸に伴いカプノグラフィにより観察されるetCO2の変化と同じくらい速く変化することは生理学的に可能ではない。
【0016】
明らかな解決策は、ノイズを除去するためローパスフィルタなどを用いてetCO2トレンドラインを平滑化することである。しかしながら、このアプローチは、カプノグラフィにより測定されるetCO2の場合、重大な欠点を持つことが本書において認識される。これは、本書で認識されるように、etCO2測定にノイズを導入する臨床的状態及び生理学的事象が、カプノグラフデバイスにより測定されるetCO2を系統的に減少させる傾向があるためである。例えば、息の量が気道のデッドボリュームを完全に流出させるには小さすぎる場合、測定されるetCO2は減少する。同様に、肺が平行な(肺胞)デッドボリュームを含む場合、カプノグラフィにより測定されるetCO2はここでも減少する。補充酸素が患者に投与されている場合、それは、呼気ガスと混合し、この場合もカプノグラフィにより生成されるetCO2読み出しを減少させる可能性がある。
【0017】
カプノグラフィによるetCO2測定の一般的な臨床応用は、直接測定できない最大肺胞CO2分圧の正確で測定可能な代用物を提供することである。しかしながら、前述のetCO2ノイズ源の各々は、肺胞最大CO2分圧未満に体系的に逸脱するよう、カプノグラフィにより測定されるetCO2値における減少をもたらす。従って、カプノグラフィにより測定されるetCO2が、肺胞の最大CO2分圧の代用と見なされるとき、これらの「ノイズ」源は、ランダムな誤差を導入する真のノイズ源ではない。むしろ、これらの「ノイズ」源は、肺胞最大CO2分圧の(容易に測定されない)ゴールドスタンダードと比較して、カプノグラフィにより測定されるetCO2があまりに低い読み出しを体系的にもたらす点で、システマティックな誤差の源である。
【0018】
前述の見識に照らして見ると、ノイズ、即ちランダム誤差を除去するように設計されたローパスフィルタ又は他の平滑化機構は、カプノグラフィにより測定されるetCO2値を改善するのには適切ではない。むしろ、適切な改善は、比較的長い期間(例えば、約10~30回の呼吸を包含する)にわたり観察される最大CO2を優先的に表示すべきである。なぜなら、これは、最大肺胞CO2を正確に反映するetCO2値を提示する可能性がより高いからである。いくつかの例示的な実施形態では、以下の処理が開示される。一定のサンプリング時間間隔Ts、例えば、いくつかの実施形態では5~15秒において、より長い間隔Twの時間窓Wにわたって測定される最大呼気CO2が特定される。このTwは、いくつかの実施形態では30秒~3分であり、いくつかの実施形態では1~2分である。サンプリングレート(1/Ts)で得られるこれらの最大サンプルは、サンプリング間隔Tsだけ離れた信号の連続データ点(サンプル)を備える、etCO2を表すサンプリング信号を形成する。オプションで、このetCO2信号は、スプリアスサンプルを除去するため、例えばローパスフィルタを用いて平滑化される(これらは真のノイズである、即ちランダムエラーを構成すると予想される)。
【0019】
図1を参照すると、斯かるetCO2信号生成を使用する例示的なカプノグラフデバイス10が概略的に示される。
図1に示されるように、手術中、カプノグラフデバイス10は、例示的な実施例では鼻カニューレ14のような適切な患者アクセサリにより、又は気道アダプタなどにより患者12と接続される。患者アクセサリ14はオプションで、エアフィルター、ウォータートラップなど(図示省略)などの1つ又は複数の補助要素を含むことができる。例示的なカプノグラフ10では、呼吸した空気が、空気ポンプ22により患者アクセサリ14からカプノグラフ空気入口16に二酸化炭素(CO2)測定要素又はセル20を通って引き出される。次いで、空気は、カプノグラフ10の空気出口24を介して大気に放出されるか、又は例示的な実施形態のように、大気に放出される前に吸入麻酔剤又は他の吸入薬剤を除去するため、空気出口24を通って掃気システム26に排出される。CO2測定要素又はセル20は例えば、赤外線光学吸収セルを有することができる。そこでは、患者アクセサリ14から引き出された呼吸空気中の二酸化炭素が、吸収を生み出し、これは赤外線光源/検出器アセンブリにより検出される。
【0020】
例示的なカプノグラフデバイス10は、サイドストリーム構成を持ち、そこでは、呼吸空気が、ポンプ22を用いてカプノグラフデバイス10に引き込まれ、CO2測定セル20が、カプノグラフデバイス10の内部に配置される。即ち、サイドストリームカプノグラフデバイス10は、二酸化炭素測定要素20、電子プロセッサ30、及び二酸化炭素測定要素20を介して呼吸した空気を吸引するよう接続されるポンプ22をユニットとして含む。サイドストリーム構成は、自発呼吸患者、即ち人工呼吸器の補助なしに自分自身で呼吸している患者に適切に使用される。メインストリーム構成(図示省略)として知られる代替的な構成では、CO2測定セルは、典型的には患者の「メインストリーム」気道に挿入されるCO2測定セル患者アクセサリとして、カプノグラフデバイスのハウジングの外部に配置される。斯かるメインストリーム構成は例えば、機械的人工呼吸患者に使用されることができる。その場合、CO2測定セル患者アクセサリが、人工呼吸器ユニットのアクセサリ受け部に嵌合するように設計されるか、人工呼吸器に供給される気道ホースに設置される。etCO2を計算するための開示される手法は、(
図1の例示的な例のように)サイドストリームカプノグラフデバイスと共に、又はメインストリームカプノグラフデバイスと組み合わせて、容易に適用される。
【0021】
図1を引き続き参照すると、カプノグラフデバイス10(例示的なサイドストリーム構成又は代替的なメインストリーム構成のいずれかにおいて)は、CO2測定セル20及び(サイドストリーム構成における)ポンプ22を作動させるための電力及び制御を提供するカプノグラフ電子機器30を含む。電力及び制御リンクは、
図1に図示されていない点に留意されたい。カプノグラフ電子機器30は更に、
図1に図式的に示され、かつ本明細書で説明されるように、CO2測定セル20により出力されるCO2信号の処理を実行する。カプノグラム及びetCO2信号のようなカプノグラフ10により出力される臨床データが、表示要素32に表示され、電子カルテ(EMR)などに格納され、又は他の方法で利用される。表示要素32は、カプノグラフの要素であってもよいし、又は
図1に示されるように、表示要素32は、カプノグラフ10に接続される外部表示要素であってもよい。例えば、外部表示要素32は、多機能ベッドサイド患者モニタ及び/又はナースステーションの患者モニタなどであってもよい。カプノグラフは、圧力計、流量計などの簡略化された
図1には示されていない他の複数の要素を含むことができる点を更に理解されたい。
【0022】
カプノグラフ電子機器30は、例えば、カプノグラフ10のマイクロプロセッサ又はマイクロコントローラといった適切にプログラムされた電子プロセッサなどのように、様々な態様で実現されることができる。単一の電子ユニット30が図示されるが、代替的に、電子機器の様々な組み合わせを使用することが考えられる。例えば、ポンプ電源、赤外線光源電源(CO2測定セル20用)、(CO2測定セル20の赤外光検出器をサンプリングする)アナログデジタル変換回路などを実現するため、異なる電子要素が動作可能に相互接続されることができる。更に、カプノグラフは、開示されるCO2信号処理なしにカプノグラム(CO2対時間信号)を出力し、その処理が別のデバイス(例えば、カプノグラム信号を受信するナースステーションのコンピュータ)において適切にプログラムされる電子機器により実行されることが想定される。カプノグラフ電子機器30により実行されるものとして本書に開示されるCO2信号処理は、本書に開示される手法を用いるetCO2計算を含む開示されるCO2信号処理を実行するマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、又は他の電子プロセッサにより読み取り可能かつ実行可能な命令を格納する非一時的記憶媒体により実現されることもできる点を更に理解されたい。斯かる非一時的記憶媒体は、非限定的な例示として、ハードディスクドライブ若しくは他の磁気記憶媒体、フラッシュメモリ、読み出し専用メモリ(ROM)若しくは他の電子記憶媒体、光ディスク若しくは他の光記憶媒体、又はそれらの様々な組み合わせなどを含むことができる。
【0023】
図1を引き続き参照して、更に
図2を参照すると、カプノグラフ電子機器30(又は代替的に、全体的又は部分的に、適切にプログラムされた電子データプロセッサを備えるナースステーションモニタ、ベッドサイド患者モニタ、又は他のデバイス)により実行されるCO2信号処理の例示的な実施形態が、
図1に図式的に示される。CO2信号はサンプリングされ、カプノグラム40を生成するため、妨害ガス(例えば、亜酸化窒素)の存在、気圧などの因子に関してオプションで補正される。カプノグラムは、
図2において[CO2]として示される二酸化炭素の分圧又は濃度を時間の関数として表す信号である。
図2は、健康な患者に対する理想的な波形としてのカプノグラム40を示し、そこでは、各呼吸は同一であり、吸気段階の間にほぼゼロ[CO2]を示し、呼気段階にわたって徐々に上昇し、呼気終末CO2に対応する最大[CO2]で終了する明確な最大値[CO2]を示す。etCO2は、各呼吸に対して同じである。実際には、現実の患者に関するカプノグラム40は通常、不均一な呼吸、話し、咳、病気の患者の場合の慢性的な肺問題などの多数の要因のため、この理想化された曲線から大きく逸脱することを理解されたい。実際の患者のカプノグラムでは、etCO2は呼吸により異なる場合がある。
図2の例示的な理想化された例は、4秒/呼吸の一定の呼吸速度、即ち毎分15回の呼吸を更に仮定する。従来技術で知られるように、正常な成人患者の安静時呼吸速度(RR)は典型的には、3~5秒/呼吸(12~20回/分)のオーダーであり、乳児に関しては典型的には(毎分約60呼吸回までの)より高いRRが観察される。実際の患者では、RRは一般的に一定ではない。RRは、興奮又は運動により著しく増加し、休息期間中に減速し、睡眠時無呼吸発作時に完全に停止し、及び/又は様々な呼吸器疾患若しくは他の医学的状態により一般に著しく変化する場合がある。
【0024】
引き続き
図1及び
図2を参照すると、処理42において、現在の時間tにおいて、持続時間Twの(過去の)時間窓Wにわたる最大CO2値が決定される。処理42に関する時間窓Wの持続時間Twは、複数の呼吸を包含するよう選択される。例えば、いくつかの実施形態では、Twは、少なくとも30秒(10呼吸/分、即ち6秒/呼吸の低速RRで呼吸する患者に関する5回の呼吸を含む)の持続時間を持つ。一方、例えばそのRRがより高い乳児に対しては、より短い値が考えられる。いくつかの実施形態では、Twは30秒~3分の範囲にある。大人の場合、Twは、1分から2分の範囲になるように選択されることができる。これらの例示的な上限値よりも長いTwを設定することも考えられ、これは、例えば、活動的であるか、又は、カプノグラム40において呼吸ごとの有意な変化を他の態様で示す患者に関連して適切であり得る。
【0025】
時間窓Wは、スライディング時間窓である。即ち、時間窓Wにおける最大[CO2]値を決定する処理42は、etCO2信号50を生成するため、連続的な現在の時間値t(及び
図2に図式的に示されるように時間窓Twの対応する時間シフト)に対して、サンプリング間隔Tsで(
図1の反復処理44により示されるように)繰り返される。反復44に関するサンプリング間隔Tsは典型的には、カプノグラフ10により使用される[CO2]測定間隔よりもはるかに大きい。例えば、カプノグラム40を生成するため、測定セル20により出力される[CO2]は、10ミリ秒の時間間隔でサンプリングされるが、サンプリング間隔Tsは、
図2では10秒である。他方、サンプリング間隔Tsは、etCO2信号50の時間分解能を決定し、好ましくは比較的短く選択され、特にスライディング時間窓Wの持続時間Twよりもはるかに短い。いくつかの実施形態では、サンプリング間隔Tsは、5秒から15秒の範囲内であるが、より長い又はより短いサンプリング間隔も考えられる。
【0026】
こうして、ループ42、44は、スライディング窓最大処理42、44を実現する。そこでは、呼気終末CO2サンプルが取られる現在の各時間tに対して、時間窓W(t)におけるカプノグラム40の最大[CO2]値が、現在時間tのetCO2値として選択される。出力は、(呼吸毎に計算される呼気終末CO2と比較して)最大肺胞CO2分圧のより滑らかでより近い近似の両方の利点を持つetCO2信号50である。etCO2信号50の別の利点は、etCO2サンプルがサンプリング間隔Tsで等間隔に配置されることである。一方、1呼吸あたりの呼気終末CO2信号は、呼吸間隔に基づき不均一に間隔を空けられる(しかし、呼吸ごとの信号は、等間隔のデータを提供するため再サンプリング又は他の態様で後処理されることができる)。
【0027】
このスライディング窓最大処理は、
として数学的に表されることができる。ここで、tは、時間を表し、[CO2]は、カプノグラフ信号40を表し、窓W(t)は、カプノグラム40の以下の部分
であり、関数
は、窓W(t)にわたる最大二酸化炭素レベルを返す。式(1)のetCO2(t)の計算は、サンプリング間隔Tsで時間の関数としてetCO2信号50を生成するため、サンプリング間隔Tsで、例えば
図2に示されるように時間t0、t0+Ts、t0+2Ts、t0+3Ts、...において、対応する時間窓W(t0)、W(t0+Ts)、W(t0+2Ts)、W(t0+3Ts)、...を用いて、繰り返される。
【0028】
図2に更に示されるように、このスライディング窓最大処理の第1の反復は、初期ウィンドウW0を生成するため、遅延時間Tdelay=Twだけ遅延されることを理解されたい。この遅延が長すぎると考えられる場合、etCO2信号50の最初のサンプルをより迅速に取得するため、最初の反復に対してより短い時間窓を使用することが考えられる。しかし、この場合、より小さい初期ウィンドウ期間に起因して、より大きい誤差が生じる可能性がある。
【0029】
式(2)において、窓W(t)は、現在の時間tより1サンプル遅れた右(即ち、最高の時間値)エッジを持つと規定されるが、より一般的には、遅延Dがオプションで採用されることができ、より一般的に
となる。式(2a)の窓W(t)において、遅延D=0が可能性として想定され、処理42が実行されるとき[CO2]tに対する安定値が利用可能である場合に使用されることができる。
【0030】
留意されるように、etCO2信号50は、時間窓Wにわたり最大値をとる平滑化処理により、呼吸毎に計算される呼気終末CO2と比較して平滑化される。しかしながら、誤って高いCO2値をもたらす任意のランダムノイズは、スライディング窓最大処理42、44により捕捉される。
図1の例示的な実施形態では、これは、平滑化されたetCO2信号54を生成するため、ローパスフィルタ、デジタル平均フィルタ、メジアンフィルタなどのオプションの平滑化フィルタ52により抑制される。(平滑化処理54は、
図2には示されていないことに留意されたい)。付加的又は代替的に、時折の偽の高CO2値の抑制は、式(1)のmax(・・・)演算の詳細な構成により抑制されることができる。例えば、max(・・・)演算は、ウィンドウWにおける2番目又は3番目に高いCO2値を出力することができ、又はウィンドウWにおけるN個の最高[CO2]値の平均を出力することができる(ここで、Nは低い正の整数であり、例えば、
である)。更に別のアプローチとして、処理42を適用する前に、弱い平滑化フィルタ(図示省略)がカプノグラフ信号40に適用されることができる。例えば、この弱い平滑化フィルタは、置換
を作る移動平均フィルタであってもよい。
【0031】
図3及び
図4を参照すると、処理ループ42、44の実例が示される。
図3は、従来のように各呼吸にわたり最大[CO2]値を取ることにより測定される呼気終末CO2の実験例を示す。大量の「ノイズ」が観測されるが、この「ノイズ」を構成する大きな振幅偏差は、主に下方向、即ち低い[CO2]値に向かって存在する点に留意されたい。これは、呼気終末CO2におけるエラーの大部分の臨床的又は生理学的原因(例えば、呼吸間の気道デッドボリュームの不完全な流出、平行肺胞デッドボリューム、補充酸素の影響)が、呼吸ごとのカプノグラフィにより生成される呼気終末CO2値を低下させる傾向があるという本書でなされる観察を反映する。即ち、観測される偏差は、真のランダムノイズの特徴ではなく、呼吸ごとに計算される呼気終末CO2値を体系的に減少させる系統誤差の特徴である。
【0032】
対照的に、
図4は、
図3の呼気終末CO2信号を生成するために従来のように処理される同じカプノグラム信号にスライディング窓最大処理42、44を適用することにより生成されるetCO2信号50を示す。etCO2信号50のこの実験例は、主に下向きの偏差が除去され、etCO2値が、
図3の呼吸ごとの呼気終末CO2信号よりも全体的に高いという点で、はるかに「ノイズが少ない」ことが分かる。従って、スライディング窓最大処理42、44により生成されるetCO2信号50は、
図3の呼気終末CO2データと比較して、肺胞最大CO2分圧のより良い代用物である。
【0033】
本発明が、好ましい実施形態を参照して説明されてきた。上記の詳細な説明を読み及び理解すると、第三者は、修正及び変更を思いつくことができる。本発明は、添付の特許請求の範囲又はその均等の範囲に入る限りにおいて、斯かる修正及び変更の全てを含むものとして解釈されることが意図される。