(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】半導体製造装置用シール材
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20220120BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20220120BHJP
C08L 61/06 20060101ALI20220120BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
C09K3/10 M
C09K3/10 Z
C09K3/10 Q
C08L27/12
C08L61/06
C08K3/36
(21)【出願番号】P 2019223673
(22)【出願日】2019-12-11
【審査請求日】2021-07-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 裕明
(72)【発明者】
【氏名】浜村 武広
(72)【発明者】
【氏名】伊東 隆男
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-152032(JP,A)
【文献】特開2020-070326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/10-3/12
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴムとフェノール樹脂粉末とを含むゴム組成物からなり、
前記フッ素ゴム100質量部に対して、前記フェノール樹脂粉末の配合量は1質量部以上、50質量部以下であり、
前記フェノール樹脂粉末の平均粒径は、1μm以上、20μm以下であることを特徴とする半導体製造装置用シール材。
【請求項2】
請求項1において、
前記ゴム組成物は、粉末シリカを更に含むことを特徴とする半導体製造装置用シール材。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記ゴム組成物は、水素サイト保護剤を更に含むことを特徴とする半導体製造装置用シール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体製造装置に用いるシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
機械装置において、気密性を得るために、ゴム組成物等からなるシール材が用いられる。シール材の特性としては、硬さ、引っ張り強さ、圧縮永久歪み等がある。具体的に要求される特性は、使用目的に応じて異なる。また、シール材を半導体製造装置に用いる場合、プラズマに晒されても発塵し難いことが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-179210号公報
【文献】特許04628814号
【文献】特許06230415号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の技術の目的は、圧縮永久歪みの向上と、半導体製造装置に使用した場合の発塵の抑制とを両立するシール材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の半導体製造装置用シール材は、フッ素ゴムとフェノール樹脂粉末とを含むゴム組成物からなる。フッ素ゴム100質量部に対して、フェノール樹脂粉末の配合量は1質量部以上、50質量部以下である。フェノール樹脂粉末の平均粒径は、1μm以上、20μm以下である。
【発明の効果】
【0006】
本開示の半導体製造装置用シール材によると、圧縮永久歪みの向上と、発塵の抑制とを両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本実施形態の半導体製造装置用シール材は、ゴム成分としてフッ素ゴムを含み、フェノール樹脂粉末を含有するゴム組成物からなる。このようなゴム成分と配合剤との組み合わせにより、望ましい圧縮永久歪み等の特性と、プラズマに晒された場合にも発塵を抑制することとが実現する。
【0008】
半導体製造装置用シール材を構成するゴム成分としては、フッ素ゴムの他に、シリコーンゴム、EPDM等を用いる場合がある。しかしながら、後に更に説明するが、シリコーンゴムにフェノール樹脂粉末を配合したとしても、圧縮永久歪みの向上は見られない。また、EPDMにフェノール樹脂粉末を配合した場合、表層が強く硬化してひび割れるので、シール材として不適となる。
【0009】
本実施形態のシール材において、フッ素ゴムとしては、例えば、ビニリデンフルオライド(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体(二元系FKM)、ビニリデンフルオライド(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体(三元系FKM)、テトラフルオロエチレン(TFE)とプロピレン(Pr)との共重合体(FEP)、ビニリデンフルオライド(VDF)とプロピレン(Pr)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体、エチレン(E)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体(ETFE)、エチレン(E)とテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)とテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロアルキルエーテル(PFAE)の共重合体等が挙げられる。これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0010】
以上のうち、二元系FKM、三元系FKM、FEPM、FFKM、パーフルオロポリエーテルがより好ましい。
【0011】
フッ素ゴムの架橋方法としては、ポリオール架橋とパーオキサイド(有機過酸化物)架橋とがあるが、パーオキサイド架橋を用いることが好ましい。
【0012】
ポリオール架橋は、圧縮永久歪みの点についてはパーオキサイド架橋よりも優れている。しかし、ポリオール架橋の場合、架橋反応の際にHFが生成するので、これを吸収するためにMgO、CaOH2等を添加する必要がある。この結果、ポリオール架橋のフッ素ゴムは、パーオキサイド架橋のフッ素ゴムに比べると、含有金属が多く、プラズマ環境下にて発塵しやすい傾向がある。このことから、半導体製造装置用シール材としては、パーオキサイド架橋の方が好ましい。また、耐薬品性、スチーム性の点(金属酸化物により低下する傾向がある)からも、パーオキサイド架橋の方が好ましい。但し、ポリオール架橋のフッ素ゴムについても、フェノール樹脂粉末を配合することにより圧縮永久歪みが向上する効果は実現するので、ポリオール架橋の場合を排除するものではない。
【0013】
パーオキサイドは、所定の温度に加熱されたときにゴム成分を架橋させる熱架橋剤である。具体例としては、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゼン、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエイト等が挙げられる。パーオキサイドは、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、優れた物性を得る観点から、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンを用いることがより好ましい。
【0014】
また、ポリオール系架橋剤としては、ビスフェノール類が好ましい。具体的には、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン[ビスフェノールAF]、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン[ビスフェノールS]、ビスフェノールA-ビス(ジフェニルホフェート)、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン等のポリヒドロキシ芳香族化合物が挙げられる。ポリオールは、優れた物性を得る観点から、ビスフェノールA、ビスフェノールAF等が好ましい。これらはアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩の形であってもよい。
【0015】
また、本実施形態のシール材において、フェノール樹脂は、反応が完了しているものであることが好ましい。例えば、メタノール中にて加熱環流した際の抽出分が10質量%以下であるものが好ましい。また、遊離フェノール含有量が500ppm以下のフェノール樹脂が好ましい。
【0016】
フェノール樹脂の配合量は、圧縮永久歪みを向上する観点から、ゴム成分100質量部に対し、好ましくは1質量部以上であり、より好ましくは5質量部以上である。また、同じ観点から、フェノール樹脂の配合量は好ましくは50質量部以下であり、より好ましくは25質量部以下であり、更に好ましくは15質量部以下である。
【0017】
また、フェノール樹脂粉末の平均粒径は、圧縮永久歪みを向上する観点から、好ましくは1μm以上である。また、同じ観点から、平均粒径は好ましくは20μm以下であり、より好ましくは10μm以下であり、更に好ましくは6μm以下である。
【0018】
尚、本実施形態において、平均粒径は、レーザー回折散乱法により測定した50%粒度である。
【0019】
また、本実施形態のシール材を構成するフッ素ゴム組成物は、フェノール樹脂粉末以外の配合材を含んでいても良い。
【0020】
例えば、フッ素ゴム組成物は、粉末シリカを含んでいても良い。シリカを含有することにより、架橋して成形すると、耐圧壊性に優れたフッ素ゴム成形体となる。シリカは、乾式シリカや湿式シリカ等の合成非晶質シリカが好ましく、親水性乾式シリカや疎水性乾式シリカ等の乾式シリカがより好ましく、疎水性乾式シリカがさらに好ましい。
【0021】
また、シリカの含有量は、耐圧壊性を含む優れた物性を得る観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、また、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下とするのが良い。
【0022】
尚、シリカは、表面処理されていても良い。例えば、シランカップリング剤によって表面処理され、メチル基、ジメチル基、トリメチル基等が導入されていても良い。
【0023】
また、シリカは、粉末状であることが望ましい。粉末シリカは、BET理論による比表面積が50m2/g以上であることが好ましく、80m2/g以上であることがより好ましい。
【0024】
また、フッ素ゴム組成物に対し、カーボンブラックを配合剤とすることも可能である。カーボンブラックを配合するとプラズマ環境下にて発塵しやすいことから、この点からは配合しない方が好ましい。しかし、カーボンブラックを含むフッ素ゴム組成物においても、フェノール樹脂粉末を更に配合することにより圧縮永久歪みを向上する効果は実現する。カーボンブラックの含有量は、フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、最も好ましくは0質量部である。
【0025】
また、本実施形態のシール材を構成するフッ素ゴム組成物は、水素サイト保護剤を更に含有していてもよい。水素サイト保護剤は、ゴム製品の製造時に放射線が照射されたとき、ゴム成分の炭素-水素間の結合が切断されて生じる炭素のラジカルに結合する化合物である。
【0026】
水素サイト保護剤は、分子内にゴム成分の炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物、及び/又は、分子内にゴム成分の炭素のラジカルに結合するアルケニル基を有するシロキサン骨格の化合物を含むことが好ましい。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等が挙げられる。アルケニル基は、これらのうちのビニル基が好ましい。
【0027】
分子内にアルケニル基を有するパーフルオロ骨格の化合物としては、例えば、パーフルオロポリエーテル構造の化合物、パーフルオロアルキレン構造の化合物等が挙げられる。分子内にアルケニル基を有するシロキサン骨格の化合物としては、例えば、メチルビニルシロキサンの重合体、ジメチルシロキサンの重合体、ジメチルシロキサンとメチルビニルシロキサンとの共重合体、ジメチルシロキサンとメチルビニルシロキサンとメチルフェニルシロキサンとの共重合体等が挙げられる。その他、付加重合の液状シリコーンゴムである分子中にアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。水素サイト保護剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0028】
水素サイト保護剤の含有量は、耐プラズマ性を高める観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。
【0029】
フッ素ゴム組成物は、更に、可塑剤、加工助剤、加硫促進剤、老化防止剤等を含有していてもよい。
【0030】
未架橋のフッ素ゴム組成物は、オープンロールなどの開放式のゴム混練機、或いは、ニーダーなどの密閉式のゴム混練機を用いて調製することができる。これらのうち、特にオープンロールなどの開放式のゴム混練機において、優れた混練加工性を得ることができる。
【0031】
以上のようなフッ素ゴム組成物からシール材を製造するには、例えば、金型を用いた加工を行う。つまり、本実施形態に係る未架橋のフッ素ゴム組成物の所定量を、予熱した金型のキャビティに充填し、次いで型締めした後、その状態で、所定の成形温度及び所定の成形圧力で所定の成形時間だけ保持する。このとき、未架橋のフッ素ゴム組成物がキャビティの形状に成形されるとともに、ゴム成分が架橋剤により架橋して可塑性を喪失する。この成形は、プレス成形であってもよく、また、射出成形であってもよい。成形温度は、例えば150℃以上180℃以下である。成形圧力は、例えば0.1MPa以上25MPa以下である。成形時間は、例えば3分以上20分以下である。そして、金型を型開きし、内部から成形品を取り出して冷却することにより、ゴム製品を得ることができる。なお、金型から取り出した成形品に対しては、更に加熱温度150℃以上250℃以下及び加熱時間2時間以上24時間以下の熱処理を施してもよい。
【実施例】
【0032】
以下、本開示の半導体製造装置用シール材について、実施例1~9及び比較例1~16を説明する。
【0033】
――シール材の作製――
(実施例1)
フッ素ゴム成分のFKM(Solvay社製、商品名:テクノフロンP959)100質量部に対し、架橋剤としての有機過酸化物(日本油脂株式会社製、商品名パーヘキサ25B)1.5質量部と、架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC、三菱ケミカル社製)2.0質量部と、フェノール樹脂粉末(エア・ウォーター・ベルパール社製、商品名ベルパールR100)1質量部とを加え、オープンロールにより混練を行った。混練したコンパウンドを160℃で10分間プレス成形した。その後、ギアオーブン中にて200℃で4時間、二次架橋を行った。得られたシール材を実施例1のシール材とした。尚、ベルパールR100の平均粒径は1.5μmである。
【0034】
(実施例2)
フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)の配合量を10質量部(フッ素ゴム100質量部に対して。以下、配合剤の質量部について、同様にゴム成分100質量部に対する値であることを省略して記載することがある)とした他は実施例1と同様にして、実施例2のシール材を作製した。
【0035】
(実施例3)
フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)の配合量を25質量部とした他は実施例1と同様にして、実施例3のシール材を作製した。
【0036】
(実施例4)
フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)の配合量を50質量部とした他は実施例1と同様にして、実施例4のシール材を作製した。
【0037】
(実施例5)
フェノール樹脂粉末として、ベルパールR100に代えてベルパールR200(商品名。エア・ウォーター・ベルパール社製)10質量部を用いた他は実施例1と同様にして、実施例5のシール材を作製した。尚、ベルパールR200の平均粒径は5.8μmである。
【0038】
(実施例6)
配合剤として、更にカーボンブラック(Cancarb社製、商品名Thermax N990)10質量部を加えた他は実施例2と同様にして、実施例6のシール材を作製した。
【0039】
(実施例7)
フッ素ゴム成分のFKM(ケマーズ社製、商品名:バイトンE60C)100質量部に対し、受酸剤としての酸化マグネシウム(協和化学工業社製、商品名:キョーワマグ150)3質量部及び水酸化カルシウム(近江化学工業社製、商品名:カルビット2000)6質量部と、フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)10質量部と、カーボンブラック(Thermax N990)25質量部とを加え、オープンロールにより混練を行った。混練したコンパウンドを170℃で20分間プレス成形した。その後、ギアオーブン中にて200℃で24時間、二次架橋を行った。得られたシール材を実施例7のシール材とした。
【0040】
(実施例8)
プレス条件を160℃で5分間とし、且つ、二次架橋は行わなかった他は実施例2と同様にして、実施例8のシール材を作製した。
【0041】
(実施例9)
有機過酸化物(パーヘキサ25B)の配合量を0.3質量部とした他は、実施例8と同様にして、実施例9のシール材を作製した。
【0042】
(比較例1)
フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)を配合しなかった他は実施例1と同様にして、比較例1のシール材を作製した。
【0043】
(比較例2)
フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)に代えて、カーボンブラック(Thermax N990)10質量部を配合した他は実施例1と同様にして、比較例2のシール材を作製した。
【0044】
(比較例3)
フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)に代えて、カーボンブラック(Thermax N990)25質量部を配合した他は実施例1と同様にして、比較例3のシール材を作製した。
【0045】
(比較例4)
フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)に代えて、カーボンブラック(三菱ケミカル社製、商品名:ダイアブラックH)10質量部を配合した他は実施例1と同様にして、比較例4のシール材を作製した。
【0046】
(比較例5)
フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)に代えて、シリカ(日本アエロジル社製、商品名:アエロジルR972)10質量部を配合した他は実施例1と同様にして、比較例5のシール材を作製した。
【0047】
(比較例6)
フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)に代えて、シリカ複合球状硬化メラミン樹脂粒子(日産化学社製、商品名:オプトビーズ2000M)10質量部を配合した他は実施例1と同様にして、比較例6のシール材を作製した。
【0048】
(比較例7)
フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)に代えて、フッ素樹脂粉末(アルケマ社製、商品名:カイナーMG15)10質量部を配合した他は実施例1と同様にして、比較例7のシール材を作製した。
【0049】
(比較例8)
フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)に代えて、フッ素樹脂(PVDF)粉末(カイナーMG15)25質量部を配合した他は実施例1と同様にして、比較例8のシール材を作製した。
【0050】
(比較例9)
フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)に代えて、フッ素樹脂(PTFE)粉末(旭硝子社製、商品名:フルオンL173JE)10質量部を配合した他は実施例1と同様にして、比較例9のシール材を作製した。
【0051】
(比較例10)
フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)を配合しなかった他は実施例7と同様にして、比較例10のシール材を作製した。
【0052】
(比較例11)
フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)に代えて、カーボンブラック(Thermax N990)10質量部を配合した他は実施例8と同様にして、比較例11のシール材を作製した。
【0053】
(比較例12)
フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)に代えて、カーボンブラック(Thermax N990)10質量部を配合した他は実施例9と同様にして、比較例12のシール材を作製した。
【0054】
(比較例13)
フェノール樹脂粉末として、ベルパールR100に代えて、ベルパールR800(商品名。エア・ウォーター・ベルパール社製)10質量部を配合した他は実施例1と同様にして、比較例13のシール材を作製した。尚、ベルパールR800の平均粒径は22μmである。
【0055】
(比較例14)
ビニルメチルシリコーンゴム(信越化学社製、商品名KE-871C-U)100質量部に対し、架橋材としての有機過酸化物(信越化学社製、商品名:C-8)1質量部を加え、オープンロールにより混練を行った。混練したコンパウンドを160℃で10分間プレス成形した。その後、ギアオーブン中にて200℃で4時間、二次架橋を行った。得られたシール材を比較例14のシール材とした。
【0056】
(比較例15)
混練の際に配合剤としてフェノール樹脂粉末(ベルパールR100)10質量部を加えたほかは比較例14と同様にして、比較例15のシール材を作製した。
【0057】
(比較例16)
エチレンプロピレンジエンゴム(JSR社製、商品名:EP51)100質量部に対し、有機過酸化物(パーヘキサ25B)1.5質量部と、架橋助剤(TAIC)2.0質量部と、フェノール樹脂粉末(ベルパールR100)10質量部とを加え、オープンロールにより混練を行った。混練したコンパウンドを160℃で30分間プレス成形した。その後、ギアオーブン中にて160℃で1時間、二次架橋を行った。得られたシール材を実施例1のシール材とした。得られたシール材を比較例16のシール材とした。
【0058】
――試験評価方法――
(硬さ)
作製したシール材の硬さは、JIS K6253-3に従い、タイプAのデュロメータを用いて瞬間値として測定した。
【0059】
(引っ張り強さ、伸び、100%モジュラス)
作製したシール材の引っ張り強さ、伸び、及び100%モジュラスは、いずれもJIS K6252に基づき、厚さ2mmの3号ダンベル状試験片により測定した。
【0060】
(圧縮永久歪み)
作製したシール材の圧縮永久歪みは、JIS K6262に基づき、AS-214 Oリングを半分に切った試験片により測定した。
【0061】
(耐プラズマ性)
作製したシール材の耐プラズマ性は、小型プラズマエッチング装置(神港精機株式会社製)を用いてAS-214 Oリングをプラズマに暴露させて、重量減少率を求めることにより測定した。この際、高周波電源は1500W、ガスはO2+CF4(50:1)、圧力は100Pa、時間は30分の条件とした。
【0062】
また、暴露後のOリングの外観を目視観測し、パーティクルの有無を確認した。
【0063】
(加硫速度)
シール材の作成時の加硫速度について、JIS K6300-2に準拠した装置を用いてt90を求めた。
【0064】
――試験評価結果――
【0065】
【0066】
表1に、実施例1~5と、比較例1~9及び13とのシール材について、ゴム組成物の配合及び試験評価結果を記載している。
【0067】
フェノール樹脂粉末を配合した実施例1~5について、フェノール樹脂粉末を配合しない比較例1と比べると、圧縮永久歪みが改善(低減)すると共に、硬さ及びモジュラスも向上している。
【0068】
また、実施例1~5について、カーボンブラックを配合した比較例2~4と比べると、圧縮永久歪みに優れる。更に、比較例2~4ではプラズマ照射後に発塵が見られるが、実施例1~5ではプラズマ照射後の発塵は見られない。実施例1~5の重量減少率は、比較例2~4の重量減少率よりも小さい。従って、実施例1~5の方が比較例2~4よりも耐プラズマ性に優れている。
【0069】
また、実施例1~5について、シリカ、シリカ-メラミン複合体又はPVDFを配合した比較例5~8と比べると、圧縮永久歪みに優れる。
【0070】
また、実施例1~5について、PTFEを配合した比較例9と比べると、圧縮永久歪みに優れる。また、また、比較例9ではプラズマ照射後に発塵が見られるが、実施例1~5ではプラズマ照射後の発塵は見られない。
【0071】
以上から、ゴム成分としてフッ素ゴムを用い、フェノール樹脂粉末を配合した実施例1~5について、圧縮永久歪みが改善し、且つ、耐プラズマ性が向上する(プラズマ照射による発塵を抑制する)効果が実現する。
【0072】
比較例13は、フェノール樹脂粉末を配合している点では実施例1~5と同様である。但し、実施例1~4のフェノール樹脂粉末の平均粒径が1.5μm、実施例5のフェノール樹脂粉末の平均粒径が5.8μmであるのに対し、比較例13のフェノールの平均粒径は22μmである。比較例13では圧縮永久歪みは改善せず、実施例1~5と同様の測定条件において崩壊した。従って、フェノール樹脂粉末の粒径には好ましい範囲が存在する。例えば20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることが更に好ましい。
【0073】
また、フェノール樹脂粉末の配合量のみが異なる実施例1~4について、実施例2の場合が圧縮永久歪みについては最も優れている。フェノール樹脂粉末のゴム成分100質量部に対する配合量は、1質量部以上であることが好ましい。また、50質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることが更に好ましい。
【0074】
【0075】
次に、表2に、実施例6及び7と、比較例3、10及び14~17とのシール材について、ゴム組成物の配合及び試験評価結果を記載している。
【0076】
実施例6及び比較例3は、いずれもカーボンブラックが配合された例である。実施例6は、更にフェノール樹脂粉末が配合されている点において比較例3と異なる。半導体製造装置用シール材では、発塵を避ける観点から、カーボンブラックを配合しないことが好ましい。しかし、他の特性に関する要請等から、カーボンブラックを配合することは考えられる。
【0077】
実施例6と比較例3から、カーボンブラックを配合している場合においても、フェノール樹脂粉末を配合することにより圧縮永久歪みが改善することが示される。
【0078】
また、実施例7及び比較例10は、いずれもポリオール架橋系のフッ素ゴムであり、いずれもカーボンブラックが配合されている。実施例7は、更にフェノール樹脂粉末が配合されている点において比較例10と異なる。
【0079】
これらの比較から、ポリオール架橋のフッ素ゴムに関しても、フェノール樹脂粉末を配合することにより圧縮永久歪みが改善することが示される。
【0080】
比較例14及び15は、いずれもシリコーンゴムをゴム成分とする。フェノール樹脂粉末は比較例14では配合されず、比較例15では配合されている。比較例15において、圧縮永久歪みは比較例14よりも劣化している。従って、シリコーンゴムの場合には、フェノール樹脂粉末を配合することによる圧縮永久歪み改善の効果は無い。
【0081】
更に、比較例16は、ゴム成分としてEPDMを用いおり、フェノール樹脂粉末が配合されている。比較例16では、加硫後に表層が強く硬化し、ひび割れる。硬さ、圧縮永久歪み等について測定不能であり、シール材としては不適である。
【0082】
これらから、フッ素ゴムをゴム成分としてフェノール樹脂粉末を配合することにより圧縮永久歪みが改善することが示される。
【0083】
【0084】
次に、表3に、実施例8及び9と、比較例1、11及び12とのシール材について、ゴム組成物の配合及び試験評価結果を記載している。
【0085】
実施例8は、比較例1に対し、フェノール樹脂粉末を配合している点が異なる。また、比較例11は、比較例1に対し、カーボンブラックを配合している点が異なる。
【0086】
実施例8は、比較例1よりも加硫速度(t90)が速くなっている。しかし、比較例11については、加硫速度が速くなる効果は見られない。このように、フェノール樹脂粉末を加えることにより、加硫速度が速くなるという効果がある。このような効果は、カーボンブラックには無い。
【0087】
実施例9は、実施例8に対して、架橋剤の配合量を5分の1に減らした例である。この場合にも、加硫速度(t90)は十分に速く、5分間の加硫時間によって十分に加硫が進行している。その結果、圧縮永久歪みが更に向上している。
【0088】
これに対し、比較例11及び12はフェノール樹脂粉末を配合しない例であり、架橋剤の配合量のみが異なる。比較例12では、比較例11に対し、架橋剤を減らしたことにより加硫速度(t90)が低下している。この結果、5分間の加硫時間では十分に加硫が進行せず、圧縮永久歪みは劣化している。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本開示のシール材は、圧縮永久歪みに優れると共にプラズマに暴露した際の発塵が抑制されているので、特に半導体製造装置用のシール材として有用である。