(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-20
(45)【発行日】2022-01-28
(54)【発明の名称】タンパク質のエピトープを同定するための方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20220121BHJP
C07K 2/00 20060101ALI20220121BHJP
C12N 5/0784 20100101ALI20220121BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220121BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
C07K2/00
C12N5/0784
C12P21/02 C
(21)【出願番号】P 2016534422
(86)(22)【出願日】2015-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2015070072
(87)【国際公開番号】W WO2016010002
(87)【国際公開日】2016-01-21
【審査請求日】2018-07-09
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2014144217
(32)【優先日】2014-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 智彰
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】関口 修央
【合議体】
【審判長】田村 聖子
【審判官】伊藤 良子
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-506447(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0148008(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P
A61K
CAPlus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質のエピトープを同定するための方法であって、
以下の工程:
(a’)幹細
胞を分化させて中胚葉前駆細胞を得る工程、
(b’)顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)を含む培地下で、前記中胚葉前駆細胞を分化させて単球細胞を得る工程、及び
(c’)顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びインターロイキン4(IL-4)を含む培地下で、前記単球細胞を分化させて未成熟樹状細胞を得る工程、並びに、前記未成熟樹状細胞を免疫原、及び、場合により炎症性サイトカインに接触させることで、成熟樹状細胞へと誘導する工程を含み、
前記工程(a’)~(c’)のうち、少なくとも前記工程(b’)及び(c’)において無血清培地が用いられる方法により、主要組織適合遺伝子複合体(MHC分子)を発現する樹状細胞を製造する工程;
(A)幹細
胞から分化された、前記主要組織適合遺伝子複合体(MHC分子)を発現する樹状細胞に、標的タンパク質を接触させる工程;
(B)前記MHC分子を発現する樹状細胞から、前記標的タンパク質に含まれるペプチドとMHC分子との複合体を単離する工程;及び
(C)前記複合体から、前記ペプチドを溶出し、同定する工程
を含む、方法であり、
前記幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植ES細胞(ntES細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)及び成体幹細胞からなる群から選択され、かつ、
前記MHC分子はMHCII分子であり、前記MHCII分子はHLA-DR、HLA-DQ又はHLA-DPである、
方法。
【請求項2】
さらに、以下の工程:
(D)同定したペプチドが免疫原性を誘導するエピトープであるか否かを検証する工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記MHC分子を発現する樹状細胞は、さらに、CD80、CD86、CD206及びCD209の少なくとも1つを発現している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記MHC分子を発現する樹状細胞は、CD80、CD86、CD206及びCD209の全てを発現している、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記MHC分子を発現する樹状細胞は、前記標的タンパク質を投与することが意図される対象のMHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(A)を無血清下で行う、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記樹状細胞が未成熟樹状細胞であり、前記未成熟樹状細胞は、免疫原性を有する標的タンパク質に接触することで、成熟樹状細胞に誘導される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記標的タンパク質が、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、抗体、酵素、構造タンパク質、ホルモン、及び、これらのいずれかの断片からなる群の1種又は1種以上から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
免疫原性が減少又は消失したタンパク質の製造方法であって、
以下の工程:
(1)請求項1~8のいずれか一項に記載の方法に従って、タンパク質のエピトープを同定する工程;
(2)MHC分子への結合が減少又は消失するように、前記エピトープ
のアミノ酸配列を
改変する工程;及び
(3)修飾されたエピトープを有するタンパク質を製造する工程
を含む、方法。
【請求項10】
タンパク質が対象において免疫原性を有するか否かを予測する方法であって、
(I)標的タンパク質を投与することが意図される対象のMHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する樹状細胞を提供する工程であり、
(a’)幹細
胞を分化させて中胚葉前駆細胞を得る工程、
(b’)顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)を含む培地下で、前記中胚葉前駆細胞を分化させて単球細胞を得る工程、及び
(c’)顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びインターロイキン4(IL-4)を含む培地下で、前記単球細胞を分化させて未成熟樹状細胞を得る工程、並びに、前記未成熟樹状細胞を免疫原、及び、場合により炎症性サイトカインに接触させることで、成熟樹状細胞へと誘導する工程を含み、
前記工程(a’)~(c’)のうち、少なくとも前記工程(b’)及び(c’)において無血清培地が用いられる方法により、MHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する樹状細胞を製造する工程であり、
前記幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植ES細胞(ntES細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)及び成体幹細胞からなる群から選択され、かつ、
前記MHC分子はMHCII分子であり、前記MHCII分子はHLA-DR、HLA-DQ又はHLA-DPである、
工程;
(II)前記「MHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する樹状細胞」に、標的タンパク質を接触させる工程;
(III)前記「MHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する樹状細胞」から、前記標的タンパク質に含まれるペプチドとMHC分子との複合体を単離する工程;
(IV)前記複合体から、前記ペプチドを溶出し、同定する工程;及び
(V
)同定したペプチドが免疫原性を誘導するエピトープであるか否かを検証する工程
を含み、
前記同定したペプチドが免疫原性を誘導するエピトープである場合に、前記標的タンパク質が前記対象において免疫原性を有することを指し示す、方法。
【請求項11】
前記対象が有するMHC分子のアロタイプの全てのセットが含まれるように、前記対象のMHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する樹状細胞を1又は複数提供する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記幹細胞が、前記対象に由来する人工多能性幹細胞(iPS細胞)である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
幹細
胞、又は、これから分化されたMHC分子を発現する樹状細胞の、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一態様において、免疫原性を有するタンパク質を同定するための方法等に関し、例えば、免疫原性の誘導において、原因となる役割を果たす可能性のあるエピトープを同定するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くのバイオ医薬品(抗体医薬、生物製剤、ホルモン、タンパク質等)が医療の革新に貢献している。しかしながら、例えば有効性と安全性の観点から、これらのバイオ医薬品が有する免疫原性が問題となっている。一般に、抗原が抗体の産生や細胞性免疫を誘導する性質を、免疫原性という。バイオ医薬品は抗原として作用することで、患者の体内で抗体の産生を誘導し得る。かかる場合、バイオ医薬品に対して中和抗体が産生されて治療効率が低下する場合がある。あるいは、アレルギー反応、浸出反応、インフュージョン反応等が引き起こされ得る。あるいは、バイオ医薬品に対応する、内在性の自己タンパク質の中和による自己免疫疾患等を生じさせる抗体が産生され得る。
【0003】
抗体産生のプロセスには、抗原提示細胞(APC)の細胞表面に存在する主要組織適合遺伝子複合体(MHC分子ともいう。)上に抗原が提示される(これを「抗原提示」という。)ことが重要である。抗原提示に関与するMHC分子としては、MHCI分子(クラスI)とMHCII分子(クラスII)が知られている。例えば、MHCI分子はキラーT細胞(CD8陽性T細胞)に作用し、MHCII分子はヘルパーT細胞(CD4陽性T細胞)に作用する。MHCI分子は自己の細胞内の内因性抗原に対して作用する一方で、MHCII分子は外来性の抗原に対して作用する。したがって、例えば、がん細胞内で産生されるがん抗原に対しては、MHCI分子を介した抗原提示により抗原抗体反応等が引き起こされ得る。一方、バイオ医薬品のような外来性の抗原や毒物に対しては、MHCII分子を介した抗原提示により抗原抗体反応等が引き起こされ得る。
【0004】
より具体的には、MHCI分子を介する場合、自己の細胞内の内因性タンパク質はプロテアソームによって小さいペプチドに分解される。次いで、ペプチドは小胞体で合成されたMHCI分子と結合して複合体を形成する。その後、細胞表面へと当該複合体が運ばれることで、MHCI分子上に当該ペプチドがエピトープとして提示される。
【0005】
一方、MHCII分子を介する場合、初めに、外来性のタンパク質は抗原提示細胞中にエンドサイトーシスで取り込まれる。次いで、取り込まれたタンパク質はリソソームによって小さいペプチドに分解された後、MHCII分子と結合して複合体を形成する。その後、細胞表面へと当該複合体が運ばれることで、MHCII分子上に当該ペプチドがエピトープとして提示される。次いで、ヘルパーT細胞のT細胞受容体が当該ペプチドを介して抗原提示細胞に結合できる。
【0006】
しかしながら、これらの経路は確定的なものではなく、外来性の抗原であっても、MHCI分子による抗原提示経路によって処理され得る(これを「クロスプライミング」という。)。
【0007】
抗体医薬等の免疫原性を回避するために、MHC分子上に提示されたペプチド配列を同定する研究が行われてきた。これにより、生体に投与することが意図されたタンパク質やペプチドの免疫原性を予測することが可能となる。さらに、例えば、エピトープ配列の情報を元に、非免疫原性タンパク質を製造する目的で、部位特異的突然変異によってエピトープを修飾することができる。ペプチド配列の同定方法としては、in silicoでの予測アルゴリズムを用いた方法や、T細胞増殖アッセイ(例えば、トリチウム標識チミジンの取り込みにより、ヘルパーT細胞の増殖能等を測定する)が知られている。しかしながら、例えば、エピトープの候補ペプチドとMHC分子との間の結合親和性だけから、エピトープの配列を予測することは困難であった。したがって、MHC分子上に提示されるペプチドの配列を直接同定することで、免疫原性の誘導において原因となる役割を果たす可能性のあるエピトープをより正確に予測することが望まれていた。
【0008】
樹状細胞(DC)のような抗原提示細胞にタンパク質を接触させて抗原提示を誘導し、当該細胞上のMHC分子上に当該タンパク質に由来するペプチドを提示させた後、当該MHC分子とペプチドとの複合体を分離・精製してから、ペプチドを溶出させて、液体クロマトグラフ質量分析(LC/MS)等を用いてペプチドの配列を直接同定する方法が開発されている(特許文献1、特許文献2、非特許文献1)。当該方法は、MAPPs(MHC-associated peptide proteomics)と称されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許出願公開第1715343号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1826217号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】Kropshofer, H, et al., J. Immunotoxicol., 3, 131, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一態様において、特許文献1の方法では、抗原提示細胞として、ヒトから採血して分離したヒト末梢血単核細胞(PBMC)を初代細胞とし、これからさらに分離した単球(細胞)(monocyte)を分化誘導して得た樹状細胞を利用する。しかしながら、単球はPBMC中、約10%しか存在せず、分裂回数も有限であることから、取得できる細胞数に制限がある。さらに、ドナーが異なれば、MHC分子のアロタイプも変わり得ることから、常に所望のMHC分子のアロタイプを得られるわけでもなく、MAPPsによって同定されるペプチドも変わり得る。また、患者の状態によって血中の各成分も変動することから、常に同一の条件でPBMCを単離できるわけでもない。したがって、多様なMHC分子のアロタイプを有する抗原提示細胞を複数、安定的に確保できることが求められている。
【0012】
また、別の態様において、多くの場合、単球から樹状細胞を分化誘導するには血清を添加するため、血清中のタンパク質に由来したペプチド配列も検出されてしまう恐れがあった。
【0013】
また、別の態様において、現状、PBMCを取得できる量にも制限があることから、しばしば複数のドナー由来のPBMCをプールしてバルクで使うことも多く、同定されたペプチドのうちどのペプチドがどの患者の免疫原性の誘導に関与しているのかを決定することは容易とはいえなかった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、鋭意検討の結果、幹細胞又はこれに由来する前駆細胞から分化させた、抗原提示細胞(具体的には、主要組織適合遺伝子複合体(MHC分子)を発現する細胞)をMAPPsに適用することで、驚くべきことに、上記課題の一部又は全てを解決して本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、例示として、本発明は以下の態様を提供する:
[1]タンパク質のエピトープを同定するための方法であって、
以下の工程:
(A)幹細胞又はこれに由来する前駆細胞から分化された、主要組織適合遺伝子複合体(MHC分子)を発現する細胞に、標的タンパク質を接触させる工程;
(B)前記MHC分子を発現する細胞から、前記標的タンパク質に含まれるペプチドとMHC分子との複合体を単離する工程;及び
(C)前記複合体から、前記ペプチドを溶出し、同定する工程
を含む、方法。
[2]さらに、以下の工程:
(D)同定したペプチドが免疫原性を誘導するエピトープであるか否かを検証する工程
を含む、[1]に記載の方法。
[3]前記幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植ES細胞(ntES細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)及び成体幹細胞からなる群から選択される、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記MHC分子は、MHCII分子である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]前記MHCII分子はHLA-DR、HLA-DQ又はHLA-DPである、[4]に記載の方法。
[6]前記MHC分子を発現する細胞は、さらに、CD80、CD86、CD206及びCD209の少なくとも1つを発現している、[1]~[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7]前記MHC分子を発現する細胞は、CD80、CD86、CD206及びCD209の全てを発現している、[6]に記載の方法。
[8]前記MHC分子を発現する細胞は、樹状細胞である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の方法。
[9]前記MHC分子を発現する細胞は、前記標的タンパク質を投与することが意図される対象のMHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する、[1]~[8]のいずれか一項に記載の方法。
[10]前記工程(A)を無血清下で行う、[1]~[9]のいずれか一項に記載の方法。
[11]前記樹状細胞は、
以下の工程:
(a)幹細胞又はこれに由来する前駆細胞を分化させて中胚葉前駆細胞を得る工程;
(b)前記中胚葉前駆細胞を分化させて単球細胞を得る工程;及び
(c)前記単球細胞を分化させて未成熟樹状細胞を得、及び場合により、前記未成熟樹状細胞をさらに刺激して成熟樹状細胞を得る工程
を含む方法によって製造され、
さらに、前記工程(a)~(c)のうち、少なくとも前記工程(c)において無血清培地が用いられる、[1]~[10]のいずれか一項に記載の方法。
[12]前記工程(b)が、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)を含む無血清培地下で、前記中胚葉前駆細胞を分化させて単球細胞を得る工程を含む、[11]に記載の方法。
[13]前記工程(c)が、
(c1)顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びインターロイキン4(IL-4)を含む無血清培地下で、前記単球細胞を分化させて未成熟樹状細胞を得る工程を含み、及び場合により、
(c2)前記未成熟樹状細胞を免疫原、及び、場合により炎症性サイトカインに接触させることで、成熟樹状細胞へと誘導する工程を含む、[11]又は[12]に記載の方法。
[14]前記樹状細胞が未成熟樹状細胞であり、前記未成熟樹状細胞は、免疫原性を有する標的タンパク質に接触することで、成熟樹状細胞に誘導される、[8]~[13]のいずれか一項に記載の方法。
[15]前記標的タンパク質が、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、抗体、酵素、構造タンパク質、ホルモン、及び、これらのいずれかの断片からなる群の1種又は1種以上から選択される、[1]~[14]のいずれか一項に記載の方法。
[16]免疫原性が減少又は消失したタンパク質の製造方法であって、
以下の工程:
(1)[1]~[15]のいずれか一項に記載の方法に従って、タンパク質のエピトープを同定する工程;
(2)MHC分子への結合が減少又は消失するように、前記エピトープを修飾する工程;及び
(3)修飾されたエピトープを有するタンパク質を製造する工程
を含む、方法。
[17][16]に記載の方法に従って得られうる、タンパク質。
[18]タンパク質が対象において免疫原性を有するか否かを予測する方法であって、
(I)標的タンパク質を投与することが意図される対象のMHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する細胞を提供する工程であって、前記細胞は幹細胞又はこれに由来する前駆細胞から分化されることを特徴とする、工程;
(II)前記「MHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する細胞」に、標的タンパク質を接触させる工程;
(III)前記「MHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する細胞」から、前記標的タンパク質に含まれるペプチドとMHC分子との複合体を単離する工程;
(IV)前記複合体から、前記ペプチドを溶出し、同定する工程;及び
(V)場合により、同定したペプチドが免疫原性を誘導するエピトープであるか否かを検証する工程
を含み、
前記同定したペプチドが免疫原性を誘導するエピトープである場合に、前記標的タンパク質が前記対象において免疫原性を有することを指し示す、方法。
[19]前記対象が有するMHC分子のアロタイプの全てのセットが含まれるように、前記対象のMHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する細胞を1又は複数提供する、[18]に記載の方法。
[20]前記幹細胞が、前記対象に由来する人工多能性幹細胞(iPS細胞)である、[18]又は[19]に記載の方法。
[21]タンパク質を有効成分として含む、対象における、前記タンパク質に関連した疾患の治療及び/又は予防用組成物であって、
前記対象は、[18]~[20]のいずれか一項に記載の方法に従って、前記タンパク質に免疫原性を有さないことが予測された対象から選択されることを特徴とする、組成物。
[22]幹細胞もしくはこれに由来する前駆細胞、又は、これから分化されたMHC分子を発現する細胞の、[1]~[16]及び[18]~[20]のいずれか一項に記載の方法における使用。
[23]幹細胞又はこれに由来する前駆細胞から樹状細胞を製造する方法であって、
以下の工程:
(a’)幹細胞又はこれに由来する前駆細胞を分化させて中胚葉前駆細胞を得る工程;
(b’)顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)を含む無血清培地下で、前記中胚葉前駆細胞を分化させて単球細胞を得る工程;及び
(c’)無血清培地下で、前記単球細胞を分化させて未成熟樹状細胞を得、及び場合により、前記未成熟樹状細胞をさらに刺激して成熟樹状細胞を得る工程
を含む、方法。
[24]前記工程(c’)が、
(c1’)顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びインターロイキン4(IL-4)を含む無血清培地下で、前記単球細胞を分化させて未成熟樹状細胞を得る工程を含み、及び場合により、
(c2’)前記未成熟樹状細胞を、免疫原、及び、場合により炎症性サイトカインに接触させることで、成熟樹状細胞へと誘導する工程を含む、
[23]に記載の方法。
[25][23]又は[24]に記載の方法によって得られうる、樹状細胞。
[26]MHCII分子に加えて、さらに、CD80、CD86、CD206及びCD209の少なくとも1つを発現している、[25]に記載の樹状細胞。
[27]CD80、CD86、CD206及びCD209の全てを発現している、[26]に記載の樹状細胞。
[28][25]~[27]のいずれかに記載の樹状細胞を含む、細胞組成物。
[29]また、上記に記載の1又は複数の態様を任意に組み合わせたものも、当業者の技術常識に基づいて技術的に矛盾しない限り、本発明に含まれることが当業者には当然に理解される。
【発明の効果】
【0016】
一態様において、例えば、異なるMHC分子のアロタイプを発現する幹細胞を複数用意することにより、多様なMHC分子のアロタイプを有する抗原提示細胞を安定的に確保することが可能となり、従来では容易にはなし得なかった、患者が有するMHC分子のアロタイプの1又は複数、好ましくは全てを発現する、1又は複数の抗原提示細胞を提供して、所望のタンパク質が患者において免疫原性を有するか否かを予測する、複合的な解析が可能となる。
【0017】
別の態様において、MAPPs用の抗原提示細胞の出発材料として、PBMCを出発材料とする系と比較して、幹細胞又はこれに由来する前駆細胞を出発材料として用いる本発明では、より高感度であることが示唆される。
【0018】
別の態様において、幹細胞は細胞分裂回数に制限がなく、増殖・維持の方法が確立されていることから、必要なMHC分子のアロタイプを発現する抗原提示細胞を大量かつ安定的に製造・供給することが可能であり、製造コスト、簡便性の観点からも優れている。
【0019】
別の態様において、幹細胞からの抗原提示細胞への分化の過程で無血清培地を用いることにより、血清中のタンパク質に由来するペプチド配列を検出する可能性を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】MAPPs(MHC-associated peptide proteomics)技術のうち、MHCII分子を用いた場合の技術の概要の一例を示す。図中、DCは樹状細胞を指す。
【
図2】ヒトiPS細胞を分化させて樹状細胞様細胞を得るスキームの一例を示す。
【
図3A】フローサイトメーター解析により得られたTic lineから作製した単球様細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。
【
図3B】フローサイトメーター解析により得られたTic lineから作製した単球様細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。
【
図4A】フローサイトメーター解析により得られた201B7 lineから作製した単球様細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。
【
図4B】フローサイトメーター解析により得られた201B7 lineから作製した単球様細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。
【
図5A】フローサイトメーター解析により得られたTic lineから作製した樹状細胞様細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。
【
図5B】フローサイトメーター解析により得られたTic lineから作製した樹状細胞様細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。
【
図6A】フローサイトメーター解析により得られた201B7 lineから作製した樹状細胞様細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。
【
図6B】フローサイトメーター解析により得られた201B7 lineから作製した樹状細胞様細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。
【
図7】ヒトiPS細胞(Tic line)由来の樹状細胞様細胞を用いたMAPPsでの、Bet v1aに暴露した場合に検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果(
図7(a))、及び、Bet v1a無処置条件で検出された、Bet v1aに暴露した場合にも検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果(
図7(b))を示す。Bet v1aのアミノ酸配列を併せて示す。Bet v1aのアミノ酸配列中、大きく分けて、4か所に対応する箇所でペプチドが検出された。
【
図8】ヒトiPS細胞(201B7 line)由来の樹状細胞様細胞を用いたMAPPsでの、Bet v1aに暴露した場合に検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果(
図8(a))、及び、Bet v1a無処置条件で検出された、Bet v1aに暴露した場合にも検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果(
図8(b))を示す。Bet v1aのアミノ酸配列を併せて示す。Bet v1aのアミノ酸配列中、大きく分けて、3か所に対応する箇所でペプチドが検出された。
【
図9A】ヒトiPS細胞(Tic line)由来の樹状細胞様細胞を用いたMAPPsでの、Infliximabに暴露した場合に検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果(a)を示す。InfliximabのH鎖及びL鎖のアミノ酸配列をそれぞれ併せて示す。
【
図9B】ヒトiPS細胞(Tic line)由来の樹状細胞様細胞を用いたMAPPsでの、Infliximab無処置条件で検出された、Infliximabに暴露した場合にも検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果(b)を示す。InfliximabのH鎖及びL鎖のアミノ酸配列をそれぞれ併せて示す。
【
図10A】ヒトiPS細胞(Tic line)由来の樹状細胞様細胞を用いたMAPPsでの、recombinant human Factor VIIIに暴露した場合に検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す。
【
図11】ヒトiPS細胞(Tic line)由来の樹状細胞様細胞を用いたMAPPsでの、Phl p1に暴露した場合に検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す。
【
図12】フローサイトメーター解析により得られた単球細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。
【
図13A】フローサイトメーター解析により得られた樹状細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。
【
図13B】フローサイトメーター解析により得られた樹状細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。
【
図14】ヒトドナーのPBMC由来樹状細胞を用いたMAPPsでの、Bet v1a添加条件及び非添加条件(対照)で検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す。
【
図15】ヒトドナーのPBMC由来樹状細胞を用いたMAPPsでの、Bet v1a添加条件及び非添加条件(対照)で検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す。
【
図16】ヒトドナーのPBMC由来樹状細胞を用いたMAPPsでの、Bet v1a添加条件及び非添加条件(対照)で検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す。
【
図17】ヒトドナーのPBMC由来樹状細胞を用いたMAPPsでの、Bet v1a添加条件及び非添加条件(対照)で検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す。
【
図18】ヒトドナーのPBMC由来樹状細胞を用いたMAPPsでの、Bet v1a添加条件及び非添加条件(対照)で検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す。
【
図19】ヒトドナーのPBMC由来樹状細胞を用いたMAPPsでの、Bet v1a添加条件及び非添加条件(対照)で検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す。
【
図20】ヒトドナーのPBMC由来樹状細胞を用いたMAPPsでの、Bet v1a添加条件及び非添加条件(対照)で検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す。
【
図21A】Bet v1a添加条件において検出されたペプチドのアミノ酸配列について、ヒトiPS細胞由来の樹状細胞様細胞を用いた場合とPBMC由来の樹状細胞を用いた場合との比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0022】
本明細書中、タンパク質とは、例えば、天然のタンパク質、組換えタンパク質又はアミノ酸同士を人工的に結合して調製された合成ペプチドであってよい。タンパク質は、1種のタンパク質、又は複数の異なるタンパク質の混合物であってもよいと理解される。タンパク質は非天然アミノ酸を含んでもよい。また、例えば生体内で産生される際にグリコシル化されていてもよい。タンパク質は、動物(好ましくはヒト)の治療又は予防に関連したタンパク質(例えば、抗体、ホルモン等)であるのが好ましい。一実施態様において、タンパク質は、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、抗体、酵素、構造タンパク質、ホルモン、及び、これらのいずれかの断片からなる群の1種以上、好ましくは1種から選択されてよい。
【0023】
タンパク質は、細胞に取り込まれて分解された後に、あるいは、細胞に取り込まれたものの分解されずに、あるいは、細胞内で生成後に分解された後に、MHC分子と複合体を形成して抗原提示されるのであれば、当該タンパク質のアミノ酸配列の長さは特に問題とならない。当該タンパク質は、MHC分子と複合体を形成して抗原提示されるペプチドそのものであってもよい。
【0024】
本明細書中、エピトープとは、抗体が認識して結合する抗原の特定の構造単位を指す。エピトープは抗原性のための最小単位であり、抗原決定基(antigenic determinant)とも呼ばれる。
【0025】
本明細書中、分化とは、本来は単一もしくは同一であった個々の細胞又は細胞集団などが構造及び/又は機能的に変化することで、複雑化したり、異質化していく状態又は態様などを指してよい。例えば、分化は、分化誘導と互換的に用いられてもよく、分化誘導が開始された状態や分化誘導が継続されている状態、分化誘導が終了した状態などが含まれるが、さらに、分化誘導が終了した細胞又は細胞集団が増殖している状態なども当然に包含することが理解される。なお、誘導とは、ある細胞又は細胞集団などが構造及び/又は機能的に別の細胞又は細胞集団などへ分化を促す働きかけを意味してよく、分化を達成できるのであれば特に限定されない。
【0026】
本明細書中、幹細胞とは、多能性幹細胞を意味し、分化多能性と自己複製能を有する細胞であれば特に限定されない。幹細胞としては、例えば、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植ES細胞(ntES細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、成体幹細胞が挙げられる(WO2012/115276)。これらの幹細胞は哺乳動物に由来するのが好ましく、ヒトに由来するのがより好ましい。
【0027】
ES細胞は、受精卵の8細胞期、桑実胚後の胚である胚盤胞の内部細胞塊などに由来する胚由来の幹細胞である。ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができ、その樹立及び維持方法は公知である(例えば、US Patent No.5,843,780等)。ES細胞の選択は、例えば、アルカリホスファターゼ、OCT-3/4、NANOG等の遺伝子マーカーの発現を指標にしてReal-Time PCR法で行ってよい。特に、ヒトES細胞の選択では、OCT-3/4、NANOG、FBX15、FGF4、REX1、ECADなどの遺伝子マーカーの発現を指標としてよい(E. Kroon et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 443-452)。
一態様において、ヒトになり得る受精卵や胚を破壊する事に対して生じ得る倫理的問題から、ヒトES細胞を作製する際に用いる胚としては、例えば、体外受精による不妊治療において母体に戻されなかった凍結保存されている胚のうち、破棄されることが決定した余剰胚を利用したり、体外受精プロセスで得られる発生過程が停止してしまった胚を利用したり、あるいは、それ自体でヒトへと成長する内在的能力を備えない、細胞分裂と成長が単為生殖に基づく未授精卵を利用してもよい。あるいは、胚盤胞期以前の卵割期の胚の単一割球のみを用いて、胚の発生能を損なうことなく、受精卵を破壊せずにES細胞を作製してもよい(Chung Y, Klimanskaya I, Becker S, Marh J, Lu SJ, Johnson J, Meisner L, Lanza R. (2006). Nature 439: 216-219.;Klimanskaya I, Chung Y, Becker S, Lu SJ, Lanza R. (2006). Nature 444: 481-485.;Chung Y, Klimanskaya I, Becker S, Li T, Maserati M, Lu SJ, Zdravkovic T, Ilic D, Genbacev O, Fisher S, Krtolica A, Lanza R. (2008). Cell Stem Cell 2: 113-117.)。あるいは、発生が停止したヒトの胚からES細胞を作製してもよい(Zhang X, Stojkovic P, Przyborski S, Cooke M, Armstrong L, Lako M, Stojkovic M. (2006). Stem Cells 24: 2669-2676.)。
【0028】
iPS細胞は、特定の初期化因子を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製能を有する、体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126: 663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131: 861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318: 1917-1920; Nakagawa, M. et al., Nat. Biotechnol. 26: 101-106 (2008); WO2007/069666)。(ここで、体細胞とは、生殖系列細胞、多能性幹細胞を除くあらゆる動物細胞(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物細胞)を指してよい。)
初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-cording RNA、又は、ES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-cording RNA、あるいは低分子化合物であってもよい。初期化因子として、例えば、OCT3/4、SOX2、SOX1、SOX3、SOX15、SOX17、KLF4、KLF2、c-MYC、N-MYC、L-MYC、NANOG、LIN28、FBX15、ERAS、ECAT15-2、TCLL、beta-catenin、LIN28B、SALL1、SALL4、ESRRB、NR5A2、TBX3を挙げてもよい。これらの初期化因子は、単独又は組み合わせて用いてもよい。初期化因子の組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせを挙げることができる。
(i)OCT遺伝子、KLF遺伝子、SOX遺伝子、MYC遺伝子;
(ii)OCT遺伝子、SOX遺伝子、NANOG遺伝子、LIN28遺伝子;
(iii)OCT遺伝子、KLF遺伝子、SOX遺伝子、MYC遺伝子、hTERT遺伝子、SV40 large T遺伝子;
(iv)OCT遺伝子、KLF遺伝子、SOX遺伝子
あるいは、初期化因子の組み合わせとしては、例えば、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO2010/111409、WO2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、WO2012/115276に記載の組み合わせを用いてもよい。初期化因子又は初期化を促進する因子としては、例えば、当業者に公知の阻害剤である、MEK阻害剤、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、p53阻害剤を挙げてもよい。初期化因子は、場合によりベクター(例えば、ウイルスベクター、プラスミドベクター、人工染色体ベクター)等を用いて、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法等の当業者に公知の方法に従って体細胞内に導入してよい。iPS細胞誘導のための培地としては、例えば、10~15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12又はDME培地(これらは白血病抑制因子(LIF)、penicillin/streptomycin、puromycin、L-glutamine、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノール等をさらに適宜含んでよい。)、又は、当業者に公知の市販の培地を適宜用いてもよい。
【0029】
iPS細胞の培養は、培地の組成等に応じて適宜設定してよい。例えば、37℃、5%CO2存在下で、10%FBS含有DMEM又はDMEM/F12培地を用いて、体細胞と初期化因子とを接触させ約4~7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞(例えば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞)上に撒き直し、体細胞と初期化因子の接触から約10日後に、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含有させたPrimate ES細胞培養用培地で培養し、当該接触から約30~約45日又はそれ以降にiPS様コロニーを生じさせてもよい。あるいは、37℃、5%CO2存在下で、フィーダー細胞(例えば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞)上で10%FBS含有DMEM培地(これらはLIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノール等をさらに適宜含んでよい。)で培養し、約25~約30日又はそれ以降にiPS様コロニーを生じさせてもよい。フィーダー細胞の代わりに、初期化される体細胞そのものを用いるか、細胞外基質やマトリゲル(BD社)を用いてもよい。また、無血清培地を用いて培養してもよい(Sun N, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106: 15720-15725)。
【0030】
iPS細胞の選択は、形成されたコロニーの形状(例えば、球状に近い形状を示す細胞塊が得られるか)により選択してもよい。あるいは、体細胞が初期化された場合に発現する遺伝子(例えば、アルカリホスファターゼ、OCT3/4、NANOG)と連動して発現する薬剤耐性遺伝子をマーカー遺伝子として導入した場合は、対応する薬剤を含む培地で培養を行うことにより、樹立したiPS細胞を選択することができる。マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合には蛍光顕微鏡で観察することによってもiPS細胞を選択することができる。あるいは、公知の分化方法により細胞をin vitroで培養して、所望の細胞に分化できることを指標としてiPS細胞と判定してもよい。あるいは、細胞を免疫不全マウスの皮下に移植し、所定の期間経過後に形成される腫瘍組織を解析して、様々な組織が混在する奇形腫(テラトーマ)が形成されることを確認してiPS細胞であると判定してもよい。あるいは、ES細胞で特異的に発現しているマーカー遺伝子が発現していることを確認してiPS細胞であると判定してもよい。あるいは、ゲノムワイドな遺伝子の発現パターンをマイクロアレイ等で検出し、ES細胞の発現パターンと相関の高い細胞をiPS細胞と判定してもよい。
【0031】
あるいは、樹立されたiPS細胞の分譲を受けて使用してもよい。
【0032】
ntES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している(T. Wakayama et al. (2001), Science, 292: 740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72: 932-936; J. Byrne et al. (2007), Nature, 450: 497-502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がntES細胞である。ntES細胞の作製のためには、公知の核移植技術(例えば、J.B. Cibelli et al. (1998), Nature Biotechnol., 16:642-646)と、公知のES細胞作製技術とを組み合わせてよい(若山清香ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊), 47~52頁)。核移植では、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで初期化してよい。
【0033】
EG細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞である(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70: 841-847)。LIF、bFGF、Stem Cell Factor(STF)等の存在下で、始原生殖細胞を培養することによって樹立してもよい(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70: 841-847)。
【0034】
成体幹細胞は、生体内に見られる最終分化していない細胞であり、最終分化細胞への前駆細胞の供給源として存在する。成体幹細胞は生体内の各組織に存在し、通常は分化できる細胞の種類が限定されている。本発明において、成体幹細胞の例としては、単球、マクロファージ、樹状細胞等に分化できると考えられる、造血幹細胞が特に好ましい。なお、造血前駆細胞は、造血幹細胞から分化した細胞を指す。
【0035】
本明細書中、幹細胞に由来する前駆細胞とは、幹細胞を分化させて抗原提示細胞(具体的には、MHC分子を発現する細胞)を得る過程で観察されるあらゆる細胞(例えば、中胚葉前駆細胞、造血前駆細胞、顆粒球・マクロファージコロニー形成細胞、リンパ芽球、単芽球、前単球又は単球)を含んでよい。ここで、ほとんど全ての有核細胞はMHCI分子を有し(Peter Parham (2007), エッセンシャル免疫学; The Human Protein Atlas, http://www.proteinatlas.org/)、自己の細胞内の内因性タンパク質をMHCI分子を介してキラーT細胞に抗原提示できる。一方、特定の細胞はMHCI分子以外にMHCII分子を有しており、MHCII分子を介して外来性抗原をヘルパーT細胞に提示することができる(プロフェッショナル抗原提示細胞とも呼ばれる。)。
【0036】
本明細書中、抗原提示細胞は、これら両方の細胞のタイプを含んでよい。抗原提示細胞が後者のタイプの場合には、例えば、樹状細胞、マクロファージ、単球、B細胞が好ましくは挙げられる。さらに、インターフェロン等のサイトカインにより活性化されてMHCII分子が誘導されると、甲状腺濾胞細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞等は抗原提示細胞としても働くことから、これらの細胞も後者のタイプとして挙げてもよい。抗原提示細胞(具体的には、MHC分子を発現する細胞、例えば、樹状細胞、マクロファージ、単球、B細胞。)としての特性を有しているかの判定基準としては、例えば、MHCI分子及び/又はMHCII分子を発現している細胞を指標としてもよく、さらに、CD11a、CD11b、CD11c、CD14、CD15、CD40、CD80、CD83、CD86、CD123、CD205、CD206、CD209、CCR7の少なくとも1つ以上を発現している細胞を指標とするのがより好ましい。
また、特に、樹状細胞は抗原提示能が強く、ヘルパーT細胞の活性化能が強いことから、抗原提示細胞として有利である。また、抗原提示細胞としては、未成熟樹状細胞が最も好ましい。樹状細胞は、細胞突起を有し、樹状又は樹枝状の形態を呈する細胞である。樹状細胞としての特性を有しているかの判定基準としては、例えば、MHCII分子に加えて、CD11b、CD11c、CD40、CD80、CD83、CD86、CD123、CD205、CD206、CD209、CCR7の少なくとも1つをさらに発現しているかを指標としてもよく、MHCII分子、CD80、CD86、CD206、CD209の全てを発現しているかを指標とするのがより好ましい。MHCII分子、CD80、CD86、CD206、CD209の全てを発現していて、かつ、CD14陰性の樹状細胞がさらに好ましい。マクロファージ細胞としての特性を有しているかの判定基準としては、例えば、MHCII分子に加えて、CD11bをさらに発現しているかを指標としてもよい。なお、CD80及びCD86は、ヘルパーT細胞にシグナルを伝達して当該細胞を活性化させることで知られる。本実施例で得られた樹状細胞様細胞は、細胞の形状、細胞表面分子の発現、ヘルパーT細胞刺激能力という点で単球に由来する樹状細胞と類似した性質を有することから、本明細書における樹状細胞に含まれてよい。同様に、本実施例で得られた単球様細胞は、本明細書における単球細胞に含まれてよい。
【0037】
抗原提示細胞は、哺乳動物に由来するのが好ましく、ヒトに由来するのがより好ましい。
【0038】
本明細書中、MHC分子は、MHCI分子又はMHCII分子のいずれであってもよいが、MHCII分子がより好ましい。ヒトのMHCはヒト白血球型抗原(HLA)と呼ばれる。MHCI分子はさらに古典的クラスI分子(クラスIa)と非古典的クラスI分子(クラスIb)に分けられる。古典的クラスI分子としては、ヒトではHLA-A、HLA-B、HLA-Cが挙げられ、非古典的クラスI分子としては、ヒトではHLA-E、HLA-F、HLA-Gが挙げられる。一方、MHCII分子としては、ヒトでは、HLA-DR、HLA-DQ、HLA-DPが挙げられる。
【0039】
MHC分子は同種動物間であっても個体のアミノ酸配列に若干相違があり、アロタイプと呼ばれるさらなるいくつかのタイプに分けられる。例えば、HLA-DRであれば、DR1、DR2、DR3、DR4・・・と多数のアロタイプが知られている。それぞれのアロタイプはMHC遺伝子上で互いに連鎖しているため、この領域に遺伝子組換えが生じない限り、これらは組となって親から子へと遺伝する。この単位はハロタイプと呼ばれる。患者由来の幹細胞(例えばiPS細胞)では、継代・分化させても、基本的に、患者のMHC遺伝子配列がそのまま保持されることから、当該幹細胞を分化させて得た抗原提示細胞では、患者が有するMHC分子のアロタイプが維持されることになる。
【0040】
それぞれのアロタイプは、それぞれ、異なる抗原ペプチド断片(エピトープ)と複合体を形成して、細胞表面にエピトープを提示し得ることから、アロタイプのセットごとに、言い換えれば、当該アロタイプのセットを有する患者ごとに、標的タンパク質に対する免疫原性や副作用等の有無や程度が変わってくる。アロタイプやハプロタイプは、人種、民族に特徴的なパターンを有することから、人種、民族ごとの、標的タンパク質への免疫原性や副作用等の有無の解析等に利用できる。
【0041】
したがって、一定の集団(人種、民族等)に対するタンパク質の免疫原性を予測するために、当該集団のMHC分子のアロタイプを有する、一連の抗原提示細胞を使用するのが有利である。
【0042】
さらに、個人が有するアロタイプは、遺伝子診断(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅させたDNAを、プローブが固定されたビーズとハイブリダイズさせ、その蛍光強度を数値化してデータ解析を行ってHLA遺伝子型を特定する、HLA遺伝子型解析法)等によって簡便に特定できるため、特定したアロタイプの情報に基づいて、標的タンパク質に対して免疫原性や副作用等を有するかどうかを決定できる。遺伝子診断法のその他の具体例としては、例えばInternational Journal of Immunogenetics, 2011; 38:6, pp.463-473に記載の方法が挙げられる。
【0043】
したがって、好ましい一実施態様において、抗原提示細胞は、標的タンパク質を投与することが意図される対象(例えば哺乳動物、好ましくはヒト)のMHC分子の1又は複数のアロタイプを発現してよい。
【0044】
好ましい一態様において、本発明における幹細胞又はこれに由来する前駆細胞としては、解析を意図している対象(例えば、ヒト患者やヒト健常者)が有するMHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する細胞を用いてよく、例えば、前記対象が有するMHC分子のアロタイプの全てのセットが含まれるように、前記対象のMHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する細胞を1又は複数用いてもよい。あるいは、解析を意図している人種、民族において発現頻度が高いMHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する細胞を揃えてよく、例えば、このような細胞を複数揃えることにより、前記人種、民族のうち、一定の割合(例えば30%~80%以上)の人口をカバーして免疫原性を解析してもよい。適宜、例えば、ヒト患者同士、ヒト患者とヒト健常者、ヒト健常者同士等を比較解析するのが有利である。
【0045】
本発明において、幹細胞又はこれに由来する前駆細胞を抗原提示細胞へと分化させる方法としては、当業者に公知の方法であれば特に限定されない。例えば、ES細胞やiPS細胞等の幹細胞を単球、マクロファージ、B細胞、又は樹状細胞等に分化させる方法としては、WO2009/120891;WO2009/074341;Regen. Med. (2009) 4(4), p.513-526; WO2012/115276; WO2012/043651; PLoS One, July 2011, Vol.6, Issue7, e22261; Gene Therapy (2011), 1-1024 March 2011, doi:10.1038/gt.2011.22; 科学技術進行機構 CREST 戦略的創造研究推進事業 人工多能性幹細胞 (iPS細胞) 作製・制御等の医療基盤技術でのH20-23研究報告; International Journal of Cancer 2013 Jul 3. doi: 10.1002/ijc.28367; Zhuang, L. et al. J. Immunol. Methods (2012); PLoS One, April 2013, Vol.8, Issue4, e59243; NATURE IMMUNOLOGY Vol.5, No.4, 2004, pp.410-417に記載される方法を用いてもよい。例えば、Regen. Med. (2009) 4(4), p.513-526には、無血清培地下でのヒトES細胞からの樹状細胞へのin vitro分化誘導法が開示されている。当該方法では、Bone Morphogenetic Protein-4(BMP-4)、Granulocyte Macrophage-Colony Stimulating Factor(GM-CSF)、Stem Cell Factor(SCF)、及びVascular Endothelial Growth Factor(VEGF)を用いて、ヒトES細胞を単球へと分化させ;次いで、当該単球を、さらに、GM-CSF及びInterleukin-4(IL-4)を用いて、未成熟樹状細胞へと分化させ;さらに、当該未成熟樹状細胞を、GM-MSF、TNF-α、Interleukin-1β(IL-1β)、Interferon-γ(IFN-γ)、及びPGE2からなる成熟化カクテル(maturation cocktail)を用いて、成熟樹状細胞へと分化させる方法が開示されている。また、PLoS One, April 2013, Vol.8, Issue4, e59243には、ES細胞及びiPS細胞から分化された単球に基づいて、機能的なマクロファージ及び樹状細胞が得られたことが開示されている。さらに、NATURE IMMUNOLOGY Vol.5, No.4, 2004, pp.410-417には、ES細胞からT細胞を作製する方法が主題として記載されているが、その作製の過程でB細胞も作製できたことが開示されている(例えば当該文献中、p.411の右欄第2段落~p.412の左欄第2段落;Fig.1)。
【0046】
このように、幹細胞を抗原提示細胞(MHC分子を発現する細胞)に分化する技術それ自体については関連技術が報告されている。しかしながら、これらの文献はいずれも、再生医療や免疫療法への利用を目的としてきたものであり、タンパク質のエピトープ配列解析への応用を意図したものではない。
【0047】
本発明において、幹細胞又はこれに由来する前駆細胞を抗原提示細胞へと分化させる具体的な方法としては、好ましくは、WO2012/115276を参照してよい。当該方法は、例えば、抗原提示細胞が樹状細胞の場合には、幹細胞又はこれに由来する前駆細胞を提供する工程に続いて、以下の工程:
(a)幹細胞又はこれに由来する前駆細胞を分化させて中胚葉前駆細胞を得る工程;
(b)前記中胚葉前駆細胞を分化させて単球細胞を得る工程;及び
(c)前記単球細胞を分化させて未成熟樹状細胞を得、及び場合により、前記未成熟樹状細胞をさらに刺激して成熟樹状細胞を得る工程
を含んでよい。また、前記工程(a)及び前記工程(b)は連続して行うことができる。さらに、前記工程(a)~(c)のうち、少なくとも前記工程(c)において無血清培地が用いられてよく、前記工程(b)と(c)の両方で無血清培地が用いられることが好ましく、前記工程(a)~(c)の全てで無血清培地が用いられることがより好ましい。
【0048】
前記血清とは、ヒト血清、サル血清、ウシ胎児血清、羊血清、ウサギ血清、ラット血清、モルモット血清、マウス血清等の哺乳動物由来の血清を指してよい。
【0049】
前記無血清培地とは、血清が添加されておらず、かつ、B-27等の市販の血清代替物が添加されていない培地を指し、好ましくは、アルブミンもしくはアルブミン代替物、トランスフェリンもしくはトランスフェリン代替物、インシュリンもしくはインシュリン代替物、及び、亜セレン酸の少なくとも1つを含有した培地であってよい。より好ましくは、Insulin-Transferrin-Selenium-X Supplement(ITS)を含有した培地であってよい。好ましい無血清培地としては、例えば、最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、StemPro-34 medium(Life Tech)、Stemline II(SIGMA)又はPrimate ES cell medium(ReproCELL)等へITSを添加した培地が挙げられる。
【0050】
前記工程(a)は、幹細胞又はこれに由来する前駆細胞を、BMPファミリータンパク質を含有する培地で培養し、次いで、増殖因子及び造血因子を含有する培地で培養するか、VEGFを含有する培地で培養した後に造血因子を含有する培地で培養することにより、中胚葉前駆細胞を得る工程を含んでよい。また、前記工程(b)は、造血因子を含有する培地で培養して、前記中胚葉前駆細胞を分化させて単球細胞を得る工程を含んでよい。前記工程(a)及び前記工程(b)は連続して行うことができる。
【0051】
前記BMPファミリータンパク質とは、TGF-βスーパーファミリーに属する、約20種類のサブタイプを有するサイトカインを指してよい。本発明において好ましいBMPファミリータンパク質は、BMP2及び/又はBMP4であり、さらに好ましくはBMP4である。
【0052】
前記増殖因子は、好ましくはVEGFであってよく、具体的には、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、PlGF(placental growth factor)-1、PlGF-2又はこれらの選択的スプライシングバリアント(例えば、VEGF-Aでは121個、165個、189個又は206個のアミノ酸から成るバリアントが知られている。)であってよい。本発明において好ましいVEGFはVEGF-Aである。さらに、前記増殖因子は、VEGFに加えて、bFGFを含んでもよい。
【0053】
前記造血因子は、血球の分化・増殖を促進する因子であり、例えば、Stem Cell Factor(SCF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン(IL)類又はFlt3-ligandであってよい。前記インターロイキン類としては、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、又はIL-9等であってよい。
【0054】
前記工程(b)において好ましい造血因子は、SCF、TPO、IL-3、Flt3-ligand、GM-CSF及びM-CSFから成る群から選択されてよい。造血因子は、単独でも組み合わせて用いてもよい。
【0055】
より好ましくは、増殖因子としてVEGFと造血因子としてSCFとを組み合わせて用いて前記工程(a)を行った後に、続けて、造血因子としてGM-CSFとM-CSFの組み合わせを用いて前記工程(b)を行ってよい。前記工程(b)では、培地を数日おき(例えば3~4日おき)に交換して培養するのが好ましい。
【0056】
前記工程(b)により非接着性細胞(単球細胞(様細胞))を得たら、前記工程(c)における単球として用いてよい。前記非接着性細胞が単球細胞の特性を有するかについては、例えばフローサイトメトリー等を用いて、MHCII分子の発現に加えて、単球細胞のマーカーであるCD14、CD45hi、CD11a、CD11b又はCD15等の発現を指標として判定できる。また、樹状細胞への誘導効率を向上させる観点から、例えば、非接着性細胞からCD14陽性細胞のみを、磁気ビーズ法等を用いて分離することにより、樹状細胞への誘導に用いる単球の細胞割合を高めることができる。
【0057】
前記工程(c)は、さらに、
(ci)造血因子を含む培地で前記単球を(浮遊)培養し、分化させることで未成熟樹状細胞(様細胞)を得る工程を含み、及び場合により、
(cii)得られた未成熟樹状細胞(様細胞)を、さらに、免疫原、及び、場合により炎症性サイトカインに接触させることで、成熟樹状細胞(様細胞)へと誘導する工程
を含んでよい。
【0058】
前記未成熟樹状細胞様細胞又は成熟樹状細胞様細胞が樹状細胞の特性を有するかについては、例えばフローサイトメトリー等を用いて、MHCII分子の発現に加えて、樹状細胞のマーカーであるCD11b、CD11c、CD40、CD80、CD83、CD86、CD123、CD205、CD206、CD209、CCR7の少なくとも1つをさらに発現しているかを指標としてもよい。さらに、樹状細胞が未成熟樹状細胞の特性を有するか、それとも、成熟樹状細胞の特性を有するかについては、例えば、MHCII分子(HLA-DR等)の発現変動等を指標にして検証することができる。
【0059】
前記造血因子は、上述の因子であってもよい。好ましくは、造血因子としては、GM-CSF、IL-3及びIL-4の組み合わせや、GM-CSF及びIL-4の組み合わせを用いてよい。
【0060】
前記免疫原及び前記炎症性サイトカインは、未成熟樹状細胞に接触すると、当該細胞を刺激(pulse)することにより、成熟樹状細胞へと誘導できる。未成熟樹状細胞は、抗原貪食能は高いが抗原提示能は低い一方で、抗原の生体内への侵入等により成熟樹状細胞へと成熟し、抗原提示に必要なMHCII分子等のタンパク質の発現を増強させて、抗原提示能を向上させることができる。
【0061】
前記免疫原は、生体内に導入されたときに免疫応答を引き起こす任意の物質であってよく、例えば、リポ多糖(LPS、病原体に存在する)が挙げられる。本発明において、評価しようとするタンパク質が免疫原性を有する場合、当該タンパク質は免疫原として作用できることが当業者には理解できる。したがって、好ましい一実施態様において、前記未成熟樹状細胞は、免疫原性を有する標的タンパク質に接触することで、成熟樹状細胞に誘導される。
【0062】
前記炎症性サイトカインは、例えば、Tumor Necrosis Factor-α(TNF-α)、TNF-β、IL-12、又はIFN-γであってよい。前記免疫原及び前記炎症性サイトカインは、適宜、単独又は組み合わせて用いてもよい。
【0063】
なお、抗原提示細胞として、樹状細胞の代わりにマクロファージを得たい場合には、PLoS One, April 2013, Vol.8, Issue4, e59243に記載の方法に準じて、前記工程(c)の代わりに、下記の工程:
(d)前記単球細胞を分化させてマクロファージを得る工程
を行ってもよい。かかる場合、造血因子として好ましくはGM-CSF又はM-CSFを用いて、前記単球細胞をマクロファージへと分化させることができる。さらに、例えばIFN-γ又はLPSを添加することによりM1マクロファージへと分化させることができ、あるいは、例えばIL-4又はIL-13を添加することによりM2マクロファージへと分化させることができる(マクロファージはヘルパーT細胞の産生するサイトカインを受け取ることにより活性化することが知られており、古典的活性化(M1マクロファージ)と選択的活性化(M2マクロファージ)が知られている。)。
【0064】
前述の各工程で用いる増殖因子、造血因子、サイトカイン等の各濃度は、目的の抗原提示細胞が得られる濃度であればよく、当業者は適宜決定できる。BMP4の濃度は、例えば、5~150ng/mlでもよく、10~100ng/mlがより好ましく、20~80ng/mlがさらに好ましい。VEGFの濃度は、例えば、20~100ng/mlでもよく、30~70ng/mlがより好ましく、40~50ng/mlがさらに好ましい。bFGFの濃度は、例えば、10~100ng/mlでもよく、20~50ng/mlがより好ましい。SCFの濃度は、例えば、20~100ng/mlでもよく、30~70ng/mlがより好ましく、40~50ng/mlがさらに好ましい。IL-3の濃度は、例えば、5~100ng/mlでもよく、30~70ng/mlがより好ましい。TPOの濃度は、例えば、1~25ng/mlでもよく、1~10ng/mlがより好ましい。Flt3-ligandの濃度は、例えば、10~100ng/mlでもよく、30~70ng/mlがより好ましい。GM-CSFの濃度は、例えば、5~250ng/mlでもよく、50~200ng/mlがより好ましい。M-CSFの濃度は、例えば、5~100ng/mlでもよく、30~70ng/mlがより好ましい。IL-4の濃度は、例えば、3~100ng/mlでもよく、10~70ng/mlがより好ましい。TNF-αの濃度は、例えば、0.05~50ng/mlでもよく、0.1~20ng/mlがより好ましい。LPSの場合は、例えば、0.01~100μg/mlでもよく、0.1~10μg/mlがより好ましい。これらの増殖因子、造血因子、サイトカイン等を、目的に応じて、適宜、組み合わせて使用してもよく、最適の濃度を当業者は適宜決定できる。
【0065】
また、評価しようとする(標的)タンパク質の濃度は、目的に応じて、例えば、当該タンパク質のエピトープを同定できる濃度であればよく、あるいは、当該タンパク質が対象(例えば哺乳動物、好ましくはヒト)において免疫原性を有するか否かを評価できる濃度であればよく、あるいは、未成熟樹状細胞を刺激して成熟樹状細胞へと誘導できる濃度であればよく、当業者はその濃度を適宜決定できる。そのような濃度としては、例えば0.01~1000μg/mlであってもよく、0.1~100μg/mlがより好ましい。
【0066】
目的の抗原提示細胞が得られるように、当業者は、細胞に添加する因子の種類や組み合わせも考慮して、適宜、各工程の期間を最適化できる。前記工程(a)の期間は、例えば、2日以上であってよく、2~10日が好ましく、5~8日がより好ましい。前記工程(b)の期間は、例えば、1日以上であってよく、20~200日が好ましく、50~150日がより好ましい。前記工程(c)のうち、前記工程(ci)の期間は、例えば、1日以上であってよく、1~10日が好ましく、4~6日がより好ましい。前記工程(cii)の期間は、例えば、12時間以上であってよく、12~36時間が好ましく、24時間(1日)がより好ましい。前記工程(d)の期間は、例えば、1日以上であってよく、1~20日が好ましく、例えば5~15日目に、マクロファージをさらにM1マクロファージ又はM2マクロファージへと分化させてもよい。しかしながら、当業者は、各培養条件を考慮して、適宜、最適の培養期間を決定できることは言うまでもない。
【0067】
また、本発明は、前記工程(a)~(c)を含む、幹細胞又はこれに由来する前駆細胞から(in vitroで)樹状細胞を製造する方法、及び、当該方法によって得られたか、得られうる樹状細胞に関してよい。すなわち、当該方法で製造された樹状細胞は、MHCII分子のみならず、ヘルパーT細胞の共刺激分子であるCD80、CD86を発現し、かつ、糖鎖レセプターであるCD206、CD209を発現することから、ヘルパーT細胞活性化能及びウイルス等への抵抗性を有することが示唆された。当該方法で得られる樹状細胞を用いた、タンパク質のエピトープの配列解析は、免疫原性の低いタンパク質の開発に寄与する他、自己免疫疾患やウイルス等に対する抗原提示細胞の研究にも優れた材料になることが期待される。
【0068】
すなわち、本発明は、さらに、別の態様として、例えば、以下の態様を提供する:
[23]幹細胞又はこれに由来する前駆細胞から(in vitroで)樹状細胞を製造する方法であって、以下の工程:
(a’)幹細胞又はこれに由来する前駆細胞を分化させて中胚葉前駆細胞を得る工程;
(b’)顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)を含む無血清培地下で、前記中胚葉前駆細胞を分化させて単球細胞を得る工程;及び
(c’)無血清培地下で、前記単球細胞を分化させて未成熟樹状細胞を得、及び場合により、前記未成熟樹状細胞をさらに刺激して成熟樹状細胞を得る工程
を含む、方法。
[24]前記工程(c’)が、
(c1’)顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びインターロイキン4(IL-4)を含む無血清培地下で、前記単球細胞を分化させて未成熟樹状細胞を得る工程を含み、及び場合により、
(c2’)前記未成熟樹状細胞を、免疫原、及び、場合により炎症性サイトカインに接触させることで、成熟樹状細胞へと誘導する工程を含む、
[23]に記載の方法。
[25][23]又は[24]に記載の方法によって得られうる、樹状細胞。
[26]MHCII分子に加えて、さらに、CD80、CD86、CD206及びCD209の少なくとも1つを発現している、[25]に記載の樹状細胞。
[27]CD80、CD86、CD206及びCD209の全てを発現している、[26]に記載の樹状細胞。
[28][25]~[27]のいずれかに記載の樹状細胞を含む、細胞組成物。
【0069】
前記樹状細胞又は前記細胞組成物は、感染症又は悪性腫瘍に対する免疫細胞療法を行うため、又は、自己免疫疾患や臓器移植に伴う拒絶反応等を治療する目的で、免疫応答の制御に用いるための、細胞医薬として用いてよい。当該細胞医薬は、樹状細胞を安定的に保持することを目的として、助剤、例えば培地等を適宜組み合わせて用いてよい。
【0070】
また、本発明は、一態様において、タンパク質のエピトープを同定するための方法であって、以下の工程:
(A)幹細胞又はこれに由来する前駆細胞から分化された、主要組織適合遺伝子複合体(MHC分子)を発現する細胞に、標的タンパク質を接触させる工程;
(B)前記MHC分子を発現する細胞から、前記標的タンパク質に含まれるペプチドとMHC分子との複合体を単離する工程;及び
(C)前記複合体から、前記ペプチドを溶出し、同定する工程
を含む、方法に関する。さらに、当該方法は、以下の工程:
(D)同定したペプチドが免疫原性を誘導するエピトープであるか否かを検証する工程
を含んでよい。当該方法は、全行程をin vitroで実施できる。
【0071】
なお、血清中のタンパク質に由来したペプチドのアミノ酸配列の検出を避けるために、前記工程(A)は無血清下で行うのが好ましい。
【0072】
前記タンパク質のエピトープを同定するための方法を用いて、例えば、異なるタンパク質間、異なるタンパク質製剤間、又は異なるバイオ医薬品間における、免疫原性(又は抗原性)の程度の比較を行うことも可能となる。さらに、製造したタンパク質の品質管理にも利用することができる。
【0073】
本発明において、例えば、100ng MHC分子を得るために必要な、MHC分子を発現する細胞の細胞量は、細胞数、MHC分子の発現強度、発現の程度に依存し得、当業者は、適宜最適な細胞量を決定できる。
【0074】
MHCII分子の各アロタイプ(例えば、HLA-DQ1)は、約500~1000個の異なるペプチド断片を保持できる(Chicz R M et al., J Exp. Med. 1993, 178, 27-47; Chicz R M & Urban R G, Immunol. Today, 1993, 15, 155-160)。しかしながら、これらの異なるペプチドの大部分は、非常に低いコピー数にしか達しないので、生体内において、生理学的役割を果たす可能性はあまり高くない。一方、免疫原性に関与し、例えばヘルパーT細胞を活性化するペプチド断片は、中程度~高いコピー数に達する(Latek R R & Unanue E R, Immunol. Rev. 1999, 172: 209-228)。これらの中程度~高いコピー数のペプチドは、MHCII分子から溶出されるペプチドの総量の約40~50%を占め、約10~200個の個々のペプチドに相当し得る。
【0075】
MHCII分子と複合体を形成するペプチド断片の多くは、T細胞受容体による認識に不可欠な約10~13の共通コア配列を共有する、2~5個のC末-及びN末がトランケートされたバリアントとして提示される(Rudensky AY et al, Nature 1992, 359, 429-431; Chicz et al. Nature 1992, 358: 764-768)。これらのバリアントは同じエピトープを構成する。これは、重要な、異なるエピトープの数が実際にはより小さく、例えば、約5~70個の範囲にあることを意味する。
【0076】
前記ペプチドは、標的タンパク質(のアミノ酸配列)に由来し、抗原提示細胞(具体的には、MHC分子を発現する細胞)の表面上のMHC分子と複合体を形成できるペプチドである。当該ペプチドは、細胞内又は細胞外のMHC分子と結合していてもよい。MHCII分子の各アロタイプは、多様なペプチドと複合体を形成することができ、溶出される各ペプチドの配列決定に必要なペプチド量は、例えば、フェムトモル量のみでよい。本発明の方法により、例えば、約0.1~5μgのMHC分子から、およそフェムトモル量の、当該分子に結合したペプチド断片を単離でき、かつ、当該ペプチドの配列を同定することが可能である。
【0077】
抗原提示細胞からMHC分子と前記ペプチドとの複合体を単離するために、当該細胞の細胞膜を可溶化してよい。当該溶解は、当業者に公知の方法、例えば、凍結融解、界面活性剤の使用、又はこれらを組み合わせて実施してよい。界面活性剤としては、例えば、Triton X-100(TX100)、Nonidet P-40(NP-40)、Tween20、Tween80、n-オクチルグルコシド、ZWITTERGENT、Lubrol、又はCHAPSを用いてよい。細胞細片及び核は、遠心分離によって、可溶化されたMHC分子-ペプチド複合体を含む細胞溶解物から除去する。
【0078】
可溶化されたMHC分子-ペプチド複合体を含む細胞溶解物に免疫沈降又は免疫アフィニティークロマトグラフィーを行って、MHC分子-ペプチド複合体を精製してもよい。免疫沈降又は免疫アフィニティークロマトグラフィー用に、MHC分子に特異的で、かつ、これらの方法に適した抗体(抗MHCI分子抗体、例えば、抗HLA-A抗体、抗HLA-B抗体、抗HLA-C抗体、若しくは、抗HLA-ABC抗体等;あるいは、抗MHCII分子抗体、好ましくは、抗HLA-DR抗体、抗HLA-DQ抗体又は抗HLA-DP抗体)を用いてよい。当該特異的抗体はモノクローナル抗体であることが好ましく、共有結合又は非共有結合的に、例えばプロテインAを介して、ビーズ(例えばセファロースビーズ又はアガロースビーズ)に結合させてもよい。例えば、CNBr-activatedセファロースに対して、抗体のアミノ基を共有結合で結合させて固層化させてもよい。当該モノクローナル抗体は市販品を購入してもよく、又は、プロテインA-もしくはプロテインG-アフィニティークロマトグラフィーを使用して、対応するそれぞれのハイブリドーマ細胞の上清から精製してもよい。
【0079】
MHC分子の免疫分離(immunoisolation)は、例えば、抗体-ビーズを細胞溶解物とともに数時間回転しながらインキュベートして行ってもよい。また、MHC分子-ペプチド複合体が結合した抗体-ビーズの洗浄は、エッペンドルフチューブ内で行ってもよい。免疫沈降の結果は、変性したMHC分子を認識する抗体を使用して、SDS-PAGE及びウエスタンブロッティング法によって解析してもよい。
【0080】
MHC分子と複合体を形成していたペプチドを溶出することにより、標的タンパク質に由来し、抗原提示細胞によって分解されたペプチドの混合物が得られる。
【0081】
当該ペプチドは、当業者に公知の方法によって、例えば、希釈した酸、例えば希釈したアセトニトリル(Jardetzky T S et al., Nature 1991 353, 326-329)、希釈した酢酸及び加熱(Rudensky A Y et al., Nature 1991, 353, 622-626; Chicz R M et al, Nature 1992, 358, 764-768)、又は、希釈したトリフルオロ酢酸(Kropshofer H et al., J Exp Med 1992, 175, 1799-1803)を使用することによって溶出してもよい。ペプチドを、希釈したトリフルオロ酢酸で、例えば37℃で、溶出するのが好ましい。
【0082】
MHC分子-ペプチド複合体からペプチドを溶出する前に、残留する界面活性剤を除去するために、水又は低塩緩衝液で洗浄してもよい。低塩緩衝液は、0.5~10mMの濃度のTris緩衝液、リン酸緩衝液、又は酢酸緩衝液を用いてもよい。あるいは、MHC分子-ペプチド複合体は、HPLC用の超高純度水で洗浄してよい。当該洗浄は限外濾過によって行ってもよい。限外濾過は、例えば、30kD、20kD、10kD、又は5kDのカットオフ値及び0.5~1.0mlのチューブ体積を有する限外濾過チューブ内で行ってもよい。限外濾過チューブ内の洗浄は、MHC分子-ペプチド複合体を保持するビーズの体積の数十倍の体積で、例えば、4~12回行ってよい。
【0083】
この限外濾過チューブを使用して、MHC分子-ペプチド複合体からペプチドを溶出してもよい。次いで、溶出したペプチドを凍結乾燥又は遠心エバポレーターによって乾燥してもよい。
【0084】
溶出したペプチドの混合物を、液体クロマトグラフ質量分析(LC/MS)を利用して、分画し、配列解析することで、各ペプチド(のアミノ酸配列)を同定してよい。
【0085】
配列解析により、ペプチド混合物中の各ペプチドのアミノ酸配列が、フェムトモル量のペプチドを配列決定するのに十分な公知の方法によって明らかにできる。
【0086】
同定により、ペプチドが由来するタンパク質、及び、当該タンパク質におけるどの配列に当該ペプチドが由来するのかが明らかになる。
【0087】
溶出したペプチドの混合物は、例えば、逆相クロマトグラフィーと陰イオン交換クロマトグラフィーもしくは陽イオン交換クロマトグラフィーとを組み合わせて、あるいは逆相クロマトグラフィー単独で分画するのが好ましい。分画は、質量分析計のナノフローエレクトロスプレー供与源に、又は、MALDI解析用プレート上に画分をスポットするマイクロ分画装置のいずれかに接続された、fused-silica micro-capillary columnを利用するHPLCモードで行ってもよい。
【0088】
質量分析技法としては、エレクトロスプレーイオン化タンデム型質量分析(ESI-MS)又はMALDI-post source decay(PSD)MSを用いてよく、ESI-MSが好ましい。
【0089】
各ペプチドのアミノ酸配列解析は、当業者に公知の種々の手段を用いて決定してよい。配列解析は、例えばMASCOTアルゴリズム又はSEQUESTアルゴリズムを使用した、ペプチド断片スペクトルのコンピューター解析によって行ってよい。これらのアルゴリズムは、実験的及び理論的に作製されたタンデム質量スペクトルの相互相関解析を行うために、タンパク質及びヌクレオチド配列データベースを使用するのが好ましい。これにより、自動化ハイスループット配列解析が可能になる。
【0090】
溶出によって得られる全ペプチドの定性分析のために、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析(MALDI-TOF)を行ってもよい。MALDI-TOF解析により、ペプチド混合物の複雑性及び主要なペプチドの存在に関する大まかな概要が提供され得る。
【0091】
MHC分子との複合体から溶出されるそれぞれの単一ペプチドの量を推定するために、マイクロキャピラリーカラムの通過物を、214nmの検出波長にて、UV検出器を用いて解析してもよい。解析しようとするペプチドのピーク面積を、段階的な量の標準ペプチド(対照)のピーク面積と比較して、ペプチドの量を推定してもよい。
【0092】
MHC分子からペプチドを溶出することより、標的タンパク質に由来し、抗原提示細胞中で天然に断片化された、ペプチドのセットが得られる。偽陽性のペプチドを同定し、排除するために、標的タンパク質に暴露した抗原提示細胞のセットに加えて、陰性対照として、標的タンパク質に暴露させない抗原提示細胞のセットを用意して、比較解析することが好ましい。標的タンパク質に暴露させない抗原提示細胞と比較して、標的タンパク質に暴露した抗原提示細胞でのみ検出できたペプチドは、ペプチドが由来するタンパク質のエピトープとして機能し、抗原性があると同定してもよい。
【0093】
同定されたペプチドは、MHC結合モチーフ、MHC結合能、又はヘルパーT細胞による認識等を指標として、エピトープとして機能するか否かを検証することができる。あるいは、in silicoのエピトープ予測アルゴリズムを適宜組み合わせてもよい。
【0094】
MHC結合モチーフは、MHC分子と安定的な複合体を形成するために必要な、特定のMHC分子(対立遺伝子多型)と結合するペプチドに共通の構造的特徴を意味する。MHCII分子の場合、ペプチド長は12~18アミノ酸と様々であり、ペプチド結合溝の両端が開放されているためにより長いペプチドでさえも結合できる。多くのMHCII分子は、結合に関連した最大4個の残基(「アンカー残基」と称される)を、9量体のコア領域(nonameric core region)に含まれる相対的位置:P1、P4、P6、及びP9において収容できる。しかしながら、このコア領域は、ペプチドのN末端からの距離が変動し得る。多くの場合、2~4個のN末端残基がコア領域の前にある。したがって、P1アンカー残基は、MHCII分子と複合体を形成できる多くのペプチドの位置3、4、又は5に位置する。例えば、HLA-DR分子から溶出されるペプチドは、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、又はバリンのような、疎水性P1アンカーを共有し得る。アンカー残基の位置及び種類は、頻出するMHC分子のペプチド結合モチーフから推定できる。ペプチド配列のモチーフ検証が可能なコンピューターアルゴリズムは、例えば、「Tepitope」(www.vaccinome.com、J. Hammer, Nutley、USA)より入手できる。
【0095】
MHC結合能は、検出されたペプチド自身(例えば、合成ペプチドを利用してよい)と所望のMHC分子を用いて、当業者に公知の方法で検証してもよい(Kropshofer H et al., J. Exp. Med. 1992, 175, 1799-1803; Vogt A B et al., J. Immunol. 1994, 153, 1665-1673; Sloan V S et al., Nature 1995, 375, 802-806)。あるいは、MHC分子を発現する細胞株とビオチン化されたペプチドを利用する細胞結合アッセイ法を使用して、MHC結合能を検証してもよい(Arndt S O et al, EMBO J., 2000, 19, 1241-1251)。ペプチドのMHCへの相対結合能は、標識したレポーターペプチドの結合を50%まで減少させるために必要な濃度(IC50)を測定することで決定してよい。なお、ペプチドとしては、同定された各ペプチドを用いてもよいし、あるいは、同定されたペプチドに共通する配列(コア配列)を有するペプチドを用いてもよい。なお、検出されるペプチドは、MHC分子のアロタイプの種類やMHC分子に対する結合親和性の強さ等に依存すると考えられる。
【0096】
ヘルパーT細胞を刺激する能力は、同定したペプチドがエピトープとして機能するかを検証するうえで特に重要である。同定したペプチドがヘルパーT細胞を刺激する場合には、当該ペプチドが免疫原性を有すると判定する指標の1つとしてもよい。当該判定方法としては、本発明の方法によって同定されるペプチドがヘルパーT細胞を活性化する能力があるかを試験してもよい。なお、ペプチドとしては、同定された各ペプチドを用いてもよいし、あるいは、同定されたペプチドに共通する配列(コア配列)を有するペプチドを用いてもよい。
【0097】
ヘルパーT細胞の細胞応答は、当業者に公知の様々なin vitroの方法によって測定してよい。例えば、評価したいペプチドの存在下で、ヘルパーT細胞とともにMHC分子を発現する細胞(例えば、単球、マクロファージ、又は樹状細胞等)を培養して、ヘルパーT細胞の細胞増殖を指標として、DNA複製の際に放射性物質で標識したチミジン(T)が取り込まれるかを測定してもよい。あるいは、チミジンの代わりに5-bromo-2'-deoxyuridine (BrdU)を用いてもよく、かかる場合、BrdUをDNA複製の際に取り込んだヘルパーT細胞を、BrdUに対するモノクローナル抗体で処理した後、次いで、酵素もしくは蛍光標識された二次抗体を使用して、BrdUの取込量を測定してもよい(例えば、5-Bromo-2’-deoxyuridine Labeling & Detection Kit III, Roch-Biochem,Cat No.1 444 611)。あるいは、ヘルパーT細胞の増殖により蛍光色素ラベル5,6-carboxyfluorescein diacetate succinimidyl ester(CFSE)が希釈されることを指標とする、フローサイトメトリー法を用いるNaive Primary T cell Assay(Proimmune)で測定してもよい。あるいは、細胞増殖を測定する代わりに、ヘルパーT細胞から産生される各種サイトカインを測定することで、ヘルパーT細胞の細胞応答を評価してもよい。そのようなサイトカインとしては、例えば、IL-2、IL-4、IL-6、IL-10、IL-12、IFN-γ、又はTransforming growth factor-β(TGF-β)が挙げられる。サイトカインの測定法としては、当業者に公知の種々の方法、例えば、ELISA又はELISPOT等が挙げられる。
【0098】
MHC分子を発現する細胞としては、好ましくは、本発明において、前述したように、幹細胞又はこれに由来する前駆細胞から樹状細胞を製造する方法によって製造される樹状細胞を用いてよい。MHC分子を発現する細胞は、アッセイの前に、例えば電離放射線又はマイトマイシンCで処理することによって非増殖性にしてもよい。
【0099】
また、本発明は、別の態様において、免疫原性が減少又は消失したタンパク質の製造方法であって、以下の工程:
(1)上述の方法に従って、タンパク質のエピトープを同定する工程;
(2)MHC分子への結合が減少又は消失するように、前記エピトープを修飾する工程;及び
(3)修飾されたエピトープを有するタンパク質を製造する工程
を含む、方法に関する。また、本発明は、さらなる別の態様において、前記製造方法に従って得られた(obtained)タンパク質、又は得られ得る(obtainable)タンパク質にも関する。「得られ得る(obtainable)タンパク質」とは、前記製造方法を用いれば得ることが可能なタンパク質を意味してよい。
【0100】
前記工程(2)に関連して、エピトープが同定されたペプチドは、MHC分子への結合が減少又は消失するように、あるいは、免疫原性を減少又は消失できるように、エピトープのアミノ酸配列を改変又は修飾することができる。免疫原性の減少又は消失は、当業者に公知の方法であれば特に限定はされないが、例えば、上述した、MHC結合モチーフ、MHC結合能、又はヘルパーT細胞による認識等を指標として決定してもよい。あるいは、in silicoのエピトープ予測アルゴリズムを適宜組み合わせてもよい。
【0101】
当該改変又は修飾は、当業者に公知の方法に従って行ってよい。例えば、エピトープを含むタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNAヌクレオチド配列において、DNA配列の所望の1又は複数のヌクレオチドを、例えば部位特異的変異導入法や相同組換え法を用いて、挿入、置換、又は欠失等させてもよい。例えば、MHC分子に対する結合に重要な1又は複数のアンカー残基を他のアミノ酸残基に変更し、これにより免疫原性を減少又は消失できるのが好ましい。あるいは、例えば、ヘルパーT細胞のT細胞受容体、又はB細胞のB細胞受容体等によるエピトープの認識に重要なアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に変更してもよい。MHC分子に対する結合に重要なアンカー残基を交換するための方法は、当業者に周知である。例えば、アラニン、プロリン、グリシン又は荷電アミノ酸残基で、HLA-DR1拘束性T細胞エピトープのP1アンカーを置換してもよい(Kropshofer et al., EMBO J. 15, 1996, 6144-6154)。
【0102】
前記工程(3)に関連して、修飾されたエピトープを有するタンパク質は、化学合成してもよく、又は、遺伝的もしくは生物学的に合成してもよい。遺伝的又は生物学的に合成する場合、修飾されたエピトープを有するタンパク質の遺伝子を一過性又は永続的に保持する、宿主細胞や動物を利用してもよい。宿主細胞や動物は、例えば、タンパク質の製造や発現のための産生系として使用することができる。宿主細胞としては、真核細胞又は原核細胞を用いてよい。
【0103】
宿主細胞として使用できる真核細胞としては、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞が挙げられる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(Puck et al., (1958) J. Exp. Med. 108(6): 945-956)、COS、HEK293、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero等、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle et al., Nature (1981) 291: 338-340)、及び、昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5が例示される。動物細胞において、大量発現を目的とする場合にはCHO細胞が好ましい。宿主細胞への、修飾されたエピトープを有するタンパク質の遺伝子を有するベクターを、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(Boehringer Mannheim製)を用いた方法、エレクトロポレーション法、又はリポフェクション等の方法により導入してよい。植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞及びウキクサ(Lemna minor)がタンパク質生産系として知られており、これらの細胞をカルス培養する方法によりタンパク質を産生させてもよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属の細胞(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)等)、又は糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属の細胞(アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等)を用いたタンパク質発現系を用いてよい。原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系を用いてもよい。細菌細胞としては、例えば、大腸菌(E.coli)、枯草菌を用いてもよい。
【0104】
動物としては、例えば、遺伝子組換動物又はトランスジェニック動物が挙げられ、動物の種類としては、限定はされないが、例えばウシ、ヒツジ、マウス等を用いてもよい。かかる場合、例えば、乳などの体液中にタンパク質を分泌させたものを回収してもよい。
【0105】
本発明において、修飾されたエピトープを有するタンパク質は、継続的に、又は、商業的に大量生産してもよい。生産されたタンパク質、又は、当該タンパク質を含む組成物(例えば、医薬組成物)も、本発明に含まれる。
【0106】
また、本発明は、別の態様において、タンパク質が対象において免疫原性を有するか否かを予測する方法であって、
(I)標的タンパク質を投与することが意図される対象のMHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する細胞を提供する工程であって、前記細胞は幹細胞又はこれに由来する前駆細胞から分化されることを特徴とする、工程;
(II)前記「MHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する細胞」に、標的タンパク質を接触させる工程;
(III)前記「MHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する細胞」から、前記標的タンパク質に含まれるペプチドとMHC分子との複合体を単離する工程;
(IV)前記複合体から、前記ペプチドを溶出し、同定する工程;及び
(V)場合により、同定したペプチドが免疫原性を誘導するエピトープであるか否かを検証する工程
を含み、
前記同定したペプチドが免疫原性を誘導するエピトープである場合に、前記標的タンパク質が前記対象において免疫原性を有することを指し示す、方法に関する。
【0107】
前記予測方法は、本明細書において上述に説明した1又は複数の技術的特徴を適宜組み合わせて実施できることが当業者には理解できる。
【0108】
前記予測方法は、所定のタンパク質に対する、MHC分子の各アロタイプ又はアロタイプのセットに基づいた、免疫原性の有無又は程度の比較も可能とする。
【0109】
前記予測方法は、さらに、前記対象が有するMHC分子のアロタイプの全てのセットが含まれるように、前記対象のMHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する細胞を1又は複数提供することが好ましい。前記幹細胞は、前記対象(例えば哺乳動物、好ましくはヒト)に由来する幹細胞(例えばiPS細胞やES細胞)であればなお好ましい。これは、幹細胞を分化させた抗原提示細胞では、MHC分子のアロタイプが維持されることから、前記対象由来の幹細胞を用いることにより、当該対象が有するMHC分子のアロタイプのセットを全て備えた抗原提示細胞を製造し得ることに基づく。当該抗原提示細胞を用いることにより、個々の対象(例えば、ヒト患者や健常人)において標的タンパク質が免疫原性を有するか否かを個別に評価することも可能となる(個別化医療の実現)。言い換えれば、当該予測方法は、免疫原性を有する対象(例えば患者)の選択方法、又は、免疫原性を有しない対象(例えば患者)の選択方法にも関する。あるいは、当該予測方法は、MHC分子の1又は複数の特定のアロタイプが、投与を意図するタンパク質との関係で免疫原性に関与することを指し示す方法にも関する。
【0110】
MHC分子のアロタイプ(ヒトにおいては、HLA遺伝子型)を規定する遺伝子は同一個体の体細胞のほぼすべてに維持されていると考えられている。したがって、前記対象(例えば哺乳動物、好ましくはヒト)に由来する幹細胞(例えばiPS細胞やES細胞)は、MHC分子のアロタイプが維持される限り、前記対象のあらゆる体細胞等から作製されてもよい。体細胞の例としては特に限定はされないが、例えば、ヒト等から分離したPBMCからiPS細胞を作製することもできる。そのような報告としては、例えば、Soares FA, Pedersen RA, Vallier L., Generation of Human Induced Pluripotent Stem Cells from Peripheral Blood Mononuclear Cells Using Sendai Virus, Methods Mol Biol. 2015 Feb 17; Quintana-Bustamante O, Segovia JC., Generation of Patient-Specific induced Pluripotent Stem Cell from Peripheral Blood Mononuclear Cells by Sendai Reprogramming Vectors, Methods Mol Biol. 2014 Dec 19; Su RJ, Neises A, Zhang XB., Generation of iPS Cells from Human Peripheral Blood Mononuclear Cells Using Episomal Vectors, Methods Mol Biol. 2014 Nov 18; Riedel M, Jou CJ, Lai S, Lux RL, Moreno AP, Spitzer KW, Christians E, Tristani-Firouzi M, Benjamin IJ., Functional and pharmacological analysis of cardiomyocytes differentiated from human peripheral blood mononuclear-derived pluripotent stem cells, Stem Cell Reports. 2014 May 29;3(1):131-41.が挙げられる。また、iPS細胞などの幹細胞から樹状細胞等の抗原提示細胞を樹立する方法は、本明細書で挙げたように多数の方法が報告されている。したがって、当業者であれば、例えば、所定の対象(例えばヒト患者)から分離したPBMC等の細胞からiPS細胞などの幹細胞を作製した後に、当該幹細胞を用いて樹状細胞等の抗原提示細胞を樹立することで、前記予測方法に当該細胞を利用できることを当然に理解できる。この際、iPS細胞などの幹細胞の作製に用いる前記対象由来の細胞としては、MHC分子のアロタイプ(ヒトにおいては、HLA遺伝子型)を特定することができる細胞か、MHC分子のアロタイプがあらかじめ判明している(又は予測されている)細胞であってもよい。あるいは、MHC分子のアロタイプが既に判明している(又は予測されている)iPS細胞を用いてよい。
【0111】
本発明は、さらなる別の態様において、タンパク質を有効成分として含む、対象における、前記タンパク質に関連した疾患の治療及び/又は予防用組成物であって、前記対象は、前述の予測方法に従って、前記タンパク質に免疫原性を有さないことが予測された対象(のみ)から選択されることを特徴とする、組成物に関する。当該「治療及び/又は予防用組成物」は、治療及び/又は予防に有効な量のタンパク質を含むのが好ましく、当業者はタンパク質の有効量を適宜決定できる。また、当該「治療及び/又は予防用組成物」は、1又は複数の他の剤を含んでもよい。
【0112】
用語「タンパク質に免疫原性を有さないことが予測された」とは、標的タンパク質が対象において免疫原性を惹起しないか、又は、有効性や安全性等の観点から許容できる程度にしか免疫原性を惹起しないことを意味してよい。
【0113】
人種、民族、集団、又は個人に合わせてMHC分子の1又は複数のアロタイプを発現する細胞を揃え、タンパク質の免疫原性を評価することにより、免疫原性を有さないことが予測された対象のみに、当該タンパク質、又は、当該タンパク質を有効成分として含む治療及び/又は予防用組成物を投与することが好ましい。当該組成物は医薬組成物であることが好ましい。
【0114】
当該タンパク質を(医薬)組成物に含めて用いる場合には、公知の製剤学的製造法により製剤化して用いることができる。例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、又はマイクロカプセル剤として経口的に、あるいは、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液に当該タンパク質を含有させた無菌性溶液又は懸濁液の形態で非経口的(例えば、経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、又は静脈内)に使用できる。当該(医薬)組成物には、薬学的に許容される担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、又は結合剤を適宜含めて製造してもよい。錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えばゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤を用いてよい。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記の材料に加えて、油脂のような液状担体をさらに含有させることができる。注射用の無菌性溶液は、注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて、当業者に周知の方法に従って処方することができる。注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトールが挙げられる。さらに、適当な溶解補助剤、例えば、エタノールのようなアルコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールのようなポリアルコール、ポリソルベート80(TM)もしくはHCO-50のような非イオン性界面活性剤を併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油が挙げられ、溶解補助剤として、例えば、安息香酸ベンジル又はベンジルアルコールと併用してもよい。また、例えばリン酸塩緩衝液又は酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝剤、例えば塩酸プロカインのような無痛化剤、例えばベンジルアルコール又はフェノールのような安定剤、又は酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させて使用してよい。
【0115】
当該タンパク質、又は、当該タンパク質を有効成分として含む治療及び/又は予防用組成物の投与量、投与方法、投与間隔等は、患者の体重、年齢、症状等により変動するが、当業者であれば適宜選択し、決定することができる。
【0116】
前記「タンパク質に関連した疾患」において、タンパク質と、当該タンパク質に関連した疾患は、特に限定はされない。タンパク質は、生体内に投与した場合に、例えば免疫原性、有効性又は安全性の問題が生じ得るタンパク質であればなお好ましい。また、疾患は、限定はされないが、例えば、autoimmune diseases(例えば、Rheumatoid arthritis, type I diabetes, multiple sclerosis(MS), coeliac disease, myasthenia gravis(MG)又はsystemic lupus erythematosus(SLE)), cancer(e.g. melanoma, breast cancer, B cell lymphomas, prostate cancer, renal cancer)又はinfectious diseases(e.g. diseases caused by HIV, hepatitis C virus, measles virus, mycobacteria)が挙げられる。
【0117】
そのようなタンパク質と当該タンパク質に関連した疾患の組み合わせとしては、例えば、Self/Nonself 2010;1(4) pp.314-322; PHARM TECH JAPAN Vol.28, No.10 (2012), pp.117(2065)-126(2074); Sorensen, P.S., et al., Neurology, 67(9), 1681-3 (2006); Hesse, D., et al., Eur. J. Neurol., 14(8), 850-9 (2007); Casadevall, N., et al., N. Engl. J. Med., 346(7), 469-75 (2002); Gershon, S.K., et al., N. Eng. J. Med., 346(20), 1584-6 (2002); Locatelli F., et al., Perit. Dial. Int., 27(Suppl2), S303-7 (2006)に記載の例を挙げてもよい。
【0118】
例えば、タンパク質と当該タンパク質に関連した疾患の具体的な組み合わせとしては、限定はされないが、それぞれ、MuromanabとAllograft rejection; AbciximabとPTCA adjunct; RituximabとNon-Hodgkin lymphoma; DaclizumabとTransplant rejection; TrastuzumabとBreast cancer; PalivizumabとRSV prophylaxis; BasiliximabとTransplant rejection; InfliximabとRheumatoid arthritis又はCrohn; ArcitumomabとColorectal cancer; CanakinumabとCryopirin-associated periodic syndrome; FanolesomabとImaging for appendicitis; ImciromabとCardiac imaging for MI; CapromabとProstate cancer diagnostic; NofetumomabとDetection of SCLC; GemtuzumabとAcute myeloid leukemia; AlemtuzumabとB cell chronic lymphocytic leukemia; IbritumomabとNon-Hodgkin lymphoma; AdalimumabとRheumatoid arthritis, Crohn, PsA, JIA, Ankylosing spondylitis又はplaque psoriasis; OmalizumabとAsthma; EfalizumabとPsoriasis; TositumomabとNon-Hodgkins lymphoma; CetuximabとColorectal cancer; BevacizumabとColorectal, Breast, Renal 又はNSCL cancer; PanitumumabとColorectal cancer; RanibizumabとMacular degeneration; EculizumabとParoxysmal nocturnal hemoglobinuria; Natalizumabとmultiple sclerosis(MS)又はCrohn; GolimumabとRheumatoid arthritis, PsA, Ankylosing spondylitis; Cetolizumab pegolとRheumatoid arthritis又はCrohn; OfatumumabとCLL; UstekinumabとPlaque psoriasis; TocilizumabとRheumatoid arthritis; DenosumabとOsteoporosis; Prolastinとα1-antitrypsin deficiency; Aralastとα1-antitrypsin deficiency; Zemairaとα1-antitrypsin deficiency; Kogenate FSとHemophilia A; ReFactoとHemophilia A; ZynthaとHemophilia A; NovoSevenとHemophilia; BenefixとHemophilia B; ATrynとThromboembolism; BabyBIGとInfant botulism; BerinertとAngioedema; CinryzeとAngioedema; RhophylacとITP; EvithromとCoagulation; RecothromとCoagulation; WilateとCoagulation; CerezymeとGacher Disease; Exenatide又はByettaとType II diabetes; IntronAとLeukemia, Kaposi sarcoma, hepatitis B/C; BetaseronとMultiple sclerosis; NovoLogとType II diabetes; LeukineとPreventing infection in cancer; NEUPOGENとPreventing infection in cancer; RetavaseとMyocardial infarction又はpulmonary embolism; HumatropeとDwarfism; AdagenとInherited immunodeficiency; PulmozymeとCystic fibrosis; ProcritとAnemia in chronic renal disease; ProleukinとOncology等が挙げられる。
【0119】
本発明は、さらなる別の態様において、
[30]タンパク質に関連した疾患の治療及び/又は予防方法であって、前記治療及び/又は予防を必要とする対象に前記タンパク質を投与する工程を含み、かつ、前記対象は、前述の予測方法に従って、前記タンパク質に免疫原性を有さないことが予測された対象(のみ)から選択されることを特徴とする、治療及び/又は予防方法に関する。
【0120】
本発明は、さらなる別の態様において、
[31]タンパク質に関連した疾患の治療及び/又は予防用医薬の製造のための、前記タンパク質の使用であって、かつ、前記治療及び/又は予防の対象は、前述の予測方法に従って、前記タンパク質に免疫原性を有さないことが予測された対象(のみ)から選択されることを特徴とする、使用に関する。
【0121】
本発明は、さらなる別の態様において、幹細胞もしくはこれに由来する前駆細胞、又は、これから分化されたMHC分子を発現する細胞の、前述した、本発明における各種の方法における使用に関する。
【0122】
これらの本発明は、本明細書において説明する1又は複数の技術的特徴を適宜組み合わせて実施できることが当業者には当然に理解できる。
【0123】
本明細書に記載の1又は複数の態様を任意に組み合わせたものも、当業者の技術常識に基づいて技術的に矛盾しない限り、本発明に含まれることが当業者には当然に理解される。
【0124】
本明細書で用いられる用語は、特定の実施態様を説明するために用いられ、発明を限定する意図として理解されてはならない。異なる定義が明示されていない限り、本明細書で用いられる用語(技術用語及び科学用語を含む。)は、本発明が属する技術分野における当業者によって広く理解されるものと同じ意味を有するものとして解釈され、かつ、理想化され、又は、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。
【0125】
本明細書で用いられる用語「含む」は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、工程、要素、数字等)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、工程、要素、数字等)が存在することを排除しない。
【0126】
本発明の実施態様は模式図を参照しつつ説明される場合があるが、説明を明確にするために誇張されて表現される場合がある。
【0127】
本明細書に記載の全ての文献(特許文献、非特許文献)は、その内容の全てが参照により本明細書に援用されてよく、当業者は技術常識に照らしてその内容を適宜参酌して、本発明を理解できる。
【0128】
本明細書に記載の数値は、文脈に反しない限り、当業者の技術常識に従って、一定の幅を有する値であると理解される。例えば「1mg」の記載は「約1mg」と記載されているものと理解され、一定の変動量を包含するものとして理解される。また、本明細書において、例えば、「1~5個」と記載されている場合、文脈に反しない限り、「1個、2個、3個、4個、5個」と、それぞれの値が個別具体的に記載されているものと理解される。
【0129】
以下において、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明は、いろいろな態様により具現化することができ、ここに記載される実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。
【0130】
本明細書及び請求の範囲において、特に明示されていない場合であって、文脈において矛盾しない限り、本明細書及び請求の範囲に記載の各名詞が表す対象は、1又は複数存在してもよいことが意図される。
【実施例】
【0131】
A.方法
-使用細胞-
ヒトiPS細胞:Tic(JCRB1331), JCRB細胞バンクより導入;201B7,iPSアカデミアジャパン株式会社より導入。
フィーダー細胞:EmbryoMax Primary Mouse Embryonic Fibroblasts(MEF), Hygro resistant, C57BL/6(日本ミリポアより購入,Cat.:PMEF-HL);SNL 76/7 feeder cells (SNL)(Cell Biolabs, Incより購入,Cat.:CBA-316)。
【0132】
-ヒトiPS細胞(Tic)の未分化を維持する培養方法-
1. 蒸留水により0.1%に希釈されたgelatin from porcine skin(SIGMA,Cat.:G1890)を温めゾル状にし,60mmディッシュに2mLずつ添加し37℃,5%CO2条件下に30~180分置き,ゼラチンコートディッシュとした。
2. フィーダー細胞(MEF)を,Embryonic Stem Cell Fetal Bovine Serum(FBS)(Gibco,Cat.:10439-024)を10%,L-glutamine(Invitrogen,Cat.:25030-081)を2mM,Penicillin/Streptomycin(Invitrogen,Cat.:15140-122)を0.5%加えたDMEM(Gibco,Cat.:10569-010)に懸濁し,1~2×105cells/mLとなるよう希釈し,ゼラチンコートディッシュに4mLずつ播種し,37℃,5%CO2条件下で1日培養した。
3. basic fibroblast growth factor(bFGF)(WAKO,Cat.:064-04541)を10ng/mLとなるように加えたiPSellon(cardio,Cat.:007101)を用いて,フィーダー細胞を播種した60mmディッシュにて,37℃,5%CO2条件下で,ヒトiPS細胞の未分化を維持した培養を実施した。
4. 細胞の増殖に応じて,分化が生じたコロニーをスクレーパーにより除去し,Neutral protease, grade I(Roche Applied Science,Cat.:04 942 086 001)2U/mLと反応させ,先に剥がれるフィーダー細胞をディッシュより除去した後,ヒトiPS細胞のコロニーをスクレーパーを用いてディッシュより回収し,bFGFを10ng/mLとなるように加えたiPSellonに懸濁し,新たにフィーダー細胞を播種した60mmディッシュに播種し,37℃,5%CO2条件下で培養を継続した。
【0133】
-ヒトiPS細胞(201B7)の未分化を維持する培養方法-
1. 蒸留水により0.1%に希釈されたgelatin from porcine skinを温めゾル状にし,60mmディッシュに2mLずつ添加し37℃,5%CO2条件下に30~180分置き,ゼラチンコートディッシュとした。
2. フィーダー細胞(SNL)を,FBSを7%,L-glutamineを2mM,Penicillin/Streptomycinを0.5%加えたDMEM(Gibco,Cat.:10569-010)に懸濁し,1~2×105cells/mLとなるよう希釈し,ゼラチンコートディッシュに4mLずつ播種し,37℃,5%CO2条件下で1日培養した。
3. bFGFを4ng/mLとなるように加えたPrimate ES cell medium(ReproCELL,Cat.:RCHEMD001)を用いて,フィーダー細胞を播種した60mmディッシュにて,37℃,5%CO2条件下で,ヒトiPS細胞の未分化を維持した培養を実施した。
4. 細胞の増殖に応じて,分化が生じたコロニーをスクレーパーにより除去し,Neutral protease, grade I 2U/mLと反応させ,先に剥がれるフィーダー細胞をディッシュより除去した後,ヒトiPS細胞のコロニーをスクレーパーを用いてディッシュより回収し,bFGFを4ng/mLとなるように加えたPrimate ES cell mediumに懸濁し,新たにフィーダー細胞を播種した60mmディッシュに播種し,37℃,5%CO2条件下で培養を継続した。
【0134】
-ヒトiPS細胞から単球様細胞を分化する方法-
1. DMEM(Gibco,Cat.:10569-010)により40倍に希釈したMatrigel, growth-factor reduced(BD biosciences,Cat.:356230)を60mmディッシュに2mLずつ添加し,37℃,5%CO
2条件下に12~72時間置き,MGディッシュとした。
2. 蒸留水により0.1%に希釈されたgelatin from porcine skin(SIGMA,Cat.:G1890)を温めゾル状にし,60mmディッシュに2mLずつ添加し37℃,5%CO
2条件下に30~180分置き,ゼラチンコートディッシュとした。
3. 未分化を維持したまま培養されているヒトiPS細胞のコロニーについて,Neutral protease, grade I(Roche Applied Science,Cat.:04 942 086 001)2U/mLをディッシュに加え,先に剥がれるフィーダー細胞をディッシュより除去した後,ヒトiPS細胞の未分化コロニーをスクレーパーを用いてディッシュより回収し,Fetal Bovine Serum, embryonic stem cell-qualified (FBS)(Life Tech,Cat.:16141)を20%, L-glutamine(Invitrogen,Cat.:25030-081)を1%,Penicillin/Streptomycin(Invitrogen,Cat.:15140-122)を0.5%,2-mercaptoethanol(Invitrogen,Cat.:21985-023)を55μM加えたMEM Alpha 1x + GlutamaxI(Life Tech,Cat.:32561-037)に懸濁し,上清を除去したゼラチンコートディッシュに4mLずつ播き,1時間,37℃,5%CO
2条件下で培養を行い,フィーダー細胞をディッシュ底面に接着させヒトiPS細胞のコロニーと分離した。
4. ヒトiPS細胞の未接着コロニーをゼラチンコートディッシュより全量回収し,Insulin-Transferrin-Selenium-X 100X(ITS)(Life Tech,Cat.:51500-056)を1/100倍の希釈倍率となるように加えたPrimate ES cell mediumに懸濁し,上清を除去したMGディッシュに3mLずつ播種し,37℃,5%CO
2条件下で1日培養を実施した(
図2上段左の写真参照)。
5. ディッシュより培地を全量除去した後,ITSを1/100倍,recombinant human bone morphogenetic protein 4(rhBMP4)(Humanzyme,Cat.:314-BP)を50ng/mLとなるように加えたPrimate ES cell mediumを7mLずつ添加し,37℃,5%CO
2条件下で4日間の培養を実施した(
図2上段中央の写真参照)。
6. ディッシュより培地を全量除去した後,ITSを1/100倍,recombinant human Vascular Endothelial Growth Factor 165(rhVEGF165)(R&D Systems,Cat.:293-VE)を40ng/mL,recombinant human Stem Cell Factor(rhSCF)(R&D Systems,Cat.:255-SC)を50ng/mLとなるように加えたPrimate ES cell mediumを4mLずつ添加し,37℃,5%CO
2条件下で2日間の培養を実施した(
図2上段右の写真参照)。
7. 培地を全量除去した後,ITSを1/100倍,recombinant human Granulocyte Macrophage colony-stimulating Factor(rhGM-CSF)(Humanzyme,Cat.:HZ-1082)を100ng/mL,recombinant human Macrophage colony-stimulating factor(rhM-CSF)(Humanzyme,Cat.:HZ-1039)を50ng/mLとなるように加えたStemPro-34 medium(Life Tech.,Cat.:10640)を5mLずつ添加し,37℃,5%CO
2条件下で培養し3~4日間置きに培養液を交換した(
図2下段中央の写真参照)。
8. 7.項の操作を120日間継続した。培養50日頃より非接着性細胞が出現し,7日~14日に1度の頻度でディッシュ中の非接着細胞を回収し,単球様細胞とした。
9. 作製した単球様細胞の一部を回収し,抗HLA-DR抗体(BD biosciences,Cat.:347364),抗ヒトHLA-DQ抗体(BD biosciences,Cat.:555563),抗ヒトHLA-DP抗体(Santa Cruz Biotechnology, Cat.:sc-53308),抗ヒトHLA-ABC抗体(BD biosciences,Cat.:555552),抗ヒトCD14抗体(BD biosciences,Cat.:558121),抗ヒトCD80抗体(BD biosciences,Cat.:561134),抗ヒトCD86抗体(BD biosciences,Cat.:561128),抗ヒトCD206抗体(BD biosciences,Cat.:551135),抗ヒトCD209抗体(BD biosciences,Cat.:551545),抗ヒトCD11b抗体(BD biosciences,Cat.:555388),及び抗ヒトCD11c抗体(BD biosciences,Cat.:340544)を用いて染色し,フローサイトメーター解析装置BD FACSCanto(商標)II(BD Bioscience)を用いて分析した。
【0135】
-使用抗原-
免疫原性を有するタンパク質として,陽性対照として以下のタンパク質を使用した。
(1)白樺花粉アレルゲンであるBetula verrucosa, birch pollen allergen 1, Isoform a(Bet v1a)(#Bet v 1.0101; Biomay)(アミノ酸配列:配列番号1)
(2)Infliximab(商品名:REMICADE(登録商標)(田辺三菱製薬)(アミノ酸配列:Heavy chain variable region:配列番号2;Heavy chain constant region:配列番号3;Light chain variable region:配列番号4;Light chain constant region:配列番号5)
なお,Infliximabは,臨床において抗薬物抗体(Anti-drug antibody; ADA)が確認されており,エピトープ配列が存在すると考えられている(Self/Nonself 2010;1(4) pp.314-322;Current Rheumatology Report 2005;7:3-9;Current Opinion in Monoclonal Thrapeutics 2003;5(2):172-179)。
(3)Recombinant Human Factor VIII(rhFVIII)(商品名:ADVATE(登録商標)(Baxter)(アミノ酸配列:配列番号112)
なお,rhFVIIIは,臨床において抗薬物抗体(Anti-drug antibody; ADA)が確認されており,エピトープ配列が存在すると考えられている(Simon D.Van Haren et al, Mol Cell Proteomics 2011:10:M110.002246)。また,rhFVIIIは通常のIgG抗体の2倍程度の分子量を有する。
(4)Phleum pretense, timothy grass pollen allergen 1 (Phl p1)(商品名:Phl p 1.0102 (Biomay)(アミノ酸配列:配列番号113)
なお,Phl p1はイネ科花粉抗原であり,エピトープ配列が報告されている(Carla Oseroff et al, J of immunol 2010:185(2):943-955)。
【0136】
-樹状細胞への成熟及び抗原への曝露-
1. 回収した単球様細胞について,培地を除去し,ITSを1/100倍,rhGM-CSFを200ng/mL,recombinant human Interleukin-4(rhIL-4)(Humanzyme,Cat.:HZ-1075)を10ng/mLとなるように加えたStemPro-34 mediumに細胞濃度1×105cells/mLで懸濁し,6ウェルプレートに3mLずつ播種し,37℃,5%CO2条件下で5日間の培養を実施した。
2. 各ウェルにBet v1a 3.3μg/mL又はInfiximab 10μg/mLを加え,続いてrecombinant human Tumor Necrosis Factor-α(rhTNF-α)(Humanzyme,Cat.:HZ-1014)10ng/mLを加え,37℃,5%CO2条件下で1日培養し,樹状細胞様細胞とした。rhFVIII,Phl p1の添加においては,各ウェルより培養上清を2mL除去した後,rhFVIII 30μg/mL又は,Phl p1 10μg/mLを加え,続いてrhTNF-α 10ng/mLを加え,37℃,5%CO2条件下で1日培養し,樹状細胞様細胞とした。
3. 樹状細胞様細胞を6ウェルプレートより全量回収し,1200rpm,5分,4℃でスピンダウンした後,上清を全て除去し,4℃のDPBS 1mLに懸濁した。次いで,全量をエッペンドルフチューブに移し,2500rpm,5分,4℃でスピンダウンし,上清を全て除去し,細胞のペレットを作製し,-80℃で保管した。
4. 作製した樹状細胞様細胞の一部を回収し,抗ヒトHLA-DR抗体,抗ヒトHLA-DQ抗体,抗ヒトHLA-DP抗体,抗ヒトHLA-ABC抗体,抗ヒトCD14抗体,抗ヒトCD80抗体,抗ヒトCD86抗体,抗ヒトCD206抗体,抗ヒトCD209抗体,抗ヒトCD11b抗体,及び抗ヒトCD11c抗体を用いて染色し,フローサイトメーター解析装置BD FACSCanto(商標)IIを用いて分析した。
【0137】
-抗HLA-DRビーズの生成-
1. 抗HLA-DR抗体G46-6(BD Biosciences,Cat.:555809)を,CNBr-activated Sepharose beads(GE Healthcare,Cat.:17-0430-01)に終濃度1mg/mLで固層化し,抗HLA-DR抗体固層化ビーズとした。
2. 抗HLA-DR抗体固層化ビーズについては0.02%アジ化ナトリウム(Wako,Cat.:190-14901)を含むPBS(Wako,Cat.:041-20211)中で保管した。
【0138】
-HLA-DR-ペプチド複合体のナノスケール精製-
1. Tris(SIGMA,Cat.:T1503-1KG)20mM, MgCl2(MERCK,Cat.:1.05833.0250)5mMを加え,HCl(MERCK,Cat.:1.00316.1000)を用いてpH7.8に調製した超純水(Wako,Cat.:210-01303)溶液に,10% TritonX-100(Roche Diag,Cat.:11332481001)を1/10倍, protease inhibitor mix(11.6mg/mL PMSF(nakalai,Cat.:27327-94), 1.7mg/mL pepstatin A(SIGMA,Cat.:P4265-25MG), 1.7mg/mL chymostatin(Roche Diag,Cat.:11004638001), 0.8mg/mL leupeptin(SIGMA,Cat.:L9783-25MG),及び133mg/mLアジ化ナトリウム(Wako,Cat.:190-14901)のmixture)を17/5000倍となるよう加え,Lysis Bufferを調製した。
2. 樹状細胞様細胞の凍結ペレットにLysis Bufferを氷冷条件下で10倍量加え,Thermomixer Confort(Eppendorf)にて1100rpm,1時間,4℃で振とうし,ライセートを取得した。
3. 14000rpm,10分,4℃でスピンダウンし,ライセートを細胞片や細胞核と分離した。
4. 抗HLA-DR抗体固層化ビーズをライセート100μLに対して5-10μL加え,水平振とう機(horizontal shaker)で1100rpm,4℃,一晩振とうし,ライセート中のHLA-DR-ペプチド複合体を抗HLA-DR抗体固層化ビーズに結合させた。
5. 抗HLA-DR抗体固層化ビーズに結合したHLA-DR-ペプチド複合体を3000rpm,1分,4℃でスピンダウンした後,Lysis buffer 500μLで1回,さらに0.1% Zwittergent 3-12(Calbiochem,Cat.:693015)を含むPBS 500μLで2回洗浄した。
【0139】
-HLA-DR-関連ペプチドの溶出-
1. HLA-DR抗体固層化ビーズに結合したHLA-DR-ペプチド複合体を400μLの超純水に懸濁し,Ultrafree-MC filter(Durapore PVDF, 0.22um)(Millipore)に移し,14000rpm,10秒,4℃でスピンダウンした。
2. チューブ底に落とした超純水を除去し,400μLの超純水をフィルタ上に加え14000rpm,10-30秒,4℃でスピンダウンする洗浄操作を10回繰り返し実施した。
3. 0.1% trifluoracetic acid(Thermo Fisher Scientific,Cat.:28904)を含む超純水60uLを加え,37℃,30分インキュベートし,HLA-DR-ペプチド複合体よりペプチド混合物を溶出させた後,14000rpm,3分,18℃でスピンダウンし,vacuum centrifuge 5305C(Eppendorf)により溶出したペプチド混合物を乾燥した。
【0140】
-イオントラップMS/MS質量分析によるペプチドの配列解析-
1. 乾燥したペプチド混合物を2% acetonitrile(Wako,Cat.:018-19853),0.5% acetic acid(MERCK,Cat.:1.00066.0250),1% formic acid(MERCK,Cat.:1.11670.1000)を含む超純水15μLに再溶解し,そのうち5μLをMSに接続したnano-LC Ultimate 3000 RSLCnano system(Dionex)に注入した。LC分析条件としては,EP1715343A1に記載の条件,又はこれに類似する当業者に公知の条件で,逆相材料及びイオン交換材料を組み合わせたカラム,あるいは逆相材料単独のカラムを用い,適切な緩衝液を用いて行うことができる。HPLCカラムをナノ-LC エレクトロスプレーイオン化源を設置したOrbitrap Elite(Thermo)に連結し,製造元のプロトコルに従い,full scan精密質量分析及びMS-MSによる質量分析を実施した。
2. ペプチドの配列解析をSEQUESTアルゴリズムにより実施した。
【0141】
B.結果
-分化した細胞の特性-
図3A、
図3Bに、フローサイトメーター解析により得られた、Ticを用いて作成した単球様細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。本実施例により得られた単球様細胞は単球の特異的マーカーであるCD14の発現が認められた他、T細胞の活性化分子であるCD80,CD86,接着分子であるCD11b,CD11cの発現が認められた。
【0142】
図4A、
図4Bに、フローサイトメーター解析により得られた、201B7を用いて作成した単球様細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。本実施例により得られた単球様細胞はTicを用いて作成した単球様細胞と同様に、単球の特異的マーカーであるCD14の発現が認められた他、T細胞の活性化分子であるCD80,CD86,接着分子であるCD11b,CD11cの発現が認められた。
【0143】
図5A、
図5Bに、フローサイトメーター解析により得られた、Ticを用いて作成した樹状細胞様細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。本実施例により得られた樹状細胞様細胞では抗原提示分子であるHLA-DR,HLA-DQ,HLA-DP及びHLA-ABC,樹状細胞の特異的マーカーであるCD206,CD209の発現が認められた他、単球様細胞と同様にT細胞の活性化分子であるCD80,CD86,接着分子であるCD11b,CD11cの発現が認められた。CD11cは単球様細胞時と比較して発現の増加が認められた。一方で単球の特異的マーカーであるCD14の発現が減少した。それぞれのマーカーのピークが単一であることから、樹状細胞の特徴を有する細胞が均一に作製されたと考えられた。
【0144】
図6A、
図6Bに、フローサイトメーター解析により得られた、201B7を用いて作成した樹状細胞様細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。201B7より作製した樹状細胞様細胞においても、Ticより作製した樹状細胞様細胞と同様、抗原提示分子であるHLA-DR,HLA-DQ,HLA-DP及びHLA-ABC,樹状細胞の特異的マーカーであるCD206,CD209の発現が認められた。単球様細胞と同様にT細胞の活性化分子であるCD80,CD86,接着分子であるCD11b,CD11cの発現も認められた。
【0145】
-Bet v1aを用いた結果-
図7に、Ticより作製した樹状細胞様細胞をBet v1aに暴露した場合に検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す(a)。本実施例でBet v1aに暴露させた樹状細胞様細胞より抽出したHLA-DR分子より分離されるペプチドからは、Bet v1aのアミノ酸配列の一部が検出された。
【0146】
また、
図7に、Bet v1a無処置時の条件(対照)において検出された、Bet v1aに暴露した場合にも検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す(b)。
【0147】
また、これらの、検出された具体的なアミノ酸配列を表1A,表1Bにも示す。表中、エピトープ番号は、Bet v1aのアミノ酸配列において、N末端から順に見られた、検出されたペプチドの群を示す。例えばエピトープ番号1では18種類のペプチドが検出された。
【0148】
【0149】
(表1Aに記載のペプチドを配列番号6~36に記載した。)
【0150】
【0151】
(表1Bに記載のペプチドを配列番号37~60に記載した。)
2回の測定(duplicate)でほぼ同様の結果が得られ、再現性が得られた(2回目のデータ示さず)。また、異なったタイミング(非接着性細胞を回収してGM-CSF及びIL-4を添加するタイミングを変えた場合)で樹状細胞様細胞への分化を行い、HLA-DR等の発現の上昇を促した場合でも、同様のペプチド配列が検出された(データ示さず)。
【0152】
図8に、201B7より作製した樹状細胞様細胞をBet v1aに暴露した場合に検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す(a)。本実施例でBet v1aに暴露させた樹状細胞様細胞より抽出したHLA-DR分子より分離されるペプチドからは、Bet v1aのアミノ酸配列の一部が検出された。
【0153】
また、
図8に、Bet v1a無処置時の条件(対照)において検出された、Bet v1aに暴露した場合にも検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す(b)。
【0154】
また、これらの、検出された具体的なアミノ酸配列を表1C,表1Dにも示す。表中、エピトープ番号は、Bet v1aのアミノ酸配列において、N末端から順に見られた、検出されたペプチドの群を示す。
【0155】
【0156】
(表1Cに記載のペプチドを配列番号114~131に記載した。)
【0157】
【0158】
(表1Dに記載のペプチドを配列番号132に記載した。)
2回の測定(duplicate)でほぼ同様の結果が得られ、再現性が得られた(2回目のデータ示さず)。
【0159】
-Infliximabを用いた結果-
図9Aに、Ticより作製した樹状細胞様細胞をInfliximabに暴露した場合に検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す(a)。本実施例でInfliximabに暴露させた樹状細胞様細胞より抽出したHLA-DR分子より分離されるペプチドからは、InfliximabのH鎖及びL鎖に認められるアミノ酸配列の一部が検出された。
【0160】
(
図9Aに記載のペプチドを配列番号133~151に記載した。)
【0161】
また、
図9Bに、Infliximab無処置時の条件(対照)において検出された、Infliximabに暴露した場合にも検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す(b)。InfliximabのH鎖に認められるアミノ酸配列の一部のみが検出された。
【0162】
(
図9Bに記載のペプチドを配列番号152~153に記載した。)
【0163】
2回の測定(duplicate)でほぼ同様の結果が得られ、再現性が得られた(2回目のデータ示さず)。また、異なったタイミング(非接着性細胞を回収してGM-CSF及びIL-4を添加するタイミングを変えた場合)で樹状細胞様細胞への分化を行い、HLA-DR等の発現の上昇を促した場合でも、同様のペプチド配列が検出された(データ示さず)。
【0164】
-rhFVIIIを用いた結果-
図10A~
図10Hに、Ticより作製した樹状細胞様細胞をrhFVIIIに暴露した場合に検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す。本実施例でrhFVIIIに暴露させた樹状細胞様細胞より抽出したHLA-DR分子より分離されるペプチドからはrhFVIIIのアミノ酸配列の一部が検出された。
【0165】
【0166】
2回の測定(duplicate)でほぼ同様の結果が得られ、再現性が得られた(2回目のデータ示さず)。
【0167】
-Phl p1を用いた結果-
図11に、Ticより作製した樹状細胞様細胞をPhl p1に暴露した場合に検出されたペプチドのアミノ酸配列の解析結果を示す。本実施例でPhl p1のアミノ酸配列の一部が検出された。
【0168】
(
図11に記載のペプチドを配列番号251~253に記載した。)
【0169】
2回の測定(duplicate)でほぼ同様の結果が得られ、再現性が得られた(2回目のデータ示さず)。また、異なったタイミングでヒトiPS細胞から単球様細胞の分化を開始し、非接着性細胞を回収し、樹状細胞様細胞への分化を行い、HLA-DR等の発現の上昇を促した場合でも、同様のペプチド配列が検出された(データ示さず)。
【0170】
なお、上述の方法では、抗原に暴露させた樹状細胞様細胞のHLA-DR分子上に提示されたペプチドを、抗HLA-DRビーズを利用して、HLA-DR-ペプチド複合体として分離・精製し、イオントラップMS/MS質量分析によって、提示された各ペプチドの配列を同定した。ここで、例えば
図3B、
図4B、
図5Bで明らかなとおり、単球様細胞や樹状細胞様細胞などの抗原提示細胞では、HLA-DQ分子、HLA-DP分子、HLA-A分子、HLA-B分子、HLA-C分子が発現していることが確認された。したがって、当業者であれば、HLA-DR分子の代わりに、他のMHCII分子(例えばHLA-DQ分子もしくはHLA-DP分子)、又は、MHCI分子を利用しても、同様に抗原提示されるペプチドを検出し、同定可能であることが理解できる。
例えば、Karbach J, Pauligk C, Bender A, Gnjatic S, Franzmann K, Wahle C, Jager D, Knuth A, Old LJ, Jager E., Identification of new NY-ESO-1 epitopes recognized by CD4+ T cells and presented by HLA-DQ B1 03011, Int J Cancer. 2006 Feb 1;118(3):668-74.では、癌抗原の一つであるNY-ESO-1を提示させた樹状細胞を用いて、抗原特異的T細胞を作製し、同様の抗原を提示させたHLA-DQ分子発現EBV-B細胞株との再刺激により、HLA-DQ分子に提示されるNY-ESO-1中のペプチド配列を検出できたことを示しており、抗原提示されたT細胞エピトープをHLA-DQ分子を用いて同定できることが示されている。また、例えば、Duquesnoy RJ, Marrari M, Tambur AR, Mulder A, Sousa LC, da Silva AS, do Monte SJ, First report on the antibody verification of HLA-DR, HLA-DQ and HLA-DP epitopes recorded in the HLA Epitope Registry, Hum Immunol. 2014 Nov;75(11):1097-103.では、データベースからHLA-DR分子、HLA-DQ分子、HLA-DP分子に提示されやすい配列が予測されており、HLA-DQ分子やHLA-DP分子が、HLA-DR分子と同様に、特定の配列を抗原提示することが示されている。これらの技術常識に基づいて、MAPPsを、本発明における幹細胞又はこれに由来する前駆細胞から分化された、HLA-DQ分子やHLA-DP分子などの他のMHCII分子を発現する細胞にも同様に適用できることが、当業者には理解されよう。
また、MHCI分子を用いたMAPPsも、例えば、Wahl A, Schafer F, Bardet W, Buchli R, Air GM, Hildebrand WH., HLA class I molecules consistently present internal influenza epitopes. Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Jan 13;106(2):540-5.において既に報告されている。当該文献では、特定のアロタイプのHLA-B分子を発現させた細胞株をインフルエンザウイルスに感作させ、MAPPsによりHLA-B分子上に提示されるインフルエンザウイルス由来ペプチド配列の検出を実施している。なお、上述の通り、MHCI分子は多くの細胞種で発現していることが知られているところ、MHCI分子-ペプチド複合体の検出の容易さの観点から、MHCI分子が高発現している細胞を利用することが望ましい。一実施態様において、MHCI分子を用いたMAPPsには、本発明における幹細胞又はこれに由来する前駆細胞から分化された、樹状細胞を用いてよい。
【0171】
[比較例]
A.方法
-使用細胞-
ヒト末梢血単核球細胞(PBMC):(Lonza co.,ltd.より購入)。
【0172】
-ヒト末梢血単核球細胞からの単球細胞の分離-
1. ヒト末梢血単核球細胞に対し,Human Serum Alubmin low IgG(SIGMA,Cat.:A3782)を0.5%、EDTA 0.5M stock solution pH8.0(Invitrogen,Cat.:15575)を2mMとなるよう加えたDPBS(Invitrogen,Cat:14190)を80μL/107cells, CD14 micro beads(Miltenyi,Cat.:130-050-201)を20μL/107cellsとなるよう加え,ボルテックスミキサーにより懸濁し,4℃,遮光下の条件で15分静置した。
2. 15分静置後のヒト末梢血単核球細胞にHuman Serum Alubmin low IgGを0.5%、EDTA 0.5M stock solution pH8.0を2mM含むDPBSを20mL加え,1200rpm,5分,4℃でスピンダウンした後,上清を全て除去した。本操作は2回行った。
3. 上清を除去したヒト末梢血単核球細胞にHuman Serum Alubmin low IgGを0.5%、EDTA 0.5M stock solution pH8.0を2mM含むDPBSを1.2×108cells/mLとなるよう加え,細胞分離用磁石LS Column(Miltenyi,Cat.:130-042-401)に通し,回収したヒト末梢血単核球細胞を単球細胞とした。
【0173】
-使用抗原-
本発明の実施例と同様に,白樺花粉アレルゲンであるBetula verrucosa, birch pollen allergen 1, Isoform a(Bet v1a)(#Bet v 1.0101; Biomay)(アミノ酸配列:配列番号1)を用いた。
【0174】
-樹状細胞への分化及び抗原への曝露-
1. 回収した単球細胞にHuman Serum Alubmin low IgGを0.5%、EDTA 0.5M stock solution pH8.0を2mM含むDPBSを20mL加え,1200rpm,5分,4℃でスピンダウンした後,上清を全て除去した。
2. 上清を除去した単球細胞を,Fetal Bovine Serum (FBS) (Gibco,Cat.:10270,26140)を10%、Non Essential amino acids(Gibco,Cat.:11140-035)を1%,Na-Pyruvate(Gibco,Cat.:11360-039)を1%,Kanamycine(Gibco,Cat.:15160-047)を1%,recombinant human Granulocyte Macrophage colony-stimulating Factor(rhGM-CSF)(R&Dsystems,Cat.:215-GM)を50ng/mL,recombinant human Interleukin-4(rhIL-4)(R&Dsystems,Cat.:204-IL)を3ng/mLとなるよう加えたRPMI 1640(Life Tech,Cat.:11875)を用いて,3×105cells/mLの細胞密度に懸濁し,6ウェルプレートに3mLずつ播種し,37℃,5%CO2条件下で5日間の培養を実施し,培養5日後の単球細胞を樹状細胞とした。
3. 培養5日後の各ウェルより上清を2mL/ウェル除去し,Bet v1a 3.3μg/mLを加え,続いてLipopolysaccharides from Salmonella enterica serotype abortusequi(LPS)(SIGMA,Cat.:L5886)を1μg/mL加え,37℃,5%CO2条件下で1日培養した。
4. 1日培養後の樹状細胞を6ウェルプレートより全量回収し,1200rpm,5分,4℃でスピンダウンした後,上清を全て除去し,4℃のDPBS 1mLに懸濁した。次いで,全量をエッペンドルフチューブに移し,2500rpm,5分,4℃でスピンダウンし,上清を全て除去し,細胞のペレットを作製し,-80℃で保管した。
5. 樹状細胞の一部を回収し,抗ヒトHLA-DR抗体,抗ヒトHLA-DQ抗体,抗ヒトHLA-DP抗体,抗ヒトHLA-ABC抗体,抗ヒトCD14抗体,抗ヒトCD80抗体,抗ヒトCD86抗体,抗ヒトCD206抗体,抗ヒトCD209抗体,抗ヒトCD11b抗体,及び抗ヒトCD11c抗体を用いて染色し,フローサイトメーター解析装置BD FACSCantoTMIIを用いて分析した。
【0175】
-抗HLA-DRビーズの生成-
本発明の実施例と同様に調整した。
【0176】
-HLA-DR-ペプチド複合体のナノスケール精製-
本発明の実施例と同様に調整した。
【0177】
-HLA-DR-関連ペプチドの溶出-
本発明の実施例と同様に調整した。
【0178】
-イオントラップMS/MS質量分析によるペプチドの配列解析-
本発明の実施例と同様に調整した。
【0179】
B.結果
-分化した細胞の特性-
図12に、フローサイトメーター解析により得られた単球細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。比較例により得られた単球細胞は単球の特異的マーカーであるCD14の発現及び抗原提示分子であるHLA-DRの発現が認められた他、T細胞の活性化分子であるCD86の発現が認められた。
【0180】
また、
図13A、
図13Bに、フローサイトメーター解析により得られた樹状細胞の細胞表面に発現する分子を調べた結果を示す。比較例により得られた樹状細胞では抗原提示分子であるHLA-DR,HLA-DQ及びHLA-ABC,樹状細胞の特異的マーカーであるCD206,CD209の発現が認められた他,T細胞の活性化分子であるCD80,CD86,接着分子であるCD11b,CD11cの発現が認められた。一方でCD14の発現は認めらなかった。
【0181】
【0182】
【0183】
(表2に記載のペプチドを配列番号61~63に記載した)
【0184】
【0185】
(表3に記載のペプチドを配列番号64~70に記載した)
【0186】
【0187】
(表4に記載のペプチドを配列番号71~73に記載した)
【0188】
【0189】
(表5に記載のペプチドを配列番号74~79に記載した)
【0190】
【0191】
(表6に記載のペプチドを配列番号80~92に記載した)
【0192】
【0193】
(表7に記載のペプチドを配列番号93~95に記載した)
【0194】
【0195】
(表8に記載のペプチドを配列番号96~111に記載した)
Bet v1a非添加条件で検出されたペプチド(対照)からは、Bet v1a添加条件で検出されたペプチドの一部が検出された。しかしながら,Bet v1a添加条件では,Bet v1a非添加条件よりも多くのペプチドが検出された。
【0196】
-ヒトiPS細胞由来の樹状細胞様細胞を用いたMAPPsとPBMC由来樹状細胞を用いたMAPPsとの比較-
図21A、
図21Bに、Bet v1a添加条件において検出されたペプチドのアミノ酸配列について、2種類のヒトiPS細胞由来の樹状細胞様細胞を用いた場合とPBMC由来の樹状細胞を用いた場合との比較を示す。PBMC由来の樹状細胞を用いた解析では、ドナー間で異なるMHCII分子を有していたために、検出されるペプチドのアミノ酸配列にドナー間で違いが見られたと考えられる。また、2種類のiPS細胞由来の樹状細胞様細胞間で検出されたアミノ酸配列の違いについても、元となったドナー間で異なるタイプのMHCII分子を有していたためLine間で検出配列に違いが生じたと考えられる。それにも関わらず、ヒトiPS細胞由来の樹状細胞様細胞を用いてBet v1a添加条件において検出されたペプチドで共通した配列の多くは、PBMC由来の樹状細胞を用いた場合に検出されたペプチドの配列と一致していた。検出されたペプチド配列140-155に関しては、S. Mutschlener et al., Journal of Allergy and Clinical Immunology Vol.125 (3), 2010でエピトープ配列部分として報告された配列と一致した。
【0197】
さらに、ヒトiPS細胞由来の樹状細胞様細胞を用いた場合では、PBMC由来樹状細胞を用いた場合よりも多くのペプチドが検出され、より多くの抗原が提示された。したがって、幹細胞又はこれに由来する前駆細胞から分化させた樹状細胞を用いた場合には、PBMCに由来する樹状細胞を用いた場合よりも高感度であることが示唆された。これは、本発明の予測できない顕著な効果を示すものである。
【0198】
以上の結果より、幹細胞又はこれに由来する前駆細胞を用いたMAPPsは、PBMCを用いたMAPPs以上の感度が示唆され、タンパク質の免疫原性の低減に有用な手段と考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0199】
本発明は、例えば、タンパク質のエピトープ配列解析を応用することで、様々なバイオ医薬品の診断や医療の分野に用いることができる。本検討では、花粉由来の外来性タンパク質であるBet v1a、Phl p1、抗体医薬品であるInfliximab及び内因性タンパク質と同様のアミノ酸配列を持つ医薬品であるrhFVIIIにおいて、いずれもMHC classII分子に提示される配列が検出された。本発明のMAPPsでは天然・非天然あるいは外因性・内因性等の特徴を問わず、バイオ医薬品をはじめとした様々なタンパク質について、エピトープ配列を検出することが可能であり、医薬品の開発の他、アレルゲンや自己免疫疾患におけるエピトープの解析など、広範な用途に応用できる可能性が考えられた。
【配列表フリーテキスト】
【0200】
配列番号133~配列番号150:InfliximabのH鎖の部分ペプチド
配列番号151:InfliximabのL鎖の部分ペプチド
配列番号152~配列番号153: InfliximabのH鎖の部分ペプチド
【配列表】