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特許7012088粒子操作用マイクロ流体装置の電極を駆動するための電子駆動回路と対応の分析機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】粒子操作用マイクロ流体装置の電極を駆動するための電子駆動回路と対応の分析機器
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/00 20060101AFI20220120BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20220120BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20220120BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
G01N35/00 E
G01N37/00 101
G01N35/08 A
B01J19/00 N
B01J19/00 321
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019541904
(86)(22)【出願日】2017-10-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 IB2017056482
(87)【国際公開番号】W WO2018073768
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-09-23
(31)【優先権主張番号】102016000104760
(32)【優先日】2016-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】507008482
【氏名又は名称】メナリーニ・シリコン・バイオシステムズ・ソシエタ・ペル・アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユーセリ,マウロ
(72)【発明者】
【氏名】トンマージ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】メドーロ,ジャンニ
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/046484(WO,A1)
【文献】特表2002-543972(JP,A)
【文献】特表2005-513902(JP,A)
【文献】特開2013-041831(JP,A)
【文献】特表2003-510833(JP,A)
【文献】国際公開第2013/019814(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00- 37/00
B01J 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幾つかの電極(4,6)を有するマイクロ流体装置(1)のための電子駆動回路(20)であって、各電極または電極(4,6)のグループのためのそれぞれの駆動信号(V,V,V)を発生させるように構成される幾つかの同期化駆動段を包含して、前記駆動信号(V,V,V)が所望の振幅と周波数と位相シフトとを有し、
各駆動段が、クロック信号(CK)と目標信号(V)とを受信して、それぞれの駆動信号を規定する出力信号(Vout)を出力(Out)で発生させるように構成されるスイッチングモード増幅器段(22)を含み、前記スイッチングモード増幅器段(22)が、
第1内部ノード(N)に結合されて、前記第1内部ノード(N)に制御信号(V)を選択的に送るため前記クロック信号(CK)により制御されるスイッチングモジュール(23)と、
第1内部ノード(N)と出力(Out)との間に結合され、前記出力信号(Vout)を提供するように構成されるフィルタモジュール(25,26)と、
前記駆動段のフィードバック入力(INfb)に結合され、それぞれの駆動信号の値を表すフィードバック信号(Vfb)を受信するように設計され、前記フィードバック信号(Vfb)と前記目標信号(V)との比較に応じて前記スイッチングモジュール(23)のための前記制御信号(V)を発生させるように構成されるフィードバックモジュール(29)と、
を包含する、
電子駆動回路。
【請求項2】
前記スイッチングモード増幅器段(22)の前記クロック信号(CK)が、それぞれの駆動信号(V,V,V)の周波数および位相シフトを規定するように設計され、前記目標信号(V)が、それぞれの駆動信号(V,V,V)の振幅を規定するように設計される、請求項1に記載の回路。
【請求項3】
前記フィードバックモジュール(29)が、前記制御信号(V)を前記スイッチングモジュール(23)へフィードバックし、前記クロック信号(CK)を振幅変調し、こうして前記出力信号(Vout)の振幅を規定するように構成される、請求項1または2に記載の回路。
【請求項4】
前記フィルタモジュール(25,26)が、前記出力信号(Vout)の動作周波数を選択するように構成されるバンドパスフィルタ(25)と、何らかのDC成分を阻止するように構成される前記バンドパスフィルタ(25)の出力での阻止コンデンサ(26)とを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の回路。
【請求項5】
前記スイッチングモード増幅器段(22)すべてに結合され、前記スイッチングモード増幅器段(22)の前記出力(Out)に投入される独自のオフセット電圧(Voff)を発生させてそれぞれの駆動信号(V,V,V)の被制御DCオフセット値を規定するように構成されるオフセット発電機(30)をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の回路。
【請求項6】
前記スイッチングモード増幅器段(22)の各々のためのオフセットインダクタ(32)をさらに含み、前記スイッチングモード増幅器段(22)の前記オフセットインダクタ(32)が、前記オフセット発電機(30)の前記出力に結合される共通の第1端子と、それぞれのスイッチングモード増幅器段(22)の出力(Out)に結合される第2端子とを有する、請求項5に記載の回路。
【請求項7】
前記フィードバックモジュール(29)が、前記スイッチングモード増幅器段(22)の前記フィードバック入力(IN fb )に結合されるとともに、前記フィードバック信号(V fb )に応じて比較信号(VFB´)を提供するように構成されるフィルタ・整流器モジュール(36‐38)と、前記比較信号(VFB´)と前記目標信号(V)とを受信して前記比較信号(VFB´)と前記目標信号(V)との差分に基づいてエラー信号(V)を発生させるように構成される減算ユニット(39)と、前記減算ユニット(39)の出力に結合され、前記エラー信号(V)に基づいて前記制御信号(V)を発生させるように構成される電圧コンバータ(40)とを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の回路。
【請求項8】
前記フィルタ・整流器モジュール(36‐38)が、前記スイッチングモード増幅器段(22)の前記フィードバック入力(IN fb )に結合されるハイパスフィルタ(36)と、前記ハイパスフィルタ(36)の前記出力に結合される整流器(37)と、前記整流器(37)の前記出力に結合されるローパスフィルタ(38)とを含む、請求項7に記載の回路。
【請求項9】
前記スイッチングモード増幅器段(22)の前記スイッチングモジュール(23)が、
基準端子(GND)と前記第1内部ノード(N)との間に結合されて、前記クロック信号(CK)を受信するように設計される制御端子を有するスイッチング要素(24)と、
前記第1内部ノード(N)と第2内部ノード(N)との間に結合されて前記制御信号(V)を受信するように設計されるインピーダンス要素(28)と、
を包含し、
前記フィードバックモジュール(29)が、前記駆動段の前記フィードバック入力(IN fb )と前記第2内部ノード(N)との間に接続されて前記第2内部ノード(N)に前記制御信号(V)を発生させるように構成される、請求項1から8のいずれか一項に記載の回路。
【請求項10】
前記インピーダンス要素(28)がインダクタ要素を含む、請求項9に記載の回路。
【請求項11】
前記マイクロ流体装置(1)が前記電子駆動回路(20)のための非線形可変インピーダンス負荷を規定する、請求項1から10のいずれか一項に記載の回路。
【請求項12】
前記駆動信号(V,V,V)の前記周波数と移相シフトと振幅とに応じて前記マイクロ流体装置(1)の前記電極(4,6)に誘電電界を発生させるように前記駆動信号(V,V,V)が設計される、請求項1から11のいずれか一項に記載の回路。
【請求項13】
前記誘電電界が誘電泳動電界である、請求項12に記載の回路。
【請求項14】
前記誘電泳動電界が、前記マイクロ流体装置(1)に収容される流体に浸漬される一つ以上の粒子(8)を捕捉するように設計される、閉じた誘電泳動電位ケージ(11)を画定する、請求項13に記載の回路。
【請求項15】
前記スイッチングモード増幅器段(22)の前記出力(Out)が、それぞれの電極または電極(4,6)のグループと電気接触する前記マイクロ流体装置(1)のそれぞれの接点パッド(9a,9b,9c)に結合されるように設計される、請求項1から14のいずれか一項に記載の回路。
【請求項16】
前記フィードバック信号(V fb )が前記マイクロ流体装置(1)の中でピックアップされるように設計される、請求項1から15のいずれか一項に記載の回路。
【請求項17】
前記マイクロ流体装置(1)と協働して、前記マイクロ流体装置(1)に収容される流体に浸漬される一つ以上の粒子(8)に分析および/または分離動作を実施するように構成される自動分析機器(50)であって、請求項1から16のいずれか一項に記載の前記電子駆動回路(20)を含む自動分析機器(50)。
【請求項18】
前記駆動回路(20)を制御するとともに前記クロック信号(CK)と目標信号(V)とを前記スイッチングモード増幅器段(22)に提供するように構成される制御ユニット(52)を含む、請求項16に記載の機器。
【請求項19】
流体に浸漬された粒子(8)を操作するように構成されるマイクロ流体装置(1)であって、基板(5)に支承される電極(4)のアレイ(2)と、前記アレイ(2)の上方に懸架状態で配設されるプレート電極(6)と、前記アレイ(2)と前記プレート電極(6)との間に画定されて前記流体を収容する分析室(7)とを含むマイクロ流体装置(1)であり、請求項1から16のいずれか一項に記載の前記電子駆動回路(20)と協働するように構成されるマイクロ流体装置(1)であり、前記駆動信号(V,V,V)の周波数と移相シフトと振幅とに応じて電極または電極(4,6)のグループを駆動して前記電極(4)に誘電電界を発生させるように前記駆動信号(V,V,V)が設計される、マイクロ流体装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子操作用のマイクロ流体装置の電極を駆動するための電子駆動回路に、そしてマイクロ流体装置と協働する対応の分析機器に関する。一般性の損失を意味するわけではないが、特に、マイクロ流体装置は、流体に浸漬された細胞の選択および分類のための電気泳動による装置である。
【背景技術】
【0002】
周知のように、マイクロ加工技術は、室、通路、分離バリヤなどのマイクロ機械的構造と、ヒータ、導電経路、電極、または処理回路などの電気的構造とを同じチップに含むマイクロ流体装置の製造を可能にする。マイクロ機械的および電気的構造は、例えば半導体材料を含む一つ以上の基板に形成されて、外部からアクセス可能な電気接点とともに一つ以上の流体入口および/または出口を画定するパッケージに格納される。
【0003】
マイクロ流体装置は、細胞の検出および分類、DNA分析、またはRNA複製の動作など複雑な処理動作を、粒子、例えば分子、細胞、または細胞のグループに実施することを可能にする。これらの処理動作は、マイクロ流体装置に結合される適当な分析機器により自動的に実施されると有利である。
【0004】
たいてい、マイクロ流体装置は、分析される粒子を含有する流体が充填されるいわゆる使い捨て「カートリッジ」を画定する。
【0005】
特に、「DEPArrayTM」は本出願人による周知のマイクロ流体装置であって、分析される細胞の選択および分類を可能にする。
【0006】
例えば本出願人の名による特許文献1に開示されているように、このマイクロ流体装置は、誘電泳動(DEP)、つまり、中性粒子が、不均一な非時変(DC)または時変(AC)電界に露出される時には、電界強度が上昇(pDEP)または低下(nDEP)する箇所に向けられる正味の力を受けるという物理現象に基づく。
【0007】
電気泳動力の強度が重力に匹敵する場合には、平衡状態が確立されて小粒子を浮遊させ、それゆえ同じ粒子が含有されている溶液から小粒子が分離される(そしてさらなる処理動作に利用可能となる)。
【0008】
より詳しく記すと、図1に示されているように、1と記されたマイクロ流体装置は、(不図示の絶縁層の上に配設される)基板5に支承される電極4の幾つかの横列および縦列により形成されるアレイ2を含む。電極4は、例えば同じ基板5に形成される(不図示の)アドレス指定電子回路要素によって、選択的にアドレス指定可能である。
【0009】
マイクロ流体装置1はさらに、アレイ2の上方に配設されて電極4により分離される上方電極プレート6を含み、その間に分析室7が画定される。
【0010】
分析される粒子8(図示の明瞭性のため図1では一つのみが示されている)を含有する緩衝液は、例えば同じマイクロ流体装置1のパッケージ(不図示)に画定される少なくとも一つの入口を通って室7の中へ導入されうる。
【0011】
概略的に示されているように、マイクロ流体装置1のパッケージは、上方電極プレート6を電気接触させるため外部からアクセス可能な第1接点パッド9aと、アレイ2の電極4による第1グループを電気接触させるための第2接点パッド9bと、アレイ2の電極4による第2グループを電気接触させるための第3接点パッド9cも画定する。
【0012】
駆動電気信号、例えば適当な振幅と周波数と位相シフトとを有する正弦波周期的信号は、それぞれ第1、第2、第3接点パッド9a,9b,9cを介して上方電極プレート6と電極4の第1および第2グループとに提供される。
【0013】
図1に概略的に示されているように、V,V,Vと記されたこれらの駆動信号は、増幅器回路段を含む電子駆動回路10により発生される。電子駆動回路10は、例えばマイクロ流体装置1と協働する分析機器の一部でありうる。
【0014】
特に、同相および逆相の周期的駆動信号を電極4に印加することにより、誘電電界、特に誘電泳動電界、より詳しくは一つ以上の独立した電位ケージ11が室7に確立され、その強度は、駆動信号V,V,Vの周波数とともに振幅に作用することにより変更されうる(ここでは「電位ケージ」により、等電位表面に包囲されて局所的最小値の誘電泳動電位を含む空間の一部分が意味される)。
【0015】
これらの電位ケージ11は一つ以上の粒子8を捕捉し、駆動信号V,V,Vが印加される電極4の部分集合を単純に変化させることにより、および/または、同じ駆動信号の値を修正することにより、これらを安定的に浮遊させるか室7の中で移動させる。
【0016】
例えば、第1電極4が上方電極プレート6と同相であって逆相の駆動信号を受信する電極に囲繞されている場合には、同じ第1電極4の上方に電位ケージ11が確立される。それから、隣接する電極4の一つに(所望する動きと同じ方向に)同相信号を単純に印加し、そして第1電極に印加される駆動信号の位相を逆転させることにより、電位ケージ11が消失し、それから隣接の電極の上方に再び現れ、前の電極から細胞1個分のピッチで変位する。
【0017】
この動作を反復することにより、捕捉された粒子(または複数の粒子)8はアレイ2の平面で隣接の位置へ移動する。例えば、分析される粒子8がピックアップ箇所(不図示)の方へ移動し、ここで粒子がマイクロ流体装置1から抽出されるか、ここで同じ粒子8が所望の処理動作を受ける。
【0018】
本出願人は、マイクロ流体装置1により構成される負荷の特定の性質のため、駆動信号V,V,Vの発生には幾つかの問題が見られ、これがマイクロ流体装置1の正確な動作および性能を妨げることすらあるのを理解している。
【0019】
図2に示されているように、電気の視点で見ると、導電性緩衝液が充填されたマイクロ流体装置1の能動チップは、いわゆる「デルタ」構成でのアンバランスな三相非線形低インピーダンス負荷と考えられうる。特に、第1および第2接点パッド9a,9bの間には第1インピーダンスZ12が規定される。第1および第3接点パッド9a,9cの間には第2インピーダンスZ31が規定される。第2および第3接点パッド9a,9bの間には第3インピーダンスZ23が規定される。
【0020】
負荷の非線形性と低インピーダンスの特性とは無視できない高調波歪みを引き起こし、そして、これは、
駆動信号V,V,Vの間で起こりうる経時的なDCオフセット変動と、
電気エネルギーの一部が電位ケージ11の発生のための能動チップ負荷に移送されない代わりに電子駆動回路10内での熱発生の形で(つまりジュール効果により)浪費されるので、効率性の悪化と、
ケージパターンと緩衝液特性と能動チップ変動性とに基づく性能の非再現性と、
をもたらす。
【0021】
特に、本出願人は、
互いに近接している二つ以上の電極4の間のDC電圧がチップの能動エリアの内側での緩衝液中で気体(つまり気泡)の発生を引き起こしうるので、電解現象と、
酸化‐酸化還元現象のため、DC電圧成分は一つ以上の電極4の腐食を起こしてその動作を妨げるので、電食と、
を回避するため、アナログ駆動信号V,V,VのDC(直流)成分を制御することが望ましいと理解している。
【0022】
気泡の形成と電極4の損傷とがマイクロ流体装置1の中での粒子の分類および経路決定能力に影響を与えるのは明白であり、ゆえに性能全体を損なう。
【0023】
本出願人はまた、電子駆動回路10での従来の線形増幅器回路(例えばABクラス増幅器)の使用により少なくとも所与の動作条件では所望の性能を達成できないことを理解している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【文献】米国特許第6,942,776号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
ゆえに本発明の目的の一つは、マイクロ流体装置のための電子駆動回路を提供して、例えば高調波歪みおよびDCオフセット制御についての周知の解決法の制約を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
この解決法は、添付の請求項に規定されたマイクロ流体装置のための電子駆動回路と対応の分析機械とに関する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】粒子操作用のマイクロ流体装置の一部分とともに関連の電子駆動回路の概略図を示す。
図2】マイクロ流体装置により規定される電気負荷の電気図である。
図3】本解決法の一実施形態による、マイクロ流体装置のための電子駆動回路の概略ブロック図である。
図4図3の電子駆動回路の増幅器段の概略ブロック図である。
図5】本解決法の可能な実行例による、マイクロ流体装置のための電子駆動回路の概略ブロック図である。
図6図5の電子駆動回路の増幅器段の概略ブロック図である。
図7A】周知の電子駆動回路(図7A)に関する電気量のグラフを示す。
図7B】本解決法による電子駆動回路(図7B)に関する電気量のグラフを示す。
図8】マイクロ流体装置に動作結合される分析機械の概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図3は、マイクロ流体装置、この例では図1を参照して述べたマイクロ流体装置1に結合される、20と記された電子駆動回路を示し、ここでは(図2を参照して述べた)電気負荷等価表示で示されている。
【0029】
したがって、同図でのマイクロ流体装置1は、第1および第2パッド9a,9bの間の第1インピーダンスZ12と、第1及び第3パッド9a,9cの間の第2インピーダンスZ31と、第2および第3パッド9a,9bの間の第3インピーダンスZ23とを含む「デルタ」構成で、アンバランスな三相非線形低インピーダンス負荷を表している。
【0030】
例えば、負荷についての単純な電気モデルにおいて、第1インピーダンスZ12は、0.5と40Ωの間から成る値を持つ抵抗成分R12と、24pFと2.4nFの間から成る値を持つ容量成分C12とを有する。第2インピーダンスZ31は、0.1と130Ωの間から成る値を持つ抵抗成分R31と、70pFと7nFから成る値を持つ容量成分C31とを有する。そして第3インピーダンスZ23は、0.01と1Ωの間から成る値を持つ抵抗成分R23と、0.5と50nFの間から成る値を持つ容量成分C23とを有する。
【0031】
前に述べたように、マイクロ流体装置1のそれぞれの電極または電極4,6のグループは、パッド9a,9b,9cの各々に結合される。
【0032】
マイクロ流体装置1の能動チップのインピーダンスは、実数および虚数部を有し、非線形であり、時間内に変化する。
【0033】
電子駆動回路20は、それぞれの電極または電極のグループを駆動するための、やはりV,V,Vと記されたそれぞれの駆動信号をパッド9a,9b,9cの各々に提供するように構成される。
【0034】
特に、電子駆動回路20は、各電極または電極グループがそれぞれの駆動信号V,V,Vで駆動されるためのものと、同様に、マイクロ流体装置1の各パッド9a,9b,9cのためのものの、幾つかの同期化スイッチングモード増幅器段22を含む。
【0035】
各増幅器段22は、
マイクロ流体装置1のそれぞれのパッド9a,9b,9c(およびそれぞれの電極または電極グループ)に結合されて出力電圧Voutが存在する(マイクロ流体装置1のためのそれぞれの駆動信号を規定する)出力Outと、
クロック信号CK、例えば所与の周波数fを持つパルス列(または方形波)信号を受信するように設計される第1入力INと、
目標信号V、特に(以下で明らかになるように)出力電圧Voutの目標(または所望の)振幅を画定する電圧信号を受信するように設計される第2入力INと、
負荷に印加される駆動信号(つまり出力電圧Vout)を表すフィードバック信号Vfb、例えば電圧信号を受信するように設計されるフィードバック入力INfbと、
を有する。
【0036】
特に、フィードバック信号Vfbは、可能な限り負荷の近くでピックアップされる。可能な実施形態では、図3に示されているように、フィードバック信号Vfbのピックアップ点は、マイクロ流体装置1の能動チップ内に、この例ではそれぞれのパッド9a,9b,9cに所在する。
【0037】
特に、増幅器段22により受信されるクロック信号CKは、同じ増幅器段22の動作を同期化するように設計される。
【0038】
詳しく記すと、各増幅器段22は、
第1入力INに結合されてクロック信号CKを受信するスイッチング入力と、第1内部ノードNに結合される出力と、第2内部ノードNに結合されて制御信号Vを受信する信号入力とともに、基準端子またはアース(GND)に結合される基準入力とを有するスイッチングモジュール23と、
第1入力INに結合される入力端子と、阻止コンデンサ26を介して増幅器段22の出力Outに結合される出力端子とを有する再構築フィルタモジュール25、特にバンドパスフィルタと、
増幅器段22のフィードバック入力INfbに結合されることによりフィードバック電圧Vfbを受信するように設計される入力と、同じ増幅器段22の第2入力INに結合される基準入力と、第2内部ノードNに(そしてスイッチングモジュール23に)結合されるフィードバック出力とを有するフィードバックモジュール29と、
を包含する。
【0039】
フィードバックモジュール29のフィードバック入力は、一般的には増幅器段22の内側ではなく、可能な限り負荷の近くに配置される。可能な解決法によれば、フィードバック入力はマイクロ流体装置1の能動チップの中にある。
【0040】
電子駆動回路20は、電源電圧VDDを受け取るように設計される電源入力20aを有し、さらにすべての増幅器段22に共通して、被制御DCオフセット電圧Voffをオフセット出力で発生させるように構成されるDCオフセット発電機30を包含する(DCオフセット発電機30は、ここでは詳細に述べない周知のタイプ、例えばバンドギャップタイプの電圧発生器を含みうる)。
【0041】
可能な実施形態によれば、DCオフセット電圧Voffは、マイクロ流体装置1の電源電圧VDDの50%に等しく、例えば供給電圧VDDが5Vのケースでは2.5Vである。
【0042】
各増幅器段22は、同じ増幅器段22の出力Outと、オフセット出力との間に結合されるそれぞれのオフセットインダクタ32を介して、直流オフセット発電機30のオフセット出力に結合される。
【0043】
それゆえ、同じ図3に示されているように、様々な増幅器段22のオフセットインダクタ32は、(DCオフセット発電機30の出力に結合される)共通の第1端子と、それぞれの増幅器段22の出力Outに結合されてDCオフセット電圧Voffを投入する第2端子とを有するいわゆる「Wye」構成で接続される。
【0044】
電子駆動回路20は、所望の周波数と振幅と相互位相シフトとを有する出力信号Voutを増幅器段22の出力Outで発生させるように作動する(上記のように、これらの出力信号Voutはマイクロ流体装置1に駆動信号として供給される)。可能な実施形態によれば、出力信号Voutはアナログ正弦波信号である。
【0045】
特に、各出力信号Voutの周波数と位相シフトの特性は、スイッチング要素24のスイッチングタイミングを判断するそれぞれの増幅器段22の第1入力INで受信されるクロック信号CKにより判断される。
【0046】
再構築フィルタモジュール25は、出力信号Voutの所望の動作周波数を中心とする非常に狭い帯域幅を有することで、第1内部ノードNの信号からこの基本的動作周波数のみを選択し、これを出力Outに伝達する。
【0047】
代わりに出力信号Voutの所望の振幅は、フィードバックモジュール29により画定されるフィードバック閉ループを介して、それぞれの増幅器段22の第2入力INで受信される目標信号Vにより制御される。
【0048】
特に、フィードバックモジュール29は、フィードバック信号Vfbと目標信号Vとの間の比較に基づいて制御信号Vを発生させるように構成される。
【0049】
スイッチングモジュール23に提供される制御信号Vは、スイッチングモジュール23が第1および第2内部ノードN,Nとの間の結合を内的に規定する時に第1内部ノードNに選択的に提供される電圧の振幅を規定する。ゆえに制御信号Vは、出力信号Voutの振幅を規定し、増幅器段22の第1入力INで受信されるクロック信号CKを振幅変調する。
【0050】
出力Outの前の阻止コンデンサ26は、再構築フィルタモジュール25の出力での疑似DC成分を阻止するため、オフセットインダクタ32を介してDCオフセット発電機30により提供されるDCオフセット電圧Voffは、出力信号VoutのDC成分のみを構成するようになる。
【0051】
特に、独自の被制御DCオフセット値は、それゆえ、様々な増幅器段22の出力信号Voutすべてに存在する。
【0052】
オフセットインダクタ32はまた、AC出力信号VoutをDCオフセット発電機30から切り離すことに注意していただきたい。
【0053】
図4を参照して、各増幅器段22のフィードバックモジュール29の可能な回路実施形態についてこれから述べる。同じ図4で、クロック信号CKを受信して同じクロック信号CKに基づいてスイッチングモジュール23のスイッチング入力にスイッチング信号を提供するバッファ増幅器34も示されている(信号は0Vと電源電圧VDDとの間でスイッチングする)。
【0054】
この実施形態で、フィードバックモジュール29は、
増幅器段22のフィードバック入力INfbに結合され、フィードバック信号Vfbのハイパスフィルタリングを実施することでその低周波数(特にDC)成分を遮断するように構成されるハイパスフィルタ36と、
ハイパスフィルタモジュール36の出力に結合され、フィルタリング後のフィードバック信号Vfbから振幅値を抽出するように構成される整流器37と、
整流器モジュール37の出力に結合され、それゆえ出力信号Voutの振幅値を表す比較信号VFB´を発生させるためローパスフィルタリング動作を実施するように構成されるローパスフィルタ38と、
整流器37からの比較信号VFB´と、増幅器段22の第2入力INに提供される目標信号Vとを受信して、比較信号VFB´と目標信号Vとの間の差分に基づいて差分(またはエラー)信号Vを発生させるように構成される減算ユニット39と、
入力クロック信号CKを変調させて出力信号Voutの振幅を設定するため、エラー信号Vを受信して、スイッチングモジュール23にフィードバックされる制御信号Vを表す調整後のDC出力電圧を発生させる電圧コンバータ40、特に降圧コンバータと、
を含む。
【0055】
(それぞれ上の図3および4に対応する)図5および6に示されているように、可能な実行例において、スイッチングモジュール23は、
基準端子またはアース(GND)と第1内部ノードNとの間に結合され、第1入力INに結合されてクロック信号CKを受信する制御端子(MOSFETトランジスタのゲート端子)を有するスイッチング要素24、特にトランジスタ、例えばMOSFETトランジスタ(BJTまたは他の適当なトランジスタ)と、
(スイッチング要素24に接続されている)第1内部ノードNと第2内部ノードNとの間に結合されることで制御信号Vを受信する、特にインダクタ要素を含むインピーダンス要素28と、
を包含する。
【0056】
明白になるように、この実行例で、インピーダンス要素28は第1および第2内部ノードN,Nの間の結合を画定し、スイッチング要素24が開いた時に同じ第2内部ノードNに制御信号Vを選択的に送る(同じスイッチング要素24が閉じた時には代わりに第2内部ノードNがアースされる)。
【0057】
電子駆動回路20の性能は、広範囲のシミュレーションおよびテストによって本出願人により評価されている。
【0058】
図7Aおよび7Bに示されているグラフの比較により、従来の解決法(図7Aのグラフ)のものに対する本解決法(図7Bのグラフ)による電子駆動回路20の性能改良をすぐに理解できる。
【0059】
特に、図7Aは、ABクラスの増幅器を含む従来タイプの電子駆動回路を説明している。発生した正弦波は強い高調波歪みを示し、150Wより高い最大出力が電源から必要である。
【0060】
図7Bに示されているように、本解決法による電子駆動回路20により発生される正弦波は、無視できない高調波歪みと所望の位相シフトとを示す(駆動信号VおよびVは同相信号であるのに対して、駆動信号Vは逆相信号である)。また、同じ動作条件では70Wより低い最大出力が電源から必要である。
【0061】
図8に概略的に示されているように、例えば、マイクロ流体装置1を介して選択および分類される細胞に分析動作を実施する電子分析機器50に、電子駆動回路20が含まれうる。
【0062】
分析機器50は、分析される粒子8(例えば細胞)が浸漬される緩衝液が充填されたマイクロ流体装置1を受容するように設計される容器51を備える。
【0063】
分析機器50の制御ユニット52は、同じマイクロ流体装置1の電極4,6に駆動信号V,V,Vを提供するため、電子駆動回路20を制御する。特に、制御ユニット52は、実施される分析動作に従って、クロック信号CKと目標信号Vとを増幅器段22に提供する。
【0064】
分析機器50はさらに、制御ユニット52により制御されてマイクロ流体装置1の室7と中に収容される粒子8とを撮像する撮像装置54を含みうる。
【0065】
制御ユニット52は、撮像装置54により取得された画像を処理し、ディスプレイ(不図示)を介してマイクロ流体装置1での粒子8の視覚的表示をユーザに提供する適当なソフトウェアを備える。
【0066】
こうして対象の粒子8が特定され、マイクロ流体装置1の容器へ同じ粒子を移動させるため、適当な駆動信号V,V,Vが電極4,6に提供され、分析機器50のピックアップ装置56により同じ粒子8が容器から抽出されうる。
【0067】
上記の解決法の利点が前出の記載から明白となる。
【0068】
特に、上記の閉ループ制御を実行する増幅器段22により、低インピーダンス能動チップ負荷により導入される非線形性を最小化することで、全高調波歪み(THD)の劇的な減少が得られる。
【0069】
様々な増幅器段22の出力Outに同時に投入される独自の被制御DCオフセット電圧Voffは、駆動信号V,V,Vの間のDCオフセット差分を解消し、こうして起こりうる電解および電食現象と気泡形成と電極4,6の損傷とを回避し得る。
【0070】
また、入力されたクロックおよび目標信号ck,Vを変化させることにより出力信号Voutの電気特性が制御されると有利であり、こうして(例えば駆動信号V,V,Vのプログラマブルな振幅、周波数、位相シフトについて)構成が容易な駆動解決法が提供される。
【0071】
概して、本解決法は、従来の解決法に対して、低インピーダンス負荷による高い効率と、低い放熱による高い信頼性と、高い熱的安定性と、コスト、サイズ、重量の削減とを達成し得る。
【0072】
最後に、ここで説明および図示されたものに修正および変更が加えられてもよく、これにより従属請求項に規定された本発明の範囲を逸脱しないことは明白である。
【0073】
特に、(このケースでは異なる電気負荷構成を構成する)異なる数(例えば多数)の電極または電極グループを駆動することが必要とされるケースでは、電子駆動回路20は異なる数(例えば多数)の増幅器段22を含みうることが強調される。
【0074】
また、出力信号Voutは異なるパターンを有する、例えば正弦波に代わって方形波でありうる。
【0075】
同じ出力信号Voutの周波数は、例えば100kHzと100MHzの間から選択されて一定である(例えば2MHz)か、例えば同じ100kHz~100MHzの範囲において時間内で可変でありうる。
【0076】
代替例として、例えば電子駆動回路20をマイクロ流体装置1の同じチップに結合するインタフェース電子装置内において、マイクロ流体装置1のチップの外部にあるピックアップ点でフィードバック信号Vfbがピックアップされてもよい。
【0077】
また、上記の電子駆動回路20が異なる用途で使用されると有利であって、電極または電極グループを駆動信号で駆動して低い全高調波歪みと被制御DCオフセットとを提供する必要がある異なる用途で使用されると有利であることが強調される。
【符号の説明】
【0078】
1 マイクロ流体装置
2 アレイ
4 電極
5 基板
6 上方電極プレート
7 分析室
8 粒子
9a 第1接点パッド
9b 第2接点パッド
9c 第3接点パッド
10 駆動回路
11 電位ケージ
20 電気駆動回路
22 同期化駆動段、スイッチングモード増幅器段
23 スイッチングモジュール
24 スイッチング要素
25 再構築フィルタモジュール
26 阻止コンデンサ
28 インピーダンス要素
29 フィードバックモジュール
30 DCオフセット発電機
32 オフセットインダクタ
34 バッファ増幅器
36 ハイパスフィルタ
37 整流器
38 ローパスフィルタ
39 減算ユニット
40 電圧コンバータ
50 電子分析機器
51 容器
52 制御ユニット
54 撮像装置
56 ピックアップ装置
,V,V 駆動信号
12 第1インピーダンス
31 第2インピーダンス
23 第3インピーダンス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8