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特許7012107複合銅箔、プリント配線板、電子機器及び複合銅箔の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】複合銅箔、プリント配線板、電子機器及び複合銅箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/22 20060101AFI20220120BHJP
   C25D 1/04 20060101ALI20220120BHJP
   C25D 3/56 20060101ALI20220120BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20220120BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
C25D1/22
C25D1/04 311
C25D3/56 A
B32B15/01 H
H05K1/09 C
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020032096
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2020180366
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2020-04-10
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2019/055055
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】WO
(73)【特許権者】
【識別番号】520068685
【氏名又は名称】サーキット フォイル ルクセンブルグ
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】ザイニア カイディ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス デヴァイフ
(72)【発明者】
【氏名】エイドリアン カーステン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ストリール
【審査官】▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/046804(WO,A1)
【文献】特開平07-292491(JP,A)
【文献】特開平11-269587(JP,A)
【文献】特開2012-008065(JP,A)
【文献】特開2009-214308(JP,A)
【文献】特開2007-186797(JP,A)
【文献】特開2005-260058(JP,A)
【文献】国際公開第2006/013735(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107475698(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00- 9/12
C25D13/00-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア層、剥離層、金属層、極薄銅層を、この順で含むプリント配線板用複合銅箔であって、
上記剥離層は、ニッケル、モリブデン、タングステンの三元合金とこれらの酸化物を含み、且つ非晶質層から形成されており、
上記極薄銅層は、上記キャリア層から剥離可能であって、厚さが0.5~10μmであり、
上記金属層は、ニッケルとリンを含む、又はニッケルと硫黄を含む、又はニッケルとリン、硫黄をいずれも含んでおり、
上記剥離層は、GIXRD(微小角入射X線回折)で測定時の回折ピークがブロードパターンを示し、又はTEM(透過電子顕微鏡)で測定時の電子線回折パターンにおいてハロー(halo)パターンを示す、
プリント配線板用複合銅箔。
【請求項2】
上記金属層が非晶質層から形成されている、請求項に記載のプリント配線板用複合銅箔。
【請求項3】
上記剥離層の一方の表面は、ニッケル、モリブデン、タングステンの三元系合金の割合がこれらの三元系合金の酸化物の割合よりも高く、他方の表面は、これらの三元系合金の酸化物の割合が上記三元系合金の割合よりも高い、請求項1に記載のプリント配線板用複合銅箔。
【請求項4】
前記剥離層における上記三元系合金の酸化物の割合は、上記極薄銅層に接する表面から深さ方向に3nm~30nmの範囲で一定である、請求項に記載のプリント配線板用複合銅箔。
【請求項5】
上記剥離層と上記金属層とは、2.5:1~7:1の厚みの比で形成される、請求項に記載のプリント配線板用複合銅箔。
【請求項6】
前記剥離層における上記三元合金は、Niの含有量が1000~3000μg/dm、Moの含有量が300~1600μg/dm、Wの含有量が5μg/dm以上である、請求項1に記載のプリント配線板用複合銅箔。
【請求項7】
上記金属層のNi合金の含有量が100~1000μg/dmである、請求項に記載のプリント配線板用複合銅箔。
【請求項8】
更に、上記極薄銅層に積層された樹脂基材を含む、請求項1に記載のプリント配線板用複合銅箔。
【請求項9】
上記樹脂基材が、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、マレイミド系樹脂、トリアジン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリブタジエン系樹脂のうち1種以上を含む、請求項に記載のプリント配線板用複合銅箔。
【請求項10】
請求項1に記載のプリント配線板用複合銅箔を含むプリント配線板。
【請求項11】
請求項10に記載のプリント配線板を使用する電子機器。
【請求項12】
キャリア層を準備する段階と、
上記キャリア層上にニッケル、モリブデン、タングステンを含む電解液を用いて電気めっきを行うことにより剥離層を形成する段階と、
上記剥離層上に電気めっきにより極薄銅層を形成する段階と、
を含む、請求項1に記載のプリント配線板用複合銅箔の製造方法。
【請求項13】
上記剥離層の形成段階は、電解浴のpHが2.5~4.5の状態で行われる、請求項12に記載のプリント配線板用複合銅箔の製造方法。
【請求項14】
上記剥離層の形成段階の後、10秒~50秒の空中放置時間を有する、請求項12に記載のプリント配線板用複合銅箔の製造方法。
【請求項15】
更に、上記剥離層の形成段階の後で且つ上記極薄銅層の形成段階の前に、上記剥離層上に金属めっきを行う段階を含む、請求項12に記載のプリント配線板用複合銅箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合銅箔、プリント配線板、電子機器及び複合銅箔の製造方法に関し、具体的には、非晶質合金剥離層を含む複合銅箔、プリント配線板、電子機器及び複合銅箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、プリント配線基板用電子材料として厚み5μm以下の極薄銅箔が使用されている。この種の極薄銅箔は厚みが極めて薄いためハンドリングが難しい。このような問題点を改善するために、極薄銅箔をキャリア(支持体)に付着した複合銅箔が使用されている。
【0003】
このような複合銅箔の極薄銅箔に樹脂基材を加熱、加圧して積層した後、キャリアを剥離すると、極薄銅箔積層板を形成することができる。このとき、キャリア層と極薄銅層との間には剥離層が存在し、この剥離層を介して極薄銅層が剥離される。
【0004】
剥離層としては、一般的に、ベンゾトリアゾール系のような有機物からなる有機剥離層が使用されていた。しかし、有機物からなる剥離層は、有機物自体の耐熱性が低いため、プリプレグプレス、ファインキャスティングなどの後続処理過程で300℃近くの高温に達すると、剥離層の有機物質が分解してしまう。このように有機剥離層が分解すると、キャリア層と極薄銅箔が密着し、極薄銅箔をキャリア層から引き剥がし難くなり、すなわち、剥離特性が劣化し、著しい場合は、極薄銅箔が引き剥がせなくなることもあった。
【0005】
最近、剥離層が金属酸化物を含む場合がある。このような剥離層には、金属特有の結晶粒界が存在するようになり、該結晶粒界が特定方向へ成長してその表面にミクロな凹凸を形成するようになるため、極薄銅箔側にピンホールなどの欠陥を生じさせる問題があった。
【0006】
これに関して、日本国の特許第4612978号には、Cu-Ni-Mo合金からなる剥離層を有する複合銅箔が開示されている。しかし、極薄銅箔のピンホールなどの存在の面から依然として満足するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4612978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一例は、上記従来技術の問題点を解消し、剥離時でもピンホールなどの欠陥がほとんど発生しないキャリア層、剥離層、極薄銅層を含む複合銅箔を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の他の一例は、当該複合銅箔を含むプリント配線板、上記プリント配線板を使用する電子機器を提供することを目的とする。
【0010】
本発明のまた他の一例は、キャリア層を準備する段階と、上記キャリア層上にニッケルを含む電解液を用いて電気めっきを行うことにより非晶質剥離層を形成する段階と、上記剥離層上に電気めっきにより極薄銅層を形成する段階と、を含む複合銅箔の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一例は、キャリア層、剥離層、金属層、極薄銅層をこの順で含むプリント配線板用複合銅箔において、上記剥離層は、ニッケル、モリブデン、タングステンの三元合金とこれらの酸化物を含み、且つ非晶質層から形成されており、上記極薄銅層は、上記キャリア層から剥離可能であって、厚さが0.5~10μmであり、上記金属層は、ニッケルとリンを含む、又はニッケルと硫黄を含む、又はニッケルとリン、硫黄をいずれも含んでおり、上記剥離層は、GIXRD(微小角入射X線回折)で測定時の回折ピークがブロードパターンを示し、又はTEM(透過電子顕微鏡)で測定時の電子線回折パターンにおいてハロー(halo)パターンを示す、プリント配線板用複合銅箔を提供する。
【0012】
本発明の他の一例は、上記プリント配線板用複合銅箔を含むプリント配線板を提供し、本発明のまた他の一例は、上記プリント配線板を使用する電子機器を提供する。
【0013】
また、本発明の他の一例は、キャリア層を準備する段階と、上記キャリア層上にニッケルを含む電解液を用いて電気めっきすることにより非晶質剥離層を形成する段階と、上記剥離層上に電気めっきにより極薄銅層を形成する段階と、を含む上記プリント配線板用複合銅箔の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱処理後の剥離強度の上昇が少なく、且つキャリア層を極薄銅層から剥離し易くすることができ、作業性や品質の問題を生じさせない複合銅箔、プリント配線板、電子機器及び複合銅箔の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】は、本発明の一例に係る複合銅箔の断面を示す図である。
図2】は、本発明の他の一例に係る複合銅箔の断面を示す図である。
図3】は、実施例1による複合銅箔のGIXRDグラフを示す図である。
図4】は、実施例1による複合銅箔の断面のTEM明視野像(Bright field image)を示す図である。
図5】は、図4に示す複合銅箔の金属層の電子線回折パターンを示す図である。
図6】及び
図7】は、それぞれ、図4に示す複合銅箔の剥離層のうち金属層に近い部分の電子線回折パターン、キャリア層に近い部分の電子線回折パターンを示す図である。
図8】は、実施例1による複合銅箔の剥離層のXPSのプロファイルを示す図である。
図9】は、実施例1による剥離層のXPSのプロファイルの一部を示す図である。
図10】及び
図11】は、それぞれ、実施例1と比較例1の複合銅箔のキャリア層剥離時の極薄銅箔面の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、「複合銅箔」とは、キャリア層が極薄銅層に付着された銅箔、すなわち、キャリアが銅箔に付着された場合の、キャリア層、剥離層、銅箔層を含む銅箔をいう。
【0017】
本発明において、「非晶質」とは、微小角入射X線回折(GIXRD)で測定時に回折ピークがブロード(broad)となる場合、又は透過電子顕微鏡(TEM)としての電子線回折の測定時にピーク(peak)においてハロー(halo)パターンを示す場合をいう。
【0018】
図1は、本発明の一例に係る複合銅箔を示す図である。
上記複合銅箔は、キャリア層1、剥離層2、極薄銅層3をこの順で含み、上記剥離層2は、ニッケル、モリブデン、タングステンの三元合金を含み、且つ非晶質層から形成されている。図1の矢印にて示したように上記極薄銅層3は上記キャリア層1から剥離され得る。
以下、本発明の複合銅箔をなすそれぞれの層について説明する。
【0019】
キャリア層
本発明において、キャリア(Carrier)層1は、極薄銅層3を支持する支持層(Support)である。キャリア層1は、極薄銅層3を基材と接合するまでの間支持する補強材または支持体としての役割をする。
【0020】
上記キャリア層1としては、電解銅箔の光沢面(shiny side、S面)と、添加剤やエッチングにより平滑化処理を施した析出面(matte side、M面)のいずれも使用されてよい。
【0021】
上記キャリア層1の粗さ(roughness)は、極薄銅層3と樹脂基材との接着強度の大きさに応じて変わる。例えば、極薄銅層3と樹脂基材との接着強度が大きくなければならない場合は、キャリア層1の粗さが大きいものが好ましく、微細回路を形成する必要がある場合は、キャリア層1の粗さが小さいものが好ましい。本発明においてキャリア層1に使用されるS面のRzは、2.5μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましい。
【0022】
上記キャリア層1の厚みは特に限定されないが、コスト、工程、特性などを考慮するとき、12~35μmが好ましい。
【0023】
上記キャリア層1の材質は特に限定されないが、コスト、工程、特性などを考慮するとき、銅箔が好ましい。
【0024】
剥離層
剥離層2は、極薄銅層3とキャリア層1とを分離する際に剥離され易くするための層である。剥離層2を介してキャリア層1を極薄銅層3から容易且つきれいに引き剥がすことができる。剥離層2は、キャリア層1を極薄銅層3から剥離して除去する際にキャリア層1と共に極薄銅層3から引き剥がされる。
【0025】
上記剥離層2は、ニッケル、モリブデン、タングステンの三元合金を含む。
また、このような三元合金層は、Niの含有量が1000~3000μg/dm、Moの含有量が300~1600μg/dm、Wの含有量が5μg/dm以上が好ましい。
【0026】
上記剥離層2は、非晶質層から形成される。
非晶質合金(amorphous alloy)は非結晶性合金とも呼ばれ、液体のように不規則な原子構造を有する合金を意味する。本発明に係る剥離層2は、非晶質化されているので、特定方向への配向性を持つ結晶成長がほとんど行われず、且つ結晶粒界をほとんど含まない。また、本発明に係る剥離層2は非晶質化されており、分子単位まで観察しても結晶構造がほとんどないため、一般的な金属素材よりも剛性に優れ且つ表面が均一である。すなわち、上記剥離層2は平滑な表面を有する。
【0027】
非晶質剥離層2は、蒸着法、スパッタリング法、めっき法などの通常の方法により形成されてよいが、めっき法を用いることが好ましい。特に、湿式めっき法を用いることがより好ましい。
【0028】
上記剥離層2の一方の表面は、ニッケル、モリブデン、タングステンを含む合金の割合がこれらの合金の酸化物の割合よりも高く、他方の表面は、これらの合金の酸化物の割合が合金の割合よりも高いことが好ましい。上記ニッケル、モリブデン、タングステンを含む合金の比率が高い表面がキャリア層1と接する表面であり、これらの合金の酸化物の割合が高い表面が極薄銅層3に接する表面であることが好ましい。
【0029】
すなわち、上記剥離層2の両表面のうち、上記キャリア層1に接する一方の表面の合金の割合が、これらの合金の酸化物の割合よりも高く、上記極薄銅層3に接する一方の表面の合金の酸化物の割合が、合金の割合よりも高いことが好ましい。特に、上記合金の酸化物の割合は、極薄銅層3に接する表面から深さ方向に約3nm~30nmの範囲でほぼ一定であることが好ましい。ここで、割合がほぼ一定とは、割合が完全に一致することを含むだけでなく、割合が多少増加し又は減少しても有意な変化とみられない範囲内で変化することをも含む。本発明の一例では、例えば、平均値を基準にして約15%以内で「増加」し又は「減少」して有意な変化とみられない範囲で変化することを含む。
【0030】
一方、本発明に係る剥離層2は非晶質合金層からなるため、剥離層2の上部に形成される酸化皮膜にも結晶粒界によるミクロな凹凸がほとんど存在しない。このため、酸化皮膜の場合も平滑で緻密な表面を形成することができる。結果的に、ピンホール欠陥を極力低減することができ、高温での剥離特性に優れる極薄銅箔を形成することができる。
【0031】
また、上記剥離層2の剥離強度は5~30gf/cmが好ましく、10~15gf/cmがより好ましい。剥離層2のうち極薄銅層3に接する表面は酸化物の割合をコントロールすることで、剥離強度を調節できる。
【0032】
上記剥離層2の厚みは、電解液の組成や電解条件によって調節されていてもよく、5nm~50nmが好ましく、25~35nmがより好ましい。
上記剥離層2は、キャリアを陰極とし、ニッケル化合物、モリブデン化合物、タングステン化合物などを含有する電解液を用いて析出させることで形成されていてもよい。特に、この場合、モリブデン、タングステンによる誘導共析が起こり、非晶質層が形成されている。
【0033】
電解液中の金属イオンの析出電位をコントロールするために錯体を添加することもできる。
電気めっきの際、電解浴のpHを非晶質合金層を形成し得る範囲に調整することが好ましい。電解浴のpHは合金層に用いられる金属の種類に応じて異なっていてよい。例えば、金属がニッケル、モリブデン、タングステンの合金である場合は、電解浴のpHを2.5~4.5に調節することが好ましい。非晶質合金層を形成するうえで有利であるためである。電解浴のpHが2.5未満であると結晶質が析出され、pHが4.5を超えると、めっき析出が難しくなって、薄い皮膜しか得られない。
【0034】
剥離層2は、電気めっきを1回行って形成することもできるが、複数回繰り返し行って形成することもできる。電気めっきを複数回行うと、剥離強度がより安定したものになる傾向がある。
【0035】
極薄銅層
本発明において、極薄銅層3は、上記キャリア層1から剥離可能である。
上記極薄銅層3の厚みは特に限定されないが、0.5~10μmが好ましく、1~9μmがより好ましい。極薄銅層3の厚みは、極薄銅層の形成方法に応じて異なっていてもよいが、極薄銅層3の形成方法によらず、極薄銅層3の厚みは、2~5μmが最も好ましい。
【0036】
極薄銅層3を形成する方法は特に限定されないが、ピロリン酸銅または硫酸銅を主成分とする電解液を用いることが好ましい。ピロリン酸銅を主成分とする場合、緻密な銅めっき層を形成することができるためピンホールを低減することができ、硫酸銅を主成分とする場合、高速めっきが可能であり且つ極薄銅層3を効率よく形成することができる。ピロリン酸銅と硫酸銅とを共に用いる場合、所望の厚みでピンホールの少ない極薄銅層3を効率よく形成することができる。
【0037】
金属層
図2に示されたように、本発明の他の一例は、極薄銅層3と上記剥離層2との間に金属層4を更に含む複合銅箔を提供する。
【0038】
本発明において、金属層4が、上記極薄銅層3と上記剥離層2との間に更に含まれることができる。上記金属層4は、以降のレーザドリル工程のために必要な層であることから,「レーザドリリング層」ともいう。上記金属層4は、複合銅箔を絶縁基材に加熱プレスした後、安定して剥離するためにも使用される。上記金属層4は、 Ni合金層であることが好ましい。ここで、 Ni合金の含有量は、100~1000μg/dmが好ましく、300~700μg/dmがより好ましい。Ni合金層は、P、S、またはこれらをいずれも含むことが好ましい。上記金属層4は、熱プレスを施すときに極薄銅層3の銅が表面に露出し剥離層2まで拡散することを防止する役割も果たす。
【0039】
上記金属層の厚みは特に制限されないが、5~10nmが好ましい。
上記剥離層と上記金属層とは、2.5:1~7:1の厚みの比で形成されることが好ましく、3.5:1~5:1の厚みの比で形成されることがより好ましい。
【0040】
上記金属層4もまた、非晶質層から形成されていてもよい。すなわち、上記金属層4がNi-P層であるか、Ni-S層である場合、非晶質層を形成し得る。上記金属層4が非晶質から形成される場合、金属層4と接する剥離層2も非晶質層であることから、非晶質による平坦化効果が極大化され得る。つまり、向かい合う両層がいずれも平坦な非晶質層から形成されているため、図2の矢印部分を剥離するとき、非晶質剥離層2を非晶質金属層4からより容易に剥離することができる。
【0041】
粗化処理層
上記極薄銅層3の表面に粗化処理層を備えることができる。該粗化処理層としては、一般的に、銅、ヒ素、有機添加剤が用いられていてもよい。上記粗化処理層は、極薄銅層3と樹脂層との接着性を向上する目的から形成される。
【0042】
上記極薄銅層3または上記粗化処理層の上には、耐熱および防錆層、クロメート処理層、シランカップリング処理層からなる群から選ばれる1種以上の層を備えることができる。
【0043】
耐熱および防錆層としては、ニッケル、スズ、コバルト、クロム、亜鉛、その他の有機添加剤からなる群から選ばれる1種以上の金属または合金を用いることができる。
耐熱および防錆層の上には、クロメート処理を行っていてもよい。さらに、最後に、シランカップリング処理を行っていてもよい。シランカップリング処理は、接着強度を増すためのものである。
【0044】
樹脂層
上記極薄銅層3または上記粗化処理層上には、樹脂層を備えていてもよい。
本発明の一例は、上記極薄銅層3に積層された樹脂基材を更に含む複合銅箔を提供する。ここで、上記樹脂基材は、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、マレイミド系樹脂、トリアジン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリブタジエン系樹脂のうち1種以上を含む。ポリイミド系樹脂としては、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、これらの前駆体、例えば、ポリアミド酸などが挙げられる。
【0045】
本発明の他の一例は、上記複合銅箔を含むプリント配線板、上記プリント配線板を使用した電子機器を提供する。プリント配線板を製造するためには、1)樹脂層と本発明の複合銅箔の極薄銅層3を積層して銅被覆積層板を作製する方法、2)本発明の複合銅箔の極薄銅層3上に樹脂基材溶液を塗布し加熱することで銅被覆樹脂フィルムを形成する方法などが使用されることができる。このような方法で形成された銅被覆積層板または銅被覆樹脂フィルムから支持体のキャリア層1及び剥離層2を剥離した後、極薄銅層3をエッチング加工して回路を形成することで、プリント配線板を得ることができる。
【0046】
さらに、プリント配線板回路形成に使用するため、極薄銅箔とプリプレグ樹脂基板及びキャスティング樹脂との密着強度を高めるため、極薄銅箔の樹脂接着面側に、銅めっきによりコブ状析出、針状析出を施し、さらに耐熱層、防錆処理層として亜鉛または亜鉛合金、クロメート、シランカップリング剤の順で一般の銅箔と同様の表面処理を施していてもよい。
【0047】
製造方法
本発明の複合銅箔は、キャリア層1を準備する段階と、上記キャリア層1上にニッケル、モリブデン、タングステンを含有する電解液を用いて電気めっきを行うことにより剥離層2を形成する段階と、上記剥離層2上に電気めっきにより極薄銅層3を形成する段階と、を含む方法によって製造される。ここで、上記剥離層2の形成段階の後の空中放置時間は、剥離強度が5~30gf/cmとなるように調節することが好ましく、10~15gf/cmとなるように調節することがより好ましい。特に、空中放置時間が10~50秒であることが好ましく、30~45秒であることがより好ましく、35~40秒であることが最も好ましい。
【0048】
キャリア層1を準備する段階では、必ずしも必要ではないが、キャリア層1の表面に前処理を施すことが好ましい。前処理方法は特に限定されず、通常、酸洗浄、アルカリ脱脂、電解洗浄などの方法が用いられる。このような前処理により、表面が清浄なキャリア層1を準備することができる。
【0049】
剥離層2を形成する段階は、上記キャリア層1上にニッケル、モリブデン、タングステンなどを含有する電解液を用いて電気めっきを行ってなる。
ニッケル、モリブデン、タングステンとしては、それぞれニッケル化合物、モリブデン化合物、タングステン化合物が用いられていてよい。ニッケル化合物としては硫酸ニッケル&#63953;水和物が挙げられ、モリブデン化合物としては、例えば、モリブデン酸ナトリウム二水和物などのモリブデン塩またはその水和物が挙げられ、タングステン化合物としては、例えば、タングステン酸ナトリウム二水和物などのタングステン塩またはその水和物が挙げられる。
【0050】
電解液の溶媒は、通常用いられる溶媒であれば特に制限がなく、一般的に水が用いられる。
電解浴で用いられる金属の濃度は、金属の種類に応じて適宜選択されてもよい。例えば、ニッケル、モリブデン、タングステンの非晶質合金層を形成する場合、電解浴のニッケルの濃度は9~13g/L、モリブデンの濃度は5~9g/L、タングステンの濃度は1~5g/Lが好ましい。
【0051】
電解液の温度は、5~70℃が一般的であり、10~50℃が好ましい。電流密度は、0.2~10A/dmが一般的であり、0.5~5A/dmが好ましい。
pHは、2.5~4.5の範囲が非晶質の形成に好ましい。
【0052】
上記条件にてめっきを行った後、金属を空気中に露出させることで、その表面が酸化して酸化物が形成される。
また、上記剥離層2の形成段階の後で且つ極薄銅層3の形成段階の前に、上記剥離層2上に金属めっきを行う段階を更に含んでいてもよい。上記めっきにより形成された金属層4は、Ni合金層であることが好ましい。上記金属層4は上述のとおりである。金属層4を形成するために電解浴で用いられる金属の濃度は、金属の種類に応じて適宜選択されてもよい。例えば、ニッケル-リン合金層を形成する場合、電解浴のニッケルの濃度は3~7g/Lが好ましく、NaHPOの濃度は4~8g/Lが好ましい。pHは2~5の範囲が好ましく、3~4の範囲がより好ましい。
【0053】
[実施例1]
まず、キャリア層として銅箔を用い、酸洗を行った後、このキャリア層上にニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)を含有する電解液を用いて電気めっきを行い、合金剥離層を形成した。電解液は、硫酸ニッケル&#63953;水和物(nickel(II) sulfate hexahydrate)50g、モリブデン酸ナトリウム二水和物(sodium molybdate dihydrate)20g、タングステン酸ナトリウム二水和物(sodium tungstate dihydrate)5gに水を加えて1000mlとした。電解液の温度は、22℃、電流密度は、1~2A/dmに調節した。電解時のpHは4に調節した。
【0054】
電気めっきの終了後、上記剥離層2を空気中に40秒間露出すると、その表面が酸化され酸化物が形成された。
その後、上記剥離層2上にNi-Pをめっきし、レーザードリリング層を形成した。電解液は、ニッケル5g、NaHPO 6gに水を加えて1000mlとした。電解時のpHは3.5に調節した。
上記レーザードリリング層上に電気めっきを行い極薄銅層を形成することにより、複合銅箔を製造した。
【0055】
[比較例1]
剥離層をNi-Moの結晶質で形成し、電解時のpHをいずれも2に調節したことを除いては、実施例1と同様の方法で複合銅箔を製造した。
【0056】
[実験例1]
1.GIXRD測定
実施例1による複合銅箔を薄く引き剥がして剥離層(Ni-Mo-W層)と金属層(Ni-P層)を露出し、これらの両面を直接回折分析器(diffractometer)に置き、GIXRDデータを測定し収集し、その結果を図3に示した。入射角は0.7度に固定した。
【0057】
図3は、両サンプルのGIXRDデータと、これらの両サンプルのバッググラウンド抽出された基本データ(raw data)とICDD/ICSD回折データベースとの間で最も一致するデータを比較した結果である。データにおいて弱いピークは強調のために平方根スケールで示し、銅に係る参照パターンを表示した。銅箔と一致する回折ピーク以外の他の回折ピークは観察されなかった。非晶質のNi-Mo-W層とNi-P層に属する広いピーク(broad peak)となり、回折ピークが現われなかった。
【0058】
2.TEM測定
実施例1による複合銅箔を200kVでビーム径が1nmであるTEMを使用して測定し、そのイメージ(X2000000)を図4に示した。
図4に示すように、極薄銅層3、金属層4、剥離層2、キャリア層1が形成されたことが確認できる。
【0059】
図5は、図4に示す複合銅箔の金属層4の電子線回折パターンを示す。図5を見ると、ハロー(halo)パターンが示されることが確認でき、このことから金属層が非晶質で形成されたことが確認できる。
【0060】
図6は、図4に示す複合銅箔の剥離層2のうち金属層4に近い部分の電子線回折パターンを示す。図6は、非晶質合金の分散されたパターンを示している。
図7は、図4に示す複合銅箔の剥離層2のうち、キャリア層1に近い部分の電子線回折パターンを示す。
【0061】
上記したように、キャリア層1の上部の剥離層2は、初期析出段階(つまり、キャリア層1との境界面)での銅の影響を受けてEpitaxial成長した結果、結晶質となるが、メッキが成長するにつれて、非晶質となることが確認できる。
【0062】
[実験例2]
実施例1による複合銅箔の剥離層で表面と7nmの深さにおけるそれぞれのNiの酸化状態の割合を超高真空分光器(ultra high vacuum spectrometer)K-アルファ(Thermo VG Scientiffic)を用いたX線光電子分光法(X-ray-Photoelectron Spectroscopy;XPS)により75W、400μmのスポットサイズで測定し、その結果を下記の表1に表す。
【0063】
【表1】
【0064】
また、実施例1による複合銅箔の深さに応じて剥離層をなすそれぞれの元素のプロファイルを測定して下の表2に表し、これをグラフにて図8に示した。
【表2】
【0065】
ここで、C、Cu、Mo、Ni、Oの単位は原子%である。
Wの場合、Moのピークとの干渉により測定することができなかった。
【0066】
図8に示されたように、表面又は境界面から約3nmを超えた深さからは酸素の割合がほぼ一定であることが分かる。約30nmの深さまでは酸素の割合がほぼ一定で、それ以降は次第に減少していき、約深さ42nmからは酸素がほとんど存在しないことが分かる。
【0067】
図9は、実施例1で、特に、深さ20nmまでの剥離層の深さに応じたXPSプロファイルを拡大して示したものである。図9から、深さ20nmまでは酸素の割合がほぼ一定であることが確認できる。
【0068】
[実験例3]
実施例1と比較例1の複合銅箔に対して剥離強度、鉛耐熱性などを試験し、その結果を下記の表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
実施例1の複合銅箔は比較例1の複合銅箔に比べ、剥離強度、鉛耐熱性などに優れると示された。
【0071】
[実験例4]
実施例1の複合銅箔と比較例1の複合銅箔に対して摂氏200度で2時間クレーター(crater)検査を行い、キャリア層を剥離した後の極薄銅箔面の外観を比較して、その結果を以下の表4、図10、11に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
表4に記載のように、実施例1の複合銅箔は、きれいな剥離面が形成され、剥離後、極薄銅箔面が良好な表面特性を示すのに対し(図10参照)、比較例1の複合銅箔は、極薄銅箔面に縞模様の跡が転写されることが示された(図11参照)。図10では剥離強度が低いのに対し、図11では剥離強度が高く、剥離層の成分が極薄銅箔面についたものと推定される。
【0074】
本明細書で説明される実施例と添付の図面は、本発明に含まれる技術的思想の一部を例示的に説明したものに過ぎない。本明細書に開示された実施例などは、本発明の技術的思想を限定するためではなく説明するためのものに過ぎないものであるため、このような実施例によって本発明の技術思想の範囲が限定されるものではないことは自明である。
【符号の説明】
【0075】
1:キャリア層
2:剥離層
3:極薄銅層
4:金属層

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11