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特許7012008改良型DC電力線通信システムおよび方法
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  • 特許-改良型DC電力線通信システムおよび方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】改良型DC電力線通信システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 3/54 20060101AFI20220120BHJP
【FI】
H04B3/54
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018515868
(86)(22)【出願日】2016-09-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-22
(86)【国際出願番号】 US2016053427
(87)【国際公開番号】W WO2017053787
(87)【国際公開日】2017-03-30
【審査請求日】2019-08-26
(31)【優先権主張番号】62/233,328
(32)【優先日】2015-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513075135
【氏名又は名称】コルモーゲン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】KOLLMORGEN CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユント、ジョージ ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ピアス、ロバート
【審査官】佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-227837(JP,A)
【文献】特開2007-104409(JP,A)
【文献】特開昭47-022008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 3/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二本の電力導線を有するケーブルを介して通信するための装置であって、前記装置は、
トランシーバと、
一次巻線および二次巻線を有する第一インダクタと、
一次巻線および二次巻線を有する第二インダクタと、を備え、
前記第一インダクタの一次巻線は前記第二インダクタの一次巻線に直列に接続され、
前記トランシーバは、前記第一インダクタおよび前記第二インダクタの、直列に接続された各一次巻線に結合され、
前記第一インダクタの二次巻線は、DC電源と前記ケーブル内の第一導線との間に結合され、
前記第二インダクタの二次巻線は、帰路と前記ケーブル内の第二導線との間に結合され、
前記第一インダクタおよび前記第二インダクタは、前記トランシーバと、前記ケーブル内の第一導線および第二導線と、の間で、磁気結合された通信を提供する
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
少なくとも二本の電力導線を有するケーブルを介して通信するための装置であって、前記装置は、
トランシーバと、
一次巻線および二次巻線を有する第一インダクタと、
一次巻線および二次巻線を有する第二インダクタと、を備え、
前記第一インダクタの一次巻線は前記第二インダクタの一次巻線に直列に接続され、
前記トランシーバは、前記第一インダクタおよび前記第二インダクタの、直列に接続された各一次巻線に結合され、
前記第一インダクタの二次巻線は、基準電圧と前記ケーブル内の第一導線との間に結合され、
前記第二インダクタの二次巻線は、帰路と前記ケーブル内の第二導線との間に結合され、
前記第一インダクタおよび前記第二インダクタの各二次巻線は、前記ケーブルの前記第一導線および前記第二導線からDC電力を供給し、
前記第一インダクタおよび前記第二インダクタは、前記トランシーバと、前記ケーブル内の第一導線および第二導線と、の間で、磁気結合された通信を提供する
ことを特徴とする装置。
【請求項3】
少なくとも二本の電力導線を有するケーブルを介して通信するためのPLC通信システムであって、前記PLC通信システムは、
マスタトランシーバと、
一次巻線および二次巻線を有する第一インダクタと、
一次巻線および二次巻線を有する第二インダクタと、を含むマスタ装置であって、
前記第一インダクタの一次巻線は前記第二インダクタの一次巻線に直列に接続され、
前記マスタトランシーバは、前記第一インダクタおよび前記第二インダクタの、直列に接続された各一次巻線に結合され、
前記第一インダクタの二次巻線は、DC電源と前記ケーブル内の第一導線との間に結合され、
前記第二インダクタの二次巻線は、帰路と前記ケーブル内の第二導線との間に結合されるマスタ装置と、
スレーブトランシーバと、
一次巻線および二次巻線を有する第三インダクタと、
一次巻線および二次巻線を有する第四インダクタと、を含むスレーブ装置であって、
前記第三インダクタの一次巻線は前記第四インダクタの一次巻線に直列に接続され、
前記スレーブトランシーバは、前記第三インダクタおよび前記第四インダクタの、直列に接続された各一次巻線に結合され、
前記第三インダクタの二次巻線は、電力調整回路と、前記ケーブル内の第一導線および第二導線のうち一方との間に結合され、
前記第四インダクタの二次巻線は、帰路と、前記ケーブル内の第一導線および第二導線のうち他方との間に結合されるスレーブ装置と、を備える
ことを特徴とするPLC通信システム。
【請求項4】
前記スレーブ装置の前記第四インダクタは、前記ケーブルからDC電力を供給される
ことを特徴とする、請求項3に記載のPLC通信システム。
【請求項5】
少なくとも二本の導線を有するDC電力線ケーブルを介して通信するための装置であって、前記装置は、
二つの二次巻線および一つの一次巻線を有する第一単一鉄心インダクタと、
前記第一単一鉄心インダクタの一次巻線に結合された第一トランシーバと、を備え、
前記第一単一鉄心インダクタの二つの二次巻線は、第一端で前記DC電力線ケーブルの少なくとも二本の導線のうち二本に結合され、第二端でDC電源に結合され、
前記第一単一鉄心インダクタは、前記第一トランシーバと、前記DC電力線ケーブル内の少なくとも二本の導線のうち二本と、の間で、磁気結合された通信を提供し、
前記第一単一鉄心インダクタの二つの二次巻線の第二端の第一巻線はDC電源に結合され、前記二つの二次巻線の第二端の第二巻線は帰路接続に結合されて、前記DC電力線ケーブルに電力を供給する
ことを特徴とする装置。
【請求項6】
少なくとも二本の導線を有するDC電力線ケーブルを介して通信するための装置であって、前記装置は、
二つの二次巻線および一つの一次巻線を有する第一単一鉄心インダクタと、
前記第一単一鉄心インダクタの一次巻線に結合された第一トランシーバと、を備え、
前記第一単一鉄心インダクタの二つの二次巻線は、第一端で前記DC電力線ケーブルの少なくとも二本の導線のうち二本に結合され、第二端でDC負荷に結合され、
前記第一単一鉄心インダクタは、前記第一トランシーバと、前記DC電力線ケーブル内の少なくとも二本の導線のうち二本と、の間で、磁気結合された通信を提供し、
前記第一単一鉄心インダクタの二つの二次巻線の第二端の第一巻線はDC電力線から電力が供給され、前記二つの二次巻線の第二端の第二巻線は帰路接続に結合される
ことを特徴とする装置。
【請求項7】
少なくとも二本の導線を有するDC電力線ケーブルを介して通信するための装置であって、前記装置は、
直列に接続された二つの一次巻線と、第一端で前記DC電力線ケーブル内の少なくとも二本の導線のうち二本に接続され、第二端でDC電源に接続された二つの二次巻線と、を有する第一単一鉄心インダクタと、
前記第一単一鉄心インダクタの二つの一次巻線に結合された第一トランシーバと、を備え、
前記第一単一鉄心インダクタは、前記第一トランシーバと、前記DC電力線ケーブル内の少なくとも二本の導線のうち二本と、の間で、磁気結合された通信を提供し、
前記第一単一鉄心インダクタの二つの二次巻線の第二端の第一巻線はDC電源に結合され、前記二つの二次巻線の第二端の第二巻線は帰路接続に結合されて、前記DC電力線ケーブルに電力を供給する
ことを特徴とする装置。
【請求項8】
少なくとも二本の導線を有するDC電力線ケーブルを介して通信するための装置であって、前記装置は、
直列に接続された二つの一次巻線と、第一端で前記DC電力線ケーブル内の少なくとも二本の導線のうち二本に接続され、第二端でDC負荷に接続された二つの二次巻線と、を有する第一単一鉄心インダクタと、
前記第一単一鉄心インダクタの二つの一次巻線に結合された第一トランシーバと、を備え、
前記第一単一鉄心インダクタは、前記第一トランシーバと、前記DC電力線ケーブル内の少なくとも二本の導線のうち二本と、の間で、磁気結合された通信を提供し、
前記第一単一鉄心インダクタの二つの二次巻線の第二端の第一巻線は前記DC電力線ケーブルから電力を供給され、前記二つの二次巻線の第二端の第二巻線は帰路接続に結合される
ことを特徴とする装置。
【請求項9】
固定電位につなげられ、前記第一単一鉄心インダクタの二つの一次巻線の間に結合された中央タップをさらに備える
ことを特徴とする、請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
前記中央タップと固定電位との間に結合されたコンデンサをさらに備える
ことを特徴とする、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
二つの二次巻線および一つの一次巻線を有する第二単一鉄心インダクタと、
前記第二単一鉄心インダクタの一次巻線に結合された第二トランシーバと、をさらに備え、
前記第二単一鉄心インダクタの二つの二次巻線は、一端で前記DC電力線ケーブルの少なくとも二本の導線のうち二本に結合され、他端でDC負荷に結合され
ことを特徴とする、請求項5まは7に記載の装置。
【請求項12】
直列に接続された二つの一次巻線と、一端で前記DC電力線ケーブル内の少なくとも二本の導線のうち二本に結合され、他端でDC負荷に結合された二つの二次巻線と、を有する第二単一鉄心インダクタと、
前記第二単一鉄心インダクタの二つの一次巻線に結合された第二トランシーバと、をさらに備える
ことを特徴とする、請求項5まは7に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この特許出願は、2015年9月26日に出願された米国仮特許出願第62/233,328号に対する優先権の利益を主張する。前記仮特許出願は、目的の如何を問わず、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は、通信システム、より詳細に言えば、監視装置とセンサとの間の、電力線を介した通信のためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
センサおよびアクチュエータ装置を備える通信ネットワークに接続された電子制御装置および監視装置を使用することが多いシステムの例として、産業用制御システム、自動車用電子機器、医療用機器、海上船舶、航空機、および防犯システムが挙げられる。関連する分野において、制御装置は一般に「マスタ」と呼ばれ、センサおよびアクチュエータ装置は「スレーブ」と呼ばれる。
【0004】
一部のシステムでは、スレーブはマスタのサブシステムと見なせる電源から、電力を供給されると同時に通信内容を受信する。各スレーブへの入力ケーブルは、通信、電圧供給、および戻り導線に使用される導線を含む。マスタをスレーブに接続するケーブルハーネスの重量、コスト、および剛性を低減するために、スレーブに電力を供給すると同時にスレーブと通信するという二つの目的で、信号を運ぶ導線を使用することができる。電力と通信の両方のために導線を二重に使用するこの手法は、DC電力線通信(「PLC」)として知られている。PLCでは、二本の導線のみを使用してPLCノード間で電力およびデータを送信できるので、デバイスを相互接続する追加配線が不要になる。
【0005】
既存のPLCシステムは、コストとサイズ(コンポーネントの設置面積)が重要な考慮事項ではないシステムに採用されてきた。 例えば、PoE(Power-over-Ethernet)は、二本のツイストペアと、リンクの各端にあるDC-DCコンバータを使用する。したがって、PoEの実装は比較的高価であり、コンパクトなスレーブ装置にとっては多すぎる回路を必要とする。別の一群のシステムは、RS-485などの規格用に存在する多数の既製の送受信器集積回路を利用できない方式で、送信器には電流注入を、受信器にはAC結合電圧検出を使用する。このようにすると、実装が複雑になるだけでなく、電力線通信の有無にかかわらず使用できるマスタまたはスレーブを設計することが実現困難になることを意味する。
【0006】
他のPLCシステムは、コモンモード干渉から保護するケーブルシールドのみを利用するが、多くの用途では不十分なことが多い。コモンモード干渉に曝されることは、DC PLCケーブルが、サーボモータに接続される電源導体などのEMC攻撃体に近接して配置される用途では、特に重要な問題である。Sick-Stegmann GmbH社の出版物「Hiperface DSL Interface Manual」に記載されている一つの注目すべきシステムは、変圧器とインピーダンスマッチングを使用してコモンモード干渉を処理しようとするが、多大な基板面積を占有し伝送効率を低下させる、多くの変圧器、コンデンサ、インダクタ部品を使用するという欠点がある。
【0007】
例えば、図3は通信システム300を示しており、「マスタ」302は、「スレーブ」303との間で通信媒体330を介して信号を送受信する。マスタ302は、まずインピーダンスマッチング回路網304および変圧器305を介して通信媒体330に送信する。変圧器305は、一次側インダクタ307と二次側インダクタ308とを含む。二次側インダクタ308の第一端子からの信号経路は、コンデンサ315を通って導通し、その後分岐して、一方の経路が単巻インダクタ322(信号から電圧レベルを切り離す)につながって、他方が通信媒体330につながる。同様に、二次側インダクタ308の第二端子からの信号経路は、コンデンサ316を通って導通し、その後分岐して、一方の経路が別の単巻インダクタ324につながって、他方が通信媒体330につながる。回路のスレーブ側では、インダクタとコンデンサの類似の配置が採用されている。変圧器305とは別個の独立した単巻インダクタ322、324および追加のコンデンサ315、316が占める回路基板スペースが過大となり、通信回路全体のコストが増加する。
【0008】
したがって、コモンモード干渉に強く、最小限の基板スペースしか占めない点で効率的であって、改良された伝送効率を有する、改良型DC電力線通信用のシステムおよび方法を提供することは、有用である。
【発明の概要】
【0009】
一実施形態によれば、本発明は、少なくとも二本の導線を有するケーブルを介して通信すると同時に電力を供給するための装置を提供するものであって、前記装置は、一次巻線および二次巻線を有する第一インダクタと、一次巻線および二次巻線を有する第二インダクタであって、前記第二インダクタの前記一次巻線の一端が前記第一インダクタの前記一次巻線につなげられ、前記第一インダクタおよび前記第二インダクタのそれぞれの前記二次巻線が前記ケーブル内の前記少なくとも二本の導線のうち一本につなげられる第二インダクタと、を備える。前記装置は、さらに、前記第一インダクタおよび前記第二インダクタのそれぞれの前記一次巻線につなげられたトランシーバを備える。前記第一インダクタは、複数ある前記導線の各々の電位を平均電位から対称的に変化させるようにローカル接地電位につなげられる。
【0010】
別の実施形態によれば、本発明は、少なくとも二本の導線を有するケーブルを介して通信する装置も提供するものであって、前記装置は、二つの二次巻線および一つの一次巻線を有するインダクタと、前記インダクタの前記一次巻線につなげられたトランシーバと、を備える。前記インダクタの前記二つの二次巻線は、前記ケーブルの前記少なくとも二本の導線のうち二本につなげられ、電圧信号が、前記インダクタの前記二つの二次巻線によって、平均電位から対称的に変化する複数の前記導線に供給される。
【0011】
さらに別の実施形態によれば、本発明は、少なくとも二本の導線を有するケーブルを介して通信し電力を供給するための装置を提供するものであって、前記装置は、直列に接続された二つの一次巻線および直列に接続された二つの二次巻線を有し、それぞれの前記二次巻線が前記ケーブル内の前記少なくとも二本の導線のうち二本にも接続されるインダクタと、前記インダクタの二つの前記一次巻線につなげられたトランシーバと、を備える。それぞれの前記二次巻線から二本の前記導線に供給される電圧信号は、平均電位から対称的に変化する。
【0012】
さらに別の実施形態によれば、本発明は、少なくとも二本の導線を有するケーブルを介して通信し電力を供給するためのPLC通信システムを提供するものであって、前記PLC通信システムは、一次巻線および二次巻線を有する第一インダクタと、一次巻線および二次巻線を有する第二インダクタであって、前記第二インダクタの前記一次巻線が、一端において前記第一インダクタの前記一次巻線に接続され、前記第一インダクタおよび前記第二インダクタのそれぞれの前記二次巻線が、各々、前記ケーブル内の前記少なくとも二本の導線のうち一本に接続される第二インダクタと、前記第一インダクタおよび前記第二インダクタのそれぞれの前記一次巻線につなげられたトランシーバと、を含むマスタ装置を備える。前記第一インダクタは、複数ある前記導線の各々の電位を平均電位から対称的に変化させるように、ローカル接地電位につなげられる。前記PLC通信システムは、さらに、一次巻線および二次巻線を有する第一インダクタと、一次巻線および二次巻線を有する第二インダクタであって、前記第二インダクタの前記一次巻線は、一端において前記第一インダクタの前記第一巻線につなげられ、前記第一インダクタおよび前記第二インダクタのそれぞれの前記二次巻線は、各々、前記ケーブル内の前記少なくとも二本の導線のうち一本につなげられる第二インダクタと、前記第一インダクタおよび前記第二インダクタのそれぞれの前記一次巻線につなげられたトランシーバと、を含むスレーブ装置を備える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の代表的な実施形態に係るDC電力線通信システムの概略的回路図である。
図2】本発明の別の代表的な実施形態に係るDC電力線通信システムの概略的回路図である。
図3】当技術分野で知られているDC電力線通信システムの概略的回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
サーボドライブ等のマスタと位置センサ等のスレーブとの間の改良型通信システムを提供して現在利用可能な装置の欠点および問題を克服するために、本発明は、個数も少なく小さめのコンポーネントを効率的に使用することによって、コンポーネントの設置面積と基板サイズを大幅に縮小すると同時に、伝送効率を向上させることができる。
【0015】
図1は、本発明に係るPLCシステムの代表的な実施形態の概略的回路図である。 システム100において、マスタトランシーバ102は、+V/2および-V/2信号線104、106を通して信号を送信(および受信)する。信号線104は、第一インダクタ110の一次巻線の第一側部につなげられ、信号線106は、第二インダクタ112の第一巻線の第二側部につなげられる。(つなげられた)第一および第二インダクタ110、112は、DC-DCコンバータ等の量販器具に使用される標準品を使用して実装してもよく、DC-DCコンバータは、それを用いない場合に必要となる、パルス変圧器と単巻線インダクタとの組合せよりも小さく安価である。インダクタ110、112は、約1~2Ωの低いDC抵抗と、例えば2MHzで1.25kΩのように高周波ではるかに高いインピーダンスと、を有することによって、通信を妨害することなく電力を供給できるようにするのが好ましい。また、インダクタ110、112のインピーダンスは、通信信号の対称性を保証するためにほぼ等しくすべきである。
【0016】
第一インダクタ110の第一巻線の第二端部は、第二インダクタ112の第一巻線の第一側部に直接つなげられる。図示したシステムでは、直列である二つの抵抗およびコンデンサを含むインピーダンス整合回路網114が、マスタ102とインダクタ110、112との間にある信号線104、106を横切ってつなげられている。インピーダンス整合回路網は、所望の送信周波数でツイストペアケーブルのインピーダンスに整合するように設計されている。
【0017】
ここで、インダクタ110、112のそれぞれの二次巻線を参照すると、インダクタ110の二次巻線の第一端部は、DC電源基準電圧(例えば、+12V)につなげられ、インダクタ110の二次巻線の第二端部は、ツイスト導線ペアの導線122の第一(マスタ)端部につなげられている。第二インダクタ112に関しては、第二端部は基準電圧(例えば、アース)につなげられ、第一端部はツイストペアの第二導線124の第一(マスタ)端部につなげられている。両方の導線122、124は、必要に応じて、シールドケーブル130に封入してもよい。導線122、124は、回路のマスタ側からスレーブ側に電力信号およびコマンド信号の両方を送信する。信号通信は、導線122、124の間で対称的に変化する。
【0018】
図1および図2に示したトランシーバ回路は半二重通信に適しており、産業システムにおいて典型的であるように、マスタまたはスレーブのいずれかが導線を通して伝送することができる。しかしながら、ここに開示された教示内容は、半二重通信に限定されない。例えば、ギガビットイーサネット(登録商標)通信で使用されるハイブリッドトランシーバを使用すると、全二重通信を使用することができる。
【0019】
ここで、回路のスレーブ側を参照すると、導線122の第二(スレーブ)端部は、第三インダクタ132の第二巻線の第二側部につなげられ、導線124の第二(スレーブ)端部は、第四インダクタ134の二次巻線の第一側部につなげられている。第三および第四インダクタ132、134も、小さくて比較的安価なコンポーネントを用いて実装してもよい。インダクタ132、134は、約1~2Ωの低いDC抵抗と、例えば2MHzで1.25kΩのように高周波ではるかに高いインピーダンスとを有するのが好ましい。第三インダクタ132の第二巻線の第一側部は、スレーブ装置にDC電力を供給する電力調整回路140につなげられ、第四インダクタ134の第二巻線の第二側部は、基準電圧(例えば、アース)につなげられている。インダクタ132はDC電力信号に対して低インピーダンスであるので、電力信号を電力調整回路140に効果的に流用する。電力調整回路140は、降圧電圧調整器と直列に配置されたダイオードを備えて、DC電圧レベルをスレーブ装置用の適切なレベルに低下させることができる。設計者は、必要に応じて、コンポーネント110、112、132、134に同じインダクタを使用することができる。
【0020】
マスタ側の構成と同様に、インダクタ132の第二巻線の第一側部はスレーブトランシーバ160の信号線152につなげられ、インダクタ134の第二巻線の第二側部はスレーブトランシーバ160の信号線154につなげられる一方、インダクタ132の第二側部とインダクタ134の第一側部は、互いに直接つなげられる。分圧器およびコンデンサを含む第二インピーダンス整合回路網155が、インダクタ132、134と並列に、両インダクタとスレーブトランシーバ160との間にある入力線152、154を横切って配置されている。
【0021】
動作に関して言うと、マスタトランシーバ102が差動電圧(V)を送信すると、等しいインダクタンスおよび巻数比を有するインダクタ110、112の直列に接続されたそれぞれの一次巻線の両端に電圧V/2が生じる。一次および二次巻線の磁気結合のために、インダクタ110、112のそれぞれの二次巻線の両端での電圧も、スレーブに供給されるDC電流のために生じるわずかなDCバイアス電圧を除けば、やはりV/2である。電圧の極性はドットの規定に従う。インダクタは、AC通信信号に対しては高インピーダンスとなるが、本質的にDC電源レール電圧に対してインピーダンスはない。これにより、大きな減衰なしに、マスタ側の電源レールから回路のスレーブ側にある電源レギュレーション回路へDC電力を送信することができる。反対に、両インダクタのそれぞれの二次巻線で一対の導線からAC通信信号を受け取ると、それぞれの巻線の両端で発生した電圧は、磁気結合によってそれぞれの一次巻線に、したがって反対側のトランシーバに伝達される。このようにして、当該回路はAC通信信号からDC電力信号を切り離す。
【0022】
本発明に係る別の実施形態であるPLCシステム200を図2に示す。この実施形態では、マスタトランシーバ202は、それぞれの+V/2および-V/2信号線204、206上で信号を送信(および受信)する。図2の実施形態では、複数の信号線は、分離した二つの二巻線インダクタではなく、単一の四巻線インダクタにつなげられている。より具体的には、信号線204は、インダクタ210の一番目の一次巻線の第一側部につなげられ、信号線206は、インダクタ210の二番目の一次巻線の第二側部につなげられて、インダクタ210の一番目の一次巻線の第二側部は、二番目の一次巻線の第一側部に直接つなげられる。図1の実施形態と同様に、V/2の差動電圧が、当該回路のマスタ側にあるインダクタの一番目および二番目の一次巻線および対応する二次巻線の両端に発生する。しかしながら、これらの電圧はすべて等しいので、結合インダクタ210の四つの巻線のすべてが共通の磁気コアを取り囲むように配置する、すなわち、図示したように、複数の結合インダクタを単一の四巻線結合インダクタに統合することができる。
【0023】
インダクタ210の接続された両一次巻線の中央タップ215は、直接またはコンデンサ218を介して固定の基準電位に接続される。図示した例では、中央タップ215はアースに直接接続されており、二つの一次巻線が付加的なコモンモード耐性を与える自動変圧器として作用すると同時に、アースへの中央タップ接続が巻線間容量から生じる電流を迂回させる経路となる恩恵をもたらす。また、中央タップ215を直接またはコンデンサ218を介して固定電位に接続することによって、結合インダクタ210の中央タップ215がトランシーバ202のコモンモード電位を規定するので、終端インピーダンス整合回路網を単一の抵抗220に単純化することができる。
【0024】
再び図2を参照すると、インダクタ210の一番目の二次巻線の第一側部は、基準DC電圧に接続され、一番目の二次巻線の第二側部は、ケーブル230内に封入された一対の導線(222、224)の第一導線222につなげられている。同様に、インダクタ210の二番目の二次巻線の第一側部は、第二導線224につなげられ、第二巻線の第二側部は、基準電圧(例えば、アース)につなげられる。また、ケーブル230は遮蔽し干渉を低減してもよい。
【0025】
システムのスレーブ側では、四巻線インダクタの代わりに三巻線インダクタ232が示されている。なお、誤解のないように言うと、本発明によれば、利便性に応じてマスタ側インダクタ210とスレーブ側インダクタのうちいずれかまたは両方とも、四巻線または三巻線を有してもよいので、三巻線インダクタと四巻線インダクタの任意の組み合わせを使用してもよい(例えば、すべてが同じではない三巻線ではなく四つの同一巻線を有する結合インダクタを製造することがより簡単であることが多い)。インダクタ232の二つの一次巻線が指定された数(N)の巻数を有し、二次巻線が二倍の巻数(2xN)を有するように設定すれば、信号伝送に際して全体的に1:1の比となるので、送信信号および受信信号の振幅を保持することができる。
【0026】
インダクタ232の一番目の一次巻線の第一側部は、スレーブトランシーバ260およびスレーブ装置262にDC電力を供給する電力調整回路235につなげられる。電力調整回路140は、降圧電圧調整器と直列に配置されたダイオードを含み、DC電圧レベルをスレーブ装置の適切なレベルに低下させることができる。インダクタ232の一番目の一次巻線の第二側部は二番目の一次巻線の第一側部につなげられ、二番目の一次巻線の第二側部は基準電圧(例えば、アース)につなげられる。信号線242、244は、インダクタ232の二次巻線の第一側部および第二側部から延びている。信号線242、244を横切って、インピーダンスを複数のケーブル導線に整合させるために使用される、図1に示したものと同様のインピーダンス整合回路網250がある。信号線242、244はスレーブトランシーバ260で終端する。
【0027】
図1および図2に示した、本発明に係るPLCシステムの実施形態は、信号ケーブル(例えば、130、230)がEMC攻撃体であるケーブルと一緒に束ねられたときに発生するコモンモード干渉のサージによる影響を実質的に受けない。複数の導線に電気的なサージが発生した場合、電気的にというよりはむしろ磁気的に結合される、当該回路のマスタ側またはスレーブ側のいずれかのインダクタの一次巻線と二次巻線との間のエアギャップを乗り越えることはない。また、突然の過渡現象は、複数のインダクタの作用によって強く減衰されるので、サージが発生したときの磁気的結合も相応に小さくなる。典型的にこれらの機能を実行する変圧器に比べ、インダクタはかなり小さくコストも少なくて済む。
【0028】
結果的に、複数のインダクタは、これらがない場合に必要となる、パルス変圧器および一対の単巻線インダクタからなる組み合わせよりも安価であり、基板スペースも大幅に削減できる。図1および図2の実施形態は、コスト的には約半分で済み、従来の変圧器ベースのPLCシステムで使用される基板面積のわずか4分の1、実効容積の約8分の1を占めるにすぎない。別の利点は、新規の当該回路を用いた受信信号の振幅が10%のオーダーでより大きいので、より長いケーブルを使用できることである。本発明のシステムのさらなる利点は、より望ましいコンポーネントを選択できることである。また、業界の他の製品と比べて、比較的小型の製品、特に多軸構造の製品やエンコーダを製造することも可能になっている。また、背の高いコンポーネントも同様に不要となるので、より小さい製品がますます可能になる。これらの恩恵は、マスタ側(駆動装置、制御装置)とスレーブ側(フィードバック装置/エンコーダ)の両方にもたらされる。
【0029】
当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な交換がなされ、コンポーネントごとに等価物で置き換えられてもよいことが理解されるであろう。また、本発明の範囲から逸脱することなく、材料の特定の特徴を本発明の教示内容に適合させる多くの変更を行ってもよい。したがって、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されず、本発明は、特許請求の範囲内に入るすべての実施形態を含むことを意図する。
図1
図2
図3