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特許7012160エレクトロルミネセント素子および発光層ならびにその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-19
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】エレクトロルミネセント素子および発光層ならびにその用途
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/14 20060101AFI20220120BHJP
【FI】
H05B33/14 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020529788
(86)(22)【出願日】2018-01-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 CN2018074173
(87)【国際公開番号】W WO2019029135
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2020-03-30
(31)【優先権主張番号】201710670753.7
(32)【優先日】2017-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520047060
【氏名又は名称】グァンドン ジュフア プリンテッド ディスプレイ テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ ヂゥー
(72)【発明者】
【氏名】シィエ シアンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ソン ジンヤオ
(72)【発明者】
【氏名】フ ドン
【審査官】倉本 勝利
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-120903(JP,A)
【文献】特開2012-231154(JP,A)
【文献】特開2013-258402(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0069852(US,A1)
【文献】特開2017-152695(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0213876(US,A1)
【文献】特開2017-108108(JP,A)
【文献】特開2017-069562(JP,A)
【文献】特表2005-522005(JP,A)
【文献】特開2013-232629(JP,A)
【文献】国際公開第2008/120626(WO,A1)
【文献】特開2017-175128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのナノ結晶半導体材料と、少なくとも1つのエキシプレックスを生成する2つの有機材料とを含み、前記2つの有機材料の一方の有機材料の分子構造は電子供与体を含み、前記2つの有機材料のもう一方の有機材料の分子構造は電子受容体を含む、エレクトロルミネセント素子の発光層であって、
前記エキシプレックスの発光スペクトルが、前記ナノ結晶半導体材料の励起スペクトルと少なくとも部分的に重なっており、前記エキシプレックスの励起状態の減衰寿命が、前記ナノ結晶半導体材料の励起状態の減衰寿命よりも長く、前記エキシプレックスの発光ピーク値波長(emission peak value wavelength)が、前記ナノ結晶半導体材料の発光ピーク値波長よりも短いことを特徴とする、エレクトロルミネセント素子の発光層。
【請求項2】
請求項1に記載のエレクトロルミネセント素子の発光層であって、前記エキシプレックスの励起状態の減衰寿命が、前記ナノ結晶半導体材料の励起状態の減衰寿命の5倍よりも長いことを特徴とする、エレクトロルミネセント素子の発光層。
【請求項3】
請求項2に記載のエレクトロルミネセント素子の発光層であって、前記ナノ結晶半導体材料の励起状態の減衰寿命が1nsから100nsの範囲であり、前記エキシプレックスの励起状態の減衰寿命が0.5μsから100μsの範囲であることを特徴とする、エレクトロルミネセント素子の発光層。
【請求項4】
請求項1に記載のエレクトロルミネセント素子の発光層であって、前記エキシプレックスの一重項状態と三重項状態とのエネルギー準位差が0.5eV未満であることを特徴とする、エレクトロルミネセント素子の発光層。
【請求項5】
請求項1に記載のエレクトロルミネセント素子の発光層であって、前記エキシプレックスが2つの有機材料から成り、2つの有機材料のそれぞれの三重項状態エネルギー準位が、前記エキシプレックスの三重項状態エネルギー準位よりも高いことを特徴とする、エレクトロルミネセント素子の発光層。
【請求項6】
請求項1に記載のエレクトロルミネセント素子の発光層であって、前記電子供与体が、置換基のある、または置換基のないカルバゾール基、置換基のある、または置換基のない芳香族アミン基、置換基のある、または置換基のないフェノキサジン基、置換基のある、または置換基のないフェノチアジン基、置換基のある、または置換基のない9,10-ジヒドロアクリジン(dihydracridine)基、置換基のある、または置換基のないインドロカルバゾール基、および、置換基のある、または置換基のないインデノカルバゾール基より任意に選ばれ、上記のいずれの基においても、前記置換基が環状または非環状であることを特徴とする、エレクトロルミネセント素子の発光層。
【請求項7】
請求項1に記載のエレクトロルミネセント素子の発光層であって、前記電子受容体が、ニトリル基、置換基のある、または置換基のないカルボニル基、置換基のある、または置換基のないベンゾフェノン基、置換基のある、または置換基のないスルホニル基、置換基のある、または置換基のないホスフィニル基、置換基のある、または置換基のないトリアジン基、置換基のある、または置換基のないピリジン基、置換基のある、または置換基のないピリミジン基、置換基のある、または置換基のないピラジン基、置換基のある、または置換基のないオキサジアゾール基、置換基のある、または置換基のないトリアゾール基、置換基のある、または置換基のないキサントン基、置換基のある、または置換基のないイミダゾール基、置換基のある、または置換基のないチアゾール基、置換基のある、または置換基のないオキサゾール基、および、置換基のある、または置換基のない9H-チオキサンテン-9-オン-10,10-ジオキシド基より任意に選ばれ、上記のいずれの基においても、前記置換基が環状または非環状であることを特徴とする、エレクトロルミネセント素子の発光層。
【請求項8】
請求項に記載のエレクトロルミネセント素子の発光層であって、前記エキシプレックスを成す2つの有機材料のモル比が3:7から7:3であることを特徴とする、エレクトロルミネセント素子の発光層。
【請求項9】
請求項1からのいずれか1項に記載のエレクトロルミネセント素子の発光層であって、前記ナノ結晶半導体材料が、II~VI族ナノ結晶半導体材料、III~V族ナノ結晶半導体材料、IV~VI族ナノ結晶半導体材料、ペロブスカイト結晶型のナノ結晶半導体材料、および、単一の、または様々な炭素族元素から成るナノ結晶半導体材料の、1つ以上より任意に選ばれることを特徴とする、エレクトロルミネセント素子の発光層。
【請求項10】
請求項に記載のエレクトロルミネセント素子の発光層であって、前記ナノ結晶半導体材料が、II~VI族の、CdSe、CdS、ZnSe、ZnS、CdTe、ZnTe、CdZnS、CdZnSe、CdZnTe、ZnSeS、ZnSeTe、ZnTeS、CdSeS、CdSeTe、CdTeS、CdZnSeS、CdZnSeTe、CdZnSTe、CdSeSTe、ZnSeSTe、およびCdZnSeSTe;III~V族の、InP、InAs、およびInAsP;IV~VI族の、PbS、PbSe、PbTe、PbSeS、PbSeTe、およびPbSTe;ペロブスカイト結晶構造型の有機金属ハロゲン化物半導体材料 ABX (式中、Aは有機基またはアルカリ金属元素であり、Bは金属元素であり、Xはハロゲン元素である);および、炭素ナノ結晶、ケイ素ナノ結晶、および炭化ケイ素ナノ結晶の、1つ以上より任意に選ばれることを特徴とする、エレクトロルミネセント素子の発光層。
【請求項11】
請求項1からのいずれか1項に記載のエレクトロルミネセント素子の発光層であって、前記発光層中の前記ナノ結晶半導体材料の質量百分率が1%から99%の範囲であることを特徴とする、エレクトロルミネセント素子の発光層。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の発光層を持つエレクトロルミネセント素子。
【請求項13】
ディスプレーまたは照明装置における、請求項12に記載のエレクトロルミネセント素子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置の技術分野に関し、より詳しくは、エレクトロルミネセント素子および発光層ならびにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ結晶半導体材料(ナノ結晶としても知られる)は、限られた数の原子から成り、ナノメートルサイズの少なくとも2次元の大きさを持つ。その外観は微小な点または棒/線に似ている。内部の電子運動は2次元空間に限られている。量子閉じ込め効果は非常に顕著である。光または電気で励起すると、ナノ結晶半導体材料は、非常に半値幅の狭い(一般に、半値幅は40nm未満)スペクトルを発すると考えられる。発光色は主に粒径によって決まる。この発光は、高い光色純度、高い発光量子効率、安定した性能などの特徴を持つ。
【0003】
ナノ結晶半導体材料は、高い発光効率、制御可能な発光色、高い色純度などの長所により、次世代ディスプレー技術において非常に大きな潜在的用途がある。励起方式には、一般に、フォトルミネッセンス方式とエレクトロルミネッセンス方式が含まれる。フォトルミネッセンス方式では、照明分野、LCDディスプレーバックライトモジュールなどに用いられる励起光源として、主に青色光LEDが使用される。エレクトロルミネセント素子は照明およびディスプレーの分野に応用可能で、特に、ディスプレーとしてより広い用途が見込まれる。
【0004】
成長著しい発光装置として、ナノ結晶半導体材料で作られたエレクトロルミネセント素子が近年注目を集めている。通常、エレクトロルミネセント素子は少なくとも、第1電極層と、第2電極層と、第1電極層と第2電極層との間の発光層とを含む。量子封じ込め効果の特性により、ナノ結晶半導体材料で作られた発光層を持つエレクトロルミネセントダイオードは、QLED(Qは、量子の意を表し、具体的な発光材料は、ドット状、棒状、または線状の材料を含むと考えられる)とも呼ばれる。
【0005】
従来のOLEDと比べ、QLEDは、優れた色純度、明るさ、可視角などの特性を持つ。ナノ結晶半導体材料は、印刷用資材(例えば、インキ)調製用の溶媒に分散させることができ、溶液法による製造に適しており、印刷、転写、スピンコーティング、スクレープコーティング、その他の方法による発光フィルムの製造に使用可能であり、大面積溶液処理を実現する。インクジェット印刷法と同様のドロップオンデマンド法を用いると、発光材料を必要量に従って所定の位置に正確に置き、堆積させることで、緻密なピクセルフィルム構造を形成して、大型のカラーQLEDディスプレースクリーンを製造することができる。このような特性により、ナノ結晶半導体材料で作られた発光層を持つQLEDは、固体照明、パネルディスプレー等の分野において幅広い用途が可能であり、学界および産業界で広く注目を集めている。
【0006】
ナノ結晶半導体材料の改良およびQLEDデバイス構造の弛まぬ最適化により、既存のQLEDデバイスの性能は格段に向上したが、その発光効率は、工業的生産の要求にはまだ応えられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】中国特許出願公開第106997927号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、エレクトロルミネセント素子の発光層の提示が必要である。この発光層は、ナノ結晶半導体材料を使用し、発光効率が高く、工業的生産および利用に適したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
エレクトロルミネセント素子の発光層は、少なくとも1つのナノ結晶半導体材料と、少なくとも1つのエキシプレックスとを含む。
【0010】
エキシプレックスの発光スペクトルは、ナノ結晶半導体材料の励起スペクトルと、少なくとも一部が重なっており、エキシプレックスの励起状態の減衰寿命は、ナノ結晶半導体材料の励起状態の減衰寿命よりも長い。
【0011】
本発明の原理および長所は以下のとおりである。
【0012】
ナノ結晶半導体材料の長所を基にして、ナノ結晶半導体材料で作られた発光層を持つエレクトロルミネセントダイオード(QLED)の発光効率を改善するため、本発明では多くの研究および分析を行う。
【0013】
まず、OLEDのHTLおよびETLを直接用いて、QLED素子の発光層に合うものを捜したが、性能は望ましいものでないことが分かった。その理由は、ナノ結晶半導体材料のHOMOおよびLUMOが深く、発光層への正孔および電子の注入に非常に大きな効率差があり、発光層内の電子と正孔の数量がアンバランスで、材料が不安定となり、不具合が生じることである。従って、既存のQLED素子の寿命が比較的短いことの主な理由の1つは、発光層内の電流キャリヤ濃度の甚だしい不均衡によるものと結論することができる。従って、適切な補助材料を発光層に導入して正孔と電子の注入を受け入れるようにすれば、発光層内の正孔と電子の数量のバランスが良くなると考えられる。しかし、解決すべき重要な問題、即ち、新たに導入した補助材料からナノ結晶半導体材料へどのようにして効率良くエネルギーを移動させるか、という問題がある。
【0014】
更に、ナノ結晶半導体材料は、カラーフィルタ/色変換フィルムへの応用には成功しており、ナノ結晶半導体材料の安定性が良いことは示されているが、これは、(一重項状態)励起子に関して、ナノ結晶半導体材料のエネルギーが非常に安定していることを本質的に意味している。従って、エネルギー供与体材料上で電子と正孔とを対にして励起子を生成し、エネルギー供与体材料上の励起子のエネルギーをナノ結晶半導体材料へ移動させ、また、ナノ結晶半導体材料をエネルギー受容体として使用できるならば、効率の良い安定したQLED素子を得ることが期待できる。
【0015】
以上より、QLED発光効率の改善には、エネルギーを効率良くナノ結晶半導体材料へ移動することのできるエネルギー供与体材料の発見が鍵となる。発明者の研究および分析より、Forster共鳴エネルギー移動(FRET)による、エネルギー供与体材料からナノ結晶半導体材料への効率良いエネルギー移動には、次の2つの主要条件を満たす必要があることが分かった。
【0016】
(1)エネルギー供与体材料の発光スペクトルが、ナノ結晶半導体材料の励起スペクトルと大きく重なっている。
【0017】
(2)エネルギー供与体材料の励起状態の減衰寿命が、ナノ結晶半導体材料の励起状態の減衰寿命よりも著しく長くなければならない。
【0018】
第1の条件について、一般にナノ結晶半導体材料は幅広い励起スペクトルを持つため、ナノ結晶半導体材料の励起スペクトルと大きく重なる発光スペクトルを持つエネルギー供与体材料は簡単に見つけることができる。
【0019】
第2の条件が鍵であり、QLED素子の性能向上の主な課題である。これまでの報文において使用されている主要材料の大半は、エレクトロルミネセント素子内の全エネルギーを効率良く利用または移動することができず、デバイス効率は乏しい。発明者の分析から、その理由は主に次にあることが分かった。ひとつに、有機染料の大半はエレクトロルミネセント素子内の一重項状態エネルギーしか利用できず、三重項状態エネルギーは、禁制遷移のため光を発することができず、または、効率良いエネルギー移動を行うことができない。もうひとつに、ナノ結晶半導体材料の蛍光励起状態の寿命はnsのレベルであり、殆どの有機材料の一重項状態の減衰寿命もnsのレベルである(例えば、PVK)。これでは効率良いエネルギー移動を行うための第2条件を満たすことができず、大半の有機材料は、ナノ結晶半導体材料に関して良い主要材料とはならない。
【0020】
上記の研究に基づき、本発明では、独創的に、遅延蛍光を発することのできるエキシプレックスを、ナノ結晶半導体材料で作られた発光層へ応用する。エキシプレックスの励起状態の減衰寿命は、ナノ結晶半導体材料の励起状態の減衰寿命よりも長く、エキシプレックスの発光スペクトルは、ナノ結晶半導体材料の励起スペクトルと少なくとも部分的に重なっており、これらは2つの主要条件に適っている。一方、遅延蛍光を発するエキシプレックスは、エレクトロルミネセント素子内の一重項状態エネルギーと三重項状態エネルギーを高効率で同時に利用できるため、素子の発光効率が更に改善する。従って、本発明の発光層の発光過程では、遅延蛍光を発するエキシプレックスが、正孔と電子がエネルギー準位のより深いナノ結晶半導体材料へ直接注入されるのを防ぎ、またはそれを少なくして、エネルギーをナノ結晶半導体材料へ効率良く移動させることで、安定かつ発光効率の高い、LED素子の発光層を得ることができる。
【0021】
更に、遅延蛍光を発するエキシプレックスは、単分子構造の従来の遅延蛍光材料とは全く異なる発光メカニズムを持つ。エキシプレックスを生成する2つの有機材料のそれぞれは、本来、遅延蛍光特性を持たない、即ち、エキシプレックスを生成する2つの有機材料のそれぞれは、本来、遅延蛍光材料ではないが、共存状態でのみ、エキシプレックスを生成する2つの有機材料は遅延蛍光を発することができる。単分子構造の遅延蛍光材料の発光過程は分子内での電荷移動を伴い、遅延蛍光エキシプレックスの発光過程は異なる分子間での電荷移動を伴う。更に、単分子構造の遅延蛍光材料に比べ、エキシプレックスは高い柔軟性を示し、次のような長所を持つ。発光層内の電荷のバランスを取るために、エキシプレックスを生成する2つの有機分子の比を調整することで、発光層内の電子と正孔の相対濃度を調節することができる。エネルギーバンドギャップの大きい単分子構造の遅延蛍光材料(例えば、青色発光遅延蛍光材料)を励起する際、分子内の電荷移動が分子内の化学結合を切断し、材料の劣化が起きることがあるが、遅延蛍光エキシプレックスを生成する2つの有機材料の間には化学結合がないため、2種類の分子間の電荷移動は化学結合の切断を生じない。
【0022】
ある実施形態において、エキシプレックスの励起状態の減衰寿命は、ナノ結晶半導体材料の励起状態の減衰寿命の5倍よりも長く、ある実施形態において、10倍よりも長い。
【0023】
ある実施形態において、エキシプレックスの励起状態の減衰寿命は、ナノ結晶半導体材料の励起状態の減衰寿命の5倍よりも長く、望ましくは10倍よりも長い。
【0024】
ある実施形態において、ナノ結晶半導体材料の励起状態の減衰寿命は1nsから100nsの範囲であり、エキシプレックスの励起状態の減衰寿命は0.5μsから100μsの範囲である。
【0025】
ある実施形態において、エキシプレックスの一重項状態と三重項状態とのエネルギー準位差は0.5eV未満、ある実施形態において、0.3eV未満である。
【0026】
ある実施形態において、エキシプレックスの一重項状態と三重項状態とのエネルギー準位差は0.5eV未満、望ましくは0.3eV未満である。
【0027】
ある実施形態において、エネルギー移動を更に確実にするため、エキシプレックスの発光ピーク値波長(emission peak value wavelength)は、ナノ結晶半導体材料のそれよりも短い。
【0028】
ある実施形態において、エキシプレックスは2つの有機材料から成る。2つの有機材料のそれぞれの三重項状態エネルギー準位は、エキシプレックスの三重項状態エネルギー準位よりも高い。遅延蛍光エキシプレックスを成す2つの有機材料は、エレクトロルミネセント素子内の電流キャリヤバランスが良くなり、発光効率が改善するよう、電子と正孔の輸送能力が良好である。
【0029】
ある実施形態において、2つの有機材料の一方の有機材料の分子構造は、少なくとも1つの電子供与体を含み、2つの有機材料のもう一方の有機材料の分子構造は、少なくとも1つの電子受容体を含む。
【0030】
ある実施形態において、電子供与体は、置換基のある、または置換基のないカルバゾール基、置換基のある、または置換基のない芳香族アミン基、置換基のある、または置換基のないフェノキサジン基、置換基のある、または置換基のないフェノチアジン基、置換基のある、または置換基のない9,10-ジヒドロアクリジン(dihydracridine)基、置換基のある、または置換基のないインドロカルバゾール基、および、置換基のある、または置換基のないインデノカルバゾール基より任意に選ばれる。上記のいずれの基においても、置換基は環状または非環状である。
【0031】
ある実施形態において、電子供与体は、置換基のある、または置換基のないカルバゾール基、および、置換基のある、または置換基のない芳香族アミン基より任意に選ばれる。電子受容体は、置換基のある、または置換基のないホスフィニル基、置換基のある、または置換基のないトリアジン基、および、置換基のある、または置換基のないピリジン基より任意に選ばれる。
【0032】
ある実施形態において、電子供与体および電子受容体は、芳香族化合物上に置換基を持つ。ある実施形態において、電子供与体または電子受容体は、芳香族化合物上に置換基を持つ。ある実施形態において、芳香族化合物はベンゼンである。
【0033】
ある実施形態において、遅延蛍光エキシプレックスを生成する2つの有機材料のモル比(または分子数比)は3:7から7:3でありある実施形態において、モル比は5:5である。
【0034】
ある実施形態において、ナノ結晶半導体材料は、II~VI族ナノ結晶半導体材料、III~V族ナノ結晶半導体材料、IV~VI族ナノ結晶半導体材料、ペロブスカイト結晶型のナノ結晶半導体材料、および、単一の、または様々な炭素族元素から成るナノ結晶半導体材料の、1つ、2つ、3つ以上より任意に選ばれる。
【0035】
ある実施形態において、ナノ結晶半導体材料は、II~VI族の、CdSe、CdS、ZnSe、ZnS、CdTe、ZnTe、CdZnS、CdZnSe、CdZnTe、ZnSeS、ZnSeTe、ZnTeS、CdSeS、CdSeTe、CdTeS、CdZnSeS、CdZnSeTe、CdZnSTe、CdSeSTe、ZnSeSTe、およびCdZnSeSTe;III~V族の、InP、InAs、およびInAsP;IV~VI族の、PbS、PbSe、PbTe、PbSeS、PbSeTe、およびPbSTe;ペロブスカイト結晶構造型の有機金属ハロゲン化物半導体材料 ABX {式中、Aは、有機基(CHNH、CHCHNH、NHCH=NHなど。但し、これらに限定しない)、またはアルカリ金属元素(K、Rb、Csなど。但し、これらに限定しない)であり、Bは金属元素(Pbなど。但し、これに限定しない)であり、Xはハロゲン族元素(Cl、Br、Iなど。但し、これらに限定しない)である};および、炭素ナノ結晶、ケイ素ナノ結晶、および炭化ケイ素ナノ結晶の、1つ、2つ、3つ以上より任意に選ばれる。
【0036】
ある実施形態において、ナノ結晶半導体材料は、II~VI族の、CdSe、CdS、ZnSe、ZnS、CdTe、ZnTe、CdZnS、CdZnSe、CdZnTe、ZnSeS、ZnSeTe、ZnTeS、CdSeS、CdSeTe、CdTeS、CdZnSeS、CdZnSeTe、CdZnSTe、CdSeSTe、ZnSeSTe、およびCdZnSeSTe;III~V族の、InP、InAs、およびInAsP;IV~VI族の、PbS、PbSe、PbTe、PbSeS、PbSeTe、およびPbSTe;ペロブスカイト結晶構造型の有機金属ハロゲン化物半導体材料 ABX {式中、Aは、有機基(CHNH、CHCHNH、NHCH=NHなど。但し、これらに限定しない)、またはアルカリ金属元素(K、Rb、Csなど。但し、これらに限定しない)であり、Bは金属元素(Pbなど。但し、これに限定しない)であり、Xはハロゲン族元素(Cl、Br、Iなど。但し、これらに限定しない)である};および、炭素ナノ結晶、ケイ素ナノ結晶、および炭化ケイ素ナノ結晶の、1つ以上より任意に選ばれる。
【0037】
ある実施形態において、発光層中のナノ結晶半導体材料の質量百分率は1%から99%の範囲、ある実施形態において、40%から90%の範囲である。
【0038】
ある実施形態において、発光層中のナノ結晶半導体材料の質量百分率は1%から99%の範囲、望ましくは40%から90%の範囲である。
【0039】
ある実施形態において、低極性溶媒に溶解させるため、ナノ結晶半導体材料の外側に有機配位子を加えても良い。有機配位子は、酸配位子、チオール配位子、アミン配位子、(オキシ)ホスフィン配位子、リン脂質、ホスファチジルコリン、ポリビニルピリジンなどの1つ以上(但し、これらに限定しない)を含む。酸配位子は、カプリン酸、ウンデシレン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、およびステアリン酸の1つ以上を含む。チオール配位子は、オクタンチオール、ドデカンチオール、およびオクタデカンチオールの1つ以上を含む。アミン配位子は、オレイルアミン、オクタデシルアミン、およびオクチルアミンの1つ以上を含む。(オキシ)ホスフィン配位子は、トリ-n-オクチルホスフィンおよびトリオクチルホスフィンオキシドの1つ以上を含む。
【0040】
ある実施形態において、水または他の高極性溶媒に溶解させるため、ナノ結晶半導体材料の外側に有機配位子を加えても良い。配位子は、メルカプト酸配位子およびメルカプトアルコール配位子の1つ以上(但し、これらに限定しない)を含む。メルカプト酸配位子は、メルカプト酢酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプト安息香酸、4-メルカプト安息香酸、6-メルカプトヘキサン酸、DL-メルカプトコハク酸、11-メルカプトウンデカン酸、12-メルカプトドデカン酸、および16-メルカプトヘキサデカン酸の1つ以上を含む。メルカプトアルコール配位子は、2-メルカプトエタノール、1-チオグリセロール、3-メルカプト-2-ブタノール、4-メルカプト-1-ブタノール、6-メルカプト-1-ヘキサノール、8-メルカプト-1-オクタノール、9-メルカプト-1-ノナノール、および11-メルカプト-1-ウンデカノールの1つ以上を含む。
【0041】
本発明の発光層は、1つの発光フィルム層を含む。別の実施形態において、本発明の発光層は、順次積層した2または3つの発光フィルム層を含む。それぞれの発光フィルム層は、単一の材料から成るものでも良く、複数の材料を混ぜ合わせたものでも良い。
【0042】
本発明の発光層は、1つの発光フィルム層、または順次積層した少なくとも2つの発光フィルム層を含む。それぞれの発光フィルム層は、単一の材料から成るものでも良く、複数の材料を混ぜ合わせたものでも良い。
【0043】
エキシプレックスとナノ結晶半導体材料は、同じ発光フィルム層内にあっても良く、異なる発光フィルム層内にあっても良い。エキシプレックスとナノ結晶半導体材料とがそれぞれ別の発光フィルム層内にある場合、エキシプレックスが入っている発光フィルム層と、ナノ結晶半導体材料が入っている発光フィルム層との垂直距離は、10nm以内である。
【0044】
本発明は更に、前述の発光層を持つエレクトロルミネセント素子を提示する。この発光層は、少なくとも1つのナノ結晶半導体材料と、少なくとも1つのエキシプレックスとを含み、エキシプレックスの発光スペクトルは、ナノ結晶半導体材料の励起スペクトルと少なくとも部分的に重なっており、エキシプレックスの励起状態の減衰寿命は、ナノ結晶半導体材料の励起状態の減衰寿命よりも長い。
【0045】
本発明は更に、前述の発光層を持つエレクトロルミネセント素子を提示する。
【0046】
本発明のエレクトロルミネセント素子は、この発光層を用いることで、発光過程においてエネルギーを移動させることができる。エネルギー移動過程において、エネルギーは、遅延蛍光を発するエキシプレックスからナノ結晶半導体材料へ効率良く移動することができる。一方、エキシプレックスを生成する2つの有機材料は、発光層内の正孔と電子の数のバランスを取ることに適している。従って、このエレクトロルミネセント素子は高い効率と安定性という長所を持つ。
【0047】
ある実施形態において、エレクトロルミネセント素子は、第1電極層と、発光層と、第2電極層とを含み、これらは順次積層されている。
【0048】
ある実施形態では、第1電極層と第2電極層との間に更に機能層を設ける。機能層は、正孔注入層、正孔輸送層、電子障壁層、正孔障壁層、電子輸送層、および電子注入層の1つ以上である。機能層と発光層の位置関係は、従来の条件に従って定めることができる。
【0049】
本発明は更に、ディスプレーまたは照明装置における、本エレクトロルミネセント素子の使用を提示する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】本発明の1つの実施形態による、エレクトロルミネセント素子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
次に、エレクトロルミネセント素子および発光層ならびにその用途について、具体的な実施形態を参照しながら更に詳しく説明する。
【0052】
この実施形態において、エレクトロルミネセント素子の構造は図1に示すとおりであって、第1電極層101と、正孔注入層104と、正孔輸送層または電子障壁層105と、発光層103と、電子輸送層または正孔障壁層106と、電子注入層107と、第2電極層102とを含み、これらが基板100上に順次積層されている。
【0053】
使用する材料に関する情報は次のとおりである。
PEDOT:PSSは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)であり、
PVKは、ポリ(9-ビニルカルバゾール)であり、
CdSe/ZnS量子ドットは、コアとしてCdSeを、シェルとしてZnSを用いた点状ナノ結晶半導体材料を指し、
CdSe/ZnS量子ロッドは、コアとしてCdSeを、シェルとしてZnSを用いた棒状ナノ結晶半導体材料を指す。
【0054】
有機材料の構造は以下のとおりである。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【実施例
【0055】
[実施例1]
【0056】
この実施形態によるエレクトロルミネセント素子は次の構造を持つ。
ITO/PEDOT:PSS/PVK/PO-T2T:mCP:(CdSe/ZnS量子ドット)/PO-T2T/LiF/Al
【0057】
発光層は、有機材料として、PO-T2T(三重項状態エネルギー準位は2.99eV)とmCP(三重項状態エネルギー準位は2.94eV)を使用し、遅延蛍光エキシプレックス(三重項状態エネルギー準位は約2.67eV、一重項状態エネルギー準位は約2.60eV、発光スペクトルは青色光波帯)を生成する。
【0058】
CdSe/ZnS量子ドットをナノ結晶半導体材料として使用し、励起スペクトルは紫外から緑色光波帯に及び、発光スペクトルは赤色光波帯にある。
【0059】
エキシプレックスの励起状態の減衰寿命(約500ns)は、ナノ結晶半導体材料の励起状態の減衰寿命(約50ns)の10倍である。
【0060】
エレクトロルミネセント素子を以下の工程で調製する。
【0061】
(1)基板の処理:基板表面をガラス洗浄剤および純水で順次洗浄し、窒素ガスを吹き付けて乾燥後、150℃で1時間焼成し、大気環境中で5分間UV処理を行って、清浄な基板およびITO表面を得る。
【0062】
(2)正孔注入層の調製:PEDOT:PSSインキを3000rpm/分の回転速度で30秒間スピンコーティングした後、110℃で15分間焼成し、正孔注入層フィルムを得る。
【0063】
(3)正孔輸送層の調製:PVKインキ(5mg/ml)を1500rpm/分の回転速度で30秒間スピンコーティングした後、150℃で30分間焼成し、正孔輸送層フィルムを得る。
【0064】
(4)発光層の調製:PO-T2T(9.1mg/ml)と、mCP(4.1mg/ml)と、CdSe/ZnS量子ドット(16mg/ml)との混合物をクロロベンゼンに溶解して発光層インキを作り、この発光層インキを1000rpmの回転速度で30秒間スピンコーティングした後、150℃で20分間焼成し、発光層フィルムを得る。
【0065】
(5)電子輸送層、電子注入層、およびカソードの調製:PO-T2T(40nm)と、LiF(1nm)と、Al(150nm)とを、蒸着法で順次蒸着し、電子輸送層と電子注入層とカソードを順次形成する。
【0066】
[比較例1]
【0067】
この比較例による、発光層として、エキシプレックスを含まない純粋なQDを用いたエレクトロルミネセント素子は、次の構造を持つ。
【0068】
ITO/PEDOT:PSS/PVK/(CdSe/ZnS量子ドット)/PO-T2T/LiF/Al
【0069】
エレクトロルミネセント素子の調製法は実施例1と同様である。違いは、発光層が(CdSe/ZnS量子ドット)ナノ結晶半導体材料である点である。
【0070】
[実施例2]
【0071】
この実施形態によるエレクトロルミネセント素子は次の構造を持つ。
ITO/PEDOT:PSS/PVK/PO-T2T:mCP:(CdSe/ZnS量子ロッド)/PO-T2T/LiF/Al
【0072】
発光層は、有機材料として、PO-T2T(三重項状態エネルギー準位は2.99eV)とmCP(三重項状態エネルギー準位は2.94eV)を使用し、遅延蛍光エキシプレックス(三重項状態エネルギー準位は約2.67eV、一重項状態エネルギー準位は約2.60eV、発光スペクトルは青色光波帯)を生成する。
【0073】
CdSe/ZnS量子ロッドをナノ結晶半導体材料として使用し、励起スペクトルは紫外から緑色光波帯に及び、発光スペクトルは赤色光波帯にある。
【0074】
エキシプレックスの励起状態の減衰寿命(約500ns)は、ナノ結晶半導体材料の量子ロッドの励起状態の減衰寿命(約20ns)の25倍である。
【0075】
エレクトロルミネセント素子の調製法は実施例1と同様である。違いは、実施例1のCdSe/ZnS量子ドットを、CdSe/ZnS量子ロッドに置き換える点である。
【0076】
[実施例3]
【0077】
この実施形態によるエレクトロルミネセント素子は次の構造を持つ。
ITO/PEDOT:PSS/PVK/DPTPCz:TAPC:(CdSe/ZnS量子ドット)/PO-T2T/LiF/Al
【0078】
発光層は、有機材料として、DPTPCz(三重項状態エネルギー準位は2.77eV)とTAPC(三重項状態エネルギー準位は2.91eV)を使用し、遅延蛍光エキシプレックス(三重項状態エネルギー準位は2.47eV、一重項状態エネルギー準位は2.52eV、発光スペクトルは緑色光波帯)を生成する。
【0079】
CdSe/ZnS量子ドットをナノ結晶半導体材料として使用し、励起スペクトルは紫外から緑色光波帯に及び、発光スペクトルは赤色光波帯にある。
【0080】
エキシプレックスの励起状態の減衰寿命(約2μs)は、ナノ結晶半導体材料の励起状態の減衰寿命(約50ns)の40倍である。
【0081】
エレクトロルミネセント素子を以下の工程で調製する。
【0082】
(1)基板の処理:基板表面をガラス洗浄剤および純水で順次洗浄し、窒素ガスを吹き付けて乾燥後、150℃で1時間焼成し、大気環境中で5分間UV処理を行って、清浄な基板およびITO表面を得る。
【0083】
(2)正孔注入層の調製:PEDOT:PSSインキを3000rpm/分の回転速度で30秒間スピンコーティングした後、110℃で15分間焼成し、正孔注入層フィルムを得る。
【0084】
(3)正孔輸送層の調製:PVKインキ(5mg/ml)を1500rpm/分の回転速度で30秒間スピンコーティングした後、150℃で30分間焼成し、正孔輸送層フィルムを得る。
【0085】
(4)発光層の調製:DPTPCz(4.7mg/ml)と、TAPC(6.3mg/ml)と、CdSe/ZnS量子ドット(16mg/ml)との混合物をクロロベンゼンに溶解して発光層インキを作り、この発光層インキを1000rpmの回転速度で30秒間スピンコーティングした後、150℃で20分間焼成し、発光層フィルムを得る。
【0086】
(5)電子輸送層、電子注入層、およびカソードの調製:PO-T2T(40nm)と、LiF(1nm)と、Al(150nm)とを、蒸着法で順次蒸着し、電子輸送層と電子注入層とカソードを順次形成する。
【0087】
[実施例4]
【0088】
この実施形態によるエレクトロルミネセント素子は次の構造を持つ。
ITO/PEDOT:PSS/PVK/DPTPCz:TCTA:(CdSe/ZnS量子ドット)/PO-T2T/LiF/Al
【0089】
発光層は、有機材料として、DPTPCz(三重項状態エネルギー準位は2.77eV)とTCTA(三重項状態エネルギー準位は2.73eV)を使用し、遅延蛍光エキシプレックス(三重項状態エネルギー準位は2.49eV、一重項状態エネルギー準位は約2.55eV、発光スペクトルは緑色光波帯)を生成する。
【0090】
CdSe/ZnS量子ドットをナノ結晶半導体材料として使用する。
【0091】
エキシプレックスの励起状態の減衰寿命(約4.5μs)は、ナノ結晶半導体材料の励起状態の減衰寿命(約50ns)の90倍である。
【0092】
エレクトロルミネセント素子を以下の工程で調製する。
【0093】
(1)基板の処理:基板表面をガラス洗浄剤および純水で順次洗浄し、窒素ガスを吹き付けて乾燥後、150℃で1時間焼成し、大気環境中で5分間UV処理を行って、清浄な基板およびITO表面を得る。
【0094】
(2)正孔注入層の調製:PEDOT:PSSインキを3000rpm/分の回転速度で30秒間スピンコーティングした後、110℃で15分間焼成し、正孔注入層フィルムを得る。
【0095】
(3)正孔輸送層の調製:PVKインキ(5mg/ml)を1500rpm/分の回転速度で30秒間スピンコーティングした後、150℃で30分間焼成し、正孔輸送層フィルムを得る。
【0096】
(4)発光層の調製:DPTPCz(4.7mg/ml)と、TCTA(7.4mg/ml)と、CdSe/ZnS量子ドット(16mg/ml)との混合物をクロロベンゼンに溶解して発光層インキを作り、この発光層インキを1000rpmの回転速度で30秒間スピンコーティングした後、150℃で20分間焼成し、発光層フィルムを得る。
【0097】
(5)電子輸送層、電子注入層、およびカソードの調製:PO-T2T(40nm)と、LiF(1nm)と、Al(150nm)とを、蒸着法で順次蒸着し、電子輸送層と電子注入層とカソードを順次形成する。
【0098】
上記の実施例および比較例の素子に対し、10mA/cmの電流密度でデバイス電流効率試験を行う。比較例1の電流効率を1として、対応する電流効率値を求めると、その結果は次に示すとおりである。
【表1】
【0099】
[実施例5]
【0100】
この実施形態によるエレクトロルミネセント素子は次の構造を持つ。
ITO/PEDOT:PSS/PVK/PO-T2T:mCP:(CsPbBr量子ドット)/PO-T2T/LiF/Al
【0101】
発光層は、有機材料として、PO-T2T(三重項状態エネルギー準位は2.99eV)とmCP(三重項状態エネルギー準位は2.94eV)を使用し、遅延蛍光エキシプレックス(三重項状態エネルギー準位は約2.67eV、一重項状態エネルギー準位は約2.60eV、発光スペクトルは青色光波帯)を生成する。
【0102】
CsPbBr量子ドットをナノ結晶半導体材料として使用し、励起スペクトルは紫外から青色光波帯に及び、発光スペクトルは緑色光波帯にある。
【0103】
エキシプレックスの励起状態の減衰寿命(約500ns)は、ナノ結晶半導体材料の励起状態の減衰寿命(約25ns)の約20倍である。
【0104】
エレクトロルミネセント素子を以下の工程で調製する。
【0105】
(1)基板の処理:基板表面をガラス洗浄剤および純水で順次洗浄し、窒素ガスを吹き付けて乾燥後、150℃で1時間焼成し、大気環境中で5分間UV処理を行って、清浄な基板およびITO表面を得る。
【0106】
(2)正孔注入層の調製:PEDOT:PSSインキを3000rpm/分の回転速度で30秒間スピンコーティングした後、110℃で15分間焼成し、正孔注入層フィルムを得る。
【0107】
(3)正孔輸送層の調製:PVKインキ(5mg/ml)を1500rpm/分の回転速度で30秒間スピンコーティングした後、150℃で30分間焼成し、正孔輸送層フィルムを得る。
【0108】
(4)発光層の調製:PO-T2T(9.1mg/ml)と、mCP(4.1mg/ml)と、CsPbBr量子ドット(16mg/ml)との混合物をクロロベンゼンに溶解して発光層インキを作り、この発光層インキを1000rpmの回転速度で30秒間スピンコーティングした後、150℃で20分間焼成し、発光層フィルムを得る。
【0109】
(5)電子輸送層、電子注入層、およびカソードの調製:PO-T2T(40nm)と、LiF(1nm)と、Al(150nm)とを、蒸着法で順次蒸着し、電子輸送層と電子注入層とカソードを順次形成する。
【0110】
[比較例2]
【0111】
この比較例による、発光層として、エキシプレックスを含まない純粋なQDを用いたエレクトロルミネセント素子は、次の構造を持つ。
ITO/PEDOT:PSS/PVK/(CsPbBr量子ドット)/PO-T2T/LiF/Al
【0112】
エレクトロルミネセント素子の調製法は実施例5と同様である。違いは、発光層が(CsPbBr量子ドット)ナノ結晶半導体材料である点である。
【0113】
上記の実施例および比較例の素子に対し、10mA/cmの電流密度でデバイス電流効率試験を行う。比較例2の電流効率を1として、対応する電流効率値を求めると、その結果は次に示すとおりである。
【表2】
【0114】
前述の実施形態の様々な技術的特徴はランダムに組み合わせることができる。記述を簡単にするため、前述の実施形態の様々な技術的特徴の可能な組み合わせを全ては示していない。しかし、技術的特徴の組み合わせが互いに矛盾しないならば、技術的特徴の組み合わせは、本明細書中に示されている範囲に入ると見るべきである。
【0115】
前述の実施形態は、本発明の様々な実行例を示すためだけのものであり、その記述は具体的で詳細であるが、それ故に本発明の特許範囲を制限すると理解することはできない。当業者ならば、本発明の意図から外れることなく、様々な変更および改善を行えると考えられるが、これらも本発明の保護の範囲に入ることに注目すべきである。従って、本発明の特許の保護範囲は、当然、請求項の主題となるであろう。
図1