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▶ スタリクラ ソシエテ アノニムの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】自閉症を治療するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/437 20060101AFI20220203BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A61K31/437
A61K31/196
A61P25/18
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61P43/00 121
【請求項の数】 2
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019191270
(22)【出願日】2019-10-18
(62)【分割の表示】P 2018208833の分割
【原出願日】2018-11-06
(65)【公開番号】P2020059711
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2020-06-16
(31)【優先権主張番号】17200219.8
(32)【優先日】2017-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】62/582,141
(32)【優先日】2017-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】18169952.1
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】62/663,647
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518394097
【氏名又は名称】スタリクラ ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】STALICLA SA
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ダラム,リン
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-517251(JP,A)
【文献】特表2006-527177(JP,A)
【文献】RODGERS K.et al.,Glial modulation with Ibdilast(MN166) attenuates neuroinflammation and autistic-like behaviors in th,Presentation Abstract, Neuroscience 2012[online](retrieved on 2019 Mar 14),2012年,retrieved from the Internet<URL:http://www.abstractsonline.com/Plan/AbstractPrintView.aspx?mID=2964&
【文献】ACS Chemical Neuroscience,2015年12月01日,2016,7,p.143-148
【文献】Cellular Signalling,2017年04月21日,36,p.14-24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/437
A61K 31/196
A61P 25/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
・細胞内cAMPレベルを上昇させることができる物質、及び、
・細胞内カルシウム濃度を調節することができる物質
を含んでいる、自閉症スペクトラム障害(ASD治療用の医薬組成物であって、
前記細胞内cAMPレベルを上昇させることができる物質が、イブジラストであり、前記細胞内カルシウム濃度を調節することができる物質が、ブメタニドである、医薬組成物。
【請求項2】
・細胞内cAMPレベルを上昇させることができる物質、及び、
・細胞内カルシウム濃度を調節することができる物質
を含んでいる、自閉症スペクトラム障害(ASD治療用のキットであって、
前記細胞内cAMPレベルを上昇させることができる物質が、イブジラストであり、前記細胞内カルシウム濃度を調節することができる物質が、ブメタニドである、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自閉症スペクトラム障害(ASD)の中核症状を治療するための、及び/又は、学習障害、言語障害及びASD患者(及び、特に表現型1患者-特定の区別される臨床徴候及び症状を示す患者のサブカテゴリー)の疾患に関連し得る実行機能における障害を含む関連症状を治療するための医薬組成物に関する。
【0002】
特に、該組成物は、細胞内cAMPレベルを上昇させることができる物質と、細胞内カルシウム濃度を調節することができる物質とを含んでいる。
【背景技術】
【0003】
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、多くの場合、社会的相互作用の障害、言語及びコミュニケーションの障害並びに反復的な行動の存在によって特徴付けられる神経発達障害群である(Abrahams BS, Geschwind DH; Advances in autism genetics: on the threshold of a new neurobiology(自閉症遺伝学の進歩:新しい神経生物学の境界にて) Nat Rev Genet. 2008 Jun;9(6):493)(Zoghbi HY, Bear MF; Synaptic dysfunction in neurodevelopmental disorders associated with autism and intellectual disabilities(自閉症及び知的障害に関連する神経発達障害におけるシナプス機能不全) Cold Spring Harb Perspect Biol. 2012 Mar 1;4(3))。ASDは、典型的には生後3年の間に現れ、特徴的な症状又は行動特性を示す。ASDの診断は、現在のところ、自閉性障害、特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)及びアスペルガー症候群といった、これまで別々に診断されていた複数の状態を含んでいる。これらの状態の全ては、現在、米国精神医学会による精神疾患の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)に記載されている自閉症スペクトラム障害の診断基準に包含されている。
【0004】
ASDは、現在のところ、中核領域の症状によって定義されているが、遺伝、表現型、臨床像及び関連する併存症には、かなりの異質性が存在する(Persico AM, Bourgeron T; Searching for ways out of the autism maze: genetic, epigenetic and environmental clues(自閉症の迷路から脱出する道の探索:遺伝的、後成的及び環境的手がかり); Trends Neurosci. 2006 Jul;29(7):349-358)。
【0005】
自閉症の原因/素因についての遺伝的関与は、一卵性双生児における高い一致率に基づき大きいと考えられている(Folstein S. Rutter M; Infantile autism: a genetic study of 21 twin pairs(21組の双子の遺伝学的研究); J Child Psychol Psychiatry;1977 Sep;18(4): 297-321)。近年公表された、自閉症スペクトラム障害(ASD)の家族性リスクに関するこれまでの研究によるデータの再分析は、遺伝がASDリスクの83%に関与することを示唆するこれらの初期の知見をさらに支持している。したがって、ASDの発達病因において、環境要因が果たす役割は重要だが17%と比較的小さい(Sandin S, Lichtenstein P, Kuja-Halkola R, Hultman C, Larsson H, Reichenberg A. The Heritability of Autism Spectrum Disorder(自閉症スペクトラム障害の遺伝性) JAMA. 2017;318(12):1182-1184. doi:10.1001/jama.2017.12141)。しかしながら、問題をさらに複雑にすることに、遺伝的因子及び後成的因子は、出生前及び生涯にわたる動的環境因子と絡まり合って、各々の患者の病因を引き起こす。
【0006】
科学界においては、現在の行動ベースの診断アプローチでは分子や遺伝子の変化について患者の効率的な分類ができず、むしろ、そのようなアプローチは、種々異なる病因を有する神経発達障害の大集団についての行動の総称として役立つという認識が高まっている。近年における新しい遺伝子スクリーニング法(例えば、マイクロアレイに基づく比較ゲノムハイブリダイゼーションアッセイ(a-CGH)、全ゲノム又はエクソームシーケンシング技術等)の進歩によって、ありふれた遺伝的変異体や珍しい遺伝的変異体を含む、ASDの可能性を高め得る何百もの遺伝的リスク因子を検出することが可能になった(Ronemus M. et al; The role of the novo mutations in the genetics of autism spectrum disorders(自閉症スペクトラム障害の遺伝におけるnovo突然変異の役割); Nat Rev Genet. 2014 Feb; 15(2): 133-41)。それにもかかわらず、原因となる遺伝因子は、患者の15~20%でしか同定することができない。したがって、大多数のASD患者は、依然として特発性と考えられている。
【0007】
近年では、拡大を続けるASD感受性遺伝子の数が、実際には、限られた数の分子経路へと収束するようであるという理論を支持する証拠が蓄積している。この増加する仮定からは、シナプス形成及び回路形成を媒介する分子経路が、適応免疫応答及び先天性免疫応答の調節(Myka L. Estes ML, McAllister AK (2015), Nature Reviews Neuroscience 16, 469-486)、細胞の増殖、生存及びタンパク質合成(Subramanian M, Timmerman CK, Schwartz JL, Pham DL and Meffert MK (2015), Front. Neurosci. 9:313. Tang G. et al. (2014), Neuron. 83, 1131-1143)を含む他の生理学的プロセスにも関与するといった重要な解釈を行う機会が得られる。
【0008】
ASD患者、いわゆるASD表現型1(EP17200185.1を参照)のサブグループは、ストレス、アポトーシス、又は細胞分化、細胞増殖、細胞周期進行、細胞分裂及び分化への適応に関与する経路(特に、PI3K、AKT、mTOR、MAPK、ERK/JNK-P38が挙げられるが、これらに限定されない)の上方制御を示す。炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6、IL-1β、IL-17A、IL-22及びGM-CSF)、Th1サイトカイン(INF-γ)及びケモカイン(IL-8)もまた、これらの患者の脳では、健常対照患者と比較して有意に増加し得る。Th2サイトカイン(IL-4、IL-5)及びIL-10は、有意差を示さないことがあり得る。したがって、Th1/Th2比は、ASD表現型1患者において有意に増加し得る。
【0009】
現在のところ、この患者のサブグループに対する有効な治療は存在しない。実際に、抗酸化物質は自閉症の患者の一部を改善することが報告されているにもかかわらず、このサブグループの患者に抗酸化物質を投与すると、ネガティブな反応を示す。
【0010】
脆弱Xは、知的障害及び自閉症スペクトラム障害の両方における最も一般的な単一遺伝子性要因である。脆弱X精神遅滞1(Fmr1)遺伝子の機能の喪失によって引き起こされる脆弱X症候群(FXS)を有する患者は、多くの場合、発達遅延、コミュニケーション障害及び不安等の一般的にASDに関連する多くの症状を示す。これらの重複は、多くの研究者を、Fmr1ノックアウトマウスが自閉症様行動に影響を及ぼす介入を同定するための特有の機会を提供すると結論づけるように導いている(Mines MA et al; GSK3 influences social preference and anxiety related behaviors during social interaction in a mouse model of fragile X syndrome and autism(脆弱X症候群のマウスモデルにおける、社会的相互作用時の社会的選好及び不安に関連する行動に対してGSK3が及ぼす影響) PLoS One. 2010 Mar 16;5(3): e9706)。脆弱Xモデルの研究は、dfmr1突然変異体ハエ及びfmr1ノックアウト(KO)マウスの両方の脳における環状アデノシンモノホスフェート(cAMP)のレベルが低いことを見出した(Kelly DJ. et al.; The cyclic AMP cascade is altered in the fragile X nervous system(虚偽X神経系における環状AMPカスケードの変化); PLoS One. 2007 Sep 26;2(9): e931、Choi et al.; PDE-4 inhibition rescues aberrant synaptic plasticity in Drosophila and mouse model of fragile X syndrome(ショウジョウバエ及び脆弱X症候群のマウスモデルにおけるPDE-4阻害による異常シナプス可塑性の救済); J. Neurosci 2015. 35, 396-408)。
【0011】
cAMPレベルの減少は、脆弱X患者においても実証されている(Berry-Kravis E. et al.; Cyclic AMP metabolism in fragile X syndrome(脆弱X症候群における環状AMP代謝); Ann. Neurol. 1992. 31, 22-26、Berry-Kravis E. et al.; Reduced cyclic AMP production in fragile X syndrome: cytogenetic and molecular correlation(脆弱X症候群における環状AMP産生の減少:細胞遺伝学的相関及び分子相関) Pediatr. Res. 1995. 38, 638-643. Berry-Kravis E. et al.; verexpression of fragile X gene (FMR-1) transcripts increase cAMP production in neuronal cells(脆弱X遺伝子(FMR-1)転写産物の過剰発現による、神経細胞でのcAMP産生の増加) J. Neurosci. Res. 1998. 51, 41-48)。
【0012】
環状アデノシン一リン酸(cAMP)は、アデニリルシクラーゼ(AC)の作用によってアデノシン三リン酸(ATP)から合成され、ホスホジエステラーゼ(PDE)による加水分解を介してその不活性型5’-アデノシン一リン酸(5’-AMP)へと変換される(Maurice DH et al. Cyclic nucleotide phosphodiesterase activity, expression and targeting in cells of the cardiovascular system(心臓血管系の細胞における環状ヌクレオチドホスホジエステラーゼの活性、発現及び標的化) Mol Pharmacol. 2003. 64: 533-546)。PDEによるcAMPの分解の結果、プロテインキナーゼA(PKA)の触媒部分は、核へと転位してリン酸化されたcAMP応答配列結合タンパク質(p-CREB)を生成することを効果的に防止する(McLean JH et al. A phosphodiesterase inhibitor, cilomilast, enhances cAMP activity to restore conditioned odor preference memory after serotonergic depletion in the neonate rat(ホスホジエステラーゼ阻害剤であるシロミラストによるcAMP活性の強化、それによる新生仔ラットにおけるセロトニン枯渇後の条件付き臭気選好性記憶の復元) Neurobiol Learn Mem. 2009. 92: 63-69)。cAMPは、大半の細胞タイプにおいて、代謝、転写及び増殖を含む多数の細胞機能を調節する。主にcAMP依存性PKAによって媒介されるこれらのcAMP効果は、内分泌系、心血管系、神経及び免疫機能を含む様々な生理学的プロセスのcAMP媒介調節の根幹にある(Jackson et al. Role of the extracellular cAMP-adenosine pathway in renal physiology(腎臓における細胞外cAMP-アデノシン経路の役割生理学) AM J Physiol Renal Physiol 281: F597-F612,2001. Seino S et al. PKA-dependent and PKA-independent pathways for cAMP-regulated exocytosis(cAMP調節性エキソサイトーシスのためのPKA依存性及びPKA非依存性経路) AM J Physiol Rev 85: 1303-1342, 2005. Richards JS. New signalling pathways for hormones and cyclic adenosine 3',5'-monophosphate action in endocrine cells(内分泌細胞におけるホルモン及び環状アデノシン3’、5’-一リン酸作用の新規なシグナル伝達経路) Mol Endocrinol 15: 209-218, 2001)。
【0013】
興味深いことに、FMR1転写は、cAMP経路によって活性化されるハエ及び哺乳動物におけるCREB媒介性転写に依存している(Hwu et al.; FMR1 enhancer is regulated by cAMP through a cAMP-responsive element(cAMP応答配列を通じてcAMPにより調節されるFMR1エンハンサー) DNA Cell Biol. 1997, 16, 449- 453);(Cha-Molstad et al.; Cell-type specific binding of the transcription factor CREB to the cAMP-response element(転写因子CREBのcAMP応答エレメントへの細胞型特異的結合) Pro. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2004; 101, 13572-13577、Kanellopoulos et al.; Learning and memory deficits consequent to reduction of the fragile X mental retardation protein result from metabotropic glutamate receptor-mediated inhibition of cAMP signalling in Drosophila(ショウジョウバエにおけるcAMPシグナル伝達の代謝調節型グルタミン酸受容体媒介性阻害による脆弱X精神遅滞タンパク質の減少に伴う学習欠損及び記憶欠損) J. Neurosci. 2012. 32,13111-13124)。これらの知見と一致して、罹患者由来の細胞株及び血小板におけるFMRPレベルとcAMPレベルとの間には、正の相関がある(Berry-Kravis E. et al.; Cyclic AMP metabolism in fragile X syndrome(脆弱X症候群における環状AMP代謝) Ann. Neurol. 1992. 31, 22-26、Berry- Kravis E. et al.; Reduced cyclic AMP production in fragile X syndrome: cytogenetic and molecular correlation(脆弱X症候群における環状AMP産生の低下:細胞遺伝子相関及び分子相関) Pediatr. Res. 1995. 38, 638-643、Berry-Kravis E. et al.; Overexpression of fragile X gene (FMR-1) transcripts increase cAMP production in neuronal cells(脆弱X遺伝子(FMR-1)転写産物の過剰発現によるcAMP産生の増加) J. Neurosci. Res. 1998. 51, 41-48)。
【0014】
これにより、脆弱X症候群におけるいくつかの表現型認知障害を矯正する1つの方法は、cAMPを野生型の生理学的レベルまで増加させることであるという仮説が導かれることになった。
【0015】
従来では、PDE-4阻害剤による脆弱Xハエモデルの治療は、社会的相互作用、即時想起記憶及び短期記憶を救済し得ることが実証されている(McBride et al., Pharmacological rescue of synaptic plasticity, courtship behaviour, and mushroom body defects in a Drosophila model of fragile X syndrome(シナプス可塑性の薬理学的救済、求愛行動及びキノコ体欠損ショウジョウバエの壊れやすいX症候群のモデル) Neuron. 2005. 45, 753-764、Bolduc et al.; Excess protein synthesis in drosophila fragile X mutants impairs long-term memory(ショウジョウバエの脆弱X変異体における過剰タンパク質合成は、長期記憶を損なう) Nat. Neurosci. 2008. 11, 1143-1145. Choi et al.; PDE-4 inhibition rescues aberrant synaptic plasticity in Drosophila and mouse models of fragile X syndrome(ショウジョウバエ及び脆弱X症候群のマウスモデルにおけるPDE-4阻害による異常シナプス可塑性の救済) J. Neurosci. 2015. 35, 396-408)。
【0016】
cAMP-PDEの1つの型は、4つの遺伝子PDE4A~Dを含むPDE4群である。PDE4は、その動力学的特性、及び、特に原型PDE4阻害剤ロリプラムによる阻害に対する感受性によって、他のcAMP-PDEと異なる。30年より前におけるPDE4の発見から間もなく、脳機能の調節におけるPDE4の役割を示す様々な証拠が浮かび上がった。
【0017】
積極的認知メカニズムに影響を及ぼすことに加えて、PDE4阻害は、脳の神経生物学的恒常性が乱れ、結果として認知機能障害が生じることを防止することができる。これには、抗炎症効果が含まれる(Wito Richter et al.; PDE4 as a target for cognition enhancement(認知向上の標的としてのPDE4) Expert Opin Ther Targets 2013 Sep; 17(9): 1011-1027)。現在のところ、3つのPDE-4阻害剤が臨床的に利用可能である:1)乾癬性関節炎及び局面型乾癬のために承認されたアプレミラスト、2)慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療のために承認されたロフルミラスト、及び、3)喘息及び脳血管障害(脳卒中後合併症を含む)の治療のために承認されたイブジラスト。アプレミラスト及びロフルミラストは、血液脳関門通過が不十分であるが(Kavanaugh et al.; Longterm (52-week) results of a phase III randomized, controlled trial of apremilast in patients with psoriatic arthritis(乾癬性関節炎患者におけるアプレミラストの第III相無作為化比較試験における長期(52週)結果) J. Rheumatol. 2015. 42, 479-488);(Martinez et al.; Effect of roflumilast on exacerbations in patients with severe chronic obstructive pulmonary disease uncontrolled by combination therapy (REACT): a multicentre randomised controlled trial(併用療法によって制御されていない重度の慢性閉塞性肺疾患患者における増悪に対するロフルミラストの効果(REACT):多施設共同無作為化比較試験) Lancet 385, 857-866. 2015)、イブジラストは、血液脳関門を通過することが実証されている(Ledeboer A et al. Ibudilast (AV-411). A new class therapeutic candidate for neuropathic pain and opioid withdrawal syndromes(神経因性疼痛及びオピオイド離脱症候群の新たなクラスの治療候補薬) Expert Opin Investig Drugs, 2007 Jul;16(7):935-50、Poland et al. Ibudilast attenuates expression of behavioral sensitization to cocaine in male and female rats(オス及びメスのラットにおける、イブジラストのコカインに対する行動感作の発現の減弱)Neuropharmacology, 2016 October; 109: 281-292)。
【0018】
しかしながら、現在のところ、細胞内cAMPレベルとASDとの関係を利用したASDの治療法は存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、解決すべき客観的問題は、ASDについての新規な治療を提供すること、及び、特に細胞内cAMPレベルが低いことを特徴とするASD患者のサブグループに対する新規な治療を提供することである。遺伝子及び分子の改変が共通するため、これらの治療は、脆弱X症候群の治療にも有用であり得る。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、以下を含む医薬組成物又はキットを提供することにより、上記問題を解決する。
・細胞内cAMPレベルを上昇させることができる物質、及び、
・細胞内カルシウム濃度を調節することができる物質。
【0021】
同様に、上記問題は、ASD表現型1の治療にて使用するための医薬組成物であって、細胞内cAMPレベルを上昇させることができる物質を含む医薬組成物によって解決される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
一態様では、本発明は、以下を含む医薬組成物又はキットに関する。
・細胞内cAMPレベルを上昇させることができる物質、及び、
・細胞内カルシウム濃度を調節することができる物質。
【0023】
本明細書では、キットとは、パッケージとして提供され、共に適用される際に相補的な効果を示す複数の個々の要素を含有する併用製品として規定される。本態様では、キット及び医薬組成物によって達成される効果は、類似している。キットは、該個々の要素の投与計画を特定の要件及び時間の経過に対して調整し得るという利点を提供する。
【0024】
本明細書にて使用される場合、用語「自閉症スペクトラム障害(ASD)」は、社会的コミュニケーション及び社会的相互作用における持続的な欠損、並びに、行動、興味又は活動の限定的な反復的な様式を特徴とする神経発達障害群を包含するものと理解される。以下では、用語「自閉症スペクトラム障害」、「自閉症」及び「ASD」は、同じ意味で使用される。
【0025】
本明細書において、用語「ASD表現型1」及び「表現型1」は、同じ意味で使用される。用語「患者」は「ASD患者」のことを示し、ASDを有すると診断された人だけでなく、ASDを有する疑いのある人も意味する。
【0026】
当業者は、どのようにして患者がASDと診断され得るかについて、よく認識している。
【0027】
例えば、当業者は、「米国精神医学会、精神疾患の診断と統計マニュアル(DSM-5)第5版」に設定された基準に従って、被験者にASDの診断を下してもよい。同様に、ASD患者は、標準化された評価ツールに従って診断されてもよい。そのような評価ツールとしては、以下に限定されないが、CIM-10、ICD-10、DISCO、ADI-R、ADOS又はCHATが挙げられる。
【0028】
他の場合において、患者は、自閉性障害、アスペルガー症候群又は特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)の確立したDSM-IV診断を有し得る。
【0029】
さらに、本発明は、以下の基準の1つ又は複数を満たす被験者にとって有用であり得る:複数の状況で社会的コミュニケーション及び社会的相互作用における持続的な欠損があり、現時点又は病歴によって、以下により明らかになる;行動、興味又は活動の限定された反復的な様式で、現時点又は病歴によって、以下の少なくとも2つにより明らかになる;症状は早期発達段階に存在している(しかしながら、社会的要求が能力の限界を超えるまで症状が完全に明らかにならないかもしれず、その後の生活で学んだ対応の仕方によって隠されている場合もある);症状は、社会的、職業的又は他の重要な領域における現在の機能に臨床的に有意な障害を引き起こしている;これらの障害は、知的能力障害(知的発達障害)又は全般的発達遅延ではうまく説明できない。
【0030】
ASDは、知的障害及び/又は言語障害を伴って起こることもあり、それらを伴わずに起こることもある。そのような障害は、既知の健康状態、遺伝子状態若しくは環境因子、又は、他の神経発達障害、精神障害若しくは行動障害に関連し得る。
【0031】
ASDは、社会的コミュニケーションの障害に応じて、かつ、限定された反復的な行動の検知から分類され得る異なる重症度で起こることがある。重要なことに、用語「ASD表現型1」は、ASDの特定の重症度とは関係ない。本発明は、任意の重症度のASD罹患者に適用され得る。
【0032】
メカニズムに拘束されることなく、ASD患者は、ストレス応答に関与する生体分子経路の上方制御、下方制御又は正常レベルの発現を示すか否かによって特徴付けることができると考えられる。
【0033】
各経路を上方制御することが知られるNrf2活性化剤をASD患者に投与すると、各個人においてこれらの経路の発現レベルがどのように改変されているかに応じて、ASD症状が改善又は悪化することになる。
【0034】
一態様では、本発明に係る医薬組成物又はキットは、ASD又はASD表現型1患者と称されるASD患者のサブグループの治療にて使用するためのものである。
【0035】
ASD表現型1の患者は、未公開のEP17200185.1に記載されるような負荷試験を利用して同定され得る。簡潔に言うと、負荷試験の概念は、Nrf2活性化剤をASD患者に投与することに基づいている。ASD表現型1患者は既に各経路の上方制御を示しており、そのような患者においてNrf2をさらに活性化させると、中核症状が悪化することになる。結果として、ASD表現型1患者は、負荷試験に対するネガティブな行動反応によって同定され得る。
【0036】
同様に、当業者は、EP17200185.1に規定される臨床徴候に従って、ASD表現型1の患者を同定することができる。
【0037】
ASD表現型1の患者を同定する別の方法は、Nrf2の上方制御をチェックすることである。当業者は、Nrf2等の特定の遺伝子の発現の上方制御の調査方法について、よく認識している。例えば、mRNAレベルについては、qPCR又はRT-qPCR等の定量的PRC技術を用いて調査されてもよい。同様に、遺伝子発現の上方制御は、ウェスタンブロット及び定量的ドットブロット等のタンパク質定量技術を用いて、タンパク質レベルで決定されてもよい。上方制御とは、健康な被験者からのサンプルと比較した際に、mRNAレベル又はタンパク質レベルが少なくとも10%増加していることを意味すると理解される。
【0038】
さらに、ASD表現型1の患者は、以下の症状の1つ以上を示す:TH1及び炎症性血清サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6、IL-17A及びIL-22を含むが、これらに限定されない)レベルの増加、及び/又は、炎症性サイトカインをコードするmRNAの組織発現レベルの増加、及び/又は、過剰に誘発される炎症性サイトカインのT細胞分泌;ストレス、アポトーシス、細胞分化、細胞増殖、細胞周期進行、細胞分裂及び分化(特に、PI3K、AKT、mTOR/MAPK、ERK/JNK-P38だが、これらに限定されない)への適応に関与する経路の上方制御。
【0039】
本発明に係る医薬組成物又はキットは、細胞内cAMPレベルを上昇させることができる物質を含んでいる。該物質は、細胞内cAMPレベルを直接若しくは間接的に又はその両方で上昇させてもよい。細胞内cAMPレベルを直接上昇させることができる物質は、直接、cAMPを安定化してもよく、cAMPの分解を阻害してもよい。細胞内cAMPレベルを間接的に上昇させることができる物質は、cAMPを生成させる分子を活性化してもよく、cAMPを分解する分子を阻害してもよい。
【0040】
阻害は、本明細書ではそれぞれの分子の活性を遮断すること又は減少させることを意味すると理解される。いくつかの実施形態では、活性は、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%を超えて減少され得る。好ましい実施形態では、活性は少なくとも50%減少され得る。
【0041】
活性化は、本明細書ではそれぞれの分子の活性を上方制御すること又は強化することを意味すると理解される。いくつかの実施形態では、活性は、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%を超えて強化され得る。好ましい実施形態では、活性は、少なくとも50%増強され得る。
【0042】
細胞内cAMPレベルを間接的に上昇させることができる物質としては、アデニレートシクラーゼを活性化するGタンパク質共役アデノシンAa2受容体を刺激可能な物質、アデニレートシクラーゼを活性化することができる物質、グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3-β(GSK-3-β)を阻害することができる物質及びホスホジエステラーゼを阻害することができる物質が挙げられる。
【0043】
より詳細には、Gタンパク質共役アデノシンAa2受容体を活性化することができる物質は、プリンヌクレオシドであってもよく、特に、レガデノソン、ビデノソン、アデノシン、2-フェニルアミノアデノシン、2-アミノ-4-(4-ヒドロキシフェニル)-6-[(1H-イミダゾール-2-イルメチル)チオ]-3,5-ピリジンカルボニトリル、4-[2-[(6-アミノ-9-b-D-リボフラノシル-9H-プリン-2-イル)チオ]エチル]ベンゼンスルホン酸アンモニウム塩、2-ヘキシニル-5’-N-エチルカルボキサミドアデノシン、CGS-21680又はUK-432,097であってもよい。
【0044】
グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3-β(GSK-3-β)を阻害することができる物質は、リチウム塩であってもよい。
【0045】
ホスホジエステラーゼを阻害することができる物質は、c-AMP特異的3’-5’-環状ホスホジエステラーゼ4A/B/C阻害効果を有する任意の分子であってもよく、c-AMP3’-5’-環状ホスホジエステラーゼ4A/B阻害効果を有する任意の分子であってもよく、cAMP3’-5’-環状ホスホジエステラーゼ4A阻害効果を有する任意の分子であってもよく、cAMP3’-5’-環状ホスホジエステラーゼ4A/B/C/D阻害効果を有する任意の分子であってもよく、cAMP3’-5’-環状ホスホジエステラーゼ4A/B/D阻害効果を有する任意の分子であってもよく、cAMP3’-5’-環状ホスホジエステラーゼ4/B/D阻害効果を有する任意の分子であってもよく、cAMP3’-5’-環状ホスホジエステラーゼ4D阻害効果を有する任意の分子であってもよく、cAMP3’-5’-環状ホスホジエステラーゼ4B/D阻害効果を有する任意の分子であってもよく、cAMP3’-5’-環状ホスホジエステラーゼ4B阻害効果を有する任意の分子であってもよい。
【0046】
PDEを阻害することができる物質としては、ピラゾピリジン類、好ましくはイブジラスト、キサンチン類及び誘導体、特にエンプロフィリン、ペントキシフィリン、ジフィリン、アミノフィリン、プロペントフィリン、好ましくはカフェイン、テオブロミン、テオフィリン;フラボノイド類、特にキサントフモール、ロイコシアニドール、デルフィニジン;フラボン類、特にアピゲニン、ルテオリン;ビフラボン類、特にポドカルプスフラボンA;セコイアフラボン類、特にポドカルプススラクボンB、7,7”-ジオ-メチルアミノフラボン、ビロベチン;フラバノン類、特にジオクレイン、ナリンゲニン、ヘスペレチン;スチルベン類、特にE-ε-ビニフェリン、クルクミン;アルカロイド類、特にケレリトリン、グラウシン、アポモルヒネ;アミノピリミジン類及び誘導体、特にジアルキルアリールアミン類、好ましくはジピリダモール;アレーンカルボキサミド類、特にベンズアミド類、好ましくはロフルミラスト又はピクラミラスト;ベンゾオキサボロール類、特にクリサボロール;イソインドロン類、特にフタルイミド類、好ましくはアプレミラスト;メトキシベンゼン類、特にシロミラスト;ピリジンカルボン酸類、特にテトミラスト;フェニルピロリジン類、特にピロリジン-2-オン類、好ましくはロリプラム、(S)-ロリプラム、(R)-ロリプラム;ビピリジン;オリゴピリジン類、特にアムリノン、ミルリノン;アリールフェニルケトン類、特にエノキシモン;オキサゾリジン-2-オン類、特にダキサリプラム(R-メソプラム);プロバイオティクス、特にL-ロイテリが挙げられる。
【0047】
好ましい実施形態では、PDEを阻害することができる物質は、イブジラスト、カフェイン、テオブロミン、テオフィリン、エンプロフィリン、ペントキシフィリン、ジフィリン、L-ロイテリ、ジピリダモール、シロスタゾール、エタゾラート、ロフルミラスト、クリサボロールレセンブレノン、ドロタベリン、アプレミラスト、シロミラスト、テトミラスト、ロリプラム、(S)-ロリプラム、(R)-ロリプラム、アムリノン、ミルリノン、エノキシモン、ダキサリプラム(R-メソプラム)、リリミラスト、AWD-12-281、シパムフィリン、オグレミラスト、トフィミラスト、CI-1044((R)-N-(9-アミノ-4-オキソ-1-フェニル-3,4,6,7-テトラヒドロ-[1,4]ジアゼピノ[6,7,1-hi]インドール-3-イル)ニコチンアミド)、HT-0712((3S,5S)-2-ピペリジノン),5-(3-(シクロペンチルオキシ)-4-メトキシフェニル)-3-((3-メチルフェニル)メチル)、MK-0873(3-(2-{3-[3-(シクロプロピルカルバモイル)-4-オキソ-1,4-ジヒドロ-1,8-ナフチリジン-1-イル]フェニル}エチニル)ピリジン-1-イウム-1-オレート)、アロフィリン、CI-1018(N-(3,4,6,7-テトラヒドロ-9-メチル-4-オキソ-1-フェニルピロロ(3,2,1-jk)(1,4)ベンゾジアゼピン-3-イル)-4-ピリジンカルボキサミド)、T-2585(2-{4-2,3-ビス(ヒドロキシメチル)-6,7-ジエトキシ-1-ナフタレニル}-2-ピリジニル]-4-(3-ピリジニル)-1(2H)-フタラジノン)、YM-976(4-(3-クロロフェニル)-1,7-ジエチル-1H,2H-ピリド[2,3-d]ピリミジン-2-オン)、V-11294A(3-(3-シクロペンチルオキシ-4-メトキシ-ベンジル)-8-イソプロピル-アデニン)、ピクラミラスト、アチゾラム、フィラミナスト、SCH 351591(N-(3,5-ジクロロ-1-オキシド-4-ピリジニル)-8-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)-5-キノリンカルボキサミド)、IC-485、D-4418(N-(2,5-ジクロロ-3-ピリジニル)-8-メトキシ-5-キノリンカルボキサミド)、CDP-840(4-[(2R)-2-[3-(シクロペンチルオキシ)-4-メトキシフェニル]-2-フェニルエチル]-ピリジン塩酸塩)、L-826,141(4-(2-(3,4-ビス(ジフルオロメトキシ)フェニル)-2-(4-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-ヒドロキシプロパン-2-イル)フェニル)エチル)-3-メチルピリジン1-オキシド)、BPN14770(2-(4-((2-(3-クロロフェニル)-6-(トリフルオロメチル)ピリミジン-4-イル)アミノ)フェニル)アセトアミド)、TDP101からなる群より選択される。
【0048】
より好ましくは、PDEを阻害することができる物質は、イブジラストである。
【0049】
イブジラストは、抗炎症性及び神経保護性の経口剤であり、主に肝臓によって代謝される。健康な成人に10mgのイブジラストを1回投与した後に、用量の約60%が尿中代謝物として72時間以内に排泄された。この製品の臨床有効性は、気管支喘息適応症及び脳血管障害について証明されている。イブジラストは、進行性多発性硬化症や、筋萎縮性側索硬化症及び物質依存等の他の状態について、米国にて現在臨床試験中である(コード:AV-411又はMN-166)。
【0050】
本発明に係る医薬組成物又はキットは、細胞内カルシウムレベルを調節することができる物質もまた含んでいる。
【0051】
本明細書では、用語「調節する」は、細胞質基質の細胞内カルシウムの全体的な減少、ミトコンドリア若しくは小胞体等の特定の細胞小器官における細胞内カルシウムの局所的な増加(その代わりに、細胞ゾルカルシウム濃度が減少する)、又は、細胞内カルシウム不明瞭性(vague)、細胞内カルシウム振動及び/若しくは細胞内カルシウムスパークの調節等の細胞内カルシウムの動態の調節のことを示し得る(Giorgi et al. Trends Cell Biol. 2018, Feb 3;S0962-8924, Calcium Dynamics as a Machine for Decoding Signals(シグナルをデコードするための機械としてのカルシウム動態))。
【0052】
細胞内カルシウムレベルを調節することができる物質は、リアノジン受容体(RyR)又はイノシトール-1,4,5-トリスリン酸受容体(IP3R)等の細胞内カルシウムチャネルの阻害を含む機構によって細胞内カルシウムレベルを調節してもよく、筋小胞体Ca2+輸送-ATPアーゼ(SERCA)及び原形質膜Ca2+ATPアーゼ(PMCA)、Na+/Ca2+交換体、Na+/H+交換体、Na+/K+交換体、NKKC又はカルシウムチャネル等のイオン交換体を含むカルシウム-ATPアーゼポンプの直接又は間接的な調節によって細胞内カルシウムレベルを調節してもよい。
【0053】
細胞内カルシウム濃度を調節することができる物質は、溶質輸送体ファミリー12メンバー1、溶質輸送体ファミリー12メンバー1,2,4又は溶質輸送体ファミリー12メンバー1,2,4,5に阻害作用を有する任意の分子であってもよい。
【0054】
同様に、細胞内カルシウムレベルを調節することができる物質は、電圧依存性カルシウムチャネルに対する阻害効果、好ましくは電圧依存性L型、N型又はT型カルシウムチャネルに対する阻害効果を有する分子であってもよい。好ましい実施形態では、細胞内カルシウムレベルを調節することができる物質は、電圧依存性L型カルシウムチャネルサブユニットβ-1/-4、サブユニットβ-2又はサブユニットα-1/δ-2に対する阻害効果を有する分子であってもよい。
【0055】
細胞内カルシウムレベルを調節することができる物質は、NKCC共輸送体を阻害する物質であってもよい。NKCC共輸送体は、細胞内カルシウムの上昇を、単独で又はNa/Ca交換体、Na+/H+交換体、Na+/K+交換体等の他のイオン交換体と組み合わせて促進することが示されている(Liu et al. J Neurochem. 2010 September 1; 114(5): 1436-1446, ER Ca2+ signaling and mitochondrial Cyt c release in astrocytes following oxygen and glucose deprivation(酸素及びグルコース枯渇後の星状細胞におけるER Ca2+シグナル伝達及びミトコンドリアCyt c放出))。
【0056】
一実施形態では、細胞内カルシウムレベルを調節することができる物質は、利尿剤であり得る。別の実施形態では、細胞内カルシウムレベルを調節することができる物質は、抗不整脈剤であり得る。当業者は、どの薬物又は医薬品が用語「利尿剤」及び「抗不整脈剤」に該当するのかについて、よく認識している。
【0057】
好ましい実施形態では、細胞内カルシウムレベルを調節することができる物質は、ピリジンスルホンアミド類、特にトラセミド;イソインドリン類、特にクロルタリドン;クロロフェノキシアセテート類、特にエタクリン酸;アミノベンゼンスルホンアミド類、特にフロセミド及びブメタニド;4-置換-3-アミノ-5-スルファモイル安息香酸誘導体、特に限定されないが、ブメタニド、AqB007、AqB011(Kourghi, M., Pei, J. V., De Ieso, M. L., Flynn, G., & Yool, A. J. (2016). Bumetanide Derivatives AqB007 and AqB011 Selectively Block the Aquaporin-1 Ion Channel Conductance and Slow Cancer Cell Migration(アクアポリン-1イオンチャネルコンダクタンス及び低速癌細胞移動を選択的にブロックするブメタニド誘導体AqB007及びAqB011) Molecular pharmacology, 89(1), 133-140)、PF-2178、BUM13、BUM5(Lykke, K., Tollner, K., Romermann, K., Feit, P. W., Erker, T., MacAulay, N., & Loscher, W. (2015). Structure-activity relationships of bumetanide derivatives: correlation between diuretic activity in dogs and inhibition of the human NKCC2A transporter(ブメタニド誘導体の構造活性相関:イヌにおける利尿活性とヒトNKCC2Aトランスポーターの阻害との相関性) British journal of pharmacology, 172(18), 4469-4480)、ブメパミン;1,2,4-ベンゾチアジアジン-1,1-ジオキシド類、特にトリクロルメチアジド、ヒドロフルメチアジド及びメチルクロチアジド;ジメトキシベンゼン類、特にイブチリド又はベラパミル;テトラリン類、特にミベフラジル;アリール-フェニルケトン類、特にドロネダロン及びアミオダロン;1,4-ジヒドロピリジン及び誘導体、特にアムロジピン、フェロジピン、ジペルジピン、ニフェジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、クレビジピン、ニカルジピン及びニルバジピン;ベンゾオキサジアゾール類、好ましくはジヒドロピリジンカルボン酸類及び誘導体、特にイスラジピン;ジフェニルメチルピペラジン及び誘導体、特にフルナリジン;ヘテロアリールピペリジン、特にピモジド、ドンペリドン;ピペリジン類、特にシプロヘプタジン、フェンタニル、アルフェンタニル、スフェンタニル、フレカイニド、ロペラミド、メチルフェニデート、パロキセチン、ペンピジン、ペルヘキシリン;ベンゾシクロヘプタピリジン、特にロラタジン;有機ヘテロ四環式化合物、特にニセルゴリン;アミノグリコシド、特にネオマイシン、ゲンタマイシン、カナマイシン;ピペリジンカルボキサミド、特にメピバカイン、ブピバカイン;トリプタミン類、特にインドラミン;スルホンアミド類、特にクロパミド;アミノベンズアミド類、特にシサプリド;アミノピリミジン、特にミノキシジル;ピペリジンアルカロイド、特にロベリン;ピペリジン抗生物質、特にシクロヘキシミド;非タンパク質性アミノ酸類、例えばγ-アミノ酸類及び誘導体、特にガバペンチン;ピペリジンモノカルボン酸、特にニペコチン酸、ピペコリン酸;ジアリールメタン、特にペンフルリドール;ベンゾチアゼピン誘導体、特にジルチアゼム;フタルアミド類、特にサリドマイド;ジアリールメタン、特にテルフェナジン、ロメラジン、芳香族アミン、特に塩酸アンブロキソールからなる群より選択されてもよい。
【0058】
別の好ましい実施形態では、細胞内カルシウムレベルを調節することができる物質は、ニフェジピン、ニルジピン、ニカルジピン、ニモジピン、NZ-105、アムロジピン、フェロジピン、イスラジピン、ジペルジピン、エモパミル、デバパミル、ベラパミル、ジルチアゼム、フルナリジン、フルスピリレン、ピモジド、ファントファロン、ニセルゴリン、ネオマイシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、シサプリド、クロパミド、シプロヘプタジン、ロラタジン、ドンペリドン、フェンタニル、アルフェンタニル、スフェンタニル、フレカイニド、インドラミン、イソネペコチン酸、ケトチフェン、ロベリン、ロペラミド、メピバカイン、メチルフェニデート、ミノキシジル、ニペコチン酸、パロキセチン、ペンピジン、ペンフルリドール、ペルヘキシリン、ピペコリン酸、ブピバカイン、シクロヘキセミド、サリドマイド、テルフェナジン、トリヘキシフェニジル、クレビジピン、ロメラジン、ホステジル、アニパミル、トラセミド、クロルタリドン、エタクリン酸、フロセミド、トリクロルメチアジド、ヒドロフルメチアジド、メチルクロチアジド、ブメタニド、イブチリド、ミベフラジル、ドロネダロン、アミオダロン、ニソルジピン、ニトレンジピン、ニルバジピン、ガバペンチン、塩酸アンブロキソールからなる群より選択される。
【0059】
さらに別の態様では、本発明に係る医薬組成物又はキットは、レチノイン酸関連オーファン受容体α(RORA)アゴニストをさらに含んでいてもよい。
【0060】
RORAは、リガンド依存性オーファン核ホルモン受容体であり、共制御因子タンパク質と組み合わせて、転写制御因子として作用する。最近の研究では、RORAとASDとの間の相関が実証されており、例えば、自閉症者に由来するリンパ芽球様細胞株(LCL)におけるRORAの発現の減少(Hu VW et al. Gene expression profiling differentiates autism case-controls and phenotypic variants of autism spectrum disorders: evidence for circadian rhythm dysfunction in severe autism(遺伝子発現プロファイリングによる自閉症症例対照群と自閉症症例の表現型変異との区別:重度の自閉症における概日リズム機能障害の証拠) Autism Res. 2009 April; 2(2): 78-97)や、兄弟姉妹対照群に対するASD症例からのLCLのRORAの発現の縮小並びに自閉症者の前頭前皮質及び小脳におけるRORAタンパク質の発現の減少につながるメチル化の増加(Nguyen A et al; Global methylation profiling of lymphoblastoid cell lines reveals epigenetic contribution to autism candidate gene RORA, whose protein product is reduced in autistic brain(リンパ芽球様細胞株の全体的メチル化プロファイリングによる自閉症候補遺伝子RORAへの後成的寄与の判明。そのタンパク質産物は、自閉症脳内にて減少する) FASEB J.2010 Aug;24(8):3036-41)が実証されている。これらの結果は共に、血液由来末梢細胞内のRORAにおけるこれらの分子変化を、自閉症者の脳組織における分子病理にリンクさせる(Tewarit Sarachana, Valerie W Hu. Genome wide identification of transcriptional targets of RORA reveals direct regulation of multiple genes associated with autism spectrum disorder(RORAの転写標的のゲノムワイド同定による自閉症スペクトル障害に関連する複数の遺伝子の直接制御の判明) Molecular Autism May 2013, 4:14)。その結果、RORAの誘導では、ASD患者、特にASD表現型1患者の症状を治療するのに有用であり得る。
【0061】
本発明の文脈において、RORAアゴニストは、細胞内カルシウムを調節するために使用可能であり、それについてPDE4阻害治療の効果を維持し得る。
【0062】
RORAアゴニストは、フェニルナフタレン類、特にアダプタレン;セスキテルペノイド類、特に全トランス型アシトレチン;ジテルペノイド類、特にアリトレチノイン又はイソトレチノイン;チオクロマン類、特にタザロテン、レチノイドエステル類、特にエトレチナート;レチノ安息香酸類、特にタミバロテン、全トランス型レチノイン酸又はトレチノインであってもよい。
【0063】
好ましい実施形態では、RORAアゴニストは、アダパレン、全トランス型レチノイン酸、トレチノイン、ビタミンA、全トランス型アシトレチン、アリトレチノイン、タザロテン、エトレチナート、イソトレチノイン、タミバロテン、LGD-1550、AM580及びCh55からなる群より選択されてもよい。
【0064】
細胞内cAMPレベルを上昇させることができる物質と、細胞内カルシウムレベルを調節することができる物質とを組み合わせることにより、PDE4阻害の長期間持続する治療効果を維持することができる。WO2011/086126A1に記載されるようなブメタニドを用いたASDの単剤療法の効果は、3週間~3ヶ月を要する。これに対し、本発明に係る医薬組成物又はキットでは、ブメタニド等の細胞内カルシウム濃度を調節することができる物質の効果は、数日以内に生じる。このことは、WO2011/086126A1に記載されるようなCl-効果と比較して、細胞内Ca2+を調節する間接的効果があることに起因する(Chen et al. (2008) Endoplasmic reticulum Ca2+ dysregulation and endoplasmic reticulum stress following in vitro neuronal ischemia: role of Na+-K+-Cl--cotransporter(生体外神経虚血後の小胞体Ca2+制御異常及び小胞体ストレス:Na+-K+-Cl-共輸送体の役割) J. Neurochem. 106:1563-1)。
【0065】
また、本発明では、本発明による医薬組成物が、潤滑剤、崩壊剤、固結防止剤、結合剤、防腐剤、吸着剤又は賦形剤等の薬学的に許容可能な担体又は医薬品添加剤をさらに含むことも想定される。
【0066】
別の態様では、本発明に係る医薬組成物又はキットは、細胞増殖を阻害する薬剤をさらに含んでいてもよい。別の態様では、本発明は、細胞内cAMPレベルを上昇させることができる物質を含んでいる、ASD表現型1の治療にて使用するための医薬組成物に関する。
【0067】
一実施形態では、細胞内cAMPレベルを上昇させることができる物質は、好ましくはPDE阻害剤である。特に好ましい態様では、PDE阻害剤は、イブジラストである。
イブジラストは、一日の総用量が約1~150mgの範囲、好ましくは約5~80mgの範囲、より好ましくは約15~50mgの範囲で、1回分、2回分又は3回分に分けて患者に投与されてもよい。イブジラストは、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45若しくは50mgのイブジラスト又はその薬学的に許容可能な塩を含む剤形を用いて、1日1回、2回又は3回患者に経口投与されてもよい。
【0068】
さらに別の態様では、Ca2+を調節することができる物質は、NKKC1阻害剤である。特に好ましい態様では、NKKC1阻害剤は、ブメタニドである。ブメタニドは、一日の総用量が約0.5~10mgの範囲、好ましくは1~6mgの範囲、より好ましくは2mg~4mgの範囲で、1回分、2回分又は3回分に分けて患者に投与されてもよい。ブメタニドは、0.5、1、2mgのブメタニド又はその薬学的に許容可能な塩を含む剤形を用いて、1日1回、2回又は3回患者に経口投与されてもよい。1回の用量で投与すれば、患者のコンプライアンスを向上させることができ、複数回のより少ない用量で投与すれば、一定の血清中濃度が確保される。
【0069】
さらに別の態様では、本発明に係る医薬組成物又はキットは、細胞増殖を阻害する薬剤をさらに含んでいてもよい。そのような薬剤としては、例えば、細胞増殖を調節することが知られているPI3K、AKT、mTOR、MAPK、ERK/JNK-P38を標的とする化合物が挙げられる。
【0070】
さらに別の態様では、本発明は、患者のASDの治療にて使用するための医薬組成物であって、細胞内cAMPレベルを上昇させることができる物質及び細胞内カルシウムレベルを調節することができる物質を含む医薬組成物に関し、該治療は、
・患者がASD表現型1に罹患しているかどうかを判定すること、及び、
・患者がASD表現型1に罹患している場合、患者に治療有効量の医薬組成物を投与すること
を含んでおり、
患者がASD表現型1に罹患しているかどうかを判定することは、
・Nrf2-活性化剤を用いた負荷試験を患者に受けさせること、
・増殖関連経路の発現が高まる臨床徴候を確認すること、
・Nrf2の上方制御を確認すること、又は
・プロテインキナーゼAの低い血中レベルを確認すること
のうち少なくとも1つを含んでおり、
患者が、スルホラファン等のNrf2活性化剤を用いた負荷試験におけるネガティブな行動応答、増殖関連経路の発現が高まる臨床徴候、Nrf2の上方制御又はプロテインキナーゼAの低い血中レベルのうち少なくとも1つを示す場合には、患者がASD表現型1に罹患していると判定する。
【0071】
別の態様では、本発明の医薬組成物又はキットは、脆弱Xの治療のために使用されてもよい。
【0072】
別の態様では、脆弱X症候群と診断された患者を治療する方法であって、有効量のイブジラスト又はその薬学的に許容される塩を、それを必要とする患者に投与することを含む方法が開示される。
【0073】
別の態様では、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者を治療する方法であって、有効量のイブジラスト又はその薬学的に許容可能な塩を、それを必要とする患者に投与することを含む方法が開示される。
【0074】
別の態様では、患者がASDサブタイプ1患者と一致する特性を示す方法が開示される。
【0075】
別の態様では、イブジラスト又は薬学的に許容可能な塩が、一日の総用量が約1~150mgの範囲、好ましくは約10~80mgの範囲、より好ましくは約15~50mgの範囲で、1回分、2回分又は3回分に分けて患者に投与される方法が開示される。
【0076】
別の態様では、イブジラスト又は薬学的に許容可能な塩が、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45若しくは50mgのイブジラスト又はその薬学的に許容可能な塩を含む剤形を用いて、1日1回、2回又は3回患者に経口投与される方法が開示される。
【実施例
【0077】
イブジラスト及びブメタニドを含む医薬組成物を、DSM-5に定義される自閉症スペクトラム障害、又はDSM-IVで定義されるPDD-NOS又はアスペルガー症候群の診断を受けた患者に投与した。
【0078】
適格基準:男性、5~50歳、現在の慢性疾患なし、1年以内の発作の発症歴なし、正常な肝臓、腎臓及び甲状腺機能。負荷試験の開始前の少なくとも60日の間、投与量が安定していた場合には、薬剤の併用が可能であった。患者には、症候群又は同定された遺伝的病因がなかった。
【0079】
以下を示す特発性ASDの人を、表現型1と分類した:
・少なくとも1つの必須特性:
・対照集団に対して拡大した頭のサイズ。24ヶ月時点にて平均頭囲より大きい標準偏差及び/又は外形的な巨頭症(頭囲が一般集団の97%より大きい)の少なくとも1つを特徴とする。
及び/又は
・自閉症の中核症状又は付随症状の周期的な悪化。感染事象の期間、乳歯の喪失、外傷後傷害、内因性及び外因性の温度変化によって増強される。
並びに、
・以下の20の特徴の少なくとも2つ、最も好ましくは少なくとも3つ:
・対照母集団に対して高速な毛髪及び爪の成長。
・同じ民族の人と比較して、より明るい色の肌及び眼を示す高い傾向。
・同じ民族の対照被験者よりも実質的に長いまつげ。
・色素脱失した皮膚の少なくとも5つの不連続領域。特に患者の背中に現れる。
・感染事象の期間、乳歯の喪失、外傷後傷害又は体温変化の内因性要因及び外因性要因の間における浮腫の徴候;より詳細には、眼窩周囲領域及び額領域に位置する顔面浮腫
・同じ年齢及び民族の定型発達者と比較した、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)の高い血中レベル。
・先天性泌尿生殖器系奇形及び/又は排尿開始機能障害。
・膝蓋骨の過形成。
・下痢の頻発。特に5歳より前。
・耳鳴りの頻発。
・脳梁の薄化。
・血液悪性腫瘍(特に、骨髄腫及び急性前骨髄球性白血病だが、これらに限定されない)の家族歴陽性。
・リウマチ性関節炎の家族歴陽性。すなわち、2世代続けて少なくとも2人の影響を受けた第一度近親者。
・アセチルサリチル酸又はその誘導体に応答する有害事象。
・虹彩欠損。片側又は両側のいずれか。
・睡眠多汗症。特に新生児、幼児及び小児(幼児期及び小児期における夜間発汗の著しい増加。ベッドリネンの交換が必要になると近親者より報告されることが多い)。
・Th1/Th2比の増加(すなわち、インターロイキン1β、インターロイキン6、TNF-α、インターフェロンγのレベル上昇)。
・先天性の副脾又は重複した脾臓。
・乳糜槽の先天性欠損。
・妊娠中にウイルス性又は細菌性感染症に罹患した母親及び/又は生物学的に確認された母親の妊娠中の免疫活性化の報告歴。
【0080】
最初の介入:
説明:上記のように特徴付けられた4人の患者に対して、イブジラストを投与した。4人の被験者は、軽度から重度まで様々なレベルの機能を有し、種々異なるレベルの言語能力及び知的能力を有していた。IQ値は、61~86の範囲であった。全てが男性だった。
【0081】
【表1】
【0082】
4人の患者を、一日の総用量0.6mg/kg(TID)のイブジラストを用いて治療した。
【0083】
【表2】
【0084】
イブジラストを用いた単独治療の2~4ヵ月後に、4人の患者全てにおいて、治療有効性が喪失し、治療前のベースラインスコアまで徐々に戻ったことが報告された。
【0085】
新たな治療計画が導入され、今度は、1日の総用量0.6mg/kg(TID)のイブジラストを、1日の総用量0.08mg/kg(BID)のブメタニド(1日の上限用量を2mg/kg/日とする)と併用して投与した。
【0086】
平均投与期間8日の二重療法の後、ADI-rスコアの減少に対する治療効果は、最初の単独療法の有効性の復元を反映していた。
【0087】
【表3】