(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】凍結食肉用品質改良剤、凍結食肉および凍結食肉の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/40 20160101AFI20220204BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20220204BHJP
A23L 17/00 20160101ALI20220204BHJP
A23L 3/36 20060101ALI20220204BHJP
A23L 17/40 20160101ALN20220204BHJP
【FI】
A23L13/40
A23L13/00 A
A23L17/00 A
A23L3/36 A
A23L17/40 A
(21)【出願番号】P 2017084214
(22)【出願日】2017-04-21
【審査請求日】2020-02-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591219566
【氏名又は名称】青葉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【氏名又は名称】須田 篤
(72)【発明者】
【氏名】石川 禎将
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 光紹
(72)【発明者】
【氏名】松本 俊介
(72)【発明者】
【氏名】千葉 克則
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-069063(JP,A)
【文献】特開2010-029077(JP,A)
【文献】特開2011-167159(JP,A)
【文献】特開2012-147716(JP,A)
【文献】特開平09-047218(JP,A)
【文献】特開平04-166034(JP,A)
【文献】特開2009-131246(JP,A)
【文献】特開平07-135926(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105831612(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担子菌由来のキシロマンナンから成る氷結晶化阻害剤と、アルカリ剤と、
高度分岐環状デキストリンとを含
み、pH9.2以上の水溶液から成ることを特徴とする凍結食肉用品質改良剤。
【請求項2】
前記担子菌はエノキタケ(Flammulina velutipes種)またはその類縁品種もしくは改良品種であることを特徴とする請求項
1記載の凍結食肉用品質改良剤。
【請求項3】
請求項1
または2記載の凍結食肉用品質改良剤を含むことを特徴とする凍結食肉。
【請求項4】
請求項1
または2記載の凍結食肉用品質改良剤を食肉に添加した後、凍結させることを特徴とする凍結食肉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結食肉用品質改良剤、凍結食肉および凍結食肉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、担子菌由来のキシロマンナンから成る氷結晶化阻害剤(以下、「不凍多糖」という)が知られている(特許文献1参照)。不凍多糖は、氷結晶の成長抑制機能を有する天然の多糖類であり、エノキタケ細胞壁を構成する多糖類の中から発見された。氷結晶の成長や再結晶化を抑制する機能があることから、水を含む種々の加工食品の凍結保存において、品質維持に効果を発揮する。
【0003】
また、アルカリ剤と高度分岐環状デキストリンを含む肉用食感改良剤が知られている(特許文献2参照)。この肉用食感改良剤は、アルカリ剤により高度分岐環状デキストリンを食肉に浸透しやすくして、食肉にやわらかさやしっとり感、旨みを付与するとともに、食肉の臭みを低減し、畜肉や魚肉などの食肉の食感を改良、向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5881118号公報
【文献】特許第5552220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の不凍多糖は食肉原料に浸透しづらいため、氷結晶化の阻害効果を十分に発揮させることが難しいという課題があった。
また、特許文献2に記載の肉用食感改良剤は、食肉に浸透させて食感を改良した後に凍結させると、改良された食感を維持することが難しいという課題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、凍結させた後にも改良された品質を維持することができる凍結食肉用品質改良剤、凍結食肉および凍結食肉の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る凍結食肉用品質改良剤は、担子菌由来のキシロマンナンから成る氷結晶化阻害剤(不凍多糖)と、アルカリ剤と、高度分岐環状デキストリンとを含み、pH9.2以上の水溶液から成ることを特徴とする。
【0008】
担子菌由来のキシロマンナンとしては、分子量が280,000以上、340,000以下であり、マンノースとキシロースの構成比がキシロース1モルに対してマンノース1.5モル以上、2.5モル以下であるものが好ましい。
本発明に係る凍結食肉用品質改良剤において、前記担子菌はエノキタケ(Flammulina velutipes種)またはその類縁品種もしくは改良品種であることが好ましい。
【0009】
アルカリ剤としては、特に制限されないが、例えば、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、リン酸三カリウム、水酸化ナトリウム、貝殻焼成カルシウム、炭酸カリウムが挙げられる。これらのアルカリ剤は、1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0010】
本発明に係る凍結食肉用品質改良剤は、pH9.2以上の水溶液から成り、pH10.3以上12.2以下の水溶液から成ることが特に好ましい。
本発明に係る凍結食肉用品質改良剤は、水溶液から成るとき、不凍活性として、RI値0.6~0.8に規格化されたキシロマンナン含有エノキタケエキスを0.00005~0.0002質量%程度、高度分岐環状デキストリンを0.1~1.5質量%含むことが好ましい。
なお、不凍活性は、式1:氷再結晶化阻害活性(RI値)=(不凍タンパク質又は不凍多糖類を含む30%ショ糖溶液を-40℃に冷却後、-6℃まで100℃/分で昇温して30分保存した際に形成される氷結晶の平均面積)/(30w/v%ショ糖溶液のみを-40℃に冷却後、-6℃まで100℃/分で昇温して30分保存した際に形成される氷結晶の平均面積)により求められる。
本発明に係る凍結食肉用品質改良剤は、調味料、保存料、着色料、増量剤その他の添加剤を含んでいてもよい。
【0011】
本発明において、「食肉」の範疇には、畜肉、魚肉、鳥肉、エビ肉、その他の食肉が含まれ、また、生肉のほか、焙焼肉、湯煮肉、蒸煮肉、油ちょう肉などの加工肉も含まれる。
本発明に係る凍結食肉は、本発明に係る凍結食肉用品質改良剤を含むことを特徴とする。
本発明に係る凍結食肉の製造方法は、本発明に係る凍結食肉用品質改良剤を食肉に添加した後、凍結させることを特徴とする。
本発明に係る凍結食肉用品質改良剤は、食肉への練込み、浸漬、タンブリング処理、インジェクション処理などにより食肉に添加して使用することができる。
【0012】
本発明において、アルカリ剤は食肉の保水性を高めるとともにデキストリンの食肉への浸透性を高める。デキストリンは、肉繊維を膨らませて氷結晶化阻害剤(不凍多糖)の食肉に対する浸透性を高める。不凍多糖は、アルカリ剤による保水後に凍結することで食肉の筋繊維等にダメージを与えるのを抑える。これにより、本発明によれば、凍結後も食肉に高い品質を維持し続けることができ、解凍後の食肉にしっとり感、繊維感および旨みを付与し、食肉の食感、品質を改良、向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、凍結させた後にも改良された品質を維持することができる凍結食肉用品質改良剤、凍結食肉および凍結食肉の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、各種の試験および実施例に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態の凍結食肉用品質改良剤は、担子菌由来のキシロマンナンから成る氷結晶化阻害剤(不凍多糖)と、アルカリ剤と、デキストリンとを含んでいる。本発明の実施の形態の凍結食肉は、本発明の実施の形態の凍結食肉用品質改良剤を含んでいる。
【0015】
以下に、本発明の実施の形態の凍結食肉用品質改良剤について、効果的な構成を調べるために、各種の試験を行った。以下、「%」は「質量%」を意味する。
各種試験において、以下の食感評価基準により評価を行った。
「しっとり感」:◎とてもしっとりする ○しっとりする △ややぱさつく ×ぱさつく
「繊維感」:◎繊維が太くふっくらとする ○ややふっくらする △あまりふっくらとしない ×全くふっくらしない
「旨味」:◎旨味がとてもある ○旨味がある △やや旨味がある ×旨味が全くない
「アルカリ味」:◎アルカリ味ほとんどなし ○アルカリ味なし △アルカリ味ややあり ×アルカリ味かなりあり
「凍結後焼成の食感」:◎未凍結時と遜色なし ○未凍結時に近い △冷凍ダメージが感じられる ×かなり冷凍ダメージが感じられる
【0016】
<魚肉試験>
[試験1:不凍多糖のみを添加した際の効果の評価]
魚肉に不凍多糖のみを添加した際の効果を評価した。以下の各種試験において、不凍多糖には、市販のエノキタケ抽出液製剤(株式会社カネカ製、商品名「カネカ不凍多糖 EF1」、不凍活性(RI値):0.6~0.8、エノキタケエキスの含有量:0.1%)を使用した。
[試験方法]:試験区ごとに表1の配合に従いピックル液を用意し、タラの生の切り身を同質量のピックル液に4℃で2時間浸漬した。タラは、冷凍変性ダメージを受けやすい魚種として選択した。浸漬後、液切りを行い急速凍結した。凍結後、冷凍機(霜取り機能付き、-20℃設定)にて1日、凍結保管した。凍結状態のまま230℃、13分間の焼成を行い、食感を確認した。
【0017】
【0018】
【0019】
その結果を表2に示す。
表2に示す通り、不凍多糖の添加量を増やしていくにつれ、旨味やその他の食感も向上する傾向にあるが、その効果は無添加と比較して差は小さかった。
【0020】
[試験2:高度分岐環状デキストリンの添加量の検討]
魚肉にアルカリ剤を加えた際の、高度分岐環状デキストリンの適切な添加量について検討を行った。以下の各種試験において、高度分岐環状デキストリンには、市販品(グリコ株式会社製、商品名「クラスターデキストリン」)を使用した。アルカリ剤は、炭酸ナトリウム無水物(ソーダ灰)を使用した。
[試験方法]:試験区ごとに表3の配合に従いピックル液を用意し、タラの生の切り身を同質量のピックル液に4℃で2時間浸漬した。浸漬後、液切りを行い、230℃、13分の焼成を行い、食感を確認した。
【0021】
【0022】
【0023】
その結果を表4に示す。
表4に示す通り、高度分岐環状デキストリンの添加量を増やすことで、しっとり感・繊維感がともに増大し、アルカリ味に関しても低減する傾向にあった。
【0024】
[試験3:アルカリ剤と高度分岐環状デキストリンの添加量の検討]
溶液の浸透の度合いと、味への影響を評価し、適切なpHの範囲を検討した。また、高度分岐環状デキストリンを添加した際のそれぞれのpHでの浸透度合い・効果を確認する評価を行った。さらに、凍結後の食感の確認も行った。
[試験方法]:試験区ごとに表5の配合に従いピックル液を用意し、タラの生の切り身を同質量のピックル液に4℃で2時間浸漬した。浸漬後、液切りを行い230℃、13分間の焼成を行い、食感を確認した。また、凍結後の食感確認として、上記溶液に浸漬後、液切りを行い急速凍結後、冷凍機(霜取り機能付き、-20℃設定)にて1日、凍結保管した。凍結状態のまま230℃、13分間の焼成を行い、食感を確認した。
【0025】
【0026】
【0027】
その結果を表6に示す。
表6に示す通り、高度分岐環状デキストリンのみでは無添加と比較しても差は見られなかった。一方で、アルカリ剤との併用によりpHを上げることで、高度分岐環状デキストリンの効果は食感として観察され、アルカリ味も改善されていた。しかし、凍結後焼成を行った結果、未凍結時のような食感は全試験区において観察されなかった。
【0028】
[試験4:アルカリ剤と高度分岐環状デキストリン、不凍多糖の添加による効果の検討]
アルカリ剤と不凍多糖を加えた際に、高度分岐環状デキストリンを添加した際の効果を検討した。
[試験方法]:試験区ごとに表7の配合に従いピックル液を用意し、タラの生の切り身を同質量のピックル液に4℃で2時間浸漬した。浸漬後、液切りを行い急速凍結した。凍結後、冷凍機(霜取り機能付き、-20℃設定)にて1日、凍結保管した。凍結状態のまま230℃、13分間の焼成を行い、食感を確認した。
【0029】
【0030】
【0031】
その結果を表8に示す。
表8に示す通り、不凍多糖の添加量を多くすることによって、アルカリ剤のみを加えた場合でも改善効果は大きくなるが、そこに高度分岐環状デキストリンをさらに加えることで、より大きな改善効果が得られた。
【0032】
[試験5:アルカリ剤と不凍多糖を加えた際の、高度分岐環状デキストリンを添加した場合と、その他のデキストリンを添加した場合との比較]
アルカリ剤と不凍多糖を加えた際に、高度分岐環状デキストリンと他のデキストリンを添加した際の効果の比較確認を行う。
[試験方法]:試験区ごとに表9の配合に従いピックル液を用意し、タラの生の切り身を同質量のピックル液に4℃で2時間浸漬した。浸漬後、液切りを行い急速凍結した。凍結後、冷凍機(霜取り機能付き、-20℃設定)にて1日、凍結保管した。凍結状態のまま230℃、13分間の焼成を行い、食感を確認した。
【0033】
【0034】
【0035】
その結果を表10に示す。
表10に示す通り、α-シクロデキストリン及びその他デキストリンを添加した場合にもしっとり感や繊維感、旨味に多少の改善はみられたが、高度分岐環状デキストリンを添加した場合の効果が最も大きかった。特に繊維感と旨味の面が際立っていた。
【0036】
<畜肉試験>
[試験6:不凍多糖のみを添加した際の効果の評価]
不凍多糖のみを添加した際の効果を評価する。
[試験方法]:原料の鶏モモ肉をテンダリングし、カットを行った。カット後、表11の配合で調製した、原料に対し100分の20の質量のピックル液に4℃で2時間浸漬し、正転20分、休止10分、反転20分、休止10分の条件でタンブリングを行った。タンブリング後、220℃で10分間、焼成し、焼成後、放冷し、急速凍結した。凍結後、冷凍機(霜取り機能付き、-20℃設定)にて1ヶ月、凍結保管した。保管後、レンジアップにて解凍し、食感確認を行った。
【0037】
【0038】
【0039】
その結果を表12に示す。
表12に示す通り、不凍多糖の添加量を増やしていくにつれ、旨味や繊維感が向上する傾向にあるが、その効果は無添加と比較して小さく、不凍多糖を、市販のエノキタケ抽出液製剤(株式会社カネカ製、商品名「カネカ不凍多糖 EF1」)で0.15%以上添加しなければ、十分な改善効果は得られなかった。
【0040】
[試験7:高度分岐環状デキストリンの添加量の検討]
畜肉にアルカリ剤を加えた際の、高度分岐環状デキストリンの適切な添加量について検討を行った。アルカリ剤は、炭酸ナトリウム無水物(ソーダ灰)を使用した。
[試験方法]:原料の鶏モモ肉をテンダリングし、カットを行った。カット後、表13の配合で調製した、原料に対し100分の20の質量のピックル液に4℃で2時間浸漬し、正転20分、休止10分、反転20分、休止10分の条件でタンブリングを行った。タンブリング後、220℃で10分間、焼成し、食感を確認した。
【0041】
【0042】
その結果を表14に示す。
表14に示す通り、高度分岐環状デキストリンを0.1%以上添加することで、しっとり感や繊維感は向上する傾向にあった。また、アルカリ味に関しても添加量を増やしていくにつれ低減する傾向にあった。
【0043】
[試験8:アルカリ剤と高度分岐環状デキストリンの添加量の検討]
溶液の浸透の度合いと、味への影響を評価し、適切なpHの範囲を検討した。また、高度分岐環状デキストリンを添加した際のそれぞれのpHでの浸透度合い・効果を確認する評価を行った。さらに、凍結後の食感の確認も行った。
[試験方法]:原料の鶏モモ肉をテンダリングし、カットを行った。カット後、表15の配合で調製した、原料に対し100分の20の質量のピックル液に4℃で2時間浸漬し、正転20分、休止10分、反転20分、休止10分の条件でタンブリングを行った。タンブリング後、220℃で10分間、焼成し、焼成後、放冷し、急速凍結した。凍結後、冷凍機(霜取り機能付き、-20℃設定)にて1ヶ月、凍結保管した。保管後、レンジアップにて解凍し、食感確認を行った。
【0044】
【0045】
【0046】
その結果を表16に示す。
表16に示す通り、高度分岐環状デキストリンのみの添加では無添加と比較しても差は見られなかった。一方で、アルカリ剤との併用によりpHを上げることで、高度分岐環状デキストリンの効果は食感として観察され、アルカリ味も改善されていた。しかし凍結後焼成を行った結果、アルカリ剤との併用によって、パサツキは多少軽減されてはいるが、旨味や繊維感といった部分は凍結ダメージが大きく感じられた。
【0047】
[試験9:アルカリ剤と高度分岐環状デキストリン、不凍多糖の添加による効果の検討]
アルカリ剤と不凍多糖を加えた際に、高度分岐環状デキストリンを添加した際の効果を検討した。
[試験方法]:原料の鶏モモ肉をテンダリングし、カットを行った。カット後、表17の配合で調製した、原料に対し100分の20の質量のピックル液に4℃で2時間浸漬し、正転20分、休止10分、反転20分、休止10分の条件でタンブリングを行った。タンブリング後、220℃で10分間、焼成し、焼成後、放冷し、急速凍結した。凍結後、冷凍機(霜取り機能付き、-20℃設定)にて1ヶ月、凍結保管した。保管後、レンジアップにて解凍し、食感確認を行った。
【0048】
【0049】
【0050】
その結果を表18に示す。
表18に示す通り、不凍多糖の添加量を多くすることによって、アルカリ剤のみとの併用でも改善効果は大きくなるが、そこに高度分岐環状デキストリンをさらに加えることで、繊維感や旨味の面でさらに改善がみられ、不凍多糖の添加量が少量であっても不凍多糖の大きな改善効果が観察された。
【0051】
[試験10:アルカリ剤と不凍多糖を加えた際の、高度分岐環状デキストリンを添加した場合と、その他のデキストリンを添加した場合との比較]
アルカリ剤と不凍多糖を加えた際に、高度分岐環状デキストリンと他のデキストリンを添加した際の効果の比較確認を行った。
[試験方法]:原料の鶏モモ肉をテンダリングし、カットを行った。カット後、表19の配合で調製した、原料に対し100分の20の質量のピックル液に4℃で2時間浸漬し、正転20分、休止10分、反転20分、休止10分の条件でタンブリングを行った。タンブリング後、220℃で10分間、焼成し、焼成後、放冷し、急速凍結した。凍結後、冷凍機(霜取り機能付き、-20℃設定)にて1ヶ月、凍結保管した。保管後、レンジアップにて解凍し、食感確認を行った。
【0052】
【0053】
【0054】
その結果を表20に示す。
表20に示す通り、高度分岐環状デキストリン以外のデキストリンを添加した場合にもしっとり感や繊維感、旨味にやや改善はみられたが、高度分岐環状デキストリンを添加した場合における、不凍多糖の効果が最も大きかった。
【0055】
以上の試験の結果から、不凍多糖のみの添加では食肉原料中への十分な浸透は困難であり、浸漬処理やタンブリング処理等で不凍多糖の効果を十分に発揮させることは難しいことがわかった。アルカリ剤は溶液のpHを高め、肉組織への溶液の浸透性を向上させる。また、高度分岐環状デキストリンは、肉繊維を膨らませる効果を持つ。今回の試験より、アルカリ剤と高度分岐環状デキストリンを不凍多糖と併用することで、凍結後も高い品質を維持し続けることができることがわかった。これは、アルカリ剤により浸透性を高め、さらに高度分岐環状デキストリンにより繊維を膨らませることで、不凍多糖の浸透性が向上し、その効果を十分に発揮できたためであると考えられる。
以上のとおり、魚肉、畜肉等の食肉において、アルカリ剤と高度分岐環状デキストリンと不凍多糖を併用することで、不凍多糖の肉組織への浸透性を大きく向上させ、その効果を十分に発揮させることが可能となる。
【実施例1】
【0056】
[豚肉]
<とんかつ>
[試験方法]:豚ロースブロックに、表21の配合で調製したピックル液をインジェクションし、正転20分、休止10分、反転20分、休止10分を1回としてタンブリングを3回繰り返して行った。タンブリング後、一晩、冷蔵庫に入れ、4℃にてエージングを行った。エージング後、急速凍結した。凍結後、半解凍の状態で約2cmの厚さにスライスした。スライス肉に打ち粉、バッター、パン粉をつけ、急速凍結した。凍結後、冷凍機(霜取り機能付き、-20℃設定)にて1日、凍結保管した。保管後、凍結状態のまま中心温度80℃以上で油ちょうした。放冷後、食感を確認した。
【0057】
【0058】
【0059】
その結果を表22に示す。
表22に示す通り、試験区(1)では、肉組織が柔らかくなってしまっており、旨味も抜け、水っぽいような食感であった。試験区(2)では、肉繊維がしっかりとしており弾力が感じられた、また、肉本来の旨味も残っていた。
【実施例2】
【0060】
<ベーコン>
[試験方法]:豚バラブロックに、表23の配合で調製したピックル液をインジェクションし、正転20分、休止10分、反転20分、休止10分を1回としてタンブリングを2回繰り返して行った。タンブリング後、一晩、冷蔵庫に入れ、4℃にてエージングを行った。エージング後、乾燥機にて60℃で3時間、乾燥を行った。乾燥後、75℃で90分間、蒸煮を行った。蒸煮後、1時間、燻煙を行った。燻煙後、急速凍結を行い、冷凍機(霜取り機能付き、-20℃設定)にて1日、凍結保管した。保管後、自然解凍にて解凍を行った。解凍後、離水確認と食感確認を行った。
【0061】
【0062】
【0063】
その結果を表24に示す。
表24に示す通り、試験区(1)では離水が多く観察され。また食感としてもパサツキが感じられた。一方で試験区(2)では、離水も少なく、食感もとてもしっとりとしており、旨味も強く感じられた。
【実施例3】
【0064】
<エビ>
[試験方法]:原料のバナメイエビを解凍し、背ワタ・殻を除去後、表25の配合で調製した、原料に対し100分の30の質量のピックル液に4℃で2時間浸漬した。浸漬後、液切りを行い、90℃で3分間、ブランチングを行った。ブランチング後、放冷し急速凍結を行い、冷凍機(霜取り機能付き、-20℃設定)にて1ヶ月、凍結保管した。保管後、恒温槽にて85℃でボイル解凍を行い、食感確認を行った。
【0065】
【0066】
【0067】
その結果を表26に示す。
表26に示す通り、試験区(1)ではしっとり感はあるものの繊維感が無く、弾力も失われていた。一方で試験区(2)では繊維がしっかりとしており弾力も感じられた。また、旨味も残っていた。