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特許7012075眼瞼炎の治療に使用するための医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】眼瞼炎の治療に使用するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/02 20060101AFI20220120BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
A61K31/02
A61P27/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019515654
(86)(22)【出願日】2017-09-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2017073697
(87)【国際公開番号】W WO2018054932
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-09-16
(31)【優先権主張番号】16190138.4
(32)【優先日】2016-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512086242
【氏名又は名称】ノバリック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】グンター, ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】ルッシャー, フランク
(72)【発明者】
【氏名】クレッサー, ソンニャ
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-531344(JP,A)
【文献】特表2015-527386(JP,A)
【文献】特表2013-513586(JP,A)
【文献】特表2011-515494(JP,A)
【文献】Journal of Ocular Pharmacology and Therapeutics,2015年,31(8),pp.498-503
【文献】眼瞼炎-17.眼疾患-MSDマニュアル プロフェッショナル版,2016年07月,https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/17-眼疾患/眼瞼および流涙疾患/眼瞼炎(令和3年5月24日検索)
【文献】European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics,2014年,88,pp.123-128
【文献】The Ocular Surface,2014年,12(4),pp.273-284
【文献】Survey of Ophthalmology,2007年,52(3),pp.289-299
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前部又は後部眼瞼炎の治療、処置、予防、又は寛解のために使用するための、1-ペルフルオロヘキシル-オクタン(F6H8)から本質的になる医薬組成物。
【請求項2】
前記前部又は後部眼瞼炎は後部眼瞼炎である、前部又は後部眼瞼炎の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記前部又は後部眼瞼炎は深刻な前部又は後部眼瞼炎である、前部又は後部眼瞼炎の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
1-ペルフルオロヘキシル-オクタンのみからなる、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
投与を必要とする患者の眼の表面、下眼瞼、涙嚢、又は眼組織に局所投与される、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
それぞれの眼に1日当たり1~6滴の量で投与される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
約8~15μLの体積を有する液滴で投与される、請求項のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記前部又は後部眼瞼炎は、細菌感染、脂漏性皮膚炎、眼瞼での脂腺の詰まり又は機能障害、酒さ、アレルギー反応、並びに、睫毛ダニ及び/又はシラミの寄生からなる群から選択される臨床状態と関連している、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前部又は後部眼瞼炎の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物であって、
(1)最大10秒の涙液層破壊時間(TFBUT)を有する患者
(2)16~55の範囲の眼表面疾患指数を有する患者
(3)5分以内に記録される少なくとも2mmのSchirmer I試験値を有する患者、
および/または、
(4)最大10の追加周辺部角膜及び結膜オックスフォード染色グレードを有する患者
に投与される医薬組成物。
【請求項10】
1-ペルフルオロヘキシル-オクタンではない溶解した薬理学的活性成分を実質的に含まない、前部又は後部眼瞼炎の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
水を実質的に含まない、及び/又は防腐剤を実質的に含まない、前部又は後部眼瞼炎の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
a)1-ペルフルオロヘキシルオクタンを含む、又は1-ペルフルオロヘキシルオクタンから本質的になる、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物と、
b)前記組成物を保持するための容器であって、前記容器は、組成物の眼表面、下眼瞼、涙嚢、又は眼組織への局所投与に適合した分配手段を含む、容器と、
c)前部又は後部眼瞼炎の治療、処置、予防、又は寛解における、前記組成物の使用のための指示と、
を含み、
前記分配手段は、8~15μLの体積を有する液滴を分配するなどのためのドロッパー寸法を含む、
前部又は後部眼瞼炎の治療、処置、予防、又は寛解のための、医薬キット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
眼瞼炎とは、眼瞼の炎症疾患プロセスの一群を意味する。眼瞼炎は通常、睫毛が成長する眼瞼の部分と関連し、両方の眼瞼に影響を及ぼす。多数の疾患及び状態が、細菌感染、アレルギー、脂腺の詰まり、又はその他の状態などの眼瞼炎をもたらす可能性がある。重症度は異なる場合があり、発症は急性である可能性があり、処置することなく2~4週間で回復するが、より一般的には、眼瞼炎は様々な重症度を有する長続きする慢性炎症である。
【0002】
眼瞼炎は解剖学的に、2つの下位指標:前部眼瞼炎及び後部眼瞼炎に分けることができる。前部眼瞼炎とは、主に皮膚、睫毛、及び毛嚢を中心とする炎症を意味する一方で、後部眼瞼炎は、マイボーム腺孔、マイボーム腺、及び瞼板に関連する。(Pflugfelder et. al,Ocul.Surf.2014 Oct;12(4):273-84)。前部眼瞼炎は通常、ブドウ球菌性眼瞼炎及び脂漏性眼瞼炎に更に細分される。個々の患者におけるこれらのプロセスにおいては頻繁に、かなりの重複が存在する。眼瞼炎は多くの場合、全身性疾患、例えば酒さ、アトピー、及び脂漏性皮膚炎、並びに眼疾患、例えばドライアイ症候群、霰粒腫、睫毛乱生、結膜炎、及び角膜炎と関連している。
【0003】
眼瞼炎の病態生理学は頻繁に、眼瞼の細菌コロニー形成と関連する。これは、組織への直接的細菌侵入、免疫系が媒介する損傷、又は、細菌性毒素、廃棄物、及び酵素の産生により引き起こされる損傷をもたらす。眼瞼縁でのコロニー形成は、脂漏性皮膚炎又はマイボーム腺機能障害の存在下において増加する。眼瞼炎を有する患者は典型的には、眼の刺激、かゆみ、眼瞼の紅斑、及び/又は睫毛の変化の症状を示す。
【0004】
眼瞼炎は多くの場合、処置が困難な慢性状態である。眼瞼縁の衛生に関するプログラムへの、体系的かつ長期にわたる関与は通常、眼瞼炎処置の土台であるが、これは治癒ではなく、長期間にわたり実施可能なプロセスである。眼瞼炎処置における有用な薬物治療としては、(例えば、局所抗生物質による)感染と闘うための薬物治療、(例えば、局所コルチコステロイドによる)炎症を制御するための薬物治療、(例えば、免疫抑制剤による)免疫系に影響を及ぼすための薬物治療、又は根底的な条件を処置することによる薬物治療を挙げることができる。更に、結膜炎及び角膜炎が眼瞼炎の合併症としてもたらされ、更なる処置を必要とする可能性がある。
【0005】
J.Neppらは、Spektrum Augenheilkd(2016)30:122-136において、診断から、149種類の人工涙薬物治療及び適用法の集合を用いた治療までの、ドライアイ管理用ワークフローチャートを提供している。眼瞼炎及びマイボーム腺機能障害の処置に関しては、市場で現在入手可能な17種類の異なる化合物が、「潤滑剤-脂質」の元で編集されている。これらの中で、ペルフルオロヘキシル-オクタンを含有する化合物EvoTears(登録商標)(Ursa-Pharm Arzneimittel GmbH,Germany)が、列挙されている。
【0006】
それにも関わらず、眼瞼炎の有症率、及び、他の眼疾患及び状態、例えばドライアイ疾患などの、複合的相互依存の観点から、高い有効性を有して、特定の形態又は下位指標の眼瞼炎を直接かつ効率的に対処することが可能な、更なる治療オプションが引き続き必要とされている。それ故、高い有効性、及びその他の状態又は薬物治療との最小限の副作用又は相互依存の可能性を有する、特定の形態の眼瞼炎の処置を可能にする医薬組成物を提供することが、本発明の目的である。
【発明の概要】
【0007】
第1の態様では、本発明は、前部又は後部眼瞼炎、又はそれらに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための、1-ペルフルオロヘキシル-オクタン(F6H8)を含む、又は1-ペルフルオロヘキシル-オクタン(F6H8)から本質的になる医薬組成物に関する。好ましい実施形態において、本発明は、後部眼瞼炎又はそれに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための、1-ペルフルオロヘキシル-オクタン(F6H8)を含む医薬組成物を提供する。特定の好ましい実施形態において、本発明は、後部眼瞼炎又はそれに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための、1-ペルフルオロヘキシル-オクタン(F6H8)からなる医薬組成物を提供する。
【0008】
第2の態様では、本発明は、前部又は後部眼瞼炎、又はそれらに関連する症状を患う患者の処置方法であって、1-ペルフルオロヘキシル-オクタンを含む、又は1-ペルフルオロヘキシル-オクタンから本質的になる医薬組成物を、その患者の眼に局所投与することを含む、方法に関する。
【0009】
第3の態様では、本発明は、前部又は後部眼瞼炎、又はそれらに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解のための、1-ペルフルオロヘキシル-オクタンを含む、又は1-ペルフルオロヘキシル-オクタンから本質的になる医薬組成物の使用に関する。
【0010】
第4の態様では、本発明は、
a)1-ペルフルオロヘキシル-オクタンを含む、又は1-ペルフルオロヘキシル-オクタンから本質的になる、使用のための、第1の態様に記載の医薬組成物と、
b)組成物を保持するための容器であって、前記容器は、組成物の眼表面、下眼瞼、涙嚢、又は眼組織への局所投与に適合した分配手段を含む、容器と、
c)前部又は後部眼瞼炎、好ましくは後部眼瞼炎、又はそれらに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解における組成物の使用のための指示と、
を含む、前部又は後部眼瞼炎、又はそれらに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解のための、医薬キットを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
第1の態様では、本発明は、前部又は後部眼瞼炎、又はそれらに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための、1-ペルフルオロヘキシル-オクタン(F6H8)を含む医薬組成物に関する。特定の好ましい実施形態において、本発明は、後部眼瞼炎又はそれに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための、1-ペルフルオロヘキシル-オクタン(F6H8)からなる医薬組成物を提供する。本発明によれば、本発明により診断された患者で処置される、又は治療により予防される臨床状態は、前部又は後部眼瞼炎のいずれかであってよく、これらは、より一般的な指標としての、眼瞼炎の具体的な下位指標である。本発明に従って処置される前部又は後部眼瞼炎は、急性又は慢性であってよく、疑わしい前部又は後部眼瞼炎の予防の場合に発現する場合がある、又は依然として発現しない場合がある。
【0012】
本明細書で使用する場合、用語「治療、処置、予防、又は寛解」は、用語「処置」により要約される場合があり、本明細書で使用する場合、医学的状態又は疾患の管理又は予防に有用な患者で実施される任意の作用という、広い意味合いを意味する。
【0013】
本明細書で使用する場合、用語「前部眼瞼炎」とは、睫毛が付いている眼瞼の外側前方に主に影響を及ぼす、主に患者の皮膚、睫毛、及び片眼又は両眼の毛嚢を中心とする炎症を意味する。本明細書で使用する場合、前部眼瞼炎は更に、ブドウ球菌性異型及び脂漏性異型に細分することができる。しかし、個体患者の、名称が付いた眼瞼炎及びプロセスに関しては頻繁に、かなりの重複が存在し得る。
【0014】
本明細書で使用する場合、用語「後部眼瞼炎」とは、マイボーム腺孔、マイボーム腺、及び瞼板を伴う眼瞼炎の異型又は下位指標を意味する。後部眼瞼炎は、眼球に接する眼瞼の内縁に影響を及ぼす。これは頻繁に、油を分泌して眼の潤滑を助ける、眼瞼内のマイボーム腺の機能障害に連関しており、細菌増殖に好ましい環境を作り出す。後部眼瞼炎はまた、他の皮膚条件、例えば酒さ様ざ瘡及び頭皮ふけの結果としても進展する可能性がある。
【0015】
本明細書において言及される眼瞼炎の異型両方は、例えば酒さ、アトピー、及び脂漏性皮膚炎などの全身性疾患、並びに、例えばドライアイ症候群、霰粒腫、睫毛乱生、結膜炎、及び角膜炎などの眼疾患と関連している場合がある、又は関連していない場合がある。
【0016】
更に、本明細書において言及される前部又は後部眼瞼炎は眼瞼での細菌コロニー形成を伴う場合がある、又は伴わない場合がある。そしてその結果、組織への直接的細菌侵入、免疫系が媒介する損傷、又は、細菌性毒素、廃棄物、及び酵素の産生により引き起こされる損傷を伴う場合がある。更に、本明細書において言及される前部又は後部眼瞼炎と関係した眼瞼縁でのコロニー形成は、脂漏性皮膚炎又はマイボーム腺機能障害の存在下において増加し得る、又は増加し得ない。更に、本明細書において言及される前部又は後部眼瞼炎は典型的には、例えばかゆみ、眼瞼の紅斑、及び/又は睫毛の変化などの、眼の刺激の症状と共に生じ得る。
【0017】
しかし、好ましい実施形態では、本発明は、前部又は後部眼瞼炎、又はそれらに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための医薬組成物に関し、前部又は後部眼瞼炎は後部眼瞼炎である。したがって、本発明は、後部眼瞼炎又はそれに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための医薬組成物に関する。
【0018】
更なる実施形態において、本発明は、一定レベルの強度で生じ得る、前部又は後部眼瞼炎又はそれらに関連する症状、好ましくは後部眼瞼炎の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための医薬組成物に関する。例えば、本発明の前部又は後部眼瞼炎は、例示的な数の眼瞼炎の症例を有する群で生じる強度分布と比較した際に、弱い若しくは軽い強度で、又は平均強度で、又は深刻な強度(即ち、平均強度を上回る強度)で生じ得る。
【0019】
したがって、本発明の一実施形態は、前部又は後部眼瞼炎、又はそれらに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための医薬組成物に関し、前部又は後部眼瞼炎は、深刻な前部又は後部眼瞼炎である。しかし、好ましい実施形態では、本発明は、深刻な後部眼瞼炎(深刻な強度、又はそれに関連する症状を有する後部眼瞼炎を意味する)の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための医薬組成物に関する。驚くべきことに、本発明のこの第1の態様に記載の医薬組成物を使用することは特に、以下で更に概要を述べる実験データにより示される、深刻な形態の眼瞼炎の処置に有益であることが発見されている。
【0020】
前部又は後部眼瞼炎、好ましくは後部眼瞼炎又はそれに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための医薬組成物は、1-ペルフルオロヘキシル-オクタンを含む。 1-ペルフルオロヘキシル-オクタンは、命名法FnHmに従ってF6H8としてもまた知られており、式中、nは、直鎖、非分岐鎖ペルフルオロ化セグメントの炭素原子の数を示す整数であり、mは、直鎖、非分岐鎖炭化水素セグメントの炭素原子の数を示す整数である。
【0021】
本発明の使用のための医薬組成物は通常、最終剤形に基づいて、少なくとも90重量%の量で、好ましくは95~100重量%の量で、より好ましくは97~99.95重量%の量で、そして更により好ましくは、98.5~99.9重量%の量で1-ペルフルオロヘキシル-オクタンを含む。したがって、本発明の好ましい実施形態において、前部又は後部眼瞼炎、好ましくは後部眼瞼炎の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための医薬組成物は、1-ペルフルオロヘキシル-オクタンから本質的になる。本発明の特定の実施形態において、前部又は後部眼瞼炎、好ましくは後部眼瞼炎の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための医薬組成物は、1-ペルフルオロヘキシル-オクタンからなる。この特定の場合において、本発明の使用のための医薬組成物は代わりに、「医薬品」又は「薬用製品」と呼ばれる場合がある。本発明の使用のための医薬組成物は通常、好ましくは滅菌形態で透明溶液として、提供される。
【0022】
更に好ましい実施形態において、使用のための本発明の医薬組成物は、1-ペルフルオロヘキシル-オクタンではない溶解した薬理学的活性成分を実質的に含まない。本明細書で使用する場合、用語「薬理学的活性成分」とは、任意の種類の薬学的活性化合物又は薬剤、即ち、薬理学的効果を生み出し、したがって状態又は疾患の予防、診断、安定化、処置、又は一般的に言って管理に有用であり得るものを意味する。(他の)薬理学的有効成分を含まないものの、本発明の使用のための薬学的化合物は、前部又は後部眼瞼炎の処置又は予防に有益な治療効果を有する。
【0023】
更に、使用のための本発明の医薬組成物はしかしながら、源又は調製方法に応じて、最終剤形の通常最大3重量%の量、好ましくは0.1~2.0重量%の量、より好ましくは0.1~1重量%の量で存在し得る、又は存在し得ない、少量の2-ペルフルオロヘキシル-オクタンを含み得る、又は含み得ない。
【0024】
好ましい一実施形態では、使用のための本発明の医薬組成物は、水を実質的に含まない、及び/又は防腐剤を実質的に含まない。本明細書で理解されるように、組成物構成に言及した用語「実質的に含まない」とは、上記成分が微量以下で存在し、微量で存在する場合、成分は組成物に、技術的寄与をもたらさないことを意味する。
【0025】
使用のための本発明の医薬組成物は市販されており、NovaTears(登録商標)(Novaliq GmbH,Germany)又はEvoTears(登録商標)(URSAPHARM Arzneimittel GmbH,Germany)の商標名にて購入することができる。
【0026】
使用のための本発明の医薬組成物は、投与を必要とする患者の眼の表面、下眼瞼、涙嚢、又は眼組織に局所投与することができる。通常、1滴の医薬組成物、好ましくは一滴のNovaTears(登録商標)が、眼の表面に直接投与される。好ましくは、液滴は、眼の下眼瞼を穏やかに引き下げることにより形成し得る、眼瞼の袋に投与され得る。
【0027】
医薬組成物の液滴、特に1-ペルフルオロヘキシル-オクタンから本質的になる医薬組成物の液滴は通常、1滴当たり約8~15μLの体積、多くの場合約10μLの体積を有する。ほとんどの場合、本発明の医薬組成物はそれぞれの目に1日当たり1~6滴、好ましくは3~4滴の量で投与され、1日の医薬組成物の総体積が片眼当たり30~40μLに相当する。通常、薬剤は1回投与当たり片眼に対して1滴の用量で、1日当たり3~4回投与される。しかしながら、強度及び他の因子、例えば上述した、関連する他の疾患に応じて、投与モード及び体積、並びに処理期間は著しく変化することができる。
【0028】
使用のための本発明の医薬組成物の更に別の実施形態において、前部又は後部眼瞼炎は、細菌感染、脂漏性皮膚炎、眼瞼での脂腺の詰まり又は機能障害、酒さ、アレルギー反応、並びに、睫毛ダニ及び/又はシラミの寄生からなる群から選択される、根底にある臨床状態と関連している場合がある。アレルギー反応は、例えば眼の薬物治療、コンタクトレンズ溶液、又は特定のアイメークにより引き起こされ得る、又はこれらに寄与し得る。
【0029】
更に他の実施形態では、治療、予防、又は寛解される前部又は後部眼瞼炎、好ましくは後部眼瞼炎に使用するための本発明の医薬組成物は、マイボーム腺機能障害及び/又はドライアイ疾患(DED)に関連している。
【0030】
更なる実施形態において、使用のための本発明の医薬組成物は、コンタクトレンズを装用している患者には投与されない。
【0031】
更なる実施形態において、前部又は後部眼瞼炎、好ましくは後部眼瞼炎又はそれに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解に使用するための医薬組成物は、最大10秒、好ましくは最大6秒の涙液層破壊時間(TFBUT;Shapiro A.,et.al.Am J Ophthalmol.1979 Oct;88(4):752-7)を有する患者に投与されることが有利であると発見されている(Shapiro A.,et.al.Am J Ophthalmol.1979 Oct;88(4):752-7)。
【0032】
更に、使用のための本発明の医薬組成物は、16~55の範囲の眼表面疾患指標を有する患者に投与されることが有利であると発見されている(Schiffman,R.M.,et.al,Arch.Ophthalmol.118:615-621,2000)。
【0033】
更に他の実施形態では、使用のための本発明の医薬組成物は、5分の試験時間の間に記録すると、少なくとも2mm(2mm以上)、好ましくは5mm以上のSchirmer I試験値(Shapiro A.,et.al.Am J Ophthalmol.1979 Oct;88(4):752-7)を有する患者に投与されることが有利であると発見されている。
【0034】
更に、使用のための本発明の医薬組成物は、最大10の追加周辺部角膜及び結膜オックスフォード染色グレードを有する患者に投与されることが有利であると発見されている(Bron,A.J.,et.al.,Cornea.22:640-650,2003)。
【0035】
好ましくは、更に他の実施形態において、使用のための本発明の医薬組成物は、最大10秒の涙液層破壊時間、16~55の範囲の眼表面疾患指標、少なくとも2mmのSchirmer I試験値、及び、最大10の追加周辺部角膜及び結膜オックスフォード染色グレードを有する患者に投与されることが有利であると発見されている。
【0036】
更なる態様において、上で詳述した本発明は、前部又は後部眼瞼炎、又はそれらに関連する症状を患う患者の処置方法であって、1-ペルフルオロヘキシル-オクタンを含む、又は1-ペルフルオロヘキシル-オクタンから本質的になる医薬組成物を、その患者の眼に局所投与することを含む方法に関する。特定の実施形態において、本方法は、1-ペルフルオロヘキシル-オクタンからなる医薬組成物を、その患者の目に局所投与することを含む。本態様においてはまた、本発明の第1の態様に関して上で概要を述べた全ての実施形態によると、後部眼瞼炎の処置が好ましい。
【0037】
更に別の態様では、本発明は、前部又は後部眼瞼炎、又はそれらに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解のための、1-ペルフルオロヘキシル-オクタンを含む、又は1-ペルフルオロヘキシル-オクタンから本質的になる、上で詳述した医薬組成物の使用に関する。特定の実施形態では、本発明は、前部又は後部眼瞼炎、又はそれらに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解のための、1-ペルフルオロヘキシル-オクタンからなる医薬組成物の使用に関する。同様に、本発明の本態様において、本発明の第1の態様に関して上で概要を述べた全ての実施形態によると、後部眼瞼炎の処置が好ましい。
【0038】
別の態様においては、本発明は、
a)1-ペルフルオロヘキシル-オクタンを含む、又は1-ペルフルオロヘキシル-オクタンから本質的になる第1の態様に従った、使用のための医薬組成物と、
b)組成物を保持するための容器であって、前記容器は、組成物の眼表面、下眼瞼、涙嚢、又は眼組織への局所投与に適合した分配手段を含む、容器と、
c)前部又は後部眼瞼炎、好ましくは後部眼瞼炎、又はそれに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解における組成物の使用のための指示と、
を含む、前部又は後部眼瞼炎、又はそれらに関連する症状の治療、処置、予防、又は寛解のための、医薬キットに関する。
【0039】
本発明の本態様の項目a)によると、医薬キットは、本発明の第1の態様に関して上述したとおりの使用のための、医薬組成物を含む。特定の実施形態において、項目a)の医薬組成物は、1-ペルフルオロヘキシル-オクタンからなる、本発明の第1の態様に従い使用するための医薬組成物である。
【0040】
本発明の本態様の項目b)と関連して使用される容器は、医薬組成物の単回用量を保持する、1回使用のための容器として、又は、複数の単回用量を保持する、複数使用のための容器として、任意の好適な形態で提供されることができる。容器は、患者の眼の表面への医薬組成物の滴下局所投与を可能にする分配手段を含むのが好ましい。一実施形態では、分配手段を含む容器は、好適な分配手段又は1回使用のドロッパーを備える、ガラス又は熱可塑性エラストマー製のボトルなどの、従来のドロッパーボトルであってよい。
【0041】
本発明の本態様の更なる好ましい実施形態において、分配手段は、約8~15μL、好ましくは約10μLの体積を有する液滴を分配するためなどの寸法のドロッパーを含む。小さな液滴体積により、眼への正確な投薬を達成することができ、投与後に、眼から組成物の実質的な画分の、過剰量の排出を回避することができる。
【0042】
本発明の本態様の項目c)に従った、医薬組成物の使用指示は、任意の好適な形態、例えば、閉じられたラベル、又は印刷された若しくは他の可読性形態の指示リーフレットとして、提供することができる。あるいは、使用指示は、電子又はコンピュータ読み取り可能な形態、例えばバーコード又はQRコードで提供することができる。
【0043】
以下の実施例は本発明を説明する役割を果たすが、これらは本発明の範囲を制限するものとして理解されてはならない。
【実施例
【0044】
前向きの、非対照非盲検の多施設観察的研究を、合計で72名(女性53名、男性19名)の患者(1箇所当たり1~20名の患者)で実施した。研究中の追跡で、2名の患者を失った。含まれる患者は、以下の基準を満たす必要があった:
・男性又は女性で、18歳以上の年齢である;
・以下により測定される症状を有する患者である
-涙液層破壊時間(TFBUT)が10秒以下である
-眼表面疾患指数が16以上55以下である
-Schirmer I試験が2mm以上である(5分以内に記録)
-周辺部角膜及び結膜染色の合計がグレード10以上である(オックスフォード)
-マイボーム腺の分泌及び発現可能性が変化した
【0045】
これらのうち、以下の基準を満たす患者は研究には含めなかった:
・NovaTears(登録商標)の構成成分のいずれかに対する、既知の過敏症;
・コンタクトレンズの装用、妊娠、又は授乳中;
・任意の他の、既知の根底にある全身性疾患により引き起こされるドライアイ疾患(DED)の存在;
・研究の過程における、計画された眼外科処理;
・シクロスポリン製剤を除く、脂質含有又は涙液膜安定化点眼剤/スプレーの使用。
【0046】
上述のとおりに選択した患者に、「NovaTears(登録商標)」(Novaliq GmbH,Heidelberg,Germany)の商標名にて製造された、1-ペルフルオロヘキシルオクタン(F6H8)点眼剤を、7週間投与した。前記製剤は1-ペルフルオロヘキシルオクタン(F6H8)から本質的になり、水非含有であり、追加の防腐剤又は成分を非含有である。片眼当たり、そして1日当たり3~4滴(30~40μLに相当、液滴1つ当たり10μL)の用量を、眼に局所投与し、1滴を単回用量として投与した。NovaTears(登録商標)1滴を、眼の表面に、そして下眼瞼を穏やかに引き下げることにより形成した袋の中に直接投与した。処置した眼の評価を、NovaTears(登録商標)の投与開始前に一度実施し(ベースライン)、処理の7週間後に一度実施した(追跡)。
眼瞼炎の評価
【0047】
前部眼瞼炎は、眼瞼縁の前部が灰色の線になる炎症を伴い、通常、睫毛及び毛嚢の回りに集中する。後部眼瞼炎は、後部眼瞼縁の炎症を伴う。前部及び後部眼瞼炎の重症度は、以下の評点:「なし」、「+」、「++」、「+++」(「+++」は、最も深刻な前部及び後部眼瞼炎を示す)の1つを選択することによりそれぞれの眼に対して個別に評価した。
前部眼瞼炎の評価
【0048】
表Iは、61名の患者の122個の眼の評価についてまとめており、右眼と左眼の結果を組み合わせている。本明細書において、前部眼瞼炎の評価は、患者は、1-ペルフルオロヘキシルオクタン(F6H8)の処置によりはっきりとした恩恵を得たことを示した。眼瞼炎の重症度は、眼瞼炎の重症度スコアが「++」及び「+」と示された患者を含めて、全ての患者で低下したことが観察された。
【0049】
【表1】
表I:前部眼瞼炎の評価
後部眼瞼炎の評価
【0050】
表IIは、61名の患者の122個の眼の評価についてまとめており、右眼と左眼の結果を組み合わせている。本明細書において、後部眼瞼炎の評価は、1-ペルフルオロヘキシルオクタンで処置した後、眼瞼炎の重症度は、眼瞼炎の重症度スコアが「++」及び「+」と評価された患者を含めて、全ての患者で低下したことが観察されたことを示した。しかし、1-ペルフルオロ-ヘキシルオクタン(F6H8)で処置した後の、後部眼瞼炎の重症度の最も著しい低下は、「+++」と評価された最も深刻な後部眼瞼炎を患う患者で発見された。
【0051】
【表2】
表II:後部眼瞼炎の評価
【0052】
両眼を組み合わせたベースラインと追跡との間の、前部及び後部眼瞼炎の重症度の観察された変化を、表IIII及び表IVに示す(合計のサンプル規模=122個の眼(61名の患者))。ウィルコクソンの順位和検定(nはそれぞれ61)は、前部眼瞼炎(右眼:p=0.0040;左眼:p=0.020)、及び後部眼瞼炎(右眼及び左眼:p<0.0001)の両方に対する重症度スコアに対する、著しい変化を示した。
【表3】
表III:前部眼瞼炎(重症度評価の合計スコア)、両眼のベースラインからの変化の評価-移動テーブル
【0053】
【表4】
表IV:後部眼瞼炎(重症度評価の合計スコア)、両眼のベースラインからの変化の評価-移動テーブル
眼瞼縁の評価
【0054】
更なるパラメータとして、異常眼瞼縁の形質、例えば末梢血管拡張症、詰まり、及び眼瞼の腫脹を研究で評価した。評価は各眼で個別に実施した。表Vでまとめたように、眼瞼縁評価により、末梢血管拡張症、詰まり、及び眼瞼の腫脹などの、全ての異常な眼瞼縁の形質は、1-ペルフルオロヘキシルオクタン(F6H8)での処置後著しく低下したことが明らかとなった。
【0055】
【表5】
表V:眼瞼縁の評価