(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】導電性布帛の製造方法及び導電性布帛
(51)【国際特許分類】
D06M 11/83 20060101AFI20220121BHJP
D06M 13/463 20060101ALI20220121BHJP
D06B 11/00 20060101ALI20220121BHJP
D06C 7/00 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
D06M11/83
D06M13/463
D06B11/00 A
D06C7/00 Z
(21)【出願番号】P 2017144767
(22)【出願日】2017-07-26
【審査請求日】2020-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592029256
【氏名又は名称】福井県
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100149560
【氏名又は名称】山田 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】竹内 智也
(72)【発明者】
【氏名】塩見 秀数
(72)【発明者】
【氏名】増田 敦士
(72)【発明者】
【氏名】辻 尭宏
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-510747(JP,A)
【文献】国際公開第2009/041496(WO,A1)
【文献】特開昭62-090398(JP,A)
【文献】特開平03-237799(JP,A)
【文献】特開2014-168946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00-16/00,
19/00-23/18
D06B 1/00-23/30
D06C 3/00-29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)布帛の少なくとも片面の少なくとも一部の生地表面粗さ(生地表面の凹凸の高低差)が
30μm以上100μm以下である布帛を準備する工程、
前記少なくとも一部の範囲内の所定の箇所を含む範囲をカチオン処理する工程、
(ii)
前記カチオン処理する工程の後に、前記少なくとも一部の範囲内の所定の箇所に、平均粒子径(透過型電子顕微鏡によって実測した100個の粒子の球換算粒径の算術平均値)が200nm以下である金属ナノ粒子の分散液を塗布する工程、及び、
(iii)少なくとも前記分散液を塗布した前記所定の箇所を焼成し、1~100g/m
2の金属導電パターンを形成する工程、を少なくとも含み、
前記金属導電パターンの表面抵抗値は、50Ω/□以下である、
導電性布帛の製造方法。
【請求項2】
前記(i)の工程の前において、布帛の圧縮による平滑化の前処理工程を更に含み、当該前処理工程によって、前記布帛の少なくとも片面の少なくとも一部の生地表面粗さ(生地表面の凹凸の高低差)が100μm以下である布帛が準備される、請求項
1に記載の導電性布帛の製造方法。
【請求項3】
前記(ii)の工程では、インクジェット印刷により塗布する、請求項1
又は2に記載の導電性布帛の製造方法。
【請求項4】
布帛の少なくとも片面の少なくとも一部の生地表面粗さ(生地表面の凹凸の高低差)が
30μm以上100μm以下である布帛と、
前記少なくとも一部の範囲内の所定の箇所に配置された1~100g/m
2の金属導電パターンと、を少なくとも備え、
前記金属導電パターンの表面抵抗値は、50Ω/□以下であ
り、
前記布帛の前記少なくとも一部の範囲内の所定の箇所を含む範囲は、カチオン系界面活性剤が付与されている、
導電性布帛。
【請求項5】
前記金属導電パターンの金属純度は、95%以上である、請求項
4の導電性布帛。
【請求項6】
前記布帛における生地表面粗さ(生地表面の凹凸の高低差)が100μm以下である範囲は、0.1~20cm
3/cm
2/sの通気度である、請求項
4又は
5に記載の導電性布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛上に導電パターン(回路)等を備える導電性布帛の製造方法及び導電性布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性を有する布帛は、電子部品やセンサー類を実装することによって、ウェアラブルデバイスとして利用することができる。このような導電性を有する布帛を用いたウェアラブルデバイスを装着することで、人間や動物の生体信号や動作を計測することができ、医療分野やヘルスケア分野に利用される他、環境、建築分野等の多様な産業においてその有用性が注目されている。
【0003】
布帛に導電性を付与する従来の技術としては、導電性を有する糸を織込んだり編込んだりする手法(例えば、特許文献1)、又は導電性高分子等の導電性材料を含むペースト塗料を塗布する手法(例えば、特許文献2)等が挙げられる。
【0004】
その他、装飾目的等で布帛に接着剤の層又は保護樹脂層を介して薄い金属層を形成させる方法が提案されている(例えば、特許文献3及び4)。また、布帛面上の各糸の間隙について接着樹脂で充填固化させ、インクジェットプリント方式で電子回路等を形成してなる電子衣料についても提案されている(例えば、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-019064号公報
【文献】特開2014-151018号公報
【文献】特開2003-073982号公報
【文献】特開平07-216765号公報
【文献】特開2005-146499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、導電性を有する糸を織り込んだり編み込んだりする手法では、特殊な装置を必要としコストが高くなり、且つ導電パターン形状の自由度が低くなる等の問題がある。また、単純に導電性材料を含むペースト塗料を塗布する手法では、導電性が不十分となってしまう事を避けるため、必然的に塗布量が増えてしまい、布帛の導電パターン部分の厚みが増し、硬く重くなり易いという問題がある。それに伴い、形成した導電パターン部分が布帛の柔軟性に追従できずにパターン部分に断線等が生じ、導電性を損なうという問題が生じる。
【0007】
更に、このような導電性ペースト塗料には、通常、布帛への固定を確実にするためのアクリル系樹脂等の接着剤(バインダー樹脂とも言う)が含まれている。導電パターン部分に接着剤の層を介したり、バインダー樹脂を含む導電性ペーストを用いる場合等では、布帛上の導電パターン(回路)部分に純粋な導電性物質以外の樹脂等の不純物が含まれてしまう。このような理由からも、製造後の導電性布帛の導電パターン部分は重くなり易い。パターン部分の重量が重くなり過ぎると、導電性布帛としての実用において重要な通気性能についても布帛本来のものと比較して著しく劣るものになってしまう。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、布帛上に形成される金属導電パターンの単位面積当たりの重量が軽く、且つ十分な導電性を備える導電性布帛の製造方法及び導電性布帛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る導電性布帛の製造方法は、
(i)布帛の少なくとも片面の少なくとも一部の生地表面粗さ(生地表面の凹凸の高低差)が30μm以上100μm以下である布帛を準備する工程、
前記少なくとも一部の範囲内の所定の箇所を含む範囲をカチオン処理する工程、
(ii)前記カチオン処理する工程の後に、前記少なくとも一部の範囲内の所定の箇所に、平均粒子径(透過型電子顕微鏡によって実測した100個の粒子の球換算粒径の算術平均値)が200nm以下である金属ナノ粒子の分散液を塗布する工程、及び、
(iii)少なくとも前記分散液を塗布した前記所定の箇所を焼成し、1~100g/m2の金属導電パターンを形成する工程、を少なくとも含み、
前記金属導電パターンの表面抵抗値は、50Ω/□以下である。
【0011】
前記(i)の工程の前において、布帛の圧縮による平滑化の前処理工程を更に含み、当該前処理工程によって、前記布帛の少なくとも片面の少なくとも一部の生地表面粗さ(生地表面の凹凸の高低差)が100μm以下である布帛が準備されてもよい。
【0012】
好ましくは、前記(ii)の工程では、インクジェット印刷により塗布する。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の第2の観点に係る導電性布帛は、
布帛の少なくとも片面の少なくとも一部の生地表面粗さ(生地表面の凹凸の高低差)が30μm以上100μm以下である布帛と、
前記少なくとも一部の範囲内の所定の箇所に配置された1~100g/m2の金属導電パターンと、を少なくとも備え、
前記金属導電パターンの表面抵抗値は、50Ω/□以下であり、
前記布帛の前記少なくとも一部の範囲内の所定の箇所を含む範囲は、カチオン系界面活性剤が付与されている。
【0014】
好ましくは、前記金属導電パターンの金属純度は、95%以上である。
【0015】
好ましくは、前記布帛における生地表面粗さ(生地表面の凹凸の高低差)が100μm以下である範囲は、0.1~20cm3/cm2/sの通気度である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、布帛上に形成される金属導電パターンの単位面積当たりの重量が軽く、且つ十分な導電性を備える導電性布帛の製造方法及び導電性布帛が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係る導電性布帛の概略構成の1例を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示すA-A線の断面の一部を示す概略構成図である。
【
図3】実施例1の導電性布帛の製造工程を示すフローチャートである。
【
図4】実施例1の導電性布帛の各製造工程の概略を示す図である。
【
図5】実施例及び比較例に係る布帛の通気度測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る導電性布帛の製造方法及びその方法により製造される導電性布帛について詳細に説明する。なお、本明細書において「有する」、「備える」、「含む」又は「含有する」といった表現は、「からなる」又は「から構成される」という意も含むものとする。
【0020】
<導電性布帛の製造方法>
本発明の実施の形態に係る導電性布帛の製造方法は、(i)布帛の少なくとも片面の少なくとも一部の生地表面粗さ(生地表面の凹凸の高低差)が100μm以下である布帛を準備する工程、(ii)当該少なくとも一部の範囲内の所定の箇所に、平均粒子径(透過型電子顕微鏡によって実測した100個の粒子の球換算粒径の算術平均値)が200nm以下である金属ナノ粒子の分散液を塗布する工程、及び、(iii)少なくとも当該分散液を塗布した当該所定の箇所を焼成し、1~100g/m2の金属導電パターンを形成する工程、を少なくとも含む。形成された金属導電パターンの表面抵抗値は、50Ω/□以下である。以下、それぞれの工程について詳細に説明する。
【0021】
(i)布帛の準備
先ず、布帛の少なくとも片面の少なくとも一部の生地表面粗さが100μm以下である布帛を準備する。
【0022】
ここで、「生地表面粗さ」とは、布帛の生地表面の凹凸の高低差を意味し、具体的には、布帛(基材)の縦(90°)/横(0°)/斜め(45°)方向をスキャンして、全ての方向で測定した結果の高低差を意味する。このような生地表面粗さの測定は、市販されている表面粗さ測定機又は表面試験機等で測定することが可能であり、例えば、「SV-3000CNC」(商品名、ミツトヨ社製)、「SV-M3000CNC」(商品名、ミツトヨ社製)、「KES-FB2-A」(商品名、カトーテック社製)等を挙げられるが、これらに限定されない。本明細書においては、「SV-3000CNC」(商品名、ミツトヨ社製)の表面粗さ測定機を用いて布帛の縦(90°)/横(0°)/斜め(45°)方向を10mmストロークでスキャンして測定した高低差の値を、「生地表面粗さ」(生地表面の凹凸の高低差)と定義する。
【0023】
布帛の具体例としては、織物、編物、不織布等の繊維布帛を挙げることができる。繊維素材としては、例えば、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等)、ポリウレタン、ポリアクリル、アラミド、ポリ(パラフェニレンベンゾビスオキサゾール)、ガラス、バサルト等の合成繊維等を挙げることができるが、これらに限定されない。これらが2種以上組み合わされているものでもよい。これらのうち、繊維物性全般に優れた合成繊維からなる布帛が好ましい。特に、ポリエステル繊維からなる布帛が好ましい。
【0024】
繊維布帛には、必要に応じて染色、帯電防止加工及び/又は難燃加工等が施されていてもよい。ここで言う繊維布帛に施される加工には、元々の布帛の生地表面粗さを実質上変化させてしまうような加工(後述する追加の前処理工程の圧縮による平滑化は除く)ではなく、且つ本願発明の効果の1つである金属導電パターンの軽量化を損なう加工でなければ、当該技術分野で公知である任意の繊維布帛又は繊維布帛表面における加工を含み得る。例えば、一般的な接着樹脂を用いた接着層コーティング加工等はその重みのため含まれないが、一方、布帛を高発色性、防災性、及び/又は耐久性等を備えたインクジェット用布帛にするための極薄樹脂コーティング加工等は含まれ得る。布帛それ自体の厚みは、特に限定されないが、0.02~1mm程度であることが好ましい。
【0025】
布帛の少なくとも片面の少なくとも一部とは、具体的には、後述の(ii)の工程で、金属ナノ粒子の分散液が塗布される箇所(以下、所定の箇所とも言う)を少なくとも含んでいる範囲の部分のことを意味する。従って、布帛の片面(表面又は裏面)全体にわたる部分、又は布帛の両面(表面及び裏面)全体にわたる部分であってもよい。
【0026】
本発明の実施の形態において所望される布帛の当該少なくとも一部の生地表面粗さは、100μm以下(0~100μm)であり、好ましくは80μm以下(0~80μm)であり、より好ましくは60μm以下(0~60μm)であり、更に好ましくは50μm以下(0~50μm)である。このような生地表面粗さの数値条件を満たす平滑な布帛の生地表面上であれば、後述の(ii)及び(iii)の工程を経た後に、高い金属純度且つ断線が生じることも無い十分な導電性を備えた金属導電パターンを作製することができる。生地表面粗さが100μmよりも大きい場合、同様の工程を経て金属導電パターンを形成しても、凹凸の高低差で断線が生じてしまい、本発明によって発揮される効果の1つである十分な導電性を得られない結果となる(後述の布帛の生地表面粗さとの関連における表面抵抗値(導電性)の評価に関する実施例参照)。
【0027】
布帛本来の糸種又は織構造によって、生地表面粗さが前述の数値条件を満たしていないものを用いる場合、追加の前処理工程として、布帛の両面、片面又は片面の少なくとも一部に対して、圧縮による平滑化が行われてもよい。圧縮による平滑化の手法としては、本技術分野で公知の任意の手法を用いればよい。例えば、熱ローラ、スチールローラ及び/又は弾性ローラ等を用いたカレンダー加工及び/又は圧縮加工、平型熱プレス機等を用いた熱圧縮加工等を挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
布帛における生地表面粗さ(生地表面の凹凸の高低差)が100μm以下である範囲は、好ましくは0.1~20cm3/cm2/sの通気度である。前述したような布帛の片面全体又は両面全体にわたって生地表面粗さが100μm以下である場合は、布帛全体の範囲の通気度が当該数値条件を満たしていてもよい。布帛の通気度が顕著に高い場合、一般的に布帛の生地表面粗さ(生地表面の凹凸の高低差)も顕著に大きくなっていることが考えられるため、前述した通り、製造された導電性布帛について導電性を確保できない場合が考えられ得る。従って、当該数値条件における通気度の特性を有する布帛を本発明の実施の形態に係る方法の布帛として適用することによって、製造された導電性布帛について金属導電パターンの単位面積当たりの重量が軽くても十分な導電性を備えるという本願発明の効果をより確実に発揮させることができる。0.1~20cm3/cm2/sという数値条件は、導電性布帛として使用する際の布帛の実用において十分な通気性能となっている(後述の布帛の生地表面粗さとの関連における通気度の評価に関する実施例参照)。本発明の実施の形態に係る方法で製造される導電性布帛は、パターン部分に接着剤層又はバインダー樹脂等を含まない構成であるため、布帛本来の通気度の特性が保持され易いという効果も有する。そのため、導電性確保に関連する生地表面粗さの数値条件を考慮した上で、なるべく優れた通気度を有する布帛に本製造方法を適用することがより好ましい。
【0029】
当該数値条件における通気度の特性を有する布帛は、前述した布帛の種類の具体例を見ることによって、更には必要に応じて前述した追加の平滑化の前処理工程をも考慮することによって、当業者であれば容易に適宜選択することが可能である。布帛の通気度は、市販されている測定機を用いて測定することができる。本明細書においては、具体的には、通気度について、「FX3300」(商品名、TEXTEST INSTRUMENTS社製)を用いて125Pa(JIS L 1096-A基準)のテスト圧力にて実施した測定値を「通気度」と定義する。
【0030】
(ii)金属ナノ粒子の分散液の塗布
次に、前述の(i)で準備された布帛において、生地表面粗さが100μm以下である部分の範囲内の所定の箇所に、平均粒子径が200nm以下である金属ナノ粒子の分散液を塗布する。
【0031】
所定の箇所とは、製造する導電性布帛において、金属導電パターンの形成を所望する部分を意味する。所望する金属導電パターンの形状・種類等によっては、布帛の生地表面粗さが100μm以下である部分の範囲全体にわたり分散液が塗布されてもよい。
【0032】
本明細書において、金属ナノ粒子の分散液(金属ナノ粒子インク、金属ナノインク又は金属ナノペーストとも言う)とは、金属ナノ粒子が溶媒中において適切に分散されている溶液を意味する。金属ナノ粒子の分散液は、例えば、金属ナノ粒子と分散剤(分散保護剤)、及び溶媒を含有する。金属ナノ粒子は凝集し易いため、溶液中では金属ナノ粒子の表面に分散剤が被覆することにより凝集を抑制して、粒子を安定化させている場合が多い。この場合、分散剤は、分散液の塗布(例えば印刷)後の任意の乾燥工程又は後述の(iii)の工程等における溶媒の蒸発に伴い、金属ナノ粒子から脱離し、導電性のパターンを与えることになる。このような金属ナノ粒子の分散液は、本技術分野で公知の任意の手法で調製したものを使用することができる。
【0033】
溶媒としては、分散剤で被覆された金属ナノ粒子を安定して分散できるものであれば特に限定されず、本技術分野で公知の任意のものを適宜選択して用いればよい。例えば、水、アルコール系溶媒(モノアルコール系溶媒、ジオール系溶媒、多価アルコール系溶媒等)、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、グライム系溶媒、ハロゲン系溶媒等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの溶媒は、単独又は2種以上を混合して用いてもよい。これらのうち、好ましくはアルコール系溶媒である。アルコール系溶媒としては、例えば、テルピネオール、エチレングリコール、エタノール、ブタノール、カルビトール、イソプロピルアルコール、1-ヘキサノール、1,3-ブタンジオール、1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール等が挙げられ、炭化水素系溶媒としては、例えば、デカリン、ビシクロヘキシル、ドデカン、テトラデカン、キシレン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、ペンチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン等が挙げられ、エステル系溶媒としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エトキシエチルプロピオネート等が挙げられ、エーテル系溶媒としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル等が挙げられる。
【0034】
分散剤としては、金属ナノ粒子の溶媒への分散性を確保できるものであれば特に限定されず、本技術分野で公知の任意のものを適宜選択して用いればよく、好ましくは両親媒性分子である。例えば、アミン化合物、チオール化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。アミン化合物は、好ましくは脂肪族アミン化合物であり、より好ましくはアルキル部分の炭素原子数が4~10の脂肪族アミン化合物である。脂肪族アミン化合物の例としては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン等のアルキルアミン、オレイルアミン等のアルケニルアミンが挙げられる。チオール化合物は、好ましくは脂肪族チオール化合物である。脂肪族チオールの例としては、ヘキサンチオール、ペンタンジチオール、デカンチオール、ドデカンチオール等のアルキルチオールが挙げられる。分散剤は、単独又は2種以上を混合して用いてもよい。炭素数の小さい分散剤を使用することにより、容易な条件で脱離又は分解させることができる。
【0035】
金属ナノ粒子とは、一般的にナノメートルの領域に粒度分布を持った金属ナノ粒子のことを意味するが、本発明の実施の形態において所望される金属ナノ粒子の平均粒子径は200nm以下(1~200nm)であり、好ましくは150nm以下(1~150nm)であり、より好ましくは100nm以下(1~100nm)であり、更に好ましくは50nm以下(1~50nm)であり、更により好ましくは20nm以下(1~20nm)である。金属ナノ粒子の平均粒子径とは、凝集を加味しない一次粒子径のことであり、本技術分野で公知の任意の手法、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて実測した100個以上の粒子の球換算粒径(各粒子を同体積の球に換算した時の直径)の算術平均値によって表すことができる。具体的には、本明細書における「金属ナノ粒子の平均粒子径」とは、透過型電子顕微鏡によって実測した100個の粒子の球換算粒径の算術平均値を意味する。このような金属ナノ粒子の平均粒子径は、後述の分散液の塗布方法(例えば印刷方法)、所望する金属導電パターンの形状及び/又は後述の(iii)の工程の焼成方法等に応じて適宜選択・調整することができる。
【0036】
金属ナノ粒子は、一般的には球状であることが好ましいが、球状に近い不定形でもよい。金属ナノ粒子の金属種としては、例えば、銀、金、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、アルミニウム、インジウム、ルビジウム、コバルト、ニッケル、鉄、スズ等が挙げられるが、これらに限定されない。これらのうち、好ましくは銀である。これらの金属ナノ粒子を単独又は2種以上混合して用いてもよい。
【0037】
金属ナノ粒子の分散液中における金属ナノ粒子の配合割合は、分散液の全質量に対して、0.1~70質量%、1~60質量%、10~50質量%程度が好ましいが、後述の分散液の塗布方法(例えば印刷方法)、所望する金属導電パターンの形状及び/又は後述の(iii)の工程の焼成方法等に応じて適宜調整すればよい。分散液中における溶媒及び分散剤の配合割合についても同様であり、これらの配合割合を調整することによって、後述の分散液の各種塗布方法(例えば印刷方法)に応じた好適な粘度とすることができる。
【0038】
このような金属ナノ粒子の分散液は、市販されている金属ナノ粒子インク、金属ナノインク又は金属ナノペースト等をそのまま利用してもよい。例えば、銀ナノ粒子インクである「NBSIJ-KC01」(商品名、三菱製紙社製)、「NBSIJ-MU01」(商品名、三菱製紙社製)、「KGK NANO AGK 101」(商品名、紀州技研工業社製)、「KGK NANO AGK 102」(商品名、紀州技研工業社製)、「NAG-09」(商品名、大研化学工業社製)、「NAG-09C11」(商品名、大研化学工業社製)、銀ナノペーストである「NPS-JL」(商品名、ハリマ化成社製)、「NPS-J」(商品名、ハリマ化成社製)、「NPS-J-HTB」(商品名、ハリマ化成社製)、金ナノペーストである「NPG-J」(商品名、ハリマ化成社製)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
金属ナノ粒子インクの代替として、導電性カーボンナノ材料の分散液(導電性カーボンナノインクとも言う)を使用しても構わない。導電性カーボンナノ材料の分散液とは、導電性カーボンナノ粒子、導電性カーボンナノチューブ、導電性カーボンナノロッド、グラフェン及び/又は導電性カーボンナノホーンが、前述したような溶媒中において適切に分散されている溶液を意味する。導電性カーボンナノ材料の分散液は、例えば、導電性カーボンナノ材料と前述の分散剤、及び溶媒を含有する。導電性カーボンナノ材料の平均直径(平均粒子径(透過型電子顕微鏡によって実測した100個の粒子の球換算粒径の算術平均値))は200nm以下(1~200nm)であり、好ましくは150nm以下(1~150nm)であり、より好ましくは100nm以下(1~100nm)であり、更に好ましくは50nm以下(1~50nm)であり、更により好ましくは20nm以下(1~20nm)である。
【0040】
本発明の実施の形態に係る製造方法では、このような平均粒子径が200nm以下である金属ナノ粒子インク(又は導電性カーボンナノインク)を用いることによって、最終的に、後の(iii)の工程で述べるような、1~100g/m2の単位面積当たりの重量での導電性を有する金属導電パターンを形成させることができる。
【0041】
金属ナノ粒子インク(又は導電性カーボンナノインク)を布帛における所定の箇所に塗布する方法は、本技術分野で公知の任意の手法を用いればよい。例えば、インクジェット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、ゼログラフィー、スタンピング、フレキソ印刷、オフセット印刷、塗装、エアブラッシング等を挙げることができるが、これらに限定されない。各種方法は、各々の市販されている印刷装置等を使用して実施することができる。また、各種方法に応じて、適宜塗布後の溶媒等の乾燥工程、例えば温風乾燥工程等を含んでもよい。これらの方法のうち、好ましくは、インクジェット印刷である。インクジェット印刷での適切な吐出量及び解像度等の条件は、当業者であれば、金属ナノ粒子インク(又は導電性カーボンナノインク)の組成、所望する金属導電パターンの形状及び/又は後述の(iii)の工程の焼成方法等に応じて適宜設定することが可能であろう。
【0042】
好ましくは、このような塗布工程の前に、前述の(i)で準備された布帛において、(ii)で分散液を塗布する所定の箇所(金属導電パターンの形成を所望する部分)を含む範囲を予めカチオン処理しておく。カチオン処理する範囲は、少なくとも布帛において当該所定の箇所を含んでいればよい。従って、布帛の生地表面粗さが100μm以下である部分の範囲全体にわたってカチオン処理してもよく、更には、布帛の片面(表面又は裏面)全体にわたって、又は布帛の両面(表面及び裏面)全体にわたってカチオン処理してもよい。
【0043】
カチオン処理とは、カチオン系界面活性剤又はその水溶液を用いて、布帛の標的表面をプラスに帯電させ安定化させる処理のことである。具体的には、例えば、布帛の標的表面又は布帛全体をカチオン系界面活性剤の水溶液に浸漬させ、マングル(ローラー)で絞り、温風等の一般的手法で乾燥させる処理方法を挙げられるが、この方法に限定されない。予めカチオン処理をしておくことにより、布帛表面上においてカチオン系界面活性剤とインクの分散剤とが反応することによって、金属ナノ粒子が均等に分散し且つ粒子の付着が安定化するため、滲みを抑制し、より少量のインクの塗布量で十分な導電性を得ることができる。カチオン処理は任意の工程であり、例えば、生地表面粗さが高度に小さく平滑な布帛が使用され、そのような布帛へ適切な十分量の金属ナノ粒子インクが塗布される場合には、カチオン処理がなくとも十分な導電性を確保することができる。
【0044】
カチオン系界面活性剤は、本技術分野で公知の任意のものを適宜選択して使用すればよい。例えば、ジアルキルベンゼンアルキルアンモニウムクロリド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、アルキルベンジルメチルアンモニウムクロリド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムブロミド、ベンザルコニウムクロリド、セチルピリジニウムブロミド、C12,C15,C17-トリメチルアンモニウムブロミド、四級化したポリオキシエチルアルキルアミンのハロゲン化物塩、ドデシルベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、又はこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
(iii)焼成
最後に、少なくとも前述の(ii)で分散液を塗布した所定の箇所を焼成し、1~100g/m2の金属導電パターン(焼結膜)を形成する。
【0046】
作業の簡易性を考慮すれば、好ましくは布帛の生地表面粗さが100μm以下である部分の範囲全体、より好ましくは布帛の片面(表面又は裏面)全体にわたり、焼成を行ってもよい。
【0047】
焼成方法は、本技術分野で公知の任意の焼成方法の中から適宜選択して用いることができる。例えば、焼成炉(オーブン)による加熱、赤外線加熱、各種レーザーアニール、紫外線、可視光、フラッシュ光による光照射焼成、マイクロ波加熱等の方法が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、不活性ガス雰囲気下又は還元性ガス雰囲気下で行われる。大気雰囲気下で行われる場合には、焼成時の酸化を防ぐため、好ましくは瞬間的に加熱が行われる。
【0048】
これらの焼成方法のうち、プラズマ焼成、特にマイクロ波エネルギーの印加により発生する表面波プラズマにより焼成する方法、又は、フラッシュ光照射により焼成する方法のいずれかが好ましい。これらの焼成方法を用いると、布帛等への熱ダメージを少なくすることができると共に、焼成時の金属の酸化も抑制できる。また、短時間焼成が可能であるため、生産性が高いというメリットもある。
【0049】
更に、紫外線から赤外線までの連続的な波長スペクトルを有するフラッシュ光源での光照射による焼成がより好ましく、具体的には、キセノンフラッシュ光源での光照射が好ましい。このような光源を用いた場合には、加熱と同時にUV照射を行ったのと同様の効果を得ることができ、極めて短時間での焼成が可能となる。キセノンフラッシュ光源を用いる場合には、照射時間と照射エネルギーを適宜制御することにより、インクの塗布箇所及びその近傍のみを加熱することができ、基材(布帛)に対する熱の影響を抑えることができる。更に、照射回数及び照射間隔についても、所望する金属導電パターンの形状・種類等及びインクの組成等に応じて適宜調整することができる。このように、キセノンフラッシュ光源での光照射は、極めて短時間での照射であっても、塗布インク中の溶媒及び分散剤を容易に分解、揮発又は脱離させて、金属導電パターンのみを残存させ、容易に焼結することができる。
【0050】
形成される金属導電パターンの単位面積当たりの重量は、1~100g/m2であり、好ましくは1~75g/m2であり、より好ましくは1~50g/m2であり、更に好ましくは1~25g/m2であり、更により好ましくは1~10g/m2である。ここで、本明細書において、「金属導電パターンの単位面積当たりの重量」又は「~g/m2の金属導電パターン」とは、本発明の実施の形態に係る方法を用いて布帛の生地表面上に金属導電パターンを形成させる場合に、金属導電パターン形成前後の布帛全体の重量を「AUW220D」(商品名、島津製作所社製)により測定して差分した金属導電パターン量から算出した値として定義する。ここで、本発明の実施の形態に係る方法では、生地表面上には金属ナノ粒子インク(又は導電性カーボンナノインク)しか塗布されないため、本明細書における「金属導電パターン」とは、塗布された金属ナノ粒子インク(又は導電性カーボンナノインク)の焼成によって形成されたパターンを意味し、例えば通常含まれ得るようなバインダー樹脂等のような不純物はほとんど含有しない。従って、金属導電パターンの単位面積当たりの重量は、金属ナノ粒子インク(又は導電性カーボンナノインク)の組成又は塗布条件等を変化させることによって、当業者であれば適宜制御及び調整することが可能である。
【0051】
このように形成される金属導電パターンの表面抵抗値は、50Ω/□以下であり、導電性布帛として機能するために有効と考えられ得る値となっている。金属導電パターンの表面抵抗値は、好ましくは25Ω/□以下、より好ましくは20Ω/□以下、更に好ましくは10Ω/□以下、更により好ましくは5Ω/□以下である。ここで、本明細書において、「(金属導電パターンの)表面抵抗値」とは、「ロレスタ-EP MCP-T360」(商品名、三菱化学アナリテック社製)で測定した値を意味する。表面抵抗値の下限は特に限定されないが、0.0001Ω/□以上であることが好ましい。
【0052】
金属導電パターンについて1~100g/m2という単位面積当たりの重量は、一般的な導電性布帛表面に形成される導電パターン(回路)の重量と比較すると、かなり軽くなっている。本発明に係る金属導電パターンの重量が1~100g/m2である一方、例えば、前述した特許文献2~5のような技術では、導電パターン部分に接着剤層又はバインダー樹脂等を含む構成となっているため、金属部分と合わせたパターンの厚みが20~50μm程度となっており、それに伴い導電パターンの重量も150~380g/m2程度と重くなっている。本発明の実施の形態に係る製造方法について、形成される金属導電パターンの単位面積当たりの重量が軽く、接着剤層又はバインダー樹脂等を含まないという構成は、製造される導電性布帛の通気度について布帛本来の特性が保持され易いという効果にも繋がる。
【0053】
本発明の実施の形態に係る方法で製造された導電性布帛では、形成された金属導電パターンが1~100g/m2程度の単位面積当たりの重量であるにもかかわらず、前述したように、表面抵抗値が50Ω/□以下という導電性を備える。これは、より詳細には次の理由のためである。本発明の実施の形態に係る製造方法では、布帛の生地表面上において、焼成の工程後にはほとんど分解、揮発又は脱離する溶媒及び分散剤と金属成分のみを含む平均粒子径200nm以下の金属ナノ粒子インクしか塗布されない。そのため、焼結形成された金属導電パターンの不純物の含有比率は低くなり、金属純度が約95%以上となって、その単位面積当たりの重量が1~100g/m2であっても導電性を備える。更に、前述したように、金属導電パターンが形成される布帛表面の生地表面粗さが100μm以下の平滑な表面であるため、その凹凸の高低差でパターン部分に断線が生じて導電性を損なうこともない。前述した特許文献2~5のような接着剤層又はバインダー樹脂等を含む場合では、一般的に、その塗膜の金属純度は80%程度に留まるため、本発明のように、パターン部分について1~100g/m2の単位面積当たりの重量且つ表面抵抗値50Ω/□以下の導電性といった特徴を達成することはできない。
【0054】
本発明の実施の形態の導電性布帛の製造方法では、最終的な使用目的に応じて、形成された金属導電パターン上にカバーコート(保護膜)を更に形成してもよい。カバーコートは、例えば、少なくとも金属導電パターンを覆うように形成すればよく、又は、布帛上の100μm以下の生地表面粗さの部分若しくは布帛片面全体等を覆うように形成してもよい。カバーコートは、主に、布帛上に形成された金属導電パターンの絶縁、防水及び/又は断裂防止等を目的として形成される。
【0055】
カバーコートに用いられる樹脂材料としては、特に制限されないが、好ましくはウレタン系樹脂又はシリコーン系樹脂等である。より具体的には、ポリウレタン樹脂又はシリコーン樹脂等が挙げられる。更に具体的には、ポリエーテル系ポリウレタン等が挙げられる。
【0056】
カバーコートの厚みは5~20μm程度である。カバーコートの厚みが厚すぎると本発明の導電性布帛によって発揮される効果が損なわれる場合があり、薄すぎると絶縁、防水及び/又は断裂防止等の効果が不十分となる場合がある。
【0057】
<導電性布帛>
本発明の実施の形態に係る導電性布帛は、前述の方法により製造される導電性布帛である。そのため、布帛の少なくとも片面の少なくとも一部の生地表面粗さ(生地表面の凹凸の高低差)が100μm以下である布帛と、当該少なくとも一部の範囲内の所定の箇所に配置された1~100g/m2の金属導電パターンと、を少なくとも備え、金属導電パターンの表面抵抗値は、50Ω/□以下である。具体的には、金属導電パターンは、前述の製造方法の(ii)及び(iii)の工程において説明した通り、当該少なくとも一部の範囲内の所定の箇所に、金属ナノ粒子インクを塗布して焼成後、形成されたものである。
【0058】
前述したように、布帛表面上に形成される金属導電パターンについて1~100g/m2の単位面積当たりの重量且つ表面抵抗値50Ω/□以下の導電性を達成するには、バインダー樹脂等を含むような一般的な金属ペーストを使用する製造方法では達成することができず、前述の本発明の実施の形態に係る方法のように金属ナノ粒子インクを使用して平滑な布帛表面上にパターンを形成することにより、その金属純度が高まって達成される。金属導電パターンの金属純度は、好ましくは95%以上であり、より好ましくは96%以上であり、更に好ましくは97%以上であり、更により好ましくは98%以上である。
【0059】
更に、好ましくは、布帛の当該少なくとも一部の所定の箇所を含む範囲は、カチオン系界面活性剤が付与している。ここで、「カチオン系界面活性剤が付与している」とは、前述の製造方法の(ii)及び(iii)の工程で述べた通り、布帛における金属導電パターンが配置される部分を含む範囲が予めカチオン処理され、その後金属ナノ粒子インクが塗布・焼成され、最終的に金属導電パターンが形成された場合において、金属ナノ粒子インク中の分散剤とカチオン系界面活性剤とが場合によっては部分的に適宜反応した状態で、布帛の当該少なくとも一部の所定の箇所を含む範囲における表面及び/又は場合によっては布帛の間隙等に付与していることを意味する。このような状態については、カチオン系界面活性剤の種類、カチオン処理の具体的方法、カチオン系界面活性剤と金属ナノ粒子インク中の分散剤との反応系等によってその状態は大きく異なるものであるため、膨大な公知技術の手法を考慮すると、より具体的な構造又は特性で一概に微視的に直接特定することは、およそ実際的ではないものである。
【0060】
図1は、本発明の実施の形態に係る導電性布帛の概略構成の1例を示す斜視図である。
図1に示すように、導電性布帛10は、布帛2と金属導電パターン3とから構成されている。
図2は、
図1に示すA-A線の断面の一部を示す概略構成図である。
図2に示すように、導電性布帛10の断面は、布帛2の生地表面上に金属導電パターン3が形成されたような構造となっている。
図2のt1は、布帛2の
図2に示される断面部分のみにおける生地表面粗さを示しており、100μm以下となっている。実際には、金属導電パターン3が少なくとも含まれる布帛2の表面上の範囲について、縦(90°)/横(0°)/斜め(45°)方向の全ての方向で測定される生地表面粗さ(生地表面凹凸の高低差)が100μm以下となっている。
図2のt2は、金属導電パターン3の厚みを示し、大凡1~10μm程度となっており、布帛2の生地表面上に形成された金属導電パターン3の単位面積当たりの重量は1~100g/m
2となっている。
図2のt3が、布帛2そのものの厚みを示している。しかし、正確には、前述した製造の際の塗布工程及び/又は焼成工程等によっては、布帛2の生地表面粗さは僅かに変化し得ることも想定され、更に、金属導電パターン3の厚みも均等に形成されるとは限らないため、
図2はあくまで説明のための概略図となっていることを理解されたい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0062】
<導電性布帛の製造>
本発明に係る導電性布帛の製造方法の1例を説明する。当該工程での方法によって製造された導電性布帛を、実施例1の導電性布帛とする。
図3は、実施例1の導電性布帛の製造工程を示すフローチャートである。
図4は、実施例1の導電性布帛の各製造工程の概略を示す図である。以下、これらの図を用いながら各製造工程について詳細に説明する。
【0063】
まず、所望の生地表面粗さを有する布帛の準備を行った(
図3のS1)。使用する布帛として、経糸/緯糸が共に56dTex144フィラメントを3本合撚したポリエチレンテレフタレート(PET)繊維を使用して2×2ツイル(密度:ヨコ27本/cm、タテ60本/cm)で織物にしたものを用いた。生地表面を平滑化するため、
図4(1)に示すように、布帛2の生地表面に対して、160℃、8.0MPaで平型熱プレス機4を用いたプレス処理を60秒間行い、熱圧縮加工を行った。熱圧縮加工後の布帛2の生地表面粗さを、表面粗さ測定機「SV-3000CNC」(商品名、ミツトヨ社製)により測定したところ、50μmであった。
【0064】
次いで、布帛のカチオン処理を行った(
図3のS2)。カチオン系界面活性剤として、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド(和光純薬社製)を使用した。
図4(2)に示すように、前述の熱圧縮加工を行った布帛2を、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド20%水溶液5に浸漬させて、マングル6で絞った後、80℃で10分間温風乾燥を行った。
【0065】
その後、インクジェットによって生地表面上に銀ナノ粒子インクを印刷し、インクの溶媒を乾燥させた(
図3のS3)。銀ナノ粒子インクとして、「NBSIJ-KC01」(商品名、三菱製紙社製(銀17質量%、エチレングリコール30~40質量%、エタノール1~2質量%、イソプロピルアルコール1質量%未満、水30~50質量%、及びその他添加剤1~5質量%を含む。銀ナノ粒子の平均粒子径(透過型電子顕微鏡によって実測した100個の粒子の球換算粒径の算術平均値)は100nm。))を用いた。
図4(3)に示すように、布帛2の生地表面上の所望の導電パターン箇所に、インクジェット印刷機7(「SIT-SP-M10」(商品名、セーレン社製))を用い、40pl/dotの吐出量、600dpiの解像度で、導電パターン印刷画像を2回塗り重ねた。その後、導電パターンを印刷した布帛2に対して、80℃で1分間温風乾燥させた。
【0066】
最後に、キセノンフラッシュによる光焼成を行った(
図3のS4)。具体的には、
図4(4)に示すように、キセノンフラッシュ光焼成装置8(「S-2210」(商品名、Xenon社製))を用いて、前述の乾燥させた布帛2の生地表面に対して3msの照射時間にわたって20J/cm
2の照射エネルギーを与え、焼成を行った。その結果、布帛2の生地表面上に、表面抵抗値5Ω/□以下の導電性を持つ銀の金属導電パターン3が形成された。表面抵抗値は、「ロレスタ-EP MCP-T360」(商品名、三菱化学アナリテック社製)により測定した。形成された金属導電パターン3は、9.7g/m
2の単位面積当たりの重量(金属導電パターン3形成前後の布帛2の重量を「AUW220D」(商品名、島津製作所社製)により測定し差分した金属導電パターン3の全量から算出した値)であった。
【0067】
<金属導電パターンの金属純度の測定>
本発明に係る導電性布帛では、その製造工程において平滑な布帛表面上に平均粒子径200nm以下の金属ナノ粒子インクしか塗布されず焼成後のパターンの金属純度が高くなるため、その単位面積当たりの重量が軽くても十分な導電性を備える。そこで、前述の方法で製造された実施例1の導電性布帛について、形成された金属導電パターンの金属純度を測定した。
【0068】
実施例1の導電性布帛において形成された金属導電パターンの金属純度を測定するために、布帛の代わりにスライドガラスを用いてその表面上に同様の条件での工程(同じ銀ナノ粒子インクの同量・同条件でのインクジェット印刷及び同条件のキセノンフラッシュによる光焼成)を経て、金属導電パターンを形成した。形成された実施例1に係る金属導電パターンのサンプルについて、JIS K 0067:1992に記載の強熱残分試験法により不純物を取り除くことで金属純度を測定した結果、95%以上であった。
【0069】
<布帛の生地表面粗さとの関連における表面抵抗値(導電性)の評価>
本発明に係る導電性布帛では、金属導電パターンが形成される布帛の生地表面粗さが100μm以下の平滑な表面であるため、金属ナノ粒子インクを塗布して金属導電パターンを形成しても、凹凸の高低差でパターンに断線が生じることなく導電性を確保できる。そこで、実施例及び比較例について、布帛の生地表面粗さ(生地表面の凹凸の高低差)との関連における導電性布帛の金属導電パターンの表面抵抗値を評価した。
【0070】
実施例1の導電性布帛は、前述の方法で製造された導電性布帛である。
【0071】
実施例2の導電性布帛では、布帛として経糸/緯糸が共に84dTex336フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)繊維を使用して平織り(密度:ヨコ39本/cm、タテ65本/cm)で織物にした布帛を使用した。布帛の生地表面粗さは平滑化加工無しで30μmであり(表面粗さ測定機「SV-3000CNC」(商品名、ミツトヨ社製)により測定)、圧縮加工等の前処理無しでそのまま使用し、前述の実施例1の導電性布帛の製造工程と同様の方法で金属導電パターンを形成した。形成された金属導電パターンの表面抵抗値は、0.4Ω/□以下であった(「ロレスタ-EP MCP-T360」(商品名、三菱化学アナリテック社製)により測定)。なお、使用された布帛以外に実施例1の導電性布帛との差異は無いため、金属導電パターンの単位面積当たりの重量及び金属純度は各々同様の値となる。
【0072】
比較例1の導電性布帛では、布帛として実施例1の導電性布帛に使用されたものと同様の布帛(経糸/緯糸が共に56dTex144フィラメントを3本合撚したポリエチレンテレフタレート(PET)繊維を使用して2×2ツイル(密度:ヨコ27本/cm、タテ60本/cm)で織物にしたもの)について平滑化加工を行っていないものを使用した。布帛の生地表面粗さは、220μmであった(表面粗さ測定機「SV-3000CNC」(商品名、ミツトヨ社製)により測定)。前述の実施例1の導電性布帛の製造工程と同様の方法で金属導電パターンを形成した。形成された金属導電パターンの表面抵抗値は、測定器の測定レンジ上限の1.999MΩ/□以上であった(「ロレスタ-EP MCP-T360」(商品名、三菱化学アナリテック社製)により測定)。なお、使用された布帛以外に実施例1との差異は無いため、金属導電パターンの単位面積当たりの重量及び金属純度は各々同様の値となる。
【0073】
実施例1、実施例2及び比較例1の導電性布帛についての金属導電パターンの表面抵抗値等の評価結果をまとめたものを、以下の表1に示す。
【表1】
【0074】
表1から分かるように、実施例1(生地表面粗さ:50μm)又は実施例2(生地表面粗さ:30μm)の導電性布帛は、それぞれの表面抵抗値が5Ω/□以下又は0.4Ω/□以下であり、十分な導電性を有している。しかし、比較例1(生地表面粗さ:220μm)の導電性布帛では、表面抵抗値が測定レンジ上限の1.999MΩ/□以上となっており、導電性が失われていた。これは、比較例1では、凹凸の高低差でパターン部分に断線が生じてしまったためと推察できる。
【0075】
<布帛の生地表面粗さとの関連における通気度の評価>
本発明に係る導電性布帛は、前述した通り、導電性を確保するために使用される布帛の少なくとも一部の生地表面粗さが100μm以下となっており、生地表面粗さが顕著に大きい布帛と比較するとその通気度は低くなっている事が推定される。そこで、導電性布帛として使用する場合の実用性を評価するため、実施例及び比較例についての布帛(金属導電パターン無し)の通気度を評価した。
【0076】
以下の各評価対象布帛に対して、布帛の通気度測定を行った。通気度測定については、測定機として「FX3300」(商品名、TEXTEST INSTRUMENTS社製)を用いて、125Pa(JIS L 1096-A基準)のテスト圧力にて実施した。
・布帛A:前述の比較例1の導電性布帛に使用された布帛(生地表面粗さ:220μm)
・熱圧縮加工済み布帛A:前述の実施例1の導電性布帛に使用された布帛(生地表面粗さ:50μm)
・布帛B:前述の実施例2の導電性布帛に使用された布帛(生地表面粗さ:30μm)
【0077】
図5は、実施例及び比較例に係る布帛の通気度測定結果を示す図である。
図5に示すように、生地表面粗さが50μmである熱圧縮加工済み布帛A(実施例1の布帛)及び生地表面粗さが30μmである布帛B(実施例2の布帛)の通気度は、生地表面粗さが220μmである布帛A(比較例1の布帛)の40.8cm
3/cm
2/sと比較すれば、各々4.3cm
3/cm
2/s又は5.0cm
3/cm
2/sとなっており、幾分低い通気度となっていた。しかし、導電性布帛として使用する場合の実用において十分な通気性能を有していることが分かった。
【0078】
他に定義しない限り、本明細書中で用いる全ての技術用語等は、本発明が属する分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものと同様又は同等の方法及び材料を本発明の実施又は試験に用いることができる。本明細書中に言及する全ての公開物及び特許は、参照として全体が組み入れられる。相反の場合、定義を含む本明細書が優先する。更に、材料、方法及び実施例は単に例示的なものであり、限定することを意図していない。
【0079】
本発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る導電性布帛の製造方法によれば、布帛上に形成される金属導電パターンの単位面積当たりの重量が軽く、布帛本来の通気度の特性が保持され易く、且つ金属導電パターンに断線が生じることも無い十分な導電性を備える導電性布帛が提供される。このような導電性布帛は、ウェアラブルデバイス用のベース素材等に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
2 布帛
3 金属導電パターン
4 平型熱プレス機
5 カチオン処理溶液
6 マングル
7 インクジェット印刷機
8 キセノンフラッシュ光焼成装置
10 導電性布帛