IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アース製薬株式会社の特許一覧

特許7012009害虫忌避成分の刺激緩和方法および低刺激性害虫忌避剤
<>
  • 特許-害虫忌避成分の刺激緩和方法および低刺激性害虫忌避剤 図1
  • 特許-害虫忌避成分の刺激緩和方法および低刺激性害虫忌避剤 図2
  • 特許-害虫忌避成分の刺激緩和方法および低刺激性害虫忌避剤 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】害虫忌避成分の刺激緩和方法および低刺激性害虫忌避剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/32 20060101AFI20220120BHJP
   A01N 65/00 20090101ALI20220120BHJP
   A01N 65/08 20090101ALI20220120BHJP
   A01N 65/12 20090101ALI20220120BHJP
   A01N 65/20 20090101ALI20220120BHJP
   A01N 65/22 20090101ALI20220120BHJP
   A01N 65/28 20090101ALI20220120BHJP
   A01N 65/36 20090101ALI20220120BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
A01N25/32
A01N65/00 A
A01N65/08
A01N65/12
A01N65/20
A01N65/22
A01N65/28
A01N65/36
A01P17/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018525126
(86)(22)【出願日】2017-06-23
(86)【国際出願番号】 JP2017023131
(87)【国際公開番号】W WO2018003675
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2016129061
(32)【優先日】2016-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104318
【弁理士】
【氏名又は名称】深井 敏和
(72)【発明者】
【氏名】東 邦昭
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-513130(JP,A)
【文献】特開2008-273918(JP,A)
【文献】特開2010-138117(JP,A)
【文献】特開平10-130114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/32
A01N 65/00
A01N 65/08
A01N 65/12
A01N 65/20
A01N 65/22
A01N 65/28
A01N 65/36
A01P 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精油成分を有効成分として含む害虫忌避成分(A)に、多価不飽和脂肪酸を主とする脂肪酸組成を有するトリグリセリド(B)を添加して、該成分(A)を空間に揮散させる害虫忌避成分の刺激緩和方法であって、
成分(A)が、メントン、ハッカ油、ユーカリ油、ラベンダー油およびベルガモット油からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、害虫忌避成分の刺激緩和方法。
【請求項2】
前記成分(B)が、前記成分(A)100質量部に対して20質量部以上の割合で添加される請求項1に記載の刺激緩和方法。
【請求項3】
前記多価不飽和脂肪酸が、リノール酸およびリノレン酸の少なくとも1種である請求項1または2に記載の刺激緩和方法。
【請求項4】
前記成分(B)が、ダイズ油、サフラワー油、ローズヒップ油およびグレープシード油からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~のいずれかに記載の刺激緩和方法。
【請求項5】
精油成分を有効成分として含む害虫忌避成分(A)と、多価不飽和脂肪酸を主とする脂肪酸組成を有するトリグリセリド(B)とを含み、
成分(A)が、メントン、ハッカ油、ユーカリ油、ラベンダー油およびベルガモット油からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする低刺激性害虫忌避剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、精油成分を有効成分として含む害虫忌避成分の刺激を緩和する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、害虫忌避方法としては、DEET(N,N-ジエチル-m-トルアミド)、ピレスロイド系化合物などを用いた方法が知られている。しかし、人やペットが直接薬剤と接触する可能性がある屋内、あるいは台所や厨房など飲食に関するような空間では、DEETやピレスロイド系化合物の使用をできる限り避けたいという要求がある。
【0003】
そこで、精油を用いた忌避方法が種々検討されている(例えば、特許文献1~4)。しかし、精油が有する忌避効果は、DEETやピレスロイド系化合物が有する忌避効果と比べて乏しい。そのため、害虫に対する効果を十分に発揮させるには、精油を多量に使用する必要がある。その結果、精油由来の香りや刺激が強くなり使用感が悪くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-130114号公報
【文献】特開平11-60421号公報
【文献】特開2002-173407号公報
【文献】特開2004-182704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の課題は、精油成分を有効成分として含む害虫忌避成分の刺激を緩和する方法、およびこのような害虫忌避成分の刺激が緩和された低刺激性害虫忌避剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る害虫忌避成分の刺激緩和方法は、精油成分を有効成分として含む害虫忌避成分(A)に、多価不飽和脂肪酸を主とする脂肪酸組成を有するトリグリセリド(B)を添加して、該成分(A)を空間に揮散させる。さらに、本開示に係る低刺激性害虫忌避剤は、精油成分を有効成分として含む害虫忌避成分(A)と、多価不飽和脂肪酸を主とする脂肪酸組成を有するトリグリセリド(B)とを含み、成分(B)が、成分(A)100質量部に対して20質量部以上の割合で添加されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示の刺激緩和方法によれば、精油成分を有効成分として含む害虫忌避成分の刺激が緩和される。さらに、本開示の低刺激性害虫忌避剤によれば、優れた害虫忌避効果を維持しながら、害虫忌避成分の刺激が緩和される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】成分(A)を強制的に揮散させる方法の一実施態様を説明するための説明図である。
図2】実施例6、7および比較例4で行った忌避試験の方法を説明するための説明図である。
図3】実施例1、6、7、8および9ならびに比較例1、2、4、5および6において、検体または混合物を含浸させたパルプマットを入れるためのポリエチレンテレフタレート製の容器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示に係る害虫忌避成分の刺激緩和方法は、精油成分を有効成分として含む害虫忌避成分(成分(A))に、多価不飽和脂肪酸を主とする脂肪酸組成を有するトリグリセリド(成分(B))を添加して、成分(A)を空間に揮散させる。以下、本開示の一実施形態に係る刺激緩和方法について、詳細に説明する。
【0010】
成分(A)に含まれる精油成分としては、害虫忌避性を有する精油成分であれば特に限定されない。害虫忌避性を有する精油成分としては、例えば、クロゴキブリ、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、ヤマトゴキブリ、トビイロゴキブリなどのゴキブリ類、マダニ、イエダニ、ヒョウヒダニ、コナダニ、ツメダニなどのダニ類、コクゾウムシ、コクヌストモドキ、タバコシバンムシ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシなどの貯穀害虫類、オオズアリ、クロヤマアリ、トビイロシワアリ、アミメアリなどのアリ類などの少なくとも1種の害虫を忌避し得る精油成分が挙げられる。このような精油成分としては、具体的には、メントン、メントール、酢酸メンチル、p-メンタン-3,8-ジオール、リナロール、リモネン、シトロネラール、シトロネロール、チモールなどが挙げられる。これらの精油成分は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、精油成分として、このような精油成分を含む精油が使用されてもよい。精油としては、例えば、ハッカ油、ユーカリ油、ラベンダー油、ベルガモット油、オレンジ油、スペアミント油、タイム油、レモングラス油、レモンユーカリ油などが挙げられる。精油成分(精油)は、天然物由来のものであってもよく、合成によって得られたものであってもよい。
【0011】
本開示の一実施形態に係る刺激緩和方法では、成分(A)として、例えばメントン、ハッカ油、ユーカリ油、ラベンダー油およびベルガモット油からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含む害虫忌避組成物が用いられ、このような害虫忌避組成物の刺激が緩和される。ハッカ油は、ハッカ属植物から抽出される成分である。このようなハッカ油は、原料となる植物種によって成分構成が異なる。例えば、ハッカ油は、セイヨウハッカ、ニホンハッカなどのペパーミント、オランダハッカなどのスペアミント、マルバハッカなどのアップルミントなどから抽出することによって得られ、メントール、メントン、酢酸メンチル、リモネン、シネオールなどの他の成分が含有されている。
【0012】
本開示の方法に使用されるハッカ油の原料となる植物種は特に限定されず、異なる植物種のハッカ油を2種以上混合して用いてもよい。さらに、本発明において「ハッカ油」とは、上記のハッカ属植物から得られる一般的なハッカ油だけでなく、例えば合成によって得られたメントールやカルボンを主成分とし、必要に応じて他の成分を含む組成物なども包含される。これらの中でも、ハッカ属の植物から得られる天然由来のハッカ油が好ましい。
【0013】
本開示の方法に使用されるラベンダー油はシソ科の半木本性植物のラベンダーの花、枝および葉から抽出される成分である。ラベンダー油の原料となるラベンダーの品種は特に限定されず、例えば、真正ラベンダー、スパイクラベンダー、フレンチラベンダーなどが挙げられる。ラベンダー油には、酢酸リナリル、リナロールなどに加えて種々の成分が含まれている。
【0014】
本開示の方法に使用されるラベンダー油の原料となる品種は特に限定されず、異なる品種のラベンダー油を2種以上混合して用いてもよい。さらに、本発明において「ラベンダー油」とは、上記のラベンダーから得られる一般的なラベンダー油だけでなく、例えば合成によって得られた酢酸リナリルやリナロールを主成分とし、必要に応じて他の成分を含む組成物なども包含される。これらの中でも、ラベンダーの花から得られる天然由来のラベンダー油が好ましい。
【0015】
本開示の方法に使用されるユーカリ油は、ユーカリ属の植物の葉,枝から抽出される成分である。ユーカリ油の原料となるユーカリの品種は特に限定されず、例えば、ユーカリプタス・グロブルス、ユーカリプタス・ラディアータ、ユーカリ・シトリオドラなどが挙げられる。ユーカリ油には、1,8-シネオール、α-ピネン、シトロネラールなどに加えて種々の成分が含まれている。
【0016】
本開示の方法に使用されるユーカリ油の原料となる品種は特に限定されず、異なる品種のユーカリ油を2種以上混合して用いてもよい。さらに、本発明において「ユーカリ油」とは、上記のユーカリから得られる一般的なユーカリ油だけでなく、例えば合成によって得られた1,8-シネオールやα-ピネンを主成分とし、必要に応じて他の成分を含む組成物なども包含される。これらの中でも、ユーカリの葉から得られる天然由来のユーカリ油が好ましい。
【0017】
本開示の方法に使用されるベルガモット油は、ミカン科の常緑高木樹の柑橘類であるベルガモットから抽出される成分である。ベルガモット油には、リナロール、酢酸リナリル、リモネンなどに加えて種々の成分が含まれている。
【0018】
本開示の方法に使用されるベルガモット油の原料となる品種は特に限定されず、異なる品種のベルガモット油を2種以上混合して用いてもよい。さらに、本発明において「ベルガモット油」とは、上記のベルガモットから得られる一般的なベルガモット油だけでなく、例えば合成によって得られたリナロールや酢酸リナリルを主成分とし、必要に応じて他の成分を含む組成物なども包含される。これらの中でも、ベルガモットの果皮から得られる天然由来のベルガモット油が好ましい。
【0019】
上記精油の抽出方法は特に限定されず、従来公知の方法に従えばよい。例えば、原料の任意の部位をそのまま、または裁断、粉砕などしたのち、搾取、溶媒抽出、水蒸留、水蒸気蒸留などによって抽出物を得ることができる。溶媒抽出の方法としては、当該技術分野において公知の方法を採用すればよく、例えば水(温水、熱水を含む)抽出、アルコール抽出、超臨界抽出、マイクロウエーブ抽出、圧搾抽出などの従来公知の抽出方法を利用することができる。
【0020】
成分(B)は、多価不飽和脂肪酸を主とする脂肪酸組成を有するトリグリセリドである。「多価不飽和脂肪酸を主とする」とは、トリグリセリドを加水分解した際に生じる脂肪酸中に、多価不飽和脂肪酸が合計で40質量%以上含まれていることを意味する。
【0021】
多価不飽和脂肪酸としては、分子内に炭素-炭素二重結合(C=C)を2個以上有する不飽和脂肪酸であれば、特に限定されない。例えば、炭素数が18~22程度の多価不飽和脂肪酸が挙げられ、具体的には、リノール酸、リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、エレオステアリン酸、アラキドン酸、ドコサペンタエン酸などが挙げられる。成分(B)は、脂肪酸組成として多価不飽和脂肪酸を主として含んでいれば、多価不飽和脂肪酸以外に、一価不飽和脂肪酸や飽和脂肪酸を含んでいてもよい。
【0022】
成分(B)としては、例えば、多価不飽和脂肪酸を主とする脂肪酸組成を有する植物油が挙げられる。このような植物油としては、具体的には、ローズヒップ油、ダイズ油、サフラワー油、グレープシード油、エゴマ油、アマニ油などが挙げられる。これらの中でも、成分(A)の刺激を緩和する効果が優れている点で、ローズヒップ油、サフラワー油またはグレープシード油が好ましい。
【0023】
ローズヒップ油には、脂肪酸組成として、リノール酸が約44質量%およびリノレン酸が約35質量%の割合で含まれている。ダイズ油には、脂肪酸組成として、リノール酸が約56質量%およびリノレン酸が約8質量%の割合で含まれている。サフラワー油には、脂肪酸組成として、リノール酸が約77~79質量%の割合で含まれている。グレープシード油には、脂肪酸組成として、リノール酸が約68~74質量%の割合で含まれている。
【0024】
成分(A)と成分(B)との配合割合は特に限定されない。成分(A)100質量部に対して、成分(B)は、好ましくは20質量部以上、より好ましくは100質量部以上の割合で添加され、好ましくは300質量部以下、より好ましくは200質量部以下の割合で添加される。成分(A)と成分(B)とをこのような割合で配合することによって、成分(A)が有する害虫忌避性を阻害することなく、成分(A)の刺激をより緩和することができる。
【0025】
成分(A)および成分(B)以外に、本開示の一実施形態に係る刺激緩和方法により発揮される効果を阻害しない範囲で、他の添加剤を用いてもよい。このような他の添加剤としては、例えば、香料、酸化防止剤、殺虫剤、忌避剤、殺菌剤、防カビ剤、消臭剤、色素などが挙げられる。
【0026】
成分(A)と成分(B)とを含む混合物(低刺激性害虫忌避剤)を揮散させる方法は、成分(A)が空間に揮散し得る方法であれば特に限定されず、自然に揮散させてもよく強制的に揮散させてもよい。自然に揮散させる方法としては、例えば、上記の混合物(低刺激性害虫忌避剤)を容器に収容するか、あるいは担体に保持させ、成分(A)を揮散させる方法が挙げられる。混合物を収容する容器の材質は特に限定されず、例えば、樹脂、ガラス、金属などが挙げられる。樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリ塩化ビニル、エチレン-ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。これらの中でも、成分(A)および成分(B)を吸着せず、揮散を阻害しない点で、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0027】
混合物を担体に保持させる場合、担体としては、例えば、紙、パルプ、糸、ネット、レース、不織布、木材、無機高分子物質、無機多孔質物質、有機高分子物質、樹脂類、吸液性ポリマー、綿、海綿体、連続気泡の発泡体、透過フィルム、透過容器、水ゲル、石鹸などが挙げられる。
【0028】
混合物は、例えば、滴下、浸漬、練り込みなどの方法によって、このような担体に保持させることができる。また、混合物を担体に保持させる場合、混合物を水やアルコール(エタノールなど)などの溶媒に溶解あるいは分散して用いてもよい。混合物の保持量は、効果の持続期間、担体の大きさなどを勘案して適宜設定され得る。さらに、混合物を賦形剤と混合して、錠剤、顆粒剤、粉剤などの形状に成形して用いてもよい。
【0029】
混合物を保持させた担体は、害虫を忌避しようとする空間に設置、例えば、単に置いたり吊り下げたりすればよい。こうすることによって、担体から成分(A)が徐々に揮散して空間に広がる。混合物を保持させた担体は、揮散した成分(A)がこもらないように設置するのが好ましい。さらに、担体を花びらの形状、植物の形状、動物の形状、立体的形状、人形などの意匠性に富んだ形状に加工して用いてもよい。担体を加工した後に混合物を保持させてもよく、混合物を保持させた担体を加工してもよい。錠剤、顆粒剤、粉剤などの形状で用いる場合は、害虫を忌避しようとする空間に直接散布してもよく、容器や袋体などに入れて静置していてもよい。揮散量を調節するために、混合物を保持させた担体は、通気量を調節し得る通気孔が形成された容器に収納されていてもよい。
【0030】
上記以外に揮散させる方法としては、例えば、ファンなどの送風機、電気ヒーター、霧化器を用いる方法、エアゾール形態やスプレー形態で用いる方法などが挙げられる。ファンを用いる方法としては、例えば図1に示す模式図のように、ファン1が備えられた容器2に、混合物を保持させた担体3を、ファン1による風が当たるようにセットし、容器2に形成された通気孔2aから成分(A)の蒸気をファン1の風で揮散させる方法が挙げられる。さらに、ハッカ油を揮散させやすくするために、加温する方法も挙げられる。
【0031】
エアゾール形態で使用する場合、エアゾール缶に混合物と噴射剤とを充填すればよい。噴射剤としては、例えば、液化石油ガス、ジメチルエーテル、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、窒素ガス、炭酸ガスなどが挙げられる。スプレー形態で使用する場合、例えば、水やアルコール(エタノールなど)などの溶媒に混合物を溶解あるいは分散させ、ハンドポンプなどの噴霧器に充填すればよい。このようにハンドポンプなどの噴霧器に入れた混合物を、空間または対象物にスプレーすればよい。
【0032】
以上のように、成分(A)に成分(B)を添加して、成分(A)を空間に揮散させると、成分(A)の刺激が緩和される。さらに、刺激が緩和されているにもかかわらず、害虫を忌避するのに十分な量の成分(A)を揮散させることができ、その効果を使用初期から終期にわたって持続させることができる。例えば、使用初期の揮散量が0.4mg/L/日以上であり、使用終期の揮散量が0.125mg/L/日以上であれば、害虫を忌避するのに十分な量の成分(A)が揮散しており、その効果が使用初期から終期にわたって持続しているといえる。なお、使用初期とは使用開始から1~4日程度であり、使用終期とは所望の使用期間の終了日±3日程度をいう。所望の使用期間とは、好ましくは30~90日間程度であり、例えば、成分(A)の使用量を調節して適宜設定すればよい。
【実施例
【0033】
以下、実施例および比較例を挙げて本開示の一実施形態に係る刺激緩和方法および低刺激性害虫忌避剤を具体的に説明するが、本開示の一実施形態に係る刺激緩和方法および低刺激性害虫忌避剤はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
<害虫忌避成分としてハッカ油を使用した場合の揮散量の検証>
(実施例1)
表1に示す各検体について揮散試験を32日間行った。検体は、ハッカ油と表1に記載の植物油(ローズヒップ油、ダイズ油、サフラワー油またはグレープシード油)とを、表1に記載の量で混合したものを用いた。ローズヒップ油、ダイズ油、サフラワー油およびグレープシード油は、脂肪酸組成として多価不飽和脂肪酸を主として含んでいる。
【0035】
各検体を、パルプマット(4.1cm×2.2cm×2.9mm)に含浸させ、100mm2の開口を有するポリエチレンテレフタレート製の容器(長辺55mm×短辺47mm×高さ15mm)に入れた。このポリエチレンテレフタレート製の容器を図3に示す。図3に示すポリエチレンテレフタレート製の容器10は、底部11と蓋部12とを備える。底部11は、検体を含浸させたパルプマットを置くことができる形状を有している。蓋部12の上面12aには、検体を大気中に揮散させるための開口13が形成されている。開口13は複数形成されており、開口面積は上記のように合計で100mm2である。
【0036】
検体を含浸させたパルプマットを入れた容器10を化粧板製のボックス(約20L、箱型)に入れ、試験開始日から試験開始後4日目まで(初期4日間)のハッカ油の総揮散量、および試験開始後28日目から32日目まで(終期4日間)のハッカ油の総揮散量を計測した。総揮散量は、検体の質量変化を測定して算出した。試験は、温度約25℃および湿度約20%RHの条件下で行った。これらの総揮散量から初期4日間の1日あたりの揮散量(mg/20L/日)および終期4日間の1日あたりの揮散量(mg/20L/日)を求めた。初期4日間の1日あたりの揮散量が8mg/20L/日(0.4mg/L/日)以上であり、終期4日間の1日あたりの揮散量が2.5mg/20L/日(0.125mg/L/日)以上であれば、優れた害虫忌避効果が発揮され、その効果が終期まで維持されていると評価した。結果を表1に示す。
【0037】
(比較例1)
植物油としてオリーブ油またはツバキ油を表1に記載の量で用いた以外は、実施例1と同様の手順で初期4日間のハッカ油の総揮散量および終期4日間のハッカ油の総揮散量を計測した。オリーブ油およびツバキ油は、脂肪酸組成として1価不飽和脂肪酸であるオレイン酸を主として含んでいる。これらの総揮散量から初期4日間の1日あたりの揮散量(mg/20L/日)および終期4日間の1日あたりの揮散量(mg/20L/日)を求めた。結果を表1に示す。
【0038】
(比較例2)
ハッカ油のみを表1に記載の量で用いた以外は、実施例1と同様の手順で初期4日間のハッカ油の総揮散量および終期4日間のハッカ油の総揮散量を計測した。これらの総揮散量から初期4日間の1日あたりの揮散量(mg/20L/日)および終期4日間の1日あたりの揮散量(mg/20L/日)を求めた。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示すように、成分(B)に相当するローズヒップ油、ダイズ油、サフラワー油またはグレープシード油を用いた実施例1では、いずれも初期4日間の1日あたりの揮散量が8mg/20L/日以上であり、優れた害虫忌避効果が発揮されることがわかる。さらに、終期4日間の1日あたりの揮散量も2.5mg/20L/日以上であり、害虫忌避効果が終期まで維持されることがわかる。
【0041】
一方、成分(B)に相当しないオリーブ油またはツバキ油を用いた比較例1およびハッカ油のみを用いた比較例2では、終期4日間の1日あたりの揮散量が2.5mg/20L/日未満となる場合がある。したがって、害虫忌避効果が終期まで維持されない場合がある。
【0042】
<害虫忌避成分としてハッカ油を使用した場合の香り強度の検証>
(実施例2)
400mgのハッカ油と200mgローズヒップ油とを混合して検体A(ローズヒップ油33%処方)を得た。得られた検体Aを、ポリプロピレン製のボックス(約20L)に入れて密閉し、25℃で一晩静置した。一晩静置後、ボックス内の香り強度について、男女28名のパネラーに下記の基準で評価してもらった。28名のパネラーの平均点を表2に示す。さらに、1~3点と評価した割合(%)についても表2に示す。1~3点を「刺激が弱い」または「普通」と評価し、4点および5点を「刺激が強い」と評価した。平均点が低く、1~3点と評価した割合が高いほど、ハッカ油の刺激が緩和されていると評価した。
【0043】
<評価基準>
5点:強い
4点:やや強い
3点:普通(臭気を感じるが、特に気にならない強さ)
2点:やや弱い
1点:無臭あるいは弱い
【0044】
(実施例3)
400mgのハッカ油と800mgローズヒップ油とを混合した以外は、実施例2と同様の手順で検体B(ローズヒップ油67%処方)を得た。得られた検体Bを用いた以外は、実施例2と同様の手順で香り強度を評価した。28名の平均点を表2に示す。さらに、1~3点と評価した割合(%)についても表2に示す。
【0045】
(実施例4)
300mgのハッカ油と600mgサフラワー油とを混合して検体C(サフラワー油67%処方)を得た。得られた検体Cを用いた以外は、実施例2と同様の手順で香り強度を男女42名のパネラーに評価してもらった。42名のパネラーの平均点を表2に示す。さらに、1~3点と評価した割合(%)についても表2に示す。
【0046】
(実施例5)
300mgのハッカ油と600mgグレープシード油とを混合して検体D(グレープシード油67%処方)を得た。得られた検体Dを用いた以外は、実施例2と同様の手順で香り強度を男女32名のパネラーに評価してもらった。32名のパネラーの平均点を表2に示す。さらに、1~3点と評価した割合(%)についても表2に示す。
【0047】
(比較例3)
ハッカ油のみを用いた以外は、実施例2と同様の手順で香り強度を評価した。28名のパネラーの平均点を表2に示す。さらに、1~3点と評価した割合(%)についても表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、実施例2~5で得られた検体A~Dは、比較例3(ハッカ油のみ)と比べて平均点が低く、ハッカ油の臭気(刺激)が緩和されていることがわかる。さらに、実施例2~5で得られた検体A~Dを「1~3点」と評価した割合も、比較例3と比べて高いことがわかる。
【0050】
<害虫忌避成分としてハッカ油を使用した場合の忌避効果の検証>
(実施例6)
図2に示すように、100cm×100cm×25cmのバット4に水および固形餌5を置いた。次いで、化粧板製のボックス6(容量約20L)を準備して、バット4内に置いた。ボックス6には、1cm×5cmの侵入口61が1カ所設けられている。クロゴキブリの成虫40頭(オス20頭およびメス20頭)をバット4内に放った。放ったクロゴキブリに水および餌を自由摂取させて一晩馴化させた。
【0051】
次いで、検体7を一方のボックス6内に置き処理区6aとした。検体7としては、400mgのハッカ油と200mgのローズヒップ油との混合物Aを、パルプマット(4.1cm×2.2cm×2.9mm)に含浸させ、図3に示すポリエチレンテレフタレート製の容器10に入れたものを使用した。他方のボックス6を無処理区6bとした。
【0052】
忌避試験として試験開始後1日目~3日目(初期)、試験開始後14日目~16日目(中期)、試験開始後29日目~31日目(終期)に、処理区6a内および無処理区6b内に定着しているゴキブリの頭数を確認した。確認した頭数から、定着阻止率(%)を下記の式によって求め、忌避効果を確認した。試験は、温度21~24℃、湿度24~27%RHに保たれた部屋で行い、明条件10時間(8時~18時)および暗条件14時間(18時~8時)とした。処理区6a内および無処理区6b内に定着しているゴキブリの頭数は8時にカウントした。忌避試験は2回行い、2回の試験の各日数における定着阻止率の平均を求めた。結果を表3に示す。
定着阻止率(%)={(無処理区頭数-処理区頭数)/無処理区頭数}×100
【0053】
(実施例7)
混合物Aの代わりに、400mgのハッカ油と800mgのローズヒップ油との混合物Bを用いた以外は、実施例6と同様の手順で定着阻止率(%)を求めた。忌避試験は2回行い、2回の試験の各日数における定着阻止率の平均を求めた。結果を表3に示す。
【0054】
(比較例4)
混合物Aの代わりに400mgのハッカ油のみを用いた以外は、実施例6と同様の手順で定着阻止率(%)を求めた。忌避試験は2回行い、2回の試験の各日数における定着阻止率の平均を求めた。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
表3に示すように、実施例6および7で得られた検体は、クロゴキブリに対して、ハッカ油のみを用いた比較例4と同様、初期から終期にわたり高い忌避効果(定着阻止率)を示していることがわかる。すなわち、害虫忌避成分である成分(A)に成分(B)を添加したとしても、成分(A)が有する効果を成分(B)が阻害していないことがわかる。
【0057】
したがって、比較例1~4については、害虫忌避効果が発揮されていたとしても、害虫忌避成分由来の刺激が強い、もしくは終期まで害虫忌避効果が維持されていないことがわかる。一方、実施例1~7に示す結果から、本開示の一実施形態に係る刺激緩和方法および低刺激性害虫忌避剤によれば、優れた害虫忌避効果を維持しながら、害虫忌避成分の刺激が緩和されていることがわかる。
【0058】
<害虫忌避成分としてラベンダー油を使用した場合の揮散量の検証>
(実施例8)
表4に示すように、600mgのラベンダー油と1200mgのサフラワー油とを混合して得られる検体について、揮散試験を37日間行った。揮散試験は実施例1と同様の手順で行った。試験開始日から試験開始後4日目まで(初期4日間)のラベンダー油の総揮散量、および試験開始後31日目から37日目まで(終期7日間)のラベンダー油の総揮散量を計測した。総揮散量は、検体の質量変化を測定して算出した。試験は、温度約25℃および湿度約20%RHの条件下で行った。これらの総揮散量から初期4日間の1日あたりの揮散量(mg/20L/日)および終期7日間の1日あたりの揮散量(mg/20L/日)を求めた。初期4日間の1日あたりの揮散量が8mg/20L/日(0.4mg/L/日)以上であり、終期7日間の1日あたりの揮散量が2.5mg/20L/日(0.125mg/L/日)以上であれば、優れた害虫忌避効果が発揮され、その効果が終期まで維持されていると評価した。結果を表4に示す。
【0059】
(比較例5)
サフラワー油を用いずにラベンダー油のみを600mg用いた以外は、実施例8と同様の手順で初期4日間のラベンダー油の総揮散量および終期7日間のラベンダー油の総揮散量を計測した。これらの総揮散量から初期4日間の1日あたりの揮散量(mg/20L/日)および終期7日間の1日あたりの揮散量(mg/20L/日)を求めた。結果を表4に示す。
【0060】
<害虫忌避成分としてベルガモット油を使用した場合の揮散量の検証>
(実施例9)
ラベンダー油の代わりに600mgのベルガモット油を用いた以外は、実施例8と同様の手順で検体を得た。得られた検体を用いた以外は、実施例8と同様の手順で揮散量の検証を行った。実施例9では、初期1日あたりの揮散量を、試験開始日から試験開始後3日目まで(初期3日間)の総揮散量から求めた。結果を表4に示す。
【0061】
(比較例6)
サフラワー油を用いずにベルガモット油のみを600mg用いた以外は、実施例9と同様の手順で揮散量の検証を行った。結果を表4に示す。
【0062】
<害虫忌避成分としてユーカリ油を使用した場合の揮散量の検証>
(実施例10)
ラベンダー油の代わりに600mgのユーカリ油を用いた以外は、実施例8と同様の手順で検体を得た。得られた検体を、パルプマット(4.1cm×2.2cm×2.9mm)に含浸させ、パルプマットを容器10に入れる代わりに、アルミホイルで包んで密閉した。次いで、アルミホイルに、一辺が5.5mmの正方形状の開口部を1ヶ所形成し、実施例8と同様の手順で揮散量の検証を行った。実施例10では、初期1日あたりの揮散量を、試験開始日から試験開始後3日目まで(初期3日間)の総揮散量から求めた。結果を表4に示す。
【0063】
(比較例7)
サフラワー油を用いずにユーカリ油のみを600mg用いた以外は、実施例10と同様の手順で揮散量の検証を行った。結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
表4に示すように、実施例8~10では、いずれも初期4日間(初期3日間)の1日あたりの揮散量が8mg/20L/日以上であり、優れた害虫忌避効果が発揮されることがわかる。さらに、終期7日間の1日あたりの揮散量も2.5mg/20L/日以上であり、害虫忌避効果が終期まで維持されることがわかる。
【0066】
<害虫忌避成分としてラベンダー油を使用した場合の香り強度の検証>
(実施例11)
600mgのラベンダー油と1200mgサフラワー油とを混合して検体E(サフラワー油67%処方)を得た。得られた検体Eを、ポリプロピレン製のボックス(約20L)に入れて密閉し、25℃で一晩静置した。一晩静置後、ボックス内の香り強度について、男女26名のパネラーに実施例2と同様の基準で評価してもらった。26名のパネラーの平均点を表5に示す。さらに、1~3点と評価した割合(%)についても表5に示す。1~3点を「刺激が弱い」または「普通」と評価し、4点および5点を「刺激が強い」と評価した。平均点が低く、1~3点と評価した割合が高いほど、ラベンダー油の刺激が緩和されていると評価した。
【0067】
(比較例8)
サフラワー油を用いずにラベンダー油のみを600mg用いた以外は、実施例11と同様の手順で香り強度を評価した。26名のパネラーの平均点を表5に示す。さらに、1~3点と評価した割合(%)についても表5に示す。
【0068】
<害虫忌避成分としてベルガモット油を使用した場合の香り強度の検証>
(実施例12)
ラベンダー油の代わりにベルガモット油を600mg用いた以外は実施例11と同様の手順で検体Fを得た。得られた検体Fについて、実施例11と同様の手順で香り強度を評価した。26名のパネラーの平均点を表5に示す。さらに、1~3点と評価した割合(%)についても表5に示す。
【0069】
(比較例9)
サフラワー油を用いずにベルガモット油のみを600mg用いた以外は、実施例11と同様の手順で香り強度を評価した。26名のパネラーの平均点を表5に示す。さらに、1~3点と評価した割合(%)についても表5に示す。
【0070】
<害虫忌避成分としてユーカリ油を使用した場合の香り強度の検証>
(実施例13)
ラベンダー油の代わりにユーカリ油を600mg用いた以外は実施例11と同様の手順で検体Gを得た。得られた検体Gについて、実施例11と同様の手順で香り強度を評価した。26名のパネラーの平均点を表5に示す。さらに、1~3点と評価した割合(%)についても表5に示す。
【0071】
(比較例10)
サフラワー油を用いずにユーカリ油のみを600mg用いた以外は、実施例11と同様の手順で香り強度を評価した。26名のパネラーの平均点を表5に示す。さらに、1~3点と評価した割合(%)についても表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
表5に示すように、実施例11~13で得られた検体E~Gは、検体E~Gのそれぞれに含まれる精油のみを用いた比較例8~10と比べて平均点が低く、精油の臭気(刺激)が緩和されていることがわかる。さらに、実施例11~13で得られた検体E~Gを「1~3点」と評価した割合も、比較例8~10と比べて高いことがわかる。
【符号の説明】
【0074】
1 ファン
2 容器
2a 通気孔
3 担体
4 バット
5 水および固形餌
6 ボックス
61 侵入口
6a 処理区
6b 無処理区
7 検体
10 ポリエチレンテレフタレート製の容器
11 底部
12 蓋部
12a 蓋部の上面
13 開口
図1
図2
図3