(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】有益なダニを放出するシステムおよびその使用
(51)【国際特許分類】
A01K 67/033 20060101AFI20220120BHJP
A01M 99/00 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
A01K67/033
A01M99/00
(21)【出願番号】P 2018536871
(86)(22)【出願日】2017-01-16
(86)【国際出願番号】 NL2017050022
(87)【国際公開番号】W WO2017123094
(87)【国際公開日】2017-07-20
【審査請求日】2020-01-15
(32)【優先日】2016-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】507223568
【氏名又は名称】コッパート・ベスローテン・フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】フロート,トーマス・フォルカート・マリー
(72)【発明者】
【氏名】アウデ・レンフェリンク,キルステン・エヴァ・エリーサベト
(72)【発明者】
【氏名】ファン・ハウテン,イヴォンヌ・マリア
(72)【発明者】
【氏名】ファン・バール,アデルマル・エマヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ホーヘルブルッヘ,ハンス
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/079353(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/033
A01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダニ種の集団と、前
記ダニのための食料源とを保持する区画である、ダニ区画を備える、有益なダニを放出するためのシステムであって、
前記有益なダニが捕食性ダニまたは捕食性ダニの餌となるダニから選択され、前記ダニ区画は、≦5g/m
2*24時間の水蒸気透過率を有する材料である、ガスバリヤー性材料により囲まれており、前記ダニ区画はxmm
3の容積を有し、xは3*10
3から600*10
3mm
3の間であり、前記システムはさらに前記ダニ区画を前記ダニ区画の外部空間と連絡するいくつかの連絡部を備えており、前記いくつかの連絡部はそれぞれ面積yを有し、yは0.1から4.0mm
2の間であり、前記連絡部の面積の総計はΣyであり、5*10
3mm≦x/Σy≦70*10
3m
mである、システム。
【請求項2】
選択されるガスバリヤー性材料がポリマー-金属積層
体を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記有益なダニ種が
、メソスティグマチドダニ種
またはプロスティグマチドダニ種から選択される捕食性ダニ種などの、捕食性ダニ種から選択される、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記捕食性ダニが、i)カブリダニ科、ii)マヨイダニ科、iii)トゲダニ科、iv)ヤドリダニ科、v)ヤドリダニ科、vi)コハリダニ科、vii)ツメダニ科、viii)オソイダニ科、ix)タカラダニ科、x)ナガヒシダニ科、およびxi)ハモリダニ科からなる群から選択される、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記有益なダニ種が
、コナダニ亜目のダニ種から選択される、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項6】
前記ダニ種が、i)サトウダニ科、ii)チリダニ科、iii)ニクダニ科、iv)コナダニ科、およびv)チビコナダニ科からなる群から選択される、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記有益なダニ種が捕食性ダニ種であり、前記捕食性ダニ種の前記食料源がコナダニ亜目から選択される餌のダニ種を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
有益なダニ種を標的領域に導入するための、請求項1~
6のいずれか1項に記載のシステムの使用
であって、前記有益なダニ種が捕食性ダニまたは捕食性ダニの餌となるダニから選択される、使用。
【請求項9】
捕食性の節足動物種の餌となり得る害虫を防除する方法であって、請求項
1に記載のいくつかのシステムを、前記害虫を防除しようとする標的領域に供給するステップを含
み、
前記捕食性の節足動物種が捕食性ダニ種であり、請求項1に記載の前記システムが前記捕食性ダニ種の集団を含む、または
前記捕食性の節足動物種が前記標的領域に存在しており、請求項1に記載の前記システムが、前記捕食性の節足動物種の餌として適切なアスティグマチドダニ種の集団を含む、方法。
【請求項10】
捕食性の節足動物種の餌になりやすい害虫が寄生しやすい非ヒト生物から農畜産物を生産する方法であって、
-ある領域、すなわち標的領域に、いくつかの非ヒト生物を供給するステップと;
-前記標的領域に、またはそれに近接して、請求項
1に記載のいくつかのシステムを供給するステップと;
-前記農畜産物を生産させるために、前記いくつかの非ヒト生物に適切な栄養物および環境条件を与えるステップと
を含
み、
前記捕食性の節足動物種が捕食性ダニ種であり、請求項1に記載の前記システムが前記捕食性ダニ種の集団を含む、または
前記捕食性の節足動物種が前記標的領域に存在しており、請求項1に記載の前記システムが、前記捕食性の節足動物種の餌として適切なアスティグマチドダニ種の集団を含む、方法。
【請求項11】
前記いくつかの非ヒト生物が、作物種、鳥類種
、または家畜哺乳類から選択される、請求項
10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ダニ種のヒトのための使用に関する。ヒトにとって有益に使用することができるダニ種は、例えば、植物生産物のための農業生産システム、動物生産物および畜産物のための農業生産システムを含む農業の分野、食品の貯蔵の分野などにおいて害虫を防除するのに使用し得る。かかる用途において、捕食性ダニ種ならびに捕食性ダニ種または他の捕食性の節足動物種のための餌として適したダニ種は有益であると考えることができる。
【背景技術】
【0002】
園芸を含む農業における有益なダニの使用は公知である。例えば、欧州特許第1686849号、欧州特許第2042036号、欧州特許第1830631号、欧州特許第1965634号に記載されているものなどの捕食性ダニは作物の害虫を防除するのに用いられることができる。欧州特許第2405741号および欧州特許第2612551号はさらに幾種もの有益な捕食性ダニを記載している。ダニ種をヒトのために使用することができる上述の分野は、その可能性のいくつかを包含する(encompass/include)に過ぎない。
【0003】
有益なダニをうまく使用するには、標的領域における有益なダニの思い通りの放出が必要とされる。有益なダニを放出し、またはそれらに餌のダニを供給するために様々なシステムが開発されている。これらのシステム全てにおいて、有益なダニは、代謝ガス(特にO2)が透過可能な材料、または、周囲の大気とのガス交換を可能にするために比較的大きい通気口を有する材料で作製された容器に入れられる。これは、当技術分野における、容器内での有益なダニの長期の生存(少なくとも2週間)には広範囲にわたるガス交換が必要とされるという一般的な信念に基づいている。これらの要件は、中でも、ガスが透過可能な材料(布地またはポリエチレン(PE)でコートされた紙)で作製された有益な昆虫およびダニのための放出システムに関するGB2393890(例えば、第4頁第30行~第5頁第2行参照)に反映されている。
【0004】
しかし、有益なダニの長期の放出のために、ガス透過性材料および/または比較的大きい通気口を有する材料を使用するシステムを使用することには、ある種の欠点がある。特に、ガスに対して相当に透過性の材料は、かなりの水蒸気の交換も可能にする。同様に、大きい通気口は、代謝ガスの交換を可能にするだけでなく水蒸気の流出も可能にする。加えて、大きい通気口には、有益なダニが存在するシステム内部に液状の水分が入る危険性がある。このため、水分レベルを目標の範囲内に維持することは従来技術のシステムに伴う問題である。目標の範囲外の水分レベルはシステム内の有益なダニの健康および/または集団の増殖に所望でない影響を与える可能性がある。このため、現行のシステムが有益なダニを放出するように長期に機能するには、周囲の相対湿度が約70%以上である必要がある。
【0005】
本発明の発明者は、驚くべきことに、有益なダニを長期に放出する(供給する)ためのシステムにはガス透過性材料および/または比較的大きい通気口を使用しなければならないという一般的な信念に反して、低いガス透過率を有する材料により囲まれた区画であって、その区画の内部(ダニ個体を収容している)と外部を連絡する開口が(例えば、ガス透過性材料を使用する現存のシステムの大きさの範囲内のように)比較的小さい前記区画において、有益なダニの種の集団を効果的に維持することが可能であるということを今般見出した。
【発明の概要】
【0006】
したがって、第1の態様によれば、本発明は、好ましくは担体と共にある有益なダニ種の集団と、有益なダニのための食料源とを保持する区画である「ダニ区画」からなる、有益なダニを放出するためのシステムに関し、前記ダニ区画は≦5g/m2*24時間の水蒸気透過率を有する材料であるガスバリヤー性材料により囲まれており、前記ダニ区画は3*103から600*103mm3の間の容積xmm3を有しており、システムはさらにダニ区画をダニ区画の外部空間と連絡するいくつかの連絡部を備えており、前記いくつかの連絡部は各々が0.1から4.0mm2の間の面積yを有しており、前記いくつかの連絡部の面積の総計はΣyであり、5*103mm≦x/Σy≦70*103mm、好ましくは6*103mm≦x/Σy≦60*103mm、より好ましくは7*103mm≦x/Σy≦50*103mmである。
【0007】
本発明のさらなる態様は、有益なダニ種を標的領域に導入するための本発明によるシステムの使用、および捕食性の節足動物種の餌になることができる害虫を標的領域で防除する方法であって、本発明によるシステムを前記標的領域に提供することを含む前記方法に関する。
【0008】
本発明のさらにもう1つ別の態様は、捕食性の節足動物種の影響を受けやすい害虫に弱いいくつかの非ヒト生物から農畜産物を生産する方法に関し、前記方法は、
前記いくつかの非ヒト生物をある領域、すなわち標的領域に供給し、
標的領域に、請求項1から5のいずれか1項に記載のシステムの複数を供給し、
前記いくつかの非ヒト生物に適切な栄養物および環境条件を与えて、農畜産物を生産する
ことを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、本発明によるダニ放出システムの前側の図を示す。
【
図1B】
図1Bは、本発明によるダニ放出システムの後側の図を示す。
【
図1C】
図1Cは、
図1Aおよび1Bに示されているダニ放出システムの最長の軸の方向の図を示す。
【
図2】
図2は、いかにして多数のダニ放出小袋をホイルのロールから形成することができるかを示す。
【
図3A】
図3Aは、実験で試験した異なる設計変更を有するダニ放出システムの内部の捕食性ダニ(スワルスキーカブリダニ(A. swirskii))の計数結果を示す。
【
図3B】
図3Bは、実験で試験した異なる設計変更を有するダニ放出システムの内部の餌のダニ(サトウダニ(C. lactis))の計数結果を示す。
【
図4A】
図4Aは、実験で試験した異なる設計変更を有するダニ放出システムの内部の含水量の値を時間と共に示す。
【
図4B】
図4Bは、実験で試験した異なる設計変更を有するダニ放出システムの内部の水分活性(a
w)の値を時間と共に示す。
【
図5A】
図5Aは、実験で試験したウォーキングアウト試験で集めた餌のダニ(サトウダニ)の計数結果を示す。
【
図5B】
図5Bは、実験で試験したウォーキングアウト試験で集めた捕食性ダニ(スワルスキーカブリダニ)の計数結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のシステムは有益なダニを放出するのに適したシステムである。このシステムは、構造要素、特にガスバリヤー性材料およびある種の実施形態では他の要素も含み、ならびに生物要素、特に有益なダニの集団を含んでいる。有益なダニを放出するためのかかるシステムは、有益なダニを放出するための装置または有益なダニを放出するための容器といってもよい。
【0011】
生物学の用語ダニは当業者には明白である。特に、当業者は知っているように、ダニは外骨格および関節肢を有することで特徴付けられるダニ亜綱(Acari)という亜綱の無脊椎動物である。本発明のシステムにより放出される有益なダニは、それらが果たし得る有用な機能の点で有益である。かかる有用な機能としては、例えば、昆虫および/またはダニ害虫の集団の防除などの、園芸を含めた農業における機能を挙げることができる。特に、捕食性ダニは昆虫および/またはダニ害虫の集団の防除に有用である。あるいは、有益なダニは、それらが有益な捕食性ダニまたは他の有益な捕食性節足動物のための食料源として役立ち得る一方で、使用される標的領域において害虫とはならないという意味で有用であり得る。このように、有益なダニは、標的領域に存在する(人為的な導入によるかまたは天然に存在することによる)捕食性種の集団の増殖を、標的領域に負の影響を及ぼす最小限の危険性で支持し得る。したがって有益という用語は有用を意味するものと理解されてよい。
【0012】
捕食性ダニは、例えば以下のものから選択され得る。
以下のようなメソスティグマチド(Mesostigmatid)ダニ種:
i)以下のようなカブリダニ科(Phytoseiidae):
アムブリセイイナエ亜科(Amblyseiinae)、例えば、アムブリセイウス属(Amblyseius)、例えばアンダソニガブリダニ(Amblyseius andersoni)、アムブリセイウス・アエリアリス(Amblyseius aerialis)、スワルスキーカブリダニ(Amblyseius swirskii)、アムブリセイウス・ヘルビコルス(Amblyseius herbicolus)またはラーゴカブリダニ(Amblyseius largoensis)、ユーセイウス属(Euseius)、例えばユーセイウス・フィンランディクス(Euseius finlandicus)、ユーセイウス・ヒビスキ(Euseius hibisci)、ユーセイウス・オバリス(Euseius ovalis)、ユーセイウス・ビクトリエンシス(Euseius victoriensis)、ユーセイウス・スティピュラツス(Euseius stipulatus)、ユーセイウス・スクタリス(Euseius scutalis)、ユーセイウス・ツラレンシス(Euseius tularensis)、ユーセイウス・アドエンシス(Euseius addoensis)、ユーセイウス・コンコルディス(Euseius concordis)、ユーセイウス・ホー(Euseius ho)、ユーセイウス・ガリクス(Euseius gallicus)、ユーセイウス・シトリフォリウス(Euseius citrifolius)またはユーセイウス・シトリ(Euseius citri)、イフィセイオデス属(Iphiseiodes)、例えばイフィセイオデス・ズルアギ(Iphiseiodes zuluagi)、イフィセイウス属(Iphiseius)、例えばイフィセイウス・デゲネランス(Iphiseius degenerans)、ネオセイウルス属(Neoseiulus)、例えばネオセイウルス・バーケリ(Neoseiulus barkeri)、ネオセイウルス・カリフォルニクス(Neoseiulus californicus)、ネオセイウルス・ククメリス(Neoseiulus cucumeris)、ネオセイウルス・ロンギスピノサス(Neoseiulus longispinosus)、ネオセイウルス・ウォメルスレイイ(Neoseiulus womersleyi)、ネオセイウルス・イダエウス(Neoseiulus idaeus)、ネオセイウルス・アノニムス(Neoseiulus anonymus)、ネオセイウルス・パスパリボルス(Neoseiulus paspalivorus)、ネオセイウルス・レドゥクツス(Neoseiulus reductus)またはネオセイウルス・ファラシス(Neoseiulus fallacis)、ネオセイウルス・バラキ(Neoseiulus baraki)、アムブリドロマルス属(Amblydromalus)、例えばアムブリドロマルス・リモニカス(Amblydromalus limonicus)、チフロドロマルス属(Typhlodromalus)、例えばチフロドロマルス・アリポ(Typhlodromalus aripo)、チフロドロマルス・ライラエ(Typhlodromalus lailae)またはチフロドロマルス・ペレグリヌス(Typhlodromalus peregrinus)、トランセイウス属(Transeius)(あるいはチフロドロミプス(Typhlodromips)ともいわれる)、例えばトランセイウス・モントドレンシス(Transeius montdorensis)(あるいはチフロドロミプス・モントドレンシス(Typhlodromips montdorensis)ともいわれる)、フィトセイウルス属(Phytoseiulus)、例えばチリカブリダニ(Phytoseiulus persimilis)、フィトセイウルス・マクロピリス(Phytoseiulus macropilis)、フィトセイウルス・ロンギペス(Phytoseiulus longipes)、フィトセイウルス・フラガリアエ(Phytoseiulus fragariae);
カタカブリダニ亜科(Typhlodrominae)、例えば、ガレンドロムス属(Galendromus)、例えばガレンドロムス・オクシデンタリス(Galendromus occidentalis)、メタセイウルス属(Metaseiulus)、例えばメタセイウルス・フルメニス(Metaseiulus flumenis)、ギナエセイウ属(Gynaeseiu)、例えばギナエセイウス・リツリボルス(Gynaeseius liturivorus)、チフロドロムス属(Typhlodromus)、例えばチフロドロムス・エクスヒララテス(Typhlodromus exhilarates)、チフロドロムス・フイアラツス(Typhlodromus phialatus)、チフロドロムス・レッキ(Typhlodromus recki)、チフロドロムス・トランスバーレンシス(Typhlodromus transvaalensis)、チフロドロムス・ピリ(Typhlodromus pyri)、チフロドロムス・ドレーナエ(Typhlodromus doreenae)またはチフロドロムス・アチアサエ(Typhlodromus athiasae);
ii)マヨイダニ科(Ascidae)、例えば、プロクトラエラプス属(Proctolaelaps)、例えばプロクトラエラプス・ピグマエウス(ミュラー)(Proctolaelaps pygmaeus (Muller));ブラッチソシウス属(Blattisocius)、例えばブラッチソシウス・タルサリス(ベルレース)(Blattisocius tarsalis (Berlese))、タンカンマヨイダニ(Blattisocius keegani (Fox));ラシオセイウス属(Lasioseius)、例えばラシオセイウス・フィメトルム・カーグ(Lasioseius fimetorum Karg)、ラシオセイウス・フロリデンシス・ベルレース(Lasioseius floridensis Berlese)、ラシオセイウス・ベスピノサス・エバンス(Lasioseius bispinosus Evans)、ラシオセイウス・デンタツス・フォックス(Lasioseius dentatus Fox)、ラシオセイウス・スカプラツス(ケネット)(Lasioseius scapulatus (Kenett))、ラシオセイウス・アチアサエ・ナワー&ナスル(Lasioseius athiasae Nawar & Nasr);アークトセイウス属(Arctoseius)、例えばアークトセイウス・セミシッサス(ベルレース)(Arctoseius semiscissus (Berlese));プロトガマセルス属(Protogamasellus)、例えばプロトガマセルス・ディオコルス・マンソン(Protogamasellus dioscorus Manson);
iii)トゲダニ科(Laelapidae)、例えば、ストラチオラエラプス属(Stratiolaelaps)、例えばストラチオラエラプス・シミツス(ウォマースレイ)(Stratiolaelaps scimitus (Womersley));ガエオラエラプス属(Gaeolaelaps)、例えばガエオラエラプス・アキュレイファー(カネストリニ)(Gaeolaelaps aculeifer (Canestrini));アンドロラエラプス属(Androlaelaps)、例えばアンドロラエラプス・カザリス(ベルレース)(Androlaelaps casalis (Berlese))、コスモラエラプス属(Cosmolaelaps)、例えばコスモラエラプス・クラビガー(Cosmolaelaps claviger)、コスモラエラプス・ジャボチカバレンシス(Cosmolaelaps jaboticabalensis);
iv)ハエダニ科(Macrochelidae)、例えば、マクロケレス属(Macrocheles)、例えばマクロケレス・ロブスツルス(ベルレース)(Macrocheles robustulus (Berlese))、マクロケレス・ムスカエドメスティカエ(スコポリ)(Macrocheles muscaedomesticae (Scopoli))、マクロケレス・マトリウス(フル)(Macrocheles matrius (Hull));
v)ヤドリダニ科(Parasitidae)、例えば、ペルガマサス属(Pergamasus)、例えばペルガマサス・キスキリアルム・カネストリニ(Pergamasus quisquiliarum Canestrini);パラシツス属(Parasitus)、例えばパラシツス・フィメトルム(ベルレース)(Parasitus fimetorum (Berlese))、パラシツス・ビツベロサス(Parasitus bituberosus)、パラシツス・ミコフィルス(Parasitus mycophilus)、パラシツス・マンミラツス(Parasitus mammilatus);
以下のようなプロスティグマチド(Prostigmatid)ダニ種:
vi)コハリダニ科(Tydeidae)、例えば、ホメオプロネマツス属(Homeopronematus)、例えばトマトツメナシコハリダニ(Homeopronematus anconai (Baker));ティデウス属(Tydeus)、例えばティデウス・ランビ(ベーカー)(Tydeus lambi (Baker))、ティデウス・カウダツス(ジュゲス)(Tydeus caudatus (Duges));プロネマツス属(Pronematus)、例えばプロネマツス・ユビキタス(マックグレゴー)(Pronematus ubiquitous (McGregor));
vii)ツメダニ類(Cheyletidae)、例えば、ケイレツス属(Cheyletus)、例えばホソツメダニ(Cheyletus eruditus (Schrank))、クワガタツメダニ(Cheyletus malaccensis Oudemans);
viii)オソイダニ科(Cunaxidae)、例えば、コレオシルス属(Coleoscirus)、例えばコレオシルス・シンプレクス(ユーイング)(Coleoscirus simplex (Ewing))、クナクサ属(Cunaxa)、例えばクナクサ・セチロストリス(ヘルマン)(Cunaxa setirostris (Hermann));
ix)タカラダニ科(Erythraeidae)、例えば、バラウスチウム属(Balaustium)、例えばバラウスチウム・プトマニ・スミレイ(Balaustium putmani Smiley)、バラウスチウム・メジカゴエンセ・マイヤー&ライク(Balaustium medicagoense Meyer &Ryke)、カベアナタカラダニ(Balaustium murorum (Hermann))、バラウスチウム・ヘルナンデジ(Balaustium hernandezi)、バラウスチウム・リーンデリ(Balaustium leanderi);
x)ナガヒシダニ科(Stigmaeidae)、例えば、アギステムス属(Agistemus)、例えばアギステムス・エクセルツス・ゴンザレズ(Agistemus exsertus Gonzalez);例えば、ゼッツェリア属(Zetzellia)、例えばゼッツェリア・マリ(ユーイング)(Zetzellia mali (Ewing));
xi)ハモリダニ科(Anystidae)、例えば、アニスティス属(Anystis)、例えばハモリダニ(Anystis baccarum)。
【0013】
重要な害虫に対する捕食性挙動を考慮して、捕食性ダニは、好ましくは、カブリダニ科、特にアムブリセイウス属、例えばスワルスキーカブリダニ、ラーゴカブリダニおよびアンダソニガブリダニ、ネオセイウルス属、例えばネオセイウルス・カリフォルニクス、ネオセイウルス・ククメリス、ネオセイウルス・バーケリ、ネオセイウルス・バラキおよびネオセイウルス・ロンギスピノサスおよびネオセイウルス・ファラシス、特にユーセイウス属、例えばユーセイウス・ガリクス、イフィセイウス属、例えばイフィセイウス・デゲネランス、トランセイウス属、例えばトランセイウス・モントドレンシス、アムブリドロマルス属、例えばアムブリドロマルス・リモニカス(あるいはチフロドロマルス・リモニカス(Typhlodromalus limonicus)ともいわれる)、ガレンドロムス属、例えばガレンドロムス・オクシデンタリス、フィトセイウルス属、例えばチリカブリダニ、フィトセイウルス・マクロピリスおよびフィトセイウルス・ロンギペス、ツメダニ科、特にケイレツス属、例えばホソツメダニ(Cheyletus eruditus)、トゲダニ科、特にアンドロラエラプス属、例えばアンドロラエラプス・カザリス(Androlaelaps casalis)、ストラチオラエラプス属、例えばストラチオラエラプス・シミツス(Stratiolaelaps scimitus)(あるいはヒポアスピス・ミルス(Hypoaspis miles)ともいわれる)、ガエオラエラプス属、例えばガエオラエラプス・アキュレイファー(Gaeolaelaps aculeifer)(あるいはヒポアスピス・アキュレイファー(Hypoaspis aculeifer)ともいわれる)、またはハエダニ科、特にマクロケレス属、例えばマクロケレス・ロブスツルス(Macrocheles robustulus)から選択される。
【0014】
カブリダニ科の名称については、Chant D.A., McMurtry, J.A. (2007) Illustrated keys and diagnoses for the genera and subgenera of the Phytoseiidae of the world (Acari: Mesostigmata)、Indira Publishing House, West Bloomfied, MI, USAを参照されたい。マヨイダニ科、トゲダニ科、ハエダニ科、ヤドリダニ科、コハリダニ科、ツメダニ類、オソイダニ科、タカラダニ科およびナガヒシダニ科の名称については、Carrillo, D., de Moraes, G.J., Pena, J.E. (ed.) (2015) Prospects for Biological Control of Plant Feeding Mites and Other Harmful Organisms. Springer, Cham, Heidelberg, New York, Dordrecht, Londonを参照されたい。パラシツス・ミコフィルスについては、Baker A.S.,Ostoja-Starzewski J.C (2002) New distributional records of the mite Parasitus mycophilus (Acari: Mesostigmata), with a redescription of the male and first description of the deutonymph. Systematic & Applied Acarology 7, 113-122が参照できる。パラシツス・マンミラツスについては、Karg, W. (1993) Die Tierwelt Deutschlands, 59.Teil. Acari (Acarina), Milben Parasitiformes (Anactinochaeta) Cohors Gamasina Leach. Gustav Fischer, Jenaが参照できる。ハモリダニ科については、Cuthbertson A.G.S., Qiu B.-L., Murchie A.K. (2014) Anystis baccarum: An Important Generalist Predatory Mite to be Considered in Apple Orchard Pest Management Strategies. Insects 5, 615-628; doi:10.3390/insects5030615が参照できる。
【0015】
当業者は選択された捕食性ダニ種にとっての潜在的な宿主範囲を知っている。捕食性ダニにより有効に防除し得る害虫は、例えば、コナジラミ類、例えばオンシツコナジラミ(Trialeurodes vaporariorum)およびタバココナジラミ(Bemisia tabaci);アザミウマ類、例えばネギアザミウマ(Thrips tabaci)、ミナミキイロアザミウマ(Thrips palmi)およびフランクリニエラ属の種(Frankliniella spp.)、例えばミカンキイロアザミウマ(Frankliniella occidentalis)、フランクリニエラ・シュルツァイ(Frankliniella schultzei)ハダニ、例えばナミハダニ(Tetranychus urticae)、リンゴハダニ(Panonychus ulmi)、他の植物性のダニ、例えばチャノホコリダニ(Polyphagotarsonemus latus)、または他の害虫、例えば、エリオフィズ(Eriophyids)、テヌイパルピズ(Tenuipalpids)、キジラミ(Psyllids)、ヨコバイ、アブラムシ、ハエ目である。加えて、鳥類に寄生するダニ、例えば、ワクモ(Dermanyssus gallinae)、および爬虫類に寄生するダニ、例えば、オオサシダニ科(Macronyssidae)、例えば、オフィオニサス属(Ophionyssus)、例えばヘビオオサシダニ(Ophionyssus natricis)も、捕食性ダニ、特にヒポアスピス属(Hypoaspis)、例えばヒポアスピス・アンギュスタ(Hypoaspis angusta)、ケイレツス属、例えばケイレツス・エルディティス(Cheyletus eruditis)、アンドロラエラプス属、例えばアンドロラエラプス・カザリス、トゲダニ科、例えば、ストラチオラエラプス属、例えばストラチオラエラプス・シミツス(ウォマースレイ);ガエオラエラプス属、例えばガエオラエラプス・アキュレイファー(カネストリニ);アンドロラエラプス、例えばアンドロラエラプス・カザリス(ベルレース)、またはマクロケレス属、例えばマクロケレス・ロブスツルスから選択される捕食性ダニの餌になり得る。
【0016】
本発明のある種の実施形態に従って捕食性ダニまたはその他の捕食性節足動物の食料源として役立ち得る有益なダニは、アスティグマチド(Astigmatid)ダニ種、特に以下から選択されるアスティグマチドダニ種から選択され得る。
i)サトウダニ科(Carpoglyphidae)、例えば、サトウダニ属(Carpoglyphus)、例えばサトウダニ(Carpoglyphus lactis);
ii)チリダニ科(Pyroglyphidae)、例えば、ヒョウヒダニ属(Dermatophagoides)、例えばヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronysinus)、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae);ユーログリファス属(Euroglyphus)、例えばユーログリファス・ロンギアー(Euroglyphus longior)、シワダニ(Euroglyphus maynei);ピログリファス属(Pyroglyphus)、例えばピログリファス・アフリカヌス(Pyroglyphus africanus);
iii)ニクダニ科(Glycyphagidae)、例えば、ステノグリフィナエ亜科(Ctenoglyphinae)、例えば、ディアメゾグリファス属(Diamesoglyphus)、例えばディアメゾグリファス・インテルメディユーサー(Diamesoglyphus intermediusor)、ステノグリファス属(Ctenoglyphus)、例えばステノグリファス・プルミガー(Ctenoglyphus plumiger)、ステノグリファス・カネストリニイ(Ctenoglyphus canestrinii)、ステノグリファス・パルミファー(Ctenoglyphus palmifer);グリシファギナエ亜科(Glycyphaginae)、例えば、ブロミア属(Blomia)、例えばブロミア・フリーマニ(Blomia freemani)、またはグリシファガス属(Glycyphagus)、例えばグリシファガス・オーナツス(Glycyphagus ornatus)、グリシファガス・ビカウダツス(Glycyphagus bicaudatus)、チリニクダニ(Glycyphagus privatus)、イエニクダニ(Glycyphagus domesticus)、またはレピドグリファス属(Lepidoglyphus)、例えばレピドグリファス・ミカエリ(Lepidoglyphus michaeli)、レピドグリファス・フスティファー(Lepidoglyphus fustifer)、サヤアシニクダニ(Lepidoglyphus destructor)、またはオーストログリシファガス属(Austroglycyphagus)、例えばオーストログリシファガス・ゲニクラタス(Austroglycyphagus geniculatus);アエログリフィナエ亜科(Aeroglyphinae)、例えば、アエログリファス属(Aeroglyphus)、例えばアエログリファス・ロブスツス(Aeroglyphus robustus);ラビドフォリナエ亜科(Labidophorinae)、例えば、ゴヒエリア属(Gohieria)、例えばゴヒエリア・フスカ(Gohieria fusca);またはニクテリグリフィナエ亜科(Nycteriglyphinae)、例えば、コプログリファス属(Coproglyphus)、例えばコプログリファス・スタンメリ(Coproglyphus stammeri)、またはコルトグリフィダエ亜科(Chortoglyphidae)、例えば、コルトグリファス属(Chortoglyphus)、例えばコルトグリファス・アルクアツス(Chortoglyphus arcuatus)、より好ましくはグリシファギナエ亜科から選択され、より好ましくはグリシファガス属またはレピドグリファス属から選択され、最も好ましくはイエニクダニまたはサヤアシニクダニから選択される;
iv)コナダニ科(Acaridae)、例えば、チロファガス属(Tyrophagus)、例えばケナガコナダニ(Tyrophagus putrescentiae)、チロファガス・トロピクス(Tyrophagus tropicus)、アカルス属(Acarus)、例えばアシブトコナダニ(Acarus siro)、アカルス・ファリス(Acarus farris)、アカルス・グラシリス(Acarus gracilis);ラルドグリファス属(Lardoglyphus)、例えばコウノホシカダニ(Lardoglyphus konoi)、サイレオファガス属(Thyreophagus)、例えばムシクイコナダニ(Thyreophagus entomophagus);アレウログリファス属(Aleuroglyphus)、例えばムギコナダニ(Aleuroglyphus ovatus);
v)チビコナダニ科(Suidasiidae)、例えば、スイダシア属(Suidasia)、例えばスイダシア・ネスビチ(Suidasia nesbiti)、スイダシア・ポンチフィカ(Suidasia pontifica)またはネッタイチビコナダニ(Suidasia medanensis)。
【0017】
好ましいアスティグマチドダニは、サヤアシニクダニ、サトウダニ科、例えば、サトウダニ属、例えばサトウダニ、サイレオファガス属、例えばムシクイコナダニ、コナダニ科、例えば、スイダシア・ポンチフィカまたはネッタイチビコナダニから選択され得る。
【0018】
アスティグマチドダニは、Hughes(Hughes, A.M., 1977, The mites of stored food and houses. Ministry of Agriculture、Fisheries and Food, Technical Bulletin No. 9: 400 pp)により記載されているようにその天然の生息地から分離することができ、Parkinson (Parkinson, C.L., 1992, ”Culturing free living astigmatid mites.” Arachnida: Proceedings of a one day symposium on spiders and their allies held on Saturday 21st November 1987 at the Zoological Society of London)、およびSolomon & Cunnington (Solomon, M.E. and Cunnington, A.M., 1963, Rearing acaroidmites、Agricultural Research Council, Pest Infestation Laboratory, Slough, England, pp 399 403)に記載されているように維持し培養することができる。
【0019】
用語「放出」は、有益なダニがシステムから外に出てこられることを意味するものと理解されたい。したがって、本発明のダニ放出システムは、有益なダニを放出、散布または供給するのに適している。
【0020】
本発明のシステムは、有益なダニの集団を保持する区画である、ダニ区画を含んでいる。区画の機能は、有益なダニ集団の個体および前記有益なダニ個体に関連するあらゆる追加の材料を保持することである。かかる追加の材料は、当業者に公知の担体材料および/または食料源から選択され得る。
【0021】
区画の大きさおよび形状(または形態)は、選択される有益なダニに応じて変化し得る。適切な大きさの範囲および形状(または形態)の選択は当業者の常識の範囲内である。例えば、適切な形状および大きさを有するダニまたは昆虫のためのシステムを開示するGB2393890およびGB2509224を参照できる。当業者には理解されるように、本発明によるシステムはまた、GB2393890およびGB2509224に開示されているダニ放出システムに従っても設計し得る。したがって、本発明のダニ放出システムは、少なくとも1つの本発明の他のシステムと連結することによって本発明の少なくとも1つの他のシステムと連合し、その結果、複数の本発明のシステムの連合体を形成してもよい。本発明の複数のシステムの連合体は、細長い物体が形成されるのが好ましい。この細長い物体は、好ましくは、個々のシステムよりも長い長さ、かつ、単一のシステムと本質的に同じ広さの幅を有する。ある種の好ましい実施形態によると、このシステムの連合体は、逆向きのVまたはU字状に折り畳み可能な本発明のシステムを2つ含み、折り畳まれた構造の内側に連絡部が位置する。他の好ましい実施形態によると、システムの連合体は少なくとも10~180メートルの長さ、例えば80~160メートルの細長い物体を有する。
【0022】
区画内に収容される有益なダニの集団は、好ましくは育種集団である。本明細書で用語「育種」とは、生殖による増殖および集団の増殖を包含して意味するものと理解される。当業者は承知し理解するように、多くのダニ種は有性生殖によって繁殖するが、幾つかの種は無性生殖によって繁殖する。当業者はどのダニ種が有性生殖し、どのダニ種が無性生殖するか特定することができる。本質的に、育種集団は生殖によってその個体の数を増大することができる。したがって当業者には理解されるように、育種集団は、繁殖することができる、すなわち子孫を産むことができるメスのダニ個体、または子孫を産むことができる生活段階へと成熟することができるメスのダニ個体を含む。さらに、当業者には理解されるように、有性生殖するダニ種の場合、育種集団は性的に成熟したオスの個体または性的に成熟したオスの個体に成熟し得るオスの個体を含む。あるいは、有性生殖するダニ種の場合、育種集団は1匹以上の受精したメスを含んでいてもよい。
【0023】
ダニの集団は、好ましくは担体と共にある。有益なダニを含む製品中における担体の使用は、当技術分野で一般的な慣行であり、個体に担体表面を提供するのに適した原則的にあらゆる固体材料を使用し得ることが知られている。したがって、一般に、担体粒子は有益なダニの個体の大きさより大きいサイズを有する。好ましくは、担体は、ダニ集団により生成された代謝ガスおよび熱の交換を可能にする多孔性の媒体を与える。当業者は、特定の担体の適性が、選択される有益なダニの種に依存することを知っており、適切な担体を選択することができる。例えば、適切な担体は、(小麦)ふすま、おがくず、とうもろこし穂軸グリットなどの植物材料から選択し得る。国際公開第2013/103295号はさらにダニ集団用担体材料としてのもみ殻の適性を開示している。担体がダニ区画内に存在する場合、担体材料は好ましくはダニ区画を完全に満たすことはないが、幾らかのヘッドスペースがダニ区画内に残される。ヘッドスペースは、ダニ区画の容積xの60~95%、好ましくは70~90%、より好ましくは75~85%の担体容積を使用することによって作られ得る。ヘッドスペースは連絡部を介するガス交換に寄与し得る。これを考慮して、担体を使用し、ダニ区画内にヘッドスペースがある場合、連絡部は好ましくは(ヘッドスペースが位置している)ダニ区画の上方部分に設けられる。
【0024】
区画はさらに、有益なダニのための食料源を含んでいる。当業者には理解されるように、食料源の適性は、選択される有益なダニの種に依存し得る。捕食性の種の場合、生餌が好ましい可能性がある。例えば、アスティグマチドダニは、捕食性ダニの適切な餌になり得る。捕食性ダニ種の食料源として選択し得るアスティグマチドダニ種は既に上記した。したがって、本発明のある種の実施形態によると、ダニ区画は捕食性ダニ種を有益なダニとして含み、かつその捕食性ダニの食料源としてアスティグマチドダニ種を含み得る。本発明のさらなる実施形態によると、捕食性ダニの食料源として提示されるアスティグマチドダニ種の集団は、国際公開第2013/103294号に開示されているように、少なくとも部分的に不動化されてもよい。加えて、鱗翅目のガイマイツヅリガ(Corcyra cephalonica)またはスジコナマダラメイガ(Ephestia kuehniella)の卵はカブリダニ捕食性ダニなどの多くのメソスティグマチドまたはプロスティグマチド捕食性ダニのための食料源として適切となり得る。当業者には分かるように、鱗翅目の卵は、捕食性ダニに対する食料源として供えられるとき、通常不活化されている。当業者には知られるように、捕食性ダニのさらなる食料源は、アルテミア(Artemia)またはガマ属の種(Typha spp.)の花粉などの花粉から選択され得る。
【0025】
本発明のシステムのダニ区画は、低いガス交換速度および特に≦5g/m2*24時間の水蒸気透過率を有する材料によって囲まれる。かかる低い水蒸気透過率をもつ材料はまた、ダニ(および同様にダニ培養物中に存在する微生物)により産生されるO2および/またはCO2などの代謝ガスに対する低い透過率も有する。既に上に示したように、本発明の発明者は、この度驚くべきことに、有益なダニを放出する(供給する)ためのシステムにはガス透過性材料を使用しなければならないという一般的な信念に反して、低いガス透過率を有する材料により囲まれた区画内に有益なダニの種の集団を有効に維持することが可能であるということを見出した。示された水蒸気透過率を有するいかなる材料も本発明内で適切に使用することができる。技術的に実行可能である限り、水蒸気透過率に特定の下限はない。当業者には知られるように、無限に小さい水蒸気透過率を有する水蒸気バリヤー材料が入手可能である。したがって、選択されたガスバリヤー性材料の水蒸気透過率は5.0g/m2*24時間~0.00g/m2*24時間の理論値であり得る。適切なガスバリヤー性材料は5.0~0.01g/m2*24時間、好ましくは3.5~0.05g/m2*24時間、例えば2.5~0.1g/m2*24時間、より好ましくは2.0~1.0g/m2*24時間、例えば2.0~0.5g/m2*24時間、最も好ましくは2.0~1.0g/m2*24時間の水蒸気透過率を有し得る。
【0026】
当業者には理解されるように、ダニ区画を作るのに必要とされるガスバリヤー性材料の異なる部分間に作製されるあらゆる連絡部も、水蒸気透過に対してガスバリヤー性材料と同一の範囲で抵抗性でなければならない。当業者は、水蒸気透過に対して抵抗性の連絡部をいかに作製するか知識があるだろう。適切なガスバリヤー性材料は、好ましくはさらに水蒸気透過に対して抵抗性のシールの創成を可能にする。
【0027】
本記載の範囲内で用語「区画」は、仕切られる部分または空間を意味する。本発明のシステムにおいて、ダニ区画の空間は、ガスバリヤー性材料により囲まれることによって仕切られる。ガスバリヤー性材料により「囲まれた」ダニ区画への言及は、したがって、その区画空間がガスバリヤー性材料により取り囲まれている(またはその中に包み込まれている)ことを意味する。使用されるガスバリヤー性材料は、好ましくはシート形態であり、より好ましくは柔軟なシートである。ダニ区画は、ガスバリヤー性材料のいくつかの面により囲まれる。ダニ区画を囲む、取り囲む、包み込むために、「いくつかの」ガスバリヤー性材料が使用される。好ましくは単一の種類のガスバリヤー性材料がダニ区画を囲むガスバリヤー性材料の全ての面に使用され、したがってガスバリヤー性材料の「数」は1つのガスバリヤー性材料を指し、すなわち単数形である。しかし、ある種の代わりの実施形態においては、異なる種類のガスバリヤー性材料が、ダニ区画を囲む全ての面のうち異なる面に使用され得る。例えば、小袋の場合、前面は第1のガスバリヤー性材料製で、背面は第2の種類のガスバリヤー性材料製であってもよい。かかる場合ガスバリヤー性材料の数は複数のガスバリヤー性材料を意味する。
【0028】
用語「面」とは、あらゆる可能な形状または構造をもつ表面を意味する。好ましくはダニ区画を囲むいくつかの面は少なくとも本質的に平坦である。あるいは面は曲面であってもよい。ある種の実施形態によると、面は少なくとも本質的に平坦な領域と曲面の領域とを含む混合形態であってもよい。少なくとも本質的に平坦とは、平坦および完全に平坦を含む。
【0029】
「いくつかの」とは、本発明の本記載の範囲内で、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上などの1以上を意味する。ある種の実施形態においていくつかのは2、4、5、6、8または10などの複数である。ダニ区画を囲むガスバリヤー性材料のいくつかの面は、単一の面でよい。当業者は知っており理解しているように、単一の面は、面が曲げられ、3次元の囲い構造に固定されれば、ある一定の容積を有する区画を囲む3次元の囲いを形成することができる。例えば、シュガースティックまたはコーヒークリーマースティックと類似の形状の閉じた区画は、円筒形の形状に曲げた長方形の柔軟なシートから、円筒マントルで出会う辺を固定して閉じたマントルを形成し、その後円筒の2つの対向する開放端(「頂部」および「底部」端)を固定して開放端を閉じることで形成し得る。かかる物体内の区画は囲み用シートの単一の面によって囲まれている。
【0030】
当業者は、水蒸気とは何か、特にそれが水の気体状態であることを認識している。本発明の範囲内で使用するのに適切な低いガス交換速度を有する材料である、ガスバリヤー性材料は、≦5g/m2*24時間の水蒸気透過率を有する。ある種の好ましい実施形態によると、水蒸気透過率の試験条件は、38℃、90%RHである。水蒸気透過率は、ASTM E96、ASTM E398、またはASTM F1249標準法の手順に従って決定することができる。ある種の好ましい実施形態によると、ASTM E96の手順が水蒸気透過率を決定するのに使用される。本発明で選択される水蒸気透過の低い値を有する材料は、代謝ガスの透過のレベルも低い。例えば、BUI43ホイル(Euroflex B.V., Zwolle, The Netherlandsから得ることができる)は、供給業者によると約5cc/m2*24時間 (ASTM F 1927に従って23℃、50%RHで測定)の酸素透過率を有する。同様に、NativiaTM NZSSフィルム(Taghleef Industries)は、製造業者によると約12cc/m2*24時間(ASTM D 3985に従って23℃、50%RHで測定)の酸素透過率を有し、EcoMetフィルム(Ultimet Films)は、製造業者によると約3.0cc/m2*24時間(ASTM D 3985に従って23℃、50%RHで測定)の酸素透過率を有する。
【0031】
ガスバリヤー性材料は、示された水蒸気移動速度を有する任意の材料から選択することができ、当業者は、示された範囲内の水蒸気移動速度を有する材料を選択することができる。多層の積層体が好ましい。多層積層体は、少なくとも3つの層を有する積層体であると理解されたい。多層積層体は、特に良好なガスバリヤー特性を有し得る。ある種の好ましい実施形態によると、選択されたガスバリヤー性材料は、ポリマー-金属積層体、好ましくは金属化したポリマーフィルムを含む積層フィルムなどのポリマー-金属積層フィルムであってよい。ポリマー-金属積層体は、特に多層化されている場合に、特に良好なガスバリヤー特性を有する。柔軟なフィルムは、より容易に所望の形状に形成することができるので、特に好ましい。ガスバリヤー性材料は、例えば、供給業者によると<5g/m2*24時間(ASTM E96に従って38℃、90%RHで決定)の水蒸気透過率を有するNatureFlexTM N932(InnoviaTM Films)フィルムから選択し得る。しかし、本発明者による観察では、この材料が供給業者により示されているより低い水蒸気透過率を有し得ることが示された。代わりに、BUI43ホイル(Euroflex B.V., Zwolle, The Netherlandsから得ることができる)を使用し得る。このBUI43ホイルは、供給業者によると<1.5g/m2*24時間(ASTM E96に従って38℃、90%RHで決定)の水蒸気透過率を有する。他の代わりのガスバリヤー性材料は、供給業者によると約2.3g/m2*24時間(ASTM F1249に従って38℃、90%RHで決定)の水蒸気透過率を有するNativiaTM NZSSフィルム(Taghleef Industries)、および供給業者によると約1.0g/m2*24時間(ASTM F1249に従って38℃、90%RHで決定)の水蒸気透過率を有するEcoMetフィルム(Ultimet Films)から選択され得る。これらの材料の使用は特に好ましいが、本発明の本記載の内容から当業者には明らかなように、金属化されたポリマーフィルムを含む積層フィルムなど、ポリマー-金属積層フィルムなどのポリマー-金属積層体以外の材料をガスバリヤー性材料として選択してもよい。
【0032】
ダニ区画を囲むガスバリヤー性材料のいくつかの面は、mm2で表すことができるある一定の表面積zを有する。言及される表面積は、ダニ区画を画定する(またはその境界を形成する)表面積であるバリヤー材料の有効表面積である。これは、ダニ区画の内部空間と接触するガスバリヤー性材料の表面積である。ダニ分配システムの特定用途に応じて、バリヤー材料の表面積の値zは、0.5*103~30*103mm2、好ましくは2.5*103~15*103mm2、より好ましくは3.0*103~7.0*103mm2から選択される値を有し得る。
【0033】
ダニ区画はmm3で表すことができるある一定の容積xを有する。ダニ区画の容積は、ガスバリヤー性材料の平面により囲まれる空間の容積である。容積の値xは、3*103から600*103mm3、好ましくは6*103から300*103mm3、より好ましくは8*103から100*103mm3、最も好ましくは9*103から35*103mm3の範囲内で選択し得る。
【0034】
システムはさらに、ダニ区画の内部空間をダニ区画の外部の空間と連絡するいくつかの連絡部を含む。連絡部は主として、ガス交換を可能にし、有益なダニ集団の(動ける)個体がダニ区画から出て行くことを可能にする機能を有する。いくつかの、とは、上で定義されたように、1以上と理解するべきである。ガスバリヤー性材料における開口は、連絡部として供されるのに適している。開口は、当業者に公知の任意の適切な手段により、例えばパンチまたは針穿刺などの機械的穿刺、または、ガスバリヤー性材料が多くの金属化されたポリマーフィルムである場合などの比較的低い融解温度(150℃未満)を有するとき加熱穿刺または焼成により設けることができる。開口を作り出すための他の代わりの手段はレーザー穿刺を含み得る。好ましくは、ガスバリヤー性材料の除去により開口を作る方法が選択される。
【0035】
いくつかの連絡部は、各々mm2で表すことができるある一定の表面積yを有する。連絡部の面積yは、連絡部を介したガス交換に利用可能な面積である。Σyは、システム内の個々の連絡部の面積の総和である。例えば、本発明のシステムが2つの連絡部を含み、第1のものが1.0mm2の面積y1を有し、第2のものが2.0の面積y2を有する場合、Σy=y1+y2=1.0+2.0=3.0mm2である。個々の連絡部の表面積yは、0.10~4.0mm2、好ましくは0.15~2.0mm2、より好ましくは0.20~1.5mm2、最も好ましくは0.20~0.50mm2から選択される値を有し得る。示された大きさの範囲内で、使用される連絡部の形状は、ダニ区画内に存在する動けるダニ個体の通過が、与えられたいくつかの連絡部の少なくとも1つを通して可能となるような形状である。与えられたより広い範囲内では、当業者は、選択された有益なダニに適したより狭い範囲を選択することができるであろう。示された大きさの円形の連絡部は、一般に大部分の有益なダニに適している。いろいろな非円形の形状の連絡部も適切となり得る。好ましくは、非円形の連絡部は、yの値として示した範囲内の表面積を有する円を囲むことができる形状および大きさを有する。
【0036】
本発明のある種の実施形態によると、複数の連絡部の使用が好ましい。複数の連絡部を使用する場合、連絡部の数は、ダニ区画の容積分率当たり1つでよい。例えば、3*103mm3当たり1つ、または、あるいはダニ区画の容積の5*103、10*103、15*103、20*103、25*103、30*103、35*103、40*103もしくは50*103mm3当たり1つである。例えば、200*103mm3の容積xを有するダニ区画の場合、20*103mm3当たり1つの連絡部が与えられるように複数の連絡部を備え得る。この場合、200/20=10の連絡部が与えられる。あるいは、70*103mm3の容積xを有するダニ区画の場合、25*103mm3当たり1つの連絡部が与えられるように複数の連絡部を備え得る。この場合、70/25=2.8であり、与えられ得る連絡部の総数が2であることを考慮して、2つの連絡部が与えられる。一般に、20*103mm3を超える容積xを有するダニ区画を使用する場合、複数の連絡部の使用が好ましい。
【0037】
ある種の実施形態によると、連絡部は、好ましくは、システムの上方部分である端部に設けられる。上方部分とする基準は、本発明のシステムの使用の状況を指す。本発明のシステムが、それを吊り下げるための手段を備えている場合、上方部分はその吊り下げ手段の端部である。
【0038】
本発明のシステムにおいて、ダニ区画の容積の値xおよび連絡部の面積の値yは、5*103mm≦x/Σy≦70*103mm、好ましくは6*103mm≦x/Σy≦60*103mm、より好ましくは7*103mm≦x/Σy≦50*103mmとなるように選択され、ここで、Σyは連絡部の面積yの総和である。これにより、開口が区画の大きさと比較して比較的小さいことが確実になり、したがってダニ区画からの水蒸気の漏れが制限される。低い酸素透過を有する材料により囲まれ、かかる比較的小さい大きさの連絡部のみで外部と連絡している閉じた区画内にダニの集団を効果的に維持することができるということは驚くべきことである。
【0039】
本発明によるシステムにおいて、(i)ダニ区画を囲む材料の水蒸気透過率(WVTR)、ダニ区画の容積x、連絡部の面積y、および分率x/Σy(ここで、Σyは連絡部の合計面積(個々の連絡部の面積yの総和)である)はある所定の範囲内でなければならない。示された範囲内の選択は、WVTR、x、yおよびx/Σyに対する基準が全て規定の範囲内になるようにしなければならない。下記表Iに、本発明の範囲内で考えられるWVTR、x、yおよびx/Σyの組合せを示す。WVTRに対するいろいろな値に関する様々な欄に、x、yおよびx/Σyのいろいろな組合せが示されている。特に好ましい1つの実施形態は次の組合せを有する。WVTR=2.0~1.0g/m2*24時間、x=9*103~35*103mm3、y=0.20~0.50mm2、x/Σy=7*103~50*103mm。
【0040】
【0041】
当業者には理解されるように、物体の容積は、力が加わると変化し得る。これは特に、柔軟なフィルムなどの柔軟な材料で作製された物体の場合である。柔軟な材料を使用する場合、ダニ区画の容積は、ダニ区画内に存在する材料(例えば、ダニ集団の個体および多くの場合担体を含むダニ組成物)の容積と、ダニ区画を囲む材料、すなわちガスバリヤー性材料が、その寸法および/または幾何学的な制限に基づいて与え得る最大の容積との間で変化し得る。したがって柔軟なガスバリヤー性材料を使用するダニ放出システムの場合、値xは固定され得ず、変化し得る。かかるシステムの場合、x/Σy比を決定するのに考慮するべきダニ区画の適切な容積は、ダニ区画が少なくとも12時間、例えば少なくとも18時間などの、かなりの時間にわたって有する容積である。
【0042】
使用するバリヤー材料は、好ましくは不透明であり、ダニ区画に光が入るのを防ぐ。これは、ダニ区画内で可視光からの熱吸収を防ぐのに有益である。NatureFlexTM N932(InnoviaTM Films)フィルムおよびBUI43ホイル(Euroflex B.V., Zwolle, The Netherlandsから得ることができる)は不透明性を有するガスバリヤーの例である。
【0043】
本発明のシステムの持続可能な使用を考慮して、本システムは、堆肥化可能な材料から作製されるのがさらに好ましい。この点において堆肥化可能なガスバリヤー性材料の使用が好ましい。NatureFlexTM N932(InnoviaTM Films)フィルムおよびBUI43ホイル(Euroflex B.V., Zwolle, The Netherlandsから得ることができる)は適切な特性を有する堆肥化可能なガスバリヤー性材料の例である。
【0044】
本発明のさらなる態様は、本発明によるシステムの、標的領域に有益なダニを導入するための使用に関する。標的領域は、有益なダニの活性が望まれるあらゆる領域であり得る。有益なダニは、捕食性ダニ、または捕食性ダニもしくは他の捕食性の有益な節足動物のための食料源として適切なダニであり得る。本記載から明らかなように、有益なダニが捕食性ダニ種から選択される場合、その捕食性ダニのための食料源として適切なダニ種も、本発明によるシステムのダニ区画内に存在し得る。同様に本記載から明らかなように、有益なダニが捕食性ダニまたは他の捕食性の節足動物のための食料源として適したダニ種から選択される場合、捕食性ダニは、好ましくは本発明によるシステムのダニ区画内に存在しない。または異なる表現で記載するならば、かかる実施形態によると、有益なダニの集団は、好ましくは、捕食性ダニまたは他の捕食性の節足動物のための食料源として適したいくつかのダニ種からなる。例えば、有益なダニが作物の害虫を防除する機能を有する捕食性ダニである場合、標的領域は作物であってもよい。作物は、制限されることはないが、(温室)野菜作物、例えばトマト(Solanum lycopersicum)、コショウ(トウガラシ(Capsicum annuum))、ナス(Solanum melogena)、ウリ科(Cucurbitaceae)、例えばキュウリ(cucumis sativa)、メロン(cucumis melo)、スイカ(Citrullus lanatus);ソフトフルーツ(例えば、イチゴ(Fragaria x annanassa)、ラズベリー(ヨーロッパキイチゴ(Rubus ideaus)))、ブルーベリー、(温室)装飾作物(例えば、バラ、ガーベラ、キク)または樹木作物、例えばミカン属の種(Citrus spp.)から選択され得る。作物の害虫を防除する機能を有する捕食性ダニまたは他の捕食性の節足動物のための食料源として適したダニもまた、作物に存在する捕食性の種の集団の増殖を支えるために、作物に放出され得る。捕食性ダニは上記したメソスティグマチドまたはプロスティグマチド種であり得る。他の捕食性の節足動物はメクラカメムムシ科(Miridae)、例えばマクロロファス属の種(Macrolophus spp.)、ハナカメムシ科(Anthocoridae)、例えばオリウス属の種(Orius spp.)、例えばハナカメムシ(Orius laevigatus)、テントウムシ科(Coccinellidae)、例えばアダリア属の種(Adalia spp.)またはツマアカオオヒメテントウ(Cryptolaemus montrouzieri)、クサカゲロウ科(Chrysopidae)、例えばクリソペルラ属の種(Chrysoperla spp.)、例えばニッポンクサカゲロウ(Chrysoperla carnea)から選択され得る。
【0045】
代わりの実施形態によると、有益なダニは、動物、すなわち宿主動物の害虫、特に飼育動物、例えば、家畜およびペット、例えば家禽、牛、馬、犬または猫の害虫を防除する機能を有し得る。かかる実施形態によると、標的領域は、宿主動物のための家畜小屋または就寝スペースであり得る。本発明によるシステムは、例えば、ヒポアスピス属、例えばヒポアスピス・アンギュスタ、ケイレツス属、例えばケイレツス・エルディティス、アンドロラエラプス属、例えばアンドロラエラプス・カザリス、トゲダニ科、例えば、ストラチオラエラプス属、例えばストラチオラエラプス・シミツス(ウォマースレイ);ガエオラエラプス属、例えばガエオラエラプス・アキュレイファー(カネストリニ);アンドロラエラプス、例えばアンドロラエラプス・カザリス(ベルレース)、もしくはマクロケレス属、例えばマクロケレス・ロブスツルスから選択される捕食性ダニを有益なダニとして、またはこの選択された捕食性ダニのための餌として適切なアスティグマチドダニを含むことによって、ワクモ(poultry red mite)の防除を支援するために使用し得る。当業者には知られるように、これらの捕食性ダニはより広い宿主範囲を有し、したがって他の害虫を防除するのにも使用し得る。加えて、他の有益な捕食性の節足動物も動物宿主の害虫を防除するのに使用し得る。本発明のシステムは、かかる有益な捕食性の節足動物のための食料源として役立ち得、したがって生存および/またはその集団の増殖を支持し得るアスティグマチドダニを放出するのに使用でき、こうして動物宿主の害虫の防除を支持し得る。
【0046】
さらに他の実施形態において、有益なダニは、コナダニ(stored product mite)などの、貯蔵食品の害虫に対する捕食動物である。かかる実施形態において標的領域は食品貯蔵場所である
【0047】
本発明の使用において、有益なダニは、本発明のシステムを標的領域または近接位置に供給することによって、標的領域に導入される。これは、本発明のシステムを標的領域に配置するか、またはそれを標的領域に吊り下げることによって行われ得る。標的領域に吊り下げるために、ある種の実施形態による本発明のシステムは、いくつかのフックおよび/またはいくつかの糸などの吊り下げ手段を備え得る。かかる吊り下げ手段はガスバリヤー性材料に固定されてもよい。
【0048】
以下の実験に示されるように、本発明によるダニ放出システムは、周囲の相対湿度(RH)が70%未満である環境で使用されたとき適当な機能を維持する。これによって、RHが70%未満の値に変動するか、または平均であっても70%未満である条件下で使用できる、より頑強なシステムが提供される。環境条件が常に調節可能であるとは限らないことを考慮して、本発明は、低過ぎる周囲湿度に起因する失敗の危険性が低下したシステムを提供する。したがって、ある種の好ましい実施形態によると、本発明のシステムは、周囲の相対湿度(RH)が65%未満、例えば、65%~10%、または60%未満、55%未満、50%未満、45%未満、40%未満、30%未満、25%未満、20%未満、もしくは15%未満の値に達し得る環境で使用される。他の好ましい実施形態によると、本発明のシステムは、平均の周囲相対湿度(RH)が65%未満、例えば、65%~10%、または60%未満、55%未満、50%未満、45%未満、40%未満、30%未満、25%未満、20%未満、もしくは15%未満である環境で使用される。
【0049】
本発明のさらなる態様は、害虫が防除されるべき標的領域に本発明によるシステムを提供するステップを含む、捕食性ダニ種または他の有益な捕食性の節足動物種により餌とされ得る害虫を防除する方法に関する。
【0050】
さらに、本発明の別の態様は、捕食性の有益な節足動物の餌となり得る害虫に寄生されやすいいくつかの非ヒト生物により農畜産物を生産する方法に関し、前記方法は、
前記いくつかの非ヒト生物を、ある領域、すなわち標的領域に供給するステップと;
標的領域に、またはそれに近接して、いくつかの本発明によるシステムを供給するステップと;
農畜産物を生産させるために、前記いくつかの非ヒト生物に適切な栄養物および環境条件を与えるステップと
を含む。
【0051】
前記いくつかの非ヒト生物は、(以前に定義した)作物種、鳥類種、好ましくは家禽種、例えばニワトリまたはシチメンチョウ、家畜哺乳類から選択することができる。
【0052】
捕食性ダニ種の餌となり得る害虫とは、ダニ放出システム内に存在する捕食性ダニ(有益なダニとして選択された捕食性ダニ)にとって適切な餌となる害虫を意味すると理解されたい。
【0053】
捕食性ダニ種の餌となり得る害虫が寄生しやすい非ヒト生物とは、ある害虫を引き付ける傾向がある非ヒト生物を意味すると理解されるべきであり、前記害虫は、ダニ放出システム内に存在する捕食性ダニ(有益なダニとして選択された捕食性ダニ)にとって適切な餌である。したがって、ある害虫が寄生する傾向がある非ヒト生物は、その害虫にとって適切な宿主であり、その害虫は、ダニ放出システム内に存在する捕食性ダニ(有益なダニとして選択された捕食性ダニ)にとって適切な餌である。
【0054】
農作物により生産され得る農畜産物としては、植物バイオマス、種子、果実、その他などの、農業的価値を有するあらゆる植物材料が挙げられる。家禽などの鳥類、特にニワトリまたはシチメンチョウにより生産され得る農畜産物としては、肉、卵および肥料が挙げられる。牛、山羊、羊、豚などの哺乳類の家畜により生産され得る農畜産物としては、肉および革および肥料が挙げられる。
【0055】
本発明のこの態様の様々な実施形態およびそれに関連する技術的な詳細は有益なダニを標的領域に導入するシステムの使用のための上述したものと同様である。
【0056】
ここで、添付の図および以下に挙げる実施例を参照して本発明をさらに例示する。これらの図、それに関する記載および実施例は単に例示であり、いかなる意味でも特許請求の範囲に定義されている本発明の範囲を制限するものではないことを強調しておく。
【0057】
図1は、スティック状の小袋の形態を有する本発明の一実施形態によるダニ放出システム(1)を概略的に示す。
図1Aは、前面パネル(2)が位置するダニ放出システム(1)の前側の図を示す。
図1Bは、第1の背面パネル(3)および第2の背面パネル(4)ならびにシール面(5)の後部が位置するダニ放出システム(1)の後側の図を示す。
図1Cは、細長いダニ放出システム(1)の最長の軸の方向で見た図を示す。スティック状の小袋(1)は
図1Dにおいて外面を上にして示されている平面状ホイル(BUI 43, Euroflex B.V., Zwolle, The Netherlands)から折り畳まれる。ダニ放出システム(1)の折り畳まれた構造の前面パネル(2)(35mm幅および85mm長)、第1の背面パネル(3)、第2の背面パネル(4)およびシールフィン(5)を形成する部分が示されている。加えて、
図1Dには、シール面5と接合する第2のシール面(6)および折り目(7)が示されている。折り畳まれシールされた構造では、シール面(5)により覆われた折り目(7)および第2のシール面(6)は目に見えない。
図1A、1Bおよび1Cに示されている折り畳まれた構造は、シュガースティックおよびコーヒークリーマースティックを製造する手順と同様な手順で類似の機械を使用して得られる。このためには、シール面(5)をシール面(6)と接合し、これらの部分を材料のシール温度を超える適切な温度でシールする。次いで、シールフィンを曲げてスティックの本体に戻らせることができるように、部分(6)と(7)の間の線に沿って折り目を作る。これにより、シールフィンは第2の背面パネル(4)上でスティックの本体に取り付けることができる。次に下部シール(8)を作製して密閉する。こうして、担体上にダニ集団を含むダニ組成物が満たされた開放容器が作られる。充填後、上部シール(9)を作製して密閉する。この上部シール(9)は下部シール(8)より広くなっていて、ボール紙フックなどの吊り下げ手段(図には示されていない)のための取付け点を与える。
図1Dで、平面状の折り畳まれていない状況ではシールが実際には存在しないことを考慮して、下部シール(8)および上部シール(9)の位置が括弧にくくられた参照番号で示されている。
【0058】
図2は、いかにして多数のダニ放出小袋をホイルのロールから形成することができるかを示す。単一の平面状ホイル片に、ダニ放出システムの折り畳まれた構造の前面パネル(2)、第1の背面パネル(3)、第2の背面パネル(4)およびシールフィン(5)を形成する部分が示されている。加えて、内部フィンフラップ(7)、フィンシールにより覆われた部分(6)ならびにヒートシール(8)および(9)が配置される部分が示されている。切断、折り畳み、シール、担体と結合したダニ集団を含むダニ組成物の充填、およびダニ区画をダニ区画の外部の空間と連絡する開口(10)の導入は、シュガースティックおよびコーヒークリーマースティックを製造するのに使用される技術および手順と同様な技術および手順で十分に自動化されて実行できる。
【実施例】
【0059】
<ダニ培養>
湿らせたふすま(20%w/w含水量)担体材料上における餌ダニのサトウダニによるスワルスキーカブリダニのストック飼育。サトウダニへの栄養物は、ふすまのデンプン質物質およびふすまに加えた5%(w/w)酵母エキスにより与えされた。飼育混合物中のダニの数はvan Lenteren, J.C., Hale, A., Klapwijk. J.N., van Schelt, J. and S. Steinberg (2003) Guidelines for quality control of commercially produced natural enemies. In: van Lenteren, J.C. (ed) Quality control and production of biological control agents: Theory and testing procedures CABI Publishing, Wallingford UK, pp 293-294に開示されている標準的計数法を使用して評価した。
【0060】
<手順>
ダニ区画に以下の設計変更を有するダニ放出システム(小袋)を比較した。
1.ポリエチレン(PE)コート紙(押し出したPE 17g/m2(KBM 40+17gr)を積層したクラフト紙40g/m2 Burgo, Italy)、標準*形態のダニ区画、ダニ区画の外部空間と連絡する直径0.65±0.05mmの単一の開口あり。
2.PEコート紙(押し出したPE 17g/m2(KBM 40+17gr)を積層したクラフト紙40g/m2 Burgo, Italy)、標準*形態のダニ区画、ダニ区画の外部空間と連絡する直径1.3mmの単一の開口あり。
3.BUI43ホイル(Euroflex B.V., Zwolle, The Netherlands)、標準*形態のダニ区画、ダニ区画の外部空間と連絡する直径0.65±0.05mmの単一の開口あり。
4.BUI 43ホイル(Euroflex B.V., Zwolle, The Netherlands)、標準*形態のダニ区画、ダニ区画の外部空間と連絡する直径1.3mmの単一の開口あり。
5.BUI 43ホイル(Euroflex B.V., Zwolle, The Netherlands)、スティック**形態(スティック形状)のダニ区画、ダニ区画の外部空間と連絡する直径0.65±0.05mmの単一の開口あり。
*標準形態は、現在SWIRSKI-MITE PLUS製品で使用されているKoppert Biological Systems(Berkel en Rodenrijs, the Netherlands)の標準的ダニ放出システム(小袋)で使用されている(シールストリップを除くダニ区画の大きさは50×50mm)。これらの寸法、充填された材料の容積(約11.5ccに相当する2.3グラムの担体材料)および維持されるヘッドスペースに基づいて、ダニ区画の内部の容積(x)は約14ccと決定された。
**スティック形態は、本発明のある種の実施形態による代替的な形状である(シールストリップを除くダニ区画の大きさは35×65mm)。これらの寸法、充填された材料の容積(約11.5ccに相当する2.3グラムの担体材料)および維持されるヘッドスペースに基づいて、ダニ区画の内部の容積(x)は約14ccと決定された。
【0061】
BUI小袋はハンドシール機を用いて手作業で作り、PE紙の小袋はKoppert B.V.の製造施設にて、SWIRSKI-MITE PLUS製品のための仕様に従って製造した。これらの小袋の頂部端付近に直径0.65±0.05mm(y=π*(0.65/2)2=0.33mm2)または直径1.3mm(y=π*(1.3/2)2=1.3mm2)の単一の開口を、示した大きさの直径のシャフトを有する2つの異なる種類の針で作製した。0.65および1.3mmの直径の開口はいずれも従来技術で使用されていたものに対して比較的小さい。
【0062】
湿らせたふすまの担体材料および栄養物に対して行った標準的方法(van Lenteren et al., 2003 supra)によるダニ計数において、実験の始まりの時点で、1グラムに付きおよそ112匹のスワルスキーカブリダニおよび277匹のサトウダニを収容していたことが明らかになった。2.3グラム(約11.5cc)の担体材料を小袋に充填した(結果として、1つの小袋当たりおよそ257匹のスワルスキーカブリダニおよびおよそ637匹のサトウダニとなった)。その後小袋をシールした。こうして各種類の45の小袋を調製した。
【0063】
摂氏22度および相対湿度50%に調節された気候キャビネット内で、ペーパークリップを用いて各種類の36の小袋を木綿糸に交互に吊るした。週2回、各種類の3つの小袋から以下のようにしてサンプルを採った。小袋を開き、同一の種類の3つの小袋の中身を混合し、混合物中のダニの数を標準計数法(van Lenteren et al., 2003 supra)を用いて評価した。同時に、担体材料の水分活性(Rotronic HP23-AW-A with HC2-AW)および水分含量(Sartorius MA150)を測定した。この手順を、小袋内のダニの数が有意に減少するまで繰り返した。
【0064】
同時に他の小袋をウォーキングアウト試験に用いた。各種類から、3つの小袋を共にガラスジャーに入れた。各々のガラスジャーを別々にプラスチックバケツ(10リットル)の水の層(深さ2cm)に入れ、これに数滴の石けんを加えた。また、バケツも、摂氏22度および相対湿度50%に調節された別の気候キャビネットに入れた。ジャーを逃れたダニ(捕食性ダニおよび餌のダニ)を石けん水溶液中に捕獲した。週2回、全てのガラスジャーを、新しい石けん水溶液が入った新しいきれいなプラスチックバケツに移した。この手順を、ダニの漏出(生産)が有意に減少するまで繰り返した。石けん水溶液中のダニを数えた。
【0065】
<結果>
異なる設計変更を有するダニ放出システムの内部の捕食性ダニ(スワルスキーカブリダニ)および餌ダニ(サトウダニ)の計数結果を
図3Aおよび3Bに示す。
図4Aおよび4Bは、異なる設計変更を有するダニ放出システムの内部の水分活性(a
w)および水分含量の値を時間と共に示す。
図5Aおよび5Bは、ウォーキングアウト試験で使用した石けん水に集められた捕食性ダニ(スワルスキーカブリダニ)および餌ダニ(サトウダニ)の計数結果を示す。これらの数は、実験中ダニ放出システムから活発にまき散らされるダニの数を表す。
【0066】
<結論>
示されたデータに基づいて、驚くべきことに、低い水蒸気透過率(および関連して1種以上の代謝ガスに対する低い移動速度)を有し、一方、ガス交換のために小さい開口のみを有する材料から構築されたダニ放出システム内において、長期にわたってダニ集団を維持することができると結論することができる。より驚くべきことに、かかるシステム内部のダニの集団の増殖が、従来技術のダニ放出システムと比較して50%RHの条件下で改良される。かかる条件およびより低いRH条件は、多くの農業環境、特に成長している屋外の作物でしばしば遭遇する(少なくともこれらの条件が起こる危険性がある)。このように、本発明によるダニ放出システムは、従来技術のダニ放出システムより良好に湿度条件の変動に適応し、したがって低いRH条件(be低い 65%未満またはそれ以下、例えば55%未満)の危険性がある状況で故障の危険性がより少なく使用し得る。さらに、ダニ放出システムからのダニの散布が、ダニ区画とダニ区画の外部空間とを連絡する開口の大きさが小さくなると増大することも驚くべきことである。