(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-02-14
(54)【発明の名称】新規な細菌種
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20220204BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220204BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20220204BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220204BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220204BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220204BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20220204BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220204BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220204BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20220204BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220204BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20220204BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20220204BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220204BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20220204BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220204BHJP
A61P 25/32 20060101ALI20220204BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20220204BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20220204BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220204BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220204BHJP
A61K 35/741 20150101ALI20220204BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/20 E
A61P37/04
A61P3/04
A61P3/10
A61P1/04
A61P9/10
A61P9/12
A61P9/00
A61P1/16
A61P3/06
A61P37/08
A61P11/06
A61P25/16
A61P25/00
A61P25/24
A61P17/02
A61P25/32
A61P25/20
A61P19/08
A61P35/00
A61P31/04
A61K35/741
(21)【出願番号】P 2019503784
(86)(22)【出願日】2017-04-11
(86)【国際出願番号】 EP2017058700
(87)【国際公開番号】W WO2017178496
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-03-12
(32)【優先日】2016-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【微生物の受託番号】CBS CBS 141023
(73)【特許権者】
【識別番号】515131390
【氏名又は名称】ヴァーヘニンゲン ユニバーシテイト
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】デ ヴォス,ウィレム メインデルト
(72)【発明者】
【氏名】ベルザー,クララ
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-503418(JP,A)
【文献】INTERNATIONAL JOURNAL OF SYSTEMATIC AND EVOLUTIONARY MICROBIOLOGY,2016年,Vol.66,p.4614-4620
【文献】The ISME Journal,2012年,Vol.6,p.1449-1458
【文献】INTERNATIONAL JOURNAL OF SYSTEMATIC AND EVOLUTIONARY MICROBIOLOGY,2014年,Vol.54, No.5,p.1469-1476
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
A61K 35/741
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CBS141023として寄託されている菌株であり、唯一の炭素源および窒素源としてのムチンで生育することができ、さらに唯一の炭素源としてのN-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、グルコース、ラクトース、マルトースまたはガラクトースで生育することができる
、単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株。
【請求項2】
請求項
1に記載の単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株と、生理学的に許容される担体と、を含む組成物。
【請求項3】
前記アッカーマンシア・グリカニフィルスは凍結乾燥またはマイクロカプセル化された形態で存在する、請求項
2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アッカーマンシア・グリカニフィルスは10
4~10
15細胞の範囲の量で存在する、請求項
2または
3に記載の組成物。
【請求項5】
医薬として使用するための、請求項
1に記載の単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株または請求項
2~
4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
腸粘膜免疫系機能を促進するのに使用するための、または哺乳類における腸粘膜バリアの物理的完全性を維持、回復および/または増大させるのに使用するための、請求項
1に記載の単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株または請求項
2~
4のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
メタボリックシンドローム、肥満、インスリン欠乏もしくはインスリン抵抗性に関連する障害、2型糖尿病、1型糖尿病、炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群(IBS)、耐糖能異常、脂質代謝異常
、高血糖症
、脂質異常症、肥満(体重増加)に関連する免疫系の機能不全
、高コレステロール、トリグリセリドの上昇
、および腸粘膜バリアの物理的完全性を変える状
態からなる群から選択される障害を予防および/または治療するのに使用するための、請求項
1に記載の単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株または請求項
2~
4のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
プロバイオティクスおよび/またはシンバイオティクスとして使用するための、請求項
1に記載の単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株または請求項
2~
4のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
体重減少を促進するのに使用するための、請求項
1に記載の単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株または請求項
2~
4のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
哺乳類の胃腸(GI)管におけるアッカーマンシア・グリカニフィルスのレベルを増加させ、前記哺乳類のGI管において前記アッカーマンシア・グリカニフィルス菌株の増殖を促進させるのに使用するための、請求項
1に記載の単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株または請求項
2~
4のいずれかに記載の組成物であって、前記単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株が、ビルディングブロックとしてグルコサミンまたはN-アセチルグルコサミンなどのグルコサミンの誘導体およびポリフェノール類からなる群から選択される化合物と共に前記哺乳類に投与される、上記単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株または組成物。
【請求項11】
哺乳類の胃腸(GI)管におけるアッカーマンシア・グリカニフィルスのレベルを増加させ、前記哺乳類のGI管における前記アッカーマンシア・グリカニフィルス菌株の増殖を促進するのに使用するための、請求項
1に記載の単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株または請求項
2~
4のいずれかに記載の組成物と、ビルディングブロックとしてグルコサミンまたはN-アセチルグルコサミンなどのグルコサミンの誘導体およびポリフェノール類からなる群から選択される化合物との組み合わせ物。
【請求項12】
請求項
1に記載の、美容的に有効な量の単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株を含む美容組成物。
【請求項13】
体重減少を促進するための、請求項
1に記載の単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株または請求項
12に記載の美容組成物の美容的利用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過体重および肥満に関連する代謝性疾患、例えば2型糖尿病および高コレステロールなどの代謝性疾患の予防および/または治療に関する。本発明は哺乳類、例えばヒトまたはペットまたは生産動物における腸粘膜免疫系機能を調節および/または促進し、かつ/または腸粘膜バリアの物理的完全性を維持および/または回復および/または増大させる方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は主に、好ましくない遺伝的背景に対する有害な栄養および身体的習慣の結果である。それは2型糖尿病、心血管疾患、肺高血圧症、睡眠時無呼吸および多くの癌のリスクが高まるなどの深刻な健康への影響を有し、かつ死亡率のリスクの上昇に強く結び付けられている。
【0003】
ヒトの腸管は多種多様な微生物を含み、そのうち細菌が最も多くかつ多様である。全体として、マイクロバイオームはヒトゲノムよりも100倍以上も多い。従って、腸の微生物叢は代謝全体に寄与する「外面化された器官」としてみなすことができ、食物を栄養やエネルギーに変換する役割を担う。少なくとも1014個の細菌からなる共同体は嫌気性細菌によって支配されており、数千の種からなり、現在ではそこから1000種が培養されている(Rajilic Stojanovic and de Vos,2014,FEMS Microbiol Rev 38:996-1047)。
【0004】
宿主の代謝における腸の微生物叢の役割についての多くの証拠が存在する。現在のところ腸内細菌の恒常性は、宿主の特性(年齢、性別および遺伝的背景など)、環境条件(ストレス、薬物および消化管手術など)ならびに食事によって決まると考えられている。
【0005】
プレバイオティクスで治療した場合、食事性肥満および糖尿病のマウスは、グルコースおよび脂質代謝の改善、血漿LPSの減少および腸のバリア機能の改善(例えば、炎症の減少)、腸内分泌L細胞数の増加ならびにレプチン感受性およびグルコース恒常性の改善を示した(Everardら,Diabetes,2011,vol.60(11):2775-86)。プレバイオティクス治療により、これらのマウスにおける腸内微生物叢の組成はかなり変わり、特にアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)の存在量がかなり増加した。
【0006】
対照飼料または高脂肪(HF)飼料を与えたマウスにアッカーマンシア・ムシニフィラ(A. muciniphila)を経口投与すると、食物摂取量を全く変更しなくても食事性代謝性内毒素血症(metabolic endotoxemia)、脂肪症および脂肪組織CD11cマーカーが正常化されることが分かった(国際公開第2014/075745号)。さらに、アッカーマンシア・ムシニフィラ(A. muciniphila)治療により体重が減少し、かつ体組成(すなわち脂肪量/筋肉量の比)が改善した。HF飼料条件下では、アッカーマンシア・ムシニフィラ治療は脂質生成に影響を与えることなく脂肪細胞分化および脂質酸化のマーカーのmRNA発現を増加させることが分かった。また、アッカーマンシア・ムシニフィラによるコロニー形成により食事性空腹時高血糖が完全に正常化し、かつ治療後にインスリン抵抗指数が同様に低下することも分かった。最後に、アッカーマンシア・ムシニフィラにより腸のバリア機能が高まることが分かった(J Reunanenら 2015, Appl Environ Microbiol.81:3655-62)。我々を病原体および有害な腸成分から保護しているのはこの腸のバリアであり、バリア機能の障害は、IBS、IBDおよび腸の健康に関連する他の疾患を含む各種疾患および障害に関連づけられている。最近では腸のバリアは、腸管内腔を宿主内部から分離し、かつ機械的要素、体液性要素、免疫学的要素、筋肉的要素および神経学的要素からなる機能的実体として定義されている(SC Bishoffら,2014,BMC Gastroenterol.14:189)。故に、腸のバリアの測定可能な特徴として定めることができる腸透過性を改善することは腸の健康に影響を与えるものに寄与する重要な因子である。
【0007】
腸管において有用になるためには、プロバイオティクス細菌は腸管内の適当な位置において活性になるものでなければならない。ヒトおよび他の動物の腸管は複雑な構造を有し、そこでは特にpHの違いが甚大である。ヒトの腸管では、管腔内pHは酸性の胃に続く十二指腸では約pH6であり、小腸においてpH6から回腸終端部におけるpH7.4まで上昇し、盲腸においてpH5.7まで低下し、徐々に増加して直腸においてpH6.7に到達する。いくつかの動物では非常に様々なpHが認められ、イヌのpHは通常はヒトよりも高く最大pH7.3であるが、ネコではpH6.6よりも低いことがあり、品種によっても異なる。変化は食事、年齢および疾患によって生じることがある。このpHは水素イオン濃度の10を底とする対数を反映するものであり、故に1単位のpHの変化は水素イオン濃度における10倍の差を表す。それ故に、ヒトならびにペットまたは生産動物における用途の両方のために異なるpH値で作用するプロバイオティクスを有することに関心が寄せられている。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、代謝性疾患を予防および/または治療し、かつ/または腸のバリア機能を改善するのに有用である新規なプロバイオティクスを提供することにある。
【0009】
本発明は、好ましくは唯一の炭素源および窒素源としてのムチンで生育することができ、かつ好ましくはさらに唯一の炭素源としてのN-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、グルコース、ラクトース、マルトースまたはガラクトースで生育することができる単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス(Akkermansia glycaniphilus)菌株に関する。一実施形態では、前記菌株はCentraalbureau voor Schimmelcultures(オランダの微生物保存センター)にCBS141023として寄託されている菌株またはそれに由来する菌株である。
【0010】
本発明は、本明細書において教示されている単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株および生理学的に許容される担体を含む組成物も提供する。前記組成物は、好ましくはカプセル、錠剤または粉末などの固体剤形の医薬組成物であってもよい。一実施形態では、前記アッカーマンシア・グリカニフィルスは凍結乾燥もしくはマイクロカプセル化された形態で存在する。前記アッカーマンシア・グリカニフィルスは、約104~約1015細胞の範囲の量で存在してもよい。
【0011】
本発明はさらに、医薬として使用するため、プロバイオティクスおよび/またはシンバイオティクスとして使用するため、あるいは美容品として使用するための本明細書において教示されている単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株または本明細書において教示されている組成物に関する。本明細書において教示されている菌株または組成物は、例えば腸粘膜免疫系機能を促進するため、哺乳類における腸粘膜バリアの物理的完全性を維持、回復および/または増大させるため、体重減少を促進するため、および/またはメタボリックシンドローム、肥満、インスリン欠乏もしくはインスリン抵抗性に関連する障害、2型糖尿病、1型糖尿病、炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群(IBS)、耐糖能異常、脂質代謝異常、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、心臓病、脳卒中、非アルコール性脂肪性肝疾患、アルコール性脂肪性肝疾患、高血糖症、肝臓脂肪症、脂質異常症、肥満(体重増加)に関連する免疫系の機能不全、アレルギー、喘息、自閉症、パーキンソン病、多発性硬化症、神経変性疾患、鬱病、バリア機能の障害に関連する他の疾患、創傷治癒、行動障害、アルコール依存症、心血管疾患、高コレステロール、トリグリセリドの上昇、アテローム性動脈硬化症、睡眠時無呼吸、骨関節炎、胆嚢疾患、癌ならびに食物アレルギー、例えば赤ん坊が未熟児で生まれたことに起因する腸の未成熟、放射線、化学療法および/または毒素への曝露などの腸粘膜バリアの物理的完全性を変える状態、自己免疫不全、栄養不良および敗血症からなる群から選択される障害を予防および/または治療するために使用してもよい。
【0012】
最後の態様では、本発明は、哺乳類、好ましくはヒトの胃腸(GI)管におけるアッカーマンシア・グリカニフィルスのレベルを増加させるための方法であって、本明細書において教示されている単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株または組成物を前記哺乳類に投与するステップと、ビルディングブロックとしてグルコサミンまたはN-アセチルグルコサミンなどのグルコサミンの誘導体を含む化合物およびポリフェノール類からなる群から選択される化合物を前記哺乳類に投与することによって前記哺乳類のGI管において前記アッカーマンシア・グリカニフィルス菌株の増殖を促進させるステップと、を含む方法を提供する。
【0013】
定義
本明細書で使用される「プロバイオティクス」または「プロバイオティクス製品」という用語は、有効量で投与または摂取されると宿主(例えばヒトまたは哺乳類)に健康上の利点を与える腸内細菌などの微生物を指す。好ましくは、プロバイオティクスはプロバイオティクスが宿主の大腸にコロニーを形成することができるように対象に投与された際に活性になるか生存可能でなければならない。但し特定の条件下では、プロバイオティクスによって産生される物質がなお宿主に対してプロバイオティクスすなわち有益な効果を与えるという条件であれば、プロバイオティクスは投与される際に死滅していてもよい。大部分のプロバイオティクスまたはプロバイオティクス製品は乳酸桿菌またはビフィズス菌などの乳酸菌からなる。当業者はプロバイオティクスの分野に精通しており、プロバイオティクス活性を有する乳酸菌を選択する方法を知っている。
【0014】
本明細書で言及される「アッカーマンシア・グリカニフィルス」という名前を有する種は、例えばOuwerkerkら(2016.Int J of Syst Evol Microbiol 66:1-7)において使用されている「アッカーマンシア・グリカニフィラ(Akkermansia glycaniphila)」という名前を有する種と同じである。従って、これらの名前は同義で使用することができる。
【0015】
本明細書で使用される「プレバイオティクス」または「プレバイオティクス製品」という用語は一般に、それらの宿主の健康に寄与するGI微生物の増殖および/または活性を促進する化合物を指す。プレバイオティクスまたはプレバイオティクス製品は主に発酵性繊維または非消化性炭水化物からなる。プロバイオティクスによるこれらの繊維の発酵は、SCFA(特に酪酸)などの有益な最終産物の産生を促進する。当業者はプレバイオティクスの分野に精通しており、プレバイオティクス活性を有する成分を選択する方法を知っている。
【0016】
本明細書で使用される「シンバイオティクス」または「シンバイオティクス製品」という用語は一般に、プロバイオティクスとプレバイオティクスなどのGI微生物の増殖および/または活性を促進する1種以上の化合物とを組み合わせて1つの製品にした組成物および/または栄養補助食品を指す。シンバイオティクスは、プロバイオティクスの増殖を選択的に刺激し、かつ/またはその代謝を活性化させることによりGI管におけるプロバイオティクスの生存およびコロニー形成を向上させ、このようにして宿主の健康を改善することによって宿主に有利に影響を与える。当業者は、シンバイオティクスに精通しており、組み合わせてシンバイオティクスにすることができる成分を選択する方法を知っている。
【0017】
本明細書で使用される「有益な腸内細菌種」という用語は、哺乳類(例えばヒト)の腸に生息し(すなわち生まれつき存在し)、かつそれが生息している哺乳類のGI、代謝および他の健康に有益な効果(例えば、病原菌種からの保護、酪酸および/または酪酸塩および誘導体などの産生)を与える細菌種を指す。有益な腸内細菌種の非限定的な例としては、乳酸桿菌およびビフィズス菌属の乳酸菌が挙げられる。有益な腸内細菌種の他の非限定的な例としては、アセチルCoAを使用して米国特許出願公開第2014/0242654号、国際公開第2014/150094号または国際公開第2013032328A1号に開示されている細菌の菌株などの酪酸および/または酪酸塩およびその誘導体を産生する酪酸産生細菌種が挙げられる。同様に、プロピオン酸塩産生種はプロバイオティクスとしてみなすことができるが、それはプロピオン酸塩が酪酸塩のように体重およびインスリン感受性を制御し、特に調節性T細胞を介して免疫系にシグナルを送り、かつFFAR2受容体を介して神経回路に影響を与えるからである(Canforaら,2015.Nature Reviews Endocrinology 11:577-591;Smithら,2013.Science 341:569-573:Ernyら,2015,Nat Neurosci 18:965-977)。プロピオン酸塩は肝臓での糖新生のための基質であり、脂質およびコレステロール合成に対する阻害効果および炎症および発癌に対する保護効果を有する(Hosseiniら,2011.Nutrition Reviews 69:245-258)。ヒトにおける食事介入により、プロピオン酸塩が満腹感を増加させて食欲を調節し、それにより過体重の成人において体重維持が得られることも分かっている(Chambersら 2015.Gut 64:1744-1754)。
【0018】
本明細書で使用される「病原菌種」という用語は、哺乳類(例えばヒト)の腸に生息して(すなわち生まれつき存在し)、かつそれが生息している哺乳類のGI健康に対して有害な作用(例えば感染)を与える細菌を指す。病原菌種のよく知られている非限定的な例は毒素産生クロストリジウム・ディフィシルである。
【0019】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、本明細書において教示されている効果を達成するのに必要な量を指す。有効量は当業者によって過度な実験を行うことなく容易に決定することができる。
【0020】
本明細書で使用される「それに由来する菌株」という用語は、出発材料として本明細書において教示されている寄託菌株を使用することによって得られる菌株に関する。それに由来する菌株は、例えば、遺伝子工学、放射線、UV光、化学処理によって本発明の菌株から得ることができる突然変異菌株であってもよい。あるいは、そのような誘導体または突然変異菌株は、特定の条件への増殖適応に供されて、より迅速な増殖や腸でのより良好な生存などのさらなる利点が誘導体菌株にもたらされる本明細書において教示されている寄託菌株に由来する菌株であってもよい。これらの誘導体または突然変異は本明細書において教示されている寄託菌株と機能的に同等であることが好ましい。本明細書において教示されている好ましい誘導体または突然変異体は、本明細書において教示されている寄託菌株と実質的に同じ活性または機能を有している。これらの誘導体または突然変異体は有利には、寄託菌株を投与した場合と同様に、前記誘導体または突然変異体が投与される哺乳類(例えばヒトまたは他の哺乳類)に実質的に同じ利点を与える。また、これらの誘導体または突然変異菌株は、寄託菌株について本明細書に記載されている同じ特性を有する自然発生的な誘導体または突然変異菌株であってもよい。
【0021】
「消費に適した」または「栄養的に許容される」という用語は、一般にヒト(ならびに他の哺乳類)の消費にとって安全であるとみなされている成分または物質を指す。
【0022】
本明細書で使用される「~を含む(comprising)」または「~を含む(comprise)」という用語およびそれらの活用形は、前記用語がその用語の後ろにある項目が含まれるが、具体的に言及されていない項目が排除されないことを意味するようにそれらの非限定的な意味で使用される状況を指す。これは、より限定的な動詞「本質的に~からなる(consist essentially of)」および「~からなる(consist of)」も包含する。
【0023】
不定冠詞「a」または「an」による要素の参照は、その文脈が明らかにその要素の1つおよび1つのみが存在することを要件としない限り、その要素の2つ以上が存在するという可能性を排除しない。従って、不定冠詞「a」または「an」は通常「少なくとも1つ」を意味する。
【0024】
「増加する」および「増加したレベル」という用語ならびに「減少する」および「減少したレベル」という用語は、有意に増加させるか有意に減少させる能力あるいは有意に増加したレベルまたは有意に減少したレベルを指す。一般にレベルは、対照または参照における対応するレベルよりも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%以上または以下などの少なくとも5%でそれぞれ増加または減少する。あるいは、試料中のレベルが対照または参照におけるレベルと比較した場合に統計的に有意に増加または減少している場合に増加または減少していると言ってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0025】
細菌
本発明者らは、アミメニシキヘビの腸から新しいアッカーマンシア属種の菌株PytTを単離した。
【0026】
これは、グラム陰性、非運動性、偏性嫌気性の楕円形をした非胞子形成性細菌である。これは唯一の炭素、エネルギーおよび窒素源のムチンを使用することができ、これはヒト型菌株アッカーマンシア・ムシニフィラMucTと共有する特性である。菌株PytTはN-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、グルコース、ラクトース、マルトースおよびガラクトースなどの限られた数の単糖で生育することができたが、豊富なタンパク質源が提供された場合のみであった。16S rRNA遺伝子シークエンシングに基づく系統発生解析により、菌株PytTはウェルコミクロビウム綱I、アッカーマンシア科、アッカーマンシア属に属し、かつアッカーマンシア・ムシニフィラMucTと最も近い類縁である(94.4%の配列類似性)ことが分かった。表現型、系統発生および遺伝的特性に基づき、菌株PytTはアッカーマンシア属内の新規な種を表し、その名前として基準株PytTと共にアッカーマンシア・グリカニフィルス新種が提案されている。
【0027】
従って、本発明は2016年2月24日にワーゲニンゲン(Wageningen)大学によってCentraalbureau voor Schimmelcultures(Uppsalalaan8、オランダ)に寄託されて寄託番号CBS141023を受けた菌株であるアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株、例えば基準株PytTまたはそれに由来している菌株に関する。
【0028】
一実施形態では、前記菌株は唯一の炭素源および窒素源としてのムチンで生育することができる。ムチングリカンは主にガラクトース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミンからなり、アッカーマンシア・グリカニフィルス菌株PytTはこれらの全てを増殖基質として使用することができる。菌株アッカーマンシア・ムシニフィラMucTとは対照的に、アッカーマンシア・グリカニフィルス菌株PytTはガラクトースを唯一の炭素源として使用することができ、主にプロピオン酸塩、酢酸塩および少量のコハク酸塩を産生する。
【0029】
アッカーマンシア・グリカニフィルス菌株PytTは最適に増殖することができる幅広いpH範囲を有し、その最適pHはアッカーマンシア・ムシニフィラMucTよりも約0.5pH単位低い。
【0030】
肥満もしくは過体重の対象の腸はアッカーマンシア・ムシニフィラが枯渇しており、アッカーマンシア・ムシニフィラ補充により食物摂取量を全く変更しなくても食事性代謝性内毒素血症、脂肪症および脂肪組織CD11cマーカーが正常化されることが分かった(国際公開第2014/075745号)。さらに、アッカーマンシア・ムシニフィラ治療により体重が減少し、かつ体組成が(すなわち、脂肪量/筋肉量の比)が改善した。アッカーマンシア・ムシニフィラとのその類似性を考慮すると、アッカーマンシア・グリカニフィルスはアッカーマンシア・ムシニフィラと同様に代謝性疾患を予防および/または治療することができると推測される。同様に、アッカーマンシア・グリカニフィルスはニシキヘビの腸において唯一のアッカーマンシア属種として認められているため、アッカーマンシア・ムシニフィラによって刺激されるバリア機能はアッカーマンシア・グリカニフィルスによって増大されることが期待される。アッカーマンシア・ムシニフィラと同様に、腸のアッカーマンシアのレベルは、アミメニシキヘビの正常なライフサイクルの一部である空腹時に増加する(Belzer and de Vos,2012,ISME J 6:1449-58)。
【0031】
一実施形態では、前記菌株はさらに、唯一の炭素源としてのN-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、グルコース、ラクトース、マルトースまたはガラクトースで生育することができ、特に、トリプトンなどの好適な窒素源の存在下で任意にトレオニンが添加されたN-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、D-グルコース、D-ラクトースまたはD-ガラクトースを含む基本培地で、例えば16g/lのトリプトンおよび4g/lのトレオニンの存在下でN-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、D-グルコース、D-ラクトースまたはD-ガラクトースを含む基本培地で生育することができる。トリプトンはカゼインのタンパク質分解産物であり、ダイズまたはエンドウおよび他の植物タンパク質由来のものなどの他のタンパク質源で置き換えることができる。
【0032】
組成物
本発明は、本明細書において教示されている単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株および生理学的に許容される担体を含む組成物にも関する。
【0033】
一実施形態では、生理学的に許容される担体は、本明細書において教示されている細菌の菌株を対象(例えば、ヒトおよび/または動物)によって消費されるまで生存可能に維持するのに適した任意の担体であればよい。例えば、この目的に適した許容される担体の非限定的な例としては、周知の生理学的もしくは薬学的担体、緩衝液および賦形剤のいずれかが挙げられる。当然のことながら、好適な生理学的もしくは薬学的担体の選択は、本明細書において教示されている組成物の意図される投与様式(例えば経口)および本組成物の意図される形態(例えば、飲料、ヨーグルト、粉末およびカプセルなど)によって決まる。当業者は、本明細書において教示されている組成物に適した生理学的もしくは薬学的担体を選択する方法を知っている。
【0034】
一実施形態では、本明細書において教示されている組成物は、食品組成物、飼料組成物、飼料用栄養補助食品組成物、食品用栄養補助食品組成物または医薬組成物の形態であってもよい。本組成物は好ましくは、人間、ペットまたは生産動物などの哺乳類による消費に適している。
【0035】
一実施形態では、本組成物は食品または食品用栄養補助食品組成物である。食品または食品用栄養補助食品組成物は、液体、液体飲料(乳飲料および発酵飲料を含む)、ヨーグルト、チーズ、ゲル、ゼラチン、ゼラチンカプセル、粉末、ペースト、圧縮錠剤およびゲルカプセルからなる群から選択されてもよい。好適な実施形態では、本組成物は液体、好ましくは液体飲料(例えば、乳飲料)である。食品または食品用栄養補助食品組成物は、乳製品、好ましくは発酵乳製品、好ましくはヨーグルトまたはヨーグルト飲料であってもよい。
【0036】
一実施形態では、本明細書において教示されている組成物はプロバイオティクス組成物であってもよい。そのようなプロバイオティクス組成物は、本明細書において教示されている単離された腸内細菌の菌株またはそれに由来する菌株のいずれかを含んでいてもよい。
【0037】
一実施形態では、本明細書において教示されている組成物は1種以上のさらなる有益な単離された腸内細菌の菌株をさらに含む。
【0038】
一実施形態では、本明細書において教示されている組成物はシンバイオティクス組成物であってもよい。1種以上のプレバイオティクス成分を本明細書において教示されている組成物に添加して、例えば本明細書において教示されている腸内細菌の菌株の効果(例えば、酪酸および/または酪酸塩またはその誘導体の産生)を高めると有利であり得る。
【0039】
一実施形態では、1種以上のプレバイオティクス成分は、本明細書において教示されている単離された腸内細菌またはそれに由来する菌株の活性を高め、かつ/またはその増殖を刺激するのに適した任意のプレバイオティクス成分であればよい。好適なプレバイオティクス成分の非限定的な例としては、繊維、セロビオース、マルトース、マンノース、サリシン、トレハロース、アミグダリン、アラビノース、メリビオース、ラムノースおよび/またはキシロースが挙げられる。
【0040】
一実施形態では、本明細書において教示されている組成物は、貯蔵中および/または胆汁への曝露中および/または哺乳類(例えば人間)のGI管を通過する間の本明細書において教示されている細菌の菌株またはそれに由来する菌株の生存および/または生存率を促進するのに適した1種以上の成分を含んでいてもよい。そのような成分の非限定的な例としては、胃の通過を可能にする腸溶コーティングおよび制御放出製剤が挙げられる。当業者は、細菌の菌株を生存可能かつ機能的すなわちそれらの意図される機能を行うことができるように維持するのに適した成分を選択する方法を知っている。
【0041】
一実施形態では、本明細書において教示されている組成物は、本明細書において教示されている組成物の栄養価および/または治療効果をさらに高める1種以上の成分をさらに含んでいてもよい。例えば、タンパク質、アミノ酸、酵素、無機塩類、ビタミン類(例えば、チアミンHCl、リボフラビン、ピリドキシンHCl、ナイアシン、イノシトール、塩化コリン、パントテン酸カルシウム、ビオチン、葉酸、アスコルビン酸、ビタミンB12、p-アミノ安息香酸、ビタミンA酢酸塩、ビタミンK、ビタミンDおよびビタミンEなど)、糖類および複合糖質類(例えば、水溶性および不水溶性単糖類、二糖類および多糖類)、医薬化合物(例えば、抗生物質)、抗酸化剤、微量元素成分(例えば、コバルト、銅、マンガン、鉄、亜鉛、スズ、ニッケル、クロム、モリブデン、ヨウ素、塩素、シリコン、バナジウム、セレン、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムおよびカリウムの化合物など)から選択される1種以上の成分(例えば、栄養成分、獣医薬剤または医薬剤など)を添加すると有利であり得る。当業者は、本明細書において教示されている組成物の栄養価および/または治療効果/薬理効果を高めるのに適した方法および成分に精通している。
【0042】
本明細書において教示されている細菌の菌株は、凍結乾燥された形態、マイクロカプセル化された形態(例えば、Solankiら BioMed Res.Int.2013,論文ID620719によって総説されている)または細菌の菌株の活性および/または生存率を保存する任意の他の形態で本組成物に組み込まれていてもよい。
【0043】
本明細書において教示されている組成物は医薬組成物であってもよい。医薬組成物は、栄養補助食品として使用するためのものであってもよい。医薬組成物は通常、本明細書において教示されている細菌の菌株に加えて薬学的担体を含む。担体は好ましくは不活性な担体である。好ましい形態は意図される投与様式および(治療的)用途によって決まる。薬学的担体は、本明細書において教示されている細菌の菌株の細菌を対象のGI管に送達するのに適した任意の適合可能な非毒性物質であればよい。通常は薬学的に許容されるアジュバント、緩衝剤および分散剤などが添加された例えば滅菌水または不活性固体を担体として使用してもよい。本明細書において教示されている医薬組成物は、液体形態、例えば本明細書において教示されている細菌の菌株の細菌の安定化された懸濁液または固体形態、例えば本明細書において教示されている細菌の菌株の凍結乾燥された細菌の粉末であってもよい。本明細書において教示されている細菌の菌株が凍結乾燥されている場合、ラクトース、トレハロースまたはグリコーゲンなどの凍結保護剤を用いることができる。例えば経口投与の場合、本明細書において教示されている細菌の菌株の細菌を凍結乾燥された細菌を含むカプセル、錠剤および粉末などの固体剤形またはエリキシル剤、シロップおよび懸濁液などの液体剤形で投与することができる。例えば凍結乾燥された形態の本明細書において教示されている細菌の菌株の細菌は、例えばグルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、澱粉、セルロースもしくはセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、滑石および炭酸マグネシウムなどの不活性成分および粉末状担体と共にゼラチンカプセルなどのカプセルでカプセル化することができる。
【0044】
一実施形態では、本明細書において教示されている腸内細菌またはそれに由来する菌株は、例えば約104~約1015細胞またはコロニー形成単位(CFU)の範囲の有効量で本明細書において教示されている組成物中に含まれていてもよい。例えば、本腸内細菌は、約106もしくは107細胞(またはCFU)~約1014細胞(またはCFU)、好ましくは約108細胞(またはCFU)~約1013細胞(またはCFU)、好ましくは約109細胞(またはCFU)~約1012細胞(またはCFU)、より好ましくは約1010細胞(またはCFU)~約1012細胞(またはCFU)の量で本組成物に含まれていてもよい。
【0045】
本明細書において教示されている組成物は任意の従来の方法によって製造されていてもよい。
【0046】
本細菌の菌株および本組成物の方法および使用
別の態様では、本発明は医薬として使用するため、食品または食品用栄養補助食品として使用するため、あるいはプロバイオティクスおよび/またはシンバイオティクスとして使用するための本明細書において教示されている細菌の菌株または本明細書において教示されている組成物に関する。
【0047】
本発明はさらに、メタボリックシンドローム、肥満、インスリン欠乏もしくはインスリン抵抗性に関連する障害、2型糖尿病、1型糖尿病、炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群(IBS)、耐糖能異常、脂質代謝異常、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、心臓病、脳卒中、非アルコール性脂肪性肝疾患、アルコール性脂肪性肝疾患、高血糖症、肝臓脂肪症、脂質異常症、肥満(体重増加)に関連する免疫系の機能不全、アレルギー、喘息、自閉症、パーキンソン病、多発性硬化症、神経変性疾患、鬱病、バリア機能の障害に関連する他の疾患、創傷治癒、行動障害、アルコール依存症、心血管疾患、高コレステロール、トリグリセリドの上昇、アテローム性動脈硬化症、睡眠時無呼吸、骨関節炎、胆嚢疾患、癌ならびに食物アレルギー、例えば赤ん坊が未熟児で生まれたことに起因する腸の未成熟、放射線、化学療法および/または毒素への曝露などの腸粘膜バリアの物理的完全性を変える状態、自己免疫不全、栄養不良および敗血症からなる群から選択される障害を予防および/または治療するのに使用するため、ならびに哺乳類の腸における抗炎症活性を促進するのに使用するための本明細書において教示されている単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株または本明細書において教示されている組成物に関する。
【0048】
本発明は、本明細書において教示されているアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株または本明細書において教示されている組成物を、それを必要とする哺乳類、例えばヒト、に投与するステップを含む、哺乳類、例えばヒトにおける腸粘膜免疫系機能を調節および/または促進し、かつ/または腸粘膜バリアの物理的完全性を維持および/または回復および/または増大させる方法も提供する。
【0049】
一実施形態では、本明細書において教示されている細菌の菌株または本明細書において教示されている組成物は、少なくとも1週間に1回、好ましくは少なくとも1週間に2回、より好ましくは少なくとも1日1回、さらにより好ましくは少なくとも1日2回投与される。
【0050】
一実施形態では、1日当たりに投与されるアッカーマンシア・グリカニフィルスの1日量は約104~約1015細胞またはコロニー形成単位(CFU)の範囲である。例えば、本腸内細菌は、1日当たり約106もしくは107細胞(またはCFU)~約1014細胞(またはCFU)、好ましくは1日当たり約108細胞(またはCFU)~約1013細胞(またはCFU)、好ましくは1日当たり約109細胞(またはCFU)~約1012細胞(またはCFU)、より好ましくは1日当たり約1010細胞(またはCFU)~約1012細胞(またはCFU)の量で投与されてもよい。
【0051】
一実施形態では、本明細書において教示されている細菌の菌株または本明細書において教示されている組成物は、過体重の対象または肥満の対象に投与される。一実施形態では、当該対象は代謝性疾患、例えば、過体重および/または肥満に関連する代謝性疾患であると診断されている。別の実施形態では、前記対象は代謝性疾患、例えば過体重および/または肥満に関連する代謝性疾患を発症するリスクがある。例えば、前記リスクは当該対象が過体重または肥満であるという事実に関連していてもよい。代わりまたは追加として、前記リスクは、代謝性疾患、例えば過体重および/または肥満に関連する代謝性疾患に対する素因、例えば家族性素因に一致する。
【0052】
当該対象は、任意の年齢群(例えば、乳幼児、成人、高齢者)および任意の性別(男性および女性)であってもよい。一実施形態では、哺乳類は乳幼児(例えば、新生児、乳児および幼児など)、特に未熟児で生まれた乳幼児である。
【0053】
一実施形態では、対象の腸内微生物叢はアッカーマンシア・ムシニフィラ菌株が枯渇している。例えば、当該対象の腸におけるアッカーマンシア・ムシニフィラの割合は、腸における細菌細胞の総数に対するアッカーマンシア・ムシニフィラの数が1%未満、好ましくは0.5%未満、より好ましくは0.1%未満であってもよい。
【0054】
本発明は、対象における体重減少を促進するためのアッカーマンシア・グリカニフィルスの美容的使用にも関する。
【0055】
従って、本発明は、美容的に有効な量のアッカーマンシア・グリカニフィルスを含む美容組成物および対象における体重減少を促進するためのその使用も提供する。本明細書で使用される「美容的に有効な量」とは、例えば対象における体重減少を誘発するためなどの美容効果を促進するのに必要かつ十分な美容組成物の量を指す。
【0056】
一実施形態では、アッカーマンシア・グリカニフィルスの美容的に有効な量は約104~約1015細胞またはコロニー形成単位(CFU)の範囲である。例えば、本腸内細菌は、1日当たり約106もしくは107細胞(またはCFU)~約1014細胞(またはCFU)、好ましくは1日当たり約108細胞(またはCFU)~約1013細胞(またはCFU)、好ましくは1日当たり約109細胞(またはCFU)~約1012細胞(またはCFU)、より好ましくは1日当たり約1010細胞(またはCFU)~約1012細胞(またはCFU)の量で投与されてもよい。
【0057】
一実施形態では、本明細書において教示されている美容組成物は、少なくとも1週間に1回、好ましくは少なくとも1週間に2回、より好ましくは少なくとも1日1回、さらにより好ましくは少なくとも1日2回投与される。
【0058】
本発明は、哺乳類、好ましくはヒトの胃腸管におけるアッカーマンシア・グリカニフィルスのレベルを増加させるための方法であって、
請求項1~4のいずれかに記載の単離されたアッカーマンシア・グリカニフィルス菌株または請求項5~8のいずれかに記載の組成物を前記哺乳類に投与するステップと、
ビルディングブロックとしてグルコサミンまたはN-アセチルグルコサミンなどのグルコサミンの誘導体を含む化合物およびポリフェノール類からなる群から選択される化合物を前記哺乳類に投与することによって前記哺乳類のGI管において前記アッカーマンシア・グリカニフィルス菌株の増殖を促進させるステップと、
を含む方法をさらに提供する。
【0059】
グルコサミンまたはグルコサミンの誘導体を含む化合物の非限定的な例はキチンである。ポリフェノール類は、例えば文献(Anhe FFら Gut Microbes.2016年2月 22:0.[オンラインで先行公開(Epub ahead of print)]を参照)に記載されているようにクランベリー、ブドウまたは他の植物由来製品に含まれていてもよい。
【0060】
本発明を以下の実施例によってさらに例示するが、それらに限定されない。上記考察およびこれらの実施例から、当業者は本発明の必須の特性を確認することができ、その教示および範囲から逸脱することなく、それを各種用法および条件に適用するために本発明の各種変更および修飾を行うことができる。従って、本明細書に図示および記載されているものに加えて本発明の各種修飾は、上記説明から当業者には明らかであろう。そのような修飾も添付の特許請求の範囲の範囲内であることが意図されている。
【実施例】
【0061】
材料および方法
【0062】
生物源および培養
バーガーズ動物園(Burgers’ Zoo)(オランダのアルンヘム)に収容されているアミメニシキヘビから得られた新鮮な糞から粘液溶解細菌を単離している間に、ムチン培地として先に記載したように唯一の炭素およぶエネルギー源として0.5%ムチンを含有する嫌気性基本培地を用いて菌株PytTを回収した(Derrien,Vaughan,Plugge&de Vos,2004.Int J Syst Evol Microbiol 54:1469-1476)。比較のためにアッカーマンシア・ムシニフィラMucT(CIP107961T)を使用した。ムチン培地での限界希釈(dilution to extinction)法と、それに続く、0.8%の寒天(Agar noble;Difco社)が添加されたムチン培地からなるムチンプレート上での画線培養、を用いて菌株PytTを単離した。単一のコロニーを選別し、ムチン培地で再増殖させ、純度に到達するまでムチンプレート上で画線培養した。
【0063】
遺伝子に基づく方法:系統発生解析およびゲノム解析
クローン化された16S rRNA遺伝子のヌクレオチド配列分析を行って菌株PytTの系統発生学的関係を決定した。グラム陽性DNA精製キット(Epicenter社)を用いてDNA全体を抽出し、16S rRNA遺伝子配列を汎用プライマー27Fおよび1492Rを用いるPCRによって増幅させ(Suzuki,Taylor&DeLong,2000.Appl Environ Microbiol 66:4605-4614)、ハイピュアPCRクリーンアップマイクロキット(High Pure PCR Cleanup Micro kit)(Roche Diagnostics社)を用いてPCR産物を精製した。菌株PytTのほぼ完全な16S rRNA遺伝子配列を得るために、精製したPCR産物を製造業者の説明書に従い、pGEM-T easy vector system(Promega社)を用いて大腸菌XL1-blueにおいてクローン化した。プラスミドDNAをQIAprep Spin Miniprep キット(Qiagen社)を用いて44個の形質転換体培養物から単離し、インサート隣接T7およびSP6プロモーター標的プライマー(Promega社)を用いるサンガー配列分析法(GATCによって行われる)のための鋳型として使用した。DNA Baserを用いて配列をアライメントし、そのアライメントを手で補正して配列を確実に重ね合わせた。全てのクローン化されたインサートが同一の16S rRNA遺伝子に由来していることが分かり、1439bpの配列が得られた。菌株PytTの16S rRNAおよびウェルコミクロビウム門の他のメンバーの遺伝子配列をSINAアライナー(http://www.arb-silva.de/aligner/)を用いてアライメントした(Pruesse,Peplies&Glockner,2012.Bioinformatics 28:1823-1829)。ARBを用いて系統樹を再構築した(Ludwig,Strunk,Westramら,2004.Nucleic Acids Res 32:1363-1371)。近隣結合法および最大節約法の両方を用いる距離およびクラスター形成を1000回の反復に基づくブートストラップ値を用いて決定した。
【0064】
系統発生学的位置をさらに支持し、かつそのゲノムの関係を研究するために菌株PytTの部分的ゲノム配列を決定した。上記のように単離したDNA全体を使用して、250bpのペアエンドリードおよび500bpのインサートサイズを用いるIllumina MiSeqデスクトップ型シーケンサー(Illumina MiSeq Personal Sequencer)による次世代シークエンシングに供したMiSeqライブラリーを準備した。リードはRay(k-mer101)を用いて構築した(Boisvert,Raymond,Godzaridiら,2012.Genome Biol 13:R122)。
【0065】
アノテーションは、タンパク質をコードするDNA配列(CDS)の予測のためのProdigal v2.5(Hyatt,Chen,Locascioら,2010.BMC bioinformatics 11:119)、タンパク質のアノテーションのためのInterProScan 5RC7(Hunter,Jones,Mitchellら,2012.Nucleic Acids Res 40:D306-312)、tRNAの予測のためのtRNAscan-SE v1.3.1(Lowe&Eddy,1997.Nucleic Acids Res 25:955-964)およびrRNAの予測のためのRNAmmer v1.2(Lagesen,Hallin,Rodlandら,2007.Nucleic Acids Res 35:3100-3108)からなる研究室内パイプラインを用いて行った。さらなるタンパク質機能の予測は、UniRef50(Suzek,Huang,McGarveyら,2007.Bioinformatics 23:1282-1288)およびSwissprot(UniProt-Consortium,2014)データベース(2013年8月にダウンロード)に対するBLAST同定により得た。その後に、PRIAMバージョン2013-03-06によりEC番号を追加することによってそのアノテーションをさらに向上させた(Claudel-Renard,Chevalet,Farautら,2003.Nucleic Acids Res 31:6633-6639)。非コードRNAは、RFAMデータベースのリリース11.0のrfam_scan.pl v1.04を用いて同定した(Burge,Daub,Eberhardtら,2013.Nucleic Acids Res 41:D226-232)。
【0066】
DNA-DNAハイブリダイゼーション(DDH)実験のために、菌株PytTおよびMucTの細胞を増殖させ、静止期に回収し、その後にペレットをH2O:イソプロパノール(1:1)に再懸濁した。その後、Leibniz-Institute DSM-Z(Deutsche Sammlung fur Mikroorganismen und Zellkulturen,ドイツのブラウンシュワイク)により、先に記載したようにDDH実験を行った(Cashion,Holder-Franklin,McCullyら,1977.Anal Biochem 81:461-466;Deley,Cattoir&Reynaert.A,1970.Eur J Biochem 12:133;Huss,Festl&Schleifer,1983.Syst Appl Microbiol 4:184-192)。
【0067】
菌株PytTのゲノムDNAのG+C含有量の割合は、先に記載したようにLeibniz-Institute DSMZによって決定した(Cashion,Holder-Franklin,McCully&Franklin,1977.Anal Biochem 81:461-466;Mesbah,Premachandran&Whitman,1989.Int J Syst Bacteriol 39:159-167,Tamaoka&Komagata,1984.FEMS Microbiol Lett 25:125-128)。
【0068】
表現型の特性評価:形態、生理機能および化学分類
文献(Plugge,Zoetendal&Stams,2000.Int J Syst Evol Microbiol 50 Pt 3:1155-1162)に記載されているとおりにグラム染色を行った。ムチンベースの培地において37℃で2日間増殖させた細胞を用いて、細胞形態、運動性および胞子形成を位相差顕微鏡によって監視した。墨汁懸濁液によりムチン培地において増殖させた細胞を染色することによってカプセルの存在を決定した。
【0069】
走査電子顕微鏡分析のために、細胞を、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)中において2%のグルタルアルデヒド中で室温にて2時間固定し、2%四酸化オスミウムで30~60分間後固定した。その後、細胞を段階的アルコール系列(50%、70%、96%および100%)で脱水し、最後にヘキサメチルジシラザンで処理し、アルミニウムスタブ上にマウントして白金で被覆した。その後に、細胞をFEI Quanta 250 FEG走査電子顕微鏡を用いて調べた。
【0070】
30mlの血清瓶を用いて各菌株について増殖実験を2連で行った。気相は1.5atmのN2/CO2(80:20、v/v)であった。特に明記しない限り、一般的な条件はpHが6.5、温度が37℃であった。分光光度計(Ultraspec10、Biosciences社)を用いて600nmでの光学濃度(OD600)を測定することによって増殖を監視した。Agilent Metacarb 67Hカラムを備えたThermo Electron spectrasystem HPLCを用いて短鎖脂肪酸を測定した。
【0071】
最適なpHおよび温度は、0.5%w/vの雄ブタの胃ムチン(III型、Sigma社)および0.05%w/vのシステインが添加されたブレインハートインフュージョン培地(BHI;Difco社)において2連で測定した。試験した温度は5℃間隔で10~55℃であり、0.5pH単位の間隔のpH3.5~9(HClまたはNaOHで調整)および37℃で増殖を決定した。培養物を少なくとも1ヶ月間インキュベートした。
【0072】
D-マンノース、D-グルコース、L-フコース、D-フルクトース、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、D-セロビオースでの生育を、16g/lのトリプトンおよび4g/lのトレオニンを添加した先に記載した基本培地中で10mMの濃度にて2連で試験した(Derrien,Vaughan,Plugge&de Vos,2004.Int J Syst Evol Microbiol 54:1469-1476)。16g/lのトリプトンおよび4g/lのトレオニンが添加された先に記載した基本培地(Derrien,Vaughan,Plugge&de Vos,2004.Int J Syst Evol Microbiol 54:1469-1476)を使用してAPI(登録商標)20Aに接種したという1つの変更以外は製造業者の説明書に従い、API(登録商標)20A(bioMerieux社、フランス)を用いて、D-グルコース、D-マルトース、D-ラクトース、D-マンニトール、D-サッカロース、サリシン、D-キシロース、L-アラビノース、グリセリン、D-セロビオース、D-マンノース、D-メレジトース、D-ラフィノース、D-ソルビトール、L-ラムノースおよびD-トレハロースでの生育を決定した。その後に、H2O2の3%(w/v)溶液との反応によってカタラーゼ活性を決定した。インドールおよびウレアーゼの形成ならびにゼラチンおよびエスクリンの加水分解もAPI(登録商標)20A(bioMerieux社、フランス)ストリップを用いて決定した。
【0073】
アンピシリンおよびバンコマイシン(bioMerieux社、フランスのマルシーレトワール)の両方についてEtest法を用いて抗生物質耐性を決定した。48時間のインキュベーション後に最小発育阻止濃度(MIC)を決定した。より詳細には、ムチン培地において菌株PytTを増殖させ、静止期に達した後に、100ulを0.5%(v/v)の雄ブタの胃ムチン(III型、Sigma社)および0.05%(w/v)のシステイン-HCL(Sigma-ALdrich社)が添加されたBHIプレートに播種した。プレートを偏性嫌気性条件下で24~48時間インキュベートした。グラム陰性嫌気性菌のMICを解釈するための欧州抗菌薬感受性試験法検討委員会(EUCAST:European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing)のブレイクポイント表(バージョン5.0、2015-01-01から有効)を用いて耐性レベルを決定した。
【0074】
化学分類学的特性評価のために、菌株PytTおよびMucTを増殖させ、静止期に回収し、その後に凍結乾燥した。先に記載したようにLeibniz-Institut DSMZによって細胞脂肪酸の分析を行った(Kampfer&Kroppenstedt,1996.Can J Microbiol 42:989-1005)。
【0075】
結果
【0076】
系統発生およびゲノム特性
菌株PytTの16S rRNA遺伝子ヌクレオチド配列は1437bpの連続的な配列を含んでいた。近隣結合分析後の配列類似性の計算により菌株PytTの最も近い類縁はアッカーマンシア・ムシニフィラMucT(94.4%)であることが分かった。16S rRNAの配列類似性は、97%の現在の種のカットオフ値を十分に下回っている(Tindall,Rossello-Mora,Busseら,2010.Int J Syst Evol Microbiol 60:249-266)。驚くべきことに、菌株PytTの16S rRNA遺伝子配列は海洋哺乳類のジュゴンの糞由来の非培養クローン(AB264081)に対して99.7%の類似性を示した。ルブリタレア科、アッカーマンシア科およびウェルコミクロビウム科を含むウェルコミクロビウム門に属する全ての有効に記載されている属の代表とのより低い配列類似性(90.0%未満)が認められた。
【0077】
菌株PytTはMucT基準株に対して比較的低いDDH類似性を示した(28.3%±5.2)。GC含有量は58.2モル%であることを決定した。
【0078】
菌株PytTの完全なゲノムを単一分子PacBioシークエンシングによって決定し、3,074,121bpの長さの単一の染色体からなり、GC含有量が57.6%であることが分かった。PytTゲノムは菌株MucTのゲノム(2.66Mbp)よりも400kb大きい。菌株PytTの計算したDNAのG+C含有量(%)である57.6%は実験的に決定した値(58.2%)と十分に一致しているが、菌株MucTのもの(56.0%)よりも若干高い。菌株MucTのゲノムの類似性と比較した菌株PytTのゲノムのBLAST類似性(5kb超)は82.0%であった。菌株MucTのゲノムと比較した菌株PytTのゲノムの平均的なヌクレオチド同一性(ANI)は79.7%であった。ANIはDDHを正確に置き換えることができることが示唆された(Goris,Konstantinidis,Klappenbachら,2007.Int J Syst Evol Microbiol 57:81-91)。現在のデータはウェルコミクロビウム門についてこれを確認しており、ANIおよびDDH類似性の両方が十分に70%DDHおよび95%ANIの現在の種のカットオフを下回っていることを示している。
【0079】
菌株PytTのゲノムは、そのうちの28種が分泌型であると予測されている55種のグリコシド加水分解酵素、そのうちの3種が分泌型であると予測されている5種のフコシダーゼ、およびそのうちの6種が分泌型であると予測されている7種のシアリダーゼをコードすることが予測されるため、そのムチン分解能力を反映している。ムチン糖タンパク質を分解するために、それはグリカン鎖の末端に結合させることができる硫酸基を切断する必要がある。菌株PytTはそのうちの9種が分泌型であると予測されている14種のスルファターゼをコードすることが予測される。PytTゲノムはそれが腸のムチン層の有酸素/無酸素境界において使用することができる好気呼吸の可能性を指し示すチトクロームbd型ユビキノールオキシダーゼおよびNi依存性ヒドロゲナーゼの遺伝子も含む。
【0080】
ムチングリカンは主にガラクトース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミンからなり、菌株PytTはこれらの全てを増殖基質として使用することができる。菌株アッカーマンシア・ムシニフィラMucTとは対照的に、菌株PytTはガラクトースを唯一の炭素源として使用すると共に、主にプロピオン酸塩、酢酸塩および少量のコハク酸塩を産生することができる。ガラクトースでの生育は、ムチンでの生育(16時間未満)と比較して比較的遅い(1週間超)。ゲノム予測では、菌株PytTが標準ルロワール経路酵素のガラクトキナーゼ(GalK)およびUDP-グルコース4-エピメラーゼ(GalE)のみをコードすることが示唆さした。これらは菌株MucTによってコードされることも予測される(van Passel,Kant,Zoetendal,Plugge,Derrien,Malfatti,Chain,Woyke,Palva,de Vos&Smidt,2011.Plos one 6:e16876)。但し、菌株PytTのゲノムにおいて本発明者らは、ガラクトース結合ドメインを有するタンパク質をコードすることが予測されるそのうちの7種が分泌型である8種の遺伝子を同定することができたが、菌株MucTのゲノムではできなかった。未だ不明のガラクトース代謝経路が菌株PytTにおいて機能し、これらの遺伝子がガラクトースに結合してこれを輸送するための系に関与することができるという可能性が高い。
【0081】
形態
細胞は楕円形であり、かつ非運動性であり、グラム陰性に染色される。単一細胞の長い軸は、ムチンベースの培地で増殖された場合に0.6~1.0μmである。細胞は単独、対、短鎖および凝集体で生じる。ムチンベースの寒天上で37℃で48時間増殖させた際に、菌株PytTは0.7mmの直径を有する小さい白色のコロニーを示した。SEMにより個々の細菌細胞を接続する糸状構造体の存在が明らかとなった。菌株PytTの細胞は墨汁を排除できたが、これは、カプセルを有する細菌の特徴である。
【0082】
生理機能
菌株PytTは、還元剤としてのL-システインおよび/または硫化物により増殖する偏性嫌気性菌であった。増殖は15~40℃およびpH5.0~7.5で生じ、最適な増殖は25~30℃およびpH6.0であった。菌株MucTと比較して、菌株PytTは僅かにより低い温度およびpHで増殖する(表1)。30℃のその最適な温度は菌株PytTの生息地に適するが、それはアミメニシキヘビが外温性であり、その体温を調節するために外部熱源に依存し、従ってヒトまたはその被食者となる小さい哺乳類の体温よりも低いからである(Wang,Zaar,Arvedsenら,2002.Comp Biochem Physiol A Mol Itegr Physiol 133:519-527)。アミメニシキヘビの類縁であるビルマニシキヘビでは、胃腸のpHは、空腹時は6.5(胃)~7.6(盲腸)、食後はpH2~3(胃)、7~8(食道、遠位小腸、盲腸および近位大腸)、5~6.7(遠位食道、近位胃および遠位大腸)と様々である(Secor,Boback&Lignot,2006.Integr Comp Biol 46)。これは菌株PytTの最適なpH(約6.0のpH)は遠位大腸のコロニー形成に一致し得ることを示している。
【0083】
ムチン培地において最も良く増殖し、かつムチンを炭素、エネルギーおよび窒素源として使用することができる菌株PytTは、酢酸塩、プロピオン酸塩および1,2-プロパンジオールを形成した。菌株PytTはムチン培地においてビタミン類がなくても増殖することができたが、ブレインハートインフュージョン培地で、ならびに16g/lのトリプトンおよび4g/lのトレオニンの存在下で基本培地においてN-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、D-グルコース、D-ラクトースおよびD-ガラクトースで、ゆっくりと増殖することもできた。16g/lのトリプトンおよび4g/lのトレオニンが添加された基本培地においてD-マンノース、L-フコース、D-セロビオースまたはD-フルクトースでは生育しなかった。
【0084】
16g/lのトリプトンおよび4g/lのトレオニンが添加された基本培地を含むAPI(登録商標)20A(bioMerieux社、フランス)ストリップを用いた場合、D-グルコース、D-マルトースでは菌株PytTの増殖が観察され、D-ラクトースでは弱い増殖が観察されたが、D-マンニトール、D-サッカロース、サリシン、D-キシロース、L-アラビノース、グリセリン、D-セロビオース、D-マンノース、D-メレジトース、D-ラフィノース、D-ソルビトール、L-ラムノース、D-トレハロースでは増殖は観察されなかった。カタラーゼ活性は陽性であった。インドールおよびウレアーゼ形成は陰性であり、ゼラチンおよびエスクリン加水分解は陽性であった。
【0085】
菌株PytTは、ラクトースを唯一の炭素源として使用すると共に主にプロピオン酸塩および酢酸塩を産生することができる。ラクトースでの増殖(Td:約4時間)はムチンでの増殖(Td:約1時間)よりも遅い。HPLC分析による発酵製品の定量化によりラクトースのグルコースおよびガラクトースへの最初の切断が明らかとなった。その後に、グルコースおよびガラクトースの両方が主にプロピオン酸塩および酢酸塩および少量のコハク酸塩に変換された。アミメニシキヘビは泌乳哺乳類でないため、従って菌株PytTがラクトースを増殖基質として使用することができることは予想外である。但し、ムチン糖タンパク質には数多くのβ4糖分解結合が存在する(Linden,Sutton,Karlssonら,2008.Mucosal Immunol 1:183-197)。ラクトースは、グルコースをガラクトースに結合する同様のβ4結合を有する。故に、ムチンを増殖基質として使用するために菌株PytTはこのグリカン結合を分解することができなければならず、故に菌株PytTがムチンの分解のために通常使用する同じ酵素を用いてラクトースを分解することができるということはもっともらしい。
【0086】
Etest法(bioMerieux社、フランス)を用いた分析により、菌株PytTがアンピシリン(32ug/mlの最小発育阻止濃度(MIC)値)およびバンコマイシン(24ug/mlのMIC値)に対して比較的耐性があるが、セファロスポリン系抗生物質、フルオロキノロン系抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、マクロライド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、メトロニダゾール、クロラムフェニコール、リファンピシンまたはコリスチンなどの全ての他の臨床的に関連する抗生物質に対して感受性があることが分かった。
【0087】
菌株Pyt
Tの生理学的特性評価の結果はこの種の記載の箇所にあり、ウェルコミクロビウム綱の他のメンバーと比較して表1に示されている。
【表1】
【0088】
表1-ウェルコミクロビウム科(亜科I)の他の属の代表と比較したアッカーマンシア属種の基準株の生理学的特性。文献(Hedlund,2010.Phylum XXIII.Verrucomicrobia phyl.nov.In Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology(バージェイ細菌分類便覧)第2版,Springer-Verlag,ニューヨーク)から取り出されたデータ。菌株1:アッカーマンシア・グリカノフィルス(A.glycanophilus)Pytt;菌株2:アッカーマンシア・ムシニフィラMucT;菌株3:ルブリタレア(ルブリタレア・マリナ(R.marina)、ルブリタレア・サブリ(R.sabuli)、ルブリタレア・スポンギアエ(R.spongiae)、ルブリタレア・スクアレニファシエンス(R.squalenifaciens)およびルブリタレア・タンゲリナ(R.tangerina)に基づく);菌株4:プロステコバクター(Prosthecobacter)(プロステコバクター・デボンティイ(P.debontii)、(プロステコバクター・デジョンゲイイ(P.dejongeii)、プロステコバクター・フシフォルミス(P.fusiformis)およびプロステコバクター・ヴァンネエルヴェニイ(P.vanneervenii)に基づく);菌株5:ウェルコミクロビウム(ウェルコミクロビウム・スピノスム(Verrucomicrobium spinosum)に基づく);+:陽性;-:陰性;(+):弱陽性;†:16g/lのトリプトンおよび4g/lのトレオニンの存在下;‡:種によって決まる。全ての菌株は運動性については陰性であり、ビタミン類の要求について陰性である。全ての菌株はアンピシリンに対して感受性がある。
【0089】
アッカーマンシア・グリカノフィルス新種についての記載
アッカーマンシア・グリカノフィルス(gly.ca.ni’phi.la. ラテン語(L.)中性名詞(neut.n.)「glycan」:グリカン(glycan)から派生;ラテン語(L.)名詞「philos」:~に好意的である(friendly to);オランダ語(N.L.)男性形容詞(m.adj.)グリカノフィルスはグリカンを好む(glucanophilus glycan-loving))。
【0090】
細胞は楕円形であり、かつ非運動性であり、グラム陰性に染色される。単一細胞の長い軸は、ムチンベースの培地では0.6~1.0μmである。細胞は単独、対、短鎖および凝集体で生じる。細胞は糸で覆われている。コロニーは柔らかい寒天ムチン培地において0.7mmの直径で白色に現れる。菌株PytTの細胞はカプセルを有する細菌を特徴とする墨汁を含んでいない。増殖は15~40℃およびpH5.0~7.5で生じ、最適な増殖は25~30℃およびpH6.0である。偏性嫌気性または微好気性である。胃ムチンおよびブレインハートインフュージョン培地で、ならびに16g/lのトリプトンおよび4g/lのトレオニンが添加された基本培地においてN-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、グルコース、ラクトースおよびガラクトースで、生育することができる。16g/lのトリプトンおよび4g/lのトレオニンが添加された基本培地中においてL-フコース、D-セロビオースまたはD-フルクトースでは生育しなかった。16g/lのトリプトンおよび4g/lのトレオニンが添加された同じ基本培地を含むAPI(登録商標)20A(bioMerieux社、フランス)を用いた場合、D-グルコース、D-マルトースでは増殖が観察され、D-ラクトースでは弱い増殖が観察されたが、D-マンニトール、D-サッカロース、サリシン、D-キシロース、L-アラビノース、グリセリン、D-セロビオース、D-マンノース、D-メレジトース、D-ラフィノース、D-ソルビトール、L-ラムノース、D-トレハロースでは増殖は観察されなかった。カタラーゼ活性は陽性であった。インドールおよびウレアーゼ形成は陰性であり、ゼラチンおよびエスクリン加水分解は陽性であった。ムチンを唯一の炭素、エネルギーおよび窒素源として使用することができる。増殖はビタミン類がなくても生じる。DNAのG+C含有量は58.2モル%である。主な細胞脂肪酸はアンテイソ-C15:0、C15:0およびC16:0である。オランダのヴァーヘニンゲンにおいてアミメニシキヘビの糞から単離した。基準株はPytTである(=DSM100705=CIP110913T)。