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特許7012007繊維処理剤、繊維加工品の製造方法及び繊維加工品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】繊維処理剤、繊維加工品の製造方法及び繊維加工品
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/27 20060101AFI20220120BHJP
   D06M 13/292 20060101ALI20220120BHJP
   D06M 13/325 20060101ALI20220120BHJP
   D06M 15/356 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
D06M15/27
D06M13/292
D06M13/325
D06M15/356
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018513129
(86)(22)【出願日】2017-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2017014965
(87)【国際公開番号】W WO2017183535
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2016082714
(32)【優先日】2016-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】川原 勇汰
(72)【発明者】
【氏名】深瀬 一成
(72)【発明者】
【氏名】中川 康宏
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/113796(WO,A1)
【文献】特開2012-089375(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047652(WO,A1)
【文献】特開平03-243344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715
C08K3/00-C08L101/14
C09D1/00-10/00
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有不飽和単量体(A)と重合性不飽和単量体(B)との共重合体(P)と、
防錆剤(C)と、
難燃剤(D)と、
を含む繊維処理剤であって、
前記重合性不飽和単量体(B)が、
(メタ)アクリル酸アルキルエステル不飽和単量体(b1)と、
(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群から選択される少なくとも一種の不飽和単量体(b2)と、
を含み、
前記防錆剤(C)は、カルボキシベンゾトリアゾールまたは1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾールを含み、
前記リン含有不飽和単量体(A)が、リン酸基又は亜リン酸基を有する単量体(a1)を含み、
前記重合性不飽和単量体(B)を、共重合体(P)中の全単量体に対し40質量%以上含有し、
前記重合性不飽和単量体(B)において、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル不飽和単量体(b1)及び前記(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群から選択される少なくとも一種の不飽和単量体(b2)との質量比(b1/b2)は、96/4~4/96であり、
前記防錆剤(C)を、全繊維処理剤に対し0.1~15質量%含有し、
前記難燃剤(D)を、全繊維処理剤に対し0.1~70質量%含有することを特徴とする繊維処理剤。
【請求項2】
前記リン酸基又は亜リン酸基を有する単量体(a1)が、アシッド・ホスホオキシポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートを含む、請求項に記載の繊維処理剤。
【請求項3】
前記難燃剤(D)が、リンを含有する、請求項1又は2に記載の繊維処理剤。
【請求項4】
繊維処理剤中のリン原子量が0.01~30質量%である、請求項1~のいずれかに記載の繊維処理剤。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の繊維処理剤を用いて繊維基材を処理し、繊維加工品を得る工程を有する、繊維加工品の製造方法。
【請求項6】
乾燥後の請求項1~のいずれかに記載の繊維処理剤の付着量が、繊維基材100重量部に対し50~100質量部である繊維加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維に難燃性及び防錆性を付与することができる繊維処理剤、該繊維処理剤を用いた繊維加工品の製造方法及び該繊維加工品の製造方法を用いて得られる繊維加工品に関する。
本願は、2016年4月18日に、日本に出願された特願2016-082714号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築材料や、家電、電子材料、自動車等の車両内装材等の用途において使用される繊維加工品の難燃化が求められている。また、そのような繊維加工品には、物性向上剤および接着剤として、合成樹脂及び各種添加剤を含有する繊維処理剤が広く用いられている。前記のような難燃繊維加工品を得るために、繊維に難燃性や防錆性を付与する繊維処理剤が求められている。そのような繊維処理剤の開発が進められている。
【0003】
一般的に、繊維を難燃化する方法としては、主に繊維処理剤に難燃剤を添加する方法が挙げられる。このような難燃剤として、例えば、赤リンやリン酸塩、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの無機系難燃剤;ペンタブロモビフェニル、オクタブロモビフェニル、デカブロモビフェニルなどのハロゲン系難燃剤;リン酸グアニジン、トリフェニルホスフェート、スルファミン酸などの非ハロゲン難燃剤などが良く知られている。
【0004】
しかし、これら難燃剤は、一般的に繊維処理剤中の合成樹脂との相溶性に問題があるため、繊維加工品において難燃剤成分が分離、沈降及びチョーキングを引き起こすことがある。
さらに、合成樹脂を含有する繊維処理剤においてこれらの難燃剤を用いた場合、このような繊維処理剤は、繊維加工品に難燃性を付与するだけでなく、強度や風合い、防錆性等の繊維加工品の他の諸物性に悪影響を与えないことが求められる。しかし、一般的に繊維加工品へ難燃性を付与するためには難燃剤を多量に添加する必要があるため、繊維加工品の物性を阻害する原因となっている。
【0005】
特に無機系難燃剤は難燃化性能が乏しく、繊維処理剤への多量の添加が必要であるため、合成樹脂等の他の添加剤成分との比重差から沈降が生じやすい。また、無機系難燃剤を用いた繊維加工品では風合いが硬くなるといった問題も生じやすい。
【0006】
一方、ハロゲン系難燃剤は難燃化性能が優れているため、繊維処理剤への添加が少量で済む。このことから、これらを含む繊維処理剤を用いて加工した繊維加工品の物性に与える影響は少ない。しかし、塩素や臭素といったハロゲン元素を含有しているため、これらを用いた繊維加工品を焼却する場合にダイオキシンやハロゲン化水素といった有害な物質を発生する恐れがあり、EU諸国を始めとした世界各国で規制や使用の見直しが行われている。
【0007】
非ハロゲン系難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と比較して、安全性に優れているため、リン系を始めとした難燃剤が多く検討されている。しかし、リン系難燃剤の難燃化性能はハロゲン系の難燃剤よりも低く、比較的多量に使用しなければならない。そのため、リン系難燃剤を含む繊維処理剤は、該繊維処理剤を用いて加工した繊維加工品の物性を低下させてしまう。例えば、水溶性のリン系難燃剤は潮解性が高く、見かけ上、樹脂を可塑化するため、これらを用いた繊維加工品の強度、風合いを低下させる原因となる。また、油溶性のリン系難燃剤も、樹脂の可塑化や繊維処理剤表面へのブリーディングにより、強度、風合いを低下させるだけでなく、該繊維処理剤を用いた繊維加工品でベタツキやチョーキングを生じさせる原因となっている。
【0008】
また、繊維に防錆性を付与する方法としては、主に繊維処理剤に防錆剤を添加する方法が挙げられる。例えば、亜硝酸塩、クロム酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩などの無機系防錆剤;アルキルスルホン酸又はベンゼンスルホン酸のバリウム塩、バリウムせっけん、有機アミンのカルボン酸塩、安息香酸塩などの有機系防錆剤が良く知られている。
【0009】
無機系防錆剤は、有機系防錆剤と比較して、防錆性に優れているため多くの検討がなされている。しかし、一般的に、無機系防錆剤には人体に有害な物質が含有されており、環境への影響が懸念されている。例えば、亜硝酸塩は高い防錆性を示すことが知られているが、人体への有害性が指摘されており、亜硝酸フリーの防錆剤が求められている。クロム酸塩も同様に高い防錆性を示すことが知られているが、重金属を含有しており、亜硝酸塩同様に人体への有害性や、その処理過程における排水規制などがあり、現在ではその使用が避けられている。
【0010】
有機系防錆剤は、前記無機系防錆剤で指摘されていたような人体への有害性や環境負荷といった課題を解決するものとして広く使用されている。高い防錆性を示す有機系防錆剤として、例えば、アルキルスルホン酸又はベンゼンスルホン酸のバリウム塩、バリウムせっけん等が知られているが、近年、バリウム塩の人体に対する有害性が指摘され、その使用に対する欧米等の規制が行われている。アルキルコハク酸ハーフエステル、アルケニルコハク酸ハーフエステル等の各種のカルボン酸エステルは一定の防錆性を示すが、十分なものではない。一方、安息香酸塩は防錆性を示すことが知られており、自動車エンジン用不凍冷却液の添加剤等にも用いられている。また、一般的に安息香酸塩は人体に与える影響が軽微であり、食品保存料等に用いられるなど、無機系防錆剤に比べて環境負荷が低いといった利点がある。しかしながら、一般的に有機系防錆剤は可燃性であり、これらを用いた繊維処理剤では、繊維加工品の難燃性を低下させる原因となっている。
【0011】
例えば、特許文献1に開示される、リン酸基や亜リン酸基骨格を有する不飽和単量体と、アクリル酸系不飽和単量体と、酢酸ビニル単量体とを共重合した非ハロゲン系の難燃性樹脂組成物が提案されているが、該難燃性樹脂組成物を用いた加工品は強度、剛軟性を満足するものではなく、さらなる物性向上が望まれていた。
【0012】
また、例えば、特許文献2には、難燃性樹脂組成物を用いた加工品が開示されたが、防錆性に関する開示がない。難燃性と防錆性を両立する加工品が得られる繊維処理剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平7-18028号公報
【文献】特許第5669363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明は、難燃性及び防錆性が共に優れた処理加工品が得られる、繊維処理剤を提供することにある。また、本発明の他の目的は、該繊維処理剤を用いた繊維加工品の製造方法及び該繊維加工品の製造方法を用いて得られる繊維加工品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔11〕に関する。
〔1〕リン含有不飽和単量体(A)と重合性不飽和単量体(B)との共重合体(P)と、防錆剤(C)と、難燃剤(D)と、を含む繊維処理剤であって、前記重合性不飽和単量体(B)が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル不飽和単量体(b1)と、(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群から選択される少なくとも一種の不飽和単量体(b2)と、を含むことを特徴とする繊維処理剤。
〔2〕前記リン含有不飽和単量体(A)が、リン酸基又は亜リン酸基を有する単量体(a1)を含む、上記〔1〕に記載の繊維処理剤。
〔3〕前記リン酸基又は亜リン酸基を有する単量体(a1)が、アシッド・ホスホオキシポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートを含む、上記〔2〕に記載の繊維処理剤。
〔4〕前記防錆剤(C)が、アミンのカルボン酸塩、安息香酸塩を含む、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の繊維処理剤。
〔5〕前記難燃剤(D)が、リンを含有する、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の繊維処理剤。
〔6〕前記重合性不飽和単量体(B)を、共重合体(P)中の全単量体に対し40質量%以上含有する、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の繊維処理剤。
〔7〕前記防錆剤(C)を、全繊維処理剤に対し0.1~15質量%含有する、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の繊維処理剤。
〔8〕前記難燃剤(D)を、全繊維処理剤に対し0.1~70質量%含有する、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の繊維処理剤。
〔9〕繊維処理剤中のリン原子量が0.01~30質量%である、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の繊維処理剤。
〔10〕上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の繊維処理剤を用いて繊維基材を処理し、繊維加工品を得る工程を有する、繊維加工品の製造方法。
〔11〕乾燥後の上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の繊維処理剤の付着量が、繊維基材100質量部に対し50~100質量部である、繊維加工品。
【発明の効果】
【0016】
本発明の繊維処理剤は、処理された加工品が優れた難燃性を有し、かつ防錆性が共に優れている。該繊維処理剤を用いた繊維加工品の製造方法により得られる繊維加工品は、難燃性及び防錆性に共に優れることから、家電、電子材料、自動車内装材用途の繊維用素材として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
[繊維処理剤]
【0018】
本発明の繊維処理剤は、リン含有不飽和単量体(A)と、重合性不飽和単量体(B)との共重合体(P)と、防錆剤(C)及び難燃剤(D)とを含む。
本実施の形態に係る繊維処理剤は、処理された加工品について難燃性と防錆性との両方が共に優れ、繊維用の難燃処理剤として有用であり、各種繊維に好適に使用できる。
ここで、本明細書における「~」は、「~」という記載の前の値以上、「~」という記載の後の値以下を意味する。
【0019】
また、本明細書における「(メタ)アクリレート」等の記載は、「アクリレート及び/又はメタクリレート」等と同義である。
【0020】
(共重合体(P))
本発明にかかる共重合体(P)は、リン含有不飽和単量体(A)と重合性不飽和単量体(B)とを重合させて得られる共重合体である。
【0021】
<リン含有不飽和単量体(A)>
本発明において用いるリン含有不飽和単量体(A)は、分子中にエチレン性不飽和結合と、リン原子と、を含有するものであれば特に制限されない。
前記リン含有不飽和単量体(A)の具体例としては、ジメチルビニルホスホナート、ジエチルビニルホスホナート、ジフェニルビニルホスホナート、ジフェニルビニルホスホナート、ジメチル(1,2-ジフェニル-エテニル)ホスホナート、ジメチル-p-ビニルベンジルホスホナート、ジエチル-p-ビニルベンジルホスホナート、ジフェニル-p-ビニルベンジルホスフィンオキシド、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド-10-p-ビニルベンジル、アシッド・ホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル-2-メタクリロイルオキシエチルホスフェート、(メタ)アクロイル・オキシエチルアシッドホスフェート・モノエタノールアミン塩、アシッド・ホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート及びアシッド・ホスホオキシポリオキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、並びこれらの金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩等を挙げることができる。これらの化合物は、単独で又は二種以上の混合物として使用することができる。
【0022】
〔リン酸基又は亜リン酸基を有する単量体(a1)〕
前記リン含有不飽和単量体(A)としては、リン酸基又は亜リン酸基を有する単量体(a1)が好ましい。前記リン酸基又は亜リン酸基を有する単量体(a1)としては、例えば、一般式(1):
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して水素又は炭素数1~3のアルキル基を表し;Yは、ヒドロキシル基、炭素数1~3のアルキル基又は炭素数1~3のアルキルエステル基を表し;Zは、水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1~3のアルキル基又は炭素数1~3のアルキルエステル基を表し;nは1~20の整数である)で示される化合物、並びこの化合物の金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩等が挙げられる。これらの化合物は、単独で又は二種以上の混合物として使用することができる。R、R、Y、Zはそれぞれ、水素又はメチル基が好ましい。また、nは1~3が好ましい。
【0023】
前記リン酸基又は亜リン酸基を有する単量体(a1)の具体例としては、アシッド・ホスホオキシポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。より具体的には、アシッド・ホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート、アシッド・ホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート及びアシッド・ホスホオキシポリオキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの化合物は、単独で又は二種以上の混合物として使用することができる。中でも、1分子あたりのリン含有量が高い点で、アシッド・ホスホオキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0024】
前記リン含有不飽和単量体(A)は、リン含有不飽和単量体(A)と重合性不飽和単量体(B)との共重合体(P)中の全単量体に対し20質量%~60質量%の範囲で使用することが好ましく、23~50質量%の範囲で使用することがより好ましく、26質量%~40質量%の範囲で使用することがさらに好ましい。20質量%以上であると本繊維処理剤で処理された加工品の難燃性が十分であり、60質量%以下であれば重合が安定し、本繊維処理剤を用いた加工品の強度や耐熱黄変性が低下することがない傾向にある。
【0025】
また、前記リン含有不飽和単量体(A)の重合割合は、リン含有不飽和単量体(A)と、重合性不飽和単量体(B)と共重合体(P)において、(A)成分と(B)成分中の、リンの原子量およびリン含有不飽和単量体(A)の分子量から計算されるリン原子の含有量が3~13質量%となるように適宜決定すればよい。難燃性付与と共重合体(P)の重合安定性、加工品における物性発現のバランスを考慮すると、リン含有量が3~10質量%となるように重合することが好ましい。3質量%より多ければ、共重合体(P)自身の難燃性が十分であるため繊維処理剤としての難燃性が十分であり、13質量%未満では共重合体(P)の重合が安定する。
【0026】
<重合性不飽和単量体(B)>
本発明において用いる重合性不飽和単量体(B)は、分子中にエチレン性不飽和結合を有しており、重合性を発現し、前記リン含有不飽和単量体(A)と共重合するものであれば特に制限されない。また、複数の種類の単量体であってもよい。
【0027】
前記重合性不飽和単量体(B)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸及びそれらのエステル類;(メタ)アクリルアミド及びその誘導体;スチレン及びその誘導体;ビニルエステル;N置換マレイミド化合物;イタコン酸、クロトン酸、フタル酸及びそれらのエステル類及びそれらの金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0028】
また、前記重合性不飽和単量体(B)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、エタンジオールジ(メタ)アクリレート、プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ペンタエリトリットテトラ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジブチルフマレート、ジ-(2-エチルヘキシル)フマレート等のフマル酸エステル;ジメチルマレート、ジエチルマレート、ジブチルマレート、ジ-(2-エチルヘキシル)マレート等のマレイン酸エステル;メタクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体;メトキシスチレン、エトキシスチレンビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルベンジルアセテート、ヒドロキシスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン誘導体;酢酸ビニル;プロピオン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルマレイミド、エチルマレイミド、イソプロピルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、フェニルマレイミド、ベンジルマレイミド、ナフチルマレイミド等のN置換マレイミド化合物;モノメチルイタコネート、ジメチルイタコネート、モノエチルイタコネート、ジエチルイタコネート、モノブチルイタコネート、ジブチルイタコネート等のイタコン酸エステル;メチルクロトネート、エチルクロトネート、ブチルクロトネート等のクロトン酸エステル;ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジプロピルフタレート、ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート等のフタル酸エステル;等が挙げられ、これらは単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
前記重合性不飽和単量体(B)の中でも、特に、本繊維処理剤で処理することにより得られる繊維加工品における難燃性発現の観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステル不飽和単量体(b1)及び(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群から選択される少なくとも一種の不飽和単量体(b2)を共に用いるのが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル不飽和単量体(b1)を用いると、本発明の繊維処理剤を用いて処理した繊維加工品における難燃剤(D)成分の耐ブリーディング性が向上するという面で、好ましい。(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群から選択される少なくとも一種の不飽和単量体(b2)を用いると、本発明の繊維処理剤を用いて処理した繊維加工品の防錆性が向上するという面で、好ましい。
【0030】
〔(メタ)アクリル酸アルキルエステル不飽和単量体(b1)〕
(メタ)アクリル酸アルキルエステル不飽和単量体(b1)のアルキル基は、炭素数1~5のアルキルであることが好ましい。具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、なかでも難燃性発現の点でメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが好ましい。これらは単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
また、さらに、他の(メタ)アクリル酸アルキルエステル不飽和単量体(b1)を用いてもよい。具体例としては、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
〔(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群から選択される少なくとも一種の不飽和単量体(b2)〕
(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群から選択される少なくとも一種の不飽和単量体(b2)は、本発明の繊維処理剤の難燃性を向上させるために使用する。中でも、重合の安定性を損なうことがなく、共重合体(P)中の含有量を高くすることができるという面で、アクリル酸が好ましい。
また、(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群から選択される少なくとも一種の不飽和単量体(b2)と併用して、(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群以外から選択されるカルボキシル基を有する不飽和単量体を用いてもよい。(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群以外から選択されるカルボキシル基を有する不飽和単量体の具体例としては、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、これらは単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
前記重合性不飽和単量体(B)は、繊維処理剤に含まれる、リン含有不飽和単量体(A)と重合性不飽和単量体(B)との共重合体(P)中の全単量体に対し、その合計で40質量%以上使用することが好ましく、50質量%~80質量%使用することがより好ましい。
40質量%以上であると、本発明の繊維処理剤の重合が安定し、80質量%以下であると、本発明の繊維処理剤を用いて処理した繊維加工品の難燃性が十分である傾向にある。
重合性不飽和単量体(B)において、(メタ)アクリル酸アルキルエステル不飽和単量体(b1)及び(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群から選択される少なくとも一種の不飽和単量体(b2)の合計量は90質量%以上が好ましく、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
重合性不飽和単量体(B)において、(メタ)アクリル酸アルキルエステル不飽和単量体(b1)及び(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群から選択される少なくとも一種の不飽和単量体(b2)との質量比(b1/b2)は、例えば、96/4~4/96であることが好ましく、79/21~21/79であることがより好ましく、75/25~30/70であることが更に好ましい。その範囲内の場合、本発明の繊維処理剤を用いて処理した繊維加工品における難燃剤(D)成分の耐ブリーディング性が向上する傾向にある。また、本発明の繊維処理剤を用いて処理した繊維加工品の難燃性又は防錆性が向上する傾向にある。
【0034】
(共重合体(P)の製造方法)
本発明の繊維処理剤に含まれる、リン含有不飽和単量体(A)と重合性不飽和単量体(B)との共重合体(P)は、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法などの公知の共重合方法を用いて製造することができる。また、連続式重合法でも回分式重合法でも製造することができる。
【0035】
(防錆剤(C))
本発明において用いられる防錆剤(C)は、本発明の繊維処理剤で処理された加工品の難燃性を著しく損なわないでものであれば特に制限されない。
【0036】
前記防錆剤(C)の具体例としては、モノ及びジイソプロピルアミンナイトライト、モノおよびジシクロヘキシルアミンナイトライト、トリエチルアミンナイトライト、ピリジンナイトライト、アニリンナイトライト等の亜硝酸塩;アルキルコハク酸ハーフエステル、アルケニルコハク酸ハーフエステル等の各種のカルボン酸エステル;ジシクロヘキシルアンモニウムサリシレート、ジシクロヘキシルアンモニウムシクロヘキサンカルボキシレート、シクロヘキシルアミンシクロヘキサンカルボキシレート、ジシクロヘキシルアンモニウムアクリレート、シクロヘキシルアミンアクリレート及びそれらのカルバミン酸塩、ナフテン酸塩、オクチル酸塩等のアミンのカルボン酸塩;エチルモルホリン安息香酸塩、ジ及びモノシクロヘキシルアミン安息香酸塩、モノエタノールアミン安息香酸塩、安息香酸ナトリウム等の安息香酸塩;各種のクロム酸塩;リン酸塩;ケイ酸塩;スルホン酸塩等が挙げられ、なかでも、環境負荷、使用規制や効率的な防錆性発現の点で、アミンのカルボン酸塩又は安息香酸塩が好ましい。これらの化合物は単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
本発明の繊維処理剤における、防錆剤(C)の含有量は、0.1~15質量%が好ましく、0.5~10質量%であることがより好ましく、1~5質量%であることが更に好ましい。0.1質量%より少なくなると、本発明の繊維処理剤に処理された加工品の防錆性が低下し、15質量%より多くなると、繊維処理剤の乾燥性が低下し、該繊維処理剤を処理することで得られる繊維加工品の物性を阻害したり、該繊維加工品の処理性が低下する傾向にある。また、この範囲になると、本発明の繊維処理剤に用いて処理された加工品の防錆性が低下することなく、下記の適量な難燃剤との併用によって、加工品の難燃性も低下することがない。
【0038】
(難燃剤(D))
本発明において用いられる難燃剤(D)は、繊維処理剤中に混合できるものであれば特に制限されない。
【0039】
前記難燃剤(D)の具体例としては、グアニジンホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(t-ブチル化フェニル)ホスフェート、トリス(i-プロピル化フェニル)ホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、赤リン、1,3-フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、1,3-フェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)及びそれらの金属塩等のリン系難燃剤;三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモンソーダ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機系難燃剤;メラミンシアヌレート等の窒素系難燃剤;ペンタブロモビフェニル、オクタブロモビフェニル、デカブロモビフェニル等のハロゲン系難燃剤等が挙げられる。なかでも、環境負荷の低さや効率的な難燃性発現の点で、リンを含有する難燃剤を用いることが好ましい。これらの化合物は単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
本発明の繊維処理剤における、難燃剤(D)の含有量は、0.1~70質量%が好ましく、0.5~50質量%であることがより好ましく、1~30質量%であることが更に好ましい。0.1質量%以上であると、本発明の繊維処理剤で処理された加工品の難燃性が十分となり、70質量%以下であると、本発明の繊維処理剤を用いて処理することで得られる繊維加工品においてチョーキングやべたつき等が抑制される傾向にある。
本発明の繊維処理剤における、難燃剤(D)の含有量は、防錆剤(C)の含有量との合計が40質量%以下であることが好ましい。40質量%以下であると、ブリーディングが抑制される傾向にあり、また、本発明の繊維処理剤を用いて処理することで得られる繊維加工品においてチョーキングやべたつき等が抑制される傾向にある。
【0041】
本発明の繊維処理剤中の合計リン原子の含有量は、0.01~30質量%が好ましく、0.05~25質量%であることがより好ましく、0.1~20質量%であることが更に好ましい。0.01質量%以上であると、本発明の繊維処理剤で処理された加工品の難燃性が十分であり、30質量%以下であると、本発明の繊維処理剤を用いて処理することで得られる繊維加工品においてチョーキングやべたつき等が抑制される傾向にある。
【0042】
<その他成分>
〔開始剤〕
ラジカル重合によって、リン含有不飽和単量体(A)と、重合性不飽和単量体(B)との共重合体(P)を得る場合、重合は開始剤の存在下にて行われる。この重合反応で使用するラジカル重合開始剤はラジカル重合を開始できるものであれば特に限定されるものではなく、通常用いられている過酸化物やアゾ化合物を使用することができる。例えば、その具体例としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシル-3,3-イソプロピルヒドロパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルヒドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、イソブチルパーオキサイド、3,3,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスカルボンアミド等を挙げることができ、反応によっては適当な還元剤を使用してもよい。開始剤の使用量は、共重合体(P)中の、リン含有不飽和単量体(A)及び重合性不飽和単量体(B)の合計100質量部に対して0.01~20質量部が好ましく、0.1~10質量部が更に好ましい。
【0043】
〔界面活性剤〕
本発明の繊維処理剤に含まれる、リン含有不飽和単量体(A)と重合性不飽和単量体(B)との共重合体(P)を、乳化重合法により製造する際には、界面活性剤の存在下で行われる。界面活性剤としては、一般に市販されているアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び共重合性界面活性剤が使用できる。また、これらの界面活性剤は、単独または二種類以上を組み合わせて使用することができる。使用する界面活性剤量はリン含有不飽和単量体(A)及び重合性不飽和単量体(B)の合計に対して0.01~30質量部が好ましく、0.1~20質量部が更に好ましい。なお重合安定性の観点から、同様に水溶性(メタ)アクリル酸樹脂、水溶性(メタ)アクリル酸エステル樹脂、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の水溶性高分子を保護コロイドとして用いてもよい。また、これらの保護コロイドは、鹸化度、平均重合度、変性の有無に関係なく使用することができるが、平均重合度は、重合安定性、製品粘度の観点から200~2,400であることが好ましく、鹸化度は、重合安定性の観点から、80%~100%であることが好ましい。また、これらの保護コロイドの使用量は、特に制限されるものではないが、重合安定性の観点から、リン含有不飽和単量体(A)及び重合性不飽和単量体(B)の合計100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましく、10~30質量部であることが更に好ましい。
【0044】
〔その他の添加剤〕
本発明の繊維処理剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、充填剤、防腐剤、着色剤、消泡剤、発泡剤、分散剤、乳化剤、流動性調整剤、可塑剤、pH調整剤、各種油剤等の添加剤を配合してもよい。
【0045】
〔その他の添加樹脂〕
また、本発明の繊維処理剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂エマルジョンや溶液樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の各種樹脂組成物をバインダーとして含有していてもよい。
【0046】
〔溶媒〕
本発明の繊維処理剤の製造に用いられる溶媒は水や通常用いられている有機溶剤を使用することができる。例えばその具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類等の酢酸エステル類;エチレングリコールジアルキルエーテル類、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール等のジエチレングリコールジアルキルエーテル類、トリエチレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールジアルキルエーテル類、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル類、メチルエーテル、エチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、オクタン、デカン等の炭化水素類;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤;乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等の乳酸エステル類;ジメチルホルムアミド;N-メチルピロリドン等が挙げられる。これらの水、有機溶剤は単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
[繊維]
本明細書において、繊維とは、各種繊維及びそれらの混紡品からなる不織布、織物、編物等を含む。また、該繊維としては、例えば、木綿、麻、絹、羊毛、コラーゲン繊維、アクリル繊維、セルロース系繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエチレン繊維、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維及びこれらの混紡品からなる不織布、織物、編物等が挙げられる。
【0048】
[繊維加工品の製造方法]
本発明の繊維処理剤で繊維(基材)を処理し、繊維加工品を製造する方法としては、各種公知の方法を特に制限なく採用することができる。例えば、本発明の繊維処理剤を繊維に塗布し処理する方法としては、ダイレクトコート法、スプレーコート法、ロールコーター法、スロットコーター法、ナイフコート法、プリント法、ロール転写法、等が挙げられる。また、例えば、繊維を本発明の繊維処理剤に浸漬し処理する方法としては、水平ローラー法、メタリングローラー法、スクリーンコンベア法、フォーム法、等が挙げられる。
例えば、不織布といった繊維を本発明の繊維処理剤で処理する場合の加工方法は、スプレーコート法、プリント法、ロール転写法、水平ローラー法、メタリングローラー法、スクリーンコンベア法、フォーム法、等が挙げられる。また、例えば、織物といった繊維を本発明の繊維処理剤で処理する場合の加工方法は、ダイレクトコート法、スプレーコート法、ロールコーター法、スロットコーター法、ナイフコート法、等が挙げられる。また、繊維をシート状に形成させウェブを作成し、そのウェブをさらに接着あるいは絡み合わせて布形化する場合、前記繊維処理は、ウェブ化する前の繊維に対して行っても良いし、繊維を各種の方法でウェブ化した後に行ってもよい。前記繊維ウェブ化方法は、各種公知の方法を特に制限なく採用することができ、例えば、エアレイ法等が挙げられる。
【0049】
各種繊維基材に対する繊維処理剤の使用量は、基材自身の難燃性にもよるが、樹脂付着量(付着した繊維処理剤を乾燥した後の付着量)が10~200質量部/100質量部となる量が好ましく、30~150質量部/100質量部となる量がより好ましく、50~100質量部/100質量部となる量が更に好ましい。10質量部/100質量部以上であると、本発明の繊維処理剤を用いて得られる繊維加工品の難燃性及び防錆性が十分であり、200質量部/100質量部より多くなると、本発明の繊維処理剤を用いて得られる繊維加工品の強度、風合いの低下が抑制される傾向にある。乾燥は送風乾燥でもよいし、減圧乾燥でもよいし、加圧乾燥でもよい。また、加熱してもよい。乾燥の際に加熱する場合、温度は乾燥の際に加熱する場合の温度の範囲は、50~250℃が好ましく、80~190℃がより好ましい。加熱温度が低すぎると乾燥に時間がかかったり、乾燥が不充分になる可能性がある。加熱温度が高すぎると、変質を起こす可能性がある。
【0050】
[繊維加工品]
本発明の繊維加工品は、本発明の繊維加工品の製造方法を用いて得られる。樹脂付着量(乾燥後の繊維処理剤の付着量)が、繊維(基材)に対し50~100質量部/100質量部である10~200質量部/100質量部となる量が好ましく、30~150質量部/100質量部となる量がより好ましく、50~100質量部/100質量部となる量が更に好ましい。10質量部/100質量部以上であると、本発明の繊維加工品の難燃性及び防錆性が十分であり、200質量部/100質量部以下であると、本発明の繊維加工品の強度、風合いの低下が抑制される傾向にある。
本発明の繊維加工品は、両立する優れた難燃性と防錆性を有すること等を活かして種々の分野に適用できる。例えば、本発明の繊維加工品は、電子材料用緩衝材、家電用緩衝材、自動車内装緩衝材等として好適に用いられる。
【実施例
【0051】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に説明するが、本発明は実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
イオン交換水150gを1Lの五つ口セパラブルフラスコに入れ、撹拌しながら80℃まで加熱した。アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート(共栄社化学株式会社製、ライトエステルP-1M、リン含有量15質量%)60g、メチルメタクリレート36g、エチルアクリレート36g、アクリル酸18g、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ1.5g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル7.5g、イオン交換水150gを均一に乳化した。セパラブルフラスコに過硫酸カリウム0.2gを添加し、単量体乳化物の滴下を開始することで反応を開始した。単量体乳化物は4時間掛けてセパラブルフラスコ内に添加、同時に3%過流酸カリウム水溶液30gも4時間掛けて添加した。単量体乳化物の添加終了後、80℃で2時間撹拌し、反応を終了した。セパラブルフラスコ内を冷却し、30%水酸化ナトリウム水溶液を8g添加し、系内を中和した。
【0053】
その後、撹拌しながら、イオン交換水20gで希釈した難燃剤ポリリン酸アンモニウム(株式会社鈴裕製、FCP-770、リン含有量24%)20g、イオン交換水10gで希釈した防錆剤カルボキシベンゾトリアゾール(城北化学工業株式会社製、CBT-1)10gを添加し、イオン交換水10gを加えた。難燃剤と防錆剤の添加終了後、1時間撹拌し、繊維処理剤1を調製した。その組成を表1に示す。
得られた繊維処理剤1を用いて、後述の方法で繊維加工品を作製した。得られた繊維加工品の物性評価を後述の評価方法で行った。その評価結果を表4に示す。
【0054】
(実施例2~12)
表1と表2に示す組成としたこと以外は実施例1と同様の方法で調製を行い、繊維処理剤2~12を調製した。
なお、表1と表2中における各成分の詳細は、次の通りである。
・ジフェニル-2-メタクリロイルオキシエチルホスフェート:大八化学工業株式会社製、MR-260、リン含有量8%
・1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール:城北化学工業株式会社製、BT-LX
・トリフェニルホスフェート:大八化学工業株式会社製、TPP、リン含有量10%
・ポリビニルアルコール:株式会社クラレ製、PVA205(鹸化度86.5~89.0%、平均重合度500)
得られた繊維処理剤2~12を用いて、後述の方法で繊維加工品を作製した。得られた繊維加工品の物性評価を後述の評価方法で行った。その評価結果を表4に示す。
【0055】
(比較例1~6)
表3に示す組成としたこと以外は実施例1と同様の方法で調製を行い、繊維処理剤13~18を調製した。
得られた繊維処理剤13~18を用いて、後述の方法で繊維加工品を作製した。得られた繊維加工品の物性評価を後述の評価方法で行った。その評価結果を表5に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】
【0059】
(繊維加工品の作製及び評価方法)
実施例1~12及び比較例1~6で得られた繊維処理剤を用いて、繊維加工品を作製した。得られた繊維加工品の物性評価を行った。繊維加工品の作製及び評価は下記の方法に従って行った。
【0060】
<基材>
本発明の実施例、比較例における繊維基材は次の通りとした。
(1)繊維
ポリエステル-セルロース不織布
(2)目付 35g/m
(3)厚さ 200μm
【0061】
<加工品の作製>
実施例1~12及び比較例1~6で得られた繊維処理剤を、それぞれ、イオン交換水を用いて、固形分が15質量%となるように希釈した後、基材繊維を繊維処理剤に含浸させた。その後、繊維処理剤を含浸させた基材繊維を2本マングルで絞り、熱風式乾燥機にて130℃で10分間乾燥させた。繊維処理剤の付着量は、繊維重量に対して40~50質量%であった。
<固形分の評価方法>
所定量の試料を予め精秤してある清浄なアルミ皿(高さ約17mm、口径約40mm)にとり、感度0.5mg以下の直示天秤を用いて精秤後、内温105℃±2℃に調整した乾燥機内に1時間放置する。乾燥後の試料はデシケーター内で室温まで冷却したのち、同一直示天秤にて精秤し、次式にて固形分を算出する。
固形分(%)=乾燥後の試料重量(g)/原試料重量(g)×100
<リン原子の含有量の評価方法>
比色定量法、ICP発光分析等、どのような方法を用いてもよいが、例えば、元素分析によりリン原子の含有量を求めることができる。
【0062】
<繊維加工品の評価>
繊維加工品の燃焼性、防錆性、ブリーディングについて評価した。
【0063】
(1)難燃性
繊維加工品作製後、23℃、50%RHの条件下に12時間以上静置した試験体で、UL-94垂直燃焼試験(V-0、V-1、V-2規格)に基づき、燃焼試験を行った。試験片のサイズは、長さ127mm、幅12.7mmとした。試験片5本について、接炎を各2回、合計10回行い、消炎時間の平均秒数及び最大秒数を測定し、判定を行った。
UL-94 垂直燃焼性試験(V)
V-0:5本の試験片の1回目と、2回目の接炎による合計燃焼時間が50秒以内であり、かつ最大燃焼時間が10秒以内であり、燃焼による材料の滴下がない。
V-1:5本の試験片の1回目と、2回目の接炎による合計燃焼時間が250秒以内であり、かつ最大燃焼時間が30秒以内であり、燃焼による材料の滴下がない。
V-2:5本の試験片の1回目と、2回目の接炎による合計燃焼時間が250秒以内であり、かつ最大燃焼時間が30秒以内であること。
【0064】
(2)防錆性
加工品作製後、23℃、50%RHの条件下に12時間以上静置した試験体をタテ:50mm、ヨコ:70mmに裁断し、真鍮(タテ:120mm、ヨコ:30mm、厚み:0.1mm)の主面に密着させ、60℃、95%RHの条件下に14日間静置して真鍮表面の錆の有無を確認した。表4と5において、評価結果を以下のように示す。
錆発生有:×
錆発生無:○
【0065】
(3)ブリーディング
加工品作製後、23℃、50%RHの条件下に12時間以上静置した試験体をタテ:50mm、ヨコ:70mmに裁断し、濾紙(タテ:100mm、ヨコ:60mm、No.2、東洋濾紙株式会社製)で挟み込み、60℃、95%RHの条件下に5日間静置し、加工品表面のブリーディングの有無を確認した。
表4と5において、評価結果を以下のように示す。
ブリーディング有:×
ブリーディング無:○
【0066】
【表4】

【0067】
【表5】

【0068】
表4の結果から、本発明の繊維処理剤(実施例1~12)で処理された繊維加工品については、難燃性、防錆性のいずれにおいても共によく優れていることがわかる。また、ブリーディングについても十分に抑制されていることがわかる。
これに対して、表5に示すとおり、難燃剤(D)を含まない繊維処理剤を用いる場合(比較例1)は、難燃性が不十分であることがわかる。リン含有不飽和単量体(A)を含まず、且つ難燃剤(D)を繊維処理剤中のリン量が2.6%になるよう添加した繊維処理剤を用いる場合(比較例2)は、60℃、95%RHの条件下で顕著なブリーディングを引き起こすことがわかる。リン含有不飽和単量体(A)を含まず、且つ難燃剤(D)を繊維処理剤中のリン量が1.4%になるよう添加した繊維処理剤を用いる場合(比較例3)は、難燃性が不十分であることがわかる。防錆剤(C)を含まない繊維処理剤を用いる場合(比較例4)は、60℃、95%RHの条件下で防錆性が不十分であることがわかる。(メタ)アクリル酸及びイタコン酸からなる群から選択される少なくとも一種のカルボキシル基を有する不飽和単量体(b2)を重合性不飽和単量体(B)成分として含まない繊維処理剤を用いる場合(比較例5)は、顕著なブリーディングを引き起こすことがわかる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル不飽和単量体(b1)を重合性不飽和単量体(B)成分として含まない繊維処理剤を用いる場合(比較例6)は、防錆性が不十分であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の繊維処理剤は、処理された繊維加工品が優れた難燃性や、高湿度条件下での優れた防錆性を有し、特に繊維処理用に好適である。また、本発明の繊維処理剤を用いた繊維加工品の製造方法は、難燃性、防錆性に優れる各種繊維加工品を製造するのに好適であり、この繊維加工品の製造方法を用いることによって、難燃性、防錆性に優れた繊維加工品を製造することができる。そして、この繊維加工品を使用することにより、難燃性、防錆性に優れる電子材料用緩衝材、家電用緩衝材、自動車内装緩衝材等の製造が可能となる。