(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】形質転換植物、およびその利用
(51)【国際特許分類】
A01H 1/00 20060101AFI20220121BHJP
C12P 33/00 20060101ALI20220121BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20220121BHJP
A01H 6/82 20180101ALI20220121BHJP
A01H 6/56 20180101ALI20220121BHJP
A01H 6/50 20180101ALI20220121BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
A01H1/00 A ZNA
C12P33/00
C12N15/53
A01H6/82
A01H6/56
A01H6/50
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2020501699
(86)(22)【出願日】2019-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2019005088
(87)【国際公開番号】W WO2019163601
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2018032173
(32)【優先日】2018-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598041795
【氏名又は名称】神戸天然物化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】水谷 正治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宗典
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-113001(JP,A)
【文献】特開2012-239412(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0148655(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0138657(KR,A)
【文献】BACH, T. J.,Secondary metabolism: High cholesterol in tomato,nature plants,2016年12月22日,Vol. 3,DOI: 10.1038/nplants.2016.213
【文献】CHOE, S., et al.,Lesions in the sterol Δ7 reductase gene of Arabidopsis cause dwarfism due to a block in brassinosteroid biosynthesis,The Plant Journal,2000年,Vol. 21, No. 5,p. 431-443
【文献】SONAWANE, P. D., et al.,Plant cholesterol biosynthetic pathway overlaps with phytosterol metabolism,nature plants,2016年12月22日,Vol. 3,DOI: 10.1038/nplants.2016.205
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00
C12N 15/00
A01H 6/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる2種類の第1および第2の7-デヒドロコレステロールレダクターゼをコードする遺伝子を有
し、当該第1および第2の2つの7-デヒドロコレステロールレダクターゼをコードする遺伝子の発現が抑制されていることを特徴とする、
トマト。
【請求項2】
前記第1の7-デヒドロコレステロールレダクターゼをコードする遺伝子が、以下の(a)~(
d)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子であることを特徴とする、請求項1に記載の
トマト:
(a)配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
(b)配列番号1に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、7-デヒドロコレステロールレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(c)配列番号1に記載されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、7-デヒドロコレステロールレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(d)配列番号2に記載される塩基配列からなる遺伝
子。
【請求項3】
前記第2の7-デヒドロコレステロールレダクターゼをコードする遺伝子が、以下の(f)~(
i)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子であることを特徴とする、請求項1に記載の
トマト:
(f)配列番号3に記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
(g)配列番号3に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、7-デヒドロコレステロールレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(h)配列番号3に記載されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、7-デヒドロコレステロールレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(i)配列番号4に記載される塩基配列からなる遺伝
子。
【請求項4】
コレステロール由来のステロイドサポニンを大量に生産す
ることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の
トマト。
【請求項5】
前記7-デヒドロコレステロールレダクターゼをコードする遺伝子の発現の抑制が、ZFN、TALEN、CRISPR/Cas9、PPRモチーフ、イオンビーム照射、紫外線照射、siRNA、miRNA、shRNA、アンチセンスRNAまたは相同組換えにより行われることを特徴とする、請求項1から
4のいずれか1項に記載の
トマト。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の
トマトを用いた、7-デヒドロコレステロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形質転換植物、およびその利用技術、例えば、当該形質転換植物を用いた7-デヒドロコレステロールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンD3(以下、「VD3」とも称する。)および活性型VD3は、生体内でカルシウム・リン代謝を調節する成分であり、骨粗鬆症および運動機能低下の予防・治療、欠乏治療等に有効であることが知られている。したがって、VD3もしくは活性型VD3、またはそれらの前駆体を、大量に、かつ、低価格で提供することが求められている。
【0003】
VD3もしくは活性型VD3、またはそれらの前駆体を大量に生産する技術として、植物を用いた生産が検討されている。例えば、ナス科植物には、植物ステロールの生合成系の他に、VD3の前駆体である7-デヒドロコレステロール(以下、「7-DHC」とも称する。)を合成するコレステロールの生合成系が存在することが知られており、これを利用してVD3もしくは活性型VD3、またはそれらの前駆体を大量に生産することが検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した技術では、活性型VD3等の効率的な生産技術としては十分ではなかった。
【0006】
そこで、本発明の一態様は、活性型VD3の前駆体である7-DHCの産生量が増加した形質転換植物およびその利用技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、異なる2種類の7-デヒドロコレステロールレダクターゼを有するナス科植物において、これら2種類の酵素遺伝子の発現を同時に抑制することにより、7-DHCの産生量を増加させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の一態様は、以下の発明を包含する:
異なる2種類の第1および第2の7-デヒドロコレステロールレダクターゼをコードする遺伝子を有する植物において、当該第1および第2の2つの7-デヒドロコレステロールレダクターゼをコードする遺伝子の発現が抑制されていることを特徴とする、植物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、VD3の前駆体である7-DHCの産生量が増加した形質転換植物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、推定される植物ステロール合成経路およびコレステロール合成経路を示す図である。
【
図2】
図2は、7-DHCからコレステロールまたはVD3へ変換される経路を示す図である。
【
図3】
図3は、LeDWF5HをノックアウトするためのガイドRNAの配列設計を示す図である。
【
図4】
図4は、LeDWF5をノックアウトするためのガイドRNAの配列設計を示す図である。
【
図5】
図5は、ガイドRNA発現ベクター(pMgP237-2A-gfp)を示す図である。
【
図6】
図6は、ガイドRNA発現ベクター(pMgP237)を示す図である。
【
図7】
図7は、LeDWF5HおよびLeDWF5の両方をノックアウトするためのベクターを示す図である。
【
図8】
図8は、LeDWF5Hをノックアウトしたトマト毛状根のLC-MSによる分析結果を示す図である。
【
図9】
図9は、LeDWF5HおよびLeDWF5の両方をノックアウトしたトマト毛状根のGC-MSによる分析結果を示す図である。
【
図10】
図10は、LeDWF5HおよびLeDWF5の両方をノックアウトしたトマト毛状根の7-DHCおよびコレステロールの含有量を分析した結果を示す図である。
【
図11】
図11は、LeDWF5HおよびLeDWF5の両方をノックアウトしたトマト毛状根のLC-MSによる分析結果を示す図である。
【
図12】
図12は、LeDWF5HおよびLeDWF5の両方をノックアウトしたトマト毛状根のLC-MSによる分析結果を示す図である。
【
図13】
図13は、LeDWF5HおよびLeDWF5の両方をノックアウトしたトマト毛状根のGC-MSによる7-DHCの含有量を分析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0011】
本明細書中で使用される場合、用語「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。ここで、遺伝子は、DNAの形態(例えば、cDNAもしくはゲノムDNA)、またはRNAの形態(例えば、mRNA)にて存在し得る。DNAまたはRNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。また、遺伝子は化学的に合成してもよく、コードするタンパク質の発現が向上するように、コドンユーセージ(Codon usage)を変更してもよい。同じアミノ酸をコードするコドン同士であれば置換することも可能である。また、用語「タンパク質」は、「ペプチド」または「ポリペプチド」と交換可能に使用される。本明細書において使用される場合、塩基およびアミノ酸の表記は、適宜IUPACおよびIUBの定める1文字表記または3文字表記を使用する。
【0012】
<1.本発明の概要>
本発明の一実施形態において、異なる2種類の第1および第2の7-デヒドロコレステロールレダクターゼをコードする遺伝子を有する植物において、当該第1および第2の2つの7-デヒドロコレステロールレダクターゼをコードする遺伝子の発現が抑制されている植物(以下、「本発明の植物」と称することもある。)を提供する。以下、「異なる2種類の第1および第2の7-デヒドロコレステロールレダクターゼ」について、それぞれ「DWF5」および「DWF5H」(※Hはホモログを意味する)と称し、これらの遺伝子をそれぞれ「DWF5遺伝子」および「DWF5H遺伝子」と称することもある。また、総称としての「7-デヒドロコレステロールレダクターゼ」を「C7R」と称することもある。
【0013】
VD3の産生は、7-DHCの5位および7位に存在する二重結合が、紫外線等による開環反応によりプレVD3となり、その後VD3へ異性化することにより生じる。したがって、5位および7位の二つの二重結合の存在が重要である。
【0014】
ここで、トマトを含むナス科植物は、多くの植物が通常有する植物ステロール合成経路の他に、コレステロール合成経路を有する(
図1)。このような植物では、7-DHCの7位の二重結合の還元が速やかに進行するため、結果として、7-DHCはコレステロールへ変換され、7-DHCの蓄積量はわずかである(
図2)。
【0015】
植物ステロール合成経路の他に、コレステロール合成経路を有する植物として、例えば、トマト(Solanum Lycopersicum)が挙げられる。トマトでは、DWF5およびDWF5Hとして、それぞれLeDWF5およびLeDWF5Hを有する。ここで、従来、トマトでは、LeDWF5が植物ステロール合成経路に関与し、LeDWF5Hがコレステロール合成経路に関与すると考えられていた(Prashant et al., “Plant cholesterol biosynthetic pathway overlaps with phytosterol metabolism,” Nature Plant., (2016))。このため、本発明者らは、トマトにおいてLeDWF5Hを抑制すれば、コレステロール合成経路における7-DHCからコレステロールへの変換が妨げられ、その結果として7-DHCが大量に蓄積すると仮定して実験を行った。しかし予想は外れ、7-DHCの蓄積の増加は見られなかった。
【0016】
そこで、本発明者らは、さらに鋭意検討を進めた結果、驚くべきことに、後述する実施例に示すように、LeDWF5およびLeDWF5Hの2つの遺伝子を同時に抑制することにより、7-DHCの産生量が増加することを初めて見出した。
【0017】
したがって、本発明の植物は、VD3の前駆体である7-DHCの産生量が増加しているという、顕著な効果を奏する。
【0018】
<2.異なる2種類の7-デヒドロコレステロールレダクターゼをコードする遺伝子の発現が抑制されている植物>
本発明の植物は、DWF5遺伝子およびDWF5H遺伝子の発現が抑制されていればよく、その他の具体的な構成は特に限定されない。以下、本発明における態様について詳述する。
【0019】
<2-1.7-デヒドロコレステロールレダクターゼをコードする遺伝子>
本明細書において、「7-デヒドロコレステロールレダクターゼ(C7R)」は、コレステロールおよび/または植物ステロールのステロイド骨格の第7位の二重結合を還元する酵素活性を有するタンパク質を意味する。例えば、7-DHCのステロイド骨格の7位と8位との間の二重結合を還元する酵素活性を有するタンパク質を例示できる。C7Rの作用により、7-DHCがコレステロールへと変換される。コレステロールは、さらに、ステロイドサポニン、およびステロイドグリコアルカロイド(以下、「SGA」とも称する)等へと変換される。
【0020】
本発明の一実施形態において、C7Rは、上述の還元活性を有するタンパク質であれば、特に限定されない。DWF5遺伝子は、例えば、以下の(a)~(e)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子である。
【0021】
(a)配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
(b)配列番号1に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、C7R活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(c)配列番号1に記載されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、C7R活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(d)配列番号2に記載される塩基配列からなる遺伝子;
(e)前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、C7R活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【0022】
また、DWF5H遺伝子は、例えば、以下の(f)~(j)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子である。
【0023】
(f)配列番号3に記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
(g)配列番号3に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、C7R活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(h)配列番号3に記載されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、C7R活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(i)配列番号4に記載される塩基配列からなる遺伝子;
(j)前記(f)~(i)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、C7R活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【0024】
上記(a)の遺伝子について説明する。配列番号1は、トマト由来のC7Rの一種であり、全長435アミノ酸残基から構成されるタンパク質である。
【0025】
続いて、上記(f)の遺伝子について説明する。配列番号3は、トマト由来のC7Rの一種であり、全長435アミノ酸残基から構成されるタンパク質である。また、上記(f)の遺伝子は、上記(a)遺伝子のホモログである。
【0026】
前記(b)および(g)の遺伝子は、それぞれ、配列番号1および3に示すアミノ酸配列を有するタンパク質の、機能的に同等の変異体、誘導体、バリアント、アレル、ホモログ、オルソログ、部分ペプチド、または他のタンパク質・ペプチドとの融合タンパク質等であって、C7R活性を有するタンパク質をコードする限り、その具体的な配列については限定されない。ここで、欠失、置換または付加されてもよいアミノ酸の数は、上記機能を失わせない限り、限定されてないが、部位特異的突然変異誘発法等の公知の導入法によって欠失、置換または付加できる程度の数をいう。そのようなアミノ酸の数は、通常は、30アミノ酸以内であり、好ましくは20アミノ酸以内であり、より好ましくは10アミノ酸以内であり、さらに好ましくは7アミノ酸以内、とりわけ好ましくは5アミノ酸以内(例えば、5、4、3、2または1アミノ酸)である。また、本明細書中において「変異」とは、部位特異的突然変異誘発法等により人為的に導入された変位を主に意味するが、天然に存在する同様の変異であってもよい。
【0027】
変異するアミノ酸残基は、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されていることが好ましい。例えば、アミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸およびアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)が挙げられる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字表記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1または複数個のアミノ酸残基の欠失、付加および/または他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。さらに、標的アミノ酸残基は、共通した性質をできるだけ多く有するアミノ酸残基に変異させることがより好ましい。
【0028】
本明細書において「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、配列番号1および3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等(同一および/または類似)の生物学的機能や生化学的機能を有することを意図する。本明細書において、配列番号1および3のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質の生物学的機能や生化学的機能としては、例えば、7-DHCのステロイド骨格の7位と8位との間の二重結合を還元する機能を挙げることができる。生物学的機能には、発現する部位の特異性や、発現量等も含まれ得る。変異を導入したタンパク質が機能的に同等であるか否かは、そのタンパク質をコードする遺伝子を導入発現させた形質転換体を取得し、この形質転換体が7-DHCを基質として、当該7-DHCのステロイド骨格の7位と8位との間の二重結合を還元し得るかどうかを調べることにより判断できる。
【0029】
前記(c)および(h)の遺伝子も、それぞれ、配列番号1および3に示すアミノ酸配列を有するタンパク質の、機能的に同等の変異体、誘導体、バリアント、アレル、ホモログ、オルソログ、部分ペプチド、または他のタンパク質・ペプチドとの融合タンパク質等を意図しており、7-DHCのステロイド骨格の7位と8位との間の二重結合を還元する酵素活性(すなわち、7-DHCを還元する活性)を有するタンパク質をコードする限り、その具体的な配列については限定されない。
【0030】
アミノ酸配列の同一性とは、アミノ酸配列全体(または機能発現に必要な領域)で、少なくとも90%以上、より好ましくは95%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有することを意味する。アミノ酸配列の同一性は、BLASTN(核酸レベル)やBLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al. J. Mol. Biol., 215: 403-410, 1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、KarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-2268, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877, 1993)に基づいている。BLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore=50、wordlength=3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402, 1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。比較対象の塩基配列またはアミノ酸配列を最適な状態にアラインメントするために、付加または欠失(例えば、ギャップ等)を許容してもよい。
【0031】
本明細書において「同一性」(identity)とは、同一のアミノ酸残基数の割合を指す。なお、アミノ酸の性質については上述したとおりである。
【0032】
上記(d)および(i)の遺伝子について、配列番号2および4は、それぞれ、配列番号1および3で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列(Open Reading Frame:ORF)を示す。
【0033】
上記(e)の遺伝子は、上記(a)~(d)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子を意図する。また、上記(j)の遺伝子は、上記(f)~(i)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子を意図する。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる塩基配列に特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成され、非特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成されない条件をいう。換言すれば、相同性が高い核酸同士、例えば完全にマッチしたハイブリッドの融解温度(Tm値)から15℃、好ましくは10℃、さらに好ましくは5℃低い温度までの範囲の温度でハイブリダイズする条件ともいえる。例えば、一例を示すと、0.25M Na2HPO4、pH7.2、7%SDS、1mM EDTA、1×デンハルト溶液からなる緩衝液中で温度が60~68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で16~24時間ハイブリダイズさせ、さらに20mM Na2HPO4、pH7.2、1% SDS、1mM EDTAからなる緩衝液中で温度が60~68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で15分間の洗浄を2回行う条件を挙げることができる。他の例としては、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/mL変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、「1×SSC、0.1% SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5×SSC、0.1% SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2×SSC、0.1% SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほど、特異性の高いハイブリダイズとなる。ただし、前記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する前記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間等)を適宜組み合わせることにより、前記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。このことは、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(2001)等に記載されている。
【0034】
また、上記(e)および(j)の遺伝子には、それぞれ、配列番号2および4に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入および/または付加しているDNAからなる遺伝子、および配列番号2および4に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の相同性を有するDNAからなる遺伝子も含まれる。
【0035】
上記遺伝子・タンパク質を得る方法としては、通常行われるポリヌクレオチド改変方法を用いてもよい。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するポリヌクレオチドの特定の塩基を置換、欠失、挿入および/または付加することで、所望の組換えタンパク質の遺伝情報を有するポリヌクレオチドを作製することができる。ポリヌクレオチドの塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(KOD-Plus Site-Directed Mutagenesis Kit;東洋紡製、Transformer Site-Directed Mutagenesis Kit; Clontech製、QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit; Stratagene製等)の使用、またはポリメラーゼ連鎖反応法(polymerase chain reaction:PCR)の利用が挙げられる。これらの方法は当業者に公知である。
【0036】
また、上記遺伝子は、上記タンパク質をコードするポリヌクレオチドのみからなるものであってもよいが、その他の塩基配列が付加されていてもよい。付加される塩基配列としては、特に限定されないが、標識(例えば、ヒスチジンタグ、MycタグまたはFLAGタグなど)、融合タンパク質(例えば、ストレプトアビジン、シトクロム、GST、GFPまたはMBPなど)、プロモーター配列、およびシグナル配列(例えば、小胞体移行シグナル配列、および分泌配列など)をコードする塩基配列などが挙げられる。このような塩基配列が付加される部位は特に限定されるものではなく、例えば、翻訳されるタンパク質のN末端であっても、C末端でもあってもよい。
【0037】
本発明の植物は、上述の通り、DWF5遺伝子およびDWF5H遺伝子の発現が抑制されている。
【0038】
上記遺伝子の発現を抑制する方法としては、特に限定されることなく、当分野において使用される任意の方法が用いられる。例えば、ZFN(Zinc Finger Nucleases)、TALEN(Transcription Activator Like Effector Nucleases)、CRISPR/Cas9(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats /CRISPR Associated Proteins 9)、PPR(Pentatrico Peptide Repeat)モチーフ、イオンビーム照射、紫外線照射、siRNA、miRNA、shRNA、アンチセンスRNA、相同組換え等の方法が挙げられる。各方法は、例えば、以下の文献に記載されている:ZFN(Kim YG et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93:1156-1160, 1996)、TALEN(Christian et al., Genetics, 186:757-761, 2010)、CRISPR/Cas9(Gilbert et al., Cell, 154:442-451, 2013)、PPRモチーフ(国際公開第2014/175284号公報)、イオンビーム照射(A. Tanaka et a1., Int. J. Radiat. Bio1. 72: 121-127, 1997)、紫外線照射(鵜飼 保雄、植物育種学 東京大学出版センター(2003年))、siRNA(Elbashir SM et al., Nature. 2001 May 24;411(6836):494-8)、miRNA(Caudy AA et al, Genes & Devel 16: 2491-96, 2002)、shRNA(Bernstein E, Caudy AA et al, Nature; 409(6818): 363-6, 2001)、アンチセンスRNA(Ching et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:10006-10010(1989)。
【0039】
なお、上記の遺伝子発現抑制法により、本発明の植物を製造する方法もまた、本発明の範囲に包含されることを付言する。
【0040】
本発明の一実施形態において、上記遺伝子発現の抑制の対象とする植物材料としては、例えば、根、茎、葉、種子、胚、胚珠、子房、茎頂、葯、花粉等の植物組織やその切片、細胞、カルス、それを酵素処理して細胞壁を除いたプロプラスト等の植物細胞が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
本発明の一実施形態において、上記(a)~(j)遺伝子に改変(破壊)をもたらし得る適当なベクターを構築し、それを植物細胞に導入し、該細胞から形質転換植物を再生させることにより、本発明の植物を作製できる。
【0042】
上述のように形質転換した植物細胞は、当業者に公知の手法により、植物個体に再生することができる。例えば、カルス状の形質転換細胞をホルモンの種類、濃度を変えた培地へ移して培養し、不定胚を形成させ、完全な植物体を得る方法などが挙げられる。
【0043】
他にも、形質転換の対象とする植物材料として植物組織、例えばリーフディスクを用いた場合、アグロバクテリウム感染後、これらを無機塩類、ビタミン類、炭素源(エネルギー源としての糖類など)、植物生長調節物質(オーキシン、サイトカイニン等の植物ホルモン)やカナマイシン等の選抜薬剤等を加えて滅菌した再分化固型培地上で適当な光および温度条件の下、培養することによって茎葉を形成させることができる。次に、上記固型培地より植物生長調節物質を除いた培地(発根培地)上で茎葉を培養することにより不定根を誘導し、完全な植物体へと再生することができる。なお、使用する培地としては、例えば、LS培地、MS培地などの一般的なものが挙げられる。
【0044】
上記形質転換体において、遺伝子の発現が抑制されているか否かの確認は、上記(a)~(j)のいずれかの遺伝子の有無、あるいは該遺伝子の発現が抑制されているか否かを判定することにより行われる。
【0045】
上記(a)~(j)の遺伝子は、7-DHCを還元する活性を有するタンパク質をコードしているため、植物においてこれらの遺伝子の有無、あるいは該遺伝子の発現が抑制されているか否かを判定することにより、当該植物が7-DHCを大量に生産し得るか否かを簡易に判断できる。
【0046】
具体的な判定方法については従来公知の方法を用いることができるが、例えば、(i)対象となる植物体からDNA試料を得て、遺伝子の有無、または遺伝子に変異が導入されて発現が抑制されているか否かを調べる方法、(ii)上記遺伝子の転写産物であるmRNAの有無または量を調べる方法、(iii)上記遺伝子の転写産物であるタンパク質の有無または量を調べる方法等を挙げることができる。
【0047】
上記DNA、RNAまたはタンパク質を調べる手法としては、従来公知の方法を利用でき、特に限定されないが、例えば、プローブを用いる手法、PCR法、RT-PCR法、抗体を用いた各種イムノアッセイ法、マイクロアレイを利用する方法等を挙げることができる。
【0048】
<2-2.植物>
本発明の一実施形態において、異なる2種類のC7Rをコードする遺伝子の発現を抑制する対象となる植物は、異なる2種類のC7Rを有する植物であれば、その他の構成は特に限定されない。
【0049】
本発明の一実施形態において、植物は、例えば、コレステロール由来のステロイドサポニンを大量に生産する植物であり得る。コレステロール由来のステロイドサポニンを大量に生産する植物においては、コレステロールが大量に生産されていると推測される。よってこのような植物においては、7-DHCからコレステロールへの変換を抑制することによって、7-DHCの産生量が増加した植物を実現することができる。そのような植物としては、例えば、ナス科、ユリ科、ゴマノハグサ科、ヤマノイモ科またはシソ科の植物が挙げられる。より具体的には、そのような植物として、ナス科のジャガイモ(Solanum tuberosum)、トマト(Solanum lycopersicum)、ルリヤナギ(Solanum glaucophyllum)、ヤコウボク(Cestrum nocturnum)、キダチタバコ(Nicotiana glauca)、ゴマノハグサ科のジギタリス(Digitalis purpurea)、ヤマノイモ科のヤムイモ(Dioscorea sp.)、シソ科のジュウニヒトエ(Ajuga reptans)等が挙げられる。好ましくは、植物は、トマトまたはジャガイモであり得る。これらの植物では、代謝経路が明らかとなっているため、異なる2種類のC7Rをコードする遺伝子の発現を抑制する対象として好適である。
【0050】
本発明の植物は、植物体全体、植物器官(例えば、根、茎、葉、花弁、種子、果実等)、植物組織(例えば表皮、篩部、柔組織、木部、維管束等)、植物細胞、カルス等のいずれをも包含する。また、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根も含まれる。
【0051】
また、一旦、染色体内の上記(a)~(j)の遺伝子が破壊もしくは発現抑制された形質転換植物が得られれば、上記植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。上記植物やその子孫、あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に上記植物を量産することもできる。また、本発明の植物は、形質転換処理を施した再分化当代である「T0世代」やT0世代の植物の自殖種子である「T1世代」などの後代植物や、それらを片親にして交配した雑種植物やその後代植物を含む。
【0052】
<3.7-デヒドロコレステロールの製造方法>
本発明の一実施形態において、上記<2>に記載の本発明の植物を用いた、7-DHCの製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称することもある。)を提供する。
【0053】
本発明の製造方法は、上記<2>に記載の本発明の植物を用いるものであれば、特に限定されない。
【0054】
上述した通り、異なる2種類のC7Rをコードする遺伝子の発現が抑制されている植物では、7-DHCの産生量が増加している。したがって、本発明の製造方法により、ビタミンD3の前駆体である7-DHCを効率的に製造することができる。
【0055】
本発明の製造方法において、本発明の植物は、当分野における任意の方法を用いて、培養することができる(例えば、大沢勝次、図集・植物バイテクの基礎知識、農山漁村文化協会(2005)、大沢勝次、植物バイテクの実際、農山漁村文化協会(2003)等を参照)。
【0056】
本発明の製造方法により生産された7-DHCは、植物から分離し、実質的に純粋で均一な化合物として精製することができる。7-DHCの分離、精製は、通常の化合物の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、透析および再結晶等を適宜選択または組み合せることにより、7-DHCを分離、精製することができる。さらに、これらの方法を複数組み合わせることもできる。
【0057】
クロマトグラフィーとしては、アフィニティークロマトグラフィー、陰イオンまたは陽イオンのイオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィーおよび吸着クロマトグラフィー等が挙げられる。
【0058】
本発明の一実施形態は、以下の構成を包含する。
【0059】
(1)異なる2種類の第1および第2の7-デヒドロコレステロールレダクターゼをコードする遺伝子を有する植物において、当該第1および第2の2つの7-デヒドロコレステロールレダクターゼをコードする遺伝子の発現が抑制されていることを特徴とする、植物。
【0060】
(2)前記第1の7-デヒドロコレステロールレダクターゼをコードする遺伝子が、以下の(a)~(e)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子であることを特徴とする、(1)の植物:
(a)配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
(b)配列番号1に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、7-デヒドロコレステロールレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(c)配列番号1に記載されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、7-デヒドロコレステロールレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(d)配列番号2に記載される塩基配列からなる遺伝子;
(e)前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、7-デヒドロコレステロールレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【0061】
(3)前記第2の7-デヒドロコレステロールレダクターゼをコードする遺伝子が、以下の(f)~(j)からなる群より選択されるいずれかの遺伝子であることを特徴とする、(1)の植物:
(f)配列番号3に記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;
(g)配列番号3に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、7-デヒドロコレステロールレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(h)配列番号3に記載されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、7-デヒドロコレステロールレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(i)配列番号4に記載される塩基配列からなる遺伝子;
(j)前記(f)~(i)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、7-デヒドロコレステロールレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【0062】
(4)前記植物が、コレステロール由来のステロイドサポニンを大量に生産する植物であることを特徴とする、(1)から(3)のいずれかの植物。
【0063】
(5)前記植物が、ナス科、ユリ科、ゴマノハグサ科、ヤマノイモ科またはシソ科の植物であることを特徴とする、(1)から(4)のいずれかの植物。
【0064】
(6)前記植物が、トマト、ジャガイモ、ヤコウボク、ルリヤナギまたはキダチタバコであることを特徴とする、(1)から(5)のいずれかの植物。
【0065】
(7)前記7-デヒドロコレステロールレダクターゼをコードする遺伝子の発現の抑制が、ZFN、TALEN、CRISPR/Cas9、PPRモチーフ、イオンビーム照射、紫外線照射、siRNA、miRNA、shRNA、アンチセンスRNAまたは相同組換えにより行われることを特徴とする、(1)から(6)のいずれかの植物。
【0066】
(8)(1)~(6)のいずれかの植物を用いた、7-デヒドロコレステロールの製造方法。
【0067】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0068】
本発明の実施例について以下に説明する。本実施例においては、代謝経路がほぼ明らかになっているナス科植物のトマトを用いた。また、本実施例においては、遺伝子の発現を抑制するための方法としてCRISPR/Cas9を用いているが、特にこの方法に限定されない。
【0069】
<1.CRISPR/Cas9のための植物形質転換ベクターpMgP237の構築>
CRISPR/Cas9植物形質転換バックボーンベクターは、pMgP237-2A-gfp(徳島大刑部敬史より分与)を用いた(
図5)。このベクターは、ガイドRNAをシロイヌナズナのU6-26(AtU6-26)プロモーターでドライブし、Cas9を2×35Sのプロモーターでドライブするベクターである。このベクターの特徴は、ガイドRNAとtRNAをタンデムにつなぎ、複数のガイドRNAを一つのプロモーター直下で発現させることである。tRNAは、植物体内でプロセッシングを受けるため、一本のmRNAとして転写された複数のガイドRNAが植物体内で切断され、それぞれのガイドRNAが現れる。以下にベクターの作成方法を示す。
【0070】
選抜したガイドRNAの配列からロングオリゴをデザインし、北海道システムサイエンスに合成を依頼した。購入したロングオリゴをプライマーにして、pMD_gtRNAを鋳型にPCRを行った。PCR用の組成は、以下のとおり調整した。また、使用したプライマー配列は表1に示す。
・Template DNA(20pg) 1.0μL
・10μM F primer 0.75μL
・10μM R primer 0.75μL
・dNTP Mixure 0.75μL
・5×PS buffer 5μL
・PrimeSTRA HS 0.25μL
・MilliQ 15.25mL
以下の反応条件でPCRを行った。
・95℃、30秒→(98℃、10秒/55℃、20秒/72℃、10秒)を35サイクル→72℃、5分間
PCR反応産物を2.0%アガロースゲル電気泳動に供し、WizardR SV Gel and PCR Clean-UP System(Promega)を用いて、ゲルからの抽出および精製を行った。精製したPCR断片とバックボーンベクターであるpMgP237-2A-gfpとを混ぜ合わせ、以下の反応組成でゴールデンゲートクローニングを行った。
・Vector(100ng/μL) 1.0μL
・PCR product(10ng/μL) 3.0μL
・10×T4 DNA ligase buffer 2.0μL
・BsaI 1.0μL
・T4DNA ligase 1.0μL
MilliQを用いて、Totalを25μLとした。
【0071】
2つのガイドRNAを発現させる場合は1つのPCRプロダクトを用い、4つのガイドRNAを発現させる場合は3つのPCRプロダクトを用いた。反応条件は以下に示す通りである。
・(37℃、5分/16℃、10分)を10サイクル→12℃
反応溶液中の未消化なベクターを消化するために、ゴールデンゲートクローニング溶液20μLに0.5μLを加えて、50℃、60分→80℃、15分の条件下で反応を行った。得られた消化済みゴールデンゲーツローニング溶液により大腸菌DH5αを形質転換し、LB寒天培地(Km:50mg/L)に播種した。その後、大腸菌のコロニーをかきとり、LB液体培地(Km:50mg/L)で液体培養を行い、プラスミド抽出を行った。得られたプラスミドをシークエンシングにかけ、配列のエラーがなく構築されていることを確認した。これを、形質転換ベクターとした(
図6)。
【0072】
【表1】
<2.毛状根の形質転換>
〔2-1.形質転換ベクターのアグロバクテリウム・リゾゲネスAgrobacterium. rhizogenesへの導入〕
上記<1>で構築した形質転換ベクターを、以下の方法で、A. rhizogenes 15834株へ導入した。まず、構築した形質転換ベクター2μLとA. rhizogenes 15834株のコンピテントセル50μLとを十分に混合し、MicroPulserエレクトロポレーションキュベット/0.1cmギャップ(BIO-RAD製)に注入した。続いて、キュベットをMicroPulserエレクトロポレーター(BIO-RAD製)にセットした後、パルス送出を行った。得られたA. rhizogenes 15834株を含む溶液を、YEB液体培地1mLに懸濁し、ロータリーシェイカーを用いて、暗所28℃、200rpmの条件下で4時間振とう培養した。振とう培養後の溶液を、YEB寒天培地(カナマイシン:50mg/L)に播種し、暗所28℃で72時間培養した。得られたシングルコロニーをYEB液体培地(カナマイシン:50mg/L)3mLに接種し、ロータリーシェイカーを用いて暗所28℃、200rpmで72時間振とう培養した。得られた培養液3mLのうち2mLはアルカリSDSによるプラスミド抽出に用いた。得られたプラスミドを鋳型として適当なプライマーでPCRを行い、目的遺伝子の挿入を確認した。PCRはEx Taq HS(TaKaRa製)を用いて行った。PCR反応液の組成は、Ex Taq HS 0.1μL、プラスミド0.5μL、dNTP mixture 0.8μL、10×Ex Taq Buffer 1μL、各プライマー(100μM)0.5μL、MilliQ水 6.6μLを加え、全量10μLとした。反応条件は、95℃で5分間の初期変性後に、94℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の伸長反応を35サイクル繰り返し、その後、72℃で5分間の最終伸長を行った。PCRによる増幅が見られ、目的遺伝子の挿入が確認できたものは、培養液の残りの1mLでグリセロールストックを作製し、-80℃で保存した。
【0073】
〔2-2.トマトの準備〕
Micro-Tom(Scott and Harbaugh, 1989)の種子25粒をエッペンドルフチューブに入れ、そこへ70%エタノール1mLを加えて1分間転倒混和し、ピペットマンで70%エタノールを除去した。次に、家庭用キッチンハイター200μLとMilliQ 800μLとを加えて15分間転倒混和し、クリーンベンチ内で、ピペットマンを用いて混合液を除去した。滅菌MilliQ水1mLを加えて、滅菌MilliQ水を捨てる作業を3回行ない、種子を洗浄した。滅菌種子を、MS(1.5%Sucrose)寒天培地50mLが入ったプラスチックポットに並べ、暗所25℃で約10日間育てた。茎が10cmほど伸びたところで、25℃、16時間明条件下(40~50μmol of photons/m2/s)に2~3日間程置き、葉を色づかせた。
【0074】
〔2-3.毛状根の形質転換〕
上記〔2-1〕で各遺伝子を導入したA. rhizogenesのグリセロールストックをYEB寒天培地(カナマイシン:50mg/L)にスプレッドし、暗所28℃で72時間培養した。上記〔2-2〕で得られたトマトの茎を1~1.5cmに切断し、茎の根側の先端をA. rhizogenesのコロニーに付着させ、B5寒天培地 50mLの入ったプラスチックポットにこの茎の切片を根側が上になるように立てた。これを暗所25℃で20日間おき、毛状根が確認できた茎の上部のみを切ってMS寒天培地(2%Sucrose,CEF:250mg/L)に移し、暗所25℃で7日間おいた。伸びた毛状根は根の先端約1 cmをB5寒天培地(2%Sucrose,CEF:250mg/L)に個体ごとで区別がつくように植え継ぎ、暗所25℃で7日間おいた。B5寒天培地(2%Sucrose,CEF:250mg/L)で根の先端を植え継ぐ作業を、毛状根ができるまで繰り返した。
【0075】
<3.毛状根のゲノム抽出およびPCRによる形質転換の確認>
毛状根に目的遺伝子が挿入されているかどうかをゲノムPCRによって確認した。B5寒天培地(2%Sucrose,CEF:250mg/L)で植え継いだ毛状根を各遺伝子のラインごとに1本、先端1cmをエッペンドルフチューブに入れ、そこへBufferA(100mM Tris-HCl(pH9.5)、1M KCl、10mM EDTA)を150μL加えて爪楊枝ですりつぶした。10,000rpmで3分間遠心分離し、上清を新しいチューブに移した。そこに、イソプロパノールを150μLを加えて十分にピペッティングした後、15,000rpmで10分間遠心分離し、上清を除去した。70%エタノールを300μL加えて、15,000rpm、1分間4℃で遠心分離し、上清をデカンテーションで除去した。再度、15,000rpm、1分間4℃で遠心分離し、ピペットマンで上清を除去した。光照射下で乾燥させ、TE buffer 20μLに溶かして、十分にピペッティングした。
【0076】
抽出したゲノムのPCRは、Ex Taq HS(TaKaRa製)を用いて行った。用いたプライマーは表1に示す。PCR反応液の組成は、Ex Taq 0.05μL、template 1μL、dNTP mixture 0.8μL、10×Ex Taq Buffer 1μL、各プライマー(5μM)0.6μL、MilliQ水 5.95μLを加え、全量10μLとした。反応条件は、95℃で5分間の初期変性後に、94℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分の伸長反応を35サイクル繰り返し、その後、72℃で5分間の最終伸長を行った。アガロースゲル電気泳動で目的遺伝子の挿入が確認できた毛状根を、形質転換毛状根として、後の解析に用いた。
【0077】
<4.形質転換毛状根の電気泳動を用いた変異解析>
抽出したゲノムDNAを用いてターゲット領域の変異解析を行った。変異解析には、Heteloduplex mobility assay(HMA)法を用いた。その具体的な方法を以下に示す。抽出したゲノムDNAをQubit 2.0 Fluorometer(invitrogen製)を用いて定量し、1ng/μLとなるようにTE bufferで希釈した。希釈したゲノムDNA溶液を、鋳型にそれぞれターゲットサイトを挟み込むように500bpほどのフラグメントサイズとなるようにデザインしたプライマー(表1)を用いて、PCRを行った。PCRにはPrimeSTAR HS DNA Polymerase(TaKaRa製)を用いた。反応組成および反応条件を以下に示す。
【0078】
PrimeSTAR HS DNA Polymerase 0.1μL,5×PrimeSTAR Buffer 2μL,dNTP Mixture(各2.5mM)0.8μL,Template genomic DNA(1ng/μL)1μL,各Primer(10μM)0.25μL,MilliQ 5.6μLでトータル10μLの反応溶液を調整した。反応条件は、98℃で3分間の初期変性後に、98℃で10秒間の変性、58℃で5秒間のアニーリング、72℃で30秒の伸長反応を35サイクル繰り返し、その後、72℃で5分間の最終伸長を行った。得られたPCR産物を5%アクリルアミド、泳動バッファーは1xTBE buffer(Tris 89mM,Bolic acid 89mM,EDTA 2mM)を用いて100Vの定電圧で泳動を行った。ゲルの組成は以下のとおりである。40%アクリルアミド 1.25mL,5xTBE buffer 2mL,MilliQ 6.75mL,10%過硫酸アンモニウム100μL,TEMED 10μLを混合した。電気泳動の結果エキストラバンドの生じたラインを変異導入ラインとして、変異導入ラインの割合の算出を行った。
【0079】
<5.毛状根の液体培養および形質転換>
B5寒天培地(セフォタキシム:250μg/mL)で7日間育てた毛状根10~15切片を、200mL容フラスコに入れたB5液体培地(2% Sucrose,CEF:250mg/L)50mLに入れ、暗所25℃、100rpmで14日間ほど振とう培養した。回収した根は液体窒素で凍らせて、-80℃で保存した。〔2-3.毛状根の形質転換〕と同様の方法で、毛状根の形質転換を行った。
【0080】
<6.毛状根のゲノム抽出およびPCRによる形質転換の確認>
毛状根に目的遺伝子が挿入されているかどうかをゲノムPCRによって確認した。ゲノムDNAの抽出およびPCRによる挿入確認については<3.毛状根のゲノム抽出およびPCRによる形質転換の確認>の方法と同様に行った。
【0081】
<7.形質転換した毛状根の電気泳動を用いた変異解析>
上記<4>と同様に、DWF5H上のターゲット領域を挟み込むように設計したプライマーを用いて、ターゲット領域の変異解析を行った。用いたプライマーは、下記の表2の通りである。なお、プライマーは、それぞれ以下の2つを1セットとして用いた。
・SLDWF5H_ex1 FwとSLDWF5H_ex1 Rv
・SLDWF5H_ex5 FwとSLDWF5H_ex5 Rv
・SLDWF5H_ex6 FwとSLDWF5H_ex6 Rv
・SLDWF5H_ex9 FwとSLDWF5H_ex9 Rv
【0082】
【表2】
<8.形質転換毛状根の内生SGAおよび蓄積産物のLC-MS解析>
LC-MSを用いて形質転換毛状根の内生SGAの分析を行った。具体的には、液体培養を行った毛状根を液体窒素で凍結し破砕した。粉末約30mgを1.5mLチューブに量り取り、300μLの100% MeOHを加えた。ミルミキサー(Retch社製)を用いて、27Hz、10分間試料を破砕した。その後、4℃、15000rpm、10分間遠心分離した。上清を新しい1.5mLチューブに移し、残渣に再び抽出溶液を300μL加え、同様の操作を繰り返した。抽出溶液を4℃、15000rpm、5分間遠心分離し、上清を100% MeOHで適宜希釈し、LC-MS分析用の試料とした。各試料は0.2μm PTFEフィルター(Waters社製)を用いてフィルター濾過し、LC-MSおよび分析に供した。LC-MS分析の条件を以下に示す。
【0083】
(LC-MS分析条件)
・UPLC-ESI-MS ACQUITYTM(Waters社製)、カラム:ACQUITY UPLC HSS T3 Column 1.8μm(2.1×100mm)(Waters社製)、カラムオーブン温度:40℃、流速:0.2mL/分、溶媒条件:二溶媒によるグラジエント溶出、Solvent A:H
2O(0.1%ギ酸)、Solvent B:100%MeCN、グラジエント条件:0~25分:90% A/10% B-52% A/48% B、25~30分:0% A/100% B
(マススペクトロメーター)
・Positive ESI mode、capillary voltage:3kV、cone voltage:60V、source temperature:120℃、desolvation gas temperature:350℃、nebulizer N2 gas flows:50L/h、desolvation N2 gas flows:550L/h、注入量:2μL、測定モード:Positive ion mode、MS scan mode(m/z 350-1400)
解析結果を、
図1に示す。なお
図1において、DWF5ko1、DWF5Hko2、DWF5Hko3、およびDWF5Hko4はそれぞれ、形質転換ベクターpMgP237_DWF5Hko1、pMgP237_DWF5Hko2、pMgP237_DWF5Hko3、およびpMgP237_DWF5Hko4により形質転換された株を指す。
【0084】
図1に示す通り、LeDWF5Hのノックアウトのみによっては、SGAの産生量は有意には低下しないことが分かった。このことから、LeDWF5の機能とLeDWF5Hの機能とは重複しており、LeDWF5がSGAの産生を補完した可能性が考えられた。よって本発明者らは、以下に示すように、LeDWF5およびLeDWF5Hの両方をノックアウトした植物を作成した。
【0085】
<9.DWF5HおよびDWF5のin vitro酵素機能解析>
〔9-1.Total RNA抽出およびcDNA合成〕
トマト葉を、あらかじめ液体窒素で冷却しておいた乳鉢に入れ、粉末状になるまですりつぶした。粉末状の試料からRNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN製)を用いてtotal RNAを抽出した。操作は以下の手順で、室温で行った。
【0086】
粉末状の試料100mgにRLT buffer 500μL、メルカプトエタノール5μLを添加した。ボルテックスでよく混合し、RNeasy Mini Spin Column(purple column)に移し、15,000rpm、3分間遠心した。通過液の上澄みを1.5mLのエッペンドルフチューブに移し、15,000rpm、10分間遠心した。上清を新しい1.5mLのエッペンドルフチューブに移し、100%エタノールを225μL加え、混合した。RNeasy Mini Spin Column(pinkcolumn)に混合液を入れ、15,000rpm、30秒間遠心した。通過液を捨てpink columnに100%エタノールを225μL加え、columnの向きを180℃反転させ、15,000rpm、30秒間遠心した。この操作をもう一度行った。通過液を捨て、次にRW1 buffer 350μLをpink columnに入れ、15,000rpm、15秒間遠心し、溶出液を除去した。DNase I stock solution 10μLにRDD buffer 70μLを加え、緩やかに混合した。これをpink columnに入れ、15分間静置した。RW1 buffer 350μLをpink columnに入れ、15,000rpm、15秒間遠心し、溶出液を除去した。RPE buffer 500μLをpink columnに入れ、15,000rpm、15秒間遠心し、溶出液を除去した。さらに、RPE buffer 500μLをpink columnに入れ、columnの向きを180℃反転させ、15,000rpm、2分間遠心し、溶出液を除去した。15,000rpm、1分間遠心分離した。pink columnを1.5mLのエッペンドルフチューブに移し、RNase free waterを15μL加え、1分間4℃で静置し、15,000rpm、1分間遠心した。もう一度この操作を行い、total RNAとした。得られたtotal RNAから、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(TOYOBO製)を用い、cDNAを合成した。
【0087】
〔9-2.プライマー設計〕
MiBASEを基にORFを取得するためのプライマーを設計した(表1)。得られたクローンをTAクローニング用ベクターおよび酵母発現用ベクターに挿入するための制限酵素認識部位をプライマーのN末端とC末端に付加した。
【0088】
〔9-3.PCRによるDNA断片の増幅〕
SlDWF5HおよびSlDWF5について、上記〔9-1〕で得られたcDNAを鋳型にPCR反応を行った。PCRはTaKaRa Ex Taq Hot Start Version(TaKaRa製)のプロトコルに基づいて行った。組成は、Ex Taq HS 0.1μL、10×Ex Taq Buffer 2μL、dNTP mixture(各2.5mM)1.6μL、cDNA 2μL、10μM Forward Primer 1μL、10μM Reverse Primer 1μLにMilliQ 12.3μLを加えて総量を20μLとした。
【0089】
反応条件は、初期変性が95℃で2分間、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分30秒の伸長反応を30サイクル繰り返し、その後、72℃で5分間伸張した。全てのPCR産物はGelRed Nucleic Acid Gel Stain,10,000x in DMSOで染色した1×TAE bufferで作製した1%(w/v)アガロースゲルを用いた電気泳動に供した。
【0090】
電気泳動後、目的サイズ付近の単一なバンドをアガロースゲル上からメスで切り出し、Wizard SV Gel and PCR Clean-UP System(Promega製)を用いてcDNAを抽出した。なお、操作は添付の説明書に従って行った。
【0091】
〔9-4.TAクローニング〕
上記〔9-3〕で精製したDNA断片4μL、T-vector pMD19(TaKaRa製)1μL、DNA ligation Kit Mighty Mix(TaKaRa製)5μLを混合し、16℃で30分間ライゲーション反応を行った。さらに、ライゲーション溶液をEscherichia. coli(DH5α株)へ形質転換した。
【0092】
〔9-5.制限酵素処理によるインサートDNAの確認〕
ベクターに目的のDNA断片が挿入されたことを確認するために制限酵素処理を行った。プラスミド溶液 2μL、10×H buffer 2μL、末端の制限酵素サイトと内部の制限酵素サイトを選び、各0.5μLを含む反応溶液 10μLを37℃で1時間インキュベートした。処理後の試料をアガロースゲル電気泳動に供し、消化の確認およびインサートDNA断片のサイズの確認をした。試薬は、特に断りがない限り東洋紡株式会社製を用いた。
【0093】
〔9-6.インサートDNAの塩基配列の解読〕
挿入されたDNA断片の塩基配列を取得するために、得られた約100ngのプラスミドを用いて、BigDye Terminater v3.1/1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems製)によりシークエンス反応を行った。
【0094】
〔9-7.発現ベクターの構築〕
プラスミドpMD19にサブクローニングされたSlDWF5HおよびSlDWF5遺伝子全長配列を各制限酵素で処理した。電気泳動により消化の確認後、目的の断片を切り出し、精製した。上記と同様の制限酵素処理を行った酵母発現用ベクターpYES2(Thermo fisher製)に各クローンのDNA断片をライゲーションし、該ライゲーション産物を用いてトランスフォーメーションを行った。コンピテントセルをヒートショックした後、常温のSOC培地 300μLを加え、LB固形培地(アンピシリン:100μg/mL)に溶液を100μL撒き、37℃で約18時間インキュベートした。翌日、形成されたコロニーを100μg/mLアンピシリン入りのLB液体培地2mLで生育させ、プラスミド抽出、制限酵素処理を行い、正確な配列を含む発現ベクターを作製した。
【0095】
〔9-8.酵母(INVSc1)を用いた組み換え酵素発現〕
上記〔9-7〕で構築した酵母発現用ベクターを酵母(INVsc1)に導入した。導入にはEZ-Yeast Transformation Kit(MP製)を用い、操作については添付のプロトコルに従った。得られた形質転換酵母を用いて以下の操作で組換えタンパク質の発現を行った。
【0096】
(1.)形質転換を行った酵母のシングルコロニーをかきとり、15mLのSC-U培地(2%raffinose)で30℃、一晩培養を行った。
【0097】
(2.)培養液のOD600値を測定し、50mLの発現誘導培地中(SC-U,2%galactose,1%raffinose)でOD600値が0.4となるように菌懸濁液を加えた。
【0098】
(3.)(2.)で得られた菌液を30℃で24時間培養を行い組換えタンパク質の発現を誘導した。
【0099】
(4.)得られた培養液を1,500×g,5min,4°Cで遠心を行い、菌体の回収を行った。
【0100】
〔9-9.酵素溶液の調製〕
上記〔9-8〕で得られた菌体をBuffer1(20mM Tris-HCL-pH7.5,50mM NaCl)で3回洗浄した。洗浄後の菌体に500μLのBuffer1を加え、そこに250μLのacid-washed glass beads(SIGMA製)を加え、4℃で60secのボルテックスを行った。このボルテックスを5回行い、組換え酵母の破砕を行った。得られた酵母破砕液を、ビーズを吸い上げないようにして別の1.5mLマイクロチューブに移し、このホモジネートを酵素溶液とした。
【0101】
〔9-10.組換え酵素アッセイ〕
得られた組換え酵素溶液を用いて、以下表3の反応組成で酵素アッセイを行った。調製した反応溶液を30℃で2時間反応させた。
【0102】
【表3】
〔9-11.酵素反応物のGC-MS解析〕
反応後の酵素溶液から、以下のようにステロールの抽出を行った。具体的には、反応後の酵素溶液(200μL)に等量の酢酸エチルとヘキサンを加え、ボルテックスミキサーで懸濁した。その後、室温、15000rpmで1分間遠心分離を行い、上層の有機層を回収した。下層には再び等量の酢酸エチルとヘキサンを加えて、同様の操作を行った。この混合溶媒を用いた抽出を合計3回行った。回収した有機層は、ガラス製褐色ミクロチューブに集めて減圧乾固操作を施した。乾固物サンプルに42μLのN-メチル-N-(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(MSTFA、Thermo scientific1社製)を加え、ヒートブロックで、80℃、30分の熱処理を施して試料のトリメチルシリル化(TMS化)を行った。TMS化を行ったサンプルをGC-MS-QP2010 Ultra(SHIMADZU社製)に供し、分析を行った。分析条件を以下に示す。
【0103】
(GC-MS分析条件)
・カラム:DB-1(J & W scientific社、長さ30m、膜厚0.25μm、内径0.25mm)
(GC条件)
・カラムオーブン温度:180℃(0~1分)、180~280℃(1~6分)、280~300℃(6~16分)、300℃(16~32分)、気化室温度:250℃、注入モード:スプリットレス、サンプリング時間:1分、キャリアガス:He、圧力(103.8kPa)、全流量(107.0mL/分)、カラム流量(1.00mL/分)、線速度(38.4cm/秒)、パージ流量(6.0mL/分)、スプリット比(100)
(MS条件)
・イオン源温度:250℃、インターフェース温度:300℃、溶媒溶出時間:1.5分、スキャン範囲:m/z 50~700、15~30分
GC-MS解析の結果を、
図9に示す。なお、
図9において、7-DHC std.は、7-DHCの定性のためのサンプルを指す。emptyは、空の形質転換ベクターにより形質転換された毛状根をサンプルとした結果を示す。DWF5dko3_#1および#9は、形質転換ベクターpMgP237 dko3により形質転換された毛状根をサンプルとした結果を示す。
【0104】
コントロールとしての空の形質転換ベクターを導入したempty_#1 酸加水分解およびempty_#1 アルカリ加水分解においては、酸処理およびアルカリ処理にかかわらず、7-DHCが検出されなかった。それに対して、LeDWF5HおよびLeDWF5の両方をノックアウトしたDWF5dkо3_#1 酸加水分解、DWF5dkо3_#1 アルカリ加水分解、DWF5dkо3_#9 酸加水分解、およびDWF5dkо3_#9 アルカリ加水分解のすべてにおいて、7-DHCが検出された(すなわち、酸処理、アルカリ処理にかかわらず、7-DHCが検出された)。このことから、7-DHCの蓄積には、LeDWF5HおよびLeDWF5の両方のノックアウトが必要であることが判明した。
【0105】
GC-MS解析の結果から、コレステロールおよび7-DHCの含有量を解析した結果を
図10に示す。
図10に示す通り、LeDWF5HおよびLeDWF5の両方をノックアウトすることによって、コレステロール(CHR)含有量が低下し、7-DHCの含有量が増加することが分かった。このことから、LeDWF5HおよびLeDWF5の両方をノックアウトすることにより、
図2に示すCHRへのC7Rによる還元反応が阻害され、その結果として7-DHCが増加していることが明らかになった。
【0106】
〔9-12.毛状根中のSGAのLC-MS解析〕
(a)また、DWF5dko2およびDWF5dko3の毛状根中のSGAの含有量を、LC-MSにより解析した。毛状根サンプル100mgに対し、300μLのメタノールを3回に分けて加え、10分間ソニケーションした。その後、15000rpmで10分間遠心分離を行なった。メタノールを回収して、LC-MS解析に供した。
【0107】
DWF5dko3の解析結果を
図11に示す。
図11においては、7-デヒドロトマチン(以下、7-DHTとも称する。)に対応するピークを、丸でマーキングしてある。
【0108】
なお、DWF5dko2の解析結果は、DWF5dko3と同様の結果となった(データは示さない)。
【0109】
また、
図11の結果をさらに解析し、各毛状根中のα-トマチン、および7-DHTの含有量を算出した結果を、
図12に示す。
図12に示すように、DWF5およびDWF5Hをノックアウトすることにより、SGAの一種であるα-トマチンの含有量が低下することが分かった。一方で、7-DHCの一部が7-DHTへと変換されている可能性が示唆された。
【0110】
(b)また、DWF5 dko3_#9の毛状根中に含まれる7-DHCの含有量を、さらに加水分解していない遊離型の7-DHCと、アルカリ加水分解エステル型の7-DHCとに分けて、GC-MSにより解析した。GC-MS解析は、上記〔9-11.酵素反応物のGC-MS解析〕と同様の方法により行った。結果を、
図13に示す。野生株においては、7-DHCは検出限界以下の量しか存在しないが、
図13に示すように、DWF5およびDWF5Hをノックアウトすることにより、遊離型の7-DHCが、10μg/gFWもの量蓄積することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、食品添加物、飼料添加物、医薬品原体および中間物、および健康食品等に利用することができる。
【配列表】