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特許7012115嫌気性又は微好気性微生物の液体培養のためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】嫌気性又は微好気性微生物の液体培養のためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20220120BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12M1/00 C
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020070691
(22)【出願日】2020-04-10
(62)【分割の表示】P 2017512659の分割
【原出願日】2015-05-13
(65)【公開番号】P2020124201
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2020-05-08
(31)【優先権主張番号】61/994,153
(32)【優先日】2014-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ビョーク,ジェイソン ダブリュー.
(72)【発明者】
【氏名】スタネナス,アダム ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】シャ,ウェンション
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-523447(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0205840(US,A1)
【文献】特開昭62-285778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微好気性微生物を集積する方法であって、
容器中で、好気性微生物を含有する試料、好気性微生物の増殖を支持する所定体積の培地、及び酸素捕捉系を含む水性混合物を形成することであって、
前記酸素捕捉系が有効量のi)酸化還元酵素ファミリーの酵素及びii)前記酵素の基質を含み、
前記酸素捕捉系が、水和されると活性化され、それにより前記培地中の溶存酸素を、前記好気性微生物の増殖を促進する濃度まで減少させ、
前記酵素が、アスコルビン酸オキシダーゼ及びラッカーゼからなる群から選択される、ことと、
前記水性混合物を、前記好気性微生物の少なくとも1回の細胞分裂を促進する条件下でインキュベートすることと、
前記微好気性微生物の増殖を、前記培地中の濁度を観察することによって検出すること
を含み、
前記培地中の溶存酸素を前記微好気性微生物の増殖を促進する濃度まで減少させることが、前記培地中の溶存酸素を0.01μM~10μMの濃度にまで欠乏させることを含む、方法。
【請求項2】
前記酵素がアスコルビン酸オキシダーゼであり、前記基質が、アスコルビン酸若しくはその塩、アスコルビン酸の誘導体若しくはその塩、ヒドロキノン、ピロガロール、カテコール、又はこれらの基質のうち任意の2種以上の混合物から構成される群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記酵素がラッカーゼであり、前記基質が、フェノール、L-チロシン、o-ジフェノール及びp-ジフェノール、2,6-ジメトキシフェノール、並びにこれらの基質のうち任意の2種以上の混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記水性混合物を形成した後、前記酵素が前記混合物中に少なくとも1000ユニット/Lの濃度で存在する、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記水性混合物を形成した後、前記基質が前記混合物中に.1~100mg/mlの濃度で存在する、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記水性混合物を形成する前に、前記酸素捕捉系の少なくとも一部が、溶液、錠剤、サッシェ、前記容器の壁の内側表面に配置されたコーティング、又は粉末として配備される、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
増殖を促進する濃度記培地中の溶存酸素を減少させることが、前記溶存酸素を0分以内に前記濃度まで減少させることを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
微好気性微生物培養するための培養システムであって、
有効量のi)アスコルビン酸オキシダーゼ及びラッカーゼからなる群から選択される、酸化還元酵素ファミリーの酵素及びii)前記酵素の基質と、
容器と、
前記好気性微生物の増殖を支持する所定体積の水性培地と、を含み、
前記有効量が、前記所定体積中の溶存酸素を微好気性微生物増殖を促進する濃度まで減少させるのに有効であり、前記増殖を促進する濃度が0.01μM~10μMである、培養システム。
【請求項9】
前記増殖を促進する濃度が0.01μM~1μMである、請求項8に記載の培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2014年5月16日出願の米国特許仮出願第61/994,153号に基づく優先権を主張するものであり、当該出願の開示内容の全体を本明細書に参照によって援用するものである。
【0002】
(技術分野)
本発明は、選択培養、並びに/又は試料中の嫌気性及び/又は微好気性微生物の検出に関し、詳細には、酵素-基質系を用いて試料中の標的嫌気性及び/又は微好気性微生物の集団を濃縮する方法に関する。上記を促進する手段も開示される。
【背景技術】
【0003】
(背景)
微生物は、酸素の要求及び酸素の耐性に基づいて異なる群に大別される。「好気性生物」とは、増殖するうえで酸素を必要とする微生物である。「通性好気性生物」とは、酸素があってもなくても増殖できる微生物である。微生物の別の群として、極めて低濃度の酸素の存在下でのみ増殖できる「微好気性菌生物」がある。最後に、酸素によって阻害されるか又は死滅し、酸素に対する耐性を有さない「嫌気性生物」と呼ばれる微生物群がある。酸素感受性細菌は制御された雰囲気下で培養する必要があり、そのため、酸素を完全に又は限定的に排除するように特に指向されたその培養方法の開発が求められている。
【0004】
集積培養は、試料中の標的微生物を培養し、その存在についてスクリーニングするために広く用いられている方法の1つである。従来知られている嫌気性培養法は、多数の変化に富んだ試料を速やかかつ簡単に処理することが求められる日常的な使用には適していないことから、簡単かつ速やかに、高い効率で嫌気性環境を実現するための改良された方法が求められている。嫌気性又は微好気性微生物の存在について食品及び飲料試料の検査を日常的に行っている食品加工業界が、かかる迅速で簡単な便宜のよい培養方法による微生物汚染の判定によって恩恵を受けることは明らかである。他の業界でも、より速やかかつ効果的に嫌気性細菌による汚染を検出する可能性は歓迎されるであろう。
【発明の概要】
【0005】
(概要)
嫌気性及び微好気性微生物の培養にともなう、ここに述べた課題の多くの解決を図るため、標的試料中の嫌気性又は微好気性微生物の選択的濃縮及び検出を促す酸素減少環境を作り出す酸素捕捉系を利用して酸素を効果的に除去又は低減することにより、標的試料中の嫌気性生物及び/又は微好気性生物を培養し、かつ/又はその存在についてスクリーニングするための改良された方法を考案する試みがなされてきた。
【0006】
有利な点として、本発明は、容器中で液体培地及び嫌気性生物及び微好気性生物を含むことが疑われる試料に酵素-基質系を加えることにより、嫌気性生物及び/又は微好気性生物を効果的に培養するための迅速で簡単な便宜よい方法を提供するものであり、ここで前記酵素-基質系は、水和により活性化されると溶存酸素を低減又は除去することで、試料中の嫌気性及び/又は微好気性生物の検出及び/又は濃縮を便利に、かつ従来の手段と比較して大幅に容易にするものである。
【0007】
有利な点として、本開示は、嫌気的条件を生成及び維持するうえで特殊な又は費用の嵩む手順を必要とせず、実際に、通常のインキュベーター中で、大規模な商業的規模で便宜よくかつ経済的に培養を行うことができる嫌気性生物及び/又は微好気性生物を培養するための方法を提供する。更に、嫌気性微生物を培養するための従来の技術(例えば嫌気的グローブボックス、GASPAKガス発生パウチ)と異なり、本明細書に述べられる本発明の方法は、培地が置かれた雰囲気から酸素を除去するのではなく、液体培地から酸素を直接除去するものである。
【0008】
更に、本開示は、より簡単、より経済的、効率的な、従来の方法で有利に実現することができる嫌気性生物及び/又は微好気性生物の簡単な検出方法を提供する。
【0009】
更にまた、本開示は、酸化還元酵素ファミリーの酵素及びその基質を含む酸素捕捉系を用いて実質的な酸素減少環境を作り出すことにより、嫌気性及び/又は微好気性微生物の濃縮の助けになる状態を作り出すことによって前記微生物を検出するための方法を有利に提供する。
【0010】
このため、一態様において、本開示はある方法を提供する。本方法は、容器中で、嫌気性微生物又は微好気性微生物を含む試料、前記嫌気性又は微好気性微生物の増殖を支持する所定体積の培地、及び酸素捕捉系を含む水性混合物を形成することを含むことができる。酸素捕捉系は、有効量のi)酸化還元酵素ファミリーの酵素及びii)前記酵素の基質を含むことができる。酸素捕捉系は水和されると活性化され、それによって培地中の溶存酸素を、嫌気性微生物又は微好気性微生物の増殖を促進する濃度まで減少させることができる。前記酵素は、アスコルビン酸オキシダーゼ及びラッカーゼからなる群から選択することができる。本方法は、前記水性混合物を、前記嫌気性微生物又は微好気性微生物の少なくとも1回の細胞分裂を促進する条件下でインキュベートすることを更に含むことができる。いずれの実施形態においても、本方法は、嫌気性微生物又は微好気性微生物の増殖を検出することを更に含むことができる。いずれの実施形態においても、前記微生物の増殖を検出することは、嫌気性微生物又は微好気性微生物を分析することによって嫌気性微生物又は微好気性微生物を、酸素含有環境中で増殖する能力以外の特徴によって特徴付けられる微生物の属、種、又は群と関連付けることを含むことができる。
【0011】
別の態様では、本開示は、微好気性微生物又は嫌気性微生物を培養するための培養システムを提供する。本システムは、有効量のi)酸化還元酵素ファミリーの酵素及びii)前記酵素の基質と、容器と、前記嫌気性又は微好気性微生物の増殖を支持する所定体積の水性培地と、を含むことができる。前記酵素は、アスコルビン酸オキシダーゼ及びラッカーゼからなる群から選択することができる。前記有効量は、前記所定体積中の溶存酸素を、微好気性微生物又は偏性嫌気性微生物の増殖を促進する濃度まで減少させるのに有効でありうる。いずれの実施形態においても、前記容器は、酸素に対して実質的に不透過性であることができる。
【0012】
更に別の態様において、本開示はキットを提供する。本キットは、密封可能な容器と、有効量のi)酸化還元酵素ファミリーの酵素及びii)前記酵素の基質を含む酸素捕捉系と、を含むことができる。前記酵素は、アスコルビン酸オキシダーゼ及びラッカーゼからなる群から選択することができる。いずれの実施形態においても、前記有効量は、前記所定体積中の溶存酸素を約100μM以下、約10μM以下、約1μM以下、0.1μM以下、又は0.01μM以下まで減少させるのに有効である。いずれの実施形態においても、前記有効量は、前記所定体積中の溶存酸素を、増殖を促進する濃度まで約60分以内に減少させるのに有効である。
【0013】
上記の実施形態のいずれにおいても、本発明の酸素捕捉系は、活性化されると、実質的に酸素が減少しているか又は微量の酸素を含む環境を作り出すことで偏性嫌気性生物又は微好気性生物の培養をそれぞれ促進する。
【0014】
本発明の上記の実施形態のいずれにおいても、酸素捕捉系は、活性化されると、標的試料中に含まれる嫌気性及び/又は微好気性微生物の選択的濃縮を可能とする。
【0015】
上記の実施形態のいずれにおいても、前記容器は、酸素に対して実質的に不透過性の容器とすることができる。
【0016】
本発明の特徴及び利点は、添付の特許請求の範囲と同様、好ましい実施形態の詳細な説明を考慮することで理解される。本発明のこれらの並びに他の特徴及び利点は、本発明の様々な例示的な実施形態に関連して以下で説明されうる。
【0017】
本発明の上記の「概要」は、本発明の開示されるそれぞれの実施形態又はすべての実現形態を説明しようとするものではない。以下の詳細な説明により、例示的な実施形態をより具体的に示す。他の特徴、目的及び利点は本明細書により、また、特許請求の範囲により明らかになるであろう。
【0018】
(詳細な説明)
以下に本開示を本明細書にてより完全に説明する。以下の詳細な説明の目的では、そうでない旨が明らかに断られている場合を除き、本発明は様々な代替的な変形及び工程の順序を取りうる点は理解されなければならない。したがって、本発明を詳細に説明するのに先立ち、本発明は具体的に例示されるシステム又は実施形態に限定されるものではなく、これらは無論のこと多岐にわたりうるものである点は理解されなければならない。本明細書に述べられる任意の用語の例をはじめとする、本明細書の任意の箇所における実施例の使用はあくまで例示的なものであり、いかなる意味でも本発明又は任意の例示される用語の範囲及び意味を限定するものではない。同様に、本発明は本明細書に示される様々な実施形態に限定されない。
【0019】
本明細書において使用するところの単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上、そうでないことが明確に示されない限り、複数の指示対象を含むものである。「及び/又は」なる用語は、列記される要素の1つ若しくはすべて又は列記される要素の任意の2つ以上の組み合わせを意味する。
【0020】
「好ましい」及び「好ましくは」なる用語は、所定の状況下で所定の効果を奏しうる本発明の実施形態を指す。しかしながら、同じ状況、又は他の状況で他の実施形態が好ましい場合もある。更に、1つ以上の好ましい実施形態の詳述は、他の実施形態が有用でないことを示唆するものではなく、他の実施形態を本発明の範囲から除外することを目的とするものではない。
【0021】
「約」なる用語がある値又はある範囲の端点を述べるのに用いられている場合、本開示はその具体的な値又は言及される端点の両方を含むものとして理解されるべきである。
【0022】
本明細書で使用するところの「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「含有する(containing)」、「特徴とする(characterized by)」、「有する(has)」、「有する(having)」なる用語、又はこれらの他の任意の変化形は、非排他的な包含を網羅することを意図している。
【0023】
本明細書で使用するところの「微生物(microorganism)」又は「微生物(microbe)」なる用語は、単細胞又は多細胞生物でありうるあらゆる微視的生物を指す。この用語は、1種類以上の細菌を限定することなく含む、適当な培地中で増殖及び生殖可能なあらゆる微視的な原核生物又は真核生物を指して用いられる。本発明の範囲に含まれる微生物としては、原核生物、すなわち細菌及び古細菌、並びに、原生動物、真菌類、酵母(例えば嫌気性酵母)、藻類などを含む様々な真核生物が挙げられる。「標的微生物」なる用語は、検出しようとするあらゆる微生物を指す。
【0024】
本明細書で使用するところの「嫌気性微生物」又は「嫌気性生物」なる用語は、酸素に対する感受性を有し、酸素の存在下では増殖しない微生物のことを指す。嫌気性微生物又は嫌気性生物とは、増殖に酸素を必要としないあらゆる生物のことである。嫌気性微生物としては、偏性嫌気性生物及び通性嫌気性生物が含まれる。偏性嫌気性生物は、大気レベルの酸素に曝露することで死滅する微生物である。通性嫌気性生物は、酸素が存在する場合には好気呼吸を行うことができるが、酸素が存在しない場合には発酵又は嫌気呼吸に切り換えることが可能な生物である。本発明の方法及びシステムは、偏性嫌気性生物及び通性嫌気性生物の両方の濃縮及び検出に使用することが可能である。
【0025】
「微好気性微生物」又は「微好気性生物」なる用語は、微量の酸素の存在下でのみ増殖するあらゆる微生物のことを指して本明細書で用いられる。微好気性生物は、酸素を利用するが、極めて低い濃度(低いマイクロモルの範囲)、一般的には5~15%の酸素濃度においてのみ酸素を利用し、通常の酸素濃度又は約15%よりも高い濃度によって増殖が阻害される。
【0026】
本明細書で使用するところの微生物の「培養」又は「増殖」なる用語は、微生物の増殖の助けになる条件下で所定の培地中で生殖させることにより微生物を増やす方法のことを指す。より詳細には、少なくとも1回の微生物の細胞分裂を促すために適当な培地及び条件を与える方法のことである。培地は、栄養素及び微生物の増殖に必要な物理的増殖因子のすべてを含む固体、半固体、又は液体の培地である。
【0027】
本明細書で使用するところの「濃縮」なる用語は、特定の微生物の増殖を、その特定の微生物の増殖に有利な特定の既知の特性を有する培地及び条件を与えることにより選択的に高める培養方法のことを指す。集積培養の環境は、選択された微生物の増殖を支持する一方で他の微生物の増殖を阻害するものである。
【0028】
「酸素捕捉物質」、「酸素捕捉系」、「酵素-基質系」とは、本明細書では所定の環境から酸素を消費し、これを減少させ、又はこれと反応することができるシステムのことを指して広義に用いられる。酸素捕捉系は、有効量の酸化還元酵素ファミリーの酵素及びその酵素の基質を含む酵素-基質系から構成され、活性化されると所定の環境から能動的に酸素を除去することが可能なものであることが好ましい。
【0029】
「活性化」又は「活性化された」なる用語は、本発明で述べるようにして酸素捕捉系が酸素を補足することが可能であるような状態のことを指す。本発明によれば、酵素の触媒機能をもたらす活性化のプロセスは通常は水和による。好ましくは、本発明によれば、水和は液体培地又は試料との接触によりもたらされる。
【0030】
「不活性化」又は「不活性化された」なる用語は、酸素捕捉系が酸素を捕捉することができないような状態のことを指す。酸素捕捉系は、酸素捕捉系の酵素活性を保存し、標的試料又は培地中で酸素捕捉作用が開始されるよりも前に酸素捕捉系が早期に活性化されることを防止するため、微生物を含んだ試料を培地に加える直前の時点又は加えるのと同時の時点まで「不活性」状態に通常は維持される。
【0031】
酸素捕捉系の最低限必要な構成成分は、分子状酸素を還元することが可能な酵素、及びその酵素の適当な基質から構成される。好ましくは、酸素捕捉系は、有効量の酸化還元酵素ファミリーの酵素、及びその酵素に好適な基質から構成される。より好ましくは、本発明で使用することが可能な酵素基質系は、アスコルビン酸オキシダーゼ、ラッカーゼ、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される酸化還元酵素ファミリーの酵素の使用をともなう。
【0032】
「還元基質」、「基質」及び「還元剤」なる用語は、本明細書では互換可能に用いられ、本発明の酸素捕捉系の中に含まれる酵素に対する電子の供給源として機能することができる基質をそれぞれ指す。
【0033】
本開示は、嫌気性又は微好気性細菌を増殖させるための物品及び方法に一般的に関する。詳細には、本開示は嫌気性又は微好気性細菌を培養するためのシステムを提供する。本システムは、分子状酸素を還元する有効量の酸化還元酵素と、酸素消費反応で酸化される対応する基質とを含む。有利な点として、本発明のシステムは(例えば室温での)安定性が高く、かつ嫌気的環境を獲得しこれを維持するために特殊な装置及び/又は圧縮ガスを用いる必要がない。更に、本システムは、システムが活性化された後、1時間以内に嫌気性又は微好気性微生物の増殖を促進する液体環境を作り出すことが可能である。
【0034】
人によって消費又は使用されることを意図した製品中に細菌汚染が存在する可能性は広く知られてきた。人によって消費されることを意図した製品の製造業者及び/又は加工業者は一般的に、人が消費するための製品の品質及び安全性を確保するためにこれらの製品を試験する。食品、医薬品、飲料、化粧品、及び水は、嫌気性及び微好気性細菌をはじめとする病原性微生物による微生物汚染について日常的に検査が行われている。
【0035】
古くから、嫌気性生物の培養及び濃縮は、酸素を除去する必要性、遅い増殖、及び複雑な増殖要求性のために極めて困難であった。嫌気的培地は、完全な無酸素条件下で維持する必要があり、このため、複雑な物理的及び化学的方法を用いる必要が生じる。このため、嫌気性細菌のスクリーニング、培養、及び実験室での維持には特殊な培養容器、インキュベーション装置、培地を必要とするため、これらのプロセスは多大な労力を要し、高コストかつ時間のかかるものとなっている。更に、これらの装置の操作には一般的に、複雑な準備手順も必要とされ、熟練の技術が求められる。これらの事情から、食品/水、又は他の生物学的試料を嫌気性微生物の有無について日常的に検査することは非常に手間がかかり、その日常的な使用の妨げとなっていた。
【0036】
嫌気性環境を得るために従来から用いられている方法には、嫌気性チャンバーの使用、酸素の除去又は真空の形成、他のガスによる酸素の置換を行うスパージング(sparging)法、還元剤の使用、化学的又は生物学的手段による酸素の吸収、及び酸素の還元などの物理的及び化学的方法が含まれる。
【0037】
嫌気性チャンバーは、例えば、H、CO、及びNの雰囲気が入ったプラスチック製のグローブボックスである。培地は、空気を抜いてNで再充填することができるエアロックによってチャンバー内に置かれる。
【0038】
嫌気的環境を作り出すための別の従来の方法は真空乾燥機内で培養物をインキュベートすることによるものであるが、完全な嫌気性環境を実現することができないためにこの方法を大規模に採用するには制限があった。
【0039】
酸素置換の原理に基づいた従来のキャンドルジャーは、普及しているものの効果的とはいえない更に別の方法である。用いられる方法では、接種したプレートを大型の気密容器の中に置き、蓋を密封する前に火をつけたロウソクを入れたままとする。通常は、燃焼するロウソクは消される前に利用可能な酸素をすべて使い切るものと予想されるが、実際には微量の酸素が常に残存する。
【0040】
液体培地から酸素を除去するための別の方法は、還元剤の添加によるものである。しかしながら、これらの還元剤の多くは強力な還元剤であり、培地中に存在する残留還元剤によって培地中の嫌気性生物のその後の増殖が阻害される傾向にある。
【0041】
水素ガス及び二酸化炭素を発生する化学物質の混合物、すなわち、ピロ没食子酸/水酸化ナトリウムを含む混合物、クロム/硫酸を含む混合物、水素化ホウ素ナトリウム/塩化コバルトを含む混合物、又はクエン酸/重炭酸ナトリウムを含む混合物(例えばGASPAKガス発生パウチシステムにおけるもの)を用いた他の化学的手段によって嫌気性環境を実現しようとする試みも行われてきた。これにより、パラジウム触媒上で水素が酸素ガスと反応して更に水を生成することにより、酸素ガスが除去される。かかる化学的方法の使用を制限するしばしば見られる問題として、一酸化炭素の放出があり、これらのガスに感受性を有するある種の細菌の増殖が阻害される場合がある。GASPAKガス発生パウチシステムを使用する際の更なる別の制約として、触媒反応で生成する大量の水の生成及び管理の問題がある。
【0042】
液体培地を高純度の窒素又は他の不活性ガスを吹き込むと液体培地から酸素が効果的に除去される。しかしながらこの方法は、液体培地の発泡及びそれにともなう機械的な問題をしばしば生じる。更に、吹き込みを止めると培地に酸素が容易に再混入する。最新の嫌気的実験室では、ガス処理ステーションとしてこの方法を適用したものを依然使用している。しかしながら、ガス処理ステーションは市販されておらず、特注しなければならない。このことはコスト及び時間に関して大きな問題となる。
【0043】
従来の方法は、多くの時間、労力、及び技能を費やすことに加えて比較的高価な装置の使用を必要とするが、完全な嫌気性環境を実現するうえで多くの場合効果的でないことは明らかである。
【0044】
L-アスコルビン酸オキシダーゼ/アスコルベートオキシダーゼ酵素は、酸素の水への4電子還元及びそれにともなう基質(すなわちアスコルベート又はアスコルビン酸)の1電子酸化を触媒する酸化還元酵素のファミリー(EC 1.10.3.3)に属するマルチ銅酵素である。この酵素は、以下の例示的な反応に示される反応物質(「基質」)及び生成物を含む(ただしこれらに限定されない)化学反応を触媒する。
【化1】
【0045】
したがって、この例示的な反応では、L-アスコルビン酸オキシダーゼ/アスコルベートオキシダーゼ酵素の2つの基質はL-アスコルベート及びOであり、2つのそれぞれの生成物はデヒドロアスコルベート及びHOである。
【0046】
いずれの実施形態においても、アスコルベートオキシダーゼの基質は、アスコルビン酸及びその塩、特にアルカリ金属塩からなる。本発明では、アスコルビン酸化合物の例には、L-アスコルビン酸、Lーアスコルビン酸ナトリウム、Lーアスコルビン酸カルシウム、及びD-イソ-アスコルビン酸ナトリウムが含まれ、これらを単独で又はその混合物の形で使用することができる。アスコルビン酸オキシダーゼは、アスコルビン酸誘導体及びその塩との、また非アスコルベート基質との酸素消費反応を触媒することが知られている。アスコルビン酸誘導体の非限定的な例としては、D-イソ-アスコルベート、D-アラボアスコルビン酸、6-アミノ-L-アスコルベート、6-デオキシ-L-アスコルベート、D-エリスロアスコルベート、6-O-フェニル-L-アスコルベート、及び6-S-フェニル-L-アスコルベートが挙げられる。非アスコルベート基質の非限定的な例としては、ヒドロキノン、ピロガロール、カテコールなどを挙げることができる。「アスコルビン酸」及び「アスコルベート」なる用語は、アスコルビン酸及びその塩を指して本明細書では互換可能に用いられる。
【0047】
ラッカーゼ酵素とは、酸素の水への4電子還元及びそれにともなう基質の1電子酸化を触媒するマルチ銅酸化還元酵素(EC 1.10.3.2)を指す。
【0048】
ラッカーゼは、広範なフェノール系分子、及び一部の非フェノール系小分子を酸化することが知られている。したがって、本開示の酸素捕捉系でラッカーゼとともに使用するのに適した基質としては、これらに限定されるものではないが、フェノール類、L-チロシン、o-ジフェノール、及びp-ジフェノールが挙げられる。
【0049】
一態様では、本開示は、微好気性微生物又は嫌気性微生物の培養のためのシステムを提供する。いずれの実施形態においても、前記システムは、有効量の酸化還元酵素ファミリーの酵素及び前記酵素の基質を含むことができ、前記酵素-基質系は液体培地との接触により水和されると活性化され、それにより嫌気性又は微好気性微生物の増殖の助けになる実質的に酸素が減少した水性環境を作り出す。いずれの実施形態においても、本明細書で使用するところの「実質的に酸素が減少した」水性環境とは、水性環境中で酵素-基質系 が活性化された後に含まれる溶存酸素が、酵素-基質系が活性化される前に水性環境中に存在した溶存酸素の50%未満である水性環境(例えば水性緩衝液又は培地)を指す。
【0050】
空気で飽和したよく混合された水性液体は30℃で約470μMの溶存酸素を含む。R.A.ルードヴィヒ(R.A. Ludwig)(「Mesophilic bacteria transduceenergy via oxidative metabolic gearing」,Research In Microbiology,vol.155(2004),pp.61~70)は、好気性微生物の代謝活性の速度が約10μM以下の溶存酸素濃度で大幅に低下し、約0.2μM以下の溶存酸素濃度では実質的に停止すると発表している。ルードヴィヒは、これに対して微好気性微生物は、約0.001μM~約200μMの範囲の溶存酸素濃度を有する環境中で代謝活性を示し、約0.05μM~約10μMの範囲の溶存酸素濃度を有する環境中で代謝活性は最も高くなると発表している。更に、ルードヴィヒは、厳密に嫌気性微生物は約0.005μM以下の溶存酸素濃度を有する環境中で最も高い代謝活性の速度を示すと発表している。偏性嫌気性菌の代謝活性は、約0.2μMよりも高い溶存酸素濃度を有する環境中で本質的に停止する。
【0051】
当業者であれば、水性液体中での溶存酸素は、例えば溶存酸素計及びプローブをはじめとする当該技術分野では周知の各種の方法を用いて測定することができることは認識されるであろう。
【0052】
微好気性微生物及び/又は嫌気性微生物を濃縮するために用いられる方法のいずれの実施形態においても、本明細書で使用するところの「実質的に酸素が減少した」水性環境とは、水性環境中で酵素-基質系が活性化された後の溶存酸素濃度が、約100μM以下、約50μM以下、約10μM以下、約5μM以下、約1μM以下、約0.5μM以下、約0.1μM以下、約0.05μM以下、約0.01μM以下、又は約0.05μM以下である水性環境(例えば水性緩衝液又は培地)を指す。
【0053】
本開示の方法、システム、又はキットを使用することで、好気性微生物の増殖よりも微好気性微生物の増殖を有利にすることができる。したがって、本開示に基づく微好気性微生物を濃縮及び/又は検出する方法のいずれの実施形態においても、培地中の酸素を実質的に減少させることは、溶存酸素を約0.01μM~約10μMの濃度まで減少させることを含みうる。本開示に基づく微好気性微生物を濃縮及び/又は検出する方法のいずれの実施形態においても、培地中の酸素を実質的に減少させることは、溶存酸素を約0.01μM~約1μMの濃度まで減少させることを含みうる。本開示に基づく微好気性微生物を濃縮及び/又は検出する方法のいずれの実施形態においても、培地中の酸素を実質的に減少させることは、溶存酸素を約0.1μM~約1μMの濃度まで減少させることを含みうる。
【0054】
本開示の方法、システム、又はキットを使用することで、嫌気性微生物の増殖よりも微好気性微生物の増殖を有利にすることができる。したがって、本開示に基づく微好気性微生物を濃縮及び/又は検出する方法のいずれの実施形態においても、培地中の酸素を実質的に減少させることは、溶存酸素を約0.05μM~約100μMの濃度まで減少させることを含みうる。本開示に基づく微好気性微生物を濃縮及び/又は検出する方法のいずれの実施形態においても、培地中の酸素を実質的に減少させることは、溶存酸素を約0.01μM~約100μMの濃度まで減少させることを含みうる。本開示に基づく微好気性微生物を濃縮及び/又は検出する方法のいずれの実施形態においても、培地中の酸素を実質的に減少させることは、溶存酸素を約0.5μM~約100μMの濃度まで減少させることを含みうる。本開示に基づく微好気性微生物を濃縮及び/又は検出する方法のいずれの実施形態においても、培地中の酸素を実質的に減少させることは、溶存酸素を約1μM~約100μMの濃度まで減少させることを含みうる。
【0055】
本開示の方法、システム、又はキットを使用することで、微好気性微生物の増殖よりも偏性嫌気性微生物の増殖を有利にすることができる。したがって、本開示に基づく嫌気性微生物を濃縮及び/又は検出する方法のいずれの実施形態においても、培地中の酸素を実質的に減少させることは、溶存酸素を約0.2μM以下の濃度まで減少させることを含みうる。本開示に基づく嫌気性微生物を濃縮及び/又は検出する方法のいずれの実施形態においても、培地中の酸素を実質的に減少させることは、溶存酸素を約0.1μM以下の濃度まで減少させることを含みうる。本開示に基づく嫌気性微生物を濃縮及び/又は検出する方法のいずれの実施形態においても、培地中の酸素を実質的に減少させることは、溶存酸素を約0.05μM以下の濃度まで減少させることを含みうる。本開示に基づく嫌気性微生物を濃縮及び/又は検出する方法のいずれの実施形態においても、培地中の酸素を実質的に減少させることは、溶存酸素を約0.01μM以下の濃度まで減少させることを含みうる。
【0056】
本開示の方法又はシステムのいずれの実施形態においても、「有効量」なる用語は、所定の体積の水性培地中の溶存酸素濃度を、微好気性微生物又は嫌気性微生物の増殖を任意選択的に微生物の検出を容易にすることを充分な時間にわたって可能とする程度まで低下させる酸素捕捉効果を得るうえで有効な酵素及び/又は酵素基質の量を意味するものとして理解されるべきである。
【0057】
酸素-捕捉系で用いられる酵素の量は、例えば、試料の体積、初期の酸素濃度、特定の環境中で必要とされる望ましい酸素濃度(例えば微好気性微生物と比べて偏性嫌気性微生物の増殖を促進するような)、望ましい捕捉速度(例えば潜在的に致死的濃度の酸素への偏性嫌気性微生物の曝露を最小限に抑えるような)、酸素侵入の速度(例えば容器が酸素に対して不透過性でない場合)、及び使用する酵素の比活性などの多くの因子に依存しうる。しかしながら、いずれの実施形態においても、本開示の方法を使用して水性混合物を形成した後で、酵素は混合物中に、少なくとも1Kユニット/L(1000ユニット/L)、又は場合により少なくとも2Kユニット/L(2000ユニット/L)、又は場合により少なくとも3Kユニット/L(3000ユニット/L)、又は場合により少なくとも4Kユニット/L(4000ユニット/L)の量で存在してよい。水性培地中の溶存酸素の速やかな減少を促すには、水性混合物を形成した後において、酵素は混合物中に液体培地の全体積の少なくとも4Kユニット/Lの量で存在すればよい。
【0058】
酸素捕捉系に用いられる酵素基質の量も、本開示の容器中の特定の環境からの酸素減少の速度、程度、及び継続時間に影響する。したがって、いずれの実施形態においても、本開示の方法を使用して水性混合物を形成した後に混合物中に存在する基質は約0.1~100mg/mlとすることができる。いずれの実施形態においても、本開示の水性混合物中の酵素基質の濃度は、約0.1~50mg/mlとすることができる。いずれの実施形態においても、本開示の水性混合物中の酵素基質の濃度は、約0.1~10mg/mlとすることができる。いずれの実施形態においても、本開示の水性混合物中の酵素基質の濃度は、約0.1~5mg/mlとすることができる。当業者であれば、基質の量は、濃縮される標的微生物の性質に応じて、特定の体積の液体培地で実現される所望の捕捉速度又は得られる所望の酸素濃度に応じて変えることができる点は認識されるであろう。
【0059】
酵素の触媒機能には水和が必要であり、乾燥酵素は機能しないことはよく知られている。水和によって触媒機能及び/又は基質及び生成物の拡散を促進することができる。したがって、本発明による酵素基質系は充分な水分と接触させることで活性化され、閾値の水和度以下では酵素基質系は実質的に不活性である。本明細書で使用するところの「酸素捕捉系」なる用語は、活性化された、又は不活性状態の系の両方を指す。したがって、本発明によれば、酵素-基質系は、錠剤の形態(ピル、ドーナツ型、又は小さい球形)、凍結乾燥形態、サッシェ、容器内部のスプレーコーティング、溶解可能又は分解可能な(例えば水溶液と接触時に分解可能な)小袋若しくはカプセル、又は粉末状の迅速溶解型媒質中で、などの様々な形態で配備することができる。
【0060】
いずれの実施形態においても、本開示のシステムの酵素又は酵素基質を、凝集粉末として投入することができると考えられる。必要に応じて、酵素又は酵素基質は、本明細書にその全容を参照によって援用する国際公開第2014/025514号に開示されるように培地(例えば濃縮ブロス培地)の1つ以上の栄養素(例えばブロス栄養素又は粉末栄養素)と凝集させることができる。
【0061】
本発明の一態様によれば、酵素及び基質は、液体培地の滅菌後に培地中に添加することができる。別の態様によれば、酵素又は酵素-基質は、微生物を含んだ試料と同時に培地中に加えることができる。別の実施形態では、酵素-基質は試料を加えた後で加えることができる。いずれの実施形態においても、培地及び試料を、容器の壁にコーティングされた酵素-基質系に加えることができる。
【0062】
本開示は一般に、試料中の嫌気性/微好気性微生物を培養及び/又は検出するための方法に関する。試料は様々な供給源から得ることができる。いずれの実施形態においても、供給源は食品源(例えば食品成分、加工中食品試料、又は完成品食品試料)とすることができる。一部の実施形態では、供給源は非食品供給源であってよい。手間のかかる手順を必要とする嫌気性/微好気性微生物を検出するための従来の方法と異なり、本発明の方法は、使用者が試料を本発明に基づいた規定の培地及び酸素捕捉系と単純に加え合わせることで嫌気性/微好気性微生物の濃縮及び検出の助けになる状態容易に作り出すことを可能とするものである。
【0063】
一実施形態によれば、試験される試料は、標的の嫌気性/微好気性微生物を含むことが疑われる試料を準備することを含むことができる。適当な試料の非限定的な例としては、食品試料、すなわち、様々な食品、飲料、又は食品若しくは飲料の加工環境の供給源が挙げられる。こうした食品供給源の非限定的な例としては、生の又は加工された果物若しくは野菜類、生の又は加工された食肉、非液体又は液体ベースの乳製品、シロップ、発酵飲料、飲料水、牛乳などが挙げられる。低温殺菌された食品又は飲料もまた適当な供給源を構成しうる。例としては、これらに限定されるものではないが、肉、鶏肉、卵、魚、魚介類、野菜、果物、加工食品(例えば、スープ、ソース、ペースト)、穀物製品(例えば、小麦粉、穀類、パン)、缶詰、牛乳、その他の乳製品(例えば、チーズ、ヨーグルト、サワークリーム)、油脂、油、デザート、調味料、香辛料、パスタ、飲料、水、動物用飼料、その他の適当な食材、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0064】
「食品」なる用語は、固体又は液体供給源(例えば、これらに限定されるものではないが、溶液、分散液、乳濁液、懸濁液など、及びこれらの組み合わせを含む)、及び/又は半固体の食用組成物を指す。
【0065】
本開示の方法で使用するのに適した試料としては、例えば血液、唾液、滑液、膿、汗、脳脊髄液、尿、母乳、滲出物、鼻腔試料、胆汁、骨髄、直接肺吸引物、通常は無菌状態の部位からの組織生検、通常は無菌状態の部位(関節など)からの液体、歯の膿瘍、腹部又は骨盤膿瘍、創傷(例えば外傷性創傷又は手術創)、重度の火傷、並びに他の可能な感染組織などの生理学的液体などの様々なヒト/動物の供給源に由来する臨床的試料も挙げられる。いずれの実施形態においても、試験される試料は、生物組織及び/又は生体液を含みうる。
【0066】
本開示の方法で使用するのに適した試料としては、環境試料(例えば環境水試料(例えば表面水、処理水)、土壌試料、表面残渣試料など)も挙げられる。
【0067】
様々な試料採取法を標的嫌気性及び/又は微好気性微生物を含むことが疑われる試料の採取に用いることができる。こうした試料採取法は本発明の方法にも適している。試験試料(例えば液体)には、スクリーニングを行う前に含まれても良い、例えば濃縮、沈殿、濾過、遠心分離、透析、希釈などの処理を行うことができる。いずれの実施形態においても、試料の1つ以上の異なる希釈物を調製することができ、これらの希釈物のそれぞれを接種物として使用することができる。
【0068】
本開示の別の態様は、酸素を低減及び/又は除去するための方法であって、a)嫌気性及び/又は微好気性微生物を含むことが疑われる標的試料を入れるための容器を準備することと、b)a)有効量の酸化還元酵素ファミリーの酵素、及びb)有効量の還元性基質を含む酸素捕捉系を提供することと、c)前記容器の内容物を前記酸素捕捉系と接触させることと、を含むことにより、酸素が密封された容器から低減又は除去される、方法を提供し、それによって前記嫌気性及び/又は微好気性微生物の濃縮及び/又は検出が促進される。いずれの実施形態においても、容器は、密封容器とすることができる。有利な点として、密封容器は、酸素捕捉系が活性化された後で周囲雰囲気からの酸素の侵入が減少する。
【0069】
いずれの実施形態においても、本発明は、嫌気性及び/又は微好気性微生物を培養するための方法であって、容器中で嫌気性微生物を含む試料、前記嫌気性又は微好気性微生物の増殖を支持する所定体積の培地、及び酸素捕捉系を含む水性混合物を形成することであって、前記酸素捕捉系は、有効量のi)酸化還元酵素ファミリーの酵素及びii)前記酵素の基質を含み、前記酸素捕捉系は水和されると活性化され、それにより実質的に酸素が減少した水性環境を作り出す、水性混合物を形成することと、前記試料、培地、及び酸素捕捉系を、前記嫌気性微生物の少なくとも1回の細胞分裂を促進する条件下でインキュベートすることと、を含む、前記微生物を培養する方法を提供する。いずれの実施形態においても、前記容器は、酸素に対して実質的に不透過性の容器とすることができる。いずれの実施形態においても、容器は、密封容器とすることができる。有利な点として、密封容器は、酸素捕捉系が活性化された後で周囲雰囲気からの酸素の侵入を減少する。
【0070】
別の好ましい実施形態実質的によれば、本開示は、試料中の嫌気性及び/又は微好気性微生物を検出するための方法を提供する。したがって、本開示は、試料中の嫌気性及び/又は微好気性微生物を検出するための方法を提供し、前記方法は、容器中で、嫌気性微生物を含むことが疑われる試料と、前記嫌気性及び/又は微好気性微生物の増殖を支持する媒体と、酸素捕捉系とを含む所定体積の水性液体を接触させることであって、前記酸素捕捉系が、酸化還元酵素ファミリーの酵素と前記酵素の基質とを含み、前記酸素捕捉系が、水和されると活性化され、それにより実質的に酸素が減少した水性環境を作り出す、前記水性液体を接触させることと、前記試料、培地、及び酸素捕捉系を、前記嫌気性及び/又は微好気性微生物の少なくとも1回の細胞分裂を促進する条件下でインキュベートすることと、前記嫌気性及び/又は微好気性微生物の有無を検出することと、を含む。いずれの実施形態においても、前記容器は、酸素に対して実質的に不透過性の容器とすることができる。いずれの実施形態においても、容器は、密封容器とすることができる。有利な点として、密封容器は、酸素捕捉系が活性化された後で周囲雰囲気からの酸素の侵入を減少する。
【0071】
したがって、本開示は、微好気性及び/又は嫌気性微生物を培養するためのシステムを提供し、前記システムは、水和されると活性化され、それによって酸素を含まないか又は微量の酸素を含む環境を作り出すのに有効な量である、i)酸化還元酵素ファミリーの酵素及びii)前記酵素の基質と、容器と、前記嫌気性又は微好気性微生物の増殖を支持する所定体積の水性培地と、を含む。いずれの実施形態においても、前記容器は、酸素に対して実質的に不透過性であることができる。
【0072】
「容器」又は「パッケージ」なる用語は、任意の種類の標的試料が入れられるように設計された内部空間を画定する囲みを形成し、酸素バリア特性を有する物体のことを指す。「密封容器」及び「密封パッケージ」なる用語は、水性培地、標的試料、及び酸素捕捉系を収容するように設計された内部空間を画定する容器であって、容器の外部に存在する周囲雰囲気との遮るもののない連通状態を実質的に防止するように設計された容器のことを指す。容器は、小袋、エンベロープ、密封包装、バッグ、缶、ジャー、バレル、ボックス若しくはバリアバッグ、ジッパー付き保存用バッグ(例えばZIPLOC保存用バッグ)など、実験用ブレンダーバッグ(例えばSTOMACHERバッグ)、ストッパー又はセプタムを備えたフラスコ、ストッパー又はセプタムを備えたボトル、又は水性培地中の微生物培養物の収容及び増殖に適した任意の形態、の形態であってよい。いずれの実施形態においても容器は密封可能であってよく、必要に応じて再密封可能であってよい。
【0073】
容器は、所定体積の培地、及び/又は嫌気性及び/又は微好気性微生物を含むことが疑われる試料を保持及び収容するのに適した任意の形状又はサイズを有することができる。更に、容器は適当な栄養培地を含まずともよく、又は栄養培地が容器内に含まれてもよい。容器又はパッケージは、1回使用の使い捨て型の容器であってもよい。あるいは容器又はパッケージは再使用可能なものであってもよい。いずれの実施形態においても、容器は、容器が形成される特定の材料に対して当該技術分野では周知の処理を用いて滅菌することができる。
【0074】
いずれの実施形態においても、容器は酸素に対して実質的に不透過性の物質で形成することにより、容器の壁を通過する酸素の流入量が、容器内の水性培地中の酸素を嫌気性又は微好気性微生物の増殖を支持する濃度に減少させ、かつ/又は維持する酸素捕捉系の容量を実質的に上回らないようにすることができる。
【0075】
いずれの実施形態においても、容器は、例えば試料又は試薬を加えるための密封可能なポート(例えば穿刺可能な自己密封式のセプタム)を有することができる。これに加えるか又はこれに代えて、密封可能なポートを使用して材料(例えば本開示の水性混合物の一部若しくは全部、容器内に導入されたガス(例えば空気)の一部若しくは全部、及び/又は試薬(例えば本開示の酵素又は酵素基質))を除去することもできる。
【0076】
いずれの実施形態においても、容器はポリマー材料で形成することができる。酸素捕捉系及び密封容器の内容物に対して実質的に不活性であるポリマー材料が好ましい。いずれの実施形態においても、ポリマー材料は、ポリマー材料を酸素に対して実質的に不透過性とする厚さ及び組成を有することができる。適当なポリマー材料の非限定的な例としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリ塩化ビニリデンコポリマー、エチレンビニルアルコールコポリマー、ポリアミド(ナイロン6など)、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、二酢酸セルロース、ネオプレン(登録商標)、テフロン(登録商標)、ポリシロキサン、又はこれらの混合物若しくは積層体が挙げられる。いずれの実施形態においても、容器はガラスで作製することができる。
【0077】
いずれの実施形態においても、容器は多層ポリマーフィルムの積層体とすることができる。いずれの実施形態においても、ポリマーフィルムからなる容器は、配向ポリマーフィルム(例えば配向ポリプロピレン(OPP)、配向ナイロン、配向ポリエチレンテレフタレート(OPET))を含むことができる。いずれの実施形態においても、ポリマーフィルムからなる容器は、金属化フィルム(例えば金属(アルミニウム)コーティングを有するポリマーフィルム)を有することができる。いずれの実施形態においても、ポリマーフィルムからなる容器は、PVdC、PVdCコポリマー又はポリビニルアルコール(PVOH)でコーティングされたフィルム(例えばPVOHコーティングされたOPP、PVdCコーティングされたOPET、PVdCコポリマーでコーティングされたOPET、PVdCコーティングされたOPP、PVdCコポリマーでコーティングされたOPP)を有することができる。
【0078】
容器の酸素透過性は容器の組成及び厚さに影響される。いずれの実施形態においても、貯蔵空間を最小とし、インキュベーションを行うための様々な異なるサイズ又は形状の空間内に収まるように柔軟性の高い容器(例えば少なくとも1つの縁に沿って1以上のポリマーフィルムをシールすることによって製造されるバッグ)を使用することが好ましい場合がある。また、いずれの実施形態においても、比較的固い容器(例えばガラスビン又は管)を使用することが好ましい場合もある。いずれの容器の酸素透過性も、容器の壁を通過する酸素の流入又は流出の速度として測定することができる。その単位はnmol/(メートル×秒×Gpa)として報告される。
【0079】
いずれの実施形態においても、容器の壁の酸素透過性は例えば約100nmol/(m×s×Gpa)であってよい。いずれの実施形態においても、容器の壁の酸素透過性は、50nmol/(m×s×Gpa)以下、25nmol/(m×s×Gpa)以下、15nmol/(m×s×Gpa)以下、又は10nmol/(m×s×Gpa)以下とすることができる。例として、いずれの実施形態においても、容器は、約0.025mmの厚さ及び約6~8nmol/(m×s×Gpa)の酸素透過性を有するポリエチレンテレフタレートフィルムで形成することができる。
【0080】
いずれの実施形態においても、容器は密封することができる。特定の実施形態ではそうすることが好ましい場合もあるが、容器内の残留空気は容器を密封する前又は後で完全に除去される必要はない。したがって、いずれの実施形態においても、内部に水性培地、試料、及び/又は酸素捕捉系が入れられた密封容器はヘッドスペースを有しうる。ヘッドスペースは、容器が密封される際に容器内に閉じ込められたガス(例えば周囲空気)を含みうる。ヘッドスペースは、密封容器内に存在する酸素の主要な蓄積部を構成しないように比較的小さいことが好ましい。いずれの実施形態においても、ヘッドスペースの体積は約0ミリリットル~約50ミリリットルとすることができる。本開示の方法のいずれの実施形態においても、ヘッドスペース内の空気は完全に排出するか、少なくとも部分的に排出することができ、又はヘッドスペース内の空気をまったく除去しなくてもよい。
【0081】
本発明は、試料中の嫌気性微生物及び/又は微好気性微生物の存在を検出するための方法を提供する。更に、試料は、微好気性又は嫌気性微生物の濃度に対してより高い(例えば少なくとも2倍高い、少なくとも3倍高い、少なくとも5倍高い、少なくとも10倍高い、少なくとも100倍高い、少なくとも1000倍高い、少なくとも10000倍高い、少なくとも100000倍高い)濃度の好気性微生物を含んでもよい。検出しようとする微生物(すなわち「標的微生物」)が試料中に比較的少ないか、又は実際に極めて数が少ない場合には、微生物を検出するために試料中の微生物を濃縮することが必要とされる場合がある。有利な点として、本開示の方法は、好気性微生物と、微好気性微生物又は嫌気性微生物の少なくとも一方とを含む混合微生物集団中の嫌気性又は微好気性微生物の濃縮を促進するものである。
【0082】
本開示に基づく方法又はシステムによって検出することができる一般的な嫌気性細菌の非限定的な例としては、バクテロイデス属(Bacteroides)、フソバクテリウム属(Fusobacterium)、ポルフィロモナス属(Porphyromonas)、プレボテーラ属(Prevotella)、アクチノマイセス属(Actinomyces)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、クロストリジウム属(Clostridium)、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus)、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterium)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ペプトコッカス属(Peptococcus)、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus)及びベオロネラ属(Veillonella)が挙げられる。本発明によって容易に検出することができる普通に存在する食品汚染性の嫌気性細菌のいくつかとして、食中毒の原因となりうるクロストリジウム属の菌種(Clostridium sp.)、すなわち、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridiumperfringens)、クロストリジウム・スポロゲネス(Clostridium sporogenes)、C.ボツリヌス(クロストリジウム・ボツリヌム(C. botulinum))、及びC.ディフィシル(C. difficile)、の細菌が含まれる。
【0083】
本開示の方法又はシステムは、微好気性細菌を検出及び培養するために使用することができる。本発明に基づく微好気性生物の非限定的な例としては、カンピロバクター属(Campylobacter)、ボレリア属(Borrelia)、及びヘリコバクター属(Helicobacter)のものがある。例えば、本開示の方法又はシステムは、食中毒を引き起こす主要な2つの種であるカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)及びカンピロバクター・コリ(Campylobactercoli)の検出に用いることができる。カンピロバクター属の菌種(Campylobacter spp.)は食品汚染源として最も普通に存在し、通常の嫌気性培養中では増殖性が低いことが知られている。これらの生物は通常、増殖に5~15%の量の酸素を必要とする。
【0084】
いずれの実施形態においても、本開示の方法又はシステムは、通性嫌気性生物の検出及び培養に使用することができる。本発明によって検出することが可能な一般的な通性嫌気性生物の非限定的な例としては、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、エシェリキア属(Escherichia)、リステリア属(Listeria)、及びシュワネラ属(Shewanella)から選択される細菌が挙げられる。
【0085】
本明細書に述べられる培地は、栄養培地、選択培地、強化培地、及び増菌培地からなる群から選択することができる。好ましくは、培地は、嫌気性生物及び/又は微好気性生物の増殖、単離、及び/又は同定に特に適している。標的嫌気性生物及び/又は微好気性生物の培養に適した培地は、一般的に炭素源として、グルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、ラクトース、セロビオース、マルトース、キシロース、リボース、マンノース、トレハロース、セルビオース、アラビノース、デンプン加水分解物、又は適当な炭水化物源の1つ以上を含むことができる。適当な培地は更に、タンパク性物質又はその成分(例えば1種類以上のアミノ酸、1種類以上のオリゴペプチドなど)を含むことができる。タンパク性物質は約2~25%の量で導入されることが望ましく、例えばペプトン、大豆粕などの植物性タンパク質粉、又は例えば魚粉、肝臓粉、肉粉などの動物性タンパク質などの任意の適切な供給源を含むことができる。必要に応じて培地中に導入される塩類は、炭酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(II)七水和物、硫酸マグネシウム、又はこれらの混合物から選択することができる。固体栄養素と基質の混合物に、望ましくは総計で約25重量%~75重量%を含むように水を加えることができる。集積培養培地の非限定的な例としては、例えば、ボルトンブロス、セレナイトブロス、及びブイヨンが挙げられる。培地のpHは、疑われる細菌種の増殖の最適範囲に調整することができる。培地は、酸素捕捉系及び試料を加える前に滅菌することができる。
【0086】
本発明のいずれの実施形態においても、液体培地中への酸素捕捉系の組み込みは、酸素捕捉系が嫌気性生物又は微好気性生物の存在を検出しようとする試料の添加と同時に活性化されるように行われる。このような状況によって、液体培地中で適当なレベルの嫌気性環境を実現するための酸素捕捉反応の効率的なタイミング及び時間の長さが容易になる。
【0087】
本発明によれば、試料、培地、及び酸素捕捉系のインキュベーションは、濃縮及び/又は検出しようとする嫌気性及び/又は微好気性生物の少なくとも1回の細胞分裂を促進する最適条件で行うことができる。
【0088】
インキュベーション温度は、検出しようとする微生物に基づいて選択することができる。インキュベーションは、試料中に存在することが疑われる嫌気性生物/微好気性生物の増殖の助けになる温度で行うことができる。当業者であれば、標的試料中に存在することが疑われる微生物の性質に基づいて適当なインキュベーション温度(例えば約25℃、約30℃、約35℃、約37℃、約42℃)が選択するであろう。したがって、インキュベーション温度は、試料中に存在することが疑われる細菌の最適増殖温度に応じて決めることができ、例えば、カンピロバクター属の菌種の最適増殖温度は37~42℃であり、クロストリジウム属の菌種では約37℃である。ヒトの病原性微生物の多くではインキュベーションに理想的な温度は約37℃とすることができる。
【0089】
インキュベーションの時間は濃縮しようとする微生物に応じて異なりうる。時間は、予め決められた時間であってもよい。一部の実施形態では、水性混合物のインキュベーションは、混合物を少なくとも約1時間、少なくとも約5時間、少なくとも約8時間、少なくとも約12時間、少なくとも約18時間、少なくとも約24時間、少なくとも約48時間、又は少なくとも約72時間インキュベートすることを含みうる。一部の実施形態では、培養装置は、約24時間以下、約48時間以下、又は約72時間以下の時間でインキュベートすることができる。
【0090】
本開示の培養システム又は方法を使用して硫酸塩還元細菌を濃縮することができると考えられる。これらの実施形態では、水性混合物を最大で約28日間にわたってインキュベートすることが望ましい場合がある。
【0091】
本開示の方法では必要ではないが、水性混合物のインキュベーションは、必要に応じて、揺動下で水性混合物をインキュベートすることを更に含みうる(例えば容器を当該技術分野では周知の揺動手段を用いてインキュベーション時間の間、揺動することができる)。あるいは、水性混合物は、下記実施例に述べられる方法にしたがって揺動を行わずにインキュベートすることもできる。
【0092】
有利な点として、本開示の方法又はシステムにより、嫌気性/微好気性細菌を含む試料を接種した培地を、通常のインキュベーター(すなわち周囲(すなわち酸素含有)ガス状環境を有するインキュベーター)内でインキュベートすることが実現される。本開示に基づく方法の使用により、嫌気性チャンバーのような特殊な装置を用いる必要がなくなる。
【0093】
いずれの実施形態においても、本開示の方法は、必要に応じて容器中での嫌気性又は微好気性微生物の増殖を検出する工程を含む。いずれの実施形態においても、嫌気性又は微好気性微生物の増殖を検出することは、増殖を観察することを含みうる(例えば目視により、又は比濁計又は分光光度計などの器具を使用することにより)。観察は、インキュベーション工程の間及び/又はその後で行うことができる。いずれの実施形態においても、嫌気性生物及び/又は微好気性生物の増殖の観察は、濁度の観察を含みうる。一般的に、およそ1×10個以上の生細胞数を有する細菌懸濁液は観察可能な濁度を有する。培地中の濁度の観察によって、嫌気性生物及び/又は微好気性生物の濃縮が起こったことが示され得る。微生物の増殖は、例えばインキュベーション後に培地中にpH指示薬又は発色性若しくは蛍光発生酵素基質などの指示試薬を用い、指示薬の観察可能な変化を測定することによって検出することもできる。
【0094】
いずれの実施形態においても、本開示に基づく方法は、嫌気性微生物又は微好気性微生物を分析することによって、嫌気性微生物又は微好気性微生物を、酸素含有環境中で増殖する能力以外の特徴によって特徴付けられる微生物の属、種、又は群と関連付けることを更に含むことができる。微生物の分析は、これらに限定されるものではないが、生化学的方法(例えば特定の微生物又は微生物群と関連した酵素活性又は生体分子の検出)、遺伝子的方法(例えば核酸の増幅、核酸のハイブリダイゼーション、PCR、核酸の配列決定)、及び/又は免疫学的方法(例えばウエスタンブロット、ELISAなど)を含む当該技術分野では周知のあらゆる微生物分析法を用いて行うことができる。いずれの実施形態においても、特定の微生物又は微生物群と関連した代謝副産物又は毒素を検出することが望ましい場合がある。
【0095】
いずれの実施形態においても、本方法は、混合物を、酸素の存在又は非存在を示す物質と接触させることを更に含むことができる。いずれの実施形態においても、混合物を前記物質と接触させることは、前記物質を混合物中に溶解又は懸濁することを含みうる。したがって、いずれの実施形態においても、前記物質は水に可溶なものとすることができる。あるいは、前記物質は水に不溶なものであってもよく、例えば水に不溶なポリマー又はコーティング中に配置することもできる。例えば、前記物質は、培地及び/又は試験する試料中に添加することが可能であり、可逆的又は不可逆的な色変化によって特定の環境中の酸素の存在又は非存在を示す任意の適切な物質であってよい。したがって、指示薬は、酸素の存在下ではある色を有し、実質的に酸素が減少した、かつ/又は酸素を含まない雰囲気中では異なる色を有することができる。また、指示薬は、酸素が存在しない場合には無色であり、酸素が存在する場合に発色してもよく、又は指示薬は、酸素が存在する場合には無色であり、周辺雰囲気中に酸素がほとんど又はまったく存在しない場合に発色してもよい。いずれの実施形態においても、指示薬は蛍光性指示薬を含むことができる。適当な指示薬としては、これらに限定されるものではないが、当該技術分野では周知の酸素感受性色素が挙げられる。
【0096】
本開示の方法又はシステムで使用することができる水溶性の可逆発色指示薬の非限定的な1つの例としてメチレンブルーがある。メチレンブルーは酸素の非存在下では無色であるが、例えば空気で平衡化された水性液のような充分な溶存酸素の存在下では青い色を有する。いずれの実施形態においても、色指示物質は、酸素を含む雰囲気から実質的に酸素が減少した、かつ/又は酸素を含まない雰囲気への、又は酸素を含まない雰囲気から酸素を含む雰囲気へのすべての変化が色の変化によって示されるように可逆的な色変化を行うものとすることができる。
【0097】
いずれの実施形態においても、混合物を少なくとも1回の細胞分裂を促進する条件化でインキュベートした後で、本方法は、必要に応じて、混合物中の微生物を同定及び/又は計数することを含むことができる。微生物は、当該技術分野では周知の任意の適当な方法を用いて同定することができる(例えば生化学的同定、遺伝子による同定、免疫学的同定)。混合物中の微生物を計数することは、例えば、微生物が集積培地中で増殖した後に微生物を寒天上で平板培養して計数することを含みうる。いずれの実施形態においても、混合物又はその一部を、同定又は計数手順に先立って、精製し(例えば同定又は計数手順を妨げうる物質を除去する)、かつ/又は希釈することができる。
【0098】
更なる別の態様では、本開示は、嫌気性微生物又は微好気性微生物の濃縮、検出、又はその両方を行うためのキットを提供する。キットは、密封可能な容器と、有効量のi)酸化還元酵素ファミリーの酵素及びii)前記酵素の基質を含む酸素捕捉系と、を含み、前記酸素捕捉系は、所定体積の水性培地により水和されると活性化され、それとにより実質的に酸素が減少しているか又は酸素を含まない環境を作り出す。キットは、必要に応じて、1以上の特定の用途でキットを使用することを可能とするように選択される更なる構成要素を含むことができる。キットのいずれの実施形態においても、容器は酸素に対して実質的に不透過性である。
【0099】
本開示のキットのいずれの実施形態においても、容器は、小袋、及びエンベロープ、密封包装、バッグ、缶、ジャー、バレル、ボックス若しくはバリアバッグ、ジッパー付きバッグ(例えばZIPLOC保存用バッグ)、高密度実験用バッグ(例えばSTOMACHERブレンダーバッグ)、ストッパーを備えたフラスコ、ストッパーを備えたボトル、又は、嫌気性又は微好気性微生物の培養物を入れるのに適した任意の形態の密封容器、から選択することができる。いずれの実施形態においても、容器は、ストッパー、セプタム(例えば穿刺可能な自己密封式のセプタム)、スクリューキャップ、及び/又は熱シールを用いて密封することができる。
【0100】
容器は、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリメタクリロニトリル、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、二酢酸セルロース、ネオプレン(登録商標)、テフロン(登録商標)、ポリシロキサン、又はこれらの混合物及び/又は積層体を含む適当なポリマーで形成することができる。いずれの実施形態においても、容器はガラスで形成することができる。
【0101】
本発明によれば、キットは、錠剤の形態(ピル、ドーナツ型、又は小さい球形)、凍結乾燥形態、バッグ内部のスプレーコーティング、サッシェ、又は粉末状の迅速溶解型媒質などの様々な形態で与えられる酵素-基質系を含むことができる。
【0102】
いずれの実施形態においても、キットは、pH指示薬、酸素の存在又は非存在を示すための指示薬、使用説明書、又は上記の更なる構成要素の任意の2つ以上の組み合わせなどの更なる構成要素を更に含んでもよい。
【0103】
(例示的実施形態)
実施形態Aは、
容器中で、嫌気性微生物又は微好気性微生物を含む試料、嫌気性微生物又は微好気性微生物の増殖を支持する所定体積の培地、及び酸素捕捉系を含む水性混合物を形成することであって、
前記酸素捕捉系が有効量のi)酸化還元酵素ファミリーの酵素及びii)前記酵素の基質を含み、
前記酸素捕捉系が、水和されると活性化され、それにより前記培地中の溶存酸素を、前記嫌気性微生物又は微好気性微生物の増殖を促進する濃度まで減少させる、前記水性混合物を形成することと、
前記水性混合物を、前記嫌気性微生物又は微好気性微生物の少なくとも1回の細胞分裂を促進する条件下でインキュベートすることと、を含む方法である。
【0104】
実施形態Bは、
容器中で、嫌気性微生物又は微好気性微生物を含む試料、嫌気性微生物又は微好気性微生物の増殖を支持する所定体積の培地、及び酸素捕捉系を含む水性混合物を形成することであって、
前記酸素捕捉系が有効量のi)酸化還元酵素ファミリーの酵素及びii)前記酵素の基質を含み、
前記酸素捕捉系が、水和されると活性化され、それによって前記培地中の溶存酸素を、前記嫌気性微生物又は微好気性微生物の増殖を促進する濃度にまで減少させ、
前記酵素が、アスコルビン酸オキシダーゼ及びラッカーゼからなる群から選択される、前記水性混合物を形成することと、
前記水性混合物を、前記嫌気性微生物又は微好気性微生物の少なくとも1回の細胞分裂を促進する条件下でインキュベートすることと、を含む方法である。
【0105】
実施形態Cは、前記培地中の酸素を前記嫌気性微生物又は微好気性微生物の増殖を促進する濃度まで減少させることが、前記培地中の溶存酸素を約100μM以下の濃度まで減少させることを含む、実施形態A又は実施形態Bに記載の方法である。
【0106】
実施形態Dは、前記培地中の溶存酸素を前記嫌気性微生物又は微好気性微生物の増殖を促進する濃度まで減少させることが、前記培地中の溶存酸素を約10μM以下の濃度まで減少させることを含む、実施形態A又は実施形態Bに記載の方法である。
【0107】
実施形態Eは、前記培地中の酸素を前記嫌気性微生物又は微好気性微生物の増殖を促進する濃度にまで減少させる工程が、前記培地中の溶存酸素を約1μM以下の濃度まで減少させることを含む、実施形態A又は実施形態Bに記載の方法である。
【0108】
実施形態Fは、前記嫌気性微生物又は前記微好気性微生物の増殖を検出することを更に含む、実施形態A~Eのいずれか1つに記載の方法である。
【0109】
実施形態Gは、前記嫌気性微生物又は微好気性微生物を分析し、前記嫌気性微生物又は微好気性微生物を、酸素含有環境中で増殖する能力以外の特徴によって特徴付けられる微生物の属、種、又は群と関連付けることを更に含む、実施形態Fに記載の方法である。
【0110】
実施形態Hは、容器中で水性混合物を形成することが、酸素に対して実質的に不透過性の容器中で水性溶液を形成することを含む、実施形態A~Gのいずれか1つに記載の方法である。
【0111】
実施形態Iは、前記酵素がアスコルビン酸オキシダーゼを含み、前記基質が、アスコルビン酸若しくはその塩、アスコルビン酸の誘導体若しくはその塩、ヒドロキノン、ピロガロール、カテコール、又はこれらの基質のうちの任意の2種以上の混合物から構成される群から選択される、実施形態A~Hのいずれか1つに記載の方法である。
【0112】
実施形態Jは、前記アスコルビン酸の誘導体が、D-イソ-アスコルベート、D-アラボアスコルビン酸、6-アミノ-L-アスコルベート、6-デオキシ-L-アスコルベート、D-エリスロアスコルベート、6-O-フェニル-L-アスコルベート、及び6-S-フェニル-L-アスコルベートからなる群から選択される、実施形態Iに記載の方法である。
【0113】
実施形態Kは、前記酵素がラッカーゼを含み、前記基質が、フェノール、L-チロシン、o-ジフェノール及びp-ジフェノール、2,6-ジメトキシフェノール、並びにこれらの基質の任意の2種以上の混合物からなる群から選択される、実施形態A~Hのいずれか1つに記載の方法である。
【0114】
実施形態Lは、好気性微生物と、微好気性微生物又は嫌気性微生物の少なくとも一方とを含む混合微生物集団中の嫌気性又は微好気性微生物の濃縮を促進する、実施形態A~Kのいずれか1つに記載の方法である。
【0115】
実施形態Mは、前記水性混合物を形成した後、前記酵素が前記混合物中に少なくとも1000ユニット/Lの濃度で存在する、実施形態A~Lのいずれか1つに記載の方法である。
【0116】
実施形態Nは、前記水性混合物を形成した後、前記酵素が前記混合物中に少なくとも2000ユニット/Lの濃度で存在する、実施形態Mに記載の方法である。
【0117】
実施形態Oは、前記水性混合物を形成した後、前記酵素が前記混合物中に少なくとも4000ユニット/Lの濃度で存在する、実施形態Mに記載の方法である。
【0118】
実施形態Pは、前記水性混合物を形成した後、前記基質が前記混合物中に約0.1~100mg/mlの濃度で存在する、実施形態A~Lのいずれか1つに記載の方法である。
【0119】
実施形態Qは、前記水性混合物を形成した後、前記基質が前記混合物中に約0.1~50mg/mlの濃度で存在する、実施形態Pに記載の方法である。
【0120】
実施形態Rは、前記水性混合物を形成した後、前記基質が前記混合物中に約0.1~10mg/mlの濃度で存在する、実施形態Pに記載の方法である。
【0121】
実施形態Sは、前記水性混合物を形成した後、前記基質が前記混合物中に約0.1~5mg/mlの濃度で存在する、実施形態Pに記載の方法である。
【0122】
実施形態Tは、前記水性混合物を形成する前に、前記酸素捕捉系の少なくとも一部が、溶液、錠剤、サッシェ、容器の壁の内表面に配置されたコーティング、又は粉末として配備される、実施形態A~Sのいずれか1つに記載の方法である。
【0123】
実施形態Uは、前記水性混合物を形成することが、前記酸素捕捉系及び前記試料の混合物を、前記培地と接触させることを含む、実施形態A~Tのいずれか1つに記載の方法である。
【0124】
実施形態Vは、前記水性混合物を形成することが、前記酸素捕捉系を、前記試料及び前記培地を含む水性液体混合物と接触させることを含む、実施形態A~Uのいずれか1つに記載の方法である。
【0125】
実施形態Wは、前記試料が、空気、水、食品、飲料、動物、生体組織、生体液、及び環境表面からなる群から選択される供給源から採取された材料を含む、実施形態A~Vのいずれか1つに記載の方法である。
【0126】
実施形態Xは、前記嫌気性微生物が偏性嫌気性生物又は通性嫌気性生物である、実施形態A~Wのいずれか1つに記載の方法である。
【0127】
実施形態Yは、前記微生物が、バクテロイデス属(Bacteroides)、フソバクテリウム属(Fusobacterium)、ポルフィロモナス属(Porphyromonas)、プレボテーラ属(Prevotella)、アクチノマイセス属(Actinomyces)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、クロストリジウム属(Clostridium)、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus)、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterium)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ペプトコッカス属(Peptococcus)、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus)、ベオロネラ属(Veillonella)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、エシェリキア属(Escherichia)、リステリア属(Listeria)、及びシュワネラ属(Shewanella)からなる群から選択される属に属する、実施形態A~Xのいずれか1つに記載の方法である。
【0128】
実施形態Zは、前記微好気性微生物が、カンピロバクター属(Campylobacter)、ヘリコバクター属(Helicobacter)及びボレリア属(Borrelia)からなる群から選択される属に属する、実施形態A~Yのいずれか1つに記載の方法である。
【0129】
実施形態AAは、前記カンピロバクター属(Campylobacter)の前記微好気性微生物が、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)又はカンピロバクター・コリ(Campylobactercoli)からなる群から選択される種に属する、実施形態Zに記載の方法である。
【0130】
実施形態ABは、前記容器がポリマー材料で作製されている、実施形態A~AAのいずれか1つに記載の方法である。
【0131】
実施形態ACは、前記ポリマー材料が、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニリデンコポリマー、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、二酢酸セルロース、ネオプレン(登録商標)、テフロン(登録商標)、ポリシロキサン、並びにこれらの混合物及び積層体からなる群から選択される、実施形態ABに記載の方法である。
【0132】
実施形態ADは、前記微生物の増殖を検出することが、インキュベーション後の前記培地の観察可能な変化を測定又は検出することを含む、実施形態F~ACのいずれか1つに記載の方法である。
【0133】
実施形態AEは、前記培地の観察可能な変化を測定又は検出することが、濁度を測定又は観察することを含む、実施形態ADに記載の方法である。
【0134】
実施形態AFは、前記嫌気性微生物又は微好気性微生物が指示薬を用いて検出される、実施形態ADに記載の方法である。
【0135】
実施形態AGは、
前記容器内に酸素の存在又は非存在を示す物質を入れることを更に含む、実施形態A~AFのいずれか1つに記載の方法である。
【0136】
実施形態AHは、前記容器内に物質を入れることが、前記物質を前記培地と流体連通させて入れることを含む、実施形態AGに記載の方法である。
【0137】
実施形態AIは、前記物質が、色変化によって前記容器内の酸素の存在又は非存在を示す、実施形態AG又は実施形態AHに記載の方法である。
【0138】
実施形態AJは、前記物質がメチレンブルーである、実施形態AG~AIのいずれか1つに記載の方法である。
【0139】
実施形態AKは、前記培地中の溶存酸素を増殖を促進する濃度まで減少させることが、溶存酸素を約60分以内に前記濃度まで減少させることを含む、実施形態A~AJのいずれか1つに記載の方法である。
【0140】
実施形態ALは、前記培地中の溶存酸素を増殖を促進する濃度まで減少させることが、溶存酸素を約30分以内に前記濃度まで減少させることを含む、実施形態A~AKのいずれか1つに記載の方法である。
【0141】
実施形態AMは、微好気性微生物又は嫌気性微生物を培養するための培養システムであって、
有効量のi)酸化還元酵素ファミリーの酵素及びii)前記酵素の基質と、
容器と、
前記嫌気性又は微好気性微生物の増殖を支持する所定体積の水性培地と、を含み、
前記有効量が、前記所定体積中の溶存酸素を微好気性微生物又は偏性嫌気性微生物の増殖を促進する濃度まで減少させるのに有効である、培養システムである。
【0142】
実施形態ANは、微好気性微生物又は嫌気性微生物を培養するための培養システムであって、
有効量のi)アスコルビン酸オキシダーゼ及びラッカーゼからなる群から選択される、酸化還元酵素ファミリーの酵素及びii)前記酵素の基質と、
容器と、
前記嫌気性又は微好気性微生物の増殖を支持する所定体積の水性培地と、を含み、
前記有効量が、前記所定体積中の溶存酸素を微好気性微生物又は偏性嫌気性微生物の増殖を促進する濃度まで減少させるのに有効である、培養システムである。
【0143】
実施形態AOは、前記容器が酸素に対して実質的に不透過性である、実施形態AM又は実施形態ANに記載の培養システムである。
【0144】
実施形態APは、前記容器が密封可能である、実施形態AM~AOのいずれか1つに記載の培養システムである。
【0145】
実施形態AQは、前記容器が再密封可能である、実施形態APに記載の培養システムである。
【0146】
実施形態ARは、前記有効量が、前記所定体積中の溶存酸素を約100μM以下まで減少させるのに有効である、実施形態AM~AQのいずれか1つの培養システムである。
【0147】
実施形態ASは、前記有効量が、前記所定体積中の溶存酸素を約10μM以下まで減少させるのに有効である、実施形態AM~AQのいずれか1つに記載の培養システムである。
【0148】
実施形態ATは、前記有効量が、前記所定体積中の溶存酸素を約1μM以下まで減少させるのに有効である、実施形態AM~AQのいずれか1つに記載の培養システムである。
【0149】
実施形態AUは、前記有効量が、前記所定体積中の溶存酸素を、増殖を促進する濃度まで約60分以内に減少させるのに有効である、実施形態AM~ATのいずれか1つに記載の培養システムである。
【0150】
実施形態AVは、前記有効量が、前記所定体積中の溶存酸素を、増殖を促進する濃度まで約30分以内に減少させるのに有効である、実施形態AM~実施形態ATのいずれか1つに記載の培養システムである。
【0151】
実施形態AWは、
密封可能な容器と、
i)酸化還元酵素ファミリーの酵素及びii)前記酵素の基質を含む酸素捕捉系と、を含む、キットである。
【0152】
実施形態AXは、
密封可能な容器と、
i)アスコルビン酸オキシダーゼ及びラッカーゼからなる群から選択される、酸化還元酵素ファミリーの酵素及びii)前記酵素の基質を含む酸素捕捉系と、を含む、キットである。
【0153】
実施形態AYは、前記容器が酸素に対して実質的に不透過性である、実施形態AW又は実施形態AXに記載のキットである。
【0154】
実施形態AZは、前記密封可能な容器が再密封可能である、実施形態AW~AYのいずれか1つに記載のキットである。
【0155】
実施形態BAは、前記酵素が1つ以上の第1の槽に配分され、第1の槽のそれぞれが、前記酵素基質と反応することで所定体積の水性培地中の溶存酸素を、嫌気性微生物又は微好気性微生物の増殖を促進する溶存酸素濃度まで減少させるのに有効な量の酵素を有する、実施形態AW~AZのいずれか1つに記載のキットである。
【0156】
実施形態BBは、前記基質が前記1つ以上の第1の槽又は1つ以上の第2の槽に配分され、前記第1の槽又は第2の槽のそれぞれが、前記酵素と反応することで所定体積の水性培地中の溶存酸素を、嫌気性微生物又は微好気性微生物の増殖を促進する溶存酸素濃度にまで減少させるのに有効な量の基質を有する、実施形態AW~BAのいずれか1つに記載のキットである。
【0157】
実施形態BCは、前記第1の槽及び/又は前記第2の槽が前記容器である、実施形態BA又は実施形態BBに記載のキットである。
【0158】
実施形態BDは、前記容器が、小袋、エンベロープ、密封包装、バッグ、缶、ジャー、バレル、フラスコ、及びボトルからなる群から選択される、実施形態AW~BCのいずれか1つに記載のキットである。
【0159】
実施形態BEは、容器が、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、二酢酸セルロース、ネオプレン(登録商標)、テフロン(登録商標)、ポリシロキサン、及びこれらの混合物から選択されるポリマー材料で形成される、実施形態AW~BDのいずれか1つに記載のキットである。
【0160】
実施形態BFは、前記容器がガラスで作製されている、実施形態AW~BDのいずれか1つに記載のキットである。
【0161】
実施形態BGは、前記酵素及び/又は前記基質が、錠剤、サッシェ、前記容器の壁の内表面に配置されたコーティング、又は粉末からなる群から選択される形態でキット内に配備されている、実施形態AW~BFのいずれか1つに記載のキットである。
【0162】
実施形態BHは、前記容器内の酸素の存在又は非存在を示すために前記容器内に入れることができる物質を更に含む、実施形態AW~BGのいずれか1つに記載のキットである。
【0163】
実施形態BIは、前記物質が、色変化によって前記容器内の酸素の存在又は非存在を示す、実施形態BHに記載のキットである。
【0164】
実施形態BJは、前記物質がメチレンブルーを含む、実施形態BH又は実施形態BIに記載のキットである。
【0165】
実施形態BKは、pH指示薬を更に含む、実施形態AW~BJのいずれか1つに記載のキットである。
【0166】
実施形態BLは、使用説明書を更に含む、実施形態AW~BKのいずれか1つに記載のキットである。
【0167】
以下の実施例は、特許請求される発明をより分かりやすく説明するために示されるものであり、いかなる意味においても発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。以下に述べられるすべての具体的な材料及び方法は、その全体又は一部が本発明の範囲内に含まれる。これらの具体的な組成、材料、及び方法は、発明を限定することを目的としたものではなく、発明の範囲に含まれる特定の実施形態を説明するためのものに過ぎない。当業者であれば、発明の能力を行使することなく、また、発明の範囲から逸脱することなく、同等の材料、及び方法を開発することが可能である。本明細書に述べられる手順には、発明の範囲内になお含まれる多くの変更をなしうる点は理解されよう。かかる変更が発明の範囲内に含まれることは発明者らの意図するところである。
【実施例
【0168】
実施例1-微好気性及び嫌気性微生物の濃縮及び検出を示す
生物:カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)/カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)及びクロストリジウム・スポロゲネス(Clostridiumsporogenes)
使用培地:ボルトンブロス(増菌培地)
【0169】
【表1】
【0170】
ブロスの各成分を脱イオン水に溶かし、混合物をオートクレーブで滅菌した。滅菌処理後、約225mLのブロスを500mLの液体体積が入るバリアバッグ(アソシエイテッド・バッグ社(Associated Bag Company)ウィスコンシン州ミルウォーキー、部品番号185-100)中に分配した。
【0171】
アスコルビン酸オキシダーゼ(部品番号061A0500、カルザイム・ラボラトリーズ社(CalzymeLaboratories)カリフォルニア州サンルイオビスポ)及びアスコルビン酸ナトリウム(CAS番号134-03-2;シグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich))のストック液を脱イオン水中で調製した。
【0172】
微好気性生物カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)/カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)の濃縮及び検出
試料(バターフィールド緩衝溶液中にカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacterjejuni)/カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)を希釈した一晩培養物)を培地のバッグそれぞれに加えて培地中、約50CFU(約0.002CFU/10μL)の最終濃度とした。バッグを各バッグの開口部のジッパー型のシールを使用して密封した。次いで、バッグ内の培地に適当な体積のストック液を添加して培地中、4Kユニット/Lの酵素(アスコルビン酸オキシダーゼ)及び1.31mg/mLの基質(アスコルビン酸ナトリウム)の最終濃度とした。密封したバッグのそれぞれには、およそ30~100mLの周囲空気が培地とともにバッグ内に密封されていた。密封した各バッグを42℃の周囲雰囲気中で48時間インキュベートした。別のバッグを準備して上記と同様にインキュベートしたが、試料微生物は加えずに試薬及びバッグの滅菌状態のコントロールとした。この接種していないコントロールは目視では濁っておらず、各成分又はバッグからの汚染による増殖はないことを示した。カンピロバクター(Campylobacter)を接種したバッグも濁りは認められず、微生物が約10/mLよりも高い細胞濃度にまで増殖していないことを示した。カンピロバクター(Campylobacter)集積培養物及びコントロール培地のそれぞれからループ1個分(約10μl)を非選択的チャコールアガー上にストリークし、各プレートを一晩インキュベートした。増殖(すなわち100コロニー/プレートよりも多い)が、カンピロバクター集積培養物試料を接種したプレートで認められ、集積培養物中に作り出された酸素減少環境中で微好気性細菌が増殖したことが確認された。コントロール培地から接種したプレートでは増殖は認められなかった。
【0173】
偏性嫌気性細菌(例えばクロストリジウム・スポロゲネス(Clostridiumsporogenes))の濃縮及び検出
試料(バターフィールド緩衝溶液中にクロストリジウム・スポロゲネス(Clostridiumsporogenes)を希釈した一晩培養物)を培地のバッグに加えて培地中、約50CFUの最終濃度とした。次いで、バッグ内の培地に適当な体積のストック液を添加して培地中、4Kユニット/Lの酵素(アスコルビン酸オキシダーゼ)及び6.55mg/mLの基質(アスコルビン酸ナトリウム)の最終濃度とした。上記に述べたようにしてコントロールバッグ(細菌を加えないもの)を調製した。バッグを各バッグの開口部の圧力シールを使用して密封した。密封したバッグのそれぞれには、およそ30~100mLの周囲空気が培地とともにバッグ内に密封されていた。密封した各バッグを37℃の周囲雰囲気中で48時間インキュベートした。クロストリジウム・スポロゲネスを接種したバッグでは目視できる濁度によって増殖が示された。接種していないコントロールは目視では濁っておらず、各成分又はバッグからの汚染による増殖はないことを示した。
【0174】
本明細書に引用されるすべての特許、特許出願、及び公開公報、並びに電子的に入手可能な資料の開示内容の全体を、参照により援用する。本出願の開示内容と参照によって本明細書に援用されるいずれかの文献の開示内容との間になんらかの矛盾が存在する場合には、本出願の開示内容が優先するものとする。上記の「詳細な説明」及び「実施例」は、あくまで理解を助けるために示したものにすぎない。これらにより不要な限定がなされるものと理解されるべきではない。本発明は、図示及び説明した厳密な詳細に限定されるものではなく、当業者には明らかな変形例は特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に含まれるものとする。
【0175】
見出しはいずれも読者の便宜を図るためのものであって、特に断らないかぎり、見出しの後に続く文面の意味を限定するために使用されるものではない。
【0176】
本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく様々な改変を行うことが可能である。これらの実施形態及び他の実施形態は、以下の特許請求の範囲に含まれるものである。