(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】紫外レーザー装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/37 20060101AFI20220204BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20220204BHJP
【FI】
G02F1/37
H01S3/067
(21)【出願番号】P 2020021206
(22)【出願日】2020-02-12
【審査請求日】2020-06-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発/次々世代加工に向けた新規光源・要素技術開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】516310493
【氏名又は名称】株式会社金門光波
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】藤本 靖
(72)【発明者】
【氏名】ポール ビヌン
(72)【発明者】
【氏名】本越 伸二
(72)【発明者】
【氏名】中原 正盛
(72)【発明者】
【氏名】濱田 武
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-027215(JP,A)
【文献】特開2002-311467(JP,A)
【文献】特開2010-224303(JP,A)
【文献】国際公開第2018/146924(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0188633(US,A1)
【文献】特表2017-502504(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0067035(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101149288(CN,A)
【文献】藤本靖,”LD励起による可視域フッ化物ファイバーレーザー”,光学,日本,2016年03月,Vol. 45, No. 3,pp. 87 - 93
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/067
G02F 1/35-1/39
G02B 6/38
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起用半導体レーザーと、
前記励起用半導体レーザーからの励起レーザー光が入射しレーザー発振するファイバーレーザー媒質と、
前記ファイバーレーザー媒質で発振したレーザー光の波長変換を行う波長変換用外部共振器と、を備え
る紫外レーザー装置であって、
前記波長変換用外部共振器は、前記波長変換のための高調波発生機能と位相共役ミラーとを兼ねる1つの非線形光学結晶と、複数の高反射率ミラーと、位相制御用フィードバック機構と、を有し、
前記波長変換用外部共振器内の前記非線形光学結晶は前記レーザー光が入射して前記位相共役ミラーとして機能し、前記入射したレーザー光が前記位相共役ミラーで反射し真逆の光路を進行し、前記ファイバーレーザー媒質の、前記励起レーザー光が入力しかつ前記レーザー光が反射する端面まで戻ることで、前記ファイバーレーザー媒質と前記位相共役ミラーとが自動的に正対してレーザー発振をするとともに前記レーザー発振によるレーザー光の高調波が前記非線形光学結晶で発生し前記波長変換用外部共振器から少なくとも0.1Wの紫外域連続波を出力する紫外レーザー装置。
【請求項2】
前記励起用半導体レーザーの発振波長が445±5nmであり、
前記ファイバーレーザー媒質は、プラセオジム(Pr)添加のフッ化物材料から構成される請求項1に記載の紫外レーザー装置。
【請求項3】
前記非線形光学結晶は、BBO(β-BaB
2
O
4
)、LBO(LiB
3
O
5
)、または、CLBO(CsLiB
6
O
10
)である請求項1または2に記載の紫外レーザー装置。
【請求項4】
前記励起用半導体レーザーと前記ファイバーレーザー媒質との間を光伝送するための光ファイバーを備える請求項1乃至3のいずれかに記載の紫外レーザー装置。
【請求項5】
前記ファイバーレーザー媒質の端部に挿入されたフェルールと、前記ファイバーレーザー媒質を収容し前記フェルールで支持するハウジングと、を備え、前記ハウジングおよび前記フェルールはそれぞれ、前記ファイバーレーザー媒質の素材の熱膨張係数に近似した金属材料から構成される請求項1乃至4のいずれかに記載の紫外レーザー装置。
【請求項6】
波長320nm以下の紫外レーザー光を発生する請求項1乃至5のいずれかに記載の紫外レーザー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外レーザー光を出力する紫外レーザー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光造形方式の3Dプリンタや紫外光のレーザーマーカー等のレーザー光源として紫外レーザー装置が使われている。かかる紫外レーザー装置として、現状では、He-Cdレーザー装置(発振波長325nm)やYAGレーザー装置(発振波長355nm)が使用されている。
【0003】
特許文献1は、基本波光を発生するレーザー光源と、当該基本波光およびその高調波光のうち少なくとも一方を入射光として紫外レーザー光に波長変換する波長変換結晶とを有する紫外レーザー装置であって、前記基本波光およびその高調波光のうち少なくとも一方と前記紫外レーザー光とのどちらか一方を透過させ且つどちから他方を反射させる反射面を、前記波長変換結晶の内部に前記基本波光およびその高調波光のうち少なくとも一方の光軸に対して傾斜する向きに形成したことを開示する(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
He-Cdレーザー装置は大型であり、50mWの出力を得るためには、装置筐体がたとえば、146×197×1400mm程度の大きさの装置になり、その効率は0.01%に満たない。また、カドミウム原料が蒸発することから、レーザー管の短寿命により年1回のメインテナンスが必ず必要となる。
【0006】
YAGレーザー装置は、その発振波長が近赤外領域にあるため、紫外光を得るためには、非線形光学結晶を用いた波長変換を最低2回行う必要がある。波長変換の回数はそのまま装置内の素子、コストの増加につながり、出力の安定性やビーム品質を低下する要因となる。以上から、小型化を達成し、高輝度、高効率および長寿命の紫外レーザー装置が望まれている。
【0007】
特許文献1の紫外レーザー装置は、入射光を紫外域波長に波長変換する波長変換結晶を有するが、この波長変換結晶は内部に光軸に対し傾斜した反射面が必要であり、この反射面は複数の光学部材から構成されるため、波長変換結晶の構成が複雑となる。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、小型化を達成し、高輝度・高効率・長寿命の紫外レーザー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記目的を達成するために次の事項につき鋭意検討を行い、本発明に至ったのである。
(1)高輝度にするためには高出力と高ビーム品質が必要であり、ファイバーレーザーを使用することが最適である。しかし、一般の石英ガラスを母材に希土類をドープしたファイバーレーザーでは発振波長が近赤外になり、紫外光にするためには、2回の波長変換必要で効率やビーム品質の低下が課題となる。
【0010】
(2)効率を上げるためには、可視域に発振波長があるフッ化物を母材にしたファイバーレーザーを使用することが考えられる。フッ化物ファイバーレーザーでは、波長変換が1回で紫外光が得られ効率が上がる。
【0011】
(3)ファイバーレーザーを効率よく励起するために、2個の半導体レーザーの出力を合成し、光ファイバーを用いて光伝送しファイバーレーザーに結合することが好ましい。
【0012】
(4)高出力に伴いファイバー自身の温度が上昇すると、出力が飽和しさらに低下する。これに対し熱伝導率が高く、ファイバー材料に近い線膨張率の金属材料をハウジングやフェルールに用いることで、ファイバーの熱が効率よく放熱され、励起出力を上げることができ、出力の飽和低下が軽減される。
【0013】
(5)外部共振器内の高調波発生機能を持つ非線形光学結晶を基本波共振器ミラーとして利用することにより、アラインメントフリーとなって、出力安定性が向上する。
【0014】
上記目的を達成するための紫外レーザー装置は、励起用半導体レーザーと、 前記励起用半導体レーザーからの励起レーザー光が入射しレーザー発振するファイバーレーザー媒質と、前記ファイバーレーザー媒質で発振したレーザー光の波長変換を行う波長変換用外部共振器と、を備える紫外レーザー装置であって、前記波長変換用外部共振器は、前記波長変換のための高調波発生機能と位相共役ミラーとを兼ねる1つの非線形光学結晶と、複数の高反射率ミラーと、位相制御用フィードバック機構と、を有し、前記波長変換用外部共振器内の前記非線形光学結晶は前記レーザー光が入射して前記位相共役ミラーとして機能し、前記入射したレーザー光が前記位相共役ミラーで反射し真逆の光路を進行し、前記ファイバーレーザー媒質の、前記励起レーザー光が入力しかつ前記レーザー光が反射する端面まで戻ることで、前記ファイバーレーザー媒質と前記位相共役ミラーとが自動的に正対してレーザー発振をするとともに前記レーザー発振によるレーザー光の高調波が前記非線形光学結晶で発生し前記波長変換用外部共振器から少なくとも0.1Wの紫外域連続波を出力するものである。
【0015】
この紫外レーザー装置によれば、励起用半導体レーザーからの励起レーザー光によりファイバーレーザー媒質がレーザー発振し、その発振したレーザー光の波長変換を波長変換用外部共振器で行うことで、少なくとも0.1Wの紫外域連続波を出力し、小型化を達成し、高輝度・高効率・長寿命の紫外レーザー装置を実現できる。
【0016】
上記紫外レーザー装置において前記励起用半導体レーザーの発振波長が445±5nmであり、前記ファイバーレーザー媒質は、プラセオジム(Pr)添加のフッ化物材料から構成されることが好ましい。これにより、波長変換が1回で紫外レーザー光が得られ効率が向上する。
【0017】
また、前記波長変換用外部共振器は、前記波長変換のための高調波発生機能と位相共役ミラーとを兼ねる1つの非線形光学結晶と、複数の高反射率ミラーと、位相制御用フィードバック機構と、を有する。非線形光学結晶が位相共役ミラーを兼ねることで、アラインメントフリーとなって装置内の光軸等のアラインメント調整が不要乃至容易であり、また、レーザー光の出力安定性が向上する。また、位相制御用フィードバック機構により、外気温等の環境の変化に対するレーザー光の出力安定性が向上する。
【0018】
また、前記励起用半導体レーザーと前記ファイバーレーザー媒質との間を光伝送するための光ファイバーを備えることが好ましい。これにより、励起用半導体レーザーからファイバーレーザー媒質へ効率よく光伝送できる。
【0019】
また、前記ファイバーレーザー媒質の端部に挿入されたフェルールと、前記ファイバーレーザー媒質を収容し前記フェルールで支持するハウジングと、を備え、前記ハウジングおよび前記フェルールはそれぞれ、前記ファイバーレーザー媒質の素材の熱膨張係数に近似した金属材料から構成されることが好ましい。これにより、ファイバーレーザー媒質の熱が効率よく放熱され、励起出力を上げることができ、出力の飽和低下を軽減でき、高効率の出力を実現できる。
【0020】
上記紫外レーザー装置は波長320nm以下の紫外レーザー光を発生することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、小型化を達成し、高輝度・高効率・長寿命の紫外レーザー装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態による紫外レーザー装置の概略的構成を示す光路図である。
【
図2】
図1のフッ化物ファイバーを収容したハウジングを概略的に示す正面図(a)および側面図(b)である。
【
図3】
図2(a)のフッ化物ファイバーの端部に取り付けられたフェルールを示す図である。
【
図4】本実施例による
図1の紫外レーザー装置の入出力特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
図1は本実施形態による紫外レーザー装置の概略的構成を示す光路図である。
図2は、
図1のファイバーを収容したハウジングを概略的に示す正面図(a)および側面図(b)である。
図3は
図2(a)のファイバーの端部に取り付けられたフェルールを示す図である。
【0024】
図1のように、本実施形態による紫外レーザー装置40は、可視光の基本波レーザー光を発振させるフッ化物ファイバー10と、フッ化物ファイバー10を励起するレーザー光(波長441nm)を発生する励起用半導体レーザー1,1Aと、基本波レーザー光の波長(637nm)を紫外域波長に変更する外部共振器20と、を備え、発振波長318nmの紫外レーザー光を出力させる。本実施形態により、小型化を達成し、高輝度・高効率・長寿命の紫外レーザー装置を実現できる。
【0025】
高出力にするために、2個の半導体レーザー1,1Aのレーザー光を長軸方向のレンズ2,2Aおよび短軸方向のレンズ3,3Aでコリメートし、2つのレーザー光を偏光ビームスプリッター5で偏波合成し1つのビームの励起レーザー光にする。かかる励起レーザー光は、非球面の集光レンズ6で石英ファイバー7に集光され、石英ファイバー7から出射してから、レンズ8によりコリメートされ、集光レンズ9によりフッ化物ファイバー10のクラッドに集光され入力することで、励起レーザー光のフッ化物ファイバー10への伝送を行う構造にする。かかる構造により、光伝送ロスを低減し、半導体レーザー1,1Aのレーザー光の80%以上をフッ化物ファイバー10に入力できる。半導体レーザー1A側には波長板14が配置される。なお、レンズ2,2A,3,3Aは、適切なコリメートレンズとアナモルフィックプリズムペアの組合せでもよい。また、偏光ビームスプリッター5は、適切な偏光フィルタでもよい。
【0026】
励起レーザー光のフッ化物ファイバー10への伝送は石英ファイバー7を通して行われる。励起レーザー光の伝送には光ファイバーによらない空間的な結合を用いることもできるが、上述のように光ファイバーを通すことで励起ビームパターンの均質化が図られ、励起によるダメージの問題を軽減できる。これは励起光を空間光として、ランダム位相板等のビーム均質化手法を用いても本質的には同じである。
【0027】
フッ化物ファイバーとしては、ZBLANや、ZrF4及びYF3を主成分としたものがあるが、AlF3を主成分としたものがフッ化物ガラスでありながら耐候性(特に耐水性)の向上が図られていることから、フッ化物ファイバー10は、AlF3を主成分としたものが望ましい。また、装置の小型化のために、フッ化物ファイバー10として高濃度の活性元素(希土類元素、遷移元素等、あるいは希土類イオン(Yb,Nd,Er,Pr,Dy,Ce,Tb等))が添加された利得ファイバーを使用し、30cm以下のファイバー長で充分な基本波出力を得ることができる。なお、フッ化物ファイバー10の入力側の端面には励起レーザー光を透過する反射防止膜と基本波レーザー光を反射する高反射膜が形成され、出力側の端面には基本波レーザー光を透過する反射防止膜と励起レーザー光を反射する高反射膜が形成される。
【0028】
また、励起によるフッ化物ファイバー10の温度上昇による基本波出力の飽和を防止するために、
図2(a)(b),
図3のように、フッ化物ファイバー10の両端に金属製のフェルール31,32を取り付け、また、フッ化物ファイバー10のハウジング30に放熱効果の高い金属を用いファイバーの温度上昇を抑える。かかる構成は、本発明者らが先に特願2019-138108で提案したものである。
【0029】
すなわち、
図2(a)(b)に示すように、フッ化物ファイバー10の両端にフェルール31,32を接着し、フェルール31,32とフッ化物ファイバー10をハウジング30内にフェルール31,32がハウジング30の両側の側板30c,30dに熱伝導性ペーストを用いて熱抵抗を極力抑えて接触させた状態で収容される。ハウジング30は、
図2(a)(b)の上下に半割された構造で、上部30aと下部30bとを突き合わせたとき、フェルール31,32が各側板30c,30dに形成された半円状の切欠部に位置し挟み込まれるようにして支持される。フッ化物ファイバー10は、
図2,
図3のように、フェルール31,32の貫通孔内に接着剤を適用して挿入される。
【0030】
フェルール31,32を、高熱伝導性材料である金属(たとえば、銅、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、それらの合金など)から構成することで、(1)ファイバーの端部からの効率的な熱伝導、(2)細く機械的強度が弱いために折れやすいファイバー端の保護、(3)ファイバー端面の研磨作業の容易化、(4)ファイバー端面への誘電体コーティング膜の形成の容易化を実現できる。
【0031】
また、ハウジング30は、高熱伝導性材料である金属材料(たとえば、銅、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、それらの合金など)から構成され、熱抵抗を極力抑えた形でハウジング30の側板30c,30dに接触したフェルール31,32からフッ化物ファイバー10で生じた熱を効率よく伝導し、放熱することができる。このため、ハウジング30は放熱器としても機能する。ハウジング30から放熱された熱は、ハウジング30に設けられたペルチエ素子等により排出することで、フッ化物ファイバー10に蓄積される熱を効果的に排出することができる。
【0032】
また、ハウジング30およびフェルール31,32は、フッ化物ファイバー10の素材の熱膨張係数と一致または近似した材料から構成することで、装置の高出力動作時の熱蓄積により生じる熱膨張係数の違いに起因する、ファイバー端面や誘電体多層膜コーティング面の破損を防ぐことができる。
【0033】
以上のように、ハウジング30およびフェルール31,32を構成する各材料は、フッ化物ファイバー10の素材と近似する熱膨張係数を有し、かつ、高い熱伝導率を有することで、ファイバーの熱蓄積に起因する問題を回避することができる。
【0034】
フッ化物ファイバー10の出力側にはレンズ11が配置され、フッ化物ファイバー10から出力する基本波レーザー光をコリメートし、基本波レーザー光は、ミラー12,13を介して外部共振器20に前置されたマッチングレンズ14に入射し、次に、外部共振器20へ入射する。マッチングレンズ14は、基本波レーザー光と外部共振器20内のモードを合わせるためにレンズを組合せて構成される。
【0035】
外部共振器20は、ミラー15~18が波長変換を行うための共振器を構成し、ミラー17,18の間に配置され波長変換のため高調波発生機能を持つ非線形光学結晶19を有する。非線形光学結晶19は位相共役ミラーを兼用することで、基本波の出射ミラーを使わず、基本波共振器と外部共振器とを用いるときよりも波長変換出力を高く安定化させ、高出力の紫外レーザー光を得ることができる。非線形光学結晶19は、特許文献1のように内部に反射面などは不要で、簡単な構成で済む。なお、ミラー15~18は、基本波レーザー光の波長に対し99.9%以上の高反射率を有する。
【0036】
非線形光学結晶19が位相共役ミラーとして機能することで、非線形光学結晶19で発生した位相共役波は、非線形光学結晶19に入射するレーザー光と正確に真逆の方向に進行し、レーザー媒質であるフッ化物ファイバー10まで戻る。このため、位相共役ミラーとなる非線形光学結晶19とフッ化物ファイバー10とは、自動的に正対し、レーザー共振してレーザー発振に至る。このようにして、レーザー発振した基本波レーザー光は、波長および位相が受動的にロックされることで、複雑な光軸等のアライメント調整が不要ととなり、出力安定性が向上する。また、非線形光学結晶19により第二高調波が発生し、ミラー18から光路21に沿って外部へ出射することにより、第二高調波による紫外域のレーザー光が出力する。このようにして、簡便かつ安定に高出力の可視域および紫外域のレーザー光を得ることができる。かかる構成は、本発明者らが先に特願2019-127329で提案したものである。
【0037】
また、外部共振器20は、
図1のように、ピエゾ素子22と、受光部23と、制御部24とを有する位相制御用フィードバック機構を備え、ミラー18からの反射光の一部がミラー15を透過し、この一部透過光を受光部23が受光する。リング共振器20の共振器長は基本波波長の倍数であることが条件で、そのためにPound-Drever-Hall法やHansch-Couillaud法などを用い、リング共振器20内の基本波の偏光の差を受光部23で測定し、この測定結果に基づいて制御部24がピエゾ素子22に対し電気信号を送り、ピエゾ素子22がミラー16を駆動して共振器長を一定に制御することで、外気温等の環境の変化に対し波長変換出力を安定化させている。
【0038】
(実施例)
次に、
図1~
図3の本実施形態による紫外レーザー装置を実施例により具体的に説明するが、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。
【0039】
本実施例の紫外レーザー装置の発振器部を構成する励起用の2台の半導体レーザー1,1Aは発振波長が441nm、定格出力3.5Wで、銅製のブロックに取付けられている。また、出力及び励起波長を安定化するために半導体レーザー1,1Aをペルチェ素子で温度制御する。
【0040】
励起レーザー光をフッ化物ファイバー10にコア径20μmの石英ファイバー7により伝送する。なお、石英ファイバー7のコア径は、フッ化物ファイバー10の内のクラッドNAに調整可能であれば、15~50μmの範囲内であってよく、特に、15,30,40,50μmでもよい。
【0041】
フッ化物ファイバー10は、Pr(プラセオジム)を3000ppmドープした全長17cmの光ファイバーから構成され、出力を安定化するためにフッ化物ファイバー10のハウジング30を、ペルチェ素子により温度を25℃の一定温度に制御している。なお、Prの添加濃度とファイバー全長は装置全体設計の要請により調整することがあり、添加濃度は1000~5000ppmの間に、ファイバー長は10~30cmの範囲内、特に、10,15,17,20,25,30cmに調整する。
【0042】
フッ化物ファイバー10は、両端に金属製フェルール31,32を接着し、端面を研磨し反射防止膜、高反射膜を蒸着している。また、フッ化物ファイバー10における励起光による蓄熱を軽減するために、フッ化物ファイバー10を格納するハウジング30には銅を使用し、フッ化物ファイバー10のフェルール31,32にはニッケルを使用した。フッ化物ファイバー10の熱伝導率は0.898W/mK、ニッケルは91w/mK、銅は403W/mKである。また、同じく線膨張率は、フッ化物ファイバーが18.6×10-6/K、ニッケルは13.4×10-6/K、銅は16.5×10-6/Kである。
【0043】
外部共振器20は、4枚のミラー15~18によるbow-tie型のリング共振器と、BBO(β-BaB2O4)からなる波長変換結晶(非線形光学結晶)19とを有する。また、ミラー15~18はそれぞれミラーホルダーに取り付けられ、各ミラーホルダーはXY方向(角度調整)を調整する調整機構を有し、波長変換結晶19はホルダーに取り付けられ、ホルダーは位置・回転(左右上下)を調整する調整機構を有する。
【0044】
本実施例の紫外レーザー装置によれば、発振部の大きさが幅175mm、奥行360mm、高さ106mmとなって小型化を達成することができ、
図4に示す入出力特性のように、3.5W定格の442nm半導体レーザー(LD)2台で、318nmの発振波長で0.1W以上の連続波紫外レーザー光を出力することができた。
【0045】
以上のように本発明を実施するための形態および実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、
図1の紫外レーザー装置の構成は、一例であって、他の構成であってもよいことはもちろんである。
【0046】
また、
図2,
図3のフェルール31,32およびハウジング30を構成する材料として、熱膨張係数がファイバーの熱膨張係数に近似し、たとえば90W/mK以上の高熱伝導率を有するものであれば、他の材料も使用可能である。
【0047】
また、
図1の非線形光学結晶19は、BBO(β-BaB
2O
4)以外の光学材料であってもよく、たとえば、LBO(LiB
3O
5)やCLBO(CsLiB
6O
10)であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、小型化を達成し、高輝度・高効率・長寿命の紫外レーザー装置を実現できるので、従来のHe-Cdレーザー装置やYAGレーザー装置よりも使い勝手がよくコストを抑えた紫外レーザー装置を提供できる。
【符号の説明】
【0049】
1,1A 半導体レーザー
5 偏光ビームスプリッター
7 石英ファイバー
10 フッ化物ファイバー
14 マッチングレンズ
15~18 ミラー
19 非線形光学結晶(波長変換結晶)
20 外部共振器
30 ハウジング
31,32 フェルール
40 紫外レーザー装置