(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】新規ホスホニウム化合物
(51)【国際特許分類】
C07F 9/54 20060101AFI20220120BHJP
C07C 63/313 20060101ALI20220120BHJP
C08G 59/42 20060101ALI20220120BHJP
C08G 59/68 20060101ALI20220120BHJP
C08G 59/62 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
C07F9/54 CSP
C07C63/313
C08G59/42
C08G59/68
C08G59/62
(21)【出願番号】P 2018530432
(86)(22)【出願日】2017-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2017027500
(87)【国際公開番号】W WO2018021548
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2016150541
(32)【優先日】2016-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000242002
【氏名又は名称】北興化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大賀 将範
(72)【発明者】
【氏名】大橋 賢治
【審査官】池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-049210(JP,A)
【文献】特開平07-330787(JP,A)
【文献】特開2016-003243(JP,A)
【文献】特開2008-179733(JP,A)
【文献】特開2015-063661(JP,A)
【文献】特開2012-082271(JP,A)
【文献】エレクロトロニクス実装学会誌,2001年,Vol.4, No.6,p.537-542
【文献】Database CAPlus DN 147:437296,2007年,Abstract,& Acta Crystallographica, Section E: Structure Reports Online, 2007, Vol.63, No.2, o1010-o1011
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)
【化1】
(式中、R
1~R
4は、同一または異なって、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、または、アルキル基もしくはメトキシ基で置換してもよいフェニル基を示す置換基である。)
で表されるホスホニウムカチオン2分子と、下記の式(2)
【化2】
で表されるピロメリット酸の2価のアニオン残基1分子からなるホスホニウム塩。
【請求項2】
前記一般式(1)において、R
1~R
4が同一または異なって、ブチル基、フェニル基、4-メチルフェニル基、および、4-メトキシフェニル基から選ばれる置換基である、請求項1に記載のホスホニウム塩。
【請求項3】
前記一般式(1)において、R
1~R
4がフェニル基である、請求項1に記載のホスホニウム塩。
【請求項4】
前記一般式(1)において、R
1~R
4がブチル基である、請求項1に記載のホスホニウム塩。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のホスホニウム塩を少なくとも含む、熱硬化性樹脂用硬化促進剤
であって、当該熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂および/またはマレイミド樹脂である、熱硬化性樹脂用硬化促進剤。
【請求項6】
請求項5に記載の熱硬化性樹脂用硬化促進剤と、熱硬化性樹脂とを少なくとも含む、熱硬化性樹脂系組成物
であって、当該熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂および/またはマレイミド樹脂である、熱硬化性樹脂系組成物。
【請求項7】
さらに熱硬化性樹脂用硬化剤を含む、請求項6
に記載の熱硬化性樹脂系組成物。
【請求項8】
前記熱硬化性樹脂用硬化剤が、フェノール樹脂、ポリアミン、酸無水物、および、ベンゾオキサジンから選ばれる1種または2種以上の熱硬化性樹脂用硬化剤である、請求項
7に記載の熱硬化性樹脂系組成物。
【請求項9】
請求項
7または
8に記載の熱硬化性樹脂系組成物であって、熱硬化性樹脂用硬化促進剤をあらかじめ熱硬化性樹脂用硬化剤と反応させてなるマスターバッチを含む、熱硬化性樹脂系組成物。
【請求項10】
請求項6~
9のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂系組成物を硬化して得られる熱硬化性樹脂系硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温では触媒活性が低く熱硬化性樹脂系組成物を硬化させないが、所望の硬化温度では高い触媒活性を発揮し短時間で硬化させ得る熱硬化性樹脂用硬化促進剤、同熱硬化性樹脂用硬化促進剤を含む熱硬化性樹脂系組成物、一液における貯蔵安定性に優れた熱硬化性樹脂系組成物、ならびに硬化剤が酸無水物の場合に得られる硬化物が無色透明になる熱硬化性樹脂系組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂等に代表される熱硬化性樹脂系組成物を用いると、優れた機械的、化学的および電気的性質を有する成形体等が得られるため、熱硬化性樹脂系組成物は、接着剤、塗料、注型材料としてコイル、コンデンサー、プリント基板等の各種の電気部品、あるいは半導体素子や集積回路の絶縁封止等の用途に広く使用されている。これらの用途の中で、半導体素子の絶縁封止の分野では、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂系組成物が接着性等に優れるため好適に用いられているが、半導体素子の高集積化への要求が高く、半導体パッケージの構造も進歩し続けている。
【0003】
このため、封止材料等としての熱硬化性樹脂系組成物の性能も、より優れたものが要求されている。そのような状況下にあって、熱硬化性樹脂用の硬化促進剤には、熱硬化性樹脂系組成物を所望の設定温度でのみ効率良く硬化させ得る性質である「潜在性」、すなわち低温では触媒活性が低く熱硬化性樹脂系組成物を硬化させないが、所望の硬化温度では高い触媒活性を発揮し短時間で硬化させ得る性質が求められている。
【0004】
これは、封止材料用途の熱硬化性樹脂系組成物は、100~120℃程度の低温で混合することにより作製・貯蔵し、170℃以上の高温で硬化させることが一般的であり、低温で混合中に硬化が進行してしまうと、流動性悪化の要因となり好ましくないためである。つまり、100~120℃程度の低温では硬化が抑制され、170℃以上の高温では短時間で硬化することが好ましい。
また、熱硬化性樹脂と熱硬化性樹脂用硬化剤および熱硬化性樹脂用硬化促進剤を併用する熱硬化性樹脂系組成物が主流であるが、これらの材料を使用直前に混合しなくてはならないという煩雑さ、不便さから、熱硬化性樹脂および熱硬化性樹脂用硬化促進剤からなる単独硬化型熱硬化性樹脂系組成物も開発されている。この単独硬化型熱硬化性樹脂系組成物においても潜在性に優れ、さらには、熱硬化性樹脂が常温で液体である単独硬化型の熱硬化性樹脂系組成物(一液性の熱硬化性樹脂系組成物)であって、調製してから硬化させるまでの貯蔵安定性が室温においても良好であるものも望まれている。
【0005】
既存の熱硬化性樹脂用硬化促進剤、特にエポキシ樹脂用の硬化促進剤としては、リン系、あるいはイミダゾール系があるが、硬化力が高く、かつ電気的信頼性の高い硬化物を得ることが出来るリン系が一般的に知られており、その中でも潜在性硬化促進剤として、ホスホニウムボレート(特許文献1)、ホスホニウムカルボキシレート(特許文献2~6)、ホスホニウムチオシアネート(特許文献7)、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)アセチレン(特許文献8)が挙げられるが、潜在性の観点では十分ではなかった。
【0006】
また、光半導体を封止する際は、硬化物が無色透明となるエポキシ樹脂系組成物が求められている。硬化剤として酸無水物、リン系硬化促進剤としてホスホニウムカルボキシレートを含有するエポキシ樹脂系組成物の硬化物は無色透明になることが知られている(特許文献9~12参照)が、十分な透明性ではなかった。
さらに近年では、高耐熱用途の熱硬化性樹脂系組成物として、エポキシ樹脂とマレイミド樹脂の併用系等も種々検討されている(特許文献13、14参照)が、硬化促進剤の検討は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3638258号公報
【文献】国際公開第2010/087526号公報
【文献】国際公開第2009/014270号公報
【文献】特開平3-20065号公報
【文献】特開2016-113475号公報
【文献】特開平11-158251号公報
【文献】特開2010-209150号公報
【文献】特開2015-172136号公報
【文献】特開2005-325178号公報
【文献】特許第5052087号公報
【文献】特許第5191131号公報
【文献】特開2012-240969号公報
【文献】特開2016-210927号公報
【文献】特開2011-219674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術に伴う問題点を解決しようとするものである。すなわち、単独硬化型熱硬化性樹脂系組成物を含む熱硬化性樹脂系組成物において、熱硬化性樹脂用硬化促進剤が、低温(100~120℃程度)では触媒活性が低く熱硬化性樹脂系組成物を硬化させないが、所望の硬化温度では高い触媒活性を発揮し短時間で硬化させ得る潜在性を有し、また、一液における貯蔵安定性に優れた熱硬化性樹脂系組成物、ならびに硬化物が無色透明になる熱硬化性樹脂系組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような状況に鑑み、本発明者らは鋭意検討した。その結果、下記の一般式(1)
【0010】
【0011】
(式中、R1~R4は、同一または異なって、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、またはアルキル基もしくはメトキシ基で置換してもよいフェニル基を示す置換基である。)
で表されるホスホニウムカチオン2分子と、下記の式(2)
【0012】
【0013】
で表されるピロメリット酸の2価のアニオン残基1分子からなるホスホニウム塩を硬化促進剤として配合することにより、低温では触媒活性が低く熱硬化性樹脂系組成物を硬化させないが、所望の硬化温度では高い触媒活性を発揮し短時間で硬化させ得、また一液においては良好な貯蔵安定性を与え、さらに硬化剤が酸無水物の使用の場合に硬化物が無色透明になる熱硬化性樹脂系組成物が得られること等を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の内容をその要旨とするものである。
〔1〕 下記の一般式(1)
【0015】
【0016】
(式中、R1~R4は、同一または異なって、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、またはアルキル基もしくはメトキシ基で置換してもよいフェニル基を示す置換基である。)で表されるホスホニウムカチオン2分子と、下記の式(2)
【0017】
【0018】
で表されるピロメリット酸の2価のアニオン残基1分子からなるホスホニウム塩(以下、「本発明のホスホニウム塩」ということがある)。
【0019】
〔2〕 前記一般式(1)において、R1~R4が、同一または異なって、ブチル基、フェニル基、4-メチルフェニル基、および、4-メトキシフェニル基から選ばれる置換基である、〔1〕に記載のホスホニウム塩。
【0020】
〔3〕 前記一般式(1)において、R1~R4が全てフェニル基である〔1〕に記載のホスホニウム塩である、ビス(テトラフェニルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテート。
【0021】
〔4〕 前記一般式(1)において、R1~R4が全てブチル基である〔1〕に記載のホスホニウム塩である、ビス(テトラブチルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテート。
【0022】
〔5〕 〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のホスホニウム塩を少なくとも含む、熱硬化性樹脂用硬化促進剤。
【0023】
〔6〕 〔5〕に記載の熱硬化性樹脂用硬化促進剤と、熱硬化性樹脂とを少なくとも含む、熱硬化性樹脂系組成物。
〔7〕 前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、および、イソシアネート樹脂から選ばれる1種または2種以上の熱硬化性樹脂である、〔6〕に記載の熱硬化性樹脂系組成物。
〔8〕 さらに熱硬化性樹脂用硬化剤を含む、〔6〕または〔7〕に記載の熱硬化性樹脂系組成物。
【0024】
〔9〕 前記熱硬化性樹脂用硬化剤が、フェノール樹脂、ポリアミン、酸無水物、および、ベンゾオキサジンから選ばれる1種または2種以上の熱硬化性樹脂用硬化剤である、〔8〕に記載の熱硬化性樹脂系組成物。
【0025】
〔10〕 〔8〕または〔9〕に記載の熱硬化性樹脂系組成物であって、熱硬化性樹脂用硬化促進剤をあらかじめ熱硬化性樹脂用硬化剤と反応させてなるマスターバッチを含む、熱硬化性樹脂系組成物。
【0026】
〔11〕 〔6〕~〔10〕のいずれかに記載の熱硬化性樹脂系組成物を硬化して得られる熱硬化性樹脂系硬化物。
【発明の効果】
【0027】
本発明のホスホニウム塩を含む熱硬化性樹脂用硬化促進剤を成分として含有する熱硬化性樹脂系組成物は、従来の硬化促進剤を用いた場合に比べ、低温では触媒活性が低く熱硬化性樹脂系組成物を硬化させないが、所望の硬化温度では高い触媒活性を発揮し短時間で硬化させ得、また一液においては良好な貯蔵安定性を与え、硬化剤として酸無水物を使用の場合に、その硬化物が無色透明となるため有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、ビス(テトラフェニルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテートのIRスペクトルを示す図である。
【
図2】
図2は、ビス(テトラブチルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテートのIRスペクトルを示す図である。
【
図3】
図3は、比較製造例1で得られた生成物のIRスペクトルを示す図である。
【
図4】
図4は、比較製造例1で得られた生成物の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図5】
図5は、比較製造例1で得られた生成物の
31P-NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について詳細に説明する。
<硬化促進剤>
本発明は、下記の一般式(1)
【0030】
【0031】
(式中、R1~R4は、同一または異なって、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、または、アルキル基もしくはメトキシ基で置換してもよいフェニル基を示す置換基である。)
で表されるホスホニウムカチオン2分子と、下記の式(2)
【0032】
【0033】
で表されるピロメリット酸の2価のアニオン残基1分子からなるホスホニウム塩である。
【0034】
一般式(1)のホスホニウムカチオンにおけるR1~R4は、同一または異なって、炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、またはアルキル基もしくはメトキシ基で置換してもよいフェニル基を示す。
【0035】
一般式(1)のホスホニウムカチオンにおけるR1~R4の炭素数1~16の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基であることが好ましい。特にR1~R4の全てが、n-ブチル基であることがより好ましい。
【0036】
一般式(1)のホスホニウムカチオンにおけるR1~R4のアルキル基もしくはメトキシ基で置換してもよいフェニル基において、フェニル基を置換してもよいアルキル基としては炭素数1~4の直鎖状もしくは分岐鎖状であり、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基が好ましい。アルキル基もしくはメトキシ基で置換してもよいフェニル基として、より具体的には、フェニル基、4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基が好ましく、特にR1~R4の全てが、フェニル基であることがより好ましい。
【0037】
一般式(1)のホスホニウムカチオンとしては、テトラブチルホスホニウムカチオン、テトラフェニルホスホニウムカチオン、テトラキス(4-メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、テトラキス(4-メトキシフェニル)ホスホニウムカチオン、フェニルトリス(4-メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、フェニルトリス(4-メトキシフェニル)ホスホニウムカチオン、フェニルトリブチルホスホニウムカチオン、(4-メチルフェニル)トリフェニルホスホニウムカチオン、(4-メトキシフェニル)トリフェニルホスホニウムカチオン、ブチルトリフェニルホスホニウムカチオン等が挙げられる。
【0038】
式(2)であるピロメリット酸の2価のアニオン残基とは、ピロメリット酸の1位と、4位もしくは5位のカルボキシル基の水素原子が外れて、2価のカルボキシルアニオンとなったものをいう。
【0039】
上記のホスホニウムカチオンとピロメリット酸の2価のアニオン残基との塩は本明細書の記載に基づき、公知の方法により容易に製造できる。
例えば、ピロメリット酸のジアルカリ金属塩を常法で合成(溶媒は、水、メタノール等)した後、そのピロメリット酸のジアルカリ金属塩0.5モルに対してテトラ置換ホスホニウムハライドを1モル仕込み反応させることにより塩形成する方法等が挙げられる。この場合、テトラ置換ホスホニウムハライドとピロメリット酸のジアルカリ金属塩をそれぞれ単独もしくは2種類以上を使用して上記塩を形成させてもよい。2種類以上を混合する場合は、2種類以上のテトラ置換ホスホニウムハライドおよびピロメリット酸のジアルカリ金属塩同士を先に混合した後に、ビス(テトラ置換ホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテートを形成させてもよいし、2種類以上のビス(テトラ置換ホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテートを混合してもよい。本製法による製造例は、製造例1に記載した。
【0040】
また、テトラ置換ホスホニウムヒドロキシド1モルに対してピロメリット酸または無水ピロメリット酸を0.5モル用いて中和することにより塩を形成してもよい。本製法による製造例は、製造例2に記載した。
【0041】
得られた反応物から純度の高い結晶を析出させ、未反応の原料および副生する無機塩を除去すること等を目的に、得られた反応物を水、アルコール系有機溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)、ケトン系有機溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等)、エーテル系有機溶媒(テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、2-メチルテトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン等)、およびこれらの混合溶媒で洗浄、再結晶精製してもよい。
なお、上記テトラ置換ホスホニウムハライド、テトラ置換ホスホニウムヒドロキシド、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、および溶媒はいずれも市販されているものを使用してもよい。
【0042】
これらの方法により得られるホスホニウム塩は、通常は、ホスホニウムカチオンとピロメリット酸の2価のアニオン残基との2:1(モル比)塩が主成分であり、一般式(3)で示される。
【0043】
【0044】
また、一般式(3)において、アニオン部は、式(2)で表されるピロメリット酸のアニオン残基(2価のアニオン残基)を示し、厳密には、複数のカルボキシル基もしくはカルボキシルアニオンのうち、o-フェニレン鎖を隔てて存在するカルボキシル基およびカルボキシルアニオンがホスホニウムカチオンに配位したアニオン残基である。このとき、カルボキシル基およびカルボキシルアニオンは、実際には等価である。
【0045】
一般的なカルボキシル基に含まれる水素原子は、1H-NMRにおけるケミカルシフトが12ppm付近に検出されるのに対し、一般式(3)に記載のピロメリット酸のアニオン残基に含まれる水素原子は、隣接する酸素原子との水素結合が非常に強いため、1H-NMRにおけるケミカルシフトが20ppm付近に検出される。
【0046】
また、本発明は、一般式(1)で表されるホスホニウムカチオン2分子と、式(2)で表されるピロメリット酸の2価のアニオン残基1分子からなるホスホニウム塩(例えば一般式(3)で表されるホスホニウム塩)を少なくとも含む熱硬化性樹脂用硬化促進剤(以下、「本発明の熱硬化性樹脂用硬化促進剤」ということがある)である。
一般式(3)に記載の2価のアニオン残基がホスホニウムカチオン2分子に配位することが、テトラ置換ホスホニウムアセテート、テトラ置換ホスホニウムベンゾエート等、従来のホスホニウムカルボキシレートと比較し、低温時における樹脂の硬化発現までのタイムラグを生じさせ、低温時の低活性(潜在性)や貯蔵安定性の付与を引き起こしていると考えられる。
【0047】
本発明の熱硬化性樹脂用硬化促進剤は、本発明の熱硬化性樹脂用硬化促進剤と熱硬化性樹脂とを少なくとも含む、単独硬化型の熱硬化性樹脂系組成物においても良好な潜在性が得られ、一液性の単独硬化型熱硬化性樹脂系組成物において調製してから硬化させるまでの間、室温で保存可能な良好な貯蔵安定性を得ることができる。
また、硬化剤が酸無水物の場合において、硬化促進剤に一般式(3)のホスホニウム塩を使用すると、無色透明性が優れた樹脂系組成物の硬化物が得られる。
さらに、一般式(3)のホスホニウム塩が硬化剤と均一化し難い場合等は、均一化を容易にすること等を目的として、一般式(3)のホスホニウム塩をあらかじめ硬化剤と反応させて得たマスターバッチを、熱硬化性樹脂用硬化促進剤として用いてもよい。
本発明の熱硬化性樹脂用硬化促進剤は、本発明のホスホニウム塩の他に、効果に影響しない限り、熱硬化性樹脂用硬化促進剤に通常使用される溶剤、充填剤、添加剤等をさらに含んでもよい。
なお、本発明の熱硬化性樹脂用硬化促進剤は、上記ホスホニウム塩の他に、適宜熱硬化性樹脂の硬化促進剤を併用して使用してもよい。
【0048】
一般式(3)のホスホニウム塩としては、ビス(テトラフェニルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテート、ビス[テトラキス(4-メチルフェニル)ホスホニウム]ジハイドロジェンピロメリテート、ビス[テトラキス(4-メトキシフェニル)ホスホニウム]ジハイドロジェンピロメリテート、ビス(テトラブチルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテート、ビス[フェニルトリス(4-メチルフェニル)ホスホニウム] ジハイドロジェンピロメリテート、ビス[フェニルトリス(4-メトキシフェニル)ホスホニウム] ジハイドロジェンピロメリテート、ビス(フェニルトリブチルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテート、ビス[(4-メチルフェニル)トリフェニルホスホニウム]ジハイドロジェンピロメリテート、ビス[(4-メトキシフェニル)トリフェニルホスホニウム]ジハイドロジェンピロメリテート、ビス(ブチルトリフェニルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテート等が挙げられる。
【0049】
また、本発明は、本発明の熱硬化性樹脂用硬化促進剤と、熱硬化性樹脂とを少なくとも含む、熱硬化性樹脂系組成物である(以下、「本発明の単独硬化型熱硬化性樹脂系組成物」ということがある)。さらなる本発明は、さらに熱硬化性樹脂用硬化剤を含む、熱硬化性樹脂系組成物である。以下、これらを「本発明の熱硬化性樹脂系組成物」ということがある。
本発明の熱硬化性樹脂系組成物の成分である熱硬化性樹脂の好ましい例であるエポキシ樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、および熱硬化性樹脂用硬化剤について次に説明する。
【0050】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂としては、特に限定されず、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する汎用的なエポキシ樹脂を用いることが可能であり、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、カテコール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類および/またはナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒の存在下で縮合または共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したフェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、アルキル置換または非置換のビフェノール、スチルベン系フェノール類等をエポキシ化したビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂;フェノール類および/またはナフトール類とジメトキシパラキシレンやビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂等をエポキシ化したフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂;ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等のカルボン酸類のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;アニリン、イソシアヌル酸等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したグリシジル型またはメチルグリシジル型エポキシ樹脂;分子内のオレフィン結合をエポキシ化して得られるビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等の脂環型エポキシ樹脂;パラキシリレンおよび/またはメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;フェノール類および/またはナフトール類とジシクロペンタジエンから合成される、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂のグリシジルエーテル;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル;ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂;ハイドロキノン型エポキシ樹脂;トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂;オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂;ジフェニルメタン型エポキシ樹脂;硫黄原子含有エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらのエポキシ樹脂は、単独で、また2種類以上を混合してもよく、有姿のまま使用してもよく、適宜溶剤や添加材等を添加してもよく、市販品を使用してもよい。
【0051】
<マレイミド樹脂>
マレイミド樹脂としては、特に限定されず、1分子中に2個以上のマレイミド基を有する汎用的なマレイミド樹脂を用いることが可能であり、例えば、4,4’-ビスマレイミドジフェニルメタン、N,N’-1,3-フェニレンジマレイミド、2,2’-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、ポリフェニルメタンマレイミド等が挙げられる。
これらのマレイミド樹脂は、単独で、また2種類以上を混合してもよく、有姿のまま使用してもよく、適宜溶媒や添加材等を添加してもよく、市販品を使用してもよい。
【0052】
<シアネート樹脂>
シアネート樹脂としては、特に限定されず、1分子中に2個以上のシアネート基を有する汎用的なシアネート樹脂を用いることが可能であり、例えば、1,3-ジシアナトベンゼン、1,4-ジシアナトベンゼン、1,3,5-トリシアナトベンゼン、ビス(3,5-ジメチル-4-シアナトフェニル)メタン、1,3-ジシアナトナフタレン、1,4-ジシアナトナフタレン、1,6-ジシアナトナフタレン、1,8-ジシアナトナフタレン、2,6-ジシアナトナフタレン、2,7-ジシアナトナフタレン、1,3,6-トリシアナトナフタレン、4、4’-ジシアナトビフェニル、ビス(4-シアナトフェニル)メタン、2,2’-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、ビス(4-シアナトフェニル)エーテル、ビス(4-シアナトフェニル)チオエーテル、ビス(4-シアナトフェニル)スルホン、2、2’-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、ビス(3,5-ジメチル-4-シアナトフェニル)メタン、ノボラック樹脂をシアネート化したフェノールノボラック型シアネート樹脂等が挙げられる。
これらのシアネート樹脂は、単独で、また2種類以上を混合してもよく、有姿のまま使用してもよく、適宜溶媒や添加材等を添加してもよく、市販品を使用してもよい。
<イソシアネート樹脂>
イソシアネート樹脂としては、特に限定されず、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する汎用的なイソシアネート樹脂を用いることが可能であり、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等のポリイソシアネートと、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリオールとの反応で得られる末端イソシアネート基オリゴマーの末端イソシアネート基を、フェノール類、アルコール類等でブロックしたイソシアネート樹脂等が挙げられる。
これらのイソシアネート樹脂は、単独で、また2種類以上を混合してもよく、有姿のまま使用してもよく、適宜溶媒や添加材等を添加してもよく、市販品を使用してもよい。
【0053】
<硬化剤>
熱硬化性樹脂用硬化剤としては、フェノール樹脂系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ベンゾオキサジン系硬化剤、ジシアンジアミド等が挙げられる。また、主剤として用いる熱硬化性樹脂以外の熱硬化性樹脂を、熱硬化性樹脂用硬化剤として使用してもよい。
【0054】
フェノール樹脂系硬化剤としては、特に限定されず、一般に硬化剤として使用される1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する汎用的なフェノール樹脂を用いることが可能であり、例えば、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、置換または非置換のビフェノール等の1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物;フェノール、クレゾール、キシレノール、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類および/またはナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等から合成されるノボラック型フェノール樹脂;フェノール類および/またはナフトール類とジメトキシパラキシレンやビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂;パラキシリレンおよび/またはメタキシリレン変性フェノール樹脂;メラミン変性フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂;フェノール類および/またはナフトール類とジシクロペンタジエンから合成される、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂;多環芳香環変性フェノール樹脂;ビフェニル型フェノール樹脂;トリフェニルメタン型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0055】
アミン系硬化剤としては、特に限定されず、汎用的な芳香族アミン、脂肪族アミン等を用いることが可能であり、例えば、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、m-キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン等の脂肪族ポリアミン、イソフォロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン等の脂環式ポリアミン、N-アミノエチルピペラジン、1,4-ビス(2-アミノ-2-メチルプロピル)ピペラジン等のピペラジン型のポリアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジメチルチオトルエンジアミン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、ビス(メチルチオ)トルエンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、m-フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、トリメチレンビス(4-アミノベンゾエート)、ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエート、ポリオキシテトラメチレンビス(p-アミノベンゾエート)等が挙げられる。
【0056】
酸無水物系硬化剤としては、特に限定されず、汎用的な酸無水物を用いることが可能であり、例えば、ヘキサヒドロフタル酸無水物、3-メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、4-メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、1-メチルノルボルナン-2,3-ジカルボン酸無水物、5-メチルノルボルナン-2,3-ジカルボン酸無水物、ノルボルナン-2,3-ジカルボン酸無水物、1-メチルナジック酸無水物、5-メチルナジック酸無水物、ナジック酸無水物、フタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、3-メチルテトラヒドロフタル酸無水物、4-メチルテトラヒドロフタル酸無水物、およびドデセニルコハク酸無水物等が挙げられる。
【0057】
ベンゾオキサジン系硬化剤としては、特に限定されず、汎用的なベンゾオキサジン樹脂を用いることが可能であり、例えばビスフェノールFとホルムアルデヒドとアニリンを反応させて得られるF-a型ベンゾオキサジン樹脂、ジアミノジフェニルメタンとホルムアルデヒドとフェノールを反応させて得られるP-d型ベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。
【0058】
これらの硬化剤は、単独で、または2種類以上を混合して使用することができ、有姿でそのまま使用してもよく、適宜溶剤や添加材等を添加し、硬化剤組成物として使用することもでき、市販品を使用してもよい。
【0059】
<熱硬化性樹脂系組成物>
本発明の熱硬化性樹脂系組成物に所望の設定温度でのみ効率良く硬化させ得る性質を求める場合、本発明の硬化促進剤とともに、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂やマレイミド樹脂を用いることが好ましく、さらに熱硬化性樹脂用硬化剤を使用する場合はフェノール樹脂を用いることが好ましい。また、無色透明性を求める場合は、酸無水物系硬化剤を用いることが好ましい。
また、本発明の熱硬化性樹脂系組成物は、本発明の熱硬化性樹脂用硬化促進剤、熱硬化性樹脂、および熱硬化性樹脂用硬化剤の他に、効果に影響しない限り、熱硬化性樹脂系組成物に通常使用される溶剤、充填剤、添加剤等をさらに含んでもよい。
熱硬化性樹脂系組成物は、線膨張率を小さくするために、公知の各種無機充填剤を含有することができる。無機充填剤としては、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化アルミニウムなどが挙げられる。これらの無機充填剤は、シランカップリング剤等のカップリング剤で表面処理してもよい。
その他、熱硬化性樹脂系組成物に、イオントラップ剤、離型剤、カーボンブラック等の顔料等を添加してもよく、熱硬化性樹脂以外の樹脂を含むこともできる。
熱硬化性樹脂系組成物中の一般式(3)のホスホニウム塩の含有量は、0.5重量部より少ないと、組成物の硬化力を十分に発揮できない場合があり、10重量部より多いと、組成物の貯蔵安定性が悪くなる場合があるため、熱硬化性樹脂100重量部に対して0.5~10重量部であることが好ましく、硬化性をより厳密に考慮すれば、かかる含有量を0.7~5重量部とすることが更に好ましい。さらに熱硬化性樹脂用硬化剤を使用する場合、硬化剤の含有量は、熱硬化性樹脂中の反応性基当量(例えばエポキシ樹脂であれば、樹脂中のエポキシ当量)と、硬化剤の当量との当量比を考慮して、一般的には、反応性基当量と硬化剤の当量との当量比が1.0:0.9~1.0:1.2となるようにする。
【0060】
本発明の熱硬化性樹脂系組成物をプリプレグに用いる場合、各成分が有機溶媒中に溶解または分散されたワニスの状態とすることが好ましい。
ワニスを製造する場合に用いる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で、また2種類以上を混合してもよく、市販品を使用してもよい。
【0061】
熱硬化性樹脂系組成物の調製方法は特に制限されず、前記各成分を均一に混合することにより調製できる。好ましい調製方法として、熱硬化性樹脂と本発明のホスホニウム塩とを温度20~150℃程度で均一に攪拌混合する方法を挙げることができ、場合によっては上記ワニスの製造に用いられる溶媒として例示された溶媒を用いてもよい。また、熱硬化性樹脂用硬化剤を加える場合、硬化剤と硬化促進剤の混合物を加熱後、冷却し、続いて熱硬化性樹脂と混合し、加熱後、冷却することが好ましい。
硬化剤と硬化促進剤の混合物を加熱することにより、硬化剤の粘度を低下させ、撹拌・混合を容易にし、硬化剤と硬化促進剤が均一に分散される。
硬化剤と硬化促進剤の混合物は熱硬化性樹脂と混合する前に、予め冷却することにより正確に計量でき、取り扱いが容易になる。
硬化促進剤が硬化剤に均一化し難い場合は、硬化促進剤を硬化剤に高濃度で加熱溶解後、冷却して得られるマスターバッチを硬化促進剤として用いてもよい。このマスターバッチは、硬化剤への溶解性が比較的良好となる。
【0062】
本発明の硬化促進剤は潜在性に優れるため、混合中に熱硬化性樹脂系組成物の硬化が抑制され、熱硬化性樹脂系組成物の調製時のハンドリングがよくなる。
また、硬化剤、硬化促進剤、および熱硬化性樹脂の各成分は、各混合工程において一度に混合してもよく、または複数回に分けて少しずつ混合してもよい。また、上記溶剤や添加剤、無機充填剤等を混合する場合も、同様に、任意の時期に一度または複数回に分けて混合することができる。
なお、硬化剤と硬化促進剤との混合や熱硬化性樹脂との混合の際は、均一に攪拌・混合することを容易とするため、ロールやニーダー等の混練機等を用いてもよい。
【0063】
本発明の熱硬化性樹脂系組成物は、熱硬化性樹脂系組成物に含まれる熱硬化性樹脂用硬化促進剤が低温では触媒活性が低く熱硬化性樹脂系組成物を硬化させないが、所望の硬化温度では高い触媒活性を発揮し短時間で硬化させ得る潜在性を有し、また、一液性における貯蔵安定性に優れた熱硬化性樹脂系組成物である。
熱硬化性樹脂系組成物の潜在性は、常法の潜在性評価方法により測定・評価することができる。例えばJIS K 6910に準拠したゲル化時間測定方法によりゲルタイムを測定し、低温と高温のゲルタイムの比率等により評価することができる。また、例えば示差走査熱量測定装置を使用して、発熱ピークを測定し、発熱開始温度と発熱トップ温度との差等により評価することができる。
また、熱硬化性樹脂系組成物の安定性は、常法の安定性評価方法により測定・評価することができる。例えばJIS K 6910に準拠したゲル化時間測定方法により貯蔵前と貯蔵後のゲルタイムを測定し、貯蔵前と貯蔵後のゲルタイムの比率等により評価することができる。
【0064】
<熱硬化性樹脂系硬化物>
本発明において熱硬化性樹脂系硬化物とは、熱硬化性樹脂系組成物を、熱硬化性樹脂系組成物に応じた特定の条件下で加熱することによって熱硬化性樹脂の流動性がなくなり、硬化した固形物のことをいう。以下、本発明の熱硬化性樹脂系組成物を硬化した固形物を「本発明の熱硬化性樹脂系硬化物」ということがある。
本発明の熱硬化性樹脂系硬化物は、上記した本発明の熱硬化性樹脂系組成物を、通常の熱硬化性樹脂系組成物の硬化の条件下で加熱することで得ることができる。通常硬化温度100~250℃程度で硬化時間30秒~15時間加熱により得ることができ、適宜条件を変更することも可能である。
本発明の熱硬化性樹脂系硬化物は、硬化剤として酸無水物を使用した場合に、その硬化物の着色が低減され、無色透明な硬化物となる。硬化物の着色の程度は、常法の色調評価方法により測定することができる。色調評価方法としては、例えばJIS-K0071-1に準拠した方法が挙げられ、着色の程度は、ハーゼン式数で表した値(APHA)として示される。無色透明性が求められる場面においては、APHAが小さいほど好ましく、APHAが50以下であると実用的といえる。
【実施例】
【0065】
以下に本発明の熱硬化性樹脂系組成物を実施例および試験例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[1H-NMR測定]
結晶10mgを約0.5mlの重DMSOに溶かし、φ5mmの試料管に入れ、(株)JEOL RESONANCE社製JNM-ECS400で測定した。シフト値は、DMSO(δ=2.49ppm)を基準とした。
[31P-NMR測定]
結晶10mgを約0.5mlの重DMSOに溶かし、φ5mmの試料管に入れ、(株)JEOL RESONANCE社製JNM-ECS400で測定した。シフト値は、リン酸(δ=0ppm)を基準とした。
[IR測定]
ブルカー・オプティクス(株)社製ALPHAを用い、ATR法で測定した。
【0066】
<製造例1>
水酸化カリウム56重量部を水1.5Lに溶解させ、これに無水ピロメリット酸109重量部を加える事でピロメリット酸ジカリウム塩を作製し、これにテトラフェニルホスホニウムブロミド419重量部を加えて60℃で反応させ、冷却した後、析出した結晶を濾取、水洗することにより、下記式(4)で示されるビス(テトラフェニルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテート(以下、「BTPP-ピロメリット酸」という。)を419重量部(収率90%)得た。
得られた結晶の融点を測定したところ、277~279℃であった。
【0067】
【0068】
<製造例2>
無水ピロメリット酸109重量部を水200重量部に懸濁させ、これにテトラブチルホスホニウムヒドロキシドの40重量%水溶液691重量部を加えて中和し、得られた反応混合物から減圧蒸留法を用いて脱水して得た残渣をメチルイソブチルケトン1Lに仕込み、析出した結晶を濾取することにより、下記式(5)で示されるビス(テトラブチルホスホニウム)ジハイドロジェンピロメリテート(以下、「BTBP-ピロメリット酸」という。)を340重量部(収率88%)得た。
得られた結晶の融点を測定したところ、130~132℃であった。
【0069】
【0070】
製造例1、2に準じて製造した本発明に係るホスホニウム塩の1H-NMRスペクトル、31P-NMRスペクトルのσ(ppm)値を、表1に示す。
【0071】
【0072】
また、製造例1、2で得られた生成物のIRスペクトルデータをそれぞれ、
図1、2に示す。
これらのデータから、製造例1、2で得られた生成物はそれぞれ、式(4)、(5)で示される目的のホスホニウム塩であることを確認した。
【0073】
<比較製造例1>
無水ピロメリット酸109重量部に代えて、無水フタル酸を74重量部使用した以外は、製造例1と同様にしたところ、得られた結晶はビス(テトラフェニルホスホニウム)フタレートではなく、原料であるテトラフェニルホスホニウムブロミドであり、目的の反応は進行しなかった。
比較製造例1で得られた生成物のIRスペクトルデータを、
図3に示す。比較製造例1で得られた生成物のNMRスペクトルデータを、
図4、5に示す。公知のデータベース収録の、テトラフェニルホスホニウムブロミドのスペクトルデータと、比較製造例1のスペクトルデータが一致することを確認した。
<比較製造例2>
無水ピロメリット酸109重量部に代えて、安息香酸を122重量部使用した以外は、製造例1と同様にしたところ、得られた結晶はテトラフェニルホスホニウムベンゾエートではなく、原料であるテトラフェニルホスホニウムブロミドであり、目的の反応は進行しなかった。
比較製造例2で得られた生成物について、IR、NMR測定を行ったところ、比較製造例1と同じ結果が得られた。公知のデータベース収録の、テトラフェニルホスホニウムブロミドのスペクトルデータと、比較製造例2のスペクトルデータが一致することを確認した。
【0074】
まず、熱硬化性樹脂系組成物の潜在性の評価試験を行った。
<実施例1>
フェノール樹脂系硬化剤のMEH-7851M(水酸基当量214、明和化成社製)214重量部に、BTPP-ピロメリット酸を5.0重量部加え、150℃加熱下で2分間攪拌・混合した後、室温まで冷却した。これにエポキシ樹脂のNC-3000(エポキシ当量274、日本化薬社製)280重量部を加え、120℃加熱下で2分間攪拌・混合した後、室温まで冷却し熱硬化性樹脂系組成物(エポキシ当量と水酸基当量の当量比1.0:1.0)を得た。
【0075】
<実施例2>
BTPP-ピロメリット酸5.0重量部に代えて、BTBP-ピロメリット酸を5.0重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0076】
<比較例1>
BTPP-ピロメリット酸5.0重量部に代えて、テトラフェニルホスホニウムアセテート(以下「TPPA」という。)を6.0重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0077】
<比較例2>
BTPP-ピロメリット酸5.0重量部に代えて、テトラフェニルホスホニウムハイドロジェンフタレート(以下「TPP-フタル酸」という。)を5.0重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0078】
<比較例3>
BTPP-ピロメリット酸5.0重量部に代えて、テトラブチルホスホニウムベンゾエート(以下「TBP-安息香酸」という。)を6.9重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0079】
<比較例4>
BTPP-ピロメリット酸5.0重量部に代えて、テトラブチルホスホニウムサリチレート(以下「TBP-サリチル酸」という。)を7.1重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0080】
<比較例5>
BTPP-ピロメリット酸5.0重量部に代えて、テトラブチルホスホニウムハイドロジェンスクシネート(以下「TBP-コハク酸」という。)を6.8重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0081】
<比較例6>
BTPP-ピロメリット酸5.0重量部に代えて、テトラブチルホスホニウムハイドロジェンシトレート(以下「TBP-クエン酸」という。)を8.4重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0082】
<比較例7>
BTPP-ピロメリット酸5.0重量部に代えて、ブチルトリフェニルホスホニウムチオシアネート(以下「TPPB-SCN」という。)を2.8重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0083】
<比較例8>
BTPP-ピロメリット酸5.0重量部に代えて、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)アセチレン(以下「DPPA」という。)を7.1重量部使用した以外は、実施例1と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0084】
〔ゲルタイム測定〕
得られた熱硬化性樹脂系組成物のゲルタイム(GT)はJIS K 6910記載のゲル化時間測定方法に準じ、鋼板温度を150℃および175℃として、日新科学社製ホットプレート式ゲル化試験器GT―Dを使用して測定した。なお、鋼板温度120℃以下では、樹脂が十分に軟化しないため、ゲル化時間の判別は困難であった。
ゲルタイムの比率(150℃におけるゲルタイム/175℃におけるゲルタイム)が大きいほど、熱硬化性樹脂用硬化促進剤が低温では触媒活性が低く熱硬化性樹脂系組成物を硬化させないが、所望の硬化温度では高い触媒活性を発揮し短時間で硬化させ得る、つまり潜在性に優れるといえ、潜在性が求められる場面においては、ゲルタイムの比率が2.3以上であると実用的といえる。結果を表2に示した。
【0085】
【0086】
表2に示すように、実施例1、2の熱硬化性樹脂系組成物は、ゲルタイムの比率(150℃におけるゲルタイム/175℃におけるゲルタイム)が大きい。
当該ゲルタイムの比率が大きい場合、100~120℃程度のより低温ではさらにゲルタイムが遅くなり硬化が抑制されることが予測される。よって、本発明の熱硬化性樹脂系組成物は、潜在性に優れることが明らかである。
【0087】
<実施例3>
フェノール樹脂系硬化剤のMEH-7851M(水酸基当量214、明和化成社製)54重量部に、BTPP-ピロメリット酸を2.8重量部加え、150℃加熱下で2分間攪拌・混合した後、室温まで冷却した。これにマレイミド樹脂のBMI-2300(マレイミド当量179、大和化成工業社製)125重量部とエポキシ樹脂のNC-3000(エポキシ当量274、日本化薬社製)71重量部を加え、130℃加熱下で2分間攪拌・混合した後、室温まで冷却し熱硬化性樹脂系組成物(エポキシ当量と水酸基当量の当量比1.0:1.0、エポキシ樹脂とフェノール樹脂を合算した重量とマレイミド樹脂の重量の重量比1.0:1.0)を得た。
【0088】
<実施例4>
BTPP-ピロメリット酸2.8重量部に代えて、BTBP-ピロメリット酸を2.3重量部使用した以外は、実施例7と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0089】
<比較例9>
BTPP-ピロメリット酸2.8重量部に代えて、TPPを1.6重量部使用した以外は、実施例7と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0090】
<比較例10>
BTPP-ピロメリット酸2.8重量部に代えて、TPP-MKを4.3重量部使用した以外は、実施例7と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0091】
<実施例5>
エポキシ樹脂のNC-3000(エポキシ当量274、日本化薬社製)83重量部に、BTPP-ピロメリット酸を2.8重量部加え、130℃加熱下で40秒間攪拌・混合した後、室温まで冷却した。これにマレイミド樹脂のBMI-2300(マレイミド当量179、大和化成工業社製)167重量部を加え、130℃加熱下で2分間攪拌・混合した後、室温まで冷却し熱硬化性樹脂系組成物(エポキシ樹脂とマレイミド樹脂の重量比1.0:2.0)を得た。
【0092】
<実施例6>
BTPP-ピロメリット酸2.8重量部に代えて、BTBP-ピロメリット酸を2.3重量部使用した以外は、実施例9と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0093】
<比較例11>
BTPP-ピロメリット酸2.8重量部に代えて、TPPを1.6重量部使用した以外は、実施例9と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0094】
<比較例12>
BTPP-ピロメリット酸2.8重量部に代えて、TPP-MKを4.3重量部使用した以外は、実施例9と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0095】
次に単独硬化型熱硬化性樹脂系組成物の潜在性の評価試験を行った。
<実施例7>
アセトン500重量部に、BTPP-ピロメリット酸を2.8重量部加え、40℃加熱下で2分間攪拌・混合した。これにマレイミド樹脂のBMI-2300(マレイミド当量179、大和化成工業社製)250重量部を加え、40℃加熱下で2分間攪拌・混合した後、乾燥によりアセトンを留去し、熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0096】
<実施例8>
BTPP-ピロメリット酸2.8重量部に代えて、BTBP-ピロメリット酸を2.3重量部使用した以外は、実施例3と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0097】
<比較例13>
BTPP-ピロメリット酸2.8重量部に代えて、トリフェニルホスフィン(以下「TPP」という。)を1.6重量部使用した以外は、実施例3と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0098】
<比較例14>
BTPP-ピロメリット酸2.8重量部に代えて、テトラフェニルホスホニウムテトラ(p-トリル)ボレート(以下「TPP-MK」という。)を4.3重量部使用した以外は、実施例3と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0099】
<比較例15>
BTPP-ピロメリット酸2.8重量部に代えて、2-フェニルイミダゾール(以下「2PZ」という。)を2.6重量部使用した以外は、実施例3と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0100】
<実施例9>
THF500重量部に、BTPP-ピロメリット酸を2.8重量部加え、40℃加熱下で2分間攪拌・混合した。これにマレイミド樹脂のBMI-4000(マレイミド当量285、大和化成工業社製)250重量部を加え、40℃加熱下で2分間攪拌・混合した後、乾燥によりTHFを留去し、熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0101】
<実施例10>
BTPP-ピロメリット酸2.8重量部に代えて、BTBP-ピロメリット酸を2.3重量部使用した以外は、実施例5と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0102】
<比較例16>
BTPP-ピロメリット酸2.8重量部に代えて、TPPを1.6重量部使用した以外は、実施例5と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0103】
<比較例17>
BTPP-ピロメリット酸2.8重量部に代えて、TPP-MKを4.3重量部使用した以外は、実施例5と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0104】
<比較例18>
BTPP-ピロメリット酸2.8重量部に代えて、2PZを2.6重量部使用した以外は、実施例5と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0105】
〔DSC測定〕
得られた熱硬化性樹脂系組成物を、示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー製DSC7020)を使用して、測定温度範囲30~350℃、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
検出される発熱ピークの発熱開始温度と発熱トップ温度との差(ΔT)が小さいほど、熱硬化性樹脂用硬化促進剤が低温では触媒活性が低く熱硬化性樹脂系組成物を硬化させないが、所望の硬化温度では高い触媒活性を発揮し短時間で硬化させ得る、つまり潜在性に優れるといえる。結果を表3、4に示した。
【0106】
【0107】
【0108】
表3、4に示すように、実施例3~6の熱硬化性樹脂を2種類含む熱硬化性樹脂系組成物および実施例7~10の単独硬化型の熱硬化性樹脂系組成物は、発熱開始温度が混合時の温度である120℃よりも高く、且つ、発熱開始温度と発熱トップ温度との差(ΔT)が30以下と小さい。
よって、本発明の熱硬化性樹脂系組成物は、潜在性に優れることが明らかである。
【0109】
次に、硬化剤に酸無水物系化合物を用いた熱硬化性樹脂系硬化物の透明性について評価試験を行った。
<実施例11>
酸無水物系硬化剤のリカシッドMH-T(酸無水物当量168、新日本理化社製;主成分は4-メチルヘキサヒドロフタル酸無水物)100重量部に、BTPP-ピロメリット酸を1.0重量部加え、60℃加熱下で5分間攪拌・混合した後、室温まで冷却した。これにエポキシ樹脂のjER828EL(エポキシ当量185、三菱化学社製)100重量部を加え、60℃加熱下で2分間攪拌・混合した後、室温まで冷却し熱硬化性樹脂系組成物を得た。また、得られた熱硬化性樹脂系組成物を120℃で1時間加熱後、さらに150℃で3時間加熱して熱硬化性樹脂系硬化物(エポキシ当量と酸無水物当量の当量比1.0:1.1)を得た。
【0110】
<実施例12>
BTPP-ピロメリット酸1.0重量部に代えて、BTBP-ピロメリット酸を1.0重量部使用した以外は、実施例11と同様にして熱硬化性樹脂系組成物および硬化物を得た。
【0111】
<比較例19>
BTPP-ピロメリット酸1.0重量部に代えて、テトラブチルホスホニウムアセテート(以下「TBPA」という。)を1.0重量部使用した以外は、実施例11と同様にして熱硬化性樹脂系組成物および硬化物を得た。
【0112】
<比較例20>
BTPP-ピロメリット酸1.0重量部に代えて、テトラブチルホスホニウムラウレート(以下「TBPLA」という。)を1.0重量部使用した以外は、実施例11と同様にして熱硬化性樹脂系組成物および硬化物を得た。
【0113】
<比較例21>
BTPP-ピロメリット酸1.0重量部に代えて、テトラブチルホスホニウムカチオンとビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸/メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸(重量比1/4)混合物由来の混合アニオン残基との塩(以下「TBP-HNA」という。)を1.0重量部使用した以外は、実施例11と同様にして熱硬化性樹脂系組成物および硬化物を得た。
【0114】
<比較例22>
BTPP-ピロメリット酸1.0重量部に代えて、ベンジルトリフェニルホスホニウムハイドロジェンフタレート(以下「TPPZ-フタル酸」という。)を1.0重量部使用した以外は、実施例11と同様にして熱硬化性樹脂系組成物および硬化物を得た。
【0115】
〔ゲルタイム測定〕
得られた熱硬化性樹脂系組成物のゲルタイム(GT)はJIS K 6910記載のゲル化時間測定方法に準じ、鋼板温度を175℃として日新科学社製ホットプレート式ゲル化試験器GT―Dを使用して測定した。結果を表5に示した。
【0116】
〔色調評価〕
得られた熱硬化性樹脂系組成物の硬化物の色調は、JIS K 0071-1記載の色調評価方法(ハーゼン単位色数)に準じて評価し、APHAで示した。
APHAが小さいほど、熱硬化性樹脂系組成物の硬化物がより透明性に優れるといえ、無色透明性が求められる場面においては、APHAが50以下であると実用的といえる。結果を表5に示した。
【0117】
【0118】
表5に示すように、実施例11、12の熱硬化性樹脂系組成物の硬化物は、比較例19~22に比べてAPHAが小さいため、無色透明に近く、透明性に優れている。
【0119】
一液性の単独硬化型熱硬化性樹脂系組成物の貯蔵安定性について評価試験を行った。
<実施例13>
エポキシ樹脂のビスフェノールAジグリシジルエーテル(三菱化学社製、jER828EL、エポキシ当量185)100重量部に、BTPP-ピロメリット酸を3.0重量部加え、60℃加熱下で2分間攪拌・混合した後、室温まで冷却し熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0120】
<実施例14>
BTPP-ピロメリット酸3.0重量部に代えて、BTBP-ピロメリット酸を3.0重量部使用した以外は、実施例13と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0121】
<比較例23>
BTPP-ピロメリット酸3.0重量部に代えて、TBPLAを3.0重量部使用した以外は、実施例13と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0122】
<比較例24>
BTPP-ピロメリット酸3.0重量部に代えて、2-エチル-4-メチルイミダゾール(以下「2E4MZ」という。)を3.0重量部使用した以外は、実施例13と同様にして熱硬化性樹脂系組成物を得た。
【0123】
〔ゲルタイム測定および貯蔵安定性試験〕
得られた熱硬化性樹脂系組成物のゲルタイム(GT)はJIS K 6910記載のゲル化時間測定方法に準じ、鋼板温度を140℃として日新科学社製ホットプレート式ゲル化試験器GT―Dを使用して測定した。
また得られた熱硬化性樹脂系組成物を25℃で保管し、各保管期間におけるゲルタイム保持率を求めた。
結果を表6に示した。
【0124】
【0125】
表6に示すように、実施例13、14の熱硬化性樹脂系組成物は、ゲルタイムの保持率が高く、貯蔵安定性に優れており、組成物を調製後、室温での保存が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の熱硬化性樹脂系組成物は硬化特性に優れ、硬化剤の種類によってその硬化物が透明性に優れるため、例えば、各種の小型の電気・電子部品や半導体部品の樹脂封止に有用である。